こちら[PDF:262KB]

2015年度産学連携ツーリズムセミナー
パネルディスカッション
「観光立国から観光大国へ」
コーディネーター ; 宍戸
パネリスト
;
北村
学
氏 (横浜商科大学
徹
商学部観光マネジメント学科
教授)
氏 (ANAセールス(株)販売事業本部
東京支店第一販売部
佐藤
大介
氏 (
(株)星野リゾ-ト
高橋
敦司
氏 (東日本旅客鉄道(株)
部長)
マーケティング統括ディレクター)
鉄道事業本部営業部
担当部長)
田口
智也
氏(日本学生観光連盟代表
東海大学観光学部 3 年)
【テーマ説明】
■宍戸
氏
それでは皆さんこんにちは。私も今日、午前中から学生と会場に来ていて、少し疲れは
残っていると思うが、もうしばらくぜひ皆様お付き合いいただき、またこのディスカッシ
ョンでぜひ何か新しい気づきが学生に芽生えて、企業の方にも何か持って帰れるようなも
のがあって、何かが生まれるとよいなと考えている。
「観光立国から観光大国へ」ということで非常に大きなテーマ、またある意味では抽象
的なテーマではないかと思う。最初に私のほうから問題提起をするという役割を担ってい
るわけだが、私があまり語るより先ほどの学生、5つの大学のすばらしい発表があった。
おそらく企業の方々の立場から見れば、いろいろと粗いところなど、なかなか現実的に難
しい場面もあったと思うが、しかし現在の観光の現状の認識はかなり的確であったと思う
し、先ほども話があったように、非常にインバウンド観光客が増加していると。2000 万人
を 2020 年にということで、いろいろと官公庁を中心に活動をしてきたが、もしかすると今
年度中に 1900 万人に到達するのではないかと。また、それに合わせていろいろな社会的な
出来事、特に観光業界において宿泊で予約が取れないだとか、バスが不足しているだとか、
現場では様々な問題が起こっている。
そのような中で非常に旅行客が増えているのだが、一方で現場では問題点も生じている。
さらに学生が提案したように、おそらく、きっと知恵はあるし、もっといろいろなやり方
があるのではないか。そのようなことをめぐって、これから短い時間ではあるが、学生の
代表も含めて4名の方に登壇いただいているので、ぜひそれぞれの立場から今、現場でど
のようなことが起こっているのか、またそれを踏まえて今後、どうしていくことが観光大
国へのヒントになるのか。
そして最後は、学生が多く参加しているので、皆さんへのメッセージなどいただきなが
ら、これから進めていきたいと思う。非常に短い時間なので、簡単な導入とさせていただ
く。
それでは、既に先ほど紹介があったので、私のほうからは重ねて紹介することは割愛
1
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
して、まず順を追って話を聞きながら、それぞれ簡単な自己紹介も含めて話をいただきた
いと思います。
まず ANA セールスの北山様から、どうぞ一言よろしくお願いいたします。まず最初に、
現場でどのようなことが今、起こっていて、それに対してそれぞれの企業等では、どのよ
うなことに注力しているのかということを簡単に紹介いただければと思う。それではよろ
しくお願いします。
【テーマ1;各産業の現在の取組】
■北山
氏
はい、それでは私のほうから少し話しをさせていただきたいと思う。ANA セールスで今
は東京支店というところで、実は国内のほうの販売のほうの責任者をやっている、北山と
申します。
訪日のほうも少しかじったことがあるので、その辺のところから少し話を進めていきた
いが、まず航空会社としての ANA、これがどのようことをやっているのかというところを
少し紹介したいと思う。
JNTO の発表でも、非常に中国のインバウンド、訪日が増えているということで、前の
発表でもあったが、全日空も国際線で、今、中国に9都市飛んでおり、それなりのお客様
を運んでいる。昔と違い現在はもう半分以上が中国人のお客様だ。昔は日本の航空会社と
いうのは、ほとんど日本のお客様を運んでいたのだが、今や全日空といえども半分以上は
中国人のお客様ということで、もしこの中でキャビンアテンダントを志望する方がいたら、
ぜひ中国語を習得されることを薦める。それくらい外国のお客様に乗っていただいている
状況になっている。
全日空としてはそれを、いかに国内線に利用してもらい、先ほど発表にもあったが、地
方に行ってもらうということをいろいろと画策しているというか、そのようなことを今や
っている。たとえば国際線、海外のお客様専用の国内線運賃を、ビジットジャパンフェア
というのを今ずっとやっているのだが、そのような運賃を設定したり、あとテイスト・オ
ブ・ジャパンという、これは機内で、国際線、国内線の機内で 47 都道府県のいろいろな名
産のものとか観光地のご紹介をしたり、そのようなこともしている。
また、だいぶ前からやっているのだが、
「IS JAPAN COOL?」という、ウェブサイトでち
ょっと変わった日本の紹介をしたり、そのようなところで日本に来てもらおうということ
を努力をしているところだ。
その中でも旅行会社としてまず取り組んだのが、ANA セールスとして H.I.S.と組んで、
HAnavi というサイトを、会社を立ち上げた。これは日本の国内線を販売する、海外で販売
するダイナミックパッケージといって、ホテルと航空券を組み合わせたものを海外で展開
をし始めている。
これは、たとえば富山県。富山県というと今日、JR東日本の方もいるが、北陸新幹線
2
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
で、実は全日空の東京-富山線というのは非常に新幹線に取られてしまい、苦労している。
こうなるとなかなか羽田-富山のお客様が減って困るということで、富山県のほうにも協
力いただき、海外のお客様を羽田から乗り継ぎで富山に持っていこうというようなことも
考えている。それを HAnavi と組んで、タイで旅行博のときに、富山県の紹介もし、H.I.S.
のタイの支店で販売もし、ウェブサイトで、羽田経由で富山というように販売をする。そ
のように多層的にお客様にアプローチするというように始めている。
まだまだ始まったばかりだが、なかなか日本の旅行会社としてインバウンドをどのよう
に取り込んでいくのかということは、非常にどこの会社も苦労しているということで、1
つの形態として新しく始まっていることを、ここで紹介したいと思っている。
では、全日空の国内線で海外のお客様がどのぐらい乗っているのかということが、実は
これが非常にわからない。日本の国内線ではパスポートのチェックなどはしないので、全
然、正直言ってわからない。先ほど話をしたビジットジャパンフェアなどもここ数年始め
ているのだが、やはり毎年2割、3割と増加をしているので、それなりに増えているとい
う認識はしている。
まだまだ国内線は空席が非常に多いので、このように海外のお客様に乗っていただくこ
とで、より国内線の活性化をしていきたいという取り組みを実施しているところだ。
では、現場で何が起きているかというと、特にこれは地方にお客様に行っていただいた
ときに、これは国内のお客様もそうなのだが、われわれの言っている二次交通、空港に着
いてからお客様が観光地なり街までの交通手段の整備が問題であると認識している。過疎
地域になってきて公共交通機関が減っているわけだ。
そのようなところをできれば、過疎対策と観光誘致と組み合わせて二次交通の充実が図
れればいいなと勝手に思ったりしている。ぜひ来年のテーマでどこかの大学で考えていた
だければなと思っている。以上で航空会社としての紹介とさせていただきました。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。航空会社というとわれわれのイメージとしては、世界
から日本に人を運んでいくというイメージがあると思う。もちろん関連する旅行会社、ANA
セールスというものがあるので、入ってからのいろいろな動きについて示唆に富む話をし
ていただいたと思う。また後ほど、何かあれば関連して話をしていただければと思ってい
る。それでは続きまして、星野リゾートの佐藤様、よろしくお願いいたします。
■佐藤
氏
はい、あらためまして皆さんこんにちは。星野リゾートの佐藤です。私の自己紹介と星
野リゾートの紹介と、星野リゾートがどのようなことをやっているのかということ、そし
て観光大国を目指そうということで今、訪日外国人が増えているということをどうとらえ
ているのか、どうしていくのかということを、少し話をしたいと思っている。
私は大阪で生まれた。しかし関西弁が話せない。大阪で生まれて次、神奈川県藤沢市、
香川県飯山町、今の丸亀市に行き、その後、千葉県我孫子市、千葉県印西市、就職して
3
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
東京都府中市、その後はニューヨークに行き、軽井沢に行き、青森に行き、北海道帯広市
に行き、4月にようやく川崎市に住み、転々としている。
父は岩手の山奥で生まれて、母は大阪で生まれて、両方、方言を話せるが、今日の武庫
川女子大学の学生や琉球大学の学生が方言を使っていて、とても羨ましい。その人たちが、
自分たちには祭りがあるということがとても羨ましいし、自分たちの食事があるというこ
とがとても羨ましい。僕にはないのだ、転々としたから。だから僕は観光業界に入りたい
と思ったし、その地域を活かしたいという思いが強くて星野リゾートという会社に入った。
星野リゾートという会社のミッションなのだが、われわれはこう言っている。日本観光
産業の魅力を高め、生産性を高め、競争力を高めて、地域経済が自立できる仕組みにしよ
うと。最近の文化庁の言葉でいうと、
「ヤバイ」という言葉がどうも肯定的で浸透してきた。
われわれは本気で日本の観光を「ヤバク」したいと。まじめに、すごいことにしていきた
いなと思っている。
本気で観光産業はリーディング産業になると思うし、沖縄の紹介で、沖縄はもうそうい
うふうになりかかっていると。私は北海道にもいたが、北海道も引っ張り始めている。で
もまだまだこれからだ。自動車産業に負けているのを、何とか観光産業をもっと日本の基
幹産業にしたいし、その中でおこがましくも星野リゾートはトヨタになりたいと、そのよ
うなことを思っている。
そのような星野リゾートなのだが、そもそも旅のニーズは何だと考えると、どこに行っ
ても同じご飯を食べたい、同じように寝たいではなくて、いろいろなところに旅行して魅
力的な個性を楽しみたいというのがやはり旅、観光だと思う。世界に行こうが日本国内で
あろうが。
だからこそわれわれが約束しているのは、いろいろなところにあったほうがいいという
ことで、北海道、私のいたトマムから今、沖縄だと小浜島、竹富島、西表島などにも施設
をリゾナーレという形で運営している。
ただ数があるだけではダメで、ビジネスホテルではないので。やはり、そこの地域らし
さを楽しみたい。しかも質が高いことを大事にして、今は全国で 35 カ所、スキー場3カ所
ある。間もなくバリでもオープンするし、世界展開もしていく予定だ。
これは竹富島町だ。すばらしい施設だ。村の集落を再現する形で、村の町並みを再現し、
島の方々と交流しながら三線だとか文化を伝えていくことで楽しんでいただく。暮らすよ
うに滞在していただこうと施設を運営している。
やはり地域の独自性、個性というのは、その地域の生活文化、先人たちの知恵であり、
ともにつなぐべき宝物だと思う。僕はやはり羨ましい、それがあるのが。うちから見える
岩木山が一番きれいなのだと四方八方の人が言う。いろいろな形で見えるのだ。そのよう
なことが言えるのはすごく羨ましいなと思い、それを大事にしたいし、ゲストにとっては
感動を呼ぶ魅力だし、リゾートにとってはビジネスだから、そのような意味では差別化を
生む武器かなと思っている。
4
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
これは私のいた青森なのだが、スタッフがねぶた囃子などを実際やって踊ってお見せす
るということもやっており、新しく星のや富士というのはグランピング、グラマラスキャ
ンピングという新しい取り組みもしている。
それでは、観光大国を目指すに当たって今、外国人が増えているという話があるが、そ
れに対して星野リゾートはどう考えているのか。トマムはだいたい今、2割ぐらいが外国
のお客様だ。オーストラリアの方もいるが、アジアの方もいる。どうするのかという問い
に対してのわれわれの答えはこうだ。びっくりするかもしれない。「日本人を今、本気で取
り込む」。何で、外国人が来るのに外国人対応はしなくてよいのかということなのだが、わ
れわれが見ているのは 2021 年の後。2020 年までは放っておいても来る。しかし 2021 年以
降になると、本気で来る人しか来なくなる。本当におもしろい人しか来なくなる。その、
本当の日本の良さを知っているのは日本人だと思っている。
23 兆円という日本の観光商品のうち、まだ 20 兆円、ほとんど9割がまだ日本人の消費だ。
そのようなビジネスの面も1つあるし、もう1つは、やはり本物を知っているのは日本人。
日本人が行かないところに外国の本物を知る人は行くだろうかと。われわれはフランスに
行って、日本人向けのフランス料理だと言われて食べたいのかと。そうではなくて、フラ
ンスのミシュランに評価されているところに行きたいではないか。
よって、やはり日本人に評価してもらうことがきわめて大事だと、われわれは思ってい
る。当然、外国人の方も対応するのだが、韓国人向け、インド人向け、不便をなくすこと
は大事。しかし魅力は日本人が一番知っているのではないか。中国の方、香港の方、台湾
の方もどんどん洗練されていく、旅が。旅が洗練されてくるということは、本物を見極め
る力がついてくる。だから、それを磨いていくのが星野リゾートとして今、すごく大事だ
と思っている。以上です。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。本当にインバウンドがこれだけ注目されていて、いろ
いろな政策、または業界もいろいろなところで、やはり外国人対応どうするかということ
でどうもそちらばかり見ているが、今も最後に指摘があったとおり、やはり本当の日本人
が評価できる観光というものが大切だと、非常に示唆をいただいたのではないかと思う。
それでは続いてJR東日本の高橋様、よろしくお願いします。
■高橋
氏
はい、皆様、改めましてこんにちは。JR東日本で観光と旅行の仕事の責任者をしてい
る高橋と申します。
鉄道で観光、そのようなものがあるのかと思う方もいるかもしれないが、実は観光のお
おもとというのは、日本は鉄道だったのだ。私どもの前身は日本国有鉄道という国営企業
だ。その前は鉄道省といって、直轄で国がやっていた、日本の鉄道は。その鉄道省という
のは今の国交省の前の運輸省の、さらに前身で、そのときは飛行機はなかったので、日本
の運輸業というのはイコール鉄道だったのだ。
5
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
ちょうど 102 年前、その鉄道省は今と全く同じだ。これから外国人が来る、これから外
国人のための対応をしなくてはいけないということで作ったのが、その鉄道省の外局とし
て作られたジャパン・ツーリスト・ビューロー、今の JTB だ。そこで初めて仕事をしたの
は、実は東京駅の丸の内の南口で、外国人向けに切符を売る場所を作った。これが日本の
旅行業の店舗の第1号だ。
よって、そのような意味では鉄道というのはもともと観光を論ずるという意味で、最も
日本の根っこにあったものだ。鉄道ができたことにより、その1つ前のオリンピック、52
年、51 年前、そのときにちょうど東海道新幹線が東京と大阪間で開業した。新幹線ができ
ることにより多くの人が瞬時に移動できるという行動ができるようになり、これにより家
族旅行とか、あるいは個人旅行ということがPRできるようになった。その後、大阪万博
などいろいろなことがあり、日本中で、みんなで旅をしようというムーブメントを作って
きたのが、実は鉄道であるわけだ。
その後、今は 27 年前に国鉄は実はつぶれ、JRは6つに分割をされて、私ども今、JR
東日本という、日本の右半分だけを、本州の右半分だけを担当している。本州の右半分だ
けなのだが、一日当たりのお客様の数は 1684 万人だ。
航空会社の一番大きいのが多分デルタで、これが一日 30 万ぐらいだ。同じJRでJR東
海という、東海道新幹線をやっている会社があるが、これで多分、一日当たり 160 万ぐら
いなので、もう桁が違う。一日当たり 1684 万人もお客様にご利用いただいているという意
味において、世界一のトランスポーテーションカンパニーなのだ。
学生から見ると、私はつぶれた会社に入ったつもりなのでそのように思ってはいないが、
「結構、儲かっているのでは?」「いい会社だね」と思うかもしれないが、そのお客様の実
は大多数、約半分は定期券のお客様なのだ。定期券のお客様とは通勤と通学だ。ほぼ今、
日本の人口はどんどん減っていて、ちょうど去年、日本で一番人口の多かった団塊の世代
というように呼ばれる方が全員、リタイアをした。イコール通勤定期を持たなくなってし
まった。
代わりに、通勤定期を持つ学生というのはそのときの半分しかいないので、これをこの
まま続けると、通勤定期を持つ方も半分になる。あと 20~30 年。そうすると今、山手線は
11 両編成なのだが、こんなに要らない。5両編成で充分だ。
残念ながら電車は、5両にしようが 10 両にしようが、お客様は今、山手線だと一番混ん
でいると 3000 人ご利用いただいて、1本で乗ってしまう。では、お客様が1人になったか
らというと、電気代は変わらないのだ。運転手も必ず1人必要だ。よって、お客様が減る
というのはとても一大事なのだ。これが山手線の話ではなくて、もう既に地方で起こって
いる。
われわれの新幹線は地味な、東北新幹線とか上越新幹線とか、少し最近、派手な北陸新
幹線とかあるのだが、半分ぐらいしかビジネスのお客様はいない。東海道新幹線は 85%が
ビジネスだ。だから放っておいても乗っていただけるお客様が乗っている東海道新幹線で
6
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
はなく、われわれは選んで乗っていただかないとダメな新幹線なのだ。
したがって観光で乗っていただく、京都に行くのではなくて東北に行こうというムーブ
メントを作らないと、将来にわたってわれわれは飯が食えなくなるということになるので、
JR東日本は、JRの中では他の会社よりも少しまじめに、自分たちで東北、上越、信越、
様々なわれわれのエリアに観光客に行っていただこうということをずっとやっている。
特にこれから 20 年メッシュで人口減少率の一番、ワーストワンは秋田県で、次が青森で、
その次が岩手で、高知をはさんでその後、山形なので、ほとんど実はJR東日本エリアに
お客様が、人口が減るということが、既に一番大きなレベルで起こってきている。そこに
われわれは新幹線走らせているので、とにかく乗っていただく基礎となる住民の方が減る
とすると、代わりに乗っていただく理由を作って乗ってもらわなくてはいけない、イコー
ル観光に力を入れなくてはいけないということなのだ。
インバウンドのみならず、日本でもやはり桜といえば京都、紅葉といえば京都、行きた
いところは富士山。これは普通の流れだから、それにわれわれは逆らうと仕事をしている。
山手線で実は桜の時期に京都のポスターは一度も貼ったことはない。ずーっと東北の桜の
ポスター貼り続けている。それをやると、15 年ぐらいやり続けると、弘前の桜と聞いたこ
とがあると思うが、メジャーになるのだ。それでお客様の流れを作ることによりその地域
に人を流すということをずっとやってきた。
インバウンドも全く同じで、東京には来てもらっているが、みんなゴールデンルートへ
行ってしまう。何とか他のところに来ていただこうというのが今、インバウンドにおける
われわれのミッションだ。
1つ、一計を案じて、3年前、私は、そのとき、びゅうトラベルサービスというグルー
プの旅行会社の社長をしていたのだが、そのときにこのような商品を出した。台湾から東
京に来ていたお客様に、越後湯沢という新幹線で1時間少しのところにあるガーラスキー
場という、われわれが直営でやっている、新幹線の駅に直結しているスキー場がある。そ
こに向けた、いわゆる着地型オプショナルツアーを作ろうということで作った。
東京から新幹線で行って、そのスキー場というのは、この格好で行ってもレンタルして
そのままスキー場に上がれる。そこで帰ってきて1時間半だ。「1時間少しだから」という
商品を作って、この名前を「東京雪遊び」という名前にした。越後湯沢とか言わない、新
潟県とか言わない。
ニューヨークに行くと皆さん、だいたいどこへ行ってきたのかと聞くと、ナイアガラへ
行ってきたと言う。カナダなのだ、あそこは。そこまで飛行機で、函館よりちょっと先ま
で往復して日帰りして、ああ、ナイアガラ良かったと言っているのだ。
だからいちいち新潟とか言わないで、東京に来た方がどのぐらい東京から遠くに行って
いただけるかというチャレンジを今、している。その「東京雪遊び」は初年度 4000 人。次、
1万人。今年の冬、3年目でしたけれども3万人来た。ここまでくると、口コミでまさに
越後湯沢というところが伝わって、今度は泊まりの方が増えているのだ。
7
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
このように、私どもの今のミッションは、東京に来ていただいた方をいかに東京のふり
をする地域に引っ張り出すかという、そのような仕事をしている。仙台までも1時間半な
のだ。大阪ももちろん商店街がいっぱいあるので来てもらいたいのだが、誰も歩いてない、
外国人が。でも東京というように少しチクッと言って仙台に来ていただくというようなこ
とを、これからやろうかなと考えている。以上でございます。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。鉄道を含めて観光の歴史、インバウンドは今本当に熱
があるが、そもそもは明治維新以降、日本の中で観光が比較的注目されたのはやはり外客
の誘致だった。そのような歴史的なことの示唆もあり、また、具体的な事例でのプロモー
ションの話もあった。また外国から来た方々をどのように動かしていくのかと。われわれ
は呼ぶことばかりに目が行っているが、今後、非常に日本の観光の質を上げていく上では
重要な示唆があったのではないかと思う。
お三方からは、それぞれ企業の立場でいろいろな取り組み、現状をご報告いただいた。
それでは本日、協催者として学生、日本学生観光連盟の学生も参加してくれているので、
その中で先ほども少しムービーがさりげなく流れていたが、代表をしている田口君から、
学生の立場から今どのような活動をしていて、どのようなことが見えているのか、少し簡
単に話しをしてもらおうと思う。
■田口
氏
日本学生観光連盟代表の田口と申します。よろしくお願いいたします。先ほども私たち
の取り組みについては少し話しをしたが、私たちは大学で勉強、習ったことを実践する場
であり、また新たな観光への気づきを見つける場、そして社会貢献をする場ということで、
日本学生観光連盟の活動を行っている。
取り組みについては、プロジェクト、イベント等をはじめとした団体運営は、執行部役
員となった学生が企画、実施に向けた広報活動、渉外活動などすべてを主体的に行い、宍
戸先生をはじめとする顧問の3名の大学教授と日々、試行錯誤を繰り返し、より良いもの
を生み出している。
日本学生観光連盟は、年間 10 のプロジェクトを通じて観光学会、業界に対し、会員に多
角的に学ぶ場を提供している団体だ。大学では教わることはできない、実際の現場での活
動に重点を置き、現地調査、たとえば6月に実施した、オリンピック競技委員会と一緒に
行った東京オリンピックの会場をめぐる現地調査であったり、または国際機関 ASEAN セ
ンターと一緒に行う異文化交流であったり、また、あとは、今はインターンシップ、宿泊
業のインターンシップというとホテル業が多いのだが、旅館業とコラボして、旅館のイン
ターンシップなどを行っている。
また近畿日本ツーリストと、東京に来る修学旅行生のガイドを行うなど、業界または行
政との、または業界または行政との提案、または意見交換など、会員に様々な観光のフィ
ールドを提供している。同時に、私たち若者の活動が業界や地域の観光の発展に少しでも
8
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
寄与できることがあるのではないかと考えている。
そのようなわれわれの活動の中で、観光を学ぶ立場から見た産官学、それぞれの問題意
識を少しだけ話したいと思う。
課題として、学観連は企業や行政団体から多く要望、要請を受けることがある。しかし、
それが私たちの所属している会員たちに向けてのニーズと必ずしもマッチングしていない
という状況がある。また、学生側からもプロジェクトの提案をいくつかするが、なかなか
そのニーズに企業と地域が受け入れていただけないということも存在する。また、こちら
の学生からのプレゼンについては、私たちのプレゼン力の力不足なども関係しているとは
思うが、そのような課題がある。
こちらの産官と学生の両者のニーズを合わせるには、両者が対等に同じテーブルで議論
できる場を設けることが必要ではないかと考えている。またそこからお互いに気づけない、
気づかない新たな課題が見えてくるのではないかと思う。
そこで学観連は、観光を学ぶ学生と観光業界、行政機関の3者の、産学官連携の中心と
なる場としたく考えている。そのためには、密に屈託のない意見を取り交わせる仕組み、
体制づくりが重要ではないかと考えている。
また、観光学部生の就職先について少し問題が、課題がある。観光業界、観光学部生の
就職先というのが必ずしも観光業界に向いているわけではないという現状がある。2年前
の役員の先輩たちが、観光業界への就職率が低いのではないかという社会の声を受けて、
われわれの会員、学生たちに調査をした結果、観光系学生は観光業界に行かないのではな
く、行かないことも多いという結果が出た。
観光産業といっても複雑に裾野が広く、分野ごとに根を張っているために職種も多く、
学生にとっては、観光産業はイメージがつきにくいという特徴があるのではないかと思う。
そのため大学としては、観光を学ぶことと観光業界に就職することの関係性の理解、また
は学生が今一度、観光を学ぶことに誇りと唯一性を見い出すことができ、様々な視点を養
うカリキュラムが、大学としては必要ではないかと考えている。
以上、短いですが、私たちの取り組みと現状と課題といたします。
■宍戸
氏
田口君ありがとうございました。既に知っているとは思うが、現在、観光系の大学、学
部、学科は全国で 50 を超えるぐらいになった。日本で一番古くできたのは、短期大学では
東洋大学が 1960 年代初頭におそらくできたと記憶しているし、立教大学が観光学科として
誕生したのも 1967 年だ。私の横浜商科大学も実は 74 年で、大学としては2番目にできた
わけだが、それまで、おそらくバブルが始まる 90 年代まで、ほとんど観光系の大学はでき
なかった。
ところが今、国の後押しもあって本当に 50 を超える大学が、教育の質的な転換や、また
生き残りをかけてとか、いろいろな意味合いがあるが、本当に観光の大学が増えた。
おそらく業界の方からもいろいろな養成があって、当然大学もカリキュラムを変えて、私
9
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
の大学もそうだし、今日発表していただいた大学もおそらくそうだと思うのだが、いろい
ろな形でコラボが進んでいると思う。
ただ、大学によって、なかなかカリキュラムを変えられるところと変えられないところ
があり、また教員、または学生もそれぞれ限られているので、そのニーズに必ずしもすぐ
に応えられない。また、教員は基本的には研究者なので、自分の研究領域との相違もある。
そのような中で田口君も含めて学生たちは、フットワーク軽く、企業と一緒に何かできな
いかということで学観連というのを立ち上げたということだと思う。
そのような中で今、お三方、または学生の立場からいろいろな現場の話、非常に短い時
間で、本当にどの話ももっと聞きたいなと思った。
冒頭に話をしたとおり本当に外国人旅行者が増えて、おそらくこれから 2000 万人という
のはそう遠くない時期に実現できる。また先ほども、その後の 2021 年以降であるという問
題意識、ただ、これをあまりに怖がるあまり、結局、観光はいずれブームが去って、特に
世の中に、オリンピックが過ぎた後、どうなるのか。日本人は本当に貯蓄性も含めて非常
に心配性の国民なので、せっかくのチャンスが目の前にあるのに、遠慮してしまうという
か、踏み込めない弱さも時々感じることがある。
そのような中で、もちろんそれぞれの取り組みが結構おもしろいプロモーションなど、
社会性を持った活動であって、おそらく何か今の話の中にヒントがあったものと思う。
そのような中で、この産学連携セミナーでは、それぞれの立場の中から、それでは今増
えてきた外国人旅行者、または一方で今、安倍内閣の地方創生ということで、先ほどの佐
藤様の話にもあったが、国内旅行が低迷しているのはよくないから国内旅行を振興しよう
という考えもあれば、今も含めて世界大国になっていく上では国内観光なのだという考え
もおそらくあるのだろうと思う。
【テーマ2;各産業の今後の取組・課題】
■宍戸
氏
そのようなそれぞれの立場から、本当に観光立国でこれから旅行者が増えていく。ただ、
その数に踊らされることなく、各地域または各産業の中でどのように展開していけばよい
のかということを、具体的な観光大国になるための仕組みづくり、またはその提案などを
聞きたいと思う。
国は日本版 DMO だとか、様々な政策を打ち出している。もちろんそれはそれとして行
政の役割があると思うが、各産業の立場からそれぞれ聞ければなと思っている。それでは、
引き続いて北村様から、その観点での2番目の提言をお願いしたいと思います。
■北村
氏
はい。学生の皆さんのプレゼンテーション、非常におもしろく聞かせてもらい、ああ、
やはり同じようなこと考えている方が多いと実際思った。
特に先ほど話をしたとおり、地方にインバウンドの方々をどうやって来てもらうのかと
10
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
いうことを考えるにあたり、やはり情報をどのように発信していくのか、拡散していくの
かということは一番大事なことだと思う。
ただ、正直言って、外国の方、日本の方も最近わからないが、何を欲して旅行をするの
か。何をテーマで、先ほどSITの話もあったが、どのような旅行をしたいのかというの
は今ひとつわかりにくい。
インバウンド業界で有名な話だが、千葉県野田市に欧米人の人が非常によく来ると。こ
れはなぜかというと、そこに忍者の道場があるのだ。世界的に有名な忍者の道場があって、
そこに忍術を習いに欧米の方が来ると。それで野田市になぜか外国の方がたくさん来る。
想像、なかなかできないと思う、われわれには。多分このようなことが日本中、山とある
のではないかと思う。
それでは、いかに発信していくのかということが確かに重要なのだが、提案としては、
せっかく今日、大学生の皆さんがいっぱい来ているので、地方に大学がたくさんあると思
うが、その学生が、私の知っている中ではユーチューブのサイトで情報を拡散するのが、
多分、あそこでヒットするのが世界で一番、情報が拡散するまず1つの道ではないかと思
う。あそこでヒットすると数百万のアクセスがすぐあるのだ。
そのように、実はわれわれ企業とかおじさんとか行政が作っても、絶対おもしろいもの
はできない。多分、電通が頭、知恵を働かせてもなかなかできないものだと思う。実は皆
さん、学生たちが仲間の中で作って発信したら、とてもおもしろいものができるのではな
いかとわれわれ期待している。
多分、下手な鉄砲数打ちゃ当たるではないが、たくさんやはり情報を発信して、その中
の1つが当たればいいわけだ。その中で、ここにお客様はやはり行くのだろうなというこ
とがわからないと、われわれ航空会社もJRも星野リゾートも、なかなか動けない。そこ
に向かって旅行会社が提案をしていく。そのようなサイクルで本当はいくと良いのだと思
う。
たとえばサイトの発信とか、そのようなものに関わるものについては、たとえば行政の
方々の支援をもらえたらと思うが、まずはそのようなムーブメントを起こすのはやはり若
い方々なのだろうと、今日は改めて思った。
それから、もう1つ訪日とか、日本のお客様の旅行でもいいが、自分が海外に行って、
また海外からお客様が来て何をするか、何をしたいのか。または何に興味があるのか。皆
さん、何に興味を持って旅行するのか。行って何が困るのか。というのは実際に旅行しな
いとわからないのだ。
学生の皆さんに今日聞きたいのだが、海外旅行に行いいたことがない人いますか。うん、
さすがに、今日は皆さん来ている方々は海外にも旅行しているようだ。
今、海外旅行になかなか行かない、卒業旅行も行かない、そういう学生が非常に増えて
いるので、われわれ旅行業界としては非常に苦心しているところなのだが、今日来ている
皆さんのような問題意識を持った皆さんだけではなくて、若い方がやはり海外に行って、
11
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
実際に何が困ったのかというのは実体験してもらうことが、やはり、観光を進めていくた
めの1つのきっかけになるのかなと最近は思っている。はい、以上です。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。それぞれの方、コメント等はまたこの後、掘り下げて
いくと思うが、実際に情報発信の手法としてはユーチューブであり、または千葉県の取り
組み、やはり何かそのような素材がたくさん眠っているはずではないか、これはおそらく
われわれ、学生、皆さん学生がぜひ聞きとめていただきたい言葉だったのではないかと思
う。
それでは続いて佐藤様、よろしくお願いします。
■佐藤
氏
はい。北村さんと重なる話が結構多いのだが、私が今からする話は3つだ。1つ目は「利
益は大事だ」ということ。2番目は「利益なんて気にするな」だ。どちらなのかというこ
とになるが。あとは、「若者へのプレゼント」という3つの話をしたいと思う。
基幹産業になるにあたり、今の基幹産業というと自動車産業は一大産業だ。トヨタは世
界一か二位かという話になっている。彼らの成功しているものを観光にあてはめたときに、
観光産業に大事なことは3つある。私、青森の旅館の再生を担当していたのだが、つぶれ
てしまった旅館なのだ。それを立て直した。つぶれた理由はこの3つができていなかった。
その3つというのはこれだ。
1番目は、「お客様にまず来てもらうための魅力づくりと魅力の発信」。これは、トヨタ
の自動車、たとえばプリウスでいうと、ハイブリッドという車だと。これまでは大きな車
が人気だったアメリカによって、ハリウッドスターたちがこれからはエコの時代だと乗る
ようになった。では、かっこいいから、エコってかっこいいね、乗ろうというムーブメン
トを起こしている。これは話題づくり、魅力づくりだ。それをかなえるハイブリッド車を
作った。
それで、実際に乗ってみた。これは快適だと。素晴らしい。これが2番目の「お客様の
満足」。これはリピートであり、またトヨタを買おうとなる。これができている。これは、
おもてなし、観光ですごく大事なことだ。行ってみたいなと思う魅力、先ほど言ったよう
に弘前の桜、行ってみたいな、と。それで、行ってみたら宿に泊まってみてとても良かっ
た。また行きたい。あるいはほかの人に勧めたい。この、「行きたい魅力」と「満足する」
というのは少し違うし、重なることもあるのだが、そこも大事。
しかし、それを実現するために、無駄なくやるということがすごく大事だ。これはトヨ
タも素晴らしい。無駄なく生産性高くやっている。だから利益が出ている。1兆円以上の
利益。だから何かというと給料が高くなる。スタッフはハッピー。というのと、もう1つ
はお客様のためになっているのだ。だから研究開発費をたくさん投資して、新しい車を出
そうと。もっといい車を作ろうと、もっといい物を作ろうとできる。結果、お客様がまた
ハッピーになると。だからまた売れるという。
12
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
だから利益を出すということはすごく大事だ、観光産業において。ついつい観光産業で
は忘れられがちだが、ここは大事なのだと、あえて言っておきたい。
その上で、学生さんと一緒にやっている取り組みというのを実はわれわれ、私がトマム
にいたときにやっていた、星野リゾートトマムと北海道大学の環境科学院、大学院と、占
冠村と、勢い余って三者連携協定って結んでしまったのだが、一緒にやろうぜと。これは
結構ワークした。本物だねと言って僕らはたたえ合っている。
左側が村長、真ん中が学部長で、右側は私なのだが、うちのリゾートトマムの4階のテ
ラスがあるところ。これ、雲がありますよというだけではなくて、そこでの調査結果、雲
がなぜ出るのかという説明のために観測所を置いて、この雲のメカニズムは実は環境化学
系の学生、先生のほうがよほど知っている。それをアカデミックに説明してもらうと感動
が倍増するのだ。そのときのお客様の動きなどを学生には研究してもらって、人の動き、
何を喜びに感じるのかという研究対象にどうぞ使ってくださいと、われわれは場所を提供
した。そこで培ったノウハウを村、村民、小学校に行って、雲の学校っていって教育に使
ったりもしている。地域理解にもつながるようになって、こういうこともやっていた。
これは、アイスビレッジという冬に現れる氷の街なのだが、これは雪の結晶のキーホル
ダーだ。これも北海道大学の先生と学生たちが編み出してくれたのだが、これは売らない。
自分で取ってきた雪をはめて閉じ込めて、光で何か特別なことをすると、僕らはわからな
いのだが、学校の先生が固まって持って帰る。売ろうと思えば売れるのだが、これはその
場に来なくては体験できないものだから、売ってはダメなのだ。体験料としては取る。物
を売るのではなくて、雪を取るということをやってもらう。これも北海道大学と組めたか
らできたことなのだ。
何を言いたいかというと、このようなことは利益ばかり考えていたらできない。いろい
ろなアイデアというのは学生と組むことで、おもしろいこと、これ感動するよね・いいよ
ねというアイデアが出てくる。よって、ぜひ利益も考えずに、組むときはおもしろいアイ
デアをどんどん出してほしいということだ。それを利益に変えるのは会社の役目だと思う。
その上で若者旅プロジェクトをやっている。これは先ほど言った、日本の方に日本を知
ってもらいたい、先ほど言った若者の方が旅しなくなっているから何とかしたいという思
いで、われわれは若者旅プロジェクトをやっている。今度第6弾になるが、上に書いてい
る、「かっこいい大人、日本を知っている、本物の日本を知る旅、ここにあります」と。旅
館の楽しみ方を少し割引、星野リゾートはだいたい高いので、申し訳ないのだが、それを
若い方に若者割で安くし、仲間割で安くし、旅館の伝統はこうなのだ、浴衣の着方から何
から含めてお教えしますということも含めたイベントもやっているので、ぜひ、これも活
用してほしいと思っている。以上です。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。具体的な産学連携の取り組みの実績や、トマムの雲海
も含めて、非常に今となってはわれわれがよく知っている事例ではあるが、やはりそのよ
13
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
うなことも何か1つのきっかけであると。また、星野リゾートのマーケティング、ビジネ
スとしての研究も含めて、いろいろな形で発信されている。そのようなことがおそらく実
学の分野として形を結んでいるということが実績につながったのではないかと、話を聞い
ていて感じた次第だ。
それでは続いて高橋様、どうぞよろしくお願いします。
■高橋
氏
はい。地域との関わり合いについてという話をしたいと思う。2010 年の冬に東北新幹線
が新青森まで延びた。3 月の 5 日に、その 2011 年の 3 月 5 日に、今 320 キロで走っている
最高速のはやぶさという新幹線が走り始めたと思ったら、3 月 11 日に震災が来て、約 50
日間、東北新幹線を止めてしまった。
そのとき私は旅行会社の社長だったので、もう目の前真っ暗で、びゅうトラベルという
とても変わった会社で、大阪に支店はなく、沖縄のツアーもやっていない、ひたすら東の
エリアに東のエリアのためだけの旅行を作って売るという変わった会社だったので、ざっ
くり言うと新幹線止まった瞬間にすべての収入はなくなった。困ったなと思っているとき
に、困ったなと言ったときに、もっと困っていた人がいたのだ。それは東北の旅館であり、
お土産物屋であり、いわゆる観光に携わる方々だ。
その方々が私のところに高速バスを乗り継いで、新幹線が走っていないので、特に旅館
の女将さんがとにかくもう、何十人も来ていただいた。とにかく何とかしてほしいと言わ
れて、何とかしてほしいと言っても新幹線は私では走らせることができないので、とにか
くやろうと決めたことはやはり、われわれは地域企業なので、地域のためにずっと生き続
ける、この地域の皆さんと一緒になって観光をやっていくのだという決意だけは、そのと
きすごく強く思った。
JR東日本の本社は東京にあるが、東京で秋田の電車を動かすことはできない。東京駅
で秋田駅の仕事もできない。必ずその地域に人がいてオペレーションをしないと仕事が回
らない。観光とはそのようなことなのだ。地域でそこに、その担い手として人が存在しな
いと全くもって仕事にならない。そのような意味では観光の仕事は鉄道の仕事とすごく近
いものである。
就職を控えている学生だから、あえて言うが、観光の仕事をしたいというのとほかの仕
事を比べるときに、そこのとらえ方がどうかということが結構大きい。IT産業に入れば
世界中のどこにオフィスがあっても仕事ができる、同じ仕事ができる。メーカーに入れば、
そのメーカーの生産拠点が日本から海外に移ったら、海外に移っても同じ物を作る。だか
ら、世界中どこにオフィスがあって何の仕事をしていても、そのような仕事というのは地
域にいる必要がない。でも観光だけは特別なのだ。その地域に行って、その地域で受ける
人がいることによって成立する仕事なのだ。
青森のホタテはアマゾンで買える。しかし青森の駅前にホタテ小屋があり、こうやって
ホタテが釣れる。楽しいのだ、全然釣れないのだが。3つ釣れたらほとんどウルトララッ
14
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
キーなのだが。しかし、そのような体験は、青森行かなくてはホタテを釣れない。よって、
青森のホタテ小屋で勤める人がいないと、そのホタテ釣りは成立しない。しかし、ホタテ
小屋が消滅してもアマゾンさえあればホタテは買える。どっちがいいですかという話なの
だ。
今、先ほど話をしたように秋田や青森で住む人が少なくなっている。どんどん減ってい
るということは、青森や秋田で働く人も減っているということだ。そこで、そこに訪日外
国人だけは2年間で 800 万人増えている。今、まだ、星野リゾートは人気企業だから、勤
める人もたくさんいるかもしれない。でも現実問題、旅館の仲居、旅館の女将さんはみな
さん生まれ育った世襲か、嫁いだお嫁さんなのだ。そこに娘さんがいなかったら、旅館の
女将さんは死滅してしまう。なくなってしまう。日本中から女将さんがいなくなってしま
う。
学生に、観光の仕事をしたいという方々に、どこに入りたいですかという就職ランキン
グを聞くと、だいたい ANA と JAL と JTB と JR となっている。地域に戻って仕事をした
いという気持ちがありますかということが、本当はすごく大事なのだ。
琉球大学の皆さんは、皆さんウチナンチューの方ですか?そうですよね。これがやはり、
あ、違う方もいるかもしれないが、一般的にそうだ。ここは沖縄の強みなのだ。沖縄で観
光のことを学んで沖縄で働こうという方が山ほどいる。しかし、東京や大阪は多分、そう
でない地域から東京や大阪の大学に来て、そこで観光の仕事をしたいと言って東京に本社
がある会社に入ってしまい、そうすると地域を担う担い手がいなくなってしまう。
これが実は観光の中で、仕組みの中で一番大変なことだと私は思っている。秋田の電車
を動かす運転手も必要なのだ。われわれは、秋田でも青森でも駅長はいますので、ずっと
観光の担い手となって地元とお付き合いをしている。よって、どんな旅行会社よりもディ
ープな東北のツアーをわれわれは作れることができる。地域にその窓口があるから。
しかし、そのようなことができる旅行会社が日本中に幾つあるのかというと、もうほと
んどない。よって、本当に大事なことは地域の担い手がいるのかということ。今日、学生
のプレゼンは本当にすばらしかった。本当に上手だ。しかし、そのプレゼンの最後に、そ
れで、それは誰がやるのかというのを少し考えてみてください。空堀商店街のお好み焼き
を焼いているおばちゃんが 10 年、20 年後、お好みを焼き焼けますかという話だ。
それを考えるとみんな同じなのだ。どんな仕事も、どんなことも、地域で今、観光の仕
事をしている方が 10 年たったら、商店街がシャッター商店街じゃ済まない。住んでいる人
がいなくなったらおもてなしもできない。タクシーの運転手もいない。実はよく考えてみ
たら、もう既に東京都内でマクドナルドの店員さんすらいないのだ。
その状態で今、800 万人増えて大騒ぎだ。ここからまた 1000 万人増えたらどうするのか
ということを考えると、本当に地域で観光を担う人をきちんと作って育てるということが、
絶対に必要だと思っているので、私たちは特にこういう機会に、縁ある地域があるのであ
れば、琉球大学のプレゼンのように観光のことを学び、その観光の必要性を学んでいたら、
15
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
地域の大切さをわかってもらい、地元、自分の地元に帰って、その観光の担い手になろう
という方が1人でも多く現れたほうがいいなと、いつも思っている。
われわれもそういう企業であり、われわれのエリアも東北とかいうところにたくさんの
人が勤めてもらわないと、結局そのネットワークを維持できなくなってしまうという問題
にもう既に直面している。ぜひそのようなことも絡めながら、やはり誰がやるのかという
ことも観光にとってはすごく大事なのだ。ほかの仕事は全部、変な話、インドやバングラ
デシュで何かしてくれても別にかまわないわけで、日本人ではなくてもいいわけだ。しか
し、日本の観光だけはそこに住んでいる地域の方がいなくなったら、もうおしまいという
ことをぜひわかっていただきたいと思います。以上です。
■宍戸
氏
ありがとうございました。本当に地域を支えていく人材、よく言われる言葉だが、なか
なかその言葉だけだと想像できない部分があったと思うが、本当に今の話の中からは、地
域の人がどうつながっていかなくてはいけないかということが非常によくわかったと、私
自身は感じたところだ。
それでは、これらの話を受けて、また自由で結構なので、田口君がどのように考えたか、
少し聞きたいと思う。
■田口
氏
私としても、この観光学部ということに少し疑問を感じており、観光の分野、先ほども
言ったが、この分野は本当に裾野が広く、学生自身、イメージがしにくいという特徴があ
るのではないかと考えている。
しかし、2020 年東京オリンピック、そして 2030 年には政府から 3000 万人の訪日外国人
が来るというと定めている。その外国人を受け入れるのは誰になるのかというところで、
やはりそこで活躍するのは観光学部の学生だと私は考えている。
しかし、なかなかそのようなイメージがまだわいていかない学生も多くいると、私たち
の中でも少し周りを見ながら考えている。私たちのプロジェクトの中で、「マナタビ★プロ
ジェクト」という活動がある。こちらは次世代の観光教育ということで、高校生や大学生、
中学生に、これからの観光、旅の魅力から始まって、これから観光がどのように発展して
いくのかなどを次世代に発信していくという活動をしている。
このような活動をするということは、2020 年にもう決まっている東京オリンピックが来
るということで、まず誰が外国人、大量に来る外国人を相手するのかということだ。私た
ちがしなければ誰がするのかということなのだ。本当に今のままで受け入れ状態がきちん
とできているのかというところを、今、自分は疑問に思っており、それなら私たち自身が、
やはり次世代に、これから訪れる未来について考える時間を作りたいなと考えており、「マ
ナタビ★プロジェクト」という活動を行っている。
これは、さんぽうという就職関係の会社と一緒に出張授業を行っているのだが、そのほ
かにもオリンピック競技委員会とも一緒に活動しているが、2020 年東京オリンピックのと
16
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
きには、やはり私たち大学生は社会に出て訪日外国人の相手をするこに必ずなると思う。
また、高校生も 2020 年には大学生となり、東京オリンピックのボランティアという形で関
係していくのではないかと思う。
そのようなときにやはり準備していくことが、今、自分たちができることではないかと
考えており、また、そこの 2020 年に東京オリンピックで携わった学生、または社会人2年
目、3年目の方は、2030 年にはやはりそれだけ観光をリードするような人材になってくれ
るのではないかと考えている。そのような目的での仕組みづくり、次世代の観光教育とい
うところも私たちは活動している。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。学生というか、本来、大学がそのような業務が、業務
というか立場が大事だと思うが、どうしても観光は実学であるとか、産業界に役立つよう
な大学であるというのが実は最近求められており、なかなか目の前のことしか見えなくな
っていくような研究だとか授業が増えているきらいもある。
それはそれでとても大事なことなのだが、やはり先を見て仕組みを作り、研究を蓄積し
ており、また、今の田口君の話から、2020 年、実際彼らは、今の役員たちは 2020 年はも
う社会人になっているわけで、そのとき活躍する大学生は今、高校生であったりする。ま
た、本当に未来を支えていく、今日の琉球大学の話は、非常に私も観光人材が結構、専門
なので、5~6年前にヒアリングに行った記憶があるが、すごく大事なことだなと。ただ
一見、その価値を、貨幣的な価値を生まないものだから、とかく少し後回しになってしま
う。そのような点を今の田口君の話の中からは、学生だからこそ、先ほどの、少し佐藤さ
んの話ともつながるかもしれないが、やはり儲けなくてはいけないし、合理的であること
はとても必要だ。ただ、一方で今言っていたように、無駄と言うか、もしくは、すぐ価値
は生まないかもしれないが、直接的な価値は生まないかもしれないが、やっていくんだと
いう、何か学生のそのような姿勢に非常に感銘を受けるところもあったと聞いいていた。
今、本当にそれぞれの立場から、実際に、地域でどう取り組んでいて、そしてこれを今
後このようにしていったほうがいいという話がいろいろ出てきた。1つは、それは科学的
な方法であったり、または経営的な問題であったり、もしくは具体的な地域を担っていく
ということの覚悟であったり、またそれぞれの考え方、われわれの視野が広がったような
話もあったのではないかと思う。
【まとめ;学生へのメッセージ】
■宍戸
氏
そ うこ う言っ てい る間に 時間 もかな りた ってき たの で、最 後に それぞ れの 担 当 の
ゲストの方々から、先ほどの話も踏まえて自由に、今日お集まりの学生諸君、もしくは企
業の方は、せっかくこの場に居合わせたわけなので、何かが始まるといいなと思いながら、
ぜひここで最後、学生、または今日来場の皆様に何かメッセージを送って欲しいと思う。
17
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
それでは北村様からどうぞよろしくお願いいたします。
■北村
氏
訪日観光客の話ばかりになっているが、私は訪日の大事なことは、海外から来るお客様
を、日本の観光の方と一緒に、同じように取り扱いがきちんとできるようにしなくてはい
けないなということを、やはり感じている。それは非常に日本人には難しいことで、今日
来ている方もほとんど日本人の方だし、隣に住んでいるのも日本人だし、電車に乗っても
ほとんど、隣に座るのは日本人という中で、そのような中でいかに想像力を働かせて海外
の方と同じ取り扱いができるのかというのは、非常に難しいテーマだと思っており、次の
観光大国になる大事なテーマではないかなと思っている。
そのためにも皆さんがやはり、いろいろな雑多な人たちが住んでいる海外に行くなり留
学するなり、そのような経験を積むことがやはり大事なのかなと。旅行会社としてはぜひ
海外に行ってくださいというところだ。
あと、少し辛口になってしまうが、今日のプレゼンテーションは非常におもしろかった
のだが、1つだけ気になったのが、やはりいろいろと情報発信をしようとか、着地型のツ
アーを作ろうとか、非常にアイデアとしてはいいなと思うが、少し先ほどの話とかぶるの
かもしれないが、ではそれを補助金でやっていいのか。行政から補助でやるというのは、
僕は非常に嫌だなと思った。
そうではなくて、せっかく皆さんは学生なのだから、では事業を起こして自分たちでや
ろうよという気概がないのか。多分、日本の今、観光業界を支えている、JTB とか大きな
会社は別として、旅行会社はみな自分で切り開いてきたのだ。学生のうちから起業した方々
は非常にたくさんいると思う。それは日本の観光が伸びてきた視点だ。
よって、インバウンドというのは非常に有望なマーケットで市場だが、旅行会社はでき
ていない。取り組みはできていない。皆さんがアイデアと知恵、それで開発できる、起業
できる余地が非常にあるのではないかと私は思う。
そのようなところで次のテーマとしては、私はその皆さんのアイデアは実際に事業性が
あるのか。それを、たとえば経営学部の方もいると思うので、そのようなことを検討して
いったらよいのでではないか。それで行政の皆、企業の方に出資してくださいと。どちら
かというと、そちらのほうが正しい道なのではないかと思った。
そうすることで、何と言うか、オプショナルツアーも情報発信も責任持ってやれるよう
になるし、責任を持ってやれば、質も上がってくる。淘汰も起きてくる。そのようなこと
で、そのような循環でうまく行くのか、いい循環なのか、ということを感じた。少し生意
気だが、そのようなことを思った。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。それでは続いて佐藤様、よろしくお願いします。
18
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
■佐藤
氏
私からは、やはり日本の観光はすばらしいと思うし、僕自身、観光サイドに身を置いて
いるのでわくわくすると。僕は今 40 なので、20 年後は 60、定年を迎えるだろうと。この
20 年間突っ走るしかないなと思って、もっともっと日本を、あるいは日本の魅力を世界で
発信するというのもありかなと思っている。
そのときに、少し皆さんに知らせたいのが、星野リゾートとして考えるおもてなしとサ
ービスの違いというところだ。「お・も・て・な・し」というのが一時期はやったが、われ
われはこう考える。違う解釈の仕方もあるのだが、日本が誇るおもてなしは、特に旅館な
どで多く出てくる。
サービスというのはどちらかというと、サーバント、召使い的な西洋型で、言われたこ
とを手配するという性格が強いと。これを持ってきてほしい、暖かくしてほしい、おいし
い料理を出してほしい、大間のマグロ食べたい、このようなオプショナルツアーをつけて
ほしい、TV は BBC も見たいと言えば、応えていく、あるいはそれを先回りするのも含め
てサービスだと思う。要望は、あってよかったよ、なんて。
「BBC を見たかった。ありがと
う」も含めてサービスだと思う。それを実践している企業はたくさんある。
その中で日本が誇るおもてなしは何だ?と思うと、それを踏み越える部分だと思う。わ
れわれは、どちらかというと、宿側が主人なのだ。主人。ご主人。あるいは女将もそうな
のだが、普通、サービスだったらサービスする側が召し使いなのだが逆なのだ。「ご主人、
よろしくお願いします」みたいな形だ。
これは寿司屋に行ったら「大将」と言ったり、
「ご主人」と言ったりすると思う。そのご
主人とお客様が対等な関係で主張、こだわりがある。日本の誇るお寿司屋に行ったとする。
回転寿司に僕は行くのだが、安く回る寿司。ただ、ぜいたくは何か、それは何十万円と食
べていいよということでもないし、ウニ、トロ、アワビを頼むぜいたく、しかしもっとぜ
いたくあるのだ。一番お金がかかるやつ。何かというと大将にお任せ。お任せは一番高く
つく。でも大将が、マグロも頼まれていないのに出す、今日は青森のいいヒラメが入って
いるので食えと出す。頼んでもいない。感動だ。
われわれの事業でいうと、星のや軽井沢というのは、普通だとテレビは BBC をつけてほ
しいとなるところが、テレビがない。テレビがないことは要望されていない。しかし、そ
れによって小鳥のさえずりがよく聞こえる、みたいな。それがおもてなしだと思っている。
そのような部分が実はお茶の文化にもある。茶道というのは、すごくそのような部分が
ある。よって、そのおもてなしというのをぜひわれわれが活かしていきたいし、旅館とい
う世界はあるなと思うので、皆さんに関心を持ってほしいと強く思っている。
先ほど田口さんからうれしい言葉があって、私たちがしなくて誰がするのだということ。
ぜひ皆さんにしてほしいし、俺もする。私たちももっともっと変えていきたいと思うので、
ぜひ意欲ある方々待っています。正直言ってまだまだ観光産業は未熟だ、成熟産業ではな
い。でも、成長産業であることは間違いないので、ぜひ一緒にもっといいものに変えてい
19
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
く仲間になってほしいと強く思っている。以上です。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。それでは高橋様、よろしくお願いします。
■高橋
氏
先ほどの話の続きだが、宮城県気仙沼というところがある。津波で大きくやられただけ
ではなくて、たまたまそこに石油タンクがあったので、火のついた石油タンクが津波と一
緒に押し寄せてきて、町が燃えてしまったというかなり悲惨な町だ。今も一生懸命、再生
に向けていろいろなことやっているが、まだ駅も線路も復活しておらず、大変な状況であ
る。
そこで去年、このような話を聞いた。とある高校生が、「僕もJRに入りたい」と。「J
Rに入りたい」
「運転手になりたい」とかは多い。しかし彼は、
「僕、JRに入ってここで、
気仙沼に人がたくさん来てもらう仕事をしたい」と言った。気仙沼の高校生はみな、悪く
てもよくても仙台。ほとんど仙台より東京に近いところにみんな出ていってしまう。地域
に残る人は誰もいない。雇用もないし企業もない。しかし、その中でその高校生が、観光
の仕事をしたいのだと、
「この地域に人を呼ぶために、僕、JRに入りたい」と聞いて、本
当に私は涙が出そうになった。
同じ宮城県に松島高校というのがある。震災後に観光科ができた。大学の観光部科はた
くさんあるが、高校はなかなかないと思う、まだ。松島というのは日本で、日本三景の松
島で旅館もたくさんあるので、それまでは松島の高校生たちも仙台ぐらいまで行って就職
するのが当たり前だったのだが、震災後、地域の大切さなどに気づいて、松島の旅館に働
こうという。したがって、インターンシップでやっていることが仲居さんなのだ。先ほど
紹介があったようなことをやっていて、本当にその第1号の卒業生が地元の旅館に勤める
サイクルができ上がってきた。
その高校生と話をするにつけ、私もいつも話しているのだが、本当にその仕事を選んで
ありがとうと言っている。しつこいようだが、先ほども話をしたように、そこの担い手が
いなくなったら観光客が来ても受け入れできないのだから。
今日もこのツーリズム EXPO にこれだけ多くの学生さんに来てもらっている。私も様々
な仕事というか話をいただいて、年に数回、大学の教壇に立って話をするのだが、そのと
きいつも言っているが、観光の仕事、もしくはサービス業に興味を持っていただいてあり
がとうと、本当に申し上げたいと思う。
ものづくりの日本と言いながら、海外でつくることが本当にものづくりの日本なのかと
いうことを考えたら、本当に日本のために人と接する仕事であるはずの観光という仕事を
選ぶ方が少ない中で、皆さん方がこれからの日本を支えるのだと思っている。
先ほど寿司屋の話が出たが、寿司屋はいい。目の前でお客様にポンと
出したときに、
目の前で食べてもらい、おいしいと言う顔が見られるから。これがサービス業の醍醐味な
のだ。モノを作っている人は普通、モノを買っている状態は見られない。しかし、サービ
20
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
ス業だけが、お客様に接するその瞬間に立ち会えるのだ。
逆に言うと、観光や旅行の仕事をしたいと思っている皆さんが、人と接するそのファイ
ナルポイント、寿司屋と同じように、おいしいお寿司を食べてもらい、おいしいと言う笑
顔が見たいと思うのか、そうではなくて生産者側なのか、旅行の企画をしたいとか。しか
し、旅行の企画する人は、絶対にお客様の消費の瞬間に立ち会えないのだ。どちらが良い
のかということをしっかりと突き詰めないと、観光の仕事の本質は多分わからないと思う。
よって、私が話をしているのは、お客様に接する側、イコール観光地側で仕事する人が
必要だということだ。ぜひその視点で地域のことを考えながら、観光の仕事の将来に夢を
はせていただければと思う。
今回、EXPO にJR東日本は3つブースを出しているが、1つは、一番大きいのは東北
観光推進機構と連携をした大きなところを持っている。それからもう1つは、去年開業し
た北陸新幹線のブース。それからもう1つは、間もなく開業する北海道新幹線のブースと
いうことで3つ用意している。いずれも見ると、地域とどうJRが絡んでいるかというこ
と一目瞭然で見てもらえると思うので、ぜひ足を運んでほしいと思う。ありがとうござい
ました。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。それでは田口さん、お願いします。
■田口
氏
観光大国は自分たちの手で実現するという決意表明ということなのだが、私たちが日本
学生観光連盟の活動を通して観光を学んでいる価値を自ら作り出し、日本を観光立国から
観光大国へと発展させるような志を持ちたいと考えている。
しかし、周りの学生の様子や企業からの話を聞くと、有名企業には行きたいが就職後に
具体的に何をしたいのか、どのような新しい価値やアクションを起こすのかまでは考えて
いない学生がまだまだ多いということを聞いたことがある。
たとえばある旅行会社の方から聞いた話では、面接のときに、「私は地域活性化について
興味がありますので、そのような活動をしたいと思います」と言う学生が結構多い。しか
し、その地域活性化といっても、その中から自分は何をしたいのかというのを、まだまだ
明確に持っている学生が少ないと言われた。
本当にその背景にある観光分野のイメージがまだまだ少し浅いのかなというのもあるが、
企業の求める人材や、これから観光を支える人材の育成、そして観光のおもしろさや深み
を気づかせるのは、われわれ日本学生観光連盟の使命だと考えている。
観光を深く知りたい方、また、その機会がない方、観光で将来活躍したい方、まだまだ
私も未熟ではあるが、ぜひ学観連に参加していただいて、一緒に観光を盛り上げていきた
いと考えている。皆さんの参加を待っています。よろしくお願いいたします。
■宍戸
氏
どうもありがとうございました。それでは、それぞれのメッセージをいただきましたが、
21
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
少し時間のほうは若干押しているのだが、2~3、ぜひ会場の学生から何か、それぞれの
パネリストの方に質問、または意見でも結構なので、何かあればぜひ挙手をしていただき
たいと思う。いかがでしょうか。では、よろしくお願いします。
■学生1
意見というか少し発表で伝えられなかったことで。那覇市松島小学校の吉浜校長のイン
タビュー調査で、観光教育を深めることによって、地域を愛する、地域を能動的に楽しむ
生徒が増えた。それによって、地域を俺たちから盛り上げていきたというムーブメントが
起こってきたという話を聞いた。
よって、このように物事を進めていくときに思ったことが、誰がやるのかという話があ
ったが、その所在がどんどん増えていった教育の効果があったということなので、ぜひぜ
ひ観光教育、お金にならない部分だが、皆さんもしっかりと考えていただけたらなという
ふうに思う。以上です。
■宍戸
氏
貴重なご意見ありがとうございます。他、いかがでしょうか。もうお一方ぐらい。手が
挙がっているので、よろしくお願いします。
■学生 2
去年も参加して、本当に話をありがとうございました。去年ここで「観光客 2000 万人に
達成できますか」という質問があった。航空会社の方だけが、少し達成できないのではな
いかということを話していたが、今年もその質問をしたいと思う。
3000 万人、2030 年までに目指していると思うのだ、それは達成できると思いますかとい
うことをお三方に。
■宍戸
氏
わかりました。3000 万人にハードルが上がった、今年。では、一言でいいのでぜひ。お
三方ということですので。
■北村
氏
多分、ホテルが足りない。それから、多分、航空の輸送量も足りない。ただ、やはり事
業性がないと民間は動かない。ホテルもすぐ建てられない。航空機もパイロットもすぐに
は用意できない。その中でどのようにやっていくのか。そこに商売の機会があると思った
らきっと 3000 万人は達成できると思う。
■佐藤
氏
達成するのではないかなあ。この軽い感じだ。あまり私には関心がないというか、増え
ていくと思うが、大事なことは 3000 万人いるかではなくて、地域が潤っているか、給料が
しっかり出ているのか、それで回っているのか。しかもそれが長く続くのかで、一瞬超え
ることではないのだ。
これには強い経験が私にはある。私が再生にあたった小牧グランドホテルというのが
2004 年に経営破綻している。新幹線を開業していただき、八戸まで開業していただいた翌
22
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
年に破綻している。破綻したときの稼働率は 92%。パンパンに入っているのだ。しかし安
い料金で利益が出なくて、誰もハッピーではなかった。人数はたくさん来ていた。それで
ハッピーでしたかということを考えると、負うべき数字はわれわれにとって、あまり何人
いくかというよりも、それが持続可能で多くの人が満足し、利益が出て、また次のお客様
を呼び込めるのかというところに私は関心があるのだ。すみません、ふわーっと、いける
のではないかなと答えてしまいました。
■高橋
氏
いく、いかないという意味ではいったほうがいいので、いくと思うが、だいぶ観光庁も
含めて言い方が変わってきて、数だけいけばいいということではないという話になってき
ている。
人を手っ取り早く集めるのなら、今来ているところにバンバン増やせばいいのだが、ず
っと私が話をしたとおり、それで日本のためになるのかというと全然ならないので、地域
にあまねく人が行くという環境を作った上で 3000 万人を達成しなくてはいけないと思う。
そのためには皆さんが言うように、私も話をしたとおり、それを受け入れるだけの地域
の素地がなければ、もちろん宿もなければ、仲居さんもいなければ、女将さんもいなけれ
ばできないので、そのようなことをやるのだという前提において 3000 万人やるのだという
ことをやらないと、そのときにはもう日本の人口は今から数百万人減っているわけだから、
減った分を取り戻すためには、やはり観光客に来てもらうしかないという意味では、絶対
に 3000 万人をやらないといけないと思うが、そのような意味ではいろいろなことをしなけ
ればいけないということをセットでやりたいと思っている。
■宍戸
氏
それでは時間のほうが迫ってきたので、最後、まとめになるとは思えないが、非常に今
日は有益な、それぞれのパネリストの方から話をいただいた。私としてこれをまとめると
いうことではないのだが、少し気づいた点を4点にまとめて簡単に話をして、この会を閉
じたいと思う。
まず1点目は、今、最後の話、とってもよかったと思うが、やはり数を追う、それから
利益を上げる。これはもうとても大事なことで、観光がこれだけ注目されてきたのはやは
り実績を上げてきたからだと思う。そのような意味ではやはりわれわれ関係者も、この数
にこだわり、利益にこだわるということは、とても大事なのだということを改めて気づい
た。
ただ、それは形だけではなくて、また、利益が簡単に上がるわけではないので、いろい
ろな示唆にあったとおり、たとえば観光、日本の観光業界はサービスの生産性が低いとず
っと言われてきたが、どうやって、では儲けられるのか。それはやはりいろいろな工夫で
あったり、また、マーケティングの知恵であったり、経営学的な観点であったり、本当に
観光産業をもう少し先進的な産業に変えていく。これはまさに観光系の学部、学科、また
は企業の方が一緒に考えていく知恵が今、求められているのではないか。これを非常に強
23
2015年度産学連携ツーリズムセミナー
く感じた。
2つ目は、一方で、先ほど言ったように無駄なこと、もしくは新しいチャレンジをどん
どんしていくこと、これがサービスなのだということを感じた。最初に話があった、15 年
間桜を言い続けたら有名になったと。おそらくそれは我慢し続けることとか、あきらめな
いこととか、持続性だとか、おそらくいろいろなヒントがある。無駄ということではない
が、やはり長く続けていく。そのようなわれわれの努力。これをわれわれは忘れてはいけ
ないというふうに感じた。
3番目は、やはりそのような意味で先ほど出てきたように、なぜ安いのか、やはりこれ
は価格競争の流れに陥っているところであり、先ほど何個かの事例にあったが、やはりわ
れわれは楽しみを提案していくビジネスであり、産業関係者だと思う。つまり、その楽し
みが価値を持っているから高く買ってもらえる、もしくは高く買いなさいと。先ほどの大
将の話ではないが、やはりそのようなものをわれわれが商品として、またはサービスとし
て作り上げていけるかどうか。それはおそらく現場である厳しい数字を追う世界と、また
大学や学生さんの持っている自由な考え方、これをつなげていくということではないかと
思う。
そのような意味で最後、4点目に、この会のまとめになるが、この会の最初の問題意識
でもあるが、産学連携、産官学連携ということが非常に叫ばれていて、形式的な連携の会
議を開いたり、いろいろこのような集いも開かれている。ぜひこの機会に、非常に今日お
迎えしたパネリストの皆様も大変すばらしく魅力的な方だなと強く感じたし、また、今日
発表していただいた学生さんも非常に元気なので、未来有望だなと思った。これを機会に、
何か今日始まるといいなと感じたわけだ。
そのような意味で、本当の意味での産学連携、産官学のつながりが新しい観光の世界を
作っていく。それが最終的な観光立国から大国に変えていく意味での非常に重要な、やは
り観点だろうと。ぜひ、それを支えるのは皆様であり、学生であり、企業の関係者、われ
われではないかと考えている。
まとめにならないまとめではあったが、今日は大変短い時間だったが、有意義な話をで
きて私もうれしく思っている。パネリストの方に盛大な拍手をお願いします。どうもあり
がとうございました。
以上
24