紐帯がもたらす対人関係と恋愛消費

紐帯がもたらす対人関係と恋愛消費
①―――序章
②―――現状分析
③―――出会いの場の関する調査~仮説
④―――ビジネスへの有効性
⑤―――おわりに
ぬ思い出になったりしますから、恋愛もまた人間形成に
2003)
和田崇秀
金子裕李花
大きな影響を及ぼします。
」
(片瀬
榎本未央
馬場未帆
ここからもわかるように、恋愛における心の葛藤や悩み、
大山莉奈
古市明日香
喜怒哀楽を何度も繰り返すことで人は心身共に成長して
駒澤大学菅野ゼミ無形財班チームB
いくのであり、それは人生を送る上で極めて重要なプロ
セスといえる。
①―――序章
3.恋愛と消費の関係
1.はじめに
恋愛をすると、デートに行ったり、デートのための洋服
を買ったり電話やメールなどの通信費、相手へのプレゼ
“恋愛”という概念は我々の生活と密に関わっている。
ント代など様々な出費が増えるのは既知のことである。
今やその形態は様々だが、主に、恋愛をすることでその
ドイツの経済学者ゾンバルトは「非合法的な恋愛の合法
人の心を高揚させ、日々の生活をより有意義なものにす
的な子供である奢侈は、資本主義を生み落とした」
るという概念は不変である。
(W.Sombart 1922)としているが、これは“男性と女性
今や、100年に1度の大不況などと言われ、暗い話題
が出会って恋愛をすることによって経済活動が活発にな
ばかりが目につく昨今、人々に生きる活力を与えてくれ
る”とも解釈できる。
る要素が恋愛にはあるのではないかと私たちは考えた。
現代では、「異性との付き合いが面倒」「デート時も普
段も服装が一緒」といったように、恋愛に対してあまり
2.恋愛とは
興味・関心を持たない若者が以前に比べて増えている。
ならば、どうしたら恋愛をするようになるのか。また既
そもそも恋愛とはどういうものなのか。以下に簡単な定
存の恋愛の問題点とは何なのか。これを解明するために
義を紹介する。
恋愛と消費に関する関係性を探っていく。
―「男女が互いに相手をこいしたうこと。また、その感
そもそも恋愛と消費、もしくは恋愛とマーケティングに
情。こい。
」
『広辞苑』
関する先行研究においては、
“異性と仲良くなるためにマ
―「古今東西、老若男女を問わず、恋愛というライフイ
ーケティングの手法を取り入れる”など、終着点が消費
ベント―特にその始まりは人生最大の輝きの一つであり、
ではなく、恋愛に落ち着いている事例は見受けられたが、
またその終わりは人生最大の悲しみであったり、忘れえ
“恋愛”という概念が消費やマーケティングにどのよう
な影響を与えるかについて触れている研究は尐ない。こ
1
の点において、マーケティングにおける新領域を研究す
費がかかる。また、バレンタインやクリスマスなどの恋
るということは新規性に富み、有意義な研究であると判
愛に関するイベントや、恋愛を忚援する商品も次々と発
断し、本研究に至る。
売されている。さらに、近年では「恋活」
「婚活」という
言葉も生まれ、20~30 代の男女を中心に、恋愛活動や結
4.研究目的
婚活動が注目されている。そこで、実際に現代の若者の
恋愛はどうなっているのか。恋愛の消費や意識の実態を
まず現代の恋愛消費、恋愛事情における現状を分析し、
探り、そこにおける傾向や問題点を挙げていく。
問題点を明らかにしたい。その上で恋愛感情に影響を与
える要因を明らかにし、それに伴った不況下でも有効な
2.最近の恋愛事情
マーケティング提案をしていきたい。
(1)恋愛消費の減尐
5.本論文の構成
日経 MJ の「若者意識調査」
(2008 年 10 月 29 日)は、
「恋
愛は消費の原動力ではなくなっている」と伝えた。この
本論文の構成だが、第 1 章から現状分析として、現代の
調査ではデートやプレゼント、異性との関わりについて
恋愛事情を交えながら恋愛と消費の関係性について探る。
質問している。これを詳しく見ていくと、
‘デートには車
その中で私たちは恋愛における関係初期段階、すなわち
が必要‘と答えた 20 代の独身男性は 27.1%、女性は
“出会い”に着目した。その出会いにおける問題点を記
32.7%であった。これは、30~44 歳既婚者の 20 代独身
述する。
時になると、男性が 53.2%、女性が 41.3%で、現代の若
第 2 章では、第 1 章で挙げた問題点を基にさらに焦点
者は以前の若者と比べて、
「デート=車」という概念が薄
を絞り、
“出会いの場”についての調査を行う。そして出
れてきていると考えられる。また、
‘クリスマスにデート
会いの場において恋愛感情に影響を与える要因を“紐帯”
をしたことがある’と答えた 20 代後半の独身男女は
という概念と、対人距離と快適さの関係を用いて説明す
69.1%で、
これも 30~44 歳既婚者の 20 代独身時の 83.9%
る。それを基に仮説を設定し、調査・検証を行っていく。
に比べるとかなり減尐していることがわかる。また、そ
第 3 章では、調査結果を基に、恋愛という概念を実際
の時の服装については‘普段と変わらない服’と答えた
のビジネスにどうやって取り入れていけばいいのか、実
人が 40.4%と約半数を占めている。その他デートの特徴
務への忚用を紹介する。
としては、男性側がデートを仕切らないといった点も挙
第 4 章では、本研究のまとめ、限界点と今後の課題を
記述する。
げられている。つまり、最近の若者はデートや、デート
の勝負服などの恋愛消費の意識が薄く、男性側がデート
を仕切るといった見栄の消費も無くなってきていること
がわかる。
②―――現状分析
(2)恋愛意識
1.恋愛消費
株式会社オーネットの 20 代、30 代未婚男女を対象にし
た恋愛・結婚意識の調査は次の通りである。図表 1,2 に
恋愛をすると様々な出費が増える。ドイツの経済学者の
見られるように、まず、交際相手についてはいないと答
ゾンバルトは『恋愛と贅沢と資本主義』の中で「非合法
えた人が男性は 70.0%、女性は男性より尐し低く 63.3%
的な恋愛の合法的な子供である奢侈は、資本主義を生み
であるが、これは過去最悪の数字となっている。
落とした」(W.Sombart 1922) としたが、これを意訳す
れば、
‘恋愛は贅沢を生み、その贅沢によって経済活動が
活発になる’と言える。例えば、恋人がいる場合、デー
ト代や相手へのプレゼント代、電話やメールなどの通信
2
■図表―――1
さらに、図表 5 を見てもらいたい。交際相手が欲しいと
思う理由について、複数回答で答えてもらったところ、
男女共に上位項目に「いれば楽しい」
「自分が向上する」
「早く結婚したい」
「いないと寂しい」の 4 項目が挙げら
れた。
■―――図表 5
32.6
いないとさびしい
37.3
早く結婚したい
49.4
自分が向上する
■図表―――2
66.3
いれば楽しい
0
50
100
n=362(恋人がおらず恋人が欲しいと答えた人)
「恋愛観」については、
「恋人には追いかけるより追い
かけたい」と回答した人が、男性は 60.2%、女性は 64.6%
と男女共に半数以上で、女性に関しては「好きな人から
告白されたいと思う」と回答した人が 90.4%とかなり高
い結果となった。
次に、表 3,4 に見られるように交際相手はいないが、
この結果から、男女共に交際相手がいない人の割合は増
交際相手は欲しいと回答した人が、男性は 48.2%、女性
加傾向にあり、さらに受身の恋愛観になっていることが
は 40.2%と男女共に半数近い人が、
「交際相手は欲しい」
わかる。しかし、交際相手が欲しいと思っている人が比
と思っているようだ。
較的多いということは、恋愛に対する興味や関心がなく
■―――図表 3
なったわけではないと言えるのではないだろうか。
男性
(3)婚活事業の拡大
21.8
30
48.2
交際相手がいる
1 節でも述べているが、
「婚活」という言葉が最近さまざ
交際相手がほしい
まなメディアで取り上げられている。この言葉は、家族
交際相手はほしくない
社会学者の山田昌弘と尐子化ジャーナリストの白河桃子
さんの共著『「婚活」時代』から生まれたものである。本
書によると、
「婚活」とは結婚活動の略である。就職する
n=1135
ために就職活動が必要なように、より良い結婚をするた
■図表―――4
めに、よりよい結婚を目指して、合コンや見合い、自分
磨きなど、積極的に行動をすることが「婚活」である。
女性
(山田・白河〔2008〕
)
23.1
40.2
36.7
交際相手がいる
この「婚活」というキーワードを元に、企業はさまざま
交際相手がほしい
な「婚活」事業を進めている。例えば、株式会社 RUSH
交際相手はほしくない
は、会員生の合コンセッティングサービスを行っている
事業である。ワイン講座や、ハーブ、料理教室などテー
n=900
3
マ性を持った合コンを設定する企画力が注目され、現在
婚活中の男女13万人が登録する。登録費や年会費など
は無料で、参加料金は料理や飲み物、イベントの費用込
みで1回あたり男性 6300 円、
女性 3800 円である。
また、
■図表―――6
そもそも女性の場であった料理教室でも「婚活」事業に
合コン・出会い系パーティーの参加
有無
取り組み始めた。全国に展開する ABC クッキングスタジ
オでは、男性も参加できる「ABC クッキングスタジオ+m」
参加した
ことがな
い
43%
を展開している。同スタジオはカップルや夫婦での参加
に加え、初対面の男女が 2 人 1 組になって一緒に料理の
講習を受けられる「合コン」さながらの企画も人気であ
る。2007 年のオープン以来男性会員は急増し、昨年末で
参加した
ことがあ
る
57%
400 人に達した。
(日経 MJ, 2009/01/07,)
さらに、興味深いことは「婚活」が政府の支援によっ
n=86
て行われ始めているということである。2009 年 6 月 23
日に、尐子化対策プロジェクトチーム(PT)は「尐子化
(4)恋愛の実態と問題点
対策の背景にある恋愛・結婚にまで視野を広げて政策的
ここまで、恋愛消費、恋愛意識、婚活事業の点で若者の
に支援する」という報告書を提出した。
(日本経済新聞朝,
恋愛の実態について見てきた。これをまとめると、①恋
2009/6/23)他にも、地方自治体が住民の「婚活」の後押
愛に対する興味は男女共に低くはない②交際相手がいな
しをしている。実際に群馬県では、企業や病院など約 210
い人の割合は増加傾向にあるが、交際相手が欲しいと思
団体が登録し、各団体に勤める人たちが参加できるパー
っている人の割合は高い③恋愛の相手を探すための消費
テ ィ ー を 開 催 す る と い う 事 例 も あ る 。( 日 経 ネ ッ
意向は旺盛であるといえる。まず①に関して言えば、恋
ト,2009/8/29)
愛観については受身である一方で、
「好きな人には告白さ
このような「婚活」事業は、次々に誕生し事業を拡大し
れたい」
「恋人が欲しい」と思っている人が多いことから、
ている。このことから、交際相手がいない人でも交際相
恋愛に対する興味は低くなっていないと考えられる。次
手を探す意識、興味があり、恋愛の消費が行われている
に②においては、図表 1,2 や 5,6 で見て分かる通りであ
と言えるのではないだろうか。
る。最後に③については、「婚活」という言葉の普及や、
そこで、実際に若者はそのような出会いの場に参加して
「婚活」事業の拡大、さらに出会いの場に参加する人が
いるのか明らかにするため調査を行った。図表 6 はその
多いことから見て取れるだろう。つまり、現在の若者は
調査結果であるが、調査対象は大学生 86 人(男性 53 人、
車や洋服、イベントといった、従来の恋愛消費意向は減
女性 33 人)で、
「合コンやパーティーなどの出会いの場に
尐傾向にあるが、恋愛の相手を探すための消費には積極
参加したことがあるか」と尋ねたところ、57%の人が「参
的に取り組んでいると考えられる。
加したことがある」と回答した。対象者は大学生のため、
そこで、これまで見てきた恋愛の実態における問題点
「婚活」という意識については 20~30 代の社会人に比べ
とは何なのだろうか。意識について言えば、受身の恋愛
低いにも関わらず、実に半数以上の人が出会いの場に参
観の人が多いとは言え、恋愛の興味や関心は高く、明確
加したことがある結果となった。
な問題点は見つからない。しかし、消費について言うと、
デートでの食事や交際相手へのプレゼントといった恋愛
消費が減尐していることが問題点のひとつである。しか
し、そもそも交際相手がいない人が増加している事態こ
そが、最大の問題点として挙げられるのではないだろう
か。交際相手がいないことでは、デートやプレゼントと
いった消費に至らない。そこで注目すべき点は、交際相
手がいない人の中で交際相手が欲しいと思っている人は
4
多いという点である。これはつまり、恋愛に対する意識
まず、
「出会い」の場において、恋愛感情の高まりに影響
はあり、交際相手が欲しいと感じてはいるが、見つから
を与える要因とは何かを明らかにする。次に、「出会い」
ないということであり、恋愛が始まる初期段階といえる
の場において、恋愛感情を高めるためのマーケティング
「出会いの場」に問題点があるのではないだろうか。
提案を行う。
(5)二者関係の親密化
2.出会いの場に関する調査と仮説
そもそも恋愛というのは人と人との関わりであり、対人
関係のひとつである。特に恋人というのは親密な対人関
「出会い」の場に関する意識調査を行うため、駒澤大学
係にあるといえるだろう。そこで、二者関係の親密化か
生 7 名を対象とし、まずは簡単なデプス・インタビュー
ら、
「出会いの場」における問題点を探っていく。
調査を行った。質問内容は、恋愛における出会いの場の
二者関係の親密化可能性は、極めて初期の段階で決定
することを見出してきた(Berg,1984,Berg&Clark,1986,
問題について、合コン、ゼミ、サークル、アルバイト等
での異性との出会いを調査した。
中村,1991,山中・廣岡,1994,山中,1994)
。この現象は、関
このデプス・インタビュー調査を行ったのは、消費者
係 性 の 初 期 分 化 現 象 ( early differentiation of
の出会いの場に対する本音をより多く聞くためである。
relatedness)と呼ばれ、初期段階の相互作用のあり方の
そして調査結果は、
「合コンは行くけれど、そこで付き合
重要性を示すものといえる。
う相手を見つけるのはちょっと。(21 歳女性・付き合っ
パーソナリティーをはじめとする他者の特性を認知する
ている人なし)」
「合コンに来ている男性とは付き合いた
メカニズムにおいて、第一印象の果たす役割の大きさは
くない。(21 歳女性・付き合っている人なし)」「ゼミや
周知の事実である。最初に「いいな」と思った人にはプ
サークルには女性もいるけど、今さら恋愛対象として見
ラスの構えで接するために、ほかの特性もいい色に染ま
られない。(20 歳男性・付き合っている人なし)」「友達
って理解されがちだし、自分の印象に合致した情報に選
関係が長いから、今さらこの関係を壊したくないし、も
択的に注目する傾向も存在する。これらの認知傾向は、
う友達としか見られない。
(19歳男性・付き合っている
関係の初期分化現象と深くかかわるだろう。出会いから
人なし)
」
「 サークルで付き合って、他の人とギクシャク
の関係づくりは、期待の半面、不確実な部分からくる不
するのがイヤ だから付き合うのが面倒(21 歳男性・付
安が入り交じった負荷の高いものである。労力も尐なか
き合っている人なし)
。
」といった回答が挙がった。
らず必要とする。それ故に、私たちは思いのほか、出会
この結果から、合コンやサークル、ゼミといった出会
いに対する嗅覚が鋭敏なのかもしれない。このように、
いの場が存在するのにも関わらず、恋愛対象として見ら
人間は知り合った初期段階で相手との関係性を決定する
れない、または異性ではなく友達という意見が多かった。
ということが先行研究でわかった。
そして、このデプス・インタビュー調査から得た意見を
そこで私たちは、二者関係の親密化の初期段階を恋愛
の初期段階である「出会い」に置き換えて、研究を進め
もとに、出会いの場の現状をさらに詳しく調べるにあた
って仮説を立てた。
ていく。
出会いの場における紐帯の強さは、恋愛感情に影響を
③―――出会いの場の関する調査~仮説
与える。
1.研究課題
ここで言う出会いの場とは、ゼミやサークル、合コン、
パーティー等の出会いとなるコミュニティ・場所のこ
私たちは、恋愛の関係初期段階である「出会い」の場に
とである。以下では紐帯という概念について説明して
着目し、そこでの恋愛発展の可能性に影響する要因につ
いく。
いての考察を行う。
5
相互作用のない見知らぬ者との場合には、相手を受け
入れる必要はなく、接触する可能性が低いほど安心でき
3.紐帯とは
るので、遠隔であることが期待される。相互作用する場
合には、自己を守るため(回避)とともに、親密さの表
紐帯とは、社会の構成員を結びつけている、血縁・地
現として及び相互作用の目的成就のために最適な距離が
縁・利害などのさまざまな条件(大辞林)と定義されて
設定される(接近の欲求)
。それは相手との関係の親密さ
いる。紐帯には、個人と個人間の紐帯、個人と企業間の
に比例して決まってくる。
紐帯、そして企業と企業間の紐帯などが考えられる。そ
例えば、友人の場合には、空間の許容度が高く、かつ
の中でも私たちの研究では、個人と個人の間の紐帯の関
目的成就のためにも快適とされる距離は短い。これに対
係を知り、研究することがもっとも望ましいだろう。そ
して、親しさが低い場合には、目的成就のために効率の
して紐帯の強さとは、ともに過ごす時間量、情緒的な強
よい距離が目指されるが、親密さによる許容距離は遠く
度、親密さ(秘密を打ち明けあうこと)、助け合いの程
なり、友人に比べて最適距離はより遠くなる。これらの
度、という四次元を組み合わせたものである。
影響によって、相互作用を要する場合には、快適さと許
(Granovetter,Mark ,1973)つまり、これを恋愛消費に
容される最適距離は逆 U 字型的な関係になると考えられ
言い換えると、異性の人と頻繁に会うや接触する時間が
ている。
多い、その人に好意がある、自分の秘密を打ち明けるこ
■図表―――8
とができるということは紐帯が強いといえる。反対に、
異性の人とあまり会う機会ないや接触する時間が尐な
い、好意がない、自分の秘密を打ち明けることができな
いということは、紐帯が弱いということである。このよ
うな関係の強弱が、紐帯の強弱である。ここで言えるこ
とは、単に紐帯が強いといっても、それが何の紐帯なの
かによって強さが異なるということである。そしてこの
背後には、
「人々は互いに相互作用する頻度が高いほど、
互いに対して感じる友情の念が強くなる傾向がある
(Homans,1950)
」と述べられている。
4.対人関係
今までの先行研究を調べてみたところ、紐帯は主にネ
ットワーク社会や友人関係においての研究用語として使
好意は一体感を求める傾向を促進し、空間的にも接近
われてきた。そこで、紐帯は恋愛にも置き換えられるの
をもたらす。人間は好意を持つ相手に接近しようとする
ではないか、また、対人距離と快適さのグラフでも恋愛
傾向があると認められている。すでに持っている対人関
に置き換えられるのではないか、と私たちは考え、次の
係に由来する親しさの程度にも対忚している。しかし、
ような仮説を立てた。
個人空間が自己の延長としての意味を反映しやすいこと
もあり、特に相互作用のない見知らぬものとの場面では
許容距離には敏感である。
図表 8 のグラフは、相互作用場面の制約話題の親密さ
とともに、他者を既に知っているか、まったく知らない
か(両者の社会的な関係)
、相互作用を伴うか否か(期待
感)に忚じて最適な距離が決まることを示唆している。
6
5.仮説
化値が低い。
そしてもっとも感情の変化値が高い紐帯というのは、
相手との関係性が浅すぎず深すぎない中程度の紐帯の強
仮説①
さであるときの状態のことをいう。
出会いの場における紐帯の強さは、感情の変化値に影響
これを図表 9 で見てみると、紐帯が恋愛感情に与える可
を与える。
能性は逆 U 字型に形成される。ちなみに、ここでの感情
・強い紐帯は感情の変化値を弱める
の変化値とは相手を恋愛対象として意識する程度のこと
・中程度の紐帯は感情の変化値を高める
を表している。
・弱い紐帯は感情の変化値を弱める
→紐帯が感情の変化値に与える影響は逆 U 字型である
また、紐帯の強弱に関係なく、感情の変化値に影響が
ある要素があるのではないかと考え、次の仮説を立てた。
そもそも紐帯とは社会の構成員を結び付けている、血
仮説②
縁・地縁・利害などのさまざまな条件のことをいう(大
出会いの場の紐帯の強弱に関わらず、出会いの場におい
辞林)紐帯の強さとは共に過ごす時間量、情緒的な強度、
て、類似性、相補性、生理的錯覚、障害があると、感情
親密さ、助け合いの四次元を組み合わせたものである。
の変化値は高まる。
(Granovetter,Mark S,1973)つまり、頻繁に会ったり、
好意があったり、秘密を打ち明けられたりできるという
この仮説を立てるにあたって、我々は 4 つの理論に着
ことは紐帯が強いといえる。
対人距離と快適さとの相互作用的関係を、図表 9 にあ
目した。
るように出会いの場における紐帯の強さと感情の変化値
の相互作用的関係に置き換えて考えてみた。
こちら
(1)フィルタリング理論
は、紐帯の強さが弱すぎても強すぎても、恋愛に発展す
まず、フィルタリング理論(Kerchoff&Davis, 1962)とい
る可能性が低く、紐帯の強さが真ん中にきたときに最も
うものがある。この理論は、カークホフとデイビスによ
恋愛に発展しやすいということになる。
る理論のことであり、親密化の鍵を握るのは相互の相補
■図表―――9
性と類似性であると考えられている。
まず、私たちは自分を取り巻く他者のうち、態度や価
値観において類似していない他者をふるい落とす。そし
て、ここに残った自分と何らかの類似性のある複数の他
社の中で、お互いの欲求に相補性が見られる相手との関
係が、より親密なものへと発展していくのである。
では実際に、どのような状況のときにこの理論が成立
するのか。例えば、旅行が趣味という共通点がある場合、
プランの立案・実施に主張が強い者同士よりも、主導権
タイプとお任せタイプのペアの方が、よりうまくいくと
つまり、出会いの場における弱い紐帯とは、例えばそ
いう具合である。
の場限りの飲み会やパーティー、合コンなどによる出会
いのことであり、このような場合は感情の変化値が低い。
また、出会いの場における強い紐帯とは、例えばいつも
(2)SVR 理論
次に、SVR 理論(Murstein,1977)という理論がある。
一緒にいる学内のグループや頻繁に会うサークルの仲間、
マースタインによる SVR 理論とは、対人関係の発展を次
ゼミでの出会いのことであり、こちらの場合も感情の変
7
のような三段階でとらえる。
まず相手と出会って間もない段階では、相手の容貌や
振る舞いなど、観察可能的な刺激(stimulus)が相手への
■図表―――10
魅力に重要な役割を果たす(S 段階)
。次に、相手と話を
したり、ともに行動するチャンスが増えるにつれ、外観
からではわからないお互いの内面がだんだん見えてくる
が、この段階になると、お互いのものの考え方や態度な
どの価値観(value)の類似性が大きな関心事になる(V
段階)
。さらに、一層親しい関係になると、単に似ている
だけでなく、さまざまな事態に際してお互いが取る役割
(rule)がうまく分担され遂行されるか否かが問題になっ
てくる(R 段階)
。この段階では、お互いの相補性が重要
であり、まさに「二人で一つ」の一体感が得られる段階
であるといえるだろう。
また上記の SVR 理論に基づき、松井豊が提唱したモデ
仮説②-2
ルが、恋愛の進行と対人魅力を規定する要因に関するモ
相補性はそれぞれの紐帯において感情の変化値が変
デルである。このモデルは恋愛の進行度合いによって対
人魅力の要因が変わるというものである。出会いの段階
わる。
・
では外見の魅力と社会的評判、感情的不安定さ、近接性
弱い紐帯において、類似性があると感情の変化値は
が対人魅力の要因となる。出会いから進展に向かう段階
高まる
・
では単純接触の効果と性格の好ましさ、進展の段階では
中間の紐帯において、類似性があると感情の変化値
態度や性格の類似、好意の表明が要因であり、進展から
深化までの段階では外からの妨害や脅威、深化が進んだ
は高まる
・
強い紐帯において、類似性があると感情の変化値は
高まる。
段階ではお互いの役割の相補性、周囲との役割的適合が
対人魅力の要因となっているというモデルである。
(恋ご
ころの科学,)
これは縦軸を相補性があった場合の感情の変化値とし、
横軸を紐帯の強弱とする。すると次の図表 11 ようなグラ
私たちはこの二つの理論から仮説をたてた。
フができあがる。
■図表―――11
仮説②-1
・類似性はあらゆる紐帯において感情の変化値を高め
る。
・弱い紐帯において、類似性があると感情の変化値は
やや高まる
・中間の紐帯において、類似性があると感情の変化値
は高まる
・強い紐帯において、類似性があると感情の変化値は
高まる
グラフにするとこのようなグラフができあがる。
縦軸は類似性があった場合の感情の変化値、横軸が紐帯
の強弱である。
8
(3)ロミオとジュリエット効果
つづいてロミオとジュリエット効果(Driscoll,etal. 1972)
である。
■図表―――12
ロミオとジュリエットとはシェークスピアの悲劇のひと
つであり、ロミオとジュリエットという二人が、お互い
が戦争を行うような敵国であり、周囲の猛烈な反対を押
し切り恋に落ちるという名作である。
この有名な悲劇にちなんで、逆境の方が恋愛は盛り上
がりやすくなる効果をいう。ロミオとジュリエットがそ
うであったように、恋人の家庭同士が対立している中で
の恋は、障害があるためにむしろ恋愛感情は強くなる。
例えば、許されない愛、祝福されない愛という状況のた
めに、時には駆け落ちしたりするようなことがある。こ
こちらの図は障害があった場合の感情の変化値を縦軸と
こから考えると、何もかも順調にいっている恋愛よりも、
し、紐帯の強弱を横軸としたグラフである。
いくつかの障害のあった方が 2 人の恋の絆は強まるとも
いえるだろう。つまり、まだ不安定な時期にあるカップ
ルにとって周囲からの干渉は脅威となる。それから身を
守るため、二人の結びつきが強くなるのである。また、
(4)吊り橋実験の理論
最後に、吊り橋実験(Dutton,D.G&Aron,A.P., 1974)の
理論である。
一方相手に未知の部分が多い段階では二人の関係自体に
この吊り橋実験とは、1974 年カナダの心理学者ダット
も不安がある。錯誤帰属の観点からはこれらの不安から
ンとアロンズが協同で行った実験のことである。この実
生じる自分の生理的覚醒状態を相手への強い愛情が原因
験は、バンクーバーの「カピラノ峡谷吊橋」で 18 歳から
と考えることでますます相手にのめりこんでいくという
35 歳までの独身男性を対象に行われた。手順としては、
メカニズムがうかがえる。以上を踏まえ、以下の仮説を
まず男性に深い渓谷にかかった揺れる吊り橋を渡っても
たてた。
らう。その次に、橋の中央にいるきれいな女性が突然「ア
ンケート調査です」と話しかける。アンケート終了後、
仮説②-3
女性は「実験結果が知りたければご連絡ください」など
障害は、それぞれの紐帯において感情の変化値が変わ
といい、電話番号入りの名刺を渡す。さらに、同じ実験
る。
を揺れない普通の橋の上でも行って実験終了とした。す
・弱い紐帯において、障害があると感情の変化値は弱ま
る
ると後日、揺れない橋よりもグラグラ揺れる吊り橋で出
会った女性に電話してきた男性の方が圧倒的に多かった
・中間の紐帯において、障害があると感情の変化値はや
や高まる
・強い紐帯において、障害があると感情の変化値は高ま
る
ということがわかった。
ではなぜこのような実験結果が出たのだろうか。なぜ
ならこの実験を受けた男性は、吊り橋という
グラグラした不安定な状況でのドキドキ感を、吊
り橋の上できれいな女性が自分に連絡先を教えてくれた
ことにより、このドキドキ感はこのきれいな女性に対す
以上を図に表したものが図表 12 である。
る恋愛感情からくるドキドキ感であると錯覚してしまっ
たからである。ダットンらはこうした効果が現れる理由
を、恐怖が親和欲求を高めるということ以外にも帰属理
論という立場からも説明している。
帰属(attribution)理論は、物事をみるときにその原因
を考える現象に着目した理論である。原因がどこにある
か、言い換えれば原因をどこに帰属させるかが、人間の
9
行動にとって重要であるというのが、帰属理論の特徴で
ある。吊り橋実験の結果を帰属理論から解釈してみる。
吊り橋を渡って興奮状態にある男性は、興奮の原因を吊
1.
その人と合う頻度はどのくらいか
り橋という状況ではなく、女性の魅力からきていると帰
2.
その人についてよく知っているか
属してしまったということになる。
3.
その人との仲の良さ
4.
その人に悩みを打ち明けられるか
5.
その人が困っていたら助けたいか
そこで私たちは、このような生理的錯覚は恋愛感情と
密接に関係しているのではないだろうかと考えた。
以上の 5 項目で紐帯の強さを測り、それに対して感情
の変化値を測定する項目として、
1.
恋愛対象であるか
2.
異性として魅力的であるか
仮説②-4
という質問項目を設けた。それぞれを五段階評価しても
生理的錯覚はあらゆる紐帯において、恋愛感情を高め
らい、紐帯の強さは五項目の点数を平均したものを質問
る。
対象者と特定の人との紐帯の強さとし、異性として魅力
・弱い紐帯において、生理的錯覚があると恋愛感情は高
まる
・中間の紐帯において、生理的錯覚があると恋愛感情は
高まる
・強い紐帯において、生理的錯覚があると恋愛感情は高
まる
的であるかという質問と、恋愛対象であるかという質問
の点数の平均を感情の変化値として、グループ集計で結
果を出すものとした。
調査結果だが、まず紐帯の強弱と感情の変化値につい
ては、恋愛対象であるという項目に対しては表 13 に見ら
れるように中程度の紐帯が感情の変化値が低いという結
果となった。
この吊り橋実験のようなある一定の状況により自己の
つまり、感情の変化値は強い紐帯、弱い紐帯、中程度
感情を錯覚してしまう場合には弱い紐帯においてや中間
の紐帯の順に下がっていくということになる。
の紐帯において、強い紐帯においても恋愛感情は高まる。
■図表―――13
つまり、生理的錯覚を導く小道具が恋の誕生には有効
なのである。
しかし、吊り橋実験は検証方法が困難であるため、仮
説②-4 は棄却した。
6.調査
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
弱い
中程度
強い
そこで先ほど述べた仮説を検証するために質問紙調査
を行った。調査概要は駒沢大学学生 61 人、年齢は 18 歳
そして、表 14 に関してだが、異性として魅力的である
~21 歳、男性 30 人、女性 31 人の計 61 人である。調査
かという項目に対しては右肩上がりのグラフとなった。
は調査対象者の異性の知人、友人の中で、あいうえお順
つまり強い紐帯になるにしたがって、異性として魅力的
で一番早い人について回答してもらうものとした。その
であると感じるという回答が多かったということになる。
特定の人と調査項目は以下の通りである。
10
■図表―――14
紐帯となった。これは私たちがたてた仮説②が立証され
たといえる。
4
3
2
1
0
■図表―――16
弱い
中程度
強い
表 15 のグラフは、異性として魅力的であるかと恋愛対
象であるかという項目を平均したものを感情の変化値と
してグラフにしたものである。
右肩上がりのグラフとなっており、強い紐帯が一番感情
の変化値が高いといえる。
■図表―――15
4
しかし、図表 17 に見られるように、悩みや不安を打ち
3
明けられるかという項目で紐帯の強弱を測り、感情の変
2
化値との関係を分析してみた結果、逆 U 字という仮説が
1
立証された。これは悩みや不安を打ち明けるという行為
0
弱い
中程度
強い
が強い紐帯の中でもさらに人を選んで悩みや不安を打ち
明けているといえるのではないだろうか。
以上の結果から、私たちが立てた仮説①は棄却したと
■図表―――17
いうことになる。
そして、仮説②に対する調査では、それぞれシチュエ
ーションを設定し、先ほど回答してもらった人と同じ人
を思い浮かべてそれぞれ回答してもらった。まず、その
相手と類似性があると分かった場合、感情の変化値はど
のくらい変化するのかを分析してみた。すると類似性が
あると感情の変化値が高まる紐帯は中程度の紐帯であり、
次いで強い紐帯、一番低かったのは弱い紐帯であった。
次に相補性があると感情の変化値が高まるという仮説
だが、一番感情の変化値が高まったのは類似性と同じく
中程度の紐帯であった。次いで強い紐帯、弱い紐帯と類
そしてこの分析が信憑性のあるものかどうかを測定する
似性と似たような結果が出た。つまり、私たちがたてた
ために分散分析を行った。分散分析とは3水準以上にな
類似性と相補性についての仮説②は棄却したといえる。
った場合の平均値の差を検定するために用いるものであ
最後にロミオとジュリエット効果の分析になるが、こ
る。最終的に、[F 値]を算出し、この値が有意であるかど
の結果では感情の変化値が一番高いのは強い紐帯である
うかを検証する。
(竹原卓真[2007])そしてその結果が
という結果になった。そして次いで中程度の紐帯、弱い
11
図表 18 である。
これは異性として魅力的であるかと感情の変化値との関
また、類似性、相補性、ロミオとジュリエット効果の
項目も同じように有意確率を出してみたがすべて 0.1 以
係に関する分散分析の結果である。
上であったため有意でないといえる。つまり、この 3 つ
■図表―――18
のグラフは信憑性に欠けるといえる。
これらのことから、分析結果をまとめると、私たちが
異性として魅力的か
自由
平方和
平均平方
有意確
立てた「中程度の紐帯のとき感情の変化値が高まる」と
率
いう仮説は棄却された。そして、新たに強い紐帯のとき
F 値
度
が一番感情の変化値が高いということが分かった。さら
グループ
9.296109
2
4.648054
103.7859
58
1.789411
113.082
60
2.597533
0.0831
間
リエット効果が感情の変化値を高めるという仮説はロミ
グループ
オとジュリエット効果の場合にだけ立証されたと言える。
内
合計
に、強い紐帯のときに、類似性、相補性、ロミオとジュ
ただし、後の 3 つの分析は有意性が低いと言える。
まず有意確率は 0.0831…である。有意確率とは 0.01<
0.05 が 5%水準で有意、0.051<0.1 が 10%水準で有意で
④―――ビジネスへの有効性
ある。この場合 0.0831…という数字は 10%水準で有意と
いえる。帰無仮説は感情の変化値と異性として魅力的か
私たちが立てた仮説は棄却されたが、新たに分かった
というグラフは紐帯の度合いによって差がないというも
ことは、強い紐帯が最も恋愛感情を高めるということで
のなので、これが棄却され、感情の変化値と異性として
ある。そのことから考えられる有効なビジネスは、強い
魅力的かというグラフは信憑性があるといえる。
紐帯を作り上げるサービスやコミュニティを提供するこ
となのではないだろうか。実際に、そのような事業を行
っている企業は増えてはいるが、敷居が高いなどの抵抗
感や、金銭面の問題などが生じるため、学生などの若者
次に図表 19 を見ていただきたい。これは恋愛対象であ
るかと感情の変化値との関係に関する分散分析の結果で
に有効に利用されているとは言い難い。
それらの問題を踏まえて、今後の方向性としては、強
い紐帯に注目し、ビジネスへの有効性を探っていく。
ある。
■図表―――19
恋愛対象か
⑤―――おわりに
自由
平方和
平均平方
F 値
有意確率
度
1.研究のまとめ
グループ
4.911326
2
2.455663
1.235091
0.298342
間
私たちは恋愛消費という視点に着目し、その中で“紐帯”
グループ
115.3182
58
120.2295
60
1.988245
内
合計
という概念と恋愛にまつわる心理学の先行研究をもとに、
恋愛とマーケティングの関係性について研究を進めた。
まず、恋愛は消費者の購買意識を喚起し、最終的に消費
まず有意確率が 0.2983…なのでこの数字は高すぎるの
で有意ではないといえる。つまり恋愛対象であるかと感
情の変化値とのグラフは信憑性に欠けるということであ
る。
につながることを示した後、現代の恋愛事情について現
状分析を行った。その中から
・男女共に受け身の恋愛観ではあるが、恋愛に対する興
味自体は低くない
・男女共に交際相手がいない人は増加傾向にある
12
・恋愛相手を探すための消費意向は旺盛
そのために“強い紐帯が影響を及ぼす”といった結論が
という調査結果を得た。合コンをはじめ、お見合いパー
導かれたのは当然かもしれない。
ティーや出会い系サイトなど様々な出会いの場があるに
も関わらず、恋愛に発展しないのはなぜかと考え、出会
いの数が問題なのではなく、出会いの質が重要なのでは
ないかという問題意識に至った。
それを基に関係の初期段階である“出会い”に着目し、
そこで恋愛において感情に変化を与える要素について研
また、時間的制約の都合上、新たな仮説の構築・検証
ができなかった点が悔やまれる。
だが、冒頭でも記した通り、マーケティング研究にお
いて“恋愛”という要素を取り入れて新領域を研究した
という点では価値のあるものであったと私たちは捉えて
いる。
究を進めた。その後、先行研究から紐帯と対人距離の快
今回の研究を終え、活動を振り返ってみると、研究の
適さについての研究にいきつき、
“紐帯の強さは恋愛感情
中で実にならない活動も多々あり、また一連の流れ・ス
の変化値に影響を与える”という仮説を導いた。
トーリーを論理的に作り上げ、それを人に伝えるという
またそれに伴い、
“紐帯の強弱に関わらず、出会いの場
ことは容易ではないことを改めて感じた。だが研究を通
において類似性、相補性、ある程度の障害があると、恋
じて、メンバー全員の意見をひとつにまとめ、ひとつの
愛感情は高まる”といった仮説を構築した。
解を見出すことにグループ研究ならでは魅力を知れたの
アンケートや分散分析などから検証を行ったが、残念
ながら仮説の立証には至らなかった。だが、
“強い紐帯が
は非常に有意義であると感じた。
最後に、この研究をするにあたり、調査にご協力して
一番恋愛感情に発展する”という結果を導くことができ、
いただいた方々、お忙しい中至らない私たちに時間を割
その後、今後の展開・可能性について記述した。
き指導してくださった菅野先生、先輩方にこの場を借り
て御礼申し上げます。
2.本研究の限界と反省
参考文献
調査対象者に限界があり、対象者を大学生に限らざる
を得なかったこと、またサンプル数にも限界があった。
・『広辞苑 第6版』
そのため、他の年代の消費者に当てはまるかどうかわか
・片瀬一男 [2003]
『ライフ・イベントの社会学』世界思想社
らないという点、恋愛という概念は人それぞれであるた
・Werner.Sombart [1922]
『恋愛と贅沢と資本主義』講談社学
め、調査対象者を増やした場合に違った問題点が挙がっ
術文庫
てくるのかもしれないという点が挙げられる。
・日経 MJ「若者意識調査」2008 年 10 月 29 日
また、今までもそうだったように恋愛事情、価値観と
[2009])岩波書店
(『日経流通新聞』 2008.10.29 より)
いうものはその時代とともに変化していくものである。
・「オーネット」 20 代・30 代未婚男女の意識調査 2009
そのため、現在の恋愛事情を把握するためには随時、現
http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0233764_01.pdf
状分析が必要になってくる。
本研究では、紐帯という要素と対人関係と快適さとの
・『日本経済新聞朝刊』 2009 年 10 月 3 日,2009 年 6 月 23 日
・山田昌弘・白河桃子[2009]『「婚活」時代』ディスカヴァー
関係や、恋愛に関する心理学、または社会学からの研究
携書
を主に行ってきたが、その都度、時代に適したアプロー
・「日経トレンディネット」
チが必要になってくる。
本研究の反省として、質問紙による調査を行った際に、
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20080205/10067
65/?P=1
聴き方を誤ったという点が挙がる。詳細を記すと、異性
・Granovetter,Mark .S[1973] ,The Strength of Weak Ties
の友人との関係性を調査するためにランダムサンプリン
American Journal of Sociology,78:1360-1380
グを行ったが、対象を“友人の中で思い浮かんだ人の中
(野沢慎司訳 [2006] 『リーディングスネットワーク論』よ
でアイウエオ順で一番早い人”としたが、思い浮かんだ
り)
人が“強い紐帯の人”となってしまった可能性が高い。
13
・2009/01/07, 日経MJ(流通新聞),