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環境保全型農業技術の普及状況
誌名
中央農業総合研究センター研究資料 =
ISSN
13471279
梅川, 學
山本, 勝成
山本, 泰由
児嶋, 清
伊藤, 純雄
高橋, 茂
草場, 敬
三浦, 憲蔵
藤原, 伸介
著者
大脇, 良成
木村, 武
仲川, 晃生
竹原, 利明
大村, 敏博
宮井, 俊一
鈴木, 芳人
守屋, 成一
矢野, 栄二
水久保, 隆之
小倉, 昭男
阿部, 薫
生雲, 晴久
中山, 尊登
志賀, 正和
巻/号
2号
掲載ページ
p. 1-162
発行年月
2002年11月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所
Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat
1
中央農業総合研究センター研究資料 2,1−162(2002.ll)
(中央農研研究資料)
環境保全型農業技術の普及状況
Current Status of Sustainable Agriculture in Japan
梅川 學・山本勝成・山本泰由・児嶋 清・伊藤純雄・高橋 茂・
草場 敬・三浦憲蔵・藤原伸介・大脇良成・木村 武・仲川晃生・
竹原利明・大村敏博・宮井俊一・鈴木芳人・守屋成一・矢野栄二・
水久保隆之・小倉昭男・阿部 薫・生雲晴久・中山尊登*・志賀正和**
Manabu Umekawa,Katsushige YamamotαHiroyuki Yamamoto,Kiyoshi K:ojima,Sumio Ito,Shigeru TakahashL
Takashi Kusab乱Kenzo Miura,Shinsuke Fujiwara,Yoshinari OwakL Takeshi Kimura,Akio Nakagawa,
Toshiaki Takehara,Toshihiro Omur亀Shunichi MiyaL Yoshito Suzuki,Se且chi Moriya,Eiji Yano,
Takayuki Mizukubo,Akio Ogur乱Kaoru AbG Haruhisa Ikumo,Takato Nakayama,Masakazu Shiga
目
次
はしがき
第1章 環境保全型農業に関するアンケート調査 …・・… 4
1 調査の方法と内容………・…… 4
2 調査結果の概要 …… 5
第2章 環境保全型農業技術の普及事例 ∼普及している技術の解説と科学的根拠∼ 11
第1節 化学農薬低減技術 ・………・ ll
1 性フェロモン剤利用による害虫(コナガ)防除…… … ll
2 性フェロモン剤利用による害虫(シロイチモジヨトウ、ハスモンヨトウ)防除 15
3 天敵による害虫(オンシツコナジラミ)防除・・… 20
4 天敵による害虫(アブラムシ)防除 一……… 24
5 天敵による害虫防除(イチゴの減農薬栽培)… 27
6 フェロモントラップによるハスモンヨトウ、オオタバコガの発生予察一… 33
7 太陽熱土壌消毒による病害(ホモプシス根腐病)防除 … 35
8 土壌還元消毒法による病害防除 ・ 37
9 熱水土壌消毒によるトマトの病害防除……・… 40
10 対抗植物(マリーゴールド)による線虫防除 43
11 対抗植物(ヘイオーツ)による線虫防除 ・一 46
12 抵抗性品種による病害(イネ縞葉枯病)防除 50
13 抵抗性台木による病害(ナス青枯病)防除 … 52
14 防虫ネットによるトマトの害虫防除……… 53
15 防虫ネットによるコマツナ等の害虫防除… 56
16 選択性殺虫剤を利用したナスの減農薬栽培 … 58
平成14年8月23日受付 平成14年10月16日受理
2
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
17
光質利用による害虫(オオタバコガ、ハスモンヨトウ、
シロイチモジヨトウ)防除…一
化学肥料低減技術 ・…・
第2節
1 有機質資源(家畜ふん堆肥)の活用による化学肥料の低減
2 有機質資源(ぼかし肥)の活用による化学肥料の低減
3 有機質資源(食物残さ)の活用による化学肥料の低減
4 有機質資材利用による土づくり
5 肥効調節型肥料による施肥の効率化(水稲)……・…・……
6 肥効調節型肥料による施肥の効率化(野菜)…
7 緑肥作物の利用(レンゲの利用による減化学肥料)…
8 緑肥作物の利用(秋冬畑作物への利用)・
9 緑肥作物の利用(連作障害の回避と地力増強作物)…・一
62
65
65
68
70
72
74
76
78
81
84
10
土壌診断に基づく施設トマト、メロンの施肥改善
86
11
土壌診断に基づく露地野菜の施肥改善
89
12
栄養診断に基づく施肥改善
91
13
側条施肥(ペースト肥料)による施肥の効率化 …・…・
93
14
側条施肥(肥効調節型肥料)による施肥の効率化 ・…・
94
15
養液土耕栽培による施肥量の低減 ……
95
16
作付体系による土壌養分の有効利用
97
第3節 除草剤・植物調節剤低減技術 ・……………
1 アイガモによる雑草防除……
2 再生紙マルチによる雑草防除 一・…………
3 訪花昆虫の利用(トマト)一…
4 地被植物による雑草防除 ・
第4節 その他環境負荷低減技術 ・…
1
2
3
4
5
6
7
99
104
108
111
114
有機物の循環利用(耕畜連携)……………・…・…
114
有機物の循環利用(生ごみ堆肥)…………・…
118
生分解性マルチの利用
121
光崩壊性マルチの利用
124
園芸用廃プラスチックの適正処理……・…
126
養液栽培の廃液処理 ……………
129
水耕ロングマット苗の育苗・移植技術 ・……
131
第3章 経営的視点から見た環境保全型農業の現状と問題点
1
2
3
4
99
134
総論 ・…・………一…
134
野菜に対する環境保全型技術の経営的評価 ・・…
136
稲作に対する環境保全型技術の経営的評価
147
市場評価と経営戦略 …・…
155
3
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
はしがき
食料の安全性や環境問題への国民の関心が高まる中で、農業が本来有する自然循環機能を活か
した持続可能な農業の確立が求められている。また、内外価格差の大きい農産物の輸入が増加傾
向にある中で、我が国の農業を消費者に広く理解してもらうには、農業のもつ多面的機能の発揮
及び環境にやさしく安全で安心できる農産物の安定的な供給が求められている。環境保全型農業
はこのような農業を可能にするものであり、今後の我が国の農業の進むべき方向と考えられる。
現実に、「食料・農業・農村基本法」および「食料・農業・農村基本計画」で農業の自然循環
機能の維持増進が謳われ、「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」(持続的農業
促進法)が施行されるなど、環境保全型農業の推進が我が国農政の柱の一つに位置づけられてい
る。
環境保全型農業の研究については、これまでに病害虫分野や土壌肥料分野などで幅広い研究が
行われてきており、研究成果が農家段階で実用化されているものも多い。また、農業生産現場で
の環境保全型農業への取り組みについては、農業改良普及センターの指導のもとにJAと連携し
て取り組んでいるものから、個人単位で取り組んでいるものまで様々な例がみられる。しかし、
環境保全型農業に取り組んでいる販売農家数は全体の21.5%(2000年世界農林業センサス)にと
どまっているのが現状である。
中央農業総合研究センターは、環境保全型農業に関する研究を重点課題の一つとし、新しい技
術開発に取り組んでいる。今後、研究を効率的に推進していくためには、これまでに開発された
環境保全型農業技術の普及・実用化の現状と問題点等を把握することが重要であると考え、関東
東海北陸地域の農業改良普及センターを対象にアンケート調査を行った。第1章では、アンケー
ト調査の結果を整理した。
環境保全型農業に取り組む場合、個々の技術を十分に理解し、そのメリットと問題点を十分に
把握したうえで導入することが重要である。第2章では、普及している技術の内容を具体的に解
説するとともに、これらの技術の中核となる研究成果を科学的に取りまとめた。本章を参考に、
農業改良普及センターやJAの指導のもとに、各技術が一層活用されることを期待したい。
環境保全型農業技術の普及を考えた場合、すばらしい技術であっても、生産性、経済1生、農家
の経営的視点からの評価が得られないと、今後の発展は望めない。第3章では、技術の経営的試
算等が載っている論文をもとに、環境保全型農業技術の経営的視点から見た現状と間題点につい
て整理した。今後、環境保全型農業の経営的視点からの整理が重要である。
消費者が求めている環境保全型農業に取り組むに当たって、本資料が何らかの参考になれば幸
いである。
環境保全型農業研究官
梅川 學
4
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.ll)
第1章 環境保全型農業に関するアンケート調査
1.調査の方法と内容
1)実際の生産現場にどのような環境保全型農業技術がどの程度普及しているか、関東東海北陸
17都県の農業改良普及センター(169センター)を対象にアンケート調査を行った。
2)対象作物は水稲、畑作物、野菜とした。回答しやすいように、技術の具体例の見本として以
下の技術を例示した。
①化学農薬低減技術(発生予察に基づく適期防除、天敵利用、対抗植物利用、拮抗微生物利
用、弱毒ウイルス、フェロモン利用、光・熱利用等物理的防除、総合的害虫管理(IPM)、少
量散布、抵抗性品種利用、再生紙マルチ利用、減農薬栽培等)。②化学肥料低減技術(土壌診
断、栄養診断、肥効調節型肥料、側条施肥、有機資源の活用、養液土耕栽培等)。③地力増進
技術(土壌改良、有機物施用等土づくり、緑肥作物導入等)④有機物の循環利用技術(作物残
さ等の地域的活用、耕畜連携等地域複合化、汚泥・食品廃棄物等未利用資源利用等)。⑤化石
エネルギー使用削減(資材量削減、燃費削減、水力・風力・地熱・バイオガス等自然エネルギ
ー利用等)。⑥環境間題対応技術(地球温暖
化ガス発生量の低減、農用廃ビニール等の回 表1 アンケート調査の回答状況
収・再利用、生分解性プラスチックフイルム
利用、養液栽培の廃液処理.再利用等).⑦都県名鯉臓及讐轡回答率(%)
その他(合理的輪作、田畑輪換、不耕作地・
茨城県
荒廃地解消等農地利用調整、有機農業、不耕
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
山梨県
長野県
静岡県
岐阜県
愛知県
三重県
新潟県
富山県
石川県
福井県
起栽培等)。
3)アンケート調査の調査票の記述項目は、地
域名、技術名、作物名(主な品種)、作型
(露地・施設)、普及面積、技術の具体的な内
容、技術導入のメリットと残された問題点等、
とした。
4)平成13年7月2日付けで各農業改良普及セ
ンターにアンケート調査の依頼文と調査票を
送付するとともに、各都県の主管課に協力依
頼を行った。その結果、平成13年8月31日ま
でに、全体の50%に当たる84センターから回
答が寄せられ、合計226の事例が集まった
(表1)。
合計
6
6
8
6
7
1
6
5
4
4
6
5
4
11
0
0
5
169
84
50
75
73
60
70
17
100
45
21
50
60
45
44
61
0
0
71
50
5
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
2.調査結果の概要
1)普及事例の具体的内容
普及事例を、化学農薬低減技術(病害虫関係)、化学肥料低減技術(土壌肥料関係)、その他
,(植物調節剤低減等)に分けて整理し・図1∼図3に示した・なお・1つの事例の中に複数の
技術が記述されている場合には、重複して集計した。
化学農薬低減技術の中では、フェロモン剤による害虫防除、天敵・拮抗微生物利用(生物農
薬)及びフェロモントラップによる発生予察の実用化事例が多かった。また、太陽熱・熱水等
の熱利用、対抗植物利用、抵抗性品種利用、防虫ネット利用、非散布型農薬・選択性殺虫剤利
用、光質利用等の実用化事例があった(図1)。
化学肥料低減技術の中では、有機質資源利用の実用化事例が多かった。次いで、肥効調節型
肥料、緑肥作物導入、土壌診断・栄養診断、側条施肥等の実用化事例が多かった(図2)。
フェロモン剤による害虫防防
天敵・拮抗微生物利用(生物農薬)
フェロモントラップによる発生予察
太陽熱・熱水等の熱利用
対抗植物利用
抵抗性品種利用
防虫ネット利用
非敵布型農薬・選択性殺虫剤利用
光質利用
0
40
10 20 30
普及事例数
図1 化学農薬低減技術(病害虫関連)の主な普及事例
有機質資源利用
肥効調節型肥料
緑肥作物導入
土壌診断・栄養診断
側条施肥
養液土耕栽培
作付体系による施肥の効率化
ρ
10 20 30
普及事例数
図2 化学肥料低減技術(土壌肥料関連)の主な普及事例
40
6 中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002。11)
その他技術(植物調節剤低減等)では、アイガモ(マガモ)利用、再生紙マルチ利用、有機
物の循環利用、生分解性マルチ利用、訪花昆虫利用、廃プラスチック処理、地被植物の利用、
地下水・地熱等利用、廃液処理、ロングマット水耕育苗、不耕作地の有効利用等の実用化事例
があった(図3)。
2)環境保全型農業技術導入のメリット
環境保全型農業技術の導入によるメリットを、化学農薬低減技術(病害虫関係)、化学肥料
低減技術(土壌肥料関係)、その他技術(植物調節剤低減等)に分けて整理したものを表2∼
アイガモ(マガモ)利用
再生紙マルチ利用
有機物の循環利用
生分解性マルチ利用
訪花昆虫利用
廃プラスチック処理
地被植物の利用
地下水、地熱等利用
廃液処理
ロングマット水耕育苗
不耕作地の有効利用
40
0 10 20 30
普及事例数
図3 その他技術(植物調節剤低減等)の普及事例
表2 技術導入のメリット(化学農薬低減技術)
技術名
フェロモン剤による
害虫防除
天敵・拮抗微生物
導入 高品質化
事例数 (有利販売)
30
11
生産の 環境負
省力化 安定化 荷低減 適期防除
13
23
7
9
フェロモントラップ
による発生予察
22
5
1
太陽熱・熱水等の
14
3
1
利用(生物農薬)
熱利用
コスト 作業者の
その他a
低減 安全性
1
4
12
9
1
抵抗性品種利用
9
3
防虫ネット利用
8
2
2
2
非散布型農薬・選
択性殺虫剤利用
5
2
!
2
対抗植物利用
光質利用
4
a:抵抗性獲得害虫にも有効、マルハナバチ導入の促進、土壌改良効果等。
7
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表4に示した。
化学農薬低減技術に関しては表2に示したとおり、フェロモン剤による害虫防除や天敵・拮
抗微生物利用では高品質化や省力化を、フェロモントラップによる発生予察では適期防除を、
太陽熱・熱水等の利用、対抗植物利用、抵抗性品種利用等では生産の安定化をメリットとして
挙げる例が多かった。化学農薬低減技術全体を取りまとめると図4に示したとおり、高品質化
(有利販売が可能)、省力化、生産の安定化、環境負荷低減、適期防除が可能、コスト低減、作
業者の安全性の順に回答が多かった。
化学肥料削減技術に関しては表3に示したとおり、肥効調節型肥料では省力化や高品質化
(有利販売が可能)を、側条施肥では施肥量削減を、緑肥作物導入と有機質資源利用では生産
の安定化や地力増進を、土壌診断・栄養診断では施肥量削減やコスト低減をメリットとして挙
げる例が多かった。化学肥料低減技術全体を取りまとめると図5に示したとおり、高品質化
(有利販売が可能)、施肥量削減、省力化、環境負荷低減、生産の安定化、地力増進、コスト低
減、施肥効率の向上の順に回答が多かった。
表3 技術導入のメリット(化学肥料低減技術)
高品質化 施肥量
技術名
導入
事例数
肥効調節型肥料
30
側条施肥
22
5
緑肥作物導入
14
3
土壌診断・栄養診断
13
3
(有利販売〉 削減
環境負 生産の
省力化
荷低減 安定化
有機質資源利用
9
1
養液土耕栽培
8
2
作付体系による
施肥の効率化
4
2
12
低減 の向上
4
4
3
1
1
1
1
2
1
1
3
6
5
2
2
3
13
11
地力増進 コスト 施肥効率 その他a
5
2
1
3
2
3
4
5
4
6
1
2
2
2
2
2
1
2
1
1
6
4
.病害発生が減少、土埃の減少等農地の保全、生産者の意識向上等。
表4 技術導入のメリット(植物調節剤低減等)
技術名
アイガモ(マガモ)利用
再生紙マルチ利用
有機物の循環利用
生分解性マルチ利用
訪花昆虫利用
廃プラスチック処理
地被植物の利用
地下水、地熱等利用
廃液処理
ロングマット水耕育苗
不耕作地の有効利用
導入 高品質化
事例数 (有利販売)
環境負荷
省力化
低減
コスト低減
!
1
2
6
3
1
.産業廃棄物等の資源化、病害虫発生が減少等。
その他a
肥料の削減 安定化
1
10
8
7
5
4
3
2
2
2
1
1
農薬・置化学 生産の
1
!
2
1
1
8
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
高品質化(有利販売)
省力化麗纏醗懸醸羅灘醸纒羅灘翻
生産の安定化睡醗睡醗羅羅霧騒翻
環境負荷低減睡醗麗醗麗懸羅翻
適期防除睡羅醗翻
コスト低減購羅灘
作業者の安全性睡灘翻
0 10 20 30 40 50
事例数
図4 化学農薬低減技術(病害虫関係)導入の主なメリット
高品質化(有利販売)
施肥量削減
省力化
環境負荷低減
生産の安定化
地力増進
コスト低減
施肥効率の向上
O lO 20 30 40 50
事例数
図5 化学肥料低減技術(土壌肥料関係)導入の主なメリット
高品質化(有利販売)
環境負荷低減
省力化
コスト低減
農薬・化学肥料削減
生産の安定化
O IO 20 30 40 50
事例数
図6 その他技術(植物調節剤低減等)導入の主なメリット
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
9
その他技術(植物調節剤低減等)に関しては表4に示したとおり、アイガモ(マガモ)利用
では高品質化(有利販売が可能)を、再生紙マルチ利用では高品質化(有利販売が可能)と環
境負荷低減を、有機物の循環利用ではその他(産業廃棄物の資源化等)と高品質化(有利販売
が可能)を、生分解性マルチ利用と訪花昆虫利用では省力化をメリットとして挙げる例が多く、
それぞれ各技術の特徴を現している結果となった。その他技術(植物調節剤低減等)全体を取
りまとめると図6に示したとおり、高品質化(有利販売が可能)、環境負荷低減、省力化等が
多かった。
3)環境保全型農業技術導入の問題点
環境保全型技術導入の問題点については図7∼図9に示したとおりである。各技術ごとに
様々であるが、全般的に見るとコスト高、効果が不安定、労力の負担増等を挙げる例が多かっ
た。
コスト高
他の病害虫防除が困難
効果が不安定
労力の負担増
指導が必要
生産(品質)が不安定
有利販売できない
作付けへの影響
O lO 20 30 40
事例数
図7 化学農薬低減技術(病害虫関係)の主な間題点
コスト高
労力の負担増
肥効が不安定
有利販売できない
技術力が必要
生産(品質)が不安定
肥料のバランスが問題
0 10 20 30 40
事例数
図8 化学肥料低減技術(土壌肥料関係)の主な問題点
10
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
コスト高
生産(品質)が不安定
有利販売できない
労力の負担増
作業性が悪い
作付けへの影響
0 10 20 30
40
事例数
図9 その他技術(植物調節剤低減等)の主な間題点
(梅川 學)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
11
第2章 環境保全型農業技術の普及事例
∼普及している技術の解説と科学的根拠∼
第1節 化学農薬低減技術
1.性フェロモン剤利用による害虫(コナガ)防除
1)普及事例
1 技術名:性フェロモン剤利用による害虫防除
2 作物名=キャベッ
3 普及面積:130h a (農家数1!5戸)
4 具体的内容:
コナガの合成性フェロモン剤コナガコンを、圃場の畝に沿って約10m間隔で、地上30∼
40cmの高さに設置する。設置区域の外周部に当たる部分や広い土手等に接する囲場等では、
狭い間隔で張るなどの補強を行っている。この場合も10a当たりの使用量を基準の100mと
している。また、誘殺用フェロモントラップの設置によって発生予察を行っている。
コナガコン設置区域で交信撹乱によるコナガの密度低下効果が認められ、現在では慣行防
除体系(殺虫剤10回散布)に対して2∼3回程度殺虫剤を削減した防除体系ができている。
生産物は、性フェロモンを利用した防除体系に取り組んでいる野菜として評価を受けてお
り、高値で販売でき、市場の要望も高まっている。品質も慣行防除のものに劣らない。
一方、コナガコンの薬剤費が高く、設置に労働力がかかる。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)性フェロモンによる交信かく乱を利用したコナガの防除
コナガを防除するために、性フェロモンによる交信かく乱法を利用することができる。こ
の防除法は、キャベツ圃場に合成性フェロモンを充満させることにより、雄成虫が交尾に至
るまでの行動を妨害し、雌成虫の交尾率を低下させるものである。その結果、雌成虫が産む
受精卵の数が減少し、キャベツを加害する幼虫密度が低く抑えられることになる。
(2)コナガの交信かく乱剤
コナガの性フェロモンの主成分は(Z)一11一ヘキサデセナールと(Z)一ll一ヘキサデセニルァセタ
ートであることが分かっている。それらの2成分を有効成分とするダイアモルア剤(商品名
コナガコン)が、コナガの交信かく乱剤として市販されている。ダイアモルァ剤は合成性フ
ェロモンであるので、殺虫剤とは異なりコナガを殺すことはない。
(3)コナガの交信かく乱剤の使用法
ダイアモルア剤の製品には、リールタイプ(100m巻)とチューブタイプ(200本/袋入り)
の2種類がある。
リールタイプのものはロープ状なので、キャベツ圃場の畝の両端に支柱を立てて、それに
結び付けて張り渡すようにして用いる。たるまないようにするために、長い畝の場合には、
12
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
畝の両端だけではなく中間にも何本か支柱を立てて結び付けるとよい。張り渡すときの高さ
は、十分に生育したキャベッの頂部より少し高くなるように、40∼60cmくらいにする。圃
場での使用量は100m/10aであるが、ダイァモルア剤を約10m間隔で張り渡すようにすれ
ば、大体この使用量となる。
一方、チューブタイプのものは、適当な支柱の先端に5本まとめてくくり付けて使用する。
圃場に支柱を設置するときに、くくり付けたダイアモルア剤チューブの高さが、リールタイ
プの場合と同様に40∼60cmくらいになるようにする。圃場でのチューブの使用量は200本/
10aであるので、5本くくり付けた支柱を10a当たり40本の割合で設置することになる。圃
場内に均一に設置するとともに、圃場の周りにも少し多めに配置するとよい。
コナガの防除に交信かく乱法を効果的に用いるためには、キャベツ圃場を定植時から収穫
時まで連続して交信かく乱を引き起こせる状態にしておく必要がある。ダイアモルア剤の有
効期間は、リールタイプで90日程度、チューブタイプで100∼llO日程度であるので、キャベ
ツ定植時に一度設置さえすれば、収穫時まで交信かく乱の効果を維持できる。
(4)交信かく乱剤の利用による殺虫剤散布回数の削減
コナガの防除に交信かく乱剤を導入したときに、殺虫剤の散布回数を何回くらい減らせる
のであろうか。散布回数を削減できることは確実であるが、何回減らせるかについて一般的
な形で答えるのは難しい。その理由は、キャベッ圃場におけるコナガの発生は、地域により、
またキャベツの作型によっても異なり、それに応じて殺虫剤の散布時期や散布回数などの防
除体系が違っているためである。したがって、ここでは交信かく乱剤の利用により殺虫剤の
散布回数を減らせることを示した具体例として、愛知県の秋冬栽培型キャベツ(8月下旬∼
10月上旬に定植、ll月下旬以降収穫)を対象にした試験結果(西脇、1991;西脇ら、1991)
を紹介するが、他の地域や別の作型においても同様の結果が期待できると考えられる。
愛知県での試験では、慣行防除と交信かく乱剤(ダイアモルア剤のリールタイプ)を用い
た防除におけるコナガの発生量の違いを、試験区を設けて比較している。ダイアモルア剤を
用いた試験区は、慣行の防除歴から殺虫剤散布を2回節減した区、3回節減した区、6回節
減した区の3つが設けられた(表5)。なお、ダイアモルア剤はキャベッの定植時に100m/
10aの割合で設置された。
表5 各試験区の薬剤防除暦(西脇、1991)
回数
月/日
定植
9/14 ベンフラカルブ
9/17 トラロメトリン
9/22 アセフェート
9/27 シペルメトリン
10/4 PAP+BT
活着
1回
2回
3回
2回節減区
4回
10/11
プロチオホス
5回
10/18
カルタップ+クロルフルアズロン
6回
10/25
7回
PAP+BT
8回
ll/1
11/8
9回
11/15
カルタップ
3回節減区
6回節減区
ベンフラカルブ
ベンフラカルブ
トラロメトリン
トラロメトリン
アセフェート
アセフェート
シペルメトリン+BT
シペルメトリン+BT
テフルベンズロン
テフルベンズロン
慣行防除区
シペルメトリン+ベンフラカルブ
PAP+BT
プロチオホス
カルタップ・ピラクロホス
カルタップ+クロルフルアズロン
サリチオン+NAC
PAP+BT
PAP+BT
フェンバレレート・マラソン
カルタップ
カルタップ
〔注〕貫行防除区は定植日が9月下旬のため、定植時から1回目の薬剤防除は実施していない。
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
13
交信かく乱が起こっているかどうかを確認するために、ダイアモルア剤設置区域および非
設置区域に発生予察用フェロモントラップを設置して雄成虫誘殺数が調べられた。図10に示
すように、ダイアモルア剤非設置区域では多数のコナガ雄成虫が誘殺されたのに対し、設置
区域では約3か月の設置期間を通して誘殺数は非常に少なく、交信かく乱効果が持続してい
ると判断された。
各試験区の30株当たりコナガ個体数(幼虫・蝉数)を1週間毎に調査した結果が表6であ
る。この表から分かるように、慣行防除区および殺虫剤散布回数を2回、3回節減した試験
区では、コナガの寄生数は収穫時の12月下旬まで低く抑えられ、防除効果は十分であった。
それに対して、6回節減区では、11月に入ってから寄生数が増加し始め、収穫時まで多数の
個体が認められ、キャベツ外葉の被害が目立った。
この試験結果から、愛知県の秋冬栽培型キャベツのコナガ防除においては、交信かく乱剤
を利用することにより、慣行防除薬剤の防除歴の中から生育後半に散布する殺虫剤を3回程
度削減できると考えられた。ただし、削減に当たっては、散布時期の連続する部分を削減す
るのではなく、例えば防除歴の4回目、6回目、8回目の計3回を削減するというように飛
び飛びにする必要がある。
(5)交信かく乱剤使用上の留意点
①交信かく乱剤による防除効果を高めるためには、コナガの発生が少ない初期からの処理
120
頭
100
一‘督國コナガコン設置区域
80
一コナガコン非設置区域
60
“\./、、
40
20
. /
9/2710/411182511/18 1522
2912/61320
図10 フェロモントラップによるコナガ成虫誘殺数の推移(1990年豊橋〉(西脇ら、1991)
表6 コナガ個体数の推移(豊橋市1990年)a)(西脇ら、1991)
試験区 9/1722 2710/1411 18 2511/1 8 15 22 2912/613 20
2回節減区 0 0.3 0 0 0 0
0.3 0.3 0.3 0 0 0.7 1,7 0 0.7
3回節減区 1.7 0 0 0 0 0
0 0 0 0 0.0 0 0.3 0 0
6回節減区 一 一 一 一 〇 〇
慣行防除区 0 0 0 0
a)数字は10株当り幼虫・蠕数の合計値
0 1.0 7.0 9.O l1.0 28.0 6.0 18.0 11.0
0 0。7 0.3 0 0 0。3 0 0.3 0.7
14
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002,11)
が重要であり、キャベッの定植時に処理を行うことが原則である。殺虫効果はないので、コ
ナガ幼虫がついている苗を圃場に持ち込まないことが大事である。
②交信かく乱剤はコナガ幼虫を殺すことはできないので、使用中にキャベツ圃場でのコナ
ガ幼虫が許容できる密度を越えて増えた場合には、適当な殺虫剤で防除する必要がある。
③安定した交信かく乱効果を得るためには、交信かく乱剤を処理する面積は広くなければ
ならず、3ha以上の面積で使用することが望ましい。
④傾斜地では高い方から低い方ヘフェロモンが流れてしまうため、傾斜地の上部のフェロ
モン濃度が薄くなってしまうことが起こる。このような場合には、傾斜地の上部での交信か
く乱剤の処理量を増やす必要がある、
⑤強い風が吹くところでは、風上側のフェロモンが失われたり、フェロモン濃度の空間的
なむらが生じてしまうなどして、交信かく乱効果が不安定になりがちである。このような場
合には、交信かく乱剤の処理量を風上側で増やす必要がある・
(参考文献)
1.西脇謙二.(1991) 性フェロモン剤を組み入れたキャベツのコナガの防除体系.今月の
農業、35(10)、80−84.
2.西脇謙二・山下重樹・星野幸量・山口章吉.(1991) 性フェロモン剤を組み入れたキャ
ベツのコナガ防除体系について.関西病虫害研究会報、33、127−128.
3.「フェロモン剤利用ガイド」編集委員会編.(2000) フェロモン剤利用ガイド.日本植物
防疫協会.
(宮井俊一)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
15
2.性フェロモン剤利用による害虫(シロイチモジヨトウ、ハスモンヨトウ)防除
1)普及事例
1 技術名1性フェロモン利用による害虫防除
2 作物名:ネギ、ヤマトイモ
3 普及面積:35h a
4 具体的内容:
性フェロモン剤の効果を上げるためには10ha以上のまとまりが必要なので、ネギ、ヤマ
トイモがまとまって作付けされているところを中心に設置する。
ネギ:シロイチモジヨトウ交信撹乱剤「ヨトウコンーS」を100本/10a設置する。
具体的には、!本の支柱に3本巻き付け、33本の支柱をほ場に均一に設置する。
ヤマトイモ:シロイチモジヨトウ交信撹乱剤「ヨトウコンーS」を100本/10a設置する。
具体的には、1本の支柱にヨトウコンーSを2本巻き付け、支柱50本を均一に設置する。
あらかじめ予察トラップを設置しておき、定期的(週1回)に発生状況を確認しながら開
始時期を決める。
広域で取り組むことで効果があがるため、農家、農協、町、普及センターが一体となって
地域ぐるみで取り組める体制づくりが必要である。
すでに発生している幼虫による食害を抑えることはできず、また、他の害虫には効果がな
いため、害虫の発生状況を的確に把握し、薬剤散布等の防除指導をする必要がある。
1 技術名:性フェロモン剤利用による害虫防除
2 作物名:キャベッ
3 普及面積:4h a
4 具体的内容:
ハスモンヨトウを誘引する合成性フェロモン剤(フェロディンSL)を入れた捕殺用トラ
ップの設置(圃場内に10m問隔、高さ地上1。2m)により、発生予察及び大量誘殺を行い、
防除回数の低減を実施している。
トラップの非設置圃場に比較し、ハスモンヨトウによる被害が比較的減少し、農薬の防除
回数も減っている。
発生予察としての効果が高く、適期防除が可能となり、防除効果が高まった。
効果的な誘殺・撹乱効果を得るためには、栽培圃場の集積が必要である。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)性フェロモンの利用法と基本的な特徴
性フェロモンは多くの場合、雌成虫によって放出され、雄成虫が誘引される。特に鱗翅目
(チョウ・ガ類)のかなりの種の害虫についで性フェロモン成分が同定されており、合成性
フェロモン剤が害虫管理用素材として提供されている。
性フェロモン剤は、①防除適期の把握や防除の要否の判定のための害虫の発生時期や発生
16
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
量のモニタリング(発生予察)、および、②害虫の増殖抑制に利用できる。いずれの場合も、
性フェロモンが本来個々の種の配偶行動にかかわる化学交信物質であり、特定の害虫種(1
種または少数の種)にのみ有効であることが基本的な特徴となる。また後者の目的で使用す
る場合は、農薬登録がなされていることが前提となる。害虫の増殖抑制を目的とする利用に
は、つぎの2つの方法がある。
①フェロモン剤を用いて多数の雄成虫を誘殺し、雌成虫の交尾の機会を大幅に減らして
(雄除去)、卵の受精率を低下させる(大量誘殺法)。誘殺のための様々なトラップが考案さ
れている。
②フェロモン剤を大量に処理して圃場や害虫の生息地に高濃度で滞留させることによっ
て、性フェロモンを手がかりにした雄成虫の雌成虫探索を無効にし、交尾できなくする(交
信擾乱法)。
いずれの方法も、成虫による繁殖を抑えるものであり、次世代幼虫の発生量を減らして被
害の軽減を図るものである。たとえ果実吸収性夜蛾のような成虫による加害が間題になる害
虫であっても、誘殺されるのは雄成虫だけなので、この大量誘殺法ではその世代による被害
の低減は期待できないことになる。また、ごく特殊な例外のほかは、成虫はかなりの飛翔力
を持つので、個々の畑で個別に処理を行っても交尾済みの雌が圃場外から飛来して産卵する
ので、相当の面積にわたって一斉にフェロモン剤を処理することによってはじめて効果が期
待できる。また、フェロモン剤による交信撹乱や大量誘殺の効果は、害虫の発生量が多いと
きには著しく低下しがちであるから、多発生時には他の防除方法と組み合わせて個体数の低
減をはかる必要がある。また、一般的に成虫密度が低い発生初期から処理することが肝要で
ある。
性フェロモン剤の人畜に対する毒性は極めて低く、シロイチモジヨトウやハスモンヨトウ
のフェロモン剤も例外ではない。
(2)シロイチモジヨトウとハスモンヨトウのフェロモン剤
市販のシロイチモジヨトウの交信撹乱剤(ビートアーミルア剤、商品名:ヨトウコンーS)
は(Z,E>9,12一テトラデカジエニルアセタートと(Z)与テトラデセンー1一オールの7:3混合物で、
安定剤とともに徐放性ポリエチレンチューブ(1本20cm)に封入されている。少なくとも
2ヶ月間有効。
ハスモンヨトウの交信撹乱剤(リトルア剤、商品名:ヨトウコンーH)は、(Z,Eト9,11一テト
ラデカジエニルアセタート66%、(Z,Eト9,12一テトラデカジエニルアセタート6%、および安定
剤などを混合して徐放性ポリエチレンチューブに封入したもので(1本30cm、50mの紐状
もあり)、野外での有効期問は3∼4ヶ月間である。現在ヨトウコンーHは施設栽培のシソ
のハスモンヨトウにのみ農薬登録がなされている。
ハスモンヨトウに対する大量誘殺用ルアーとして、リトルア剤(商品名:フェロディン
SL)が市販されており、マメ類、イモ類、ナス科野菜、アブラナ科野菜、レタス、ニンジ
ン、ネギ、イチゴ、レンコン、タバコ、マメ科牧草などに適用がある。これと同成分の発生
予察用ルアーは成分含有量が少ないため誘引力および持続性が低い。
フェロモン剤は開封後放置すると有効成分が揮散して失われる。使用直前に開封し、また
購入後すぐには使わない場合は冷蔵保存する。
17
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
(3)処理方法
① シロイチモジヨトウの交信撹乱
露地圃場:野外の成虫密度が低い時期から、たとえ対象地域内で各圃場ごとに定植時期
が異なっても同一時に一斉に処理する。成虫の発生は、通常8月下旬から9月上旬に最も
多くなり、幼虫による被害はこの前後に大きい。この被害を回避するには、発生最盛期の
1世代前の成虫の交尾を阻害する必要があり、概ね7月上・中旬が処理適期となる。ただ
し、発生時期は地域により、また年によって異なるので、予めモニタリングトラップで成
虫の発生状況を把握して処理時期を決める必要がある(高井、1994)。
処理面積はできるだけ広くし、また、発生源を残さないようにする。これまでの試験結
果を総合して、平坦地で5ha以上、できれば10ha以上が望ましいとされている。50haの
地域を対象に、ビートアーミルア剤をネギ圃場に10a当たり150本、それ以外には10a当
たり60本処理して顕著な効果が得られている(図ll)。2∼3haの小規模処理でもある程
度の防除効果は得られるが、発生量
が多いときには効果が劣ることがあ
る(高井1994)。生産団地の規模が
小さいナガイモでは、3haに10a当
たり50∼100本の処理でも効果が確
認されている(谷口、1994)(表7)。
標準処理量は防除対象作物の圃場
で10a当たり100本、対象地域内の
水田、果樹園、樹園地などには、防
除対象圃場との面積比を勘案して、
10a当たり30∼50本を処理するとよ
い。草丈が低いネギなどでは、
60cmの支柱の先端に1∼3本のフ
ェロモン剤を固定し、圃場内に均一
に立てる(図12)。ナガイモでは、
60
寄
生 50
株 40
対照区
(フェロモン剤無処理区)
率
30
% 20
10
0
0.1
0
フェロモン剤処理区
9
8
7
10月
図11 露地ネギにおけるシロイチモジヨトウの
交信撹乱による防除試験例(高井、2000)
フェロモン剤処理期問:7月8日∼9月∼30日
処理面積=ネギ圃場25haを含む約50ha
処理量:ネギ圃場フェロモン剤150本/10a、
その他60本/10a
支柱頂部に設置する(谷口1994)。
施設栽培:10a当たりフェロモン
表7 ナガイモのシロイチモジヨトウに
剤500本処理が目安とされている。
対する交信撹乱法の適用例
10a未満の施設では面積にかかわら
(谷ロ、1994、一部改変)
ず500本処理する。フェロモン剤の
面積 処理量
幼虫数*
みでは効果があがり難い多発生時に
(ha) (本/a) 8月7日
8月28日 9月20日
は誘殺灯(光源:BLB30W)の併用
0.02 0*
が、また、発生前や発生初期には忌
1
避灯(30W黄色蛍光灯)による侵入
3
リトルア剤1個を装着したトラッ
プを地上1∼1.5mの高さに設置す
50
5
49.5
0
0.3
0
1.5
6.5
1,5
150
0
0
150
10.3
100
阻止の併用が有効である。
②ハスモンヨトウの大量誘殺
150
26.0
ll.5
4.0
0
1.0
*払い落とし調査による8m2当たりの幼虫数
**無処理
0
0
0
19
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表8 各種の誘殺トラップによるハスモンヨトウの捕獲性能(八瀬、2000、一部改変)
試験例 フア不ル フア不ル 武田乾式 ペツトボ ペットボ ペットボ
(緑色) (黄色) トルA トルB トルC
1
2
3
4
100
39.8
100
220.1
100
68
100
19
39.3
14.8
緑色ファネルトラップによる捕獲数を100とした値で示す。
武田乾式:武田乾式トラップ;ペットボトルA,B,Cはペットボトルを用いた各種の手製トラップ。
トラップの形や設置状況については、 「フェロモン剤利用ガイド」編集委員会編(2000) (特にp.103
および口絵)参照。
ラップも考案されている。各種のトラップによる捕獲性能を野外で比較した事例が数件あ
り、ペットボトルトラップは市販トラップより捕獲効率が劣る傾向が伺われるが(表8)、
極めて安価であり、さらなる改良が期待される。
(4)経費
シロイチモジヨトウの交信撹乱剤ヨトウコンーSは、1袋500本入り16,000円、ハスモンヨ
トウの交信撹乱剤ヨトウコンーHは、30cmタイプ1袋500本入り22,000円ほどである。ハス
モンヨトウに対する大量誘殺用フェロディンSLは1,600円前後、武田乾式トラップが1台
3,600円、ファネルタイプトラップ(緑色)は1台3,000∼3,500円である(いずれも価格には
若干の高低がある)。
(参考文献)
1.「フェロモン剤利用ガイド」編集委員会編.(2000) フェロモン剤利用ガイド.(社)日
本植物防疫協会、東京、lllpp.
2.日本植物防疫協会.(2000) 植物防疫誌に見るフェロモン研究.植物防疫、特別増刊号
No.7、 381PP.
3.高井幹夫.(1994) フェロモン剤によるシロイチモジヨトウの防除.今月の農業、1994
年4月号、118−121.
4.谷口達夫.(1994) ナガイモと白ネギにおけるシロイチモジヨトウの防除.今月の農業、
1994年5月号、85−88.
5.若村定男.(1991) 性フェロモン利用防除法の適用条件.植物防疫、47、499−502.
6.若村定男・高井幹夫.(1991) 性フェロモンによるシロイチモジヨトウの防除.植物防
疫、45、242−246.
7.柳沢興一郎.(1979) 性フェロモン利用によるハスモンヨトウの防除.植物防疫、33、
406−413.
(志賀正和)
20
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
3.天敵による害虫(オンシツコナジラミ)防除
1)普及事例
1 技術名:天敵による害虫防除
2 作物名=トマト
3 普及面積:2h a
4 具体的内容=
オンシツコナジラミの発生を確認したら、オンシツッヤコバチのマミーカードをトマトの
枝につり下げる。カードには50∼60個のマミーが付着しており、トマト20∼30株に1枚の割
合でマミーカードをセットし、1週間間隔で3∼4回マミーカードを取りかえ放飼する。マ
ミーカードから羽化したオンシツッヤコバチの成虫が、オンシッコナジラミの主として2齢
と3齢幼虫に卵を産みつけて死滅させる。
天敵を利用することにより、農薬の回数や種類を減らすことができ、農薬散布労力を軽減
することができる。
薬剤に対し感受性が低くなった害虫に対しても効果が安定している。
産地全体で取り組むことにより、減農薬栽培による安全性の高い農産物として付加価値を
つけ、有利販売に結びつけられる可能性がある。
防除効果を高めるためには、対象害虫の発生程度を的確に捉え、天敵を放飼する時期を決
定する必要がある。
天敵放飼後は農薬の散布が制限されるため、対象害虫以外の防除についての検討が必要で
ある。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)オンシツコナジラミの生態と被害
オンシツコナジラミ71冠a!θ砿odθs vaρoraがo躍m(Westwood)は、北米原産で現在は世界
中に広く分布する。84科249属の植物種が寄主植物としてあげられており、極めて多食性で
ある。わが国には1974年に侵入した外来害虫である。白いワックス状の粉に覆われた羽をも
つ体長約1.5mmの雌成虫は葉裏に紡錘形の卵を産み付ける。艀化した1齢幼虫はしばらく周
囲を俳徊するがすぐ固着生活に入り、以後羽化するまで4齢を経過する。4齢後半の体の厚
みを増した幼虫はしばしば蠕と呼ばれる。成虫は羽化後2、3日以内に交尾する。交尾しな
い場合は雄卵のみ産卵し、交尾した場合は雌雄の卵を産む。羽化した成虫は上位の新葉に移
動して産卵する。成虫は黄色∼黄緑色に誘引される。オンシツコナジラミによる被害は、直
接の吸汁害よりは、排泄した甘露を栄養源とするスス病の蔓延が問題である。光合成や呼吸
を阻害し、汚染果は商品価値が低下する。
(2)オンシツツヤコバチの生態と利用法
オンシツツヤコバチEηcarsfa fbπロosa Gahanは北米原産のツヤコバチ科の寄生蜂で、雌成
虫がコナジラミ幼虫の体内に産卵し、艀化した幼虫がコナジラミ幼虫の組織を食べて殺す。
1頭のコナジラミ幼虫に1頭しか寄生できない。寄主はコナジラミ類に限られ、これまで!4
種が確認されている。雌成虫は体長が約0.6mmで、雄は雌よりやや大きい。雌は交尾せずに
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
21
繁殖し、雄は繁殖に関与しない。オンシツツヤコバチは温室内で放飼されてから、飛翔して
葉上に降りる。飛翔は昼問に行い、その活動性は温度に依存するが、13℃でも飛翔が観察さ
れ!8℃では90分間に5m飛翔する。雌成虫は葉上で歩いてコナジラミ幼虫を探索する。雌成
虫はオンシッコナジラミのすべての齢期に寄生が可能であるが、特に3齢及び4齢初期幼虫
に好んで寄生する。また、すでに寄生された幼虫への寄生を避ける傾向がある。成虫はコナ
ジラミ幼虫の排泄する甘露を摂食するが、産卵管でコナジラミ幼虫を殺して、沁みだした体
液をなめる行動によっても栄養を摂取する(寄主体液摂取)。この行動はコナジラミ幼虫の
特に2齢幼虫を対象として多く見られる。雌成虫は羽化時に蔵卵していないが、蔵卵には寄
主体液摂取は必ずしも必要ではなく、コナジラミの甘露などからも栄養を摂取している。成
虫の寿命や産卵数は温度や湿度などの環境条件に強く影響される。総産卵数は25℃では約
400個にも達する。寄生者の卵は寄主の体内で艀化後、3齢を経過して蠕となるが、その際、
寄生された寄主の外観が黒変する(寄生により黒変した寄主幼虫はマミーと呼ばれる)。
20℃では産卵されてから黒変するまでが約10日、その後新成虫が羽化するまでさらに11日を
要する(図13)。
オンシッッヤコバチの利用の歴史は1920年代にまでさかのぼり、現在は世界で約5000ヘク
タールの温室で放飼されている。わが国でも施設栽培トマトのオンシツコナジラミを対象に、
1995年に農薬登録され、天敵を利用したトマト害虫のIPMの基幹技術として期待されている。
トマトのオンシツコナジラミ防除のためオンシツツヤコバチを利用する場合、厚紙の上に前
述のマミーを張り付けた製剤を、カード状に切り分けてトマトの株上に設置する。マミーか
らオンシッツヤコバチ成虫が羽化してオンシツコナジラミ幼虫を攻撃する。放飼に際しては
1株当たり2頭の密度で、1週問間隔で4回程度繰り返して放飼する。カード1枚に50∼60
個のマミーが付着しているので、20∼30株に1枚の割合で設置すると放飼密度は株当たり約
2頭になる。放飼はコナジラミの発生が確認されたらできるだけ速やかに行うことが、確実
な防除には重要である。コナジラミ成虫の発生調査には黄色粘着トラップがよく利用される。
図14に野菜試験場における試験成績を示した。この試験では黄色粘着トラップでコナジラミ
オンシツツヤコバチ
藩
男 ./敏、,産恥、
↓/ (卵から成虫まで28日)
鐸善二単三嬢
た (黒く着色) (卵から成虫まで21日)
図13 オンシツコナジラミとその幼虫に寄生したオンシツツヤコバチの発育過程
(20℃、トマト)(マライス・ラーフェンスベルグ、1995)
22
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
の発生を確認後、株当たり2
頭の放飼密度で3回オンシッ
ッヤコバチの放飼が行われ、
十分な効果が得られている。
コナジラミの発生確認後放飼
していたのでは失敗する可能
性もあるので、発生が確認で
きない時点から放飼する方法
り 1
密300
度
200
100
\
も推奨されている。
オンシツツヤコバチの効果
には種々の要因が関係してい
る。物理的環境要因、栽培慣
行上の要因および生物的要因
40
温
度30
一最低温度
℃20
とがある。物理的要因で最も
一
最高温度
5月
6月
7月
8月
重要と思われるのが温度の影
響である。オンシツツヤコバ
チとオンシツコナジラミのト
マトにおける増殖率を比較す
ると、オンシッツヤコバチの
値は13℃以下ではオンシッコ
ナジラミより低い。したがっ
てオンシツツヤコバチの効果
図14 早熟栽培トマトにおけるオンシツツヤコバチによる
オンシツコンシツコジラミ防除(Yano、1987)
白丸はコナジラミ3、4齢幼虫、白三角はコナジラミ成
虫、黒丸は寄生により黒化したコナジラミ幼虫(マミー)
密度を示す。矢印及び数字は、それぞれオンシツツヤコバ
チマミーの放飼時期と密度を示す。オンシツツヤコバチの
放飼時期は黄色粘着トラップによるコナジラミ成虫の発生
確認によって決定した。
は13℃以下でかなり効果が低下することが推測できる。また、オンシツッヤコバチの雌成虫
は18℃以下では生存していても葉上で寄主探索は全く行わない。オンシッツヤコバチは非休
眠性で、日長はその効果に影響しない。極端な高湿度や低湿度は成虫の産卵や寿命に悪影響
を与える。栽培慣行上の問題としては、下葉除去によるオンシッッヤコバチのマミーの減少、
ポインセチアヘの窒素施肥によるオンシツッヤコバチの植物への誘引などが指摘されてい
る。温室のサイズについては小型温室の方がオンシッツヤコバチの効果は不安定であるとい
われている。オンシツツヤコバチを放飼する作物の種類や品種も影響する。これはコナジラ
ミの増殖率が作物の種類や品種によって異なることによる。一般に天敵による害虫防除は害
虫の増殖率が低い方が成功することが証明されている。その意味でオンシツコナジラミの増
殖率の低いトマトでは、より高いキュウリやナスよりも容易であることが推測できる。オン
シツツヤコバチの放飼方法も本種の効果に影響する。オンシツッヤコバチの放飼は、経験的
には、成虫羽化時に寄生に好適な寄主幼虫が存在すること、放飼密度は寄主との相対密度が
高めであること、総放飼数が同じ場合、放飼回数は多い方がよいこと、温室内に均一に放飼
するのではなく、コナジラミの密度の高い場所に重点的に放飼するのがよいとされている。
オンシツツヤコバチのマミーカードの設置は、薬剤散布に比較して極めて省力的かつ安全
である。防除資材としての費用は放飼密度や回数、比較する薬剤の種類によるが、オンシツ
ツヤコバチ放飼はかなり割高となっている。しかし労力コストを考慮すれば、薬剤防除とほ
ぼ同じ防除コストであると言われている。
23
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
(参考文献)
1.林英明.(1994) コナジラミーおもしろ生態とかしこい防ぎ方一.農山漁村文化協会、
東京、!21P.
2.マライス、マーレーン・ラーフェンスベルグ、ウイレム.(1995) 天敵利用の基礎知識。
和田哲夫他訳、矢野栄二監訳、池田二三高・根本久執筆、農山漁村文化協会、東京、116p.
3.日本植物防疫協会。(1999) 生物農薬ガイドブック.日本植物防疫協会、東京、158p.
4.太田光昭.(2001) 寄生蜂によるコナジラミ類の防除.農業および園芸、76、124−129.
5.矢野栄二.(1988) オンシツコナジラミとその寄生蜂Encarsfa fbrmosa Gahanの個体群
動態に関する研究.野菜茶試報、A2、143−200.
(矢野栄二)
24
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
4.天敵による害虫(アブラムシ)防除
1)普及事例
1 技術名:天敵利用による無農薬栽培
2 作物名:キュウリ
3 普及面積:2000㎡(1戸)
4 具体的内容:
施設キュウリの害虫防除に天敵を導入することで、無農薬栽培技術を確立した。
アブラムシ防除にはコレマンアブラバチ、ショクガタマバエを、オンシッコナジラミ防除
にはオンシツツヤコバチを導入している。
黄色粘着板を用いて各害虫の発生動向を把握し、発生初期に天敵を導入している。
病害はJAS規格に基づいた防除資材で制御している。
天敵によるハダニ類の防除効果は未確認である。
2)普及している技術に関連した研究成果
(!)施設栽培におけるアブラムシの生態と被害
アブラムシ類は施設栽培害虫の重要なグループの一つであり、多くの害虫種は多食性であ
る・ワタアブラムシ.Aphls gossy加Gloverは多くの観賞植物やウリ類の重要害虫である・チ
ューリップヒゲナガアブラムシMlacros{p加m eロphorわ1ae(Thomas)は、ナス科作物の重要
害虫であり、ウイルスの媒介者でもある。モモアカアブラムシMy釦sperslcae(Sulzer)は、
極めて多食性で増殖能力が高く、またワタァブラムシと並んで殺虫剤抵抗性を発達させる能
力が高い。特に、ピーマンや観賞植物の重要害虫である。アブラムシ類の生活環は複雑で、
夏と冬で寄主植物を転換したり、繁殖戦略が異なる種が多い。しかし温室内では、アブラム
シは単性生殖で雌のみで急速に繁殖する。アブラムシは葉や新梢から飾管液を吸収して、変
形、萎縮、落葉などを引き起こす。花や花芽を加害すると退色や花芽の落下を引き起こす。
間接的にはウイルスを媒介し、大量の甘露を排泄し、それを栄養源として、スス病が蔓延す
る。温室内におけるアブラムシの増殖は極めて速く、防除には複数の手段の併用が必要とな
る。
(2)コレマンアブラバチの生態と利用法
コレマンアブラバチAρhfd蝕scolemani
Viereckは1頭のアブラムシに1個の卵を産み
つけ、アブラムシの体内で艀化した幼虫は4齢
を経過してから蜻になる。寄生されたアブラム パ4パん・つ
シは膨張して光沢のある薄茶色のカラのように 総ρ
なり、マミーと呼ばれる。成虫はマミーに小さ
な穴をあけて羽化してくる(図15)。通常、羽
化1日後に交尾し、受精卵から雌、未受精卵か
図15 コレマンアブラバチによるマミー
ら雄が生まれる。雌雄の比率は約2:1である。
(マライス・ラーフェンスベルグ、1995)
雌成虫はアブラムシに遭遇すると、腹部を曲げ
25
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
て前脚の間の胸部の下にもってきて腹部を突き出し、産卵管をアブラムシの体に突き刺して
産卵する。コレマンアブラバチは施設栽培野菜を加害するワタアブラムシとモモアカアブラ
ムシの防除に広く利用されている。コレマンアブラバチはモモアカアブラムシとワタアブラ
ムシを同程度選好し、寄生後の生存率も変わらない。コレマンアブラバチはキュウリのワタ
アブラムシとほぼ同じ高い増殖能力をもつ。ナスのワタアブラムシに寄生すると、25℃でコ
レマンアブラバチ雌成虫の生存日数は58日、最大産卵数は384卵である。
コレマンアブラバチは、1998年にキュウリとイチゴのアブラムシ類を対象に農薬登録され
た。現在2剤が登録されているが、ボトルに入った成虫を1慣当たり1∼2頭の密度で発生
初期から1、2週問間隔で連続して放飼する。イチゴのワタアブラムシに対する放飼試験で
は無放飼区に比べ顕著な効果が得られた(図!6)。コレマンアブラバチを利用する場合、初
期から予防的に高密度で放飼し、
また連続してアブラバチが存在す
るようにしないと効果が安定しな
い。そこで、継続的なコレマンア
ブラバチの放飼をねらいとして、
代替寄主としてムギクビレアブラ
ムシを着生させた小麦をバンカー
植物として、コレマンアブラバチ
の放飼を行う方法が実用化してい
る。
(3)ショクガタマバエの生態と利用
法
ショクガタマバエ。4phidole亡es
aphidlmyza(Ron(lani)はタマバ
葉70
当
た 60
り
ワ 50
アセタミプリド
十
○天敵放飼区
ロ無放飼区
タ
ア40
ズ
フ 30
ム
ン
成20
幼
虫10
コレマンアブラバチ
↓ ↓十十 十 十w
密
度 0
1996年
図16
819252915212961419
1月 2月 3月
施設栽培イチゴにおけるワタアブラムシに
対するコレマンアブラバチの効果
(山下・藤富、1998)
矢印はコレマンアブラバチの放飼を示す。
エ科に属する捕食性天敵である。
北米、ヨーロッパ、日本などに広
く分布する。アブラムシ以外捕食
しないが、モモアカアブラムシ、
/
:〆
ワタアブラムシなど重要害虫を含
むアブラムシ60種を餌として利用
ξ
できる。捕食者として働くステー
ジは赤や榿色をした幼虫であり、
アブラムシの脚に噛み付いて毒液
を注入して麻痺させてから、胸部
に取り付いて体液を吸収する。幼
虫期間の発育にショクガタマバエ
1頭当たり7頭のモモアカアブラ
ムシしか必要ではないが、過剰の
♀ ♂
アブラムシを与えると多数のアブ
図17 ショクガタマバエの雌(♀)と雄(♂)
ラムシをただ殺すだけで摂食しな
(マライス・ラーフェンスベルグ、1995)
26
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
い。幼虫の発育期間は21℃で
3.8日である。幼虫が十分成熟
すると地上に降りて土中に潜
り、繭を作ってから中で踊化
する。休眠しない場合の踊期
間は12∼14日である。終齢幼
虫期に短日を感知して、繭の
中で休眠に入り越冬する。春
になると踊は繭から出て地上
に移動し、成虫が羽化する。
葉400
当
た
り300
ワ
タ
ア
ブ200
ラ
ム
ン100
成
幼
虫
密 0
度
成虫は2mm程度の体長で脚が
長く、雌の方が長く後方へ曲
がった触角をもつ(図17)。繁
殖は特殊で、1頭の雌成虫は
図18
10
○天敵放飼区(アブラムシ)
ロ無放飼区(アブラムシ)
△天敵放飼区(タマバエ)
8
葉
当
6
タ
た
り
マ
ショクガタマバエ
今
十十十寺
4
ノマ
エ
幼
9ぐ
,fム’・
.〆 ・ △
○一く天麿・..
\●。△
2
虫
密
度
0
10月 11月 12月
1993年
施設栽培キュウリにおけるワタアブラムシに
対するショクガタマバエの効果(柏尾、1996)
矢印はショクガタマバエの放飼を示す。
すべて雄か、またはすべて雌
の子孫を残す。性比は雄1に対し雌1.7である。夜問や薄暮時のみ活動し、アブラムシの甘露
を摂食するが、寿命は短く数日と思われる。その間に1頭当たり100個程度の卵をアブラム
シのコロニー内に産み付ける。
わが国ではショクガタマバエはキュウリのアブラムシ類に対し利用できるが、踊を1㎡当
たり2頭の密度で発生初期から1、2週間間隔で連続して放飼する。キュウリのワタアブラ
ムシに対する放飼試験では、効果の発現にはやや時間がかかるがある程度の効果は示した
(図18)。多種のアブラムシを攻撃するため、モモアカアブラムシ、ワタアブラムシ、チュー
リップヒゲナガアブラムシなど多くの重要種の防除に利用できる。ショクガタマバエを利用
する際の留意点は乾燥に弱いことと、蠕で放飼するため、捕食能力を発揮する幼虫に発育す
るまでに、成虫の羽化、交尾、産卵、次世代幼虫の艀化・発育という段階を踏まなければな
らないことである。そのため、効果の発現に日数を要する上に、これらの段階のどれかで死
亡したり、交尾や産卵をしないとなると、定着に失敗する。成虫の羽化や交尾を助けるため、
放飼点に植木鉢をかぶせるなどの工夫が推奨されている。コレマンアブラバチと同様にアブ
ラムシが初期発生の段階から放飼しなければならい。短日で休眠に入ると増殖しないが、人
工照明で休眠を打破することができる。温度は高めの方が効果が高い。定着性が高いため、
次世代以後の効果も利用できる。
(参考文献)
1.柏尾具俊.(2001) 寄生蜂によるアブラムシ類の防除。農業および園芸、76、130−134.
2.マライス、マーレーン・ラーフェンスベルグ、ウィレム.(1995) 天敵利用の基礎知識
和田哲夫他訳、矢野栄二監訳、池田二三高・根本久執筆、農山漁村文化協会、東京、116p.
3.日本植物防疫協会.(1999) 生物農薬ガイドブック。日本植物防疫協会、東京、158p.
(矢野栄二)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
27
5.天敵による害虫防除(イチゴの減農薬栽培)
1)普及事例
1 技術名二天敵利用による減農薬栽培
2 作物名:イチゴ
3 普及面積:50a
4 具体的内容:
いちご栽培は、栽培期間が定植後から5月までの長期にわたる。この問の化学合成農薬の
使用をひかえるため、天敵のチリカブリダニ、コレマンアブラバチ、ククメリスカブリダニ
や拮抗菌のボトキラー水和剤を利用して、減農薬栽培に取り組んでいる。
天敵資材の利用により農薬散布労力が軽減されるが、農薬費が慣行より高くなる。また、
天敵に影響の少ない農薬についての情報が少なく、使える農薬も少なくなっている。
天敵等の導入促進には、天敵の生育に適したハウス内環境の維持が必要であるが、暖房機
等を備えた施設が少ない。
減化学合成農薬の生産物を生産しても、販売先がなく、販売価格に反映されない。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)チリカブリダニの生態と利用法
チリカブリダニPhy亡osefロ1欝persfmflfsAthias−Henriotは、ナミハダニ、カンザワハダニ
などのハダニを攻撃する捕食性の天敵で、成虫を含めたハダニのすべてのステージを捕食す
るが、卵を特に好んで捕食する。活発な捕食活動を行うのは第1若虫以後のステージである。
ハダニの発見効率が高く、ハダニのコロニーの発見には、まずハダニに加害された植物の出
すにおいを手がかりとして探索し、コロニー近くではハダニ由来の排泄物、脱皮殻やハダニ
の出す糸のにおいに引きつけられて集まる。ハダニと同様に卵、幼虫、第1若虫、第2若虫
及び成虫の発育ステージに分けられる。ハダニ卵合計10個の捕食で成虫になる。成虫は植物
葉上のハダニのいる場所にハダニ卵の約2倍の大きさの卵を産みつける。成虫は1日に20個
余りのハダニ卵又は18頭の第1若虫を捕食し、25℃では総産卵数は80個である。雌は交尾し
ないと産卵しない。飢餓にも強く、産卵を停止して耐えることができる。成虫の雄と雌の性
比は約114である。またハダニより発育速度が速く、25℃では7日で発育を完了する。増
殖率はカブリダニの中でも最も高い部類に属する。分散能力が高いため、餌のハダニがいな
いとすぐ分散する反面、ハダニの密度の高いところでは定着する。
チリカブリダニはヨーロッパでは、当初、施設栽培キュウリのナミハダニの防除に利用さ
れていたが、最近はイチゴに対しても利用されるようになった。わが国でもイチゴ、キュウ
リ、ナス、シソのハダニ類の防除に農薬登録され、市販できるようになった。製剤としては、
500ccのプラスチックボトルに約2,000頭のカブリダニとキャリアーとしてバーミキュライト
等を入れたものが一般的である。よく混ぜてキャリアーを一定量葉上に置けば、一定量のチ
リカブリダニが放飼される。ハダニの防除に利用する場合、最初の放飼は、ハダニの発生初
期に、1nf当たり2頭または1株当たり1頭を放飼する。以後ハダニの発生に応じ2回目以
後の放飼を行う。1回の放飼で十分な場合もあるが、通常は2回放飼することが多い。図19
28
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
に厳冬期にチリカブリダニ
イ
ノ
を放飼した試験の成績を示
げ
した。低い夜温はチリカブ
リダニに好適ではないが、
腿
昼問に温度が上昇する時期
畢
に捕食していると考えられ
る。放飼量を決めるのに、
1
U
u
<
ノ、 ℃
oつ 80
\
無
ダ処
二理
勧、i
q
9々\
ハダニに対するチリカブリ
1無放飼区ハダニ
120
40
ダニの初期密度比が重視さ
↓バ/
ノ
ノ
ノ
ノ
ノ
ノ
ナ
‘ 放飼区ハダニ
カブリダニ...
’ ▼、ノ’
0 1/9
れ、チリカブリダニの初期
密度比が高く、温度が高い
3/3
4/5
5/2
(月/日)
ほど効果は高い。また、放
飼の初期密度は、チリカブ
図19 イチゴにおけるチリカブリダニのハダニ防除効果
リダニに対するハダニの密
(厳冬期放飼)(浜村、1997)
度を30倍以下にするのが望
▼印はチリカブリダニの放飼を示す。
ましいとされている。チリ
カブリダニの最初の放飼時期の決定は、ハダニの発生調査に基づいて行う。キュウリについ
ては、少数のハダニの食害痕が容易にわかるため、イギリスで被害程度に基づくハダニの発
生調査技術が開発された。被害度指数が、無被害の0から葉が白化し始める5までランクづ
けされた。チリカブリダニの最初の放飼適期はこの指数が0.2∼0.4とされている。イチゴは
品種によっては葉がより厚いため、葉の表だけから被害の確認をしていたのでは発生確認が
遅れる。この場合は葉をサンプリングして、ハダニの寄生葉率から発生を確認する方法が考
案されている。チリカブリダニの放飼が余り遅れると、チリカブリダニがハダニを抑圧する
以前にハダニの被害が出てしまう可能性が高まる。一方、余り極端にハダニの密度が低いと
チリカブリダニは定着せず分散してしまう。これを解決する放飼法として、局部的にハダニ
の密度が高い株(ホットスポット)に重点的に放飼するのがよい。チリカブリダニの利用の
もう一つの重要な問題点は、本種の活動が温湿度に強く影響されることである。チリカブリ
ダニは25℃ではハダニより速やかに増殖するが、15℃ではほとんど増殖せず、30℃近くにな
ると温度が高くなっても増殖速度がほとんど速くならない。さらに30℃以上では捕食活動が
鈍り、33℃以上では繁殖障害が引き起こされる。低温も捕食能力に影響し、雌成虫の捕食能
力は20℃以下では急速に低下し、10℃ではほとんど捕食しなくなる。相対湿度もかなり強く
影響する。卵の艀化率は50%以下では極端に低下するが、成虫の捕食能力は33%程度の低湿
度でむしろ高く、100%では著しく低下する。以上からチリカブリダニの活動に好適な温湿
度は15∼30℃、50∼90%であると言われている(図20)。
オランダにおける温室栽培のキュウリのナミハダニを対象とするチリカブリダニの防除経
費は薬剤散布の半額程度(10アール当たり16,000円)とされているが、労力経費も含まれて
いる。
(2)
コレマンアブラバチの生態と利用法
前項を参照。
(3)
ククメリスカブリダニの生態と利用法
29
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
ククメリスカブリダニ
35
ーAmわ1yse1αscαcαmeris
(Oudemans)は世界中
30
に広く分布する種である
が、わが国には土着して
25
いない。カブリダニでは
あるが、アザミウマ類、
ナミハダニ、コナダニ類、
気 20
チリカブリダニ
が安全に働ける
チャノホコリダニの捕食
温
環境
者であり、欧米ではキュ
℃
15
ウリやピーマンのミカン
キイロアザミウマとネギ
10
アザミウマの防除に最も
よく利用される種であ
5
る。わが国でも導入種で
はあるが国内生産されて
おり、1998年にナス、キ
0
ュウリ、ピーマンのミナ
50 100
湿度%R.H.
ミキイロアザミウマ及び
イチゴ、ピーマンのミカ
図20
チリカブリダニが利用可能な温度と湿度の範囲(森、1993)
ンキイロアザミウマを対
象に農薬登録された。
ククメリスカブリダニの成虫は、アザミウマの幼虫は捕食できるが成虫はほとんど攻撃で
きない。アザミウマ幼虫でも主として1齢幼虫を捕食する。幼虫はより攻撃能力が劣るため、
ハダニや花粉などを代替餌として利用しており、それでも餌がないと共食いをしていると思
われる。雌雄1対の成虫は25℃で日当たり4.92頭のミカンキイロアザミウマ又は3.8頭のネギ
アザミウマの1齢幼虫を捕食する。捕食能力は雌雄や交尾経験、植物の種類により変化する。
雌成虫は雄成虫より、既交尾雌は未交尾雌より捕食能力が高い。表面に毛茸の多いキュウリ
よりはより少ないピーマン上で捕食効率が高い。捕食能力は15∼25℃に管理された温室では
高湿度の方が高い(表9)。ミカンキイロアザミウマを与えるとククメリスカブリダニの
卵・幼虫期の発育日数は20、25℃でそれぞれ11.1、8,7日である。雌成虫の日当たり産卵数は
20℃で1.5卵である。雌雄成虫の寿命は25℃でそれぞれ34,3日及び18.9日であり、雌の産卵前
期間は約3日である。成虫の生存率は25℃以上の高温で低湿度では著しく低下する。性比は
やや雌比が高く約60%である。増殖率は28∼29℃で最も高く、32℃では高温障害のため増殖
不可能である。温室栽培キュウリのミカンキイロアザミウマの防除に放飼されたククメリス
カブリダニは下位葉と中位葉に多いが、上位葉には少なく、アザミウマの分布パターンと一
致した。分布はやや集中的であった。
わが国におけるククメリスカブリダニの放飼法では、キュウリとイチゴのアザミウマには
株当たり100頭、ナスとピーマンのアザミウマには株当たり50∼100頭を、発生初期から1週
間間隔で3回株元に放飼する。紙パックにカブリダニを収容して植物体上に吊り下げるタイ
30
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002,ll)
プもある。効果は遅効
的で放飼後もアザミウ
マが多少増えることも
表9 ミカンキイロアザミウマ1齢幼虫を餌としたときのクク
メリスカブリダニ雌幼虫の1日の捕食量に及ぼす温度と
湿度の影響(Shipp et.al.,1996)
あるが(図21)、花粉
やハダニの卵などの代
相対湿度(%)
12
替餌を食べて増殖でき
るため、アザミウマの
発生初期に予防的に放
飼するには適してい
温度
15℃
20℃
25℃
5。90
5.00
7.75
33
6.75
6.75
4.25
55
8.92
6.81
3.75
75
8.65
7,47
5.45
97
9,57
9.86
9.35
る。ククメリスカブリ
ダニの花粉食の性質は
90
ピーマンのように花粉
80
70
葉60
を生産する作物におけ
る放飼後の定着率を高
当
める効果をもたらす一
た50
り1
方で、キュウリのよう
密40
度30
に花粉を生産しない作
ρ!
11
D
!
物での定着を不安定に
20 放飼放飼放飼 /
ノ○、、 !
↓ ↓ 十 一一.σ/ ’d
10
0
すると言われている。
(4)バチルス ズブチリ
ス水和剤(ボトキラー
4/34/114/174/245/15/85/155/225/29
月/日
水和剤)の特性と効果
バチルス ズブチリ
○放飼区ミナミキイロアザミウマ
ム無放飼区ミナミキイロアザミウマ
ロククメリスカブリダニ
図21
ス(Baci1盈ssαb亡11is)
半促成栽培ナスのミナミキイロアザミウマに対する
ククメリスカブリダニの放飼効果(足立、2001)
は納豆菌と同種の細菌
で、芽胞と呼ばれる耐久体を形成する。芽胞は乾燥、熱、紫外線や各種化学物質に耐性を示
し、長期間の保存に耐える。芽胞は栄養条件や環境条件が整うと発芽して栄養細胞となる。
生育条件が悪化すると芽胞を形成する。バチルス ズブチリス水和剤は当初灰色かび病菌の
防除を目的として開発された。灰色かび病菌に直接作用して死滅させるのではなく、植物体
上で灰色かび病菌と生息場所や栄養物の奪い合いによる競合(拮抗作用)により、病原菌の
ボトキラー水和剤を,
⑰
癒_
ぜ
罐薮 一
愈_巽菱巽〆
麟霧 、〆
予め全面散布した場合
⑰
瞳
ボトキラー水和剤を
使用しない場合
籟纏縫難灘懸
図22 ボトキラー水和剤による生物的防除のしくみ(日本植物防疫協会、1999)
31
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
繁殖を抑える(図22)。作物上に散布されたバチルス ズブチリスの芽胞は生育条件が整う
と発芽、増殖する。温度は10℃以上が必要で、水分や栄養源として植物等に由来する有機物
を利用する。バチルス ズブチリスは天敵昆虫や受粉昆虫には影響はない。散布する場合、
通常の水和剤と同様の使用が可能でであり、混用可能な薬剤も多い。性質上、灰色かび病が
発生する以前に予防的に使用することが必要である。現在はイチゴのうどんこ病に対しても
使用できる。
(5)イチゴの主要害虫と利用できる天敵及び天敵に影響の少ない選択性薬剤
表10にイチゴに登録のある天敵を含む生物的病害虫防除資材を示した。イチゴの主要害虫
はアブラムシ類、ハダニ類、ミカンキイロアザミウマ、ハスモンヨトウ、コガネムシ類であ
り、ハスモンヨトウを表11にあるBT剤で防除すると、害虫はコガネムシ類以外は生物由来
又は生物そのものを利用する資材で防除できることになる。また難防除病害の灰色かび病、
うどんこ病にも拮抗作
用を示すバチルス ズ 表10 イチゴに登録のある生物的病害虫防除資材
ブチリス水和剤が利用
できる。しかし天敵等
の生物的資材は環境条
件に効果が左右された
り、予防的に施用する
必要があるなどの制約
があるため、表11にあ
対象病害虫
生物的病害虫防除資材
ミカンキイロアザミウマ
ハダニ類
アブラムシ類
アブラムシ類
アブラムシ類
灰色かび病、うどんこ病
ククメリスカブリダニ
チリカブリダニ
コレマンアブラバチ
ショクガタマバエ
ヤマトクサカゲロウ
バチルス ズブチリス水和剤
表11 イチゴに登録のある天敵に影響の少ない選択性殺虫剤
ククメリスカブリダニチリカブリダニコレマンアブラバチ
薬剤名
対象害虫
卵 幼虫 卵 幼虫 マミー成虫
アセタミプリド水溶剤 アザミウマ類、アブラムシ類 一 ◎
イミダクロプリド粒剤 アブラムシ類 ◎ ◎
エマメクチン安息香酸塩乳剤 ハスモンヨトウ ◎ O
クロマフェノジト水和剤 ハスモンヨトウ ◎ ◎
クロルフェナピル水和剤 ハスモンヨトウ,ハダニ類 ◎ ×
クロルフルアズロン乳剤 ミカンキイロァザミウマ、ハスモンヨトウ ◎ ◎
酸化フェンブタスズ水和剤 ハダニ類 ◎ ◎
テブフェノジド水和剤
テフルベンズロン乳剤
デンプン液剤
ピメトロジン水和剤
フルバリネート水和剤
ハスモンヨトウ
ハスモンヨトウ
ハダニ類
アブラムシ類
アブラムシ類
◎◎
◎一
◎◎
× ×
フルフェノクスロン乳剤 ミカンキイロァザミウマ、ハスモンヨトウ ◎ ◎
ヘキシチァゾクス水和剤 ハダニ類 ◎ ◎
ホスチアゼート粒剤 ネグサレセンチュウ ー 一
ルフェヌロン孚し剤 ミカンキイロアザミウマ、ハスモンヨトウ ◎ ◎
BT水和剤 ハスモンヨトウ ◎ ◎
◎◎
◎◎
◎◎
◎◎
一◎
◎◎
◎一
◎◎
× ◎◎
◎◎
◎◎
◎◎
◎◎
×
一◎
◎◎
◎×
◎◎
一◎
× 一
◎◎
一〇
一◎
◎◎
◎◎
注)天敵に対する影響は室内試験で、◎:死亡率0∼30%、○:30∼80%、×:99∼100%、一は未確認
32
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
るような選択性薬剤を適宜併用すると効果がより確実となる。
(参考文献)
!.足立年一.(2001) 捕食性天敵ククメリスカブリダニによるアザミウマ類の防除.農業
および園芸、76、141−145.
2.浜村徹三.(2001) 捕食性カブリダニ類によるハダニ類の防除.農業および園芸、76、
135−140.
3.柏尾具俊.(2001) 寄生蜂によるアブラムシ類の防除.農業および園芸、76、130−134.
4.川根 太.(2001) 灰色かび病防除剤一ボトキラー水和剤の開発と応用一.農業および
園芸、76、208−2!3.
5.マライス、マーレーン・ラーフェンスベルグ、ウィレム.(1995) 天敵利用の基礎知識。
和田哲夫他訳、矢野栄二監訳、池田二三高・根本久執筆、農山漁村文化協会、東京、116p.
6.森焚須編.(1993) 天敵農薬一チリカブリダニその生態と応用一.日本植物防疫協会、
東京、130p.
7.日本植物防疫協会.(1999) 生物農薬ガイドブック.日本植物防疫協会、東京、158p.
8.山田昌雄編著.(2000) 微生物農薬一環境保全型農業をめざして一.全国農村教育協会、
東京、228p.
(矢野栄二)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
33
6.フェロモントラップによるハスモンヨ,トウ、オオタバコガの発生予察
1)普及事例
1 技術名=フェロモントラップによる発生予察
2 作物名:ナス
3 普及面積:30h a
4 具体的内容=
夏秋なす栽培における、オオタバコガ及びハスモンヨトウの発生消長調査のため、4年前
から部会員の全ほ場にフェロモントラップを設置している。
都市近郊地域の栽培であるため、ほ場が散在しており、フェロモントラップによる大量誘
殺効果は少ないと思われるが、定期的な発生消長調査と情報提供を行い、部会全員による一
斉消毒を実施する、ことにより、適期防除を推進し、散布回数の低減を図っている。
その結果、一斉消毒指導により、適期防除が推進された。
誘殺数調査は指導機関が実施しているが、自身のほ場の誘殺数の増減により、防除を実施
している農家も多い。
また、栽培農家の環境保全型農業への関心を高める起爆剤となっている。
ほ場が散在しているため、大量誘殺による害虫の密度低減効果は期待できない。
現在、フェロモントラップにかかる費用は、なす部会が負担しているが、個人負担となっ
た場合に、投資額の割りに効果が見えにくいため、高齢農家を中心に未設置となる可能性が
高い。
2)普及している技術に関連した研究成果
(!)ハスモンヨトウ、オオタバコガの性フェロモントラップ
ハスモンヨトウとオオタバコガの性フェロモンはともに2種の化合物からなる混合物であ
ることが明らかにされている。市販されているハスモンヨトウ用合成性フェロモンは(Z,E)一9−
ll−TDDA90%と(Z,E)一9−12−TDDA10%,オオタバコガ用合成性フェロモンは(Z)一ll一ヘキサデ
セナール95.5%と(Z)一9一ヘキサデセナール5%で構成されている。
性フェロモンを用いたトラップには基本的に粘着タイプとロート状のファネルタイプが使
われている。推奨されているトラップの設置数は栽培面積によって異なり、100ha以上では
2台/1ha、10ha以上では4台、10ha以下では5台であるが、高低差や林などの障害物が
ある場合は増やす必要がある。しかし、設置間隔が狭すぎると交信撹乱がおこり捕獲効率が
低下する可能性があるので、20m以上の間隔を置く・
(2)性フェロモントラップによる発生予察
性フェロモントラップで捕獲される雄成虫数のピーク時期と産卵のピーク時期はほぼ一致
するので、防除の適期である若齢幼虫の発生期を把握することができる(図23)。
ハスモンヨトウの大量誘殺用に、武田薬品工業から性フェロモン剤のフェロディンSL
(リトルア剤)3錠とファネルトラップがセットで10,000円で販売されており、1錠の有効期
間は約2ヶ月である。トラップはペットボトルなどを用いて自作している農家もある。トラ
ップは適当な支柱を用いて作物に隠れないよう地上1∼1.5mにセットする。
34
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
20
15
成虫誘殺数
一一一株当り卵数
成
虫10
数
一
一亀
、 9 亀
5
り
4 ㍉ 8 覧
の ち
」 、 」 亀
, 、 σ 亀
卵
0.2数
、 、
♂ 、
頭
一一、、, ・ e 覧
、F 、 曹 亀
、σ
、
4 ’ 、
∼ 、,’
0
株
0.4当
6667778889991010101口111121212
/////////////////////
0 )
11121111211112111121111211112111121
図23性フェロモンによるオオタバコガ雄成虫の発生消長と
卵の発生消長の比較(鹿児島県、1995年〉
オオタバコガに対しては発生予察専用に、サンケイ化学から性フェロモン剤のSEルア
ー/オオタバコガ用一6個、専用トラップ2台、専用粘着版12枚がセットで12,000円で販売
されている。SEルアーは1ヶ月毎、粘着版は1ヶ月あるいは50∼70頭捕獲される毎に交換
する。
(鈴木芳人)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
35
7.太陽熱土壌消毒による病害(ホモプシス根腐病)防除
1)普及事例
1 技術名:太陽熱土壌消毒による病害防除
2 作物名:メロン
3 普及面積:約85h a
4 具体的内容:
ホモプシス根腐病対策として、病原菌密度の低下を目的に実施している。
メロン栽培終了後のトンネルおよびマルチをそのまま利用して、密閉二重被覆による太陽
熱消毒を行う。
病害が発生した圃場では、マルチを痛めないようにつると根をできるだけ取り除き、トン
ネルを密閉して地温の上昇を図る。好天の7∼8月の条件下で1か月程度続けると効果が高
い。防除効果は天候に左右され、冷夏や曇雨天が多い年には効果が低いため、数年継続する
方がよい。
太陽熱土壌消毒では地表部分の効果は高いが、深層部の消毒は困難である。また通路部分
の消毒が行えないため、後作のダイコンのネグサレセンチュウ防除を兼ねたD−D剤、デ
ィ・トラペックス油剤、ガスタード微粒剤など薬剤の被覆処理で効果を高くすることができ
る。
栽培使用後のフィルムをそのまま利用するので、資材費がかからず、作業も簡単で労力も
それほど必要としない。全面被覆処理では、新たに園芸用フィルムの資材費と廃棄処理に関
わる経費および施設撤去の労力がかかる。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)太陽熱土壌消毒の具体的な実施方法・時期
前作メロンの栽培終了後、前作に使用したトンネル、マルチをそのまま残し、マルチを痛
めないようにメロン株を抜き取る。その後、トンネルの裾を1か月間密閉して消毒する。梅
雨明け直後の7月下旬から8月下旬の最も高温な時期に処理すると効果が高い。
(2)ホモプシス根腐病菌の耐熱性
メロンホモプシス根腐病菌は比較的耐熱性が低く、37.5℃以上では2日以内に、35℃では
6日で死滅する(表
12)。 表12 メロンホモプシス根腐病菌の各温度での死滅時問
(3)太陽熱処理による地 (小林ら・1997)
温上昇効果とホモプシ
ス根腐病に対する防除
効果
夏期の天候が良かっ
た95年(8月の平均気
温27.9℃)、97年(同
26.0℃)は消毒効果が
温度 2日 3日 4日 6日 10日 12日 17日 27日 39日
40.0℃
37。5℃ 一
35.0℃ 0
32.5℃ 0
30.0℃ ◎
△
□
○
O
□ △ △ △ △ △
◎
◎
O O O O O O
往)◎:100%生存 ○:99∼75%生存 □:74∼25%生存
△:25∼1%生存 一:完全に死滅
36
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
高く、地下20cmでの
35℃以上の積算地温
は、97年はビニール被
表13 太陽熱消毒中の35℃以上の地温の積算時間(hr)
(小林ら、1997、一部改変)
処理
O cm lOcm l5cm 20cm 30cm
覆のみの場合でも73時
トンネル+マルチ(95年)
702
間に達したが、気温が
トンネル+マルチ(96年)
110
135
低かった96年(同
ビニール(96年)
欠測
46
裸地 (96年)
0
欠測
+マルチの二重被覆に
シルバーマルチ(97年)
0
424
419
よっても35℃には達し
裸地(97年)
欠測
24.9℃)ではトンネル
ビニール(97年)
0
0
0
0
0
0
0
257
0
0
0
73
0
0
0
0
なかった(表13)。
病原菌のついた根を
表14 太陽熱消毒のメロンホモプシス根腐病の防除効果
土の中に一定の深さま
(生物検定での発病度) (小林ら、1997)
で埋め込んで太陽熱消
薬剤 O cm lOcm15cm20cm 30cm
処理
毒を行い、防除効果を
トンネル+マルチ(95年)
調べたところ、トンネ
トンネル+マルチ(96年)
ルとマルチの二重被覆
ビニール(96年)
では地下15cmまで消
毒された。ビニール被
裸地
(96年)
覆と薬剤の組み合わせ
では、好天の続いた97
年は、ビニール被覆だ
ビニーノレ (97年)
けでも地下20cmまで
消毒でき、さらにビニ
ール被覆にD−D油剤や
シルバーマルチ(97年)
D−D・メチルイソチオ
シアネート油剤等の薬
裸地(97年)
剤を組み合わせると地
A
B
C
A
B
C
A
B
A
B
A
B
下30cmまで消毒可能
(4)
0
0
15.4
0
0
47.4
0
0
0
0
0
0
0
0
12.1
65.2
55.3
50。0
20.7
28.1
43.3
46.3
0
0
55.4
50.7
71.9
40.8
9.4
4。3
57.6
59.1
46.1
51.6
53.6
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3.4
11.3
1.7
48
15.0
32.0
51.3
84.8
59.8
53.3
83.2
20,8
51。0
50.9
55.9
60.6
66.7
83.5
70.2
56.7
77.1
45.6
76,3
64。1
61。0
60.6
79.0
であった(表14)。
薬剤はA:D−D油剤、B:D−D・メチルイソチオシアネート油剤、
土壌くん蒸剤との費
C:石灰窒素
用面での比較
栽培終了後のトンネ
ル
・マルチの密閉二重被覆による太陽熱土壌消毒では資材費は不要であるが、D−D油剤ある
いはD−D・
メチルイソチオシアネート油剤を併用した場合、あるいは薬剤により消毒を行う
場合は、標準処理量(10a当たり20−30リットル)でそれぞれ3,780∼5,670円および29,860∼
砿790円の農薬代が別途必要となる(2001年ll月現在)。
(中山尊登)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
37
8.土壌還元消毒法による病害防除
1)普及事例
1 技術名:土壌還元消毒法による病害防除
2 作物名:インゲン
3 普及面積:30a
4 具体的内容:
ふすま1t/10aを散布後耕転し、古ビニール等で被覆した後に十分にかん水を行い、ハ
ウスを密閉し約20日間放置する。水を充分入れることで土壌が酸欠状態になることやふすま
が分解する時に発生する有機酸との相乗効果で病害虫(根腐病菌、センチュウ等)を防除す
る。
本法は、従来の太陽熱消毒に比べ、低い地温(30℃以上)で効果が上がるため、天候に左
右されることなく実施できる。また、約3週問で完了することから、気温の高い当地域では
5月∼9月の中で、ハウス内作物の切り換え時に合わせ、いつでも処理が可能である。
問題点としては、還元消毒のメカニズムの解明が不十分である。また、処理後における土
壌の理化学性の変化や効果の持続性についても不明である。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)土壌還元消毒法の原理
土壌還元消毒法の原理は十分には解明されていない。現時点で知られていることは、消毒
したい部分の土壌温度が30℃以上必要(フザリウム菌による病害の場合)であること、土壌
水分を圃場容水量(注1)以上に確保する必要があること、鋤き込む有機物はふすまや米ぬ
か等の分解しやすい未熟有機物の方が効果があること、土壌の酸化還元電位(Eh)が100mV
以下という強い還元状態になると効果が発揮されることである。これらのことから考えられ
ることは、未熟有機物が土壌中で分解する際に、微生物の働きにより酸素が消費され、還元
(酸欠)状態になること、有機物が分解する際に有機酸などの抗菌性物質が発生すること、
各種攻撃に対して強い耐久体であった病原菌が、有機物添加によって活動を開始し、攻撃に
対して弱くなったときにこれら抗菌物質や熱、あるいは拮抗微生物の攻撃にさらされ、これ
らの総合的な作用によって病原菌が死滅するというしくみである。
土壌に高水分条件でブドウ糖を添加すると、抗菌性の高い有機酸である酢酸および酪酸が
発生することが知られており、土壌還元消毒においてもこれら有機酸が病原菌の死滅に関与
する可能性がある。
土壌還元消毒法の圃場での効果が確認されている土壌病害は、フザリウム菌によるネギの
根腐萎凋病であり、試験中のものとしてトマト萎凋病、ホウレンソウ萎凋病(いずれもフザ
リウム病)などがある。
(2)土壌還元消毒法の手順の概略(ネギのハウス栽培での例)
処理手順は、従来の太陽熱土壌消毒によく似ており、以下のとおりである(図24)。
① 圃場に10a当たり1tのふすままたは米ぬかを均一に散布し、トラクターなどで15∼
30cm程度の深さまで耕起し、よく混和する。
38
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
②灌水ムラができないように圃場を平
}%ふすままたは
らにし、灌水チューブを設置する(チ
、, ’・, 米ぬか散布
ューブの設置間隔は広くとも60cm程
(1t/10a)
度まで)。
μ
③ 透明なポリやビニル資材で全面を覆
う。
④被覆下で100∼!50mmの灌水を行
混和
う。灌水量は排水の善し悪しにより調
(15∼20cm深)
節する。
↓
⑤この状態で20日間ハウスを密閉し地
温の上昇を促す。土壌中に十分に水分
がある状態(圃場容水量以上)で地温
o
が30℃以上に上昇すると、土壌の還元
化が進み、7日前後で土壌からドブ臭
がする。この状態になれば20日目には
灌水チューブ
設置と被覆
、∪/
土壌消毒が完了する。
(3)土壌還元消毒法の実施可能時期
土壌還元消毒法は、従来の太陽熱消毒
.きOr醒』し
で開発された技術であり、太陽熱消毒に
比べて比較的低温の時期にも実施でき
る。実施可能時期の目安は、平均気温
、・ 灌水
(100∼150mm)
では地温の確保が難しかった北海道地域
μ
18℃以上で日照時間が4時間/日以上、
あるいは平均気温20℃以上で日照時間が
3時間/日以上とされ、北海道では7月
上旬から9月上旬までの施設栽培で可能
とされる。本州以南では実施可能時期は
かなり広いと考えられる。
(4)土壌還元消毒法の注意点
①初めに圃場が乾きすぎていると、灌
水ムラができる。
妙
20日問
図24 土壌還元消毒法の実施手順
②有機物は分解の進んだ堆肥や鶏糞な
どは利用しない。
③
土壌水分が十分でないと病原菌が却って増殖する恐れがあるので、しっかりと灌水を行
い、 被覆は土壌が乾燥しないように密着させる。
注1)圃場容水量:大量の降雨後または灌水後、自重で下降する水分が落ちた後、土壌に保持
されている水分量。土壌の種類や地下水位などにより異なる。
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況 39
(参考文献)
1.新村昭憲.(2000) 土壌還元消毒法.農業技術体系土壌施肥編5一①、農山漁村文化協
会、畑212の6−212の9.
2.新村昭憲・坂本宣崇.(1999a) ねぎの根腐萎ちょう病菌に対する還元殺菌法.平成10年
度北海道農業研究成果情報、238−239.
3.新村昭憲・坂本宣崇.(1999b).ねぎの根腐萎ちょう病菌に対する還元殺菌法.平成10年
度新しい研究成果一北海道地域一、103−108.
4.岡崎 博.(1985) グルコース添加湛水土壌におけるFロsariαm oxyspo川m f.sp.
raphaη1の死因について(和文摘要付き英文).日植病報、51、264−27L
5.岡崎 博・能勢和夫、(1986) グルコース添加湛水土壌に発現する殺菌作用の原因物質
について(和文摘要付き英文).日植病報、52、384−393.
(竹原利明)
42
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
表17 熱水土壌消毒による雑草防除効果(西ら、1999、一部改変)
雑草本数(本/m2)
熱水注入量
(L/m2)
スベリヒユ メヒシバ ナズナ タデ類 その他
100
70
40
無処理
0
0
合計
O
1.7
l.3
5.7
1.3
0。3
0
1.0
3.0
0.3
26.0
3.0
2,7
2.7
13.7
89,3
47.3
40.3
20.3
18.7
48.0
216。0
処理:5月30日、調査:7月6日
表18
熱水処理ならびにくん蒸剤処理による土壌消毒の
10aあたり経費の比較(北、1999をもとに作成)
単位:円
く ん 蒸 剤 処 理
熱 水 処 理
燃料費(A重油2kL) 5,000 薬剤費
水道代(300L) 65,000 (クロルピクリン30L) 51,000
電気代 5,000
処理装置リース代 50,000
合計 175,000 合計 51,000
3作分経費 3作分経費
(栽培開始前1回処理) 175,000 (毎作前処理) 153,000
前に処理を行う必要があるので、3作分の経費とすれば両者の経費の差は2万2千円となる。
さらに水源を井戸水とした場合は両者の経費は逆転し、これに熱水処理によるガス抜き作業
の労力の削減や、熱水処理が有する除塩効果による作物生育の健全化とそれに伴う増収効果
等を考慮すると、熱水処理は土壌くん蒸剤処理よりも経済的にもはるかに有利と考えられる
(北、1999)。
(中山尊登)
45
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表19 守ロダイコンのキタネグサレセンチュウに対するマリーゴールドの防除効果
(愛知県、平成2年度)
土壌線虫密度(土20g当たり)
回数
ダイコン収穫時
培終了
初期
7日前
深度15cm
深度40cm
守ロダイ
コン根部
被害度
マリーゴールド
0.5
α0
0.0
0.O
0.5
D−D剤単用
1.5
0.0
0.0
l.O
73.0
バイデート粒剤単用
1.O
0.0
0.0
l.0
40.5
D−D・バイデート粒剤併用
I.5
0ρ
0.0
0.5
63.5
注)マリーゴールドは6/26播種9/1鋤込み。D−Dは高濃度D−Dを用い7/25に204/10a
注入鎮圧後水封処理。バイデート粒剤は9/6に30kg/10a作条処理。
守ロダイコンは10/5播種1/6収穫。土壌線虫密度はベールマン法(20g。48hr)による。
表20 主要線虫剤とマリーゴールドの単位面積(10a)当たりの処理費用比較
商 品 名
燃蒸剤D−D
カヤヒューム(臭化メチル)
キルパー
バスァミド微粒剤
クロルピクリン
クロルピクリン錠剤
粒剤 ネマトリン
バイデートL錠剤
ボルテージ粒剤6
対抗 マリーゴールド種子
植物 同上 労賃
最小使用
包装単位 単価(円) 費用(円)
量(/10a)
204
5009
6,762
745
7,450
1,023
500錠
48,675
20kg
25kg
30kg
11,415
14,039
1時間
6,762
3,894
10,790
10kg
P
5kg
404
20kg
204
20召
lkg
400錠
3kg
5kg
3kg
204
1,453
2,283
1,8!6
P
3dl
800
20時間
マリーゴールド計
21,580
28,072
34,782
9,686
18,160
1,500
16,000
17,500
線虫剤の処理労働時間は、処理後マルチ、ガス抜き作業の有無によって異なる。マルチガス抜きは燃
蒸剤で必須だが、粒剤では不要である。
農薬価格はJA土佐香美より聞き取り (1999年) マリーゴールドの経費は神奈川県農総試より聞き取
り(2001年)
害が現れます(表19)。
(4)マリーゴールド処理の費用と労力
マリーゴールドの栽培による線虫防除では種子代の他に育苗、定植、除草などの作業が必
要です。それに要する20時間の労賃も含めるとその費用は10a当たり17,500円と見積もられ
ます(表20)。粒剤型線虫剤の処理では圃場への散布と処理後のロータリー混和だけの作業
で済み、労働時問はわずかですが、最もよく使われているD−D等の燥蒸剤を処理する場合は
灌注作業の他に、処理後のマルチ掛け、マルチはぎ、トラクターなどを用いたガス抜き作業
が必要です。マリーゴールド栽培にはD−D剤の2倍程度の費用がかかりますが、バスアミド
(ダゾメット)やクロルピクリン処理よりは安価に実施できます。
(水久保隆之)
46
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
11.対抗植物(ヘイオーツ)による線虫防除
1)普及事例
1 技術名:対抗植物利用による線虫防除
2 作物名:ダイコン等
3 普及面積:60h a
4 具体的内容:
管内の主要作物であるダイコンのキタネグサレセンチュウ対策として、従来はマリーゴー
ルドが利用されていたが、より省力栽培が可能なものとして、野生エンバク(ヘイオーツ)
を導入した。線虫防除効果を発揮するのに必要な地上部および地下部の生育量を確保するた
め、播種期は3∼4月、すき込みは7月中旬∼8月上旬に行われる。
対抗植物の線虫防除効果により連作が可能になっただけでなく、すき込み量が多く、緑肥
としても効果が高い。しかし、5月中旬以降の播種の場合には生育不十分となり、対抗植物、
緑肥植物としての効果が低下する。
夏期の空畑対策としても利用されている。
近年、雑草種子の混入が問題となっている。
ヘイオーツの場合は、刈り取り後すき込みが行われないとコガネムシ類が増殖し、次作の
ダイコン等が食害をうける場合がある。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)ヘイオーツの植物としての性質と線虫に対する効果
ヘイオーツはエンバクの一種です。エンバクの中で、ヘイオーツだけがネグサレセンチュ
ウ密度を減らす効果があり、これ以外のエンバクはネグサレセンチュウを増やしますから、
導入には注意が必要です(図30)。ヘイオーッはネグサレセンチュウの密度を大幅に減らし
ますが、同じくネグサレセンチュウの防除に用いられるマリーゴールドのような完全な防除
効果はありません(図31)。そのため、ネグサレセンチュウが高密度のときは、後作のダイ
コンに若干の線虫害がでます。また、マリーゴールドにみられるような土壌深層の線虫防除
効果や数年に及ぶ残効もありません。しかし、ヘイオーツには市販のダイコン用播種機を用
100
0bO 80
0う
十1
60
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遡
癌
ー●一一ヘイオーツ
、、●
雛 20
一〇一普通エンバク
、、 、
鄭 40
“
0
播種前
すき込み前
図30 2種エンバク作付後のキタネグサレセンチュウ密度変化の比較
50
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
12.抵抗性品種による病害(イネ縞葉枯病)防除
1)普及事例
1 技術名:抵抗性品種による病害防除
2 作物名:水稲
3 普及面積:240h a
4 具体的内容:
昭和58年の早植栽培における縞葉枯病の発生により、収量が50%以下になる水田も生じた。
そのため常発地域では、農薬の空中散布を3回、普通散布を7回を行うなど徹底した防除を
行ったが、効果が得られなかった。
昭和56年、国内では、「ミネユタカ」に次ぐ縞葉枯病抵抗性品種として「むさしこがね」
(埼玉県育成)が導入された。その後、抵抗性品種は定着し、平成13年の縞葉枯病抵抗性品
種の作付割合は、早植栽培で20%、普通植栽培で60%となっている。縞葉枯病が多発する早
植栽培においては20%が「朝の光」等の縞葉枯病抵抗性となり、この病気によって減収する
ことがなくなった。また、縞葉枯病に抵抗性がない品種(キヌヒカリ、コシヒカリ)も箱施
用剤(オンコルやプリン粒剤など)1回と空中散布1回(アプロード)により、この病気に
よる減収がなくなった。そのため農薬の使用回数も3分の1以下となっている。
問題点としては、縞葉枯抵抗性でコシヒカリ並の良食味の品種がないことである。
2)普及している技術に関連した研究成果
(!)概況
関東地方を中心に1980年代初頭から激発し、大きな被害を及ぼしたイネ縞葉枯病は、高収
益品種である「コシヒカリ」の栽培を困難にし、発生地では良食味品種でないために収益性
が劣る「むさしこがね」等の抵抗性品種の栽培を余儀なくされた。埼玉県においては、水田
面積の約70%において抵抗性品種を栽培せざるを得ない状態が長期にわたって続いた(野田
ら、日植病報57,259−262)。当時の大発生の原因については麦作振興策のために本ウイルス
の媒介虫であるヒメトビウンカの越冬が容易になり、媒介虫の密度が高くなったことが主要
因である可能性が考えられている。本病大流行の沈静化に大きな貢献をしたのはイネ品種
「Modem」に由来するイネ縞葉枯ウイルス抵抗遺伝子St2iを持つ「むさしこがね」等の抵抗
性品種の計画的使用であったと考えられる。本品種の大面積における栽培により、ヒメトビ
ウンカのウイルス保毒虫率の低下を得た。
箱施用剤の効果についてはそれを証明する直接的なデータはないが、本病防除の重要な技
術の一つとして期待される。
(2)研究の現状、二一ズ及び方向性
(a)1980年代のイネ縞葉枯ウイルスの激発を終焉に導いたのは育種及びウイルスの専門家の
共同研究によって育成された抵抗性品種の導入であったと考えられる。ところが、本ウイ
ルスに対する抵抗性遺伝子はパキスタン原産のイネ品種「Modem」由来のSt2iのみであ
る。このため遺伝資源として保存されている世界各地の品種を用いてスクリーニングを行
い、上記とは異なる抵抗性特性を有する遺伝資源を探索することが急務である。
51
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
(b)感染イネの早期診断、媒介虫であるヒメトビウンカ各個体からのウイルス検出のための
血清診断技術およびそれに必要な抗体のモノクローナル抗体法による安価・大量生産技術
は確立されており、予期できない状況が生じない限り現有技術で対応出来るものと思われ
る。
(c)次に、本ウイルス病が大流行する可能性が考えられるのは新農業基本法に基づく穀物生
産の増強、あるいは世界的人口増と干ばつ等による不測の事態が複合的に生じたときに、
穀物の増収手段として我が国において最も現実的である二毛作の奨励によって麦作面積が
拡大する時であると想定される。
(d)このような事態に備えるためには以下の研究が重要であると考えられる。
①現有の抵抗性遺伝子St2iを、良食味品種、高収穫品種、早生品種等に導入するための
研究開発を行い、様々な社会情勢に対応出来るよう準備する。②上記(a)で得られた新たな
遺伝子を実用的品種に導入する。③いもち病等の主要病害にも強いイネ縞葉枯病抵抗性品
種を育成する。④ウイルスー媒介虫一イネの相互間作用に関する研究を進め、相互の親和
性を遮断するための技術開発を行う。⑤薬剤の箱施用の効果について、大発生の初期に組
織立った広範囲での実験を行い、その効果を判定、実用性の可否について明らかにする。
(大村敏博)
52
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
13.抵抗性台木による病害(ナス青枯病)防除
1)普及事例
1 技術名:抵抗性品種(台木)による病害防除
2 作物名:ナス
3 普及面積:2h a
4 具体的内容1
ナスの土壌病害である青枯病防除のため、抵抗性台木である「トルバム・ビガー」、「トレ
ロ」、「トナシム」等を利用した接ぎ木栽培を行っている。
抵抗性台木の利用によって青枯病発生面積は減少したが、抵抗性台木のみでは青枯病の発生
を完全に回避することができないので、施肥法や排水等も考慮した総合的防除が必要である。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)ナス青枯病とは
青枯病菌(Rals亡oηfa solaηasearロm)により引き起こされる土壌伝染性病害であり、病原
細菌は土壌中で3年以上生存し、主として傷口、特に根から侵入後、茎の導管内で増殖して、
水分の上昇を妨げるため、病株は急激にしおれる。土壌湿度の高いときや排水の悪い土地あ
るいは窒素肥料を偏用した場合に発生しやすく、また、中性の土壌で発生しやすい。
発病後は的確な防除法がないので、耕種的な方法を中心に組み合わせた対策が必要である。
具体的には以下のような方法がある。
① 床土は無病土や殺菌土などの病原菌のいない土壌を用いる。
②発病地では3年以上の他作物との輪作を行う。
③滞水により発病し易いため、栽培床は高畝栽培として排水を良くする。
④腐熟した堆肥を十分に施す。
⑤定植の際、根を傷つけないようにする。
⑥抵抗性台木(トルバム・ビガー、トレロなど)を用いた接木苗を利用する。
⑦ クロルピクリンくん蒸剤、臭化メチル剤およびダゾメット粉粒剤等の土壌くん蒸剤や太
陽熱による床土および本圃の土壌消毒を行う。
(2)抵抗性台木の選択と利用
ナス青枯病菌にはナス属植物に対する抵抗性の違いから1∼Vまでの5つの菌群の存在が
知られ、「トルバム・ビガー」、「トレロ」、「カレヘン」は1、H、皿、V群菌に対しては抵
抗性を示すが、IV群菌に対しては抵抗性が低い。現在、IV群菌に対して抵抗性のある台木品
種として「台太郎」がある。台木の抵抗性には「トルバム・ビガー」、「トレロ」等の真性抵
抗性をもつと考えられるものと、「カレヘン」のように圃場抵抗性とみられるものがある。
ナスの抵抗性台木を選定する場合、圃場の青枯病菌の系統分布が明らかな場合は真性抵抗性
を有する台木を選定した方がよいと考えられ、また、系統分布が明らかでない場合は、抵抗
性の程度は低くても圃場抵抗性を持った台木を選定せざるを得ない。しかし、どの様な抵抗
性台木でも過度の高温や多湿条件下ではかなり発病することが知られているため、薬剤や太
陽熱による土壌消毒の併用が必須である。 (仲川晃生)
梅川學ら1環境保全型農業技術の普及状況
53
14.防虫ネットによるトマトの害虫防除
1)普及事例
! 技術名:防虫ネットによる害虫防除
2 作物名:トマト
3 普及面積:45a(農家数8戸)
4 具体的内容:
施設栽培農家が一地域に集中しているところでは、ミカンキイロアザミウマによる
TSWVやオンシツコナジラミ、マメハモグリバエの局地的被害が多発する。施設トマトの
難防除害虫であるミカンキイロアザミウマ、オンシツコナジラミ、マメハモグリバエを防除
するのに防虫ネットが普及している。
化学合成農薬と天敵の防除効果を高めるため、害虫の密度が高まる夏秋期の育苗期から本
圃生育初期に施設の開口部に防虫ネット(ダイオミラー410MEまたはサンサンネット〉を
展張することで、害虫の侵入が抑制されて、施設内の害虫の発生密度の低減が図れた。
本法と天敵昆虫(エンストリップ、マイネックス)を複合処理した試験ほ場では、育苗期
の殺虫剤散布回数は近隣農家(8戸)の慣行防除が平均4,3回に対し0回、本圃定植後2ヶ
月間の殺虫剤散布回数は近隣慣行が5。0回に対し1回となり、大幅な減農薬と省力化の成果
を得ている。
本法は、低コスト技術であり安定した効果が得られる等のメリットがあり、比較的簡単に
取り組める技術である。
施設内でも出入り口等の開放部で害虫の発生密度が高く、二重被覆等の工夫が必要である。
また、通気性のあるネットを使用しているが、気温上昇と遮光により生育が徒長気味となる
ので、栽培管理に注意が必要である。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)防虫ネットの効果
防虫ネットの原理は家庭の網戸と同じであり、施設栽培の開口部(出入り口、側面、天窓
など)を対象害虫のサイズより小さな目合のネットで被覆し、害虫の侵入を物理的に阻止す
るものである。
防虫ネット(サンサンネット)の使用例(ハウス側面開口部)を図34に示した。
(2)防虫ネットの種類とトマト害虫に対する防除効果
(a)果菜類に対するマメハモグリバエ侵入防止効果
特殊アルミ蒸着糸を用いた遮光網:商品名ダイオミラー410(遮光率約30%)と610(遮
光率約45%)を白、黄、赤、青、緑、黒に着色して成虫の侵入抑制効果を検討したところ、
青色に着色したものが最も効果的で、次いで無着色(銀白色)であった(表23)。
上記の結果から、ダイオミラー410を青色に着色してハウス側面に展張したところ、無
展張の施設より幼虫の食害葉率が1/4程度軽減できた(表24)。しかも、ハウス内の気温上
昇は本資材を展張しない場合とほぼ同程度であった。
約1mm目の白色寒冷紗(商品名クラクール)を被覆した施設としない施設で本種の侵
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
55
表25 クラクール展張施設内外での成虫誘殺数(千葉農試、1996)
調査月日
8.1 18 25 9。1 9 16 22 29
展張区 0.1
0.2 0.3 0.3 6.0 48 3.6
対照区 一 2.0
2.0 1。0 8.0 2.4 5.2 2,6
露地(展張側) 8 5
露地(対照側) 8 4
71030!022728
51035471321
設置区、対照区はトラップ1枚あたり、露地はトラップ2枚の合計。8
月24日より被覆資材展張部分より上位部分を開放。
6、
團カンレイシャ区
團慣行区
回野外
頭
数
慣行区
カンレイシャ区
。H9§岩§
一
図35 成虫誘殺数(1トラップ当たり)(JA富里、1995)
(b)ミニトマトに対するマメハモグリバエ侵入防止効果
ダイオミラー410(遮光率30%)でハウス開口部を被覆することにより、慣行の無被覆
ハウスに較べてマメハモグリバエ成虫の侵入個体数(図35)および幼虫の食害葉率をとも
に約1/4程度に抑えることができた。
ハウス内の温湿度に関しては、試験区の被覆ハウス内の最高・最低気温が1℃程度上昇
したが、湿度条件には大きな差異はなかった。
被覆がトマトの生育に及ぼす影響は、ハウスの照度が若干低下するが、植物体の葉数、
茎径、草丈などにほとんど差がなく、徒長している様子は見られなかった。
(3)設置に必要な費用
遮光網:ダイオミラー410ME 2m×50m@ca¥15,000。
(参考文献)
1.上遠野冨士夫・河名利幸.(1996) 被覆資材によるマメハモグリバエ成虫の侵入抑制.
平成7年度関東東海農業研究成果情報(生産環境・畜産一草地)、45−46.
2.JA富里(千葉県).(1995) 抑制トマト栽培におけるマメハモグリバエの物理的防除技
術の検討.[資料提供:ダイオ化成]
(資料収集:守屋成一)
56
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.ll)
15.防虫ネットによるコマツナ等の害虫防除
1)普及事例
1 技術名1防虫ネットによる害虫防除
2 作物名:コマツナ、ホウレンソウ、カブ
3 普及面積:年間のべ1340a(農家数6戸)
4 具体的内容:
コナガ等、害虫の発生する時期の栽培には被覆資材(サンサンネット)をトンネル掛けす
ることにより、殺虫剤散布を行わない栽培を実現している。
また、堆肥や有機質肥料の施用により、減化学肥料にも取り組んでいる。
これまでも減化学農薬、減化学肥料に取り組んできており、今後は「持続性の高い農業生
産方式の導入の促進に関する法律」に基づくエコファーマー認定も検討中である。
問題点としては、市販の種子の場合、すでに化学農薬による種子消毒が行われているため、
エコファーマーになるには、これまで使用してきた「無農薬小松菜グループ」という名称を
変更しなくてはならないかもしれない懸念がある。
なお、減農薬を銘打った団体でなくとも、コマツナは登録農薬が少ないため、被覆栽培に
より減農薬を心がけている軟弱野菜生産者は市内に多く存在している。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)被覆資材の特性と防除効果
全開放型ハウスでの夏期軟弱野菜の連続栽培では、栽培初期の2作については、無農薬栽
培が可能であるが、その後、急速なキスジノミハムシの増加に伴い、コマツナにおいては、
収穫皆無な状況となる。そのため、ハウス内でのトンネル栽培を実施したところ、目合1
mmの防虫ネットでは、防虫効果はなく、目合0.6mmの防虫ネットで、防虫効果があること
が判明した。また、全開放型ハウスでは、収穫した作物はやや軟弱傾向にあるが、商品価値
を損なうほどのものではないとともに、トンネル被覆を行っても、商品価値が低下するには
至らなかった。しかし、キスジノミハムシが産卵を行った土壌で防虫ネットのトンネル栽培
をすると、トンネル内で艀化および羽化が行われ、食害を防ぐことが不可能であった。
目合0.6mmの防虫ネットをトンネル被覆することにより、より安定した害虫防除効果を発
揮するが、ハダニ、アザミウマによる食害が増加する傾向が見られ、その対策を検討する必
要がある。なお、防虫ネットをトンネル被覆した栽培では、葉色向上を図るために収穫3∼
5日前に防虫ネットを除去することは、あまり葉色向上が期待できず、むしろ害虫の食害増
加を招く傾向が見られ、収穫直前まで被覆を継続することが望ましいと考えられた。
(2)チンゲンサイの害虫防除に対する被覆資材の効果的な利用法
トンネル被覆する資材は、目合いが細かいほどキスジノミハムシ等の被害を軽減すること
ができる(表26)。被覆資材に接するチンゲンサイの面積が大きいほど、コナガの幼虫およ
び踊の発見株率、被害株率が高い(表27)。資材の裾を土で埋めて密閉、固定することによ
って、害虫の食害は軽減される(表28)。
以上の結果から、目合い0.8mmの資材を作物に接触しないように被覆し、裾を埋めて固定、
密閉することで高い虫害防除効果が得られる。
57
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表26被覆資材の目合いと作期別キスジノミハムシ等の虫害抑制
(埼玉県園試鶴ヶ島支場、1998)
6/27播種
試験区(被覆資材)
10/6播種
キスジその他 キスジその他 キスジその他
9.2
6%
2.7
8%
0.O
6.5
5
0.0
5
l6.4
5
0.3
1
目合い
0.4mm(ダイオPX50)
〃
0.4
(ライトロンネットT−3037)
〃
0,6
(ダイオN−3230)
〃
0.8
(ライトロンネット丁一3025)
23.5
〃
0.95
(透明寒冷しゃF1000)
60.7
13
〃
1。04
(白寒冷しゃ#300)
44ユ
20
無 被
覆
98.2
69
※キスジー
8/7播種
5
26%
50.0
12
3.6
17
91.3
40
12.0
33
76.8
52
15.2
18
94.1
26
45.8
100
・キスジノミハムシによる収穫期の被害度
Σ(被害程度×程度別被害株数)/(4×調査株数)×100により算出。被害程度は、5
段階(無…0、少…1、中…2、多…3、甚…4とした)
その他・・
・キスジノミハムシ以外の食害株率
表27 被覆資材とチンゲンサイの接触が
被害抑制効果に及ぼす影響
表28被覆資材の裾の密閉とチンゲンサイ
の食害(埼玉県園試鶴ヶ島支場、1998)
(埼玉県園試鶴ヶ島支場、1998)
接触
発見
被害
株率(%)
株率(%)
キスジノ キスジノミ
密閉方法 ミハムシ ハムシ以外
被害度 被害株率(%)
I
H
0
2
①
2.l
39
54
58
②
l4.6
83
皿
73
77
注)I
H
皿
被覆資材と作物の接触なし
トンネル側面のみで接触
トンネル上面、側面で接触
注)①被覆資材の裾に土をかけ埋めた場合
②被覆資材の裾を埋めず、べたがけ固定具で1
m間隔に被覆資材を固定した場合
(参考文献)
1.埼玉県農林総合研究センター園芸支所 (1999) 平成11年度園芸試験成績書.
2.埼玉県園芸試験場鶴ヶ島洪積畑支場.(1998)
葉根菜類の多発病害虫防除技術の開発.
(資料収集:守屋成一)
58
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
16.選択性殺虫剤を利用したナスの減農薬栽培
1)普及事例
1 技術名:選択制殺虫剤を利用した減農薬栽培
2 作物名:ナス
3 普及面積:1.3h a (農家数14戸)
4 具体的内容:
栽培期聞を通して天敵に影響が少ない殺虫剤を使用し、土着天敵等の温存、増殖を促して
いる。
鱗翅目害虫の発生予察による防除適期指導により、被害を経済的被害水準以下に維持して
いるQ
以上により、従来は一週間に一度の殺虫剤散布回数が必要であったものが約50%削減され
た。薬剤散布回数の削減により、環境負荷が低減されるとともに、病害虫防除が省力化され
た。
栽培者独自の判断による薬剤散布を行わないよう、農協職員、普及センター職員による巡
回調査を行い、害虫の発生をチェックしている。
栽培者個々で防除適期を判断できるよう要防除水準を整備する必要がある。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)露地ナスの土着天敵の効果
土着天敵は地域や季節によって多少異なるが、山梨県の露地ナスでは、アブラムシ類、ミ
ナミキイロアザミウマ、ハスモンヨトウ、オオタバコガ等が主要害虫である。他の地域では
ニジュウヤホシテントウも重要害虫である。これらの害虫に対してヒメハナカメムシ類とク
モ類が主要な土着天敵となっている。特にヒメハナカメムシ類はアザミウマ類の重要な土着
天敵であることが知られている。
我が国土着のヒメハナカメムシ類としては、主要種としてナミヒメハナカメムシOriαs
sa漉eが(Poppius)、タイリクヒメハナカメムシOrfロss亡Tfμco1万s(Poppius)、コヒメハナカ
メムシ0τfロs mfηα加s(L。)、ミナミヒメハナカメムシOrfαs亡a撹f11ロs(Motschulsky)及びッ
ヤヒメハナカメムシOrfロs naga1/Yasunagaの5種が報告されている。
ヒメハナカメムシ類は、吸汁性捕食性天敵であり、長い口吻を餌の昆虫や卵に突き刺して
体液を吸収する。幼虫、成虫のあらゆるステージが捕食でき、幼虫期は発育が進むにつれ捕
食能力は高くなる。ヒメハナカメムシ類は広食性の天敵であり、アザミウマ類、アブラムシ
類だけではなく、ハダニ類や各種チョウ目昆虫の卵を餌として利用している。ヒメハナカメ
ムシ類は生息場所も多様で、畑作物、野菜、花類、果樹、雑草にまで見られる。ナミヒメハ
ナカメムシは、初夏から秋までナス、ジャガイモ、ピーマン、クローバーやキクなどで見ら
れるが、冬はリンゴのような果樹園で越冬しているのが観察されている。我が国の主要土着
種のうち、ツヤヒメハナカメムシの生息場所は水田およびイネ科雑草、ミナミヒメハナカメ
ムシはイネ科雑草であるが、他種はナミヒメハナカメムシと混在していることが多い。
岡山県立農業試験場において、ナミヒメハナカメムシが露地ナスのミナミキイロアザミウ
59
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
マの土着有力天敵であることが証明され、さらに選択性殺虫剤とナミヒメハナカメムシの効
果を利用した総合防除体系が考案された。岡山県下で露地ナスのミナミキイロアザミウマの
捕食性天敵としてはミチノクカブリダニ、タカラダニ、ナミヒメハナカメムシ、ヒメカメノ
コテントウなどが発見されたが、ナミヒメハナカメムシが最も頻繁に捕食行動が観察された。
ナミヒメハナカメムシの効果の評価は、本種に有効で、ミナミキイロアザミウマに効果の
少ない殺虫剤PAPやNACを用いて行われた。網室内のポット植えナスにミナミキイロアザ
ミウマとナミヒメハナカメムシを放飼した後PAPを散布すると、無散布に比ベミナミキイロ
ァザミウマの密度は著しく高まった。ケージ内のミナミキイロアザミウマが多発しているポ
ット植えナスに、ナミヒメハナカメムシを放飼すると、13日後にアザミウマはほとんど絶滅
した。ナミヒメハナカメムシは、露地ナスの有力な捕食性天敵であり、餌であるアザミウマ
類の発生消長と同調して、7月および9月に発生のピークが見られた。7月はダイズアザミ
ウマ、9月においてはミナミキイロアザミウマが主要種であった。PAPを7∼16日間隔で継
続的に散布した天敵除去区では、無
散布区に比べ、7月のピークは見ら
↓ ↓↓↓↓↓ ↓↓↓↓
れず、9月のピーク時のアザミウマ
A
全成幼虫密度は無散布区の4倍とな
、 軍
った。7月のピークはダイズアザミ
ウマが優占種であったため薬剤で防
B
0.8
除されたが、9月はミナミキイロア
0.6
ザミウマに薬剤散布が有効ではな
株
たためリサージェンスが起こったと
考えられる(図36)。また、選択性
当
0。2
た
殺虫剤ピリプロキシフェンがミナミ
り o
キイロアザミウマの踊に殺虫効果を
密 5
ロ
度 120
示し、ナミヒメハナカメムシの卵、
/、棚
く、ナミヒメハナカメムシが減少し
0.4
c 臥抽々:←、
幼虫、成虫いずれのステージの生存、
成虫の産卵にほとんど影響しないこ
100
D ll
11
8旦
昌
11
一巳
無 3N
,8
とが確認された。さらにナミヒメハ
差、杁
80
『
ナカメムシに対する各種薬剤の影響
に利用できナミヒメハナカメムシに
60
40
影響の少ない薬剤が選抜された。こ
れらの知見に基づいて、ミナミキイ
ロアザミウマには土着のナミヒメハ
、
ノ
20
、、
評価に基づき、ナスの主要害虫防除
’
げ
ノ’申
庵一う
、
転矢
ナカメムシとピリプロキシフェンの
6月 7月 8月 9月 10月
併用、ニジュウヤホシテントウには
図36 PAP散布区(白丸)と無散布区(黒丸)の
ナス畑におけるナミヒメハナカメムシ成虫
やはり選択性殺虫剤のブプロフェジ
ンを散布する総合防除区と慣行防除
区と比較したところ、ミナミキイロ
(A)、幼虫(B)、ミナミキイロアザミウマ成虫
(C)、幼虫(D)の密度変動(永井、1990)
矢印はPAPの散布を示す。
60
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
アザミウマによる被害は同程度に抑えられた。
(2)ナス害虫の土着有力天敵ヒメハナカメムシ類と併用できる選択性殺虫剤
土着のヒメハナカメムシ類の中で、ナミヒメハナカメムシとタイリクヒメハナカメムシは
すでに国内で農薬登録され、海外では別種のヒメハナカメムシ類が実用化されている。これ
らのヒメハナカメムシ類に対する各種薬剤の影響が評価され、影響の少ない選択性薬剤が確
認されている。表29にナスの害虫防除に登録があり、ヒメハナカメムシ類に影響の少ない選
択性殺虫剤を示した。アブラムシ類、ハスモンヨトウ、オオタバコガ等の主要害虫に対して
ヒメハナカメムシ類に影響の少ない選択性殺虫剤が利用でき、土着のヒメハナカメムシを温
存することによりアザミウマ類の防除が可能となることが予測できる。山梨県における減農
薬の試験区では、アブラムシ類にイミダクロプリド粒剤、ハスモンヨトウとオオタバコガに
はBT剤、ハダニにはフェンピロキシメート水和剤等のヒメハナカメムシ類に影響の少ない
選択性殺虫剤が利用されている。
(3)性フェロモン剤によるオオタバコガとハスモンヨトウの発生調査
露地ナスの重要害虫であるオオタバコガとハスモンヨトウの発生調査には、両種の合成フ
ェロモン製剤が利用できる。製剤は合成性フェロモンをゴムキャップに含浸させたもので、
図37に示す粘着トラップや乾式トラップに取り付けて、性フェロモンの効力により雄の蛾を
誘殺する。これらの発生調査用のフェロモン製剤やトラップは市販されている。フェロモン
トラップヘの誘殺数は野外における成虫の個体数とは必ずしも比例しない。また産卵から幼
虫期に被害をもたらす以前の死亡の影響も受けるため、誘殺数から被害量の予測をするのは
容易ではない。しかし、害虫の初発生や新たな発生地域の確認には有効である。発生時期の
予測に利用するには、雄のトラップヘの捕獲と幼虫の発生までに時問の遅れがあることに留
意しなければならない。またトラップの捕獲効率はトラップの構造や設置場所に依存するの
で、同じ場所で同じ構造のトラップを設置して継続調査することが発生調査には重要である。
性フェロモントラップは種特異性が高く、軽量で、性フェロモン剤も頻繁に交換する必要が
表29 ナスに登録のあるヒメハナカメムシ類に影響の少ない選択性殺虫剤
薬剤名
対象害虫
ヒメハナカメムシ類
幼虫 成虫
酸化フェンブタスズ水和剤 ハダニ類、チャノホコリダニ
除虫菊乳剤 アブラムシ類、アザミウマ類
テフルベンズロン乳剤 ハスモンヨトウ、タバココナジラミ
○
○
◎
◎
×
×
デンプン液剤 ハダニ類
◎
◎
ピメトロジン水和剤 アブラムシ類、オンシツコナジラミ
ピリプロキシフェン乳剤 コナジラミ類、ミナミキイロアザミウマ
ピリミカーブ水和剤 アブラムシ類
フェニソブロモレート乳剤 ハダニ類、チャノホコリダニ
フェンピロキシメート水和剤 ハダニ類
ブプロフェジン水和剤 コナジラミ類
ヘキシチアゾクス水和剤 ハダニ類
ルフェヌロン乳剤 オオタバコガ
BT水和剤 ハスモンヨトウ、オオタバコガ
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
O
O
注)天敵に対する影響は室内試験で、◎:死亡率0∼30%、O:30∼80%、△:80−99%、×:99∼100%
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
61
1
(a)武田式粘着トラップ
(b)ウイングトラップ、フェロコン1Cトラップ
● o 隻
(c)SEトラップ (d)ニトルアー
(シバツトガ用)
t._.禰・_.1
, ・’ 篭1亀、
’ ∼\
(e)デルタトラップ (f)フェロディンSL用トラップ
図37 発生調査用の性フェロモントラップの形状(日本植物防疫協会、1993)
ないので、発生調査法としては簡便さ効率的である。
(参考文献)
1.永井一哉.(1993) ミナミキイロアザミウマ個体群の総合的管理に関する研究.岡山農
試臨時報告、82、1−55.
2.永井一哉.(1994) ミナミキイロアザミウマーおもしろ生態とかしこい防ぎ方一.農山
漁村文化協会、東京、ll3p.
3.日本植物防疫協会.(1993) 性フェロモン剤等使用の手引.日本植物防疫協会、東京、
86P.
(矢野栄二)
62
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
17.光質利用による害虫(オオタバコガ、ハスモンヨトウ、
シロイチモジヨトウ)防除
1)普及事例
1 技術名:光質利用による害虫防除
2 作物名:ピーマン
3 普及面積:2.O h a
4 具体的内容:
黄色蛍光灯によるタバコガ、オオタバコガ類の侵入防止と行動抑制(ハウス周囲に侵入防
止ネットを展張)を実施している。点燈は6月中・下旬∼10月中旬の夕方ん日の出まで行っ
ている。
この方法により、薬剤では防除困難なタバコガ類が防除でき、低農薬化が可能となった。
今後の間題点としては、ハウス内に侵入してしまったタバコガ等(行動抑制はできるが)
による食害防止対策(現場ではハウス内にフェロモントラップを設置)がある。
また、設置コストが高い(10a当たり25万円)。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)光による害虫防除
夜間に照明を用いて害虫を防除する技術は、最初はナシやモモなどの果実を加害する吸蛾
類(アケビコノハ、アカエグリバ、ヒメエグリバなど)の被害を防ぐために実用化されたが、
近年になってトマト、ナス、イチゴ、カーネーション、バラなど、主に施設で栽培される野
菜や花きを加害するヤガ類に対しても効果があることが確認され、現在利用範囲がさらに広
がりつつある。
防除に使用される光源は、580ナノメートル付近に分光ピークをもつ純黄色カラード蛍光
ランプであり、これを一般的に黄色蛍光灯または防蛾灯と呼んいる。
(2)黄色蛍光灯の働き
花きや野菜の害虫となるヤガ類では、成虫の複眼は昼間は明適応し、夜間は暗適応してい
る。明適応しているときには活動が抑制されているのに対し、暗適応時には飛翔、摂食、交
尾、産卵などの行動が活発になる。
夜間に黄色蛍光灯を点灯すると、ヤガ類の複眼は強制的に明適応化され、その活動は抑制
されてしまう。その結果、圃場へ飛来して産卵を行う雌成虫は減少し、次世代幼虫による被
害が抑えられることになる。
なお、黄色蛍光灯は、誘蛾灯などとは違って、ヤガ類を誘引する効果をもたない光源であ
る。
(3)黄色蛍光灯の使用法
温室やビニールハウスなどの施設でのヤガ類の防除には、透明シリンダー付黄色蛍光灯を
水平点灯して用いるのが普通である。日没前から日の出まで夜通し点灯するが、そのための
点灯時間の制御はタイマーで行う。
ヤガ類の活動を抑制するには施設内の照度をある程度以上の値に維持しなければならない
63
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
が、そのような最低照度は1ルクス
4
であると考えられている。この最低
照度を確保するための黄色蛍光灯の
設置台数は、施設の大きさや設置す
る高さによって違ってくるが、10a
当たり10∼14台くらい必要であると
されている。
→}’無点灯
+黄色灯
被3
害
花
蕾2
率
%1
例えば、兵庫県立淡路農業技術セ
ンターによるカーネーションのオオ
0
タバコガ、ハスモンヨトウ、シロイ
8.31
9。14 9.28 10.14 11.01
月 日
チモジヨトウの防除試験において
は、約280平方メートル(37.Om×
図38
オオタバコガによる被害の推移
(田中・八瀬、1999)
7.5m)の温室の中央部に、40W黄
色蛍光灯を取り付け高さ3.1メート
ル、約8∼9メートル間隔で4台設
40
置している(田中・八瀬、1999)。
この試験では、黄色蛍光灯を点灯さ
せることにより、オオタバコガによ
→}無点灯
被30
害
る被害花蕾率、ハスモンヨトウとシ
茎20
ロイチモジヨトウによる被害茎率が
率
無点灯の温室に較べて極めて低く抑
えられた(図38、図39)。
+黄色灯
%
)10
(4)黄色蛍光灯使用上の留意点
0
①黄色蛍光灯による防除は、ヤガ
8.31 9.14 9.28 10.14 11.01
類の幼虫による被害が発生してから
月 日
では手遅れなので、被害発生前から
図39 ハスモンヨトウ・シロイチモジヨトウに
よる被害の推移(田中・八瀬、1999)
点灯する必要がある。
②黄色蛍光灯は長期問使用し続け
ると徐々に光出力が低下してくることを見込んで、初めて設置するときには高い照度に設定
しておく必要がある。また、照明器具と同様で、使用しない時は取り外して保管すると寿命
は長くなる。
③黄色蛍光灯の点灯時間の制御をタイマーで行う場合、日の出、日の入りの時刻は季節と
ともに徐々に変化するので、それに合わせてタイマーの時刻設定を変える必要がある。また、
暗くなったら自動的に点灯するように働くデイライトスイッチを使用する場合は、点灯開始
と終了が適切に行われているかをチェックしておかなければならない。
④黄色蛍光灯は、電気設備技術基準等に基づいて設置しなければならないので、その取り
付けは専門の電気工事店に頼む必要がある。
⑤黄色蛍光灯は、ヤガ類に対する活動抑制効果だけではなく、植物の生育に対しても大き
な影響を及ぼすことがあるので注意が必要である。特に、対象植物や周囲の植物が顕著な日
長反応を示す場合には、悪い影響を及ぼさないかどうかを事前に確認しておかなければなら
64
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(200211)
ない。
(参考文献)
1.向阪信一.
(1999) 黄色蛍光灯とその利用法.今月の農業、43(8)、21−25.
2.田中尚智・
八瀬順也.(1999) 黄色灯利用による害虫の行動制御.今月の農業、43(8)、
26−30.
3.那波邦彦.
(1999) 黄色灯の利用の歴史と展望.今月の農業、43(8)、16−20.
(宮井俊一)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
65
第2節 化学肥料低減技術
1.有機質資源(家畜ふん堆肥)の活用による化学肥料の低減
1)普及事例
1 技術名:有機質資源の活用による化学肥料の低減
2 作物名:水稲
3 普及面積:約700h a
4 具体的内容:
村内で供給される家畜ふん尿(牛ふん、鶏ふん、牛尿)と籾殻を原料に堆肥を作り、秋ま
たは春に、10アール当たり1m3(500kg)をマニュアスプレッターで水田に散布する。本田
での基肥、穂肥についても有機100%の肥料を使用している。
目標単収を慣行より30kg少ない510kgとして栽培指針を作成。集落毎に団地化し、育苗・
穂肥時には指導会を開催して技術の平準化を図っている。
村内有機資源の活用による循環型農業が確立され、好イメージが定着し、交流の拡大が図
られた。また、消費者二一ズに合った高付加価値化により、安定した販売先(首都圏生協)
が確保され、高値販売により農家手取りの増加につながっている。
一方、取り組みの拡大により堆肥散布面積が大幅に増加し、原料の籾殻が不足して村外遠
隔地から運搬するなど、原材料の確保に苦労している。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)家畜ふん尿と籾殻を用いた堆肥化
籾殻は形状・大きさがほぼ一定で、リグニンやケイ酸を多く含み構造が堅固であるため、
内部の大きな空隙を長期間維持する。しかし、そのままでは擾水性が高く水分吸収能が小さ
いため、破砕処理を施して吸水能を高め、畜舎の敷き料や堆肥化における水分調整材として
利用される(図40)。
混合・水分調整・堆積・切返し
・混合比率(重量比の目安)
牛ふん尿:籾殻>1:1
豚ふん尿:籾殻=1∼2
・腐熟期間(堆積法、籾殻の前処理の影響大)
(例)敷料利用籾殻、堆積規模lt以上で
*:現物のままでは吸水能が低く、
粉砕、加圧膨軟化が有効。
吸水能が改善されれば、敷料
利用の拡大が期待される。
90∼120日
(例)粉砕籾殻+液状きゅう肥、7日ご≧
の切返しで、約20日で腐熟完了の
例有
図40 家畜ふん尿と籾殻を用いた堆肥化の手順
66
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
表30 原材料及び製品化された籾殻牛ふん堆肥の成分例
(2)籾殻堆肥の成分特性
籾殻は硬い構造を持
っているため、他の副
資材を用いた家畜ふん
水分全炭素全窒素炭素率 カリ 石灰 苦土
有機物名
(%) (%) (%) (C/N)
解や窒素などの肥料的
籾殻牛ふん堆肥
生牛ふん
籾殻
効果の出方は遅いが、
*測定せず
堆肥よりも圃場での分
39,2 * 2.51
(%) (%) (%)
* 1.77 3.50 1.71
85.5 36,7 2.41
15.2 α78 1.74 α56
12.1 34,5 0.38
90.8 0.31 0.08 0.01
(山岸ら、1981)
土壌の通気性・排水性
を高める効果は大きいといわれる。原料籾殻の肥料成分含有率の変動の幅は、稲わらなどに
比べて小さいが、混合する家畜ふんの種類や量、堆肥化方法が多様なため、実際の製品の成
分特性には大きな違いがある。表30に一例を示した。
(3)堆肥を水田に利用する場合の利点と問題点
農林水産省が都道府県の試験研究機関の協力を得て実施した「土壌環境基礎調査事業」に
よれば、有機物連用試験区(化学肥料に加えてイネわら5t/haまたはイネわら堆肥10t/haを
施用)では、標準的な化学肥料施用区に比べて、土壌の団粒化促進や土壌が柔らかくなる効
果とともに、窒素、炭素、その他の可給態養分量の増加が認めらた。また、土壌の種類によ
り程度が異なるものの、水稲収量も概ね増大傾向であった。このように、堆肥の適量施用は
地力の維持増進に有効である。しかし、水稲は倒伏や収量・品質低下など窒素の過剰障害が
出やすい作物であるのに対して、堆肥の窒素成分の量と質はバラツキが大きく、水稲生育の
どの時期にどれだけの量が吸収されるのかを正確に予測することが難しい。そのため、窒素
含有率の高い堆肥を利用する場合は、併用する化学肥料の削減など、過剰施用とならないよ
う注意が必要である。また、半湿田では乾田における施用量の半量以下を目安とし、湿田で
は極少量あるいは施用しない方が無難な場合がある。
(4)堆肥と有機質肥料の関係
堆肥とは、各種の有機物質を好気的条件(酸素供給の充分な条件)で分解させ、成分的に
安定化し施用に適する性状にしたものをいう。かつては、わら、落ち葉、野草などを堆積し
分解させたものを「堆肥」、家畜排せつ物を主原料とするものを「きゅう肥」と呼んで区別
していたが、現在では様々な有機質資材が原料として用いられるようになり、堆肥化処理を
したものは原料の如何によら
ず「堆肥」と呼ぶことが多い。
堆肥
土壌の団粒形成、排水性・通
気性、保肥力、pH緩衝能な
どの土壌改良効果と肥料的効
牛糞堆肥
果のバランスに応じて、「土
少←一一一一肥料分一→多
づくり的堆肥」や「有機質肥
料的堆肥」のように区分され
る(図41参照)。
有機質肥料とは、堆肥化の
有無に関わらず、有機物質を
原料とし、作物に肥料的効果
土づくり的堆肥←一一一一一一→有機質肥料的堆肥
図41 土づくり的堆肥と有機質肥料的堆肥(原図=安西)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
67
を示すものをいい、生わら、堆肥等のような土壌改良が主目的の有機物質も広義に有機質肥
料に含めることがある。
肥料の製造・販売を規定する肥料取締法においては、有機質肥料は、「普通肥料」のうち
の「動植物肥料」に位置づけられ、窒素・リン酸・カリについて登録肥料ごとに公定規格が
定められている。現在、42種類の肥料があり、一般に3要素のいずれかを1%以上含むもの
が多い。一方、多くの堆肥は、「特殊肥料」に分類され(「おでい堆肥」は「普通肥料」に分
類される)、肥料成分濃度の公定規格の設定はないが、その含有率の表示が義務づけられて
いる。
(木村 武)
68
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
2.有機質資源(ぼかし肥)の活用による化学肥料の低減
1)普及事例
1 技術名:有機質資源の活用による化学肥料の低減
2 作物名:トマト
3 普及面積:5.5h a
4 具体的内容:
当産地では、毎年基肥の投入量が多すぎるため、過剰な初期生育が問題となっていた。ま
た、連作による土壌病害の発生が問題となっており、土づくりを重視した施肥方法への改善
が求められていた。
このため、平成13年度から海藻を主成分としたぼかしの基を購入し、トマト生産者自らが
ぼかし肥料を製造することにより、土づくりに主体的に取り組むこととなった。1月下旬か
ら仕込みを開始し、1次発酵した牛糞堆肥20トンにぼかしの基10トン、鶏糞2トン、水10ト
ンを加え、約70日間かけてぼかし堆肥を製造した。できあがったぼかし堆肥は約25tになり、
基肥替わりに10a当たり400kgをほ場へ投入した。
この結果、今まで基肥に窒素成分で8∼10kgの化学肥料を投入していたものを、0∼4
kgまで削減することができた。また、土壌中の窒素成分を抑えることで、生育初期に十分
なかん水を行えるようになった。
しかし、10a当たり4万円の費用がかかり、化学肥料に比べ33∼37千円程度、生産者の負
担が増加した。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)ぼかし肥とその製造法
油粕、魚粉、骨粉などの有機質肥料を直接土壌へ施用して直ぐに作物を栽培すると、発芽
材料例
①材料をまず混合し、水かけながら
さらによく混合・堆積する。
(水分は約50%程度を目安とし、
手で握ると割れる程度)
②ビニールやむしろをかけて40∼50
℃の低温で発酵させる。
③発酵温度は40∼50℃とし、50℃近
くになると切り返しを行う。
耀問騰羅
④温度が上昇しなくなれば完成
図42 ぼかし肥の製造過程
山土:300kg
乾燥鶏ふん:60kg
油粕:30kg
米ぬか:20kg
過リン酸石灰:15kg
くん炭:40kg
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
69
や定植直後の生育を阻害することや、作物の苗に食害を与えるタネバエの幼虫が発生したり、
野ネズミが集まるなどの害が起きることが古くから知られている。これらの障害をなくすた
め、施用前に山土と複数の有機質肥料や堆肥を混合し、50℃以上にならないように切り返し
て微生物による分解を行い、施用後の急速な分解や肥効を「ぼかす」ことが民間農法として
行われてきた。
ぼかし肥に使う材料には特に規定はなく、広範な材料が使われている。また、製造法もま
ちまちであるが、共通点は微生物による有機物の分解過程を経ていることである。図42にぼ
かし肥の作り方の一例を示した。
(2)ぼかし肥と通常の堆肥の肥料成分の違い
ぼかし肥の完成品の窒素濃度は2∼5%で、堆肥に比べて高く、炭素率(C/N比)も低く
て窒素飢餓の心配はない。また、園芸用の化学肥料に比較して可溶性の養分濃度が低いため、
株元に直接施用しても肥料焼けの心配もない。そして施用後は微生物により分解され徐々に
無機養分を放出するので長く肥効を持続することができる。材料の種類や量を変えることに
よって、肥料効果の程度や効き方の遅速、土壌改良効果の大小を調節できるなどの機能を持
っている。
(木村 武)
70
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
3.有機質資源(食物残さ)の活用による化学肥料の低減
1)普及事例
1 技術名:有機質資源の活用による化学肥料の低減
2 作物名:水稲
3 普及面積:約7h a
4 具体的内容:
ファミリーレストランチェーンから出る大量の食物残さを肥料化し、それを利用した水稲栽
培を開始した。生産された米は、そのファミリーレストランに販売される見込みである。肥料
の形状、天候との関係で肥効が安定しない等問題も多いが、食物残さを、産業廃棄物ではなく
資源として活用できるので、広い意味での資源循環型農業の1つとして期待されている。
土づくりも同時に進めているため、水田への窒素施用量が削減されている。
化成肥料に比べ軽いなど、散布時に問題も多く改善が必要である。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)食物残さを原料とした堆肥の製法と成分的特徴
後藤らの調査例によれば、レストランから排出されれる食物残さは、残飯類が主体で、水
分は65∼79%で平均約73%であった。異物としては、割り箸、紙およびプラスチックのコッ
プ、ストロー、ポリ袋、ペットボトル、紙パック、トレイ、缶類、ビンの栓、タバコの吸い
殻など種々のものの混入がみられた。
堆肥の製造工程は、①前処理、②発酵、③後処理から成る。①前処理では、異物除去と水
分調整などが行われる。食物残さの水分は高いため、水分調整材を添加するか、加熱乾燥に
よって、堆肥化適正水分の50%程度を目標に調整する。水分調整過程で排出するドレイン水
は、pHを調整後発酵過程の水分調整に使用し、残りの一部は廃水処理後放流することにな
る。②発酵過程では、水分を一般の高速堆肥化処理よりやや低めの40%前後に調整し、約30
日間で分解を終了する。発酵温度は野菜類が多い場合は70℃を越えるが、残飯が多い場合に
は最高温度が60℃前後にとどまる。③後処理として粉砕を行い、製品化率の向上と再度異物
除去を行う。
表31 事業系生ごみ堆肥化物の化学性(現物当たり)(後藤ら、1997)
水分 pH EC全炭素全窒素炭素率P205K20 CaO MgO Na20 Fe Fe Mn Zn Cu
堆肥の種類
(%) (mS/cm)(%) (%) (C/N) (%) (%) (%) (%) (%) (%) (mg/kg〉(mg/kg)(mg/kg〉(mg/kg)
ホテル
7,51
5.2
8.27
46.5
4.60
10.1
1.42
1.05
3。57
0.18
O.78
0.15
O.15
26.9
58.0
6.94
スーパー
24.5
6.1
11、5
33.7
4.09
8,24
!。27
2.11
2.69
0.32
0.83
0.19
0.19
48.3
62.4
8.09
市場
12,8
7.5
12.9
34.1
3,31
10,3
1.26
4.62
2.56
0.60
0.53
0.63
0.63
263
322
54.1
デパート
13.3
5.3
7.94
41.9
4.65
9,00
2.59
0,93
5.74
0.20
0。60
0.15
0.15
31,2
63.6
8.26
レストラン
7.69
5.6
7,94
42.8
3.63
11.8
1。45
1.09
3.95
0.20
0.80
0.15
0.15
37.7
47.6
7,86
大学+市場
9.92
5.8
6.17
39.5
3.59
11.0
8、99
1.68
12.2
0,40
0.67
0.31
0.31
30.7
97.5
14.2
市販鶏ふんA
12.8
7.9
8.68
29,6
6.35
352
32.3
市販鶏ふんB
8,17
6.9
10.1
32.6
4.94 6.60
市販ぼかし肥
18。2
8.4
15,1
21,3
4.ll
4.66 4.12
5.19
4.4
1.99
2.96
11.2
0.69
0.47
0,01
0.Ol
223
2.82
13.1
1.03
1.26
0.02
O.02
280
250
16.6
2.52 3.95
1.09
0.16
0.59
0.59
97.5
46.1
12。7
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
71
表31に主な業種別原料の堆肥化物の成分調査例を示した。窒素等の養分濃度は家畜ふん堆
肥に比べて高めであり、C/N比は5∼10程度と小さく、その他の成分組成からみても肥料的
効果が期待される製品が多い。しかし、施用直後にコマツナを播種すると発芽が抑制される
ものや、ポット栽培試験で生育が抑制されるものもあった(データ省略)。このことは、堆
肥化が不充分で未熟な製品があることを示している。
(2)食物残さ堆肥の成分上の問題点と対策
食物残さには、油分、食塩が多く含まれ、これを堆肥化した場合に農地施用に適さない製
品となる懸念が指摘されている。
食品残さなどの生ごみは平均14%程度の油分を含み、原料中に油分が12%以上含まれると
乾燥過程で材料を混和する際に塊状となり堆肥化に支障があるとの指摘がある。また、乾燥
処理のみで堆肥化が不充分な製品では、油分が分解されずに残存し、植害を与える場合があ
る。作物残さにサラダ油を添加施用したコマツナのポット栽培試験では、施用同時播種では
油分濃度12%以上、施用1週間後播種では15%以上で生育が劣る結果が報告されている(野
口、2001)。
塩分は堆肥化によって分解・消失しないため、原料中に高濃度含まれると、製品堆肥の塩
分濃度も高くなる。そのような堆肥を施用すると、土壌の塩類濃度を高めて作物に障害を与
える懸念がある。レストランから排出される食物残さの主体を占める残飯類は食塩濃度が
1%前後とやや高い傾向がある。しかし、食物残さは多様であり、全体的にみれば・露地条
件での施用において直ちに植害をもたらす塩分濃度ではないといわれている。事業所が排出
する食物残さを原料とする生ごみ堆肥の調査例(野口、2001)では、一部に食塩濃度の高い
ものが認められるが、殆どは3%以下であった。また、食塩濃度8%未満の堆肥施用では、
ポット栽培したコマッナの新鮮重に影響しなかった。
油分、塩分が高濃度の原料を使用する場合には、これら成分の少ない他資材を添加して希
釈することや、充分に堆肥化して油分を分解することが必要になる。その際、地域内の未利
用資源を上手に組合せて利用することが有効である。
(3)食物残さ堆肥の水田での施用法と減肥の考え方
水田への堆肥施用の効果と間題点は家畜ふん堆肥の場合と基本的には同様であり、堆肥の
中でも食品残さを原料とする堆肥では、窒素等の養分含有率が高めであり、施用後の肥効の
出方も速やかであるので、併用する化学肥料の削減には、より配慮する必要がある。
(4)事業系食物残さの堆肥化処理費
社員食堂から排出される生ごみの堆肥化に取組んでいる事業所の処理経費を自治体にごみ
処理を委託した場合の経費と比較して表32に示した。
当該事業所では、1日当たり430kgを堆
表32 F社の生ごみ堆肥化処理費試算例
肥化装置に投入し、24時間処理により95kg
の堆肥を生産している。専任作業者が維持 工場の 処理料金 持ち込み 堆肥化費用
所在地 (自己搬入)処理費用
管理し、毎日投入、毎日取り出しが行われ
川崎市 7円/kg 21円/kg 71円/kg
ている。自社で堆肥化を行う処理コストは、
小山市 15円/kg 25円/kg 89円/kg
自治体に処理を委託する場合に比べて、数
注 堆肥化費用には設備、人件費を含む
倍のコストがかかっており、その改善が大
きな課題となっている。 (木村 武)
72
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.ll)
4.有機質資材利用による土づくり
1)普及事例
1 技術名:有機質資材利用による土づくり
2 作物名:ニンジン
3 普及面積:50h a(農家戸数約100戸)
4 具体的内容:
当地域は、干拓地の砂質未熟土であることから、陽イオン交換容量が低く、加里、苦土が
不足しやすい。また、腐植含量は平均α8%と低く、地力も低い。
そこで、平成10年度より事業を導入し、地元で入手できる牛ふん発酵堆肥、食品汚泥堆肥、
豚ふん発酵堆肥を利用した土づくりの実証展示圃を3年間設置してきた。その結果、いずれ
の堆肥ともに、収量・秀品率が向上し、商品重量は約15%増加することが分かった。内容品
質面ではβカロチン含量、ビタミンBl2、ビタミンCが増加し、土壌中の陽イオン交換容量、
腐植含量が向上することが分かった。これらの結果をもとに、平成13年度に農協営農部会が
中心となり、堆肥散布受委託を開始した。
この取り組みにより、商品重量が増加し、出荷数量が安定するものと考える。しかし、野
菜価格低迷のため、省力・低コストを目的に堆肥の機械散布受委託を進めているが、散布が
一時期に集中するため、堆肥の保管、オペレーター不足が懸念される。
堆肥に入っている窒素成分が環境に負荷を与える可能性も指摘されており、環境保全の観
点から調査が必要である。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)土づくりの目的と手法
土づくりの目的は、土壌の物理性、化学性、生物性を改良することにより、作物根がよく
伸張し、かつ根が円滑に機能するように土壌環境を整えることによって、土壌の作物生産能
力を向上・保全することである。土づくりの方法として、物理的性質の改善には、繊維質ま
たは木質資材堆肥・土壌改良資材の施用、圧密層の破砕、暗きょ施工および深耕が、化学的
性質の改善には、石灰質肥料の施用、陽イオン交換容量の大きい土壌改良資材の施用、肥料
成分や養分含量の比較的高い家畜ふん尿堆肥の施用があげられる。
各種の土壌についてその土地利用ごとに土壌診断基準値が与えられている。これらの値と
対象土壌の診断値との比較に基づき、土づくりの方法を定め、土づくりの目標にあった適切
な土壌改良資材や肥料等の施用を含む土壌管理法を選択する。
(2)土づくりの意義
土づくりによって、土壌の物理的性質(通気性・保水性・透水性の改善、作物根域の拡大)、
化学的性質(土壌反応(pH)の適正化と緩衝機能や土壌養分の保持・供給機能の増加)、お
よび生物的性質(土壌生物の生息密度・多様性の増加による投入有機物等を分解する機能向
上を通じた土壌団粒の発達・維持等)が整えられる。そのため、根が機能する場が拡大され、
その機能が十分に発揮されることによって、作物生育が安定し、収量の向上や安定化が図ら
れる。
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
73
また、土づくりによって発達した土壌の団粒構造の機能や持続的かつ低濃度窒素養分の供
給機能によって土壌水分・窒素栄養の制御が比較的に容易となり、野菜等の生産物の品質の
向上が期待できる。しかし、すべての作物が有機質資材施用によって一様に品質が向上する
とは限らない。
さらに、土壌の生物的性質の改善および不良な土壌環境によって引き起こされる湿害や土
壌病害の発生を促す要因を軽減することで、農薬使用量の節減が期待される。
有機質資材施用は土壌生産力の維持・増強に有効であるが、その多量施用や長期にわたる
連用は環境への窒素負荷の増大を招く。そのため、土壌からの無機態窒素供給量を予測する
とともに、有機質資材含有窒素成分等の考慮および有機質資材の窒素無機化特性の評価に基
づく投入管理が求められる。
(3)豚ぷん堆肥
豚の成長促進の目的で飼料に添加された銅・亜鉛化合物のため、豚ぷん中の銅・亜鉛含有
率は他の家畜ふんに比べて非常に高いことが知られている。したがって、豚ぷん堆肥を農耕
地へ連用する場合、銅・亜鉛の土壌蓄積や作物に対する過剰障害には特に注意を払う必要が
ある。亜鉛の管理基準値は120mgkg1とされており、基準値を越えないように努めることが
必要である。
(三浦憲蔵)
74
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.ll)
5.肥効調節型肥料による施肥の効率化(水稲)
1)普及事例
1 技術名:肥効調節型胆料による施肥の効率化
2 作物名:水稲
3 普及面積:60h a
4 具体的内容:
地域の生育パターンに基づいた施肥設計を行い、肥効調節型肥料を全量基肥とすることに
より、施肥の省力化、施肥量の削減を行った。
この技術を導入することにより、追肥作業がなくなり農家の省力化が図られた。また、窒
素施肥量が削減され過剰な施肥が減少した。
しかし、肥効調節型肥料は価格が高いため、追肥がなくなっても肥料全体のコスト低減に
繋がりにくい。また、天候不順等による生育変化に対しての細かい対応がしにくい。
2)普及している技術に関連した研究成果
肥効調節型肥料は、速効性の化学肥料の欠点を解消するために、肥効を持続させる、肥料の
損失を低下させる、濃度障害を回避させる等の目的で開発された肥料である。緩効1生窒素肥料、
被覆肥料および窒素変換過程抑制剤の3つのタイプがあり、それぞれの代表的な肥料を表33に
示した。ただし、被覆肥料のみを肥効調節型肥料と狭義に使う場合もある。
緩効性窒素肥料は、水に溶けにくい、あるいは土壌中の微生物による分解がおそい窒素化合
物を利用したものである。
被覆肥料は、肥料粒の表面を水の浸透が遅い皮膜で被覆することにより、肥料成分の土壌中
への溶出を制御する肥料である。尿素等を用いた被覆窒素肥料と高度化成等を被覆した被覆複
合肥料がある。
窒素変換過程抑制剤のなかでもっとも研究が進み成功したのが硝酸化成抑制剤である。これ
は、土壌に吸着されず損失しやすい硝酸態窒素の生成を抑え、吸着されるアンモニア態窒素の
残存を多くして窒素肥料の有効性を高めるものである。
水稲に対する肥効調節型肥料による全量基肥施肥は、水田への基肥の施用時に追肥相当の肥
表33 主な肥効調節型肥料
●緩効性窒素肥料
ホルム尿素、I B D U、C D U、グアニル尿素、オキサミド
●被覆肥料
O被覆窒素肥料
LPコート、エムコートS、セラコートU、シグマコートU、ユーコート
O被覆複合肥料
ロング、コープコート、シグマコート、セラコートCK
●窒素変換過程抑制剤
O硝酸化成抑制剤
AM、D d、AT C、A S U
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
75
効調節型肥料を同時に施用する施肥技術である。移植栽培と直播栽培の両方で試みられていて、
肥効調節型肥料のうち被覆肥料を利用した例が多く、被覆肥料のみを用いる場合と速効性の化
学肥料を併用する場合がある。この施肥技術のねらいは、ゆっくりと肥料成分が供給されるた
め肥料の利用効率の高い肥効調節型肥料をもちいることによる施肥量の低減と、追肥の省略に
よる作業の省力化にある。
被覆肥料は従来の化成肥料よりも価格が高いため、減肥効果(10∼40%)を加味しても肥料
代は上昇する(15∼35%)と試算される場合が多い。しかし、通常1∼3回程度行われる追肥
作業がはぶかれ省力化する。
(高橋 茂)
76
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
6.肥効調節型肥料による施肥の効率化(野菜)
1)普及事例
1 技術名:肥効調節型肥料による施肥の効率化
2 作物名:ニンジン
3 普及面積:約100h a (作付面積のほぼ70%)
4 具体的内容:
地域で地下水の硝酸態窒素の汚染が問題化し、野菜栽培における過剰な施肥が問題ではな
いかと疑いをもたれた。それを期に、地域の多湿黒ぼく地帯と砂質土壌地帯の土壌診断や栽
培試験を実施して施肥基準を設定し、出荷組合独自の肥効調節型肥料をベースにした肥料を
開発して、組合員に利用を促している。その結果、以前に比べて3割(窒素成分比)の施肥
の削減が実現している。
地域では、ニンジンの過剰施肥が地下水の硝酸態窒素汚染の原因とされていたが、この汚
染も年をおって改善している。
肥効調節型肥料の利用により、ニンジンのしみ腐れ病等の窒素過多が主因で発生する病害
が減少してきている。また、窒素過多による品質の低下が少なくなった。
しかし一方で、近年の野菜の安値基調の中で、現在の収穫量での経営維持が難しくなり、
施肥量を増加して収量を上げようという動きが出かけている。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)肥効調節型肥料の種類と特徴
肥効調節型肥料は、土壌中における肥料成分の溶出や形態変化を物理的あるいは化学的方
法により調節・制御し、作物の養分要求に対応した肥料成分の供給を実現することを目標に
開発された。肥効調節型肥料は、水に難溶性あるいは微生物に分解されにくい窒素化合物
(緩効性窒素)を速効性の窒素質肥料や有機質肥料とともに造粒または成形した緩効性窒素
肥料、粒状尿素または粒状化成肥料の表面を樹脂等で被覆し、肥料成分の溶出を調節した被
覆肥料、急激な硝酸化成作用を受けないように抑制剤を添加した硝酸化成抑制剤入り化成肥
料に大別される(表34)。
(2)肥効調節型肥料をベースとした施肥法と慣行の施肥法の比較
現在の施肥基準と肥料形態が各作目の吸収パターンに十分対応していないため、施肥効率
が低く、収穫時に肥料成分が残存し、跡地に多量の無機態窒素が残る。肥効調節型肥料は作
物の養分要求に応じて肥料成分の溶出が調節できるので、高い窒素利用率と増収が得られる。
なお、各種の野菜について、速効性肥料と被覆肥料を組み合わせて、慣行の窒素施肥量に比
較して20∼30%減肥できる事例がある。
(3)減肥による地下水の水質改善の事例
この事例では、ニンジン栽培における被覆肥料の利用により目標収量を確保しながら、地
下水の硝酸汚染を軽減できる施肥基準が策定された。今後、野菜畑における硝酸態窒素によ
る地下水汚染を防止するためには、窒素収支(投入量一搬出量)に基づく投入量削減が求め
られる。投入量削減のためには、肥効調節型肥料の利用が有効であるが、有機質資材由来窒
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
77
表34 肥効調節型肥料の種類と特徴
種類
特 徴
緩効性窒素肥料
ホルムアルデヒド加工尿素(ウレアホルム)
イソブチルアルデヒド縮合尿素(IB)1
アセトアルデヒド縮合尿素(CDU)
硫酸グアニル尿素(GU)
シュウ酸ジアミド(オキサミド)
被覆肥料
被覆尿素(LPコート)
被覆複合(SC、ロング、CSR)
肥料の粒径によって窒素成分の溶解す
る速度を調節する。施肥窒素の溶脱が少
なくなり、局所的な塩類濃度の障害を回
避できる。
被覆資材の種類や被覆の厚さによって
肥料成分の溶出速度を調節する。作物の
要求に応じて効率よく吸収されるため、
元肥重点の省力施肥ができる。
硫酸化成抑制剤入り化成肥料
3アミノー4一クロロ与メチルピリミジン(AM化成)
ジシァンジァミド(ジシァン化成)
1一アミジノー2一チオウレア(ASU化成)
2一スルファニルアミドチアゾール(ST化成)
アンモニア態窒素の硝酸態窒素への酸
化を抑制する。アンモニア態窒素は硝酸
態窒素よりも土壌に強く吸着するので、
土壌中における施肥窒素の下層への移動
が抑制できる
素や地力窒素の考慮、局所施肥など施肥位置の検討などを合わせて行うことが必要である。
(4)窒素過多によるニンジンの生理障害
窒素が過剰になると、初期段階では葉の色が濃くなり、茎葉の増加が顕著になって過繁茂
になる。さらには、軟弱化して、病害虫や冷害に対する抵抗性が減少する。ニンジンでは、
過繁茂生育やしみ腐れ病などの生育障害が多発する。
(三浦憲蔵)
78
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
7.緑肥作物の利用(レンゲの利用による減化学肥料)
1)普及事例
1 技術名:緑肥作物の利用
2 作物名:水稲
3 普及面積:3h a
4 具体的内容:
町内の水田20haのうち約7haで水稲作跡地にレンゲを播種しており、3ha程でレンゲを
すき込んで「れんげ米」を生産している。
5月10日過ぎに開花を終えたレンゲを緑肥としてすき込み、約10日後に入水、5日程度後
に代かきを行い、5月末から6月初め頃移植を行っている。
すき込み前にレンゲの生育量を測定し、基肥として化学肥料を施用するか否かを判定し、
農用地利用改善組合の役員を通してレンゲ米生産農家に適正施肥量を連絡している。レンゲ
米生産基準圃を設置して生育調査を行い、追肥の時期と量についてレンゲ米生産営農支援情
報を発行し、適正な栽培管理に努めるよう働きかけている。
なお、生産されたレンゲ米は、地元を中心に相対で販売されている。
年によりレンゲの生育量が安定していないため、施肥基準が作成しにくい。レンゲの生育
量が多すぎると窒素過多のため、いもち病等の病害が発生しやすくなると共に、産米の食味
が低下する可能性があり、栽培技術が安定していない
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)レンゲの栽培管理と留意点
レンゲ種子の発芽適温は20∼25℃で、高すぎると発芽や生育に影響が出る。水稲の立毛中
で落水後の9∼10月が播種適期である。播種適量は10アール当たり3∼4kgで、レンゲに対
する施肥は必要ない。レンゲの管理で大切なのは、湿害を受けないように注意することで、
秋の長雨で水が停滞するような土壌では発芽障害が出る。レンゲ生産量の安定化を図るため
には土壌の排水対策を行う必要がある。
(2)レンゲのすき込み量について
レンゲの根の重量は地上部の1/3程度である。レンゲの地上部生重が10アール当たり3ト
ンとすると根は1トンで、根と地上部の合計量は10アール当たり4トンという計算になる。
開花期のレンゲに含まれる窒素は生重当たり0.35∼0.4%なので、レンゲの地上部と根を合わ
せた4トン中には14∼16kgもの窒素が含まれていることになる。レンゲは無機質の窒素肥料
表35 レンゲ施用量が水稲茎数(本数!m2)の増加に与える影響
基
肥 6月22日 7月12日 7月18日 7月26日 8月14日 9月22日
レンゲ(1t/10a) 231
レンゲ(1,5t/10a) 229
’慣 テ (N4kg) 235
無窒素 190
594
518
592
60!
551
523
559
4369
445
376
490
376
346
346
423
367
367
432
289
289
79
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表36 水稲収量に及ぼすレンゲすき込みの効果
わら重(kg/10a) 精玄米重(kg/10&)
全重(kg/10a)
基肥一穂肥(出穂前日数)
レンゲー鶏糞(31日)
レンゲー鶏糞(25日)
レンゲー大豆かす(31日)
レンゲー大豆かす(25日)
レンゲー化成肥料(慣行)
化成肥料一化成肥料(慣行)
無窒素区
1425
1284
698
629
581
1414
1426
1368
1502
1099
677
696
593
642
733
590
626
537
459
533
591
過繁茂
根腐れ
ガスわき
異常還元
on
倒伏
鴨 覧
馳
■曲■
■ 障
1ゆ
禍 ■
’4
4♪』
・愉
∼1
すき込みの時期、量に注意
しないと障害が発生する
レンゲの肥効は無機質窒素
肥料に近い
図43 レンゲすき込みの留意点
に近い肥効を示すので、レンゲ
400
_口_無施用
を全量すき込むと、後作の水稲
300
に過繁茂、倒伏が起こる。表35
…’◇’… レンゲ
◆、
はレンゲのすき込みが水稲茎数
の増加に与える影響を見たもの
国 100
0
、・◆
では問題はないが、1.5トンの
這
’獄、、
である。10アール当たり1トン
200
>
r.一
、◆一一 一一◆
すき込みでは水稲の分げつを抑
制することが分かる。.
(3)レンゲを用いた減化学肥料栽
培
レンゲを基肥にした場合、追
一100
5/31 6/5 6/ll 6/15 6/20
日数
図44 基肥レンゲ施用土壌における酸化還元電位の推移
肥には化成肥料を用いる場合
と、鶏糞や大豆粕など全部有機質肥料を用いる場合がある。表36にはレンゲを基肥にして、
各種有機質肥料を時期を変えて追肥した時の水稲収量を示す。同じ有機質肥料でも、追肥の
時期によって水稲生育に与える影響の異なることが分かる。有機質肥料を使う場合は、肥効
の発現に時間がかかるので追肥の時期を化成肥料による追肥の場合よりも早めるのがよい。
穂肥の時期に生育量が多い場合は有機質肥料の施用量を少なくする。
(4)レンゲすき込みの留意点
レンゲ栽培後の水稲には、過繁茂、倒伏、異常還元による有機酸やガスの発生・根腐れな
ど種々の障害が発生し、生産が不安定となっている事例が多く見られる(図43)。実際、図
80
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
44に示すようにレンゲ施用に伴い土壌の還 表37ヘアリーベッチすき込みの水田雑草
元状態は強くなる。水稲の初期生育抑制を 及び水稲生育に対する影響
回避するために・レンゲのすき込みは代か 処理区 雑草量茎数 穂数 桿長 穂長
きの2週間くらい前に行い・また苗が活着 雑草放任区 132 19 16 60 16
したら軽く落水し、間断かんがいを行う。 慣行区 0 25 23 79 19
なお、レンゲの分解にともない生成する有 ベッチ区 0 25 24 82 19
機酸により、鉄、マンガン、塩基類が下層 慣行区には除草剤を使用・雑草放任区・ベッチ区に
は除草剤散布せず。
に溶脱しやすくなるので、老朽化水田では
含鉄資材やケイカルなどの土壌改良資材の
施用が必要である。
(5)その他の水田緑肥について
最近、レンゲと同じマメ科の牧草ヘアリーベッチが水田の緑肥として注目されている。こ
の緑肥の大きな特徴は、肥料としての効果以外に水田の雑草抑制作用も強いことで(表37)、
化成肥料だけでなく除草剤も使用しない水稲の有機栽培法として今後の普及に向けた技術化
に期待が集まっている。
(藤原伸介)
81
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
8.緑肥作物の利用(秋冬畑作物への利用)
1)普及事例
1 技術名:緑肥作物の利用
2 作物名:キャベッ、カボチャ等
3 普及面積:約7h a(農家戸数9戸)
4 具体的内容:
今まで土づくりとして牛ふん堆肥の施用等を行ってきたが、土壌の団粒化促進、透水性の
向上、センチュウ類の被害抑制等の効果をねらって、様々な種類の緑肥(有機ソルゴー、エ
ビスグサ、ニューオーッ、マルチムギ等)を利用している。秋冬作が主体の産地のため、5,
6月には種、7月下旬∼8月上旬に刈り取り・すき込み作業を行い、8月下旬からの秋冬作
の定植に間に合わせて、ほ場の準備を行う。また春夏作では、カボチャの敷きわら代わりに、
苗の定植に合わせてうね問にマルチムギをは種している
緑肥作物の導入によって、作物の品質改善、夏場の雑草抑制効果等の利点があげられる。
また、立地的に堆肥施用の困難なほ場でも有機物補給が可能となる。
前作終了後にほ場に肥料成分の残りが少ないと、緑肥の生育があまり良くなく、雑草の生
育に負ける。また降雨が少ないと、発芽不良、生育不良をおこしやすい。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)畑に用いられる主な緑肥作物とその特性
後作の作物に対する緑肥の効果にはそれらに含まれている成分が大きく関係する。特に緑
肥作物中の炭素と窒素の割合(C/N比)が土壌中での微生物による緑肥分解速度に影響を与
える。例えば、クローバーやアルファルファなどマメ科の緑肥はトウモロコシやソルゴーな
どイネ科の緑肥に比べC/N比が低く、土壌中での分解速度が早いため、速効的な肥料効果が
期待できる。一方、C/N比の高い緑肥には、保水性や通気性の向上といった土壌の物理性改
表38 北海道で用いられる主要緑肥作物の標準的乾物重とC/N比および成分含有率
作物名
播種期と生育 乾物重
期間(日) (kg/10a)
トウモロコシ
ソルゴー
春(50) 300∼500
春(50) 300∼500
春(60) 400∼600
春(120) 500∼800
ギニアグラス
春(120) 800∼1100
ァカクローバー
春(90∼100)350∼450
アルファルファ
ナタネ
春(110∼130)300∼400
小麦
えん麦
夏(70) 500∼600
夏(50) 400∼500
ペルコ
夏(70) 500∼650
シロカラシ
レバナ
春(50) 300∼500
マリーゴールド 春(60) 120∼400
C/N比
15∼20
15∼20
15∼20
30∼40
30∼35
13∼15
15∼17
20∼25
15∼20
20∼25
10∼15
12∼15
窒素 リン酸 カリ
(乾物%) (乾物%) (乾物%)
3.0∼4.0
2.0∼2.7
0.7∼0.9
2。0∼2.7
0.6∼0.7
3。0∼5.0
2.0∼2.7
0.8∼1.0
4.0∼5.0
2.6∼3.0
0.4∼0.6
2.8∼3.2
2.4∼2.6
0,3∼0.5
2.6∼3.0
2。0
1.0
5.0
3.0
1.2
5。0
1.5
0.8
3.5
3.0
1.0
5.0
82
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.1!)
善効果がある。これは、多量に含まれる炭素化合物の分解過程で微生物によって生産される
粘質物が土壌の団粒化を促進するためである。表38には北海道で用いられている主要な緑肥
作物のC/N比と緑肥中に含まれている窒素、リン酸、カリ含有率を示した。
(2)緑肥作物のセンチュウ類抑制効果
アフリカ原産のギニアグラスにはセンチュウ密度を低下させる効果がある。この緑肥は比
較的湿潤地を好み耐乾性はないが、高温条件では有機物生産量が極めて多くなる。また、窒
素・カリの吸肥力が強いのでクリーニングクロップとしても使われている。表39にギニアグ
ラスのキタネグサレセンチュウに対する抑制効果を示した。同じイネ科緑肥のスーダングラ
スやマメ科緑肥のアカクローバーに比べ、ギニアグラスのセンチュウ抑制効果の強いことが
分かる。その他にもセンチュウ抑制効果の高いものとして、同じイネ科のえん麦(ヘイオー
ツ)やソルゴー、春播きの1年草でメキシコ原産のマリーゴールドやマメ科のエビスグサな
どがある。表40には大根のセンチュウ被害に対するエビスグサの効果を示す。
(3)緑肥作物の土壌理化学性改善効果
緑肥作物の土壌改善効果には、作付けたことによる効果と、すき込んだ場合に発現する効
果がある。表41には緑肥作物を作付けたこ
とによる効果とすき込んだことによって得 表39 ギニアグラス(ナツカゼ)のキタ
られる効果を土壌型別に示しているが、効 ネグサレセンチュウ抑制効果
果の発現は土壌のタイプによっていくぶん 作物 栽培後のセンチュウ数(頭/土259)
異なることが分かる。 ギニァグラス 6
(4)緑肥作物の雑草抑制効果 スーダングラス 23
緑肥の作付け効果の一つとして雑草の防 アカクローバー 179
表40 大根のセンチュウ被害に対するエビスグサの効果
エビスグサの播種量 大根の被害度指数 センチュウ密度(頭/1009)
(kg/10a) (%) エビスグサ栽培前 大根収穫時
0
2
4
83
155
ll3
14
170
26
133
26
2
表41 緑肥導入の作付け効果とすき込み効果
作付け効果
地形 堆積様式 水食・風食根圏の 通気性塩類流亡
軽減 改善 排水性 の軽減
すき込み効果
施肥 通気性 砕土性 保水性
改善 排水性 易耕性 保肥性
泥炭土 一 ◎ ○ ◎
○ O O O
O O O 一
平坦台地火山性土 ◎ ◎ ○ ◎
O O 一 ◎
洪積土 一 ◎ ◎ ◎
O O O O
傾斜台地火山性土 ◎ ◎ ○ ◎
O O 一 ◎
洪積土 ◎ ◎ ◎ ◎
O O O O
低地 沖積土 一 ◎ ○ ◎
◎:大きな効果が期待できる、O:効果が期待できる、一:効果が期待できない。
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
放任区
ペレニアルライグラス
→
、
圏緑肥作物
團雑草
一1
→
、
ライムギ
83
㌔
, ■ ■
→
→
、
エンバク
ず
→
、o
シロクローバー
■ 、
’ ■
『
. ∼ ,
クリムソンクローバー
レンゲ
鞠
→
、
ヘアリーベッチ
0
鞠
∼ 、
250
500
, 一一一→
750
1000 (g/nf)
図45 緑肥作物(秋播き)の5月における乾物収量と雑草抑制効果
除効果があげられる。緑肥の種類によってもその効果は大きく異なり、一般に生育が旺盛で
土壌表面の被覆力に優れる緑肥ほど強い雑草抑制力を示す。図45は秋播き緑肥の乾物収量と
それらの雑草抑制力を比較したものであるが、つる性のマメ科緑肥ヘアリーベッチが有機物
生産量も多く雑草抑制効果の高いことが分かる。
(藤原伸介)
84
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
9.緑肥作物の利用(連作障害の回避と地力増強作物)
1)普及事例
1 技術名:緑肥作物の利用
2 作物名:ネギ
3 普及面積:約30h a(ネギ栽培面積70h a)
4 具体的内容:
ネギの連作障害の回避と土づくりのため、夏季にソルゴー等の地力増強作物を入れている。
ソルゴーは一度にすき込まず、1回目は株元を残して刈り込み、2回目にすき込む「二回切
り」を実施している。二回切りの実施により、作業と経費の軽減が可能である。
夏どりネギの後作に地力増強作物を入れる場合はライ麦を用いている。冬季にライ麦を入
れると、遊休農地の解消とホコリ飛散軽減にもなる。
これらの緑肥作物の導入により、手軽に地力を高められる。
2)普及している技術に関連した研究成果
(!)ソルゴーとライ麦の緑肥としての特性と地力増進効果
アフリカ原産のソルゴーは、高温条件で有機物生産量が極めて多いため、高い有機物補給
効果が得られる。また、窒素・カリの吸肥力が強いので、クリーニングクロップとしても有
効である。さらに、ソルゴーにはセンチュウ密度を低下させる効果もある。一方、南西アジ
ア原産のライ麦は耐寒性に優れており、小麦の栽培が困難な地域でも栽培が可能である。ラ
イ麦の利用は、秋播きし翌春すき込むので、冬の間の土壌流亡や春期の風食を軽減する。秋
播種でも十分越冬するので、馬鈴薯などの収穫時期の比較的早い作物の後利用にも適する。
これらの緑肥の有機物生産性や後作の減肥可能量を表42に示した。
(2)ネギとウリ科作物の混植効果
従来、栃木県においてはゆうがお栽培にネギを混植すると連作障害の発生があまり見られ
ないという伝統技術がある。ゆうがおと同じウリ科のスイカやメロンの栽培にもネギとの混
植が応用されて効果を
上げている。この場合 表42 ソルゴー、ライ麦の有機物生産性と後作減肥可能量
の連作障害の発生低下
標準的緑肥収量(kg/10a)
C/N比
後作の減肥可能量
は、ネギの根圏で増え
緑肥作物*
るシュードモナス属と
ソルゴー
2500∼6000 350∼800
20∼30 0 0∼2
呼ばれる細菌によって
ライ麦
1500∼2400 320∼420
15∼20 3∼5 0∼5
連作障害の原因となる
生重 乾物重
窒素 カリ
*後作緑肥として栽培。
フザリウム菌が抑えら
れるためといわれてい
る。従って、この効果
を十分に発揮させるた
めには、ネギとウリ科
作物との根圏が出来る
表43 スイカとネギの混植効果
処理 収穫果重(kg/10a)1個重(平均kg)
対照 4550
6.8
小苗ネギ混植 4840
大苗ネギ混植 4810
7.5
7.2
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
だけ一致することが必
85
表44 野菜の連作障害の原因
要である。表43にはス
原因
イカとネギの混植試験
事例(%)
病害
の混植がスイカの増収
をもたらす結果が得ら
虫害
れている。
生理障害
(3)連作障害の原因と緑
土壌化学性不良 要素欠乏
肥による回避効果
養分不均衡
塩類集積
土壌酸性化
連作障害には土壌の
化学性や物理性の不良
土壌物理性不良
以外にも病害、虫害、
57
土壌伝染性病害
空気伝染性病害
病害らしきもの
の結果を示した。ネギ
8
6
6
5
5
0.6
2
1
2
湿害
乾燥害
物理性不良
地力低下・劣悪化
その他
生理障害など様々な要
因が関係する。表44に
野菜の連作障害の原因
0.6
2
0。7
4
不明
と考えられるものをあ
α4
げた。連作による障害
を助長する原因の一つ
表45 傾斜農耕地の土壌流出量(乾土g1区)と緑肥作付け効果
に土壌の微量要素の欠
期間 4/Ol−6/307/Ol−9/3010/Ol−12/31合計
作付け区
乏や有機物の不足があ
げられる。有機物生産
量の多い緑肥のすき込
みは、養分の補給効果
雨量(mm) 279
202
197 678
無作付け除草区
255
2420 5177 7852
コーカシアンクローバー
西洋ミヤコグサ
108
0 0 108
0 0 0
0
だけでなく、土壌の物
理性をよくし易耕性を高める。さらに、新鮮有機物の投入は土壌微生物の活性を高めるとと
もに微生物相を多様化して特定の病原性微生物の優先を抑制する効果がある。
(4)緑肥作物の作付けによる土壌の浸食防止効果
耐寒性に優れ秋播種でも十分越冬するライ麦は初冬から春期の土壌浸食防止に効果的であ
る。また、晩秋まで旺盛に生育するイタリアンライグラスも傾斜地などの浸食防止に活用で
きる。これらイネ科の緑肥と異なり、マメ科牧草の中には地表面を被覆する性質を持つもの
があり、これらは土壌の風食や水食を防ぐ力が強いため休閑地や傾斜農耕地の土壌保全に適
している。表45は傾斜地形を持つ農耕地におけるマメ科牧草コーカシアンクローバーと西洋
ミヤコグサの土壌浸食防止効果を示している。土壌表面被覆力の強い西洋ミヤコグサの方が
土壌浸食に対して効果的である。
(藤原伸介)
86
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
10.土壌診断に基づく施設トマト、メロンの施肥改善
1)普及事例
1 技術名:土壌診断に基づく施肥改善
2 作物名:トマト、メロン
3 普及面積:約20h a
4 具体的内容:
当地区は施設野菜栽培が始まってから約30年が経過している。砂質土壌のため、その間、
家畜ふんを主体とした堆肥と石灰およびリン酸を多投入して土づくりを行ってきた。その結
果、土壌中に石灰、リン酸、カリ等が蓄積して、作物の生育と作柄が不安定になってきた。
そこで平成11年から、関係機関等の協力を得て土壌分析と診断を実施し、その結果に基づ
いた施肥改善を推進している。推進にあたり、地域専用の有機質肥料(成分6−3−6)を
開発し、これを主体とした施肥体系を組んでいる。
土壌診断の実施により、生育不順の原因の一つが今までの間違った土づくりに起因してい
ることが生産者に認識され、土壌分析結果に基づいた施肥改善の大切さが確認された。しか
し、数十年にわたって蓄積されてきた土壌養分を適正値に戻すには、長い年数がかかる。
2)普及している技術に関連した研究成果
6.0
(1)養分、特に石灰、リン酸、カリ等の集積がトマ
8
ト、メロンの生育に及ぼす影響
トマトでは育苗期における土壌中の石灰、リン
8
I
bρ
名 4.0
酸、カリの過剰は、ホウ素やマグネシウムなどの
営
吸収を阻害し、異常茎、葉の黄化症状などの生理
の
の
§
の
カリの過剰はマグネシウムの吸収を阻害し葉枯れ
8
8
掛
拠
釦
障害発生要因となる。また、メロンでも、石灰、
0
Σ
2.0
§
任
朕
症などの生理障害の発生を招く(表46、図46)。
8
8
(2)土壌診断の種類と特徴、項目
土壌の化学性が不安定な施肥直後を除いた時期
0
に、土壌断面調査を実施、層位毎に試料を採取し、
項目毎に分析を行い、土壌診断基準値(表47)と
正常葉
葉枯れ葉
図46 メロンの葉枯れ症と葉中のMg
断面結果や分析値データなどと比較し、肥料、土
含有率との関係(藤本他、1993)
表46 メロンの葉枯れ症の発生状況と土壌養分状態(伊藤他、1991)
pH(H2・)EC㎞S㎞]鷺畿量欝塩縦[mg需Mg/一g
46
20.5
334
488
83
206 1.0 4.2
19.2
457
66
147 1.1 5.0
健 全* 5.1 0,89
16.7
障害発生(軽症) 5.9 1.98
障害発生(重傷) 5.9 1.54
*:障害発生圃場とは別圃場で採取
51 2.2 4.4
87
梅川學ら 環境保全型農業技術の普及状況
表47 土壌診断基準一熊本県の例一(郡司掛、農業技術体系より)
対象作物
果菜類(スイカ、メロン、キュウリなど)
水田
畑
地目
葉菜類(キャベッ、
ハクサイ、レタス)
根菜類(ニンジンなど)
水田
畑
畑
非黒ボク土黒ボク土非黒ボク土黒ボク土非黒ボク土黒ボク土非黒ボク土黒ボク土非黒ボク土黒ボク土
土壌の種類
作土の厚さ[cm]
20∼30 20∼30 15∼20 15∼20
20∼30 20∼30 15∼20 15∼20
15∼20 15∼20
60 60 60 60
50 50 50 50
50 50
有効根群域の最高ち密度
[mm]:以下
22 20 22 20
20 20 20 20
22 22
地下水位[cm]:以下
有効根群域の深さ
[cm]:以上
100 100 60 60
100 100 60 60
100 100
pH(H20)
6.O∼6,5 6.0∼6.5 5.5∼6.0 5.5∼6.0
6.0∼6.5 6.0∼6.5 6.0∼6.5 6.0∼6.5
6.0∼7。0 6.0∼7.0
陽イオン交換容量
[meq/100g]:以上
15 20 15 20
15 20 15 20
15 20
交換性
200∼350 200∼400 200∼350 200∼380 200∼350 250∼400 200∼350 200∼350 200∼350 250∼450
CaO[mg/100g]
交換性
30∼120 40∼100 40∼100 50∼120 40∼100 50∼120 40∼IOO 50−120 40∼100 40∼120
MgO[mg/IOO9]
交換性
30∼80 30∼100 30∼80 40∼100
K20[mg/100g]
30∼80 40∼IOO 40∼80 40∼100
30∼80 30∼100
塩基飽和度[%]
70∼90 70∼90 70∼90 70∼90
70∼90 70∼90 70∼90 70∼90
60∼90 70∼90
石灰飽和度[%]
50∼60 50∼60 50∼60 50∼60
40∼60 40∼60 40∼60 40∼60
40∼60 50∼70
Ca/Mg[当量比]
3∼6 3∼6 3∼6 3∼6
3∼6 3∼6 3∼6 3∼6
Mg/K[当量比]
1∼5 1∼5 1∼5 1∼5
1∼5 1∼5 1∼5 1∼5
3∼6 3∼6
1∼5 1∼5
10∼50 10∼50 10∼30 10∼30
10∼40 5∼50
有効態リン酸
10∼100 10∼IOO 10∼50 10∼50
[mg/100gl
EC(1:5)[mS/cm〕:
0.3
0.3
0.3
0.3
0.3
0,3
0.3
0.3
0.3
0.3
以下
壌診断処方箋 **
0001
f盲F或至F月日 89、11、23
鈴木 修 殿(35D−21470no〉 分析年 89 分析番号
あなたの土壌の分析結果とその改良方法は以下のとおりです。農脇の営農指
導員と相談のうえ資材の施用をして下さい、
(1)土壌環境 「乍物群 畑 2 土壌名 黒ボク土
土性名 埴壌土
圃場面積 MOa
前作物 キャベツ あおば 夏取り
対象作物 キヤベツ あおば 夏取ウ
採ゴニ{立置 [。11
容積』北童 D8
群馬県経済農業協同組合連合会
採土場所 アガワアガミナミ 耕土深 15、DCln
(2)分析結果と想定改艮値
想定
単位
①PH
②EC
③燐酸吸収係数
④有効態燐酸
⑤CEC
⑥交換i生石灰
⑦交換性苦土
⑧交換性加里
⑨塩基飽和度
⑩石灰苦土比
⑪苦土加里比
⑫有効態珪酸
⑬遊離酸化鉄
⑭腐植
⑮[マンガン ]
⑯[ ]
mS/cm
m9,/1009
me/loog
m9/1009
mg/100g
m9/1009
分析値
改良値
5,5
0、4
2100
δ、1
60
60
0、5
適正範囲
範囲外
(下限〉 適正範囲 」二限)
範囲外
6、0∼ 6,5
03∼ 12
260
500
10∼ 50
4920
960
750
3000
200 ∼ 4DO
32,0
430n
380
43.0
568
74,9
50
40
70
8、1
37
4.0
2、】
3、0
2.D
40 ∼ 60
30∼ 50
60.0 ∼ 8D O
6 以下
20 以上
mg/loo9
%
%
ppm『
⑰アンモニア態窒素
m9/1009
⑱硝酸態窒索
mg/100g
4.3
Xは分霊斤f直
#は想定改良f直
⑫)資材名及び投入量 **燐酸質*** **石灰(珪酸) 質・ド* ** 芭土 ** ** 加里 ** 資材費(円)
資材名 熔燐 苦土炭カル 水マグ 塩加 ma 圃場
(k9/10a・10cm)(k9/圃場) 2DO 3、360 10 168 49823 53 890 12・087 2(14・062
(4)総合所見
②塩基飽和度の上限を超えるので,苦土単肥を陵用します。
①燐酸質資材の投入量の上限を越えています。
①
③
燐酸資材の言i算上の必要量は 240kgです。
⑤
⑥この土壌は騒を吸散る力が強し】ので,燐醐資榊多範用とr半にPHの適 IEをはかってください・轍㌻勿や腐繊肥料σ)魍も効果的です・
⑦燐酸分は目標よりやや少なy)でナ’が適正範囲内なので,本年はこのままにして 来年もう…度燐酸分の分析をお・二な’)て下さい・
⑧
⑨
⑩
(1⊃
⑫窒素成分は施肥基準どβ「)施肥して下さい。
図47 土壌診断処方箋の事例(全農肥料農薬部、施肥診断技術者養成講習会テキストより)
88
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002,11)
匁幽以
\
/
② ./匝!一・K
.一…諭× ゑ蓬} 質肥料を適 す
、、演∵<☆噸天:1囲一
1叉卿1鷺◎>罵圃一一力・卜厨精密分析
1⑥\一/ \◇[亟一…。K
l//\、 ’伍亙}…施腿輯撫
堂〈堕蜘職\> .
\/\1ヌミニr{■虹トー一肥料堀
’\』’…[璽トー・K
○内の番号1』
分榊順序を示す \・巨亙}一髄肥鱗量施用
図48 一般的な土壌診断フロー(鎌田、農業技術体系より)
壌改良資材、有機物の施用の有無、施肥量など具体的な肥培管理や深耕など土壌改良策など
を決定し、処方箋を作成する(図47)。
(3)過剰養分の適正化方策
塩基の診断に際しては、全体の統一をはかるため、診断項目の実行に際して、通常、図48
のようなフローに沿って実施する。
本事例では養分の過剰にともなう養分欠乏が生理障害として危惧される。応急的対策とし
て吸収を阻害されている養分の葉面散布などを実施する。根本的対策として、土壌診断を実
施し塩基養分にアンバランスが生じないように作物生育に対して適正な範囲となるよう資材
の施用を控える。塩類集積が軽度であれば上記のように施肥量を減らすことで対応できるが、
ハウス土壌など多量に集積している場合には、天地返し灌水除塩などで、表層の塩類濃度を
減少させる。また、有機物施用などによりCECを高めて濃度障害が生じにくくするとともに、
できるだけ深耕して、下層まで根が伸長するようにする。
(4)土壌診断費用と労力
農業改良普及センターおよび農協の土壌診断室にて土壌診断や土壌管理法や施肥法を指導
している。診断費用は地域によって異なり有料・無料と様々。普及センターの職員とともに
圃場にでかけて実施する地域もある。
(草場敬)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
89
11.土壌診断に基づく露地野菜の施肥改善
1)普及事例
1 技術名:土壌診断に基づく施肥改善
2 作物名:露地野菜(ダイコン、キャベツ、カボチャ、スイカ、メロン)
3 普及面積:約1800h a
4 具体的内容:
農協が主体となって、県の土壌診断プログラムに基づいて土壌診断を行い、農家ごとに処
方箋を作成して指導している。また、定点の分析を毎年実施して、露地畑の肥料成分の状況
を広域的に把握するとともに経時的変化を確認し、適正施肥に役立てている。
しかし近年、土壌診断を利用する農家が減少している。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)土壌診断の重要項目
代表的な特性と土壌診断上の留意点について下記に示す。
ダイコン:耕土が深く、膨軟な土壌に適する。保水力があり、かつ通気性・透水性が良い
土壌を好む。土壌pHは6.0∼7.0が良いが酸性には比較的強い。そこで特に、作土層の厚さ、
堅密度、保水性・透水性など物理性に注意する。ホウ素、モリブデンなどの微量要素欠乏に
留意する。
キャベッ:根が繊細であるが広く深く分布し吸肥力は強い。耐湿性に弱く、結球初期以降
は湿害を受けやすい。耕土は深く排水が良好な砂質壌土∼粘質壌土に適する。土壌pHは6
∼7。0が良い。そこで、作土層の厚さ、排水性など物理性に留意する。マグネシウム、ホウ素
などの微量要素欠乏に留意する。
カボチャ:深根性で湿害に弱い。リン酸欠乏土壌では活着が遅く、初期生育が不良となる。
そこで、作土層の厚さ、排水性など物理性に留意するとともに、有効態リン酸の含量に留意
しリン酸肥料が不足しないようにする。
スイカ:根は水に対して弱いため、地下水位や排水性に留意する。
メロン:石灰の吸収が悪くなると異常発酵果が発生しやすくまた収穫期になると苦土欠乏
が出やすい。そこで、pHが6.0∼6.5になるように留意する・他作物については・作目類別の
土壌診断基準例(前項の表47)および養分の過剰・欠乏によって生じる生理障害事例(表48)
を参照のこと。
(2)土壌診断の種類と特徴
土壌の化学性が不安定な施肥直後を除いた時期に、土壌断面調査を実施、層位毎に試料を
採取し、項目毎に分析を行い、土壌診断基準値(前項の表47)と断面結果や分析値データと
比較し、肥料、土壌改良資材、有機物の施用の有無、施肥量など具体的な肥培管理や排水対
策や深耕など土壌改良策を決定し、処方箋を提示する。
(3)土壌診断に基づく処方箋作成の考え方と土壌診断の重要性
野菜畑ではカリ、カルシウム、リン酸の蓄積、pHの上昇など養分過剰蓄積が進行し、生
理障害が生じていた事例も多数報告されている。養分蓄積は化学的分析手法の導入なしには
90
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
表48 野菜における生理障害の事例
生理障害の症状
作 物 発生条件・原因とかんがえられる要因
ダイコン
キャベツ
リン酸過剰によるK欠乏
N過剰
岐根
K欠乏
葉の暗緑色化、褐片化後枯死
高pHによるホウ素欠乏
心ぐされ
N過剰によるCa欠乏
縁枯れ
N過剰
乾燥・Mn過剰
つるぼけ
葉巻き炭そ
Ca過剰によるMg欠乏
低pHと高硝酸態窒素
葉に褐色斑点、激しい場合には枯死
黄緑白化症
スイカ
メロン
葉の黒紫色変色、激しい場合には枯死
正確な状態把握は困難であり、従来の勘と経験では十分な対応は不可能である。土壌診断を
実施して土壌の養分蓄積状況を正しく把握・評価し、作成された処方箋に基づく対応は、野
菜の安定生産に欠かせない技術である。
環境保全型農業を一層進展させていくには、土壌改良や施肥量を決めるために実施してい
た従来の土壌診断法をさらに改良して、作目毎の養分吸収特性に合わせた施肥、すなわち、
作物が必要とする成分を、必要とする量、必要な時期に、必要な位置に施肥できるような高
度な土壌診断法を確立する必要がある。
(4)定点調査の意味と重要性
農業生産を支える基盤である耕地土壌は、気象、地形などの自然条件や耕転・施肥などの
人為条件などの変化を受け絶えず変化する。特に近年農作業の機械化、集約化に伴う多施肥
などに加えて、大規模な土地基盤整備などが行われ土壌に対する負荷はますます高まってい
る。この様な状況下、耕地土壌の実態とその変化の把握は生産力維持増強や土壌保全管理対
策、特に土壌の劣化予防対策のために極めて重要である。
定点調査は土壌特性特に理化学性の経年的変化を全国規模で把握するため、農水省土壌保
全対策事業土壌環境基礎調査の一環として1979∼1998年、さらに、モニタリング調査の一環
として1999年以後、公立農業試験場を中心に実施されている土壌調査である。各都道府県内
に分布する農耕地土壌の種類をできるだけ網羅するように選定した圃場を定点として、4年
間で全地点を調査、さらに1年間を補足調査および取りまとめの期間とした計5年を1巡と
して実施されている。調査項目は、土性などの断面調査、pHやECをはじめとする一般理化
学性の他に、栽培作物や資材の施用状況など土壌管理実態アンケートよりなる。
(5)土壌診断費用と労力
農業改良普及センターおよび農協の土壌診断室にて土壌診断や土壌管理法や施肥法を指導
している。診断費用は地域によって異なり有料・無料と様々。普及センターの職員とともに
圃場にでかけて実施する地域もある。
(草場 敬)
91
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
12.栄養診断に基づく施肥改善
1)普及事例
1 技術名:栄養診断に基づく施肥改善
2 作物名:トマト
3 普及面積:60a
4 具体的内容:
RQフレックスを用いて、生育期間中の葉柄に含まれる硝酸イオン濃度を継続的に測定し、
適正な樹勢を維持するための指標としている。硝酸イオン濃度の生育ステージごとの目標値
は、県の試験場の研究成果をもとに設定している。
従来、生産者の勘に頼る部分が大きかった樹勢を、樹勢診断によって数値化することによ
り、栽培経験の浅い生産者の圃場においても大きな樹勢の乱れがなくなった。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)はじめに
作物にとって窒素は欠くことのできない養分であり、不足すると生育に大きく影響するた
め、必要以上に施用されがちである。しかし、過剰に施用された窒素肥料により、土壌中の
養分のバランスが崩れて作物の生育が悪くなったり、過剰な窒素が地下水を汚染したりする
ため、作物の栄養状態を見ながら必要量に見合った窒素肥料を施用する技術が必要とされる。
(2)作物の窒素栄養状態は、葉柄汁液の硝酸濃度を調べるとわかる
畑作物は、土壌中の硝酸を主に吸収している。吸収された硝酸は、導管を通じて地上部に
運ばれ、そこで体を構成する成分になるが、あまった硝酸は茎や葉柄に蓄えられて、その後
の生育に使われる。そこで、この葉柄に蓄えられた硝酸の量を測ると、作物の窒素栄養状態
を診断することができる。
キュウリやトマトなどの作物の葉柄は多汁質のため、細かく切ってニンニク絞り器などで
絞ると、簡単に汁液が得られる。この汁液中の硝酸濃度は、葉柄の中の硝酸濃度とほぼ同じ
ことがわかっている(表49)。作物に与える窒素肥料の量が増えると、それに伴い汁液や葉
柄中の硝酸濃度も上がっていく(表49)。そのため汁液中の硝酸濃度は、作物全体の窒素栄
養状態の適切な指標になる。
(3)畑でできる簡単な汁液の分析法 表49 窒素施用量を変えて育てたバレイショ
作物の窒素栄養状態を的確に知り、その の汁液と葉柄中の硝酸態窒素濃度窒素
濃度
結果により追肥の要否を迅速に判断するた
窒素肥料の量
硝酸態窒素濃度(g/L)
る。従来、硝酸の分析には多くの時問と労
(9/m2)
汁 液
力がかかったが、近年開発されたRQフレ
ックスシステムにより、汁液中の硝酸の濃
度を現場で測ることができるようになっ
04816
めには、現場で測定できる方法が必要であ
葉 柄
0.3
0.3
0.78
0.83
1.27
1.25
1.53
1.53
た。
(建部ら1))
このRQフレックスシステムによる硝酸
92
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
100
葉柄を細かく刻む
( 80
ニンニク絞り器などで汁液を得る
必要に応じて蒸留水で希釈
の
商
琶60
斑
婁40
余
蝿
硝酸イオン試験紙を発色させる
埋20
0
0 20 40 60 80 100
小型反射式光度計による測定
追肥の要否の判断
精密分析法(mg/L)
図50 精密分析法と簡易分析法によ
る硝酸濃度の比較(建部ら2))
図49 RQフレックスシステムによる
葉柄汁液の硝酸濃度の測定
の測定は、簡単な試験紙と携帯できる小さな分析装置を用いて行う。葉柄を細かく刻み、ニ
ンニク絞り器などで汁液を絞る。これを必要に応じて水で薄めて硝酸測定用の試験紙を発色
させ、小さな分析機器でその試験紙の色を読みとると、汁液中の硝酸濃度がわかる(図49)。
この簡易な方法による硝酸の分析は、精密な分析機器(イオンクロマトグラフ)を使った方
法とほぼ同じ結果が出ることがわかっている(図50)。この簡易分析は、慣れれば数分で葉
柄の硝酸濃度が測定でき、一回の硝酸の測定にかかる試験紙の費用は約80円である。
(4)いろいろな作物で基準値が得られています
この原理を応用して、各地の農業試験場で、キュウリやトマトやイチゴなどさまざまな作
物における窒素の栄養診断のための基準値がつくられており3)4)、無駄な窒素施肥を抑えた
環境保全型農業技術の普及に役立っている。
(参考文献)
1.建部雅子・細田洋一・笠原賢明・唐澤敏彦.(2001) バレイショの葉柄汁液を用いた栄
養診断.日本土壌肥料学雑誌、72、33.40.
2.建部雅子・米山忠克.(1995) 作物栄養診断のための小型反射式光度計システムによる
硝酸および還元型アスコルビン酸の簡易測定法.日本土壌肥料学雑誌、66、155−158.
3.六本木和夫.(1994) 栄養診断の現状と課題 園芸作物とくに果菜類について.季刊肥
料、69、80−86.
4.白崎隆夫.(1996) 野菜、花きの栄養診断:リアルタイム診断.季刊肥料、75、ll−21.
(大脇良成)
93
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
13.側条施肥(ぺ一スト肥料)による施肥の効率化
1)普及事例
1 技術名1側条施肥による施肥の効率化
2 作物名:水稲
3 普及面積:水稲作付面積!,180haの30%程度
4 具体的内容:
当地域は標高300m∼600m程度の準高冷地で稲作期間の気温が低い地域である。
昭和54年頃からコシヒカリの導入を進めたが、安定栽培を行うためには初期茎数を早期に
確保する必要があった。そこで、昭和56年頃から肥料の吸収が早く、茎数の確保がしやすい
ペースト側条施肥田植機の導入を進めた。現在、農協で販売される田植機のほとんどがペー
スト側条施肥田植機である。
それが、結果的には施肥効率の改善、施肥量の削減につながっている。
ペースト側条施肥田植機の導入によって、田植え・施肥・害虫防除が同時作業となり省力
化できた。また、施肥量を2∼3割程度削減できた。
慣行の代かき時の施肥に比べて、肥料成分のほ場外への流失が抑制され、水質汚濁の防止
に役立っている。
2)普及している技術に関連した研究成果
側条施肥は、水稲の移植と同時に苗の横2∼5cmの位置に深さ3∼5cm下にすじ状に肥料
を施用する施肥法である。本施肥法は、肥料タンクを装着した代かき後施肥同時田植機(側条
施肥田植機)の開発により、実用化した。使用する肥料の相違から、固体と液体の中間的な形
状のペースト肥料を用いる方式と粒状肥料を用いる方式がある。
側状施肥は、苗の近傍に施肥されることなどにより肥料の利用率が高まり、基肥の施用量の
低減が可能となる(表50)。初期生育は盛んになり、分げつが促進され、穂数は増加する。機
械作業により移植と基肥施用を同時に行うので、通常の手作業による基肥施用が省略され、施
肥ムラも手作業に比べて少ない。また、代かき後の移植時に深さ3∼5cmのところに施肥す
るため、田面水中への肥料成分の溶出が抑えられ、環境負荷の低減に寄与する。
ペースト肥料を用いた
側状施肥では、肥料に農 表50 ぺ一スト側状施肥と水稲の生育・収量
薬(プロベナール剤、カ ルタップ剤)を混和して、
処理
葉いもち病やイネミズゾ
ウムシ・イネドロオイム 慣行施肥
シの同時防除も可能であ ペースト側状施肥
ペースト側状施肥
る。
(長野県農事試、1974)
玄米重 穂数 籾数
kg/10a 本/m2 ×103/m2
普通 669 481 32.1
普通 717 536 36.0
20%減月巴 720 519 36.8
(高橋茂)
94
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
14.側条施肥(肥効調節型肥料)による施肥の効率化
1)普及事例
1 技術名:側条施肥による施肥の効率化
2 作物名:水稲
3 普及面積:1,500ha以上
4 具体的内容:
水稲品種の窒素吸収パターンに合うように被覆尿素を配合した肥効調節型肥料を用いて全
量基肥施肥栽培を行い、穂肥の省力化、収量・品質の安定化を図っている。また、側条施肥
田植機を利用して、省力化とともに窒素施用量を通常施肥より20%削減している。
県下では、熟期別に極早生・早生・中生用の3タイプの肥効調節型肥料が市販されている。
肥効調節型肥料による全量基肥施肥栽培は、肥料の利用率が高く、窒素施用量を通常施肥
より約20%削減できる。また、穂肥の省力化ができるので、大規模農家から零細兼業農家ま
で幅広い需要がある。
産米の品質の平準化にも効果的であり、積極的に普及拡大を進めている。
2)普及している技術に関連した研究成果
側条施肥は、代かき後施肥同時田植機(側条施肥田植機)を用いて、水稲の移植と同時に苗
の横2∼5cmの位置に深さ3∼5cm下にすじ状に肥料を施用する施肥法である。肥効調節型
肥料または肥効調節型肥料に速効性の化学肥料を併用して、生育期間中に必要な肥料の全量を
移植時に施用するのが肥効調節型肥料を用いた側状施肥による全量施肥栽培である。本技術に
用いられる肥効調節型肥料は、ほとんどが被覆肥料である。
被覆肥料は、肥料粒の表面を水の浸透が遅い皮膜で被覆することにより、成分の溶出を制御
する肥料である。尿素等を用いた被覆窒素肥料と高度化成等を被覆した被覆複合肥料があり、
それぞれの代表的な肥料を表51に示した。
側状施肥は、苗の近傍
に施肥されることなどに 表51 主な被覆肥料
より肥料の利用率が高ま
る、また、機械作業によ
被覆肥料
被覆窒素肥料
り移植と基肥施用を同時
に行うので、通常の手作
LPコート、エムコートS、セラコートU、 シグマコートU、
ユーコート
被覆複合肥料
ロング、コープコート、シグマコート、 セラコートCK
業による基肥施用が省略
される。さらに、肥料成分が少しずつ長期にわたって供給されるため肥料の利用率が高い被覆
肥料を用いた全量基肥施肥栽培では、追肥作業も省略され、肥料の利用率のいっそうの向上が
期待される。
(高橋 茂)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
95
15.養液土耕栽培による施肥量の低減
1)普及事例
1 技術名:養液土耕栽培による施肥量の低減
2 作物名:イチゴ
3 普及面積:85a(農家戸数8戸)
4 具体的内容:
イチゴ栽培に養液土耕(かん水同時施肥栽培)を導入し、省力・低コスト栽培と減肥によ
る環境に優しい農業を実践している。
養液土耕栽培により、ほ場毎の土壌条件とイチゴの生育ステージや気象条件に合わせた施
肥・灌水管理を行っている。その結果、施肥量は従来の約半分に低減でき、また、収量や果
実品質については慣行とほぼ同等を確保している。
当地域では、イチゴの高設栽培も普及しつつあるが、土壌の緩衝能等の土耕の良さが活か
されていることから、土耕にこだわる生産者を中心に普及が進んでいる。
かん水・施肥労力の省力化や、イチゴの生育が良く揃うことによる生産性および品質の向
上が期待されている。
養液土耕栽培を行うには給液システムに対する理解が不可欠であるが、十分に会得できて
いないケースもある。したがって、より安価で誰にでも簡単に使用できるシステムが要望さ
れている。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)はじめに
養液土耕は、作物の養水分要求に合った液肥を与えて栽培する方法である。通常行われる
基肥などは、原則として与えない。養液土耕により、根圏の土壌を好適に維持管理する(図
51)ことを通して、施肥
の効靴・塩類障害の回 顕拠11
・ックウール栽培に較べ 叢、醐 曜\鞭
ると設置に要する費用は
鍮
少なくて済む。
(2)養液土耕のメリット
が1欝灘鷺麓諜i
最適制御
施肥を節減することがで
きる。 図51 養液土耕の養水分管理
96
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
i点滴チューブ
i潅水用配管i
畝
i電磁弁い
水量計
肥料
タンク
ポンプ!
フ
水 イ
減圧弁
£
液肥
混入器1
酔
源 ル
タ
図52 養液土耕の配管システム例
塩類障害回避:要因は上と同じであるが、バランスの取れた養分管理が実現されるので、
塩類障害が生じなくなる。
生産安定・向上二根圏の養分環境が安定して好適に維持されるようになるので、作物の生
育が良くなり、生産が安定・向上する。
省力:作物の株元への施肥・追肥作業が不要になるので、その分省力できる。節減の程度
は栽培環境によって様々であるが、上記イチゴ栽培の事例では、施肥管理について20時間、
潅水管理について60時間、合計80時問/10a/作程度であった。
技術が比較的簡易:水耕やロックウール栽培などと比較すると、土壌の緩衝力を利用でき
るので、大きな失敗が起こりにくく、技術の導入が容易である。
導入コストが安い:土壌をそのまま使えるなど、水耕栽培などと比較すると、導入にかか
るコストが少なくて済む。様々な市販システムがあるが、上記事例では栽培面積10a当り
120万円程度であった。
(3)養液土耕のデメリット
特にないが、配管と潅水施肥システムの管理について、若干の知識が必要になる。
また、使用する水質によっては、点滴チューブに目詰まりが生じたりして、潅水システム
の管理に手間がかかることがある。
なお、作物の種類によって、また収穫物の品質にからめて特殊な制御をする場合などにつ
いては、潅水施肥の基準や、水分・ECを測定する方法などが確立されていないものがある。
(伊藤純雄)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
97
16.作付体系による土壌養分の有効利用
1)普及事例
1 技術名:作付体系による土壌養分の有効利用
2 作物名:レタスースィートコーン
3 普及面積:40h a
4 具体的内容:
レタス収穫後のほ場で、マルチ、トンネルをそのまま使い、イネ科作物のスィートコーン
を作付けすることで前作レタスの残存肥料養分を回収する。収穫後のスィートコーン茎葉は、
そのままトラクターでほ場にすき込み、土壌への有機物供給や物理性の改善を図っている。
一部ほ場では、レタス・スィートコーン・水稲の水田三毛作により、水田の高度利用を図
っている。
トンネル、マルチをレタス栽培とスィートコーン栽培で共用するので、生産コストが軽減
できる。スィートコーンは、手間の掛からない収益性の高い転作作物として、技術的にも確
立し定着している。
2)普及している技術に関連した研究成果
スィートコーンの窒素施肥量は、多くは10a当たり20kg前後から30kgの範囲である。しか
し中には、化学肥料由来の施肥窒素が40kgに達する事例もある。これに対して、窒素吸収量は
ほぼ15∼20kg弱であるため、スィートコーンの養分収支はプラスとなり、跡地には肥料養分が
残存する。また、スィートコーンの収穫期における雌穂部分と茎葉部分の窒素割合はほぼ1:
1であることから、収穫後の茎葉を土壌に鋤込んだ場合、吸収した窒素の半分程度は土壌に返
されることになるQ
表52は窒素を0と30kg/10a施用した場合のスィートコーンの茎葉重、窒素吸収量、跡地土
壌に残っている窒素量等を例示した。
表52によると、窒素を30kg施用すると、スィートコーン収穫跡地には約26kgの無機態窒素
が残り、これにスィートコーンの茎葉が鋤込まれると窒素量は33kgに達する。このような跡地
に水稲を作付けすると、代かき、田植え時の入水により土中の硝酸態窒素の多くは流亡し、環
境保全型農業に反することになる。また、スィートコーン茎葉の全量鋤込みは、ほぼ1t/10
a程度の堆肥(乾物率40%、C/N比は20の後半)投入に相当すると推測される。
表53に示すように、クリーニングクロップにはイネ科作物が多く利用される。また、これら
作物は、土壌養分の回収、
溶脱の軽減のほかに、土 表52 スィートコーンの茎葉乾物重、窒素吸収量および
壌侵食の防止・軽減、土 作付跡地の残存無機態窒素量
(kg/10a)
壌の物理性・生物性の改
窒素 茎葉 窒素 残存無機態 茎葉を鋤込んだ場合に
善・有機物の補給・雑草 施用量 乾物重 吸収量 窒素・ 付加される推定窒素量
制御などの多面的な機能
0 360 5.2 4.8 2.6
が期待されている。 30 530 15 25g 75
冬作のクリーニングク ・・0∼60cmの土層における風乾土重を500t/10aとして算出した。
98
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
ロップはムギ類が主体に
なる。中でもライムギは
耐寒性に優れ、晩播適応
性が高い、深根性などの
特性を有することから各
表53各種クリーニングクロップ(養分回収植物)の
肥料成分吸収量
播種 刈取 生育量
作物名
時期 時期 Dt/10a
ライムギ 9月 5月
1.1
吸収成分量kg/10a
N
P205
19.7 5.7 26,1
種条件下でも導入可能で
ライムギ 11月 4月
ある。夏作にはトウモロ
デントコーン 5月 9月
1,6∼2.1
17.9∼23。4 6.6∼11.1
ケナフ 6月 10月
1.7∼1.8
19.7∼240 一
コシ、ソルガムなどが用
0。23
K20
9.32 一 一
いられるが、最近、線虫
害の軽減・
回避と養分の回収を目的にして、サッマイモネコブセンチュウの対抗植物植物のギ
ニアグラスを導入している地域がある。
クリーニングクロップは家畜の飼料などに利用できるが、多くは、圃場に鋤込まれる。この
場合、鋤込まれた植物体由来の養分を効率よく後作物に吸収させ、全体として肥料の投入量を
削減していくことが重要である。クリーニングクロップを鋤込んだうえに、今までと同量の施
肥管理を行うならば、クリーニングクロップ導入の意昧はない。
(山本泰由)
99
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
鮨第3節 除草剤・植物調節剤低減技術
1.アイガモによる雑草防除
1)普及事例
1 技術名:アイガモによる雑草防除
2 作物名:水稲
3 普及面積:1.5h a
4 具体的内容:
水稲で有機栽培を実践しようとする場合、一番障害となるのは除草対策である。そこで、
雑草対策としてアイガモを10a当たり10羽の割合で、移植後14日∼出穂期まで放飼した。ア
イガモ放飼は、除草効果だけでなく、ウンカ等の害虫も補食するため殺虫剤の代替にもなり、
化学合成農薬削減率は100%である。
施肥体系は、冬期に牛ふん堆肥を2t/10aすき込み、基肥なしで穂肥に有機質肥料を使
用し、化学肥料削減率を100%としている。
以上、アイガモを活用することで有機栽培が可能となっており、消費者二一ズに合った米
として付加価値をつけることができる。
しかし、アイガモはヒエを食べないため、暑い時期にほ場でのヒエ抜き作業が必要となる。
また、アイガモほ場には、逃鳥防止ネット、犬等からアイガモを守るための電柵ネットを張
る必要があり、コストがかかる。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)アイガモの除草効果
通常、アイガモの放飼は水稲移植後2
週間から3週間目に行われ、出穂期に引
き上げられる。一年生雑草に対する除草
効果は高く、慣行の除草剤一発処理に比
べて遜色のない除草効果を示す(図53、
図54)。アイガモの除草効果は、アイガ
面の撹乱、濁り水の発生によるが、イネ
科の雑草は食べないのでノビエに対して
は効果が低いとされる。ただし、除草剤
_ 一 _ 一 r 一 一 一皿 『 − P』■
84
72
密む
一 一 『 』 『 一 8月【31」
皿July20,1992一一 一一’□Augusし13,1992’
・お60
ぽ
度848
36
24
12
耳胃牒罪
一 一 一
モによる雑草摂食と水掻きによる土壌表
本
No.
120
108
96 7月20口
_ 一 一一 ■ 一 ー マ 曹9 一
0
対照区農薬区合鴨区 対照区農薬区 合鴨区
の効果が処理後40日(移植後約50日)程
ConLrol Agro−A‘8α肌o Conしrol Agro− A‘9α肌o
chemic&正s chemicals
度しか持続しないのに対して、アイガモ
■カヤツりグサ垂タイヌビエ 繕キカシグサ
では除草効果が出穂期まで持続するとい
う特徴がある。
(2)雑草群落の変化
3年間にわたってアイガモ農法田の土
Chufa Echinochla Tooしhcup
騒アゼナ ロミゾパコベ 黙ヒメミソパギ
False Long sしemmed Red sしem
plmpemel waしer−WQrし
図53 実験水田における雑草の種類と密度
(萬田ら、1993)
100
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
200
れ
ユ
120
*
*
N 100
1
8150
目 80
浬60
**
畑40
葦
鼻
課50
**
撰20
掛
婁o
蕪 0
1994調査年 1996 1994調査年 !996
麟100
*,**は,それぞれ処理区間に5%,1%レベル(t検定)で有意差があることを示す.
日無処理区,踊アイガモ.
図54
アイガモの放飼が水田における雑草の発生におよぼす影響(磯部ら、1998)
壌からの雑草発生数を調べた結果
i2000
では、コナギ、キカシグサなどは
10000
**
ロアイカ’モ農法
減少したが、カヤツリグサ科、チ
しなかった(図55)。年次別発生数
は、アイガモ農法田、慣行田とも
に年次とともに減少したが、3年
目の減少は慣行区の方で大きかっ
図慣行農法
8000
ョウジタデ、ヒメミソハギは減少
毛
癒
暑
6000
*
4000
**
た(図56)。熊本県矢部町での調査
**
**
*
2000
*
0
結果では、アイガモ農法の継続年
数が5年以上の水田では慣行農法
田よりも土壌からの雑草発生数が
少なかった(図57)。
農法の違いによる草種別発生数(浅野、2001)
図55
**、*はt一検定による1%、5%で有意差が
(3)アイガモの必要羽数
あることを示す。
アイガモの10a当たりの放飼羽
60000
数を10、!5、20羽と変えても、除
草効果、水稲の生育・収量に差は
O I994年跡地
a
01995年跡地
50000
なかった(表54)が、飼育中に死
亡することを考慮して20羽程度が
40000
放飼されている。
壇
(4)害虫防除効果
\ 30000
無
鹿児島県で調査した結果では、
粁
セジロウンカの発生密度は顕著に
20000
ロ1996年跡地
49983
a
32513
b
20764
b
25022
C
l5780
減少するが、ッマグロヨコバイの
発生密度は当初減少するが、後半
C
10000
7067
には増加すると報告されている
0
(表55、表56)。
アイガモ農法 慣行農?去
(5)経済的評価
同じ耕作者の減農薬田(除草剤
使用1回、殺虫・殺菌剤使用3回
図56
農法の違いによる年次別発生数(浅野、2001)
同一農法において同じアルファベット問は、Tukey
法5%水準で有意差がないことを示す。
101
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
6000
a
5000
4000
b
b b b
ミ
b
C
麟3000
粁
C
C
2000
1000
0
’い遽続卑数’へ欝
修
図57 アイガモ農法の継続年数と全雑草の発生数(浅野ら、2001)
同一アルファベット問は、Turkey法5%水準で有意差がないことを示す。
表54 合鴨放飼羽数別除草効果と水稲の生育収量(村山ら、1995)
㎡当たり雑草量
10a当たり
本数 乾物量g
放飼羽数
10羽
無放飼
332
放 飼
77
(%) (cm) (cm) (本/菰) ×100 (%) 重g (kg/a) (%)
74.0
0.00 70 18.3 388 298 79 20.5 46.5 100 8.3
3.0
0.22 72 19.1 434 315 76 20.8 49.8 107 8.6
15羽 無放飼 561 17.2
放 飼 0 0.0
20羽
欠株率 稗長 穂長 穂数 ㎡当たり 登熟 玄米 玄米 無放 屑米
籾数 歩合 千粒 重 飼比 割合
合鴨処理
0.00 70 19.0 389 311 71 20.4 44.8 100 8.9
0.52 73 19.2 431 317 72 20.5 48.3 107 9.6
無放飼 615 84.0
0,00 73 18.2 387 313 79 20.3 46.1 100 8.9
放 飼 49 1.1
1.08 75 18。4 458 334 73 20.2 49.1 107 11.4
表55 セジロウンカ成虫の発生頭数(mぞ)の推移(0.45㎡×5区)(中釜ら、1993)
月/日
合鴨放飼区
無放飼区
7/4
2.2±2.2
38.5±12.1
7/10
7/20
7/30
6。1± 2.4** 84± 0。8* 4.0± 1.8**
23.7± 3.5 27.7± 7.3 42.2± 7.3
8/9
4.8±1.8
2.2±1.0
平均値±SE。*、**無放飼区に対して5%および1%水準で有意差があることを示す。
表56 ツマグロヨコバイ成虫の発生頭数(m遭)の推移(0.45㎡×5区)(中釜ら、1993)
月/日
合鴨放飼区
無放飼区
7/20
7/30
8/9
8/19
9/10
0.0±0.0
1,3±0。5
3.5± 1.1*
4.8±0.8
5.7±1.9
6.2± 1,6
3.1±0.9
0.4±0.4
3.1±0.9
2.2± 1.0
102
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
表57 合鴨稲作の収益性(浅野、2001より抜粋して作成)
2
農家番号
栽培法
実施年
作付面積(a)
水稲品種
苗移植法
合鴨稲作
減農薬稲作
1998
1998
78
80
ヒノヒカリ
コシヒカリ
成苗ポット
稚苗
放鳥羽数(羽/10a)
17
水田放飼期間中の合鴨生存率(%)
81
玄米収量(kg/10a)
450
415
粗収益(円/10a)
125,550
195,256
125,550
181,493
コメ
合鴨肉
13,763
投下労働時間(時/10a)
慣行(減農薬)稲作と共通の作業
合鴨稲作独自の作業
育雛・水田放飼期
肥育期
28.9
45.6
28.9
25.3
20.3
19.8
0.6
物財費(円/10a)
慣行(減農薬)稲作と共通の費用
合鴨稲作独自の費用
外敵防除資材などの減価償却費
50,571
61,052
50,571
48,058
12,994
4,419
その他(飼料費など)
8,575
所得(円/10a)
74,979
134,204
1日当たり家族労働報酬(円)
18,083
21,604
以内)とアイガモ農法田を調査した結果では、
100
アイガモ田では単収が8%減少し、10a当たり
投下労働時間は58%、物財費は21%高くなるも
●
のの、より高い10a当たり粗収益の実現によっ
て収益性(特に10a当たり所得)も高くなって
割
高くなる主な要因は、①玄米60kg当たり農家
手取額(コシヒカリ26,240円)が、減農薬米
(ヒノヒカリ16,740円)を9,500円上回り、②ア
イガモ肉の収入(農家手取額950円/羽、
13,763円/10a)が加わることによる。
(6)アイガモ農法の長所、短所
Y=一15.5×+109.8
●
被
害
いる(表57)。アイガモ稲作において粗収益が
r竃一〇.833曹舎
●
●
株50
●
●
●
●
合
● ●
%
●●
●●
0
●
2 3 4 5 6 7
水深(cm)
図58 合鴨による水稲被害と水深の関係
(中釜ら、1993〉
無農薬栽培が可能であること、消費者に与え
る印象が良いことが長所である。短所としては、野犬などからアイガモを守るために電気柵
の設置が必要であること、稲株が踏み荒らされて被害を生じる場合があること(図58)、ノ
ビエに対して効果が低いことがあげられる。また、アイガモに起因する問題ではないが、通
常有機質肥料の施用が併せて行われるため、窒素が後効きして玄米窒素含量が上昇し、食味
103
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表58 収穫時期の違いによる玄米のタンパク質含有量
(浅野ら、1999より抜粋して作成)
栽培場所 品種
愛川町 コシヒカリ
平塚市 キヌヒカリ
農法 収穫時期
タンパク質含有量
%(D。W,.)
一10
8.5
アイガモ ±〇
8.3
+10
7.8
−10
慣行 ±0
6.8
+10
6.6
一10
7.5
アイガモ ±〇
7.3
+10
7.3
−10
7.7
慣行 ±0
+10
6.7
7。6
7.5
が低下する場合がある(表58)ことである。これらの間題のなかには、農家の慣れ、収穫時
期の変更、消費者の理解等である程度解決が可能であるものもある・
(参考文献)
1.浅野紘臣ら.(1999) アイガモ栽培における水稲の収穫期の違いが米の外観品質および
食味に及ぼす影響.日作紀、68、375−378.
2.浅野紘臣.(2001) アイガモ農法連用水田における雑草の発生数の変化.雑草研究、46、
13−18.
3.浅野紘臣ら.(2001) アイガモ農法水田の継続期問と草種別発生数の変化 一熊本県矢
部町の事例一.雑草研究、46、19−24.
4.磯部勝孝ら.(1998) 栽培法の違いが水田における雑草の発生と水稲の生育・収量にお
よぼす影響 一特にアイガモ農法に着目して一.日作紀、67・297−30L
5.井上憲一.(2000) 合鴨稲作の収益性比較と作付規模の規定要因。農及園、75、1213−
1218.
6.中釜明紀ら.(1993) 合鴨放飼が普通期水稲の生育・収量に及ぼす影響。日作紀、62
(別2)、15−16.
7.萬田正治ら.(1993) 合鴨の水田放飼による雑草および防虫効果.日本家禽会誌、30、
365−369.
8。村山寿夫ら.(1995) 高冷山問地における無農薬米生産技術 第3報 合鴨放飼による
合理的有機栽培米(無農薬米)の確立.九州農業研究、57、16.
(児嶋 マ青)
105
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
育し得ないという知見(表59)に基づいて考案された。現在、紙マルチ田植機は農機各社か
ら市販されている。
(2)紙マルチの雑草防除効果
紙マルチは一年生雑草などの防除に有効である(図60)。ノビエなどは発芽するが、2∼
3週間で黄化・枯死する。しかし、湛水条件にして紙が田面から剥離すると効果は劣る(表
60)ので、節水栽培を行って紙を地面に密着させるのが効果的である。移植後3週間程度被
覆すれば残草はなくなる(図61)ので、紙マルチの分解まで40日以上を要することから除草
効果は十分持続する。ただし、紙マルチの隙間や破れがあれば雑草は発生する。
(3)水稲の生育に及ぼす影響
無着色マルチは地温、特に最高地温の上昇を抑える(図62)ので、水稲の初期生育がやや
遅延する(表61)。黒色マルチの場合は、マルチがない場合と同等に地温が上昇する(図63)。
40
30
9
油
□他多年草
) 20
細
尽
鯉
ロ ホタルイ
国他一年草
ロ ヤナギタデ
田 コ ナ ギ
10
團 イ ヌ ビエ
0
曜■ “
黙
㌧
無 黒 除
着 草
色 色 剤
無
除
草
無 黒 除 無
無 黒 除 無
着 草 除
着 草 除
色 色 剤 草
色 色 剤 草
平成8年
平成9年
平成7年
図60 最高分げつ期頃の雑草発生量(土田ら:1999)
注)除草剤=無マルチで初中期一発処理除草剤を一回使用・
無除草=無マルチで除草剤無施用
表60 田面被覆法が雑草の発生におよぼす影響(湯谷ら、1993)
雑草発生量(乾物量g/nf,%)
区 名
(%)
ノビエその他計比率ノビエその他計
再生紙密着 96、0
t
再生紙遊離
0.1 0.9 0.9 2
黒色再生紙 99.8
0.1 0
不織布 ll.2
0.1 6.2 6.3 14
無 処 理
処理後48日
処理後28日
遮光率
0.1 0.6 0.7
0.5 0.5 1
0.1 0
15.0 29.0 44.0 100
t
3.0 3。0
0
0
t
20.0 20。0
0
1
0
8
157.6 87.2 244.8 100
注)比率:無処理区に対する比率
処理の内容 再生紙密着:再生紙が田面に密着するように被覆
再生紙遊離:田面上約2cmにアクリル板を固定し、再生紙で被覆
黒色再生紙:再生紙の表面に墨汁を塗り、田面に密着
不織布:不織布で田面を被覆
0
比率
106
第2号(2002.ll)
中央農業総合研究センター研究資料
肇位・千
2.5
残
2
草
生
1.5
重
1
里
9
/
臼,5
m2
聖塗■
巳
+ 7 +14 +23 +28 +36 無除去
マルチ除去の移植後日数
囮ヒ工 剛ホタルイ 図コナギ吻その仙広葉
マルチ除去日と収穫期の残草量(湯谷ら、1993)
図61
27
一胃無マルチ
一無着色
25
色
、
9
」
’ 、
‘
、
」、、
8 、 ■
」 8 v 覧
‘ 、
一 鳳
,
一 1
、、 、
) 21
鵯
爵
ひ
A 『
ρ 、1
一 覧
9
,
罵
、箪
亀膠 、
23
∼、9
’●5覧
一黒
『
曽
、
19
陰
8
9
、
17
15
5/10
5/17 5/24 5/31 6/7 6/14 6/21 6/28
図62 地温の日変化(小林ら、1993)
表61
水稲の茎数および収量に及ぼす紙マルチの種類の影響
(土田ら、1999 より抜粋して作成)
精玄米重
茎数・穂数(本/m2)
施肥 マルチ
(kg/10a)
移植30日後
H7 H8 H9
H7
H8
H9
無
262 279 213
533
545
558
化肥 黒色
292 246 248
523
592
無着色
253 231 168
543
575
607
582
無
242 268 167
有機 黒色
274 285 234
無着色
200 175 117
534
557
509
549
599
543
481
551
525
107
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
論
28
/P、・
!− 、,h ㌦「
温26
.!/’ く=、.
,・γ 』ト
」シノ
24
度
、_ 一一で
22
℃ 2a
18
16
4 5 6 7 8 9 10 U 12 13 14 15 16 17 18 19 2G 21
時 刻
一移植後12日マルチ区 …移植後55日マルチ区
無処理区 一 無処理区
図63 平均地温の推移(5cm深)
(4)労力および経費 表62 再生紙マルチ移植栽培のコスト
紙マルチ田植機栽培では、再生紙の装着 (httP=”membemi丘y・nejP/TKRICE/newsl
rep2−4.htmより)
と交換の手間の分、労働時間がわずかに増
加するが、手取除草に要する労働時間を大 紙代 10aあたり 20,000円
幅に節約できる。経費としては除草剤費に 田植え専用機 (2・800・000円)
通常経費 減価償却費反あたり 9,000円
替わり、再生紙代が10a当たり2万円必要
減収量10∼15% 20,000円
となる・加茂有機米生産組合の事例(表62) 合計 49000円
では・差し引き10a当たり2万円のコスト 労働費3日×&000円 24,000円
増となっている・ 削減費 薬剤費反あたり 5,000円
合計 29,000円
(参考文献)
1.小林勝志ら.(1993) 再生紙マルチ水稲栽培について 第3報 再生紙マルチが肥効と
生育に及ぼす影響.日作紀、62(別1)、32−33.
2.土田 徹ら.(1999) 再生紙の色の違いが雑草抑制効果及び水稲の生育・収量に及ぼす
影響.新潟県農業総合研究所研究報告、第1号、23−27。
3.津野幸人ら.(1993) 水稲の再生紙マルチ栽培の理論的根拠ならびにその応用試験.日
作紀、62(別1)、28−29.
4。三谷誠次郎.(1995) 再生紙マルチ田植機の開発研究 第1報 再生紙マルチ田植機の
試作と機械的特性.鳥取農試研報、25、1−7。
5.湯谷一也ら.(1993) 再生紙マルチ水稲栽培について 第2報 水田雑草の発生におよ
ぼす影響.日作紀、62(別1)、30−31.
6.加茂有機米生産組合。 紙マルチによる稲作り.http://member.nifty.nejp/TKRICE/
news/rep2−4.htm.
(児嶋 マ青)
108
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
3.訪花昆虫の利用(トマト)
1)普及事例
1 技術名:訪花昆虫(マルハナバチ)の利用
2 作物名:トマト
3 普及面積:約75h a(農家戸数317戸)
4 具体的内容:
施設トマトの受粉にマルハナバチを利用している。市販の蜂(巣箱)を購入し、雨露の落
ちてこないような乾燥した場所を選んで、日よけを巣箱の上に置いて静置する(蜂の巣が到
着してから最低2時間、できれば翌朝まで)。1群(女王蜂1匹、働き蜂約50匹)当たりの
導入適正面積は1000∼2000nfで、静置後、巣門を開放するとハチは順々に巣箱から出てくる。
蜂の活動は、ハウス内を蜂が飛んでいるか否かでは判断せず、蜂の後ろ足に花粉団子がつ
いているか、覇の部分に茶色の傷(バイトマーク)がついているかどうかで判断する。
その他、蜂は臭いと振動に敏感であるので、農薬の残効が切れていても、ハウス内に農薬
の臭いが残っていると巣箱から出てこないことがあり、また巣箱の中で正常に幼虫が発育し
ていないと、たとえ親蜂が生きていても活動しなくなることがあるので、農薬散布や温度を
はじめとするハウス内環境の適正化に努めることが重要である。
マルハナバチの利用により、栽培者にとって非常に手間を取っていたトマトトーン等のホ
ルモン処理を行う必要がなくなり、省力化された。ただし、マルハナバチ導入後1週間程度
は蜂の活動が十分でない場合もあるので、ホルモン処理を併用することが望ましい。
また、ホルモン処理では種子が果実中に形成されないため、ゼリーの充実が十分でないこ
とがある。マルハナバチで交配させたトマトは、種子の形成に伴い、ゼリーが充実して、空
洞化が少なくなる。また、ビタミンC含有量や糖度も上昇する。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)セイヨウオオマルハナバチ
マルハナバチは、ハチ目ミツバチ科マルハナバチ類の昆虫の総称である。体はミツバチよ
り一回り大きく、体表は部分ごとに、黒、茶色、黄色、白などの長い毛でおおわれている。
マルハナバチは、北半球の寒帯∼温帯に多くの種が分布している。日本列島にも!4種のマル
ハナバチが分布しており、それぞれの舌の長さに応じてさまざまな野生植物の花粉媒介に重
要な役割を果たしている。
セイヨウオオマルハナバチは、ヨーロッパに生息する舌の短いマルハナバチである。日本
には温室トマトの授粉に利用するため、原産地のオランダやノルウエーから大量にコロニー
(女王を中心とする家族)が輸入されている。マルハナバチを使えば手間のかかる植物ホル
モン剤処理をしなくてもトマトを結実させることができるため、農家には大いに歓迎され、
本格的な輸入が1992年に始まってからその使用量は急激に増加し続けている。現在、年問3
∼4万コロニー(推定)が輸入されている。
出典:http://meme.biology.tohoku.acjp/SHINKA/INFO/B2.htm1
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表63
109
農薬散布の注意表(http〃www.ruralnet.orjplsizai/tomen/natupoIe/natu.htm)
難離講蜷勲難翻蒙
農薬散布は、次の表にしたがって薬剤を選ぶ。
散布の前夜にハチの出入り口を閉めてから巣箱をハウス外に出し、翌日散布する。
十分な日数をおいたのちに、再び巣箱を導入する。
殺虫剤(剤型)
系統分類
使用倍率(倍)
ゼンターリ(穎粒水和)
BT
アプロード(水)
IGR
1000∼2000
オレイン酸ナ
100
オレート(液)
登録対象害虫
トマトでの
コナジラミ
マメハモ
グリバエ
アブラムシ
1000
その他
ハスモンヨトウ
○(幼虫)
マルハナ
バチとの
使用間隔
1日
1日
○
1日
トリウム
モスピラン(水溶)
クロロニコチ
2000
○
1000∼1500
○
○
1日
○
1∼3日
1∼3日
ニル
サンマイト(フロアブル) ピリダベン
ピリマー(水)
カーバメート
マブリック(水)
合成ピレスロ
2000∼3000
4000
○
0
1∼3日
イド
ジブロム(乳)
有機リン
1000
○
○
1∼3日
サイハロン(乳)
合成ピレスロ
2000∼3000
○
○
4日
1500∼2000
1000
○
○
0
3∼5日
3∼5日
3∼5日
○
7日
イド
モレスタン(水)
キノキサリン
アリルメート(乳)
カーバメート
DDVP(乳)
有機リン
1000∼2000
カスケード(乳)
IGR
2000∼4000
マリックス(乳)
有機塩素
800∼1000
アグロスリン(水)
合成ピレスロ
2000∼3000
○
○
9日
1000∼2000
○
○
9日
1000∼2000
○
O
9日
1000∼2000
○
○
10日
定植時2g/株
○
○
20日
○
7日
イド
アデイオン(乳)
合成ピレスロ
イド
合成ピレスロ
ロデイー(乳)
イド
ベストガード(水溶)
クロロニコチ
ニノレ
(粒)
オルトラン(水)
有機リン
ダイアジノン(乳)
1000∼2000
定植時1∼2g/株
(粒)
有機リン
○
2000
○
10∼20日
O
14∼30日
○
4∼69/m2
(粒)
15∼17日
コガネムシ
○
30∼32日
スミチオン(乳)
有機リン
1000∼2000
マラソン(乳)
有機リン
2000∼3000
ジメトエート(乳)
有機リン
トレボン(乳)
合成ピレスロ
1000∼2000
1000
O
2000
O
○
30日
定植時1∼2g/株
○
O
35日
15∼20日
O
15∼20日
○
15∼20日
21日
イド
アドマイヤー(水)
クロロニコチ
ニル
(粒)
殺菌剤
いずれの殺菌剤も、散布する際は巣箱をハウス外に出しておき、翌日再導入する。
(参考資料;第3回マルハナバチ利用技術研究会発表資料ほか)
*上記の使用間隔はあくまで目安である。農薬の分解速度はハウスの換気、気温、天気次第で異なる。
110
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
(2)適正使用面積
大玉トマト:1群で1,000∼2,000㎡。
ミニトマト:700∼1,400㎡。
冬場のいちご:1,000∼2,000nf。
(3)薬剤散布について
注意表を表63に示した。
(4)マルハナバチ導入と着果ホルモン処理回数
施設ナス栽培でのデータがある。マルハナバチを栽培期間中に2回導入するとホルモン処
理回数は1回ないしO回となる。これに対し、慣行処理区でのホルモン処理回数は6回であ
った。
(資料収集:守屋成一)
111
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
4.地被植物による雑草防除
1)普及事例
1 技術名=地被植物による雑草防除
2 作物名:水稲他
3 普及面積:約1200rゴ(畦畔部の面積)
4 具体的内容:
水田畦畔に防草シートをマルチして、シバザクラを植え付けることにより、雑草管理の省
略化と除草剤散布の軽減を行っている。シバザクラは、定植後2年目には畦畔を100%被覆
し、緑のマット状になる。草丈が低く、耐寒性・耐乾燥性に優れ、病気にも強く、カメムシ
等の生育場所とはならない。この方法により、中山間地域の水田畦畔で通常実施される3∼
4回の除草作業が軽減される。
また、田植時期の5月には畦畔のシバザクラが開花し、景観の向上が図られる。
このように、シバザクラを導入することにより、畦畔の雑草発生が少なくなり、斑点米カ
メムシ等の水稲害虫を抑制できるとともに、景観向上も図られる。また、除草剤の散布が減
り、環境負荷が少ない。
しかし、取り組み開始の段階でコスト(苗代・シート代等)がかかる。
現在は部分的に行っているが、土地改良等により、大規模で行えるための条件整備が必要
である。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)水田畦畔の雑草管理
日本植物調節剤研究協会が平成4、5年に実施したアンケート調査によると、畦畔管理方
法としては草刈りのみの実施が最も多く59%を占め、草刈りと除草剤の併用が39%であった
(表64)。平均では約4回の草刈り(または除草剤散布)を実施している。10aの水田の畦畔
草刈り1回に要する時
間は50分で、除草剤散 表64 畦畔雑草管理の方法と回数
布は26分であった(表 (平成5年植調協会アンケートによる)(土田・1997)
65)。高齢化が進行し
ている稲作農家にとっ
割合(%)
管理内容
回/年(草刈り+除草剤)
59
3.5
てはかなりの負担であ
草刈りのみ
草刈りと除草剤の併用
39
4。2(2.8+1.4)
る。さらに、中山間地
除草剤のみ
0.6
2.0
域においては、基盤整
全体
一
3,8(3.2+0.6)
備により畦畔面積の割
合が増加し、しかも傾 表65 1回の水田畦畔防除にかかる平均所
斜した法面の雑草管理 用時間(平成4年植調協会アンケートに
よる)(土田、1997)
も必要なことから、近
年大きな問題となって
いる。
草刈り
除草剤散布
50.0分/水田10a
26.3分/水田10a
112
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
美観を損なわず、しかも省力的な畦畔雑草管理の一方法として、地面を被覆する性質の植
物(グランドカバープランッ)の栽植が各地で実施されている。これは光の透過率が10%以
下になると、畦畔の一年生雑草の発生がなくなるという知見(表66)に基づいている。
(2)主なグランドカバープランッの特徴
1997年に実施された全国380地区のアンケート調査(参考文献3〉によれば、導入事例の
多いグランドカバープランツ上位5種はアジュカ、シバザクラ、シバ、マツバギク、アーク
トセカの順である(図64)。以下、参考文献1を参考に、その特徴を大まかに紹介する。
アジュカはシソ科の常緑多年草で、草丈は10cm程度。全国に栽植可能で、雑草抑制力は
普通であるが、4∼6月に青紫色の花を咲かせ、鑑賞性が高い。畦畔支持力はやや低く、耐
乾燥性に劣る。
シバザクラはハナシノブ科の常緑多年草で、草丈は10cm程度。全国に栽植可能だが、関
東以北のやや寒い地方に適する。雑草抑制力は高い。4∼5月にピンクや白の花を咲かせ、
鑑賞性が非常に高い。耐寒性は非常に高く、また畦畔支持力も高いが、耐湿害性にやや劣る。
シバはイネ科の多年草で、ノシバやコ
ウライシバなど。全国に植栽可能。草丈 表66 光の透過度と一年生雑草の発生
は10cm前後で雑草抑制力は高い。畦畔 (有田ら・1998)
支持力・耐踏圧性も高いが・耐湿害性が 相対照度
低い。ゴルフ場のような芝生(ターフ) 雑草の種類 100%218%5.8% L5%
を形成するには、年1、
2回の刈り込み
カヤツリグサ
と施肥が必要である。
メヒシバ
オヒシバ
タカサブロウ
マツバギクは常緑草本で、東北以南に
栽植可能である。草丈15cm程度で雑草
252
76
17
14
ノゲシ
12
抑制力は高い。5∼7月にピンクの花を
イヌガラシ
32
咲かせ、鑑賞性が非常に高い。耐暑性、
オオアレチノギク
耐乾性は非常に高く、また畦畔支持力も
3
6
6
0
2
0
18
4
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
注:表内の数字は雑草の発生量(本/m2)
高いが、葉が肉厚で滑りやすく、耐湿害
性、耐踏圧性が低い。
80
1鴛
アークトセカはキク科の宿根多年草
力は大きく、畦畔支持力はやや大きい。
’垂㌧
嫡
灘
地
40
区
耐寒性、耐陰性がやや劣り、冬には地上
数
部が枯れる。
20
蕪懸
鍵講鐵
灘
礎蕩
饗
饗’鄭
た大輪の花を次々と咲かせる。雑草抑制
60
入
驚鍵
30∼60cmで、4∼10月にタンポポに似
欝難灘鐵
で、関東以南に栽植可能である。草丈は
饗
導
−r 曽 F
躍暫1
翻
1翻
糞
翻
饗葎
議響
馨
嚢
騒マ
鍵“
(3)グランドカバープランツ利用の長所・
’礁
短所
O
グランドカバープランツは景観として
労夢 牟宝ヲヂ六ノ・他
優れるものが多いことが最大の特徴であ
アシシマアリバヒクそ
ジババス!ユ1ガロの
ラ ク セ ヒ ナ
カ ゲ
る。春にシバザクラで覆い尽くされた畦
図64導入事例の多いグランドカバープランツ
畔などは観光の名所となるほどである。
(有田ら、1998)
113
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
また、草丈10cm以下の常緑多年生植物が
表67 シバザクラ実証圃100m2当たり
多いことから、ひとたび畦畔を覆う植生を
作業別労働時問(曽田、1996)
形成してしまえば、以降何年問にもわたっ
作業内容
作業時間
てわずかの労力で畦畔被覆を維持できるこ
とである。
除草剤散布
さらに、イネ科以外のグランドカバープ
定
植
とならないので、水稲の斑点米などの被害
手 除 草
が減少することが期待される。
施
肥
ど畦畔を完全に覆うまでに時間と手問がか
水 管 理
かることである。一例として1995年に島根
そ の 他
県で行われたシバザクラ実証圃100誼の作
他の草種でも大差ないであろう。また、生
24。47
46.51
(56.5)
0.25
(0.3)
短所の一番は、育苗、植付、手取除草な
時間など合計82時間を要している(表67)。
(1。8)
(29.7)
ランツであれば、畦畔がカメムシの住みか
業別労働時問は、定植25時問、手取除草46
時間
1。48
合
計
0.27
(0.3)
9.29
(11.3)
82。27
(100.O)
注:()内の数字は%。その他には圃場準備など
が含まれる。
き物であるから夏の暑さと乾燥、冬の寒さ
などで枯死したり、衰弱したりする可能性も、短所として挙げられる。
(4)グランドカバープランツ以外の畦畔被覆法
グランドカバープランツのほかにプラスチック製のシートで畦畔を被覆する方法もある。
防草シートなどと呼ばれ、厚さ1mm程度のシートで畦畔を覆い、雑草の発生や崩壊を防ぐ
ものである。資材費はその耐久性により大きく異なるが、1㎡当たり100∼2000円程度と価
格幅が広い。耐用年数が10年以上のものは1000円以上する。資材費のほかに施工費が必要と
なる。コストの間題もあるが、なんといっても景観として美しくないのが最大の欠点である。
(参考文献)
1.有田博之ら.(1998) 畦畔と圃場に生かすグランドカバープランツ.雑草抑制・景観改
善・農地保全の新技術.農文協.
2.曽田泰弘.(1996) 畦畔除草省力化対策に取り組んで.グランドカバーフォーラム講演
要旨集、23−29.
3.土田邦夫.(1997) 農業環境の雑草管理における生育調節剤利用の可能性.日本雑草学
会第12回シンポジウム講演要旨、45−58.
(児嶋 マ青)
114
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
第4節 その他環境負荷低減技術
1.有機物の循環利用(耕畜連携)
1)普及事例
1 技術名:有機物の循環利用
2 作物名:小麦、ダイズ
3 普及面積:52h a
4 具体的内容:
営農推進協議会が中心となって、基盤整備された水田約52haに3年1巡のブロックロー
テーションを導入している。協議会内には畜産部会があるので、ほ場への有機質の施用によ
る土作りを目的として、平成12年から約17haの転作ほ場に堆肥投入(10a当たり1.5t)を
始めた。なお、地域の稲わら・麦わらや籾殻などは、畜産農家の粗飼料や敷き料などとして
利用され、果樹や野菜作農家ではマルチ資材として活用されている。
このように、水田農業における循環型農業の基礎が構築され、堆肥の投入により水田土壌
が改善されて、転作作物の小麦や夏作のダイズ等は減化学肥料栽培が可能となった。また、
耕畜連携が図られて、堆肥が計画的に地域内で利用されている。
堆肥は冬期の小麦の生育期にマニュアスプレッダーで施用しているが、小麦に対する肥効
が不明確である。
また、堆肥投入経費は!0a当たり約1.5万円であり、生産コストを高める要因となってお
り、転作作物の収益向上が不可欠となっている。
2)普及している技術に関連した研究成果
(!)はじめに
我が国では多くの家畜排せつ物が有効利用されず、一方で化学肥料の過剰施肥という耕
種・畜産業のアンバランスを改善する目的で環境三法が施行されている。そこで各地で家畜
ふん堆肥の農地利用推進事業等が実施されているが、多くは作物の種類、栽培体系、環境等
の耕種側の条件に対して堆肥の種類、成分含量、品質等を考慮した内容とは言い難い。すな
わち、家畜の種類、堆肥成分含量、堆肥の品質(腐熟度等)、窒素の肥効率等を測定・考慮
したものはほとんどなく、得られた試験データから家畜ふん堆肥の効果を科学的に解析する
ことが困難なケースが多かった。今後、堆肥を利用して小麦、大豆、水稲ブロックローテー
ション試験を実施する場合に必要と考えられる畜産サイドの最新情報を紹介する。
(2)家畜の種類、製造方法と堆肥成分・品質
これまでの堆肥利用試験では、堆肥を土壌改良資材として使用しており、堆肥の肥効すな
わち堆肥成分、特に窒素の無機化率や腐熟度を考慮しないケースが多い。またかなりのケー
スでは家畜の種類も不明である。しかし、家畜ふん堆肥の肥効、品質は以下のように家畜の
種類や製造方法の影響を受けるので、これらを考慮して試験設計する必要がある。
(i)家畜の種類、製造方法と堆肥成分
当チームでは、全国の堆肥センター、畜産農家から収集した堆肥試料の分析や寄せられ
115
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
た成分データから、 表68家畜ふん堆肥中の水分、窒素、リン酸、カリウム含量
試料数約900点の家
畜ふん堆肥成分のデ
堆肥の種類
水分%
窒素(N%)
1.9(0.7)
ータベースを作成し
牛ふん堆肥
54.8*(14.3)
ている。
豚ふん堆肥
402(18.0)
その中から牛、豚、
鶏ふん堆肥
25.1(15.4)
リン酸
カリウム
(P205%)
(K20%)
2.3(1.7)
2。4(1.3)
3.0(1.0)
5.8(2.3)
2.6(1.1)
3.2(1.2)
3.5(2,2)
3.5(1.3)
鶏ふん堆肥の平均水 ・平均値、カッコ内は標準偏差
分、窒素、リン酸、
カリウム含量を表68 表69家畜ふん堆肥の窒素、リン酸、カリウム含量に
に示した。また、家 及ぼす添加副資材の影響
畜ふん堆肥にはイナ
牛ふん堆肥
ワラ、オガクズ等の
敷料、副資材を含む
窒素(N%)
リン酸
表的にオガクズ使用
(P205%)
える影響を表69に示
鶏ふん堆肥
オガクズー オガクズ+ オガクズー オガクズ+ オガクズー オガクズ+
ことが多いので、代
が堆肥成分含量に与
豚ふん堆肥
カリウム
(K20%)
2.2*
1.9
3.8
2.5
3.5
3.7
2.9
2.3
7.1
5.4
7.3
6.1
2.9
2.6
3
2.6
3.9
3.1
した。 *平均値
表68で明らかなよ
うに、牛ふん堆肥は特に窒素含量が低く、豚ふん、鶏ふん堆肥は特にリン酸含量が高い。
また表69で明らかなように、副資材、敷料と共に家畜ふん尿を堆肥化すると、窒素、リン
酸、カリウム含量は希釈されて低下する。
堆肥成分は製造方法の影響も受ける。三重県農技センターの原によると、鶏ふん堆肥を
プラスチックハウスと密閉通気式で製造した場合、前者の方がアンモニア揮散量が大きく
なり、窒素含量の低下が大きくなる。また製造期間が長くなれば、アンモニアの揮散によ
り窒素含量が低下する。以上のように、家畜の種類や製造方法の差異によって、成分含量
はかなり変動する。
(ii)腐熟度と肥効率
図65に牛ふん、豚ふん、鶏ふん堆肥からなる家畜ふん堆肥において、BOD(生物学的
酸素要求量)値と土壌中の炭素分解量の関係を示した(新潟県畜産研究所データ)。BOD
の大きい堆肥ほど土壌中の炭素分解量が大きい。これは堆肥においてはBOD値が易分解
性有機物含量と比例するからであり、BODは腐熟度の評価指標として適している。BOD
の高い試料は易分解性有機物含量が高く腐熟が進んでいない。
BODの値から植え付け前の堆肥施肥日をある程度決定することが出来るであろう。
次に家畜ふん堆肥の肥効率に関するデータであるが、これまで、牛ふん、豚ふん、鶏ふ
ん堆肥の窒素肥効率をそれぞれ30%、60%、60%程度と、かなり前に(10年以上前)暫定
的に定めたケースが一般的である。表70に示した肥効率データは昭和58年度の家畜ふん尿
処理・利用研究会で提案されたものである。しかし、この当時の利用堆肥のほとんどが堆
積式施設から取り出された未熟堆肥(厩肥)であり、表70の中でも鶏ふんは堆肥でなく乾
燥鶏ふんである。公立農試が定めた推奨値でも、必ずしも堆肥とは限らず、単に牛ふん、
ll6
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002,11)
250
y=455.93x−38291
200
Σ
∩
150
為
触,
の
、隔癒
日
100
0
0
糧
qコ
50
秦
、灘
0
0 0.l O.2 0.3 04 0.5
25℃30日間炭素分解量(易分解性有機物g/g・DM)
図65 家畜ふん堆肥の土壌中における炭素分解量とBODの関係
豚尿、あるいはふん尿混合物等で表現さ 表70 家畜ふん堆肥の窒素、リン酸、
れている。これでは、家畜ふん堆肥の使 カリウムの肥効率
用に際して混乱する。
窒素(N%)
現在、環境保全関係の諸法律(環境三
リン酸
カリウム
(P205%)
(K20%)
法、悪臭防止法、水質汚濁防止法等)に
牛ふん堆肥
30
60
90
よる規制が強化され、「スクープ式」、
豚ふん堆肥
50
60
90
「ロータリー式」、「密閉・通気式」とい
鶏ふん堆肥
70
70
90
った機械的撹絆・移動による堆肥製造が
多くなっており、悪臭が減少し、腐熟度が増加したいわゆる「高品質堆肥」の割合が増加
している。したがって、作物栽培において単なる土壌改良資材としてでなく、減肥につな
がる緩効性肥料としての利用が可能である。当チームは府県と共同して家畜ふん、生ごみ
堆肥の窒素、リン肥効率を測定中である。具体的に家畜の種類毎に肥効率を提案するには
試験データが不足しているが、できるだけ早い時期に適当な数値を提案したい。なお、肥
効率に影響する堆肥中の可給態(水溶性・速効性)窒素、リン含量については、窒素は5
∼10%(アンモニアと硝酸の合計:当チームデータ)、リンは5∼15%程度(新潟県畜産
研究所データ)である。
(3)小麦、大豆、水稲における堆肥利用
緩効1生肥料効果を評価して家畜ふん堆肥を小麦、大豆、水稲の(三年一巡)ブロックロー
テーションに利用した試験例を見つけることができない。通常、この種のブロックローテー
ションでは、イナワラ、麦桿を圃場にすき込むことにより有機質が供給されるので、土壌改
良資材としての堆肥利用をあえて行わないからであろう。「あえて」と表現したのは、堆肥
の品質が不安定であるため、堆肥の緩効性肥料としての評価、施用量、施用時期等の決定が
困難であり、困難なことをあえて行うことは必要はないという意味である。さらに小麦と水
稲では、特に窒素の重点施肥時期が異なるとか、土壌環境が好気性と嫌気性と対照的である
等の理由で、施肥に工夫を要するという点も堆肥利用を躊躇させるのであろう。すなわち、
小麦では出穂前後に窒素供給を高める穂肥が必要であり、一方水稲では出穂前の生長期に窒
素供給を高めて稲体や葉面積の増加を図るが、出穂後は窒素供給を抑制する必要がある。た
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況 117
だ、大豆については、堆肥利用が根粒菌の増殖に好影響があるとされているので、堆肥利用
が望ましい。
(3)で述べたように、最近製造される家畜ふん堆肥は従来よりも品質がかなり安定化したも
のが多くなっているので、その肥料含量、肥効率、腐熟度を考慮して水田農業に利用するた
めの試験が、今後数多く実施されるべきである。
(生雲晴久)
118
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
2.有機物の循環利用(生ごみ堆肥)
1)普及事例
1 技術名:有機物の循環利用
2 作物名:トマト、ナス、サトイモ、オクラ、モロヘイヤ等
3 普及面積:2h a(今後拡大の見込み)
4 具体的内容:
市内ホテルにおいて生ゴミを堆肥化装置によりコンポスト化し、地元農家グループが定期
的に引き取って、そのままあるいは二次発酵させて畑に投入している。生産された野菜は地
元直売所で市民に供給、一部はホテルの食材として還元されている。
地域内リサイクルが成立したことにより、ホテルでは廃棄物処理コストが低減した。農家
側は、都市化地域にあって肥効の高い有機物が安定的に畑に投入できるようになった。また、
双方のイメージアップにつながった。
双方に熱意がないとリサイクルの輪がつながらないし継続性が危ういので、安易には波及
できない。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)はじめに
「食品リサイクル法」の施行(平成13年5月)に伴い、食品廃棄物再利用の技術開発とネ
ットワークシステム作りが全国で展開されている。総合研究第5チームは、平成10年度から
「食品廃棄物の再利用」に関する調査研究を開始し、現在は「食品廃棄物の堆肥化利用技術
開発」を担当している。生ごみの堆肥化利用技術、システムについては食品リサイクル法の
施行であわただしく構築中で道半ば、というのが正直な感想である。技術、システムの現状
における間題点と対策を当チームの研究内容・成果と関連して述べる。
(2)生ごみの堆肥化と利用技術、利用システムの現状
生ごみ堆肥化・利用の事業、活動例としては、①堆肥センターにおいて家畜排せつ物と生
ごみを混合して堆肥化した後、利用する例(山形県長井市、千葉県銚子市、東京都、岐阜市、
高知県土佐町、宮崎県国東町、綾町、コープ神戸等)、②生ごみだけを堆肥化して利用を行
う例(横浜市、パレスホテル等)がある。これらの多くは公的援助を受けており採算性面か
らの検討は困難であるが、食品リサイクル法施行を受けて採算性を重視した民間企業による
システムが構築中である。これらの生ごみ堆肥化利用システム成立のキーとなるのは農地確
保と堆肥利用マニュアルの策定である。特に、マニュアルはほとんど策定されていないので、
今後堆肥の成分組成等を考慮しながら、農作物の種類栽培方法(露地、施設等)の差異に対
応した栽培試験データを蓄積することが必要である。
(3)生ごみ堆肥成分の特徴
家畜ふん堆肥成分については、畜産農家、堆肥センター、畜産関係者から多くの試料や分
析データが取得できるが、生ごみ堆肥は製造例が少ないので、堆肥試料や分析データが十分
に収集できない。以上のように困難な状況であるが、これまでに得たデータから以下のよう
に、生ごみ堆肥成分の特徴をまとめた。
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
119
(i)成分変動 表71 東京都食堂生ごみ一次処理物1)の
東京都庁食堂の厨芥を24時間発酵処理 成分組織
したものを定期的に成分分析したデータ
意外に成分変動は小さかった。この処理
水分
物は12ケ所の食堂の混合物であり、使用
窒素
原料が平均化したためかもしれない。し
P205
かし、一般的には、原料の種類によって
K20
NaC1
は製造される堆肥成分が変動すると考え
標準偏差
平均値
があるが(表71)、水分含量を除いては
変動係数
(%)
8.89
71.3
3.73
0.17
45
1.19
O.22
18.4
0.81
α15
18.9
1.87
0.33
17.6
12.47
るのが普通である。例えば、魚介類等の 1)約2年間、時期を変えて15回分析したデータで
動物性蛋白質が多いものと野菜、果物の 乾物ベースの値
ような繊維、糖分主体のものでは、窒素
含量は前者が・カリウム含量は後者が大 表72 横浜市事業系生ごみ一次処理物の
きく、厨芥を堆肥化してもその影響は残 成分組織
る。横浜市が実施した生ごみ堆肥化・利
ホテル1
用事業の報告書に記載されたデータの一
ホテル2
青果市場 青果市場
1
2
部を表72に示したが、ホテルと青果市場
窒素
6.34
4.6
3.63
3.31
の生ごみ堆肥の成分を比較すると、窒素
P205
1.32
1.42
1.79
1.26
はホテルが大きく、カリウムは青果市場
K20
0.74
1.05
476
4.62
が大きい。生ごみ堆肥は成分変動が大き
いと短絡的に決めつけることはできないが、トウモロコシ、脱脂大豆を主体に原料組成が
ほぼ決まっている配合飼料を多く採食する家畜の堆肥成分よりは、生ごみ堆肥成分は季節
変化、料理メニュー等の影響で変動が大きいと考えるべきであろう。
(ii)腐熟度
生ごみ堆肥は24∼48時間程度で製造されるものが多い。通常、成分が安定した家畜ふん
堆肥は半年程度で得られるので、生ごみ堆肥の多くは腐熟度が小さく、そのまま直接、農
地等に施用するのは作物成長に有害である。新潟県畜産研究所と当チームの共同研究で堆
肥のBOD(生物学的酸素要求量)を測定したデータがあるが(表73)、生ごみ堆肥は家畜
ふん堆肥よりもBODが高い。BOD値は易分解性有機物含量と比例するので腐熟度の評価
指標として適している。BODの高い試料では易分解性有機物含量が高く、腐熟が不十分
といえる。
㈹ 脂肪、ナトリウム含量
家畜ふん堆肥と比較すると生ごみ堆肥の脂肪含量が約10%、家畜ふん堆肥は1%以下で
ある(表73)。元々、家畜ふんは消化を経たものであるから脂肪含量は低く、一方多くの
料理では油脂を使用するので堆肥化の原料段階で脂肪含量に差がある。この差に加えて、
家畜ふんは生ごみよりも発酵しやすく、さらに発酵期問も一般的に家畜ふん堆肥の方が長
いので、両堆肥間に大きな差が生じたのである。脂肪は発酵しにくく、その含量は発酵進
行の目安になる。すなわち高脂肪含量の堆肥は発酵が不十分であるから、もっと値が低下
するまで追加的発酵が必要である。
生ごみ堆肥については、ナトリウム(食塩)含量が高いことを懸念する向きが多い。た
120
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
だ、家畜ふん堆肥と生ごみ堆肥の食塩含 表73 堆肥中のBOD、脂肪、食塩含量
量データを比較すると、前者が1%前後、
BOD(mg/9) 粗脂肪(%)
食塩(%)
後者が1.5∼2%程度であり、極端に大き
生ごみ堆肥
560
9.4
1.84
な差ではない(表73)。家畜飼料にも食
鶏ふん堆肥
61
0.6
1.07
塩が添加されるので、家畜ふん堆肥にも
豚ふん堆肥
109
0.83
1.05
ナトリウムが一部移行する。生ごみ中の
11
1.02
0.13
牛ふん堆肥
ナトリウム含量が高いと判断しても・ナ 生ごみ堆肥は食堂、給食センタ_、家庭からの約10
トリウムは水溶性であるから、露地栽培 点である・
であれば雨水の洗浄効果により特に作物
成長を阻害するζはいえないだろう。
(4)農地現場における生ごみ堆肥利用
生ごみ堆肥の農地利用プロセスとしては、①堆肥(肥料)成分の測定→②堆肥の腐熟度、
窒素、リンの肥効率評価→③作物への施肥量、施肥時期決定、が考えられる。
家畜ふん堆肥では、①と②についての研究成果が出ているので、生ごみ堆肥についても家
畜ふん堆肥と同様の手法で研究成果が出るものと期待される。
(i)堆肥(肥料)成分の測定
近赤外分光高度計、RQフレックス、全農型分析器等が家畜ふん堆肥の成分測定に用い
られている。近赤外分光高度計は窒素成分の測定に応用可能であるが、他の成分について
は万全とはいえず、また高価すぎる。RQフレックスは20万円位の分析機器であり、リン、
カリウムの測定に利用できる。全農型分析器は、窒素、リン酸、カリウムの他ほとんど全
ての肥料成分等の測定が可能であるが、やや高価格である。
(ii)堆肥の腐熟度、窒素、リンの肥効率評価
前述のように生ごみ堆肥のBODを測定したデータがあるが、試料数が少ない。窒素、
リンの肥効率を測定したデータは見あたらないが、生ごみ原料の種類、家畜排せつ物との
混合割合、堆肥化期間等に影響される。土中における無機化率を測定した横浜市のデータ
からは生ごみ堆肥の肥効率は家畜ふん堆肥に比較して、小さいと予想される。
㈹ 作物への施肥量、施肥時期決定
前述のように、生ごみ堆肥化利用システム成立のキーとなるのは農地確保と堆肥利用マ
ニュアルの策定である。今後、堆肥の成分組成等を考慮しながら、農作物の種類や栽培方
法(露地、施設等)の差異に対応した栽培試験データを蓄積することが必要である。発酵
が十分に進んだ堆肥は作付け時期が特に問題とならないので、施用時期を気にせず基肥と
して使う。一方、腐熟の不十分な堆肥は土壌中で分解されると土壌は嫌気性となり、また
アンモニア等の生成も起こり作物の成長に有害であるから、作付けの十分前の時期に土壌
中にすき込み、土壌中で腐熟させる必要がある。一般に、施用マニュアルは都道府県レベ
ルの標準的なものを参考にして、実用的に市町村レベルの狭い地域で策定すべきである。
各地で策定されて既に利用されている化学肥料中心の施用マニュアルを参考にして、生ご
み堆肥を基肥として利用する実用的試験を数多く実施する必要がある。
(生雲晴久)
梅川學ら1環境保全型農業技術の普及状況
121
3.生分解性マルチの利用
1)普及事例
1 技術名:生分解性マルチ等の利用
2 作物名:レタス、ハクサイ、トウモロコシ、(キャベツ)
3 普及面積:14h a(農家戸数4戸)
4 具体的内容:
ポリエチレンの全面マルチ栽培が主体であるレタス、ハクサイ、トウモロコシにおいて、
5年前から生分解性マルチを利用した栽培が始まり、今年はマルチ栽培全体の3割程度に普
及している。
現在、ポリエチレンマルチは全て回収されており、回収時の労働力、経費がかかるが、生
分解性マルチの場合は回収せずに土中に鋤込むことで解決する。特に、トウモロコシの場合、
マルチを剥ぐのが大変なため、生分解性マルチの利用で作業労力が削減される。
また、通常はマルチを利用しないキャベツ栽培においても、マルチ栽培することで減肥
(窒素)栽培体系ができるので、実用化に向け検討中である。
資材費がポリマルチに比べ2∼2.5倍するので、比較的大規模な経営でないとメリットが
出にくい。
展張時に強度が弱く裂けやすいので作業に熟練を要する、ポリマルチに比べ乾燥しやすい、
ロータリーで鋤込んでも地上部に出た切れ端が舞う、等の問題点がある。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)生分解性マルチとは
生分解性マルチとは生分解性プラスチックからなる農業用マルチ資材のことである。
生分解性プラスチックとは、「使用中は従来のプラスチックと同程度の機能を保ちながら、
使用後は自然界に存在する微生物によって低分子化合物に分解され、最終的には水と二酸化
炭素などの無機物に分解される高分子素材」のことである。
生分解性マルチの最も大きな特徴は自然界に蓄積されないことで、その利点として次の2
点があげられる。
①最終的に水と炭酸ガスに分解されるので、環境保全の点で優れている。
②自然に分解するので、資材回収や廃棄処理の手間やコストが省ける。
(2)生分解性プラスチックの種類と特性
我が国における生分解性プラスチックは、微生物産生系、化学合成系、天然高分子系に大
別される。その製造方法、特徴等は表74のとおりである。
(3)生分解性プラスチックの崩壊特性と地温に及ぼす影響
生分解性マルチフィルムの崩壊は時問が経つにつれて進行するが、その程度は資材の種類
によって異なる。概して、デンプン系の資材は崩壊が早く、ポリ乳酸系の資材は崩壊しにく
い(表75参照)。また、フィルムの崩壊は地表面にある状態や乾燥状態で遅く、地中に埋設
されて湿度が高い状態で促進される。土壌の種類によっても異なるようである。
生分解性プラスチックの地温に対する影響については多くの試験例があるが、ポリマルチ
122
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
表74 生分解性プラスチックの種類
製造方法
微生物合成法
ポリエステルを生成する微生
物を最適条件下で発酵させ、
(発酵生産系)
商品名(メーカー名)
特 徴
原 料
種 類
・熱可塑性あり
水素細菌
バイオポール
(ゼネカ、英)
らん藻
効率よくポリエステルを生成
する方法
化学合成法
(化学合成系)
微生物分解されやすい物質を
含む脂肪族ポリエステルや、
水溶性高分子を化学的に合成
する方法
ポリ乳酸
ポリカプロラ
クトン
・耐水性
・成形加工性
・熱可塑性
(既存プラスチック
ビオノーレ(昭和高分子)
ラクティ(島津製作所)
レイシァ(三井東圧化学)
に近い物性)
天然物利用法
(天然ポリマー系)
複合法
セルロース、でんぷん等の天
然高分子材料を基に、化学的
な処理を施して製造する方法
多糖類
でんぷん
セルロース
キチン
・生分解性高い
マタービー
(ノバモント、伊)
(天然素材利用)
・原材料が安価
上記のブレンドやラミネート
資料:四訂増補版施設園芸ハンドブック(日本施設園芸協会編集)
表75 レタスの収穫時における生育およびマルチ資材の状況
作期
主原料
資材
KM
BM
黒
黒
初夏どり NO
黒
NC
黒
脂肪族ポリエステル
脂肪族ポリエステル
ポリカプロラクトン
ポリ乳酸
ポリエチレン 黒
NO
白黒
秋どり NC
ポリエチレン
白黒
ポリカプロラクトン
ポリ乳酸
白黒
全重結球重最大葉長収穫時のマルチの状況
(9) (9) (9) うね面 土 中
408
387
428
426
444
644
391
24.4
661
460
23.9
685
452
24.3
627
607
644
642
642
20.8
十
十十十
21.5
十
十十十
21.8
十
22.2
十十
十
21.7
十
十十十
十
初夏どり:品種「シナノフレッシュ」、秋どり:品種「シナノサマー」
マルチの状況:一 (未分解)∼++++ (小断片化)
資料:長野県野菜花き試験場(平成12年度関東東海農業研究成果情報)
とほぼ同程度であるとの試験結果が多い。
(4)生分解性マルチの生育・収量等に対する効果
生分解性マルチの作物の生育・収量に及ぼす影響については数多くの試験例があるが、レ
タスの試験例を表75に示した。
このレタスの例では、初夏取りでは全体にポリマルチに比べて生育が抑えられ生育日数を
やや長く要し、秋どりではポリマルチと同程度の生育のものがあった。
生育・収量に関する試験例はこの他にも数多くあるが、作物とマルチの種類によって対象
のポリマルチに比べて増収するもの、減収するもの等まちまちである。また、生分解性マル
チをすき込んだときの後作への影響についての試験例もあるが、収量や根菜類の品質への影
響はないとの結果が得られている。
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
123
(5)生分解性マルチ使用上の留意点
農業現場での廃プラスチックの排出量の削減が課題になっている折に、ポリマルチの代替
資材として生分解性マルチが注目され、生産現場にも普及されてきている。生分解性マルチ
はポリマルチとは特性が異なるので、その特性に留意しながらうまく使っていく必要がある。
以下に生分解性マルチ使用に当たっての留意点を示す。
①生分解性マルチは種類によって崩壊性が異なるので、栽培期間が長期にわたる作物には
分解の遅いものを使用するなど、作物や作期に合わせて種類を選択する必要がある。また、
温度、水分、土壌の種類等によっても崩壊性が異なる。
②生分解性マルチは伸びにくく縦方向に裂けやすい等、ポリマルチと特性が異なるので、
機械による展張時などにはその点を考慮する必要がある。
③生分解性マルチの多くは土壌に接した部分が崩壊が早いために、地際部の裂開が起きや
すい。そのため、風通しのよい露地栽培では、マルチの破損や飛散に注意する必要がある。
④価格がポリマルチに比べて高い(2∼3倍)が、収穫後の廃プラスチックの処理の省力
化・軽労化等を考慮して評価する必要がある。また、環境負荷低減の観点からも今後の展開
を期待したい。
(参考文献)
1.鴨田福也.(2001) 増補1 生分解性プラスチック.(社)日本施設園芸協会編集四訂増
補版施設園芸ハンドブック.園芸情報センター、472−474。
2.小澤智美・元木 悟・小松和彦・塚田元尚.(2001) 夏秋どりレタス及びハクサイ栽培
における生分解性プラスチックマルチの利用技術.平成12年度関東東海農業研究成果情報
(果樹・野菜一花き・茶業・蚕糸)、440441.
(梅川 學)
124
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
4.光崩壊性マルチの利用
1)普及事例
1 技術名:光崩壊性マルチの利用
2 作物名=トウモロコシ
3 普及面積=約75h a
4 具体的内容:
トウモロコシ栽培で、ポリマルチに代えて光崩壊性マルチを使用している。
光崩壊性マルチを利用することで、栽培後のマルチ除去および回収作業をすることなく、
未処理で土中にすき込むことができる。そのため、マルチ除去の手間が省け、収穫後の作業
能率が大幅にアップした。
土壌中にすき込んだ後、完全に分解されていないマルチが土中にいくらか残ってしまう。
価格が通常マルチより幾分高い。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)光崩壊性マルチとは
光崩壊性マルチとは日光等の紫外線によって分解するもので、最終的には水と炭酸ガス等
の無機物にまで分解される。具体的には、日光に当たった部分は徐々に風化してもろくなり、
最終的には強い雨やロータリー等で石灰質の細片に砕けるくらいになるので、ロータリーで
そのまま畑土にすき込むことができる。原料は石灰石とポリオレフィンである。
光崩壊性マルチの最も大きな特徴は自然界に蓄積されないことで、その利点として次の2
点があげられる。
①最終的に水と炭酸ガスに分解されるので、環境保全の点で優れている。
②自然に分解するので、資材回収や廃棄処理の手問やコストが省ける。
一方、光崩壊性マルチでは、地上部と地下部の分解速度が異なることや葉の陰になる部分
の分解が遅いことなどが問題点としてあげられる。
(2)光崩壊性マルチの種類
光崩壊性マルチの1例として、商品名「サンプラックマルチフィルム」の種類・寿命等を
表76 サンプラックマルチフィルムの種類・寿命等
フイルム巾
グレード
乳白
ブラック
グリーン
NL
BL
GR
(cm)
有孔
90∼135
無孔
80∼180
有孔
95∼135
無孔
95∼180
有孔
95∼135
無孔
95∼180
長さ
もろくなり
(m)
始める日数
200
約6∼8週間
220
300
約7∼10週間
400
500
約7∼10週間
資料:「サンプラックマルチフィルム」パンフレット
用 途
トウモロコシ、レタス、ブロッコリー、
キャベッ、ハクサイ、キュウリ、ナス、
トマト、カボチャ、スイカ、イチゴ、
メロン、タマネギ、カンショ、バレイ
ショ、サトイモ、ダイコン、ダイズ、
ラッカセイ、タバコ、その他
125
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表77 ジャガイモの生育と収量等に及ぼす被覆資材の効果
試験区
光崩壊性マルチ(乳白、N L)
マルチ(黒色、暑さ0.02mm)
萌芽率(%) 茎長(cm) 収量(kg/a) 澱粉価
100。0
99.5
75.4
276.1(142)
14.2
73.9
220.0(113)
13.4
245,3(127)
13.5
マルチ(透明、暑さ0。02mm)
99.0
79.3
無マルチ
94。5
68.1
193.8(100)
13.2
資料:長崎県総合農林試験場(平成4年度成績概要集より改変)
表76に示した。
(3)光崩壊性マルチの生育・収量等に及ぼす影響
光崩壊性マルチの作物の生育・収量に及ぼす影響については多くの試験例があるが、ジャ
ガイモの試験例を表77に示した。この試験では、光崩壊性マルチの使用により収量、澱粉価
等が増加し、通常のポリマルチに比べても遜色のない結果が得られている。
この他にレタス、ニンジン、ダイズ、タマネギ等での試験例が見られるが、いずれもこれ
に似たような結果である。
(参考文献)
1.長崎県総合農林試験場.(1993)
平成4年度成績概要集.
2.サンプラック工業株式会社.
「サンプラックマルチフィルム」パンフレット.
(梅川 學)
126
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
5.園芸用廃プラスチックの適正処理
1)普及事例
1 技術名:園芸用廃プラスチックの適正処理
2 作物名:野菜等
3 普及面積:管内全10市町
4 具体的内容:
市町ごとに対策協議会を設置して、農家から廃プラを回収し県指定の処理加工工場へ搬入
し、塩化ビニルとポリエチレン等に分けて処理している。
規格どおりにたたんで回収場所へ搬入する手問と処理費用の一部負担を重荷に感じる生産
者もいるが、各対策協議会の啓発活動の結果、自己責任で処理するという意識が定着しつつ
ある。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)園芸用使用済プラスチック適正処理基本方針
農業用に使用されるプラスチックのほとんどは園芸用の被覆資材で、種類としては塩化ビ
ニルフィルム、ポリエチレンフィルムである。農業用の使用済プラスチックの排出量は、農
林水産省が調査を始めた昭和51年以降増加傾向にあったが、最近は横ばい状態である(表78)。
近年の環境への関心の高まり、廃棄物をめぐる情勢の変化を受けて、農林水産省は使用済
プラスチックの再生処理施設の予算措置と合わせて、平成7年にその適正処理を進めるため
の指針となる「園芸用使用済プラスチック適正処理基本方針」を改訂した。この基本的な考
え方は以下のとおりである。
①資源の有効利用という観点から、園芸用使用済プラスチックの適正処理はリサイクル処
理が基本。
②プラスチックの特性、排出量、排出状況等に即して、適正な埋立等による処理をも推進。
表78 農林業用使用済プラスチックの種類別排出量の推移(単位=t、%)
年 度
プラスチックフィルム①
塩化ブニルフィルム
ポリエチレンフィルム
その他プラスチックフィルム
フイルム計
その他プラスチック②
合計(①+②)
平成元年
3年
5年
7年
9年
ll年
101,616
105,140
105,915
112,402
104,954
(56.7)
(57.2)
(54.8)
(59.0)
(58.2)
(55。8)
67,205
68,399
78,247
67,704
66,026
64,424
(37.5)
(37.2)
(40。5)
(35.5)
(36.6)
(36.0)
6,288
6,463
5,332
6,788
6,105
6,641
(3.5)
(3.5)
(2.8)
(3.6)
(3.4)
(3.7)
175,109
180,002
189,494
186,894
177,085
170,922
(97.7)
(97.9)
(98.1)
(98.1)
(98.2)
(95.5)
4,211
3,914
3,676
3,621
3,169
7,965
(2.3)
(2。1)
(1.9)
(1.9)
(1.8)
(45)
99,857
179,320
183,916
193,170
190,515
180,254
178,887
(100.0)
(100.0)
(100.0)
(100.0)
(100.0)
(100.0)
資料:四訂増補版施設園芸ハンドブック((社)日本施設園芸協会編集)(2001)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
127
③経費面で適正処理に支障が生じないよう、これまでの地方自治体、農業団体の負担に加
え、農業者負担の仕組みを地域において早急に導入。
④行政機関および農業団体が中心となって、回収・処理の仕組みの整備等、必要な支援措
置を積極的に推進。
⑤使用済プラスチックの排出量を抑制する観点から、関係機関は、長期展張性フィルムや
ガラス室の普及を積極的に推進。
(2)農業用プラスチックの処理技術
主な処理技術と処理に当たっての留意点は以下のとおりである。
(i)再生処理
再生処理方法として現在一般的に行われているのは、塩化ビニルフィルムでは床材、く
つ底などの原料となる細片(フラフ)や穎粒(ペレット)などに再生する方法、ポリオレ
フィン系フィルムではベンチ、くい、U字溝などに直接再生する方法である。再生処理の
過半は民間の業者によって行われており、再生処理業者の負担軽減のために、排出者側と
しては異物の完全除去、異種フィルムの混入を防ぐ等の協力が必要である。
(ii)サーマルリサイクル
固形燃料化や油化等によって燃料として利用する方法であるが、サーマルリサイクル関
連技術のほとんどがまだ実用化されてはいない。
㈹埋立処分
平成9年に「廃棄物の処理および清掃に関する法律」の改正により廃プラが産業廃棄物
として取り扱われることとなり、所定の中間処理(破砕・切断・溶融加工等)を行い、所
定の場所(周囲に囲いが設けられ、産業廃棄物の処分の場所であることの表示がなされて
いる場所等)に埋め立てることとなっている。
⑲焼却処理
前述の「廃棄物の処理および清掃に関する法律」の改正で、ダイオキシン類の発生抑制
の観点から、焼却施設の構造基準及び維持基準が見直され、小規模施設に対する規制強化
のため設置許可または届出が必要な焼却施設の範囲が見直され、さらに、野焼き防止のた
め焼却設備の構造と償却方法が明確化された。
このことにより、焼却により有害なガスを発生する塩化ビニールフィルムはもちろん、
これまで多くが農家段階で焼却されていたそれ以外のポリエチレンフィルム等も、適正な
表79 農林業用使用済プラスチックの処理方法別処理量の推移(単位=t)
9年
11年
52,682
50,356
62,333
43,238
43,564
49,812
83,129
72,448
63,823
31,423
20,018
15,623
18,287
19,133
35,319
176,420
180,631
189,151
186,655
76,876
178,887
回収業者による回収 ⑥
2,900
3,285
4,019
3,860
3,378
総 計(⑤+⑥)
179,320
183,916
193,170
190,515
180,254
5年
年 度
平成元年
3年
再 生 処 理 ①
39,949
42,565
49,965
埋 立処理 ②
焼却 処理 ③
38,698
41,958
40,434
75,120
76,090
そ の 他 ④
22β53
合計(①+②+③+④) ⑤
7年
注 :平成11年度から「回収業者による回収」は「その他」に含む・
資料:四訂増補版施設園芸ハンドブック((社)日本施設園芸協会編集)(2001)
178,887
128
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
処理を行うことが必要になった・
農業用廃プラスチックの処理方法別処理量の年度毎の推移は表79のとおりである。焼却
処理が大幅に減少しているのに対し、徐々にではあるが再生処理にまわされる量が増加し
ている。
今後、再生処理にまわされる割合を高めていくためには以下の点が重要である。
①市町村等行政機関の支援。②普及啓蒙活動の推進。③回収コストの低減。④新技術の
開発。
(参考文献)
1.太田成美.(2001) 第5章 プラスチックのリサイクル. (社)日本施設園芸協会編集
四訂増補版施設園芸ハンドブック.園芸情報センター、90−96.
2.日本施設園芸協会.(2001)園芸用施設面積等の推移.(社) 日本施設園芸協会編集 四訂
増補版施設園芸ハンドブック.園芸情報センター、492−497.
(梅川 學)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
129
6.養液栽培の廃液処理
1)普及事例
1 技術名:養液栽培の廃液処理
2 作物名:トマト等
3 普及面積:約2h a(農家戸数19戸)
4 具体的内容:
養液栽培では、栽培が終了した後、設備の消毒を行う。ツルクロンの他、ケミクロン、ハ
イクリーンなどが用いられている。主流はツルクロンだが、強アルカリ性で、主成分の次亜
塩素酸ソーダは半減に40日もかかる。
そこで、廃液を中和するためにチオ硫酸ナトリウム(ハイポ)を使用し、さらに、クロル
テスターで塩素の残留がないことを確認してから廃液を流すように指導を行っている。
減化学農薬、減化学肥料など、環境保全型農業への関心が高まる中、河川の保全について
も住民から厳しい目が向けられている。廃液を安全な状態にまで処理してから流すことは、
住民の誤解を招くことなく、安心と信頼を持って地元の農業を理解してもらうために必要な
手間と費用である。
廃液量については、消毒液の循環のさせ方、消毒の範囲などにより、各施設による必要量
が異なるので、廃液量そのものを少なくする検討も必要と思われる。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)はじめに
養液栽培に使われる培養液は、高濃度の窒素やリンを含んでいるため、使用済み培養液の
排出による環境負荷が懸念されている。近年、健康安全に関わる水質環境基準として、硝酸
性窒素10mgL1が新たに加えられたこともあり、養液栽培施設排液の簡易な処理技術開発の
必要性が高まっており、研究所レベルでの検討が開始されている(図66)。以下に、その研
究例を紹介する。
(2)硫黄酸化菌を利用したイチゴ高設栽培排液の窒素浄化(静岡県農業試験場海岸砂地分場)
イチゴ高設栽培からの排液を、硫黄酸化細菌を利用した浄化装置を用いて処理し、栽培期
間を通じて排出される全無機態窒素の約9割を浄化した。浄化装置は、排液を定常的に保持
するための貯留槽と個体硫黄と石灰石粒を混合した粒状の脱窒資材を充填した処理槽からな
る。硫黄酸化細菌の働きにより、排液中の硝酸態窒素が、窒素ガスになり除去される。浄化
用資材の量は、約1400kg/10aであったが、排液中の硝酸態窒素濃度などにより異なること
・が予想される。
(3)脱窒濾材と植物による養液栽培排液の水質浄化システムの開発(埼玉県農林総合研究セン
ター)
浄化装置は、脱窒濾材(硫黄と石灰の混合資材)とゼオライトを充填し、その上にエンサ
イ、ケナフ等の植物を栽植した水路である。硫黄酸化細菌の働きで硝酸態窒素を除去すると
同時に植物により、窒素、リンを吸収除去する。養液栽培排液の浄化試験の結果、9月から
4月の間、水路面積1㎡当たり1日4.89gの窒素が除去され(除去率32.3%)、冬季にも浄化
131
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
7.水耕ロングマット苗の育苗・移植技術
1)普及事例
1 技術名:水耕ロングマット苗の育苗・移植技術
2 作物名:水稲
3 普及面積:26h a(農家戸数8戸)
4 具体的内容:
稲作では春の農作業が多種多様となっている。そこで、本技術では育苗作業の労働量・人
数の軽減、移植時の苗補給補助員不要を目指した。
技術内容は、土を使わない水耕苗とし、市販の田植機に苗ホルダーをセットして従来機と
同様に移植する。水耕苗の育苗は、温湯消毒した籾を、長さ6mの育苗ベット(綿製の不織
布を底に敷く)に播種し、ハウス内20∼30℃の条件下で13∼14日間行う。田植え前には、苗
をロール状(直径約40cm)に巻き取っておき、軽トラ1回で約1ha分の苗が運搬できる。
本技術は作業の大幅な省力・軽作業化だけでなく、資材や化石エネルギーの消費量を大幅
に削減できる。慣行土付苗の育苗では床土製造のための乾燥・造粒に化石エネルギーを多量
に消費しているが、これが不要となる。このため、二酸化炭素(地球温暖化ガス)の発生量
を抑えることができる。
また、種子消毒は温湯で行い殺菌剤を用いないので、環境負荷が小さい。
育苗装置や資材の使用法の改善により、さらに低コスト化と省エネ化が望まれる。
1シーズンに育苗装置を2回転以上使用すれば、育苗コストを従来の場合よりも下げられ
る。育苗装置のオフシーズンの利用法が望まれる。
2)普及している技術に関連した研究成果
(1)はじめに
環境保全型農業を推進するため、稲作においても減農薬や投入エネルギーの削減が求めら
れている。ここでは水耕ロングマット苗育苗における環境負荷軽減効果を紹介する。
(2)殺菌剤を使用しない種子消毒
水耕ロングマット苗育苗における種子消毒には温湯消毒法を採用している。この温湯消毒
法は60℃のお湯に水稲種子を10分程度浸すだけで、殺菌効果はこれまでの化学薬剤による種
表80 イネのばか苗病、いもち病および苗立枯細菌病に対する温湯浸法の防除効果
発病苗率(%)
対象病害
処理温度および時間
58℃
60℃
62℃ 化学薬剤a) 無処理
10分 15分 20分 5分 10分 15分 10分
ばか苗病 0.2 0 0 0.4 0.1 0.1 0
0
いもち病 1.3 0.3 0.2 0.9 0.3 0 0,2
0.3
4.2
苗立枯細菌病 1。0 0.5 0.3 0.7 1.2 0.4 0,6
0.5
14.4
・)オキソリニック酸・プロクロラズ水和剤200倍液24時問種子浸漬(山形農試・2001)
13.4
132
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
子消毒法と変わらないため(表80)、薬剤の使用が不要であり作業環境の安全性も含めて有
効な技術である。
慣行の移植や直播栽培で一般的となっている種子消毒剤を使用した種子で水耕育苗を行っ
た場合、殺菌剤の種類によっては根の生育が抑制される場合がある。また、種子消毒作業後
の廃液処理が問題となるだけでなく、処理に要する経費が嵩み、とりわけ大規模育苗センタ
ーでは処理設備にも多くの経費がかかっているのが実態である。温湯消毒法はそれらの経費
や消費エネルギーの削減が可能であり、環境負荷の軽減にもつながる利点を有している。
(3)育苗培土不要の水耕育苗
ロングマット苗の水耕育苗は、幅28cm、長さ6m程度の育苗ベッドに綿100%の不織布を
敷き、その上に催芽種子を播種する。播種後はベッドの上流から水を流し、下流からの水を
タンクに受ける。この水を水中ポンプで再度上流に送り、水を循環させるだけでよい。播種
後5日頃に肥料を施すが、これには水耕用の肥料を用いる。播種後約2週間で育苗が完了
(稚苗)するが、その時の養液濃度(EC)は施肥前の水道水程度まで低下する(図67)。し
たがってロングマット水耕育苗は育苗後の廃液処理の必要がなく環境への影響も少ないと考
えられる。
1回施肥法におけるpH、ECの推移
(あきたこまち、水道水pH74、EC O.39)
8
6
PH
3
一欝一pH
4
2
0
−EC
4
5 6 7 8 9 10 11
12 13
2E
C
1
0
播種後日数(5日目施肥)
図67 水耕ロングマット苗育苗時の養液濃度(北川)
表81育苗センターにおける床土製造に要するha当たりエネルギーと
二酸化炭素の発生(金谷、2000、改表)
製造工程
原土搬入
原土粉砕
焼土
粉砕
肥料混合
袋詰め
電力 燃料 CO2発生量
コンベーヤを除く主要機械
(kWh) (L) (kg)
ショベルドーザ
原土供給機、粒状選別機
焼土機、サイクロン、粒状選別機、クーラント冷却機
土塊粉砕機
肥料ミキサー
エアー駆動袋詰め機
計
注)ha当たりの床土量は苗箱200箱分(0.0045m3/箱)
焼土機用ボイラーの燃料には軽油を使用
4.42
10.7
9。34
35.46 !11.3
5.02
12.1
2.80
6.8
1.40
3.4
22.98 35.46 144.3
二酸化炭素発生量換算原単位
電力:2.42kg/kWh
灯油12.50kg/L
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
133
一方、慣行の土付き苗の育苗では、苗箱に詰める培地として合成培土虐使用するのが一般
的となっている。この合成培土の製造原料として大量の土が必要であり、また採取した土を
砕土し、乾燥・造粒過程で電力等のエネルギーを消費しており、エネルギー消費とともに二
酸化炭素を発生させている(表8!)。また、大規模稲作経営体の中には育苗培土を自前で調
達するため、山林等の山土を採取し利用する例も見られる。そのため、年々山が崩され地肌
が露出するなど、自然保護や景観の観点からも見直しが必要と考えられる。
表2に育苗培土の製造に係わる二酸化炭素の発生量を示したが、この製造した合成培土の
工場から農家までの輸送や培土の移動・運搬等に化石エネルギー等を消費し、環境への負荷
をかけている。これに対し、ロングマット苗の育苗は基本的には水だけ供給できれば可能で
あり、育苗作業のネックとも言える重い床土の移動・運搬から解放されるとともに環境負荷
も軽減できる。このように、育苗培土を使用しないロングマット苗育苗技術は、投入エネル
ギーの削減によって地球温暖化ガスの一つである二酸化炭素の発生を減らすことができる技
術であると言える。
(小倉昭男)
134
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
第3章 経営的観点から見た環境保全型農業の現状と問題点
ここでの課題は、環境保全型農業技術がどの経営体にどの程度まで導入できるのか、あるいは
どのような経営体なら導入できるのかを明らかにすることである。環境保全型農業といってもい
ろいろなレベルがあるが、ここでは環境保全型を指向しているという意味で使うこととする。無
論、慣行とあまり差がなければ意味がないが、初めから完全なものを求めるのは現実的ではない。
資料の収集については関係者の協力を得た。選択した基準は、第1に、経営的評価が試験結果
の試算であれ実態調査であれ、きちんとされていることである。第2に、整理の都合上、①慣行
に近いもの、②新規性のある技術、③農家にとって非常に困難と考えられる技術の順に、グルー
プ化できるものを選んだ。第3に、対象を野菜と水稲に限定した。
野菜では、①生態系活用技術、②天敵利用技術、③輪作・対抗作物利用技術の3つのグループ
とした。水稲では、①減農薬栽培、②合鴨栽培・無農薬栽培、③新技術である再生紙マルチ直播
栽培にグループ化した。
従って、本章の編成は、第2項に野菜、第3項に水稲、そして第4項として市場評価の実態と
経営戦略にかかわる事例を集めた。事例編で書かれていることはほとんど、原著者のものそのま
まである。しかし、筆者の理解が足りない部分も多いと考えられるので、関心ある方は原著に当
たられたい。事例に入る前に、総論として全体としての論点を整理した。
1.総論
1)生産費と所得の格差の要因
事例をみれば生産費や所得格差の大きいことが分かる。それは、稲作事例①で、八巻が述べ
ているように、「新しい米作りでは利益を規定する要因が増加し複雑となる。これまでより一
層の経営管理が必要となる。」ために、経営能力の差が大きく作用するためであろう。また、
稲作事例③で、井上が述べているように、合鴨稲作は発展途上にあり経験がものをいうからで
あろう。これらの指摘は環境保全型農業全般に言えることである。
生産費格差は野菜で慣行の5%程度から20%、さらには所得で50%以上の減少とされる事例
⑤まである。水稲でも無農薬栽培のための追加労働報酬が慣行の半分である事例⑤、所得全体
が慣行の半分になる事例⑥がある。20%程度の格差であれば独自の販売ルートを開発すること
で対応できるが、50%となればその技術は選択されないとしなければならないであろう。
つまり、格差是正は一定程度は経験の蓄積と販売努力で解決できると言うことである。環境
保全型技術は生産者が理念を持って選択する必要がある。
2)選択する農家としない農家
環境保全型技術が選択されるかされないか収益だけでは判定できないと言う間題がある。こ
れも八巻が述べたことと関係すると考えられるが、野菜事例⑧の輪作体系の選択に典型的に現
れている。輪作体系は経営管理が複雑になる。しかし、都市近郊に多い軟弱野菜の周年栽培に
おいては、複雑な輪作は普通のことである。無論、高収益がその後押しをしているのである。
単なる連作障害対策では輪作体系は採用されない。産地として複数の有利作物の栽培技術を
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
135
開発することが必要である。
3)販売の重要性
環境保全型技術による生産物が慣行栽培によるものと同じ評価しか受けない。これが、現在
の中央卸売市場流通の問題点である。食糧の過不足に対処しようとしてできた制度そのものが
時代遅れになりつつある象徴のようなことである。その流れに従っている多くの農協共販組織
と普及センターの問題でもある。有利販売が可能になれば、生産費や労働時間の増加に見合う
所得も可能になる。かっては、共販組織の確立に向けて農水省、農協組織、普及組織あげての
努力が重ねられ、今日の体制が実現したのであるが、環境保全型技術の確立のためには、同じ
努力をそれぞれの独自の技術が評価される販売ルートの確立に向けなければならない。いわば、
消費者直結型の販売体制が必要なのである。
環境保全型技術による生産物が慣行栽培のものより市場評価が高いことを、あるいは高くす
るように働きかけること(マーケティング)を差別化というが、すべてが環境保全型になれば
差別化はなくなるので、通常の価格での技術を作らなければならないとの意見がある。しかし、
これは誤解である。まず、すべてが環境保全型になることはかなり先のことである。環境保全
型が増えてきても、それを消費者に意識させることにより、一旦、差別化され評価された価格
を維持できると考えられる。
4)環境保全型農業への過程
環境保全型技術は一挙に実現されることはできない。逆に言えば、徐々に実現されている技
術である。ハウス栽培での太陽熱処理や湛水除塩はかなり普及していると考えられる。省力化
のためのマルハナバチ採用をきっかけとして減農薬栽培に向かうのは自然なことである。その
マルハナバチを土着のものから選ぶ努力もなされている。
減農薬栽培は、なによりも、生産者の健康への自覚がそれを促している。さらに言えば、こ
こでは取り上げることはできなかったが農村の多面的機能の活用も、環境保全型農業を促進さ
せるはずである。
環境保全型技術は着々と開発されつつあると考えられるが、その普及はもう一つの問題であ
る。完成された技術を普及するということでなく、理念を持った集団とそれぞれの地域性に適
応した技術を開発するというスタンスが必要であろう。
5)栽培履歴情報公開の原則
ここでは全く取り上げなかったが、栽培履歴情報の公開は環境保全型農業促進の重要な要因
になるであろう。消費者は知らぬが仏で慣行栽培の生産物を選択していると考えられる。外国
産であるから安全です、などと言われないように技術開発と普及への努力が望まれる。
136
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002。11)
2.野菜に対する環境保全型技術の経営的評価
1)低農薬・低化学肥料栽培技術の経営的評価
(1)果菜類
①ハウス抑制キュウリ(資料1一高知県1991)
有機野菜に対する二一ズに応えるために、稲藁堆肥の土壌還元、菜種油粕・骨粉など有
機質肥料による土壌環境の改善を図るとともに、太陽熱利用による土壌消毒や被服資材な
表82 キュウリの生態系活用型栽培における経営収支の試算
(単位:千円/10a)
生態系活用型
慣行防除・慣行施肥
堆肥・有
堆肥単用
機質肥料
堆肥・化 化学肥料
学肥料 単用
生産量 販売量 5487kg
収 入 販売額 1756
6640kg
6343 kg 6030 kg
2125
2030 1930
種苗費 28
28
28
43
116
312
178
233
栽培タイプ
肥料の種類
出 施設費 233
233
28
93
116
312
178
233
機械費 137
合計 1725
137
1106
100
1060
100
1010
生産農業所得 31
1019
970
920
所得率% 1.8
48,0
47.8
47,7
6
6
2
2
4
4
肥料費 750
支 薬剤費 17
光熱費 372
その他 188
施肥
(土佳月巴) 48
労
働
(化成) 一
(有機)
(追肥)
堆肥作り 112
時
間
防除
(太陽熱) 8
(MB剤) 一
(薬数) 27
合計 195
131
17
372
188
3
48
10
10
8
27
102
1
l
117
140
ll7
124
注:経営収支は1991年県農林水産部調査を元にして、生産量、肥料費、薬
剤費、光熱費、その他の支出、機械費を本試験から得られた数字に置
き換えた。
1)生産量:物理的対策をしたハウスでの各肥用法の3年間の平均収
量を生産量とした。
2)肥料費:1991年使用の肥料を元に試算した。
3)薬剤費:本県の慣行的な防除体系および本試験から良好な結果の
得られた14日問隔防除を基に試算した。
4)光熱費:除湿機は3ps(2.4Kw/h)を使用、3か月、16:00∼8:00
まで連続使用、耐用年数5年、価格55万円、年問9か月使用のう
ち3か月分を抑制栽培で負担。
5)その他の支出:寒冷抄は2年、マルチは2作使用。
6)労働時問:それぞれの体系によって変化する部分のみ比較した。
7)その他:慣行に準じた。
137
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
どを利用した物理的な病害虫・雑草防除技術を開発することを目指したものである。
その結果、表82のように生態系活用型の堆肥・有機質肥料区が最も所得が高くなること、
労働時間も少なくなることが示された。
技術体系は次のとおりである。元肥は10a当たり稲藁堆肥2t,油粕600kg、骨粉200kg
である。追肥は水中で腐熟させた油粕からの浸出液を施用して化学肥料の場合の収量と同
等もしくは増収する。ベト病対策は除湿器を夜間運転することでほぼ完全に防除できる。
代わりにうどんこ病がやや多くなるが発生を見てからの防除で省農薬が可能である。ミナ
ミキイロァザミウマ対策としては、寄生苗を持ち込まないこと、ハウス開口部に寒冷紗、
畦面のシルバーマルチによって実害のない程度に押さえ、慣行栽培の30%程度の農薬散布
表83 生産費(10a当たり)
生態系活用新技術①
種
苗 費
料 費
薬 費
18,824円
慣行技術体系(参考)②
14,000円
①/②×100
134
15,431
12,670
122
20,934
24,984
84
動力光熱費
20,394
20,650
99
諸材料費
賃料料金
161,213
83,885
192
肥
曲辰
償
却
費
販士冗’
経
費
農機具
建 物
小 計
28,850
25,850
112
70,403
68,528
103
99,253
94,378
105
資材費
245,586
254,370
97
手数料
運 賃
257,534
244,031
106
133,482
138,256
97
小 計
636,602
636,657
100
!,813
1,813
100
9,925
9,438
105
984,389
898,475
110
小農具費
修
0
0
繕 費
合 計
表84 収益性(10a当たり)
単 価
*1
7,370kg
680kg
259円
175円
5,500kg
134
2,840kg
24
259円
175円
100
100
106
984,389円
898,475円
110
1,043,441円
1,023,025円
102
2,027,830円
生 産 費
所 得
1日当り所得
①/②×100
1,921,500円
粗 収入
労働時間
慣行技術体系(参考)②
ABAB
収 量
生態系活用新技術①
ABAB
項 目
1062.7時間
9960.0時間
7,855円
8,217円
*1 単価は平成3年S農協販売実績による。(円/kg)
107
96
138
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
回数を減らすことができる。夏季1ヶ月は太陽熱処理をおこない、その後もビニール被覆
のままで雑草種子の飛び込みを防ぐ。
②雨よけハウストマト(資料2一山形県)
接ぎ木苗で、農薬散布を約半分とし、化学肥料と菜種油粕を窒素成分で半々とした生態
系活用技術と自根苗の慣行技術体系を比較した。
経営成果は表83および表84のとおりである。ハウスサイドに寒冷紗を張るため諸材料費
が特に高くなっているが、農薬散布回数が減るため販売経費を入れた生産費は1割高で納
表85 生産費(10a当たり)
項 目
種 苗 費
肥 料 費
農 薬 費
動力光熱費
諸材料費
賃料料金
生態系活用
新技術体系
亀750円
43,317
7,910
5,975
67,125
慣行技術体系
生態系活用新技術
×100
慣行技術
100
&750円
378
11,458
7,775
42
77
1,200
5,594
19,015
償却費
販売経費
0
0
農機具
建 物
40,698
31,176
小 計
44,852
35,336
127
資材費
35,435
30,130
118
手数料
運 賃
小 計
36,899
28,907
128
750
750
100
73,084
59,787
4,154
131
100
4,154
122
小農具費
850
850
100
修 繕 費
4,485
3,533
127
256,348
147,698
174
合 計
表86 収益性(10a当たり)
生態系活用新技術
生態系活用
新技術体系
慣行技術体系
A 3,714kg
B 584kg
A 2,461kg
B l,899kg
A l51
A 130円
B 65円
A lO5円
B 53円
A l24
粗 収入
434,098円
340,080円
128
生 産 費
256,348円
147,698円
174
所 得
177,750円
項 目
収 量
単 価*
労働時間
148.9時問
1日当り所得
9,550円
慣行技術
B 31
B 123
192,382円
129.9時間
ll,848円
* 単価は本年の山形中央卸売市場への出荷実績による。
92
115
81
×100
139
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
表88 農薬使用量(10a当たり)
表87 10a当たり生産費(円)
慣 行 新技術 増 減
項 目
A B (B−A)
種苗費
肥料費
農薬費
52,950 27,840
農機具費
81,383 81,383
燃料費
4,890 4,890
諸材料費
労働費
21,538
△25,llO
△10,000
慣 行 新技術 増 減
項 目
A B (B−A)
種苗費
肥料費
農薬費
農機具費
燃料費
22,100
37,800
4,900
15,700
△4,500
4,500
36,900
パダン(g) 200
チーフメート(cc) 200
トアローCT(g) 200
100
200
農 薬 名 慣 行 新技術
ポリオキシン
コ サ イ ド
ス ミ チオン
D D V P
エ ル サ ン
36,900
4,700
6
400
400
表90 農薬散布回数(回)
表89 10a当たり生産費(円)
18,600
エルサン(cc) 400
20
ビニフェート(cc) 200
言十 370,404 356,832 △13,572
18,600
コサイド(g) 600
ア タ ブロ ン(cc) 100
62,077 62,077
147,500 137,500
クロルピクリン(kg) 40
ダイァジノン(kg) 6
8,425 8,425
13,179 34,717
農 薬 名 慣 行 新技術
△200
諸材料費
82,300
132,300
50,000
労働費
198,000
211,000
13,000
言† 367,300 441,300 74,000
まっている。一方A果収量が高かったため所得はほとんど同等である。ただし、1日当た
りにすると4%減少である。
この試験では、慣行栽培が自根苗となっているため、A果率の向上が生態系活用型技術
による部分と接ぎ木による部分の区別がつかないことが間題である。
(2)根菜類
③ダイコン(資料2一山形県1991、資料2一岐阜県1991)
生態系活用型技術によるダイコン栽培について山形県の事例と岐阜県の事例を比較す
る。
山形県の生態系活用技術においては肥料費と諸材料費(シルバーポリ、寒冷紗等)が大
幅に高くなり、農薬費等の減少は小幅である(表85)。一方では、A級品が増えることに
より粗収入が増加しているが(表86)、しかし、年度が異なるために正確な比較はできな
くなっている。単価水準が同じと仮定すれば粗収入は接近し、所得格差は8%、1日当た
り20%と示された以上の差が開くであろう・
それに対して、岐阜県の事例ではむしろ生産費だけの比較であるが新技術の方が安くな
っている(表87、表88)。山形県と比較したときに驚くべきは農薬費の高さである。また、
諸材料費は元々、山形県の新技術と変わらない高さである・要するに・山形県では病害虫
が少ないのであろう。いわゆる連作障害も少ないと考えられる。したがって、薬剤費の多
い地域でこそ生態系活用型技術の効果が明白に現れると考えられる。
140
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
④ニンジン(資料2一岐阜県1991)
岐阜県のニンジン栽培は農薬費が元々高くなく、その全廃でも肥料費とべたがけ資材等
の諸材料費の増加により、労働費を除く生産費は17万円から23万円と3割増となった(表
89、表90)。しかし、総収量で3割、AB品率で5割の増収のため、むしろ所得が増えたと
されている。
表91 キャベツ、レタスにおける有機栽培と慣行栽培の収益性(10a当たり)
区
種
肥
キ ャ
分
有機栽培
苗 費
料 費
6,890円
87,288
0
農業薬剤費
光熱動力費
諸 材
農 機
物 財
広724
料 費
具 費
費 計
83,272
ベ ツ
慣行栽培
6,890円
有機
慣行
レ タ
ス
有機栽培
慣行栽培
1.00
2,626円
15,045
5.80
23,977
0
4,476
87,680
0
5,316
1.06
22,206
3.75
2,626円
14,729
96,737
有機
慣行
1.00
5.95
3,769
0
4,009
1.33
52,805
1.83
48,466
52,971
0.91
48,721
52,671
0.93
230,640
125,565
1.84
241,080
130,609
1.85
働 費
費 用 合 計
231,700
129,600
1.79
256,600
177,600
1.44
462,340
255,165
1.81
497,680
308,209
1.61
収 益
296,856
250,572
Ll8
424,350
376,050
1.13
66,216
125,007
0.53
183,270
245,441
0.75
労
粗
所
得
注)①平成3年度の栽培試験結果に基づいて作成した。
②労働費はすべて家族労働見積額で、単価は1,000円/時問とした。
③副産物価格は0のため、費用合計と第1次生産費は同額となる。
④建物の減価償却費は、算出が困難なため、計上しなかった。
表92 伴促成ナスの費用と収入(単位:円110a)
農薬費
物肥料費
財その他
農機具費
費
園芸施設費
小計
F.T.
F.S.
F.T.
96年
96年
97年慣行区
8,495
4,506
5,131
54,811
128,356
54,811
230,811
286,517
230,811
29,176
20,515
29,176
14,205
50,955
14,205
333,509
337,498 491,474
労働費
費用合計
1,082,760 1,175,300
1,073,660
1,420,258 1,666,774
1,407,169
収量(kg)
6,106
4,861
6,653
販売価格
2,737,196
2,277,538
2,711,987
単位(円/kg)
448
439,943
469
347,861
407
451,644
2,297,253
1,929,677
2,260,343
1,959,755
1,438,203
1,926,834
出荷経費
粗収入
所得
注)労働費:1,400円/hrで算定、出荷経費:手数料+包装資材費
F。T、F。Sは調査対象農家を表す
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
141
(3)葉菜類
⑤キャベツとレタス(資料3一愛媛県1991)
肥料として10a当たり牛糞オガクズ堆肥2t、豚糞オガクズ堆肥2t、油粕600kg、骨
粉200kgを施用し、畦はシルバーポリでマルチングし、定植後は被覆資材でトンネル状に
覆い、化学肥料と農薬を全廃した。しかし、キャベッの場合はコナガ等が発生し害虫の手
取り作業を行っている。
その収益性は表91のとおりである。肥
料費、諸材料費、労働費の増加が著しく、 表93 経営の費用(単位:円/10a)
農薬費の減少に全く見合っていない。そ
項 目 慣行防除区 天敵利用区
の結果、所得で言えば5割から8割に減
597,164
農薬・天敵費
4,506
少している。
愛媛県内の生協とのキャベッ契約栽培
物
農家の事例でも、労働時問1.6倍、生産費
財
1.6倍と同様の傾向を示したが、契約単価
費
が高いことと収量が慣行の2.8tに対して
肥料費
その他
変動費計
農機具費
園芸施設費
固定費計
3.6tあったため、所得は慣行の2.2倍と
小計
54,811
54,811
230,811
230,811
290,128
882,786
29,176
29,176
14,205
14,205
43,381
43,381
333,509
926,167
なっていた。ただし、時間当たり所得に
労働費
1,073,660
直すと1.4倍ほどになる。いずれにしろ、
費用合計
1,407,169 2,035,667
1,109,500
表94 慣行防除区と天敵利用区の防除時問・農薬費用比較(97年)
(単位=時、円/10a)
天敵利用区(1棟二1.8a)
慣行防除区(7棟:14.04a)
日付種類
防除方法 費用 時間
3/2 A粒 全体 826
日付 種類
防除方法費用 時間
100頭/季朱 13,000
50
0.63
4/9 ククメリスカブリダニ
4/26 B液 スポット 293
0.71
4/16 ククメリスカブリダニ 100
13,000
農5/7B・C液スポット 431
0.71
天4/23ククメリスカブリダニ 100
13,000
5.0
5/14 D液 一部(計2棟) 146
0.36
5/9 ナミテントウ 5
150,000
9.O
薬5/18C液 スポット 138
0.71
敵5/14ナミヒメハナカメムシ 3
90,000
l.5
5/24 C液 スポット 138
0.71
5/21 ナミヒメハナカメムシ 3
90,000
1.5
散 6/2 C液 全体 483
1.78
散 5/28 ナミヒメハナカメムシ 3
90,000
1.5
6/8 D液 一部(1棟) 73
0.21
6/4 チリカブリダニ 20
64,000
1.5
布 6/22 E液 全体 1・319
1.42
布6/12ヒメコバチ+コマコバチ0・5
18,200
0。5
6/27 D液 全体 366
0.71
6/19 ヒメコバチ+コマユバチ 0.5
18,200
0.5
6/29 D液 (6/27残り) 293
0.71
6/26 ヒメコバチ+コマユバチ 0.5
18,200
0.5
化学合成農薬合計 4,506
8.66
7/3 ヒメコバチ+コマユバチ 0.5
18,200
0.5
595,800
32.0
全体 826
全体 538
1,364
0.63
小計
農3/2 A粒
薬6/14C液
小計
合計
4,506 8。66
注:両区の実面積を10a当たりに換算した。
天敵昆虫の単位は、推定値(前掲)、放飼密度は実証実験密度とした。
農薬費はF.T、の実証調査値から換算。
5.0
1.67
2.30
597,164 3430
142
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.ll)
表95 天敵昆虫の費用積算基礎数値
天敵名
包装単価入り数単価 放飼基準・方法放飼作業時間対象害虫(種別)
(円/容器)(頭) (円/頭) (株当たり) (時/10a)
ククメリスカブリダニ** 4,600 35,000 0.13 100頭/株を放飼
ナミテントウムシ*紳 一
30
ナミヒメハナカメムシ*紳
30
5頭/株を放飼
3頭/株を放飼
チリカブリダニ* 6,400 2,000
3.2
20頭/株を放飼
ヒメコバチ**+コマユバチ** 9,100 250
36.4
0.5頭/株を放飼
産物としての評価が必要である。
9.0 アブラムシ類(捕食)
1.5 ミナミキイロアザミウマ(捕食)
1.5 ハダニ類(捕食)
0.5 マメハモグリバエ(寄生)
表96 防除経費(10a当たり)
環境保全型農業を維持していくために
は、消費者や市場業者から高付加価値生
5.0 ミナミキイロアザミウマ(捕食)
防除体系
費 目
費 用
天 敵
天敵費
12,000円
放飼作業
合 計
1,000円
2)天敵防除技術の経営的評価
(1)果菜類
慣行防除
⑥施設ナス(資料4一兵庫県1997、資料
5一岡山県)
兵庫県の半促成ナス経営において、ミ
ナミキイロアザミウマやハモグリバエな
ど難防除害虫に対する複数の天敵利用と
耕種的防除を組み合わせて化学合成農薬
を極力利用しない総合的病害虫防除体系
13,000円
殺虫剤費
散布作業
7,000円
合 計
15,000円
8,000円
・天敵の単価は5円/1頭とした。
・天敵の放飼は、天敵の育成容器の蓋を取り、施設
内の約30所に設置する方法を仮定した。
・10a当たりの薬剤散布作業は育苗期の乳剤、水和
剤の散布が1時間、定植した時の粒剤処理が1時
問、本圃での乳剤、水和剤の散布が2時問とし、
1時間当たりの労働単位は1,000円とした。
の確立を目指した実証研究である。
半促成ナスの費用と収入は表92のとおりである。
また、慣行防除区と天敵利用区の生産費は表93のとおりである。
1997年の粗収入は、10a当たり2,260,343円であるから、所得は慣行防除区で1,970,215円、
天敵利用区で1,377,557円であった。その差額は628,498円である。
この差額を補うためには、当該経営の97年度実績収量が10a当たり6,653kgなので、kg
当たり94円上がればよいことになる。この年度の単価はkg当たり407円であったので、
23.1%の単価アップに相当する。
もう一つの対応策は天敵費用の軽減である。天敵費用は表94のとおりである。さらにそ
の単価は表95のとおりである。ナミテントウとナミヒメハナカメムシが高価なことが分か
る。これらの天敵の価格が低下すれば収支は改善される。
たとえば、岡山県の促成ナスの事例ではナミヒメナナカメムシの単価は1頭5円、それ
に対して兵庫県の試算では1頭30円とされている。その結果岡山県の試算(表96)では、
天敵と慣行防除の費用がほとんど差がないことになっている。
⑦半促成短期型青トウガラシ(資料6一京都府2000)
全国的に注目されている京の伝統野菜ブランドのなかでも、青トウガラシ(伏見、万願
寺、鷹峯とうがらし等)の栽培面積は拡大している。その青トウガラシにおける害虫防除
を害虫の発生消長と栽培体系を考慮した天敵製剤と化学農薬の併用による防除体系の有効
143
梅川學ら1環境保全型農業技術の普及状況
性について実験し、併せて費用を試算したものである。
2000年3月からの現地試験の結果から次のことが言える。アブラムシ類に対しては、定
植時の粒剤を併用し、その効果が切れる頃からコレマンアブラバチを放飼する。スリップ
ス類に対しては、ククメリスカブリダニとヒメハナカメムシ類を併用する。ハダニ類に対
しては、トウガラシ葉をよく観察して発生初期あるいは例年の発生時期にチリカブリダニ
を放飼する。しかし、例年発生が少ないところでは、防除しないか発生初期に天敵に影響
の少ない殺ダニ剤を散布する。
防除に失敗した場合はまず天敵に影響の少ない農薬を散布する。しかし、効果が少ない
場合は天敵への影響を恐れず効果のある殺虫剤を使用するべきである。
その結果、防除効果の安定している4つのパターンが明らかとなった(表97)。農薬費
の検討は表98で、所得の減少を補う単価の試算を表99で示されている。試算によれば2∼
5%の単価上昇で所得を回復できることが示された。
表97 さまざまなパターンの天敵製剤導入における農薬費の算出(10a当たり)
天敵化学農薬併用A
クロルピクリンくん蒸剤
ピメトロジン粒剤
価格例/10a
天敵化学農薬併用B
価格例/10a
¥69,300 クロルピクリンくん蒸剤
¥1,537
ピメトロジン粒剤
¥1,537
¥48,594 タイリクヒメハナカメムシ
コレマンアブラバチ
¥26,880 ピメトロジン水和剤
¥1,233
チリカブリダニ
¥20,160 ヘキシチアゾクス水和剤
¥2,205
化学農薬A
合計
¥156,889
価格例/10a化学農薬B
クロロニコチル系粒剤
タイリクヒメハナカメムシ
ヘキシチアゾクス水和剤
合計
天敵化学農薬併用D
価格例/!0a
¥69,300 クロルピクリンくん蒸剤
¥3,646
¥69,300
クロロニコチル系粒剤
¥48,594 タイリクヒメハナカメムシ
¥26,880 ピメトロジン水和剤
¥48,594 コレマンアブラバチ
タイリクヒメハナカメムシ
¥200,491
価格例/10a
¥69,300 クロルピクリンくん蒸剤
ククメリスカブリダニ¥34,020 ククメリスカブリダニ¥34,020
合計
天敵化学農薬併用C
¥2,205
¥150,625
ヘキシチァゾクス水和剤
合計
¥3,646
¥48,594
¥1,233
¥2,205
¥124,977
価格例/10a
クロルピクリンくん蒸剤¥69,300クロルピクリンくん蒸剤¥69,300
クロロニコチル系粒剤 ¥3,646クロロニコチル系粒剤 ¥3,646
クロロニコチル系水溶剤 ¥1,370ピメトロジン水溶剤 ¥1,233
フェンピロキシメート水和剤 ¥1487クロルフェナピル水和剤 ¥3,166
¥75,803合計
合計
¥77,344
〔注〕ただし、散布剤の希釈倍率は規定内の最高濃度倍率とし、散布量は3001/10aに設定した。また、農薬価格は確定したものではなく、事例で
ある。
ククメリスカブリダニは100,000頭/10aを定植時から1週間ごと3回放飼、タイリクヒメハナカメムシは500頭/10aを開花時から2週間ごと
に2回放飼、コレマンアブラバチは500頭/10aを発生初期から1週間ごと4回放飼、チリカブリダニは2,000頭/10aを発生初期から1週間ご
と3回放飼すると仮定した。
表98 天敵製剤導入のさまざまなパターンによる経営者所得の減少(10a当たり)
項 目
収量(kg)
単価A(平成11年度5∼7月平均〉
粗収入
天敵化学農薬併用A 天敵化学農薬併用B 天敵化学農薬併用C 天敵化学農薬併用D
3,000
3,000
3,000
¥799
¥799
¥799
¥2,397,000
¥2,397,000
¥2,397,000
3,000
¥799
1¥2,397,000
化学農薬A 化学農薬B
3,000
3,000
¥799
¥799
¥2,397,000
¥2,397,000
¥200,491
¥156,889
¥150,625
¥124,977
¥75,803
¥77,311
その他経営費
¥1,737,470
¥1,737,470
¥1,737,470
¥1,737,470
¥1,737,470
¥1,737,470
経営費合計
¥1,937,961
¥1,894,359
¥1,888,095
¥1,862,447
¥1,813,273
¥1,814,814
農薬費
経営者所得
経営者所得の化学農薬Aとの比較
¥459,039
¥・124,689
¥502,641
¥508,905
¥534,553
¥一81,086
¥・74,822
¥一49,175
¥583,728
¥0
¥582,186
¥・1,542
144
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
表99 経営者所得を化学農薬Aと同等にするための単価の算出と表98の単価との比較
(10a当たり)
天敵化学農薬併用A 天敵化学農薬併用B 天敵化学農薬併用C 天敵化学農薬併用D
項 目
化学農薬A 化学農薬B
収量(kg)
3,000
3,000
3,000
3,000
3,000
単価B(所得維持のための単価)
¥841
¥826
¥824
¥815
¥799
¥800
粗収入
¥2,521,689
¥2,478,086
¥2,471,822
¥2,446,175
¥2,397,000
¥2,398,542
農薬費
¥200,491
¥156,889
¥150,625
¥124,977
その他経営費
¥1,737,470
¥1,737,470
¥1,737,470
¥1,737,470
¥1,737,470
¥1,737,470
経営費合計
¥1,937,961
¥1,894,359
¥1,888,095
¥1,862,447
¥1,813,273
¥1,814,814
経営者所得
¥583,728
¥583,728
¥583,728
¥583,728
¥583,728
¥583,728
単価B/単価A
1.03
1.05
¥77β44
¥75β03
1.02
1.03
3,000
1.00
1.00
表100 調査対象の経営概況
輪作経営
単作経営
A経営(経営主35歳)
経営内容
作目規模
B経営(経営主51歳)
C経営(経営主42歳)
D経営(経営主36歳)
カンショ 7.6ha カンショ 12ha カンショ 4.9ha カンショ 7.2ha
バレイショ 2.Oha バレイショ 4。Oha
*ホウレンソウ 5a
ダイコン 1.7ha ダイコン 1。7ha
ソルゴー 2.4ha
*ホウレンソウ 5a
地借
計自作
耕地面積
地
通作時間
別の圃場
割合
(筆数)
∼10分
∼20分
∼30分
31以上
1.7ha
5.9ha
51%(12)
39%(9)
一 (一)
10%(2)
家族従事者数
3人
雇用者数(延人日)
2人(380人日)
*機械 収穫作業
自走式収穫機
人力
化状況選別作業
!2ha
6ha
6ha
7.6ha
6.9ha
11.2ha
2.9ha
1.5ha
4.Oha
9.7ha
50%(8)
33%(6)
17%(5)
63%(12)
38%(7)
14%(3)
23%(3)
7%(2)
一 (一)
一 (一)
55%(7)
2人
5人(500人日)
トラクタ総着式
人力
一 (一)
3人
4人
2人(140人日)
3人(330人日)
自走式収穫機
重量選別機
自走式収穫機
重量選別機
注1)ホウレンソウはカンショ育苗後のハウス利用
2)機械化の状況は、カンショ作業において特に異なるものについて載せた。
3)輪作体系・対抗作物利用技術の経営的評価
⑧カンショを基幹とした事例(資料7一茨城県)
カンショ作に単作化す.る事により、地力の低下、カンショ価格の不安定、連作障害等の
問題が起きている。表100に見るように、輪作経営の一方で単作経営が存在する。輪作経
営を増やすためには、第1に、品質改善及び増収効果が発揮されること、第2に、作業の
機械化をすすめ適切な労働力体系が作られること、第3に、輪作作物の収益性がカンショ
作と同等水準以上であることが必要である。
そこで、A経営をモデルとして、輪作化が進む過程を次の条件を順次付加するシミュレ
ーションによって明らかにした。
条件1:線虫対抗植物(ギニアグラス、麦)栽培直後の土壌消毒量50%削減可能、
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
145
8
15
,■
6
10
瓠
£
髪
5
雛4
陰2
0
0
基本モデル 条件1 粂件2 条件3 条件4
基本モデル 条件1 条件2 条件3 条件4
翻カンショ 醗バレイショ幽ダイコン E]ギニァ 目麦
皿カンショ運作 ⊂⊃達作(2毛作) 盟2年カンショ・1作
翻挺カンショ酢目碑カンシ3酢
図68−1
作付面積の変化(A経営モデル)
図68−2 作付体系の変化(A経営モデル)
作付体系
速作(2毛作)…
カンショーダイコン、カンショー麦、カンショーギニアグラス
2年カン
ショ1作
ーバレイショーダイコン、バレイショーギニァーカンショ
3年カンショ2作…バレイショー
ダイコンーカンショーカンショ、バレイショーギニアーカンショーカンショ
4年カンショ3作…バレ
イショーギニァーカンショーカンショーカンショ
80
N
100
とoo
z
80
求
求
くロ
く竃
40
翼
竈
60
60
40
20
20
0
0
し 3 5 7 9 11
2 4 6 8 10 113ha
1 3 5 7 9 11
耕地面積 h3
24 681011』3h且
評地薩f積 ha
図69−1 規模別作物作付けの変化
(D経営モデル)
図69−2 規模別作物作付けの変化
(D経営モデル)
圃カンショ謹欝財ショ囮ダイコン1二]ギニア
盟ル蜘ンション翻ルギニを力崩醜カンシ灘
条件2:同100%削減可能、
条件3:翰作作物(バレイショ、ダイコン)栽培後のカンショ収量が1年目5%増、2
年目3%増、3年目1%増、
条件4:輪作作物栽培直後のカンショA品率5%増
図68に結果を示すように、条件2の段階で単作が大幅に減り、条件3からバレイショが
大幅に増加する。つまり、輪作によりカンショによい影響があることを示すことにより輪
作経営を増やすことができる。
さらに、輪作経営であるD経営をモデルとして規模別にシミュレートした結果(図69)、
10ha規模から対抗植物が導入されることが分かる。
⑨スイカ、ダイコンを基幹とした事例(資料8一石川県)
春夏作のスイカ、秋冬作のダイコン作経営に対抗植物を導入した場合、生産費は節減で
きるがダイコン作を犠牲にするため遊休圃場のあることが条件となる(表101、表102)。
ここでも一定以上の経営規模の確保が前提であることがわかる。
146
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002。11)
表101 現地実証農家の経営概況
作物
スイカ、ダイコン、ギニアグラス
所在地
金沢市粟崎
経営面積
4ha
労働力
労働力:家族3人、臨時2∼3人(野菜収穫等)
露地野菜:スイカ 3Dha
ダイコン 2.Oha
さつまいも 0。3ha
経営部門
施設野菜:こかぶ 0.2ha
ダイコン菜 0.2ha
対抗植物:ギニァグラス 05ha(うち30a土壌消毒せず)
その他:土壌消毒 37ha
販売チャネル
地区の共同集荷場
対抗植物
導入の
条 件…土地利用の制約内で導入可能である(遊休圃場の有効活用)
他の作物と作業が競合しない
ねらい…土壌消毒の回数が減らせる可能性がある
緑肥効果
条件と
ねらい
・有機減農薬に対する目立った取り組みはなし
・価格等販売面の目立った取り組みはなし
・圃場と民家の間に15m程の間隔(道路)と10m程の段差があり、
土壌消毒に対する周辺住民の見方はあまりシビアではない
その他
表102 付加価値の変化
対抗植物導入区
項目
種苗費
物財費
(円/10a)
肥料肥
農薬費
土壌消毒区
2,500円
(分/10a)
基肥
2.5分 追肥
耕起
10.0分 かん水
播種
2.5分 すき込み
除草
7.5分
2.5分
②収益
変化
(kg/10a)
42分
4,550kg(HlO年春のスイカ)
な し
有利販売
な し
新技術導入に伴う
5,875(円/10a)
(②一①)
増加労働時間当たり
付加価値額の変化
8β93(円/時)
薬剤注入 10分
20.0分
合計
収量差(kg)
付加価値額の変化
耕起・
7.0分
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 _ _ H 一 一 一 一 一 _ _ _ _ _ 一 一 一
: 差
単収
9,147円
一5,875円
52.0分
合計
1一一一一一一一一一
合計
一 閂 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 _ _ 一 一 一 一 一 一
:①差額
労働時間の変化
8,359円
490円
282円
3,272円
合計
1『一一一一一一一『
農薬費
10分
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
147
3.稲作に対する環境保全型技術の経営的評価
1)減農薬栽培と販売戦略
① 企業的稲作経営における大規模減農薬栽培(資料9一富山県・サカタニ農産1991)
減農薬栽培や有機栽培(無農薬栽培)の多くは単収の低下と生産コストの上昇はさけら
れない。また、特別栽培米制度にのせれば販売リスクを負わねばならない。しかし、良食
味化や安全性の追求によりプレミアムを実現できる。このように新しい米作りでは利益を
規定する要因が増加し複雑となる。これまでより一層の経営管理が必要となる。
サカタニ農産では表103に見るように、水田178haのうち7割近くがコシヒカリであり、
表103 サカタニ農産(グループ)における減農薬栽培(平3)
経 営 形 態
農事組↑法人(馴一□有脚鷺缶)
(株)RCMサカタニ(特殊米殻、肥料販売等)
構 成 員
男 16名(うちオペレーター15名)
女 3名
経営耕地面積
水田 178ha(平4 185ha)
主要な機械施設
トラクタ(6台)、田植機(8条×4)、自脱コンバイン(4条
×2、5条×5)、ライスセンター(処理能力900t、火力乾燥機
ll基、DAG乾燥機7基)、育苗センター(44,000箱)、車輌13台
水 稲
(145ha)
コシヒカリ 118ha7・8俵/10a
轡1栽培:㍑凝㌧濫臭艶型
部
キヌヒカリ 減農薬栽培(1、H) 5ha 9俵/10a
越の華 慣行栽培 3〃 10 〃
アキヒカリ 〃 (他用途) 10〃 85 〃
もち米 〃 (一部他用途) 5〃 8 〃
その他(試験栽培) 4〃
門
構
成
大 麦
大 豆
ミノリムギ 27ha
エンレイ 29ha
(収穫後)豚糞おが屑堆肥(2.0∼0,7t/10a)と〔鶏糞+籾穀〕(07
∼0.5t/10a)の交互散布、または乾燥鶏糞
肥 培 管 理
基肥:有機質堆肥(10−6−8、メーカーと共同開発「クイー
ンエース」)による側条施肥
穂肥二有機質肥料(10−3−8、A工業製造)
曲辰薬、 ・培の,
減
栽
特徴
雑 草 防 除
除草剤1回使用、深水管理
病虫害防除
原則として農薬散布せず(病虫害の発生状況により限定的散布
販 売 法
自主流通米扱い、プレミアムとして60kg当たり自然乾燥2,500円
・火力乾燥1,500円を上積み、減農薬栽培Hは農薬散布内容を通
(コシ、キヌ)
地域農業との関連
止口
(ワールドエース)
:減農薬栽培1)
除草剤1回使用、深水管理
注:「減農薬栽培(1)」は病害防除のための農薬散布をしなかったもの、「動(豆)」は農薬散布を行う
が、慣行栽培よりも回数が少ないものを示す。
148
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.!l)
それが原則として減農薬栽培で「ワールドエース」というブランドで販売されている。そ
の技術体系は、慣行では9俵とれるところを安定性と省力効果を求めて8俵におさえ、施
肥は慣行栽培を半減している(窒素成分量で10a当たり慣行の10−llkgを5−6kg)。なお、
堆肥生産のために養豚経営と共同出資で堆肥製造施設を建設した。除草剤は1回で、ワー
ルドエース1では病害虫防除の薬剤散布はしない。もし、必要から1回散布した場合は
「ワールドエースH」とする。
「ワールドエース」のプレミアムは自然乾燥の場合1俵2,500円である。富山県産コシヒ
カリ自主流通米価格は23,940円であるから、約1割のプレミアムである。
②生消交流の中での地域ぐるみ減農薬栽培(資料9一新潟県笹神村1990)
笹神村では首都圏生協との交流の中で減農薬栽培に取り組んでいる。農薬は原則として
除草剤1回とし、病害虫防除が許容水準を超えた場合、農協と協議して使用する。肥料は
堆肥と有機質肥料である。この減農薬栽培は平成4年で7団地、33.2ha、58戸となった。
1戸当たり57aである。
表104に、慣行栽培との対比を示す。1俵当たり2,400円、つまり1割のプレミアムがつ
いて、減農薬の平均単収9俵を実現し、慣行栽培に匹敵する時間当たり労働報酬を得てい
る。ただし、不作の時は減収幅が大きいことが問題である。そこで、笹神村では堆肥セン
ターをつくりメーカーと共同して肥効の発現が早く散布しやすい有機質肥料を開発した。
これにより慣行栽培との肥料費の差は普通田で10a l,500円、砂質田で3,500円に縮小され
たQ
表104 新潟県笹神村における減農薬栽培の収益性
(平成2年までの実績より試算)
肥料費
農業薬剤費
減農薬栽培
慣行栽培
16,295円/10a
9,620円/10a
3,640 〃
9,263 〃
種苗費、諸材料費、光熱費、農機具費、土地改良
水利費、共済掛金、租税公課、支払利子、地代
122,937 〃
122,937 〃
合計(A)
142,872 〃
141,820 〃
平均単収(減農薬は必要とされる単収)
販売単価
粗収益(B)
労働報酬(B−A)
投下労働時間
1時間当たり労働報酬
9.0俵/10a
26,400円/俵
24,000円/俵
235,592円/10a
216,000円/10a
92,720 〃
74,180 〃
40時間/10&
32時間/10a
2,318円/時
資料:北多摩生協ほか「3ヶ年の特別栽培米を振り返って(自:昭和63年∼至平成2年)」19頁より作成。
一部には特定農家データと北蒲原農業改良普及所の経営分析データを採用している。
注:1)減農薬栽培の肥料費の内訳は、ケイカル2,800円、堆肥(散布料含む)5,000円、鶏糞1,040円、
フェザーミール1,720円、粒状有機リン1,470円、追肥用有機質肥料4,175円、育苗用900円である。
2)慣行栽培の農業薬剤費には航空防除を含む。
3)経営規模は2∼4haを想定している。
149
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
2)合鴨利用技術及び無農薬栽培
③合鴨稲作の収益性比較(資料10一山口県K町1998)
K町での合鴨稲作は生協からの強い要請で1993年に始まったものである。合鴨のための
大型肥育舎による共同肥育や県によるワクチン接種、さらにK町からは様々な支援を受け
表105 調査対象農家の概況(1998年)
合鴨稲作
250
109
80
115
91
431
42
0
慣行稲作
他部門(a)
78
207
92
162
120
減農薬栽培*
0
273
麦80
イチゴ8
2
2
2
2
労働力(人)
水稲作付面積(a)
4
3
2
1
農家番号
一
キャベツ23
50
イチゴ5
メロン15
春菊15
出所:聞き取り調査結果をもとに作成。
注:*除草剤使用1回、殺虫・殺菌剤使用3回以内。
表106 合鴨稲作の収益性
農家番号
栽培法
実施年
作付面積(a)
水稲品種
合鴨稲作
1998
合鴨稲作
1998
42
80
78
ヒノヒカリ
コシヒカリ
ヤマヒカリ
成苗ポット
稚苗
17
一
水田放飼期間中の合鴨生存率(%)
83
粗収益(円/10a)
コメ
合鴨肉
投下労働時間(時/10a)
慣行(減農業)稲作と共通の作業
合鴨稲作独自の作業
育雛・水田放飼期
肥育期
物財費(円/10a)
慣行(減農業)稲作と共通の作業
合鴨稲作独自の作業
外敵防除資材などの減価償却費
その他(飼育費など)
所得(円/10a)
1日当たり家族労働報酬(円)
合鴨稲作
ヒノヒカリ
稚苗
玄米収量(kg/10a)
合鴨稲作
1998
1993
28
放鳥羽数(羽/10a)
苗移植法
371
一
450
4
3
2
!
17
81
415
合鴨稲作
1998
92
コシヒカリ61a
ヒノヒカリ31a
成苗ポット
稚苗
22
92
343
合鴨稲作
1998
109
コシヒカリ
稚苗
17
17
94
405
90
480
166,095
125,550
195,256
189,301
222,122
152,976
125,550
181,493
145,874
173,708
209,920
13,763
18,000
15,592
12,202
13,119
一
串181,692
38.5
69.5
28.9
45.6
52.5
36.2
40.0
28.9
25.3
26.3
23.6
25.5
29.5
一
20.3
26.2
12.6
12.5
27.1
一
19.8
18.7
11.9
12.1
0.6
75
0.7
2.4
一
92β81
50,571
61,052
54220
74,917
50,571
48,058
28,132
37,756
12,994
26ρ88
12,578
17,964
6,905
一
一
4,419
0.5
50,334
37,688
28,261
3,927
6,896
9,427
3,226
11,059
一
73,214
74,979
134,204
127,472
138,967
◎201
184433
18,083
21,604
14β88
28,316
36,214
5,774
&575
8,651
19,192
出所:聞き取り調査をもとに作成。
注:1)粗収益は、共同肥育、加工・販売(主に委託)に関わる諸経費をあらかじめ差し引いた農家手取り額の値である。ただし、
*はK町内の合鴨稲作農家12戸の育雛を委託した際の必要経費17,818円/10aを加えた値である。
2)1998年産の農家手取り額は未決算のため、1997年産の農家手取り額を用いて粗収益を算出した。ただし、1997年産にヒ
ノヒカリはないため、ヤマヒカリの値を用いた(1997年産農家手取り額:合鴨稲作コシヒカリ26・240円/60kg(玄米)・合
鴨稲作ヤマヒカリ24,740円/60kg、減農薬稲作コシヒカリ18,240円/60kg、減農薬稲作ヤマヒカリ16,740円/60kg、合鴨肉
950円/羽)。
3)1993年における3番農家の外敵防除技術や販売条件などは・1998年におけるそれとほぼ同じである・
150
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
ている。そこで、表105のような規模の異なる4戸の農家を対象として、合鴨稲作の農家
問の比較、減農薬栽培との比較(2番農家)、経験年数の推移に伴う改善を見たものが表
106である。
農家間の比較では規模の大きい4番農家の収量(8俵)と所得が最も高くなっている。
1時間当たり粗収益は4526円を達成している。除草剤1回、殺虫・殺菌剤3回以内の減農
薬栽培との比較でも合鴨稲作が有利になっている。これは、合鴨稲作のコシヒカリ1俵当
表107 部門・作業別労働時問(10a当たり)
苗代
一切
耕起
整地
基肥
田植
F氏
0.4
6.6
4.6
1.5
8.5
県平均
0.4
4.7
4.6
1.5
5.7
合鴨
部門
育すう
期
F氏
電気柵
設 置
0.8
1.7
理
1.8
13.3
3.4
9.0
防除
0
2.6
稲刈
脱穀
乾燥
籾摺
5.6
1.7
44.0
5.6
1.7
40.9
合計
合 計
0.9
6.5
除草
0
引き上
げ飼養
水田
放育
2.9
追肥
水管
種子
予借
水稲
部門
11.1
注:1)除草:合鴨が食べないヒエの手取り作業。
2)聞き取り調査より作成。ただし、水稲部門では合鴨導入の特徴をより一般化するために、直接
関与しない作業は県平均と同一にしている。
3)県平均は農林水産省生産費調査(平成2年)。
表108 部門別生産費(10a当たり)
水稲部門
県平均
F氏
部 門
F氏
種 苗
費
360
2,364
購 入 費
肥 料
費
6,914
7,307
育 う す 費
692
9,516
諸 材 料 費
5,677
3,280
3,280
建物施設費
158
その他諸材料費
1,608
1,608
エ サ 代
2,680
水 利
4,936
4,936
労 働 費
12,954
第1次生産費
36,901
農業薬剤費
光熱動力費
費
貸借料及び料金
建物施設費
0
11,184
4447
ll,184
4,447
農 機 具
費
46,127
46,127
労 働
費
51,348
47,731
費 用 合 計
130,204
138,500
副産物価額
2,344
2,344
127,860
136,156
第1次生産費
14,740
注:1)種苗費:種子40g/箱×20箱/10a×450円/kg。
2)肥料費:土壌改良資材(2種類)。
3)労働費:1,167円/時。
4)聞き取り調査より作成。ただし、ここでの合鴨部門は合鴨の全量
中では、合鴨の全量販売が困難な現状を踏まえ、合鴨部門のコス
トは水稲部門へ算入し、県平均と比較している。
5)県平均は農林水産省生産費調査(平成2年)。
151
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
たり農家手取り26,240円と減農薬稲作のヒノヒカリ16,740円の差9,500円に合鴨肉の収入1
羽950円、10a当たり13,763円が加わったことによる。経験年数による改善効果は収量、合
鴨関係の労働時間と物材費の減少に見られる。
④福岡県の合鴨稲作(資料11一福岡県F氏1992)
先進的に有機農業に取り組んできたF氏の圃場に、福岡県農業総合試験場が試験区を設
定し合鴨を利用した無農薬栽培の技術的特徴の解明と経営評価を行ったものである(表
107、表108)。この時点で合鴨稲作の経験は6年である。米の販売単価は1俵27,000円、単
収は7.6俵であるから、10a206,100円、合鴨の販売単価1羽3,200円、10a25羽飼養なので、
80,000円となる。ここから物材費を引くと、水稲で127,244円、合鴨で56,053円、合計
183297円の所得となる。F氏の場合、合鴨肉の単価が高いことが高収益の要因となってい
る。
⑤無農薬・無化学肥料栽培(資料9一新潟県1991)
新潟県の2世代家族で、比較的大規模に無農薬栽培に取り組んでいる事例を見たものが
表109である。D農家の単収6.5俵が低いが、これは圃場外から有機物を持ち込まないとい
う理念のためである。
この中から、A農家を対象に投下労働時間を見たものが表llOである。生産時間だけを
表109 新潟県における水稲有機栽培(無農薬・無化学肥料栽培)の取り組み事例(平3)
事例(農家)
農 業労働力
経営水田面積
(うち借地)
経営主(54)、(妻)、
経営主(39)、妻、(父、
長男、長男妻
母)長男、長男妻
経営主(54)、(妻)、
長男、(父)
840a(300a)
520a(280a)
367a(25a)
トラクタ(22PS、30PS)、
育苗施設、田植機(6条)、
農業 労働 力
トラクタ(29PS)、育苗
D
C
B
A
トラクタ(26PS)、動力
経営主(36)、(妻)、父、
214a(12a)
(母)
トラクタ(24PS、35PS、
施設、田植機(5条)、 中耕機(3条)、コンバ 3戸共同)、育苗施設、
動力中耕機(2条×2)、
コンバイン(3条、グレ イン(3条、袋取り)、 田植機(5条)、コンバ
イン(2条)、乾燥機、
コンバイン(3条、袋取 ンタンク)、乾燥機、軽四 乾燥機(24石、22石)、
り)、乾燥機(40石×2)、
(2台)
トラック
軽四
コシヒカリ30a(&0俵)
(平4 395aへ拡大)
コシヒカリ240a(7.0俵)
(平2 150a、9.0俵)
コシヒカリ80a(6.5俵)
こがねもち 8〃(6,0〃)
コシヒカリ305a(8.5”)
コシヒカリ70〃(7.0〃)
コシヒカリ77a(8.5〃)
精米施設(保管庫、色彩
選別機、精米器)、トラッ
ク、ワゴン車
有機栽培米
部門構成
減農薬栽培米
慣行栽培米
コシヒカリ400a(8.2俵)
キヌヒカリ100〃(9.5〃)
ゆきの精200〃(9.0〃)
アキヒカリ50〃(10.5〃)
こがねもち30〃(〃)
ゆきの精 30〃(〃)
こがねもち 8〃
ゆきの精 30〃
里イモ、ネギ、大豆
有機栽培米の特徴
そ の 他
野菜、ミンク(200頭)
ミンク(3,000頭)
肥培管理
ミンク籾穀堆肥、鶏糞・
骨粉
ミンク籾穀堆肥
深水、中耕機(2回)、
中耕機、手取り
中耕機、手取り
疎植(60株/坪)
疎植(60株/坪)、(葉い
もちでとどまる)
疎植(33株/坪)
特別栽培米一部自主米
自主流通米扱い、自然農法奨励金(コシヒカリ・60kg当たり1等米8,000円、
雑草防除
病虫害防除
販 売 法
地域農業との関連
稲藁、一部粉砕籾穀+
手取り(一部)
扱い(同右)
借地面積が大、地域の特
栽米グループのリーダー
稲藁
嫌気性微生物
不耕起・稲藁被覆
(平4 合鴨導入〉
2等米7,000円)追加
借地面積が大、集団転作
圃場との調整、栽培後期
の用水確保が難
買苗、手植えのための高
齢者雇用、刈取り受託
注:農業労働力のうち()内は補助的作業者を示す。また、水稲品種に付した()は10a当たり単取である。
刈取り後の湛水のための
用水確保が難(ポンプア
ップ、用水池)
152
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.ll)
表110
事例Aにおける栽培法別投下労働時問(平3〉
(単位:時間/10a)
有機栽培
減農薬栽培
(5.Oha)
育苗
6.9
(2,0ha)
慣行栽培
(05ha)
6.9
6.9
2.6
耕転・代かき
2.6
2.6
堆肥源調達(ミンク)
4.9
4.9
基肥・堆肥作り
田植
4.2
4.2
4.0
4.0
4.0
4.5
4.5
(1.1)
16.0
5.0
(1。9)
3.6
3.6
3.6
追肥
除草
水管理
防除
一
(1.0)
2.4
一
一
収穫・乾燥調整
10.1
10.1
10.1
小 計 (A)
56.8
45.8
33.6
精米・出荷(B)
9.0
9.0
一
農機具整備(C)
2.0
2.0
2.0
経理事務 (D)
4.2
4.2
一
72.0
61.0
35.6
合計(A∼D)
注:作業日誌より、施肥と除草の時間を栽培法別に識別しえなかったの
で、()内に示す新潟県平均(農水省「米生産費(平3)」)を用
いて、調整を図った。
表111 事例Aにおける有機栽培(コシヒカリ)の付加価値生産性(平3)
経費減(A) 種苗費
肥料費(購入部分)
930円/10a
520
〃
農業薬剤費
9,000
〃
経費増(B) 減価償却費
8,114
〃
4,361
〃
とう精・出荷経費
単収減(0.8俵/10a)に伴う収益減少(C)
19,840
〃
有機栽培のプレミアム(@8,300×8.2俵) (D)
68,060
〃
有機栽培に伴う付加価値増加額(A−B−C+D)
46,195
〃
〃 投下労働時問の増加(出荷等を含む)
36.4時間/10a
1時間当たり付加価値額
l,269円/時間
注:慣行栽培コシヒカリの販売単価を24,800円/俵とした。
みても慣行の33。6時間が、有機栽培の56.8時間へ1.7倍に増加している。その要因は堆肥製
造のためのミンク飼養など堆肥関係9.1時間と除草の16時間である。その経済効果は表lll
によれば、46,195円になるが、出荷等を含む投下労働時間の増加36.4時間で割ると、1時
間当たり1,269円にしかならない(慣行栽培では2β18円)。生産時間のみの増加23.2時間で
みても、1時問当たり1,991円にとどまっている。除草に多くの時間をとられていることに
加えて、ミンク飼養がこの段階では単なる堆肥供給源にすぎず販売されていないためであ
る。
153
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
3)開発された新技術の現地への導入
⑥再生紙マルチ直播栽培技術(資料12一岡山県加茂川町2000)
近畿中国四国農業研究センターで開発中の再生紙マルチ直播技術の現地試験結果と同じ
加茂川町の栽培法を比較したものが表ll2である。再生紙マルチ直播では当然除草剤は使
用しない。また、育苗箱施用も不要のため農薬費は減農薬栽培の半分、慣行の4分の1と
なる。.ただし、防除体系はまだ確立されていない。
慣行栽培では1俵16,020円、無農薬栽培では約50%増の24,600円で、所得は無農薬栽培
が慣行栽培の約倍の8万円である。それに対して、再生紙マルチ栽培の場合、価格を慣行
栽培並で設定したため、所得は22,885円にしかならないことになっている。そこで、農薬
使用量が慣行の25%であることに対応させて25%の価格増の1俵2万円で試算すると、10
表112 栽培方法別の物財費及び収益性
(単位:円/10a)
加 茂
川 町
無農薬栽培
減農薬栽培
慣行栽培
〔現地試験〕
育苗・田植委託
種苗費1)
肥料費2)
農薬費2)
光熱費・諸材料費・土
地改良水利費・賃借料
料金・公課諸負担・建
物費・農機具費・生産
1,888
9,415
14,863
1,888
10,500
7,713
16,000
10,500
7,713
再生紙マル
チ直播
1,888
1,593
10,500
3,509
一
3,766
65,100
59,398
65,100
65,100
69,400
一
一
一
一
29,000
103,613
77,488
97,266
(85)
(107)/(75*)
管理費3)
直播シート代
物財費(経営費)
91,266
85,210
(93)
粗収益6)
128.160/
136,170
所 得6)
36,894/
44,904
単収水準(kg/10a)7)
販売価格(円/kg)8)
480/510
267
(114)
128,160
128,160
(100)/(94*)
(100)/(94*)
157,907
(123)/(116*)
120,150
(94)/(88*)
42,959
24,547
80,419
22,885
(116)/(96*)
(67)/(55*)
(218)/(179*)
(62)/(51*)
480
267
480
267
420
410
450
267
注:1)加茂川町の数値は「平成12年度優良米栽培こよみ」 (加茂川町農業技術者連絡協議会)に基
づく。なお、育苗委託の場合は20箱×800円で計算。直播シートの種子量は50m巻き1本200
gとした。
2)表3及び表4による。なお、再生紙マルチ直播栽培は現地試験2か年の平均値・
3)農水省「米生産費調査」1998年・1999年2か年の平均値。使用したのは中国平均(稲作作付
規模63a・2か年平均)の数値。ただし、稲苗・田植委託の場合は育苗・田植関係費用(床
土代、田植機償却費、播種・田植賃)を控除し、田植料金(10,000円/10a)を加算。また、
再生紙マルチ直播では育苗・田植関係費用を控除するが、人力マルチャー代は含めていない。
4)直播シート製造コストの試算を参考に、29,000円/10a(仮)とした(10a当たり13。5本・50
m巻き使用)。
5) ()内は、慣行栽培=100とした比率。*は、直播シート代を除く物財費の場合。
6) ()内は、慣行栽培=100とした比率。*は、慣行栽培において単収が510kg/10aの場合を
示す。なお、無農薬栽培では精米ロス(8.3%)を考慮している。
7)慣行栽培は8俵の2つの水準を想定し、減農薬栽培は慣行並みとした。無農薬栽培は一農家(手
取除草)の事例を参考。再生紙マルチ直播栽培は〔現地試験〕1999年、2000年2か年の平均値。
8)いずれの栽培方法とも品種はコシヒカリ。無農薬栽培は組合運営費を控除した精米価格。
154
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
表113 作業別労働時問の比較
(単位:時間/10a、%)
作 業
慣行栽培1〉
再生紙マルチ直播栽培
敷設1人作業
敷設2人作業
種子予措
0.55
0.55
0.55
育苗
3.86
0.00
0.00
耕起整地
基肥
6.78
8.412)
8。412)
1.79
1.79
1.79
田植
5.97
敷設
追肥
一
一
2.973)
4.333)
1.26
1.26
1.26
一
除草
2.95
LOO4)
管理
防除
9.63
10ユ85)
1.69
1.69
1.69
刈取脱穀
乾燥
生産管理
9.83
9.83
9.83
2.31
2.31
2.31
0.74
0.74
0.74
労働時問計
(比率)
47.34
40.45
(10α0)
(85.5)
1.00
10.18
41.81
(8&3)
注:1)農水省「米生産費調査(中国平均)」1998、1999年2か年の平均
値。
2)耕起整地作業の4割を代かきとし、丁寧な代かきの場合、通常の
1.5倍の作業時間とした。
3)人力マルチャーによる敷設作業時間の計測結果に基づく推定値(
機械作業研究室資料による)。
4)手取りによる除草を補完的に行うものとし、10a当たり1時間を
見込む。
5)直播シート敷設後の2週問は、毎日15分の水管理を追加して行う
ものとした。
a7.5俵で粗収益15万円、所得は肌734円となり減農薬栽培を上回る。
また、直播であることから作業時間は慣行より減少する(表113)。今後、大量生産によ
り直播シートの価格が下がれば一層優位さが増すことが期待できる。無論、25%の価格増
を実現する販売手法があってのことである。
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
155
4.市場評価と経営戦略
これまで環境保全型技術の経営評価を検討してきたが、これが経営に導入されるかどうかを決
める重要なポイントは、減農薬等の付加価値が価格として正当に評価されるかどうかである。
1)消費者の購入予想価格
① 有機農産物等のブランド的取り扱いと販売価格(資料13−1997)
有機農産物がスーパー等の店頭でどのように販売されているのかを調べたものである。
店頭では栽培方法や生産者名など具体的な情報を提示せず各企業独自のブランド名のみ
で表示されていることが多い。慣行農産物に比べて有機農産物は平均5割高で販売されて
いる(図70)。さらに、無農薬・無化学肥料栽培野菜は10%から40%高の価格帯で出荷さ
れている(図71)。このような価格を実現している産地では有利な経営を実現しているこ
とになる。しかし問題は、減農薬に取り組んでも、それに見合う正当な評価を受けられな
いことである。
②再生紙マルチ栽培による米の購入希望価格(資料14−2000)
米について、こだわりとしているところと購入価格の対応を調べたものである。表114
によれば農薬以外にこだわる人は、5kgを1,850円で購入しているのに対して、農薬にこ
だわる人は10%高の2ρ44円をかけている。普通栽培で再生紙マルチを利用した米について
は、1,980円から2,122円の幅で、すなわち1,850に比べて7∼14%増での購入を受け入れる
400
有
機
農300
産
物
◇
等
▲
▲
の
販
200
売
価
格
◇
▲
◆
▲▲
◎
豊 ム
100
円
φ○ Φ
ゆ くぬ かゆ
3φ宝
夢。
0
A
0 100 200 300 400
慣行農産物の販売価格(円)
図70 慣行農産物と有機農産物等の販売価格の比較
注) 小売19店舗の調査より作成。調査は1997年4月∼10月に行った。
都区内・茨城県内デパート9店舗32点、スーパー10店舗27点の数値。
1個、1パック、100gあたりの価格を比較したもの・
156
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
50
対
慣
行
栽
培
野
采
40
30
の
価
格
帯
別
20
割
合
承
)
10
0
+50%以上 +20∼+10% 一10∼一20% 一50%以下
+40∼+30% +10∼一10% 一30∼一40〔ン6
図71 無農薬・無化学肥料栽培野菜の出荷価格帯
環境保全型農業生産流通消費者調査委託事業報告各年、財団法人農産業振興奨励会、より作成。
回答数は1992年から96年にかけてそれぞれ、472、181、312、412、357である。
有機農産物のうち無農薬・無化学肥料栽培野菜の出荷価格の過去5年間平均を示した。
注)
表114購入している米について、こだわっている点と価格
こだわっている点
回答者数
購入価格
有効回答数
円/5kg 人
農薬計
産地計
品種計
18(254)
備 考
2,044 (15)
下記④、⑤、⑥の合計・平均
15(21.1)
1,829 (14)
下記②、③、⑥の合計・平均
41(57.7)
1,911 (39)
下記①、③、⑤の合計・平均
農薬以外の計
53(174。6)
1,854 (43)
下記①、②、③、⑦の合計・平均
計または平均
71(100.0)
1,900 (63)
下記①∼⑦の合計・平均
32(45.1)
1β74 (30)
〔組み合わせの内訳〕
①品種
②産地
③産地+品種
④農薬
⑤農薬+品種
⑥農薬+産地
⑦該当なし
8(11.3)
6(8.5)
14(19.7)
3(4,2)
1(1。4)
7(99)
1,667 ( 7)
2,132 ( 6)
2,182 (11)
1,838 ( 3)
1,150 ( 1)
1,667 ( 5)
注)⑥の農薬+産地の価格が低いのは、該当者が1人で親戚・知人から購入しているためと思われる。
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
157
%
100
go
麹
80
①高すぎる
②高い
④安すぎる
厳ン擦.
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
1980 2122
4000 4500
円/5㎏
図72 再生紙マルチ栽培米の購入価格(普通+紙マルチ)
注1)線は、①「高すぎて買わない」、②「高い」、③「安い」、④「安すぎて不安」とそれぞれ思う価
格について、低い方から累積したものの比率。ただし、③と④は縦軸の目盛りの上下を逆転させ
ている。
2)①と③の交点と②と④の交点の問が受容価格帯。
%
100〔・・
{7遡芝…
90
〆
爵
20 −
10
才[
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
1968 2362
4000 4500
円/5kg
図73 再生紙マルチ栽培米の購入価格(減農薬+紙マルチ)
注1)線は、①「高すぎて買わない」、②「高い」、③「安い」、④「安すぎて不安」とそれぞれ思う価
格について、低い方から累積したものの比率。ただし、③と④は縦軸の目盛りの上下を逆転させ
ている。
2)①と③の交点と②と④の交点の間が受容価格帯。
としている(図72)。さらに、減農薬を付加した米については、1968円から2,362円の幅で、
すなわち6%∼28%増を容認するとしている(図73)。
2)都市近郊産地での事例(松戸市)
③松戸市無農薬栽培研究会の事例研究(資料15−1997)
都市近郊でどの程度の優位性を発揮しているかを調べた事例である。矢切ねぎで知られ
たもともとの近郊園芸産地であったが、混住化がすすみ農薬散布に対する非農家の目が厳
しくなったこともあり、平成5年に24名で発足したが平成9年には51名販売額1億3千万
円に増加した。生産技術開発の方向は、農林水産省ガイドラインに沿った無農薬栽培を原
則とすること、品種・作型選定、対抗植物等耕種的・物理的防除法を基本におくこと、フ
158
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.11)
エロモン剤利用の推進、農薬代替資材は食用可能なものを選定すること、さらに、経験共
有に基づく科学的検証を重視することである。
表ll5に普通栽培とを比較している。エダマメ、コマツナ、ホウレンソウは価格で3割
高いが、収量で劣るために粗収益では15∼20%増となっている。ダイコンはかえって価格
が低いが収量増で、コカブは収量、価格とも若干の増で30%増の粗収益を得ている。
研究会での成果であろうが所得率は改善され所得は800万円を超えている(図74)。
表115 主要品目の収量・価格・粗収益の比較
単位面積当たり
収量(kg/10a)
価格(円/kg)
単位面積当たり
粗収益
(千円/10a)
コカブ
ホウレン
ダイコン
エダマメ
コマツナ
研究会平均
759
1,584
4,800
1,617
6,700
千葉県平均
867
1,770
4,170
1,740
5,140
対比%
87.5
89.5
ソウ
93.0
l!5.1
130.4
研究会平均(A)
888.1
427.2
138.8
388.6
83.7
農協内一般品(B)
535.1
330.7
120.9
375.3
80.5
都中央市場県産(C)
672.7
329.7
125.0
305.4
84.3
対比(A/B)%
166.0
129.2
114.8
103.5
対比(A/C)%
132.0
129.6
lll.0
127.2
研究会平均
674.1
676.7
666.2
628.4
560.8
県産平均
583.2
583.6
521.3
531.4
433.3
対比%
ll5.6
ll6.0
127.8
ll8.2
1294
104.0
99.3
単位面積当たり収量は平成8年、県平均は「青果物生産出荷統計」
(コマツナは、統計の「つけな類」との比較)
価格は、平成7∼9年平均で、研究会、農場一般品は松戸市南部・北部市場、都中央市場県産は「青果
物流通年報」による。
単位面積当たり粗収益の「県産平均」は、県平均収量と都中央市場県産市場価格の積
(%)
(千円1
16、000
14ρ00
12、000
4,149
6927
14 93
6,730
14β22
6603
1
55.
600
所
55D得
・率
伯,000
粗
収 8、000
入
1、
50.0
6、000
4,0〔の
2ρoo
0
平成7年 平球8年 平成9年
□糖費躍所得+所得率
図74 研究会主要3農家の経営収支の推移(各年とも3戸平均)
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
159
表116 安定期の施設園芸の年問経営費(試算)
費 目
安定期(60a)
種 苗 費
342,000円
肥 料 費
906,000
農 薬 費
一
経 営 費
光熱動力費
396,000
農具及び修理費
252,000
施設資材及び修理費
702,000
出荷関係費
1,734,000
外部雇用支払労賃
1,002,000
そ の 他
以上小計
534,000
5,868,000
借地支払地代
24,000
借入金への支払い利子(18項bの記述額)
12,000
償 却 費
園芸施設への固定資産税
合 計
1,068,000
30,000
7,002,000
3)環境保全型技術へと方向付ける経営戦略
④おおや高原有機野菜部会(資料16一兵庫県大屋町1999)
おおや高原有機野菜部会は9名で構成され、ホウレンソウ、キクナ、コカブなど軟弱野
菜をコープこうべのフードプランに提携して無農薬栽培している集団である。肥料はすべ
て有機質肥料であり畜産農家と提携し1次発酵を共同堆肥舎で、仕上げ発酵を個人堆肥舎
で処理している。また、ぼかし肥料を養鶏農協と提携して製造している。病害虫防除は、
防虫ネット張りとしシルバーマルチ、シルバーテープによって対応している。土壌伝染性
病害には、熱水土壌消毒、輪作、圃場衛生、微生物利用等で対応している。
この結果、表116に見るように60aのハウス規模で、販売額1,700万円、所得1千万円、
返済額を引いた可処分所得800万円を達成した。
⑤JA海津トマト部会(資料17一岐阜県海津町1997)
海津町は昭和31年から始まるハウストマト産地であるが、平成4年省力化のためにマル
ハナバチを導入したことをきっかけとして、減農薬栽培を進めるようになった。トマト部
会員は76名、平均ハウス面積は30aである。
マルハナバチを利用すれば当然殺虫剤は限定されるが、JA海津では殺菌剤を含めて農
薬使用量を減らし、さらに樹体に重大な害を与えず果実に傷を付けないものなら容認する
こととし、その結果、4割から5割の農薬を減少させている。現在、低農薬化へ向けて天
敵類の試験を進めている。
この結果、表117に見るように10a当たり260万円、1戸当たり800万円の所得を実現し
た。ただし、市場で減農薬栽培として評価されることはなかった。生産者は量販店を回り
直接消費者に訴えていたが、大手ファストフードとの提携に成功したとのことである。
中央農業総合研究センター研究資料 第2号(2002.ll)
160
表117 施設園芸の年間経営費
費 目
種 苗 費
施設園芸全体
1戸当たり
10a当たり
経 営 費
11,150,000
151,000
50,000
肥 料 費
2,800,000
37,000
12,000
農 薬 費
9,000,000
118,000
39,000
光 熱 動 力 費
80,000,000
農 具 及 び 修 理 費
20,000,000
263,000
87,000
施 設 資 材 及 び 修 理
20,000,000
263,000
87,000
出 荷 関 係 費
220,000,000
外 部 雇 用 支 払 い 労 賃
16,000,000
211,000
70,000
そ の 他
15,000,000
197,000
65,000
以 上 小 計
394,300,000
借 地 支 払 い 地 代
2,000,000
1,053,000
2,895,000
5,188,000
348,000
957,000
1,714,000
26,000
9,000
80,000,000
1,053,000
348,000
476β00,000
6,267,000
借入金への支払い利子
償 却 費
園芸施設への固定資産税
合 計
2,071,000
注:出荷関係費の内訳
・市場手数料 8.5%(販売額に対して)
・経済連〃 1%
・農協 〃 0。5%(去年まで0.25%)
・部会運営費 0.9%
・運賃 75円/4kg箱
・箱代 44円/4kg箱
当園芸年度の施設園芸成果
A.販売額
1ρ80,000,000
1戸当り
14,211,000
1戸当り
生696,000
B.経営費
476,300,000
C.差引所得
(差引可処分所得)
603,700,000
6,267,000
名983,000
2ρ71,000
2,625,000
⑥JAしもつけ栃木トマト部会(資料18一栃木市2001)
当部会は昭和44年にハウストマト栽培を開始したが、平成3年部会員の後継者がオラン
ダヘ視察に行き、そこで知ったマルハナバチ利用から減農薬栽培が始まったのは海津町と
同様である。現在部会員は29名で平均ハウス面積は42aである。
減農薬を進めるため非散布型殺虫剤ラノーテープにより殺虫剤散布回数が3割程度とな
った。養牛部会と提携した堆肥を夏季にハウスに入れることにより太陽熱消毒をあわせた
土づくりを行っている。選果場に非破壊糖度計、全戸に屈折糖度計と土壌水分をはかる
pFメーターを持たせ糖度向上を目指し、減農薬栽培とあいまって大手量販店との提携を
進めている。
この結果、表118に見るように10a当たり販売額335万円、経営費用151万円で所得184
梅川學ら:環境保全型農業技術の普及状況
161
表118 施設園芸の年間経営費
(単位:千円)
費 目
施設園芸集団全体
1戸当たり
10a当たり
種 苗 費
2,772
94
肥 料 費
6,550
226
53.5
農 薬 費
6,250
216
50.8
経 営 費
光 熱 動 力 費
農 具 及 び 修 理 費
施 設 資 材 及 び 修 理
32,010
1,104
22.5
260.2
3,360
116
27.3
5,450
188
44.3
出 荷 関 係 費
29,721
1,025
241.6
雇 用 支 払 労 賃
30,240
1,043
245.9
そ の 他
以上小計
借 地 支 払 地 代
借 入 金 へ の 支 払 利 子
償 却 費
園芸施設への固定資産税
合 計
5,417
187
121,770
4,199
0
0
63,630
0
185,400
44.0
990.0
0
0
O
0
2,194
517.3
0
6,393
0
1,507.3
万円を上げるまでになった。もっとも、この計算にはまだ量販店との提携の成果は出てい
ない。正当に減農薬栽培が評価されればもっと成績は向上するはずである。経営規模とし
ては当面60a、将来的には稲作部門を切り離して周年トマト作の1ha経営を目指している。
そのための、高軒高ハウスなど省力快適な栽培環境整備につとめている。
(参考文献)
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資料2.「生態系活用技術における生産安定技術・大規模産地における露地野菜の生態系活用型
生産技術の開発」千葉県農業試験場、北海道立中央農業試験場、山形県立園芸試験場、岐
阜県農業総合研究センター、平成4年4月
資料3.大野高資「有機栽培によるキャベツ・レタス作付体系の経営的評価」農業経営通信
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162
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資料10.井上憲一「合鴨稲作の収益性比較と作付け規模の規定要因」農業および園芸 第75巻
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資料13.高橋太一「有機農産物等のブランド的取り扱いと販売価格」平成9研究成果情報 農業
研究センター
資料14.藤森英樹・飯坂正弘「再生紙マルチ栽培による米の購入希望価格」中国農業試験場流通
研究資料第9号(20019)
資料15.栗原大二「都市化地域における無農薬野菜栽培」関東東海農業経営研究第90号(1999.12)
資料16.「第26回全国施設園芸共進会受賞業績」全国農業協同組合連合会(1999)
資料17.「第24回全国施設園芸共進会受賞業績」全国農業協同組合連合会(1997.ll)
資料18.「第28回全国施設園芸共進会受賞業績」全国農業協同組合連合会(2001.ll)
(山本勝成)