平成 25 年度 電子情報工学科 卒業研究発表会 分散処理による FM 一括変換の特性シミュレーションの高速化 著者 川原圭祐 1. はじ め に FM 一 括 変 換 は 様 々 な 変 調 方 式 で 変 調 さ れ た 複 数 の 信 号 を 1 つ の 搬 送 波 を 使 っ て 、さ ら に 周 波 数 変 調( FM)す る 方 式 で あ る 。FM 信 号 で あ る た め 、 雑音や伝送路歪みへの耐性が強く、光通信との親 和性が高い。そのため、様々な通信への応用が考 え ら れ て い る [1]。 システム設計の際、求められる要件を規定する 必要があるが、変調波波形が複雑であり、広帯域 であるため解析的に計算することは困難である 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 FM 一 括 変 換 の 特 性 シ ミ ュ レ ーションシステムを構築することを目的とし、特 に分散処理による計算の高速化を行う。 指導教員 西仁司 2.2 FM信 号 の 復 調 FM 信 号 に お け る 復 調 は 、 被 変 調 波 の 疎 密 を 取 り 出 す 処 理 と 等 価 で あ る 。そ の 方 法 の 1 つ と し て ゲ ー ト 素 子 を 2 段 縦 続 接 続 に し 、被 変 調 波 の 立 ち 上 り (ま た は 立 ち 下 り )の タ イ ミ ン グ に 一 定 の 時 間 の長さを持った矩形波を作る遅延検波がある。 このパルスの発生頻度は被変調波の周波数変化 に対応しているため、元の信号を一括復調するこ と が で き る 。 遅 延 検 波 の 波 形 を 図 2に 示 す 。 2. FM 一括 変 換方 式 とは 2.1 FM 変 換 の 処 理 周 波 数 変 調 と は 、搬 送 波 の 角 周 波 数 を 1 つ の 変 調 信 号 で 変 化 さ せ る こ と で あ る 。 FM 一 括 変 換 方 式とは、変調波が複数本ある周波数変調であり、 変 調 波 数 を N、 搬 送 波 の 角 周 波 数 、振 幅 を そ れ ぞ れ ω𝑐 、 A c と し 、 変 調 信 号 を 𝑦𝑖 (t)、 最 大 周 波 数 偏 移 を Ω𝑑𝑖 と す る と 被 変 調 波 は 次 の よ う に 表 さ れ る [ 2 ] 。 𝑆(𝑡, 𝑦)𝐹𝑀 = 𝐴𝑐 cos [𝜔𝑐 𝑡 + ∑ 𝑁 𝑖=1 𝑡 {Ω𝑑𝑖 ∫ 𝑦𝑖 (ξ) 𝑑ξ}] 図 2 被変調波と遅延検波波形 3. 変調 波 信号 の 位相 の 影響 搬送波にのせる変調波信号の位相が変化すると 検 波 後 の ス ペ ク ト ル が 大 き く 変 化 す る 。図 3 に そ の 様 子 を 示 す 。 搬 送 波 周 波 数 は 15.1[kHz]、 変 調 波 周 波 数 は 400[MHz]か ら 400[MHz]き ざ み の 10 本としている。 0 この周波数の偏移を大きくすると、被変調波の 疎 密 幅 が 大 き く な る 。 FM 一 括 変 換 方 式 に お け る スペクトルの例を図 1 に示す。 図 3 図1 FM一 括 変 換 に よ る 被 変 調 波 の ス ペ ク ト ル FM 一 括 変 換 に お け る 被 変 調 波 の 周 波 数 ス ペ ク ト ル は 一 般 の FM 信 号 に 比 べ て 帯 域 が 広 い も の に なっている。これは、変調信号が多いため、それ ぞれの変調信号による帯域変化が足しあわされる ためである。変調波信号の帯域と被変調波信号の 帯 域 が 重 な る た め 、復 調 後 も 残 留 FM 成 分 の 影 響 が 大 き い 。 そ の た め CN 比 の 解 析 が 重 要 と な る 。 変 調 波 信 号 の 位 相 の 変 化 に よ る CN 比 の 違 い 復 調 波 成 分 の CN 比 を 計 算 す る と 位 相 変 化 に よ っ て 20dB 以 上 変 化 し て い る こ と が わ か る 。 よ っ て、現実に則したシミュレーション結果を得るた めには、変調信号の位相を様々に変化させたそれ ぞれの結果を統合する必要があると考えられる。 そこで、変調波信号のそれぞれの位相差を変化さ せたシミュレーションをどの程度行えば結果のば らつきが抑えられるかを検証した。搬送波周波数 は 3[GHz] 、 変 調 波 周 波 数 は 1922[MHz] か ら 平成 25 年度 電子情報工学科 4[MHz]き ざ み の 10 本 と し た と き の 1 つ 目 の 変 調 信 号 に 対 す る CN 比 を 求 め 、 回 数 で 平 均 し た 。 そ れぞれのシミュレーション回数で 5 回計算したと き の 1922MHz の 復 調 波 に 対 す る CN 比 の ば ら つ きを図 4 に示す。 卒業研究発表会 実際の計算をクライアントが行う。システムの流 れ は 、サ ー バ と ク ラ イ ア ン ト の 接 続 が 完 了 す る と 、 サーバ側から変調波信号の位相のパラメータが送 ら れ る 。ク ラ イ ア ン ト 側 は そ れ を も と に FM 信 号 を作成して、遅延検波で復調し、スペクトルを求 め る 。求 め た ス ペ ク ト ル デ ー タ (約 420KB)を サ ー バ側に送信し、サーバ側でテキストファイルに保 存する。保存が完了すると再び 位相のパラメータ を送信し処理を繰り返す。 4. 高速 化 の効 果 図 4 検証結果 こ の 結 果 か ら 、10 回 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の 平 均 で は 16dB も の 大 き な ば ら つ き が 発 生 し て い る が 、 100 回 以 上 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 え ば ば ら つ き は 3dB 程 度 に な る こ と が 分 か っ た 。 ここでスペクトルの計算に用いられる高速フー リ エ 変 換 (FFT)は 、 一 定 時 間 間 隔 で サ ン プ リ ン グ さ れ た 2 の べ き 乗 個 の デ ー タ が 必 要 で あ る 。し か し、復調波である矩形波をサンプリングすると 立 上り、立下りのタイミングの正確な情報が失われ るため、計算誤差が大きくなってしまう。よって 復 調 波 ス ペ ク ト ル の 計 算 に は FFT が 使 え ず 、計 算 に 時 間 が か か る 。 そ こ で 、 100 回 の シ ミ ュ レ ー シ ョンを複数台の計算機に 分散して行わせることで 処理を高速化するシステムを構築した。 変調波信号の位相をランダムに与えて複数のコ ン ピ ュ ー タ で あ わ せ て 100 通 り の 復 調 波 ス ペ ク ト ル を 計 算 し た 。使 用 す る コ ン ピ ュ ー タ 台 数 を 変 え 、 シミュレーションにかかった時間を測定した。 コ ン ピ ュ ー タ の ス ペ ッ ク は す べ て Windows XP 32bit、 Intel Celeron CPU 450 2.20GHz 、 コ ア 数 1 である。図 6 はその結果である。4 台のコンピ ュータの使用によって 1 台の時に比べ 3 倍高速化 す る こ と が 出 来 た 。1 回 の 計 算 時 間 (約 25 秒 )に 対 し、サーバ・クライアント間のデータ送受信と、 サーバ側でのみ行っているテキストファイルへの デ ー タ の 保 存 に は 長 く て 約 15 秒 か か り 、単 純 に 4 倍に高速化できなかったと考えられる。 4. 高速 化 シス テ ム 図 6 高速化結果 5. おわ り に FM 一 括 変 換 の 特 性 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に お け る 平均化の効果を示した。また、分散処理による計 算の高速化を実現した。 今 後 は 、様 々 な シ ス テ ム で FM 一 括 変 換 が 導 入 できるかの検証を行う必要がある。具体的には光 通信を行うときに発生する雑音の影響を考慮する 必要がある。 図 5 システムの構成図 図 5 に シ ス テ ム の 構 成 図 を 示 す 。シ ス テ ム は サ ーバ・クライアント形式とした。シミュレーショ ンに関する設定と、結果の集約をサーバが行い、 参考 文 献 [1] 池 田 智 ら ,FM 一 括 変 換 技 術 を 用 い た 広 域 映 像 配 信 NTT 技 術 ジ ャ ー ナ ル [2] 斉 藤 收 三 ら 共 著 , 現 代 情 報 通 信 の 基 礎 , オ ー ム社
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