「経営」2回目 (新宅) 企業経営の転換

6.顧客価値
・教科書(網倉久永,新宅純二郎 『経営戦略入門』)
第6章 「顧客価値」 P.194~P.226
・概要
本章では、価値マップの概念について紹介し、顧客
によって知覚される品質が異なりうることが競争上
どのような意味を持つのか、二種類の差別化の観
点から考察する。
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6. 顧客価値
6.1 価値マップ
6.2 顧客価値と競争優位
6.3 製品進化のモデル
6.4 新興市場戦略
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6.1 価値マップ
品質と価格
– 経験曲線-低価格戦略の落し穴
• 品質面で極端に
。競争力低下
→対競合製品では、マーケット・シェアの低下
→対代替品では、売上規模の減少
• 習熟率を変えるようなまったく新しい生産方法に乗り遅れる
• 成熟期に高マージン政策に終始し、投資を怠ると、差別化した製品をもっ
た競争相手や、まったく新しい
を開発した企業に負けてしまう。
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6.1 価値マップ
戦略と収益性(PIMS研究)
– 原則
• 製品・サービスの他社より
はパフォーマンスに貢献する
 短期
優れた品質を持つ製品は5~6%程度の価格プレミアムを生んでおり、利益
の増加に貢献する。
 長期
優れた品質をもつ製品、あるいは品質を改善している製品を販売する企業
は、市場を成長させ、また自社のシェアを拡大することができ、より高い収
益を得ることができる。
• 高いマーケットシェアは収益性に結びつく
高いマーケットシェアを獲得した企業は、他社より早く経験曲線を下降するこ
とができ、また規模の経済を生かすことができるので、コストを他社より早く低
下させることができる。従って、シェアが高くなるほど利益率が上昇する。
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6.1 価値マップ
戦略と収益性(PIMS研究)
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6.1 価値マップ
戦略と収益性(PIMS研究)
6
6.1 価値マップ
価値マップ
– 考え方
顧客にとって特定製品の価値は
と
の組み合わせで決まる
• 品質 高ければ高いほど満足度(効用)が高まる
• 価格 低ければ低いほど満足度(効用)が高まる
–軸
• 縦軸
• 横軸
相対的価格
相対的品質
右下方向に向かうほど、つまり
「高品質でなおかつ低価格」で
あるほど、消費者の満足度(効
用)が高まる
高
高価格・低品質
高価格・高品質
低
低価格・低品質
低価格・高品質
低
高
相
対
的
価
格
相対的品質
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6.1 価値マップ
価値マップ
–平均的な価値を提供するポジション
高
低い価値
• プレミアム (premium)
優れた品質のものを
プレミアムを付けた価格で提供する
• 平均 (average)
平均的品質のものを
平均的な価格で提供する
• 経済的 (economy)
劣った品質のものを低価格で提供する
顧客に同等の価値を提供
する製品を結んだ曲線
相
対
的
価
格
プレミアム
平均
高い価値
経済的
低
劣った地位
–高い価値を提供するポジション
相対的品質
優れた地位
• 同一価格または低価格で優れた品質のものを提供する
–低い価値を提供するポジション
• 同一価格または高価格で劣った品質のものを提供する
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6.1 価値マップ
価値マップ
–例:デジタルカメラの価格と画素数(2005年)
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6.1 価値マップ
価値マップ
–例:デジタルカメラの価格と画素数(2005年)
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6.1 価値マップ
価値マップ
–例:デジタルカメラの価格と画素数(2005年)
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6.1 価値マップ
相対的品質の評価方法
1) 購買決定に影響する価格以外の製品属性をリストアップする。
2) 購買決定に与える影響の程度に従って、各属性にウエイト(W)を付ける。
3) 自社と競争相手の製品ライン全体に対して、各属性の点数(R=1~10点)を評価
する。
4) 相対的品質スコアを算出する。
属性数
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6.1 価値マップ
多次元尺度法
(MDS: Multi Dimensional Scaling)
消費者が知覚している製品ブランドごとの「違い」を知覚距離として
測定し、多次元空間上に製品ポジションを描き出す手法
–例1:米国中型乗用車のMDSマッピング
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6.1 価値マップ
多次元尺度法
(MDS: Multi Dimensional Scaling)
–例2:タイレノール
出所:アーバン, ハウザー, ドラキア『プロダクトマネジメント』プレジデント社, 1989.
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6.1 価値マップ
多次元尺度法
(MDS: Multi Dimensional Scaling)
–例2:タイレノール(つづき)
• J&Jグループのマクニール・コンシューマー・ヘルスケア・カンパニーの主力製品
 全世界での年間売上高が10億ドルに上る鎮痛剤のトップブランド
• 当初は医療用医薬品であったが、一般薬として開発
• 慎重にマーケット・サーベイが繰り返された後、1975年に市場に投入
• J&Jは製品を上市すると同時に消費者への強力な販売努力
 TVや印刷物、販売プロモーションなど
• 既に医師や薬剤師から高い評価を得ていたことも拍車となり市場に登場した6年
後に総売り上げが鎮痛剤市場の35%以上を占めるという驚異的な成功
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6.1 価値マップ
多次元尺度法
(MDS: Multi Dimensional Scaling)
–例2:タイレノール(つづき)
• アセトアミノフェンとアスピリン





『タイレノール』の有効成分のアセトアミノフェンは、痛みを和らげ、熱を下げるのに効果あり
消費者が処方箋なしで入手できる優れた鎮痛剤
痛みを緩和し解熱効果がある
アスピリンの使用においてはシリアスな副作用を伴う可能性がある
アセトアミノフェンを主成分とする『タイレノール』は、その心配のない製品
⇒医療専門家や消費者に理解が広まり、売り上げの伸長に繋がっていった。
• 1982年と1986年に『タイレノール』事件が発生(青酸カリ混入事件)。
 「消費者への責任」を第一に考えた体制(当時のJ&Jのバーク会長)
 J&Jの企業理念である「我が信条」の第一の責任に立ち返った意思決定
⇒ J&Jの対応は一般消費者をはじめ政府・産業界からも、これまで以上に高く評価された
全社員が一丸となった再市場努力の結果、予想をはるかに超える速さで市場を回復
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6. 顧客価値
6.1 価値マップ
6.2 顧客価値と競争優位
6.3 製品進化のモデル
6.4 新興市場戦略
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6.2 顧客価値と競争優位
2種類の差別化
–
差別化
一定の属性間の組み合せで、各属性のレベルを他社よりも向上させる。
例)より薄いノートPC
–
差別化
製品に含まれる属性間の組み合せ、ないしはその比率が他社と異なる。
Ex) カシオのデジカメ
画質を犠牲にして薄型化
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6.2 顧客価値と競争優位
2種類の差別化
–例:apple社のiPod
左から
iPod, iPod nano, iPod shuffle
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6.2 顧客価値と競争優位
2種類の差別化
–例:apple社のiPod
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6.2 顧客価値と競争優位
2種類の差別化
–例:ラップトップPCでの東芝とNECの競争
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6.2 顧客価値と競争優位
2種類の差別化
–例:ラップトップPCでの東芝とNECの競争
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6.2 顧客価値と競争優位
2種類の差別化
–例:ラップトップPCでの東芝とNECの競争
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6. 顧客価値
6.1 価値マップ
6.2 顧客価値と競争優位
6.3 製品進化のモデル
6.4 新興市場戦略
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6.3 製品進化のモデル(1) 消費者の購買行動
消費者の購買行動
(1)最高許容価格の設定
(2)代替的選択肢となる製品についての情報探索=価格と機能レベルの評価
(3)最高許容価格以下の製品がゼロ⇒
最高許容価格以下の製品がひとつ⇒ その製品を
最高許容価格以下の製品が複数⇒ 価格の機能のトレードオフで選択
製品によって得られる効用
機能レベル
価格
最高許容価格
消費者の機能に対する効用のウェイト
消費者の貨幣に対する効用のウェイト
価格と機能のトレードオフ
前提:買い手の選好は、機能が高い製品、もしくは価格が安い製品ほど高い。
無差別曲線:その曲線上の製品は、買い手にとって無差別
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6.3 製品進化のモデル(1) 消費者の購買行動
消費者の無差別曲線(
重視)
高
価
格
低
低
機能
高
出所:新宅純二郎『日本企業の競争戦略』有斐閣, 1994年, 第4章。
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6.3 製品進化のモデル(1) 消費者の購買行動
消費者の無差別曲線(
重視)
高
価
格
低
低
機能
高
出所:新宅純二郎『日本企業の競争戦略』有斐閣, 1994年, 第4章。
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6.3 製品進化のモデル(2) 企業、技術
実現可能フロンティア、実現可能領域
– 実現可能フロンティア
ある時点において、所与の機能における
、所与のコストにおける
を達成した製品の集合 →差別化と低コストのトレードオフを示す。
– 実現可能領域
実現可能フロンティアの左上の部分。
高
価
格
低
低
機能
高
出所:新宅純二郎『日本企業の競争戦略』有斐閣, 1994年, 第4章。 28
6.3 製品進化のモデル(3) 消費者の選択
消費者の選択
f
高
価
格
低
低
機能
高
出所:新宅純二郎『日本企業の競争戦略』有斐閣, 1994年, 第4章。 29
6.3 製品進化のモデル(3) 消費者の選択
マーケットフロンティア
f
高
• 買い手a
実現可能フロンティア上の製品Aが最適
価
格
• 買い手b
実現可能フロンティア上の製品Bが最適
低
低
機能
高
市場全体として、機能重視の買い手aと価格重視の買い手b、その中間の選好をもつ買い手
が存在するとすれば、各々の買い手にとっての最適製品の集合(=マーケットフロンティア)
はABとなる。
競争戦略の基本型(Porter)で示された差別化戦略とコストリーダーシップ戦略の選択は、
マーケット・フロンティア上での選択、トレードオフを表したものであると、捉えられる。
イノベーションによる製品の進化を導入すると競争戦略のあり方は、異なってくる。
30
出所:新宅純二郎『日本企業の競争戦略』有斐閣, 1994年, 第4章。
6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
イノベーションの変革力マップ
W・アバナシー、K・クラーク、A・カントロウ
『インダストリアル・ルネッサンス』(1983年)TBSブリタニカ
型
イノベーション
破
壊
的
型
イノベーション
保守的
破壊的
通常型
イノベーション
保
守
的
技術面での
インパクト
型
イノベーション
市場面での
インパクト
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
通常型イノベーション
高
価
格
低
低
機能
高
個々のイノベーションの効果は小さいが、その累積的な効果は莫大なものになる。
現在の実現可能フロンティアよりも、やや右・下に位置する新製品が登場し、その結果、実
現可能フロンティアは、右下へとシフトしていく。
買い手の無差別曲線とその分布は変わらないから、マーケット・フロンティアは、それにつ
れて同様に右下にシフトしていく。
このとき、低価格の製品のさらなる低価格化だけを狙った製品であるC2やC3は、市場を
失ってしまう可能性がある。
Ex) TIのデジタルウオッチ、ホームコンピュータ
32
出所:新宅純二郎『日本企業の競争戦略』有斐閣, 1994年, 第4章。
6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
例:VTR
松下のVTRの製品進歩
ビクターのVTRの製品進歩
33
6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
革命型イノベーション
34
6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
革命型イノベーション
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
革命型イノベーション
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
電卓の歴史
1962年 SAMLOCK COMPTOMETER社が真空管の電子計算機
1964年 シャープとキャノンがトランジスタを使った電卓(卓上形)
• シャープの製品は53万5千円
・当時の機械式計算機の平均価格は52,800円
しかし、計算スピードや計算機能の点でははるかに上回っていた。
初めは、科学・技術計算用の需要からはいっていった。
その後、事務用が主体になって、機械式との代替が進んだ。
逆転:生産金額(1967)、生産台数(1970)、価格(1974)
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
ニッチ創出型イノベーション
– 電卓の歴史(続き)
個人用の需要が少しずつ見えてきた。
しかし、イノベーターであった2社は、シェア下降。
• シャープの金額シェア:25.5%(1971)→14.5%(1975)
• キャノンの金額シェア:14%(1971)→8.8%(1975)
• 一方で、フォローワーであるカシオのシェア上昇(6.5%→26.3%)
1969年のシャープのQT-8D
8桁で99,800円→1桁1万円 →売れない
事務用には桁不足、個人には高すぎる。
1972年のカシオミニ
6桁で12800円。
特に新しい技術がはいったわけではない。ターゲットを絞って(主婦
の家計簿計算)機能を切捨て、大量生産によるコスト低下を狙った。
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
電卓初期の製品進歩
39
6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
電子レンジ
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
コンパクトデジタルカメラ
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
コンパクトデジタルカメラ
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
イノベーターのジレンマ
–参考文献
Christensen, Clayton M. (1997) The Innovator’s Dillemma: When New
Technology Cause Great Firms to Fail , Boston: Harvard Business School Press.
(邦訳:玉田俊平太監修、伊豆原弓訳『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅
ぼすとき』翔泳社)
–イノベーターのジレンマ(←原著。訳書では
のジレンマ)
イノベーションによって競争優位を確保した既存企業が、ライバル企業の
に対応できずに衰退していく
–鍵概念
• 価値ネットワーク(value network)
•
イノベーション(disruptive innovation)
• 持続的イノベーション(sustaining innovation)
訳書:
イノベーション
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
イノベーターのジレンマ
–
上位の全体システムと下位の構成要素が「入れ子」状の階層構造を形成してい
る取引システムのこと
• 同じ製品のメーカーでも異なる価値ネットワークに組み込まれていると、顧
客も異なり、製品に対する要望も異なってくる
Ex) ハードディスクメーカー
14インチ(メインフレーム)⇒8インチ(ミニコンピュータ)
–
それまでにない新しい製品属性で新たな価値を提供しているものの、従来からの
属性評価基準では価値を減じてしまうような技術革新
•
•
新しい製品属性において価値を提供⇒水平的差別化
従来からの価値尺度では品質水準低下⇒垂直的差別化の程度の低下
44
6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
イノベーターのジレンマ
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6.3 製品進化のモデル(4) 製品進化のパターン
分断的イノベーションと持続的イノベーション
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