30 News of Nagoya University Venture Business Laboratory 2011, Winter No. 30 平成23年2月1日発行 第15巻第2号 ISSN 1342-8640 図1:IV-SFG から求められた[bmim]PF6/butanol 界面の分子配列の模式図。双方から アルキル鎖が伸び、アルキル鎖層を形成している。 「研究紹介(1)」より 図 2:試作光源による指の透過像 「研究紹介(2)」より 図3:発光アップコンバージョン法。非線形光学効果によって発 光とゲート光の和周波光を発生させる。「研究紹介(3)」より ベンチャービジネス特論実施報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 最先端理工学実験実施報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 研究紹介(1): イオン液体の液体/液体界面のナノ構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 研究紹介(2): LED励起ガラス蛍光体による小型近赤外広帯域光源の開発と応用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 研究紹介(3): フェムト秒パルス光で見るカーボンナノチューブの発光ダイナミクス ・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第14回VBLシンポジウム(最先端理工学特論) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 平成22年度第2回VBLセミナー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 平成22年度第3回VBLセミナー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 平成22年度第4回VBLセミナー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 新研究員紹介 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 ベンチャービジネス特論実施報告 ベンチャービジネス特論Iの受講学生数は年々増加しており、2 年前から受講生が 400 名を越えていましたが、今年もまた 450 名以上が受講する授業となりました。これほど多くの受講があるのは、起業やベンチャービジネスに興味を持つ学生が非常 に多いことを示しているのだと思います。授業中の様子を見ると、全ての学生ではないものの、少なくない数の学生が真剣な興 味をもって講義内容に集中し、講義後も熱心に質問する姿が見られました。この様にベンチャー起業に興味を持った学生に少し でも有益な授業となり、将来、本当に起業を目指す人を増やすことに少しでも寄与できていれば幸いです。 最先端理工学実験実施報告 最先端理工学実験は、VBL にある最先端の実験設備を利用して受講生に最先端の実験設 備に触れる機会を与える実習科目で、ナノプロセス分野の実験と CAD 分野の実験を実施 しています。CAD 分野では、アクセルリスの MaterialStudio と DiscoveryStudio を用いて マテリアルサイエンス系、バイオサイエンス系それぞれのテーマで計算機シミュレーショ ンが可能です ( 左右の図参照 )。今年度は、マテリアル サイエンス系 2 名、バイオサイエンス系 6 名の受講者 で、約一ヶ月の間隔で導入と応用の 2 度の講習を実施し、 各自の研究に直結したテーマで計算機実験を行ないま した。また、ナノプロセス分野には 3 名の学生の応募 があり、「テラヘルツ波発生素子に向けた MBE 法によ る低温 GaAs の作製」という課題で集中的に実験を行い、 一定の成果を得ることができました。 GaAs 結晶上の Cs の吸着位置の検討 2 構造未知のポリメラーゼ制御因子のホモロ ジーモデリング 研究紹介(1) イオン液体の液体 / 液体界面のナノ構造 理学研究科 物質理学専攻 大内 幸雄 液体 / 液体界面は我々の日常生活に見てとれるごく一般的な現象であり、油水界面などに代表されるように、あまりにも有り 触れて疑問に思うところがない。しかしながら、2 つの非相溶性液体間でおこるプロセスは、細胞やオルガネラが脂質 2 分子膜 で分けられていることからも分かる通り、生体組織の全てのエネルギー変換を司る根源的な環境である。また、工業的な面を強 調するなら、医薬、化学、塗料、、などの分野において溶媒抽出、液膜分離、界面合成反応など、液体 / 液体界面が適用されて いる分野、主たる役割を演じている分野は枚挙に暇がない。また、ナノプロセス的な観点で捉えるのであれば、液体 / 液体界面 は、構造揺らぎの大きな液体系をわずか数ナノメートルの境界面で隔てつつ、その極度に薄い構造の中で溶媒構造や静電ポテン シャルを急激に変化させる極めて特殊な二次元構造領域である。 我々の研究グループでは二次の非線形振動分光法である赤外-可視和周波発生振動分光法 (IV-SFG) 法を用いて、イオン液体 / 分子液体の液体 / 液体界面を直接計測することに成功した。特にイオン液体 / アルコール界面においては、特徴的なアルキル 鎖層が形成されていることが分かった。 実験に用いたイオン液体 ([bmim]PF6) は領域内標準試料を、アルコールにはイオン液体側鎖との区別をつけるため d 置換体を 用いた。図 1 にイオン液体 ([bmim]PF6)/ethanol, butanol 界面における(アルコール側、CD 伸縮振動領域)IV-SFG スペクトル (sf,v,ir=ssp, ppp) を示す。また、比較のため、アルコールの気 / 液界面でのスペクトルも示した。スペクトルを比較すると幾つ かの興味深い変化を認めるが、ここでは気 / 液界面で観測されなかった ssp ( ○ )2225 cm-1 付近の CD3 反対称伸縮振動ピークが 液体 / 液体界面では強く観測され、その傾向はエタノールよりもブタノールで顕著である点を強調したい。詳細は省略するが、 これは図 2 に示す通り、アルコールがイオン液体側にも分散し、アルコールの末端メチル基が相対しあって CD3 対称伸縮振動ピー クが相殺され、CD3 反対称伸縮振動ピークが増強されたとするとスペクトル変化を上手く説明する。アルコール、イオン液体と もに同程度の極性を有する液体同士がアルキル鎖層で隔てられる傾向にあることは、イオン液体の成り立ちを考えても大変興味 深い。 図 1 a), b) アルコールの気 / 液界面、c), d) イオン 液体 / アルコール界面の IV-SFG スペクトル 図 2 IV-SFG から求められた [bmim]PF6/butanol 界面の分子配列の模式図。双方からアルキル鎖 が伸び、アルキル鎖層を形成している。 T. Iwahashi et. al., Phys. Chem. Chem. Phys.12(2010)12943 3 研究紹介(2) LED 励起ガラス蛍光体による小型近赤外広帯域光源の開発と応用 工学研究科 結晶材料工学専攻 渕 真悟、竹田 美和 【はじめに】近年、光干渉断層撮影装置(Optical Coherence Tomography: OCT)や近赤外分光分析装置のような、近赤外広帯 域光源を用いた測定・分析装置が、医療や農業分野において注目されている。これらは、光透過性が比較的高く、非破壊・非侵 襲で試料内部の情報を取得できるという近赤外線の特徴を利用している。また、OCT や分光分析装置の高機能化を図るために、 広帯域光源が用いられている。 このような近赤外広帯域光源として、 ハロゲンランプや発光ダイオード (Light Emitting Diode: LED) が用いられることが多い。 ハロゲンランプは安価、非常に広帯域であることから広く用いられているが、短寿命、熱線が放出され、サイズが大きい。一方、 LED は安価、長寿命、熱線を放出せず小型であるが、半値幅は 50nm 程度と狭い。そこで、本研究では、広帯域発光を示すガ ラス蛍光体を開発し、LED と組みあわせることによって、広帯域、長寿命、熱線を放出せず安価な小型近赤外広帯域光源の開 発を行っている。 【ガラス蛍光体の設計】蛍光体の中心発光波長制御は、可視領域蛍光体の開 発と同様に、希土類イオンの発光を用いた。これは、希土類イオンが 4f-4f 内殻遷移による固有の発光帯を有するためである。本研究では、1 μ m 帯 で発光する Yb3+ と Nd3+ を選択した。一方、希土類イオンの 4f-4f 内殻遷移 の発光線幅は狭い。そこで、中心発光波長を保ったまま広帯域化を実現する ために、母体材料としてガラスを選択した。これは、母体をガラスとするこ とにより希土類イオンが受ける配位子場の影響が個々の希土類イオンで異な り、実質的に連続準位が形成されるためである。このような連続準位の発光 を用いることにより、広帯域化を実現している。 【光源の試作】希土類イオン濃度及びガラス蛍光体の厚さを最適化した Yb3+, 図 1:試作光源の概要と発光スペクトル Nd3+ 共添加ガラス蛍光体(Yb2O3 1mol% , Nd2O3 4mol%、厚さ 3mm)と、 市販の LED(中心発光波長 590nm)とを組み合わせた光源の概要とスペクト ルを図 1 に示す。アルミブロックの孔の中にガラス蛍光体を配置し、LED の 励起光を効率よく照射している。光源サイズは、35mm(横)× 20mm(縦) × 30mm(厚)程度である。また、中心発光波長 1014nm、半値幅 98nm である。 光出力については、実用検討が可能な 1mW 以上を実現している。 【光源の応用】試作した光源と市販の近赤外対応カメラを用いて、造影剤や特 殊な画像処理を用いることなく撮影した人差し指の透過像を図 2 に示す。光源 の光が厚さ 1cm 程度の指を透過し、皮膚下の血管(黒い線状のコントラスト) が観察できた。また、人間の指だけでなく、マウスの腹部やブドウ等の透過 像も取得している。さらに、透過像だけでなく反射像の撮影も可能である。 現在、イメージングの適用範囲を広げると共に、分光分析やその他応用が可 能であるか検討を進めている。 4 図 2:試作光源による指の透過像 研究紹介(3) フェムト秒パルス光で見るカーボンナノチューブの発光ダイナミクス 工学研究科 マテリアル理工学専攻 中村 新男、小山 剛史 物質に光を照射してつくられた励起状態は、分子振動や格子振動との相互作用を通して励起エネルギーの一部を緩和して、光 を放出する。この緩和の仕組みと大きさが、光励起エネルギーを光で取り出す量子効率を決めているので、蛍光材料や発光デバ イスの開発には緩和過程の詳細を知ることが重要である。光励起・緩和過程の情報を得る方法として光吸収のダイナミクスを観 測するポンプ・プローブ法がよく知られているが、ここではフォトルミネセンスの減衰挙動を測定する発光アップコンバージョ ン法を紹介する。 発光アップコンバージョン法では、発光と高強度のゲート光を非線形光学効 果によって混合し、発生する和周波光を検出する。ゲート光の時間幅を短く することによってフェムト秒領域の時間分解型発光分光が可能になる。 図 1 に測定システムの概略図を示す。光源はチタンサファイアレーザー (82 MHz、 800 nm、80 fs) である。この出力パルスをビームスプリッター (BS) でポンプ 光とゲート光に分けて、およそ 100 μ m のスポット径で試料を励起する。試 料表面から放出される発光を放物面鏡で集めた後、もう一枚の放物面鏡で非線 形光学結晶 (BBO) に集光し、そのスポットと重なるように時間遅延をつけた ゲート光を集光する。この2つのビームの和周波光をスペクトルとして分光 図1: 発光アップコンバージョン測定システムの概略図 して、光電子増倍管によって検出し、フォトンカウンターで信号を処理する。 この測定システムの時間分解能とスペクトル分解能は、それぞれ約 110 fs、0.03 eV である。 カーボンナノチューブは、ファンデアワールス相互作用によって容易にバン ドルあるいはロープを形成し、As-grown のナノチューブの場合には、二次元 三角格子の規則性をもったバンドルになることが知られている。このような バンドルでは、チューブ間の励起子エネルギー移動によって発光が失活する ために発光がほとんど観測されない。図2は、半導体チューブの微弱な発光(1.2 - 0.6 eV)の減衰挙動(細線)である。それぞれの発光減衰曲線を単一指数 関数と装置関数で畳み込んでフィッティングした結果(太線)とその減衰時 定数を図中に示す。観測する発光エネルギーの減少にしたがって時定数は増 加し、1.2 eV では 35 fs、0.6 eV では 380 fs である。このように 100 fs 程度の 寿命であるために、通常の連続光励起によるルミネセンスの測定では信号が 観測されないことがわかる。エネルギー移動を考慮したレート方程式による 解析から、直径の細いチューブに光励起された励起子が、太い隣接チューブ(エ 図2: 半導体カーボンナノチューブの発光減衰曲線. 実験(細線)、フィッティング(太線)、レート方程式に よる解析(点線) ネルギーの低い)に移動するレートが求められた。 5 第14回 VBLシンポジウム(最先端理工学特論) 2010 年 11 月 8 日(月)、9 日(火)の 2 日間、フロンティアプラザ(VBL)ベンチャーホールにおいて第 14 回 VBL シンポ ジウムを開催しました。2010 年度は「キラルナノ化学・ソフトナノ化学、プロセスの新展開」をテーマに据え、この分野の第 一人者として御活躍の諸先生方を学外より 4 名、学内より 6 名お迎えし、興味深い御講演と白熱した質疑応答で有意義なひと時 を過ごすことが出来ました。 初日は、キラルナノ化学をテーマに、京都大学大学院工学研究科の澤本光男教授と東京大学大学院工学系研究科の相田卓三教授 による、「キラル多分岐高分子」、「キラルナノ空間」と題した講演が行われました。澤本教授は、世界に先駆けて開発に成功し たリビングラジカル重合法を駆使した、星形ポリマー(多分岐高分子)の合成とキラル不斉場を利用した分子認識、不斉合成へ の応用について最新の研究成果を紹介しました。相田教授は、らせんキラリティーにもとづく一方向巻きの共役オリゴマーの結 晶化によるパリティーの破れ、自己組織化によるらせん状超分子コイルの創成と応用について、美しいCGを交えて講演されま した。二日目は、テーマをソフトナノ化学に移し、横浜国立大学大学院工学研究科の渡邉正義教授による「イオン液体研究の広 がり」ならびに京都大学大学院理学研究科の木村佳文准教授による「イオン液体の微構造と化学反応」と題する講演が行われま した。渡邉教授はアクチュエーターや分子シャトルなどの応用を目指し た「イオン液体ゲル」に関する最新の研究成果を、木村准教授はイオン 液体の溶媒和構造が通常の有機溶媒とは大きく異なる点を、最新の研究 成果をベースに解説されました。また併せて学内研究者 6 名による研究 成果が報告されました。 本シンポジウムは名古屋大学大学院工学研究科の総合工学科目、最先端 理工学特論の一部をなし、本シンポジウムの聴講と、この後に開かれる 講義の受講により特論が構成されております。尚、理学研究科の大学院 生にも単位取得が可能なように配慮されています。本年度は古荘義雄准 教授による「らせん超分子ナノ化学」、大内幸雄准教授による「イオン 写真:澤本光男教授(京都大学)の御講演 液体のソフト物質構造科学」の講義が二日目午後に行われ、先の講演内 容を俯瞰した解説がなされました。 プログラム 11 月8日(月)「キラルナノ化学・プロセス」13:30-17:30 澤本光男「キラル多分岐高分子」(京大院工) 相田卓三「キラルナノ空間」(東大院工) 逢坂直樹「ヘリカルペプチドナノ集合体」(名大院工 八島研) 佐藤浩太郎「植物由来テルペンのリビング重合によるキラル機能性高分子の合成」(名大院工 上垣外研) 太田 豊「環状高分子の精密合成とキャラクタリゼーション ‐ トポロジーとキラリティーの異なる高分子 -」(VBL 名大院工 松下研) 11 月9日(火)「ソフトナノ化学・プロセス」8:45-12:30 渡邉正義「イオン液体研究の広がり」(横浜国大院工) 岡崎健一「イオン液体へのスパッタ蒸着による金属ナノ粒子の合成と機能材料への応用」(名大院工 鳥本研) 阿波賀邦夫「有機強構造薄膜とイオン液体を用いた電子機能開拓」( 名大院理 ) 大内幸雄「イオン液体 / 金属電極界面の微構造」(名大院理) 木村佳文「イオン液体の微構造と化学反応」(京大院理) 6 平成22年度第2回VBLセミナー 報告者:八島 栄次(工学研究科 物質制御工学専攻) 表記セミナーがVBL招へい研究員Nina Berova教授 (Columbia大学,米国)をお招きして、7月29日(木)午後1時半から3時まで、 工学研究科1号館1101講義室にて開催されました。Berova教授は、分子の立体構造やキラリティーを迅速に分析・解析する数々 の独創的な手法を開発し、化学や生化学、薬学などの領域に多大の貢献をされてきました。特に、Berova教授らが開発したポ ルフィリン二量体からなるナノ制御された”分子はさみ“を用いた円二色性(CD)スペクトルによる励起子カイラリティー法 は、複雑な分子や広範な生理活性物質の立体構造や絶対配置を簡便に調べることができる一般性の高い分析手法として、有機化 学や生化学、天然物化学、製薬化学などの広範な分野で極めて頻繁 に利用されており、世界的にも極めて著名な研究と位置づけられて います。本セミナーでは、“Some Recent Results on Stereochemical Analysis by Electronic Circular Dichroism”と題した講演をされ、 これまでの研究に加え、最近の成果である、より高感度な新規CD用 レセプター分子の開発や新たな発想にもとづく蛍光によるCD検出の 手法の開発について紹介されました。外国人5名を含む、50名以上 もの参加者があり、講演後は学生を含む参加者から多くの質問と熱 のこもった活発な質疑応答が繰り広げられました。 平成22年度第3回VBLセミナー 報告者:中村 新男(工学研究科 マテリアル理工学専攻) 劉 暁峻教授(南京大学)のセミナーが平成22年11月29日(月)13時30分から15時30分まで工学研究科応用物理 会議室で開催された。劉 暁峻教授は VBL 招聘外国人研究員として10月4日から12月4日までの2ヶ月間滞在し、超音波 照射下の化学反応によって作製した半導体、酸化物のナノ結晶のラマン散乱や光物性の研究および学生に対する研究上の指導と 交流を行った。本セミナーでは、Photoacoustic Techniques and the Applications in Material Science というタイトルで、光音 響効果を利用して吸収スペクトルや熱伝導度、弾性定数を測定する実験法とその顕微鏡への応用に関する講演が行われた。希土 類をドープした TiOZX や希土類化合物に光照射すると、フォトルミネセンスと同時に無輻射過程により熱が発生する。この熱 を検出することによって光で取り出せない光励起・緩和のプロセスを調べる ことができる。ランタノイド化合物のエネルギー移動の結果が紹介された。 また、レーザー照射によって発生する超音波の検出によって酸化物の弾性定 数を評価することができる。光音響効果の顕微鏡への応用として、走査型電 子顕微鏡に圧電材料(PZT)の検出器を組み合わせた走査電子・音響顕微鏡 (SEAM)の原理が紹介され、電子回路基板や生体材料の深さプロファイル と二次元マッピングの例が示された。光によって発生する熱や音波を検出す る分光法の原理とその応用について、最新の研究成果から学ぶことができた。 教員、学生の約20名が参加し、予定時間を越えて活発な議論が行われた。 7 平成22年度第4回 VBL セミナー 報告者:田渕 雅夫(ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー) 2010 年 12 月 8 日 ( 水 ) 16 時から VBL セミナー室に於きまして、VBL の招聘研究員である N. Sokolov 氏並びに L. Pasquali 氏 を講演者に迎え、2010 年度第 4 回 VBL セミナーが開催されました。講演内容は両氏の最近の研究内容から VBL 滞在期間中の 研究成果の速報にまで及びました。特に Sokolov 氏からは、長年 VBL との共同研究の形で進めてきているフッ化物の研究の最 新の状況の報告があり、Pasquali 氏からは、氏の研究内容だけでなく、氏が関係しておられるイタリアの放射光実験施設とその ビームラインの状況に関する紹介もあり、非常に有意義な内容のセミナーでした。 聴衆は 15 名程度とやや少なめでしたが、両氏が VBL 滞在中の研究に関わった学生を中心に質疑も交わされ、VBL の国際交 流という観点から見ても、VBL が行う大学院教育の側面から見ても充実した内容のセミナーになったものと思います。 N. Sokolov (VBL 招聘研究員 , ヨッフェ物理工学研究所研究グループ長 / 教授 ( ロシア )) “Growth processes and magnetic properties of cobalt epitaxial nanoparticle arrays on fluoride surfaces” L. Pasquali (VBL 招聘研究員 , モデナ / レッジオ エミリア大学 研究員 ( イタリア )) “Soft-X ray spectroscopy of organic and inorganic low dimensional systems at UNIMORE” 新研究員紹介 Bin Tang Bin Tang received the B.S. degree (opto-electronic Engineering) and the M.S. degree (precision engineering) from Chongqing University in 2005 and 2008, respectively. In October 2008, he joined the Sato Lab, Department of Micro/Nano Systems Engineering, Nagoya University, Japan, and obtained the Ph.D. degree in 2010. Currently, he is a postdoctoral researcher of Venture Business Laboratory in Nagoya University. His research interests include microfabrication technologies and micro sensors and actuators, especially in the application of inertial and medical systems. Jun Wang Jun Wang received his bachelor degree from Shandong Medical University in 1998, obtained his master degree in 2001 from Liaoning University, and obtained his doctor degree in 2006 from Dalian Institute of Chemical Physics, Chinese Academy of Sciences. He moved to Nagoya University as a postdoctoral researcher in Yoshinobu Baba group from 2007. Currently, he is a postdoctoral researcher of Venture Business Laboratory in Nagoya University, cooperating with Prof. Yoshinobu Baba group. His research interests mainly focus on analytical biotechnology: micro- or nano-fabrication techniques are combined and integrated for the detection of biological substances in food or in medical diagnostics. 8
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