課題曲誌上レッスン

課題曲誌上レッスン
第25回ピアノ
・オーディション予選課題曲
【JI・JII・A部門より】
のり
こ
今 泉 統 子
(武蔵野音大准教授)
課題曲記号と曲目
誌
上
レ
ッ
ス
ン
※誌面の都合上、一部の曲を除きます。
J12(P.21)浦田健次郎:「マザー・グースによる25のうた」より
5.犬がわんわん
J14(P.21)ショスタコーヴィチ:「こどもの音楽帳」Op.69 より
1.マーチ、2.ワルツ
J22(P.22)シューベルト:スケルツォ 変ロ長調 D.593-1
J24(P.23)尾高惇忠:「童話の国」より
14.こがね虫のロンド
A3(P.24)チャイコフスキー:「こどものためのアルバム」Op.39 より
21.甘い夢、22.ひばりの歌
A4(P.24)三善
晃:「海の日記帳」より 13.あこや貝の秘密、25.さよりっ子たちの訪問
注:□内の数字は小節番号
今年は「グリーグ」がテーマです。グリーグ(1843−1907)の作品は、普段のレッスンでは余り弾
かれていないのでは、と思われますが、この機会に「北欧ノルウェーの作曲家グリーグ」の抒情的で美
しい世界に親しんでみましょう。
課題曲を始める前に、私がレッスンの場で生徒さんの年令に関係なく「心がけている」ことをいくつ
か記してみます。
・どんなときでも「のびのびと弾けるように」
(気持が)
・今弾いている曲について
作曲者名・国・拍子やテンポ(Andante・Allegro等)を生徒さん自身が言えるように。
・どんな「感じ」の曲にしたいか?どこで感じが「変化」しているかを生徒さんに考えてもらう。
その上で、
・曲の中で自分が「好きな場所」を生徒さん・先生がお互いに伝え合う。
(私は転調・難しい動きの所
を言うことが多い)
・生徒さんが「ハイ・イイエ」以外の「言葉を使って」答えるように質問を行う。
なげ
20
・不得意な面を「嘆くのでなく」技術も感性も育てていく気持を生徒さんと「共有」出来るよう心がける。
<特集>課題曲誌上レッスン
楽譜についてはいろいろな本が出版されており、スラー(
)
、スタカート(
)
、> の場所
等、違いが多く見られますが「どちらが良い」と決めず、いろいろな解釈の結果と考えて深く悩まない
ようにしましょう。
J12
浦田健次郎:「マザー・グースによる25のうた」より
5.犬がわんわん
生徒に日本の作曲家の曲であると伝えます。弾き始める前に1小節分(または3・4拍)心の中で拍
を感じてから弾き出します。
明るく軽やかなスタカートで、3・4小節目は「ひとまとめ」に(フレーズ)
、5・6小節の模倣
(カノン)は譜例1のように弾いてから楽譜どおりにすると「カノンらしさ」が出るでしょう。
【譜例1】
子供にとって
のリズムは甘くなったり鋭くなり
【譜例2】
過ぎたりしますから手でリズム叩きをして「リズム感」
を持たせるようにします。
8小節4拍目( − テヌート 柔らかい音で)から曲想
の「変化」を大切に。
24・25小節の f 、p の差は、25小節1拍目の「
でp
の気分」にすると、きれいな p になるでしょう(譜例2)
J14
ショスタコーヴィチ:「こどもの音楽帳」Op.69より
1.マーチ
アウフタクト(弱起)ですから、心の中で1拍目から数えて弾き始めましょう。4小節ひとまとまり
(フレーズ)で8小節で終止(カデンツ)していることを意識しましょう。
右は明るく弾ませ(鋭くしない)
、左の
は拍を感じるように(スタカートにしないで)弾いて
下さい。
9小節目から曲想の変化をつけるため
のアクセントはテヌートと思ってタップリした音で弾きま
しょう。C-durの曲でありながら、いろいろな黒鍵の音が出てきますから、HaydnやMozartと「違う
感じ」を楽しみましょう。
21
2.ワルツ
ゆっくりめのテンポ、そしてやさしいタッチで弾いてください。4・4・8小節のまとまり(フレー
ズ)で弾きましょう。
2曲続けて弾くときは、曲の感じをハッキリ変えて(区別して)弾くようにしましょう。
J22
シューベルト:スケルツォ 変ロ長調 D.593-1
日本版ソナチネアルバムにシューベルト(1797−1828)のこの魅力的な曲が載っていることを嬉し
く思っています。シューベルトが20才頃の作品と言われますが、この曲をやることで「練習は沢山して
ほしい」けれど「弾いているときは生真面目でなく軽く弾み(おどけて)
、ロマンチックな気持になっ
て」演奏することが、ステキな音楽につながる!と改めて知ってほしいです。
この曲もアウフタクト(弱起)ですから、1拍目から拍を数えてスタートしましょう。
3小節目の右スタカートは一つの手の動きの中で指先で切って弾きましょう(一度レガートで弾いて、
その同じ手の動きの中で指先だけで音を切る)
。
9小節目 右メロディは始めと同じですが、左の和音が変化(As音)していることを大切に。
11小節 右 内声の半音進行を大切に(譜例3)
【譜例3】
21小節 3拍目からDes-durになる変化を大切に(少し腕、指を伸ばして音色の変化をつけましょう)
。
35小節 p になっていますが、減七の和音ですから少し硬く緊張感のある響きにしましょう。そのこと
で次(37小節)の
の必然性が感じ取れるでしょう(気分の切替えとしての)
。
Trioの始めの弾き方は、譜例
4のようにもできます(左オクタ
ーブが届けば)
。
右 ソプラノのレガートのメロ
ディが楽になると思います。
22
【譜例4】
<特集>課題曲誌上レッスン
J24
尾高惇忠:「童話の国」より
14.こがね虫のロンド
2
拍子が ―
(年令的に始めは4拍子で練習しても良いですが、曲が仕上がってき
2 であることを大切に。
たら2拍子にしましょう。曲の雰囲気、音楽の流れ方が違ってきます。
)
この曲は左右ともに、多声の弾き方に役立つでしょう。多声部を弾くとき、指番号とともに手首を柔
らかく、楽に、がポイントです。
一つの例として指使いを例示(譜例5)します。
(5・7・42小節)
【譜例5】
四声(多声)の弾き方として、外声(右 ソプラノ、左 バス)に少し手の重みをかけるとソプラノ、
バスそれぞれの動きがきれいに弾けるでしょう。10小節からC-dur(平行調)に転調。明るい表情に変
化させましょう(a-moll のときより少し指を立てる感じで)
。
18・19小節の和音は充分に伸ばし、p でも豊かな響きにしましょう。
20・21小節と24・25小節は同じメロディですが、d-moll と a-moll に違っていることを意識して下さ
い。
34小節で始めに戻りますが、左右が反対になっていることに気付きましょう。
23
A3
チャイコフスキー:「こどものためのアルバム」Op.39 より
21.甘い夢
やさしい気持になって弾きましょう。曲中の >(アクセント)は −(テヌート)のつもりで心を込
めて大切に。
右と左(Bass)で二重奏のように弾きましょう。
ペダルは「耳で踏む」と思って。この曲では全体をとおして「浅いペダル」にしましょう。
内声の和音は「ソッとやさしく」弾き、短くスタカートの様に切らないで。
16小節(8小節のまとまり二つ)で大きな区切りとして、C-dur のカデンツを大切に(rit.するので
なく)
。
17小節から G-dur になりますから、今までより明るさを出しましょう。
21小節 左右の音階進行をきれいな二重奏に。
(譜例6)
【譜例6】
22.ひばりの歌
右 いつも軽く(指先の動きをシャープに)明るい感じを出しましょう。
左 スラーのかかっている所と弾む和音(
)を弾き分けて。
9小節から、e-moll(平行調)への転調を曲想の変化に、また、左 和音(
)も始めの
と
区別して穏やかに弾きましょう。
つか
沢山出て来る
の所は飾り(
)を付けないで
だけで弾いてみると曲の流れがハッキリと掴
めるでしょう。
A4
三善 晃:「海の日記帳」より
13.あこや貝の秘密
6
澄んだ柔らかい音で弾きましょう。 ―
8 の2拍子(
のスウィングする2拍子)の拍
感にのって曲が流れるようにしてください。
2小節・8小節の左バスの動き、右の音を聞きながらソッと入れるときれいになります。
(譜例7)
24
<特集>課題曲誌上レッスン
【譜例7】
9小節目から新しい世界に入ったつもりで、表情の変化をつけましょう(右の音色を少しタップリと
させて)
。8小節の終りで息をして。
8小節→9小節 左バスの音が Des→Cis に変化している点に注目。
11小節 左手から右手へ メロディがつながっていますから、音色を揃えて。
13小節 左右の
を二声としてきれいに響かせましょう。
(譜例8)
16小節 1拍目の和音の響きを聴いてから次へと移りましょう。
(譜例8)
【譜例8】
17小節 始めに戻りますが、左の音(和音)が始めと違っています。
23小節 1拍目 左和音 長3度の響きを聴きましょう。
26小節 ペダル3拍目で変えるのも一つの案と思います。
(譜例9)
【譜例9】
25
<特集>課題曲誌上レッスン
25.さよりっ子たちの訪問
全体27小節でありながら、何と内容豊かな曲でしょう!
曲中 沢山表示されている < 、− 、小さな < >(テヌートと思って)
、f p は「曲の流れの中で」
と思って弾きましょう。ペダルは「浅く踏む」ようにして、
「耳で響きをチェック」することを心掛け
ましょう。
1小節 右 重音の所でアクセントがつかないように(始め上一声だけで弾き、その手の動きを使って
重音を弾くときれいになります)
。
9小節 4小節2拍目のメロディとの変化を「歌い方の違い」にしましょう。ここで半終止(d-moll)
を感じてから次に進みましょう。
11小節 4拍目は半終止(d-moll)、13小節で d-moll に終止。曲中の終止(カデンツ)を感じて弾く
ことで曲の構成感が出てきます(その都度 rit. しないで)
。
(譜例10)
【譜例10】
16〜17小節 左 半音進行を大切に(右に近づいていく感じで)
。
(譜例11)
17〜18小節 右 As→Gis 音(異名同音)に変化しています。18小節1拍目の和音を明るく澄んだ音に
しましょう。
(譜例11)
【譜例11】
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