2016 年・2 月号

二〇一六年二月一日発行(毎月一回一日発行) 第五十五巻第二号 (通巻六四八号)
2016 年・ 2 月号
お知らせ
前発行者、 現在作品三欄の選者である川又幸子氏は、
昨年末に再度の入院となり、すぐに快復し無事退院にな
りましたが、豊洲のご自宅には戻らず、介護サービス付
きの特別住宅に入居されることになりました。
病室で、或は新入居先のベッドの上で懸命の選歌、添
削をこなしておりましたが、このたび新環境に慣れるま
では控えたいというお申し出がありました。ちなみに今
月号は、担当選者を小林、大山が助けて纏めたものになっ
ております。
ご高齢の事もあるので無理はできません。よって、環
境が備わり体力の戻られる時まで、「 大山 」が代行す
ることに致します。規定に沿って一週間以内を目標に添
削を戻します。代行選者を信用してもらい、作品三欄所
属の会員の皆様は、次回より大山宛にご投稿下さるよう
お願いします。手書きでもメール添付でもどうぞ。希望
者にはメール交換による添削指導も致しております。
なお、川又幸子氏の新住所は、奥付上に掲載してあり
ます。 ( 大山敏夫 )
75 74 72 71 71 70 58 44 28 19 18 17 16 14 12 60 46 30 20 1 二
二月号 目次
お知らせ………………………………………………………表
冬雷集………………………………………川又幸子他…
二月集……………………………………橋本佳代子他…
作品一………………………………………中村晴美他…
作品二……………………………………吉田佐好子他…
作品三……………………………………鈴木やよい他…
今 月 の 首 ( 丘 は も み ぢ す )…………………… 桜 井 美 保 子 …
『四斗樽』以後の土屋文明の歌⑷ ………………大山敏夫…
カ ナ ダ 短 歌 ( 神 話 の 力 )…………………… 大 滝 詔 子 …
十二月号十首選…………………………哲也・綾子・夫佐…
十二月号冬雷集評…………………………………小林芳枝…
十二月集評…………………………………………赤羽佳年…
十二月号作品一評…………………冨田眞紀恵・嶋田正之…
十二月号作品二評…………………桜井美保子・中村晴美…
十二月号作品三評…………………水谷慶一朗・関口正道…
今月の画像…………………………………………関口正道…
詩歌の紹介 〈『故郷の道』より〉…………………立谷正男…
十二月集十首選……………………………………林美智子…
互選賞・木島茂夫賞 (選出の経緯・資料)……桜井美保子…
第五十四回冬雷大会記……………………………関口正道…
大会詠草他………………………………………………………
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23
30
to
表紙絵《浅間嶺》嶋田正之 / 作品欄写真 関口正道 /
題字 田口白汀 冬 雷 集
冬雷集
東京 川 又 幸 子
出来あがりの隣のビルの小松二本朝の小風で相ゆれかはす
羽毛布団の固まりを振る力なくなりて一つ息し二つ息してベツドにへたる
一度では食べきれぬもの多くなる「何々の鰻」容器入り食べもの
「暖かくしてお休みなさい」と予報士さん毛布一枚追加しました
出来合ひの焼きおにぎり二つチンをする塩分大分つよいけれども
「ころつと忘れる」口癖たりし友の逝きはや二十年われは忘れず
地獄絵の亡者の如くさらばへてお尻の上の骨が一ばん痛い
京舞の井上八千代の舞ふボレロ見落しならず赤丸つける
午前二時の窓を覗けば遠くの灯いづれ等しく見おとりのなし
ひざ折つて坐つて仰いでゐる人の誰と彼との目のあたたかさ
東京 小 林 芳 枝
十二月の木場駅まへを通るとき赤き房みえて海紅豆咲く
温かいですねといはれ目を合はすエレベーターの階降りる間を
新しき年が平和であるやうに願ひて過ぎむこの年もまた
七度目の干支がくるよと人に言ふなにかたのしきことのごとくに
サンタクロース宛の礼状いちまいを置きて眠れる今宵の少女
直線につづく道路の正面に低くしづまる冬の富士在り
横浜市中区 横浜開港記念会館
1
建築中のシートの傍をとほるときアニキと高く呼ぶ声のする
東京 近 藤 未希子 川向うの荒地耕し見馴れぬ野菜を作る夫妻と親しくなりたり
今までは刈草廃材など燃ゆる物は殆ど燃やしてゐたるなり
寒くなり囲炉裏がほしいと夫人言ふ我も賛成
以前囲炉裏の話が出た時にわが物置にありたる自在鉤を渡しおきたり
物置のうしろを背にして三方に座席を作り北が空きゐる
囲炉裏が出来ましたから一緒にお茶をと迎へに来たり
嗚呼何と見ごとなり畑の中の囲炉裏の焔うつくし
神奈川 浦 山 きみ子
夫と娘と三人の旅に不満など有るわけもなし楽しみとして
九州の旅にて失ふ杖ひとつ旅先なれば堪ふる他なし
街路樹の紅葉いまが盛りにて街の通りに華やぎ湛ふ
もう少しもう少しとでも云ふ様に紅葉の枝続く街路樹
高枝はすでにまばらとなれる樹の通り静けく紅葉保つ
朝日さす東京湾の見ゆる窓福岡行きの飛行機を待つ
傾きて東京湾に翼張る機窓に朝日受けて空ゆく
ひとはけの雲の上よりすかし見る地上は緑まばらなる山
ちぎれ雲浮かぶ海辺を一時間飛び来て下降体勢に入る
橋の上を米粒程の車ゆくまもなく福岡空港に着く
2
冬 雷 集
大阪 水 谷 慶一朗
三階まで上る階段脚おもく荷を持つ夕べは手摺に頼る
「太陽の塔」を仰ぎて近づける人ら等しくスマホかざして
反り乾く落ち葉に先づは音のして山の墓苑に驟雨ちかづく
急激に気温下がれる朝の庭すずめの声も張りなく聞ゆ
腹巻と踝までのソックスを身につけて寒夜を眠らむとする
一粒づつちぎり喰ひたるピオーネの房の残がいは裸木の形なす
塩に食す味はひ方に拘はれば料理に余分の味付け為さず
キック前に祈りのポーズで集中する五郎丸選手は穏やかな顔す
鋼材業の窮地に耐へつつ「冬雷」を抛たざりし茂夫先生の力
意中候補の名を明確に太く書き大阪知事選の投票終へぬ
東京 白 川 道 子
コンビニのレジの男の名札にはイスラムとあり目の合ふ一瞬
街路樹はこぶしの若木に変へられて道行く人の顔も明るむ
ばつさりと伐られたるダリアの太き幹今年も伸びる青竹のごと
三メーターはあるかと見あぐ薄紅の皇帝ダリアは青空に映ゆ
黄の花と思ひながらに近づけば秋色をなすイヌビワの葉
スマホにて写す紅葉指先に撫づれば縦横けしき広がる
散り積もる枯れ葉を突つき子烏がつまみ出したりタンポポの花
つゆ光る緑の草をそつと踏む春の息吹に触るる思ひに
3
神奈川 桜 井 美保子
五十年の歴史を刻み幕とぢしホテルの跡地いまはマンション
ホテルの名のこりてプリンス坂があり此の急坂を折々歩く
荒草の乱るる崖に沿ふ坂に親しみ来たりこの一年を
剪定の終りたる薔薇枝のみになりて真冬の風受けてをり
屋上に出る日が偶にあるらしい母に届けるストール手袋
骨折を切つ掛けにして向き合へり若くはあらぬ身体のこと
イヤホンに早口言葉聞きながら声出してみる朝のキッチン
福島 松 原 節 子
ヨーグルトこぼれたるなら拭けばよし黙つて母を見守つてゐる
庭師来ず十一月も半ばすぎ母と紫陽花の剪定をする
冷たいと言ふ母のためタオル下ぐ廊下の手摺のあちらとこちら
久びさに電話をすれば今なにを読んでゐるかと読書家の友
(十二月八日)
駅前のイルミネーション点灯式今年は豚汁の振舞ひもある
「あかつき」も回りゐるらし金星と三日月白く輝く夜明け
多機能のものはいらない温めと解凍のみの電子レンジ選ぶ
母留守のひとりの昼食たのしみに母の嫌ひなキムチ並べて
愛知 澤 木 洋 子 一端の農家を気取り腰おろし丹波黒豆莢をもぎゆく
菜園の大根かぶに菠蔆草夕餉の卓に足らひてゐたり
4
冬 雷 集
すぽすぽと大根十本抜き帰り竿に干したり冬の醍醐味
一向に伊吹颪のおとづれず今年の干柿仕上りわろし
竜田揚げみそ煮と一匹味はひぬドコサヘキサの太つちよ秋鯖
友の言ふ「焼べる」言葉の懐しや幼きころの火のある暮らし
足を止め見送りゐたり三月前送りし友の後ろ姿に似る
説教は関西弁がよし詐欺電話有無を言はせず一喝したり
季節ごと二着を残し処分すと現役時代の背広を並ぶ
何もかも忘るる日にも西王母わが為に咲けその乙女色
富山 冨 田 眞紀恵 ひと枝のもみぢを持てば前世は一本の樹でありし気がする
微かなるもののしづけさ枇杷の花小さく咲きをりあしたの庭に
秋あかねながく庭を飛んでてもわれを少女に戻してくれぬ
をはるとふ言葉はこの頃さびしいとふ言葉を連れて私に来る
晩秋の風は地のもの浚ふごと吹きて冬の道つくりゐむ
穂芒の穂先乱して吹く風に飛び立ちてゆく芒の穂綿
晩秋の残りのくれなゐ今生の別れの如く見て帰り来ぬ
茨城 佐 野 智恵子 さびしみて眺めた月を今朝にまた西空高く声あげて見る
雲もなくひとりじめした今朝の月大きく西の空高く在り 十月二八日
今朝に見る筑波嶺すかつと気持よし羽ばたく鳥も大きく群れて
5
いく
橋脚にからまる蔦は所替へ緑と真赤黄色もありぬ
生子さん世を去りてをり過ぎしのち一人の職員そつと教へる
二人きりでハワイに行きし事などもはるか昔の事になりたり
笑はない先生として四十年勤務した事本人より聞きし
ハワイでも別々の部屋にすごしたり言はれるままの私でありき
介護棟に移されてから一度だけ面会に行ききあれが最後に 東京 池 亀 節 子 向うから凄き勢ひのランニング若者集団にわれ立ちつくす
久びさに電車に乗れば誰も彼もスマホ見てゐる前の座席は
真夜中に歌浮かびきて起き上がり幾たびスタンド点けたり消したり
明朝の足らぬ食材に気づきたり夜あたふたとスーパーに行く
雨あがり即快晴に濯ぎ物待つてましたと屋上に干す
夜更けても明るき五差路にタクシーがずらり列なす辛抱強く
強風につんのめるごと歩みゆく枯葉コロコロ地面を走る
注文の本求めたる道すがら夜道彩るイルミネーション
茨城 鮎 沢 喜 代 週一度娘と出掛けるとなり町心も体も昔にかへる
肺炎にかからぬやうに腕まくり予防接種受くちくりと痛む
真夜中に走る車のヘッドライト雨戸閉ぢざる障子にとどく
二間つづきの部屋の畳を踏みしめて歩みつつつくる晩秋の歌
6
冬 雷 集
さそはれて海を見にくる朝の日が窓辺にたたずむ母子を照らす
この年も終りに近くわが庭の二本の山茶花はなびら落す
東京 森 藤 ふ み
高尾山は初めてと言ふ友と十年振りの吾と連れ立つ
温泉の湧き出で登山口駅の隣に建ちたり入浴施設
一号路コンクリートのみち歩くケーブルカーもリフトも乗らず
木洩れ日の下道あるけば汗ばみて水分補給し上衣をぬぎたり
山門をくぐり賑はふ境内を過ぎれば山頂への山道となる
抱つこ紐に赤ん坊抱へ急坂をなんなくのぼる幾たりに会ふ
小学校低学年の一団が代る代るに山頂にくる
富士山に少し離れて大山のすくつと青く立つに見惚れる
東京 赤 間 洋 子
二年後は古稀とふ教へ子十余名と亀戸に会ふ二時間余り
新米の教師たる我に歌詠むを勧めくれし友も松本より来る
名を聞けばたちまち浮かぶ小柄にて赤毛の少女の可愛い姿
野球少年のちに体育教師となり今は膵臓癌と闘ふと聞く
今年から松本の短歌会に入会せる教へ子の歌を友が指導す
一首づつ丁寧に添削する友の優しき声を傍で聞く
会の後は教へ子の家に泊まり三人で夜更けるまで短歌語り合ふ
思ひ掛けぬ語り合ひあり翌朝は行徳の遊歩道歩く一時間余り
7
京都最古の 東京 櫻 井 一 江
広隆寺の霊宝殿に祀らるる弥勒菩薩半跏思惟像
祀らるる弥勒菩薩の前に坐し拝顔の時を長く過ごしぬ
身じろぎもせずに向かへばやんはりと菩薩の心に触るる錯覚
母の顔父の顔にも写し見る弥勒菩薩の微笑みの面
赤松の一本造りの菩薩像京都最古の広隆寺におはす
仏教の伝来と共に継がれ来し造仏技術の伝統おもはる
木材にへばり付きたる余分なもの取り除くが業と仏師の言葉
仁和寺の二王門堂々そびえ立ち平安時代を誇れる如し
学問の神様の前におみくじを引きて声上ぐ修学旅行生たち
冬雑詠 東京 天 野 克 彦
わが短歌を朗唱したまひしその御声今も忘れずその温顔も (悼・田中國男氏)
冬枯れの小枝に列なす露の玉差しくる朝日に又一つ落つ
こ
冬なれば土鍋に粥を煮てゐたり梅干し添へて朝餉にせむと
籠に盛れる蜜柑を置けるわが部屋は家族団欒の居間の如しも
奥深く差しくる朝日は乱雑に脱ぎたる夜具の絵柄を映す
観音の手合はす容に白雲は小春の空よりわれを眺める
九十三歳がその妻八十八歳を絞殺のニュースにわれ黙しをり
わが机に影を落として五位鷺の過ぎゆくかたに日は落ちむとす
岡山 三 木 一 徳 8
冬 雷 集
陸も変海も変とか言はれゐて瀬戸内の海にイルカの群れる
猪が喰つたか稲は倒されてすごかれてゐて農家泣かさる
飛行雲追つて飛びゆく烏の群れ塒へ急ぐか一直線に
岡山の初マラソンを走る人一万五千人が雨にもめげず
急成長の裏に汚染を残しゆく昼なほ暗き中国の街は
大気汚染何とかならぬか中国は昼夜も暗き街が出現
仲よくて気丈であつた妹がガンには勝てず先に旅立つ
妙義山 埼玉 嶋 田 正 之
カーナビの声に従ひ到着の妙義の姿に得心できず
妙義山描くポイント見つければ鼓動微かに高まるを知る
みすずかる信濃の国の番兵のごとき威容の妙義聳つ
拒否をせる手の如くして迫りくる妙義の姿を切り取り描く
そそり立つ岩肌包む柔らかな黄金にかさね想ふクリムト
六号のスケッチブックを脇に抱きコンビニに買ふおにぎりとお茶
レジの娘におにぎり出せば間を置かず温めますかの声にほころぶ
久々の高速道の運転に手の平の汗拭けどふけども
海月雲背景として群れ咲ける皇帝ダリアをあふぎ見る朝
栃木 兼 目 久 たつぷりと太めの線の作品を書かんと願ひ墨を含ます
小筆使ひ原稿用紙に書いていく「細雪」執筆の谷崎の映像
9
もつと早く題材を決め書き出せばよかつたと悔やむ展覧会作
わが子をば胸に抱きつつあやしゐる幸せに満ちる母親の顔
子供らが五郎丸選手のポーズまね小指合はせる仕草愛らし
(台湾)
ヰノシシが突進する如くダッシュする赤黒き顔のサモアの選手
ビール一本頼むごとに金払ふ台湾に来て夕食取れば
縦に横に漢字に書かるる看板が通りに連なる台北の街
日本の旧字体漢字を日常の生活に使ふ台湾にては
(世界ラグビー戦)
千葉 堀 口 寛 子 気がゆるみ塩気が一つ腎臓の夫の体を痛めて居たり
小さき頃貧乏人の子と言はれ父母庇ひ吾れは泣きたり
田に畑に精出し働く父母を思ひ出す日は何故か悲しき
秋さかりなり 東京 赤 羽 佳 年
廃校の校門わきにそそり立つメタセコイアに夕日のひかり
細やかなメタセコイアの葉の明かし夕べのあかり輝かせゐて
秋闌る七国山の畑道にノコンギクまたヨメナの咲ける
指さしに道教へられ野の道を上りてくれば秋さかりなり
公孫樹黄葉をはららかす風押し寄せて真向かへば寒し夕影の道
天空より降る寒気に夕さむく声しきりなる烏群れゆく
霧深き夜道を急ぎ歩めれば防犯灯のあかりほのぼの
雨あとの落葉が朝日に湯気たつるさま眺めつつバスを待ちをり
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冬 雷 集
松葉菊いたづらに伸び鉢に垂り秋にも枯れず多肉葉繁る
東京 山 𥔎 英 子 房総の野に咲く水仙花盛りと野菜と共に送られ来たり
清らけき香りは部屋内満たしたり幾度となく深く息吸ふ
シクラメン日光浴とベランダに眩しき冬日に花ひら震はす
混み合へる医院の帰り夕暮れてうす紅椿の花に佇む
道に沿ふさつきの根方にたんぽぽの瑞々しき葉伸び伸び育つ
ポジティブに生きてゆかむと思ひつつ老いゆく不安常に離れず
「不安とは」佐好子先生に納得しつつ又湧く不安
「公衆電話何処ですか」と問ふ吾にそれ何ですかは早死語か 埼玉 大 山 敏 夫
大公孫樹の上半分は黄にそまりきんいろに照る銀杏鈴なり
大公孫樹仰ぐめぐりに音一つまたひとつ落ちて銀杏が鳴る
この古き墓石の下の十六年長きか短きか百歳の師よ
「木嶋家の墓」が隣に立つゆゑに寂しくなし師の眠れる墓石
やや粗き石のまるみをもつ墓の肩のあたりに手を触れてみる
やがて雪に埋もるるものか墓原はいまもみぢ葉のはなやぎのとき
ありあはせの花を詫び手をあはせつつ言はずともよきことも言ひしか
あらためて至らぬ弟子とわが思ひ発行所移転の経過も話す
墓も葬儀も遺されし者の都合にてあれば受けいれむ死後のすべてを
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丘はもみぢす 桜井美保子
滑車の綱ひきては上ぐるリハビリの単純動作にリズムが生まる
仰向けになりて両手に持つ棒は万歳の位置に未だ上がらず
蛇口より両手に水受け顔あらふ片手しか使へぬ時期乗り越えて
椅子にかけ上半身をねぢりみるそろそろそろと右に左に 骨折の腕に入りたるプレートは馴染みてゆかむ吾の体に
体力の大方リハビリに消耗すパソコンにむかふは明日にしよう 腕のだるさ振り払ひたしイヤホンに「天城越え」聞きてキッチンに立つ
忘れゐたる指の切り傷ちくりとすカボスの汁をぎゆつと絞れば
使ひ捨て叩きのやうなグッズ買ふ埃が立たぬと娘の勧め 裏磐梯のもみぢは写真に写したるものより紅しと夫は話す
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今月の 30 首
宿の菓子われへの土産とリュックより出だしくれたる洋風煎餅
洗ひたる夏のブラウス来年は良きことのあれアイロンを掛く
肩甲骨寄せて寄せてと背を伸ばす都心に近づく電車の中で
骨折の吾に代はりて司会役引き受けくるる高田光氏
宴会をほのぼの盛り上げゆく手腕たのもしきかな冬雷の友
手術のあと九週目となる左腕もつと上がるといいねと医師は
リハビリに励む同士の話し声飛び交ふ理学療法室に
職場復帰果たして尚もリハビリにバイクのペダルを漕ぎに来る人
左手を上げむとすれば左肩ロボットのやうに上がりてしまふ
しなやかな腕の動きはもう無理かされど諦めず目標とする バス停をひとつ乗り越しわが家まで公孫樹もみぢに次々出会ふ
うすら寒き三渓園の池の辺に終りかけたる秋萩の花 椅子にかけて憩ふ人らの足元を猫四匹がのつそり歩く 庭園の池のほとりに花嫁さん洋髪にして打掛姿
久々に履きたる草履鼻緒きつく指に当たれど次第に馴染む
まへで結び後ろへまはす蝶結び半幅帯を結ぶもリハビリ
バスの床雨に濡れゐて乗客らレインコートの滴を拭ふ
雨風に公孫樹激しく散りてをり歩道の敷石黄葉に覆はる
ラベンダーの葉を摘み取ればその香り脳に届きてすつきりとせり
坂また坂続くこの地に移り来て一年近し丘はもみぢす
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『四斗樽』以後の
土屋文明の歌
⑷
み ぎり
はら
す「水限」を意味する。この後に、
これは逆に幾年か花をつけたんだけど、ど
うやら今年はだめらしい、という歌である。
ノ尾・水雄」とも書いて「みのを」とよばれ
清和天皇ゆかりの地「嵯峨水尾」は、古くは「水
た。次の歌に「清滝」を歌ったものがあるの
ひし底に少
し雨みづ
がある。彼とは夏実さんであろう。亡くなっ
で、嵯峨野の府道
彼が図に作りし池の四六尺排
た長男の家の庭には故人が自ら設計して拵え
号線沿いに歩いた、或は
た池があったのであろう。主を失った池は、
変する。〈時は過ぐ悲しみも共に過ぎゆかむ
活が淡々と歌われていた。それが途中から一
ら十月となる。たしかに一連の初めは日常生
作として掲載される。ならば作歌時は五月か
常雑誌とは、その二箇月前あたりの作品が新
「時々雑詠」三十首は、目次によると七月
号から十二月号までの作品であるという。通
通に時は流れて行く。そういう長息が聞こえ
ども一日は一日であり、世間ではごくごく普
に濡れる草が青い。こんな悲痛な時間といえ
池を見ると当然故人の面影が浮かぶのであ
ろう。所在なく定まらぬ視線の先の砌には雨
共に夏実さんの生前に行った行為である。
る。 こ の 歌 に は「 し 」 が 二 つ 遣 っ て あ る が、
なった池底には折からの雨が少し溜まってい
殉 ず る よ う に 水 を 抜 き 取 ら れ て、 あ ら わ に
佐水木だった、という素朴な驚きが籠る。
に見守る作品も多い。この種子は育ったら土
れる小禽たちが運んで来る種子の実生を大切
文明はいろいろな場所に行って種々の植物
を採集する趣味があったらしい。或は庭に訪
広沢の道のゆきずりに取りし種子ひとつ
イトウ」とよばれる一年草の花。
は そ の あ た り の こ と で、「 青 葙 」 と は「 ノ ゲ
車で走った折のことかと思う。「水の尾の路」
大山 敏夫
過ぎゆく中に老いし命あり〉〈苦しみ来し者
て来る。
花や木を育てる。それは子育てにも通う所
がある。夏実さんは躰の弱い子供であったの
これは二人の思出のこぶしなのかもしれな
い。狭山の林で拾ったのだから東京の文明宅
ノゲイトウも、土佐水木も、二人で一緒に採
明と一緒に富士山にも登っている。こぶしも
年時代はアララギの旅行にも同伴したし、文
生ひいで土佐ミヅキとなる
せい さう
には平安あらせじと八十すぎて今年このこ
狭山の林の下に拾ひ来しこぶし十年にし
の庭に植えたのであろう。ちょうど十年目の
咲く時もあらむ
せいさう
で、ずいぶん心配して大切に育てられた。少
今年は花が咲いたんだよって、故人に語りか
て今年花ありき
の雨のしたたり
見るものは砌の草の葉をぬらす夕暮どき
一日は一日として過ぎゆくにいく度向ふ
集した思出の物だったように読み取れる。
せいさう
けているのか。
年絶えたり
を
青葙の絶えたる跡にはミヅキの幼き苗の
悲嘆の涙のにじむような歌である。「砌(み
ぎり)」とは、この場合池などの水ぎわをさ
み
みぎりの草に
水の尾の路の青葙拾ひ来て幾年なりし今
この背景に長男夏実さんの「病死」があっ
たことは感じられる。
と〉突然こういう歌に出会すと「あっ」て驚く。
50
14
言わずに「絶えたる」なのは嬉しい。
故人に、また生れ変わって戻っておいでと
語りかけるようである。ここで「絶えし」と
テル子夫人と夏実が待つ、と歌うのだ。
「ひきのこほりつきのをか」が埼玉県比企
郡都幾川町の慈光寺を意味する。先に逝った
のか。萬葉集に四首ある「韓藍」がこれだと
聞くが、もしかしたらあれも「青葙」だった
の花を思った。あれはいわゆる鶏頭と雰囲気
を失った時の悲嘆の一連を読んで、あの鶏頭
からあゐ
せいさう
を異にしていた。ノゲイトウの種類も多いと
というもの。この稿を書くために、夏実さん
栗をめでまつたけめでつつ此の夕べ老の
一昨年の十一月、わたしは久しぶりに文明
の眠る墓地を訪ねた。その時にこの歌碑を発
二人の眼は涙なり
云われるが、文明の好みそうな花である。
ほぼ一年後、半世紀ぶりに、若き日に貧し
く辛い日々を過ごした群馬の地を訪れて、「白
雲一日」三十一首を発表する。そこにも夏実
さんが次のように歌われている。
には「貧困」であったが、君には「病」だっ
墓の周囲には、引き抜かれた鶏頭の花
がその戒名のようであった。
「孤峰寂明信士」
並んで立てられてあった。
日に弱き汝が生ひ先を
わけなしに恐れしことも忘れがたし日に
を伴ひし堰沿ひの道
来り見るすぎにし跡のここにありや幼き
多く生ひたたしめき
お借りして、お墓を洗わせていただいた。
回忌、 回忌の折の卒塔婆が
あ っ た の で、「 土 屋 家 」 と 記 す 桶 な ど も
自然の湧水を引いたと思われる水場が
見した。その時の記録にみると、
貧は我を病は汝を育てきと思ふ病に汝は
倒れぬ
心のこもったい美味しい栗やまつたけを食
し な が ら も 涙 を 抑 え ら れ な い。「 老 の 二 人 」
とは遺された老いたる夫婦の自分たちと客観
たなあ、十分に頑張ったよねって呟くようだ。
が土のついた根を乾かしながら幾つか横
幼くして一生の体質定まると思はざるに
墓には
立ち難きを思ひし夕べ妹に残る老二人を
たわっていた。まだ綺麗な花をつけてい
している。逆境は人を育て強靭にする。自分
頼みたりといふ
る状態なのに抜かなくてもよいのにねっ
もあらざりしものを
ひ弱く生れ来し汝をここに置き病むこと
ろは、文明的には「頼みし」となりがちだが、
て、思った。管理する人にはそれなりの
愛する子供に先立たれることは親にとって
は辛い。
これも悲しい歌である。三人の娘さんから
聞いた話なのであろう。「頼みたり」のとこ
どんな気持が働いて敢えて字余りにさせたの
都合があるのだろう。仕方ない。
いてしまうのだ。 (続)
に相応な結果を遺していることに、改めて驚
それにしても、文明作品に過去回想の助動
詞「し」がめだつ。そして殆どが、その性質
か、読み拘るだけでも作歌の勉強になる。
き継がれる生命の強烈さを思った。
な花を掲げながら、数本立っている。引
さな子供たちのような鶏頭がすでに小さ
ふと見ると、墓石の周りには、その小
34
慈光寺の墓地には最近素朴な石の歌碑が建
てられた。その歌は、
亡き後を言ふにあらねど比企の郡槻の丘
には待つ者が有る (昭和六十年作)
15
24
「 神話の力」
この対談は、先ずモイヤーズ氏の疑問か
ら始まる。今どきなぜ神話のことを考える
飛田茂雄で早川書房より出版されている。
書籍化された。日本語版は二〇一〇年に訳・
心を掴み、後に対談集「神話の力」として
組で語るキャンベル氏の言葉は多くの人の
八十三歳で亡くなった後だったが、この番
の は、 収 録 終 了 の 翌 年、 キ ャ ン ベ ル 氏 が
話は示唆に富んだものだった。放映された
古代の語り部、死と再生などについての対
渡って収録された。英雄と伝説、神と人間、
の対談テレビ番組「神話の力」は二年間に
米国の神話学者ジョーゼフ・キャンベル
氏とジャーナリストのビル・モイヤーズ氏
北米ミンカス族の諺
目に涙がなければ魂に虹は見えない
私達は舞を舞うだけです」と答えたのだと
祭 は「 私 達 に は 思 想 も 教 義 も あ り ま せ ん。
理解できません」すると暫く考えていた司
ていただいたが、あなた方の思想も教義も
儀式に数多く参加して神殿もたくさん見せ
言 っ て い る の を 耳 に し た。「 私 達 は 神 道 の
は、 あ る 米 国 人 学 者 が 神 道 の 司 祭 に こ う
いたキャンベル氏
宗教に関する会
議で日本を訪れて
です」
ことに気づくはず
たをとらえている
神話のほうがあな
知 識 さ え あ れ ば、
です。適当な予備
に受け止めるべき
場合には、まとも
その問題の方があなたをとらえて放さない
で は あ り ま せ ん。 た だ、 ど ん な 形 に し ろ、
ているから興味を向けるなんて賢明なこと
たい。どんなことでも、他人が重要だと言っ
なたに神話の知識などいりません』と言い
お続けなさい。それは立派な人生です。あ
そが人生で最も大切なことなのに」
結びついた無上の喜びを体験する、それこ
て い る。『 い ま 生 き て い る 』 と い う 実 感 に
に慣れすぎてしまい、内面的な価値を忘れ
る目的を達成するためにあれこれやること
こに居るということです。私達は、外にあ
そしてあなた自身の意味とは、あなたがそ
そ こ に あ る、 或 い は 居 る、 そ れ だ け で す。
「 こ こ に 一 つ の 花 が あ る、 一 匹 の ノ ミ が
いる、その意味は何でしょう。それはただ
話はあるのです」
ういう喜びをもたらすための助けとして神
て、生きている無上の喜びを実感する。そ
ないし実体に共鳴をもたらすことによっ
生 活 体 験 が、 自 己 の 最 も 深 い 内 面 の 存 在、
と思います。純粋に物理的な次元に於ける
いるのは『いま生きているという経験』だ
ではありません。人間がほんとうに求めて
うに探求しているのは、たぶん生命の意味
「 人 々 は よ く、 我 々 は 生 き る こ と の 意 味
を探っていると言いますが、人間がほんと
受け継がれてきた音楽なのだという。
とは思想でも教義でもなく、時代を超えて
大滝詔子
必要があるのか、神話は現在の私達の生活
と ど う 関 わ っ て い る の か を 問 う と、「 答 え
いう。同様に、キャンベル氏にとって神話
www.youtube.com/atch?v=2UexY9chnXM
としては『どうぞそのままあなたの生活を
カナダ to 短歌 91
16
知人少なし 飯塚 澄子 駅ホームの明りのもとに網を張り等間隔に蜘
と雨降る中を 高島みい子
秋祭りの太鼓の音に誘はれて出かけてみるに
つ咲く 正田フミヱ ☆
わが好む赤飯かかへて友が来る散歩のついで
ぐる手をつき歩む 小川 照子
月の夜にしげく聞える虫の声秋明菊は倒れつ
りたるゆえか 高松 ヒサ ☆
逢はぬまに曾孫琉我がチャブダイの周りぐる
太りゆく 沼尻 操
虫の音を聞かぬ今年は年老いてわが耳遠くな
観つむ 田端五百子 梅雨晴れの暑さのなかに次々と鷺草咲きて月
と吹きに消す 吉田 綾子 ☆
河川敷人と犬とが影ならべ子ども野球の決戦
課に歩む 堀口 寛子 生日を祝うケーキのキャンドルを孫は十本ひ
病院の長き廊下をゆつくりと術後の義姉は日
作 品 一 中村 哲也
技に 立谷 正男
げ手のしをかける 飯嶋 久子 ☆
息絶えし難民の子を偲びたり運動会の親子競
バッタ飛び立つ 林 美智子 ☆
明治生まれの母の形見の銘仙を作務衣に仕上
香立ち来 田中 祐子 ☆
多摩川の土手の傾りの草踏めばひと足ごとに
らんどう 江波戸愛子 ☆
天高く見様見真似の種蒔きに耕したての土の
湧いてきた 野崎 礼子 ☆
福祉用具引き取られゆき玄関もちち寝所もが
温み広ごる 東 ミチ ☆
シンプルに生きる友に刺激され捨てる勇気今
ひと時 早乙女イチ ☆
ストーブの点検かねて試し焚き難なく部屋に
心にちかう 田島 畊治 ☆
心地好い風通りくる遊歩道のんびり孫と昼の
追ひゐる 大滝 詔子
一人では生きてゆけぬ今の妻長生きせねばと
七十の数字飛び交ふこの年に七十歳われ何を
作 品 二 吉田 綾子
す夜 加藤 富子 ☆
んもゆるがず 松本 英夫 夫を待つ待合室にわれ一人期待と焦燥くり返
り布団はねのく
篠本 正 ☆
自転車の前に乗り笑む幼子は母への信頼みじ
に広がり止まず 星 敬子 寝ておれば地震の揺れの強まりて動悸たかぶ
ポリープのあり 永野 雅子 ☆
いわし雲ふはりふはりと流れゐてこの夕映え
ちつけ孫の声とちがふ 斎藤 陽子 一年間の仕事の疲れとストレスか健診結果に
む麹作りを 植松千恵子 おれおれの電話がつひに我に来たおちつけお
みたりと 池田 久代 手作りの味噌待ちくるる人あれば今年も始め
洗へず 富川 愛子 人道を歩いて居たる妹に自動車が急につつこ
ら考えてみる 吉田佐好子 ☆
鬱ながら夫の食事作りゐき眠剤のめば食器も
病む人の傍らにいて何もできず出来ることか
作 品 三 永田 夫佐
十二月号 十首選
蛛たちならぶ 関口 正子
十二月号 十首選
17
十二月号冬雷集評
小林 芳枝
ベランダの手摺りの影の濃くなりて十六
が多い。
弟妹五人何年ぶりの顔合はせ世話にな
りたる想ひこもごも 白川道子
蝉の声しか聞えてこない静かさは、都
会ではなかなか味わえない。樹木のもつ
力のようなものが感じられる作品。
去年の秋妻と作りたる切干大根ことし
けられた事などを語りながらしっかり者
もすすんだことだろう。
ば相当に美味に違いない。秋の夜のお酒
手作りの切干大根はどんな味がするの
だろう。まして奥様との共同作業であれ
十月晩酌に食む 兼目 久
満月より遅く出てくるという十六夜の
月の明るさを上句の写実で上手く表現さ
だった姉を偲ぶ様子がみえてくる。
「姉を見送る」という歌もあり、六人
弟妹の一番上のお姉さんの葬儀での顔合
れた。手摺の際やかな影と空たかく昇っ
通販の名前は父のままとして長き梯子
年々に柚子あまた生る木を仰ぎ葉陰の
のことだったという。その艦橋に現在多
たまま沈んでいる。戦争の終る四ヶ月前
史上最大と言われた戦艦「大和」は九
州沖南西海上でアメリカ空軍に撃沈され
窓越しのひかりに黒き艶を見せメキシ
お怪我のないように願いたい。
守っている山﨑さんらしい歌。
で少しほっとする。常に身近な植物を見
て も「 長 き 梯 子 」 で 高 枝 で も 切 る の か。 づいて枝の間に幾つかを確認できたこと
文しても全く問題ないという。それにし
目標は低きに置きて無理をせず病院通
わせのようだ。戦中戦後の苦しい時を助
て ゆ く月が調和して爽 や か な 作 品 で あ る 。
を注文したり 松原節子
夜の月高くめぐり来 川又幸子
海底に七十年あり戦艦の「大和」は艦
一度利用すると暫く送られてくる通販
カタログ。亡くなった人の名で其の儘注
青き実いくつ確かむ 山﨑英子
橋を魚礁となして 水谷慶一朗
くの魚類が集まっているということを
コ産のアボカド二つ 櫻井一江
何時もはびっしりと実をつける柚子に
今年は実がみえない。どうしたのかと近
知った作者。歌は事実だけを述べている
早めに買ってきて自宅の温かい窓際に
数日置き、食べ頃になったのだろう。緑
は蝉の声のみ 森藤ふみ
深緑の木々の下道ただ静か聞えくるの
そろそろ美味しさも増してきたようだ。
から黒に変ってしかも艶があるとなれば
おられる。下句に真面目さが現れている。
は中々難しいが長く続けるコツを心得て
来すことになる。年齢を重ねた人の適度
動かさなければ弱くなる体力。でも急
にハードな運動をすればどこかに支障を
ひに歩を稼ぎをり 赤羽佳年
が、複雑な心の内を考えさせられる。
怪我したる左手うまく動かねど使へる
右手にパソコンを打つ 桜井美保子
左手骨折の術後であろう、使える右手
で仕事を熟そうという姿勢が桜井さんら
しい。常に前を向いた生き方に学ぶもの
18
ている。最新機種をなで回し、頬ずりを
上句は、芥川龍之介の短編「蜘蛛の糸」
を連想させて面白味。結句の表現は作者
も。デジカメは今や市民権を得ていよう。 ならではのもの。今月号には先の関東・
し陶酔感に浸っている様子。添い寝など
赤羽 佳年
初に聞く線状降雨帯の止まりて我が住
十二月集評
校庭の半分ほどに積まれゐる水害ゴミ
む辺り雨降り止まず 斉藤トミ子
まとまらぬ歌を諦め眠らむとすれど眠
ており味わい深い。
いるが皆それぞれの捉え方、表現をされ
東北の水害を詠んだ歌が沢山出詠されて
になほ雨の降る 髙橋説子
線状降雨帯は線状降水帯を言うのであ
ろうか。ここも「平成 年9月関東・東
☆
先の鬼怒川決壊の洪水の、リアルタイ
ムのあのテレビ映像には釘付けにされ
て、自然の脅威を見せつけられた。越水
のフレーズがよい。
☆
午後四時の太陽すでに力なく衿元に小
北豪雨」と命名された先の鬼怒川堤防決 れず下の句さがす 山本貞子
壊の水害を伝える。結句「雨降り止まず」 この作歌姿勢に感動する。結句「下の
句さがす」の直截がよい。
積し止まっている様子を伝えており、結
破 堤 の 言 葉 も 知 る。「 積 ま れ ゐ る 」 に 堆
句もよく捉えている。
鬼怒川の決壊瞬間をテレビに見るただ
きスカーフを巻く 本郷歌子
初秋の夕ちかい日差しを、ユニークに
捉えている。結句などにも然程でもない
るが、中の句が緩んだ。
原爆を正義と言いたる唇に発音さるる
寒気が表現された。
句は「いち月」か「ひと月」か判然とし
の虚し ブレイクあずさ ☆
PEACE
唯一の被爆国の者にとってはこの感情
立ちあがれ歩けるかと膝をなで杖をた ただ呆然と立ち竦むなり 樗木紀子 ☆
よりに一月始まる 栗原サヨ 濁流に押し流される家、屋根上に救い
不 自 由 な 足 に 語 り か け て い る 様 子 で、 を求める人人を見たとき、結句の表現そ
なだめつつ立ちあがる様子が伝わる。結 のものであった。一二句は緊張感を見せ
ないが、私は「ひと月」と捉え、またこ
の月も始まるのだと、自身に言い聞かせ
な い。「 唇 に 発 音 さ る る 」 に 活 字 で は な
るみ」「常の倍焙煎珈琲」に音的面白さ。 とはっきり詠った。戦争に正義はあり得
は 理 解 が 及 ぶ。 宮 柊 二 は「 戦 争 は 悪 だ 」
パン裂けば出てくるくるみ常の倍焙煎
珈琲味の引き立つ 矢野 操 ☆
頭 句 は 説 明 調 で あ る が、「 出 て く る く
い生生しさが出された。
る様子と見た。寒気増します。お大事に。
これが最後と決めて買ひたるデジカメ
くもの糸のごときロープの下りきてヘ
☆
の重みと艶を確かめてゐる 関口正道
関口みよ子
リに命は仕舞われてゆく
本誌上のカット写真を担当されている
氏にとっては商売道具であり大事にされ
19
27
二月集
福井 橋 本 佳代子 昨日の荒れはうその如くに峡晴れて外の終ひ事捗るはよし
訪ひて来る人も電話も来ぬけふはゆつくり昼寝に老いを休ます
たのしみに待ちたるかにの解禁日友どちと越の浜辺に遊ぶ
会合に出で来てけふは聞き役よ老いとは楽なり寂しきものなり
暮れ早き庭明るめてももとせのいろはかへでは今紅葉最中
穏やかな師走の光喜びて雪来る用意にけふは精出す
満点星も楓も冬木となる庭に山茶花の紅が白が目を引く 東京 増 澤 幸 子
友逝きて哀しみ抱へ帰り来る足元かすか震へて居りぬ
哀しみは心も身をも蝕みて置き処なき夜を過ごしぬ
診察を待つ間水槽の熱帯魚数へてみんと意気込みてをり
五嶋龍の絃持つ指先見つめつつ少し生きむと力をもらふ
干柿にせよと届きたる渋柿の皮むき居れば母の恋しき
キャンセルの航空券を握りしむ四百マイルは近くて遠し
メールだと早いけれども手紙にす姪は見舞に優しく記す
もう一度土讃線に乗りてみむ十八歳の夢確かめに
横浜市中区 神奈川県庁
20
二 月 集
☆
栃木 髙 橋 説 子 わが髪を切る快感と交換にシャンプーさるる心地良さ得る
夕空を群れて自在に形換へCG画像の如き椋鳥
クッションを締めたり投げたりしつつ見る黒帯たちの世界大会
近道をせずに弥彦の大鳥居くぐりて正規の参道をゆく
町内の神社の祭りの賑やかに児童は踊り代議士歌ふ
職員と家族の区別の付く母か吾を見つけて高く手を挙ぐ
「姉御だ」と吾を指す母先週は倅の嫁と言ひゐしものを
職員の点呼にハイと手を挙げる母はここでは一番元気
栃木 高 松 ヒ サ
眠っているのか野も山も静かに暮れる秋の陽の入り
忘れたる文字の多くは辞典引く脳は段々軽くなるのか
体調も徐々に戻りて正常な暮しの今夜は熱々の鍋
柿の実を箱詰にして正月用と数箱納める寒き所に
何十年書替えをせぬ電話帳亡き人の名も多く残りぬ
菜園のカキ菜も大分太くなり春よこいよと畑に待てり 東京 穂 積 千 代 薄陽射す秋の歩道の石畳に動かずなりし蜂を跨ぎぬ
莟もち咲く花をもちランタナの青く艶もつ種はふえゆく
黄の花に黄の蝶が来て暫くをたはむるごとく舞ひて行きたり
21
東京 岩 上 榮美子 日を追ひて薄れゆく思ひ胸の奥処に夫の面影抱きてをれど
我を張りて吾の主張を通したり押しつけぬ夫の掌の内にゐて
穏やかな写真の夫に問ひかくる私いつ迄残るのでせうか
木柵の残る東横線に沿ふ道を松葉杖つく夫と歩みき
相模原に住む七十年来の親友が訪ねて呉れぬ娘の車にて
ようこそと無言で互の手を握る少女時代からの親友なれば
もう会ふことはなからむと思へども「又ね」と握手をしたり
米寿を祝はれる婆となりたり八十八年を確かに生きて
茨城 関 口 正 子 岩風呂の底をのぞけば身巾ほどの源泉自噴の穴があきをり
おづおづと足の先よりすべり入る源泉自噴の穴の中へと
朝食をぬきて検診待つ間見るテレビは鱒の炊きこみごはん
朝食の代りと呑みほすバリウムは胃にずつしりと沈みて重し
人間ドック終へて面接待つしばしマッサージ椅子に身を委ねをり
水泳の効果と医師は褒めくるる去年より良き検診結果を
街並を覆ふ朝霧その涯に茨城県庁の天辺浮かぶ
友からの赤大根は楕円形ひげ根十本まるで蛸なり ☆
徹夜して作り終へたとこんにやくを持ちくるるなり今年も友は 埼玉 本 山 恵 子
22
二 月 集
のぞきこむ小さき谷川の水澄みて冷気ただよう杉木立の中
沢蟹の一匹二匹と這い出でてわが足元を行く木漏れ日の道
つかまんと伸ばす手の先沢蟹はすばやくよけて横切り行けり
夕方まで用事なければ上級編ナンプレに没頭時間が足りない
山容の八ヶ岳連峰に似ておれば似せやつと呼ばるる荒島岳は
長野県のワイナリーごとのテントにてグラス片手にワインの試飲会
賑わうワインフェスタにうろうろとわかるふりしてテントを廻る
それとなく気遣いくるる子供等に誘われれば応じきたる一年
診断より一年たつもQOL保ちいる夫に助けられおり
兵庫 三 村 芙美代
病む猫の介護に追われ霜月の日記家計簿一日も付けず
☆
スポイトにて飲むスープ飲み終え疲れたる猫は吐息をほっとつきおり
起き出して水懸命に飲む猫をこの夜の奇跡と思い見ていつ
雨の日は殊更黴のにおい立つ改修工事長引く部屋内
改修工事の足場外れた明るき窓へ風が谺す海からの風
過去の記憶半ば忘れた長姉のグループホームを初めておとなう
身一つのただ在るだけの姉の今暗き影なく笑顔愛らし
会いたることすぐ忘れゆく姉へ又来るからねと指切りをして 東京 高 島 みい子 女として煌めいた時あつたかとしばし鏡の老顔に問ふ
23
姫リンゴ二つ残りて色づきぬ仏間に朝日が隅まで届く
おとろふる葉を閉ぢかねて晩秋の風に真向ふ鉢の合歓の木
明日ありと思ふ心を捨てました地震に洪水テロを憂ひて
川岸の柳は風に逆らはず気ままな散歩午前と午後に
湯舟にて自転車こぐまね百回す此の時ばかり童女にもどる
ほのかなる香の漂へる寺庭に白き茶の花ふるさとを恋ふ
青天に何時もめぐまるる月命日早七回忌の日取りを決める 埼玉 江波戸 愛 子 ☆ 白布を取りたるちちをのぞき込み笑っているよと七歳の言う
葬儀屋の来りて部屋に手際よく作る祭壇にちちの骨を置く
斎場より運ばれきたる生花二基ちちのかたえに生き生きとあり
水をやり液肥をやりてきたけれど四七日前に白菊の枯る
ちちの骨おさめて再開するという散歩に夫が誘いてくるる
ひたすらに歩む夫につきゆけば我が身のうちのあつくなりゆく
日にちの散歩の途中に見ていたる橋を今日よりコースに入れる
歩く速度ゆるめずに来て池之端の紅葉に夫もわれも足止む
(養護学校)
カナダ 大 滝 詔 子
何の縁ありてかポカラに出会ひたる大木神父の訃報の届く
恵まれぬ人らに寄り添ひ暮しゐし大木神父の笑顔懐し
度々に訪ねき神父の尽力に開設したるシシュビカス・ケンドラ
24
二 月 集
厳しさの中に静かなたたずまひ神父の日本武士を思はす
ヒマラヤを見晴す丘に祭壇を設へ神父のたてくれしミサ
式次第、祭儀も知らぬ吾なれどミサに参列できし幸運
ヒマラヤを見晴す丘に村人の歌ふ賛美歌心爽やぐ
微笑する神父の写真に「二〇一五年十月二十九日永眠」と書く
折にふれ想ひ出しをり度々に神父の言ひゐし「偶然は無い」
岩手 及 川 智香子 柿と芋で凌ぎし幼少期思ふとき撓るほどの柿の実勿体無し
熟れるまま木に残りたる柿の実をカモシカの親子か悠悠食べをる
汽車の無き町になりたる大船渡代はる赤いバス眺むるも淋し
コース変へ小一時間の散歩道復興住宅の友を思ひ手を振る
水玉の大きペアカップ送りくる紅茶に浮かぶ娘の顔が
集ひあり無花果の甘露煮持ち行けば味珍しと調理法問はる
青空に燃え立つやうな柚子と柿携帯より送る子らよ想起せよ
二泊三日の検査入院いまだ来ぬ結果待ちをり歌を詠みつつ
岩手 金 野 孝 子 恙なく今日のひと日を終へ沈む日輪いよよ雲に燃え立つ
叢となるもなつかし戦中に母と肥桶かつぎし坂道
梅に栗くるみに柿に大豊作記しおきたし平成二十七年
軒下に干し柿縁には漬け柿と日がな忙しき今年の収穫
25
手料理を持ちより膝よせ祝ひたり友人の新居に冬雷の友
復興住宅に迎へくるる友は彩りよきお寿司作りて花柄エプロン
「がんばつたな」いまにも言ひさう仏壇の友のご主人写真に笑顔
仕立物に母が使ひし瀬戸火鉢遺りゐる灰しばしまさぐる
栃木 本 郷 歌 子
公園に明るき秋の日は差して桜落葉の赤く散りゆく
まだ五時に間はあれど通り行く人の朧げに見えて秋は更けゆく
朝焼けに染まりゆく雲棚引けり飛天の纏う羽衣の如
保育園の庭に大きな銀杏立ち黄葉蹴散らし園児ら走る
行く先を定めずひたすらに歩きゆく波立つ心を振り切るように
然りげ無く擦れ違うのが日常となりて二人の暮らしは静まる
玉砂利は足に伝わり心地良き拝殿までの長き参道
息かけて摩れど指先の冷たさよ桜葉染めて時雨降りゆく
朝霧に包まれている家々に鈍き光に太陽登り来る
高知 川 上 美智子
靴紐を強く結びて見上げたり小高き峰まで我の散歩道
しっかりと産毛のがくに包まれて初冬の山に枇杷の花房
そこここにやぶ椿の花咲きおりて小春日和を春と思いしか
一際に彩る赤は美しくはぜの木なれば近寄りならぬ
早咲きの椿水仙瓶に差し我が家一気に春めきており
☆
☆
26
二 月 集
宮城 中 村 哲 也
ひと気無き午前七時の交差点向かひの歩道に鴉降り立つ
早朝の用を済ませば出社まで喫煙可能な喫茶店へ行く
煙草吸ふ者に少なき拠り処午前七時の喫茶店混む
限らるる喫煙席より聞えくる煙吐く音吐息の如し ゆるゆると地下道歩めばバタバタと靴踏み鳴らす少女駆け行く
ね
やはらかく伸び伸び響くフルートの音を生み出す鍛錬凄し
フルートの音の良し悪しは知らざるも終へたる奏者に笑みの零るる
埼玉 星 敬 子 北国の秋が別れを告げる時銀杏は散りて雪降り積もる
悲しみの日々は過ぎゆき束の間に忘れる事あり又前向きに
秋の恵み天竜川の霞たち干柿の甘さ旨さを育む
☆
(☆印は新仮名遣い希望者です)
カナダ ブレイクあずさ
空爆の撤退決めたる北国のトルドー首相の声濁りなし
異質なる声持つゆえに群れもせず海行く鯨の歌夢に聴く
病む犬の手足さすりて添い寝する男の背中小さく丸まる
捕虜として強制されし楽曲を師は弾くと言う七十年経て
雪原を貨物列車はひた走るオーロラだけが見つめる夜も
ぽすぽすと布団踏み分け来る猫の体温やさし霜降りる朝
壁へだて眠れぬ君が咳をする起きているよと吾も咳する
27
十二月号作品一評
しばし聴きいる 正田フミヱ
☆
夜を通して鳴きつづけた虫たち、まだ
鳴きたりないのか、朝をまだ鳴きつづけ
達のありがたさが分かってきます。
「 何 時 死 ん で も い い 」 な ん て 嘘 一 〇 三
歳の篠田桃江さん曰く 福士香芽子
ている。一生のクライマックスであるこ
冨田眞紀恵
い言っている自分が恥ずかしい。
お友達でしょうか。いずれにしろ生き
方の立派な方ですね。私にはとても考え
目 の「 合 唱 せ る 」 は、「 合 唱 す る 」 と し
背泳ぎをしつつ見てゐる天窓の空流れ
夕焼けを背に逆上がり繰り返す母子の
始業式を明日にひかえるとあるから多
分夏休み最後の日ではないかと思われま
たい。
ゆく秋の白雲 関口正子
られません。八十を過ぎただけでひいひ
す。「 逆 上 が り 」 が 上 手 く 出 来 る 様 に と
武道館しーんと鎮まる決勝戦打ち合ふ
プールにて背泳ぎをしつつ天窓から見
える空を白雲がゆっくりと流れる、それ
の暫くの時を終えると虫たちは静かにそ
夏休み中の課題だったのかな、それとも
竹刀の響きの強し 橋本文子
は ま る で 子 供 の 頃 に 帰 っ た 様 で も あ り、
の命を終えて行くのであろう。又、四句
楽しかった休み中の思い出を母子で味
上句に決勝戦の雰囲気そして、下句に
その静寂の中に響く竹刀の打ち合う音を
優しい時間がゆっくりと流れてゆく。
声して明日は始業式 田端五百子
わっているのかな、良い情景である。
響き強しと言って、緊張感のある一首と
新米の届きて袋に両手入れ米を掬へば
つたのかと驚く夕べ 涌井つや子
ほろほろと散る金木犀こんなにも多か
なりました。
古里の見ゆ 増澤幸子
☆
いって呉れた事でしょうね。
に包まれ、一飛びに作者を古里へ連れて
結句の「古里の見ゆ」は素晴らしい着
地である。作者が育った古里の土の匂い
百円にて同じルートを回るバス一周し
な香りを残す、日本の秋の美しい一場面
てみる降り損ないて 三村芙美代
確かに実感である。金色の絨毯の上に
すっくと立つ一木、そしていまだに仄か
である。
降り損なって、かえって楽しまれた様
子、何事も臨機応変ですね。
わが好む赤飯かかへて友が来る散歩の
百日草切りて地蔵様に置く学童ぽこり
と御辞儀して通る 小川照子
働き者らしい作者の一首である。結句
の方が作者の本音かも。
束の間に穫り入れ終る今の農をごくら
ついでと雨降る中を 高島みい子 くともまた淋しとも思ふ 橋本佳代子
友達って良いですね、「散歩のついで」 と言いながら貴女の好物を持って雨の中
をいらしたのでしょう。老いるに従い友
下句の「ぽこり」がこの一首を生かし
ている。地蔵様も「にっこり」と微笑ま
れたのではないでしょうか。
庭畑の朝の草むら虫たちの合唱せるを
28
十二月号作品一評
白鷺の飛ぶ姿はゆったりとして誠に優
雅である。あの鳴き声を聞くと、頼むか
☆
遠き日に忌みし真っ赤な曼珠沙華繊細
な花に今は引かれる 高松ヒサ
るが、作者の様によくよく観察すると非
ら鳴かずに飛んでくれとモノ申したくな
るが、声と姿のアンバランスが面白い。
常に繊細な花である。何時か絵に描いて
嶋田 正之
生れし日の産湯の如く思ひたりあたた
おめでたう明るきニュースの飛び込み
確かに、曼珠沙華には陰なイメージが
付きまとっている。毒があるとも云われ
かき湯に老いの身洗ふ 堀口寬子
ぬ大村智氏ノーベル賞とぞ 有泉泰子
してや、地元なら如何程かと思う。伝聞
二〇一五年のノーベル医学生理学賞受
賞のニュースには日本中が興奮した。ま
童女はスキップ始む 田中しげ子
歳幾つと聞けば五歳と母の言ふ黙せる
みたいと秘かに思っている筆者だ。
明なイメージを作らせてくれる。とても
によると、大村智氏は地元に自費で美術
湯加減の心地よさと、ゆったりとした
作者の様子がこの比喩によって読者に鮮
心地良い歌だが老いの身に一考の余地。
何とも微笑ましい瞬間を捉えた作品
だ。自分のことを注目されたのが、童女
館を建て自身の富を還元されておられる
敗戦後の食糧難の頃は若芽を摘みよく
湯掻いてお浸しにしたが、成長すると草
言う事を今回初めて知った。
お人柄としても心から尊敬できる方だと
の日差し浴びをり 大久保修司
稔田に苅田櫓田混ざりゐて初秋の午後
その嬉しさを見事に表現している。
☆
背丈ほど伸びたるアカザを押し倒しず
とは思えない大きさになる。小木を伐採
白露とはよくぞ言ひたり稲の葉に露玉
日本の原風景とも言うべき情景であ
る。これからもこの風景が子々孫々まで
たずたに斬る友の農機は 吉田綾子
すような友人の格闘の様子が見える。
ありてゆらりとゆれる 三木一徳
とのことだ。なかなか出来る話ではない。 はさぞ嬉しかったのだろう。スキップが
夕焼けを使ひ果して稲刈られ籾やく煙
白露とは二十四節気の一つで今年の
二〇一五年は九月八日だ。作者はまさに
早朝の川辺の散歩に我が上を白鷺一羽
切り取った一首だ。
身を包む。農村の穏やかな風景を見事に
初句の表現が素晴らしい。夕暮れ時に
籾殻を焼く匂いが低く棚引く煙とともに
る様だ。その対策は難しい。
か、しかし地球温暖化は確かに進んでい
ぐりは昔とさほど変わらないのだろう
であろう。時代は変わろうとも季節のめ
この日に稲の葉に光る白露を発見したの
く想う、合掌して感謝したくなる。
炊き立ての新米の香、艶、匂いを味わ
う時、日本人に生れて良かったとつくづ
ちゐるを仏に供ふ 増澤幸子
ふつくらと炊き上りたる新米の湯気立
引き継げることを願いそして信じたい。
低く池を這ふ 田端五百子
ゆるらかに飛ぶ 小島みよ子
29
作品一
茨城 中 村 晴 美
黒豆のサヤの弾けて散らばりぬ雨多き秋収穫の遅れ
種用に干したるオクラ二本あり乾くを振れば粒の音す
保存きく瓢箪かぼちや収穫す冬越し野菜いまは流行らぬが
ひさびさに娘とふたり旅に出る駅へと急ぐ肌寒き朝
何度目の舞浜駅か再びの安全で楽しき夢の国へと
どしや降りの雨でも飽きぬ工夫あり人気パークの見えなき努力
風に揺れ煽られ危ふきカーポート業者に頼み解体さるる
☆
横浜赤レンガ倉庫1号館
新しきカーポート用の基礎穴の三日もかけて大きく掘らる 茨城 吉 田 綾 子
白菜を漬け込み疼く両の手を湯につけおれば背まで温もる
ワイン発祥地牛久シャトーの大桜幹太々とゆるぎなく立つ
外見より実を味わえと書き添えて無農薬みかん従妹より届く
みかん畑のめぐりに住宅建ち並び消毒撒布に難儀を思う
百日紅の天辺覆う樓紅草の花萎れるを見定めて切る
背伸びしても手の届かねば木に登り柿を捥ぎとる喜寿の夫は
30
作 品 一
庭の苔に辛夷はオレンジ色の実を幾つも落して微か明るし
ほのぼのと湯たんぽ温き床の中人に優しい友思いおり
☆
山梨 有 泉 泰 子 園バスゆ降りたる大凱カバン開け「おみやげ」と紅葉さしだす
新しき調理場はわが町にあり夫子等の学びし学校跡に
使はれぬ給食室をリフォームし食事サービスの拠点出来たり
百目柿乾かず重きに耐へられず落ちて崩れて棄てるほかなし
この冬の干柿作りは失敗と嘆き合ふ声彼方此方で聞く
正座して痺れる足にお呪ひ「ちちんぷいぷい」腕には効かず
痛み止めの薬効きしか腕軽く風吹き通る心地す今朝は
暁に腕の痛みに目の覚める上向き横向き腕持ち移す
頸椎の退化症状完治せずと医師の見立てぞなんとかならむ
長瀞 東京 永 田 夫 佐
レッドアロー号で所沢から長瀞へ紅葉たずねて乗りゆく二人
飯能の駅から後ろへ走り出すレッドアロー号に一寸慌てる
終点の西武秩父に下ろされてぞろぞろ歩くお花畑駅へ
母と見し戦時中の長瀞の雪柳の白さ今も忘れず
自然博物館へ母との思い出秘めながら夫と歩く紅葉の秩父
訪ねたる博物館の案内人太古の長瀞は海だったと言う
青じろき畳岩にねむる化石太古の海に思いを馳せる
31
戦時中野上で食べた味噌皮饅頭懐かしみ買う仲見世通り
東京 河 津 和 子
腰痛の義母に負担かからぬよう店員と選ぶ胡蝶蘭の小
「ひらひらと蝶が飛んでるようです」と胡蝶蘭褒む義母のメールは
夏いっぱい床に病み居し義母なれば電話に長く体調を言う
年一度大学祭の孫見たさに祖父母両親大挙して行く
甲高く・野太く出店に客を呼ぶ学生らの中に孫見付けたり
ほの暗き音楽室に孫達の「アニメメドレー」エレクトーン五台
ジャズ喫茶・歌声喫茶と若き日の話はずみて祖父は生き生き
探査機の軌道修正かないたり金星を回り始むる「あかつき」
☆
愛知 小 島 みよ子 夜十時夫の呼吸の乱れきて不安の中に朝迎へたり
救急車で入院したる夫を控室に待つ気もそぞろに
今はもう眠り続ける夫の手をひたすら声かけさすり続ける
意識なく昏昏と眠る夫の深き呼吸を唯見つめをり
突然に夫の死は訪れたり心の準備するいとまなく
心より安らかにと願ひつつ娘らに助けられ進みゆきたし
長き間を共に歩みし亡き夫の写真にさびしく語りかけたり
不安なるこれからの世を前向きに明日に向つて進みゆきたし
刻刻と時は流れて明日ははや僧を迎へる準備にと立つ
32
作 品 一
愛知 山 田 和 子
幻想交響曲の演奏終えたる指揮者の表情和み余韻の残る
目の前を横切り田圃に降り立てる白黒の鳥は鶺鴒らしき
里山の皇帝ダリア高だかとうす紫を空に咲かせる
ここも又駐車場になるらしく団地の更地に白線引かる
鳩は餌を啄みながら寄ってゆく逃げても逃げても少女の方に
なんとなくぎくしゃくしていた友人と喉飴一つで心ほぐれる
☆
売れ残りのボージョレーヌーボー買う夕飯にグラスの中の赤がはなやぐ
岩手 田 端 五百子 葦の間を二羽の白サギもつれ飛ぶ川面を染むる夕映えながし
死ぬことも勘定に入れ未だ何かやるべきものがと思ふ夕ぐれ
園児らの集めてきたる椿の実くだかれ金の油したたらす
市の花と命名されゐる椿の実黄金の油となりてしたたる
石蕗の葉にたまりたる朝露を硯に採りて賀状書き継ぐ
友の訃報聞きたる朝に葉の露を硯に取りて弔辞書きたり
そこかしこ収穫されずに捨ておかる「名産小枝柿」山野にありぬ
「ころ柿」のすだれと駅舎に吊られをり浜吹く風にゆるるを見上ぐ
茨城 沼 尻 操 緑濃き柿の葉色づき落ち初め掃き寄す吾も気合かけらる
降り続く雨はさるすべりの花散らし鼓動の如く雨音を聞く
33
留守居番落葉掃きやら枝落しおばばも少し役にたつらし
渋柿を一寸つついて甘くして小鳥も利巧餌に困らず
ヒューヒューと渦を巻きつつ舞ふ落葉静まりてより落葉掃き始む
昨日より落葉掃除を無理をせず掃き寄する葉を観察等しつつ
東京 荒 木 隆 一 信楽の狸が阿弥陀に傘被り濡れて寒さう時雨の夕べ
子を名乗る振り込め電話がもう二度目名簿扱ふ業者が居るとか
然り気なく髪形褒めて服褒めて穏やかな人と噂されゐる
手遅れの末期の患者と隣り合ひ生への執着と錯乱覗く
相部屋に幼き孫が見舞ひに来て和み微笑む小春日の午後
くだをまく患者に耐へて笑顔する看護師の忍耐と苦労を知りぬ
些事大事落ち度暴かれ居場所無くす人の末路ぞ調子に乗り過ぎ
ねぐら有りて安年金でも生きゆける蟻で良かつたキリギリスでなく
千葉 野 村 灑 子 雨上がる敷石の間に動きゐる蟻の大小ありてせはしき
朝の陽が木々の間よりさしくれば今日がはじまる音・音のする
鉛筆を捜すとさぐる袋には飴一つありて喉をうるほす
口もとをへの字に曲げて泣きじやくる子をそのままに若き母行く
五年連用の日記購ひ共に祝ふ友の誕生日朱書しておく
眠りゐて車輪の音に気づきたり鉄橋の上を今渡るらし
34
作 品 一
文房具も日に日に進歩変化するボールペンに書きそが消えるなんて
夕凪ぎの波穏やかにうたせゐて沈まむとする夕陽広がる
千葉 涌 井 つや子 六年をよろめき乍ら過ごす日々右手左手上手に使ふ
ゆふべより冷たい雨にぬれ乍ら紅を保ちぬ紫陽花の花
いつ紅が消えるか毎日目にしみる紫陽花の花ひとつ残りて
まだ少し杖を頼るに早すぎる外へ出る度迷へるわれか
人並みに忘年会などの予定あり傘寿の我を祝ふが如し
埼玉 小 川 照 子 両膝を手術した友痛みなくて身長伸びたと笑ひて言ひぬ
チャブダイに手つき歩みたる誕生日一升餅背負ふ曽孫琉我は
次々と日本水仙咲き始む地球温暖化は季を変へてしまふ
冬晴れの空にむかひて皇帝ダリア花咲きくれて大空飾る
コーラス部は男女それぞれの組ありて年齢とはず素晴しき声
童謡は幼き頃を思ひ出す自然に動く両の足先
欅の葉紅葉見せて散り始む枝の隙間から空を覗きぬ
埼玉 栗 原 サ ヨ 玄関を明ければ真赤な紅葉見ゆ柱にもたれてしばし眺むる
鎌北湖のもみぢは半分散り落ちて木かげに湖面ちらちらのぞく
欅や銀杏も皆散りつくし朴の葉も落ち青空広がる
35
草むしるシルバーセンターのをばさんが二日がんばつて庭よみがへる
痛みどめ飲んでぐつすり五時間は眠る起きればあちこち痛い
☆
千葉 石 田 里 美 菩提寺に読経をあげる三回忌夫はいづこに聞きていますや
いつしかに虫の音絶えて冬の庭葉牡丹小菊つつましく咲く
新築のよろこび溢る屋上に招かれゆきて花火見物
テーブルに家族集ひしことは夢娘と暮す夕べ静けし
夫居らぬ正月が来て娘とのおせちはわづか大皿に盛る
東京 大 川 澄 枝
髪細くパーマをかけてボリュームを出せば今日の気分上上
ぬれ落葉とはよく言ったもの雨上がりの朝の掃除に一苦労する
晴れた日は東京の空もすがすがし本当の青が頭上に広がる
本年度最後の冬雷届き来て新年号の表紙絵待たる
友ら皆八十歳なりそれぞれが持ちより見せる婚礼写真
忘れものに急いで戻り階段をかけ上がり来て又忘れてる
千葉 黒 田 江美子
4時半の街頭放送公園に遊ぶ子等向け帰宅を促す
塾名入りのリュック背負ふ子自転車に公園を離れ塾へ向かへり
1級のラジオ体操指導士に第1体操の指導を受ける
「背伸びの運動」は踵を上げずに背骨のみ上下に伸ばす運動と知る
36
作 品 一
慣れ来るラジオ体操に筋肉痛覚悟せよとは講師の言葉
六十分のラジオ体操講習を終へれば体キリリと立てり
大胆に枝打ちされたる駅前の大木八本寒々と立つ
枝打ちに駅前目指すムクドリの大集団は鳴きてさ迷ふ
ムクドリの群に安住の地とならず自然保護区は天敵多く
富山 吉 田 睦 子 ぼつぼつと咲き初めたる山茶花の赤く開きて氷雨に光る
剪定の過ぎた柿の木この年は稔る柿なく寂しく眺む
(十一月二十七日)
時どき友より頂くつる豆を色いろ煮付けて一品となす
足指の体操長く続けをり生きる間は歩ける様に
早朝に屋根の白きに驚きぬ何時もの年より早き初雪
師走の四日急に嵐となるひと日大粒霰サッシを叩く
福島 山 口 嵩
薔薇二輪今年最後の花をつけ寒さのなかに確と咲きをり
花まれな季に飛びまはる虻の群八手の花はまさに食堂
青空に真直ぐのぼる白煙を白鳥三羽まはり飛びさる
頼まるる和菓子納豆買ひくれば「此れどうした」と繰り返す叔母
戦時下の日赤時代を鮮明に語るは叔母の安らぐときかも
聖域は無しといひつつ大鉈は福祉予算を目掛けをりなむ
住民の意思決定は恣意のまま官邸よがりの普天間政策
37
☆
政策は強者支援の色つよし企業の増益下流に届くや 栃木 正 田 フミヱ
観てますか受賞したのは佐野支部の二人の友ですと矢島さん想う
次つぎと受賞賜る佐野支部の姿に胸あつくおり
受賞する友ら眩しく見つめつつ亡き矢島さん想う十一年過ぎぬ
矢島さんの墓を囲みて写真撮る受賞報告に佐野支部集う
眼鏡かけ拡大鏡に広辞苑引きわが歌を見てくれし矢島さん想う
矢島さんと出会いし縁の有り難さ冬雷に入り歌を学びぬ
佐野支部の友のお陰で歌続け繰り返し読む冬雷の本
鳥取 橋 本 文 子 白星となりて誇らず黒星に表情変へず相撲の世界
鳥取県長野県出身力士ゐてこの頃中継見ること多し
十一月大山に例年の雪降らず雪待つ記事の新聞届く
十一月末に大山雪被き冬の姿を声かけて見る
一万年か二万年前の火山らし大山地元の信仰の山
だいせんさん朝夕拝むといふ人の和やかな様子心にしみる
一反もめんのおばあちやん孫らに言はれ漫画を見たし
東京 飯 塚 澄 子 マイナンバー十一月下旬に到着すはかなく小さき一葉にして
マイナンバー覚えんとして十二桁言葉に換へて試みんとす
38
作 品 一
マイナンバー仕舞ひ無くすか紛れるか怖れのありて入れ物捜す
連休に曽孫来りて賑はひぬ足下見ずに居間を闊歩す
朝食後鞄引きずり靴下を出して曽孫は玄関へ行く
階段を祖母と一緒に上りきり手を繋ぎ下りる顔の輝き
五十号のちぎり絵都展に出展す今年も友らと上野に集ふ
☆
東京 田 中 しげ子 薄紅の侘助椿咲き初むる小振りの花はつつましやかに
アパートを巡る垣根の山茶花は今を盛りと花色競ふ
足なへになりて二年目杖つきて歩める今は感謝の日々を
人体の老いゆくこはさも気付かずに多忙に過す日々にありたり
指先の動き鈍れど庖丁をゆるり動かしもの刻みゆく
八十年前より使ひし擂粉木は短くなりても未だ現役
度度の淋しさかこつ友の電話に慰めやうなき我も淋しく
今少し歩み良ければ札幌のホームに住まふ友訪ね度し
茨城 姫 野 郁 子
遊覧船の両脇に慣れた海猫がパンを目掛けて群がって来る
弁当の黄色の紐を引き五分待つ温かな飯に五枚の牛タン
世話になりたる義姉も年増し椅子に掛け夫の実家の法事始まる
妹宅に又世話になる一週間久し振りに会えて変わらぬ会話
ホテルにて兄と義弟がチェックアウトに俺が俺がと支払い譲らず
39
妹が母の体と髪洗い我は浴槽で眺めていただけ
風呂上がり座布団枕に昼寝して帰省をすれば母との時間
妹が赤飯を蒸し兄が米を富山の味を頂いて来る
☆
☆
長崎 福 士 香芽子 今日ひと日ちぎり絵作りのバラの花色鮮やかに出来上がりたり
文化祭に出すちぎり絵を十ばかり作りて本箱につるし見るなり
心憂きときはベランダに花苗を弄り廻せば自づ安らぐ
腰痛に腰のばしつつ花の手入れ一日の中で一番のたのしみ
ベランダに立ちて見放くる普賢岳今日は曇りて定かに見えず
埼玉 高 橋 燿 子
いやいやをするかのように木が揺れて強い風に青葉散りゆく
杉木立深き中に千両の赤い実目を引く平林寺
光受け鮮やかさ増す紅葉をみあげる顔に移ろいゆく影
朝の日に枝葉の重なり見上げれば鮮やかな赤透明の紅
赤や黄の落ち葉をのせた屋根の下額に見入る「無形元寂寥」
色のよき落ち葉を手帳に挟みこむ明日会う友との話の種に
栃木 斉 藤 トミ子
翡翠の青き閃光目に追いて止まる辺りに忍び行くなり
鮮やかなオレンジの胸見せつけて葦に止まる翡翠がいる
翻り瑠璃色の背を光らせて素早く小魚翡翠は捕る
40
作 品 一
翡翠の交尾為しいる写真にて雌も綺麗な瑠璃色と知る
雨上がりの公園の池に近づけば数多の鯉が波立てて寄る
池の淵巡りて行けば来る鯉よ餌持たぬ吾と知る由もなく
日に映えて紅葉写せる池の面に一筋の光を鴨は引き行く
荒草や枯枝綺麗に払われて落葉積むなりかたくりの園
幼子と赤白黄色と唄いつつ百球程の球根を植う
神奈川 青 木 初 子
寒さ来る前に今年は球根を全て植ゑ終へ咲く春を待つ
たつぷりと花咲かせたるストケシアの鉢土替へるお礼と期待に
誕生日に会へざる孫へメロディーを奏でるポストカードを送る
ひらがなの読み書き学ぶ五歳児の字の大きさのまだ定まらず
己の好む味に拘る餃子の具に初めてニラを入れしと父は
餃子の具を皮に包みて十個づつ冷凍庫へと父は入れをり
大判の皮に包みしは焼き餃子と父は出しをり冷凍庫より
左手に抱へる荷持つを守りつつ傘傾げれば右袖濡れる
坐りたる座席の下の熱風に駅までに濡れたる裾乾きたり 茨城 大久保 修 司
久々に娘と孫が来ると言ふ網戸洗へば小き虹たつ
訪ね来る娘と孫に今度こそケーキ作らんと材料購ふ
高齢者運転を示す紋章がわがぎんねずのボンネットに映ゆ
41
高齢者運転紋章に公然と入り口近くの駐車場に止む
生活の必需品なり返納は難し古稀過ぎの運転免許証
孫達よ新聞読んで活字好き本好きに是非なつてくれぬか
パーティーのビンゴに上り喜べどバニーの耳の景品に笑はる
神奈川 関 口 正 道 栴檀草背高泡立草調ぶればアメリカ原産しつこい奴ら
刻々と伝へ呉るるけふの義弟の病状に妹はつひに泣きたり
兄さんと慕ひくれたる義弟にて一年の闘病を克服出来ず
吾亡きあと始末を頼みし義弟なれど逝つて仕舞へり順序が逆だ
兄が死に甥が娶り義弟死す出掛けること多し今年の秋は
隣家の屋根まで届く譲葉を手際よく伐り呉るNTT職員
初めて会ふマクドナルド昭子氏原文の新渡戸稲造の「武士道」を讃ふ
武蔵野 東京 酒 向 陸 江 ☆
武蔵野のそのまま残る広き庭友と連れ立ちのんびり歩く (日立中央研究所)
浸み出づる水は大きな池つくり真鴨真鯉のゆったり泳ぐ
木々はまだ色付き始めぬ庭園に十月桜の白々と咲く
大木に「御衣黄桜」と札のあり花咲く季に又訪れむ
列をなす露店に立ち寄り熱々のミネストローネを紙コップに食ぶ
残り香をせめて一冬纏いたし虫喰い穴ある母のセーター
背高の父を見上げる母の顔表情若き写真を飾る
42
作 品 一
東京 大 塚 亮 子
六十五階の窓いつぱいに大き富士となりに遠く北岳小し
わが庭に風 鳥 人か種落としトマトが芽吹く十月末に
暖かき日差しにグングン丈伸びて七十センチ越えトマトが育つ
撓ふ茎に添へ木を立てつつ繁る葉にトマトの香り嗅ぎてをりたり
朝晩の寒さに袋を被せつつ「頑張れトマト」声をかけやる
鳥たちに好みあるらし山帽子赤く実れば鳥の飛び来る
梅もどきに寄る鳥はなく冬枯れの庭に赤々残りて師走
工場の鋼材置き場の棚の下にひと握りの苔見つけて一年
鉄臭き鋼材置き場の狭き空き地に苔が増えたり生き生きとして
栃木 高 松 美智子
曖昧も模糊も容れざる冬の朝富士の頂くっきりと見ゆ
実をならし葉を払いたる柿の木の枝すみずみに冬の陽が照る
一〇一歳の恩師逝きたり半年を過ぎて喪中のハガキに知りぬ
午前九時のマクドナルドに客ふたり窓辺の席でパソコンを打つ
店内に流れるシャンソンかき消しておんな三人のボルテージ上がる
バージョンアップをしばしば求めくるスマホ画面に脳の退化を恐る
二拍子のクリスマスソングを聴きながら自然に身体は左右に揺れる
入居者の喜ぶ顔を浮かべつつクリスマス企画の会議は進む
☆
(☆印は新仮名遣い希望者です)
43
十二月号作品二評
桜井美保子
☆
診察まで六〇分の札が立つ癒しの音楽
静かに流れて 田島畊治
病院での受診は待ち時間が長い。癒し
の音楽が流れていれば気分的にも疲れず
の他のところは倹約して家計をやりくり
五合目の紅葉は黄の勝り居りさらに登
勢いを取り戻した茄子の様子に、ほっ
とした作者の気持が伝わって来る。畑仕
田中祐子
日が経ち畑にすっくと直る
は胸に迫る。ご冥福をお祈りします。
☆
☆
☆
ちちの死を詠んだ一連より。悲しみの
中で家族が集まり、ちちを囲む此の場面
江波戸愛子
ちを撫でたり冷たきちちを
孫たちも曾孫も寄りてかわるがわるち
生きる様子が見える。
がる作者。ユーモラスに詠んで、悠々と
以前ならもっと早く目覚めることがで
きたのにと体内時計が失せたことを残念
覚めは八時明り眩しく 佐藤初雄
体内時計何時失せたるか今朝もまた目
情景を明るく詠んでいるのがよい。
ての工事であろう。その現場の活気ある
実際にどのような工事なのか筆者には
分からないが、新しい利用目的が決まっ
足場組まれて 長尾弘子
閉鎖して久しき両国公会堂修復始まる
☆
に仕上げ手のしをかける 飯嶋久子
明治生まれの母の形見の銘仙を作務衣
する。堅実な姿勢が伝わり共感する。
形見の銘仙の着物を心を込めて作務衣
に作り替えた作者。身につけることで亡
☆
れば赤鮮やかに 高田 光
事をしていて嬉しい事の一つだろう。
き母上も喜んでおられるだろう。
これ以上勢いづくな伐られるぞ堤防壊
し根を張るけやき 和田昌三
樹木の成長は頼もしいが堤防を壊すほ
ど根が張ってしまっては人間社会が困
る。けやきに呼びかけるように詠んで作
紅葉の中を登山した折の感動がよく出
ている。標高によって樹林帯が異なるの
に待っていられる。病院側の配慮をさり 者の温かい人間味が感じられる。 げ な く捉え情景を具体 的 に 表 現 し て い る 。
枯れ気味の茄子の木切ると決めたれど
だろう。上句から下句への流れは紅葉の
紙飛行機幼の手より飛び立ちて枝に掛
窓を開ければ鳥の声と木犀の香。雨が
止んだ朝の様子を爽やかに捉えている。
鳥の声木犀の香がいちどきに流れ込む
朝雨止みており 林 美智子 ☆
の嘆きの声がいかにも可愛らしい。
空中を出来るだけ長く飛ばせたい紙飛
行機だが、枝に掛かってしまった。結句
☆
黄 か ら 赤 へ の 鮮 や か な 場 面 展 開 と な っ た。
かればああ、あと嘆く 西谷純子
☆
金木犀ほのかに香るベランダに秋感じ
つつ洗濯物干す 浜田はるみ
季節の移ろいを日々の暮しの中で掬い
上げている。花の香り、風や空気など一
日一日違うことを改めて気づかされる。
☆
春と秋の庭師の手間の高くなり倹約を
して当てる年金 糸賀浩子
重要と考える箇所に費用を当てて、そ
44
十二月号作品二評
のです。
のかも。すぐ叶う事は有り難みがないも
復興住宅 及川智香子
☆
を背にミシン踏むなり 飯嶋久子
すでに亡き母と姉らを偲びつつ秋の陽
のも事実。人は忘れるのも早い。
また津波被害の歴史の繰り返しでもある
津波の影響のない高台に住むのは当然
の流れ。ただ月日が便利な浜へ再び流れ
二歳に少しそぐはず 東 ミチ
中村 晴美
久々のわくわく感に活力の戻り来りぬ
派手好きの友が真つ赤な車で来る七十
朝の陽眩し 大滝詔子
年を重ねても気持ちは高校生のままと
聞きます。でもまっ赤な車で、お婆さん
の友が現れたら驚きますね。
活発な作者だが落ち着きのある歌であ
る。秋の陽に自らの晩秋も重ねているの
旅の計画にわくわくしているのでしょ
うか。いくつになっても、わくわくした
いものです。
これ以上勢いづくな伐られるぞ堤防壊
か、しんみりとしていて良い。
香茸を採りて喜ぶ同胞にふるさと相馬
の山は閉ざさる 立谷正男
皮を剥く青き蜜柑の香の中に運動会の
ほほえましい優しさが伝わる。
家で亡くなったのでしょうか。今時は
珍しく羨ましい歌です。今後、多くの老
江波戸愛子☆
時二十分ですとちちの死を告ぐ
駆けつけてくれたる医師は厳かに十二
きのこは放射性物質を蓄える量が大き
秋風がこんなにも似合ふ花にして笑ひ いと聞く。畑の野菜は大丈夫でも山のき
ゐるのか揺れるコスモス 西谷純子
のこは食すのは禁止の地域が、まだまだ
旧カナなら「揺るる」の方が良い。あ
り が ち な 風 景 は 歌 に す る の が 難 し い が、 ある。悲しい現実である。
かを比喩している様にも映る。
テレビで鬼怒川の堤防決壊を視た後に
この歌は複雑です。勢いづくけやきは何
☆
し根を張るけやき 和田昌三
☆
一人では生きてはゆけぬ今の妻長生き
せねばと心にちかう 田島畊治
介護する側の作者に病む妻は生き甲斐
を与えている様にも映る。人生なにが幸
いするか、わからない。
赤と黄に葉の色づける栗駒の山に向へ
ば空なほあをし 高田 光
る事ができる時代だが、実際に行って見
思い出揺るがず 林 美智子
人は施設入所を経て病院で亡くなる事で
赤と黄と空の青の鮮明な景色が目に浮
かぶ。写真はネットを検索すれば直ぐ見
た感動に勝る事は難しい。
香りが主役の動きのある歌。皮を剥ぐ
ことによって初めて香る蜜柑、あたり前
しょう。家の畳の上は遠い過去ですね。
☆
長々と待たされたけど待ち時間忘れる
ですが心に響く歌です。
美味しさのわっぱ飯なり
浜田はるみ
新しき街あるごとく明明と高台に臨む
☆
待たされたからこそ美味しいと感じる
45
作品二
茨城 吉 田 佐好子
年末はし忘れたことが次々と出てくる中には三年超しも
南天の赤い実柚子の黄色い実冬限定のポイントメイク
春までは庭の花々お休みで土間に天然色の鉢植え並ぶ
鉢植えの一つ一つに愛情と魔法をかける義母の技あり
クリスマス電飾見れば幸せの度数が上がる楽しき季節
新年のカレンダー見て夏の予定立てて楽しき空想旅行
来年の手帳売り場で目を止める格言金言散りばめたもの
一日は誰にも二十四時間で足りない時には作る工夫してみる
新年の目標同じ「怒らない」「楽しく生きる」「笑顔で元気」
フリをする気持ちは入ってなくてよい幸せなフリは幸せの素
東京 佐 藤 初 雄
十余羽の白鷺飛び交う木場の堀秋深みゆく朝の静寂に
幼きも混じり飛び交う白鷺の大きは空の高みを競う
国の鎮め慰霊の席に響き来て果てたる友ら面鮮やかに
生き残る戦友達の面影は鮮やかなれど名はおぼろなり
遠く住む縁者ら地区の名産を送り賜り今年も暮れる
☆
☆
横浜赤レンガ倉庫2号館
46
作 品 二
生きて居る嬉しさ離れ住む娘南瓜の煮付け提げて訪い来る
遠く住む娘提げ来る思い出の懐かしき味南瓜の煮付け
仏前を退くと振り向き目眩して座卓に腰打ち倒れ転びぬ
起きる前暫し虚空を蹴る倣い浮腫みて重き我が両の脛
新聞を取ると座卓に躄り寄る腰の痛みは立ち居に辛く
岐阜 和 田 昌 三 ☆
歳時記には春とあれども植木屋は「何時でも剪定やります」と言う
花咲くを楽しみにすれど植木屋は整枝第一と遠慮なく伐る
無花果も柿もポポーも剪定を終え豊作の秋を夢見る
上着脱ぎ畑の草取る札幌は大雪だとのラジオ聞きつつ
干し柿が黴びたと言えば暖冬でどこでも同じと八百屋の主人
性懲りもなく干し柿を又吊るす寒くなるとの予報信じて
☆
「千円からお預かりします」とレジで言う首かしげたき日本語流行る
好天の予報頼りに予約せし温泉町は氷雨となりぬ
温泉宿出でて雪降る飛騨街道下れば雪止み日射しも見える
栃木 早乙女 イ チ
そよそよと風過ぎる昼会館の西の通りは銀杏の黄葉
秋日和の文化会館庭園をゆけば枯れ葉がひらり散りくる
築山の大木渡る小鳥等の賑やかな声聞きつつ歩く
のんびりと遊歩道ゆく築山に際立ち映える紅の山茶花
47
剪定をせぬ柚子の木に高高と数多の柚子が朝日に映える
山茶花の白い花咲く庭隅に西日が照りて輝きており
埼玉 浜 田 はるみ
連休の旅行の予定が無くなりて急遽息子と山梨へ行く
和食かと思い入りたるさくら茶屋中はおしゃれなフレンチの店
生家の墓参する度思い出す叔父叔母いとこみんな居た頃
夏祭りで賑わいし広場さびれたが有志の力で蘇りたる
生家跡や近所を巡り思い出と一致するのは一軒二軒
幼き日母と通いしバスの道すっかり変わりて叔母の家に着く
埼玉 野 崎 礼 子
十二月九十六歳になりたる母元気を貰える我はしあわせ
長い髪一つに束ねて授乳する娘の眼差しいたく優しく
早足で二駅歩き友に会う三年分の話が噴き出す
前向きに生きる友の目の輝き一歩踏み出す勇気を貰う
まったりと甘い珈琲をすする午後悩む心がじわり解けゆく
約束をカレンダーに記す十二月取り敢えず今が大事と思う
がむしゃらに働いてきし三十年二度とできぬと今は思いぬ
雨のくる匂いベランダに広がりて空に雨降らす準備始まる
茨城 糸 賀 浩 子
隣家より庭のキウイが届きたり林檎を入れて試食日を待つ
☆
☆
☆
48
作 品 二
数珠玉をお年玉用と畑隅に植えたる年より蔓延るなやみ
粶ぜ蘭を陶芸展の花器に活け客にその名を教えやりたり
バイクから娘らの勧める自動車へ今はハンドル持たぬ日のなし
望まざるマイナンバーを年金に使うとあれば待つはおかしき
更衣せし服丁寧に整理する来る歳も又出せるを願いて
ポインセチア濃い紅色に引かれ買い水忘れずにと札を立てたり
象二頭ゆったり冬の陽鼻でまぜやさしきその眼で迎えくれたり
茨城 立 谷 正 男
小村の田なかの岡に黄葉せる銀杏ひと本石仏に傍ふ
笠間より完成したる同人誌友持ち呉るる今日一茶の忌
家造る仕事に育つ若者の朝の挨拶清しきを聞く
歴代の労働大臣の額ありて時計店主は継ぐ無きを言ふ
自爆にてテロ為す側も悲しかり多く女性がその身投ずる
東京に原発施設に果しなくテロ攻撃の不安ひろがる
NHK偏向報道許さじと市民数百包囲デモ為す
原節子戦後昭和の美しき姿のままに隠ひて去る
青森 東 ミ チ 信念も意志も揺るがぬ人ならむ沖縄県知事表情固し
我が県の知事は新種米売込みに笑み満面にテレに映る
「晴天の霹靂」青森米の特級品種に知事が名付けて販路に駆ける
49
抱へたる県の事情が顔に出る沖縄と青森の知事を見比ぶ
己が身を庇ひながら一年間病院通ひが仕事になりて
ガラス窓に断熱シート貼りくるる子に茶を出しながら礼言ふ
長男と二人で話す時間かけて「大丈夫」「お前も頑張れ」
岩手 岩 渕 綾 子 わが家にて冬雷会員のお茶会す仲間はそれぞれ馳走持ちくる
無花果の甘露煮友がもちくれて思ひ出したり攫はれし家
生きのびた感謝滲ませ五目ずし友らは赤飯お煮しめまでも
戦ひの最中に炭を買ひ闇に紛れてリヤカー押しぬ
八千代より来たる女孫が「かき小屋」の生牡蠣蒸し牡蠣一息に食む
レストランに観光客があまたをり孫と二人で海鮮丼食む
秋の海市場の周辺かもめ飛び孫と歩くは震災跡地
移りきて終の住処に四ヶ月われを待ちたる群青の海
埼玉 倉 浪 ゆ み 太極拳ゆつたり流るる水の如く舞ふ女性あり息つめてみる
花乃さん何と良い名とおもひつつ正座して読む新聞歌壇
逸はやく薄やみとなる庭隅に石蕗ひつそり黄の灯をともす
秋はやも過ぎて師走の風吹けりイルミネーションきらめき揺るる
手造りの惣菜あがなふ店先に今日はまゆみの赤の色冴ゆ
孫たちと歩む堤の散歩みちからくれなゐは桜のもみぢ
50
作 品 二
干柿が音符のやうに吊されて近寄りゆけば空気が甘い
縁さきにならべ干さるる大根は初冬の日差しに甘くにほへり
東京 樗 木 紀 子
隣の庭に二本ある大公孫樹は昨日も今日も黄葉を散らす
銀杏を競い合って拾いおりタッチの差で多く拾える
銀杏をきれいにして袋に入れ百五十粒ずつ近所に配る
百花園に去年見つけた古木の公孫樹を今年はわれの写真に収む
古木の大きな公孫樹は岩の如く根元が太く根を張っている
埼玉 田 中 祐 子
赤き実のとりわけ稔るこの年の狭庭の南天丈高く澄む
背を屈め小松菜を採る手の先へハクセキレイがちょこちょこ寄り来
怖がると思い動かず見て居ればハクセキレイは自在に動く
新聞紙に包み持ち呉る良き匂い友の手作り焼いも二本
刈り入れの作業がすべて済みし田に籾殻の山兄等燃やしき
籾殻の灰を掻き分け徐に兄の取り出す焼いも想う
然りげ無き納得の笑み浮かべるは姑の見栄少し寂しい
☆
☆
東京 西 谷 純 子 気管弱く咳に苦しむ一ケ月加湿器とマスクに喉の和らぐ
通販の携帯用吸入器なるものを使つてみむかと申し込みたり
届きたる吸入器は十一センチ程の軽くて片手に扱ひの良し
51
美しき便箋目にし求めたりどなたに出さうか思ふも楽し
町川の橋への坂を車押す老人の後をゆく傘を杖にして
☆
☆
オープンカーの男性は音量大きくさせながら爆音たてて走り去りたり
明治座の観劇に友と来たれば高齢者男性の多さに驚く
愛知 田 島 畊 治
白波がきらめく知多の海を行くデイの仲間と日間賀島まで
早朝に島一周の散歩する潮の香のなか脚はのびやか
すさまじい音をたて飛ぶ戦闘機せまい空域ぐるぐる廻る
天照大神機嫌の良きかこの秋は晴天続きて人を喜ばす
神無月妻の病はそのままに吾にあずけて神は出雲へ
酒好きの友急逝す別れは二ヶ月前の例会となりぬ
見舞する時を与えず君は逝く内臓が少し悪しと聞きしが
歳暮のカタログ届く付箋紙をベタベタ貼りて一次選考
健康寿命永らえるには歩くことテレビの教え日に七千歩
携帯のメールがうまく通じない孫に見せればすぐに通じる
東京 長 尾 弘 子
電線の揺れいる空は青く澄み家軋ませて木枯しの吹く
午前九時通勤の流れいまだあり一輌見送り電車に乗りぬ
背を押され詰め込まれたる通勤を思い出しおりあの頃遠し
国技館の大屋根の上の飛行船白き腹みせ揺蕩いており
52
作 品 二
日の暮れて駅前広場は華やぎぬクリスマスツリーきらめきて立つ
雨上がり道に散り敷く紅葉にすべらぬように行くも楽しく
たちまちに花の香充ちて玄関に花束届く紅のストック
東京 石 本 啓 子
ストラヴィンスキー「大地への礼讃」の心に響く演奏を聞く
和歌を詠み愛を貫く「白蓮の生涯展」見る西武ギャラリーに
スカイツリー音頭の曲を聞きながら足踏みをする体操教室
秋過ぎて安値の野菜が食卓にサラダと煮物鍋料理など
お手玉を投げ上げ受けるはままならず友と顔見合わせ笑うしかない
スーパーで別れた友は俄か雨に傘持ちわれを迎えに来たり
☆
☆
東京 富 川 愛 子 一夜あけ今日の決まりをすつかりと忘れてあかるい妹いとし
動かずに家に居りたる妹はわれより多く食を欲する
時折のコンビニ弁当気に入りて特に喜ぶ三色弁当
東京 林 美智子
うんめん
ひび割れる霜月末の茄子の実を饂麺に入れ昼餉楽しむ
去年より五日遅れのリンゴ狩大方の樹は収穫終わる
リンゴ摘み大きな樹ほど味良しと聞きてこわごわ脚立に登る
みなかみ
蜜入りのリンゴ手回し器でくるくると素早く剥かれ試食に並ぶ
水上の宿より仰ぐ大き星低く貼り付き落ちそうに見ゆ
53
突然の雪に包まる対岸を上越線の三輌が行く
あちらの姉こちらの兄の整理する器・服など我が家潤う
師走に入りフランス土産のエンドウが芽を出し笹の霜除け掛ける
☆
東京 関 口 みよ子☆
鍋の蓋でちょいと大根小突きやる母の手元を思い出しつつ
使い残しの三浦大根拍子木切りに広げて干しぬ七つの笊に
カラメル色に干し上がるまで一週間たったこれだけ切り干し大根
リノベーションしたる長屋に開店すまぶしい八月の自転車屋
充分にミントを食べて繭籠もるさみどりの虫は胎児の形
夕光にぬれて滲めば一日の色の移ろい終える白薔薇
夜気吸いてふくれ明るむオキザリスこぞりてゆれるわずかな風に
香川 矢 野 操
朝夕に珈琲を飲み一年後肝機能値は正常範囲
白ネギとブロッコリーを炊きあわせ違和感もなく箸がすすみぬ
強風に飛ばされそうなれどBMT十八未満の身に堪え立つ
正面に西日を受ける運転者手をかざしつつ走行続く
安物の服を着ているわが為に姪は千円の帽子持ち来る
数粒の雨顔に触れ新調の帽子を置きに数歩を戻る
この縁は受けるほかなきタイミング連続青の信号五箇所
成田詣で 東京 高 田 光
54
作 品 二
信心を露ほど持たず参りゐる鰻食ひたく成田不動に
参道の土産はなべて奈良漬けと茹でピーナツに鰻の蒲焼
軒並べ客引きのゐるうなぎ屋の値段を見ればわづか差のあり
店頭に鰻を捌く職人の技に誘はれ自づと入りぬ
相席の隣の器赤なれど黒に入れらる上うな重は
吾がもとへ余りたるもの来るはずが妻完食す茶も追加して
鰻食ひ生臭き身を本堂の護摩焚き行に祓ひて居りぬ
鉦太鼓伴奏つきに唱へゐる派手なお経の般若心経
東京 山 本 貞 子 誤字なきかポストを前に改めて読み返してより葉書を入れぬ
街中の車の音にもまぎれずに葉書がポストに落ちた音聞く
此の先に良きこと待ちてゐる如き新しきノートの白がまぶしも
夫の掌の置かれし事もある肩に降り来る紅葉払はず歩く
やはらかく薄くなりたる柿のへた取りて遺影にスプーンと供ふ
戦争のテレビ見終へて浮かび来る「君死に給ふことなかれ」の詩
一銭銅貨つかひたる頃育ち来て万単位の年金受くまで生きをり
茨城 飯 嶋 久 子 ☆
看護師に上手に飲めましたとほめられて胃カメラなれど何となく嬉し
検診の結果なべて異常なし怪我なくば当分楽しめますと
ほのかなる香り訪ねて行く先に無人になりたる庭の柊
55
行く先も告げずに去りたる住人になぜと聞きたき思いは残る
わが団地の四十周年記念事業孫子に残すタイムカプセルあり
四十年前団地祭りの写真にはぎごちなく踊る在りし日の夫
来年の個展の準備始まりて娘は案内状を年賀状とする
恒例のボランティアの為の朗読講座滑舌の練習「外郎売」読む
寒さ増す今宵の卓は風呂吹き大根柚子の香もよし娘待つなり
埼玉 山 口 めぐみ
公園の落ち葉のじゅうたんカサカサと鳴らして歩く桜木の下
ゴミ収集勤労感謝の日は休み今年はうっかりせずに済みおり
出始めと違い甘くて柔らかい蜜柑に冬の訪れを知る
号令に合わせて動く赤白帽上下左右に揃って弾む
喪中にてすでに葉書は送付済み賀状準備のストレスの無し
大雨から一転眩しい快晴に南風吹く師走の小春日
志望校選びはこれで決定と書いた用紙は修正だらけ
新潟 橘 美千代
わづかに緑のこす阿賀野川河川敷みづに影おとす街のビル群
寒波くると交換したる冬タイヤおとの物憂く車内にひびく
炉の炎よりとりだされ青年の息吹にたちまち膨るるガラス
燃えさかるオレンジ色の炎くぐり回さるるたび形なすガラス
君に贈らむガラスの小皿を選びをり工房の棚をあちこち巡り
☆
56
作 品 二
積雪を測るための棒道に立つここは長岡雪ふかき街
☆
☆
(みなとみらいコスモクロック)
二度の地震に崩れたる跡はのこらぬも街に以前の活気はあらず
零時九分しめして消えぬ観覧車を灯す二十七万のLED
灯の消えて透明になる観覧車ひろがる闇に街のシルエット
高知 松 中 賀 代
受診待つ間にのぞく池の鯉院長好みか丸まる太る
池の面に背びれ立ちあげ徐に動く真鯉に緋鯉従う
朝夕の祈りに姉の認知症すすまぬ事をひたすら祈る
月一度会うを喜びくれし姉無口になりて笑顔消えたり
枯れ草の所どころに地に低くほっこり咲ける黄のたんぽぽ
東京 伊 澤 直 子
冬雷大会岩上様と一緒にとふた月前より約束をする
東陽町まで乗り降りに手をとり合えば母のぬくもり伝いくるなり
初孫の三歳祝いは母親の着たるベベにて宮参りする
孫晧子千歳飴の気になりてそっと袋をのぞいて見おり
円光寺黄色に染まる枝に落ち赤いもみじ葉彩り添える
水琴窟竹筒に耳をあてがえばキンコロロンと音の聞こゆる
散りもみじ緑の苔にそれぞれの色を広げて生きているなり
詩仙堂四十年余の前に聞きし鹿威しの音今も響けり
(☆印は新仮名遣い希望者です)
57
十二月号作品三欄評
水谷慶一朗
☆
どうしてもよぎる不安に潰されて自ら
の病気増やす人多し 吉田佐好子
四年前震災の年の鮭たちは傷負ひなが
ら産卵へ向かひたり 村上美江
四年前の大津波に生き残った鮭たちは
傷つきながら産卵の習性回帰をしていた
とは実に泪ぐましい限りである。
手作りの味噌待ちくるる人あれば今年
何事も同じで、期待してくれる人が居
るからこそ励める。今年も美味なる味噌
も始めむ麹作りを 植松千恵子
症状を訴える。私などもこの類で心因性
をたのしみに待つ人が多くいるのだ。
俗に病は気からと言うのはこの辺りを
指すのだろう。仮に異常なしの診断でも
不安症を抱えている。作者は心療内科専
玉葱をいつぱいさげて友の来る俺の作
患う人達は絶えず不安を増幅させて別の
門医であるから真実の詠嘆は深い。
だと顔日焼けして 斎藤陽子
☆
湖の如き入江の高田湾津波を思えば今
この玉葱も自信の農作物作。五句は言
葉の上下を入替え「日焼け顔して」に。
稔り田は早刈りとられ稲株が広びろし
たる刈田に残る 松中賀代
秋の田園風景であるが、二句で稲刈り
を伝えているから刈田は不要。三句以下
も震える 佐々木せい子
の清涼剤なのだ。上句は「鈴虫の澄み透
る聲かん高く」で声調も整う。
☆
小綬鶏の親仔神社の庭にいて翼の中に
雛鳥かくす 小林勝子
警戒心の強い小綬鶏を神社の庭で目撃
出来たのは幸運。親鳥が体を張って雛鳥
を護る行為をよく描写している。
☆
母の手を繋いで歩く弟の白髪頭が追い
風に乱る 川上美智子
老い母を介助して歩く老齢となった弟
の後姿に、どことなく寂寥感が漂って見
える。下句の客観描写を少し変えれば尚
よい。「白き頭髪を追い風が乱す」等。
☆
ゆっくりと過ごすつもりの休日を常の
習いにて急いでしまう 廣野恵子
共鳴の内容だが、五句の収まりは単調
ゆえ「常の慣いでせかせかといる」くら
次々にはなやかに咲く庭の隅の芙蓉の
いで動作が表白されよう。
一変させた大津波。今も思えば恐怖に身
花の色定まりて 鵜崎芳子
☆
が震える精神的衝撃を受けてしまった。
☆
に言えばよい。
「稲株の整然と広き田圃に並ぶ」くらい
静かな入江の高田湾は、湖のように青
く穏やかに水を湛えている。その景観を
☆
国会のニュースに親子で意見割れケン
カにせぬよう夕飯始む 山口めぐみ
国会ニュースの話題から親子論議が意
見割れして熱くなり、喧嘩口論に発展す
隅に芙蓉は花の色を定めて」では。
この歌も語順を変え助詞の整理をすれ
ば よ い。「 華 や か に つ ぎ つ ぎ 咲 け る 庭 の
茶の間に響く 木村 宏
鈴虫のかん高き声すき通り一人夕餉の
る気配を察した作者の救済措置の夕飯で
透明な鈴虫の聲も独り暮らしには一服
☆
ある。一家の幸せな内情の窺える歌。
58
十二月号作品三欄評
関口 正道
☆
不安とはまだ起きぬもの実体がまだな
妙な動きや昔からの言い伝えがいちばん
さえ予期できないものらしい。動物の微
護師に叱られたことがある。
下手だ。直接下手と言ってベテランの看
これは頷ける。筆者も4週に一度採血
する。若い看護師ほど躊躇う。だいたい
ねているように思う。地震は地震学者で
あてになるのかもしれない。
国会の喧騒過ぎて物悲し静かな山路し
働いている者の実感があふれる歌。作
者は何気ないところを毎回うまく捉えて
切除部の癌の病巣誇らしそうに存在感
季節は冷えたものを身体が要求する。初
炬燵の習慣がないので実感が湧かない
が、冷え込みの感覚は納得する。猛暑の
暑の時季は静かにひきて 加藤富子 ☆
あたたかき飲み物を求めるこの身体猛
片本はじめ
ムコタツの布団を引き出す 朝晩の冷え込みに負け今日つひにホー
☆
みじみと歩む 鵜﨑芳子
常総の鬼怒川決壊映像の濁流の凄さに
釘付けになる 乾 義江
天邪鬼の見方だが、国会の喧騒は何か
儀式のように思えてならない。喧騒が続
いものを膨らませない 吉田佐好子
濁流に流されない白い建造物は話題に
なった。横浜のマンション偽造報告も同
こうと続くまいと世界は物騒だ。
☆
ようにも思う。言われればその通りだと
じ化学会社のグループだった。それはと
短歌とは言えない格言・覚悟のように
も思うが、他人へも自分へも言っている
思う。現実逃避ではない気がする。
文字・言葉・速度を増して消えゆくを もかく自衛隊の活躍は評価すべき。
実感しつつ青き空見る 富川愛子 里偲ぶ母を連れ生家へ向かいゆくこれ
こ う し た こ と は 誰 に で も 言 え る こ と。 が最後とつぶやく母を 川上美智子 ☆
自分だけが老いていくわけではないこと
と思う。ここでは言霊信仰は許される。
「そうね」とも頷けない。「そんなこと
はない、又来よう」と嘘でも言うべきだ
「 あ つ 」 と い ふ い と ま も な く て 妹 は 息
連休の中日の朝はマンションの戸を開
を僭越ながら申し上げたい。
を引きとりひとり逝きたり 池田久代
ばん無念に違いない。運転者は厳罰に処
いる。筆者の家の近辺は年金生活の家が
をたっぷり示す 同
燵、飲み物と身体感覚の季節感はいい。
秋を迎える感覚をうまく捉えられた。炬
するべきだ。
圧倒的に多い。通常でも音はしない。
医学のことは解らないが「誇らしそう」
は実感が籠る。手術の成功を祈る。
くる音無くて安らぐ 中村哲也
鮭たちに言葉のあらばこの四年此処ま
わが腕の細き血管はたいても注射の打
人間は死ぬときはあっけないが、こん
なことも現実にはあるのか。本人がいち
での道程聞かせて欲しい 村上美江
てず看護師交代 篠本 正
☆
鮭には東北の大震災も視野に入れて尋
59
作品三
東京 鈴 木 やよい 車列組むクラシックカーの運転手カメラ向けられ背すぢ伸ばしをり
汚れたるオート三輪も加はりて古き車のパレード続く
前走る夫の背を見てペダルこぐ落ちくる銀杏を体に受けつつ
自転車降り入りたる店の昼さがり言葉少なくうまき蕎麦食む
建物に沈み始むる秋の陽は散り残る葉にも輝き与ふ
固きゆゑ窓辺に置きたる富有柿ゆるき光が沁み込みてゆく
穏やかな陽のなか終へたる窓さうぢ師走の空に拭きすぢ残る
人込みを歩みゐたれば漂ひくる甘きにほひにメロンパン浮ぶ
列に並び待てどもバスはいまだ来ぬ手持無沙汰にハンドクリーム塗る
長崎 池 田 久 代 紅葉の舞散る中庭いつしらに枝の間の青空広し
ひざ上げて大きくゆつくり廊歩く小学唱歌口ずさみつつ
妹と楽しみにしたる秋祭りその日を待たで妹は逝く
おみやげにもらひたるヨーヨー指にまきひとりぼつちで屋台めぐりす
横浜港大桟橋 国際客船ターミナル
リハビリにてニューステップといふ道具に乗る看護師さんの手を借りながら
足の先ペダルをふめば手も動く「しばらくこれで」と師の指導定まる
60
作 品 三
新しい道具に馴れて気がはづむ明日も元気でリハビリ続けむ
岩手 村 上 美 江 取り取りの自慢料理を持ち寄りて友の新居に冬雷会員集ふ
数へれば二十一品重ならず所狭しとテーブルの上
然りげなく供へる皿の二つあり温き人らに囲まれ灯のつく
幾らでも口に入ると笑ひ合ふ実に今日はめでたき日なり
豆蒸し煮染に無花果煮含めて漬物あれば箸休むなし
七色の散らし鮨用意する人の優しき味は人柄そのもの
☆
美しい日本語使ひ語り合ふ専門用語に辞書引きながら 東京 卯 嶋 貴 子
澄みわたる初冬の夜空に昇る月煌煌として清らかに照る
町会の会合終り帰る道見上げればまあるい月が道を照らせり
冷たい風の中を自転車で走りゆけば皇帝ダリアの高々と咲く
冷たい空気青い空散り残る紅葉がハラハラと地上に落ちる
静岡 植 松 千恵子 イスラムの空爆自爆銃乱射攻撃の連鎖止まぬことなし
テロ悲惨アラーもイエスも在するか卑劣な手段に怒りながらに
マイナンバー身分証明に必要と使用ありしか国の管理か
この頃は二歳の紗菜の意思表示誉められたれば照れる仕ぐさなす
貰ひ受け庭に植ゑたる桜草にポツポツ穴明く虫喰ひ止めたし
61
闇深し補聴器はづせば音のなく歌を詠まんと居住ずまひ正す
よく見ると紅葉は微妙なグラデーション一枚の葉に赤黄緑と
☆
縁石に気づかずつまづき歯を折ると友より電話災難はいづこにも ☆
☆
茨城 乾 義 江
畑なかに長き尻尾を上下して二羽の鶺鴒餌あさりする
日によりて眺める窓の違いおり月の在り処は空移りゆく
庭の隅ペットボトルが並べあり猫きらいたる人の住みしか
鉢植えの土をいじれば小さなる生命体の蜥蜴顔出す
免許証返納までにと着手する身辺整理もかなり進みぬ
旋回するヘリは地上の音消しぬ普天間の空ふと思わるる
垣根越え茎の端の花うつむくは後に知りたる皇帝ダリア
人目引き青空のなか燃えさかる炎となりて楓立ちおり
東京 大 塚 雅 子
地平線に幽かに残る夕焼けを惜しむ間与えず夜は来りぬ
新しき高層マンションまた建ちて空が一段遠くなりたり
岩手 佐々木 せい子
「越えましたあなたの年齢を」朝日差す遺影にしばし近況を語る
両腕の痺れに度々目覚めつつ拒みておりぬ頸椎の手術
ひらひらと舞う落葉追い公園に遊べる子等を飽かず見ており
庭石につつじの枝に散り嵩むもみじ葉集め庭掃除終う
62
作 品 三
畑終いと野菜どっさり持ちくるる小柄ながらも働き者の友
四世帯大家族をもまとめつつ如才なき友料理も得意
空中を舞うが如くに逞しく華やかさ増すファイナルの結弦
福島 中 山 綾 華
友よりもらいたるハチヤ柿の大量を夜なべして干す柿のれんして
散紅葉踏んで散歩の心地良し行ったり来たりしばし味わう
初雪に慌ててタイヤの交換の完成は次の日夕方となる
師走を迎えた原発事故で避難の人等の心冷えきる
干柿を一つ食べんと手を延ばしさわれば柿は穴あきばかり
父の三十三回忌避難地にて幼き頃の思い出語る三姉弟して
☆
☆
岩手 斎 藤 陽 子 友病むと聞きたる夜はねむれずにとつとつ話す彼を思ひつ
届かない母への詫びを言ひながら母の好みし菊を供へたり
祖母あての特攻隊員の遺書を読み孫に電話する声ききたくて
病む友は我の見舞ひもこばみたり元気になつたら会ひたしと
喜寿すぎて傘寿に近き日々なれば一人誓ひぬ人とあらそはぬこと
転居して人あたたかき里に住みこの年暮るる感謝しながら
茨城 豊 田 伸 一
べにばなの黄の色変わり紅となり美の染め物が伝統となる
精精と孫娘食い泊まり居て帰るあいさつごちそうさまです
63
医者が云う減量しろと真顔なり太る薬は飲み続けろと
やせるには食事を減らせ一回分朝昼晩のいずれか迷う
晩秋の陽が射す紅葉あざやか人知れず咲く奥久慈の里
早三年病い生活に耐えてきて社会復帰の道まだ遠し
東京 永 野 雅 子
秋田より友が送りくる宅配便ラ・フランスと米は自家製なり
よく熟れたラ・フランスを口にして友の畊す畑を想う
新しき揃い半纏身につけて町おこしの為のイベントに臨む
イベントのPRにと取材受け紙面掲載に勇気をもらう
スープ作る工程見直し新しき小さな寸胴鍋買い求めたり
早朝より始める作業は様々で仕込み二時間掃除一時間
毎朝の仕事の量は変わらねど体調すぐれず長く感じたり
東京 山 口 満 子
清水の舞台に留まる人混みの狭門を縫って手すり前に着く
手すりから首出し眺める風景は京都の街並と眼下の紅葉
二十年ぶりの東寺のライトアップに赴けば東大門前には長い行列
錦市場で夫と食べ歩きたる成果は餅鱧鮎に千枚漬け
東京 廣 野 恵 子
墓参する友と一緒に出立す四泊五日の高知への旅
天気予報あたらず続く青空に幸先良しと皆で喜ぶ
☆
☆
☆
64
作 品 三
高尾よりのりたる高速道路網一度もおりず鳴門までゆく
大橋を走りてのぞむ須磨明石息子の結婚披露の地なり
月なくて露天風呂暗し雲切れて光る鏡のような海原
浜に出て波寄せて引くくり返しの音ききながらたたずむ幸せ
桂浜龍馬像の前に立ちこだわり流す広き海みて
師走来て気候不順にとまどいぬ賀状書きする薄着になりて
ま
茨城 木 村 宏
コスモスは里の中こそ美しき風のまにまにゆるやかに揺る
公明の平和の党はどこへ行く自民に便乗憲法枉げんと
原爆の日より過ぎ来し七十年七万柱は未だ塔の中
銀杏の木背に牧水を読み返す公園の午後ベンチかげりて
はねあげし眉の色濃きОLは朝日の電車で目を閉じており
本年の銀杏の落葉つやつやと老樹見上げて傘寿に想う
☆
☆
師走に入り焼芋やの声流れきて今年もいよよ押しつまりきぬ 栃木 川 俣 美治子
どこまでも続く平野に驚く嫁は起伏の多い長崎育ち
西風に吹かれて揺れる庭の木は冬支度前枯れ葉残して
あったかいふとんを顔までかぶってみる何とも言えぬ幸せの眠りへ
つんとした透明感のある朝に晴れの予感がコーヒー片手
鏡見るうーんと思わず声が出るいつの間にやらしわ深くなり
65
来年の暦いただきパラパラとめくり思うは多き幸あれ
室内の壁に影絵のすずめたち冬の朝日に枝から枝へ
歳暮送る又この時期に会えぬ人が息災かしらと思い届ける
愛知 鵜 﨑 芳 子
マッターホルン眺めて歩く山旅に世界の不穏恐くて行けぬ
立ち枯れの黄花コスモス和らかな日ざしの中の静かなる揺れ
種子島轟音と共に打上げた宇宙ロケット未知の世界へ
四人連れ神戸への旅「こだま号」車窓の景色心うきたつ
☆
神奈川 大 野 茜 妻が友の川柳の葉書届きゐて今日幾度目の大笑ひせり
増築をしたる和室の桧材その香芳し脳まで沁みる
偉丈夫の義弟の逝きて七年目送る花束抱きて呉れるや
休日の電車に乗りたる女の子ママには会わぬと父に訴ふ
釣人が三キロの鯛持ち来たる如何に捌かん妻の眼輝く
集会所の夜のウクレレ練習会聖夜を弾けば心静もる
奈良 片 本 はじめ 何となく気になり母に電話なせば父耳遠く介護一と言ふ
筆談で母と妹耳遠き父に問ひかけ答へさせるといふ
高齢の女性大家が孤独死す立冬大安秋雨の朝
孤独死をしたる大家に村人ら傘手に集へど検屍で会へず
66
作 品 三
心病む君は一人が怖いと言ひ週に二日は我が家に泊まる
明日もまた泊まりに来ると車中から君は手を振る見送る我れに
君はもう通ひ妻なり吾のシャツのボタン付けする笑みを浮かべて
心病む君もう我れの誕生日さへも忘れて二階で寝をり
東京 永 光 徳 子
山茶花と椿の花が並び咲き晩秋の庭しばし華やぐ
落ち葉掃き黒き地面の見えくれば清々しくも芽吹くものあり
紅葉は昨夜の風に散り果てて青き空には梢の高し
☆
☆
我が庭で見守りくれたるシャラノキは惜しまれながら今日切られたり
新緑と可憐な花に癒されし真夏の木陰も想い出となる
冬の陽は早きに西に傾きて奥多摩の山藍に染まりぬ
茨城 篠 本 正
点滅を見ているうちに欲しくなり思わず買いしクリスマスツリー
広告の封筒を開ければ文面にわが名前のちりばめてある
死にしのち何をされても分からぬが車道の狸を啄む鴉
坂の上に止まりて見下ろす坂下のくぼみの中より車現る
店頭に並べられたるシクラメン香に誘われて一鉢を買う
利根川を押して流るる濁流の流れの速きま中盛り上ぐ
宝くじの売り子の名前が富田さん縁起かつぎてスクラッチを買う
水もれの電話を受けて早速に修理に出向く往診のごとく
67
小ホールに川柳・短歌・俳句飾り後列に書道の展示されてにぎわう
群馬 山 本 三 男
突然に無数の小鳥飛び立ちぬ一羽のカラス木に近付けば
若き日の不快な日記出でたれば中身を読まずゴミとして捨つ
ゴミとして捨てたる日記今頃は焼却場の灰となりいん
酒飲まず半年程の過ぎたれば今は飲みたき思い起こらず
新聞のおくやみ欄をぼんやりとながめていたる自分に気付く
買い置きて読まざる本を処分せり今後読むこと最早あらずと
また一人辞めゆくという施設にて不平を言わず子は勤めおり
陰長き木立の間に上り来る冬日と言えど朝日はまぶし
にい
栃木 加 藤 富 子
はじめての草履をはきて七五三祓いの言葉を神妙に聞く
弟にタックルされて倒されるそれでも君は優しい兄ちゃん
孫ふたり兄の仕草を真似ている小さな君はわんぱく坊主
孫の来る予定がありて頑張れる小春日和の休みの日
ミッキーと写真が撮れたと娘のメール孫の笑顔が画面いっぱい
必要に迫られ覚えた携帯メール夫から伝言度々届く
平凡に過ごせる日々の有りがたさ今日の終りにありがとうという
長寿という時間の先に潜んでる認知症なる大きな不安
東京 松 本 英 夫
☆
☆
68
作 品 三
ホテルにてオーナーの見せる紙芝居やんちゃなをさなみじろぎもせず
紙芝居まっすぐ見入る幼子に礼のぶオーナー涙ぐみたり
いつの間にバイバイの声やめたるや五つの孫の手のゆれをるも
☆
☆
「はやぶさ2」母なる地球のちから借り綱をわたりて「りゅうぐう」めざす
「あかつき」は設計寿命をすぎたるも力しぼりて残生生きる
目に見えぬ針穴くぐり「あかつき」は奈落をのがれ金星まはる
かがやきてつづく一すぢの歌の道たまきはる師のいのちなりけり
埼玉 横 田 晴 美
ざっくりと踏めば音する落葉など春に備うる散り際鮮やか
降りしきる落葉の中に寝そべれば秋の終りの香に包まれる
寂しさはポケットに隠し空を見る青いイルカが雲の中にいる
富士登山遂げたる誇りがじんわりと孫の頬染む暑き夏の日
富士山に親子で登った孫の目には石コロだけが記憶に残る
孫の吹く水風船が空を飛ぶばあばも幼なに返りて遊ぶ
愛知 児 玉 孝 子
岩盤を持ちあげるごと芽を出せり花菜の種に土盛りあがる
胃をとりて二十七年過ぎたる夫力強く「峠越え」を謠う
カラオケ大会中高年は着飾りてマイクを持つ手に自信をみする
稽古日に花材の善し悪しを言いおれば悪しき花はなしと師に糺されぬ
株元の土ひび割れおり鍬入れは慎重になる薩摩芋掘り
69
一年の括りを飾り咲き継げる皇帝ダリアは軒より高し
広島 藤 田 夏 見
少年の「百歳までも生きて欲しい」の言葉を聞けばやはり嬉しき
は
は
首飾り思いがけないプレゼント小春日今日はわれも浮き立つ
蒸しパンも甘酒味噌も麹さえ亡母はその手で全てを作りし
甘酒のレシピを探しこの冬はなつかしき味亡母に出逢わん
青き空薄く懸れる半月に飛行機雲は二筋残る
寒空の運動場はマラソンの子の応援に人垣出来る
果たせない約束ひとつ胸に置き児は懸命にゴールを目指す
☆
☆
ある。いずれも国の重要文化財。横浜港に面する
赤レンガ倉庫は、2号館は明治時代末期、1号館
は大正時代初期に造られた。今は商業・観光施設。
大桟橋には折しも豪華客船・飛鳥が寄港していた。
横浜港を臨む馬車道と元町を繋ぐ「本町通り」は
建物・碑文が整備され、日本の近代史の宝庫であ
ることが解る。 (関口)
東京 佐久間 淑 江
父母の介護に暮れし日々想う夜空に光る星を仰ぎて
旧友の温かき声聞えくる受話器握りしむ風邪に伏す夜
脚の怪我したる一瞬を悔やむ夜我が人生を変えしあの刻
この脚の怪我さえなくばと思う時涙がにじむ厳冬の夜
◇今月の画像
JR根岸線の「関内」を降りて南へ行くと横浜
開港に関連する歴史的建造物が見えてくる。神奈
川県庁そのものが昭和初期の建物で、今も本庁舎
として使われている。横浜市開港記念会館は改築
されているが大正6年に竣工していて煉瓦造りで
70
詩歌の紹介 たちやまさお詩歌集
『故郷の道』より㉓ 立谷 正男
十二月号 十首選
恵みと感じる。
「山かげの岩間を伝ふ苔水のかすかに我はす
十二月集 林 美智子
生涯 身を立つるに物懶く 云われるが、日本には偉大な思想家がいくら
だけ、金だけ、自分だけ」の哲学なき時代と
けでも日々忘れないようにしたいものだ。「今
「笹の雪」
えるが勝まけはわかる 栗原 サヨ 安保法たどる道への不安増し議事堂めざ
経ちいき母諦めず 酒向 陸江 ☆
相撲見る十五日間たのしみぬぼんやり見
ものなき天に輝く 髙橋 説子 曲がらずに半紙に二文字書けるまで七年
が男見てをり 大塚 亮子 メールひとつ打つ間に月は高さ変へ遮る
癖徐々に減りきつ 天野 克彦 バケツの魚を川に戻せる一瞬を狙ふか鷺
いつよりかひとつのことに拘りて迷ふ習
みわたるかも」
騰々 天真に任す
でもいる。
良寛の厳しい無一物の姿勢に到達すること
はできないが、良寛さまの心に憧れるそれだ
嚢中 三升の米
「良寛の詩」
炉辺 一束の薪
誰か問わん迷悟の跡
笹のはっぱに雪がふる
何ぞ知らん名利の塵
解説して中野孝次氏言う。
小笹よさむいかつめたいか
夜雨 草庵の裡
良寛の不思議は、この何一つ持たぬ乞食僧
の中に、実におどろくべき自由と、悠游とし
笹のはっぱに雪がつもる
双脚 等閑に伸ばす
た心境と、天地自然との堂々たる一致と、限
辺り雨降り止まず 斉藤トミ子 ☆
会うための都合を聞けば先約があると弾
つねにいきいきと生きていることだ。
の虚し ブレイクあずさ ☆
PEACE
新聞の山に消えてしまひぬ 鈴木やよい
原爆を正義と言いたる唇に発音さるる
し雨の中行く 山口 嵩 初に聞く線状降雨帯の止まりて我が住む
りなく優しい愛と、汲めどもつきぬ風雅とが
小笹よ花のようでうれしいか
める電話の声す 矢野 操 ☆
「後でメモ」と思ひたる記事気が付けば
笹のはっぱに雪がふる
小笹よ雪に別れを惜しむか
笹のはっぱに日がのぼる
良寛の生き方が示すのは、人は所有と快適・
安楽ばかりを求めていては、本当の心の充実
たればこそ、春の訪れをよろこぶことができ
小笹よ何思う何を待つ
を得ることはできない、冬のきびしさに堪え
る。生をゼロに近い所に置くほど、それから
ほんの少しプラスになっただけでも、それを
71
名を選ぶということで、挙げられた作者名は
魅力でもある。投票を集計した結果、各自三
この歌集に収められた作品にはそれぞれ独
自の歌の世界があることが大きな特色であり
二、互選賞(江波戸愛子氏)
は遅れて届く分を待った。
く君眠るまで
十五夜の月の光とやわらかな風を入れお
でいて優しい気持になる。 (森藤ふみ)
がある。 (髙橋説子)
*身の回りの事を詠んでリズムが良く、読ん
常のひとコマが歌の中で光を放つ印象深さ
なる。 (小久保美津子)
*作者の優しい人間性がどの歌にも溢れ、日
互選賞・木島茂夫賞
七八名にも及んだ。そして多くの作者が挙げ
犬を抱くちちも抱かれている犬もとろと
広報 桜井美保子
選出の経緯・資料
られる中でも纏まった票を集めたのは次の
ろとろん日溜りのなか
◇第二位「立待ちの月」嶋田正之
一、合同歌集の発行と優秀作品の作者選出
方々である。
*二兎を追う人の力量は素晴らしく唐辛子は
(飯塚澄子)
。 鈴木やよい)
* 端正で深さを感じる歌だと思う(
*抒情的表現が含まれていて心を捉える。
冬雷の創設者木島茂夫先生の生誕百年を記
念した合同歌集『冬雷の 人』が平成二十七
位は嶋田正之と水谷慶一朗。第四位は佐藤初
第一位は江波戸愛子、第二位と第四位は得
票がそれぞれ同数で二名ずつ。すなわち第二
(発行人・大山敏夫 データ制作冬雷編集室)
自選二十五首と短文で構成。希望者を募った
人』となっ
雄と高松美智子。
のまま歌集名に入れられ『冬雷の
ピリリと辛そうだし、短歌は悠々自適な境
◇第一位「とろとろとろん」江波戸愛子 ☆
過疎すすむ秩父山地の入り口の小さき村
(永田夫佐)
互選上位の各氏に寄せられた感想の一部を
紹介する。
者を選ぶことになった。合同歌集に同封され
*親を子を夫を思う心情が良く詠い出されて
地を楽しんでいる様で佳いと思った。
た葉書による投票で、各自三名を選出し、簡
*「ちち」に対する溢れる思いがどの歌にも
つなき立待ちの月
いうものに対する鋭い感受性にあふれてい
◇第二位「五体しづかに」 水谷慶一朗
*「高齢を…」の一首に見られる「生命」と
線が全ての作品に読み取れる。(大塚亮子)
*作品より人間味がにじみ出て優しい気分に
詠み込まれ思わず涙した。作者の温かな視
うつつ世にあと幾度をめぐり逢ふ雲ひと
がわれの産土
単な感想も書き添えることとした。投票の取
すぐ集計せず八月一五日の締切から少しの間
季でもあり、体調を崩した方もあっただろう。
参加一一三名のうち、投票葉書による回答
があったのは九六名。選出の時期は猛暑の時
りまとめは広報桜井美保子が担当した。
いる。 (赤羽佳年)
(大山敏夫)
* ゆったりした独特の抒情が響く。
出詠者全員による投票を行って優秀作品の作
た。そしてこれは特別の歌集ということで、
113
ところ一一三名の参加があり、その総数がそ
年七月一日付で冬雷短歌会より出版された。
113
72
* 他人の看取り介護に携る仕事に徹した日常を
(小林芳枝)
* 向き合い方がまじめでひたむき。
(田島畊治・鳥居彰子・川俣美治子)
◇小林芳枝
◇川又幸子
感情労働として捉えている。(水谷慶一朗)
る。 (池亀節子)
*格調高い歌が続く。声を出して読んで気持
*物事の奥をしっかりとらえる目が優しい。
(正田フミヱ)
* 介 護 の 仕 事 で 一 番 大 切 な と こ ろ に 気 づ き、 悩 み
(桜井美保子)
つつも懸命に生きる姿が見える。
*高齢化社会を担う仕事。行き場のない感情
(江波戸愛子・高松ヒサ・村瀬弘子)
◇小久保美津子
(佐藤初雄・立谷正男・田端五百子)
◇水谷慶一朗
(江波戸愛子・澤木洋子・橘美千代)
◇関口正道
じた。 (高橋燿子)
*読んでいくうちに「感情労働」の意味がわ
かってきた。肉体労働の疲れより心が疲れる
(高松美智子・大滝詔子・高田光)
◇森藤ふみ
昂れる心鎮めて対うとき「感情労働」と
(高松美智子・江波戸愛子・髙橋説子)
(松原節子・近藤未希子・江波戸愛子)
◇桜井美保子
介護の大変さに共感を覚えた。(本山恵子)
を仏や自然、家族に向けて精神的強さを感
(嶋田正之・高松美智子・鈴木やよい)
◇赤羽佳年
ち良い。 (大野 茜)
*人生経験の積み重ね歌に深みを感じる。
(西谷純子)
咲く力溜めたるさくらの古木立ち雨のい
とまも莟をひらく
十代に死の病より起ちあがり五体しづか
に傘寿となりぬ
◇第四位「従軍記」佐藤初雄 ☆
*太平洋戦争が詰まっている。 (関口正道)
*作中実名表記に作者の想いがより深く感じ
られる。自身の周囲で起こった真実を残そ
うとの熱情が伝わってくる。 (中村哲也)
*折しも戦後 年、酷く重い真実を確り読ま
振り幅の大き感情に向きあいて心に少し
いう言葉が浮かぶ
疲れの残る
九月の編集委員会において審議した結果、
互選では四位であるが、四名の委員が第一、
せて戴いた。最後の一首、佐世保に引き揚
夫賞に決定した。本年度は木島茂夫先生生誕
げて来た当時を思い出し胸が熱くなった。
三、木島茂夫賞(高松美智子氏)
百年の記念合同歌集を対象に二つの賞を設定
(三村芙美代)
茜さす雲間に母の声聞ゆ敵地離脱にふた
木島茂夫先生の名を冠した木島茂夫賞につ
いては、編集委員・編集委員OBの投票を改
第二番目に挙げている高松美智子氏を木島茂
夜寝ねざる
めて精査して検討した。その投票内容は左記
六人の子持ち三十五の清水死ぬなと教え
夫賞の高松美智子氏のご活躍を期待する。
を喜びたい。互選賞の江波戸愛子氏と木島茂
したわけだが、ここに新しい風が起ったこと
◇大山敏夫
の通りである。 ( 内
) は感銘を受けた作者名。
*実直なお人柄が反映した生活詠でひたむき
(吉田佐好子・高松美智子・江波戸愛子)
導き居しが
◇第四位「感情労働」高松美智子 ☆
に生きる態度に打たれる。 (大山敏夫)
73 70
第五十四回冬雷大会記
地 六五番 髙橋 説子
天 二六番 澤木 洋子
委員会賞も受賞している高松美智子氏が選ば
島茂夫賞」と発展し、初の受賞者として編集
れた。互選賞は江波戸愛子氏だった。それぞ
地 一三番 山𥔎 英子
天 一二番 田島 畊治
人 五九番 大川 澄枝
川又 幸子選
れの挨拶があった。
高齢化社会は、短歌結社にも確実に進んで
いる。高松氏は「感情労働」で介護現場を意
ろん」で家族の介護を意欲的に詠まれた。江
地 一〇三番 酒向 陸江
天 四一番 松原 節子
関口 正道
欲的に詠まれたのが評価された。栃木県の同
第 五 十 四 回 冬 雷 大 会 は、 平 成 二 十 七 年 十
月 十 八 日( 日 )、 江 東 区 東 陽 町 の「 ホ テ ル
波戸氏は長期間、休詠はあったが、木島茂夫
人 六五番 髙橋 説子
人 一〇〇番 鈴木やよい
小林 芳枝選
ルートイン東京東陽町」で挙行された。平成
先生の指導も受けておられる。両者とも冬雷
人は有力者が多い。江波戸氏は「とろとろと
二十二年から連続六回を数える。江東区は、
短歌会の次代を背負う歌人である。
宮城の若い中村氏も頼もしい。茨城の新会員
苑』を出された岩上榮美子さんが出席された。
例会には出席されないが、一年に一度の大
会には、必ず参加される方も多い。今回は『桃
違う会員の講評が加えられる。
講評、互選表彰が終ったあとは、例年通り
「私の選んだ歌」の発表。ここでは評者とは
冬雷短歌会発祥の地でもある。
一位 三八番 三八点 橋本佳代子
◇互選結果は、次の通り。
意義、木島茂夫先生の教え、今後の冬雷など、
望むもの少なくなりて九十の心爽やかに
開会・閉会の挨拶は天野克彦氏、嶋田正之
氏。大山敏夫代表より『冬雷の百十三人』の
説明乃至は方針が示された。
二位 六〇番 三八点 倉浪 ゆみ
過ごす幸せ
曼珠沙華行けども行けども曼珠沙華つつ
「作品批評」の午前の部の評者は大塚亮子、
高松美智子、山口嵩、山﨑英子の諸氏。午後
の 部 の 評 者 は 兼 目 久、 酒 向 陸 江、 高 橋 説 子、
この場を借りて編集委員の小久保美津子氏
の怪我からの回復を望む。来年は是非また岩
にも何人かお目に掛かった。
橘美千代の諸氏。
みの道はくれなゐの帯
三位 六五番 三七点 髙橋 説子
せな
本年七月に勇躍『冬雷の百十三人』が刊行
された。木島茂夫先生生誕百年記念である。
者も来年こそは懇親会に出席することをお約
手、青森の会員にもお会いしたいものだ。筆
ット十回そうつと試す
◇選者賞
束する。 寝つきたる背の赤子をそのままにスクワ
梓と附合するのか。
大山 敏夫選
大会の出詠者が百十三人なのでこの歴史的上
従来の編集委員会賞は、これに因んで「木
74
~
113 70 28
71 29
第五十四回冬雷大会詠草 ︵短評付き︶
髙橋説子・
兼目 久・
橘 美千代
84 42
午前十時(受付開始九時半)
平成二十七年十月十九日(日) 於
ホテルルートイン東京東陽町
(短評担当) 1~ 大塚亮子・ ~ 高松美智子・ ~ 山口 嵩・ ~ 山﨑英子・ ~
~ 酒向陸江・
~
99 57 15
1 この国の分水嶺を狂暑日の七 ・ 一五と記し許さず 嶋田 正之 1
難解だが見事な政治詠法案通過を許せない怒りが出ている
98 56 14
2 ラバウル戦に牡蠣フライとて食せしは其の後黙止の在りし日の夫 高島みい子 9
●私の注目歌
1 この国の分水嶺を狂暑日の七・一五と記
し許さず 嶋田正之
一読解り難さはあったが、再三読み返すう
ちに五句すべてが立ちあがってきて、作者の
怒りがストレートに表記されている作品と感
じた。後後この国の分れ目が、平成二十七年
の七月十五日の集団的自衛権の行使を認める
安保法制可決であったと思いが及ぶであろう
と記しておく。「狂暑日」が意味合いを持っ
て響き、メッセージ性のある作品となった。
(赤羽佳年)
4 病む兄に顔よせ幾度も呼んでみる手をさ
すりつつ声音を変へて 増澤幸子
病室の様子が脳裏を過ぎる。余命幾許か残
すも意識なく声色をかえて懸命に呼びかけて
みるも返事は全く返ってこない。
しかし、何とか通じている部分もあるのか、
優しく握った手をかすかに握り返してくるこ
ともある。一寸でも返ってくれと祈るや切。
ことに近々に身近な人を失った者にとって
は身につまされるショッキングな一首であ
る。 (三木一徳)
75 85 43
語ることのできない恐ろしい体験があったのではと亡き夫を追憶
●私の注目歌
4 病む兄に顔よせ幾度も呼んでみる手をさすりつつ声音を変へて 増澤 幸子 どうにか元気になって欲しいと病む兄を思う気持ちが溢れている
らが繁茂していく生命力。弱くみえていて柔
藪枯しは樹木などに巻きつき自らが繁茂し
往々にしてそれを枯らすと聞く。(ビンボウ
婆の読む絵本に眠る幼子もはや匂い立つ
(高松美智子)
ろうかと想像の広がる一首でした。
いる。作者は写生する中で何を見ていたのだ
軟に状況に応じ生き抜く力。生命力を感じた。
カズラ)蔓をもち何かに巻きつき健やかに自
5 河鹿鳴く渓流の岩にへばりつきめすを呼ぶ声流れに負けじ☆ 豊田 伸一 7
河鹿の状況を具体的に描写しめすを呼ぶ懸命さが胸を打つ
添ひしは二年と語る奥様の深い悲しみを思いやる優しさを感じる
村上 美江 8 きしきしと歯ざはり軽く初豇豆畑の義母の元気も嬉し
義母の元気を喜びきしきしと歯ざわりのおとが聞こえるようで爽快 子 0
働くお母さんに代わって女児の世話をする
お婆さん。母を待つ児に絵本を読み聞かす時
乙女となりぬ 篠本 正
バス停に文庫本よむ学生のゐたればほつとする朝の一景 赤羽 佳年 本離れを嘆く思いが根底にあり共感をよぶ下句は工夫との意見
夢の中。お婆さんの愛情をたっぷり受け育て
英子 選ばれて選びて生きし五十年老老介護日日重みあり☆ 田島 畊治 五十年の重みが伝わり老老介護の世相を否応なしに突きつけられる
条のつる空に漂ふ 山
藪枯し樟の大樹に絡まりて幾
対象をしっかり見つめ無駄なところがなく見事で空は宙にとの評
桜木の下を色取り紫陽花の咲きて輝く梅雨の早朝☆ 早乙女イチ 4
梅雨の朝に咲く紫陽花が美しく写生されている色取りは彩りか
(櫻井一江)
祖母の姿、感慨がじんわり伝わってきます。
丈も伸びているであろう孫娘を見る満足気な
乙女に成長したのである。多分祖母よりも背
られ、それに応えるかのようにして匂い立つ
その児はいつも物語を聞き乍らいつの間にか
過去を捨てひとり転居す背の君の遺産の土地を市に寄贈して 関口 正子 7
大変な状況を他人事のように詠んでいるが背の君が解りづらい
9 ガン転移なく八年の夫なれど兄弟二人亡くして居りぬ 堀口 兄弟二人を亡くしている為のこる一末の不安を上手く表現している
20
7 平和の礎拝し奥方たづぬればぽつり語りぬ添ひしは二年と 金野 孝子 空に漂う幾条のつるは伸びていく先を捜して
に漂ふ 山﨑英子
藪枯し樟の大樹に絡まりて幾条のつる空
13
6 明大より帰途直行されYWCAに万葉教へ給ひき土屋文明先生 川又 幸子 5
尊敬する土屋文明の講座で万葉集を学ぶ作者の真剣さに感動
3 息子の婚願いて夫の作りたる真珠のペンダントわが手に遺る☆ 石本 啓子 息子のために作ったペンダントが作者の手に遺った事情が解らない
11
14
14
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76
眠り入るまで間のあれば目を閉ぢてまぶたの裏の視界に見入る 小林 芳枝 7
解き放たれたひと時眼裏に自身を見つめているのだろうか。
若いねと人々みんな言ひくれど気力のみは衰へずゐる 三木 一徳 3
気力は背骨であり生きる力。「れど」に続く下句の接続はどうか。
シュロの木のひときわ高きその上に熱夜忘れる満月かかる☆ 林 美智子 昼間の暑さの余韻を引きずるような赤味がかった夏の月
埋れ火をかきたてかきたて燃さむか大空高くもえつきるまで 福士香芽子 5
かきたての繰り返しが一首にリズムを生む埋れ火はくすぶる思い
胸熱し 十七回忌母偲び 六人の子ら 文集を出す 飯塚 澄子 3
初句で思いを述べているのは勿体ない。子等の文集は何よりの供養。
婆の読む絵本に眠る幼子もはや匂い立つ乙女となりぬ☆ 篠本 正 女孫の成長を喜ぶ気持ちを詠んだ。「眠る」は過去「眠りし」か。
相談ごと抱へひよつこりやつて来る孫は手作りケーキを提げて 白川 道子 さりげない短歌の中に作者と孫の関係性や日々が浮かぶ。
冬雷に人生の先輩数多居て短歌を通して生き方学ぶ 赤間 洋子 木島師の下に集まった先輩方は自分の短歌の中に「生」を詠んでいる。
おみなごの産声やさし水無月の笹百合の花うすべにひらく☆ 長尾 弘子 おみなごの産声と笹百合のうすべにが対となり喜びが滲む。
狩野川は支流集めて大河なり雨後滔滔と海へ流るる 植松千恵子 9
雨後の川は表情を変える。水は豹変する。滔滔は漢詩的表現。
梅の木の下に木漏れび浴びながら草取るひと日鶯の啼く 小川 照子 木漏れ日を肌に鶯のさえずりを耳に草を引く五感に贅沢な一日。
小半時寝息をたてて帰りゆく仕事持つ子の言葉少なく 澤木 洋子 子の寝顔に母は何を思ったか作者も仕事を持っていた人か。
励みあひ慰めあひて八十路坂語れる妹ゐます嬉しさ 富川 愛子 ●私の注目歌
身ごもれる牛臥す牛舎に集まれば関税の
ね。 (長尾弘子)
お子さまにとって親元は癒しの場所なのです
ご様子をとても良く感じられました。
僅かな時間を寝息をたてて言葉少なく仕事
にもどって行くお子さまを案じ見守っている
の言葉少なく 澤木洋子
小半時寝息をたてて帰りゆく仕事持つ子
26
行方語りて尽きず 糸賀浩子
お産の近づいた牛舎に仲間たちが集まって
いるが、日本の農業などに関する議論で語り
が尽きない。ますますグローバル化されてゆ
く世界情勢の中で逃れられない自然の猛威、
特にも政治問題、TPPの関税の行方などは
夜を徹して話しても尽きない話題だ。
作者は酪農に携わるひとなのか、難しい日
本経済の一端を切り取り佳作だと思う。
(田端五百子)
77 13
18
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15
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語り合える妹のいる喜び。八十路坂、ゐますの表現に一考。
15
●私の注目歌
身ごもれる牛臥す牛舎に集まれば関税の行方語りて尽きず☆ 糸賀 浩子 TPPの影響を受ける作者の近況が浮ぶ・第二句の推敲が欲しい。
過されている事に感動しました。私も足るを
九十歳の年齢になられお体にも多少は不都
合がおありと思われますが心も体もしっかり
知るの気持ちを忘れずこのお歌を詠まれた方
す。 (川上美智子)
夜明け前貨物の長い列車行くこの音はま
(ブレイクあずさ)
いものなのだと気づかされる思いでした。
がちなそんな日々が、本当はとてもありがた
結句に、当たり前のように受けとってしまい
とつなげられていく。きっぱりと言いきった
かな一日が始まり、そして同じように明日へ
続きの今日がやってきてまた同じように穏や
づけられるからなのかもしれません。昨日の
暗い時間に働いている人々と列車の存在に力
明け方にふと目が覚めたとき、どこからか
響いてくる列車の音にほっとします。こんな
だ平和の音だ 松原節子
41
油ぜみの声の止みゐて遠くよりかなかなかなと秋の気配に 青木 初子 8
情緒豊かな歌だが、第五句の表現が全体を平凡にしていないか。
眠りゐて車輪の音に気づきたり鉄橋の上らし川渡れるを 野村 灑子 4 助動詞の使い方のせいか、上句と下句のつづき方が疑問。
一輪のどくだみの花を瓶に挿し綺麗ねと云ふ妻の横顔 大野 茜 妻への愛情が微笑ましい。「横顔」を「ほほゑみ」ではどうか。
山寺の苑をめぐれば青蛙ハスの葉かげにゆるり顔出す 櫻井 一江 視覚的でよい歌。字余りだが、第五句は「ゆるりと」すべきでは。
空襲に焼かれし銀杏に蝉鳴きて祈りの夏のまためぐり来る☆ 関口みよ子 過去と現在が巧みに詠み込まれているが、説明的に感ずる。
夕ぐれを蝉鳴き立つる木の下に若き二人のトランペット吹く 森藤 ふみ メルヘンチックな情景が目に浮び、昭和への郷愁を覚える。
一匹の蝿侵入に猫が追ふ見兼ねて我は加勢に回る 東 ミチ 4
第三句を第一句とし「一匹の蝿の侵入に」と続けてはどうか。
望むもの少なくなりて九十の心爽やかに過ごす幸せ 橋本佳代子 上句のなかに人生に対する作者の前向きな姿勢が感じ取れる。
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とされ、こんなに爽やかな歌が詠める毎日を
大腸癌の術後五年経ち完治する一日一善を心がけおりぬ☆ 樗木 紀子 3
助詞を整理し、第五句は文語的だが「心がけつつ」としては。
過ごす幸せ 橋本佳代子
望むもの少なくなりて九十の心爽やかに
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を目標に年を重ね生きてゆきたいと思いま
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祖父掘りし竹藪中の防空壕﹁平和﹂訴ふ七十年経て朽ち果てぬ☆ 及川智香子 0
主題が明確なので、リズムを整えればよい歌になると思う。
補聴器を頼り受話器に耳澄ます君との会話ときにちぐはぐ 水谷慶一朗 さらりと上句で状況を下句は客観性のあるユーモア。情景が浮かぶ。
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じわりじわり締付けの増して来る感じシートベルトあり家あり国家あり 大山敏夫 「シートベルト」に違和感。「わが齢あり」の表現では。
夜明け前貨物の長い列車行くこの音はまだ平和の音だ 松原 節子 現状を的確に捉えた余情溢れる歌。「音」の使い方が絶妙だ。
13
●私の注目歌
出よりも夕空が好きである。晴れた日の夕暮
ひまはりの奇形画像に騒ぐネット肥料過多ではと言えぬ震災後 中村 晴美 3
震災後の奇形のひまわりに原発の恐しさを考えてしまいました。
生れいづる命はぐくむ存在と女性一般を尊む日あり 立谷 正男 1
女性を大切と思われた日でしょうか。
に帰った。子供心にも美しく思った空である。
(大野 茜)
曼珠沙華行けども行けども曼珠沙華つつ
自体が郷愁を持ち、幼い日々に遊んだ思い出
平和なる七十年を想ひつつ今を大切に過しゆきたし 小島みよ子 平和な日々の続く貴さ。いつまでも大切にして守ってゆきましょう。
夕闇のせまりてきたる西空に茜に染まるふたすぢの雲 鮎沢 喜代 暮れてゆく空の茜雲に惜しむひとときを佇み見つめる作者。
思い出す。 (立谷正男)
木下利玄の代表歌「曼珠沙華 一むら燃えて
秋陽つよしそこ過ぎてゐるしづかなる径」を
が甦る。童謡風のリフレーンも快い。くれな
座敷わらし居たといふ旧家汐かぶり傾ぐ庭石ぬらし雨ふる 田端五百子 7
津波に何も彼も失われた旧家を淋しく見つめている悲しさを思う。
ゐの帯も回顧的である。イメージは違うが、
群生した曼珠沙華の世界へ誘ってくれる。
ここは川岸であろうか。曼珠沙華という言葉
みの道はくれなゐの帯 倉浪ゆみ
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夏来れば夏休みの日々思い出す五感の記憶鮮明にして☆ 浜田はるみ 8
遥かな日の夏休みの楽しさを鮮明に思い出す。五感は忘れない。
変りなき顔にて吾を見つめゐる遺影に朝顔咲いたと告げぬ 山本 貞子 優しく見守っておられる遺影に話しかける姿が見える様です。
の夕焼け。金星が瞬き始めた頃、まだ遊びた
遠い日に母と無言劇紫のコート消え 柄笥に 鵜崎 芳子 1
母親の好みが変ってきたことを詠んだのだろうか。
い少年の頃はこの風景を見ながらいやいや家
時折見る風景である。その風景を広々と詠
んでいる。素直に詠んでいる。又、私は日ノ
ふたすぢの雲 鮎沢喜代
夕闇のせまりてきたる西空に茜に染まる
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弟らの剣道あとの拭き掃除夏休みの姉鮮かになす 橋本 文子 3
日頃から仲の良い姉弟を思いました。姉鮮やかになすがよい。
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消えそうな記憶の中の学童疎開の彼の地に原発默して建てり☆ 飯嶋 久子 9
遠い学童疎開の地に原発がある。何とも複雑な気持です。
初物の桃を切り分け母と食む甘いねと話す面会時間 桜井美保子 79 40
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僅かな面会時間に初物の桃を分けて食ぶるひとときの幸を思う。
●私の注目歌
読み終えて身のつまされる感じです。私も
幼稚園児を残されて妻に逝かれました。今思
大震災五年目に入りたどり着く終の住処で海見はるかす 岩渕 綾子 大震災五年目で到達した心境。終句に作者の悟りが感じられる。
寝つきたる背の赤子をそのままにスクワッ
ト十回そうつと試す 髙橋説子
(荒木隆一)
差上げて下さいます様、お願い申し上げます。
よう、そしてどうぞ励ましの言葉と御援助を
ぞ娘さんにも気をしっかり持って生きてゆく
と時々寒気を覚えながら思い出します。どう
ってもよくぞあの困難が乗り越えられたもの
鈴虫が来たる日元気に鳴きおれど今日は静かで何度も覗く☆ 永野 雅子 2 鈴虫も処変ればと気づいたのでしょうか。
鯛にいか鯵にひらめと舟にて仕入れ旬を盛り付け宿したる頃 佐々木せい子 0
上句は解るが、下句が解りにくい。上句と下句を関連させたい。
我に良きと食材探して求め来し妻の料理に味塩こっそり☆ 佐藤 初雄 6
妻が作ってくれた料理。味が薄い。下句が生き生きした表現。
炎天の半里の野道を帰り来て山寺で聞きし玉音放送☆ 大川 澄枝 山寺で聞いた玉音放送。七十年前の事がしみじみと思い出される。
イエスにも釈 にも願ひ届かずに娘の夫逝く幼等残し 斎藤 陽子 イエスや釈迦にも祈ったが、娘の夫は逝った。人の世は無情である。
兄弟が父似と言はれニコリとす元気な時は嫌ひし言葉 涌井つや子 4
今は父似であることに誇りを持つ。時代により人の考えも変わる。
ひ柄 で桶より打ち水す赤き浴衣の裾を濡らしつ 荒木 隆一 4
赤い浴衣の裾を濡らしながら打水をする。優雅な景に魅せられる。
曼珠沙華行けども行けども曼珠沙華つつみの道はくれなゐの帯 倉浪 ゆみ 土手に曼珠沙華がどこまでも咲いている。下句で一首を引締めた。
うち
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22
お祖母ちゃんに乾杯。 (穂積千代)
ました。健やかで素敵な、心身共に若々しい
りますね」と笑顔で、つい声をかけたくなり
と ユ ー モ ア を 感 じ さ せ ら れ、「 な か な か、 や
健康志向、老化防止、アンチエイジイング、
積極性、そして何より己を客観視するゆとり
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所在なく過す暑い夏の一日。作者の様子が見える様です。
木下闇江戸風鈴にみちびかれホテルの庭に君の後追ふ 小久保美津子 1
江戸風鈴の音色に君と歩みゆくホテル。わくわくします。
逝く幼等残し 斎藤陽子
イエスにも釈迦にも願ひ届かずに娘の夫
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友よりの手紙も電話も来なき夏デパートのちらしをくりかへし読む 鳥居 彰子 6
手に重き合同歌集の読み易き活字を先ずは驚き喜ぶ☆ 田中 祐子 6
合同歌集の活字の大きさは本当に嬉しかった。
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寝つきたる背の赤子をそのままにスクワット十回そうつと試す 髙橋 説子 赤子を背負ったままスクワット運動。作者の動きが眼に浮かぶ。
黐の木を剪定される夫八十五見守りながら庭の草引く 吉田 睦子 3
「剪定される」は「剪定してゐる」ぐらいか。作者の愛情の吐露の歌。
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あぢさゐの鮮やかなる藍色褪せて褪せぬ枝葉の緑際立つ 中村 哲也 2
あぢさいの花と枝葉を観察しながら、両方のよい所を捉えている。
●私の注目歌
や年齢による成長の違いを作者は一瞬にして
四トンの千貫神輿勇壮に氏子多勢に担がれて渡御☆ 永光 徳子 1
神輿の描写がよくなされている。結句は「渡御す」が滑らかである。
夏もなお凛と澄みたる湖を泳ぎ渡れば雑音の消ゆ☆ ブレイクあずさ 5
水温の低い綺麗な湖を泳ぎ、無念夢想の境地を味わっておられる。
確かな視点で描いていると思う。
(桜井美保子)
身丈より長い網持ちトンボ捕り孫は三歳
群れ集う雀せわしく降下して陸稲に沈み一気に飛び立つ☆ 乾 義江 よく観察がされ、群れ飛ぶ雀の描写に勢いがある。
している様が目に浮かびます。最近は戸外で
とても楽しい歌だと思いました。三歳のお孫
夜おそく皮を残して西瓜食う菜園を荒らす何か来ている☆ 松中 賀代 9
狸?ハクビシン?「菜園荒らす足跡はなに」と疑問を投げかけても。
らっしゃるのですね。 (飯嶋久子)
元気に遊ぶ子供の姿をあまり見かけなくなり
さんが長い柄の網をふりまわしてトンボ捕り
夏至となり昼の盛りを過ぎて尚まぶしさ増して夏は来たりぬ☆ 山口めぐみ 7
夏がいよいよという様子がよく出ているが、夏の重複が気になる。
ま し た。 ま だ お 若 い 元 気 な お ば あ さ ま で い
あ、 逃 げ ら れ ち ゃ っ た ん だ。「 ト ン ボ に 負
けた」というセンテンスがピリッと利いて、
トンボに負けた 小林勝子
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一尺ほど伸びたる雑草を刈り行けば畑の地肌見えきてほつとす 兼目 久 4
夏の暑い中草刈りをしている様子がよく出ている。冷たい麦茶でも。
選ばれし子だと娘は言いながらお腹をさすり対面を待つ☆ 野崎 礼子 選ばれしのしは過去回想の助動詞、ここは「選ばれたる」としたい。
感じ取っている。特に下句の表現が独特で素
つむじ風伸びし穂波を吹き寄せて夏の西日に白く輝く☆ 木村 宏 「伸びし穂波を」は今見ている状態なので、「たる」がよいと思う。
晴らしい。心温まる場面を甘くなりすぎず、
手と手を触れ合う時、三人のお孫さんの個性
面を明るく温かく捉えている。ハイタッチで
遊びに来てくれたお孫さん達が帰る時は、
ちょっと寂しい気持があると思うが、その場
響き違へり 有泉泰子
帰り行く孫との習ひハイタッチ三人三様
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うす暗き朝しとしとと降る雨の庭に秋海棠の花咲き初むる☆ 伊澤 直子 8
雨降る庭に秋海棠の花が咲き出す。声調よく落ち着いた心境が伺える。
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会えずともあなたの教え思い出し身を守る術気付かされおり☆ 川上美智子 1
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会えなくなった方への感謝の気持ちが溢れている。
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●私の注目歌
今年の真夏の暑さは尋常ではない位に暑く
てつらかった。外に出ると焼けつくような強
出産の間近な山羊の腹に触れ子は﹁動いた!﹂と目を丸くする 大滝 詔子 大自然の中で子育てをしているおおらかさが、短歌にも感じられる。
孫連れて娘が来るといふ久々に網戸洗へば小き虹立つ 大久保修司 9
孫子が来るという喜びに弾んでいる作者の心の様子が感じられる。
という言葉の響きも素敵である。
(永野雅子)
夫は今隣でビールうまそうに私はそうめ
山肌も木々の緑に覆われて三毳の峰も夏山となる☆ 高松 ヒサ 6
緑に覆われた夏山を淡々と描写されてどっしりとしたものを感じる。
ている。倖せは見ようによって身のまわりに
掌より掌へ螢火移す母と子の幾たび愛の往き来せし夜よ☆ 冨田眞紀恵 9 昔を懐かしんでおられるのか。母と子の情景を美しく捉えた。
三人で囲む食卓色どりよく孫の笑顔に品数ふえる☆ 廣野 恵子 0
「色どりよく」「品数ふえる」のイメージの重なりを工夫したい。
コーヒーはホットと常に言う夫なれど今年の夏は朝からアイスコーヒー☆本山恵子 1
猛暑でしたね。「なれどこの夏は…」とすると語調が整う。
通院に歌会買物頼りゐる夫の健康ひたすら願ふ 西谷 純子 2
買物と頼りゐる…と「と」を入れたらと意見が出た幸せな歌。
事に生きていきたい。 (田島畊治)
をもう一度見直し意義あるものとし一日を大
いくらでもある。それが見つけられないだけ
です。私の妻は病んでいますが生活のあり様
普通の家庭で日常見られる風景であるがこ
うしてまとめられると深みのある短歌となっ
ん一日が終わる 川俣美治子
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胸深く響く言葉を携えたる一人の歌人と古書店に出会う☆ 高松美智子 5
気になる歌集にひょっこり出会うのは生活に歌が密着している証拠。
積極的平和とう戦争体験なき為政者が持論で徹す安保法案☆ 三村芙美代 7
安保法案を詠んでおられる。戦争体験のある者の使命を感じる。
い日差し。そんな時、雨が降ったら、気持ち
帰り行く孫との習ひハイタッチ三人三様響き違へり 有泉 泰子 一人一人の孫を見ている温かさと、作者自身の若さ明るさを感じる。
く猛暑の日盛り 本郷歌子
蝉時雨止みてしばしの静寂に汗も引きゆ
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良く汗が引くなと素直に納得した。「日盛り」
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明日からは我家の暑中休暇にてプランを組まぬ気儘が嬉し☆ 永田 夫佐 7
主婦のお立場で、気遣いの多い方で、ほっとした様子が感じられる。
支笏湖のかぎろひ見ゆと父の言ふ視力失せるも湖畔にあれば 高田 光 父上を湖畔に誘い五官に蘇る喜びを作者もともに喜んでいる。
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身丈より長い網持ちトンボ捕り孫は三歳トンボに負けた☆ 小林 勝子 5
「トンボ捕る孫は三歳」としたい。結句が面白い。
蝉時雨止みてしばしの静寂に汗も引きゆく猛暑の日盛り☆ 本郷 歌子 9
一瞬の静けさを捉えて共感を呼ぶ。「猛暑の日盛り」が少し重い。
しっかりと網戸に巻きひげからませて朝顔・ゴーヤ赤・白・黄色☆ 河津 和子 2
●私の注目歌
五歳児のわれは空襲サイレンに摘みしホ
オズキ捨てて走りき 吉田綾子
七十年以上昔の戦争時の体験を回想しての
短歌ですが、暗さ、悲惨さを言わず、事実だ
は幼い子供の夢のある玩具だった。その宝物
けを言って十分当時の状況を表現されて佳い
泰山木白い大きい花咲かせ甘い香りの道に漂よう☆ 卯嶋 貴子 2
送り仮名、正しくは「漂う」。香が届きにくい泰山木の幸運な歌。
年経ても「あの時のホオズキ惜しかった」と
夫は今隣でビールうまそうに私はそうめん一日が終わる☆ 川俣美治子 7
予期せざる吾難病に立ち向う己の力と奇
す。 (酒向陸江)
記憶されている童心がさらに素敵だと思いま
を捨てて迄逃げなければならない現実。七十
歌と思いました。物質の少い戦時中ホオズキ
歯の治療おえたる舅の手を取りて歩めば娘さんかと問わる☆ 江波戸愛子 4
躊躇なく舅の手を取れるのは余所行きでなく日常だから。
下句が子供っぽい表現になったのが惜しい。
101
ずゆったりと養生してください。(大滝詔子)
る姿勢が伝わってくる。お大事にそして焦ら
向かう決心をした。この一首から作者の生き
力を信じて、難病と言われる病に毅然と立ち
になりがちだが、作者は自分自身の内にある
ろうか。気力の落ちているときは誰でも弱気
い高熱に不安な日々を過ごされたのではなか
突 然 の 病 に 入 院 を 余 儀 な く さ れ た 作 者。
様々な検査を受けながらも、原因の分からな
跡を信じて 酒向陸江
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「うまそうに夫は隣でビールのみ…」では?。
京の旅逝く夏の日の山里にひつそりと立つ陽明文庫 星 敬子 1
仁和寺近くの陽明文庫はお公家さんの資料館。逝くは「ゆく」に。
新築の家に住みたる礼言いて義母は逝きたり半世紀まえ☆ 髙橋 耀子 5
若夫婦が建てた家に感謝して共に住んだお義母様を偲ぶ心が伝わる。
解釈に平和のすがた瓦解され集団自衛の﹁平和﹂踊りぬ 山口 嵩 勇気ある政策批判の歌。会員に刺激を与え物議を醸す歌は大歓迎。
五歳児のわれは空襲サイレンに摘みしホオズキ捨てて走りき☆ 吉田 綾子 せっかく摘んだ大切なホオズキ。それ処ではない程の空襲の恐怖。
ぐづる子の手を引き歩むは父親か覗き込みては﹁がんばれ﹂と言ふ 鈴木やよい 若い父親であろうか。疲れぐずる子を励ます優しく感心な父。
市の花火の片付けを手伝ってお駄賃にパンを貰う子供達。元気な声が聞こえるようだ。
賑やかにパンを貰う子供達市民花火の片付け終えて☆ 山田 和子 3
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小雀とあそぶは楽し口笛を吹けばキチキチ答へてくれる 天野 克彦 9
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小雀との交流を楽しむ作者。キチキチと聞きなすのが個性的。
●私の注目歌
ひとすぢの山道たどり赤谷へトンネルぬければ昭和にかへる 美千代 3
山の一本道を上りトンネルを抜けると昭和の街並がそこに。
日焼けを避けんと身支度を整えて、公園管理
ご苦労さま。例年より高温続きのこの夏、
雑草の成長も早かったことでしょう。力を込
梅雨明けて橙々色の秋茜稲田の面をすれすれに飛ぶ 池田 久代 7
下の句の写実が適確で秋茜の飛ぶ様子が目に浮かぶ。橙々色は言わなくていいのでは。
週一の公園管理のボランティア雑草と格闘の夏が過ぎゆく 穂積 千代 初句は週に一度と。雑草取りのボランティアに励む充実のひと夏。
のいろんな作業、きつかったことでしょう。
れ ま す。 春 夏 秋 冬、 週 一 続 く こ の 奉 仕 活 動。
ありがとう!ご苦労さま。 (飯塚澄子)
掘りあげたジャガイモ洗う何にしよう煮
にも前向きの姿勢で対処しているであろう心
掘り上げたジャガイモ洗う何にしよう煮物にサラダ次つぎ浮かぶ☆ 正田フミヱ 5
ジャガイモを掘ってすぐ料理にできる恵まれた環境。生の歓び。
14
九十歳もう過ぎたりと疎開時の友の電話は百まで頑張らう 池亀 節子 6
疎開時の友は辛さを共有した生涯の友。どうぞ頑張って下さい。
第三句、字余りですが、何と無く気に入り
ました。 (山口 嵩)
の充実が肝要なのかもしれません。
身の若若しさを詠歌から感じ取れました。高
わが一世を充分に生きた証とて歌集桃苑世に残すなり 岩上榮美子 懸命に生きてきた証としての歌集。そのような歌集をあみたい。
齢化社会においては、肉体以上に精神的志向
家庭菜園での収穫の喜びが素直に表現され
語調もよく明るく楽しい歌と思います。何事
物にサラダ次つぎ浮かぶ 正田フミエ
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伝ふるべき戦争の頁は書けぬままけふの散歩路に精霊棚を見る 関口 正道 8
戦争の記録を書き残そうとする作者。決意を新たにしている。
どこまでも青く澄みたる海の底波紋様の砂丘が広がる☆ 大塚 雅子 4
読者にスキューバダイビングとわかるような描写が必要か。
11
め て 抜 く。 腰 を 曲 げ て、 或 い は し ゃ が ん で、
二百名山に登り始めたる陽希さんわが楽しみを作りくださる 近藤未希子 4
二百名山を登り始めた友から話を聞かせてもらえる楽しみ。
闘の夏が過ぎゆく 穂積千代
週一の公園管理のボランティア雑草と格
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「雑草と格闘」の言葉がよく情景を伝えてく
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かくれんぼしてゐる夢に友の名を呼べど応へぬ不安に目覚む 大塚 亮子 9
作者の本心、不安が明け方の夢にあらわれた。新しさのある歌。
予期せざる吾難病に立ち向う己の力と奇跡を信じて☆ 酒向 陸江 難病におかされた作者の力強さ決意が、一首全体に立ちのぼる。
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編 集
後 記
れるようになってから久しい。好
詠草も、読み物としての寸評を入
ご交流のあった方は多かろう。広
予定している。締切は二月十五日。 み取れる文字を書くこと、そして
▽田中國男さん追悼号を四月号に
た。沢山の方のお力添えを頂いた。 来ないものかと、検討している。
銘じている。誰が見ても正確に読
れてきた言葉である。今でも肝に
もう一度確認すること、を大切に
評なので今後も継続する方針だ
人 』 が、実はこの頁のプリプレスデー
く追悼文を募る。 (大山敏夫) したいと考えている、大事な自分
▽ 新 発 行 所 で の 校 正 も 二 度 目 に の歌を送り出す前に。(小林芳枝)
▽ 昨 年、 合 同 歌 集『 冬 雷 の
なった。先月は、森藤さんと二人
赤字の部分を直ぐに訂正して戴
で伺ったが今月は桜井さんが加わ 1月号 頁 行目 り 編 集 長 と 四 人 の 作 業 と な っ た。 スクラス→スクラム
〃 頁 行目
▽誤植訂正
の作品を対象とした二つの賞が設
なって仕事が遅くなった。誤植な
タ制作には手間がかかる。力技で
定され、互選賞を江波戸愛子さん、 や っ て い る が、 編 集 室 も 高 齢 と
どがあったらご容赦下されたし。
木島茂夫賞を高松美智子さんが受
賞されました。広報では受賞決定
短歌」は本号
回をもって終了する。八年余
り一度の休載もなく、月々の鋭く
赤羽さんにデータを送り、パソコ
の
▽コラム「カナダ
品の作者三名の選出、感想などを
且つ視野の広い取材による筆致に
から寄贈を受ける誌数も増えて来
という連絡が入った。入会後、あっ
い仕事があって、作歌を休みたい
も今優先してやらなければならな
早く集中的に多くの目で確認でき
とりがない。郵送するよりずっと
ばならない為にじっくりと見るゆ
校正は短い時間で終わらせなけれ
ができると期待している。雑誌の
ン上での確認もして頂いた。
ご回答いただきましてありがとう
▽複数の目で見ることによって見
た。久しぶりに拝見する雑誌も少
という間に個性を発揮し、長足の
ることは有難い。
→「みいんみいん」と
▽寄附御礼
矢野 操・吉田睦子
*お気軽にご参加下さい。
逃しなどを大幅に少なくすること
なくないが、発行者が変わってい
進歩を遂げつつある作家が、熟考
▽「原稿の文字は達筆でなくてい
*ゆりかもめ「 豊洲 」駅前
れた。大滝詔子氏には、どうして
るのが殆どであった。
した上での決断なので、今後のご
い。 楷 書 で き ち ん と 書 く よ う に 」
「 豊洲シビックセンター
8階 」です。
までの経緯について纏めてみまし
12
午後1時~5時まで
た。ご参加の皆様には感動した作
11
き、プリントして確認できるため、 揺風→揺する風
スムーズに仕事が運ぶ。その他に、 〃 〃 行目 「みいんみいん」
53
(出席者の誌上掲載作品を批評)
ございました。 (桜井美保子) は魅了された。そこに巧みに短歌
▽発行所を引継いでふた月、外部 を織り込んで行く手腕にも驚かさ
▽本月より左記の方の作品を「冬
活躍を祈りたい。編集室では、こ
雷集」欄に掲載する。
59
12
2月 14 日 ㈰ 第1研修室
to
の個性的なコラムを、コンパクト
堀口寬子氏(昭和 年入会)
三木一徳氏(昭和 年入会)
冬雷本部例会のご案内
91
若い頃から木島先生に厳しく言わ
天野克彦氏(平成 年入会)
▽本号は大会の特集記事となっ
編集後記
113
に纏めた「冬雷文庫」特別版が出
12 57 37
≲冬雷規定・掲載用≳
り執行する。
≲投稿規定≳
一、歌稿は月一回未発表十首まで投稿できる。
一、本会は冬雷短歌会と称し昭和三十七年四
月一日創立した。(代表は大山敏夫)
一、事務局は「東京都葛飾区白鳥四の十五の
原稿用紙はB5判二百字詰めタテ型を使
担当選者は原則として左記。
再入会の方は「作品三欄」の所属とする。
切りは十五日、発表は翌々月号。新会員、
が二枚以上になる時は右肩を綴じる。締
作品欄担当選者宛に直送する。原稿用紙
用し、何月号、所属作品欄を明記して各
九の四〇九 小林方」に置き、責任者小
林芳枝とする。(事務局は副代表を兼務)
一、短歌を通して会員相互の親睦を深め、短
歌の道の向上をはかると共に地域社会の
文化の発展に寄与する事を目的とする。
一、会費を納入すれば誰でも会員になれる。
一、長年選者等を務め著しい功績のある会員
作品一欄担当 大山敏夫
作品二欄担当 小林芳枝
一、Eメールによる投稿は作品一欄及び二欄
頒 価 500 円
ホームページ http://www.tourai.jp を名誉会員とする事がある。
一、会員は本会主催の諸会合に参加出来る。
作品三欄担当 川又幸子 一、表記は自由とするが、新仮名希望者は氏
名の下に☆印を記入する。 一、無料で添削に応じる。一通を返信用とし
て必ず同じ歌稿を二通、及び返信先を表
記した封筒に切手を貼り同封する。一週
間以内に戻すことに努めている。添削は
入会後五年程度を目処とする。
一、事情があって担当選者以外に歌稿を送る
にて左記で対応する。なお、三欄所属の
方は実際の締切日より早めに投函する。
≲Eメールでの投稿案内≳
千円
A 普通会員(作品三欄所属) 方のEメール希望者も、次のどちらかの
データ制作 冬 雷 編 集 室 印刷・製本 ㈱ ローヤル企画 発 行 所 冬 雷 短 歌 会
350-1142 川越市藤間 540- 2-207
電話 049-247-1789 事 務 局 125-0063 葛飾区白鳥 4-15-9-409
振替 00140-8-92027
一、月刊誌「冬雷」を発行する。会員は「冬雷」
に作品および文章を投稿できる。ただし
取捨は編集部一任とする「冬雷」の発行
所を「川越市藤間五四〇の二の二〇七」
とし、編集責任者を大山敏夫とする。
一、編集委員若干名を選出して、合議によっ
て「冬雷」の制作や会の運営に当る。
一、会費は月額(購読料を含む)次の通りと
し、六か月以上前納とする。ただし途中
退会された場合の会費は返金しない。
B 作品二欄所属会員 千二百円
*会費は原則として振替にて納入する事。
C 作品一欄所属会員 千五百円
〉
[email protected][email protected]
選者宛に送る。
大山敏夫〈
小林芳枝〈
D 維持会員(二部購入分含む)二千円
E 購読会員 五百円
一、この会則は、平成二十七年十二月一日よ
《選者住所》
大山敏夫 350-1142 川越市藤間 540-2-207 TEL 090-2565-2263
川又幸子 135-0061 江東区豊洲 5-3-5-417 TEL 03-3536-0321
小林芳枝 125-0063 葛飾区白鳥 4-15-9-409 TEL 03-3604-3655 2016 年2月1日発行
編集発行人 大 山 敏 夫