二〇一六年三月一日発行(毎月一回一日発行) 第五十五巻第三号 (通巻六四九号) 2016 年・ 3 月号 冬雷の表紙画をたどる 16 (昭和 46 年) 亜伊茂清の書き下ろし。 (昭和 年)……………………表 三月集……………………………………高松美智子他… 作品一……………………………………橋本佳代子他… 作品二………………………………………橘美千代他… 一月号十首選……………………………昌三・説子・克彦… 作品三………………………………………池田久代他… 『四斗樽』以後の土屋文明の歌⑸ ………………大山敏夫… 一月号冬雷集評……………………………………中村哲也… 一月集評……………………………………………小林芳枝… それがあたかも翼のように広がって、駆け上がろうとす 構えの中から、凛々しき騎士がみごとなマントを翻し、 或は小野田直武作の『解体新書」扉絵のような大きな門 一月集十首選………………………………………赤羽佳年… 詩歌の紹介 〈『故郷の道』より〉…………………立谷正男… 一月号作品二評………………………赤羽佳年・中村晴美… 一月号作品一評……………………冨田眞紀恵・嶋田正之… 今月の画像…………………………………………関口正道… る馬は、ペガサスにも見える。騎士が踏みつけているの 一月号作品三評……………………水谷慶一朗・関口正道… 装飾柱に重なるように、和風寺院造りの柱が一つ立つ。 これが何を訴えるものか・・・感じ取るより他は無い。 このあたりになると、雷神も完全にどこかに去ってしま い、本誌の伝統的短歌の内容と表紙画が、著しくアンバ ランスとなってゆく。 24 表紙絵《浅間嶺》嶋田正之 / 作品欄写真 関口正道 / 題字 田口白汀 54 53 53 40 24 24 15 14 13 12 56 42 26 16 1 二 三月号 目次 冬雷の表紙画をたどる 46 冬雷集………………………………………川又幸子他… 16 は醜く大口をあけて叫び、歪み潰れる奇妙な顔。 背景アミの部分は明るいコバルトブルーである。古代 ギリシャのイオニア式、又はコリント式装飾柱のような、 冬 雷 集 冬雷集 東京 川 又 幸 子 花小諸まだら模様のつばき咲きあかるいぼかしの空が美し 金曜ごとに花を届けに来る花や小僧の頃からなじみの青年 歩きづらさは靴のせゐ路面のせゐと口にしし同級の友も逝きてしまひぬ おとろへてゆく記録してゆく如くわが衰へはおのれに見ゆる 電子辞書一日見えず頼るものあらざるものの大きななか 数ふれば九十過ぎむとする吾を痛める残り歯の病なし 百歳近く凡そ元気に生きて来て人に語らふほどのことなし 家の中たどりたどりてトイレに行くひそかさ誰に知られずとよし まれまれにわれをおそへるこの睡魔逃げないうちに灯りを消さう 整ふが議論といふか反対かおのれ風なる頭に迷ふ 東京 小 林 芳 枝 発行所たりし住所に線を引くさびしき作業粛粛とする 筑波エクスプレス線停まるやうになり変はりつつあるか八潮駅まへ がらんだうの駅構内に運びきて百八円ケーキ売る人のあり どの町につづく道路か新しき介護施設のまへの工事は 横浜市中区 日本郵船歴史博物館 1 訪ぬるは二度目なれども友のゐる施設の見えて足の早まる 細き枝数本伸ばしゐるさくら冬の芝生にすつくりと立つ 駅前広場となりて賑はふ日のあらむ芝生の中にさくら育ちて 冬の芝踏みつつくれば水飲み場の蛇口するどく光を放つ 掻揚げをひとつ乗せたる温かき蕎麦を啜りぬ言葉少なく 車椅子押して見に来む芝萌えて若きさくらに花咲きたらば 神奈川 浦 山 きみ子 向かひ家のトタン屋根より消えのこる雪さむざむと雫を散らす 崖の上に伸び立つ松の高枝の伐られて冬空支ふるに似る 薄紅の山茶花今年はよく咲きて路に花びらしきりに零す 友の死を告げてこの朝出勤の娘は喪服の包み抱きゆく しんしんと背後に迫る寒さあり皆出払ひて一人坐すとき 息子一家めつたに帰り来ずなりて二人の孫ら成長したり 家に籠る幾日を経て久々に娘と大型スーパーのぞく 本州のはたでの浜に夕陽の光鋭く受けてたたずむ 海べりの林を縫へる単線のレール赤さび帯びて続けり 近隣をゆるがして崖の上の松きるチエンソーの耐へがたき音 東京 近 藤 未希子 東京の初霜は一月に入つてからわが家は十一月の末より大霜 その日から毎日つづく霜柱敷物を置く通り道ボコボコ 2 冬 雷 集 赤松は一年かかりて完全に枯れてしまへり彼のくねくねの松 枯れ松は根本から切られ中心に黒く大きな穴がありたり 黒松の二本は形の出来をりて葉をむしること多くあるらし 川向かうの道は車の通る道ダンプカー朝夕通ふ挨拶交す 冬の間は凍てつける道なれば通ふ人凡そ決まりてゆるゆる走る 大阪 水 谷 慶一朗 水べより吹く風さむく梅林の冬芽の枝を鳴らして止まず 暖冬の季ありがたく歳晩の梅林来れば枝垂れ梅咲く 一葉も残すことなく葉を落し樽柿は枝を撓まし熟るる 二十個ほど浴槽に浮かべ冬至湯の柚香に眠気きざしつつ浸る 紐の如く路上に伸びたる大蚯蚓犬に嗅がれてによろによろ動く 近隣の風来猫がみづからの股間を舐めて陽だまりにゐる なはばりを睥睨しつつゆつくりと大きふぐりの風来猫ゆく ぶざまなる歌と思へど詠みつづけ真のこころ披歴せむとす 係累の交はりを嘆く人多くむしろ独りを清しむ吾は 国民を番号管理する制度に異論さまざま申請書類届く 東京 白 川 道 子 ビル陰となりて侘びしき庭なれど千両万両赤らみてくる たちまちに六十年と集ひたりニックネームで呼び合ふ仲間 夕暮れの晩秋の空に浮かびくる夢みるやうなモネの「睡蓮」 3 尋ねたきモネの画ける「薔薇の小道」烈しき色に染められながら 若き日につけたる傷の疼きだす静かに雨の降りくる夜に 執拗に連れ戻さうとする吾の手をふり解く夫夢に覚む また少し背の縮みたるこの日頃つま先立ちにキャベツを刻む 神奈川 桜 井 美保子 三が日あけたる駅に作業員エスカレーターの手摺を拭ふ 減塩の梅干いかがとダイレクトメールが届く郵便局より 靴紐がゆるんでゐます危ないです店の人のこゑ売場にひびく スーパーに買ひたるトマトことのほか濃き赤にして皮まで甘し 点滴を受けゐる母の表情の和らぎくるまで寄りて話せり 外出のあるたび調べる時刻表磯子・横浜・池袋駅 横浜に電車止ればどつと降り同じくらゐまた乗り込みて来ぬ 向ひの人電車の床に落したり新書版『光源氏の一生』 福島 松 原 節 子 やさしいとお褒めくださる一言に晴れ晴れと暮れの日々をすごしぬ 箱買ひの傷林檎の傷この年の異常気象の無残見せをり 二ヶ月も早く葉陰にふくらめる蕾つぎつぎクリスマスローズ リラックスすれば冷え性治るといふ目を閉ぢ呼吸を整へてゐる 崩れたる本の中より料理本みつかり今夜の献立さがす 大根を斜めに切るといふ「膾切り」これなら母も食べられるだらう 4 冬 雷 集 日めくりのカレンダー今年は頂けぬ温泉卵の作業所閉ぢて 手作りの人形次つぎ玄関の棚を飾るも母の楽しみ 愛知 澤 木 洋 子 腹丸く短かき足の木曽馬はうふふたれかに似ると親しも 木曽馬の水桶素手に洗ひをり正月なんぞ若者ひとり 「くるま屋」にかの日のやうに蕎麦食むと朝茶を供ふ写真の友へ ベトナムの留学生が不思議がる日本人僧侶の妻帯するを 暖冬の身体かろく年末の大掃除手順捗る嬉し この先に必要だらうか手を通さず仕舞ひの和服雨コート悩まし 老ゆるまで伏見桃山に住む幸をふる里の友ら気付きてをらず 勢ひのいつしか失せて丸味おぶ前ゆく夫の背を淋しむ 初詣でに何願ふらむ直立の夫は長く頭を上げず 茨城 佐 野 智恵子 内科医の予約時間に行きみれば待つ人多く疲れおぼゆる 五時前に外はすつかり暗くなり歩く怖さを強く感じぬ 早々と目覚めてカーテン開け見れば金星の光すぐ近くあり 土浦に住みて初めて星空を見られたうれしさ一人じめする どんな事話題にすれば友を得て笑ひ合つたり出来るのかしら ケアの人一歳児つれフロントに来てるを見つけかけ寄りて行く 二三歩で転びすぐ起きまた転び身軽に遊ぶを笑ひてながむ 5 広々とオレンジ色に空を染め日の昇るさま眺め戸を開く 早朝に見る筑波嶺は緑なく薄茶に見えて季節感あり 見たことのない鉢植がドンとして職員に聞くキャット・テールと 東京 森 藤 ふみ 自転車に溜まる埃をぬぐひとり点検のため店にもちこむ 引き渡す自転車友のくるまでを少し乗りゐて惜しき気のする 自転車に乗らずともバスをいとはずに待ちて気軽に何処にも行く 留守中に配達されたるマイナンバー再配達は二日後以降 ごみ置場のドアの鍵の外されて重き開け閉め楽になりたり 煮物せる鍋の焦げつき手強くて重曹をふり年越しさせる 歳晩のゆふぐれ街に出かける子ケーキを頼めばワインも買ひ来 年越し蕎麦食べつつ娘のぼそり言ふ四月で店が閉店になる 富山 冨 田 眞紀恵 年末のこの忙しさ後幾度残りゐるかなこのわたくしに 十五段上り二階へ来しわれは用を忘れて冬空見上ぐ 濡れ髪をぬぐはず振りをりとほい日の少女に戻れる錯覚もちて 一年に十日余ばかり帰り来る息子なれども我が力なり わたくしに過ぎた時間はいま何処でどうなつてゐるのか遇ひたいな 過ぎし日のをりをり思ふ夜もありてわれの齢のいよいよ深む 梅の花ほころびはじめて人間も花もあわただしく年を逝かしむ 6 冬 雷 集 昭和十五年 東京 櫻 井 一 江 立候補に終りし晴海は時を経て四年後に迫る五輪選手村 一度目の東京五輪の候補地の晴海は戦争にて実現不可に 万博を機に着工されし勝鬨橋の開通なるは昭和十五年 万博も東京五輪も戦争ゆゑに昭和十五年の晴海は成らず 万博の事務局棟はそのままに陸軍病院となりし晴海の地 見本市モーターショウの開催時つねに続きし晴海通りの渋滞 教習所を出でて路上の練習に晴海界隈のめぐり走りき 保育園の建替へ時期の仮園舎晴海になりて児らの通ひき 晴海まで通ふ道端に児の好む摘み草できる場の多かりき 東京 池 亀 節 子 正月にわが家の南天手折りたり亡夫に供ふ亡夫の植ゑしを 祝日には通りの向かうに一軒のみ日の丸の旗掲ぐる家あり 浅草はどこ歩けども昭和時代の雰囲気かもす寺を詣でる 鳩あゆむ浅草寺境内の両端は軒並おみくじお守りの店 電車にゆるる向ひの座席の男の子スマホ操るその小さき手 いつ見ても五差路にぎはふコンビニは夜通し客の絶ゆることなし 濯ぎもの干しつつ気づく眼前の椿に幾つ紅の花 茨城 鮎 沢 喜 代 久びさに生家へむかふ田の道に幼きころの自分が見える 7 田をぬけて林にはひる坂道をのぼれば日なたに猫が寝てゐる 孫達が登校したる昼さがりひとりぽつんと短歌をつくる 霜解けの畑の土をかきわけて農夫がひとり葱を抜きをり 新道をつくるがために杉林切り倒されて遠き空見ゆ 一月 東京 天 野 克 彦 わが机上片づかぬまま夜の更けて過ぎゆく年の除夜の鐘聴く かみもり あらたまのぬばたまの夜のやうやくに明けむと白む窓を開きぬ 神風の伊勢に受けきし神護の札に頭をさぐ習はしなれば 天照すすめらみ神に拍手を年の始めのけぢめと打ちぬ 年祝ふ家族あらねど丸餅を白味噌仕立てに塗碗に盛る ななくさ わが部屋に飾りてこころ改まる青梅御嶽に破魔矢受けきて 七種のあいろもわかぬ草々を箸によりわけ白粥を食ぶ 生きることやうやく楽しと思ふまで齢重ねて山ちかく住む 岡山 三 木 一 徳 天候の異変を受けてかつばくろは秋になりても巣づくり励む 枯葉舞ふ季節となれど暖かき日々の続きて木枯し吹かず 庭の木の剪定終へれば新しき年を迎へる準備は終れり マフラーもコートもいらぬ三箇日暖冬の日本良くも悪しきも 横文字の多い紅白見るまいと思へどいつしかチャンネルは「1」 元旦の分厚い新聞紙面にはいづれも新年の抱負語れり 8 冬 雷 集 正月にふさはしく舞ふ丹頂は優雅に四羽が後楽園上空 時代の危機 埼玉 嶋 田 正 之 歌人への時代の危機の呼びかけに馳せ参じたる早稲田講堂 目算に四百人の歌人寄るシンポジウムはもの静かなり 六十年安保の頃と明らかに異なるところは目立つ白髪 左とか右とか議論せる時間我らにはなく歌に詠むべし 早稲田より残響胸に戻り聞く平良とみ子の死亡のニュース 庭隅の小さき物置片付けは身辺整理を兼ねる想ひに 箱入りの陶器や漆の食器在り包む新聞昭和六年 大正のにほひを纏ふ染付の十組揃ひの小鉢や小皿 言祝に使ひしものか薄紙に包まれ蓋付き朱漆の椀 日本の小さき文化を捨てず置く使ふあてなど更更なくも 東京 赤 間 洋 子 広き土地畑もできると買ひたるが夫亡き後我が手に余る 家二軒持堪へるは難くなり手放す決心子も反対はせず 実の成る木数多植ゑたる夫なりブルーベリーはジャムに仕上げる 手作りのジャムを待ちゐる友が居て喜ぶ声に夫は満足 高き脚立徐々に移動し収穫すキウイフルーツの豊作恨めしきほど 柚子の実の稔りを知らず夫逝き近頃豊作友らに配る 栗金団我が家の栗で作るのは最後と思ひ心込めて作る 9 書庫一つ溢れるほどの書籍あり惜しきものあれどゴミと化すなり 捨て難きもの前にして決断す我が亡き後のことを思ひて 栃木 兼 目 久 骨格を作るが大事と諭されて空海の書を習ひし二十代 こんなのしか書けなかつたのかと出品する書作を壁に貼りて見つむる 永年にたまりたる資料の書籍なり本棚に入らず部屋に重なる 中三のひよろひよろしたる女孫七度目に柔道初段に合格 わが名字を十年間も間違へて「見目」と印字の先輩の賀状は 今年にて賀状を出すは失礼すと添へ書きにある先輩の賀状 一月四日けふから始動と妻言ひてそそくさとしてフォークダンスに行く 屹立する大理石の岩をくりぬきて道を作りたるタロコ峡谷 (台湾) 山間の急な斜面に店々が立ち並び立つ九份の街 蔓の如き気根が地面すれすれに垂れ下がりゐるガジュマルの木 真日の下 東京 赤 羽 佳 年 朝の野の道にあらくさ花咲かせ散歩の足をしばしばとどむ 家出でて二千歩の道に穂をゆらしゑのころぐさはゆさゆさとあり 名の覚えなき荒草の広ごれり野の散歩道逸れたるところ 土の道選び歩けば足かろく膝の負担も軽減されむ 真日の下散歩のわれにかがやきて向かうにひかる赤瓦屋根 あかのまんまゆれて刈田の広がれり谷戸につながるひららなる地に 10 冬 雷 集 真日暮れて寒気増しくる散歩道首のタオルは防寒グッズ 窓下のあか山茶花に蜜あさる目白二羽ゐて今日もあたたか 冬日差し深く入りきて思はざるところの塵を浮かびあがらす 日の差せる側の窓辺に置かれたる蝦蛄葉サボテンの反り返る花 千葉 堀 口 寬 子 子と孫が暮らす秋田は今日も雪送つた野菜届く夕方 大腸のカメラ検査は異常なし明日は乳がん検診受ける 七つ若い妹の病状脳にある二つの陰と電話に知りぬ 妹は明るく電話にくり返し淋しき声に病状を言ふ 七十五過ぎたる兄弟六人の食事会には好きな物喰ふ 東京 山 﨑 英 子 ホームのベッドに眠れる友に対き共に歩みし七十年思ふ 年々の友の好みしカレンダー預りゆけば喜びの声あぐ 「百首詠出さう」と思ふと云ふ友に絶対ですよと声高にいふ 足湯すと職員運び来たる器に冷えゐる足をゆつくり浸す 気儘なる暮しに馴れて贅つくし友を思へば楽し想ひ出 人の出入り繁き生活の幾十年友を思へば空しすぎゆき いま一度豊洲の家に笑顔にて訪ぬる吾等を迎へて欲しい この儘に豊洲の家に連れ帰り部屋のベッドに寝かせあげ度し また来ますドア閉ざせば又ひとり孤独の時間の始まりならむ 11 『四斗樽』以後の と き るのが都幾山なので、文明の歌が「都幾の丘」 有三は少し上の二十二歳だった。 貧しき我を助け給ひし人々の後々も手を に見当たらない。 辺にも「槻の丘」と称されるような場所が特 は「つ」と読まず「と」なのだ。慈光寺の周 の丘」に拘ってしまった。「都幾川」の「都」 点では都幾川なので、あえて記した。歌の「槻 きがわ町」となっていたが、文明の作歌の時 幾川村は、玉川村との合併によって以後「と 多い平仮名地名への変更である。たしかに都 じ状況を味わった友らも指折るに足らないほ この年の文明の体験。「お指」の意味を更 に絞ると「親指」を指すらしい。こういう同 もお指折るにも足らず 明治四十二年共に入学共に落第其の在る ということから一連の想いが広がってゆく。 かわからないが、「君」が明治四十二年生れ 来訪をうけた「君」の「父」とは親しかっ たのだろう。歌だけでは「その父」が誰なの 年生れなりといふ その父を談らむとして来し君は明治四十二 首ある。一首目、 る。題名からして過去回想だから「し」も三 昭和四十九年分の最後は「故人茫々」八首、 「文藝春秋」十二月号に掲載されたものであ 「皆がら」は「みなながら・残らずすべて」 の意味。必ずしも全てが以後もずっと栄えた がら栄ゆるや否や 他の二首の「し」はきちんと遣われている。 居る設定であるから「テアル」状態となろう。 来たのは友人の子息であり、現実に目の前に という筋になっている一連であるが、一首 目の「来し」は、わたし的には「×」となる。 わけじゃなくて、ただ腕組するような姿で傍 ただ自分はその恩に報いる何かを特別にした た人達もあった。その人等への感謝の気持。 さと闘っていたころ、いろいろ援助してくれ 「貧」が自分を育てた、と歌うくらいだか らこうした回顧の作品も多くなる。若く貧し とでもあったなら、分り易かったと思う。 細川紙の紙漉きで知られる隣の東秩父村は、 昭和三十一年に大河原村と槻川村が合併して どしか残っていない(或は親指を折るさえで 訳でもあるまい、の気持もある。 こまねきただ思ふのみ 誕生した。細川紙は村を源とする清流槻川の きない)。ずいぶん歳をとったものだという ⑸ 財産に発展したのである。とても近い地点を 感慨が襲う。そして、最近失った大切だった 土屋文明の歌 源とするのが都幾川、そこが分水嶺であるか 一人を思う。 大山 敏夫 の如く槻川と別れ、「ときがわ町」の中程を こ の 場 合 の「 た る 」 は、 意 味 的 に は「 し 」 でもぴったりのところだが、声調上の判断か 慈光寺の所在地は、「都幾川」ではなくて「と きがわ」ですよというご指摘を受けた。最近 流れ、後に二つの川は合流する。わたしは最 稀に語り喜びあひし山本有三亡くして今 明治四十二年は文明一九歳にあたり、山本 年も暮れむとするか が勝るという場合も無論あるのだ。 (続) も知れない。声調の上で、「し」より「たる」 忘れざる人々それぞれ栄えたる後々も皆 「たる」が一つある。 観して来たのだと言う思いは、複雑である。 近までこの都幾川と槻川をよく混同した。 さて文明の歌碑の歌だが、「槻の丘」の所 以は特定に至らなかった。慈光寺の奥に潜ま 12 る小学校歌 髙橋 燿子 ☆ とつぷりと暮れたる沖の爪木崎街のネオンは る」四月号ゆったりと読む 斉藤トミ子 ☆ ギター弾く友に合わせてみなが歌う廃校にな は消えず 橋本 文子 高速バスに一人の時間を過しいて「し」と「た ごす静けさ 石田 里美 厳冬と食の乏しさ思はれて後期高齢者に戦後 香り導く 三木 一徳 娘は読書吾は短歌とリビングに秋の夜長を過 ふ甘き香りが 中村 晴美 日暮れたる露地を急げばあちこちで金木犀が 夜半醒めおれば 吉田 綾子 ☆ 初物のりんごでつくるアップルパイ部屋に漂 静かなり 橋本佳代子 樫の実のしきりに落下する音の静寂にひびく やかな午後 堀口 寛子 朝早き狭間の径は車にも人にも会ふなくただ 大粒のブダウ一房分け合ひて夫と食べるおだ 作 品 一 和田 昌三 星剣は 橘 美千代 大山 伊澤 直子 ☆ 刀身に北斗七星うかびたる反りなきかたち七 楽しめの声 髙田 光 天辺に夕日に染まる雲のせて赤き山肌みせる うな付き合い 矢野 操 ☆ 飲むまいと抑へる吾を押しのけていのち短し 日の遥かにて 佐藤 初雄 ☆ カーテンに囲い内側さらさないほたる袋のよ 行けぬこの秋の夫 関口みよ子 ☆ 生きるとは思わざりけり中国の山野征きたる 届く道ゆく 長尾 弘子 ☆ 創展を観てこしわれを待ち待てるいずこへも 由と思う 野崎 礼子 ☆ 大型の機械に刈られたる草のむせかえる香の げて空向く 金野 孝子 しがらみを一つ二つと切り離し私はいつも自 スに気を揉みながら 大滝 詔子 太陽光を確かに受けむと配電盤三十五度に傾 様変りしてゆく日本を眺めをり日々のニュー 作 品 二 髙橋 説子 に乗るごとし 児玉 孝子 ☆ かに聞ゆ 横田 晴美 ☆ 雨の日の八海山のロープウエー霧深くして雲 ちん汁あり 加藤 富子 ☆ 病む他者の心の糧とならんとす子の語る声静 つつ集まりきたり 松本 英夫 紅葉は大地の恵みと人の言う朝の食卓にけん つ 篠本 正 ☆ 森を行くホルンのひびきに鹿たちは小躍りし の小道を 永光 徳子 ☆ 赤い唐辛子を日に干さば赤はさらなる輝き放 淡々と事務的に為す 片本はじめ 柿の木の色づく様を見て思う子等と歩いた山 のさびしさ 川俣美治子 ☆ 保護課とは言へどマニュアル通りにて事を べの寒さつのり来 木村 宏 ☆ 思いきって髪を短くした今日は心軽やか少し さま見とれおり 鵜崎 芳子 ☆ コスモスの薄き花びら陽を透かしあしたゆう 堤にはすすきの群れの連なりて穂先のそよぐ 作 品 三 天野 克彦 一月号 十首選 夜更けも消えず 増澤 幸子 一月号 十首選 13 齧る顎ちから無し 水谷慶一朗 イタリアン料理に添へる日本酒に錫の その作者にもトマトを齧れぬ不満があ な風味にすると云われる錫の効用を狙っ わず、それでいて雑味のない、まろやか イタリア料理に添えられた日本酒。そ の酒器は錫であった。料理の色彩を損な 片口錫の盃 嶋田正之 る。平均以上に保っていても、それなり 日本人の年齢別の歯の本数、八十歳の 平 均 は 8・9 本。 十 九 本 は か な り 優 秀 だ 洗濯機にからだ支へて一吊りの濯物か の不満は、やはりあるものと感じた。 一 月 号 冬 雷 集 中村 哲也 けるやつとの一吊り 川又幸子 折々の歌で自身の足の不調を詠う作者 日常家事も難儀な模様。物干しも例外で はない。その大変さは下句「やつとの一 吊り」の心情吐露に滲み出ている。 く日記。更新の度ごとに思い出の回想と 取り、はたまた秤に掛けたりと生産者と の満足が垣間見える。また、白菜を手に 良い出来栄えの白菜を収穫出来た作者 三句目の断定の助動詞「たり」に、作者 た店の趣向だろう。酒の歌の多い作者の 去年のこと一昨年のこと読み返し三年 事。大いに酔いしれたに違いない。 日記の下段を埋むる 白川道子 ずつしりと大きな白菜実りたり手に取 作者の持つ日記は一ページに三段、三 年 分 を 同 じ 紙 に 書 け る 模 様 だ。 一 昨 年、 り見たり秤にかけたり 兼目 久 持続の喜びがあるように思われる。 であろう。親から授かった「生」を永ら 自身の身体の変化をしみじみ思い見る 作者。若い頃に比べれば誰しも感ずる事 現は、声調または定型への凝縮といった 線」では無く、愛称名の「ひかり」の表 だけでも楽しいようだ。抽象的な「新幹 エリア内のご当地メニューは、見て回る れば、おそらくは人間の夫婦。そう考え との比較であろうか。二羽をつがいと見 注意深く観察していたらしい。結句は何 二羽の鵯が飛び立つ瞬間を目撃した作 者。「目をあはせ」まで見入るとは余程、 昨年の同じ日を思い返しながら綴ってゆ おもてなし小路をゆつくり見て歩く帰 しての喜びに満ち溢れているようだ。 誰もゐぬ午前八時に部屋干しの衣服を らしい。午前八時の静寂の中で衣服を畳 りの「ひかり」の時間を延ばし 目をあはせ同時に飛立つ鵯ふたつ阿吽 畳む七階の部屋 小林芳枝 む作者。結句の空間限定が情緒を増す。 櫻井一江 えての孝行。いつまでも元気で居ていた ると実にユニークな内容と思えた。 嘗て作者の周囲で毎朝繰り広げられた 出掛け間際の家族の喧騒。今はもう無い ちちははに受けたるものの衰ふる身体 だきたいと願うばかり。 点でも、作者の工夫があるように思う。 の息は鳥には顕著 大山敏夫 髪膚疵付けもして 赤羽佳年 「 お も て な し 小 路 」 と は J R 京 都 駅 八 条口にあるレストランエリアの事らしい 辛うじて十九本は自歯なれどトマトを 14 一月集評 日本でも年々派手に仮装するようになっ ている。安易な模倣を批判している。 田 沢 湖 は 奥 羽 山 脈 に あ る カ ル デ ラ 湖、 「手摺」は遊覧船のようにも感じられる され、余韻がある。 に思いを馳せる気持ちを数字と色で表現 が、湖をじっと見入りながらその奥深さ 訓練ホームに励む 高松ヒサ 小林 芳枝 上句の願いが切実。前向きな作者の努 もう少し生きたい思いリハビリに歩行 雑木々の黄のかがやきは太陽のあまね ☆ くひかりに包まれてこそ 天野克彦 ☆ 大根や葉もの野菜に潜みいる青蛙の手 ひんやりとする 松中賀代 野菜を採ろうとした手に飛び乗ってき たのだろうか。ぺたっと冷たい感触を捉 下句の感じ方に発見がある。 戸締りに入る 山口 嵩 赤ではなく「黄」とされた所が作者らしい。 山の端を濃き墨色に縁どりて茜の空も ぬーつと来て壁紙職人黙々と張り替へ うが、直感的表現で違和感は感じない。 どの「手」は正確には「四肢」なのだろ えて小動物を労わる優しさがある。蛙な 八十歳過ぎたる姉の体力の目に見えて 散る前のひと時を美しくかがやく黄葉 力が実るように祈りたい。 に見入る作者の心の内に湧いてくるも 思ふやうに口が開かぬといふ君の怪我 の、それは太陽のひかりへの感謝ではな 轢き逃げに遭ふ悲しき現実 関口正道 かったか。すべての物を広く包み込む日 友の苦しみに対してどうしようもない の ひ か り を 尊 ぶ 気 持 ち が 呟 き と な っ た。 怒りと悲しみが結句に込められている。 落つながき看護に 大塚亮子 帰る寸分の隙なく 大野 茜 た。初句の表現が個性的。 ☆ 寝た切りの友の夫の訃報知る鳥が北へ 悲しみを渡り鳥に託された下句がいい。 次の歌に十一年の看護が続いていると あり、長く続く看護に姉の健康を案じる 気持ちが現れている。大切な人を補助す 明星のもとに蟋蟀鳴きつぎて人は厨に 愛想良くはないが正確に仕事を仕上げ て帰る職人の確実な仕事ぶりに感服され る生活は自分の命を消耗させる過酷な と鳴き渡る朝 三村芙美代 日々でもある。 話しても話さなくてもわだかまる心抱 の落ち着く感じがする。 きを見ているときは何ともいえず快く心 海には不思議な安らぎがある。時には 大きく荒れることもあるがじっと波の動 ☆ 灯りともしぬ 立谷正男 ☆ えて海を見に行く ブレイクあずさ 収穫をどこかに忘れ仮装のみ加速して す水深四〇〇の碧 林美智子 小雨降る田沢湖めぐり手摺より見下ろ かな空気が流れているようである。 宵の明星だろうか。夕飯の支度の為に 厨に灯りがともる、ゆっくりと辺りに温 奇妙なハロウインの列 髙橋説子 もともと十月三十日に収穫を祝い悪霊 を追い払う宗教的な祭りだったそうだが ア メ リ カ な ど で 民 間 行 事 と し て 定 着 し、 15 三月集 重心 栃木 高 松 美智子 へその下に身の芯据えてがっぷりと四つに組み合う横綱相撲 身の芯がへそより上に移りいるわれを悩ます両肩の凝り いつしかに肩の力の抜き方を忘れてしまえり息詰めし日々 この地球ホルモンバランス崩せるか酷暑雪なき北国の冬 前弾きの津軽三味線にスポットライト当たれば唄い手息詰めて立つ わずかなる歩幅の違いが遊歩道歩くふたりの距離を広げる 仕舞い湯の微温きバスタブ時かけて心ほぐしつつストレッチする 心地良きバラの香りすキャンドルの炎見詰めてストレッチする ひとつ吸いふたつ吐ききる感覚を浮かべて深き呼吸を試む い と こ ☆ 埼玉 栗 原 サ ヨ はるばると生き永らへて春五月九十八の誕生日くる 従姉妹百歳国より銀盃いただきて若き日のひささんそのまま元気 体調くづし入院生活つづき居りリハビリのため廊下を歩く 埼玉 小 川 照 子 柚子採りは娘夫婦と決めゐしが今年は息子と二人でとりぬ 大豆の後トラクターにて耕うんす小鳥ら後追ひ虫拾ひゐる 横浜市中区 旧横浜正金銀行本店 16 三 月 集 温暖化で小梅の花が咲き始む正月の活花に梅も活けこむ スケートで世界一となる羽生さんに力をもらひぬ老の躰に 冬至にはゆず湯につかり思ひ出す姑と亡夫の好きだつた風呂 年末に孫ら帰りて賑はひぬ逢へる喜び笑ひのたえず 金粉入りの茶をすすりつつ思ふ事あまた今年も頑張らうと 骨折の車椅子の友に会ひに行く話がはづみ元気で安堵す 東京 荒 木 隆 一 背を屈め仏に願ふこと多く健診のたびに背が屈みゆく 湧きたつは卑猥な腰振り里神楽愛され維持さるこれも一因 家族して回転寿司の抹茶酌み乾杯しをり分相応に 甲子園の経過貼出す銭湯が有馬記念の着順も貼出す 程々に暮の掃除も切上げて紙門松を貼つて完了 夜廻りの拍子木去りて除夜の鐘が鳴り出す前の暫しの静寂 故郷にもお調子者ゐて雪の中晦日一晩鐘の音絶えず 盗み聞きされた電話が拡まりて隠しやうなき入院手術 神奈川 青 木 初 子 鉢中にシランと育ち三年目葉の形よりフリージアと知る 冬枯れのシランの鉢に花の芽を撓ませながらフリージア元気 白米より体に良いと知るなれど玄米飯のハードル高し 白米より歯ごたへの良く玄米よりハードル低し胚芽精米は 17 独り居の友に便利さ教へられ家庭用精米機われも買ひたり 買ひ置きの米を食べ終へ出番きたる家庭用精米機の動き見てゐる 精米機は糠を五分に落としゐて玄米三合を胚芽精米に 買ひ置きの胚芽精米よりふつくらと炊きあがりたり精米したては 茨城 関 口 正 子 クリスマスツリーみたいと幼いふ雪吊りしたる宿の植木を ほの白く暮れゆく空に浮きあがる越後湯沢の幾重なす山 ただ一度会ひたるのみの婿の祖母と永久の別れの新潟は雪 喪主として葬儀に出ると婿の父は介護車に麻痺の身を委ねきぬ 車椅子の喪主は棺に花を入れ母の顔をなづ麻痺のなき手に 甘き香の漂ひ見上げる葉がくれにつつましく枇杷の白き小花が 朝あさに落葉掃きゐる施設長「あと少しです」立木見上げて 一人身の気楽さ侘しさなひまぜて暮れの掃除をぼちぼちこなす 嶋田さん浅間嶺の絵をありがたう心和みて新年迎ふ 越後路 栃木 髙 橋 説 子 霜月の雨を弾きてぬらぬらと油田の跡の黒き固まり 初雪になるかもしれぬ雨の中弥彦神社の鳥居を目指す 寒い時に寒い所へ行くなんて後ぢやできぬと雨の新潟 瓢湖より群れ飛びきたる白鳥か見はるかす田のところどころに 見るものは何も無いですとバスガイド時季違へたる吾らが悪い 18 三 月 集 紅葉も菊も雪さへ無かつたねと思ひ出し笑ひの時季はづれ旅 浮く柚子のでこぼことして香を放ち肌に触るれば冷たき一瞬 包丁に体重をかけ慎重にほぼ固まりたる伸し餅を切る 御供へ餅 榊 幣束とり揃へ屋敷内外八か所に捧ぐ ☆ 茨城 沼 尻 操 落葉掃き箒目残る心地よさ金平糖で茶の一服す 幾つもの大き穴掘り葉を埋めし体力のなし穴一つにも 夕食後インフルエンザの注射うけ風呂に入らず早目にやすむ 掃除終へ夕暮の庭を山かがし横切るを待てば虫の音侘し 数年間一度も意識戻らずに逝きしとぞ家族は如何ばかりかと 美しく剪定したる五葉松の上飛ぶ烏さへ美しく見ゆ 竹棒にしつかりからまり咲いてゐた朝顔終りても根を張つてゐる 生きてるのもう沢山と言ひ乍ら歩いて薬もらひ行く媼 埼玉 江波戸 愛 子 何処へでも気軽に一人でゆく娘宿屋を見ているスマートフォンに 土産など買わぬと言いたる娘よりほっけと日本のししゃもが届く 「七日食べたら鏡をごらん」という加護女昆布の粉を食べて七日目 寒き日にちちが大事に使いたるははの臙脂の毛布を掛ける 籠らずに出てきなさいよ楽しめと老人会に誘われている 老人会に誘われちゃったと肩すぼめ言えば「立派な老人だよ」と 19 鮭缶の鮭とキャベツを炒めおりははの作りし味より薄く 味すこし薄いと思えど喜びて食べてくれたり鰤大根を 父さんに食べさせたかった そうだねと会話はいつもちちに傾く 東京 関 口 みよ子 言葉尻重たく沈みぽつねんと明日なき如き夫の痩身 体温を奪い吹き去る寒風が心地よきまでわれ鍛えらる すき焼きの鍋の分布図去年より肉が占めたり夫を祝いて 長男の贈りたる甚平手間なしと夫は着込みて透析にゆく 五十床見渡す室に累累と透析患者が繋がれており 皿広くままごとのごとき夫の膳かまぼこ一切れ黒豆五粒 守護神のようにも思うスカイツリーことに夕映金色に照る ☆ スカイツリーが吐き出してくる正月のプレイトナンバーに見る地方色 潮止中学校 東京 髙 田 光 八潮なる地に転居せる歌の師は環境変化に戸惑ひて居り 豊洲から舟に上れば中川のほんの入り口潮の香もせむ 汚れたる川船二艘舫ひたる桟橋低く葦に隠れて 中川を満ち来る潮の到達点潮止中学校の名に残りをり がけ 葛飾区のとなりの足立区埼玉の南といへど潮の満ち来る 垳という読めぬ地名に拘れば八潮の歴史僅かに知れり 垳川の埋め立てによる地区の名の「垳」の一部を「青葉」にすると 20 三 月 集 垳という地名は町の歴史ぞと地名存続願ふ人等あり ともかくも潮止の名は消さぬやう住人ならねど直に願ひぬ 栃木 本 郷 歌 子 褐色の三毳の山は静まりて立冬過ぎたる蒼き空に映ゆ 冬枯れの野に朝の日は差して一面の霜輝きており 日溜りにじっと動かぬ天道虫の紅際立てる冬枯れの道 ☆ ☆ グツグツとシロップ湧き出る鍋の中りんごは飴色のジャムになりゆく 初春と言えど大気は凍て付いて夜中の月は白く冴えゆく 蝋梅の香に誘われて大吉のみくじを細き枝に結びたり 澄み渡る正月の空にくっきりと雪抱く富士山小さく見ゆる 佐野には佐野の暮らしがありて馴染みつつ僅かに残る都会への郷愁 花桃を包み込むがに絡まりて蔦の枝先さらに伸びゆく 群馬 山 本 三 男 電線に雀は高く止まりいて冬日さえぎる何ものもなし ハガキ出すつもりで出でて買い物しハガキ出すこと忘れて帰る 音のせぬ無声映画にとまどえど次第に画面に引き込まれいく 近く居るわれに気付かぬヒヨドリか金柑の実をじっと見詰める 難解なテレビの囲碁の解説に疲れいつしか眠気を覚ゆ 朝読みし新聞をまた読み返す夕食出来る時間を待ちて 競輪に負けてとぼとぼ家路つくわが青春はせつなく甘し 21 床に就きわれの一人の考えをうべないながら眠りを待ちぬ はた ☆ 駅伝のランナーを待つ道に見る青き赤城と白き浅間と 岩手 村 上 美 江 年末の風邪の熱なほ治まらず馳走の味もつまらないまま 目に見たる色を感じて食みながら確かにリンゴの摺り下ろしなり 鉤吊し南部鉄瓶下げてみるやはらかきかな座敷の温度 炭出して眠れる灰を掻き分けてパチパチ熾すゐろりのほとり 屠蘇を飲む舐めるの方が正しいか祖父祖母兄と家族で回す 南天のつややかなる葉に存在を輝かせをり紅き実撓わ 宮城 中 村 哲 也 必勝の祈願か子らの並びゐて地蔵に柏手打つに驚く 白線の内に居並ぶ待ち人の俯きゐるはどこか寂しも ホーム這ふ小動物と見紛へて大き埃が風に吹き飛ぶ おほぶけ や た やま 明日雨の予報の前に降り出だす晴れのち曇りのけふ終らねど あかさか た 元日の夜に乗りゐる花輪線大更過ぎれば人数まばら こ 単線のホームの除雪万全の赤坂田駅降りる者無く 周辺に家の灯火の見当たらぬ小屋の畑駅二人降り立つ 吾のほかに一人乗りゐる一両のその一人さへ降り行く田山 カナダ ブレイクあずさ クリスマスすぎて捨てられている樅の褐色の葉に雨降り注ぐ 22 三 月 集 年越しの陽気な花火あとにしてたどる家路に星の音聞く 体温の少し異なる時がある英語のわれと日本語のわれ 全身をピアノに預けシューマンを聴く人は手に補聴器を持つ 雪の日の顔を包めるスカーフにムスリムかとの声の鋭し 霧深きフィヨルド進むタンカーの町をふるわす咆哮ひとつ 旧友を見送るように手を振れば日本丸いま海へ出て行く 肌色も母語も異なる人みんなうつむいている雨の日のバス 埼玉 横 田 晴 美 幼き日初めて目にせしクリスマス敵国の凄さわが目を奪う ひもじさに柱に掴まり母を見た七〇年前の私は五歳 一束の水仙の香り部屋に満つ房総より届くクリスマスイブ 暖かな元日の朝水仙の芽吹き初めたる青に驚く ☆ ☆ ぬくぬくとガラス戸越しに陽が当たる何処かにひとつコオロギがいる 元旦の並ぶ祝膳に礼を言う子の両足は車椅子の上 七草粥の七草数えて叩く音母より続く正月の締め括り 生れきて初めて食べると介護の人七草粥に涙を浮かぶ 東京 山 口 満 子 思い立ち夫を誘い谷保天満宮へ初詣でに行く成人の日に うららかな陽光の下で鶏が子犬をからかい追いかけっこする 「凶ばかり引く」とため息をつく夫の今日のみくじは珍しく中吉 (☆印は新仮名遣い希望者です) 23 一月号作品一評 冨田眞紀恵 何年も着てゐる花のブラウスをやさし 靴裏に崩れる団栗乾きたる音のかそけ する腿の筋肉励ましながら 同 子育てをした日々がきっときっと貴女 き夕暮れの道 永田夫佐 ☆ を精神的にも肉体的にも鍛えて呉れた事 夕暮れの哀愁を感じさせる一首であ る。これで冬が終わるものでもないから、 でしょう。こうして、人間も、動物も命 を繋いでゆくのですね。 1 9 5 9 年( 安 政 6)、 1 5 0 年 記 念 が ◇今月の画像 横 浜 港 開 港 は、 明 治 維 新 よ り 9 年 前 の 折角歩くのですから背筋を伸ばした方 が効果もあるという事でしょう。気分的 2009年に挙行された。貿易立国・日 )年竣工、今は歴史 にも爽快になり効果は倍増と言う事にな く洗ひ秋の陽に干す 堀口寬子 やはり北国の冬の心がまえは必要でしょう。 「 や さ し く 洗 ひ 」 に お 気 に 入 り の ブ ラ 姿勢よく大きく手を振り歩む人手本に ウスである事がわかる、「秋の陽に干す」 せむと背伸ばしゆく 小島みよ子 に又、作者の愛着心が潜んでいる様です。 ☆ 冬雷を献身的に支え給う川又先生の手 を両手に握る 吉田綾子 本の海運に貢献したのが日本郵船。建物 は1936(昭和 るでしょう。 でも忘れさせないで下さい。 ています。どうぞあの時の感動をいつま 川又先生の発言等を今もはっきりと覚え 達に誘われて出席しており、お若かった 良しとしましょう。 ん。最後まで、優雅な姿を見られた事で 暖冬で繊細な植物は萎えるのも早くな りいい事ばかりと言う事にはゆきませ しく見届く 沼尻 操 ある。1934(昭和9)竣工。横浜地 浜税関は、今も〝本関〟で資料展示室も 博物館になっている。旧横浜正金銀行は、 母として朗報なり娘の恋北風さへも暖 至れるは菊花を飾る社にて騒がしから 繊細な鷺草の翼も力盡き最後の姿やさ かに吹く 中村晴美 ぬ人の賑はひ 穂積千代 )年完成、整備され (関口) 槽 が 馬 車 道 通 り の 入 口 に 残 さ れ て い る。 大正時代、陸上交通は牛馬が主力、飲水 玄関ポーチは花崗岩の石貼で貴重。明治 方裁判所は、1930年(昭和5)の建造、 県立歴史博物館として国の重文指定。横 て1904(明治 正金とは現金のこと。古典様式建築とし 近 代 日 本 を 国 際 金 融 面 に 於 い て 支 え た。 まだ早いと夫が動揺十八の娘にきたる 駅まで二キロリュック背負ひて徒歩と 育てし日々の蘇りくる 黒田江美子 リュックの背徐々に温もり子を背負ひ 下句は菊花展らしい表現である。 も見られる様である。 娘に対する母親と父親の違いのはっき りとした二首である。此れはどの家庭で 早すぎる春 同 「 木 島 先 生 」 が 主 宰 だ っ た 一 昔 前、 高 岡で歌会をなさった事があり、その時友 11 37 24 一月号作品一評 嶋田 正之 続けたものには他人に説明出来ない執着 がある、決断が吉に転ずる事を祈る。 家毎に一本づつ渡すブチ作り篠取り磨 き房二つ付ける 小川照子 大人扱いとなり選挙権が与えられること 作者は埼玉県毛呂山町在住、この地域 の出雲伊波比神社の流鏑馬は有名であ まだ早いと夫が動揺十八の娘にきたる 早すぎる春 中村晴美 親 は 何 時 に な っ て も 子 供 だ、 子 供 だ と 思 っ て い る も の だ が、 今 年 か ら 十 八 歳 は と な っ た。 作 者 も ど う や ら 早 過 ぎ る と 大粒のブダウ一房分け合ひて夫と食べ るおだやかな午後 堀口寬子 る。近くには太田道灌の逸話で有名な「七 重八重花は咲けども山吹の実のひとつだ 思っている様だが心配は要らないだろう。 「 後 の 事 心 配 な い か ら 」 そ う 聞 い て 瞼 人が幸せと感じる形はいろいろあるだ ろうが、この歌の一コマはまさに幸せの 典型であろう。ひと房の葡萄を交互に摘 閉じしと美枝さんは言う 河津和子 地域の伝統はこうして守られて行く。 になきぞ悲しき」の「山吹の里」もある。 みながらこれと言った話題等なくとも良 が、安心して下さいと言われて冥界に逝 友にしたたむ 石田里美 室内を杖に頼ると文の来て吾もと返書 けることも幸せの極みかも知れない。 重ねると言う事は何かが少しずつ出来な て友人もと相哀れんでおられる。年齢を 転ばぬ先の杖と言うが、作者の場合は 室内でも杖が必要になったと云う、そし ☆ いのだ、読む人にも幸せが伝染する。 死の間際に、有難うと言って逝けたら こんな素晴らしい事はないと常々思う 山に鳴く豆鳥に心和みつつけふもひと りのリハビリ散歩 橋本佳代子 年齢とともに足腰は弱ってくるもので 運動を怠っていると、てき面にそれを感 く車内混み合ふ 涌井つや子 温い手が私を誘ひ坐らせて礼言ふ暇な じるが作者の歩く道にはイカルの鳴き声 梅の木に原木三本立て掛けて晴れには がすると言う何とも爽やかである。 くなってくる。ほんの僅かな時間の出来 水遣り椎茸を待つ 青木初子 くなることだとも聞く、お大事に。 事を見事に捉えていて心地よい歌だ。 椎茸の菌は適度な湿り気と風通しの良 さ、そして日陰を好む様である。僅か三 椎茸が採れる事を願う。 本の原木ではあるが、上手く育ち立派な 愛着の罅入り碗で飯喰ひしが不調続き 人から受ける親切、その人の手は温か い手だったと聞くだけで読者の心も温か ☆ わが祖より崇め祀れる十一の道祖神を めぐり注連縄を張る 吉田綾子 どの位の範囲に点在している道祖神な のか、十一ケ所を巡って注連縄をかける と云うのは凄い話だ。多くは村の辻に祀 で見限り捨てる 荒木隆一 ら れ 子 孫 繁 栄 を 祈 る 物 が 多 い だ ろ う が、 縁起を担ぐと言う事はよくあるが、こ の歌はそれに属するであろう。長年使い 先祖伝来の役目が続くことを祈りたい。 25 作品一 は 福井 橋 本 佳代子 雪のなき歳末は老いに有がたく迎春の用意はかどるはうれし 正月用にと庭に培ふ南天は常より美しき朱実結べり 法人のふるまひ呉るる年越し蕎麦集落の人らとにぎやかに賞味す しし 法人を作りて集落の農守り呉る若きら在りてわが日日安けし 去年の秋たのしみて植ゑし花の球根一夜のうちに猪奴掘りゆく 雪のなきこの冬の庭はゐのししの遊び場となるも吾に打つ手なし 週二度来る福祉のバスを恃みつつ峡の生まれ地に歳重ねゆく 山梨 有 泉 泰 子 雨戸開け空見上げれば透き徹る半月のありおはやうと言ふ 水仙は母の匂ひす窓際に次々咲きて吾を見守る 暖かな陽射しに恵まれたる三ケ日青空広がる佳き年とならむ 聳え立つ富士の頂雪淡く山肌の見え道筋の見ゆ 雪なくてスキーは中止と娘より夕食の誘ひ突然にあり 家に来る顔とは違ふ孫たちはお茶をどうぞと持て成しくるる 兄妹の性格みせる子ども部屋掃除したてか整へられて セールにて昨年五月求めたるブーゲンビレア白き花咲く 横浜市中区 横浜税関 26 作 品 一 千葉 涌 井 つや子 父や母歩みたる道竹林に残りてをるか今思ふのみ 十六代当主の従兄弟は病にて入院してより一年を経る 山陰に残りたる道思ひ出す主人と訪ねた茨城の里 もう二度と行く事もなき父母の眠る奥津城ふる里に有り 十二月二十五日は八回忌終へて淋しい笑ふ写し絵 岩手 田 端 五百子 上履の中まで冬の陽とどきゐて小猫がゆたりとだ眠むさぼる 預かれるネンネコの中の宝物ゆすり口ずさむ遠き子守唄 風呂敷でも被ひてやりたし泥酔し電車に眠りずりあがるスカート 枝撓むばかりの名産小枝柿捨ておかるるまま過疎すすみゆく ☆ 捨ておかれ鈴なりの柿もて街おこしのアイデア募ると地方紙の社主は 丸つこい膝の六つがかしこまる年玉奉ずる仏壇の前に 惜しみなく塩ふりまきて神輿隊先払ひしゆく稚児の多数は 大仰に振り撒かれたる清め塩のきらめく土俵大足が踏む 生徒らが襷袴に書き初むるはねもはらひも大胆にゆけ 師走忙中の閑 東京 永 田 夫 佐 廃屋の背戸に伸びたる花水木チラホラ白き花返り咲く 始皇帝のもてる力の大きさを兵馬俑に見る国立博物館 実物の兵馬俑なる六体は生あるごとき精緻な作り 27 六千体あると言われる兵馬俑兵士の群列レプリカなりき 観音像娘と互の似顔さがし三度めぐりし三十三間堂 黄金なる公孫樹林の中に立つ試験管持つ野口英世像 ふりむけば大き模型の白長須鯨科学博物館の前の広場に 親友は思いつきとて贈り来る薄墨桜の線香母に 暮れて又明け 東京 河 津 和 子 白百合と千両万両命日の主人に供う晦日は忙し 快晴の正月ウォーク街中でケイタイ見れば一万六千歩 希に見る日の丸門に掲げたる家も有りたり清し正月 羽根つきの音や凧揚げベーゴマと昔遊びし楽しびの無し 七ツ神奉らるという成田山の小さき神社も行列出来る ☆ 「冷たくてごめんね」と言いつつ身代りの地蔵に水掛け束子でこする 写真機に自撮り棒付け神社前恋人同志が寄り添い写す 愛知 小 島 みよ子 夫逝きて二七日の読経ありがたく謹み拝む娘らと共に 読経終へ僧の静かに語られる足るを知るの話に耳かたむける 香焚きて夫の位牌の前に坐し今は安らかにと写真に語る 友よりの励ましの手紙ありがたく幾度も読み元気戴く 研修にプラハへ旅をした孫のビデオを見つつ話聞きたり 二十時間かかりて行きたる外つ国を垣間見たる思ひの深し 28 作 品 一 親切な師の家に招かれて家庭の味に温もる孫ら 早朝の川辺を走る黄鶲の軽快な動きを見つつ歩きぬ 愛知 山 田 和 子 侘助と白く書かれた板のあり枝には二つ深き赤咲く あの雲を棒で絡めて飛ばしたら広げた布団に日は注ぐらん 「ご主人のご冥福を」の後書けず弘ちゃん宛の手紙は机に 猫の世話に追われていると弘ちゃんは夫君亡くされ健気な声で いただきし草木染なるタペストリー手描きの小花が部屋に溶けこむ 両の手で打てば羽虫はフウと飛び又近づいて来る顔の辺りに ☆ 千葉 野 村 灑 子 内房線の車中より見惚れる東京湾観音の後姿の召し物の襞を 突然に歌の湧く事もあるらむとメモ帳、鉛筆常に入れおく 夕凪ぎの波穏やかにうたせゐて沈み行く陽の光広ごる 木更津駅に停車をすれば「狸ばやし」の音があふれるポンポコポンと この冷えに寝付きの悪く香典の返しの日本酒ひとくち含む ピーマンに唐辛子の種加へたる瓶詰気に入り何にでものせる 満員電車にネックレス失ひし事あれば時々首に手をやり確かむ 栃木 高 松 ヒ サ ☆ 赤飯の甘き匂いに目が覚めて今日は私の米寿の祝 お母さんの二度目の赤飯上手に出来て美味しいと評判近隣に配る 29 新しきお札に替えて正月のお年玉用意す私の楽しみ 次々とお年玉を渡しゆく重複する子にまだよと言う子 大家族二十三人一堂に集まり祝う正月二日間 五人の曽孫の名を聞けど覚えられずに同じ名を呼ぶ 三日には静かになりて嘘のよう今日から平常の生活戻る 福島 山 口 嵩 例年は雪踏む道に紫の菫一輪風に揺れをり 山頂をうつすら覆ふ雪眺め踵を返し湯煙めざす 年ごとに喪中あいさつ状多くなり己の今を見つむる霜月 年賀状投函終ふる大晦日今年も果たせぬ付記の一筆 局前で賀状受取るバイト生「預かります」と符丁のごとく 阿武隈の峰を真紅に描きつつ昇る初日に拝す一礼 改憲も辺野古も主権の外なるか自党に論議の波も立たせず 法案は形式だけの審議入り反対意見に的得ぬ答弁 栃木 正 田 フミヱ 老いたれどまなこ光れる叔母に会う介護四とぞ家族と住みぬ わが名前を小さな声で呼びくれる叔母に耳寄せ親しく聴きぬ 壁にもたれ炬燵に居りぬ九十五の叔母は二時間掛けて弁当を食べる 次男帰省に夫と長男は話し込む茶を飲み菓子食い酒とは言わず 仕事から経済までも語りだす夫と子らに雑煮を勧む ☆ 30 作 品 一 新年の光の中に起き出す庭の紅梅はっと眼に沁む 七草に畑で摘むは春菊とナズナに小蕪大根のかゆとする 霜のあさ雪に見紛う白き道さくさく踏みゆく小学生は 長崎 福 士 香芽子 茜雲有明海にかげおとし徐々にきえゆくさまのいとほし 有明海より吹き上ぐる風は身も凍てむ花鉢に新聞紙巻きてやりたり 又一つ年を重ねて君の待つ黄泉の国へと近づきにけり 仏飯をつまみて塀の上に置けば雀来りてチョコチョコ啄む 寒くなりて「ニトロ」を含む回数が増えて来りぬ今宵もなめる 小さなるピンクの花の咲き出でて名は知らねども仏に供ふ 満開の桜の園で句会せし遠き日想ひヨーグルトのむ 「初恋」の歌唄ひつつ遠き日を想ひ出だして一人たのしむ 小春日の光一杯部屋に入り新聞を読めばすぐ眠くなる 鳥取 橋 本 文 子 小さめの葉ぼたん育て二年目も正月らしき一鉢となる アロエ伸び鉢植ゑ二つ部屋に入れ冬の緑を楽しみに見る 明けきらぬ東の山ぎはに月朱くなぞめきて見る初めての色 朱き月何か不思議な大晦日横に明るき星の並べり 大山のスキー場開きに雪のなく土色見えるこの十二月 早朝に家からゲレンデ白きこと確かめ若者いそいそ出発 31 茨城 姫 野 郁 子 シルバーの植木剪定年末の仕事納めと四人で始める 二泊三日にて帰る長男に困った事あれば言ってね元気でと送る 正月の長男の帰宅に独り身を心配すれど口には出せず 暮れには一年の元気を感謝して日常に戻れば心配始まる ☆ ☆ 今年は古希を迎える我なりに良い年になるよう努力して行こう 兵庫 三 村 芙美代 来る年の暦めくりて想いおり申年生まれの亡き姉の歳 店員は正月だからと言い分けするも生野菜はや二割は高し 出し抜けに開いたバスに乗りており少し歩かなと思う矢先に 除夜の鐘気付かぬままに粗相して固まる猫を浄めておりぬ 病む猫に粗相されたる後始末している最中年あらたまる 穏やかな一年であれ見上げたる空の清かに晴れて風無し 白菜一玉九十二円半玉九十円しばらく迷いて半玉を買う 正月気分抜けたるスーパー店内の九十二円のセールに賑わう 東京 飯 塚 澄 子 聞き覚えある曲なりき弾き終り「英雄ポロネーズ」孫の答へは 帰り来て塀の内に入る桜紅葉ピアノ聞きつつ拾ふ安らぎ 六十年経し結婚の記念日よそれに触れずに一日過ぎゆく 平塚の美術館をば訪れぬ展示作品見てと望まれ 32 作 品 一 中学の教へ子今は彫刻家鉄の造型館内に映ゆ 平塚は初めての町壮大な美術館あり大工場も 送られし蜜柑の味を比べみる銀座店より産地の勝る 篆刻の指導為しつつ傍らの話の中に応答なす師 落葉してすつきりとせる木蓮の枝先の蕾みな天を指す 東京 田 中 しげ子 月刊誌小高く机上に積まれあり忙しさに読めぬ師走の日々は 裸木となりたる街路樹さるすべり華やぐ春を夢見てあらむ 真つ直ぐに伸ばせる茎の頂きに大輪の菊花びら重ぬ 大輪の黄菊白菊咲き揃ひ高雅な香り幽かに漂ふ 八つ頭五個の子頭従へて掘り起こさるる温き年の瀬 水切りて目方計れば二キロ有り調理する迄テレビの脇に 女孫持参の花活けくるる備前の壺に百合と千両と大王松を 東京 高 島 みい子 元旦のテレビに見たるダイヤモンド富士今年も何か良き事あらむ 元旦のおせちにとそと初膳のかたはらにおく亡き娘の椅子を 朝一番テレビの前でラジオ体操脳活性と自分に言ひて 風に押され転ぶな転ぶなと歩く道一本咲ける冬のタンポポ 同じ木に同じ日を浴び金柑の大小のあり姉妹も然り 旅支度まだまだ早いと声がする片づけしても遅々と進まず 33 昼下り仮眠より覚めテレビ見る主役は子の声洋画「ボディガード」 栃木 斉 藤 トミ子 年末の空は澄むなり富士山とスカイツリーを佐野から望む 白鷺が餌を捕る形に首伸ばし川底浚うショベルカーは 健診に要精検との通知ありてどぎまぎと居り医院の椅子に 胃の中は赤く綺麗と思う間に十二指腸までカメラは及ぶ ポリープを切除せる瞬間血しぶきがぱっと散るなり胃カメラ検査 ピロリ菌検出されずポリープも良性と出で乾杯をする 次々と検査されいる我の身体今日は血管年齢計る 減塩に徹する様にと指示されて漬物好きの我れ見透かさる 真夜覚めて眠れぬままにストレッチ屍のポーズに何時しか眠る 埼玉 高 橋 燿 子 妹とうまく出来たと話しつつ冬至にふるまう甘酒わかす おかわりをする人もあり年末のひととき和む柚子と甘酒 ガラス拭く夫と孫が話す声のどかに聞こえる湯気たつ厨 仕舞にも通じる足の動きして宝前の前獅子は舞いたり 侍とたたかう獅子が尾をからめ刀をとれば掛声がとぶ 厄払う獅子は金歯を光らせて頭をぱくり祝儀も飲み込む てきぱきと片付け挨拶済ませたる獅子舞一行福を残して 千葉 黒 田 江美子 ☆ ☆ 34 作 品 一 介護予防推進事業のウォーキング四八回目は一五〇名に 集合は東京駅前丸の内体操の後ウォーキングスタート 東御苑二の丸跡に紅葉は四百年を繋ぐ錦絵 恐竜と共生したる樹種と聞く公孫樹の天辺崇め見上ぐる 外苑の青山通りに焼き芋を商ふ車ありて和めり 「の」の練習に手を添へやれば笑顔出づる男児の筆字堂々となり 書初めに励む幼き児等愛し一点一画を褒めて丸とす 富山 吉 田 睦 子 思ひ出は遠くなりたり昔着し服を崩してミシン踏みたり 毎日の食事の用意や献立に悩む事あり老いたる故に 登山靴一度も履かず下駄箱に其のまま眠る年古る吾に 川面を赤き山茶花浮いて行く楽しさうに沈む事なく 肌寒き夜半に少し降つたのか樹樹の細枝に淡雪の乗る 山間の湯宿に眺むる雪の峰朝日に光り華麗に輝く 雪山の陽に輝ける山間を帰る車中は気分壮快 千葉 石 田 里 美 修復の成りたる家に娘と二人暮らせば友ら訪ひくるる 今日からは貴女の家と娘にゆづり心安まる何はなくとも いただきし大きな花器に南天は縁起が良いとそり返るなり ひとしきり話はづみて吾が庭の大根引きて人ら帰りぬ 35 七草の吾が誕生日祝はれて九十四歳となりぬ夢と思ひぬ 東京 大 川 澄 枝 年の暮四時より始まる抽籤場ひっそりとして人びとおらず 遠くより友戻り来たる心地する黒田さんいて穂積さんいて 熱燗に酔いが回れば体内の痛みやわらぎまめに動きぬ 三が日雑事を止めてうまし酒二三杯にて気持明るく 正月を過ぎれば元の朝食の漬物とのり新鮮にみゆ 埼玉 本 山 恵 子 出来た事出来なくなりぬ初めて業者に頼む換気扇の掃除 リセットのきかぬ体となりて知る残る機能に感謝あるのみと 思い出を断ち切らぬとスキーウエアー吾が背に並ぶ孫に譲りたり 鮮やかなブルーのウェアー着て雪面を滑る動画正月に見る またひとつ世界平和の後退す北朝鮮の核実験に 茨城 大久保 修 司 娘と孫が正月休みに来ると言ふ仕舞ひある蒲団や毛布を干しぬ 銭湯に娘と孫は行きたがると思ひながらも風呂を洗ひぬ 娘と孫の帰り来る前夜久々にチーズケーキを作らんとする 食べたいものあるかと問ふに男の孫は末の妹に答へを譲る 年末のひたちなか市の広報誌直ぐに配りぬ五軒の家に 阿字ヶ浦の初日見に行く人を募る湊線運行に惹かれて行かず ☆ ☆ 36 作 品 一 神奈川 関 口 正 道 「親閲式」の手書きの記録をワープロに写し終へたり二箇月掛けて 印刷の活字体にあればスキャンして文字を起こせり私家版の本 十六年使ひしワープロこの日頃画面が消えてデータも残らず 空の青と海の青とを区切りたる如く鮮らけき赤レンガ倉庫 総合病院にて肺の機能を調べをり咳き込むばかりでデータは取れず 総合病院を出でてコンビニに煙草買ひ二本を吸ひて残りは捨てる ☆ センテンスの長きに戸惑ひ〝飛ばし読み〟せしこともありし野坂昭如 繰り返し三日間の新聞調ぶれど〝日米開戦〟の四文字はあらず 東京 酒 向 陸 江 歳晩に母百日忌の経を上ぐ四人の兄弟その連合いと 母を倣ね朝夕読経を欠かさぬと兄言い出せば皆も頷く 兄弟の集りおれば今ここに母も居るやの静かなやすらぎ 正月の松飾りなき庭先に南天の実のたわわに結ぶ 左手にひねもす母のつけいたる小さき指輪を嵌めては仕舞う 近隣のマンションの庭に響きあう幼の戯れ張りのある声 夕暮れのマンションの窓につく灯りほっと見上げるその温もりを 百花園 東京 増 澤 幸 子 草花に因み木草の神として信仰集める福禄寿尊 白加賀の花芽の堅く結びゐて春待つ園に枝広げ立つ 37 数多の花枯れたる百花園に真白き日本水仙束なして咲く 竹籠の七草の緑清すがしすずなすずしろ白き蕪映ゆ ふんはりと太き穂先の枯すすき澄みたる池の水面にゆるる 次つぎと木々に飛び交ふ黒き鳥名は知らざるもチチと啼きたり 南天の紅濃き玉のびつしりとつきて色どる枯草の中 葉ボタンの彩り良きを庭先に取りどり植ゑて春を待たむか 東京 大 塚 亮 子 やり残る掃除は置きて除夜の鐘聞きつつ夫と年越しそば食ぶ 山茶花を掃き寄する手のかじかみて吐く息白く小寒に入る 正月の空に揚がれる凧数へ広場に子らの弾む声聞く 健くんの凧がやうやく風に乗り揚がりてゆくに声援おくる 境内に甘酒だんご商へたる古き茶店が店を閉ぢたり 鏡開きの朝の厨にふる里の姉より届く小豆煮てをり ふる里は雪積もるらむ霧雨に混じり降り出す雪を見てゐる 友の家の跡地に建ちたるワンルームマンション正月早々引越し続く 茨城 中 村 晴 美 中学の甥は難しき年頃か年玉貰ひそそくさと消ゆ 折り込みのカラーチラシは原発の再稼働への意欲に溢る 原発に世話になる者多きゆゑ生活のための再稼働に見ゆ にびいろの空から白くちらちらと小さき粒の地に落ちて消ゆ 38 作 品 一 姑の栽培したる大かぶの糠漬け作り茶と食す午後 北海道の大きな地震に原発の異常は無しと速報早し 寒き日の外食先に一人鍋おのおの好む具を注文す 茨城 吉 田 綾 子 咲き分けの躑躅の開花に刺激され薔薇も咲きたり十二月の庭 十二月の庭見わたせば南天の朱実が房なし枝を撓ます 刈り込みし庭の芝生に落ちてくる屋根に溜れる乾反りの落葉 歳の暮れに花咲かしたる白梅を門松に飾り歳神招く 新年に会おうと約束していたる幼馴染がにわかに他界す 言動に男っぽさのありし友行政福祉に活躍しつつ 我の名を門の外より大声で呼びつつ訪ね呉れし洋子ちゃん逝く 友の死に動揺隠せぬわが心凛々しき遺影に香煙とどく 埼玉 大 山 敏 夫 山まるごと色づく峡に走り入り遠く来れる実感ふつふつ 黄と紅の葉のほのぼのの山に立ちむき出しコンクリートは高速道路 折紙の兜に赤き「愛」の文字米沢に来たる証にもらふ ☆ あさり汁飲みしなごりのさぶしさは口のなかに噛む砂のじやりじやり 砂を噛む孤独と言ひし喩のありて妙に実感の伴ふ日あり 好きなのでいつも欠かさず買つて来る黒花林糖のふくろ取り出す (☆印は新仮名遣い希望者です) 珍しく受話器にあかるき会話の声ひろへば楽しその後しばらく 39 一月号作品二評 赤羽 佳年 く感情と同様なものであろう。この歌を なく秋の日を浴ぶ 富川愛子 読んだとき、木島先生の「山なかに心つ 「心もとなく」と言いながら自覚してお 家いえの屋根は光れる黒瓦中国山地の ぶ」が全ての句に呼応していよう。 りとしている。また結句の「秋の日を浴 やわらかい副詞表現が活かされてゆった つしむときありて大杉の幹に対ひ佇む」 り 健 全。 達 観 の 域 か。「 ほ ろ ほ ろ と 」 の 穏 を 願 う 気 持 が 伝 わ る。「 小 さ な 」 の 形 が思い出された。 様変りしてゆく日本を眺めをり日々の おだやかな時間がずつと続くこと願ひ ニュースに気を揉みながら 大滝詔子 母国であるが故に日頃の関心事であり、 てつなぐ小さな孫の手 倉浪ゆみ 離 れ ているからこそ冷 静 な 判 断 が さ れ る 。 自分のことはさておき、孫の未来の平 結句に心情が察せられる。 風情のありぬ 伊澤直子 ☆ 下句から考えるに、周りの景観との融合 を感じさせる。黒瓦・赤瓦は地方色があ るようで、ここでの黒瓦は光沢を持つ 釉 薬 を 掛 け て 焼 成 さ れ た も の で あ ろ う。 初句を踊り字にしなかったところがよい。 る。私なども父母には、こう嘆かせてい 聖徳太子の佩刀といふ七星剣その再現 たち七星剣は 橘 美千代 刀身に北斗七星うかびたる反りなきか たのかも知れない。 東京は遠きか近きか娘達盆暮以外顔を 見せない 田島畊治 ☆ 無駄のない詠い振りで事実のみを伝え 容・強調の是非はあるが、祖母としての 鉢に植えし小菊漸く咲き始め花置く台 願いが詠い出された。結句は「小な孫の の一角占める 和田昌三 ☆ 素 直、 端 的 に 詠 ん で、 様 子 を 伝 え る。 手」で字余り解消。 四句は名詞遣いに「花置台の」と一語に されるのも一法。 季節ごと同じ場所に同じ花咲きて次第 に土地に慣れゆく 浜田はるみ ☆ 花の種類は示されていないが、年年に 刀剣伝承館・天田昭次記念館一連の六 首中より二首。歌そのものは特別の新味 がいま目のまへに 同 撓撓の大き柿の実選りて剥く吊し眺む るときの豊けし 及川智香子 収穫・皮剥き作業に勢を出し、結果柿 はないが、「反りなきかたち」「再現がい 盛る花の様子を「土地に慣れゆく」と表 簾を眺めて満足げの様子。結句は柿の豊 べて直刀であった。作者は刀剣女子とい 現して、ご自身もこの地に同化してゆく ことをも表出している。 の強調も活かされた。 うところか。(今号より担当、よろしく) 作 と 作 者 の 心 中 が 感 じ ら れ る。「 撓 撓 」 ま」などは捉えどころ。古代の刀身はす 大杉の前に佇めば自ずから謙虚な気持 ち込み上げてくる 野崎礼子 ☆ 大杉の佇まいと、下句の謙虚な気持が ほろほろと物忘れゆくこの頃を心もと 対比されていて効果。神前・仏前に額ず 40 一月号作品二評 中村 晴美 帰国後の日本の空気に馴染めねば吾が 目再び海外に向く 大滝詔子 外の世界を知った者には日本の狭さは 息苦しいことでしょう。住みたい所に身 を置くのが一番と思います。 ☆ 展示せる菊人形の萎れたる花差し替え る菊師は寡黙 和田昌三 菊師の凛とした背中が見える様な歌で す。菊に夢中の高齢男性を見聞きします が、生き甲斐にもなるみたいです。 ☆ 季節ごと同じ場所に同じ花咲きて次第 に土地に慣れゆく 浜田はるみ 年を重ねる程、新しい土地は辛いもの に思います。慣れた土地で穏やかに過ご したいものです。 ☆ しがらみを一つ二つと切り離し私はい つも自由と思う 野崎礼子 しがらみと絆は似てますね。孤独も辛 いが人間関係に振り回されるのも疲れま す。作者はバランス良く生きているので しょうか。切り離しは難しい。 ゴキブリの進行方向に待ち伏せて真上 の自覚があるうちは大丈夫な気が。 ☆ 長生きもしたいが楽しみたい。多くの 人が共感する一首。 ち短し楽しめの声 高田 光 飲むまいと抑へる吾を押しのけていの は便利だが恐い一面も。 咳が続く時は医者に診てもらうのが一 番かと思うが。仕事とかの都合で市販薬 と咳止めを飲む 山口めぐみ 花粉症か風邪か判らぬ咳続き早く治れ ☆ をねらい目的果たす 矢野 操 一日の行動予定を朝食時にカレンダー を見て繰返し言う 樗木紀子 殺生の歌なのに日常的な事なのか悲惨 さがない。目的果たす=死。本当は恐い ☆ 物忘れが年々ひどくなるのは仕方ない 事。工夫次第で前向きになりそうです。 歌なのに、どこか笑いを誘う。 ☆ 気前良くカットされたる前髪を自宅の 鏡にしげしげと見る 田中祐子 「 す ぐ 伸 び ま す よ 」 と 美 容 師 の 声 が 聞 こえそうな作品。よくある景ですが「し げしげ」に親近感が湧く。 ☆ 東京は遠きか近きか娘達盆暮以外顔を 見せない 田島畊治 盆暮だけでも顔を見せる娘達に不満を 言って今後一切実家に顔を見せなくなる 可能性も有り。不満は時に不幸を招く。 日本中に溢れていそうです。 雑草の空地ひとつで治安が悪くなった りする。人口減少の今、売れない土地が の看板立ちて久しき 及川智香子 帝ダリアが私に告げる 吉田佐好子 下ばかり見ていてはとても損をする皇 青虫の生きる力に完敗する作品。葉が 一枚も無い、その後も気になります。 丸々とした青虫残る 本郷歌子 ☆ ☆ ほろほろと物忘れゆくこの頃を心もと 皇帝ダリアの花は上を向かないと見え ない。意味が深い作品です。 雑草の思ひのままに生えたる地「売地」 み か ん の 木 二 日 見 ざ れ ば 葉 は 失 せ て なく秋の日を浴ぶ 富川愛子 秋に人生を重ねている様な歌。物忘れ 41 作品二 新潟 橘 美千代 おつとめを終へたるお札お守りを炎に投ず雨降る社 (新発田諏訪神社) 旧年のお札お守り燃やす火の風にあふられ燃え殻まき上ぐ 雨風に巻き上げらるる燃え殻の詣づる人らの列に降りかかる 燃え殻の飛びかふ煙の向かうにはまだ新しき本殿の建つ 十四年前の十一月の寒き夜に二百五十年なる諏訪神社焼けし 十四年前菊祭りの菊とともにお社は未明焼けてしまひき 夜の明けて本殿消えし境内に折り重なれる黒焦げの菊 今年こそ良き方へきつと向かへよと詣でくりかへしこれで五度目に 曇りガラスにしきり降りくる雪の影やさしき胎につつまれ籠もる 栃木 早乙女 イ チ 生前に一人暮しの弟が植えた野菜が取り取り育つ 円やかに大きなスイカ数多成り食べ頃かなとそっと叩き見る 里いもが大きく育ち弟を思いつつ掘り貰って帰る 紅梅の古木に堅き莟付き小さな庭で花時を待つ くる年の幣束受けに神社へと暖かき昼自転車を漕ぐ 大木を渡る鳥の声聞こえくる神社の横道ゆっくりとゆく ☆ 横浜市中区 横浜地方裁判所 42 作 品 二 ☆ ☆ 茨城 立 谷 正 男 いつしかに猫が瞳のやはらぎて窓の餌台の雀見守る 山池の渚に寄れる鴨どちに楢のもみぢ葉きらきらと降る 冬至の日生日なれば柚子の実に小豆南瓜に父母偲ぶ 亡き兄の命日墓参終へたると古里相馬の兄伝へ来る 町なかの小工場の労働者朝を清めて門松を据う 人生の終盤にありて冬畑の老の談笑炎を囲む 言論の抑圧の波ひたひたとクローズアップ現代国谷裕子氏消ゆ 幾時代経るも世の中耐へ難し遠き憶良の歌に寂しむ 暖冬 東京 林 美智子 暖冬にてためしに蒔きたる小松菜が正月ネットの下で芽を出す 玄関脇に立て掛けられた十本の榾木にふつふつ椎茸芽を出す 食材にこだわる息子の椎茸の肉厚く育ち味も香も良し ひとりでは食べ切れないと市販おせちの二段目持ちて兄の来りぬ 体重を二キロ減らせよと言いながら煮物和え物兄に食べさす 日の暮れぬうちにと駅に見送りぬ兄飄飄と八十六歳 二年振りに達磨を買いて一年の平穏願い片目を入れる 埼玉 浜 田 はるみ 仕事場に急ぎ向かいて見上げれば絵本のような空と雲あり 美容院は至福の時と思いおり洗髪肩もみヘッドマッサージ 43 突然に知人の娘の召天を喪中はがきに知り心の重し 悲しみは知らぬ間に起きている子を亡くす母と母亡くす子と 首振りて水面を数歩蹴りてより白鳥一気に飛び立つという 薬局の掃除用品安くなりあれもこれもと一杯買いぬ 大掃除ほんとに出来るか自問して今のところはやる気満々 埼玉 野 崎 礼 子 閉ざされた過酷な冬の到来に母への電話日課となりぬ 足腰が軽く動くと母が言う暖冬暫く続けと願う 出来事を一部始終話す母遠くに居ても近くに感じる たっぷりと時間のある木曜日ワンデー切符で地下鉄に乗る ☆ ☆ 久しぶりのらりくらりと過ごす午後赤いシクラメンぞくぞく芽を出す こっそりと夫の寝息を確かめて静かにドア閉め仕事に向かう 孫が増え九人集まる新年は心新たに平穏願う 黒豆をコトコトと煮る暮れの午後この一年に感謝感謝 東京 樗 木 紀 子 亡き夫の好物の沢庵二束の干し大根を漬けし容器あり 境内を掃除しておればカメラ持つ外人紳士現れるなり 参拝の仕方をわれは手話を使い外人に示す二拝二拍一拝と 外人は拝み終え写真を撮りわれに目礼して立ち去りぬ 長男と恒例の初詣で二個所と墓も参り帰途膝を痛める 44 作 品 二 茨城 糸 賀 浩 子 枯るるもの皆枯れ牛久沼広し下羽根を切られたる白鳥浮かぶ 去年四月廃校となりたる正門に誰が飾りしか小さき注連縄 信号の赤が初詣での流れ断ち足踏みをして待ちいる我等 早咲きの臘梅香り年迎え生家の庭に父母しのぶ 散歩する人らの声もあらたまる新年の戸外に耳すましおり 丑年の私に呉れたぬいぐるみ長女の声のテープがしゃべる 現役に着る事なかりし我が晴着課長の娘に着付ける四日 (仕事始め) ☆ 子の家に来て 青森 東 ミ チ 雪のなき子の住む家で年越さむと猫連れ発つ朝ドカ雪積る 膝に乗す猫の重さを感じつつ車内でペット用の切符買ふ 青森の冬には見られぬ青空が広がりをりて心ほぐるる 子の家になす事もなく青空を眺めて猫を相手に遊ぶ 子の家から眺むる空を広重の色刷版画の青に重ぬる 子の家の八泊九日のもてなしを五体に満たし我が家に帰る 岩手 岩 渕 綾 子 「にこちゃん号」野菜くだもの肉魚めぐり来る日を我等は待てり 復興住宅に初めて迎へる年の暮れ移動販売によろこぶ我等 訃報あり田中國男氏のご冥福祈る五十回冬雷大会の一期一会を 気丈にも車椅子にて大会参加されき弱気なわれに喝いれるごと 45 戦を体験されし田中氏の貴重な歌の数かずしのぶ 震災の体験の有無に温度差ありてたまに怒りを押し殺すわれ 亡き父の奉納したる狛犬あり孫子等つれて元朝参り 岐阜 和 田 昌 三 草刈りの媼は小菊の花を活く無住の家の義民の墓に 朝市の媼の「食べて見なれよ」の郡上訛りの優しく響く 朝市の女は焼餅差し出して「食べて見なれ」と客に勧める 久々に見るベテランの漫才の話術巧みで笑いの絶えず 年末に漸く雪降り奥美濃のスキー場一部滑降可となる 雪の無き正月となり春の如き街道走り温泉に入る 温泉もスキー場も道の駅も閑散とせり雪無き里の 渓流に下りれば餌を探しいる白鷺一羽逃げるともなく 水爆の実験成功と誇らしげに報ずを如何に聞くらん民は 埼玉 田 中 祐 子 賑わいの乏しきわれか友の輪を何時しか逸れて掛絵に見入る 伸びやかに児童の描く水彩の「公園の秋」を仄仄と見る 立ち詰めに暮れの二日を籠り成すわが節料理は納得の出来 三世代九人の集う新春の座敷の賑わい唯嬉しかり 同窓の友と全く同じ名に展示されたる絵画に出合う 音信の途絶えて久しき同窓の友は明るく朗らかなりき ☆ ☆ 46 作 品 二 ☆ ☆ 埼玉 倉 浪 ゆ み 七草に二つ足らねど春の香をトントンきざむ今日は七日 「ゆみちゃん」と大きく吾を呼ぶ声あり氷川神社の人混みの中 自転車で来たよと言へば末の孫お金が無いのと吾に問ひくる 密やかに寒水仙はほころびて梅の根方は明るむ感じ 駅ビルの書店の中のコーヒー店新書の匂ひとモカの香りす 手袋を手にとり見れば指先にスマホ対応の加工がありぬ 北風が強く吹きゐる夕間暮れまち行く人ら急ぎ足となる 東京 石 本 啓 子 吹きさらす新丸ビルの屋上に冠雪の富士山はるかなり 縁のないスイートルームの優美なる家具に見惚れて素材を聞きぬ 公開中の乾門へと整列しコートいろいろ進むを眺む 庭に成る柚子で作れる柚子胡椒今年も弟から届きたり 不揃いの柚子は吸口漬物鍋に合い香気酸味を楽しむ 観劇の女学生等は客席を走る役者に歓声あげる 昆布巻ににしんを入れて煮る匂い広がる部屋に夫を偲ぶ 愛知 田 島 畊 治 門閉ざし廃屋となる庭園に大き桜が冬に咲き盛る 公園の銀杏並木に張り紙あり環境対策に実を拾ってと 降圧に減塩良しと医師の言う昼食はめんからご飯に変わる 47 驟雨止み東の空の明るみて傘を杖としスーパーへと向かう デイケアのお出かけ会に参加する三千円の昼食目当てに 山の湯で日の出に合はせ入浴する今日は何かいい事がありそう OB会の最高齢は吾となる乾杯の音頭高らかにとる 宴会はビール一杯に焼酎二杯これで充分朝食うまし ☆ 東京 西 谷 純 子 ノート広げ歌作らむと炬燵に座す浮びくるのは師の姿なり 病院のベッドの上に背を丸め細くなられた師の姿あり 病院を後に車中の心重し師の淋しさは如何許りかと 古里の餅は美味し腰強し細かく噛みて汁を啜りぬ 年始に来たる弟と夫は越後酒酌み交はしつつ話の尽きず 北の角地更地となりてロープ張らるどんな家だつたか思ひ出せない 東京 長 尾 弘 子 騒がしき雀の宿の大公孫樹夕陽の中に諸葉の揺れる 店先の水槽のぞくに亀のいて吾の動きに首伸ばし来る 飾りたる人偲ばせて家々のドアに掛かるリースさまざま 引き籠る事のなきよう来る年の予定書き込む新しき手帳に 桜橋に凧揚げている三人の少女の夢の空高くとべ 新年の商店街にひと時を飛び返りいる追羽根の音 追羽根をついて遊びしあの頃は「きいち」の絵柄の羽子板多く 48 作 品 二 ☆ 岩手 及 川 智香子 冬枯れの古家の庭先重厚なる山茶花の大樹存在感あり 薄切りの刺身が好きといふ吾に厚切り美味しと魚店の人 震災に打ち捨てられたるロシア船四年を過ぎてけぢめの解体 「いつかね」と時無きことを易易とその場限りのあいさつ多し ステントを三本入れたる夫の言ふ筋金入りと強気の冗談 暮れなづむ「うみほたる」より義兄と姉偲びて遠き富士に手合はす 百四歳なる叔母の葬送に来し義兄十日後儚く世を去りにけり 「生くるもの形あるもの必ず無になる時のあり」と僧侶の法話 茨城 飯 嶋 久 子 千波湖に沿いて流るる桜川冬の陽を浴び白鳥泳ぐ 遊歩道の脇をのったり家鴨行く歩調を合わせ我も行くなり 千波湖の桜並木に見つけたりひっそりと咲く四季桜数本 高齢者マーク付けたる車多しカルチャーセンター駐車場に 伴走者と息もぴったり走り行く飽くなき挑戦盲の友は 学ぶこと多き中途失明の友は常に前を見ており 久々の夜のコンサートより帰り来て昂ぶり持つままミルクティのむ 岩手 金 野 孝 子 南天の豊けく元日恙なく吾は七度目の年女となりぬ 七度目の年女となる申のわれ無事継ぎ交はす未の夫と 49 初詣でに杖つき喘ぎ登る坂先ゆく夫とのあひだ遠のく 初詣でに登る坂道汗ばみ行けば枯木のそばに椿咲きゐる 暖冬に梅も辛夷も水仙も芽吹き初めたり吾が身も軽し タネなしの柿は弘法さまのお授けと気仙民話の中に読みたり 東京 佐 藤 初 雄 風止みて小春の木場の堀の面に渡り来し鴨群れ泳ぎ居る 焼け跡に並木と植えたる公孫樹の木町並繋ぐ黄葉の輝き 狭窄症の腰の痛みにゴロ寝して時惜しみつつ日を過ごし居り 屈む事辛く手抜きは止む無しと今年の庭木は育つ侭なる 探し物またかと言われ籠り居る小春の日差し明るき部屋に 籠り居て庭の柿の木芽吹きより実が生り紅葉の散り行くを見る 部屋うちの転倒侮り居たる我れ一瞬目眩み転倒したり ☆ 東京 富 川 愛 子 駅伝の母校の走者顔しかむトップの位置を保つを祈る 就活のスーツが要るとそれとなく爺に求める甥の新年 絵のごとく色どり美しく並べらる金沢のお節の美と味たのしむ 東京 山 本 貞 子 薬局で待つ間にスーパーのレシートを見をれば買はぬ物ついてをり 「百七十円お返しします」のその後にひと言なきを寂しと思ふ 買はぬ物の代金返すは当然と思へど思はず頭下げたり 50 作 品 二 かけ声かけ切りたる南瓜まだわれに力のあるとにんまりしたり 切る時に堅いほど南瓜は美味なこと度重なれば確信しをり 病院の食事に南瓜がよく出ると嘆きてゐたる胃癌の夫 香川 矢 野 操 さる歳の箱根駅伝にあくび出る優勝校の終始独走 すりおろし若葉色した大根の辛味やわらぐ方法何だろ 昼すぎに降り出しそうな雲の色忘れても惜しくない傘を持つ 取り寄せの亀の子束子三倍の値に価する感触の良さ フレームを選ぶ二時間店主からせかされもせずあくびもされず 東京 山 口 めぐみ カーディガン一枚羽織り帰宅する朝着たコートの要らぬ小春日 青空にオレンジ色の光差す建物の影の夕陽見えねど 冬晴れの元日に子と自転車で合格祈願の初詣でする 神棚に氏神様のお札上げどうかどうかとかかさず祈る 久々にお笑い番組観て笑う受験生の短い正月 参拝の為の行列長くても御利益受けたし不満聞こえず 高知 松 中 賀 代 笑いヨガ会場いっぱい大笑い貴女も貴女も友達になる 小春日が続きからからと干大根甘い匂をたたせ乾きぬ 一粒が丸くて太く粒揃いやがて香がたつ零余子のごはん ☆ ☆ ☆ 51 呼び交わす鵯の声甲高く柿から蜜柑つぎは金柑 年末の会に出て来る半数は手押し車か杖の要る人 「こんにちは」挨拶交わし小六の男子と二人バス停に居る 東京 伊 澤 直 子 四つ角に紅白の幕張る小屋建ちて正月飾りの並びておりぬ つがい 魚沼産稲穂の下がるしめ飾り今年も求めて新年祝う 穏やかな正月明けの善福寺公園おしどりの番池に寄りそう 青空と冬の木立の映りいる善福寺公園の静かなる池 浄智寺は紅葉残りて蝋梅の香り漂う春秋同居 波の音を聞きつつ真白き富士の嶺と心に歌う海に向かいて 七里ヶ浜波の引きたる濡れた砂に夕焼けの色ほのかに映る 茨城 吉 田 佐好子 大晦日今こそ「断捨離」実行の絶好の機会気合を入れる 使わないものが山積み部屋の奥数年ぶりの再会となる 引き出しの奥に丸まる古いシャツ存在すらも記憶のかなた ☆ ☆ 「もったいない」骨身に染みたその言葉不要な物を買わないことから (☆印は新仮名遣い希望者です) 世の中の悲しい出来事多々あるも前向きに生き乗り越えていく 初日の出霞ヶ浦の湖面よりもったいつけて厳かに上る 天照大御神が出て来たようなまぶしき初日にパワー感じる 新年が旧年よりも幸せで楽しくなるよう笑顔を忘れず 52 詩歌の紹介 たちやまさお詩歌集 『故郷の道』より㉔ 立谷 正男 「この子の可愛さ(沼津地方の童唄)」 かや 坊やはよい子だ ねんねしな か わい この子の可愛さ 限りなさ のぼ 天に上れば 星の数 七里が浜では 砂の数 千本松 山では木の数 萓の数 せんぼんまつ くだ 沼津へ下れば 千本松原 小松原 松葉の数より まだ可愛い 山いるひとり親は働かなくても手当だけで生 一月集 赤羽 佳年 一月号 十首選 も起こっている。フランスでは、子どもが沢 活できると言う。ああこのような子供達こそ あしひきの山辺に住みてあればこそひね 学問に励んで貰いたい。更にはこのような母 親こそ政治家になって貰いたい。こんな時、 もす聞ゆ山鳥の声 天野 克彦 大股に背すじ伸ばして歩きいし矢島氏の 道徳の基礎は母親が子を思う無私無欲の 心が源であるという文章を読んだことがあ 由紀さおりが大切に歌っている あなたが生まれてきたときに 誰が抱きあげてくれただろう 誰が訪ねてきたのだろう とる君の音揺らぎなし ブレイクあずさ ☆ 供も笑顔 大野 茜 ギプスのみたよりの脚に立ちたれどソロ んやりとする 松中 賀代 ☆ 障害児の母の誘ひに施設訪ふ先生笑顔子 湯の香現る 林 美智子 ☆ 大根や葉もの野菜に潜みいる青蛙の手ひ 事はどうにかこなす 東 ミチ 帰宅して荷を解く時幾度も浸りし硫黄の りともしぬ 立谷 正男 整形医に通ひながらも我が分に関はる仕 練ホームに励む 高松 ヒサ ☆ 明星のもとに蟋蟀鳴きつぎて人は厨に灯 をつけタオルも浸す 高橋 説子 もう少し生きたい思いリハビリに歩行訓 笑顔今に忘れず 高松美智子 ☆ 二人のみ入る湯なれば気兼ねなく湯に色 夫婦別姓問題、いずれの姓を選択するか自由 を求める原告の訴えを最高裁は退けた。最高 裁は最低裁かと嘆く。 「誕生日」 あなたが生まれてきたときに やさしい父さんお母さん どんな願いがあったのだろうか る。「母の手一つで育てられた」成人となっ あなたが生まれてきたときに た子の感謝の言葉もある。しかし各個人の努 遠いお空の神様は ねんねんころりよ おころりよ 力には限界がある。日本の母子家庭の貧困率 あなたに気づいてくれただろうか 五四・六%と云われる。子供たちも六人に一 人が貧困と言う。ひとり親を救えという運動 53 一月号作品三欄評 水谷慶一朗 地に落ちて乾いたどんぐり踏みみれば 記憶がある。花はリンドウ科センブリ属 と 優 し い が 苦 味 は 格 別 で あ る。「 苦 み を ☆ 見せず」が歌の捉えどころで面白い。 見るのは瞬なれど 大塚雅子 来る度に先頭の選手が入れ替わり見え も見た処を的確に捉えた力量は称賛であ い。掲出歌は連作中の二首。いずれの歌 たる水に梅花藻の花の白きがゆらぐ可憐 て観察不足で惜しい。二句以下は「透き 梅花藻は山野の清流にしか成育しない 植物。この一首の嘱目はいいが全体とし らぐ可憐に浮きて 星 敬子 眞狩川の川面に映り梅花藻の白きがゆ ぬところでレースは動く 同 ツールドフランスは仏国上げての自転 車ロードレースのことだが、日本各地で 落ちている団栗を踏んで砕ける瞬間を 感受して内容はいいが、不確かである。 る。次は作者の競技参加の歌に期待。 わづかに耐へて忽ち砕く 鈴木やよい 三句「踏みたれば」或は「踏みしとき」 に」でよい。原作では梅花藻は白になつ もその名を模した自転車競技が盛んらし 下句「わづかに抵抗ありて砕ける」に。 復興の砂塵舞い立つ造成地に運ばれて 朝陽を受けて樹幹の光る 木村 宏☆ 「 霧 降 り の 滝 」 の し ず く に 濡 る る ブ ナ で「可憐」を残したが俗な感じである。 ているから花の挿入は不可欠。原作重視 ねつとりと身は包丁に吸ひ付きて熟し ☆ あの地震災害から四年経つが完全復興 の道程はまだ遠い。五句は「建設資材」 行く新築材料 佐々木せい子 一考。「身」は「実」の筈。「果肉」の方 等にすれば表現の視野が大きくなる。 たる柿の皮剥き進まず 村上美江 一首の捉え方は確かだが言葉の扱いは がよい。「果肉は包丁に粘りつき」五句 写 実 の 眼 が 確 か で、「 霜 降 り の 滝 」 の 固有名詞も邪魔なく効果している。五句 は「樹の幹ひかる」で確実になる。 ☆ 思いきって髪を短くした今日は心軽や とを認識すべきと思う。 か少しのさびしさ 川俣美治子 は「ように」或は「ごとく」の方がまだ も「皮剥き難し」で確かさを増す。 待ち時間三時間過ぎて病院の待合室は 首振りて雉が草原あゆみいる赤き冠誇 ためいきの渦 斎藤陽子 張するがに 乾 義江 ☆ 溜息の渦は少し大袈裟だが、気分は解 が下句が良くない。赤き冠 かる。然し待たすのは病院側でなく自分 状景はいとい さか 4 4 も「 赤 き 鶏 冠 」 で あ る。 又「 す る が に 」 本意で漫然と受診する患者側にもあるこ ときめくものである。五句は「さびしさ 女性の心理はこんな処に微妙に反映さ れるらしい。男性はかかる風情にこころ 白淡く花びら五片草陰に苦みを見せず 少し」と倒置する方が効果的である。 じ い い。「 赤 き 鶏 冠 を 誇 示 す る よ う に 」 で せんぶりの咲く 川上美智子 こ 良い収まりになる。 子供の頃、健胃剤として吞んだニガイ ☆ 幾度も選手を見られる周回レース姿を 54 一月号作品三欄評 関口 正道 入院中介護施設に十日間母を預けてほっ と一息 卯嶋貴子 ☆ 白内障で入院された作者。一連の歌は 数字が読み込まれていて具体的だ。過不 足なく五首が生きている。手術が無事に 終えたらしく鑑賞する方もほっとする。 ☆ 時たまに隣りの乳児の奇声聞えにぎや かとなる元気に育て 豊田伸一 ご主人、上達も早いに違いない。頼もし く見守る妻の視線を感じる。 何度も列車に飛び込まんと思ひしと言 ふ男クリニックにてよく喋る 片本はじめ 乳児の鳴き声を騒音と捉える人物もい るらしい。世知辛いとはこのこと、子供 の泣き声は国の宝と思うべし。 作者は男のその話を訝しく思っている のだろう。だが話を聞いてやるのも、余 がる。作者の優しい性格が解る。 計な見方だが、究極的には自殺防止に繋 飴釉の大きどんぶりたつぷりとカレー を掛けたるうどんに合ひぬ 中村哲也 作者は詩歌・美術に造詣が深い。料理 の腕も確からしいが、どんな料理でも先 ずは、器にこだわるのがいい。 ☆ 庭先の異変に気づき出で見れば金魚を 襲いカラス飛び去る 永光徳子 幾度も選手を見られる周回レース姿を 金魚が襲われて持ち去られたのかどう か。人間の習性を察知しての〝犯行〟だ からこの鳥は愛されることはない。 人がいる。看護師はベテランに限る。 教わり今日蒔き終えぬ 児玉孝子 豌豆は十月十五日に播くがよしと姉に 旅と短歌で紛らわして戴きたい。 病む他者の心の糧とならんとす子の語 細く長い注射針は腕の中を血管求め小 る声静かに聞ゆ 横田晴美 ☆ 刻みに動く 山口満子 ☆ 作者のご子息が頸椎損傷の身であると 推察する。そういう身でありながら病人 小 生 も 四 週 間 に 一 度 血 液 検 査 が あ る。 若い看護師のなかには、針を刺して迷う を激励されている。頭が下がる。 私も昨年、兄・義弟が病死した。作者 の悲しみは痛いほど解る。取りあえずは 山茶花の咲く晩秋に早すぎる西方浄土 見るのは一瞬なれど 大塚雅子 ☆ に旅立ちし弟 星 敬子 作 者 の 嘱 目 に ス ポ ー ツ が あ る。 観 戦、 実体験もあって毎回楽しみだ。周回コー スであってもこれが現実だろう。 ☆ 妻もたぬ五十過ぎの息子に弁当を作れ る姉は足痛めたり 佐々木せい子 この娘嫁がせなければ死にきれぬ口ぐ せとなる老いたる夫 斎藤陽子 定年後袴をはいて弓を持ち出かける夫 言い伝えが日常生活に生きていること が多い。現今の科学より確かかも。 ☆ 薄いのかも知れない。前記は甥の後記は の新しい日々 川俣美治子 四、五 〇 代 で 男 女 共 に 独 身 者 が 多 い 昨 今。鑑賞する限りだが、共に結婚願望が 娘を真に心配している。生涯独身は、他 定年後の人生を積極的に捉える作者の ☆ 人事なのだが、勧められない。 55 作品三 長崎 池 田 久 代 教へ子より小学卒の写真が届く毬栗頭にオカッパの子等 口々に「欲しがりません勝つまでは」いつもとなへてがまんしたる子等 足先は足袋もはかずに素足のまま親指まつ赤な霜焼けありき 教科書を墨でぬりたる子の言葉「大事な本をなぜよごすの」 「それはね」とあとの言葉が出てこない戦に負けたと素直にいへぬ 電灯の黒幕を取る戦後の一歩眼前急に真昼の如し この子等は物資不足の世の中を如何に過ごせしや尋ねてみたし ☆ 東京 鈴 木 やよい 朝日受け置き場の自転車輝くなか係は黙々並べ整ふ ノーベル賞誇れどわれの理解越えカミオカンデの不思議な空間 濃き霧に覆はれ辺りは狭まりて輪郭おぼろな人影歩む ジョギングの呼吸苦しく立ち止まれば水仙咲きをり川沿ひの道 思ひ立ち走れど体にこたへたり寝返りしては腰を擦りぬ 元旦の光のなかに玄関の御飾りわづかに傾きてをり 初詣でに眺むる神輿は端正なり祭りの勢ひ失ひをれど 東京 卯 嶋 貴 子 横浜市中区 馬車道通入口 56 作 品 三 欲しかった風蘭をインターネットにて探しくれたり子はボーナスで 真冬に咲く風蘭は熊本よりとりよせて一ケ月かけて七つが咲きぬ むらさきの小さい花の風蘭は生まれて初めてわれの見る花 富山みやげに母の好物のカニを買う娘の吾より優しい夫は ☆ 静岡 植 松 千恵子 苦しさは軽減税率でも同じ自給自足に対応せんとす 出稼ぎのイスラムの子等のクリスマス仏教徒の我もパーティ楽しむ 大掃除に一人の餅つき片づけと夫当てにせず忙しくやりぬ 年経ると一年の早きこと実感す一陽来復冬至に思ふ 年末の賀状書きには辟易するわれも手書きを貰ふは嬉し 窓ガラス磨きて透かし見る景色心清しく今年も終る 大晦日の村の鎮守の広場では焚火にあたり甘酒貰ふ 茨城 乾 義 江 朝まだき電気敷布の温もりに包まれ至極の幸せにひたる 招かれたコンサートにて聞く歌は我が若き日の懐かしき歌 風立ちて物干竿に乾す敷布ひと日はためき心落ちつかず 我が顔に似てきたと孫が送りくるビックリマーク付きアイパッドの写真 街路樹に沿う水仙の暖冬にひと月早く咲き揃いたり 庭先の万両の実を狙う鳥たべられまいと知恵しぼる我 倉庫まえ休憩の社員数名の全員スマホ操りており 57 岩手 佐々木 せい子 海猫のとびかう湾の椿島小島連ねて繁殖地なり 吞み込みし寒の酢牡蠣は一瞬に豊かな栄養めぐる心地す 夕暮のせまる電線に丸まると雀群れ立つねぐらは何処か 夕映えの入江に小舟数多なり正月迎える取り取りの旗 高台に移転せる家の明かり増え灯るあれから五年が経ちて 船団を組みて南方にマグロ船出でし時代ありこの岬から 変わりゆく港に立ちてふと昔思い出したり彼や是やと 東京 大 塚 雅 子 記憶の中の工場在りし場所は今人々集う公園となる 十八まで住みいし街は様変り懐かしさより戸惑い多し ☆ ☆ ☆ 七福神巡り 神奈川 山 本 述 子 冬晴れに友と巡れる七福神二万歩越ゆる有難き旅 勿体なきお神酒、甘酒、ぜんざいと振舞はれつつ草臥れ知らず 開運に必勝、長寿、繁盛と厚かましくも願掛け続く 打つ鐘の響き身に沁み古里の山の鼓動の蘇りをり (龍華寺の鐘楼) 牡丹の花藤に蓮花も色優し御堂天井の絵に癒されぬ (正法院) 福島 中 山 綾 華 体調を悪くされたる川又先生を案ずる時間は長く思へり 今年は子等が門松飾りはじめて年寄りの役割味わいおり 58 作 品 三 風邪の熱高き子多く保育園への送り迎えはバーバ多かり ☆ ☆ 岩手 斎 藤 陽 子 また一人我にやさしき人が逝くぬくく過しし刻は忘れじ 往生を褒められ逝きし人なれどあまりに突然元日の朝 若くして逝きてしまへり娘の伴侶一月十六日今日は命日 水光る朝日の中の初厨今年もここから元気に生きよう 背に赤子両手に幼の手をひきて若き母親勇ましく行く 友病むと聞きたる夜はねむれずに訥訥話す彼を思ひて 寒いねと言へばうんと言ふそれだけの会話二人居て多く語らず 急逝の友より届く年賀状生命の終りの筆圧強し 茨城 豊 田 伸 一 燃える陽を迎えて希望満ち溢れ年の始めの誓いを決める 聞ゆるは秋のなが雨絶えまなく夜の静けさは眠りにも良し 腹一杯に食いて眠いと孫娘ふとん敷くのもおぼつかずおり 孫娘祖父母の家に泊る日は腹一杯に好きな物食う 二十四度の異常気象のあたたかさ十二月に吹かず木枯しなども 園の知人に特別扱いのりんご狩り質の良き場にもぎりて食す 高知 川 上 美智子 色褪せた野に赤い粒散らばりぬ落葉掻き分ける冬いちごの実 ふわふわと愛らしき姿綿虫は思いがけなく害虫と知る 59 一つ咲くたんぽぽの花天仰ぎ師走の風に胸張る如く 友の手に掛かれば見事手際良く釣りたての黒鯛ぷりぷり刺身 東京 永 野 雅 子 退寮する娘より先に届きたる荷物の多さに唖然としたり 玄関に高く積まれたダンボール見る度どこにしまうか溜息 おせち料理我が家の定番作り終え重に詰めれば華やかになる 元日は家族揃って墓参り昼食の鰻が皆の楽しみ 受験生の娘が買いたる白き達磨に片目を入れて合格祈願す ☆ ☆ 埼玉 星 敬 子 正月の玄関飾る羽子板は半世紀近く家族守りぬ 高速を降りて訪ぬる湯の里は白き林に包まれをり 春浅く霞たなびく永平寺雲水らの声厳かにして ロレッタの坂道に立つ辻音楽師行き交ふ人に微笑みかける 東京 廣 野 恵 子 鐘なりて新しき年迎えたり百合と松とで飾る玄関 一年の守護を願いて初詣で参道の長き行列のなか 山頂に輝く初日神神しき画面とり込み待ち受けにする すきまより光の細くさし込める雨戸をひけば庭の輝く 世の中は不安要素がみちあふれ正月気分に混ざる苛立ち 暖かい朝の西空を見上げればほんわり白き月のこりいる 60 作 品 三 かさばれる元日朝の新聞は別刷り特集七十六ページ 集えるは総勢二十八人なり思い出しても疲れ感じる 新年 茨城 木 村 宏 年賀待つ人への便りしみじみと思案しながら筆進めたり 年賀状手書きの人を見つけたり心の弾む新年の計 正月の友の便りの嬉しかり一年の無事を共に祈りき 暖冬の今年の正月エルニーニョ世界をおおう怪物の影 四月には一年生となる孫のか細き指のいとほしきかな 七拾年戦争せずに来し国の平和揺さぶる集団安保 新年の御用始めや和服着て晴れやかな人周りはなやぐ 得意気にお年玉箱抱えたる老人のあり近郊電車 ☆ 神奈川 大 野 茜 手作りの月見団子に薄立て丸き大きな月を仰ぎぬ 猛暑にも涼を呉れたる初雪草朝晩冷ゆる今もなほ咲く 隣家の赤児の鳴き声流れ来つこの世に生まれし喜びの歌 気持良き陽の差す縁に衣替へ空には高く筋雲流る 五分おきに発車のベル鳴る相鉄線子供の頃は単線二輌 夜更けにもウォンウォン吠えて頼もしき老犬アミの声今は無し 栃木 川 俣 美治子 ☆ 枝を切る後姿がまだいけるそう言ってるよな定年後の夫 61 師走とは思えぬ陽気に小虫飛ぶコートを脱いで出かけてみよう 家中に響きわたる孫の声ああこれが家族増えたるよろこび 久しぶり二人だけの大晦日縫い物しつつ静かな年明け 孫たちのはねつきの音心地良くこの子らの未来願う幸せ どんよりと寒さを落とす空を見て今夜はあったかなべ焼き作ろう 家中が鋭い寒さに包まれるそんな朝には香るコーヒー 愛知 鵜 崎 芳 子 枇杷の花シナモンに似た香りする近くに寄りてやはり似ている 庭先に万年青の鉢が並んでるみな生き生きと赤い実つけて 雲浮かぶ青空仰ぎ年末にこの暖かさ異常気象か 三箇日過ぎた我家に日常の静かさ戻るソファーに居れば ☆ 奈良 片 本 はじめ 心病む君わが側に眠れども肌にも触れずぢつと見つむる 心病む君吾のそばが安心と同じ炬燵に眠りてゐたり 何も食ふ物なく五百円玉ひとつ持ち寒き深夜にコンビニへ行く 来月で田舎に転居して二年のどかな風土に古傷も癒ゆ 吾の過去を誰も知らない土地に住み新たな自分を日々模索せり 貧しさと闘ふ事にやや疲れ胸に下げたる十字架握る 礼拝後外に出づれば雲ひとつなき青空が我を抱きぬ 礼拝後牧師が握手してくれるただそれだけで心満ちたり 62 作 品 三 東京 永 光 徳 子 柿の実を採る人もなく冬となり熟れたる赤に野鳥群なす 冬晴れの空どこ迄も青く澄み丹沢の奥白き富士立つ 禅寺に除夜の鐘突く人の列寒さに耐えて我も並びぬ 鐘の音は突く人により異なりて想いをのせて闇に拡がる 古き家守りくれたる義姉逝きて古里は又遠くなりゆく 冬の夜の夢の中にて姉に会い目覚めては尚姉の身思う 東京 松 本 英 夫 広重は田毎に月を浮かべたり水満つ棚田に心うばはれ 月愛でし平安人も思ひきや姨捨の田毎に月出づるとは みはるかす善光寺平にけぶり立ち民のかまどは賑はひしとぞ 姨捨の田毎の月を守らむと田毎に白きオーナーの札 登り来し貨物列車は姨捨でスイッチバックし松本めざせり 祖母と孫姨捨駅で電車見るおかずのリンゴ人に配りつ 黙すればリーゼント風に髪立てるシャッター通りの老いたる床屋 軒下のバーバーポールは止まりゐて老いたる夫婦は客を待ちをり 栃木 加 藤 富 子 木の葉浮く露天の風呂に一人いる勤労感謝できる幸せ 鬼怒川の水音高くなる夜は友の寝息が静かに聞こゆ 施設にて俳句を作り投稿す強き意欲の八十路の媼 ☆ ☆ 63 退院の予定が組めて表れる夫の顔に期待の笑顔 友よりの映画の誘い断りて今日も夫まつ病院へ行く キッチンの窓辺に一つポインセチア咲きて嬉しき思いに満たさる 新聞の投稿欄で出逢えたる嬉しい言葉「健老輝老」 愛知 児 玉 孝 子 明けがたの金星下弦と向き合うて輝き冴ゆる冬空臨む 起震車に体験したる震度六突き上げ強く瞬間揺さぶる 荒ぶ日の俄に晴るるは面白し並ぶ民家を囲み虹立つ 年末に小さき冷蔵庫買い替えぬ五年保証に夫と苦笑す 新しく入会したる「冬雷」の見開く頁に安らぐ新年号 年祝ぎて一年一度の賀状なり面輪を浮かべ言葉書き添う ☆ ☆ (☆印は新仮名遣い希望者です) 広島 藤 田 夏 見 胸に沁む陛下の言葉「戦いの犠牲となりたる商船乗組員」 商船の乗組員のわが父は難破三度を生き残りしとう 魚雷受け仲間は海に散りたれど難破船より生き帰りし父 水泳の得意な奴がまっ先に沈みゆきしと酔い語りし父 もがきつつ目の前で沈みし幾人を言いつつ涙のとどまらぬ父 難破船の板につかまり果てしなき海を幾日か漂いし父 嵐にも時化にも負けぬ巨大船魚雷ひとつで難破せしとぞ ビキニ環礁核実験の証人と語りしという父の繰言 64 号を一冊丸ごと掲載している。電 いただきたい。ここでは毎月最新 には折々冬雷ホームページをご覧 ▽パソコンが使える環境にある方 ▽十首選も今月から新しい方々に ちを引き締めて頑張りたい。 のある素晴らしい欄である。気持 歌歴も大きな幅がありながら活気 て選ばれた特選欄であり、年齢も その月の最も優れている作品とし 品一・作品二・作品三欄の中から せて戴く事になった。この欄は作 今月から「月集欄」の批評を書か 品二欄」を赤羽佳年氏の布陣。他 也氏、「月集」を小林芳枝氏、「作 変 更 と な る。「 冬 雷 集 」 を 中 村 哲 戴きたい。封筒の裏の記名なども ても受け付けてしまうのでご注意 にATMの場合は記入漏れがあっ ▽寄附御礼 ようお願いします。 (小林芳枝) る事である。歌というものの素晴 ▽本号より作品欄批評担当が一部 しさを味わえる。 (大山敏夫) 投函する前にもう一度確認される 石田里美 三村芙美代 ▽誤植訂正 作品を読むだけでも十分価値のあ 目的も重要だが、でも、ただその 多く楽しい作業となった。本来の み辿っているが、とても学ぶ所が 編 集 後 記 子書籍の感覚で誰でも気軽に読め 2月号 田昌三氏・作品二欄を髙橋説子氏・ ▽今月は編集人の不注意により連 の考え方をぶつけて欲しい。 過剰な遠慮は無用である。若い人 頁5行目 は継続である。中村氏は、まだ自 らは作品三欄の所属ながら勉強家 担当して戴くことになった。半年 間継続なので一月号から六月号ま で歌壇の作品などにも精通してい るのである。また、紙の誌面より も、いち早く様々な情報を発信し での各欄より感銘を受けた作品を 作品三欄を天野克彦氏にお願いし 絡がうまくつかず「今月の三十首」 選んで頂くことになる。今回は月 ている。掲示板や短歌投稿欄への に親しんでいただければ、いつで た。人の歌をじっくり読み込む楽 荒島岳→茅ヶ岳 〃 頁 行目 池之端→池の端 15 14 頁4行目 姿に→友の姿に 行目 BMT→BMI 第 6 研修室 午後1時~5時まで 頁 *お気軽にご参加下さい。 投稿も自由に参加できる。例会は も冬雷短歌会との楽しい時間を持 しさが味わえるので多くの方に担 が休載となった。この欄は二三箇 *ゆりかもめ「 豊洲 」駅前 る。 そ の 活 動 力 を 高 く 評 価 し て、 〃 敢えて「冬雷集」担当を指名した。 〃 つことができる。 月余裕を持たせて「依頼」を出し 「豊洲シビックセンター8階」 です。 集欄を赤羽佳年氏・作品一欄を和 ▽リンク集に「湘南の暇人・デジ 当して戴きたいと考えている。 54 38 24 (出席者の誌上掲載作品を批評) 毎月一回だが、冬雷ホームページ タ ル カ メ ラ 歴 史 紀 行 」( 関 口 正 道 ているが、もし貴方のもとに依頼 氏のホームページ)、「富岡村便り」 やってみたいという方が居られま が届いたら、自信を持って挑戦し したら小林までご連絡下さい。 歌 雑 記 」( 中 村 哲 也 氏 の ブ ロ グ ) ▽作品を送る場合にご自身の県名 のために土屋文明先生の作品を読 ▽過去回想の助動詞「し」の勉強 や 氏 名 を 書 き 忘 れ る 方 も あ る が、 て欲しい。 ( 天 野 克 彦 氏 の ブ ロ グ )、「 北 山 の がある。こちらにもぜひアクセス を。 (桜井美保子) 会費等の振込用紙にも無記名のも ▽この度、作品批評の担当が替り、 のがあり困惑することがある。特 編集後記 23 3月 13 日( 第2日曜日 ) 。 冬雷本部例会のご案内 ≲冬雷規定・掲載用≳ り執行する。 ≲投稿規定≳ 一、歌稿は月一回未発表十首まで投稿できる。 一、本会は冬雷短歌会と称し昭和三十七年四 月一日創立した。(代表は大山敏夫) 一、事務局は「東京都葛飾区白鳥四の十五の 原稿用紙はB5判二百字詰めタテ型を使 担当選者は原則として左記。 再入会の方は「作品三欄」の所属とする。 切りは十五日、発表は翌々月号。新会員、 が二枚以上になる時は右肩を綴じる。締 作品欄担当選者宛に直送する。原稿用紙 用し、何月号、所属作品欄を明記して各 九の四〇九 小林方」に置き、責任者小 林芳枝とする。(事務局は副代表を兼務) 一、短歌を通して会員相互の親睦を深め、短 歌の道の向上をはかると共に地域社会の 文化の発展に寄与する事を目的とする。 一、会費を納入すれば誰でも会員になれる。 一、長年選者等を務め著しい功績のある会員 作品一欄担当 大山敏夫 作品二欄担当 小林芳枝 一、Eメールによる投稿は作品一欄及び二欄 頒 価 500 円 ホームページ http://www.tourai.jp を名誉会員とする事がある。 一、会員は本会主催の諸会合に参加出来る。 作品三欄担当 川又幸子 一、表記は自由とするが、新仮名希望者は氏 名の下に☆印を記入する。 一、無料で添削に応じる。一通を返信用とし て必ず同じ歌稿を二通、及び返信先を表 記した封筒に切手を貼り同封する。一週 間以内に戻すことに努めている。添削は 入会後五年程度を目処とする。 一、事情があって担当選者以外に歌稿を送る にて左記で対応する。なお、三欄所属の 方は実際の締切日より早めに投函する。 ≲Eメールでの投稿案内≳ 千円 A 普通会員(作品三欄所属) 方のEメール希望者も、次のどちらかの データ制作 冬 雷 編 集 室 印刷・製本 ㈱ ローヤル企画 発 行 所 冬 雷 短 歌 会 350-1142 川越市藤間 540- 2-207 電話 049-247-1789 事 務 局 125-0063 葛飾区白鳥 4-15-9-409 振替 00140-8-92027 一、月刊誌「冬雷」を発行する。会員は「冬雷」 に作品および文章を投稿できる。ただし 取捨は編集部一任とする「冬雷」の発行 所を「川越市藤間五四〇の二の二〇七」 とし、編集責任者を大山敏夫とする。 一、編集委員若干名を選出して、合議によっ て「冬雷」の制作や会の運営に当る。 一、会費は月額(購読料を含む)次の通りと し、六か月以上前納とする。ただし途中 退会された場合の会費は返金しない。 B 作品二欄所属会員 千二百円 *会費は原則として振替にて納入する事。 C 作品一欄所属会員 千五百円 〉 [email protected] 〉 [email protected] 選者宛に送る。 大山敏夫〈 小林芳枝〈 D 維持会員(二部購入分含む)二千円 E 購読会員 五百円 一、この会則は、平成二十七年十二月一日よ 《選者住所》 大山敏夫 350-1142 川越市藤間 540-2-207 TEL 090-2565-2263 川又幸子 135-0061 江東区豊洲 5-3-5-417 TEL 03-3536-0321 小林芳枝 125-0063 葛飾区白鳥 4-15-9-409 TEL 03-3604-3655 2016 年 3 月1日発行 編集発行人 大 山 敏 夫
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