ダークライト 34

34 ダークライト
Dark Light
光は出すが姿は見せない。
黒子としてのダウンライトの基準が、ここにある
照明デザイナーの発想は「はじめに光ありき」
穴であるから、できるだけ小さくて目立たな
よって直下方向に落とすというのが基本原理
である。すなわち空間を構成する壁、床、天
いほうが良い。このような建築家の要望に応
である。ダークライトの発明は、照明器具の
井などに、どんな光があったら良いかをまず
えて、1950 年代後半に、エジソン・プライ
存在を完全に空間から消すことに成立した。
考える。そして決して照明器具の選択を急が
スというアメリカの技術者がダークライトを
その後これに似た鏡面の反射鏡を持った照明
ない。照明器具の役割は、じっくりと組み立て
開発した。ダークライトとは、天井の穴が一
器具が多く開発された。しかし残念なことに、
られた空間の光を具現化することにある。だ
切光らずに光だけを出す道具のことであり、
それらの8割方は単に効率を上げるためだけ
から照明器具には高い光学性能が要求される
それは、反射率の高いアルミを素材とした三
の工夫に終わっている。優れたダークライト
反面、無駄な装飾は排除されるべきである。
次曲面の鏡をつくることによって、実用化さ
は、白い天井に完全に溶け込んでしまう不思
例えば、ダウンライトは、天井に開けられた
れた。光源から発せられた光を曲面ミラーに
議な魔力をもっている。
クイーンズスクエア横浜
非ダークライト
ダークライト
クイーンモール1階
このような形式のダウンライトがダークライトの思想から最も遠いところにあ
下方への光度を上げながら天井面での存在感を消すための光学制御が駆使され
このダウンライトは、床面に光のベルトを敷くた
る。反射板は鏡面ではなく白色に塗装されており、光は全方向に拡散する。ダ
ている。ランプは人の通常視野内の見上げ角から導かれたグレアカットオフア
めに、スプレットレンズを使用して長方形の光を
ウンライトで照らし出されるべき空間の主役は何であるかという事とは全く無
ングル 40°の位置にセットされる。そのランプ位置とサイズ、開口径から導かれ
生み出している。光源に小型メタルハライドラン
関係に、天井面で輝きその存在を主張する。器具外へ照射される光は決して少
た曲線を反射鏡形状とすることで、ランプの発する光束をすべてその配光内に
プを使用したこともあって、照明器具の下部反射
なくないのだが、ダークライトに比べて直下の照度は低く、器具効率も低い。
納めてしまう。天井面ではアルミ材の表面が極めてわずかに拡散する光以外に
鏡の輝度が高くなることが心配された。そのため
光源の存在感は全くない。暗い穴から発する光、すなわちダークライトである。
に下部反射鏡を黒ツヤ消しの仕上げとしている。
1997年