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米国大学図書館における利用者行動調査と
ラーニング・コモンズの整備について
−ロチェスター大学とジョージア工科大学の事例−
川
井
奏
美,野
田
晶
子
抄録:検索ツールや学術情報資料の電子化が進む現在,大学図書館に求められる役割が変わりつつあり,専
任職員の必要性についても議論されている。変化する利用者のニーズをどのように調査し,応えるかについ
て,ロチェスター大学,ジョージア工科大学の利用者行動調査と,ラーニング・コモンズの事例を報告す
る。
キーワード:ロチェスター大学,ジョージア工科大学,ラーニング・コモンズ,利用者行動調査,ワーク・
プラクティス,サブジェクト・ライブラリアン
1.はじめに
2.ロチェスター大学(University of Rochester)の
検索ツールや学術情報資料の電子化,Google な
どの Web 検索エンジンの普及により,大学図書館
を取り巻く環境は大きく変化している。図書館利用
者は図書館職員に頼らずとも,各自でリソースを利
用することが可能となり,図書館職員が専門的知識
を提供して資料探しを手伝うといった従来型のレ
ファレンスサービスの需要は減りつつある。これは
アメリカの大学図書館も例外ではなく,米国研究図
書館協会(Association of Research Libraries,以下
1)
ARL)の統計 によれば,1991 年から 2011 年の 20
年にかけて,ARL 会員図書館におけるレファレン
ス処理の件数は 65%減少している。
我が国でも「大学図書館の整備及び学術情報流通
2)
の在り方について(審議のまとめ)」 において「大
事例
ロチェスター大学は,アメリカのニューヨーク州
北西部のロチェスター市にある共学の私立大学であ
る。学部生数は約 5,700 人,大学院生数は約 4,300
3)
人 で,U.S. News & World Report で発表された
4)
National University Rankings 2013 では全米 281
大学中 33 位にランクされている。キャンパスは近
くを流れるジェネシー川に沿って全部で 3 つあり,
今回はそのうちの 1 つのリバーキャンパスにある
Rush Rhees Library を訪問した。
ロチェスター大学図書館では,利用者のニーズを
把握するために,人類学の研究手法を用いて調査を
行った。
学全体の管理運営費が削減される状況の中で,人件
費も含めた大学図書館運営費も例外ではなく,非常
に厳しい状況にある。」と論じられているように,
専任職員の必要性の再検討についても議論されてい
る。
今回の訪問調査では,レファレンスサービスの重
要性を提唱し発展させてきたアメリカの大学図書館
を訪問し,このような電子化時代において新たに発
生する利用者のニーズをどのように把握し,応えて
いるか,また,図書館業務をどのようにとらえてい
るかについて,利用者のニーズを把握するため,人
類学の研究手法を用いた調査を行ったロチェスター
大学と,利用者から聞き取り調査を行いラーニン
グ・コモンズを複数設置しているジョージア工科大
学を訪問調査した。
写真ઃ Rush Rhees Library
この調査は,2003 年から 2008 年にかけて研究
者,学部生,大学院生の順に行ったものであり,ロ
チェスター大学図書館ではこの調査を行うために,
人類学者の Nancy Fried Foster 博士を起用した。
1
米国大学図書館における利用者行動調査とラーニング・コモンズの整備について
調査では,研究対象の行動を詳細に観察し記録し
ていくというワーク・プラクティスという研究方法
が用いられた。
ロチェスター大学図書館では,この調査から得ら
れた利用者のニーズを図書館が提供するサービスや
この調査の結果,「1 つの大きな空間の中に,
役割の異なる小さなスペースがいくつも欲し
い。」という学生の要求があることがわかった。
具体的には,飲食ができる場所,パソコンが使
える場所,仲間と一緒に議論や勉強ができる場
施設に活かしている。
今回の訪問では,どのような調査を行ったのか,
調査の結果どのようなニーズが把握され,その結果
所,くつろげる場所,静かに勉強できる場所,
これら全てが 1 つのエリアに集約されて欲しい
というものである。Foster 博士によると,こ
どのようなサービスを開始したのか,またそのサー
ビスに対する利用者の反応はどうだったのかを図書
館職員の方へのインタビューを通じて調査した。
事前にメールにて問い合わせた際,ロチェスター
れはたとえ違うことをしていても,仲間と同じ
空間を共有したいという潜在的欲求を学生が
持っているのではないかということである。
大学図書館の Senior Library Assistant である Mari
Lenoe 氏 を ご 紹 介 い た だ き,充 実 し た 訪 問 ス ケ
ジュールを組むことができた。
2.1 利用者の行動調査
今回の訪問では,幸運にも調査の中心となり指導
された Foster 博士から直接お話を伺うことができ
た。伺ったのは,主に学部生に対して行われた行動
調査の内容についてであり,それは次のようなもの
である。
①定点観察
これは Rush Rhees Library で行われたもの
で,1 日 3 回 14 時・18 時・22 時の時点で学生
がどのような行動をとっているかを 1 週間かけ
て観察するものである。学生がとっている行動
については以下のように記録した。
A− Academic Work(勉強や研究活動)
R− Recreation, Break(休憩)
L− Laptop, Tablet(パソコン等の機器を所持)
B− Book, Printed Materials
(紙媒体の資料を使用)
○で囲む− Interactive(周囲の人物と交流)
Z− Sleep(睡眠)
観察の結果,予想をしていたよりも「A」の
学生が多いことが判明した。また,夜になるほ
ど利用者が多くなることもわかった。調査を行
う職員の勤務時間の都合上 22 時以降の調査を
行うことができなかったが,図書館の開館時間
は夜中の 3 時までなので,2 時くらいが最も多
いのではないかと推測をしている。
② Design Workshop
これは,学生にどのような図書館を望んでい
るかについて自由にデザインを提案させるとい
う調査法である。学生はテーブル,椅子,ソ
ファなどの配置について自由に提案し,その場
所で何がしたいかなどを自由に書き込んだ。
2
また,調査時点においての図書館に対して,
陽光が足りていないという不満点があることも
判明した。
③ Photo Surveys
これは学生に対して様々な題を与え,その題
への答えを写真に撮ってきてもらうという調査
法である。学生に与えた題には以下のようなも
のがある。
・あなたの部屋は?
・あなたの机の上は?
・あなたがスケジュール管理に使っているもの
は?
・あなたのお気に入りの場所は?
これらの問いに対する答えを写真に撮ってき
てもらい,その後写真をもとに学生に対してイ
ンタビューを行った。
一見すると図書館とは直接関係ない調査に見
えるが,これは学生の行動や思考を理解するた
めに行ったものであり,撮影された写真を事前
にインタビュアーが見ることで,学生に対して
の理解を深め,より有益なインタビュー調査を
行うことができるとのことである。
④ Mapping Diaries
これは学生の一日の行動を地図上に記しても
らう調査法である。
この調査により,学生の多くは朝から夜遅く
まで授業やクラブ活動,アルバイトなどで忙し
く,個人の勉強に使用できる時間は夜遅くから
であることが判明した。これは①定点観察の調
査で明らかになったことを改めて証明してい
る。
Mari Lenoe 氏によると,ロチェスター大学
の学生の 8 割以上はキャンパス内の寮に住んで
いるので,夜遅くに図書館を利用している学生
が多いのではないかということであった。
大学図書館研究 XCVIII(2013.8)
⑤質問カード調査
Foster 博士によると,これは失敗した調査
方法とのことである。
調査方法としては,簡単な質問を書いたカー
ドをランダムに選択した図書館利用者に配り,
回答してもらうというものである。
経費が安くすみ,また短い時間で多くの回答
を得られる調査法だが,質問事項が短いためか
回答も短いものが多く,加えて質問自体が短す
ぎて何を聞いているかわからないといった意見
があった。また,回答者をランダムで選んだた
め,冗談で回答するものも多かったそうだ。
だ。また,一人一人がこのプロジェクトに関わった
ことにより,職員の意識が高まり,調査外の通常業
務時にも利用者を観察し,小さな発見をするように
なったとのことである。
2012 年 10 月に訪問した時には,ちょうど学生に
対する 2 回目の行動調査が行われていた。その一部
である Photo Surveys の途中経過を見学したが,す
でに 1 回目(2004 年)の結果と異なる結果が現れ
始めているとのことであった。この調査終了後,1
回目の結果と比較研究を行った上で,学生の行動や
思考の変化などが論じられる予定である。
これらの多様な調査は,Foster 博士指導のもと,
すべて図書館職員が行った。
2.2 行動調査に基づく改装
設置−
今回の訪問では,このプロジェクトに当初より参
加しているメンバーである David Lindahl 氏(Soft-
Gleason Library は,前項で述べた行動調査,特
に Design Workshop の結果をもとに 2007 年に改装
が行われたエリアである。名前に Library とある
が,独立した施設ではなく,Rush Rhees Library
ware Development Director ),Katie Clark 氏
(Associate Dean),Judi Briden 氏(Digital Librarian for Public Services)からプロジェクトの進め
方について話を伺った。当初はこの調査に対して懐
疑的な職員もいたため,最初は意欲のある職員がイ
ンタビュー調査を行い,その過程をビデオで撮影
し,その映像を皆で見ることにより意欲を高め,調
査員の数を増やしていったとのことである。
次に,それぞれの調査法に対して担当するリサー
チグループを作った。各々のグループがそれぞれ調
査を行い,その結果を話し合うという作業を繰り返
すことにより,より深い分析を行うことができたと
のことである。
ロチェスター大学図書館が,従来行われているよ
うなアンケート調査ではなく,ワーク・プラクティ
スという研究手法を取ったのは,研究者,学部生,
大学院生がその研究過程の始めから終わりまでに何
をしているのか知りたいと考えたからである。具体
的には,研究にどのようなツール(本・雑誌・デー
タベースなどのリソース)を利用しているか,どの
ような人(教員・学友・家族など)と関わっている
かなど,研究過程におけるあらゆるものを知りたい
−Gleason Library の
の 1 階部分に作られている。
このエリアに入って最初に目に入るのは,壁一面
の大きなガラス窓である(写真 2)。このガラス窓
は Design Workshop の結果得られた「陽光が少な
い」という不満点を解消するために作られたもので
ある。
写真઄ Gleason Library
と考えたため,この手法を取ったそうだ。
業務の傍らでこのような調査を行うことは,負担
ここに置かれている椅子,机などの家具類は全て
可動式であり,学生は自由に動かすことができ,動
になったりしなかったのかと質問をしたところ,
「大変ではあったが,全体として皆楽しんで行って
いた。私は 20 年間図書館で働いているが,この調
査 を 行 っ て い た 時 が 一 番 楽 し か っ た 」と Judi
かされた家具は年に一回卒業式の前に業者に依頼
し,再配置を行っている。
Briden 氏は語った。
このプロジェクトを行ったことにより,図書館職
員にも変化があった。まず,調査を協力して行った
ことにより,異なる部署間の連携が密になったそう
Gleason Library は Design Workshop で得た結果
を反映し,1 つのエリアにそれぞれ異なる機能を
持ったスペースを配置している。例えば写真 3 の奥
にある小部屋はホワイトボードやプロジェクション
スクリーンが置かれたグループスタジオであり,全
部で 4 つある。
3
米国大学図書館における利用者行動調査とラーニング・コモンズの整備について
時間中は職員もしくはアルバイトの学生がいるが,
閉館後は管理する人員は誰もいない状態となる。安
全上の問題はないのか質問したところ,以下のよう
な回答を得た。
・キャンパスに学外の人が来ることは滅多にな
く,また Gleason Library への入り口は学外者には
わかりにくいため,あまり心配をしていない。
・緊急時に使用する電話を設置してある。
24 時間開館というのは魅力的ではあるが,安全
上の観点から見ると,日本において同様の形で実現
写真અ
グループスタジオ
することは難しいと感じた。
2.3
写真 4 の奥にある入り口よりさらに奥へと広がっ
ているエリアは「Quieter area」と呼ばれているエ
リアであり,このエリアでは静かにすることが求め
られる。
また写真 5 のような簡易な壁で仕切られた,個人
あるいは少数人数での学習に向いているスペースも
用意されている。
写真આ
Quieter area
サブジェクト・ライブラリアンの役割
多くのアメリカの大学図書館には,サブジェク
ト・ライブラリアンが存在している。サブジェク
5)
ト・ライブラリアンは,呑海沙織(2004) によれ
ば,
「サブジェクト・ライブラリアンとは『特定の主
題分野における選書や蔵書構築,情報リテラシー教
育等を行い,研究者や学生とその関連分野を接点と
して関わりを持つ図書館職員』」(p.193)
と定義されている。
ロチェスター大学図書館には 22 人のサブジェク
ト・ライブラリアンが在籍している。全員が予算を
持ち,各自が担当する主題分野のコレクションやリ
ソースを購入している。そして,教員とコンタクト
を取り,何を購入するか相談したり,学生のクラス
へ行き,リソースの使用法などの説明を行ったりし
ている。
またロチェスター大学図書館では,近年日本の大
学図書館でも行われつつあるライティング指導を,
サブジェクト・ライブラリアンが行っている。ロ
チェスター大学では大学の方針として以下の卒業要
件を設けている。
・1,2 年生でライティングのクラスを取る。
・3 年生で 2 つの Paper(論文)を書く。
このため,図書館ではライティング・センターと
協力してライティング指導を行っている。上記のよ
写真ઇ
Individual study carrels
この Gleason Library のエリアだけは,基本的に
24 時間開館している。Rush Rhees Library の開館
4
うにライティングに関する卒業要件が大学の方針と
して定められているので,ライティング・センター
との連携をとりながらライティング指導を図書館職
員が行うことは比較的スムーズに進んでいる。
ロチェスター大学図書館では,サブジェクト・ラ
イブラリアンは図書館の広報についての役割も担っ
ている。広報ツールの 1 つとして作成されたのが写
真 6 の「ライブラリアンカード」である。
大学図書館研究 XCVIII(2013.8)
このカードはミソネタ州のカールトン・カレッジ
で行われている取り組みを,許可を得て真似したも
な部署の会議に顔を出し,教職員にアピールしてい
る。教職員へのアピールだけでなく,学生にもア
のである。カードの表側はサブジェクト・ライブラ
リアンが映画や小説などのキャラクターに扮した姿
が印刷されており,親しみやすく,思わず手に取っ
ピールする必要があると考えているため,学生が
行っている催しものの手伝いなどにも積極的に関わ
るようにしている。
て見てみたくなるカードとなっている。カードの裏
側には,メールアドレスや Course Resource ページ
への QR コードが書かれている。Course Resource
このような活動の 1 つ 1 つは大きな結果を得られ
ないかもしれないが,全ての活動が合わさった時,
大きな結果を得られると考えている。
ページというのは,主題分野ごとに作られた Web
ページであり,その主題分野で役に立つ本やデータ
ベースなどのリソースが紹介されている。また,担
Katie 氏は図書館と図書館職員の未来について,
当するサブジェクト・ライブラリアンの顔写真,
メールアドレスや電話番号などの連絡先も掲載され
ており,これも 1 つの広報ツールとしての役割を
持っているといえる。
写真ઈ
ライブラリアンカード
2.4 ロチェスター大学図書館職員が考える未来
これからの大学図書館と図書館職員のあり方につ
いて,次のとおり Katie Clark 氏の考えを伺った。
決して暗い展望は持っていなかった。それはやは
り,長い時間をかけて行った行動調査によって,利
用者の要求を掴んでいるという自信の表れではない
かとかと考える。
3.ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)の事例
ジョージア工科大学は,ジョージア州アトランタ
にある州立大学である。1885 年に創立され,アメ
リ カ 合 衆 国 の 大 学 ラ ンキ ン グ で は毎 年 上 位に入
4)6)
名門大学である。学生数は 2011 年時点で約
る
21,000 人(学部生は約 13,000 人)で,年々増加傾
向にある。ジョージア工科大学図書館は East building( Crosland Tower ),West Building,Clough
Commons 3rd building の 3 つの建物からなってお
り,ラ ー ニ ン グ・コ モ ン ズ の 増 改 築 は こ れ ま で
2002 年 に West Commons( West Building 1 階 ),
2006 年 に East Commons( East Building 1 階 ),
2009 年に 2 West(West Building 2 階),2011 年に
Clough Commons(Clough Commons 3rd building)
の 4 回行われている。
学生に対する行動調査を通じてわかったことは,
学生の要求が減っているわけでは決してないという
ことである。しかし,現実問題として紙媒体の図書
館資料は減少し,その管理や利用方法を教えると
いった従来の業務は減少傾向にある。図書館職員は
新しい要求に着目して新たな仕事を見つけていくべ
きである。現在,ロチェスター大学図書館で行って
いる E-リソースの使用方法を教えることや,ライ
ティング指導などもその 1 つである。
その上で,本を電子化したり,別の場所に移動さ
せたりし,空きスペースをつくり,そこを学生の学
習スペースとしていくことを考えるべきである。ロ
チェスター大学図書館では,今後学習スペースを更
に増やしていく予定である。また,図書館職員は図
書館にこもらず,学内の様々な人と関わっていく必
要がある。ロチェスター大学図書館では学内の様々
写真ઉ 図書館入口
3.1 施設・設備の内容
3.1.1 West Commons
West Commons(以下 WC)は 2002 年に設置さ
れ た。設 置 の 経 緯 な ど は「 ア メ リ カ 出 張 報 告 −
5
米国大学図書館における利用者行動調査とラーニング・コモンズの整備について
ジョージア大学・ジョージア工科大学・テンプル大
7)
学」 に詳しい。現在の WC はコンクリート床を改
装して底上げされた OA フロアに,約 80 台の PC
が設置されている。これらの PC は,以前はタワー
型だったが,現在はリモートデスクトップ型のシン
クライアントに変更され,場所をより広く使えるよ
うになった。
また,タワー型の時は 3〜5 年周期で交換してい
た本体を 5〜7 年周期で交換すればよくなったため,
機器メンテナンスにかかる費用も軽減された。80
台の PC の利用状況は全てリアルタイムで図書館
8)
ウェブサイトから確認できる 。ジョージア工科大
学の学生はノート PC が必携であるが,WC の利用
写真ઊ 改装の経緯を記したポスター
率は非常に高く,夜間は常にほぼ満席の状態であ
る。
WC には以前マルチメディアスタジオも設置され
Computing,映画上映や講演会,プレゼンテーショ
ン 等 が で き る Performance Space が 作 ら れ た。
Group Computing では約 30 台の PC と,PC1 台に
ていたが,現在は WC の地階へ移動した。スタジ
オでは専用ソフトや機材を自由に使うことが可能で
ある。スタジオと同等の機材は各学部の研究室にも
置いてあるが,新入生には利用しにくいことから設
置された。スタジオの設置後,専用ソフトを利用し
てのポスター作りが必須授業となる等,スタジオの
機能を生かすための授業が教員と図書館のサブジェ
クト・ライブラリアンの協力により考えられた。使
い方のわからない学生のために,使い方のヒントが
9)
書かれたチラシ・教材等も作成し,配布 してい
る。スタジオには専任職員が常駐しており,専用ソ
フトの使い方やトラブル対応について相談すること
ができる。
対して複数の椅子が用意されており,2〜6 人での
共同作業が可能となっている。
Performance Space では電源の増設と可動性の高
い什器が設置された。電源の増設については,EC
が設置されている East Building は 1970 年代の建物
であるため,現在のような電気機器の利用は想定さ
れておらず,電源が圧倒的に不足していた。そこで
天井にレールを設置し,電源を備えた滑車を走らせ
ることで,任意の場所に電源を移動させ,利用でき
るようにした。
3.1.2 East Commons
East Commons(以下 EC)は 2006 年に改装され
た。EC の壁に改装の経緯を記したポスターが貼ら
れている。WC に続く 2 番目の改装ではあるが,学
生が何を求め,何を必要としているかを本格的に調
べ,学生の声を反映させるのはここから始まった。
調査にあたっては図書館へ苦情を言ってきた学生
を全て集めてフォーカス・グループ・インタビュー
を行う,1 週間おきにユーザーの様子をビデオで
とって利用者の動向を把握するといった作業を行っ
た。図書館にとって幸運なことに,後述の学生自治
会のような組織のメンバーがフォーカス・グループ
の中にいたため,意見を集めやすかったということ
である。
調査の結果,WC がどちらかというと個人利用向
けであるのに対し,EC はグループでの利用を目的
に設計され,ソファで寛いだり展示を行うことので
きるエリア,PC を使って共同作業ができる Group
6
写真ઋ Performance Space
可動式の什器については,机や椅子,パーティ
ション等が全て動かせ,パーティションは折り畳ん
での収納も可能である。床の模様に沿って椅子を並
べることで劇場的な雰囲気を作ることができ,設置
されているカメラで撮影もできる。
これらのエリアについては全て意図的に壁を作ら
ず,エリア同士が混在し,見渡せるよう配置されて
いる。このため,利用者は各エリアを好きなように
大学図書館研究 XCVIII(2013.8)
移動し,これらを組み合わせて自由に空間を作り,
作業することが可能となっている。
れた。WC・EC には無かった仮眠が取れる場所や
グループで討論が行える場所も追加される等,まさ
3.1.3 2 West
2009 年に WC の上階に改装された 2 West は,
に WC・EC の機能強化拡大版と言える。また開設
当初はライティング・センターもあったが現在は
Clough Commons に移動した。2 West の改装によ
WC と EC の経験を集約し発展させた場所だと言え
る。
12)
り,図書館は利用調査でも高い評価を受けた 。
rd
3.1.4 Clough Commons 3 building(The G. Wayne
Clough Undergraduate Learning Commons)
最も新しいこの Clough Commons(以下 CC)は
2011 年,学生数が増加し,更なる学習環境の必要
性を感じたことから,Caroline Noyes 博士の行った
13)
フォーカス・グループとの調査 を基に建設され
た。CC は 3 年生以上も利用可能であるが,主に
1・2 年生を集めることを意図している。CC 建設以
前,3 年生以上の高学年や大学院生は,自分たちの
専攻学部に研究室があったが,1・2 年生には構内
写真 10 2 West
West Building 2 階全体が 2 West で,金・土の夜
以外は 24 時間利用可能である。学生に意見を求め
た 中 で も 最 も 内 容 の 濃 い も の に な っ て お り,2
West の殆どは学生によってデザインされた。改装
の経緯や行われた調査の概要は図書館ウェブサイト
10)
で公開されている が,改装以前の 2 West は大き
な机が置かれているだけの暗い場所で,照明も電源
も少なかった。利用者ニーズの調査は 2 West の壁
に張り紙をし,要望を書き込んでもらうことから始
まった。集めた要望を元に改装の許可を得て,改め
てフォーカス・グループを設定し,同時に掲示板や
学部へ直接出向いて意見を集めた。また,図書館員
自身も利用者の要求に応えられるよう家具について
綿密な情報収集を行った。これらの調査で集められ
た 2 West への学生の要求は,やはり電源の増設と
11)
什器についてが主であった 。電源不足について
は,EC で行ったレール式は 2 West の構造上設置
できなかったため,電源付の家具や柱を設置するこ
とで解消し,什器のデザインや機能・配置について
は,フォーカス・グループを中心にデモンストレー
ションや学生による投票,プレゼンテーション等を
繰り返し行い決定していった。
最終的に 2 West には,WC・EC よりも容易に動
かせたり組み合わせたりすることが可能なパーティ
ションや什器,現在の利用に対応でき,また将来利
用が増えても対応可能な大容量電源と環境,WC・
EC よりも快適な什器を備えたラウンジ等が設置さ
に専用の研究室が無かった。そこで CC を建設する
ことで居場所を作り,また,同じ場所に集めること
で,新入生に大学という共同体への連帯感を持たせ
ることが期待されている。East Building と West
Building は 本 を 保 存 す る た め,光 が で き る だ け
入ってこない設計であるのに対し,CC は学生が長
時間滞在することが前提にあるため,できるだけ自
然光を取り入れるよう設計されている。また,建物
の建材から内装まで全てが将来に渡って持続可能か
どうかにも注意が払われており,地元の製品や再生
製品,あるいは再生可能であることが優先されてい
る。CC においても,豊富な電源と柔軟性がある快
適な家具や環境は重要視されており,CC 内は全て
2 West と同等かそれ以上の電源と環境が用意され
ている。WC・EC・2 West に無かった,或いは以
前は存在したが CC に移された機能としては 1・2
年生専用研究室,Communication Center,Practice
Room,Tutoring,Support Center 等がある。
3.1.5 研究室
CC の各階は学部ごとに分けられており,各学部
の階それぞれに各学科専用の研究室がある。1・2
年生は自分の学科の研究室を 24 時間いつでも自由
に利用することが可能である。
3.1.6 Communication Center
Communication Center は 2 West にあったライ
ティング・センターが移動したものである。
土曜以外は専門スタッフが常駐し,学術文書の作
成,レポートや論文を書く際に必要な PC ソフトの
使い方,スピーチの際の話し方や身振り手振りと
7
米国大学図書館における利用者行動調査とラーニング・コモンズの整備について
いった非言語コミュニケーション等,授業をこなす
ために必要な指導やサポートを受けることができ
る。ここでも様々な種類の家具が配置されているた
め,学生は指導を受ける際に立ったままでも椅子に
掛けてもクッションに寝転んだりしても良く,また
指導は 1 対 1 でもグループでも受けることが可能で
ある。補習の一部もここで行われている。ジョージ
ア工科大学ではスピーチやプレゼンテーションの授
業が必須であるため,このような専門家の指導は不
可欠である。
以前は WC に 1 部屋あったが,24 時間常に予約
が殺到しており,予約が取れない学生もいたため,
CC ができる際に学生からの強い要望により 4 部屋
に増設された。また,WC にあった頃はグループで
利用することだけを目的としていたのでとても簡単
な作りであったが,現在は就職活動の練習もできる
ように,室内の内装は 4 部屋とも実際の企業の会議
室を模して作られている。
3.1.8 Support Center 及び Tutoring
サポートセンターは CC 内に複数存在する。総合
案内所に当たる Core Help Desk,必携 PC 等に対
する技術的なサポートを行う Technology Support
Center,授業に関するサポートを行う Advising 等
があり,学生は自分に合ったセンターを利用するこ
写真 11
Communication Center
とができる。
Core Help Desk は CC 入り口にある。深夜 2 時
過ぎまで開いており,学生はここへ来て,ありとあ
らゆる相談ができる。専門スタッフが常駐し,利用
者の相談に直接答えたり,必要に応じて適切な部署
を紹介したり,指導員との面談を斡旋・予約してい
る。
3.1.7 Practice Room
モニタやカメラ,特殊効果のための撮影機材等,
授業で使われるものと同じ設備が置いてあり,利用
者は自由に操作することができる。利用者はここ
で,機材の操作方法を練習したり,カメラで自分の
姿を撮影して,映像作品の製作やスピーチ・プレゼ
ンテーションの練習を行うことができる。上述の通
り,ジョージア工科大学ではスピーチやプレゼン
テーションの授業は必須であるため,学生の利用率
は非常に高いという。
写真 13
Core Help Desk
必携 PC が故障したといった学生は Technology
Support Center で相談することができる。サポー
トはメールや電話でも行っており,また現在構内で
起きている技術トラブルは全て掲示されているの
で,大学全体で問題を共有することができる。PC
メーカー各社と協力関係にあり,PC を安価で購入
することも可能である。
Advising には,各専攻に対して専用のアドバイ
ザーがおり,学生はどんなクラスを取ればよいか,
写真 12 Practice Room
学位の要件,奨学金を取るにはどうしたら良いか,
など,大学生活を送る上でわからないことがあれば
何でも尋ねることが可能である。この他にも学校生
8
大学図書館研究 XCVIII(2013.8)
活を充実・向上させるためのセンターや専用プログ
ラムがあり,望む学生は,好きなプログラムを選ん
ル・掲示板・ツイッターやフェイスブックといった
既存の手段の他に,D-スカウトという意見収集専
で参加することが可能である。
また,補習専用センターも設置されており,授業
がわからなかった時はここで補習を受けることがで
用のアプリケーションが開発されており,図書館と
きる。補習は 1 対 1 でもグループでも受けることが
可能である。利用率は非常に高く,25%の学生がこ
こで補習をうけており,CC 開館の 2011 年は延べ
14)
44,000 時間の利用があった という。
CC はこの他にもカフェや読書スペースや展示場
所等も兼ね備えており,図書館の枠組みを超えた巨
大な複合施設となっていた。WC・EC・2 west と
の一番の違いは建物全体がコモンズであるという点
である。WC・EC・2 west は図書館内の一部分を
コモンズとして利用しているが,CC は廊下にも机
やプリンターが置かれるなど,建物全体が連続した
コモンズとしての機能を備えており,その中に研究
室や各種センターが入っているという,WC・EC・
2 west とは逆の発想で作られていた。各コモンズ
の利用者ニーズの調査の結果,利用者の最大の要望
は常に豊富な電源と快適で柔軟性のある(利用者が
自由に動かせる)環境であったことを考えると,こ
のような CC の設計は,利用者の要望に応えたもの
であるといえる。実際に,CC は多い日で 1 日 1 万
3 千人もの利用者がおり,1 年では 220 万人にも
上った。コモンズ以外の図書館スペースの利用者が
1 年で 110 万人であることを考えると,いかに CC
の利用が多いかがわかる。
3.2 利用者ニーズの調査
これらの各コモンズ設置に当たって,ジョージア
工科大学図書館では,フォーカス・グループに意見
を求めたり,投票を行ったりと,常に利用者である
学生のニーズに沿った改装を行ってきた。現在は主
に,Student Advisory Board(以下 SAB)という
組織との連携によって学生のニーズを把握してい
る。SAB はジョージア工科大学の学生組織で,メ
ンバーはいくつかの条件をクリアした学生の中から
推薦によって選出される。SAB は活動内容によっ
て分かれており,図書館の SAB もその中の 1 つで
ある。他と同様に選出された学生からなっており,
コモンズについての学生の意見がリアルタイムで写
真と共に送られてくるようになっている。
3.3 人的支援・教育課程との連携
これまでジョージア工科大学図書館は 4 つのコモ
ンズを設置してきたが,その設置・運営共に,大学
の情報部門である Office of Information Technology
15)
(以下 OIT)と提携 し,共同で行ってきた。両者
の提携は,2002 年の WC 設置の際,両部門が協力
しあい,一貫性・継続性・信頼性のある質の高い
サービスを提供することを目的に同意書が交わされ
始まった。同意書では,技術スタッフ,サーバ等機
材の提供と維持は OIT が行い,開館中のサービス
や建物・什器の維持管理は図書館が行う等,お互い
がどのようなサービスを提供し,どのように資金分
担をするか等が細かく定められている。提携を行う
前から,OIT は大学の運営や経営面に,図書館は
学術や教育面にそれぞれが広い範囲で関わり,独自
のサービスを提供してきたため,両者が融合するこ
とで視野が広がり,効率も良くなるなど,提携のメ
リットは非常に大きかったという。CC にある各学
部の研究室や WC のマルチメディアスタジオと
いった,図書館の範囲を超えた機能を設置すること
が可能であったのは,この両者の連携によるもので
あり,また,CC ができたことで,2 つの機関がよ
りいっそう融合できるようになったため,学生の要
求により一層対応できるようになったという。
また,OIT だけでなく,他部署や教授とも連携
を行って学習支援も行っている。ジョージア工科大
学では,図書館員は教員の一部として考えられてお
り,学生教育や調査は図書館員の当然行わなければ
ならない職務であると考えられている。そのため,
図書館案内や,どのように調査するかといった図書
館の利用法を教える以外に,各学部・分野のサブ
ジェクト・ライブラリアンが担当学部の資料をどの
ように提供できるのか,どんな資料があるか等を教
授と相談し,教えることもある。また,大学で提供
する授業の中に図書館の科目が設定されており,そ
年 6 回行われる会議によって図書館サービス,プロ
グラム,改築等,図書館への要望を集めて提出す
の授業も図書館員が受け持つとのことであった。ま
た学生組織である SAB と同様に,教員についても
る。これまでの 4 つのコモンズ増改築において,
SAB はフォーカス・グループのメンバーにもなっ
ており,図書館に欠かせない組織であるといえる。
また,SAB のメンバーでなくても図書館に意見を
Faculty Advisory Board が組織され,コモンズ等
の図書館計画について会議を行う等,図書館との連
携の強化が図られている。
送ることができるようになっている。電話・メー
9
米国大学図書館における利用者行動調査とラーニング・コモンズの整備について
3.4 ジョージア工科大学図書館とコモンズの今後
ジョージア工科大学図書館と OIT が設置した 4
チやプレゼンテーションが必須授業であるからこそ
学生に求められたものである。ライティング単位の
つのコモンズは,いずれも概ね好評であったが,
WC に設置した PC の数が足りない,EC の Group
Computing で作業していると Performance Space
取得が卒業要件として定められている,或いはス
ピーチやプレゼンテーションに関する授業が必須で
はないことが多い日本の大学において,ロチェス
の音が気になり集中できない,といった問題点が出
てきた。また,West Building と East Building は
古い建物であるため,水周りや電気系統等にも課題
ター大学やジョージア工科大学と同様のことを試み
が残っている。そこで現在,West Building と East
Building が所蔵している図書資料は全て保管倉庫
等に移動させ,West Building と East Building を
CC のようなコモンズに改装する計画が進んでい
る。図書館と OIT,Advisory Board といった各機
関が協力し,2020 年までに完全に改装を完了させ
る予定であるという。改装後は,OIT との連携は
今より一層進み,また図書館に紙媒体の資料の所蔵
が無くなることで,今まで以上に電子コンテンツの
専門的な管理と提供が求められるのではと考えられ
る。
4.日本の大学図書館の現状と課題
4.1 高い専門知識を持った図書館職員の必要性
2.3 の項でも述べた通り,今回訪れた 2 大学とも
にサブジェクト・ライブラリアンが存在する。アメ
リカにおけるサブジェクト・ライブラリアンとは,
図書館学修士に加え,自分が担当する主題分野の修
士以上の学位を必要とする職位であるため,大学院
生以上の研究者に対して,より専門的なアドバイス
を行うことが可能となっている。日本の大学図書館
においては,職員を採用する際,資格・学位は不問
となっていることが多い。そのため,専門知識の獲
得は職員の独学に頼っているのが現状である。今
後,ライティング指導など従来の図書館業務と異な
る新たな業務を図書館職員が行う場合,専門知識が
求められる可能性は高い。図書館員に一層の努力が
求められるのは勿論であるが,同時に大学図書館は
図書館職員にどのような知識が必要とされるのかを
明文化し,大学に提示する等,質の高い職員の育成
や獲得に努める必要があるのではと考える。
4.2
大学の方針に沿った活動
今回訪れた 2 大学図書館とも大学全体の運営方針
に沿った活動を行っていた。ロチェスター大学では
ライティングの単位を卒業要件として定めている大
学の方針があるからこそライティング指導の需要が
ても成功するとは限らない。成功するためには,ま
ず大学の方針を確認し,それに沿った図書館の新た
な役割を模索する必要がある。日本の国立大学であ
れば,各大学が定めた中期目標や計画が大学の方針
といえる。図書館はそれらを踏まえた役割を考える
必要があるが,そのためには図書館に何ができるの
か,何が必要かを図書館だけでなく大学全体で共通
認識を持ち連携する必要があるのではと考える。
4.3 利用者ニーズの把握
大学の方針を確認するとともに,やはり重要なの
は利用者が求めていることを把握するということで
ある。今回,ロチェスター大学とジョージア工科大
学を訪問し,改めて利用者ニーズを把握することの
重要性を認識した。利用者ニーズの把握のために
は,2 大学で行われたような利用者の声を直接集め
る調査を長期的に行う必要がある。ただし,日本に
おいて 2 大学で行われた調査方法をそのまま実践す
ることができるかどうかは熟慮する必要がある。
ロチェスター大学図書館では,利用者が持ってい
る隠れた要求を発見するために,ワーク・プラク
ティスを行った。これは研究対象の行動を詳細に観
察し記録していくという調査方法であるため,研究
対象者に調査のための時間を多く割いてもらう必要
がある。そのため,ロチェスター大学図書館では,
調査の協力者に対して謝礼の支払いを行っている。
例えば,Photo Surveys の協力者に対しては 40 ド
ルの謝礼を支払っている。その費用は当初,図書館
予算より捻出していたが,最近では調査結果をまと
めた本を出版することにより,そのロイヤリティで
賄っているとのことである。このように調査対象の
時間と協力を多く必要とする調査を実施するにはそ
れなりの費用がかかる。高騰する外国雑誌と増加す
る電子リソースにかかる費用によって,圧迫されて
いる現在の日本の大学図書館予算の現状を考える
と,ロチェスター大学図書館のように幾通りもの調
査方法を試すことは困難といえる。
ジョージア工科大学図書館では,利用者調査を開
生まれ,図書館がライティング指導を行うための下
地となっている。また,ジョージア工科大学におい
始した当初は,図書館側から学生の意見を求めに行
く活動を行っていた。しかし現在は,学生が図書館
に自分たちの要求を提出するという動きが強く,図
て調査の結果設置された Practice Room は,スピー
書館は調査方法よりも,絶えず挙げられる要望を,
10
大学図書館研究 XCVIII(2013.8)
如何に効率よく集めるかに重点が置かれているよう
に感じた。これは,Advisory Board が組織され,
学生の参加も多いジョージア工科大学の特性による
ものであり,この調査方法を別の大学にそのまま持
ち込んでも良い結果は得られないと思われる。ツ
イッターやフェイスブック,専用アプリケーション
での調査についても,日常的に電子機器を使いこな
すことが求められる工科大学の学生だからこそ気軽
に参加できるのであり,このような電子媒体での調
査よりは,紙媒体や対面調査の方が有効な大学もあ
るのではと思われる。
このように両大学の成功は,自分の大学にあった
調査と分析を行い実行することができたためであ
り,日本の大学が利用者ニーズの調査を行うに当
たっては,図書館予算や学生の性質などを考慮し,
それぞれの大学にあった調査と分析を工夫して行う
必要がある。また利用者ニーズを調査できたとして
もそれが何故必要なのか,何に使うのか,利用者の
意図するところを正確に把握し実行することができ
なければ,ニーズに応えることはできない。さら
に,変化し続ける利用者のニーズを把握するために
は,調査を継続的に行う必要性もある。
以上のことから,利用者ニーズの調査のために
は,自機関の利用者の特性について理解し,どのよ
うな調査をすれば良いのか長期的に試行錯誤できる
環境と,継続的な調査を実施できる職員が不可欠で
あると強く感じた。
5.おわりに
金沢大学附属図書館では 2008 年に ARL が提供
する LibQUAL + TM 2008 に参加し利用者調査を
16)
行い,その結果 をもとに 2010 年 4 月ラーニン
グ・コモンズを設置した。しかしこの調査は主に図
書館サービスを評価する調査であり,利用者が持っ
ている潜在的な要求を把握するためにはもう少し踏
み込んだ調査が必要であろう。
今回の訪問では,それぞれタイプの異なる利用者
調査を行った 2 大学を訪れ,話を伺うことができ
た。どちらの大学においても,利用者の隠された要
求を把握するために長い時間をかけ,様々な角度か
ら調査を行っていた。日本の各大学図書館において
も,利用者の潜在的要求を把握するため,利用者の
性質に合わせた実現可能な調査方法を探っていくこ
とが今後の課題と考える。
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金沢大学附属図書館>
Kanami KAWAI, Akiko NODA
Research into library use behaviors and facilities and services for learning commons in U.S. university
libraries - Case study of the University of Rochester and Georgia Institute of TechnologyAbstract:There are changing expectations of the role of research libraries and even debates on the
necessity of having professional staff now that discovery tools and digitized scholarly information resources
have become so prevalent. This paper reports on a study trip made by the authors to visit the University of
Rochester and Georgia Institute of Technology to investigate how these two libraries are using surveys to
learn about changing user needs, and examples of how they are meeting those needs such as establishing
learning commons.
Keywords:University of Rochester / Georgia Institute of Technology / learning commons / user surveys /
work practice / subject librarians
12