社会資源 −がん専門相談員に必要な知識と活用― 平成25年度相談支援センター相談員基礎研修 独立行政法人 国立がん研究センター東病院 患者・家族支援相談室/医療連携室 坂本 はと恵 1 本日のポイント がん患者とその家族を取り巻く、社会的・経済的問題の現状を 知る 社会資源の種類と性格について理解する 患者・家族に社会資源の利用を推奨する際の留意点を知る がん専門相談員が担う役割 がん患者・家族が、がんの発病に伴い直面している 様々な困難の受容を助け、 必要な支援資源を同定し、適確につながる支援を行う 2 本日の講義内容 Ⅰ. 日本人とがん ・がんの現状 ・がん患者・家族を取り巻く社会的・経済的問題 Ⅱ. 社会資源とは ・社会資源とは ・がん患者・家族が活用できる公的制度の種類、内容、適応 ・がん患者への就労支援 Ⅲ. 社会資源利用にむけて ・病院内で実践できる工夫 ・社会資源を紹介する際の留意点 3 日本人とがん 1981年以降 死因の第1位 男性の2人に1人、女性の3人に1人は、 一生のうちにがん診断を受ける 病名が告知される傾向:1993年27%・1998年 71% 国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス統計より 4 年齢階級別罹患率の年次推移 (1985年・2005年の比較) 女性:乳がん・子宮がん・卵巣がんが20歳代から50歳代前半の罹患率が増加。 生産年齢人口(15歳∼64歳)の新規がん罹患数:男性11万人・女性10万人 5 部位別5年相対生存率 全がん:56.9%(2000-2002年) 甲状腺がん・皮膚がん・乳がん・精巣がん: 80%以上 喉頭がん・膀胱がん・子宮体がん・ 子宮頸がん:70∼80% (Matsuda,et al:Jpn J Clin Oncol,2010) 一般市民の認識: 5年生存率は4~5割という認識 (高橋都:日本人のがんイメージ調査 2011) 6 年齢階級別死亡率の年次推移 (1965年・1985年・2009年の比較) 男性:40歳代から60歳代の死亡率は変化が小さく、80歳代以上の死亡率が増加 女性:40歳代から60歳代の死亡率が減少し、85歳以上の死亡率が増加 7 日本における死亡者数と死亡者推計 現在約85%の国民が病院で死亡 今後、施設や自宅での看取りの増加は必要不可欠 8 病院死・在宅死の年次推移 (がん以外の疾患も含む) 1976年逆転 100 80 60 病院死 40 在宅死 20 在宅死:15.3% 2006年時点 0 1952 1962 1972 1982 1992 2002 ※ 病院死=病院・診療所・助産所 在宅死=自宅・介護老人保健施設・老人ホーム 2006年度人口動態調査 1C 上巻 死亡 第5.5表_死亡の場所別にみた年次別死亡数より 9 死に直結するがん < 慢性病としてのがん 社会とどう共存しながら療養生活を維持していくか 5年相対生存率と一般市民の認識の違い がんに対する正しい認識を普及する必要性 超高齢化社会と核家族化の社会のなかで、 看取りの場をどう確保するか ⇒個別的には、どういった問題があるのか 次の項目で確認しましょう。 10 本日の講義内容 Ⅰ. 日本人とがん ・がんの現状 ・がん患者・家族を取り巻く社会的・経済的問題 Ⅱ. 社会資源とは ・社会資源とは ・がん患者・家族が活用できる公的制度の種類、内容、適応 ・がん患者への就労支援 Ⅲ. 社会資源利用にむけて ・病院内で実践できる工夫 ・社会資源を紹介する際の留意点 11 若年層がん患者の社会的問題 家族 ・がん患者の24%に18歳未満の子供がいる。 ・核家族化も進んでおり、子供の世話にあたる親族が近くにいない。 ・遺児のグリーフケアを提供する場の少なさ 経済面・就労 ・がんの罹患が就労に及ぼす影響 診断時に就労していた患者の23.6%が退職、診断前後で同じ 職場に勤務していたのは、55.2%であった。※1 ・家族も皆就労しており、介護・通院支援=家族全体の収入減少に 制度面 ・介護保険未適用の40歳未満の末期がん患者に対する救済措置の少なさ ・その他の制度も外部機能障害重視であり、適応になることが少ない ※1「働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究」班 「治療と就労の両立に関するアンケート調査」結果報告書,2012 12 がん治療が就労にもたらす影響 分子標的治療の場合(N=497) 固形がん治療全体(N=2059) 0 500 1000 24% 影響はなかった これまでのように仕事をこなすこ とができない 仕事を辞めた 収入が減った 仕事を休むことが多くなった 勤務時間・営業時間が減った 異動・配置換え・転職となった その他 19% 529 470 17% 393 14% 306 11% 5% 146 16% これまでのように仕事をこなす ことができない 21% 仕事を辞めた 21% 収入が減った 15% 仕事を休むことが多くなった 12% 5% 勤務時間・営業時間が減った 105 188 その他 140 99 77 35 52 8% 0 固形がん治療全体(N=2059) 137 3% 18 異動・配置換え・転職となった 2% 51 7% 影響はなかった 655 50 100 150 分子標的治療の場合(N=497) 濃沼信夫,2010 13 患者会・患者調査でも「就労」は重要課題 雇用就労問題 ・入院準備、引き継ぎの苦労 ・配置換え、昇進試験からはずされる ・通院早退に対する同僚の陰口 ・職場での病名公表の是非、健康診断への対応 ・正社員35歳の壁 ・採用面接での病名公表の是非 経済的問題 ・任意保険に加入していなかった ・医療費確保のために仕事を休めない、やめられない ・治療別の医療費の見通しを知りたい ・家族に金銭的負担をかけるのが心苦しい 高橋都・宮下美香:若年性患者が直面する心理社会的問題と支援ニーズ,2008 14 就労の悩みの相談状況 がんであることを 相談する時間が なかった 知られたくなかった 2% 2% その他 何を相談したらいい 7% かわからなかった 7% 相談する気力が なかった 7% 相談すると不利益 が生じると思った 8% 相談の助言に期待 できなかった 9% 相談相手が いなかった 13% 相談するほど 困っていなかった 31% 相談するという発想 がなかった 14% 就労問題に関する相談相手の不在や不信 →安全かつ効果的に相談できる窓口の充実が求められている。 産業医のいない中小企業勤務者、非正社員、扶養家族がいないものは、優位に退職リスクが高い →こういった危険因子を持つ患者への支援が特に必要 「働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究」班 「治療と就労の両立に関するアンケート調査」結果報告書,2012 15 高額な抗がん剤治療一覧 例:消化管がん ここでは、現在、日本で保険承認を受けている、消化管がんに対する分子標的治療薬 の一部をお示しします。 [体重60㎏ 体表面積1.5㎡の患者に対し、1か月間にできる最大コース数を実施した場合] 承認年 治療薬 適応がん種 投与 スケジュール 薬価 (1か月・10割) 薬価 (1か月・3割) 2007年 アバスチン + mFOLFOX6※ 大腸がん転移再発 2週毎 281,201円 84,360円 スーテント 腎がん転移再発 4投2休 957,152円※ 287,145円 ネクサバール 腎がん転移再発 毎日 651,120円 285,336円 アービタックス 大腸がん転移再発 毎週 946,092円 283,827円 パニツムマブ+ mFOLFOX6※ 大腸がん転移再発 2週毎 738,994円 221,694円 2008年 2010年 ※併用薬剤。他の薬剤を併用するレジメンもあります。 16 がん治療と経済的問題の現状と課題 経済的問題を抱える患者のうち、ある一定の患者は、がん治療の継続を断 念、あるいは処方を遅らせるなど、治療継続に否定的な結果に至っている。 ・ 日本において臨床医691名を対象に調査した結果:11.8% ・ アメリカにおいて患者169名・家族131名を対象に調査をした結果:51% 分子標的治療薬の治療中の患者の経済的負担は年間平均152万円。 その他の治療患者の経済的負担は年間100.7万円と、1.5倍の差異がある。 分子標的治療薬治療中の患者の認識として、医療者側からの医療費負担の 説明や支援策の情報発信は不足していると感じており、情報による支援を希 望している。 ・ 病院側からの経済的負担についての説明の有無 →「十分な説明を受けた」:42% ,「説明はなかった」:36% ・ 患者の要望 →「がん医療の経済的負担についての正確な情報がほしい」:47% 濃沼信夫2010,Mellace.Jennifer2010,竹中文良ほか2010,武田貴美子2003 17 在宅における医療行為の実施状況 在宅酸素療法 549 在宅自己導尿 950 92,084 46,958 1,330 在宅成分栄養経管栄養法 568 在宅悪性腫瘍患者 11,227 6,035 497 993 在宅中心静脈栄養法 44 400 在宅自己疼痛 0 10000 20000 1991年 30000 2007年 40000 50000 ※1999年を100として比較 市川玲子ほか:「在宅療養」をささえるすべてのひとへ,2009 18 一人暮らし・夫婦のみ高齢者世帯の増加 2000 1803万 1800 1901万 1600 1400 1355万 生涯(50歳時)未婚率 (2030年推計値) 1200 1000 800 600 400 851万 (62.8%) 1161万 (64.4%) 1267万 (66.6%) 2015年 2025年 男性:29% 女性:23% 200 0 (万世帯) 2005年 単独世帯及び夫婦のみ世帯 世帯主が65歳以上 厚生労働省:第73回社会保障審議会介護給付費分科会資料,2012 19 治療の長期化 治療の完遂のためには、社会の理解・経済的問題の解決等 社会生活の基盤の確保が必要不可欠 若年層や核家族のがん患者の増加 介護の担い手は、必ずしも家族ではない時代 在宅療養の実現には、社会資源の有効な活用が必要不可欠 ⇒医療現場においても社会的・経済的問題に積極的に関わり、 社会資源の有効な活用を発信していくことが重要 20 本日の講義内容 Ⅰ. 日本人とがん ・がんの現状 ・がん患者・家族を取り巻く社会的・経済的問題 Ⅱ. 社会資源とは ・社会資源とは ・がん患者・家族が活用できる公的制度の種類、内容、適応 ・がん患者への就労支援 Ⅲ. 社会資源利用にむけて ・病院内で実践できる工夫 ・社会資源を紹介する際の留意点 21 社会資源とは 患者・家族の周囲にあり、患者・家族の問題の解決・課題達成・ニーズの充足に 活用できるものすべてを社会資源という。 「ソーシャルワークの業務マニュアル」大木和子他,川島書店,2004 これらすべてが社会資源 • 公的制度 : 高額療養費制度・身体障害者手帳・障害年金・生活保護など • 公的機関 : 市役所・保健所・地域包括支援センター・児童相談所など • 医療 : 検診センター・診療所・がん診療連携拠点病院・緩和ケア病棟など • 施設 : 老人保健施設・グループホーム・高齢者専用賃貸など • 物品 : 車いす・電動ベッド・手すり・点滴スタンドなど • 人的資源 : 訪問診療・訪問看護・ヘルパー・ケアマネージャーなど • 患者・家族とそれを取り巻く人々で作り出すシステム : 患者会・遺族会など 22 がん治療に伴う生活上の困難と社会資源 診断初期 療養上 の 困難 ■診断への疑問 ■療養場所の選択 ■住居・食物・金銭的問題 ■雇用・学校の問題 ■文化・言語の問題 治療開始・入院 ■治療の決定・理解 ■介護者の有無 ■子供の世話の代行 ■妊娠 ■移動手段の確保 ■公的制度・人的資源の 調整・導入・連携 支援に 用いる 社会資源 *生活費・医療費の支援制度 ・傷病手当 ・障害年金 ・生活保護 ・高額療養費と医療費控除 *生命保険やがん保険 *アスベスト給付金 *適切な医療機関への 受療支援 ■文化・言語への支援調整 *通訳 *入管管理局・大使館との連 携 ■社会資源・人的資源の 調整・導入・連携 *成年後見人制度 *児童相談所・子育てNET *卵子・精子凍結保存 *移送サービス ■副作用対策への支援 *カツラや補正下着などの 情報提供と購入支援 退院・社会復帰 進行・再発期 終末期・死別 ■生活の再構築 ■社会復帰 ■介護負担 ■診断への疑問 ■終わりの見えない治療 ■終わりの見えない医療費 ■治療の選択・理解 ■民間・代替療法への思い ■療養の場の移行 ■残される家族の生活の 問題 ■就労支援 ■民間療法・代替療法への 理解促進 ■社会資源・人的資源の 調整・導入・連携 *生活を支える支援資源 ・介護保険 ・地域包括支援センター ・配食サービス ・民生委員の訪問 ・身体障害者手帳 *医療資源 ・訪問看護ステーション ・訪問診療 ・訪問リハビリ ほか *保護的サービス ■療養場所選定の 相談支援 ■臨床試験の理解促進 *緩和ケア病棟 *一般病棟 *在宅ホスピス ■緩和医療の情報提供 ■看取りに向けた支援 ■修学・就労に継続の支援 もしくは、休学・退職への サポート *単身者の引き取りや埋葬 *献体や臓器提供に関して 患者の意向に伴う関係 機関との調整援助 *法的支援(遺言書など) ■移送手段の確保 ■家族の介護環境整備 *介護休暇 *ショートステイ 高齢者マンションの活用 ■遺族の生活の再設計 *経済的自立 (遺族年金・就労など) ■遺族への悲嘆サポート *遺族会への橋渡し Sanson-Fisher 2000, Hill 2003, Boberg 2003,, Osse 2005, Yamaguchi 2007 23 社会資源を活用する際に必要な視点 がん種類と病期は? 治療の経過・時期・ 今後の見通しは? 予定されている治療に 伴う副作用や身体機能の変化は? 本人?家族? 本人・家族の病状認識は? 不安・抑うつ・ 意欲の消失などのこころの状態は? 経済状況 社会的役割 (家庭の中での役割・就労状況) 住環境・ 居住地の社会資源の状況 サポーターの有無 [必要な視点] • 疾患の特性と治療に伴う身体の変化を見据えた、社会資源の見極め(何かを補うことで可能か?) • 患者・家族の病状認識を踏まえた関わりが必要不可欠 • 本人だけでなく、家族全体を、相談支援の対象者と捉える 24 本日の講義内容 Ⅰ. 日本人とがん ・がんの現状 ・がん患者・家族を取り巻く社会的・経済的問題 Ⅱ. 社会資源とは ・社会資源とは ・がん患者・家族が活用できる公的制度の種類、内容、適応 ・がん患者への就労支援 Ⅲ. 社会資源利用にむけて ・病院内で実践できる工夫 ・社会資源を紹介する際の留意点 25 公的制度を理解する際のポイント 支給要件:対象者の把握 a)年齢や加入保険に関わらず、一定額以上の医療費負担が生じ た場合や、経済的困窮になった場合に利用することができる 制度 b)加入保険により、利用することができる制度 c)一定の障害が生じた場合の制度 d)年齢によるもの 申請時期:遡及請求の可否 等 申請窓口:場所・郵送での申請の可否 等 支給内容:市町村で内容が異なるもの 所得により内容が異なるもの 等 いずれにしろ、日本における公的制度は、原則申請主義。 社会資源によっては、緊急的に対応する必要があります。 26 がん患者が利用可能な公的制度 問題のタイプ 医療費 負担軽減 所得保障 制度名 申請窓口 高額療養費制度 健康保険組合 小児慢性特定疾患治療 研究事業による医療費助成 各市区町村健康福祉センター 【対象】18歳未満の患者 【申請時期】 初診時に申請 石渡(アスベスト)健康被害給付 保健所・環境再生保全機構・ 地方環境事務局など 【対象】 石綿を吸入することにより中皮腫・肺がん・ 石綿肺・びまん性胸膜肥厚を発症した患者 【申請時期】 診断時 高額医療・高額介護合算制度 各市町村介護保険窓口 【申請時期】 毎年8月から1年間の医療保険と介護 保険の自己負担額の合計が、基準額を超えた場合 傷病手当金 会社担当者もしくは 社会保険事務所 【対象】 雇用保険の被保険者 【申請時期】 会社を休んだ日が連続して3日間あり、 4日目以降も休んだ場合 障害年金 年金事務所 【申請時期】 初診時から1年6か月経過後 (障害が固定されると判断される場合は、その事実が 生じた日) 生活保護 各市町村福祉事務所 【対象】 他の制度を利用しても、生活費が生活保護法 で規定する最低生活費に満たない場合 身体障害者手帳 各市町村障害福祉担当窓口 【対象】 視覚・音声・言語機能・内臓機能などの障害を 有する患者 【申請時期】 障害が固定したと判断されたとき 生活福祉資金 各市町村 社会福祉協議会 生活保障 対象者・申請時期 【対象】 医療保険による1か月の医療費自己負担額 が一定の金額を超えた場合 【対象】 低所得、障害者、高齢者世帯 【備考】 低利もしくは無利子 27 高額療養費制度 −制度概要− 制度概要・申請時期 ・ 医療機関や薬局の窓口で支払った医療費の金額が、 暦月(月の初めから 終わりまで)で一定額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超えた金額が 保険者より支給される ・一定額(自己負担限度額)とは : 年齢と所得により異なる ・遡及請求期限 : 診療を受けた月の翌月の初日から2年間 基本的制度概要に加えて理解しておきたいこと ・基本的な制度の活用に加えて、付随して利用できる制度が活用できて いるか確認することも重要 →委任払い制度、貸付制度、限度額認定証、多数該当、世帯合算 →医療機関医療費と院外処方の合算申請 (厚生省通知:昭和48年10月17日保険発第95号、庁保険発第18号) 最近の変更点 ・2012年4月より、限度額適用認定証が外来にも拡大 28 高額療養費制度 −実際の活用例− 大腸がん転移再発 アービタックス(セツキシマブ)単剤の投与例(1か月の医療費) 項目 回数 金額 初回アービタックス 1回 215,364円 2回目以降アービタックス 3回 430,728円 その他薬剤費 4回 8,000円 診療費 4回 64,800円 CT検査 1回 26,320円 総医療費(10割) 745,212円 窓口支払額(3割) 223,564円 自己負担限度額:80,100円+(総医療費−267,000円)×0.01 窓口支払額(3割) 223,564円 自己負担限度額 84,882円 高額療養費支給額 138,682円 総医療費 745,212円(10割) 保険給付 521,684円(7割) 29 障害年金 −制度概要− 制度概要・申請時期 ・病気やけがが原因で生活や労働に障害を来したとき、生活を保障するため に支給される年金 ・申請時期 : 初診日から1年6か月経過したとき ・遡及請求期限 : 支給対象となる事項が発生してから5年を経過したときは、 時効によって消滅する 障害年金等級の目安 障害の等級 障害の程度 1級 他人の介助を受けなければほとんど自分の用が足せず、 活動の範囲が病院ではベッド周辺、家庭では室内に限ら れるもの 2級 必ずしも他人の介助は必要ないが、日常生活が極めて 困難で、活動の範囲が病院では病棟ない、家庭では家 屋内に限られるもの 3級 傷病が治癒したものにあたっては、労働が著しい制限を 受けるかまたは労働に著しい制限を加えることを必要と する程度 傷病が治癒しないものにあたっては、労働が制限をうけ るか、または労働に制限を加えることを必要とする程度 対象者 国民年金 厚生年金 共済年金 加入者 厚生年金 共済年金 加入者のみ 日常生活を行う 能力の低下や 喪失が基準 労働能力の 喪失度合 30 障害年金 −実際例− 申請時期について がん その他 身体状況 障害認定日 人口肛門造設 装着日 人口膀胱・尿路変更術 装着日 喉頭全摘出 摘出日 在宅酸素療法 療法開始日 胃ろう等の恒久的措置実施 原則6か月経過日以降 治療による副作用による倦怠感・悪心・嘔吐・下痢貧血・体重減少 などの全身衰弱 初診日から1年6か月 人口骨頭・人口関節・切断・離断・心臓ペースメーカーなど 施術もしくは状況発生日 申請を推奨する際に相談員が意識して行いたいこと ・診断書作成の橋渡し:「現症時の日常生活活動能力及び労働能力」と就労状況申立書の整合性 ・就労状況申し立て書記入の支援 a) がんの発症から現在までの時系列にまとめる b) 日常生活で不便を感じていること、支障のある状況は別紙でまとめ添付することも可能 →例:症状と職務内容の関連づけ 給与が下がったことも明記するとよい 食形態・栄養状態も含め健常時と現状を比較する 31 身体障害者手帳 −制度概要− 制度概要・申請時期 ・視覚・音声・言語機能またはそしゃく機能、肢体、内臓機能などの障害を有し、 その障害が、障害固定(永続する)と判断された場合に、手帳が交付される。 ・申請時期 : 疾患により、障害固定とみなされる時期や目安は異なる。 通常は、障害が発生した日から、概ね3∼6か月後の判断。 ・遡及請求の対象制度ではない。手帳取得後にサービス利用可能となる。 基本的制度概要に加えて理解しておきたいこと ・がん患者で対象となるケース a)人口肛門・人口膀胱を永久的に造設した場合 b)喉頭部摘出による音声機能喪失 c)肢体に関しては、指定医と要相談 ・受けられる支援 自治体により異なる。 代表的なものは、ストマ装具、人口喉頭、ネブライザーの購入費支給 32 身体障害者手帳 −実際例− ネブライザー・電気式痰吸引器の購入費補助 ・対象者:呼吸器機能障害3級以上または同程度の身体障害者 であって必要と認められる者。 ・呼吸器機能障害3級とは: 呼吸器の機能の障害により、家庭内での日常生活活動が 著しく制限されるもの。予測肺活量1秒率が20を超え30 以下または、動脈血酸素分圧(PaO2)が50トールを超え、 60トール以下であるもの。 日常生活用具給付額の例 ・電動式人口咽頭:基準単価70,100円 ・ストマ装具:畜便袋基準単価8,600円/畜尿袋11,300円 →利用者の自己負担は、実際にかかる費用の1割 (所得に応じた自己負担限度額あり) 33 生活保護 −制度概要− 制度概要 ・他の制度を利用しても、生活費が生活保護法で規定する最低生活費に 満たない場合、申請の対象となる。 ・生活保護の原理 : 無差別平等、他制度優先、最低生活の保障 ・申請から受理までの所要期間 : 福祉事務所は、申請書受理後14日以内に保護受給の可否を申請者 に通知する。(調査に日数を要する場合は、30日まで延長可能) 基本的制度概要に加えて理解しておきたいこと ・最低保護費は年齢や世帯構成により異なります。 →例:高齢者夫婦世帯 94, 500円(住宅扶助・医療費扶助等は別) ・原則として、死亡と同時に保護下から外れるため、ターミナル期の患者 を受け持つ場合は、看取り後の手続きについて、事前に生活保護担当者 と連携が必要不可欠。 34 生活保護 −事例− A氏 50代男性 家族構成:本人・兄(精神障害)・母(住民票のみ自宅・施設入所中)と同居。 妹は、結婚し別居。本人の受療に協力的である。 現病歴:下咽頭がん 頚部リンパ節転移 治療歴:化学放射線療法(6か月間) 経緯 緊急性の度合い 治療の見通しは? 当院初診時には、緊急気管切開を要する状態であり、緊急入院。 病状認識は? 入院後、治療計画について医師より本人に説明を行ったところ、「働かなけ れば生活できない。今持っているお金じゃ、この入院費も払えない。死んで もいいから帰してくれ。」と混乱された様子。 本当にそうなのか? 「一度市役所に相談に行ったが、兄や母の障害年金や持家があるので、 生活保護を申請するのは難しいと言われている。受療のために何か策は ないか一緒に考えてほしい。」と妹が相談室に来室し、MSW介入。 制度の柔軟性は どこまで適応できる? 35 生活保護 −事例− 治療目的の確認(根治目的か延命目的か等) →保護の緊急性の判断 利用する社会資源の同定 資産活用の原則 →車がないと生活が成り立たない地域か否かや、 自宅そのものに資産価値があるか否かの視点から検討 →身体の生命に影響を及ぼす衛生状態についても 保護申請時の手持ち金の認定について考慮 →最低生活費の5割を限度とし、保護開始時の保有を容認 保険の解約返戻金は、資産として活用させるのが原則 (ただし、返戻金が、最低生活費の概ね3か月以下)の場合は、保 護を適用して問題ない) 社会復帰時の支援 →仕事の再開=生活保護の廃止ではない 36 介護保険 −制度概要− 制度概要・申請時期 ・被保険者が入浴、排せつ、食事等の日常生活について要介護状態である場合 などに保険給付の対象となる ・申請時期 : ①65歳以上の者は、原因を問わず要支援・要介護状態となったとき ②40∼64歳の者は、16種類の特定疾患が原因で要支援・要介護状態と なったとき (がんの場合は、医師より完治の見込みがない状態と判断された場合) 基本的制度概要に加えて理解しておきたいこと ・主治医意見書作成の際して:要介護度取得を目指すためにも、 「病状進行が速く、急速に身体機能が低下する可能性あり」などと備考欄 に記入することをおすすめします。 ・要介護度が取れたとしても、ターミナル期のがん患者が介護保険を利用 するメリットは福祉用具利用と入浴サービスを利用に限られます。 37 第2号被保険者 16種類の特定疾患の診断基準(がん) 【診断基準】 以下のいずれかの方法により悪性新生物であると診断され、かつ、治癒を目的とし た治療に 反応せず、進行性かつ治癒困難な状態(注)にあるもの。 ① 組織診断又は細胞診により悪性新生物であることが証明されているもの ② 組織診断又は細胞診により悪性新生物であることが証明されていない場合は、 臨床的に腫瘍性病変があり、かつ、一定の時間的間隔を置いた同一の検査 (画像診査など)等で進行性の性質を示すもの。 注)ここでいう治癒困難な状態とは、概ね6月間程度で死が訪れると判断さ れる場合を指す。 なお、現に抗がん剤等による治療が行われている場合であっても、症状 緩和等、直接治癒を目的としていない治療の場合は治癒困難な状態にあ るものとする。 厚生労働省老健局老人保健課 通知,2009年3月 38 家族全体への支援 住宅ローンの返済 ・制度:団体信用生命保険、債務返済支援保険、返済支払保険など ・内容:ローン契約者がけがや病気により就労不能となった場合や、死亡 した場合に、保険金が支払われ、借入の返済に充てられる。 任意保険のため、契約の有無について要確認。 子供の学費 ・制度:奨学金制度の利用 例)日本学生支援機構・あしなが育英会など ・内容:経済的理由により修学困難な学生に対し、学費の貸与を行う 制度。 遺族年金 ・制度:年金加入者が死亡した場合、加入年金の規定に沿って、遺族へ 年金が支給される ・内容:遺族年金の支給額は、亡くなった人の職業、家族構成、年金未納 金の有無などにより異なる。 例)子1人の妻に支給される遺族基礎年金の金額=1,015,900円/年 39 本日の講義内容 Ⅰ. 日本人とがん ・がんの現状 ・がん患者・家族を取り巻く社会的・経済的問題 Ⅱ. 社会資源とは ・社会資源とは ・がん患者・家族が活用できる公的制度の種類、内容、適応 ・がん患者への就労支援 Ⅲ. 社会資源利用にむけて ・病院内で実践できる工夫 ・社会資源を紹介する際の留意点 40 治療と就労に関連する悩みごと 治療形態に関すること ・外来治療だと、外来日以外は仕事を休んではいけない気がする。 治療後は副作用で身体もきついのだが、職場の人にさぼっている と思われるのではないか。 ・治療日を週末にしてもらえると、極力仕事を休まずに仕事に出勤でき る。なんとかならないか。 従来の業務内容と、治療に伴う身体状況の変化の折り合いのつけどころ ・接客業:ボロボロになった爪をお客さんに見られるのがつらい。 ・タクシー運転手:ストマ造設したが、自分の都合でトイレにいけない ため、困っている。(車を走らせない=減給) その他 ・自営業のため、仕事を休むと収入も失う。治療のためにお金が必要。 ・会社員:膀胱直腸障害で、尿意を感じないため、頻繁にトイレに行く ことになる。同僚からさぼっていると思われているようで肩身が狭い。 41 就労につらなる相談を受けるにあたり 相談開始のきっかけは、必ずしも、「就労」ではない。 日々受けている相談に潜在的に「就労」につらなるものがあること を忘れずに。 今、求められているのは、働くことと治療の完遂を目指して、 できる工夫を、患者・家族・医療者・企業の関係者たちがタッグ を組んでいくこと 医療者から、積極的な声掛けを ・患者さん自身が、仕事と治療の両立を考えるきっかけづくり ・言語化をすることで、問題の焦点化を目指す ・そしてできる工夫を、一緒に整理する 42 就労と治療の両立支援 −介入のタイミング− 診断時の支援 診断初期 受診 初期治療 検査 診断 入院 手術・ 放射線治療・ 化学療法 職場にどう伝えるか 仕事を継続 できるか否か 仕事と家事の 両立 治療内容・身体状況の変化 がみられた際の支援 復職時の支援 進行・再発期 退院 放射線治療・ 化学療法 通院 緩和ケア いつまで続けられ るのか 復職の時期 検討 身体状況の変化と働き方の工夫 終末期 就労継続に 対する不安 死への意識・ 残される家族の生活 の再構築 社会からの孤立感・発病前の社会的役割の喪失感 経済的支援 : 傷病手当金・高額療養費制度・失業手当・障害年金・生活保護・子供の奨学金制度など 遺族年金 実用面の支援 : 子育て支援・一時延長保育・身体障害者手帳・介護保険制度 その他 :患者会活用・かつらや化粧の利用など 仕事と治療の両立 ・ 治療費や生活費などの経済的問題への支援 43 がん患者の抱える就労に関する課題 −就労支援と支援チームの役割分担(例)− スクリーニング 重要性・緊急性 ①患者自身が就労規則を十分 把握していない。 雇用は確保されているが、 就労継続に支援が必要 ②受診日や治療方針の決定に 仕事の都合を考慮することが 必要 ③社会的要因(女性の家庭内役 割など)に関して支援が必要 見守り・相談支援 〈現状維持支援〉 ④予後が悪いが可能な限り働け るよう支援が必要 ①病名を職場に伝えたことによ り、 不当な扱いを受けている。 解雇の可能性。 希望しない形での異動。 雇用の確保が脅威に さらされている 強い介入 〈権利擁護〉 〈ソーシャル アクション〉 特に困っていない (職場の理解あり・または もともと働いていない) ②契約社員・派遣社員・パート・ 自営業など、雇用契約を履行で きない状況による解雇。 ③治療のため、いったん仕事を 辞めたが、軽快したため、再就 職したい。 しかし、就職が難しい。 ④働く意思はあるが、病状により 働くことは困難。 − 相談員と多職種との主な協力体制 医師 起りうる副作用 現在起きている身体症状 今後の見通し 看護師 セルフケア指導内容と習得状況 薬剤師 薬剤指導 会社 (上司・労務担当者) 提供できる配慮・支援 産業医・産業看護師 就労条件に関する職場内調査・意見 相談員の支援内容 ・問題の焦点化 ・コミュニケーション促進の支援 および各関係者との連絡調整 (医師×患者・職場×患者等) ・治療により起こりうる副作用と仕事内容のすり 合わせ(視覚症状→車両運転制限等) ・職場以外で利用可能なリソースの活用支援 ・個別的な復職プログラムの作成支援 ・医師と雇用関係者・患者の3者面談の場の マネジメント ※対象者理解 ・家族アセスメント ・地域性 ・職場環境 ハローワーク (行政) 医療者 同上 弁護士 社会保障制度や雇用規定に関する 専門的助言 社会保険労務士 社会保障制度や雇用規定に関する 専門的助言 医療者 同上 ・情緒的側面の支持 ・労働問題専門職への橋渡し ・公的制度の活用による、経済的基盤の確保 ハローワーク 就労相談・職業紹介 行政担当者 社会保障制度の活用 当事者団体 ピアサポート アドボカシ― ・就労訓練制度・教育訓練給付金などの活用に よる新たな技術の習得提案 ・ハローワークとの連絡調整 ・病名開示、非開示のメリットデメリットを整理 ・公的制度の活用による経済的基盤の確保 − − 和田耕治ほか:がん患者と家族に向けた包括的就業システム構築に関する研究,2012,一部加筆 44 まず私たちができること −本人・家族へのアドバイス− からだ 1.治療に関する情報の理解促進 ✓治療の時間的見込みは? ✓これから受ける治療による副作用が、就労にもたらす影響は? 倦怠感・外見変化・消化器症状・免疫力低下など こころ 2.早まって辞めてはいけない。 なぜ辞めたいのか、立ち止まって一緒に考える支援を。 ✓周りに迷惑をかけたくないから? ✓心身ともに疲れたから? ✓人生観が変わったから? くらし 3.会社員として持っている権利を知っていただく支援 ✓就業規則は? ✓辞めると失ってしまう権利は? 4.会社とのコミュニケーション力強化 ✓誰に、どのように伝えるのかを一緒に整理 高橋都:がんとソーシャルワークサバイバ−の就労を考える,2011より,一部加筆 45 登場人物ごとの就労支援ツール 患者さん・ご家族向け 「がんと仕事のQ&A」 医療者向け ・医師と看護師の立場から 「事例から学ぶ5つのポイント」 ・医療ソーシャルワーカーの立場から 「MSWがおこなうがん患者への就労支援相談」 職場向け ・同僚、上司、人事、事業主にむけて 「企業のための〈がん就労者〉支援マニュアル」 ・産業医、産業看護職むけ 「嘱託産業医向けガイドブック」 下記HPで公開されています(PDFダウンロード可能) http://www.cancer-work.jp/ 「働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究」班HPより,2012 46 本日の講義内容 Ⅰ. 日本人とがん ・がんの現状 ・がん患者・家族を取り巻く社会的・経済的問題 Ⅱ. 社会資源とは ・社会資源とは ・がん患者、家族が活用できる公的制度の種類、内容、適応 ・がん患者への就労支援 Ⅲ. 社会資源利用にむけて ・病院内で実践できる工夫 ・社会資源を紹介する際の留意点 47 社会資源を上手に活用していただくために −国立がん研究センター東病院の場合− 新患に必ず相談部門のリーフレットを配布 各種社会保障制度のパンフレットのひと工夫 退院支援スクリーニングシートへ社会的・経済的 問題の項目を入れ、スクリーニング時に患者・家族 の不安や相談事項の言語化を支援する 多職種カンファレンスにおいて、社会的・経済的問題 を抱える可能性が高い患者・家族へのかかわりに ついてコメントする 医療機関において、社会的・経済的問題を話題にしてもよい、 というメッセージを ツール、対話など様々な角度からのアプローチ 48 社会資源を紹介する際の留意点 相談窓口はスクリーニング機能と心得る ・該当する可能性を適格に判断することが必要。 ・明らかな無駄足を踏ませないことを目標にする。 決定は担当機関によるもの ・「受けられる」とは言い切らない。制度は複雑。 ・受けられなかった場合に、相談者を混乱させる、無用な落胆につながる。 社会資源を紹介するたびに確認をとることが必要 ・給付の要件は複雑、変更されている場合もある。 適確に該当窓口につながるように橋渡しを行う ・本人、家族が説明することが困難な場合は、側面的支援を。 ・個人情報であることに留意し、本人の了解を得る。 頻繁に紹介するものはパンフレットを作成する 49 本日のポイント がん患者とその家族を取り巻く、社会的・経済的問題の現状を 知る 社会資源の種類と性格について理解する 患者・家族に社会資源の利用を推奨する際の留意点を知る がん専門相談員が担う役割 がん患者・家族が、がんの発病に伴い直面している 様々な困難の受容を助け、 必要な支援資源を同定し、適確につながる支援を行う 50 社会資源関係の文献・資料 【制度の基本的な枠組みを理解するのに有効】 • 高額療養費の概要 : 社会保険庁 http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/100714a.pdf • 障害年金の概要 : 日本年金機構 http://www.nenkin.go.jp/index.html • 生活保護の概要 :厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/ seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html • 介護保険の概要:各市区町村のパンフレットを参照 【実際に制度を活用する際の詳細な基準を理解するのに有効】 「社会保障の手引き」 中央法規出版 「新福祉制度要覧−理解と活用のための必携書−」 川島書店 「身体障害者認定基準 解釈と運用」 中央法規出版 「障害年金と診断書」 年友企画 「生活保護手帳」 全国社会福祉協議会 51
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