大手2社への果敢な挑戦 ~全日本空輸,日本航空,スカイマークの分析~ 国際地域学部 国際地域学科 3年 1810090108 升田 奈美 0.はじめに 旅行好きな私は、旅行へ行くため自ら航空券を買うことがあるが、その際、尐しでも安い航空券を探 している。私を含め、旅行者にとって今や航空券の値段は、重要な旅行のプランを左右するものである。 現在、私のようにできるだけ安い航空券を求める人が増え、サービスよりも価格を重視した格安航空 券の需要が上がっている。また、羽田空港の国際ターミナルの誕生や世界の航空ネットワーク活動の活 発化(マイレージサービスの拡充等)などさまざまな変化が起きている。ご存じのように、日本の航空 業界は大手2社である全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)がリードしてきたが、近年起きているさま ざまな変化が日本の航空業界にどのような影響を与えているのかを調べて見たいと思った。大手2社に 日本の格安航空券の先駆者であるスカイマークを加え、分析していきたいと思う。 0-1.航空業界の現状 比較分析に入る前にまず、航空業界全体の現状を見ていくことにする。 日本の航空業界は近年、燃油価格高騰等の影響や世界的な景気の後退により、国内線・国際線ともに 苦しい状況にあった。そんな中、現れたのが格安航空会社=LCC(Low Cost Carrier)である。LCC はイン ターネット中心のチケット販売や機内サービスの一部有料化などでコストを削減し、格安航空券の販売 を可能にした。そして、欧州・米国のみならずアジア太平洋地域においても、シェアは急速に拡大して いる。日本でも海外の LCC が運航をしている。中でも、マレーシアのエアアジアやオーストラリアのジ ェットスターは有名である。その安さから海外の航空会社を利用する割合が若年層を中心に増えていて、 利用客の低コスト意識に対応する経営体制の見直しのため日本の航空会社も LCC にシフトしている。ま た、2010 年 10 月には羽田空港にオープンした新国際旅客ターミナルは輸送規模の拡充をするとともに、 都心からなアクセスが便利なため需要も拡大している。 このような航空業界の変化により、世界的不況影響を受けた低迷状態から抜け出しつつある。最新の データが記載された 2011 年第1四半期(20114 月 1 日~6 月 30 日)の有価証券報告書によると3社の 売上高は以下の通りである。 (ANA,JAL は連結データ、スカイマークは単体データを使用)JAL は 2010 年 に倒産したが、自社の 2011 年 3 月期の売上高は過去最高となった。(2011 年 5 月 18 日朝日新聞参照) 売上高(百万円) 全日本航空(ANA) 305,080 日本航空(JAL) 254,910 スカイマーク 16,125 1 そして、現在は ANA の売上高が JAL を上回ると いう結果となった。連結データと単体データとい う違いはあるが、規模の大きさは全日本航空 (ANA)と日本航空(JAL)がスカイマークを大 きく上回っていることが分かる。 規模は異なる ANA、JAL,とスカイマークだが、それぞれの経営状態はどうなっているのだろうか。収益 性、安全性、効率性・生産性の順番で分析していく。その前にまず、それぞれの企業の概要と戦略を詳 しく見ていこう。 0-2.企業の概要と戦略 (1)全日本空輸株式会社 代表者:伊東 信一郎 設立:1952 年 12 月 27 日 本社:東京都港区東新橋 1-5-2 汐留シティセンター 国内線では最大の路線網を持ち、国内線乗客数では日本最大級の航空会社である。国際線ではアジア 諸国とヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国のみに運航している。また、世界最大の航空会社ネットワーク であるスターアライアンスに加盟していて、これに加盟するためには顧客サービスやセキュリティ、技 術上のインフラにおいて最も高い業界基準を満たさなければならない。ネットワークに加盟している企 業間ではコードシェア便やマイレージサービスの相互乗り入れなどを行い、集客の向上を目指している。 また、ANA にとってのメリットとして世界での知名度の向上も挙げられる。 ANA の目指す方向性としては、有価証券報告書の中で以下の3つを挙げている。①国際線事業をグル ープ事業の中核として成長の柱とする。② アジア域内の成長を自社の成長の糧として取り込むことによ り、自らの体力を強化する。③ 生産性向上により、単位あたりコストを低減させ、確実な利益を計上し、 財務体質の改善・強化を図る。 2011 年に入り、ANA にはこれらの方向性を意識した動きが多く見られるようになった。2011 年 1 月 に中国の投資ファンドと共同で関西国際空港を拠点とした LCC「ピーチ・アビエーション」を設立したほ か、2011 年 8 月にはアジア最大の LCC であるマレーシアの「エアアジア」と資本金を折半し、 「エアア ジア・ジャパン」を設立した。2012 年 8 月には就航開始を目標としていて、国内線・国際線ともに運航 する予定である。価格は、通常の運賃の 1/3 から 1/4 という低価格となる予定だ。 ANA は今後も他の航空会社を意識して価格を抑えると共に、特に国際線に力を入れ、スターアライア ンス加盟会社やエアアジアなどの航空会社とも関わりも持ちつつ、アジアを中心とした世界への進出を さらに進めていくつもりである。 (2)日本航空株式会社 代表者:大西 賢 設立:1953 年 10 月 1 日 本社:東京都品川区東品川二丁目 4 番 11 号 野村不動産天王洲ビル 日本の航空業界をリードし続けてきた日本航空は 2010 年 1 月に会社更生法の適用を申請し、経営破綻 に陥った。 負債総額は 2 兆 3,221 億円で戦後最大の大規模破綻となった。 2010 年 2 月には上場を廃止し、 同年 12 月には日本航空インターナショナルに吸収合併され解散することとなる。その後、企業再生支援 機構による支援のもと再建の道を図ってきた。2011 年 3 月 28 日に会社更生は終了し、現在は民間企業 2 に復帰している。 9 月 1 日の東洋経済ニュースにこう書かれている。「8 月 16 日、JAL は豪航空大手カンタスグループ、 三菱商事と合弁で格安航空会社(LCC)を設立すると発表。すでに全日本空輸(ANA)も LCC 設立に乗り出し、 ライバル 2 社が出そろった。 」 JAL は ANA 同様、LCC を設立し、数年後に売上高 1000 億円を目標に掲げていることから、新体制での 経営が軌道に乗っていることが分かる。現在は上場廃止されていてデータがなかったが、2011 年 5 月 18 日の朝日新聞によると「2011年3月期の連結業績は、売上高が1兆3622億円、営業利益が18 84億円だった。営業利益は破綻(はたん)前の08年3月期の900億円を上回り、過去最高となっ た。 」と書かれている。近いうちに日本航空は再上場を果たしそうである。 (3)スカイマーク株式会社 代表者:西久保 愼一 設立: 1996 年 11 月 12 日 本社:東京都大田区羽田空港 1-5-5 旅行代理店 HIS の社長である澤田秀雄らの出資によって設立された、国内線を格安価格で提供する格 安航空会社である。現在はボーイング 737-800 型機を 19 機保有し、日本の国内線において、北は北海道 から南は沖縄まで、約 130 便を毎日運航していて、中でも、札幌・福岡・神戸・沖縄など利用者の多い 路線に集中することにより運航比率を上げている。スカイマークでは、徹底されたコスト管理や、機内 サービスの有料化を行い、格安航空券を提供している。 初め、大幅に価格を下げることで搭乗率が 8 割もあったが、他社も価格を下げたため搭乗率は下がり、 2003 年には累積赤字が 130 億円にものぼった。そして上場廃止の危機に陥った。また、2005 年ごろに は運航トラブルが続いて起きたため、経営はますます悪化した。しかし、機材の置き換えやサービスの 工夫などの解決策を立て、2007 年頃から経営状態は良くなっていて、2008 年 3 月期には黒字転換した。 規制緩和による新規参入航空会社の中では、スカイマークだけが唯一上場している。 事業別売上高は旅客収入(定期の航空機による旅客の輸送)がほとんどを占めていて、羽田―福岡間 など基幹線路の利用率は現在 9 割にも昇っている。一方で、尐子高齢化に伴い日本国内の潜在需要は下 がることが見込まれているのが現状である。2010 年には一時、グアム国際線チャーター便として羽田― グアムの運航を行ったほか、2011 年 5 月から旅客運送数世界第 2 位のデルタ航空と提携し、マイレージ サービスを始めたことからも、国際主要路線への本格的な進出を計画しているとみられる。 0-3.注意事項 以下は分析するにあたっての注意事項である。 1、簡略化のため、全日本空輸株式会社は ANA、スカイマーク株式会社はスカイマーク、日本航空株式 会社は JAL と表す。 2、使用するデータは、ANA とスカイマークは 2007 年から 2011 年まで、JAL は 2007 年から 2010 年だ が、JAL の 2010 年のデータは第4四半期のものがないため、数値は第三四半期までを使用した。(ス トックの数値はそのまま表示し、フローの数値には 3/4 をかけた。 ) 3 3、図表を作成する上で、数値の差が大きすぎると判断したものについては、左軸を ANA と JAL、右軸を スカイマークとする。 4、ANA と JAL は連結データ、スカイマークは単体データを用いる。スカイマークのデータ不足に JAL の近年のセグメント別データがないため、グループ経営について比較分析できなかった。 1.収益性分析 収益性分析では、5つの指標を用いて3社の収益性を見ていく。5つの指標とは、 「総資本事業利益率」 「自己資本利益率」2つと、自己資本利益率を分解した「売上高当期純利益率」 「総資本回転率」「財務 レバレッジ」の3つである。 1-1.総資本事業利益率(ROI) 図表 1 総資本事業利益率(ROI)の推移 図表1の中の、各社の総資本事業利益率(事業利益/総資本×100)を見ると、2007 年では ANA と JAL の2社がスカイマークを 30%ほど上回っていた。2008 年後半にはリーマンショックの影響から3社とも 低下したものの、2009 年以降はスカイマークの ROI が大幅に上昇し、他の2社を上回る結果となった。 この大幅な上昇は総資本に比べた事業利益の上昇によるものである。スカイマーク以外の2社、ANA と JAL の ROI は同じような動きをしている。ROI はより高い数値のほうが優れているので、ROI からは現在 はスカイマークの収益性が最も優れていると言える。 4 総資本 (百万円) 2,500,000 40,000 35,000 2,000,000 30,000 25,000 1,500,000 20,000 1,000,000 15,000 10,000 500,000 5,000 0 0 2007 2008 ANA 2009 JAL 事業利益 (百万円) 2010 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 -20,000 -40,000 -60,000 2011 スカイマーク 図表 2 総資本の推移 15,000 10,000 5,000 0 -5,000 -10,000 2007 (年) 2008 2009 ANA JAL 2010 2011 スカイマーク (年) 図表 3 事業利益(営業利益+受取利息+ 配当金+持分法による投資損益)の推移 図表2によると、スカイマークの総資本は 2010 年から 2011 年にかけて急激に上昇している。現金お よび預金が約2倍増加し、負債の未払法人税が約10倍増加したことが大幅な総資本の増加の要因だと 考えられる。 また、図表3によると、ANA は 2009 年から 2010 年にかけて大幅に事業利益を減尐させてしまってい る。JAL の事業利益は 2008 年から 2009 年にかけて大幅に減尐している。スカイマークの事業利益は 2008 年から 2009 年にかけて一時減尐したものの、2009 年から 2011 年までは急激に上昇している。では、こ れら事業利益の変化の原因は何であるのか。それを探るために、各企業の事業利益の構成を詳しく見て いこう。 まず、図表4の ANA の事業利益の構成を見てみる。2010 年に ANA の事業利益が落ち込んだのは、営 業利益が減尐したためだと言える。有価証券報告書によると、このとき ANA は 2008 年 9 月のリーマン ショックに端を発した世界的な不況の継続に加え、新型インフルエンザなどによる需要の減退の影響を 大きく受けたとされている。よって営業利益は急激に下がったのだと言える。 売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び一般管理費 営業利益 受取利息・受取配当金 事業利益 2007 100.0 74.8 25.2 19.0 6.2 0.4 6.6 2008 100.0 74.9 25.1 19.4 5.7 0.3 6.0 2009 100.0 80.8 19.2 18.7 0.5 0.2 0.8 2010 100.0 85.4 14.6 19.0 -4.4 0.2 -4.2 2011 100.0 78.9 21.1 16.1 5.0 0.2 5.2 図表 4 事業利益の構成(ANA) 次に JAL の事業利益について見ていこう。図表5を見ると、JAL の事業利益は 2008 年から 2009 年に 急激に減尐していたがその原因を探ると、営業利益の減尐によるものだと言える。ANA 同様、2008 年の リーマンショックに端を発した世界的不況により、需要が減退したためである。 5 2007 100.0 83.1 16.9 16.2 0.7 0.3 1.1 売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び一般管理費 営業利益 受取利息・受取配当金 事業利益 2008 100.0 80.1 19.9 16.1 3.8 0.3 4.2 2009 100.0 86.7 13.3 16.1 -2.8 0.3 -2.4 2010 100.0 93.6 6.4 17.0 -2.2 0.1 -2.0 図表 5 事業利益の構成(JAL) 最後にスカイマークの事業利益の構成を見ていこう。他の2社同様、2008 年から 2009 年の落ち込み はリーマンショックが起きたためだと考えられる。では 2009 年から 2011 年にかけての事業利益の大幅 な上昇の理由は何であろうか。まず一つの理由として、営業利益の大幅な上昇がある。また、それに対 して販売費及び一般管理費が低下している。売上原価も低下したのに対して売上総利益は大幅に上昇し ている。これは、2010 年、茨城空港に国内便最初の路線として茨城―神戸線を開港と同時に就航し、同 時に、就航実現のため、搭乗手続きの自動化や整備士を置かないなど、徹底したコスト削減を国などと 協議し進めて行ったことが主な理由と考えられる。 2007 100.0 106.9 -6.9 6.2 -13.0 0.0 -13.0 売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び一般管理費 営業利益 受取利息・受取配当金 事業利益 2008 100.0 87.5 12.5 6.1 6.4 0.0 6.4 2009 100.0 99.8 0.2 6.2 -6.0 0.0 -6.0 2010 100.0 86.6 13.4 5.8 7.6 0.0 7.6 図表 6 事業利益の構成(スカイマーク) 1-2.自己資本利益率(ROE) 自己資本利益率(ROE) (%) 60 40 20 0 -20 -40 -60 -80 -100 -120 -140 2007 2008 ANA 2009 JAL 2010 スカイマーク 図表 7 自己資本利益率(ROE)の推移 6 2011 (年) 2011 100.0 75.9 24.1 4.8 19.3 0.0 19.3 次に自己資本利益率(当期純利益/株主資本×100)について見ていく。図表7はその推移を表してい る。これによると、JAL の自己資本利益率は 2008 年から徐々に低下し、2009 年には著しく低下している。 JAL は 2009 年の 10 月に企業再生支援機構に再生支援の事前相談が開始した。また、スカイマークは 2007 年から 2008 年にかけて 100%も上昇している。なぜ自己資本利益率にこのような動きがあったのだろう か。それは図表 8 と図表 9 の当期純利益と株主資本のそれぞれの推移から考えることができる。JAL の自 己資本利益率の低下は、株主資本が 2009 年から減尐したが、その減尐率よりも当期純利益が大幅に減尐 しているためである。 また、2007 年からのスカイマークの自己資本利益率の上昇は 2007 年から、株主資本に比べて当期純 利益が増加したためである。2007 年には就航数が増え、中部国際空港への就航も発行し、前年が大幅な 赤字であったこともあり、スカイマークの当期純利益は大幅に増えたのではないかと考えられる。 (百万円) 当期純利益 100,000 8,000 600,000 50,000 6,000 500,000 0 4,000 -50,000 2,000 -100,000 0 15,000 300,000 -2,000 -4,000 100,000 -6,000 0 2008 ANA 2009 JAL 2010 10,000 200,000 -200,000 -250,000 20,000 400,000 -150,000 2007 株主資本 (百万円) 5,000 0 2011 スカイマーク 2007 (年) 2008 ANA 図表 8 当期純利益の推移 2009 JAL 2010 2011 (年) スカイマーク 図表 9 株主資本の推移 1-3.自己資本利益率(ROE)の分解 自己資本利益率(ROE)は、売上高当期純利益率、総資本回転率、財務レバレッジの3つに分解するこ とができる。この3つの指標から3社の収益性を見ていく。 (%) 売上高当期純利益率 売上高 (百万円) 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 -30 2,500,000 70,000 60,000 2,000,000 50,000 1,500,000 40,000 1,000,000 30,000 20,000 500,000 10,000 0 2007 2008 ANA 2009 JAL 2010 スカイマーク 2011 0 2007 (年) 2008 ANA 図表 10 売上高当期純利益率の推移 2009 JAL 図表 11 売上高の推移 7 2010 スカイマーク 2011 (年) まず、売上高当期純利益率(当期純利益/売上高×100)を見ていく。図表 10 によると3社とも 2008 年から 2009 年にかけて売上高当期純利益率は徐々に減尐していて、その後もリーマンショックの影響は 続き、 ANA と JAL は 2010 年まで減尐し続けているが、スカイマークは 2009 年から 2011 年の間に約 15% も上昇している。これは当期純利益が 2009 年から 2011 年にかけて大幅に上昇したことや、国内線のみ 就航しているスカイマークは、国際線にも力を入れている他の2社と比べ影響を受けにくかったためだ と考えられる。よってこの指標においてはスカイマークが最も優位だと言える。 総資本回転率 (回) 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 2007 2008 ANA 2009 JAL 2010 2011 (年) スカイマーク 財務レバレッジ (倍) 14 12 10 8 6 4 2 0 2007 2008 ANA 2009 JAL 2010 2011 スカイマーク (年) 図表 12 総資本回転率の推移 図表 13 財務レバレッジの推移 総資本回転率(売上高/総資本)の推移が図表 12 である。この図表からはスカイマークが他の2社に 比べて高い水準を維持していることが分かる。これは売上高の数値の規模は ANA や JAL に比べて小さい ものの、総資本と比べて高い水準を誇っているからである。また、ANA と JAL の差はあまりないと言え るが、JAL が尐しだけ ANA を上回っている。 次に財務レバレッジ(総資本/自己資本)についてみていく。負債の利用度、ないしは負債の依存度を 表している。図表 13 によると財務レバレッジは、一貫して JAL が最も高く、続いて ANA、一番低いのは スカイマークである。よって、スカイマークが最も負債に依存していないということが分かった。JAL の 負債への依存度は非常に高く、負債ばかりが膨らみ経営困難になっていった様子が読み取れる。 スカイマークは、2003 年ごろには、累積赤字が 130 億円に達し、東証マザーズの上場廃止の危機に瀕 したが、ISP のゼロ株式会社の会長が増資を引き受け、その後 2004 年には、同社と合併を行った。2005 年は、運航トラブルが続発し経営は悪化したが、機材置き換えや、サービスの工夫などにより、2007 年 8 ごろから経営が上向き、2008 年には黒字拡大し、以降拡大戦略を採るに至ったことにより、近年では、 黒字経営となっている。よって、この 5 年間では 2 社に比べ負債依存度が低くなったと考えられる。 これら5つの指標によって、収益性分析を行った結果、図表 3 の事業利益や図表 8 の当期純利益の表 からも分かるように、現在では、スカイマーク・ANA・JAL の順に収益性が高いという結果になった。2007 年から 2010 年にかけて、ANA が業績を大きく落としたのに対し、スカイマークは、2008 年から黒字転 換し、大きく成長したことが、現在の位置づけを作り出した要因であると見解できる。現在では、ANA も業績を 2007 年以前まで回復させたが、近年では、世界的な背景も加味し、格安航空会社であるスカイ マークの方が大幅に有利な展開であるが、2010 年度に公表された国際線参入がどのような影響を及ぼす かが大きく収益を左右すると考えられる。 2.安全性分析 続いて安全性について見ていく。安全性分析では、最初に3社の資金調達構成を確認するために、キ ャッシュ・フロー計算書の分析をする。その後、安全性を測定する指標として、流動比率、自己資本比 率、固定長期適合率、インタレスト・カバレッジ・レシオの5つを用いて安全性の分析を行っていく。 2-1.キャッシュ・フロー計算書の分析 以下が3社のキャッシュ・フロー計算書である。スカイマークは連結のデータを公表していないため、 単体のキャッシュ・フロー計算書を用いている。ANA と JAL は連結キャッシュ・フロー計算書を用いて いる。また、ANA とスカイマークは過去4年分のデータ、JAL は 2009 年までのデータしか公表されてい ないため 2 年分のデータとなっている。 ANA (単位:百万円) 2008年 2009年 2010年 2011年 I 営業活動によるキャッシュ・フロー 税金等調整前当期純利益(△は純損失) 減価償却費 固定資産売却損益(△は益) 支払利息 法人税等の支払額(△は支払) 営業活動によるキャッシュ・フロー Ⅱ投資活動によるキャッシュフロー 固定資産の取得による支出 固定資産の売却による収入 投資有価証券の取得による支出 投資有価証券の売却による収入 ホテル事業資産譲渡による収入 投資活動によるキャッシュ・フロー Ⅲ財務活動によるキャッシュ・フロー 短期借入金の純増減額 長期借入による収入 長期借入金の返済による支出 配当金の支払額 財務活動によるキャッシュ・フロー 現金及び現金同等物の増減額 115,224 116,787 15,128 15,049 △ 5,841 165,765 △ 4,445 112,881 △ 6,696 14,832 △ 120,166 △ 39,783 △ 95,593 113,806 13,134 18,160 37,386 82,991 35,058 118,440 11,749 19,314 △ 3,392 203,889 △ 357,733 45,206 △ 4,620 1,551 245,909 △ 69,827 △ 145,709 42,588 △ 504 72 ― △ 111,139 △ 209,937 9,963 △ 77 338 ND △ 251,893 △ 211,698 38,190 △ 20 502 ND △ 139,619 △ 920 103,992 △ 142,484 △ 5,844 △ 87,336 7,690 43,991 205,722 △ 75,327 △ 9,739 114,504 △ 36,528 △ 17,475 △ 28,930 194,320 161,504 △ 94,063 △ 109,736 △ 1,933 ND 173,791 △ 10,596 4,753 53,417 図表 12 ANA 連結キャッシュ・フロー計算書 まず、初めに ANA の連結キャッシュ・フローについて見ていく。ANA の現金及び現金同等物は 2008 年から 2009 年にかけて大幅に減っている。これは営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動による 9 キャッシュ・フローの減尐によるものである。営業活動においては税金当調整前当期純利益が大幅に減 尐していることが原因である。また、投資活動においては 2008 年に ANA は他社にホテル事業資産譲渡 による収入が大きかったので次の年との差が生じたためである。ANAの有価証券報告書によると、2008 年 6 月にホテル事業関連子会社 14 社の全株式とその他関連資産をグループ外に一括譲渡したと記載され ている。 その後、2010 年、2011 年と次第に現金及び同等物は増加している。これは営業活動によるキャッシ ュ・フローが増え、投資活動によるキャッシュ・フローの損失が約 1/2 になったためだと言える。詳し く見ていくと、2011 年の当期純利益は大幅に増えている。2009 年から 2010 年にかけて当期純利益は低 下しているが営業活動によるキャッシュ・フロー自体が増えているのは法人税当の支払額が減ったため である。投資活動によるキャッシュ・フローにおいては、固定資産の売却による収入を増加させたこと によるものだと考えられる。財務活動によるキャッシュ・フローは、損失転換した。主な理由としては、 短期借入金の減尐と長期借入による収入の減尐が考えられる。 JAL (単位:百万円) 2008年 2009年 I 営業活動によるキャッシュ・ フロー 税金等調整前当期純利益(△は純損失) 22,322 △ 62,447 減価償却費 112,214 116,340 固定資産売却損益 21,979 10,296 支払利息 21,061 18,691 営業活動によるキャッシュ・フロー 1 4 7 ,1 3 4 2 7 ,7 8 8 Ⅱ投資活動によるキャッシュフロー 固定資産の取得による支出 △ 178,533 △ 168,804 固定資産の売却による収入 114,964 45,346 有価証券の取得による支出 △ 9,012 △ 32,422 定期預金の預入による支出 △ 992 △ 8,901 投資活動によるキャッシュ・フロー △ 3 8 ,7 1 4 △ 1 0 6 ,7 1 7 Ⅲ財務活動によるキャッシュ・ フロー 短期借入金の純増減額 730 △ 40,786 長期借入による収入 82,786 46,652 長期借入金の返済による支出 △ 113,416 △ 135,580 株式の発行による収入 ND 199,650 配当金の支払額 ND ND 財務活動によるキャッシュ・フロー △ 1 0 6 ,1 4 8 4 4 ,8 0 3 現金及び現金同等物の増減額 △ 1 ,3 6 0 △ 3 5 ,3 5 6 図表 13 JAL 連結キャッシュ・フロー計算書 次に、JAL の連結キャッシュ・フローを分析する。まず、現金及び現金同等物の増減額を見ると、大幅 に支出が増えている。これは営業活動によるキャッシュ・フローが約 1/5 まで減尐したことと投資活動 によるキャッシュ・フローが3倍の減額となったことが原因だとみられる。 まず、営業活動によるキャッシュ・フローは税金等調整前当期純利益の減尐が原因だと言える。投資 活動によるキャッシュ・フローにおいては、固定資産の売却による収入が大幅に減尐したことと、有価 証券の取得による支出が増えたことが原因であるとみられる。有価証券報告書によると主に航空機・部 品等の取得および導入予定機材の前払金支払による支出を行なったと記載されている。 一方で、2008 年から 2009 年にかけての財務活動によるキャッシュ・フローを見ると、大きく増加し ている。これは 2009 年に長期借入金の返済による支出があったが、株式の発行による大きな収入が生じ たためである。現金の大幅な減尐は倒産につながった理由の一つであると考えられる。 10 スカイマーク 2008年 (単位:千円) 2009年 2010年 2011年 I 営業活動によるキャッシュ・フロー 税引前当期純利益(△は純損失) 2,652,317 △ 2,016,369 2,651,741 11,021,280 減価償却費 1,090,345 1,143,561 1,087,061 1,280,323 固定資産売却損益 △ 3,489 △ 424,899 77,460 △ 54,797 支払利息 3,813 14,129 55,066 66,442 為替差損益 315,203 △ 71,596 23,714 391,343 営業活動によるキャッシュ・フロー 3,424,620 870,002 5,348,425 14,825,322 Ⅱ投資活動によるキャッシュフロー 固定資産の取得による支出 997,203 △ 846,487 △ 4,912,298 固定資産の売却による収入 4,590 1,861,886 105,582 142,794 投資有価証券の取得による支出 △ 198,400 ND ND ND 投資有価証券の売却による収入 209,920 ND ND ND 投資活動によるキャッシュ・フロー △ 1,369,853 △ 435,504 △ 903,696 △ 5,302,455 Ⅲ財務活動によるキャッシュ・フロー 短期借入金の返済による支出 △ 1,700,000 ND ND ND 新株予約権の買戻しによる支出 △ 58,880 ND ND ND 長期借入金の返済による支出 ND ND ND ND 株式の発行による収入 ND 1,144,740 5,417 283,140 配当金の支払額 ND ND ND △ 690,132 財務活動によるキャッシュ・フロー △ 1,758,880 1,139,497 △ 16,367 △ 435,288 現金及び現金同等物の増減額 295,892 1,578,352 4,436,459 8,908,743 図表 14 スカイマーク キャッシュ・フロー計算書 最後にスカイマークのキャッシュ・フローについてみていく。まず、現金及び現金同等物の増減額を 見ると、4 年を通してプラスで、スカイマークの現金は毎年増額していることが分かる。 2008 年から 2009 年にかけては財務活動によるキャッシュ・フローが増額したためである。詳しく見 ていくと、株式の発行により収入が増えたためであると言うことが分かった。 2010 年から 2011 年にかけては営業活動によるキャッシュ・フローが増額したためである。その理由 としては税引前当期純利益が大きく増加したことが挙げられる。投資活動によるキャッシュ・フローの 支出が増えたのは新たな航空機の取得によるものである。有価証券報告書によると、Airbus A380 型機取 得に向けた一部前払金、Boeing737-800 型機フル・フライト・シミュレーター(模擬飛行装置)2機目の 取得、路線拡大に伴う新規就航路線・空港に係る設備投資、並びにその他有形固定資産の取得のための 支払があったとされる。 一方で財務活動によるキャッシュ・フローを見ると 2010 年から 2011 年にかけ、 支払が増えている。これはスカイマークのキャッシュ・フロー計算書には配当金についてのデータがな かったのだが、スカイマークの有価証券報告書によると、配当金の支払いが増えたためだと言える。 11 2-2.安全性指標 次に安全性に関する各指標を見ていく。安全性を分析する指標は、流動比率、当座比率、自己資本比 率、固定長期適合率、インタレスト・カバレッジ・レシオの5つである。 当座比率 (%) 流動比率 (%) 250 250 200 200 150 150 100 100 50 50 0 2007 2008 2009 ANA JAL 2010 スカイマーク 0 2011 2007 (年) ANA(流動比率) 図表 15 当座比率の推移 2008 2009 JAL(流動比率) 2010 2011 (年) スカイマーク(流動比率) 図表 16 流動比率の推移 まず、企業の短期支払能力を表す流動性の代表的な比率として、流動比率・当座比率を分析していく。 当座比率(当座資産/流動負債×100)は 100%が理想とされている。過去 5 年で 100%を上回ってい るのは、スカイマークのみで、同社は、非常に優れていると見解できる。流動比率(流動資産/流動負債 ×100)は、短期に支払期限が到来する流動負債に充当することが、可能な流動資産をどの程度もってい るかを示す指標であり、 200%以上が好ましい比率とされている。 スカイマークの数値が 2009 年から 2010 年にかけて大幅に増加しているのは現金・預金の大幅な増加によるものである。 また、200 に達したのは、過去5年でスカイマークのみとなっている。2011 年には3社とも 200 を下 回っているが、3社の中では比較的にスカイマークが安定しているといえる。 次に長期的な支払能力や全体としての安全性を測定する指標として、自己資本比率と固定長期適合率 を解析していく。 自己資本比率 (%) 60 50 40 30 20 10 0 2007 2008 ANA 2009 JAL 2010 スカイマーク 2011 (年) 12 固定長期適合率 (%) 140.0 120.0 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 0.0 2007 2008 ANA 2009 JAL 2010 スカイマーク 2011 (年) 図表 17 自己資本比率の推移 図表 18 固定長期適合率 自己資本比率(自己資本/総資本×100)は、高ければ利子を支払う負債がそれだけ尐ないことを意味 する。スカイマークは他2社に比べ非常に高い。これは他の2社に比べて、総資本に対する自己資本の 割合が高いためである。 固定長期適合率(固定資産/[自己資本+固定負債]×100)は 100%以下が理想的な水準とされている。 JAL は 2007 年には 100%を超え、倒産した 2010 年には 130%にまで増加してしまった。ANA は 100% に近い数値を維持している。 一方、 スカイマークの固定長期適合率は 2010 年の 117%から次第に減尐し、 現在は 60%というかなり低い数値になっている。これは固定負債と自己資本が共に増加したためである。 これらの指標からも、3社の中でスカイマークが長期的な安全性が最も高いと言える。 2007 2008 ANA 5.51 5.91 JAL 1.21 4.31 スカイマーク △ 538.07 846.71 図表 19 インタレスト・カバレッジ・レシオの推移 営業利益 2007 2008 △ 5,176,209,000 3,224,384,000 2009 0.71 △ 2.62 △ 179.87 2010 △ 2.84 △ 2.50 57.11 2011 3.65 168.54 2009 △ 2,543,299,000 2010 3,143,324,000 2011 11,195,596,000 図表 20 スカイマークの営業利益の推移 次にインタレスト・カバレッジ・レシオ([営業利益+受取利息+受取配当金]/支払利息)を分析する。 これは「支払わなければならない利息の何倍の利益を稼いでいるか」を示す指標である。 スカイマークのインタレスト・カバレッジ・レシオは ANA と JAL に比べ、アップダウンがとても激し い。これは営業利益と受取利息と受取配当金を足したものに比べ、支払利息の値が小さいからである。 図表 22 スカイマークの営業利益の推移を表にしたものだが、これをみると 2007 年と 2009 年のインタ レスト・カバレッジ・レシオが大きくマイナスに転じたのは、営業利益も大きくマイナスになったため であるということが分かる。スカイマークは 2007 年に約 50 億円の営業損失をだしたが、次の年に営業 利益に転換できた理由として、スカイマークの 2008 年の有価証券報告書にはこう書かれている。「平成 19 年3月期中間会計期間において多額な営業損失を計上し、営業キャッシュ・フローも大幅なマイナス になりましたことから、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる状況が生じておりましたが、安定的な 13 運航体制の確保、運航路線の定着化、路線動向に最適な機材投入、市場特性に応じた販売施策の徹底強 化等、運航コストの安定化と収益の拡大を図るべく全社的な改革を進めてまいりました。 」このことから 2007 年は効率の悪い運営により大きな営業損失がでていたが、次の年にはそれが改善でき、営業利益も 大幅に増加したということが分かった。また、2009 年の営業利益の減尐は世界的な不況による影響が大 きいとみられる。 ANA と JAL のインタレスト・カバレッジ・レシオは 2008 年から 2010 年にかけ徐々に低下している。 これも、世界的な不況の影響を受けて、2 社の営業利益が低下したことが原因である。 現在は、支払わなければならない利息の 168 倍稼いでいるスカイマークが最も優位といえるが、支払 利息が尐ない分、営業利益に左右されやすいので、長期的にみると、大企業の ANA や JAL が安定してい ると言える。 最後に格付けを見てみよう。3つの格付け機関のうち、格付投資情報センター(R&I)における ANA の格付けのみ記載されていた。格付投資情報センター(R&I)の ANA への発行体格付けは BBB+(安定的) であった。この格付けにおいて BBB は「信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意 すべき要素がある。 」という意味を持つ。+がついているので上位各である A の「信用力は高く、部分的 に優れた要素がある。 」に近いということである。ANA は債務不履行能力に関して、今のところ大きな問 題はないが、環境の変化によっては注意しなければならない企業であると言える。 3.効率性・生産性分析 次に、効率性・生産性を分析していく。ここでは ROE の分解で用いた試算活用の総合的な指標である 総資本回転率の動きを分析するために、棚卸資産回転率、有形資産回転率、投資その他資産回転率の3 つの指標を用いる。 有形固定資産回転率 (回) 16 14 12 10 8 6 4 2 0 2007 2008 ANA 図表 23 棚卸資産回転率の推移 2009 JAL 2010 スカイマーク 2011 (年) 図表 24 有形資産回転率の推移 棚卸資産回転率(売上高/棚卸資産)と有形固定資産回転率(売上高/固定資産)は、それぞれの資産 14 が効率的に活用されているかどうかを示す指標である。 図表 23 の棚卸資産回転率を見ると、現在のスカイマークの数値は他の 2 社と比べ、非常に高い水準に あることが分かる。2009 年から 2010 年にかけて大幅に増加しているのは貯蔵品が減り、売上高が増加 したためである。棚卸資産回転率の低下は、在庫水準の過剰を示すが、スカイマークは 2009 年から大幅 に上昇、ANA も回復傾向にあるため、この2社に関しては、現在、在庫水準の過剰を抑えることができ ているといえる。 図表 24 の有形固定資産回転率の推移を見ると、スカイマークは、ANA、JAL の2社に対して非常に高 い水準にあることが分かる。これは固定資産に対して売上高が高いためである。スカイマークは航空機 の機種を統一して業務を単純化するという工夫をしていることも高い回転率を誇る理由の一つである。 売上債権回転率 (回) 25 20 15 10 5 0 2007 2008 ANA (回) 2009 JAL 2010 2011 (年) スカイマーク 投資その他の資産回転率 20 15 10 5 0 2007 2008 2009 2010 2011 ANA(投資その他の資産回転率) JAL(投資その他の資産回転率) スカイマーク(投資その他の資産回転率) (年) 図表 25 売上債権回転率 図表 26 投資その他の資産回転率 次に、売上債権回転率(売上高/売掛金+受取手形)と投資その他の資産回転率(売上高/投資その他の 資産)を分析していく。 まず、図表 25 の売上債権回転率を見ると、スカイマーク、次に ANA,JAL という順に高いことが分かる。 スカイマークの売上高債権回転率は 2007 年から 2008 年にかけて上昇しているが、これは売上高が上が り、売掛金が減尐したためである。 図表 26 の投資その他の資産回転率を見ると、JAL がほかの 2 社に比べてやや高いが、これは投資その 他の資産が他の2社よりも低いためである。ANA は 2010 年から 2011 年にかけて売上高を上げているた め、尐しだけ上昇している。 効率性・生産性分析においては、スカイマークが急成長を示したものの、ANA の回復も伺え、解散済 15 の JAL を除く、スカイマークと ANA は、近年非常に均衡しているといえる。 4.成長性分析 成長性分析をするにあたり、総資本、株主資本、売上高、営業利益の4つの指標を用いて、その趨勢 を分析していく。 ANAの成長性 (%) 150.0 100.0 売上高 50.0 総資本 0.0 営業利益 自己資本 -50.0 -100.0 2007 2008 2009 2010 2011 JALの成長性 (%) 600.0 500.0 400.0 300.0 200.0 100.0 0.0 -100.0 -200.0 -300.0 -400.0 売上高 総資本 営業利益 自己資本 2007 2008 2009 2010 図表 27 成長性の推移(ANA) 図表 28 成長性の推移(JAL) スカイマークの成長性 (%) 350.0 300.0 250.0 売上高 200.0 総資本 150.0 営業利益 100.0 自己資本 50.0 0.0 2007 2008 2009 2010 2011 (年) 図表 29 成長性の推移(スカイマーク) 16 まず、ANA の成長性を見ていく。売上高、総資本、自己資本は、営業利益に関しては、2008 年から 2010 年にかけて大幅に低下させたが、2011 年には、2008 年以前の状態まで回復傾向にある。5 年を通 して、どの数値もあまり伸びていないということが分かる。 次に JAL を見ると、売上高、総資本、自己資本は、ほぼ横ばいの状態である。営業利益を見ると、2007 年から 2008 年にかけ上昇している。その理由として JAL の有価証券報告書の中では、退職金制度を改定 したため、一般管理費が大幅に減尐したことが挙げられている。その後、2008 年から 2009 年にかけて 激しく減尐し、2010 年には復調の兆しが伺えたが倒産してしまったため、その後の詳細は分からない。 最後にスカイマークの成長性を見てみよう。売上高、総資本、営業利益、自己資本の全てにおいて成 長率がかなり高いということが分かる。 特に伸びている時期は 2010 年から 2011 年にかけてである。 2011 年の有価証券報告書によると、この期間に、航空機 6 機を導入していた。羽田空港からの鹿児島、熊本 への就航、神戸空港からの、茨城、新千歳、鹿児島、熊本、長崎への就航、新千歳空港から茨城への就 航を新たに始めたほか、中部国際空港に新たな空港拠点を開設し、新千歳、茨城へも就航を開始した。 更に深夜時間帯を利用した羽田―北九州線、北九州―那覇線、及び鹿児島―奄美線の季節運航や、国際 線チャーター便として羽田―グアム線の運航を行っている。これらの路線拡大により、集客率がアップ し、売上高、総資本、営業利益、自己資本の全ての伸びが大きかったのだと言える。 5.総合評価 PER(株価収益率)と PBR(株価純資産倍率)を用い、企業評価を行う。JAL は現在、上場が廃止されて いるため、ANA とスカイマークで行う。 PER(株価収益率) PBR(株価純資産倍率) 株価 ANA スカイマーク 27.23倍 14.55倍 1.22倍 5.39倍 253 1,317 図表 30 PER と PBR 及び株価(2011 年 9 月 2 日現在) 図表 30 は、2011 年 9 月 2 日現在の PER と PBR 及び株価を表にしたものである。これによると、 PER は ANA が 27.23 倍、スカイマークが 14.55 倍となっており、ANA の方が高水準であることが分か る。PER 標準値が 14~20 倍であることを考えると、スカイマークは標準ラインで、ANA は割高である と言える。 PBR は ANA が 1.22 倍、スカイマークが 5.39 倍となっており、両社とも 1 を超えている。1を切る と、赤字を垂れ流しているか、何らかの理由で株価を下げていると考えられるが、2社共に、会社の価 値が純資産以上であるので、安定性に長けている企業であるといえる。 次に近年の株価の動向と合わせて見解していく。 17 図 31 ANA の過去 3 年の株価 2009 年には 400 円あった株価は、現在は 300 円から 200 円台を推移している。その要因には、2009 年の世界的不況が考えられるが、その後は回復傾向にあり、2010 年は 300 円台のもみ合いになった。 2011 年 3 月には最安値を打ったが、徐々に回復し 300 円台にさしかかろうというところである。 図 32 スカイマークの過去3年の株価 スカイマークは、ANA とは対照的に、2009 年の世界的不況の影響は、株価に反映されなかった。 2010 年からは、成長著しく、株価が 2010 年から 2011 年にかけて3倍になった。現在は、さらに上昇傾 向にあり、1500 円台に突入する勢いである。その中で PER が 15 倍以下と言うのは、かなり割安に感じ られる。ANA の株価は 2009 年に急降下しているため、スカイマークが上回る結果となった。 現在は収益性、安全性、効率性、成長性の全てにおいて、スカイマークが最も高水準にある。特に効 率性はスカイマークがずば抜けて優れている。JAL は 2010 年の倒産までに、世界的不況の影響を大きく 受け、経営が困難になっていく様子がうかがえる。ANA は世界恐慌の影響を受けながらも、なんとか経 営を続け、現在は回復状況にある。成長性については、3社とも営業利益の上がり下がりが激しいのが 目立つ。その他の売上高、総資本、自己資本に関しては、スカイマークは上昇傾向にある。他2社はあ 18 まり大きな変化は見られない。 3 社とも世界恐慌の影響を受けたが、その中でもスカイマークはその後の回復率、成長率が一番だと言 える。よって、規模では ANA と JAL の方が勝っているが、分析をすると規模にかかわらず、スカイマー クは優れた企業だということが分かった。 最近では東日本大震災の影響で、両社の株価は一時的に下がったが、現在は共に上昇傾向にある。ANA はエアアジアとタッグを組み、今年 8 月に「エアアジア・ジャパン」という LCC を設立したため、今後 成長が見込まれる。一方のスカイマークも国際線への参入を公表したため、スカイマークのさらなる成 長も考えられる。また、現在上場を目指す JAL の動向にも注目しなければならない。今後の見解として は、LCC と国際線での競争が重要なカギとなりそうである。 以上の分析結果をふまえ、3 社のうち上場している ANA かスカイマークの株のどちらかを買うとした ら私はスカイマークをすすめる。スカイマークは 2012 年 3 月第1四半期において大幅な増収となってい る。LCC の競争が重要なカギとなると述べたが、スカイマークは日本における LCC の先駆者であり、コ スト管理も順調で、その地位からも競争に優位だと言えるからである。 <参考文献> 伊藤邦雄『ゼミナール現代会計入門(第8版)』、日本経済新聞出版、2010 年 全日本空輸ホームページ http://www.ana.co.jp/ 日本航空ホームページ http://www.jal.co.jp/ スカイマーク http://www.skymark.co.jp/ja/ Yahoo! ファイナンス http://finance.yahoo.co.jp/ SBI 証券 https://www.sbisec.co.jp/ETGate 格付け投資情報センター http://www.r-i.co.jp/jpn/ 19
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