不条理に思う 台風がもたらした真夏日・猛暑日 10 月 8 日、9 日と台風

不条理に思う
台風がもたらした真夏日・猛暑日
10 月 8 日、9 日と台風 24 号が九州の西の海上から日本海に抜けた。日本海で温帯低気圧に変
わったが、この低気圧をめがけて南風が吹き、西日本は季節外れの暑さに見舞われた。糸魚川市
では、フェーン現象で猛暑日を記録し、10 月としては観測開始以来、日本の最高温度を記録した。
暑いと言えば、JR 北海道では相変わらず不祥事が続き、真っ赤に燃え上がっているかの感が
ある。今年の 4 月から、車両火災を何度も起こしているが、それ以降、不祥事が立て続けに起こ
るので、車両火災事故もはるか遠い昔のように思える。
9 月 24 日には、函館線で線路幅が広がっていたために、貨物車が脱線した。その事故を受けて、
線路幅を緊急点検した結果、発表の度に問題個所が増えた。数個所が数十個所に、そして、最終
的には何と 270 個所という数字が報告された。これ以外にも、一人の運転士が自分のミスを隠す
ために ATS をハンマーでたたき壊したかと思えば、非常用ブレーキの油圧バルブが何故か閉め
られていたという、ありえないようなミスも出てきた。JR 北海道の仕事ぶりを見ていると、今
は廃止された社会保険庁とそっくりと言える。
不条理
JR 北海道は不祥事続きであるが、世の中の出来事を見ていると不条理な事が多い。小説の世
界には、カフカの「変身」やカミュの「異邦人」など不条理を扱ったものがある。一方、現実の
世の中に目を転じると、多くの不条理な出来事が存在する。先日、三鷹市で一人の女子高校生が
殺害された。警察に相談に行って、帰宅後、警察から「無事に帰宅しましたか」という電話があ
り、自分の部屋の中で電話を受けて「無事です」と返答している。自室で安心しきっていた彼女
には、まさか自室のクローゼットに凶悪犯が息を潜めているなんてことは思いもしなかったこと
であろう。しかし、数分後には、クローゼットを出て襲い掛かってきた犯人に地獄に突き落とさ
れてしまった。国際女優を夢見ていた一人の少女の夢は不条理な出来事の中で敢え無く散ってし
まった。
アメリカでは与野党の対立の中で、「債務上限」問題がクローズアップされている。アメリカ
では 1940 年以降、すでに 90 回以上も債務上限を改訂してきている。今回は、10 月 17 日までに
合意しないと債務不履行(デフォルト)になってしまうが、与野党合意がなかなかできないで今日
まで来ている。デフォルトしてしまうと、一時的とはいえ米国債の価格が下落してしまう。その
結果、金融機関には多額の損失が発生するので、連鎖倒産の可能性がある。債務上限の引き上げ
停止は何としても避けなければならない。しかし、与野党対立の中で解決策の鍵は、米国政治家
の良心にのみよっている。民主主義は最良の政治体制であると言いながら、与野党のつまらない
意地の張り合いが、世界経済の不況を招く可能性すらある。最良の政治体制と言われている民主
主義と、政党間のつまらない意地の張り合い、何と不条理な世界である。
不条理といえば、旧約聖書に見られるアブラハムが一人息子イサクを燔祭として捧げる物語が
有名である。ある時、神がアブラハムに 1 人息子であるイサクを燔祭として捧げよと命じる。ア
ブラハムは人間の道徳や倫理を無視して神の命令に従おうとする。そして、我が子を殺そうと斧
を振り上げた瞬間に神はアブラハムの信仰を認め、イサクを殺させなかった。そして、アブラハ
ムの子孫を天の星のように、浜の真砂のように繁栄させた。この物語を題材に、実存哲学者のキ
ェルケゴールが不条理に関して論じている。
ちょっと良い話
こんな話題ばかりを見ていると気分が悪くなる。気分が良くなる話も欲しいなと思っていたら、
ANA の機内誌に少し気の利いた話が掲載されていた。
一つは松山大学の創始者である新田長次郎氏の話である。愛媛大学の隣に位置している松山大
学は創立 120 周年を迎える。その宣伝記事が ANA の機内誌に掲載されていた。その中に新田長
次郎氏が私財を投げ打って松山高等商業学校を設立したこと、そして、資金は提供するが運営に
口出しはしなかったとあった。天晴れというほかない生き様である。新田氏は秋山好古の友人で
あり、大阪に出て動力電動用革ベルト事業で大成功した人物である。
また、湯の町別府の観光宣伝を先頭に立って行い、日本を代表する観光地に仕上げた油屋熊八
翁の話も面白おかしく記されていた。油屋翁は亀の井旅館と亀の井自動車の創業者である。彼の
別府の観光宣伝は私財を投げ打っての取り組みであった。その為、没後、亀の井旅館と亀の井自
動車は借金を返すために売り払われたほどである。
明治期の人たちの中には、本当に公的な精神の持ち主がいたものである。明治という時代は、
戦争の影が付きまとい、庶民には貧しさが当たり前であった時代だと思うが、公的な精神の持ち
主が多くいた時代でもあったのである。
機内誌には他に畳表となる藺草の話と柿田川湧水群の話も掲載されていた。藺草は泥染めされ
ることにより、色落ち防止と抗菌性の向上に効果があるとのことであった。また、柿田川湧水群
の深い青や蒼の色はプロのカメラマンでもなかなか再現できない神秘の色だとのことである。藺
草の泥染めや柿田川湧水群の深い蒼も見たことはない。しかし、真新しい畳表の色と香り、また、
柿田川の清冽な湧水群を想像するだけで心に清々しさを覚える。機内で、わずか 20 分程度であ
っただろうか。ちょっと良い話とちょっと気の利いた話を読んで、心に何か温かさを覚えた。
世の中には、様々な不条理が満ち溢れている。しかし、心温まる話題はそれ以上に多い。真っ
青に澄み切った秋空の下、自然の中に、人間の中に温かい話題を探し求めたいものである。
平成 25 年 10 月 11 日
矢田部龍一