繊維の雑学的な基礎知識の続きです…

2014.5.30
ニ ッ セ ン ケ ン 分 室 「 思 い つ き ラ ボ 」 No.17
繊 維 の雑 学 的 な基 礎 知 識 の続 きです・・・
前 号 で公 開 講 座 の時 に使 用 している資 料 をもとに繊 維 の基 礎 的 な話 を
テーマにしたのですが 雑 学 話 が多 くなってしまい天 然 繊 維 の植 物 繊 維
のところで終 わってしまいました。新 人 向 けですが中 堅 クラスにも筆 者 の
年 代 の者 が教 わってきたことや経 験 したことなども知 ってもらいたいので
このコラムを利 用 して伝 えておきたいと思 っております。意 外 にも知 り合 い
の同 年 代 の人 からも
「続 きを早 めに書 いておいてくれ」と反 応 があり
勉 強 熱 心 だなと思 って「役 に立 っているなら嬉 しいです」と連 絡 したところ
「結 構
飲 み屋 でうけるんだよ」という返 事 が・・・理 由 はともあれ 思 い
つきラボのコラムを読 んでいただき感 謝 しております。
動物繊維 毛編
今 回 は天 然 繊 維 の動 物 繊 維 のお話 です。動 物 繊 維 で家 庭 用 品 品 質 表 示 法 の指 定 用 語 で定 められて
いるのは “毛 ”と“絹 ”になります。以 前 はこれだけだったのですが 現 在 では“毛 ”の分 類 表 示 も認 められ
ています。認 められている“毛 ”は 羊 毛 アンゴラ カシミヤ モヘヤ キャメル アルパカ の 6 種 類 でその
他 の動 物 は“毛 ”となります。羊 毛 は字 の通 り ひつじ で アンゴラは うさぎ カシミヤとモヘヤは やぎ キ
ャメルとアルパカは らくだ の種 類 になります。テレビコマーシャルでお馴 染 みのアルパカは らくだ の仲 間
なのです。
動 物 繊 維 の分 類
毛 の分 類 表 示 名
羊毛
ひつじ
絹
アンゴラ
動物繊維
うさぎ
カシミヤ
モヘヤ
やぎ
毛
キャメル
らくだ
アルパカ
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 〒111-0051 東京都台東区蔵前 2-16-11 (本部) TEL: 03-3861-2341 FAX: 03-3861-4280 WEB: www.nissenken.or.jp
2014.5.30
モヘヤはアンゴラ山 羊 の毛 でアンゴラ兎 と区 分 するためモヘヤという
呼 称 になっています。アンゴラは地 名 に由 来 するのですが
現代社会
ではインターネットですぐ調 べられるので「アンゴラ」と検 索 すると「アンゴ
ラ共 和 国 」が出 てきます。アフリカの国 なのですが 1975 年 (昭 和 50 年 )
に独 立 した国 家 なので 当 然 もっと昔 からアンゴラやモヘヤは存 在 して
いたことを考 えればアフリカのアンゴラではないことが分 かります。アン
ゴラはトルコの首 都 アンカラのことで ローマ帝 国 時 代 はアンゴラと呼 ば
れていたことに由 来
するそうです。もともとはヨーロッパとアジアの境 目
くらいに生 息 する動 物 なのです。
その他 の動 物 の“毛 ”にはどんなものがあるかといいますと ヤク(うし) ビキューナ(らくだ) カシゴラ(やぎ)
ラクーン(たぬき)などがあり指 定 外 繊 維 の表 記 になります。ヤクの毛 は牛 なのになぜかカシミヤ山 羊 の毛
に似 ているのです。ビキューナは希 少 なのでとても高 価 な製 品 となります。カシゴラは名 前 から推 測 できる
ようにカシミヤ山 羊 とアンゴラ山 羊 の掛 け合 わせです。ラクーンはたぬきなのですが
アライグマの毛 も
ラクーンと呼 ばれることがあります。ただ国 際 的 にはラクーンはアライグマのことを指 すようでたぬきの毛 は
使 われることが少 ないようです。
動物繊維 絹編
もうひとつの動 物 繊 維 “絹 ”は天 然 繊 維 では希 少 なフィラメント糸 です。蚕 の種 類 にもよりますが 1 匹 の
蚕 からおよそ 1,000m 前 後 の糸 が採 取 できます。絹 を構 成 する成 分 はフィブロインとセリシンの 2 種 類 の
タンパク質 から成 り立 っています。フィブロインが芯 になって外 側 をセリシンが覆 った形 状 になっています。
絹 を染 めるときにはこのセリシンを除 去 してから染 色 します。セリシンがあると発 色 性 が悪 くなるので取 り
除 くのですが この工 程 を精 練 (せいれん)と呼 びます。繊 維 業 界 でよく耳 にする 精 練 とはもとは絹 の染 色
の前 工 程 のことなのです。
繊 維 の染 色 工 程 では不 要 のセリシンなのですが化 粧 品 業 界 では貴 重 な成 分 と
して取 り扱 われています。というのもセリシンは人 間 の皮 膚 細 胞 に近 いタンパク
質 であることが分 かっており
美 白 や保 湿 に高 い効 果 を示 しています。絹 は
紫 外 線 に変 色 するといわれていますが
紫 外 線 を吸 収 することで色 が変 わる
のでその意 味 では紫 外 線 防 止 効 果 も高 い繊 維 なのです。
絹 に関 する紛 らわしい話 をしておきますと
絹 糸 のことを“生 糸 (きいと)”と呼 びますが
化 合 繊 の業 界
では“生 糸 ”を「なまいと」と読 み 長 繊 維 で仮 撚 加 工 をしていない糸 のことを意 味 します。綿 糸 でも 加 工 前
の糸 を「なまいと」と呼 ぶことが通 常 の会 話 で使 われています。耳 で聞 けば間 違 えることもありませんが
文 字 で判 断 すると取 り違 えることがありますので注 意 が必 要 となります。また“真 綿 (まわた)”も精 練 した
絹 を引 き伸 ばして綿 状 (わたじょう)にしたもののことで“綿 ”という文 字 で綿 (めん)と勘 違 いされることが
多 くあります。この文 章 を書 いていても判 るように“綿 (めん)”と“綿 (わた)”が同 じ漢 字 を使 用 していること
がそもそもややこしくしているのです。“綿 (わた)”には絹 ワタ(きぬわた)も綿 ワタ(めんわた)合 繊 ワタ(ご う
せんわた)もあるの ですが“真 綿 ”は絹 のワタのことなのです。
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2014.5.30
繭 から生 糸 を取 り出 すのですが高 温 のお湯 で繭 の絡 まっている糸 をゆるめながら数 本 の糸 をまとめて
1 本 の糸 にしていきます。1 本 ごとは微 妙 に太 さにバラツキがありますので数 本 を束 ねることで平 均 化 が
図 れます。5~6 個 をまとめたものが 14 中 (なか)というのですが 昔 からの絹 糸 独 特 の番 手 表 示 と思 って
いた と こ ろ 実 は 平 均 14 デ ニ ー ルと いう 意 味 に な る と の こ と で す 。 絹 糸 の 太 さ は フ ィ ラ メ ン ト 糸 で す の で
デニールで表 わされるのですがいつの頃 からこのような表 現 になったのかはよく分 かっていないようです。
7~8 個 のものを 21 中 (なか)9~10 個 のものを 28 中 (なか)と呼 びます。1 デニールは 1 グラムが 9000
メートルのときの太 さで規 定 されています・・・といわれても太 さのイメージができないかも・・・。
歴 史 あ る 高 級 素 材 “絹 ”
ともかく「シルクロード」という古 代 からの交 易 路 から分 かるように絹 は紀 元 前 より貴 重 な繊 維 として扱 われ
ていたのです。ビジュアル要 素 としては鮮 やかな発 色 性 と光 沢 性 さらにしなやかさが特 徴 にな ります。機 能
面 では吸 湿 性 がよくベトツキ感 がなく糸 が細 いのに強 度 があり風 合 いも柔 らかく肌 に馴 染 みやすいのです。
筆 者 は快 適 性 素 材 の開 発 を担 当 していた時 期 もあるのですが どれだけ数 字 的 に快 適 な素 材 ができて
着 用 テストをしてもらっても 当 時 の有 名 な登 山 家 たちは必 ず下 着 類 は絹 製 品 を身 につけていました。
冒 険 家 にとってはシルクに勝 る素 材 はないのかもしれません。
これで取 扱 いが簡 単 で価 格 も手 頃 になれば・・・と思 うのですが高 級 感 も“絹 ”の特 徴 なので高 嶺 の花 の
存 在 でちょうど良 いのかもしれません。シルクの話 をしているだけで高 貴 な 気 分 になれるので 気 分 の良 い
ところで今 回 は終 えたいと思 います。また「飲 み屋 でうけた」でも構 いませんので感 想 やご意 見 もお寄 せく
ださい。
原稿担当
竹中
直 (チョク)
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