連載 株式会社 ユート 株式会社 ユ ト・・ブレーン ブレ ン シニアコンサルタント 若杉 徹 患者数推移から売上を推計する ――季節変動が大きな薬剤の売上予測 先月は、併用薬構造を明らかにす 困難です。 ■患者数の推計−年齢補正 ることによって、取るべきマーケテ 従来、予測に関しては経験とカン 患者数の推計など疾患のデータを ィング戦略が大きく異なることを説 に頼っていましたが、データマイニ 扱う場合、年齢は常に交絡因子 明しました。ライバルと真っ向勝負 ングの研究者によって「外れ値」や (confounding factor)であること考 するのか(差別化)、ライバルとの 「変化点」の検出が高等数学を駆使 慮しなくてはなりません。例えば、 併用を促進し外堀を埋めながら勝負 してできるようになり、現在は、株 近年増加している虚血性心疾患の死 するのか(親和性)、大きく分けて 価の予測など金融工学の分野等で実 亡率を考えてみましょう。虚血性心 2つの選択肢が導き出されました。 用化のレベルに達しています。 疾患の死亡率は高齢者ほど高く、死 マーケティング戦略の成果を測定 しかし、医薬品の売上予測に関し 亡率の増加が単に高齢化が進んだ結 する指標の1つが売上ですが、今月 てはまだまだ実用化は難しいでしょ 果なのか、それとも本当に疾病構造 は、その売上の推計方法について患 う。でも、推計の精度を上げる方法 が変化し虚血性心疾患の死亡率が増 者指向のマーケティングの観点から はあるはずです。 加したのか、単純比較では結論が出 見てみましょう。 ■売上の変動 7月号で説明したとおり、真の売 ません。昔と現在とで異なる年齢構 上は下記のような構造になっていま 成をならして比較しなくては真実は す。 わからないのです。 マーケティングの基本的な指標で この式の売上は患者の手元に渡っ 今回は、平成11年の患者調査を基 ある売上ですが、その推移はグラフ た分ですから、流通在庫を含んだ出 に男女10歳刻みの年齢層での年齢補 にするとジグザグである場合が多 荷額より、マーケティング活動の成 正を試みました。患者数に関しては、 く、季節変動が極端に大きい製品も 果を鋭敏に反映しています。 罹患期間が患者によって異なるた め、多くの研究者が苦労を重ねてい あります。また、決算前や卸に対す る施策を行なった場合、極端に数字 売上=薬価(納入価)×1日処 ますが、なかなか正確に弾きだすこ が跳ね上がる場合もあります。 方量×処方日数×患者数 とができませんでした。今回の試み はどうでしょうか? このような売上変動は、進捗管理 や販売予測をする上で、マーケティ この式の中心になるのが、患者数 ング担当者を悩ませる問題です。こ です。そこで、季節変動が大きいア のまま順調に売上は伸びていくの レルギー性疾患治療薬の患者数を患 図1はアレグラとアレロックの処 か?それとも、年度で括った場合、 * 者データベース(UPDM) で推計し 方患者数推移です。まず、確認の意 昨年度を下回るのか?皆が関心を持 てみることにします。しかし、この 味で、02年の売上を前出の式にした っていますが、推計するのは非常に 先には大きな壁が待ち構えています。 がって出してみましょう。 ■患者数推移とその原因 若杉 徹(わかすぎ とおる) 株式会社 ユート・ブレーン(http://www.utobrain.co.jp/)所属。プロダクト・マーケティング、Webマーケティングに関す るテーマを、データマイニングと行動科学的アプローチで解明中。 02 Monthly ミクス 2003年11月号 1341-3864/0311/¥100/頁/JCLS 5 売上推計と患者数推移 図1.アレグラとアレロックの処方患者数推移(単月) 診療期間:2002年1月∼12月 140 アレグラ (年間:85.6万人) 120 アレロック(年間:43.2万人) * 推 100 計 患 80 者 数 60 ︵ 千 人 40 ︶ 20 0 1月 2月 3月 4月 6月 5月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 *UPDMのデータを、性別・年齢層(10歳)ごとに月別に集計し、平成11年患者調査をもとに直接法による年齢補正を行った。 アレグラ=110円×2回×90日×85 万6000人=169.5億円 アレロック=85円×2回×90日×43 万2000人=66.1億円 の売上は158億円(02年3月期)と なっていますので、この推計値はま ずまずの妥当性を持っていると思い ます。 「日刊薬業」によれば、アレグラ 120 100 皮膚疾患 38.8% 80 処 方 比 率 60 ︵ % ︶ 40 20 皮膚疾患 69.5% 処方目的の比率を求めたものです。 アレグラは、アレロックに比べアレ と、アレロックに比べて ルギー性鼻炎治療の目的で処方され アレグラは、3、4月の る比率が1.5倍ほど多くなっていま 患者数が極端に大きいこ す。3、4月は、花粉の影響による とがわかります。営業年 アレルギー性鼻炎患者が増加する時 度の開始がアレグラは1 期ですから、アレグラの処方患者数 月、アレロックは4月と が極端に増加することがこれで説明 して計算すると年度開始 できます。 季節変動の激しい薬剤の売上推計 に達するのが、アレグラ は、数学的な方法では対応できませ では4月、アレロックで ん。患者数推移から類推することが、 は9月になります。言い 最も精度を高める方法といえるでし アレルギー性 鼻炎 換えると、アレグラでは ょう。 46.7% 月までにその年度の売上 0 アレグラ 図2は、アレグラとアレロックの からの累積患者数が半数 アレルギー性 鼻炎 72.0% な差が現れるのでしょうか? 各患者数の月別推移を見てみる 図2.アレグラとアレロックの処方目的 診療期間:2002年1月∼12月 ではなぜ、患者数推移にこのよう アレロック 4月、アレロックでは9 がかなり正確に推計でき るというわけです。 *UPDM(Utobrain Pharmaceutical Disease Marketing-data)は株式会社ユート・ブレーン の独自調査による患者データベース。詳細は http://www.utobrain.co.jp/updm/。問合せは [email protected]へ Monthly ミクス 2003年11月号 03
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