日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009 ハワイ旅行マーケットで成功した サービスシステムの成功要因を探る ――ルックJTBの“ ‘OLI ‘OLIシステム” をケーススタディとして― もり した まさ み 森下 晶美 東洋大学国際地域学部国際観光学科 准教授 In Japan, the growth of overseas traveling market is slowing down in recent years. However, there is a successful of package tour that increased the market share with its unique service. It is called the "’OLI’OLI system" developed by JTB in Hawaii. In this research, I have discussed this system as a successful case study, and explore the two keywords of "Utilization of the company resources" and "Pursuit of customer satisfaction." In "'OLI'OLI system", they takes advantage of the large number of customers, as well as the specific characteristics of the destination. And It is utilized as the resources of their company. And they pursues customer satisfaction regarding comfort, safety, convenience, and low price. When discussing travel service, we often say that the personalized service and the hospitality are very important. But a service system is also important, it makes possible to pursue the highest common interests of customer satisfaction. 1.はじめに べき変化が起きている。 卒初任給が9万4,300円に対し、ルックJTB 日本人の海外旅行マーケットは、2000年 この研究では、日本人のハワイ旅行マー の「ホノルル6日間」の代金は最低価格で に海外旅行者数1,780万人を記録したが、 ケットにおいて独自のサービスを構築し成 16万1,000円となっており、初任給の1.7倍 その後は2004年の1,683万人、2007年の1,730 功した、ルックJTBの “ ‘OLI ‘OLIシステ に相当する。 万人と、ほぼ横ばいの状態が続いている。 ム” をケーススタディとして取り上げ、 しかし、1994年頃にはこの数字は逆転す 1964年に海外旅行が自由化されて以来、40 そのサービスの現状と成功要因をマーケテ る。94年の平均大卒初任給が19万2,000円 年以上もほぼ右肩上がりの成長を続けてき ィングの側面から探っていきたい。そうし なのに対し、この年のルックJTBの「ホノ たが、近年、その成長にかげりが出ている。 て明らかになった成功のキーワードは、低 ルル6日間」の最低価格は18万6,000円で、 その要因としては、2001年の米国同時多 迷する旅行市場のマーケティングに対して はじめて初任給がツアー代金を上回った。 発テロを発端とする各地でのテロ事件勃発 ヒントを投げかけることが出来るだろう。 以降、平均大卒初任給の上昇とは反対にツ や、2003年のSARSの発生、国内の経済不 アー代金の下落が進み、07年では平均大卒 況など、外部環境要因と考えられるものも 2.日本人のハワイ旅行マーケット 初任給が20万5,000円、ルックJTBの同ツ 多いが、一方で、若年層の海外旅行離れ現 日本人の海外旅行は1964年に自由化さ アーの最低価格は7万9,000円となり、日本 象など、海外旅行を取り扱う旅行会社のマ れたが、当時のハワイへの7泊9日間のツア 人にとってハワイ旅行は “憧れ”から “たま ーケティング不足によって海外旅行者のニ ーはその費用が約36万円と、平均大卒初任 の楽しみ” といった位置づけとなった。 ーズやウォンツを探り出せていないことに 給が約2万円であった一般庶民にとっては 起因すると考えられるものも少なくない。 手の届かない高額商品であった。自由化の 2-1 海外旅行の人気デスティネーション しかし、そうした中で、自社のパッケー 翌年である65年にははじめてのパッケー 海外旅行の人気のデスィネーションを ジツアーのシェアを高め、さらにパッケー ジツアーが日本航空から発売され、70年代 2007年の実際の渡航者の数で見てみると、 ジツアー全体のシェアをも回復させたサー に入ると近畿日本ツーリストのホリデイツ 最も数か多いのは中国で398万人、次いで ビスがある。JTBワールドバケーションズ アー、日本旅行のマッハなど次々とパッケ 韓国が224万人、以下、香港132万人、ハワ (現地法人はJTBハワイ) が企画運営するハ ージツアーが企画されるようになったが、 イ135万人、米国本土129万人、タイ125万 ワイにおけるサービス “ ‘OLI’ OLIシステ まだ、庶民にとって海外旅行は “憧れ” とい 人となっており、 「安・近・短」ブームと ム”である。このサービスシステムが出現 うべきものであった。76年当時でも、平均 いわれる通り比較的近場に人気が高いこと して既に15年が経過するが、この間、ハワ 大卒初任給とホノルル4泊6日間のパッケ が分かる (図表2-1) 。 イ旅行のマーケットにおいては目を見張る ージツアー代金で比較してみると、平均大 しかし、希望としての行き先である「最 −63− 日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009 も行きたいデスィネーション」では、ハワ 気が高くなっている。その増加要因として は23.7%、04年には18.7%、05年には20.5% イ、オーストラリア、イタリア、フランス、 は次のいくつかの点が指摘できる。まず、 と、近年は20%前後で推移している (図表2 スイス、韓国などに人気が高く、この数年、 1980年代中頃になって日本では格安航空 -4) 。 ほぼこの傾向は変わっていない (図表2-2) 。 券と呼ばれるディスカウント・チケットが これをルックJTBのシェアで見てみると、 広く一般化し、また、航空会社では98年の 日本人のハワイ訪問者のうちルックJTBの 航空法の改正を発端に各種割引運賃が設定 パッケージツアーを利用した旅行者は、 されたことで、団体でなくても安い航空券 1996年 に は12.5 % で あ っ た が、99年 に は が手に入るようになったこと、それを後押 15.0%、2002年には17.8%、06年には19.6%、 しするようにインターネットが進展し個人 07年には21.1%と徐々にその占有割合を伸 でも情報が得やすくなったこと、宿泊や各 ばしている。日本人のハワイ旅行マーケッ 種乗車券などがWebサイトから予約・購 ト自体は低迷し、2001年の153万人から06 入可能となったこと、個人の志向の多様化 年度には137万人と11.5%も訪問者数を減 が進みより個人仕様の旅行が好まれるよう らす中、ルックJTBは01年の26.2万人から になったこと、などがあげられる。 06年度には27.0万人と3%程度ではあるが こうした現象はハワイ旅行においても例 その取扱い数を伸ばしている。マーケット 外ではなく、1996年には日本人旅行者の が縮小しつつある中でもマーケットシェア FIT比 率 は29.1 % で あ っ た が、97年 に は を高めることで、取扱い数を維持または拡 36.6%、98年には32.7%と全体の3割以上 大することができるのである。 が個人手配旅行者となっていた。パッケー また、旅行会社の取扱いシェアで見ても ジツアーの利用率が比較的高いビーチリゾ (図表2-5) 、JTB、近畿日本ツーリスト、 ートにおいては、ハワイは個人手配旅行者 HISの海外旅行大手4社が取扱いシェアを 2−2 日本人訪問者の推移 の比率が高いデスティネーションとなって 徐々に伸ばしており、“ ‘OLI ‘OLIシステ 以上のように、ハワイへの旅行は海外旅 いたといえる。 ム”の成功は、JTBの成功に止まらず、旅 行の中でも、日本人には特に人気のデステ 観光旅行マーケットにおいて個人手配旅 行会社の取扱い全体のマーケットを引き上 ィネーションである。1964年の海外旅行の 行者が増加するという現象は、一方ではパ げたことになる。ハワイ旅行マーケット自 自由化を受けて1970年には大型航空機のB ッケージツアーという旅行商品が旅行者の 体は低迷し訪問者数を減らしているが、ハ -747型機が登場したことによって、日本 ニーズに対応できていないことも意味して ワイにおける旅行会社の取扱い数はむしろ 人のハワイへの年間渡航者は約13万人と いる。手配の面倒がない上に保証制度も充 増加しているのである。 なり、海外旅行者数全体の約20%を占め 実した旅行商品であるパッケージツアーで た。以後、輸送力の強化や利用しやすい運 あるから、これを利用しないのは旅行者に 賃の登場、日本経済の発展に伴う円高の進 とって企画面、価格面などで魅力がないか 行などもあり、1996年にははじめて200万 らである。つまりの旅行会社のマーケティ 人を超え、97年には215万人を記録した。 ング不足を指摘することが出来る。旅行会 その後は徐々に減少し、現在は年間140万 社が多様化する個人の志向に対応する商品 人前後で推移しているが (図表2-3) 、前述 企画を行えていないということである。 のとおり、現在も実際の行き先としては第 しかし、そうした中、1994年ハワイのマ 4位、行きたい場所としてはここ数年、第1 ーケットでルックJTBの “ ‘OLI ‘OLIシステ 位である。 ム”が登場し、この様相が一転する。3割 図表2-1 行き先別日本人海外旅行者数 (2007年) 単位:万人 出典:「JTB REPORT 2008 日本人海外旅行のすべて」より抜粋 図表2-2 最も行きたいデスティネーション 出典:「JTB REPORT 2008 日本人海外旅行のすべて」より抜粋 図表2-4 ハワイ総日本人訪問者に占めるルックJTB取扱いと 個人手配旅行の比率 出典:JTBワールドバケーションズ提供資料 (ハワイ州発表値 とルックJTB販売実績より作成) より作成 図表2-5 FITを除く、日本人旅行者数に対する取扱い割合 図表2-3 ハワイへの日本人年間訪問者数 出典:The Department of Business, Economic Development & Tourism 出典:JTBワールドバケーションズ提供資料より作成 2-3 パッケージツアーと個人手配旅行 以上を占めていた個人手配旅行者の比率は、 3.ルックJTBの “ ‘OLI ‘OLIシステム” とは 近年、FITと呼ばれる個人手配旅行に人 1999年には16.2%にまで下がり、2002年に こうした旅行会社のシェアの上昇は、ル −64− 日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009 ックJTB の “ ‘OLI ‘OLIシステム”の登場に る。ようやくロビーに出てきた旅行者はす といわれるワイキキにおいては充実したカ よるところが大きい。“ ‘OLI ‘OLIシステ ぐにもホテルへ向かいたいところだが、従 スタマーサービス体制といえる。 ム”とは、JTBワールドバケーションズが 来パッケージツアーに参加の場合、同じツ これらのツアーデスクは、それぞれに 企画運営する『ルックJTB』というパッケ アーでも最初に入国審査を終えた参加者と 「 ‘OLI ‘OLIパ ー ク 」 、 「 ‘OLI ‘OLIプ ラ ザ 」 、 ージツアーのブランドに付属するサービス 最後になった参加者では2時間近くの差が 「 ‘OLI ‘OLIパイナップルウィング」など、 の総称で、送迎やトロリー、観光、食事な あることがあり、全員が揃うまで長時間バ 親しみやすくネーミングされ、旅行者の滞 どさまざまなサービスの中から、旅行者が スの中で待たされることが多い。また、こ 在中の困りごとや観光、アクティビティの これを選択し、組み合わせて自分の好みに うした無駄な待ち時間を嫌うためパッケー 相談に応対するほか、レストラン、ゴルフ 合ったものだけを利用するシステムである。 ジツアーを利用しないという旅行者もいた。 などの各種予約なども行っている。また、 このシステムが登場したのは、94年のこと “ ‘OLI ‘OLIシステム”では、このバスの長 日本人旅行者の多いDFSギャラリアの中 だが、その後、毎年のように改良を重ね、 時間待機を解決した。ルックJTBの旅行者 にある「'OLI'OLIパイナップルウィング」 現在の形に至っている。その特徴をまとめ であれば、どのコースも関係なく入国審査 には無料の休憩スペースもあり、日本語の ると次の4点に集約できる。 を終えた順に、旅行者を待たせることなく TV、新聞閲覧サービス、無料で利用でき シャトルバスで、まずは市内に設置した観 るインターネットサービス、ウクレレ・レ 3-1 自社客に合った独自のトロリーを運行 光案内所を兼ねたサービス拠点まで送る。 ッスンなども行っている。 ワイキキの繁華街は歩いても十分に動け このサービス拠点は ‘OLI ‘OLIパークと呼 る距離だが、買物の荷物があったり、子供 ばれ、日本語スタッフによる観光案内カウ づれだったりと、実際には歩くのが面倒と ンターや売店、休憩スペースなどがあるほ ツアーデスクでも対応しきれない緊急の 感じる旅行者も多い。ホノルルには公共交 か、ベビーバギーや携帯電話の貸出し、シ 困りごとや、ツアーデスクの営業時間外、 通機関のトロリーが走っているが、地元の ェラトンをはじめとした一部ホテルのチェ ツアーデスク設置の場所以外での相談など 利用客も多く、必ずしも観光客の利便性だ ックイン、レストラン予約なども行える。 には、 「ルックJTBたびケータイ」と呼ば けを考慮しているわけではない。そのため、 つまり、旅行者にとっては、これまで他の れる携帯電話によるカスタマーサービスが 現地の滞在日数が少ない旅行者が効率的に 到着者をバスの中で待つだけであった無駄 カバーしている。この携帯電話サービスは、 行動するための最適な交通手段とはいえな な時間を、明るく広い快適な ‘OLI ‘OLIパ 「 ‘OLI ‘OLIテレフォンセンター」が24時間 い。 ークでこれからのプランをあれこれ考えた 体制で日本語にスタッフによる案内を行っ “ ‘OLI ‘OLIシステム”では、自社の旅行者 り、済ますべき手続きをここで済ますこと ており、病気などの緊急相談はもちろん、 に便利な場所だけを結ぶトロリーを独自に が出来るのである。 開設し、朝8時から夜23時まで約4 ~ 8分間 また、このサービスでは、空港到着時の へ帰れるか」などといった相談、各種の予 隔で運行している。つまり、JTBで手配数 旅行者の大きな荷物は、別便でチェックイ 約やタクシー手配なども行っている。また、 の多いホテルと観光客に人気のショッピン ン時までに宿泊ホテルへ届けるシステムに 同行者同士がこの携帯電話で連絡を取り合 グエリアや観光スポットを結び、自社客の なっている。 うといったことも可能である。同行者同士 みが滞在期間中は何度でも無料で利用でき (2)携帯電話の貸出しと現地サービス 「外出先で道に迷ったがどうすればホテル の通話や国際電話などには通話料がかかる る。通常、ルックJTBで利用するホテル前 3-3 きめ細かいカスタマーサービス が、テレフォンセンターへの案内に対する には6 ヶ所のトロリーの停留所があるほか、 添乗員の付かないフリー型パッケージツ 通話料などは無料である。 徒歩3分以内に停留所があるホテルは7件 アーが多いハワイでは、現地での旅行者の ある。これにより、旅行者は宿泊ホテルか ケアが大きな課題となるが、 “ ‘OLI ‘OLIシ 3-4 サービスの選択性 ら主な観光スポットへ行くために、暑い中 ステム” では、旅行者が安心して滞在でき、 従来のパッケージツアーは、 ”お仕着せ” 行き先の分かりにくい公共交通機関のトロ 便利に過ごせるよう、カスタマーサービス とも揶揄されるように既にセットされた観 リーを待ったり、タクシーを呼ぶ必要もな 体制を整えている。 光やサービスによって成り立っており、現 くなった。 地での旅行者の選択性は低かった。しかし、 (1)ツアーデスクの設置 ハワイのようなリピーターが多いデスティ 3-2 システム化された空港送迎 ワイキキビーチ周辺には6箇所のツアー ネーションでは、旅行者の志向も多様であ 日本からハワイを訪れると、まずうんざ デスクが設けられ、営業時間はデスクによ る。 りするのは入国審査の長い列で、到着便の っても異なるが、旅行者は朝8時~夜22時 ルックJTBのハワイのフリープラン型の 時間帯が重なることから、入国審査が済む までいずれかデスクを利用することが出来 パンフレット1冊の中には、航空会社やホ までに長い時は2時間近く掛かることがあ る。これは、銀座エリアとほぼ同じ大きさ テルの部屋タイプの選択など、約5,000通 −65− 日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009 りの組み合わせが存在しているが、さらに、 したがって、日本人観光客の行動エリア 来る。 “ ‘OLI ‘OLIシステム”では、観光やアクテ が狭く、また、ビーチリゾートという観光 ィビティも選択可能とした。従来のパッケ 行動のパターンが集約されたエリアであっ 4-2 マーケティング要因 ージツアーでの観光の選択は、 「市内観光 たため、サービス可能なエリアやサービス (1)CSから生まれたサービス つき・なし」といった2者択一程度のもの 内容を集約でき、サービスの運営が可能と “ ‘OLI ‘OLIシステム”は、 さまざまなCS で あ っ た が、 “ ‘OLI ‘OLIシ ス テ ム ”で は なったと考えられる。また、日本人旅行者 (カスタマー・サティスファクション) から 「 ‘OLI ‘OLI エンジョイクーポン」と呼ば が到着・帰国に利用する航空機もほとんど 考えられている。空港の送迎サービスを例 れるアクティビティ・チケットを2枚発行 が日本からの直行便であり、到着・出発時 にとって考えてみると、運営する側の視点 し、旅行者は1枚で1つのアクティビティを 間が集中しているため、空港送迎に対して で見れば、1台のバスに同じコース旅行者 選択できる。アクティビティには、4つの スタッフを必要とする時間が比較的短くて を全員乗せ込めれば費用効率はいいのだが、 観光コースのほか、食事、マッサージなど すむ。パリやロンドンといった、経由パタ あくまで旅行者の視点から、バスの中での もあって、旅行者は滞在中好みのものを2 ーンの多い到着便を持ち、観光客の行動エ 長時間待機を解決することを選択したマー つ利用することが出来る (図表3-1) 。つま リアが広い観光地ではこうしたサービスの ケット・インの発想といえる。 「空港から り、ハードリピーターで、観光はもう不要 提供は難しいだろう。ハワイだからこそ実 ホテルへの送迎」というのが基本サービス という旅行者であれば、それに代わって食 現できたサービスシステムといえる。 あれば、 「早く自分の計画に移りたいので 事やマッサージを選択することも出来るの 少しでも早く送って欲しい」と考えるのは である。 旅行者のウォンツだろう。そして、このウ ォンツに対応することを考えたのが “ ‘OLI ‘OLI 図表3-1 “‘OLI’OLIシステム”で選択できるアクティビティ システム” である。 また、独自のトロリーにしても、単なる 利便性だけのものではない。日本人の旅行 は欧米人のそれとは異なり、短い休暇を目 いっぱい利用して出掛けることが多い。旅 行先で「もう少し長く滞在したい」と思う ことは多いが、だからといって簡単に滞在 日 数 を 延 ば す こ と は 出 来 な い。 “ ‘OLI ‘OLIシステム”のトロリーは自社客により 出典: 『ルックJTB ハワイ2008年11月~ 2009年3月』パンフレットより作成 便利なトロリーを作ることで、旅行者に限 4.成功要因の分析 滞在日数の少なさをカバーすることにもつ (2)JTBの取扱い客数 られた滞在時間をより有効に使ってもらい、 以上のような独自のサービスを実現した “ ‘OLI ‘OLIシステム”は、旅行者に対する ながっている。 ルックJTBの “ ‘OLI ‘OLIシステム”である 個別のサービス、ホスピタリティというよ さらに、ツアーデスクや携帯電話サービ が、これが成功した要因を考察すると、大 り、むしろ、サービスシステムである。こ スに関しても、日本人は外国語が苦手な人 きくは次のような環境的要因とマーケティ うしたシステムを構築、運営するには、コ が多いため、その役割は大きい。2007年度 ング要因から分析することが出来る。 スト面からまとまった取扱い客数が必要で の海外旅行の阻害要因でも「言葉に不安が ある。 ある」が37%で、年々その数は増えており、 4-1 環境的要因 2000年1年間のハワイの取扱い客数をそ 第1位の「治安に不安がある」42.9%に次ぐ (1)ハワイの特異性 のシェアから推定すると、HISで5万8,000 不安要因となっている。こうした不安要因 こうした決めの細かいサービスが実現し 人、近畿日本ツーリストで9万9,000人、ジ を出来るだけ取り除くために考えられた、 たのは、ホノルルという極めて限定した地 ャルパックで22万人であるのに対し、ルッ ツアーデスクの配置や24時間の携帯電話 域であったことが大きい。マウイ島など近 クJTBは30万1,000人、ルックを含めたJTB サービスは、旅行者にとっては大きな安心 隣諸島などに滞在する観光客は近年増加し 全体では41万人という取扱い客数を持つ。 材料となったと考えられる。 つつあるものの、日本人はほとんどがオア こうした数と旅行者の観光行動のパターン フ島・ホノルルの滞在で、2004年度では が 集 約 さ れ た エ リ ア で あ っ た こ と が、 148万人のハワイ訪問者中142万人、全体の 96%がオアフ島に滞在している。 (2)マス・カスタマイゼーションのシステム “ ‘OLI ‘OLIシステム”というサービスシス 「パッケージツアーは窮屈だが、海外で自 テムの運営を可能にしたと考えることが出 分だけで行動するのは不安」という日本人 −66− 日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009 旅行者は多い。しかし、パッケージツアー メントの支持をつかんだといえる。これは、 そうした最大数のCS(カスタマー・サテ は航空座席やホテルなど、さまざまなスケ リピーター率57%という同社の数字から ィスファクション)を目指すためには、自 ールメリットの上に成り立っており、旅行 も明らかだろう。 社資源を最大限に活用していくことも重要 である。 者にとっては価格面で魅力的である。 こうした旅行者の志向の多様化とスケー 5.まとめ ルメリットによる低廉性を実現する方法の 近年、少子化や景気の低迷から縮小傾向 一つにマス・カスタマイゼーションがある。 にあるマーケットは少なくない。日本人の マス・カスタマイゼーションとは、オーダ 海外旅行マーケットも同様で、縮小には至 ジェイティービー監修『JTB REPORT 2008 ーメイドとレディメイドの中間に位置する らないまでも、これまでのような順調な右 日本人海外旅行のすべて』 、ツーリズムマ もので、顧客の好みを1からつくり上げる 肩上がりの成長を期待するのはむずかしい ーケティング研究所、2008年7月 のではなく、大量生産したパーツを顧客が だろう。しかし、企業はそうした中でも成 The Department of Business, Economic 選んで組み合わせることで好みの商品をつ 長していかねばならない。 Development & Tourism くり、個人仕様でありながら時間的にも価 そうした中、マーケット自体は縮小傾向 JTBワールドバケーションズ提供資料 格的にもスケールメリットのあるものにす にあっても、顧客の支持を得て取り扱い客 香川眞編、 『観光学大事典』 、木楽舎、2007 ることで、既にDELLなどのコンピュータ 数を増やしたサービス・システムが存在す 年11月 や自動車などでは成功例がある。 る。ルックJTBの “ ‘OLI ‘OLIシステム”は、 こうした意味で、 “ ‘OLI ‘OLIシステム” 取扱い客数やデスティネーションの特異性 はまさしくマス・カスタマイゼーションと を武器に顧客の満足を考えたサービスシス いえる。航空会社やホテルの部屋タイプな テムを構築し、マーケットシェアを伸ばし ど5,000通りもの組み合わせから選べる選 ていった。このケーススタディから浮かび 択性に加え、現地でのさまざまなアクティ 上がってくるキーワードは、 「自社資源の ビティから好みの行動が選択でき、パッケ 活用」と「顧客満足の追求」である。 ージツアーの低廉性も実現している。 “ ‘OL “ ‘OLI ‘OLIシステム”では、ハワイのデス ‘OLIシステム” I では“自由・安心・快適” ティネーションの特異性と日本最大の取扱 をコンセプトにしているが、こうした選択 い旅行者数を自社の資源として最大限に活 や行動の“自由” 、現地サポート体制によ 用し、快適性や安心感、利便性、価格の低 る “安心” 、送迎システムや専用トロリーの 廉性といった顧客満足を追求した。 “快適” を実践することで、パッケージツア 旅行サービスというと、顧客それぞれに ーの安心と個人旅行の自由さを実現してい 対する個別のサービスやホスピタリティが る。 「パッケージツアーは低価格が魅力だ 論じられることが多いが、ホスピタリティ が窮屈。でも、海外で自分だけで行動する が顧客それぞれに対する個別の心遣いなら のは少し不安」という微妙な旅行者のウォ ば、顧客満足の最大公約数を追求すること ンツをつかんだシステムといえるだろう。 が可能となるのがサービスシステムだろう。 (3)リピーターからの支持 参考文献 図表4-1 ハワイ訪問者数の参加形態別成長率 日本人のハワイ訪問者数の参加形態別内 訳は1995年を100とすると、現在、ハネム 一人旅 ーンやグループは減少傾向にあるが、代わ って家族やカップル、一人旅などが増加傾 家族 向にある (図表4-1) 。こうしたセグメント カップル はリピーターも多く、それだけに好みや必 ハネムーン グループ 要なサービスも多様である。また、特に家 族においては、前述の “安心” 、 “快適” とい った要素が重要となる。 “ ‘OLI ‘OLIシステ ム”は、多様化に対応する選択性と、きめ 細かいカスタマーサービスでこうしたセグ 出典:JTBワールドバケーションズ提供資料より作成 −67− −68−
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