ODPHZH03海外直接投資についての理論

OICE Discussion Paper Series (ODP)
HZH-03
海外直接投資についての理論
朱荟
1.はじめに
海外からの投資を積極的に受け入れていくことは、資本の少ない途上国が経済発展を加速する上で非常に重
要な方法である。中国経済の急成長に対して外国企業の投資が成長に大きな役割を果たしてきた。そして、現
代では直接投資は企業活動のグローバル化の最も重要な要素の一つである。したがって、本レポートは海外直
接投資に関する理論を簡単に説明し、日系企業が中国に直接投資する原因について展望したい。
2.海外直接投資の定義
直接投資とは、企業が経営に関与する目的で海外の企業の株式を取得したり、貸付を行ったりする行為であ
る(伊藤
2005)。あるいは、国際間資本移動のうち、経営に参加することを意図して外国企業の株式を保有す
るための投資のことを指す(木村
2000)。また直接企業や工場を海外に設立することも直接投資の一つであ
る。直接投資の場合には、単に色のついていない資本が移動するにとどまらず、技術や経営ノウハウなどの企
業特殊資産の移動も同時に起こる。
3.海外直接投資についての理論
直接投資についての理論としてダニングの OLI 理論、垂直統合の理論と産業立地論を簡単に紹介したい。 1
ダニングの OLI 理論で「O」というのは、所有にかかわる国の企業が他国の企業に対して有する優位性で
ある。ここで所有されるものは、製品開発、生産管理、人的資本の蓄積、マーケティング・ノウハウ、その他
にかかわる財産権および無形資産である。さらに、それらを利用して国境をまたいで企業活動を統合すること
によって生ずる優位性もここに含まれる。
「I」は企業内部化によって生ずる優位性である。つまり、取引相手
を探したり、取引相手の行動に伴う情報の不完全性などから生ずる費用を軽減するために、その活動を企業の
中に取り込むことによって生ずる優位性である。「L」は立地条件から生ずる優位性である。この立地条件に
は、天然資源腑存、賃金水準、インフラストラクチャーの整備状況、市場の大きさ、投資優遇その他の政府施
策、その他政治的・経済的・社会的諸条件などが含まれる(木村
2000)。
垂直統合の理論はダニングの OLI 理論の内部化優位性の「I」に似ていると思われる。垂直統合とは、生産
の川上部門と川下部門を単一企業が統合的に保有・支配することをさしている。垂直統合によって、企業が効
率性の向上と市場支配力の拡大という利点を得られる。一方で、垂直統合を実施するために、かなりの費用が
必要である(木村
2000)。
産業立地論はダニングの OLI 理論の「L」に似ているところもある。産業立地論は生産面と消費面の視点か
ら企業の海外直接投資を分析する理論である(木村
2000)。
4.直接投資の動機と方式
直接投資の動機についての分類は大きく①生産条件指向型、②市場指向型、③貿易政策回避型、④グローバ
ル・ネットワーク構築型の四つに分けられる。生産条件指向型というのは生産面での有利性を重視した直接投
資のことで、資源開発目的のものや、低賃金労働を求めての投資などが含まれる。市場指向型は、逆に需要面
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での有利性に重視するものである。現地の需要動向に関するきめ細かい情報収集の必要な産業が現地に販売子
会社を設立する場合などがここに含まれる。貿易政策回避型には、輸入制限政策を飛び越えて現地に生産拠点
を設ける場合、あるいは現実にはまだ貿易政策は課されていないけれども将来発生しうる貿易摩擦を回避する
ために進出する場合などが含まれる。グローバル・ネットワーク構築型とは、総合商社や金融部門に見られる
ように、広域にわたって支店・子会社網を構築することによって利益を生み出そうとするものを指す(木村
2000、伊藤
2005)。
現在では、直接投資のやり方あるいは形はフラグメンテーションとアグロメレーションで説明されることが
多い。フラグメンテーションとは、ある同一の最終生産物を生産するプロセスを複数のステップに分割して異
なる場所に立地させることである。フラグメンテーションによって、国際分業は垂直分業から水平分業へ移転
している。垂直統合とは反対の動きである。それに対して、アグロメレーションはクラスター(集積地)とほ
ぼ同じ意味で用いられている。つまり、経済活動の地理的集中での立地から生ずる効率性の向上を強調してい
る(木村
2000、2003)。生産コストや販売面から,経済活動が集中している地域に直接投資が集まりやすい
ことを意味している。
5.おわりに
国際経済論の教科書から、企業の海外直接投資に関する理論をみてきた。今まで学んだ知識を活用して、日
系企業が中国に直接投資する原因を自分なりの考えで述べたい。
日系企業はもともと生産コストの削減を目的として、中国に直接投資してきたと思われる。つまり、中国市
場は低賃金の労働力資源が多いという特性を持っている。中国に直接投資してきた日系企業は、ほとんど中国
を生産拠点とする労働集約型輸出企業である。しかし、中国市場が成長するに従って、とくに 2001 年に中国
が WTO に加盟してから、日系企業の投資動機が変化し始めてきた。生産コストの削減という基本目的は変化2
しなかったが、中国の巨大な消費市場の潜在性と大量の優秀な人材があるという新たに現れた特性が日系企業
を惹きつけた。
現在,中国の消費市場を重視して投資した企業とグローバル・ネットワークを利用する必要がある総合商社
や金融部門などの企業がどんどん増えてきている。
<参考文献リスト>
1.木村福成(2000) 「海外直接投資と企業活動の国際化」『国際経済学入門』日本評論社
2.木村福成(2002)「グローバリゼージョン下の発展途上国の開発戦略」高阪章・大野幸一編『新たな開発戦
略を求めて』 アジア経済研究所
3.伊藤元重(2005) 「第 7 章
直接投資と企業のグローバル展開 Ⅱ直接投資の理論」
『国際経済入門』 日
本経済新聞社
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