日本の福祉政策のあり方 - 総合政策学部・総合政策研究科

2009 年度
第 12 回
公共選択学会学生の集い
「日本の福祉政策のあり方」
充足状態の保障という福祉最終目標とその達成のため
の制度制定の流れを少子化・高齢化の問題からみる
中央大学飯島ゼミ 2 年
鈴木亮 輔
名和 田 俊弘
B パート
村岡諒亮
1
0. 目 次
Ⅰ .は じ め に・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ p.3
1.従 来 の 福 祉 政 策
2.限 界 を 見 せ る 現 代 の 福 祉 政 策
3.社 会 福 祉 と い う 言 葉 の 定 義
4.我 々 が 考 え る 社 会 福 祉 の 目 標
5.少 子 化 ・ 高 齢 化 か ら 考 え る 社 会 福 祉
Ⅱ .現 状 分 析・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ p.6
1.本 章 の 流 れ
2.少 子 化 に 関 す る 分 析
3.高 齢 化 に 関 す る 分 析
4.少 子 化 、 高 齢 化 に よ る 課 題
5.政 府 の 対 応
6.ま と め
Ⅳ .政 策 提 言 ~ お も に 少 子 化 の 対 策 に つ い て・・・・・・・・・・・・・・・・p.14
1.本 章 の 流 れ
2.最 終 的 な 理 想 と し て イ メ ー ジ す る 合 計 特 殊 出 生 率 1.75
3.育 児 休 業 取 得 促 進 等 助 成 金 制 度 の 充 実 化 に よ る 育 児 支 援
4.児 童 手 当 の 規 模 拡 充 と 給 付 額 の 一 律 化
5.保 育 施 設 の 拡 充 に よ る 待 機 児 童 化 の 懸 念 払 拭
6.財 源 は 確 実 性 、 安 定 性 の あ る 部 分 か ら
7.ま と め
Ⅲ .政 策 提 言 ~ お も に 高 齢 化 の 対 策 に つ い て・・・・・・・・・・・・・・・・p.20
1.本 章 の 流 れ
2.年 金 財 政 の 持 続 可 能 性
3.介 護 保 険 制 度 の 安 定 化 と 質 の 向 上
4.ま と め
Ⅴ .お わ り に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.23
Ⅵ .図 表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.24
Ⅶ .参 考 文 献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.32
2
Ⅰ .は じ め に
1. 従 来 の 福 祉 政 策
我が国の社会福祉制度は、太平洋戦争終結後において、戦争被災者や引揚者が
急増する中、おもに生活困窮者への対策を中心として開始されたといわれる。
1946 年 の 旧 生 活 保 護 法 や 1947 年 の 児 童 福 祉 法 、傷 痍 軍 人 を 主 な 対 象 と し た 1949
年 の 身 体 障 害 者 福 祉 法 1 な ど を 皮 切 り に 、法 律 に よ っ て 福 祉 サ ー ビ ス の 具 体 的 な 内
容 が 定 め ら れ 、そ れ ら は 経 済 成 長 と と も に 個 別 に 発 展 を 遂 げ て き た 。ま た 、1960
年代には相次いで現在の知的障害者福祉法や老人福祉法、現在の母子及び寡婦福
祉 法 が 制 定 さ れ 2 、終 戦 当 時 は 想 定 さ れ な か っ た 分 野 の 福 祉 に も 、そ れ ぞ れ 法 律 が
設 け ら れ る こ と で 、 そ の 内 容 に 沿 っ た 政 策 が そ の 都 度 展 開 さ れ て き た (cf.図 1)。
こうした一連の法制定とその実行の根拠には、戦後に定められた日本国憲法の
第 25 条 が 用 い ら れ て い る 。同 条 で は 、「 国 は 、す べ て の 生 活 部 面 に つ い て 社 会 福
祉 、社 会 保 障 及 び 公 衆 衛 生 の 向 上 及 び 増 進 に 努 め な け れ ば な ら な い 。」と 規 定 さ れ
ており、日本において社会福祉とは、単なる慈善や相互扶助ではなく、国家の責
任として行われるべきだと示している。
2. 限 界 を 見 せ る 現 代 の 福 祉 政 策
最 初 に 述 べ た と お り 、 日 本 は 戦 後 60 年 以 上 に 渡 っ て 、 国 家 主 導 で 福 祉 政 策 を
推し進めてきた。福祉の対象者や環境に応じて、その都度法を制定し、いわば対
症療法の方式で、各課題に対応してきたように思われる。
し か し 、21 世 紀 を 迎 え た 今 日 、核 家 族 化 に は じ ま る 家 族 構 成 の 変 化 や 家 庭 機 能 の
変 化 、ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン 3 と い う 言 葉 に み ら れ る よ う な 障 害 者 の 自 立 、そ し て
労働形態の変化と少子高齢化の進行に伴って、我々が考えるべき福祉の問題やニ
ーズは確実に変化している。高齢者のための福祉、児童のための福祉、というよ
うに別個に対応していたかつての日本の福祉は、めまぐるしく変化を続ける現在
の社会環境にあって、すでに適応の限界を迎えつつあるように思われる。たとえ
ば、高齢者の生活や介護作業は各家庭、あるいは地域で賄われることを前提とし
ている従来の高齢者福祉方針では、世代間の別居が著しく、孤独死すら発生し得
る現状に果たして即することが可能だろうか。少子化社会に対する警告が日々発
せられる中、7 割もの社会保障給付費が高齢者のために消えていく、従来の費用
配分は本当に正しいのか。現行の制度が、日本社会を持続可能なものとし得るか
は大きな疑問である。ゆえに、我々はより強い意識をもってこれからの社会福祉
について考える必要がある。
3. 社 会 福 祉 と い う 言 葉 の 定 義
「社会福祉」という言葉は、戦後、特に高度経済成長期においてかなり一般的
1
これら 3 つの法律を一般的に「福祉三法」と呼ぶ。
上記の福祉三法とあわせ、一般的に「福祉六法」と呼ぶ。
3 障害者と健常者とは、互いを区別することなく、社会生活をともにするのが正常であり、
本来の望ましい姿であるとする考え方。
2
3
に用いられるようになったと思われる。では、まず「社会福祉」とはいったい何
なのか。
言 語 的 に は 、 英 語 で の “ Social Welfare” を 忠 実 に 訳 し た も の と し て 知 ら れ る
が 、Welfare の 本 来 の 意 味 が「 幸 福 」
「 福 利 」で あ る こ と を 考 え る と 、社 会 福 祉 と
はつまり、国家が社会を通じて国民の幸福を達成する、という意味であると考え
られる。よって我々は、今回社会福祉について考察を行うにあたって、この基本
姿勢を採用した。
次に、社会福祉とは具体的にどういったものをさすのか。まず、法律上および
政策上の社会福祉について考えると、これは上記の福祉六法とその関連法案をさ
す。すなわち、分野としては高齢者、児童、母子、身体・知的障害者の 4 分野に
大別できるといえる。この解釈において、社会福祉とは社会保障の一部である。
し か し な が ら 、現 実 の 福 祉 国 家 4 で は 、社 会 保 障 全 般 と 公 衆 衛 生 、そ し て 教 育 を 含
んで理解、定義される場合がほとんどである。いわば、社会福祉の中に社会保障
を含むというものである。本論文でのテーマは、日本の福祉政策についてそのあ
り方も含めた再検討を行うというものであるため、今回の考察では、後者の、福
祉 国 家 が 内 包 す る 、「 社 会 保 障 も 含 ん だ 社 会 福 祉 」 を 採 用 す る こ と に し た 。
4. 我 々 が 考 え る 社 会 福 祉 の 目 標
で は 、 社 会 福 祉 と は い っ た い 何 を 目 標 と し て い る も の な の か 。「 福 祉 の サ ロ ン 」
で は 、社 会 福 祉 に つ い て 、
「 制 度・政 策 、機 関・機 能 、サ ー ビ ス 等 全 て の 資 源 を 動
員して、人権主体としての人間の充足状態を保障すること」と定義している。今
回 社 会 福 祉 の 目 標 を 考 え る に あ た っ て 、我 々 は こ の 考 え に 注 目 し 、
「人権主体とし
て の 人 間 の 充 足 状 態 」 と は つ ま り 、 日 本 国 憲 法 第 25 条 に 代 表 さ れ る よ う な 、 生
存のための最低限の環境のみならず、個々人が各自の自己実現を可能とする環境
を備えた状態であると考えた。この状態の保障こそが、福祉政策が目指すべき最
終的な目標であると思われる。こうした状態を保障するための具体的な制度やサ
ービス等を検討するためには、まず現実社会で実際にみられる現象や問題を発
見・分析する必要がある。つまり、実際にみられる問題を踏まえたうえで、これ
に対する具体的、かつ達成可能な福祉実践の目標をたて、それをいわば中間目標
として、その具体的な目標を達成することで、最終的に本来の目的である「人権
主体としての人間の充足状態の保障」を達成するということである。
5. 少 子 化 ・ 高 齢 化 か ら 考 え る 社 会 福 祉
では、前述した「中間目標」を決定するにあたって認識、分析すべき具体的な現
実の問題とは、いったい何が適当であろうか。
第 2 節 で も ふ れ た と お り 、我 々 は 今 日 新 し い 社 会 構 造 に 直 面 し て お り 、 そ の 中
から発生する問題や課題は、たとえば「ハケン切り」に代表されるような雇用の
4
安全保障や治安維持にとどまらず、社会保障を通じて国民の生活安定を図る国家のことで
ある。
4
不安定化、少子化社会の進行、教育水準の世帯間格差拡大、高齢化にはじまる社
会保障給付システムの持続性不透明化や高齢者介護制度の不十分性など、非常に
数多い。こうした中から、今回我々は少子化問題、そして高齢化社会の問題を選
び出した。それは、数ある問題、課題の中でも特に少子化、高齢化といった現象
は、労働や教育、医療などといった他の福祉分野とも関連性を多く持つからであ
り、より多くの分野に関連する少子化・高齢化から切り込み、そして仮にそれに
対して効果的な提言を行うことが出来たとすれば、広範囲にわたる人々の「人権
主体としての人間の充足状態の保障」を達成することが出来る可能性が高いと考
えたからである。
このように考察する具体的な問題を定め、次章からは、少子化、高齢化の問題
を軸に分析を進めていくこととする。
5
Ⅱ .現 状 分 析
1. 本 章 の 流 れ
前章では、福祉政策の定義や、その本来の目的を確認し、具体的な問題として
今回少子化・高齢化を挙げることを発表した。
そこで、本章では、日本国内における少子化、および高齢化の現状について分
析する。具体的には、まず少子化の定義と現状分析、次いで高齢化の定義と現状
分析を行い、その後、今なお存在する課題や、政府のこれまでの対応について論
じていく。
なお、少子化と高齢化は、厳密にいえば必ず同時に発生するものではないが、
両者が抱える問題点では相互に関連性を多く含むため、今回は別個に記述するの
は現状の分析までにとどめ、これまでの対応策と問題点の指摘、および政府の従
来の対応については双方共通の項を設けることとした。
2. 少 子 化 に 関 す る 分 析
2-1.少 子 化 と 少 子 化 社 会 の 定 義
政府は、少子化を「出生率の低下やそれに伴う家庭や社会における子供数の低
下 傾 向 5 」 と 定 義 し て い る が 、 人 口 学 の 世 界 で は 、 さ ら に 明 確 な 解 釈 と し て 、「 合
計特殊出生率が、人口を維持するのに必要な水準、すなわち人口置換水準を相当
期 間 下 回 っ て い る 状 況 」と い う 考 え を 採 用 し て い る 6 。本 論 文 で は 、よ り 明 快 な 人
口学での解釈を少子化の定義とすることにした。一般的に人口置換水準は合計特
殊 出 生 率 で 2.08 と さ れ て い る が 、我 が 国 の 場 合 は 第 一 次 オ イ ル シ ョ ッ ク が 発 生 し
た 1975 年 に 2 を 割 り 込 ん で 以 降 、 一 度 も 人 口 置 換 水 準 を 回 復 し て い な い 。
こ の 解 釈 に よ れ ば 、日 本 に お い て 少 子 化 現 象 が 発 生 し て い る の は 確 実 で あ る が 、
では日本はいつ少子化社会になったのかというと、この判断は難しい。高齢化社
会や高齢社会の定義とは異なり、少子化社会の定義には明確な基準がないためで
ある。政府は「合計特殊出生率が人口置き換え水準をはるかに下まわり、かつ、
子 ど も の 数 7が 高 齢 者 の 数 8 よ り も 少 な く な っ た 社 会 」 を 「 少 子 社 会 」 と 定 義 し て
いるため、本論文では少子化社会としてこの解釈を採用することとする。なお、
こ の 解 釈 に 則 れ ば 、我 が 国 が 少 子 社 会 と な っ た の は 、子 ど も の 人 口 割 合 が 15.35%
で あ っ た の に 対 し 、 高 齢 者 の 人 口 割 合 が 15.66%と 、 は じ め て 逆 転 を み せ た 1997
年 9と い う こ と に な る 。
2-2.進 行 す る 少 子 化 (cf.図 2)
日 本 の 合 計 特 殊 出 生 率 は 、 1970 年 半 ば か ら 緩 や か に 低 下 し 続 け て い る 。 1990
年 に は 、 丙 午 に よ る 出 産 抑 制 が は た ら い た 1966 年 の 1.58 を も 下 回 る 1.57 を 記
録し、
「 1.57 シ ョ ッ ク 」を 引 き 起 こ し た 。2005 年 に は 国 内 史 上 最 低 値 と し て 1.26
5
6
7
8
9
内 閣 府 (1992)「 平 成 4 年 度 国 民 生 活 白 書 」
内 閣 府 (2004)「 平 成 16 年 版 少 子 化 社 会 白 書 」
14 歳 以 下 の 年 少 人 口 を さ す 。
65 歳 以 上 の 高 齢 人 口 を さ す 。
総 務 省 統 計 局 (1998)「 平 成 10 年 人 口 推 計 」
6
を 記 録 し た が 、 翌 年 か ら は 再 び 上 昇 を み せ 、 2008 年 の 合 計 特 殊 出 生 率 は 1.37 ま
で 回 復 し た こ と が 報 告 さ れ た 10 。 た だ し 、 全 体 人 口 に お け る 年 少 人 口 の 割 合 は 減
り 続 け て い る こ と か ら 、こ の 1.37 と い う 数 値 は 、出 生 数 の 増 加 で は な く 、出 産 年
齢期にあたる女性の数の減少を示していると考えられる。
ま た 、前 述 の 通 り 、我 が 国 は 1997 年 か ら 少 子 化 社 会 に 突 入 し 、2005 年 に は 総
人 口 の 自 然 減 少 が 始 ま っ た 。 2008 年 の 自 然 減 少 数 は 51,317 人 で あ り 、 こ れ は 過
去 最 大 の 減 少 数 で あ る 11 。
では、現代の我が国において、こうした少子化はいったいどのような理由で発
生 し て い る の だ ろ う か 。 2-3 か ら は 、 政 府 統 計 や ア ン ケ ー ト を も と に 、 そ の 原 因
の分析を試みる。
2-3.晩 婚 化 と 晩 産 化 に よ る 少 子 化 (cf.図 3~ 5)
厚生労働省の人口動態統計特殊報告によると、日本における女性の平均初婚年
齢 は 1975 年 以 降 上 昇 傾 向 の ま ま 推 移 し て い る と さ れ て お り 、特 に 、た と え ば 1977
年 に 25.0 歳 、1992 年 で 26.0 歳 と 、1.0 歳 上 昇 す る の に 15 年 か か っ た の に 対 し 、
そ の 後 2000 年 で 27.0 歳 に な る ま で は 8 年 間 し か 経 過 し て お ら ず 、近 年 で は 晩 婚
化 の ス ピ ー ド が 速 く な っ て い る と 判 断 す る こ と が で き る 。ま た 、2005 年 時 点 の 国
勢 調 査 で は 、 女 性 の う ち 32%が ま だ 結 婚 を 経 験 し た こ と が な い 未 婚 者 で あ る 。
この理由として、具体的には「女性が積極的な社会進出を行ったことで経済力
が向上した」
「 仕 事 を 続 け て い く う え で 独 身 の ほ う が 都 合 が よ い 」と い っ た 意 見 が
挙 げ ら れ て い る 12 。 こ れ ら を 総 合 し て 、 我 々 は 「 女 性 の ラ イ フ ス タ イ ル の 変 化 に
よって、結婚に対する相対的価値が低下した」と位置づけることにした。
ま た 、女 性 が 第 一 子 を 出 産 す る 年 齢 層 の 上 昇 も 発 生 し て い る 。1975 年 で は 、20
代 で 第 一 子 を 出 産 す る 母 親 が 全 体 の 9 割 を 占 め て い た の に 対 し 、 1998 年 に は 7
割 を き っ て い る 。特 に 顕 著 な 減 少 を み せ て い る の が 20~ 24 歳 の 階 層 で 、1975 年
で は 41.4%で あ っ た の に 対 し 、2000 年 に は 20.2%と ほ ぼ 半 減 し て い る 。一 方 、同
じ 年 で 30~ 34 歳 の 階 級 を み る と 、 6.7%か ら 24.1%と 、 約 3.6 倍 も の 増 加 を み せ
ている。
第一子出産の年齢層上昇の理由は、先述の晩婚化と大きな関係があると考えら
れる。日本は欧米と比較して、特に婚外子を忌避する傾向がある。我が国におい
て婚外子、すなわち非嫡出子は法的・社会的な面でしばしば不利な立場に立たざ
るを得ないことも多く、内閣府が行った「少子化社会に関する国際意識調査」で
は 、婚 外 子 を 持 つ こ と に 対 し て お よ そ 6 割 の 日 本 人 回 答 者 が 「 抵 抗 感 が あ る 」 と
答えている。すなわち、いまだ結婚と出産が強く結びついている我が国で、初婚
年齢が上昇することは、出産年齢層の上昇を引き起こすという関係を想定するこ
とができる。婚外子の忌避という理由からは、未婚の女性は多くの場合において
出産を選択しないであろうという推測も成り立つだろう。
未婚ゆえに出産はしないという点は、少子化と容易に繋がりをもつ。では、出
10
厚 生 労 働 省 (2008)「 平 成 20 年 人 口 動 態 統 計 月 報 年 計 」
Asahi.com(2009)「 08 年 出 生 率 1.37、 3 年 連 続 増 歯 止 め は か か ら ず 」
12 内 閣 府 (1997)「 男 女 共 同 参 画 社 会 に 関 す る 世 論 調 査 」
11
7
産年齢層の上昇、つまり晩産化の進行は少子化の進行につながるのか。さきほど
ふれた「少子化社会に関する国際意識調査」によると、子どもを産まない、また
は増やさない理由として高齢出産に対する不安が高い順位に入っている。結婚し
た時点である程度の年齢に達している女性の場合、続けて複数の子どもを産むこ
とに不安を感じる、あるいはそもそも出産を選択しない可能性があると考えられ
るのである。
よって、我々は、晩婚や未婚からの晩産、無産の可能性を指摘するのである。
2-4.金 銭 的 不 安 に よ る 少 子 化
出産が抑制される二つめの原因は、やはり金銭面における不安と考えられる。
出産、そして子育てに必要とされる費用は年々増加傾向にあることが、国民生活
白 書 に よ っ て 指 摘 さ れ て い る 13 。同 書 の な か で 、政 府 は「 0 歳 か ら 21 歳 ま で の 子
育 て 全 般 に 必 要 と さ れ る 費 用 は 1300 万 円 以 上 」 と 述 べ て い る が 、 こ の 数 値 は 子
どものいる世帯の支出額から、子どものいない世帯の支出額を差し引いた、いわ
ゆ る 広 義 の 子 育 て 費 用 で あ り 、米 系 大 手 保 険 会 社 で あ る AIU 保 険 は 、0 歳 か ら 21
歳 ま で の 基 本 的 養 育 費 を 1640 万 円 と 仮 定 し た う え で 、 幼 稚 園 か ら 大 学 ま で す べ
て 国 公 立 で 進 学 し た 場 合 で も 、 そ の 教 育 費 は 1345 万 円 で あ り 、 前 述 の 養 育 費 と
合 計 し て 、 子 ど も 一 人 あ た り に は 少 な く と も 2985 万 円 必 要 で あ る と の 試 算 結 果
を 発 表 し た 14 。
こ う し た 巨 額 の 子 育 て 費 用 に 反 し て 、 特 に 1990 年 代 以 降 、 日 本 経 済 が 沈 滞 を
続けていることが、多くの家庭に出産を断念させ、少子化を招いていると思われ
る 。戦 後 の 第 2 次 ベ ビ ー ブ ー ム の 世 代 が 、21 世 紀 初 頭 に 出 産 年 齢 期 を 迎 え た に も
か か わ ら ず 、今 の と こ ろ 第 3 次 ベ ビ ー ブ ー ム が 発 生 し て い な い 理 由 の ひ と つ と し
て、この世代はバブル崩壊を目の当たりにしているだけに、経済状況そのものに
潜在的な不信感をもち、出産の抑制に拍車をかけているのでは、という考えかた
もできるだろう。
2-5.雇 用 形 態 の 変 化 や 職 場 支 援 の 不 足 に よ る 少 子 化
小泉構造改革以降、頻繁に耳にするようになった派遣労働は、柔軟性や流動性
が魅力である一方で、安定した収入が見込めないことや、法的整備や雇用者側の
認識が追いついていないことから、非常に不安定な雇用形態でもある。育児・介
護休業法の改正によって、本来、法的には出産・育児休暇が認められているはず
の派遣労働者であっても、実際には契約を打ち切られるなどして収入を失った例
も あ り 15 、 現 実 の 派 遣 労 働 の 職 場 で は 、 育 児 休 暇 の 取 得 率 は 3 割 程 度 に と ど ま っ
ているとされている。また、男性の育児休暇取得に対する理解不足も依然として
問 題 で 、 正 社 員 の 女 性 の 場 合 、 取 得 率 は 90.6%で あ る の に 対 し 、 男 性 の 取 得 率 は
わ ず か 1.23%で あ る 16 。 内 閣 府 の 調 査 17 に お い て 、「 夫 が 働 き 、 妻 が 家 庭 を 守 る 」
13
14
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16
17
内 閣 府 (2005)「 平 成 17 年 度 国 民 生 活 白 書 」
AIU 保 険 (2005)「 現 代 子 育 て 経 済 考 2005 年 度 版 ~ 試 算 結 果 の 概 要 ~ 」
AERA2008 年 7 月 7 日 号 「 ハ ケ ン は 産 む な 、 と い う の か ? 出 産 、 非 正 社 員 の 格 差 」
厚 生 労 働 省 (2008)「 平 成 20 年 度 雇 用 均 等 基 本 調 査 」
内 閣 府 (2005)「 少 子 化 社 会 に 関 す る 国 際 意 識 調 査 」
8
という考えに、6 割近くが賛成していることからも、雇用者をはじめとする周囲
の認識、あるいは男性自身の認識として、男性も子育てに参加するという意識が
根付いていないものと考えられる。これらにくわえて、保育所や託児所の慢性的
不足からくる、我が子の待機児童化の不安感などといった現実も、出産と子育て
を行うにあたって、女性が不安感を抱き、少子化を招いている。
2-6.公 的 支 出 の 不 足 に よ る 少 子 化
国内において、子育てのための公的支出がきわめて小規模であることも、大き
な 問 題 で あ る 。2006 年 時 点 で の 社 会 保 障 給 付 費 の 構 成 比 を み る と 、総 額 89 兆 1100
億 円 の う ち 高 齢 者 に 対 す る 給 付 が 全 体 の 50.1%、 老 人 保 健 給 付 費 や 年 金 保 険 給 付
費 な ど も 加 算 す る と 69.8%を 占 め て い る の に 対 し 、 子 育 て 支 援 を 含 む 、 家 族 を 対
象 と し た 給 付 は わ ず か 3.4%で あ り 18 、国 際 比 較 に お い て も 、日 本 の 家 族 向 け 社 会
保 障 支 出 19 は GDP 比 で わ ず か 0.8% 20 と 、大 変 低 い 水 準 で あ る (cf.図 6)。先 ほ ど か
ら数度に渡って引用している国際意識調査や、内閣府の「少子化社会対策に関す
る子育て女性の意識調査」において、児童手当などの給付を強く望む声が多く挙
がっていることからも、子育ての支援策としての公的な給付は決して無視できな
い。
3. 高 齢 化 に 関 す る 分 析
3-1.高 齢 化 と 高 齢 化 社 会 の 定 義
高 齢 化 と は 、 総 人 口 に お け る 老 年 人 口 の 比 率 21 が 増 大 す る こ と で あ り 、 日 常 に
おいて高齢化社会といった場合は、こうした現象が発生している社会そのものを
さすことが多い。ただし、厳密にいえば、老年人口の比率の増大具合によって、
そ う し た 社 会 は 3 種 に 分 類 さ れ る 。 す な わ ち 、 高 齢 化 率 が 7%~ 14%の 場 合 は 高
齢 社 会 、 14%~ 21%が 高 齢 化 社 会 、 そ し て 21%以 上 が 超 高 齢 社 会 と 呼 ば れ る 。
3-2.我 が 国 の 高 齢 化 の 現 状 と 予 想
日 本 は 1970 年 に 高 齢 社 会 、 1994 年 に 高 齢 化 社 会 、 そ し て 2007 年 に は つ い に
超 高 齢 社 会 に 突 入 し た 22 。 我 が 国 同 様 、 高 齢 化 が 進 行 し て い る ド イ ツ が 高 齢 社 会
か ら 高 齢 化 社 会 に シ フ ト す る ま で に は 40 年 、ス ウ ェ ー デ ン で は 90 年 近 く か か っ
て い る こ と と 比 較 す る と 、 日 本 の 24 年 と い う 速 度 は 、 世 界 的 に も 類 を 見 な い も
の で あ る 。ま た 、2009 年 現 在 、我 が 国 の 高 齢 化 率 は 22.7%に ま で 上 昇 し 、こ れ は
世界最高水準である。
2005 年 の 国 勢 調 査 の 結 果 と 、 近 年 の 出 生 率 低 下 、 寿 命 の 伸 び を 踏 ま え 、 2006
年 冬 、 総 務 省 は 2055 年 ま で に 我 が 国 の 高 齢 化 率 は 40%に ま で 上 昇 す る と の 予 測
を 発 表 し た 。2009 年 4 月 で の 我 が 国 の 総 人 口 は 1 億 2754 万 人 、う ち 老 年 人 口 は
18
国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 (2008)「 平 成 18 年 度 社 会 保 障 給 付 費 」
Family allowances・ Maternity and parental leave・ Other cash benefits・ Day care /
Home-help services・ Other benefits in kind の 合 計 と 定 義 さ れ て い る 。
20 OECD(2005)「 Social Expenditure Database」
21 こ れ を 「 高 齢 化 率 」 と 呼 ぶ 。
22 国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 (2007)「 一 般 人 口 統 計 2007 年 版 」
19
9
2868 万 人 23 で あ る が 、2055 年 に は 、総 人 口 は お よ そ 9000 万 人 ま で 減 少 し 、う ち
老 年 人 口 は 3650 万 人 ま で 上 昇 す る 。 現 在 で は お よ そ 3 人 の 生 産 年 齢 人 口 24 で 1
人 の 高 齢 者 を 支 え て い る が 、こ の 推 計 が 現 実 の も の と な れ ば 、2055 年 に は 1.3 人
で 1 人を支える計算となる。
3-3.高 齢 化 の 理 由
まず、高齢化の理由とはすなわち、平均寿命延長の理由を指すものであり、そ
して平均寿命延長は、ひとえに医療の技術発展と生活環境の整備によると考えら
れる。すなわち、これらの発達により、死亡率が低下し、また高度な医療サービ
スを受け得る状況が完成したことで、出生した人が病を克服しつつ、より長い寿
命 を 得 る 可 能 性 が 高 く な っ た と い え る だ ろ う 。2007 年 で の 高 齢 者 の 死 亡 率 は お よ
そ 8.8 25 と い わ れ 、 数 値 の う え で は 上 昇 傾 向 に あ る (cf.図 7)。 し か し 、 こ れ は 高 齢
化の進行によって、他の年齢階層と比較して死亡可能性が高い高齢者の占める割
合が増大したことによるもので、人口の年齢構成に変化がないと仮定した場合の
死亡率は継続して低下傾向にあるとされる。我が国においては、特に近年、高齢
化率が急激な伸びを見せているが、その背景には、終戦後のベビーブーマーの存
在 が あ る と さ れ る 。当 時 の 合 計 特 殊 出 生 率 が 4.54 と い う 驚 異 的 な 数 値 を 出 し て い
たことと、近年の高齢者死亡率の事実上の低下傾向をあわせて考えることで、今
後も継続して急速に高齢化が進行することは想像に難くない。
3-4.高 齢 化 は 果 た し て 問 題 か
3-3 で み た と お り 、 高 齢 化 の 理 由 は 、 少 子 化 問 題 と は 対 照 的 に 、 比 較 的 明 快 な
ものであると考えられる。すなわち、日本で高齢化が進行している根本的な原因
には、日本の医療と生活環境が国際的に比較しても特に高い水準に達しているこ
とが背景にある。とすれば、仮に高齢化が進んでいること自体を問題にした時点
で我々は、個々人の幸福に大いに関係する、こうした高い医療と生活の水準を否
定してしまうことになる。それは我々が考える福祉の目標である「人権主体とし
ての人間の充足状態の保障」に反するものであり、ゆえに高齢化自体を抑制する
ことはできない。
では、高齢化そのものが問題ではないとするならば、高齢化という現象が抱える
問題とはいったい何か。ここで我々は少し視点を変え、高齢化ではなく、高齢化
が進行した社会に問題を見出すこととし、少子化という現象との関連も含めて次
節で考えることにした。
4. 少 子 化 、 高 齢 化 に よ る 問 題
我が国の社会において少子化、高齢化が進行することで懸念される問題、課題
について、我々は以下の 3 点を主なものとして挙げる。
まず懸念されることは、我が国全体での労働力の減少である。かつて労働力の担
い手であった多くの人々が高齢化し、かつ次世代の労働力の担い手である子ども
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25
総 務 省 統 計 局 (2009)「 人 口 推 計 ( 平 成 21 年 4 月 確 定 値 )」
15 歳 ~ 64 歳 の 人 口 を さ す 。
内 閣 府 (2008)「 平 成 20 年 版 高 齢 社 会 白 書 」
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の数が減っていることで、現役の労働の担い手の空洞化が発生する。我が国の生
産 年 齢 人 口 は 1995 年 に 約 8717 万 人 の 最 大 値 を 記 録 し て 以 降 、継 続 し て 減 少 し て
お り 、 2009 年 現 在 で は 約 8164 万 人 26 で あ る 。 こ の 数 値 を 算 出 し て い る 国 立 社 会
保障・人口研究所では、今後も生産年齢人口の減少は続き、出生中位・死亡中位
の 推 計 で 、2055 年 に は 5459 万 人 に ま で 減 少 す る だ ろ う と 発 表 し て い る (cf.図 8)。
また、女性の社会進出や高齢者の就労率は上昇しているといわれているが、それ
で も な お 労 働 力 人 口 の 減 少 は 進 ん で お り 、2005 年 に 6772 万 人 で 最 大 値 を 記 録 し
て以降は減少に転じている。よって、今後とも少子化、高齢化が続いた場合、深
刻な労働力の低下が発生し、我が国の経済や生活水準に何らかの影響が出る可能
性もある。今後より一層の少子化対策に取り組むことで労働力を確保し続けるこ
とが重要だろう。
次に懸念されることは、年金をはじめとする高齢者に対する社会保障給付割合
の肥大化であろう。前述のとおり、現在の我が国では、社会保障給付費のうち高
齢 者 に 対 す る 給 付 が 、年 金 、医 療 な ど を 合 算 し て お よ そ 70%に 達 し て お り 、支 出
額自体も、今後も継続するであろう老年人口の増加に伴って、さらなる増大が予
想される。そうなれば、少子化への対策はもちろんのこと、障害者福祉や労働、
教育などといった他の社会保障に充当させるための財源が今後圧迫される可能性
が高い。
そ し て 、す で に 現 実 化 し つ つ あ る と い う 点 で は 、も っ と も 緊 急 性 の 高 い 問 題 が 、
高齢者に対する介護の問題であろう。家族のあり方の変容による核家族化や、少
子化による我が子の不在などによって、国内の全世帯のうち、高齢者のみで構成
さ れ る 世 帯 、 い わ ゆ る 高 齢 単 身 世 帯 27 や 高 齢 夫 婦 世 帯 28 の 割 合 が 高 く な り 、 そ れ
ら の 世 帯 数 も 高 齢 者 の 急 増 に よ っ て 着 実 に 増 加 し て い る (cf.図 9)。2005 年 に 実 施
さ れ た 国 勢 調 査 に よ る と 、高 齢 単 身 世 帯 の 数 は お よ そ 386 万 世 帯 、高 齢 夫 婦 世 帯
の 数 は お よ そ 449 万 世 帯 で あ り 、2000 年 と 比 較 し て そ れ ぞ れ 27.5%、22.6%も 増
加している。この現実は、高齢者の介護が多くの場合、もはや家族内では完結し
ないことを指している。事実、たとえば高齢夫婦世帯においては、高齢の妻が、
その高負担に耐えながら高齢の夫を介護するなどといったいわゆる老老介護が問
題となっている。このため、少子化・高齢化が進行する今後の社会においては、
高齢者への介護を社会的に支える必要があるといえる。
5. 政 府 の 対 応
1990 年 の 「 1.57 シ ョ ッ ク 」 以 降 、 政 府 は 出 生 率 の 低 下 と 子 ど も の 数 の 減 少 傾
向を「問題」として認識し、仕事と子育ての両立支援を軸とした様々な法・環境
整 備 を 進 め て い る 。具 体 的 に は 、1994 年 に 保 育 サ ー ビ ス の 充 実 化 を 目 指 し た エ ン
ゼ ル プ ラ ン が 発 表 さ れ 、 次 い で 1999 年 に は 、 保 育 サ ー ビ ス の み な ら ず 、 雇 用 や
母子保健、相談、教育などの事業も加えた「新エンゼルプラン」が策定された。
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国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 「 年 齢 3 区 分 別 人 口 お よ び 年 齢 構 造 係 数 」 (2009/10/11)
男 女 を 問 わ ず 65 歳 以 上 の 単 身 世 帯 を さ す 。
夫 が 65 歳 以 上 、 妻 が 60 歳 以 上 の 夫 婦 2 人 で 構 成 さ れ る 世 帯 を さ す 。
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法 的 に は 1992 年 に 育 児 介 護 休 業 法 が 、 2003 年 に 「 少 子 化 社 会 対 策 基 本 法 29 」 が
制定されている。
こうした計画発表と法整備のなかで、政府は育児休業制度の整備・保育所の充
実による育児支援・母子の保険サービスの強化に努めてきた。しかし、政府が本
格 的 に 少 子 化 問 題 に 着 手 し て か ら す で に 15 年 の 歳 月 が 過 ぎ て い る に も か か わ ら
ず 、 我 が 国 の 出 生 状 況 は 好 転 し て お ら ず 、 2007 年 の 少 子 化 社 会 対 策 会 議 30 で は 、
出産・子育てに対する国民の希望と現実の乖離や、家族政策全体の財政支出規模
が 小 さ い こ と と い っ た 問 題 点 が あ ら た め て 指 摘 さ れ た 。た だ し 、政 府 の 原 案 で は 、
国 民 が 希 望 す る 出 産・育 児 支 援 の た め の 給 付 、サ ー ビ ス に つ い て 推 計 し た と こ ろ 、
追 加 的 に 必 要 に な る 社 会 的 な コ ス ト は 、 1.5~ 2.4 兆 円 31 と さ れ た 。 現 在 の 社 会 保
障 給 付 に お い て 、 少 子 化 対 策 を 含 む 、 家 族 に 対 す る 給 付 は 約 3 兆 円 余 り 32 で あ る
こ と を 考 え る と 、 少 な く と も 現 行 の 1.5 倍 の 費 用 が 必 要 で あ る 。
少子化問題と並行して、政府は高齢化が与える問題についてもそれぞれ対策を
とっている。その主なものとしては、健康保険法の改正、年金制度の改正、そし
て介護保険の創設である。
健 康 保 険 の 改 正 と は 、65 歳 以 上 の 高 齢 者 の 医 療 に 対 す る 給 付 と 負 担 を 見 直 す と
い う も の で 、 75 歳 以 上 ま た は 65 歳 以 上 の 寝 た き り の 高 齢 者 に 対 し て 、 原 則 と し
て 1 割 、現 役 程 度 の 所 得 が あ る 場 合 に は 3 割 の 保 険 料 負 担 を 求 め る 後 期 高 齢 者 医
療 制 度 、 お よ び 65 歳 以 上 の 寝 た き り で な い 高 齢 者 に 対 し て 原 則 3 割 の 保 険 料 負
担 を 求 め る 前 期 高 齢 者 医 療 制 度 を 導 入 し た も の で あ る 33 。 財 政 的 に 苦 し い 医 療 保
険の現状を打開するために、該当者の実態に応じて負担の均衡化を図ることを目
的 と し た 施 策 で あ る 。 2-7 で 確 認 し た 通 り 、 日 本 の 高 齢 者 に 対 す る 給 付 の 金 額 は
かなり高く、他の社会保障政策全般を圧迫していることからも、我々はこの制度
の理念には賛同しているが、明確な保険料自己負担分の増加、高齢者医療を補助
する公的負担分の削減は、特に該当する高齢者から強い反発を受けており、国民
の理解を十分に得ているようには思えないのが現状である。
年 金 制 度 の 改 正 と は 、ま ず 負 担 面 に お い て 、お お む ね 100 年 程 度 の 財 政 均 衡 期
間 を 設 定 し 、 年 金 の 積 立 金 を 活 用 す る と 同 時 に 、 国 民 年 金 の 保 険 料 額 を 2017 年
ま で 段 階 的 に 引 き 上 げ 、最 終 的 に 16,900 円 に す る こ と 、定 額 の 基 礎 年 金 34 に 係 る
公 費 の 負 担 割 合 を 、安 定 し た 財 源 を 確 保 し た の ち 現 行 3 分 の 1 か ら 段 階 的 に 2 分
の 1 へ 引 き 上 げ る こ と 、次 に 給 付 面 に お い て 、本 人 か ら の 申 請 に よ っ て 年 金 を 受
29
「 少 子 化 社 会 に 対 応 す る 基 本 理 念 や 国 、地 方 公 共 団 体 の 責 務 を 明 確 に し た 上 で 、安 心 し て
子供を生み、育てることのできる環境を整える」としている。
30 少 子 化 社 会 対 策 基 本 法 に よ り 設 置 さ れ た 、 内 閣 総 理 大 臣 以 下 全 閣 僚 が 委 員 を 務 め る 会 議 。
31 内 閣 府 (2008)「 平 成 20 年 版 少 子 化 社 会 白 書 」
32 国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 (2008)「 平 成 18 年 度 社 会 保 障 給 付 費 」
33 Tome 塾 ( Internet 社 労 士 受 験 塾 )
「 20 年 度 法 改 正 ト ピ ッ ク ス ( 健 康 保 険 法 に 関 す る 主 要
改正点)
http://www.tome.jimusho.jp/syarousi/topics/houkaisei20/kenkouhoken20.htm(2009/10/09
)
34 現 在 、 40 年 加 入 に よ る 満 額 支 給 で 1 人 月 額 6 万 6000 円 強 。
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け 取 ら な い と い う 選 択 が で き る こ と 、70 歳 以 上 で あ っ て も 老 齢 厚 生 年 金 と 賃 金 が
合 計 で 月 額 48 万 円 を 超 え る 場 合 は 、 老 齢 厚 生 年 金 の 支 給 額 が 削 減 さ れ る こ と を
盛 り 込 ん だ も の で あ る 35 。 こ の 改 正 に よ っ て 政 府 は 、 現 役 世 代 に 対 す る 給 付 水 準
を 50%で 維 持 し 、年 金 制 度 の 持 続 可 能 性 の 向 上 と 信 頼 確 保 、多 様 な 価 値 観 へ の 対
応 を 図 る こ と が で き る と し て い る 。し か し 、こ の 50%と い う 水 準 を 維 持 す る 前 提
と し て 、合 計 特 殊 出 生 率 が 1.39 以 上 で あ る こ と は 有 名 で あ り 、こ の 水 準 は 現 在 の
ところ達成されていないため、国民からの信頼確保という点には疑問が残る。ま
た 、公 費 の 負 担 割 合 を 2 分 の 1 に 引 き 上 げ る と い う 内 容 に つ い て 、そ の 財 源 と し
て し ば し ば 、 い わ ゆ る 「 霞 が 関 埋 蔵 金 36 」 が 挙 げ ら れ る が 、 こ れ を 主 に 形 成 す る
剰余金は、一部を積立金に回した後の残りが国債償還に充てられており、これを
取り崩すことは国の借金返済に大きく影響を与える。積立金に関しても、これは
本来剰余金の一部を金利変動の備えとしているものであり、定額給付金の財源と
して白羽の矢が立った折にも、財務省は「積立金は、継続的に財源として利用で
き る も の で は な い 」と 強 調 し て い る 37 。よ っ て 、霞 が 関 埋 蔵 金 は「 安 定 し た 財 源 」
とは言い難く、他の有効な財源が捻出されていない現状では、この目標を達成す
ることは直近では困難といえるだろう。
介 護 保 険 制 度 は 、社 会 の 高 齢 化 に 対 応 す る た め に 、2000 年 か ら 施 行 さ れ た 新 制
度である。この制度によって、どの程度の要介護状態にあるかの認定などは行政
が行うものの、認定後に利用するサービスの種類や量、提供事業者などは高齢者
が自由に決定できるうえ、民間を含む多様な事業者の参入が認められることで介
護サービス市場に競争原理が働き、結果としてサービスの充実化に繋がることが
期待され、最終的には在宅介護を社会的に支えることを目指すものだった。しか
し 、 こ の 制 度 施 行 か ら 10 年 が 経 過 し た 現 在 、 新 規 業 者 の 参 入 に よ り 、 在 宅 サ ー
ビスの供給能力は増加し、質についてもある程度の向上がみられるものの、施設
介護については非効率な部分が残り、介護者の介護時間や労働供給については変
化 が 見 ら れ な い こ と が 内 閣 府 に よ っ て 報 告 さ れ て い る 38 。
6. ま と め
本章では少子化・高齢化の原因や問題点を探り、それに対する政府の対応を確
認した。問題点については、少子化がその現象自体を問題として抱えているのに
対し、高齢化はその現象の結果として発生する現象が問題である。
次章では、こうした現状や課題点をもとに、政府の対応を踏まえつつ、我々が
提案する内容について論じる。
35
社 会 保 険 庁 「 年 金 保 険 制 度 」 (2009/10/10)
国 の 特 別 会 計 の 資 産 か ら 負 債 を 除 い た 剰 余 金 や 積 立 金 の こ と 。企 業 で い う と こ ろ の 内 部 留
保 金 で あ り 、 規 模 は 約 50 兆 円 と い わ れ る 。
37 産 経 ニ ュ ー ス 「 霞 が 関 の 「 埋 蔵 金 」 特 会 に 「 剰 余 金 」 と 「 積 立 金 」
」 (2009/09/09)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090909/plc0909090803002-n1.htm
38 中 央 調 査 社 「 中 央 調 査 報 No.565 介 護 の 社 会 化 は す す ん だ か 」
36
13
Ⅲ. 政策提言~おもに少子化の対策について
1. 本 章 の 流 れ
前章の現状分析においては、少子化、高齢化が着実に進行している現状、そし
てその進行の理由や今後発生し得る問題を相互に関連付けて検討した。
このことを踏まえ、本章では、おもに少子化に関する対策を提案していく。少
子化は政府が実効的な政策や支援を行うことで、その対応が可能であると考えら
れ る 39 。 具 体 的 に は 、 ま ず 我 々 が 理 想 と し て 念 頭 に お い て い る 、 将 来 の 合 計 特 殊
出生率について説明したのち、制度面、金銭面、設備面から、出産を望む人がそ
れを断念せずに済む環境づくりを探っていく。
2. 最 終 的 な 理 想 と し て イ メ ー ジ す る 合 計 特 殊 出 生 率 1.75
少子化対策を行ううえで、合計特殊出生率の目標値を掲げている国は、国際的
に み て も ほ と ん ど 例 が な い 。 我 が 国 に お い て も 、 目 標 値 の 設 定 は 、 2006 年 か ら
2007 年 に か け て の 、合 計 特 殊 出 生 率 1.4 を 目 標 と す る 、と い う 公 式 発 表 が 初 め て
である。公的に出生率の目標値を定めることは、国家の国民に対する「産めよ増
や せ よ 」と い っ た 印 象 を 与 え る 可 能 性 が 高 く 、
「人権主体としての人間の充足状態」
に は 合 致 し な い 。 そ こ で 注 目 し た の が 、 1.75 と い う 数 値 で あ る 。
厚 生 労 働 省 は 2007 年 1 月 、
「国民の希望をかなえるのに有効な施策分野を明ら
かにするため」としつつ、社会保障審議会人口構造の変化に関する特別部会に対
し 、国 民 の 希 望 が 一 定 程 度 実 現 し た と 仮 定 し た「 希 望 を 反 映 し た 人 口 試 算 」で は 、
2040 年 の 段 階 で 最 大 1.75 ま で 合 計 特 殊 出 生 率 が 上 昇 す る と 報 告 し た 40 。 こ の 試
算 に は 、未 婚 者 う ち 90%が 結 婚 を 希 望 し て い る こ と か ら 、生 涯 未 婚 率 が 10%に ま
で低下するという仮定、そして既婚者および結婚希望者の希望子ども数の平均が
男 女 と も に 2 人 と な っ て い る こ と を 示 し た 第 13 回 出 生 動 向 基 本 調 査 の 結 果 が 用
い ら れ て い る 41 。
こ の 試 算 に は 、注 意 す べ き 点 が あ る 。そ れ は す な わ ち 、1.75 と い う 数 値 に 対 す
る正式名称が「潜在出生率」であり、過去の傾向を将来の推計にあてているもの
ではないという点である。いわば国民に対するアンケート調査の結果をもとに算
出した、現時点で想定し得る理想としての出生率だといえ、政府が具体的に施策
内容を想定し、それが実行された結果予想される出生率としての位置づけではな
いということである。
政策を決めることなく、国民の希望をもとに算出されたこの数値に対する批判
は数多い。また、国立社会保障・人口問題研究所が算出している将来人口推計で
は 、 合 計 特 殊 出 生 率 は 2040 年 の 段 階 で 、 出 生 高 位 推 計 で も 1.53、 低 位 推 計 で は
1.05 で あ る こ と を 考 え る と 、こ の 潜 在 出 生 率 は か な り ハ ー ド ル の 高 い も の で あ る
39
少 子 化 に 関 す る 現 状 分 析 を 行 っ た 際 に 確 認 さ れ た 、少 子 化 の 原 因 は 、い ず れ も 制 度 面 や 金
銭面による不安といった、いわば外的要因によるもので、これを解決することができれば、
少子化の抑制は可能である。
40 内 閣 府 (2008)「 平 成 20 年 版 少 子 化 社 会 白 書 」
41 総 合 メ デ ィ カ ル 株 式 会 社 (2007/01/23)
「メディカルウェーブ」
14
ことがわかる。
しかし、国民の希望達成を仮定した理想値として数値を掲げることは、前述のよ
うな国民の不快感を煽ることが少なく、また、政策実行後の細かな方針修正によ
って目標値に容易にズレが発生する危険性も排することが可能であり、何より
個々人の希望をもとにしている点で、
「 人 権 主 体 と し て の 人 間 の 充 足 状 態 」に つ な
が り を も つ と 考 え ら れ る た め 、我 々 は 、1.75 と い う 数 値 を 理 想 形 と し て 念 頭 に お
き、この理想に可能な限り近似するよう、様々な少子化対策案を提言していく。
3. 育 児 休 業 取 得 促 進 等 助 成 金 制 度 の 充 実 化 に よ る 育 児 支 援
労 働 基 準 法 の 規 定 に よ り 、 以 前 よ り 存 在 し て い た 産 前 産 後 休 業 に 加 え 、 1992
年から施行された育児介護休業法に根拠を持つ、育児休業制度が発足してから、
15 年 以 上 が 経 過 す る 。 マ ス メ デ ィ ア で も 長 期 的 に 注 目 さ れ て い る こ と も あ っ て 、
制度自体の認知度は比較的高いと思われる。事実、現状分析で確認したとおり、
育 児 休 業 制 度 の 取 得 率 は 、 女 性 の 正 社 員 で は 90.6%に ま で 達 し て い る 。 し か し 、
同 時 に 、 男 性 の 正 社 員 の 場 合 で は わ ず か 1.23%と 大 変 低 く 、 ま た 、 女 性 で あ っ て
も派遣社員の場合はやはりきわめて低い取得率になっていることが確認されてい
る。男性の取得率の伸び悩みの原因が、主に企業、職場からの理解不足であり、
派遣社員の場合は主に契約解除をおそれてのものであることはすでに指摘したと
おりである。
正社員、派遣労働を問わず、女性が育児と就業を両立させる際に育児休業制度
が必要であるのは明白であるし、男性による育児参加もまた、母親である女性の
負担が一定分軽減されるうえ、夫婦共同で育児を行うことで、育児自体に対する
一定の安心感が生まれるがゆえに、少子化の抑制を考える上では非常に重要とい
える。
我々が、派遣社員及び男性正社員の育児休業制度取得向上のために提案するの
が、企業に対する育児休業取得促進等助成金の制度的実効化である。この助成金
制度自体は、すでに存在するもので、男女を問わず社員の育児休業中に、企業が
連 続 し て 3 ヶ 月 以 上 継 続 し て 経 済 的 支 援 を 行 っ て い る 場 合 に 支 給 さ れ る 。こ の 経
済的支援とは、就業規則によって支払われる基本給や家族手当をさし、出産一時
金などは含まない。助成額は、この経済支援の総額に、企業の規模に応じて設定
さ れ た 助 成 率 42 を 乗 じ て 算 出 さ れ る 。 い わ ば 、 育 児 に 従 事 す る 社 員 を 支 え る 企 業
を支援する公的助成金制度であるが、現行の規定では、助成金支給申請書を企業
側が自ら作成し、厚生労働省に提出してはじめて助成金が給付されるため、特に
制度の存在や仕組みに対する認知が不十分な中小企業では、この制度が利用され
ていない可能性がある。
この問題の解決にあたって、政府が全国の企業を監視し、申請式ではなく自動
的に給付するという方法では多くの時間と手間がかかり、現実的とはいえないだ
ろう。となればまず、この制度の認知度、利用度自体の底上げのために、政府が
42
中 小 企 業 で は 基 本 的 に 2/3、 そ れ 以 外 で は 1/2 で あ る 。
15
年度ごとに各企業、そして制度の本来の主役であるはずの社員に対して、育児休
業 制 度 の 公 的 支 援 に つ い て の ア ナ ウ ン ス を 積 極 的 に 行 う こ と が 必 要 で あ る 。ま た 、
助成金給付という金銭面での支援にとどまることなく、政府が大々的に評価を与
えることも、企業の育児支援姿勢に対して大きな効果を与え得る。具体的には、
政府は各企業から提出された助成金の申請をもとに、経済支援の額や取得割合と
いった状況を把握して年度ごとに取りまとめ、一年間のうちにその企業が育児休
業制度に対してどれだけの実績、業績をあげたのかを一括して発表する。この発
表には、インターネットで概要を掲載するほか、より詳細な結果を個別の冊子に
とりまとめ、広く一般公開と販売を行うことで対応する。社員の育児休業に対し
て、各企業がどの程度積極的に取り組んでいるかを示す指標が広く公開され、そ
のなかで優良と判断されることは、今後の企業発展を考えるうえで、企業側にと
っても大きな利益となることが考えられるため、長期的には金銭的助成以上の支
援を企業に対して行い、企業側の育児休業に対する姿勢をより積極的なものにす
ることが可能となるだろう。
むろん、こうした制度と平行して、職場での地道な意識改革も必要とされるこ
とは間違いない。助成金制度の強化と改善は、実際の職場からの理解があって初
めて万全に機能するものである。
「 育 児 は 女 性 の 役 割 」と い う 性 別 分 業 意 識 や 、派
遣という労働形態を理由に、休業制度の利用に対して職場に否定的な風潮がある
限 り 、こ う し た 制 度 の 強 化 を 行 っ た と し て も 、十 分 な 成 果 を 挙 げ る こ と は 難 し い 。
ス ウ ェ ー デ ン で は 、多 く の 先 進 国 と 同 様 、少 子 化 が 進 行 し て い た が 、1995 年 に 、
男女を問わず出産や育児のための休暇を取得しやすくし、条件で育児に参加でき
る 環 境 整 備 を 推 進 し た 結 果 、 2005 年 に は 出 生 率 が 推 計 値 で 1.77 ま で 上 昇 し た 経
緯 が あ る 43 。 ま た 、 我 が 国 に お い て も 、 男 女 と も に 育 児 休 暇 の 取 得 を 容 易 に し 、
女性が就業中であっても育児を行える環境を整えることで、出生率は最大で
1.577 ま で 回 復 す る と い っ た 推 計 結 果 が あ る 44 。 こ う し た 例 か ら も 、 我 が 国 に お
ける育児休業制度の充実は確実に少子化の抑制に繋がるであろう。ゆえに、上記
のような制度改定を行うことで、我々は、企業の育児休業に関するさらなる積極
性 を 刺 激 し 、従 来 で は 取 得 率 が 低 迷 し て い た 分 野 の 社 員 、労 働 者 が 、安 心 し て 堂 々
と休業制度を利用できる環境を整備することを提案する。
4. 児 童 手 当 の 規 模 拡 充 と 給 付 額 の 一 律 化
出産からはじまる育児にかかる費用が莫大であることは、現状分析で指摘した
とおりである。家計支出の中で、子育てに必要とされるあらゆる費用が占める割
合 を 示 す 、 い わ ゆ る エ ン ジ ェ ル 係 数 は 2007 年 の 段 階 で 26.2%、 金 額 換 算 で 月 額
約 72000 円 で あ り 、 今 後 も こ の 係 数 は 増 大 す る と 予 測 さ れ て い る 45 。
多くの家庭で経済的不安感が続く中、子育て費用の家計への負担をおそれて、
43
フ ォ ー ユ ー 株 式 会 社 (2007)「 チ ョ ッ ト 役 立 つ 情 報 誌 Ver.26 ~ 生 活 版 ~ 」
44 吉 田 浩 (2007)「 日 本 の 出 生 率 回 復 に 関 す る シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 分 析 」
45
野 村 證 券 (2007)「 家 計 と 子 育 て 費 用 ( エ ン ジ ェ ル 係 数 ) 調 査 」
16
子 ど も を 生 ま な い 、 ま た は 増 や し た く な い と 考 え る 家 庭 が 多 い 46 。 と す れ ば 、 政
府が子育て費用のうち一定分を補助することで、家計から子育てへの支出ぶんが
低下し、今まで出産を断念していた家庭の多くで、出産が決意される可能性が高
い と い え る た め 、我 々 は 政 府 に よ る 児 童 手 当 の 規 模 拡 充 を 提 案 す る 。具 体 的 に は 、
現 行 の 児 童 手 当 が 持 つ 所 得 制 限 は 維 持 し た う え で 、0 歳 か ら 小 学 校 卒 業 ま で の 間 、
一 律 で 子 ど も 1 人 あ た り 月 額 20000 円 の 給 付 を 行 う 。 小 学 校 卒 業 ま で の 13 年 間
滞 り な く 給 付 さ れ る と 、そ の 総 額 は 312 万 円 と な り 、AIU 保 険 が 試 算 し た 、た と
えば幼稚園から大学まですべて国公立で進学した場合の子育て総費用である
2985 万 円 で は 、そ の お よ そ 1 割 強 を 補 助 す る こ と に な る 。給 付 形 態 と し て は 、あ
く ま で も 各 家 庭 へ の 現 金 給 付 を 行 う こ と で 、給 付 金 の 使 い 道 に 柔 軟 性 を 持 た せ る 。
実 際 に 子 育 て を 行 っ た 20~ 49 歳 の 女 性 に 対 す る ア ン ケ ー ト 調 査 47 に お い て 、児 童
手 当 が 少 子 化 対 策 に 役 立 つ と の 回 答 が 全 体 の 8 割 近 く を 占 め る と 同 時 に 、児 童 手
当の用途については、家計そのものに足すことで、子どもも含む家族全体の生活
の補助として利用されることが多かったことがわかっており、ミルクやおむつと
いった現物給付よりも、使用用途に制限がつかない現金給付のほうが、より育児
の現場のニーズに対応していると判断したためである。
月 額 20000 円 の 児 童 手 当 を 実 行 し た 場 合 に 必 要 と さ れ る 費 用 は お よ そ 3 兆 800
億 円 と 試 算 さ れ て お り 、現 行 制 度 で の 1 兆 500 億 円 と 比 較 し て 、さ ら に 2 兆 300
億 円 の 追 加 コ ス ト が 必 要 と さ れ る 48 。 こ の た め の 財 源 に つ い て は 、 次 節 で 提 案 す
る保育所の拡充のための財源とあわせてのちほど検討する。
なお、子育てに必要とされる費用は、たとえば公立中学校における教育費が総
額 229 万 円 で あ る の に 対 し 、国 立 大 学 で は 総 額 492 万 円 49 と 、子 ど も の 年 代 に よ
って大きく変動することがわかっている。ゆえに、行うべきは幼少期における児
童手当ではなく、高等教育進学における教育費の支援であるという考えも成り立
ち、我々も一度は検討した事案であるが、幼少期において豊富な児童手当を、貯
蓄 可 能 な 現 金 給 付 形 態 で 支 給 す る こ と で 、各 家 庭 の 判 断 で 、幼 少 期 の 子 育 て 費 用 、
あるいは後年の進学時における教育費の双方に充当が可能であることから、今回
こうした提案を行った次第である。
5. 保 育 施 設 の 拡 充 に よ る 待 機 児 童 化 の 懸 念 払 拭
認可保育所への入所申請をしているにもかかわらず、施設定員の超過などとい
っ た 理 由 に よ り 入 所 で き な い 児 童 、い わ ゆ る「 待 機 児 童 」は 、2009 年 現 在 で 全 国
に 25384 人 存 在 す る 50 。 さ ら に 、 そ も そ も 入 所 を あ き ら め て 申 請 を し て い な い 、
あるいは現在認可保育所を利用していないが、受け入れ先があるなら利用したい
46
47
48
49
50
内 閣 府 (2005)「 少 子 化 社 会 に 関 す る 国 際 意 識 調 査 」
内 閣 府 (2009)「 平 成 20 年 度 少 子 化 社 会 対 策 に 関 す る 子 育 て 女 性 の 意 識 調 査 」
日 本 経 済 団 体 連 合 会 (2009)「 少 子 化 対 策 に つ い て の 提 言 」
AIU 保 険 (2005)「 現 代 子 育 て 経 済 考 2005 年 度 版 ~ 試 算 結 果 の 概 要 ~ 」
厚 生 労 働 省 (2009)「 全 国 待 機 児 童 マ ッ プ 」
17
と望む、
「 潜 在 的 待 機 児 童 」は 少 な く と も 85 万 人 に の ぼ る こ と が わ か っ て い る 51 。
安心して子どもを預けられる保育所の不足は、特に出産後の就業を望む母親にと
っては死活問題であり、我が子を預ける場所がない可能性をおそれて、出産を控
える女性も多く存在する。そこで我々は、待機児童の解消を図ることで、出産後
の安心感を確保し、少子化抑制を狙いたいと考えた。
厚 生 労 働 省 に よ る と 、2008 年 の 段 階 で 、全 国 の 認 可 保 育 所 に お け る 定 員 は 合 計
で お よ そ 212 万 人 で あ り 、前 年 比 で 約 15000 人 増 加 し た が 、な お 増 加 す る 入 所 希
望者数を満たすにはいたっていない。
お よ そ 25000 人 の 待 機 児 童 に 加 え 、 85 万 人 の 潜 在 的 待 機 児 童 の 解 消 を 図 る た め
に は 、速 や か な 認 可 保 育 所 の 設 置 と 拡 充 が 必 要 で あ る 。待 機 児 童 の 半 数 は 東 京 都 、
お よ び 神 奈 川 県 に 集 中 し て い る 事 か ら 52 (cf.図 10)、国 は こ の 2 都 県 を 中 心 に し て 、
地方自治体と協力して財源の投入を行うこととする。具体的に必要とされる費用
であるが、日本経団連の試算結果によれば、潜在的待機児童も含め、認可保育所
へ の 入 所 を 希 望 し て い る 子 ど も が 100 万 人 と 仮 定 す る と 、新 た な 保 育 所 の 設 置 費
用 と し て 約 1 兆 1600 億 円 、ま た 運 営 費 用 と し て 年 間 約 7000 億 円 を 確 保 す る こ と
で、すべての顕在・潜在的待機児童の解消が可能であるとしている。
6. 財 源 は 確 実 性 、 安 定 性 の あ る 部 分 か ら
児童手当と保育所の拡充にあたっては、さきに確認したとおり、大々的な費用の
増 額 を 必 要 と す る 。児 童 手 当 の 給 付 額 を 20000 円 に 一 律 化 す る た め に は 2 兆 300
億 円 、 ま た 保 育 所 の 拡 充 に は 設 置 費 と 運 営 費 を あ わ せ て 1 兆 8600 億 円 の 追 加 コ
ストが必要となる。保育所の設置費用は毎年恒常的に発生する費用ではないが、
単 純 合 計 で 、 最 大 約 3 兆 9000 億 円 規 模 の 財 源 を 必 要 と す る 。
後述の、高齢化社会への対策案を導入することで、我々は社会保障給付費におい
て少なくとも現状以下の対高齢者支出額を実現できると考えている。しかし、日
本社会の今後の長期持続性を図るという目的達成のためにも、少子化への対策は
喫緊に打つ必要があり、かつその財源は育児の現場が恒常的に安心感を持つこと
ができるような安定的なものである必要があること、そして何よりも少子化とい
う課題は国民一人一人がその問題性を強く意識して積極的に取り組むべきもので
あるという理念から、我々は消費税の増税による財源確保を提案する。具体的に
は 、 お よ そ 4 兆 円 規 模 の 財 源 は 、 消 費 税 換 算 で 約 1%で あ る こ と に 、 出 生 率 回 復
によって対象となる児童が増加する可能性を加味して、当面消費税率を合計で
1.5%上 昇 さ せ る こ と で 、 こ の 財 源 を 確 保 す る 。
7. ま と め
本章では、出産を望む人がそれを断念せずに済む環境づくりをすすめるうえでの
具体的な施策として、育児休業制度の取得環境向上のための制度強化、児童手当
51
52
朝 日 ニ ュ ー ス (2009/04/09)「『 保 育 所 使 い た い 』 潜 在 待 機 児 童 85 万 人 厚 労 省 調 査 」
厚 生 労 働 省 (2009)「 全 国 待 機 児 童 マ ッ プ 」
18
の給付額一律化と増強、そして認可保育所の設置拡大による待機児童化の危険性
排 除 を 提 案 し 、 そ の 財 源 を 1.5%の 消 費 税 率 上 昇 に 求 め た 。
続 く 次 章 で は 、高 齢 化 に 焦 点 を 絞 り 、高 齢 化 が 着 実 に 進 行 す る 社 会 に お い て 、我 々
はいかなる対応策をとるべきかを検討、提案していく。
19
Ⅳ .政 策 提 言 ~ お も に 高 齢 化 の 対 策 に つ い て
1. 本 章 の 流 れ
前章においては、おもに少子化が進む我が国の社会をかんがみ、出産を望む人
がそれを断念せずに済む環境づくりのための提言を行った。
本章では、現状分析で確認した「高齢化という現象そのものは問題ではない」
ことを念頭におき、高齢化が進む社会で予想される問題に対して、その解決のた
めの提言を行う。具体的には、年金財政の持続可能性、および介護保険制度の安
定化と質の向上について論じていく。
2. 年 金 財 政 の 持 続 可 能 性
2004 年 度 の 年 金 制 度 改 革 に お い て 、保 険 料 率 の 一 定 化 と と も に マ ク ロ 経 済 ス ラ
イドが導入され、長期的な給付水準の引き下げが容易となったことから、年金財
政はその持続可能性を増した。しかし同時に、長期的な給付水準は、マクロ経済
スライドの変数である被保険者数の減少と平均余命の伸びに左右されることとな
った。
このうち平均余命の伸びは歓迎すべき事柄であり、問題とはされない。一方、
被保険者数の減少は非常に重要な問題となる。本質的に、年金が賦課方式である
限 り は 、 被 保 険 者 の 急 激 な 減 少 は 給 付 水 準 の 低 下 を 招 か ざ る を 得 な い 53 。
そのため、年金財政の持続可能性を向上させるためにも、労働力人口を増加させ
る必要がある。それには少子化対策、女性の就業率を向上、高齢者の就業率の向
上、外国人労働者の受け入れなどが考えられる。しかし、女性と高齢者の就業率
の上昇のみでは、長期的には限界があり、外国人労働者の受け入れは社会的合意
に達するのが現状では困難であることから、給付水準の将来的な維持にもっとも
重要なのは少子化対策である。したがって、年金制度の枠内における、子育て世
帯 へ の 支 援 や 優 遇 を さ ら に 拡 充 す べ き で あ る 54 。
3. 介 護 保 険 制 度 の 安 定 化 と 質 の 向 上
2000年 に 導 入 さ れ た 介 護 保 険 制 度 で は 、財 政 等 の 状 況 に 応 じ て 、3年 ご と に 介 護
報 酬 点 数( 以 下 、介 護 報 酬 )の 改 定 が 行 わ れ る こ と に な っ て い る 。介 護 費 用 が 2000
年 の 3.6兆 円 か ら 2007年 の 7.4兆 円 へ と 倍 以 上 に 増 加 し た こ と を 背 景 に 、 2003年 お
よ び 2006年 の 改 定 で は 、 社 会 保 障 給 付 費 と 被 保 険 者 の 保 険 料 負 担 の 抑 制 を 目 的 と
し て 、 介 護 報 酬 は そ れ ぞ れ 、 2.3% 、 0.5% 引 き 下 げ ら れ た 。 一 方 、 介 護 ・ 福 祉 サ
ー ビ ス 従 事 者 数 も 、2000年 の 170万 人 か ら 2005年 に は 328万 人 (cf.図 11)と 非 常 に 急
速 な 伸 び を み せ 、今 後 も 更 に 多 く の 人 員 が 必 要 と さ れ る こ と が 見 込 ま れ る が 、2007
年 12月 の 「 介 護 サ ー ビ ス 事 業 の 実 態 把 握 の た め の ワ ー キ ン グ チ ー ム ( 社 会 保 障 審
議 会 介 護 給 付 費 分 科 会 に 設 置 )」 報 告 に よ る と 、「 介 護 労 働 者 は 賃 金 水 準 や 業 務 に
対する社会的評価が低いことへの不満があり、現在の賃金水準では将来、世帯の
53
54
労働生産性の向上が被保険者の減少分を上回る場合はその限りではない。
中 西 泰 之 (2008)「 超 少 子 化 と 年 金 フ リ ー ラ イ ダ ー 問 題 」
『 福 井 県 立 大 学 論 集 』30
pp.97-1 26
20
生計を支えていくことができないなどの不安を持っている」とされ、首都圏を中
心 に 需 要 を 満 た す だ け の 介 護 従 事 者 の 確 保 が 困 難 に な っ て い る 。 そ の た め 、 2009
年 4月 の 改 定 で は 方 針 が 改 め ら れ 、「 介 護 従 事 者 の 離 職 率 が 高 く 、人 材 確 保 が 困 難
で あ る 現 状 を 改 善 し 、 質 の 高 い サ ー ビ ス を 安 定 的 に 提 供 す る た め 55 」 、 介 護 報 酬
が 3% 引 き 上 げ ら れ た 。 こ の 引 き 上 げ に よ っ て 、 介 護 労 働 者 の 賃 金 が 月 2万 円 増 加
す る と の 試 算 も あ っ た が 、 実 際 に は 6475円 の 増 加 に と ど ま っ た 56 。 そ の 原 因 と し
て、介護事業者は赤字経営のところも多く、介護報酬の増額分の多くが経営改善
のための資金に充てられた可能性が指摘されている。介護労働者の賃金水準向上
の た め に は 、 ま ず 介 護 事 業 所 の 経 営 の 安 定 が な さ れ る 必 要 が あ り 57 、 今 回 の 介 護
報酬引き上げによる賃金増加効果が限定的なものにとどまったのは、介護事業所
の負債と経費の現状が十分に考慮されていなかったことが一因と思われる。その
ため、現在、および将来の介護労働者の確保のためには、更なる介護報酬の引き
上げ等が必要である。
財源としては、保険料、税、自己負担分、保険外負担分が考えられるが、後二
者を財源とすると、低所得・貧困層の利用が妨げられることになるため、ここで
は前二者、すなわち保険料と税による場合を考えたい。保険料による場合では、
現在、所得に応じて数段階の定額制であるのを、定率制に変更して、高所得者に
より多く負担を求めるなどが考えられる。
税負担による場合には消費税率の引き上げが避けられないが、それに先立って
まず、歳出全体の見直しが図られるべきである。社会保障分野、特に介護分野は
労 働 集 約 的 で あ る こ と か ら 雇 用 誘 発 係 数 58 は 、主 要 産 業 よ り も 高 く (cf.図 12)、高
い雇用誘発効果がある。例えば、公共事業支出の削減分を介護報酬引き上げのた
めに振りかえることによって、介護分野への労働供給を確保し、より少ない歳出
で 同 等 の 雇 用 を 確 保 す る こ と が 可 能 で あ る 。消 費 税 率 引 き 上 げ の 是 非 に つ い て は 、
終章で述べる。また、遺産相続によって、所得格差が世代を超えることは望まし
く な い た め 59 、 相 続 税 を 現 在 よ り 多 く 徴 収 し て 、 社 会 保 障 費 に 充 て る こ と も 考 え
られる。
4. ま と め
本章では、高齢化が進む社会における問題への解決案として、年金財政、および
介護保険制度について論じた。こうした改善を実行することで、我が国は今後も
さらなる進行が予想される高齢化にも対応が可能となると考える。
最後に、次章では、今まで我々が行ってきた分析、および提言を総括するととも
厚 生 労 働 省 (2008)「 平 成 2 1 年 度 介 護 報 酬 改 定 の 概 要 」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/fukusijinzai_kakuho02/dl/04_0001.pdf
56 日 本 経 済 新 聞 (2009)「 介 護 職 員 の 月 給 、 6475 円 増
報酬上げの影響、試算より小幅に」
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20091016AT3S1602716102009.html
57 坂 本 毅 啓 (2009)「 介 護 職 員 確 保 の た め の 介 護 報 酬 改 定 と そ の 前 提 条 件 」
『 創 発 :大 阪 健 康 福 祉
短 期 大 学 紀 要 』 8 号 pp.77-92
58 あ る 産 業 に お い て 需 要 が 1 単 位 発 生 し た 時 に 直 接・間 接 に も た ら さ れ る 労 働 力 需 要 の 増 加
を 示 す 。た だ し 、労 働 供 給 面 で 人 材 確 保 が 間 に あ わ な い 等 の 場 合 は 、誘 発 効 果 は 実 現 し な い 。
59 上 村 敏 之 , 田 中 宏 樹 (2008)『 検 証 格 差 拡 大 社 会 』 pp.43
55
21
に、今回我々が考察しきれなかった点についても触れていくつもりである。
22
Ⅴ .お わ り に
社会保障制度における税・保険料の負担の高まりは、家計や企業の可処分所得
を減退させ、個人については労働意欲の減退を招き、労働力供給を減少させると
ともに、企業については雇用や投資の減退を招く、とされている。しかし、社会
保障は、個人の責任や自助努力のみでは対応できないリスクに対して社会全体で
支えあうセーフティネットであり、国民に「安心感」をあたえ、消費活動を下支
えする機能を持つ。加えて、社会保障は、有効需要や雇用機会の創出効果を持っ
ており、それらも含めて、経済社会の発展を支える重要な役割を担っている。社
会保障制度の持続可能性や公平性の実現への不安が抑えられなければ、かえって
消費を冷え込ませることになるため、国民の合意が得られる範囲内で手厚く整備
されることが望ましい。また、当初所得、再分配所得とものジニ係数も上昇傾向
に あ る こ と も 、 社 会 保 障 の 充 実 を 要 請 さ れ て い る こ と を 裏 付 け て い る 。 (cf.図 13)
本論文では、個々の社会保障支出増加の財源を消費税に求めたが、その際に問
題となるのは、その逆進性である。しかし、消費税から得られた税収で社会保障
の 財 政 需 要 を ま か な い 、 国 民 一 人 一 人 の 所 得 水 準 と は 無 関 係 に 1人 当 た り 一 定 額
だけの社会保障の諸サービスが給付される場合には、消費税の評価は変わりうる
60 。 社 会 保 障 は そ の 本 質 的 な 機 能 と し て 再 分 配 政 策 で あ り 、 全 体 に 対 し て 負 担 の
増大が求められたとしても、ある個人に、負担増以上にサービスが提供される場
合はその個人にとって負担は増大しているとは言えない。ただし、実際に消費税
率を上昇させるに当たっては、現在の漏れの多い徴税体制を改革することが、公
平性の観点から求められる。具体的には、所得捕捉率の向上による水平的公平の
実現や納税者番号の導入による総合課税の実施が考えられる。また、生活保護と
最低賃金、老齢基礎年金の逆転現象も取りざされており、所得再分配において、
給付つき税額控除制度などの、モラルハザードを防止する政策の導入も検討され
るべきだ。また、他の制度と整合性を持つような公的年金制度が求められる。
本論文は少子高齢化社会を切り口に社会福祉政策を分析、提言を行ったが、書
き上げてみて、個々の福祉政策が相互に深く関係していることが非常に印象に残
った。政策目標に対し、単独の政策だけでは十分な効果が期待できないことも多
い が 、そ の 一 方 で 各 政 策 ど う し の 整 合 性 を 保 つ こ と は 難 し い 。
「長期の視野に立っ
て、包括的な福祉政策」という論題にかなったものができたかどうかには不安も
残るが、以上をもって政策提言としたい。
60 権 丈 善 一 ,権 丈 英 子 (2009)「 年 金 改 革 と 積 極 的 社 会 保 障 政 策 ― 再 分 配 政 策 の 政 治 経 済 学〈 2 〉
」
23
Ⅵ .図 表
< 図 1> 近 年 の 我 が 国 の 主 な 社 会 経 済 等 の 動 き と 社 会 保 障 の 変 遷
出 所 : 厚 生 労 働 省 「 平 成 20 年 版 厚 生 労 働 白 書 」
24
< 図 2> 出 生 数 及 び 合 計 特 殊 出 生 率 の 年 次 推 移
出 所 : 厚 生 労 働 省 「 平 成 20 年 人 口 動 態 統 計 月 報 年 計 」
< 図 3> 期 間 別 に み た 女 性 の 累 積 初 婚 率
出所:厚生労働省「人口動態統計特殊報告」
25
< 図 4> 婚 姻 件 数 及 び 婚 姻 率 の 年 次 推 移
出 所 : 厚 生 労 働 省 「 平 成 20 年 人 口 動 態 統 計 月 報 年 計 」
< 図 5> 平 均 初 婚 年 齢 と 母 の 平 均 出 生 時 年 齢 の 推 移
出 所 : 内 閣 府 「 平 成 16 年 版 少 子 化 社 会 白 書 」
26
< 図 6> 家 族 向 け 社 会 保 障 支 出 の 各 国 比 較
出 所 : OECD(2005)「Social Expenditure Database」
注 1) グ ラ フ は 、 出 所 の デ ー タ を 基 に 、 飯 島 ゼ ミ で 作 成
< 図 7> 死 亡 数 お よ び 死 亡 率 の 推 移
出 所 : 内 閣 府 (2008)「 平 成 20 年 版 高 齢 社 会 白 書 」
27
< 図 8> 総 人 口 、 年 齢 3 区 分 別 人 口 お よ び 年 齢 構 造 係 数 ( 出 生 中 位 ・ 死 亡 中 位 )
出 所 : 国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 「 平 成 16 年 版 少 子 化 社 会 白 書 」
28
< 図 9> 高 齢 単 身 世 帯 お よ び 高 齢 夫 婦 世 帯 の 数 の 推 移 ( 単 位 : 万 世 帯 )
出 所 : 2005 年 国 勢 調 査 の 結 果 を も と に 飯 島 ゼ ミ で 作 成
< 図 10> 我 が 国 に お け る 待 機 児 童 の 分 布
出所:厚生労働省「全国待機児童マップ」
29
< 図 11> 社 会 保 障 関 係 業 務 に 携 わ っ て い る 就 業 者
出 所 : 厚 生 労 働 省 「 平 成 20年 版 厚 生 労 働 白 書 」
< 図 12> 社 会 保 障 分 野 の 雇 用 誘 発 効 果
出 所 : 厚 生 労 働 省 「 平 成 20年 版 厚 生 労 働 白 書 」
30
< 図 13> 所 得 格 差 の 推 移 、 お よ び 所 得 再 分 配 に よ る 所 得 格 差 改 善 の 推 移
出 所 : Honkawa Data Tribune「 社 会 実 情 デ ー タ 図 録 」
31
Ⅶ .参 考 文 献
・ 上 村 敏 之 , 田 中 宏 樹 (2008)『 検 証 格 差 拡 大 社 会 』 日 本 経 済 新 聞 出 版 社
・ 江 口 隆 裕 (2008)『 変 貌 す る 世 界 と 日 本 の 年 金 ― 年 金 の 基 本 原 理 か ら 考 え る 』 法
律文化社
・ 加 藤 久 和 (2007)『 人 口 経 済 学 (日 経 文 庫 )』 日 本 経 済 新 聞 出 版 社
・ 河 野 稠 果 (2007)『 人 口 学 へ の 招 待 ― 少 子 ・ 高 齢 化 は ど こ ま で 解 明 さ れ た か (中
公 新 書 )』 中 央 公 論 新 社
・権 丈 善 一 ,権 丈 英 子 (2009)「 年 金 改 革 と 積 極 的 社 会 保 障 政 策 ― 再 分 配 政 策 の 政 治
経 済 学 〈 2〉」
・ 権 丈 善 一 (2000)「 社 会 保 障 研 究 の 問 題 設 定 と 少 子 ・ 高 齢 化 」『 三 田 商 学 研 究 』
43(1)pp.75-106
・ 坂 本 毅 啓 (2009)「 介 護 職 員 確 保 の た め の 介 護 報 酬 改 定 と そ の 前 提 条 件 」『 創 発 :
大 阪 健 康 福 祉 短 期 大 学 紀 要 』 8 号 pp.77-92
・ 社 会 福 祉 専 門 職 問 題 研 究 会 (2007)「 介 護 福 祉 士 の 基 礎 知 識 〈 2008 年 版 〉」 誠 信
書房
・社 会 保 障 将 来 像 研 究 会 ( 2003)『 21 世 紀 型 の 社 会 保 障 の 実 現 に 向 け て ― 社 会 保
障 審 議 会 意 見 書 (平 成 15 年 6 月 )』 中 央 法 規 出 版
・ 全 国 老 人 保 健 施 設 協 会 (2008)「 介 護 白 書 ― 介 護 老 人 保 健 施 設 経 営 の 現 状 と 課 題
〈 平 成 20 年 版 〉」
・中 西 泰 之 (2008)「 超 少 子 化 と 年 金 フ リ ー ラ イ ダ ー 問 題 」
『 福 井 県 立 大 学 論 集 』30
pp.97-126
・ 藤 本 健 太 郎 (2005)『 日 本 の 年 金 (日 経 文 庫 )』 日 本 経 済 新 聞 社
32
・ OECD(2005)「 Social Expenditure Database」
http://www.oecd.org/document/9/0,3343,en_2649_34637_38141385_1_1_1_1,00
.html
・ 厚 生 労 働 省 (2009)「 平 成 20 年 版 厚 生 労 働 白 書 」
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/08/index.html
・ 厚 生 労 働 省 (2009)「 全 国 待 機 児 童 マ ッ プ 」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/09/h0907-2d.html
・ 厚 生 労 働 省 ( 2008)「 平 成 20 年 人 口 動 態 統 計 月 報 年 計 」
http://www-bm.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai08/index.htm
l
・ 厚 生 労 働 省 (2008)「 平 成 21 年 度 介 護 報 酬 改 定 の 概 要 」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/fukusijinzai_kakuho02/dl/04_0001
.pdf
・ 厚 生 労 働 省 (2008)「 平 成 20 年 度 雇 用 均 等 基 本 調 査 」
http://www.mhlw.go.jp/za/0818/d02/d02.html
・厚生労働省「人口動態統計特殊報告」
http://www-bm.mhlw.go.jp/toukei/list/list58-60.html(2009/10/10)
・国立社会保障・人口問題研究所「年齢 3 区分別人口および年齢構造係数」
http://www.ipss.go.jp/pp-newest/j/newest03/h1_1.html(2009/10/11)
・国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計」
http://www.ipss.go.jp/(2009/10/10)
・ 国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 (2008)「 平 成 18 年 度 社 会 保 障 給 付 費 」
http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/kyuhuhi-h18/kyuuhu_h18.asp
・ 国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 (2007)「 一 般 人 口 統 計 2007 年 版 」
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2007.asp?chap=0
・社会保険庁「年金保険制度」
http://www.sia.go.jp/seido/nenkin/(2009/10/10)
33
・ 総 務 省 統 計 局 (2009)「 人 口 推 計 ( 平 成 21 年 4 月 確 定 値 )」
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/tsuki/index.htm
・ 総 務 省 統 計 局 ( 1998)「 平 成 10 年 人 口 推 計 」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001010887
・ 内 閣 府 (2009)「 平 成 20 年 度 少 子 化 社 会 対 策 に 関 す る 子 育 て 女 性 の 意 識 調 査 」
http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa20/ishiki/mokuji-pdf.html
・ 内 閣 府 (2008)「 平 成 20 年 版 少 子 化 社 会 白 書 」
http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2008/20webhonpen/index.html
・ 内 閣 府 (2008)「 平 成 20 年 版 高 齢 社 会 白 書 」
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2008/zenbun/20index.html
・ 内 閣 府 (2005)「 平 成 17 年 度 国 民 生 活 白 書 」
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h17/10_pdf/01_honpen/index.html
・ 内 閣 府 (2005)「 少 子 化 社 会 に 関 す る 国 際 意 識 調 査 」
http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa17/kokusai/ishikizukai.pdf
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