藤井宣晴教授(首都大学東京 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーション学域)が、最先端・次世 代研究開発支援プログラムに採択されました。このプログラムは、将来、世界をリードすることが期待され る潜在的可能性を持った研究者に対する研究支援制度で、若手・女性研究者約300人に、4年間で最大2 億円の研究支援を行うという内容の施策です。「新成長戦略(基本方針)」(2009年12月30日閣議決定)に おいて掲げられた政策的・社会的意義が特に高い先端的研究開発を支援することにより、中長期的な我 が国の科学・技術の発展を図るとともに、我が国の持続的な成長と政策的・社会的課題の解決に貢献す ることを目的としています。 http://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/jisedai/saitakuichiran.pdf http://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/jisedai_kettei.html 採択研究題名 「筋収縮によって骨格筋から分泌される生理活性因子の探索と運動調節性筋内分泌の概念の確立」 研究概要 本研究は、「運動がもたらす多様な健康効果は、収縮中の筋細胞から分泌される生理活性因子によ って、全身に生じる」という仮説を検証する。これにより、従来はホルモン等の分泌器官とは考えられてこ なかった骨格筋を中心とする、運動調節性筋内分泌という新概念の確立を目指す。このために、筋収縮 をトリガーとして骨格筋から分泌される生理活性因子を網羅的に探索する。 近年の疫学研究は、身体運動が驚くほど多様な医学的恩恵効果を全身の臓器にもたらすことを証明 した。広く知られているのは、脂肪を燃焼させ肥満を解消し生活習慣病を防ぐ効果である。しかし実際の 運動効果は脂肪減少の副次効果にとどまらず、より積極的で、直接的である。具体的な例は、種々の癌 抑制、アルツハイマー症の予防、免疫機能の亢進等で、これらは脂肪の減少とは直接関係のない機序 で生じると考えられている。申請者は、収縮を合図に骨格筋から分泌された種々の生理活性因子が、血 流を介して全身に運ばれ多様な生理作用を発揮する、というアイディアを持っている。この証明には、血 液の混入を完全に排除した、純粋に骨格筋細胞のみで構成される、生体外での収縮実験モデルが必須 となる。しかし、骨格筋は細胞にバラしてしまうと培養液中で再構築しても上手く成熟(分化)せず、収縮さ せることが不可能とされてきた。さらに、分化誘導には血液成分(血清)が必須というのが常識であった。 申請者はこの問題を克服し、無血清で培養した骨格筋細胞の電気刺激収縮実験モデルの構築に成功し た。これにより分泌蛋白発見のための戦略を取ることが世界で初めて可能となった。現在、①筋細胞の 収縮によって溶液中に分泌される蛋白分子を同定(プロテオーム解析)、および②収縮によって発現量が 変化する遺伝子群の中からコンピュータ構造予測により分泌蛋白を選出(DNAマイクロアレイ解析)、の アプローチで分泌蛋白の探索を進めている。本研究による成果は、運動が投薬治療を遥かに凌駕する 「多様」で「全身性」の効果を生む理由を、説明する可能性がある。本研究は、筋収縮によって分泌される 蛋白を発見し、その生理機能および分泌機構を解明することで、骨格筋の未知の生命機能の役割と、運 動が有する新たな生物学的意義を、顕在化させる試みである。 追記(藤井) この研究は眞鍋康子博士(本研究室)と共に数年前から育ててきたもので、現在では本研究室の学生 メンバー・スタッフ全員で推進しています。本研究室以外からも、田岡万悟博士、礒辺俊明博士(本学 理 工学研究科 分子物質科学)、坂井貴臣博士、朝野維起博士(本学 理工学研究科 生命科学)、北一郎 博士(本学 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーション学域)、Laurie Goodyear博士(Harvard Medical School)からの強力な研究サポートをいただいています。
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