オーディオにおける電磁波の問題とその対策

オーディオ論壇収載
オーディオにおける電磁波の問題とその対策
注:本文は約 20 年前から 10 年前にかけて実施したことをまとめた
ものであり、最新のアクセサリーについては検討されていない。
1.電磁波とは何か?
いうまでもなく、お互いに振動方向が 90℃ずれた電界と磁界の振動の横波であり、マ
ックスウェルの電磁波方程式で記述される。
2.どのような電磁波があるか?
電磁波の周波数帯域は教科書通りであり、短波長側から言えば、γ 線から始まり、X 線、
紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波(ミリメートル波、セン
チメートル波)
、デシメートル波、超短波、短波、中波、長波、ミリアメートル波など
などである。さらに、粒子性と波動性の 2 重性に関する量子力学理論に基づく重力波が
ある。音声周波は通例、直接その周波数の電磁波にすると、波長が長くなるので、SN
を稼ぐためにも、センチメートル波(UHF)、デシメートル波(VHF)、超短波、短波、
中波を AM(Amplitude Modulation)変調、または FM(Frequency Modulation)変
調させて送信される。
電磁波の波の性質から分類すると、利用している電磁波としては AM(Amplitude
Modulation)波、FM(Frequency Modulation)波とディジタル化された、PCM(Pulse
Code Modulation)波がある。ディジタル波は情報化理論に基いたサンプリング周波数
でディジタル化されて送られる。例えば CS-PCM 放送は DAT と同じ 48KHz であり、
単純に考えて CD や MD より情報量が多い。この他に積極的に利用していないが、電
子・電気機器から発生するノイズ性の電磁波がある。
3.電磁波はどこからくるか?
遠くは宇宙の天体や通信衛星や携帯電話基地からも来るし、近くは家庭内の電気器具か
らも発生する。家の近くに高圧線が通っていれば、最近健康被害が問題になっている低
周波の電磁波が発生するし、雷などの放電によるパルス性のも電磁波もある。一寸考え
ただけでも、周囲の電磁波には AM、FM、TV、BS、CS、GPS、携帯電話、親子(コ
ードレス)電話、業務用無線などが、ノイズ性電磁波にはディジタル・アナログ AV 機
器、インバータ付きエアコンや調光式照明器具、蛍光灯、放電によるイオン化を利用し
た空気清浄機、電磁調理器、電子レンジ、SW の ON/OFF などなど、さまざまな電磁
波、ディジタルノイズ、アナログノイズが飛び交っている。この他、一部オーディオ機
器にも使用されているスィッチング電源や最近意識されないところで新しいノイズ源
になっている。例えば、省エネを謳った AV 機器や携帯電話の充電器、調光式照明器具
などがそれに該当する。困ったことにオーディオ機器そのものが発振回路となってノイ
ズ性電磁波を発生するし、電源にノイズが乗ってくれば電源コードからもノイズ性電磁
波が発生する。スピーカーコードや電源トランス、ネットワーク回路も電磁波発生源に
なり得る。
オーディオにとってどのような電磁波発生源が問題かは十分解明されていないが、パソ
コン、携帯電話、インバータ付き機器、蛍光灯などの音質への影響は経験的に広く認め
られている。夜になると音が良くなるというのは、明かにビジネス活動に由来する電磁
波発生源が減少する結果であろう。自宅では、夜になると特に CS-PCM の音質が良く
なることを経験している。CS-PCM のアンテナからの引き込み線にノイズが乗ってく
る可能性があると考えている。
4.電磁波はどのようにして、どのようなオーディオ機器に干渉するか?
身の回りに電磁波、ディジタルノイズ、アナログノイズが飛びかっているという意味で
は、まさに、音の汚れの原因はそこら中に蔓延していると言わねばならない。CD と
DAC はもろにディジタル信号の伝達経路を持っているし、DAC 以降ではフィルターを
かましていても、アナログ出力には高周波ノイズのリークがある。
拙宅の例でいうとでは、CD が 3 台、DAC、CS-PCM がそれぞれ 1 台あり、ディジタ
ルノイズを撒き散らしていると思われる。一方、マルチアンプシステムのためのチャン
ネルデバイダーやグラフィックイコライザーを加えているし、ノイズカットトランスや
電源ボックスも多いので、電磁波の飛び込む機器と配線経路も多い。おまけに、カート
リッジ、ヘッドトランス、ヘッドアンプ、外付けのフォノイコライザーなど、微小信号
を扱う機器では微小なノイズが飛び込むと後段で増幅される。ビンテージもののアンプ
では、NF が浅く、高周波側に F 特性が伸びていないから、電磁波の影響が少ないと言
われているが、他方電磁波の遮蔽を元々あまり考えていないから、ここも危険箇所であ
る。中でも、引き回した配線類は即、アンテナになって電磁波を吸収するから、最も要
注意である。昔、アナログレコ-ドの観賞時にラジオ放送が飛び込んできたことがあっ
たので、カートリッジ、アームの配線などもアンテナになっていたのであろう。
5.一般的な電磁波対策は?
一般的な電磁波対策は以下のようなものがある。
①静電遮蔽
所謂、良導体のケースやネットの中に押し込めて電磁波が到達しないようにする方法
であり、雷の被害を避ける方法として利用される方法である。良導体の隔離ボードや
ステンレステープ、良導体の置き台が市販されている。この方法は機器自体が電磁波
の発生源であるときは、篭りを生じて逆効果になる恐れもある。
②アース
機器のケースにアースを取る方法である。①と併用することも有効である。配線にシ
ールドした同軸ケーブルを用いコールド側をアースすれば、この方法は、①と②の併
用となる。アース付きの良導体の置き台も市販されている。しかし、アースに PC な
どからのノイズが乗ってくる場合は逆効果になってしまう。
③電磁波吸収材
フェライト系のボードや配線を通すチクワ状の吸収材が市販されている。後者は PC
のモデム配線にはよく使われている。オヤイデの電磁波吸収シートはマンガン系、ト
ライガードのテープとシートは、自由電子の少ない半導体を分散したもので、周辺の
電界に応じて同じ電位を保持すると書かれているが、ともに電磁波吸収能力を謳って
いる。最近注目されているのはグリーンカーボランダムであり、比較的低周波まで効
果があると言われ始めている。
④発生源の隔離と使用禁止
最も消極的な方法である。パソコンや蛍光灯などの影響を避けるのによく使われる
⑤回路に入り込んだノイズの処理
電源トランスとライントランスが一般的である。その他、フィルター回路など、回路
的な工夫はいろいろとある。CD の後にライントランスを入れるとディジタルノイズ
のリークをアンプに漏れていくのを防ぐと言われている。ムジカライザーは逆起電力
防止用と言われているが、実はノイズをスピーカーに送り込まない効果もあると考え
られている。
6.電磁波吸収のメカニズムは?
①備長炭シート・竹炭シート
炭はカーボンであり、結晶化すればグラファイトになるが、アモルファス成分も多いと
思われる。グラファイトは良導体であり、遮蔽効果がある。電磁波でグラファイト中の
自由電子が動けば、電気抵抗によってジュール熱に変換され、電磁波のエネルギーは熱
エネルギーになって消滅する。渦電流が発生すれば、電気抵抗によってジュール熱に変
換され、電磁波のエネルギーは熱エネルギーになって消滅する。つまり電磁調理器の原
理である。渦電流の場合、カーボン粒子の大きさや表面積によっても発生状態が影響を
受けるので、金属の平板とは異なった挙動を示す可能性がある。事実、いくつかの備長
炭シートと竹炭シートを試したが、聴感上、ほんやら堂の食品の鮮度維持用竹炭シート
が効果があった。
また、炭のカーボンでは表面や格子欠陥などで結合が飽和されない電子がフリーの電子
となって、電子スピンによる磁気モーメントを有するので、電磁波の磁界によって磁気
モーメントが振動することによっても電磁波のエネルギーは熱エネルギーになって消
滅する。
②電磁波吸収シート
オヤイデの電磁波吸収シートはマンガン系としか書いていないが、マンガンは核と電子
がともに磁気モーメントを持っているので、電磁波の磁界によって磁気モーメントが振
動することによって電磁波のエネルギーは熱エネルギーになって消滅することを利用
しているものと推察される。このへんの理屈は量子物理の領域なのでわかりにくいが、
ちょうど電子レンジで、マイクロ波の電界の振動によって水分子の双極子モーメント
(プラス/マイナスの電気分極のモーメント)が共振し、マイクロ波のエネルギーが水
分子の激しい運動により、熱エネルギーに転換し、食品を温めることと同様に考えれば
よい。
一方、トライガードのテープとシートは前述のような記載があるが、ケーブルに巻くこ
とによって線間の誘導などの干渉を無くし、シールド機能を完全なものにすることによ
って、ノイズの混入を防止すると称しているが、理解不可能なところもあり、詳細は不
明である。
③その他
その他の電磁波吸収材料としては、磁性体と同様、強誘電体も電気モーメントを有して
いるから、可能性があるが、そういった知見は見当たらない。五色石は中には酸化鉄を
含むものがあるから振動吸収と同時に電磁波吸収作用もあるかもしれない。ジルコンや
カーボランダムは磁気モーメントも電気モーメントも持っていないので、そういった効
果は期待できないであろう。しかし、グリーンカーボランダムは半導体性であり、半導
中の電子、もしくはホールが電磁波によって動くことにより、ジュール熱に転換される
ものと思われる。グリーンカーボランダムを和紙と和紙の間に酢ビ系の接着剤で固定し
た手製のシートは竹炭シートや備長炭シート以上の効果を著した。
7. 電磁波吸収 Goods はどう使うか?
機器を蔽う、機器の下に敷く、配線に巻き付ける、の三つが推奨されている。この他、
オヤイデの電磁波吸収シートは、基盤への貼り付け、RCA プラグへの巻き付け、電源
ボックス内部への貼り付けを推奨している。機器をすっぽり蔽う方法、配線への巻き付
けも一般的な方法として実行されている。電源ボックスや機器の内部への貼り付けやカ
ートリッジのアームへの配線部分を蔽うのにも使用している。実験によると、機器を蔽
う方法の場合、CD、DAC、CS-PCM で大きな効果を認めた。このことは、外部から飛
来した電磁波の吸収より、ディジタル機器から発生したディジタルノイズを周辺のアナ
ログ機器に飛ばせない効果が強いのではないかという推論を支持するのではないかと
考えている。
8.電磁波は何故、どのようにオーディオ機器の音質に関係するか?
電磁波吸収シートの効果は、ディジタル機器同志の干渉、ディジタル機器からアナログ
機器への飛び火の防止に、また、線材への巻きつけは線材がアンテナになって放射した
り吸収したりするのを防止すると考えられる。
電磁波が、NF のかかった回路に飛び込むとフォーリングダウンという減少が起こり、
低周波領域まで干渉し、最終的に音の汚れ、歪みとなっているという説があるが、十分
に解明されていない。
9.電磁波対策の聴感上の効果
こういった電磁波対策については、オーディオ仲間の K 谷氏、M 谷氏と情報交換を行
ってきた。K 氏の場合、
「電磁波対策をしたことにより、埋もれていた微細な情報が再
生されることとなり、ホールトーンが出だした」
、
「弦が始めて弦らしく聴けるようにな
った」、「音楽性の向上」というご感想である。
M谷氏の報告では、電源の改造効果との相乗効果として、「音が柔らかく音楽に陶酔
出来る」、「何を聴いても音楽に集中できる」、「オーケストラを聴いて、一つ一つ
の楽器の音を聴こうと思えばいつでも聴ける状態」とある。
実験ではオヤイデの電磁波吸収シート、竹炭シート、備長炭シートの試用で「SN が良
くなる」、「特に高域が綺麗になる」、「弦の倍音が艶やかになる」、「ホールトーンが増
す」効果が聴き取れた。特に JBL で苦手な「弦」の改善が大きく、JBL モニターは本
来、モニターの性格上、
「音像型」であるが、「音場型」に近づいたとも言える。さらに、
竹炭シート、備長炭シートは主として高域の改善が著しいが、手製のグリーンカーボラ
ンダムシートは全域に渡って音に深みを付け加える。
K 谷氏の「音楽性の向上」
、M 谷氏の「音楽に陶酔出来る状態」という主観的、感性的
な表現は曖昧さを残すが、少なくとも、「音楽をより楽しんで、また安心して聴ける」
という意味では賛同できるし、K 谷氏の「弦がよくなる」、「ホールトーンの改善」は実
感として同意できる。多分、電磁波の干渉に由来する「音の汚れ」の解消は、「微小信
号や倍音の正確な再現」と「位相の乱れの改善」によるものと推論される。
10.まとめ
オーディオ機器の周辺に電磁波が飛び交っており、電磁波対策の聴感上の効果は明ら
かである。しかし、電磁波が「音を汚す」メカニズムは十分解明されておらず、対策
をとれば、どのようにして聴感上の効果に結びつくかも明かでない。更なる科学的解
明が進むことを熱望しつつ、当面は試行錯誤で事実を積み重ね、情報交換を行ってい
きたい。
11.文献
理化学辞典
石渡博「電源&アクセサリー大全 2002」オーディオアクセサリー増刊
Kittel 著「固体物理学入門」
霜田光一著「電磁気学入門」
以上