43 第 2 章 フランス 京都大学 工藤春代 (調査協力:東京大学大学院 櫛

第 2 章 フランス
京都大学 工藤春代
(調査協力:東京大学大学院 櫛橋明香)
0.食品政策の全体像
フランスにおける食品にかかわる法律には、①code rural(農村法典)、②Code de la
consommation(消費法典)、③Code de la santé(保健法典)がある。なお、第 1 章でみ
たとおり、食品安全・表示に関して加盟国で共通の EU の枠組みが定められているが、EU
の規則(Regulation:加盟国に直接適用される)の場合であっても、フランスの既存法の
チェックや統合、フランス法への吸収といった作業が必要になるし、罰則の規定も行う必
要がある。
食品にかかわる担当組織には、農業・水産省に属する DGAL(食品総局)、経済・産業・
雇用省に属する DGCCRF(競争・消費・詐欺防止総局)、保健・スポーツ省に属する DGS
(保健総局)がある。それぞれ本省は、欧州委員会との折衝や方針の設定をおこなう。農
村法典は DGAL の、消費法典は DGCCRF、保健法典は DGS の管轄となる1。
以下、3 つの総局についてそれぞれ見ると、DGAL は、家畜由来製品の食品供給行程全
体と、植物由来製品の一次加工までの衛生面を管理している2。
DGCCRF の目的は、市場の適切な機能と透明性の保証、消費者利益の保護、消費者の
安全と健康の保護、の 3 つである。あらゆるサービスや消費財の安全、公正さ、品質にか
かわるが、フードチェーンに関しては、DGCCRF の活動は、食品・飼料の安全性を確保
することに主に向けられる。食品/飼料の内容物に関する検査・監視にも参加する(添加
物、香料、新規原料、生物・化学的汚染物質など)3。DGCCRF は、植物由来食品(一次
加工品を除く)の食品供給行程について管理し、主に流通場所と消費場所の検査を実施す
る4。
DGS は、公衆衛生、食品、飲料水の衛生・安全を管轄する。また、食中毒を含む健康に
関する緊急事態への対応の調整に責任を持つ。保健・スポーツ省は、食中毒発生の調査に
関する公的な監視権限を持つ。後述2(1)
「食品安全の制度体系」で説明する、国立衛生
サーベイランス研究所(InVS)は、省のために食中毒発生のモニタリングを行っている。
食品に関する管轄は、上記のように DGAL と DGCCRF、DGS の 3 つに分かれている
が、三者間で連携協力を行い、すきまが生じないよう、プロトコルが策定され、業務の割
1
2
3
以上、DGCCRF でのヒアリングに基づく。
フランス農水省『食品衛生と食品の安全性―フランスの取り組み』2006 年 12 月
European Commission(2006), Country Profile of France on Food and Feed Safety, Animal Hearth,
Animal Welfare and Plant Health,DG(SANCO)/8034/2006-CP final
4
注 2 の文書に基づく。
43
り振りが行われている5。3 つの総局は、2 か月に一度定期的な会合を持っている6。
ヒアリングにおいても、一本化した方がよいのかという問題意識は常に持っており、ま
た当然ながら時には対立もあると言われていたが7、それぞれの専門領域を生かしながら、
連携・調整に配慮し、工夫しながら食品行政を進めている様子がうかがわれた(2(2)
③の情報収集・提供の項目も参照)
。また、他の EU 加盟国も同様の問題を抱えていると
のことだった。
3 つの総局の間の分担について、欧州委員会の食品獣医局の報告書では以下のように記
載されている。
表 1 3 つの総局間の分担
DGAL/DPMA
DGAL,DGCCRF,DGS DGCCRF
・ 一次生産(動物,植物) ・
・ 動物福祉
・
・ と畜場
・
・
・
・
加工
レストラン
直接販売
副産物
家畜の飼料
輸送,貯蔵
・
・
加工(非動物由来の食
品)
食品以外の製品
出所:注 3 資料、p.5 より訳出して転載
次に地方行政について説明する。フランスには、100 の県(Department)と、22 の州
(Region)がある。州および県レベルの調整は、知事の権限のもとでなされる。
(知事は、
政府による政策の実施、公的統制、調整に責任を持つ。22 の州知事は、県と州の知事とい
う二重の役割を果たす)8。
DGAL の管轄下に、地方植物防疫局(SRPV)および地方農林局(DRAF)
、さらに県農
林局(DDAF)
、県動物衛生局(DDSV)がある。さらに、DGCCRF の管轄下には、地方
競争・消費・詐欺防止総局(DRCCRF)
、県競争・消費・詐欺防止総局(DDCCRF)があ
る。DGS の管轄下には、地方保健・福祉局(DRASS)、県保健・社会福祉局(DDASS)、
疫学調査地域間支部(CIRE)がある9。
総局は、県の出先機関に対してどのようなチェックをしなければならないかという指示
を出す。中央集権システムであるため、県の出先機関は本省から出た指令を忠実に守ると
いう役割しか果たさない。そのようなシステムでは警報が出た際には早く対応できる10。
県の機関は、2(1)①食品安全の法制度で見るとおり、法律の実施・公的統制をおこな
う(図 3 も参照)。
それぞれの関係については、以下の図 1 および図 2 を参照していただきたい。
5
保健省でのヒアリングに基づく。
注 3 の文書、p.5 に基づく。
7 DGCCRF でのヒアリングに基づく。
8 注 3 の文書に基づく。
9 注 2 の文書に基づく。
10 DGCCRF でのヒアリングに基づく。
6
44
なお、地方行政レベルでの連携についてであるが、DDASS と、DDSV、DDCCRF から
1 名ずつ参加し、三者で構成される、MISSA(Inter-Service mission for food safety)と
呼ばれる食品安全に関する非公式のグループ・組織がある。テーマによっては他の省庁か
らも参加する。会合は地域で異なるが、週 1 など定期的に集まっているという11。MISSA
は公的統制計画を作成・実行したり、コミュニケーション活動を行ったりもする12。
図 1:3 つの総局の関係―中央・地方レベル―
保健の管轄省
農業・漁業の管轄省
消費の管轄省
中央
DGS
DGAL
DGCCRF
DGDDI
DRASS
DDASS
環境
DDSV
衛生監視
MISSA
PCSSA
注:DGDDI は税関・間接税総局
その他の略語については本文を参照
出所:DGS でのヒアリング時の資料から転載
11
12
DGS でのヒアリングに基づく。
注 2 の資料に基づく。
45
DDCCRF
地方
図 2:食品にかかわる組織
農漁業省
DGAL
経済・産業・雇用省
DPMA
保健省
DGCCRF
DGS
DRCCRF
DRASS
(23)
(26)
州知事
(22)
DRAF
州の DDSV
DRAM
SRPV
(22)
(14)
(22)
県知事
(100)
DDSV
DDAM
DDCCRF
DDAS
(100)
(26)
(101)
(100)
注:DPMA:漁業総局
DRAM:地方漁業局 DDAM:県漁業局
DRAF/SRPV:地方植物防疫局/地方農林局
その他の略語に関しては、本文参照
出所:注 3 資料、p.4 より訳出して転載
46
InVS
図 3:地方行政の分担
DDSV
•
動物衛生、動物保護、飼料、動物医薬品、動物の
副産物、貝類・甲殻類
•
食品の衛生と検査(と畜、貯蔵、輸送、加工、流
通):第一次生産、動物由来食品
知事
DDASS
DDCCRF
•
食品の公的統制:消費者への情
•
集団食中毒の調査
報、真正性、衛生(流通)
、植物
•
食品衛生
由来食品
•
飲料水の品質の監視
出所:DGS でのヒアリング時の資料から転載
なお、注 3 資料に基づいて食品の衛生・安全にかかわる各機関の職員数を示すと、中央
で、DGAL には 190 名、DGCCRF には 26 名(+農薬/残留に関して 55 名)、DGS には
5 名である13。地域レベルでは、
DRAF/SRPV に 450 名、
DRASS に 540 名である。
DRCCRF
の人数は、以下の DDCCRF に含まれている。
県レベルでは、DDSV に 4,800 名の職員と 8,600 名の委託獣医(非常勤14)
、DDASS
に 28 名(食品)、500 名(飲料水。分析作業を行う 250 名を含む)
、DDCCRF に 426 名
+ラボに 138 名とされている。
注 2 のフランス農水省の資料では、DGS に 10 名とされている。また、DGCCRF については全体で
435 名、食品衛生・安全に 20 名とされている。
14 注 2 のフランス農水省の資料では、DDSV には 3,169 名が技術関連、773 名が管理関連に従事してい
るとされている。
13
47
1.食品表示制度
(1)制度の全体像
①食品表示の法制度
フランスには、食品表示に関する法律として消費法典(Code de la consommation)が
ある。食品の監視に関する権限は、上述の通り、①農業・水産省、②経済・産業・雇用省、
③保健・スポーツ省という 3 つの省庁に属している15。
その中で、食品表示に関しては、②に所属する競争・消費・詐欺防止総局(DGCCRF)
が監視を担当している16。ヒアリングでは、表示については経済省・DGCCRF がリードし
ているが 3 省で協力をしているとのことである。
②食品表示の監視、違反の際の措置
第 1 章で述べたとおり、食品・飼料の公的統制に関しては EU 規則 882/2004
17が制定
され、EU で枠組みが策定されている。規則 882/2004 に基づいて、加盟国は公的統制計画
を作成することになっているが、注 3 資料によると、2006 年には、最初の多年度計画
(2007-2009)を準備するために省内委員会が設置された。また、規則 882/2004 では、管
轄当局の行う公的統制の一部を検査機関に委託することができるとされるが、DGCCRF
でのヒアリングによると、
検査に関して、フランスでは外部の検査機関は利用していない。
権限の移譲は行っていないが、現在何らかの形で委託してはどうかと検討しているという
(ISO22000 に関する検査など)。
以下、食品表示に関して、DGCCRF(競争・消費・詐欺防止総局)による監視の仕組み
を、DGCCRF の権限、違反が見つかった場合の措置、および罰則規定を中心に説明する。
DGCCRF は国内の試験場において、販売された製品を検査し、2,615 のラベルの検査(原
材料、成分、添加物など)を行う(2004 年)18。DGCCRF は、中央局で、実施されるべ
き検査・監視計画、採取されるべきサンプル数を決めた毎年の年間計画と、四半期毎の計
画を立てている。これが中央から県に指示され、県の担当部局が検査監視を実施する19。
県で実際にどのように公的統制が実施されているかについては、2(1)①「食品安全の
ための法制度」を参照していただきたい。
製品の検査については、すべての段階において、製品の成分、汚染の有無、保管条件(特
注 2 の文書 p.21 以下に基づく。
須田文明「フランスにおける食品表示のガヴァナンス」農業と経済 2002 年 12 月、p.58。なお、コー
デックス委員会においてフランスを代表するのは DGAL であるが、DGCCRF も同委員会への参加機関
の一つである(General Directorate for Competition Policy, “Consumer affairs and Fraud control,”
available at http//:www.dgccrf.bercy.gouv.fr/)
17 Regulation No
882/2004 of the European Parliament and of the Council of 29
April 2004 on official controls performed to ensure the verification of compliance
with feed and food law, animal health and animal welfare rules
18 前注 2、p.22.
19 注 16、p.60.
15
16
48
に温度)等が検査される。品質の監視計画は、特に新しい病原微生物および有害残留物に
関する疑いのあるものを対象とし、一時的または年ごとに継続して DGAL と DGCCRF に
より実施されている20。
DGCCRF には消費法典の下で、警察権が与えられており、事業所への立ち入り検査、
サンプルの採取と押収を行う権限がある(消費法典 L218-1 条)。対象となる規則について
は、 R215-1 条および 2 条で定められている。
DGCCRF でのヒアリングによると、DGCCRF は、食品、飼料を製造、販売、包装して
いるところには、どこにでも立ち入ることができ、事前に通知する必要はない。査察や抜
き取りの権限を持っているし、書類の押収権限ももっている。不正の摘発をすることがで
きる。製造元でも、輸入元でも立ち入りが可能である。
DGCCRF は、消費法典に基づき、法令を遵守していない者に対して是正を要求したり
(同法典 L218-3 条、 L218-5 条)、知事または大臣に対して、企業活動の一時中止や製品
のリコールなど何らかの措置を勧告したり(同法典 L218-3 条、L218-4 条)、共和国検事
に対して刑事手続を勧告する権限を有している(同法典 L215-10 条)。DGCCRF は、検査
記録を共和国検事及び県に送付し(同法典 R215-12、 R215-13 条)
、事件の送致を受けた
共和国検事は、起訴相当か否かを判断し21、県においては必要な措置がとられる。
なお、市場からの製品の収去が行われた場合、事業者は、製造ロットが公衆衛生および
消費者の安全に危害を及ぼさないことを証明して、販売をすることができる(同法典
L218-4 条)。
罰則について、消費法典 L213-1 条は、製品の特性、種類、原産地、品質、成分または
内容、量、使用目的、使用に伴う危険性、実施された検査または予防措置に関する不正に
対し、2 年未満の禁固刑および 3 万 7,500 ユーロ以下の罰金を課すものとしている。また、
同法典 L213-2 条は、同法典 L213-1 条所定の行為により、商品を使用した人または動物に
危害が加えられた場合や、同法典 L213-1 条所定の行為が、不正または不正確な計測機器
を用いて行われた場合などについては、同法典 L213-1 条の 2 倍の刑で処罰するものとし
ている。
上記と繰り返しになる部分もあるが、DGCCRF でのヒアリングでは、処罰について次
のように説明されたのでふれておきたい。検査後、刑事上の処罰になる場合もある。裁判
所での判決となる場合には、DGCCRF が不正の意図を証明しなければならない「軽い罪
(Delit)
」と、不正の意図を証明する必要はないが、裁判官を説得しなければならない「異
軽罪(coutraventre)」がある。この場合、裁判官は傷害など様々な問題を扱うので、表示
違反の問題は比較的大きな問題ではないとみられる傾向がある。また、DGCCRF には行
政措置を取る権限もある。その方が効率がよく、行動も起こせる(回収命令やアレルギー
表示の修正、清掃や改修の指示、重大なケースの場合、閉鎖する場合もある)。フランスの
20
21
注 2 の文書 p.24
前注 16 の文書 p.60-61 および前注 3 の文書 p.10
49
場合裁判に時間がかかり、2、3 年かかることもある。なお、製品回収や、リコール(企業
に責任を持たせて情報提供)、押収、凍結(一時押収)など、緊急措置を取る権限も持って
いる。危険な食品に関しては 1 年期限の省令や、期限なしの政令が出される(例としては、
こんにゃくゼリーのケースが挙げられる)
。ただし食品に関しては規制がすでにたくさんあ
るため、省令がでることはまれである。食品以外ではそのようなことがあるとのことだっ
た。
最後に監視員について述べたい。
DDCCRF には、平均 30 人ほどの監視員がいる。監視員には 2 つのタイプがあり、監視
官(inspecteur)は大学卒程度、検査官(controleur)は高卒程度の資格である。最近は
大学卒業者が多く、給与体系が異なるため、葛藤がみられるという。採用後 1 年間、付属
施設で文書管理や HACCP について研修を受講し 3 カ月の実習を行う22。
DGCCRF でのヒアリングで、検査の訓練に関して尋ねたところ、それぞれの総局が学
校をもっていて新人教育を行うとのことだった。大学卒で公務員試験を受け、その後 1 年
の訓練を受ける。獣医であり、査察官の資格を持つ人はまず獣医学校を卒業し、検査官に
なるために職業学校に行くという。
欧州委員会食品獣医局(注 3)の資料によると、HACCP に関しては、2 年に一度の義
務的なトレーニングが DGAL/DDSV のすべての職員に提供される。HACCP の訓練は、
DGCCRF と DGS の関係職員にも提供される23。
なお、原産地呼称など公的品質表示の検査の仕組みについては、のちの⑩の公的品質表
示の項目を参照していただきたい。
③食品表示制度における利害関係者との関係
政策への利害関係者の意見の反映の仕組みとして、国立食品審議会(CNA)がある。
国立食品審議会(CNA)は独立した諮問機関で、農業、食品、厚生問題を担当する閣僚
が、消費、食品安全、食品の品質などに関する諮問を行なう。また CNA は自ら審議する
ことができる。
CNA はフードチェーンの関係者と市民団体の代表 47 名で構成され、消費者団体(9 名)
、
農産物生産者(9)
、加工業者(9)
、流通業者(3)
、外食産業(6)、農業・農産物食品業・
流通業の被雇用者組合(5)、科学的な知識のある有識者(6)で構成される。関係省庁と
AFSSA の代表者も議論に参加する。
行政当局から問題を付託されると、CNA はメンバーの一人が会長となり作業部会を形成
する。作業部会は、定期的に会合をもち、答申案をまとめ、この案が全員出席の場に提出
される24。
また、消費者からの苦情は県レベルの機関が窓口となって受け付けるとのことであった
22
23
24
注 16 資料、p.60
注 3、p.49
注 2 の資料、p.26
50
25。
④食品表示の範囲・方法
EU の一般表示指令 2000/13
26 (第
1 章欧州委員会参照)が、フランス消費法典の
R112-1a-R112-31 に編入されている。EU 表示指令には、包装ずみの食品と、包装されて
いないもの(レストランに配達されるものも含まれる)双方について規定があるが、包装
されているものとされていないものでは扱いが異なる。包装ずみでない食品については、
各加盟国で例外措置を取ることができる(いくつかの項目について、義務表示としなくて
もよい)。フランスでは「名称」のみを表示するように指導しているが27、加盟国によって
異なり、たとえばドイツでは添加剤も書かなければならない。
包装ずみの食品については、
特例措置はなく、EU 表示指令で義務表示とされる、以下に挙げる 9 つの項目について、
表示が必要となる28。
なお、現在提案されている新規則について、施行後には、消費法典の関連部分を完全に
削除しなければならない。ただし包装されていない食品についてなど、一定の範囲で裁量
の余地が与えられているところについてはフランスの法律が残る。これらについてはフレ
キシブルでありたいと加盟国が主張しているという29。
消費法典 R112-9 条により、包装済み食品について以下の項目の表示が義務付けられて
いる30:
1.製品名(商品名)
チーズなど特定の名称については、別の規則によって定義されている。規則がない場
合には、たとえば「牛肉とキノコを使った調理済み食品」など分かりやすい表示が必
要である。また、フリーズドライなど物理的な形状についても分かるようにしなけれ
ばならない。さらに、商品名とブランドは区別されるが、不適切なものがないか
DGCCRF はブランドもチェックしている。加盟国内では「相互承認」の原則があり、
たとえばフランスで認められたものについては,イタリアでも認められる31。
2.原材料のリスト
DGCCRF でのヒアリングに基づく。
Directive 2000/13/EC of the European parliament and of the council of 20 March 2000 on the
approximation of the laws of the Member States relating to the labeling, presentation and
advertising of foodstuffs. OJL 109,6.5.2000
27 消費法典 112-31 条において、包装されていない食品については、112-14 条および 112-14-1 条の条件
(商品名の表示に関する条項)に従って表示されなければならない旨が規定されている。
28 EU の一般表示指令 2000/13/EC の第 17 条で、包装済み食品に義務付けられている項目について、よ
り詳しい規定を設けることは避けなければならないとされている。
29 以上は DGCCRF でのヒアリングに基づく。
30 「包装済み食品」は消費法典 R112-1 条で規定されている(包装が食品を完全に包んでいても部分的で
もよいが、販売の前に包装の中に入れられ、開封あるいは包装を変えずに内容を変えることができない
食品)
。
31 DGCCRF でのヒアリングに基づく。
25
26
51
下記の②原材料表示の項目を参照。
3.特定の原材料又は原材料種の量
下記の②原材料表示の項目を参照。
4.正味量
グリーンピース等の場合、液体入りと液体なしの双方の表示が必要とされる。
5.賞味期限または食品が特に傷みやすい場合には消費期限および特別の保存方法
下記の①期限表示の項目を参照。
6.製造業者、包装処理業者の名称・住所または EU 域内の販売業者の名称・住所
問題があった場合、消費者が製造者に戻すことができるようにするため必要とされる。
7.製造ロット番号
EU の指令により必要とされる。
8.真の原産地を誤認させるおそれがある場合には原産地名
下記の③原産地表示の項目を参照。
9.食品の適切な使用が必要で、特別の使用方法がある場合には使用上の注意事項
消費法典R112-9 条(販売名称、原材料名、正味量、賞味期限・消費期限等の包装済み
食品に義務づけられる表示)および同法典R112-9-1 条(アルコール含有、滅菌包装、甘
味料、カフェイン、コーヒー・紅茶使用等の表示義務づけに関する規定)に定める記載は、
包装用紙かその上に貼り付けるラベルに表示される。
同法典 R112-9 条の記載のうち、販売名称、ネット重量、賞味期限または消費期限の記
載と同法典 R112-9-1 条に基づく記載は、同時に視野に入るようにしなければならない(同
法典 R112-10 条)
。この規定は、最大平面が 10 センチ平方メートル以下のものとリユース
のガラスびんには適用されない(同法典 R112-10-1)。また、原材料の量は、製品名内かそ
の非常に近く、または問題となっている原材料に関連する原材料のリストの中に表示され
る(同法典 R112-17)。ロット番号は、”L”の文字の下、ラベルの他の文言から区別され、明
確に表示されなければならないが、賞味期限・消費期限の表示をロット番号に代わるもの
とみなすことができる場合がある(同法典 R112-28)。
なお、食品表示の対象による区分であるが、第 1 章「欧州委員会」でみた通り、生鮮食
品・加工食品の別により表示規定を区別するということはなされていない。上述の通り、
包装済みでない食品に対しては、義務表示項目に一部適用除外が認められるなど、包装済
み食品と包装済みでない食品について、異なる扱いがなされているものの、一般表示指令
は、すべての食品に対して適用される。ただし、青果物や食肉、水産物、卵などの食品に
ついては、共通農業政策の販売規則の対象となることから、一般表示指令に加えて、さら
に個別の規則が適用され、
追加の規定がなされているのは、
第 1 章で述べたとおりである。
表示の対象範囲と内容を整理したのが、以下の表 1 となる。
52
表 1 表示の対象範囲と内容
名称
中食(包装された
包装済みの食品
健康食品
もの)
健康食品につ
内容量
義務(R112-9,例外 R112-19)
原材料名
いては、「包
義務(R112-9,例外 R112-15-1),R112-7・ 装済みの加工
R112-7-1 に従って表示
食品」に関す
使用方法
食品の適切な使用が必要で,特別の使用方 る規定に加
法がある場合には義務(R112-9)
え、栄養・ヘ
調理方法
ルスクレーム
保存方法
栄養表示
消費期限
食品が特に傷みやすい場合には,消費期限
とともに表示する義務(R112-9)
任意(栄養表示指令 90/496/EC)
に関する規定
等が適用され
る(第 1 章 欧
州委員会を参
食品が特に傷みやすい場合には,保存方法 照いただきた
い)
とともに表示する義務(R112-9,例外
R112-23、なお R-112-22 参照)
義務(R112-9,
例外 R112-23,なお R112-22
賞味期限
製造者・生産国
原料原産地
遺伝子組換え食
品
有機食品
参照)
製造業者,包装処理業者の名称・住所又
はEU域内の販売業者の名称・住所
真の原産地を誤認させるおそれがある場
合は原産地名(R112-9)
⑩を参照
有機農産物証(AB)
(消費法典 L115-23,
農事法典 L641-13, R641-26 以下)に従う
(2)食品表示の個別規定
①期限表示
消費法典 R112-9 条では、賞味期限(DLUO)の記載が義務づけられ、食品が特に生物
学的に傷みやすい場合には、消費期限(DLC)および特別の保存方法の記載が義務づけら
れている。同法典 R112-22 条は、特に生物学的に傷みやすく、短期間の後に人間の健康に
直接的な危害がもたらす疑いがある食品と、健康管理に関する規則が貯蔵期間を定めてい
53
る食品については、消費期限を定めるものとしている。なお、同法典 R112-23 条は、賞味
期限・消費期限の記載が不要な食品に関して規定している。
期限表示に関して、DGCCRF でのヒアリングによると、欧州の規定が明確でないので、
各国に解釈の余地があり、欧州全体でも問題になっているとのことであった。フランスで
は、例えばジャガイモで、
「4~6℃では 4 月 1 日まで、2~4℃では 5 月 1 日まで」といっ
たように、2 つの期限を表示することは許可されていない。衛生上の観点から、および誤
認を防ぐ観点から、期限は 1 つのみ表示することになっているとのことである。
なお、期限表示の設定については、完全に企業に任されており、企業の責任で行われる。
また肉など動物由来食品については賞味期限の設定に関する規制が存在したが、新しい規
則により企業の責任のもとに付けることになった、とのことである。期限の先延ばしや再
ラべリングはいっさい許可されていない。印刷の誤りがあった場合には DGCCRF が製造
ラインをチェックし、単なるミスであった場合には許されるが、専門家が決めた決定を簡
単に覆すことはできないと言われていた。
②原材料表示
消費法典 R112-9 条は、包装済み商品について、原材料のリストおよび同法典 R112-17
条と R112-17-1 に従った特定の原材料および原材料のカテゴリー名称の量の表示を義務づ
けている。したがって、原材料名は、一定の例外(同法典 R112-15-1 条)を除き、割合に
かかわらず原則として表示義務の対象となる(第 1 章欧州委員会を参照)
。
また同法典 R112-17 条においては、製品の原材料の量を表示しなければならない場合と
して、問題となっている原材料・原材料のカテゴリー名称が、製品名において示されまた
は通常消費者によって製品名と関連づけられる場合、言葉・絵・図表でラベルにおいて強
調される場合、食品の特定に不可欠であり、名称や外観から混同するおそれのある他の製
品から区別するために不可欠である場合が挙げられている。
原材料表示は、重量に基づき多い順に行うこととなっている(消費法典 R112-15 条)
。
なお、水の表示について、消費法典 R112-15 条は、水が原材料に含まれることを前提と
し、水の表示は最終製品の重さに基づくものとしている。具体的には、最終製品の重量か
ら、水以外の原材料の重量を差し引くことによって算出するものとしている。ただし、水
が他の原材料を復元するためだけに用いられる場合、通常は消費されない包装液(消費法
典 R112-4 条参照)として用いられる場合、最終製品の重さの 5%の量を超えない場合に
は水の表示は義務ではない。
③原産地表示
消費法典 R112-9 条は、包装済み食品につき、購入者に真の原産地を誤認させるおそれ
がある場合にのみ、原産地表示を義務づけている。DGCCRF でのヒアリングで挙げられ
ていた例は、フランス製で、日本の国旗の付いた味噌汁の製品があった場合、made in
54
France と表示する義務がある、といったものだった。
上記ルールの例外として、牛肉や青果物など特定の農産物については原産地表示が必要
となる。この点に関しては、第 1 章の欧州委員会において整理したので、参考にしていた
だきたい。なお、ヒアリングによると、EU の新規則案により、加工されていない食品に
ついて原産地表示を義務化するよう、進められるとのことであった(ただしこの点につい
ては、新規則案に該当部分は見つけられなかった)
。
また公的食品認証と結びついた原産地についても表示が義務付けられる。この点に関し
ては、後の⑩その他の表示の項目を参照していただきたい。
④食品添加物
消費法典 R112-16 条 2 項によると、付則Ⅱのカテゴリーに属する原材料は、カテゴリー
名とともに一般的名称、あるいはその EC 番号を表記することとされる。加工でん粉の表
示については、グルテンを含む場合に、どの植物に由来するかを表示しなければならない。
また R112-16 条第 3 項によると、香料は付則Ⅲにしたがって表記しなければならない。な
お、消費法典の付則第 2 条および第 3 条は、EU の表示指令の付則Ⅱ、およびⅢに対応し
て同じものである(第 1 章欧州委員会を参照)。
⑤アレルギー表示
表示しなければならないアレルギー物質は、消費法典 R112-16-1 条の付則 4 条に規定が
ある。フランスでは、2005 年 11 月 25 日に適用された製品のアレルギー物質に関する表
示義務を定める EU 指令(EC 第 2003/89 号、一般表示指令 2000/13 の改正指令)に従い、
消費法典 R112-16-1 条においてアレルギー物質の表示義務を定め、付則Ⅳにおいて具体的
なアレルギー物質を列挙している。
列挙されている物質は、グルテンを含有する穀類および穀類を原料とする製品、甲殻類
および甲殻類を原料とする製品、卵および卵を原料とする製品、魚類および魚類を原料と
する製品、ピーナッツおよびピーナッツを原料とする製品、大豆および大豆を原料とする
製品、牛乳および牛乳を原料とする製品、堅果類(アーモンド、ヘーゼルナッツ、クルミ、
カシューナッツ、ペカンナッツ、ブラジルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クイ
ーンズランドナッツ)および堅果類を原料とする製品、セロリおよびセロリを原料とする
製品、
マスタードおよびマスタードを原料とする製品、胡麻および胡麻を原料とする製品、
無水亜硫酸および亜硫酸塩,含有量が 10 mg/kg 又は 10 mg/l(SO2 換算)を超える場合、
ルピナスおよびルピナスを原料とする製品、軟体動物および軟体動物を原料とする製品の
14 種である32。
これらの規定についても、EU の一般表示指令の付記Ⅳのリストがそのまま消費法典に
32
日本貿易振興機構(ジェトロ)産業技術・農水産部『平成 17 年度食品規制実態調査
る食と農業の動向と食の安全確保の取組み』2006 年 3 月 p.66 以下を参考にした。
55
フランスにおけ
取り込まれている。なお、EFSA の見解に基づき、新規則案では上記のアレルギー表示リ
ストから、適用が除外される製品についても記載されている(第 1 章を参照)。
DGCCRF でのヒアリングによると、原材料の表示については、表示が義務付けられな
いものなどいくつか例外があるが、このアレルギーリストに掲載されている原材料はすべ
て表示が必要となる。重要なのは、表示が明快なものでなければならないということであ
る。例えば、単に麦粉ではなく小麦粉と表示する必要がある。またアーモンドケーキ等、
アーモンドと表示されていればアーモンドアロマなどは表示しなくてもよい。
なおアレルギー表示に関して、DGCCRF としては、「微量のものが入っている」「痕跡
がある」という書き方は好まない。企業には入らないものを作ってもらいたいという姿勢
であるとのことであった。
AFSSA でのヒアリングによると、アレルギー表示の必要な物質に関するアセスメント
は、欧州食品安全庁(EFSA)が実施するが、AFFSA が関係するのは、①アレルギーを引
き起こすものは何か、リストの作成が依頼される場合、②リスクがある場合、確実な場合
のみ表示をするのか、あるいは可能性がある場合にも表示をさせるのか、の判断が必要な
場合、となる。②について、訴訟の問題もあるため、企業はあらゆる記載をおこない、過
剰な注意表示がなされてしまう。そうなると、アレルギーの人は何も食べられなくなって
しまうし、検出水準の問題もある。現在も継続中の議論であるが、AFSSA としては、過
剰な表示はやめるべきだが、確実にリスクがある場合には表示すべきである、という考え
を取っている。その方法を考えるのが一番難しいとのことであった。
⑥有機農産物表示
フランスでは、公的品質表示として有機農産物証(AB:agriculture biologique)があ
る。これは、化学薬品を一切用いない有機農法で作られた食品であることを保証するもの
である。フランスは EU 加盟国として、有機農業については EU 規則に従っている(EU
規則については第 1 章欧州委員会を参照)。
生産者はその活動を県の農林担当部局に通知し、販売者は認証機関から有機産品として
の認証および監督を受けなければならない。したがってまず「オーガニックフード」を名
乗るには、AB を取得しなければならないものと考えられる。
56
⑦栄養成分表示
第 1 章でみたとおり、現段階で栄養成分表示は義務化されておらず、新表示規則の発効
に伴い一部の栄養成分表示が義務化される(詳細については、第 1 章を参照)。
AFSSA でのヒアリングによると、AFSSA は栄養成分表示にも関係する。義務表示項目
は EU の新規則案で定められているが、消費した時にどのような状態になるか分かるよう
な表示が必要であるという。体に必要な成分か、あるいは体に悪いものの方を書いた方が
よいのか、または入っているものすべてを書いたらよいのかが問題になるが、EU の方向
としては、健康に悪いものを載せた方がよいというものである。表示の方法には、さまざ
まなアプローチがあり、まったく評価せずにただ数値を載せるという方法もあれば(フラ
ンスはそれにこだわっている)、信号表示のように判断をつけて表示する方法、スウェーデ
ンやデンマークのように、プラスの価値のみを見て情報を出し、ネガティブな評価はしな
いという国もある。
また、消費者にとっての基準になるものは、量か%かどちらがよいのかが議論になって
いる。量の方が望ましいだろうが、分量を技術的にどう定義するのかという問題があり、
この点について、AFSSA は Avis(答申)を出している。
また、栄養量がどのくらいなのか 1 日摂取量に即して、正確に理解できるように表示さ
れるが、一日摂取量の目安にするのは、大人(2,000kcal)か子供(1,600kcal)かという、
対象年齢をどこに設定するかが問題になり、これも答申に取り上げられているとのことで
ある。
もっとも重要なこととして、検討の基本にあるのは、食品を選択するときに正しい情報
を得て選択できるということである。食品の栄養情報は教育があってこそ意味があると考
えられている。
なお、DGS でのヒアリングによると、フランスでは栄養に関して革新的なアプローチが
とられている。まず、全国栄養健康プログラムがあり、これは食品メーカーと契約をして、
栄養組成や大きさなど製品を変えてもらうという取り組みである33。任意のプログラムで、
2007 年 6 月に開始し、これまで 10 件の取り組みがなされており、スタートとしてはよい
数字であるとのことだった。また、フランス独自の取り組みとして、食品品質フォローア
ップセンターがあり、2008 年より栄養面の品質を常にフォローアップしているとのことで
ある。
⑧健康食品表示
第 1 章でも述べたとおり、いわゆる健康食品(functional foods or health foods)に対
して、定義や法的なカテゴリーはないが、「健康食品」といわれるものに関連する EU の
法規制には、栄養・ヘルスクレームに関する規制、サプリメントに対する規制、PARNUTS
33
Second National Nutrition and Health Programme– 2006-2010 ‐Actions and measures,
September 2006 (http://www.sante.gouv.fr/htm/pointsur/nutrition/pnns2_english.htm より入手可
57
と呼ばれる特殊栄養用途食品、栄養強化に関する規制があり、食品一般に適用される水平
的な表示指令に加え、個別の法令による規制がなされていると考えられる34。
以下、ヒアリングをもとに、栄養・ヘルスクレームの規制についてフランスの状況を示
したい。ヘルスクレームに関する規則 1924/200635では、栄養クレームとヘルスクレーム
が分けられている。栄養クレームに関しては付則Ⅰでリスト化されている。
ヘルスクレームについては、食品メーカーにより使用されてもよいリストを EU で作成
している。各加盟国がリストを提出しており、現在 EFSA がそれを検討しているところで
あり、ポジティブリストとして提示されることになる。リストが発表されると、各国の企
業はリストに記載されているクレームを使用することができる。ただしこれらは永久的な
ものではなく、企業からの資料をもとに継続的に評価されることになる。認められれば、
独占的に 5 年の間使用できる。
その前段階の作業として、AFSSA が企業から挙げられたリストを審査し、140 の評価
をおこなった(フランスの企業から以外のものも対象とされた)
。AFSSA は、栄養成分と
ヘルスクレームの間の評価をし、EFSA は、商品とヘルスクレームの間の評価をしたとい
う。なお、ヘルスクレームの評価については、緊急状態で作業をしたので、科学的評価を
せずに、直接欧州委員会に挙げられたものもあるが、その後 EFSA が評価を行っていると
のことである。
⑨優良誤認に関する判断
「 山 岳 ( mountain )」 あ る い は 「 (農 場 )farm 」 等 の 用 語 は 、 国 の 規 則 に 従 う が 、
「traditional(伝統的)」
「pure(純粋な)」などは、消費法典の 112-7 条「消費者への公正さ」
に照らして解釈されることになり、裁判所により判断が下されることもある。現在
「natural」という用語に関して、消費者団体や業界とともに、ゆるやかな協定のようなも
のを作成しようと作業中である。まだ最終的な文書は出されていないとのことである36。
⑩その他(製造者名等の表示、生産プロセス表示など)
GMO についてと、品質に関するフランスの表示制度について説明する。
EU 規則によると、認可された製品にはすべてラベル表示が義務づけられ、GM 食品で
あることが明確に表示されなければならないが、0.9 パーセントを超えず、混入が偶発的
でないか、技術的に除去できない場合には、GMO 表示は不要であるとされている。フラ
ンスでは、GM 食品に対する反発が強く、EU 指令(EC98/81 および EC2001/18)の国内
法化が遅れていたことで有名であるが、現在は EU 規則(Regulation(EC)No 1829/2003、
DGSANCO のウェブサイトおよび Cheftel (2005) Food and nutrition labeling in the European
Union,Food Chemistry 93,531-550 第 1 章を参照。
35 Regulation No
1924/2006 of the European Parliament and of the Council of 20
December 2006 on nutrition and health claims made on foods
36 以上は、DGCCRF の Large 氏からのメール回答に基づく。
34
58
Regulation(EC)No 1830/2003、その後の改正は Regulation(EC)No 1981/2006 および
Regulation(EC)No 298/2008)に従っているのではないかと考えられる37。
公的品質表示についてであるが、法令等に基づき、認可手続、認可条件、検査手続など
が規定されている主な公的品質表示は、次のとおりである38。
①統制原産地呼称(AOC)(消費法典 L115-1 条、農事法典 L641-5 条以下、D641-1 条
以下)
、②ラベルルージュ(LR)
(消費法典 L115-19 条、農事法典 L641-1 条 以下)、③品
質適合証明(CCP)
(消費法典 L115-25 条、農事法典 L641-20 条以下)、④有機農産物証
(AB)
(消費法典 L115-23 条,農事法典 L641-13 条, R641-26 条以下)39。
表 2 フランスにおける公的品質表示
種類
統制原産地呼
内容
特定の産地と製法
称(AOC)
ラベル
ルージュ
認定機関・手続
主な品目
EU表示
生産者の組合と INAO で協議して
ワイン、ブラン
原産地
生産条件の原案を作成し、INAO
デー、チーズ
品質適合証明
(CCP)
(AOP)
の提案によってこれを国が政令化
最高級の品質、優れた
CNLC の合意の後政府の承認を取
鶏、羊、牛、豚、
食味
得生産者の集団による申請
食肉加工品、野
(LR)
菜、果実
認 定 基 準 書 また は 表
CNLC の合意の後民間の認証機関
牛、豚、食肉加
示ラベル記載の品質
の認証を取得
工品
個人、企業の申請可
有機
化 学 薬 品 を 一切 用 い
県の農林担当部局(DDAF)に届出
農産物証
な い 有 機 農 法で 作 ら
民間の認証機関が販売者に対し認
(AB)
れた食品
証
保護名称
地域食品認
証(IGP)
地域食品認
証(IGP)
オーガニッ
クマーク
出所:注 39 の資料に基づいて作成
公的品質表示の監視について説明する。
統制原産地呼称(AOC)に対しては、全国原産地呼称機構(INAO)および DGCCRF が
製品や事業者を監視する。他方、ラベルルージュ、品質適合証明および有機農産物に対し
ては民間の認証機関による監視が行われる。それぞれの認証機関は、フランス認定委員会
(COFRAC)から、その公平性及び能力等につき、欧州規格 EN45011 に適合しているこ
DGCCRF, “Organisme génétiquement modifié, ”at
http//:www.DGCCRF.bercy.gouv.fr/documentation/fiches.pratique/fiches/ogm.htm
38 品質と原産地の同一性に関する表示として、LR、AB の他、EUレベルの品質表示である AOP 等 3 つ
があり、価値を高める表示として山岳マーク等4つがある(農事法典 L640-2 条参照)
。
39 以下の表は、高橋梯二「フランスの食品品質証明制度についてⅠ」畜産の情報〔海外編〕2004 年 11
月 p.57 以下、同「フランスの食品品質証明制度についてⅡ」畜産の情報〔海外編〕2004 年 12 月 p.51
以下、
「フランスの品質表示制度 良質の製品を見分ける有効な手段」自然と農業第 9 巻第 1 号 p.51
以下、
「フランスにおける食品の品質表示」食の井戸端会議 2 号 p.4 以下を参考に作成した。
37
59
との認定を受けた後、国ラベル認証委員会(CNLC)から、製品や事業者の監視計画につ
いて審査を受け、農業・水産省および経済・産業・雇用省から認可される40。
(3)最近の事案と今後の課題
DGCCRF でどのような問題が発生しているか尋ねたところ、期限表示の問題が挙げら
れた。また詳しいデータは DGCCRF にはないが、ミスとごまかしが半分ずつくらいを占
めるのではないかとのことであった。なお、食品にかかわる問題全般について、RASFF
のデータを整理した、2(1)⑥「最近の事案」も参照していただきたい。
また、第 1 章で取り上げた EU の新表示規則の発効にともなって、フランスの消費法典
の関連部分の削除や変更が必要となる。
2.食品防御(フードディフェンス、バイオテロ等)に対する取組について
(1)食品安全の制度体系(関係機関の概要も含む)
①食品安全のための法制度
a リスクアナリシスの枠組み
まず、リスクアナリシスの原則にしたがった仕組みがどのように整えられているかにつ
いて説明する。
公衆衛生監視の強化と食料品の衛生上の安全の統制に関する 1998 年 7 月 1 日付け法律
により、リスクマネジメントとアセスメントを分離すべく、フランス食品衛生安全庁
(AFSSA)と国立衛生サーベイランス研究所(InVS)が設立された。
AFSSA は、農業・水産省、経済・産業・雇用省および保健・スポーツ省の三省庁合同
の監督下にあり、食品衛生上のリスクアセスメントに関する一般的な権限を有している。
具体的には、動物由来食品、植物由来食品、飲料水を対象として、生産から消費までの食
品供給行程全体にわたる栄養的、衛生的なリスクアセスメントを実施する。AFSSA は 12
の研究所を持ち、10 の委員会から構成されている。また、InVS は保健・スポーツ省の監
督下にあり、公衆衛生の監視と国民の健康状態の調査に関する権限を有している。具体的
には、公衆衛生が脅かされた場合、行政当局への警告とアドバイスを行う任務に当たる。
フランス全土に 13 の疫学調査地域間支部(CIRE)がある。AFSSA と InVS の共同作業
は衛生安全国家委員会(CNSS)によって確保される41。
AFSSA でのヒアリングによると、リスクアセスメントを行う契機として、次の 3 点が
ありうる:
須田文明「フランスの公的品質表示産品におけるガヴァナンス構造」農林水産研究所レビュー NO.7
p.48
41 前注 2, p26-27 に基づく。
その他、駆虫薬の毒性と殺虫剤等に相当する製品の毒性の研究委員会及び遺伝子組み換え(OMG)の
ための生物分子特性委員会がある。
40
60
・
法律や基準等の制定に際してなど、リスクマネジメント側からの依頼に基づくもの
・
認定消費者団体からの依頼
・
AFSSA 自身のイニシャティブに基づくもの
2 つ目の認定消費者団体とは、設立年次や人数などから代表性や、定款から公益性のあ
る団体かどうか等を考慮して、経済・産業・雇用省によって認定された消費者団体である。
消費者団体からのものについては、AFFSA の業務内容に合っているかがチェックされ、
合っていればすべてアセスメントされるとのことである。AFSSA は、回答する義務を負
っており、結果も公表される。ただし、欧州指令の国内法への転換の場合はなされず、ま
た消費者個人からは依頼を受けていない。
データの収集に関しては、リスクマネジメントから要請を受ける場合には、マネジメン
ト側がデータを収集する。ただし必要に応じで AFFSA が必要な情報を集める場合もある。
アセスメントを実施する上での優先順位については、ケースバイケースであるが、規制
上、一定の期間内に回答しなければならないものがある。時間については、AFSSA と本
省の間で交渉することもある。重大なリスクがある、あるいは疑義がある場合など、すぐ
に結果を出す必要がある場合もあるが、緊急時以外は、受付順で実施されるとのことであ
った。
また、リスクアセスメント実施の手順書について、AFNOR の規格がある。これはコー
デックスのガイドラインとは別で、国際規格にしようという動きがあるとのことであった。
AFFSA とリスクマネジメントとの連携については、アレルギー表示やヘルスクレーム
のところで見たとおりである。
リスクマネジメント機関については、0.食品政策の全体像を参照いただきたい。
DGCCRF でのヒアリングによると、フランス全土で DGCCRF の人数は約 3,500 名(食
品以外の他のものも含む)であり、出先に出ているのが 3,000 名という。食の安全にかか
わる人数について一度試算されたことがあり、食の安全についてはフランス全土で 350 名
相当だろうとのことだった(県によっては 1 人になり、あまり多くの担当者がいるわけで
はない)。獣医局は多いが、動物の衛生、と畜なども見ており、食品だけを見ているわけで
はない。保健省の出先はほぼゼロとのことであった。
61
図 4 リスクアナリシスの枠組み
監視
サーベイランス
機関
警戒
マネジメント措置の
評価
InVS
リスクアセスメント
監査
AFSSA-AFSSET
リスクマネジメント措
リスクマネジメント
置の公的統制
DGS-省
出先機関
出所:DGS でのヒアリング時の資料を訳出して転載
リスクマネジメントの原則や手法については第 1 章「欧州委員会」を参照していただき
たいが、DGCCRF でのヒアリングによると、食品安全に関する政策には、ポジティブリ
ストの作成、汚染源の上限の設定や分量の制限、ネガティブリストの作成などの方法があ
る。また、一般食品法 178/2002 に加え、食品・飼料中の添加物、香料、GMO、新規食品
の認可、衛生(HACCP42)、食品と接触する物質、殺虫剤や除草剤の上限等の部門ごとの
法律が存在する。
b 検査・監視の仕組み
図 4 にあるとおり、また0.
「食品政策の全体像」でも見たとおり、上述措置の検査・
監視を実施するのは、県レベルの DDCCRF、DDSV、DDASS である。
食品安全にかかわる責任の分担については以下の表 3 を参照していただきたい。
42
「衛生パッケージ」の中核をなす一般食品衛生規則(Regulation(EC)No.852/2004)により、食品産業
事業者は、第一次生産の段階を除くすべての行程で、HACCP システムの導入を義務づけられた。なお、
適正衛生規範について、関連団体によって作成されたガイドラインは、AFSSA の評価を受け、DGCCRF、
DGAL および DGS によって承認される。公的文書として公表される(前注 2, p.49)
。
62
表 3 食品安全に関する権限の分担
ラボ
統制の実施
監督、統制の組織
政策、EU/国際関
係、調整
AFSSA
IFREMER
DGCCRF
DDSV/DPMA
DGAL/DPMA
DGAL/DPMA
動物衛生
DDSV/BNEVP/
DDASS/InVS/
DCCRF
DDSV/BNEVP/
DDASS/InVS/
DCCRF
DDSV/DGDDI/
DDAM
DDSV/DDCCRF
DGAL/DGCCRF
DGAL/DGCCRF
動物由来の食品
/食肉
DGAL/DGCCRF
DGAL/DGCCRF
DGAL/DGDDI/
DPMA
DGAL/DGCCRF
DGAL/DGDDI/
DPMA
DGAL/DGCCR/F
DDSV
DDSV/DDCCRF
DDSV/DDCCRF
DGAL
DGAL
DGAL/DGCCRF
DGAL/DGCCRF
DGAL/DGCCRF
DGAL
動物由来の食品
/乳、たまご、水
産物
動物・動物由来食
品の輸入
飼料―生産と販
売
飼料―農場
飼料/輸入
TSE/副産物
DDSV
DGAL
MAF/MHS/MEFI
ANMV/DDSV/
DRASS
ANMV/DDSV/
DRASS
DDSV/DGCCRF/
DDASS/DDAM
ANMV
DGAL/DGCCRF/
DGDDI/DGS
DGAL/DGCCRF/
DDGS/DPMA
MAF/MHS.MEFI/
ANMV
MAF/MHS/MEFI
DGCCRF/DGDDI
DGCCRF/DGDDI
DGCCRF
DGCCRF
DGCCRF/SRPV
DGCCRF/DGAL
DGCCRF /DGAL
MAF/MEFI
MAF/MEFI
AFSSA
AFSSA
AFSSA
AFSSA
AFSSA
DGCCRF/SRPV
DDSV
DDSV
DDSV
SRPV
DGCCRF /DGAL
DGAL
DGAL
DGAL
DGAL
MAF/MEFI
DGAL
DGAL
DGAL
DGAL
AFSSA
SRPV
DRAF
DGAL
DDASS
DGS
DGS
リスクアセス
メント、科学的
アドバイス
AFSSA
IFREMER
DGAL/DPMA/
IFREMER
AFSSA
AFSSA
AFSSA
AFSSA
DGCCRF/
LDA
AFSSA
LDA
AFSSA/
DGCCRF
AFSSA/
DGCCRF
AFSSA
AFSSA
AFSSA
AFSSA/
IFREMER
DGCCRF/
AFSSA/LDA/
IFREMER
DGCCRF
AFSSA/INVS
AFSSA
AFSSA
AFSSA
DGCCRF
DGCCRF
AFSSA/
DDASS
DGAL/DGCCRF/
DPMA/DGS
注:MAF:農漁業省
MEFI:経済・産業・雇用省 MHS:保健省
IFREMER:国立漁業研究所 ANMV:フランス動物医薬品局
その他の略語については、本文を参照
出所:注 2 の資料、p.17 より訳出して転載
63
動物医薬品残留
物
動物医薬品の認
可と販売
動物医薬品の使
用と移動
食品衛生
植物由来の食品
輸入
農薬‐残留
農薬‐認可と販
売
農薬‐利用
動物福祉‐と畜
動物福祉‐輸送
動物福祉‐農場
植物衛生‐パス
ポート、輸出認可
植物衛生‐植
物・植物由来食品
の輸入
水
以下、
欧州委員会食品獣医局の資料に基づき、動物由来食品の統制の仕組みを例に取り、
説明したい43。以下の表は、動物由来食品の統制に関する総局間の分担を示したものであ
る。
表 4 総局の間での分担
DGAL
DPMA
DGCCRF
一次農業生産
貝の
非動物由来の食品(汚染 健康・社会施設の
卵の生産・販売
一次生産
DGS
物質、残留物含む)
食堂
貯蔵
添加物
一般食品衛生
輸送
食品に接触する物質
食中毒事件
流通・直接販売
照射食品
水の品質
汚染物質
卵の販売
残留物
流通と直接販売
水産物・貝(DPMA ととも
貯蔵
に)
輸送
トレーサビリティ
出所:注 2 の文書、p.48 より訳出して転載
ⅰ 食品施設の登録
食品企業・事業所(food business)44はすべて登録されなければならない。その登録情
報は、DGAL 内の情報システム SIGAL(DGAL 内の業務に関する情報管理システム)と、
DGCCRF 内の情報システム SORA(統制活動やフォローアップ措置が、国および地方に
分けて記録されている)データベースに登録される。なお、食品安全を含むすべての目的
に関する登録を一度で行うシステムが、
DGAL と DGCCRF によって発展させられている。
ⅱ 施設での監督・検査
以下、DGAL、DGCCRF、DHS それぞれの公的統制についてみたい。
DGAL は、と畜場および一次生産を管轄し、食肉・食肉製品に関する認可施設の公的統
制について一義的な責任を持つ。上述の SIGNAL システムが検査計画と、DDSV による
計画実施の監視に用いられる。
DGCCRF は、地方での公的統制の統一的な実施を確保するため、公的統制のガイドラ
インを作成している。地方のプログラムは、実施前に中央の認可を受ける。DGCCRF は、
出荷した最初の時点での食品や飼料の公的統制に対する方法論を確定している。検査施設
以下の記述は、前注 2 の p.23~28 の記述に基づく。
Food business とは、一般食品法 178/2002 で、
「利益目的であろうとなかろうと、食品の生産、加工、
流通の段階に関連する活動を行う、すべての事業」と定義されている。
43
44
64
や頻度は、施設や食品のリスク(微生物的汚染や化学的汚染など)や、企業のこれまでの
遵守状況などを考慮して、決定される。
DGS の公的統制については、DDASS が病院や商業施設のレストランや食堂等を検査し
ている。検査数は、DDASS がそれぞれ決定する。食中毒の発生状況は、InVS によって監
視されている。
また県レベルでの調整に関して、県知事は、0.食品政策の全体像で述べた、MISSA
の設置をおこなうことができる。公的統制やサーベイランスのプログラムは、中央レベル
で作成されたあと、県が採用し、実施をおこなう。
c 輸入食品に関する検査
第 1 章「欧州委員会」でもみたとおり、EU では、動物由来食品と非動物由来食品が区
別され、前者については輸出国・輸出施設の許可リストへの登載、国境検査所における獣
医学的検査の受検が義務づけられているのに対し、後者の輸入にはこのような義務はない
45。DGCCRF
へのヒアリングによると、通関前のチェックについて、動物由来食品につい
ては義務であるが、植物由来食品については 100%の通関前チェックは存在せず、メラミ
ンの問題やスパイスの中に許可されていない色素が入っていた場合など、随時問題が起こ
った際になされる。非動物由来食品についてもチェックを行おうという動きはあるが、ま
だ規制されていないとのことであった。
注 2 の資料に基づくと、DGCCRF の「安全・警告ネットワーク課」と「植物由来製品
課」が、非動物由来食品の輸入チェックに責任をもつ。県の DDCCRF で公的統制が実施
される。DGDDI と DGCCRF の間での協力が 2006 年 2 月にプロトコルで対象とされ、文
書チェックは税関の担当である。税関のデータは DDCCRF に伝えられる。上述の通り、
欧州委員会決定によって対象とされる特定の製品を除くと、輸入の時点で体系的な公的統
制は存在しないが、DGCCRF が RASFF(第 1 章参照)の警告を DGDDI に伝え、製品が
特定されることもある。また、国境での検査ではないが、税関によって提供されるデータ
や主要な目的地、RASFF の警告などを考慮して、DGCCRF は、域外諸国からの非動物由
来食品に関する特定のプログラムを策定している。これらの公的統制は、マーケットで行
われ、各県でのサンプル数はプログラムで確定されている。2006 年には、マイコトキシン、
重金属、PAH、3MCPD、食品照射に関して公的統制プログラムを実施した46。
動物由来食品の輸入に対する手続きは以下のようになっている47:
ⅰ 許可リストの作成
ただし、植物衛生要件の遵守を求められる場合がある(Directive 2002/29/EC)
。また、混合製品につ
いては、動物由来食品と非動物由来食品の輸入制度が混合したものとなっている。詳細は、樋口修「E
Uの食品安全法制-輸入食品規制を中心として-」レファレンス 2008 年 10 月号 p.51 以下を参照。
46 前注 2 の資料、p.54~55
47 前注 45 の資料。
45
65
EU 当局は、輸出国の立法状況、所管官庁の組織・権限・監督実施・法令執行の状況等
を考慮し、輸出国のリスト登載を決める。輸出施設のリストは、許可を受けた輸出国が作
成し、その際当該輸出施設において EU の関連法令またはそれと同等の要件が遵守されて
いること等を保証する48。
ⅱ 国境検査所での受検
動物由来食品は、EU の国境検査所で所轄官庁の獣医官を責任者とする獣医学的検査を
受検しなければならない49。フランスにおいては、DGAL が 32 の国境動物検疫所、58 の
国境植物防疫所を管轄している50。検査の内容は、文書検査、同一性検査、物質検査(官
能検査、切断・解凍等の簡易な物質検査)、試験室における検査(残留物質、病原体、混合
物等)である。また食品添加物、食品に接触する物質(容器、包装等)
、食品照射等につい
ても検査が行われることがある51。
上記の検査では、特にコールドチェーンの切断の有無を確認するための運送手段・条件
の確認、商品や容器上のラベルに明記された重量と実量の比較、梱包材の確認、運送中の
温度の確認が行われ、サンプル抽出の頻度は貨物の 1%(最低 2 個から 10 個程度)である
という52。
2005 年には、検疫所は 8,000 の家畜、65,000 の動物由来製品(70%が魚/貝)を処理
したとされている53。
48
49
50
51
52
53
Regulation(EC)No.853/2004 6 条,Regulation(EC)No.854/2004 11 条,12 条
Directive1997/78/EC 3 条,4 条
前注 1、p.22
Regulation No.882/2004 14 条 1 項
前注 32、p.14
注 3 の文書、p.29
66
図 5 動物由来食品の輸入に関する公的統制体系
DGAL
DPMA
協力に関する国の
プロトコル
DGDDI
地域間の局
DDSV
監視と監査
行政報告
国境検査所
協力に関する地方のプ
ロトコル
地方局 TES
(40)
県の分析
輸入品
ラボ
出所:注 3 の資料、p.29 より訳出して転載
②トレーサビリティ制度
第 1 章でみたとおり、一般食品法 18 条により、食品・飼料・家畜および食品や飼料に
用いられるすべての物質のトレーサビリティが、生産、加工および流通の全段階で確立さ
れるものとしている。
フランスでは、消費法典において、規格適合の一般義務(消費法典 L212-2 条)、情報提
供の一般義務(同法典 L111-1 条)、安全に関する義務(同法典 L221-1 条)が規定されて
おり、これらの規定がトレーサビリティの導入を推進しているといわれる54。商品のトレ
ーサビリティについてはデクレで定められる(同法典 L214-1 条)。
具体例として、まず、製造ロット番号を初めとする食品表示の義務づけ(消費法典 R112-9
条、R112-27 条)が挙げられる。また、前述の公的品質表示は、仕様書等において生産、
加工、流通に関する規則を定めなければならないため、トレーサビリティが比較的確保し
やすい性格のものとなっている55。最近は、プライベートブランドのトレーサビリティに
社団法人農協流通研究所『平成 13 年度食品生産・流通情報提供システム開発・普及事業 海外調査報
告書』平成 14 年 3 月 p.14
55 AOC のトレーサビリティの例として、チーズのランセシャウルス、AB のトレーサビリティの試行例
として「トラースビオ」などがわが国においても紹介されている。ランセシャウルス及びトラースビオ
につきジェトロパリセンター『平成 13 年度 食品生産流通情報提供システム開発・普及事業開発調査
事前調査報告書』p.10 以下
54
67
ついてもシステムの普及が見られる56。
さらに、有名な牛肉に関するシステムの運用は次のとおりである57。牛の両耳には、10
桁の全国識別番号が記載された耳票がつけられ、この番号は牛のパスポートの中にも記載
される。パスポートにはこの他、出身地、作業番号、性別、品種、誕生年月日、移動の経
歴が記録され、衛生証明書を添付する場所がある。このパスポートと衛生証明書が家畜の
移動および屠畜の際に必要とされ、枝肉の各加工段階でも肉の各片が識別される。この情
報は販売段階にまで引き継がれる。
トレーサビリティの公的統制は、DDSV、DDAM および DDCCRF の管轄となる。DGAL
は、衛生マーク(第 1 章欧州委員会参照)の公的統制を担当する。牛肉や魚、たまごに関
しては、DGAL と DGCCRF の双方がかかわる国の公的統制計画が存在する。DGCCRF
には、食肉産業におけるトレーサビリティと表示の双方を公的統制する国の計画がある。
検査の頻度と検査数は、中央で決定された最低要件に基づいて、県で確定されるという58。
(2)食品防御のための具体的体制(食品安全体制との違いを含め)
①食品防御のための全体的枠組み
DGS でのヒアリングによると、各省庁に人数は少ないが、高級官僚が担当するディフェ
ンスグループがある。第 2 次世界大戦の経験から作られたが、最近はテロや食品衛生への
攻撃、安全保障の問題を扱っている。ただし、食品防御に対するアプローチは、衛生上の
問題に対するアプローチと同じであることが強調された。食品に関しては農業省が中心に
なっており、故意の、あるいは悪意を持った活動に関する、企業や官庁向けのガイドが作
成されている59。
②予防
トレースワンと呼ばれるシステムがある(前注 32、p.71 以下)
。
前注 2、p.30.
なお、牛肉に関するトレーサビリティは、家畜の品種改良を目的とした家畜登録制度(1969 年 5 月 6
日付け政令 69-422 号)及び口蹄疫等伝染病対策のためのパスポート作成義務(1978 年 12 月 5 日付
け政令 78-415 号)により個体識別が可能な状況が整備されていた中、BSE 危機を契機に、全国家畜
食肉関連業者団体(INTERBEV)により、NF-V46-007(屠畜場でのトレーサビリティ)および
NF-V46-010(肉の分割場、販売所等でのトレーサビリティ)という2つの規格が策定されて確立され
た。前注 32、p.23 以下、
「フランスの食品安全性」JETRO 海外農林水産情報 2002 年 3 月号 p.27
現在,家畜の証明と牛肉の表示に関する規則(Regulation(EC)No 1760/2000, Regulation(EC)No
1825/2000)の下、牛・豚等につき、トレーサビリティを保証するための同一性識別を可能にする用具
と方法は政令により定めるものとされ(農事法典L212-6 条)
、牛の識別に関しては,2003 年 9 月 1 日
付け政令 2003-851 号(農事法典 R653-14 条以下)がある。
58 前注 2、p.28
59 農水省、保健省、経済省等の共同で、Guide des recommandations, pour la protection de le chaine
alimentaire contre les risiques d'actions malveillantes,criminelles ou terroristers, Mai 2007。
なお、意図的混入への対処を正面から取り上げた規定として、食品及び医薬品等を混入物により粗悪化
した者や、粗悪化され、腐敗し又は有毒である食品及び医薬品等を販売のため陳列しまたは販売した者
を処罰の対象とした消費法典 L213-3 条及びそのような食品及び医薬品等の所持等を禁じた同法典
L213-4 条がある。
56
57
68
フードチェーン全体を考え、農業省が中心になって、脆弱な部分の評価をおこない、こ
れらをいかに守っていくかを検討している。つまり、脅威が何か、生物化学的にどのよう
な病原菌が使われるのか、大規模な影響になりうるのかといった点に関して検討する。す
でに危険物のリスト作成は終わっており、どのような危害がありうるかは検討済みで、対
応するツールが作成されているという60。
③情報収集・提供
以下の情報収集・提供の仕組みについては、食品事故一般に関する情報収集の仕組み全
般に関するものとして説明したい。
DGCCRF でのヒアリングでは、食品に関する情報源として、a)県の出先機関、b)事
業者からの通報、c)InVS、d)RASFF、が挙げられた。以下ヒアリングでの情報に基づ
いて説明する:
a)については、 県の出先機関が現場の巡回をしていて、危険なものを見つけた場合で
ある。現場での検査については、
(1)①食品安全の法制度を参照していただきたい。クレ
ームを受けてチェックする場合もある。消費者からのクレームは県が受け、企業からの苦
情等については州の出先に届けられる。
b) について、リスクのあるものを出してしまった場合、事業者からの通報もある。この
点は、EU の食品一般法 178/2002 による、食品安全の第一義的な責任は事業者にあること、
事業者が上市した製品が食品安全要件に一致していないことがわかった場合、事業者が当
局に通知する義務をもつという原則に対応する。この規定により、当局は類似の製品が市
場に残っていないかチェックできる。場合によっては特定の商品が同じような問題を引き
起こす場合があり、EU レベルで見直しがされることもある。
c) 保健総局の衛生サーベイランス研究所(InVS:人間の健康に影響を与える疾病をす
べて把握する研究所)については、例えばリステリアの患者が多く発生しているという情
報が入ってくると問診を行い、最終的に何が原因かを特定する。昨年アレルギー問題が多
く発生し、ソファーや靴(皮)が問題とわかったが、これは InVS が情報を集約したおか
げである。
d) EU の食品・飼料早期警告システム(RASFF)について(第 1 章参照)
、フランスに
おけるコンタクト・ポイントは、家畜用飼料や動物由来製品については、食品総局(DGAL)
の衛生警告管理局が、それ以外は競争・消費・詐欺防止総局(DGCCRF)の不正行為警告
60
DGS でのヒアリングに基づく。
69
部門が担当している61。RASFF において加盟国は通常 1 つのコンタクト・ポイントを指定
しなければいけないことになっているが、欧州委員会に問題があると言われながらも、フ
ランスでは DGCCRF と DGAL の 2 つとしている。
両者の間には、
公式なものではないが、
分担に関する内部ルールが決められている。すべての情報は DGCCRF にある警報ユニッ
ト(UA:3 名のグループからなる)にあがる。DGAL や DGS、AFSSA にも警報ユニッ
トがあり情報交換をしているし、県の出先機関ともインターネットでやり取りをしている。
DGCCRF の警報ユニットに情報が届いた場合、まず DGCCRF 以外の関係者に情報を通
知する。コンピューターシステムにインプットし、どの部署がフォローアップするかを定
め、どのような措置をとるかの指示を出す。部署は、情報を評価し出先機関に指示を出す。
より専門能力を持っている機関に検討を依頼したり、具体的な分析が必要な場合には、ラ
ボに連絡を取って仕事をしてもらう。ケースによってはラボの人と話し合って対応方法を
定めることもある。必要な場合には企業にも情報を出したり、他の当局に情報・指示を出
す。スムーズにいく場合ばかりではないが、全体的にうまく機能していると、ヒアリング
対応者は評価していた。
なお、前述の通り、DGAL 内には、SIGNAL 情報システム、DGCCRF 内には、SORA
情報システムが構築されている。公的統制や分析の結果が DGCCRF 全体で、イントラネ
ットを通じて入手可能であり、企業レベルでのフォローアップを容易にしている62。
④対応
まず通常の食品事故に関して、事故が起こった場合には、DGCCRF と DGAL から任命
された専門家グループが対応する。食品にリスクがあると判断されたときは、市場からの
回収が指示される。また食品が病原菌による食中毒を起こすと判断されたときは、DGS も
関与する。この場合、微生物汚染のリスクアセスメントが行われ、行政による対応措置の
参考とされる。輸入製品の回収があるときには、DGCCRF と DGAL に加えて、税関も関
与する。消費者に緊急の警告を発する必要があるときには、DGS が主体となる63。
DGS でのヒアリングによると、事件がテロの意図をもったものとわかったときには、保
健省と農業省が対応する。しかしその対応は、先にも述べた通り、原因を特定し回収する
という、通常の食中毒に対する対応と同じであることが強調された。ただ、故意の行為と
わかれば警察・司法が関与することになる。テロとの戦いを考えて、ディフェンスグルー
プで統合対応計画を作成し枠組みが決められている。これが各省庁に落とされ、省庁レベ
ルで対応計画が作成される。保健省にもあり、患者の対応も考えないといけない。
対応計画が十分であるかをチェックするためにシミュレーションが行われている。様々
なシナリオを作っているので、食品がそのなかの 1 つに選ばれることが多い。ボトル詰め
された水にボツリヌス菌が入っていたというシナリオで行ったことがある。シミュレーシ
61
62
63
前注 3
前注 3、p.11
オリヴィエ・ルュエッチ「フランスにおける食品安全への取り組み」ILSI No.67, p.40-41
70
ョンや訓練を通じて得られた教訓は、テロが起こったときだけにうまくいくものを使って
もうまくいかないということである。つまり、パニックのときほど常日頃とっている日常
的な対応・行動をしがちである。そのため、普段使っているものをうまく使えるようにす
る、複雑になっても通常の対応でよく機能するようなシステムを作ることが重要であると
のことであった。
フードディフェンスについては農業省が中心で、保健省はサポートに回るという。ただ
し、機密性の問題など以外は、通常の食の安全確保に対するアプローチと同じである。
食中毒については、通報が入ったものが InVS に上がり、調査が行われる。その際に
DDSV と協力し、特定源の発見をする。食中毒が発生した後に動くだけでなく、食品に汚
染されているという情報があれば行動を開始する(店頭でのサンプリングなどによりわか
った場合など)。食中毒の事故情報の EU レベルでの共有システムについては,InVS が他
の加盟国と情報共有しているとのことだった。
⑤国際連携
食 品 安 全 に 関 す る 情 報 共 有 の 国 際 的 な ネ ッ ト ワ ー ク と し て 、 INFOSAN ( The
International Food Safety Authorities Network)があるという64。INFOSAN は、177
カ国の食品安全担当機関のネットワークであり、WHO と FAO が共同で発展させ、組織し
ている65。
DGCCRF でのヒアリングによると、韓国で乳児用の食品に問題が発生したことがあり、
これが WHO とのコンタクト・ポイントを通じて、欧州委員会に伝えられ、フランスで生
産されたものだったので、フランスに伝えられたことがある。フランスのシステムも EU
のシステムに、EU のシステムも WHO のシステムにうまく組み込まれて、機能するよう
にしているとのことだった66。
⑥最近の事案と今後の課題
フランスでは食品防御に関してどのような事件があったかと尋ねたところ、意図的なも
のや刑法に違反するようなものはあったが、すべて個人的な事件で、規模の大きなものは
ないとのことだった67。
ヒアリングの際に強調されていたのは、すでに述べたとおり、食品安全確保のための普
段のシステムをうまく使えるようにすること、複雑な事態になっても通常の対応でうまく
対処できるようなシステムを作ることが重要であるとのことだった。
なお、食品に関する事故として RASFF に報告されたフランスから報告された危害の内
DGCCRF でのヒアリングに基づく。
WHO のウェブサイト http://www.who.int/foodsafety/fs_management/infosan_1007_en.pdf
66 WHO のルールで,衛生に関しても各国に 1 つ窓口を設けなければならないとなっている。フォーカル
ポイントと呼ばれ、これについては DGS が窓口となっている。
67 ガイドラインに事例が載っている。
64
65
71
容について、整理したのが以下の表 4 となる。
表 4 RASFF システムで報告された危害(フランスからの報告:2007)
危害のカテゴリー
病原性微生物
粗悪品
アレルゲン
不適当あるいは不十分な検査・監視
生物的汚染物質
生物毒素
化学的汚染物質
組成
飼料添加物
食品添加物
異物
GMO/新規食品
重金属
産業汚染物質
表示の欠如/不完全/不正確
微生物学的汚染
移行
マイコトキシン
確定できず/その他
官能特性
包装の欠陥/不適当
寄生虫
残留農薬
照射
動物医薬品の残留
TSE
合計
件数
30
2
6
1
2
6
14
1
12
8
2
33
1
2
2
2
2
2
128
出所:RASFF の年間報告(2007)より訳出して一部転載
以 上
72