IL-1βによるヒト好中球の活性化と p38 MAP キナーゼ

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Review
Article IL-1βによるヒト好中球の活性化と p38 MAP キナーゼ
炎症・再生 Vol.23 No.1 2003
Review Article
IL-1βによるヒト好中球の活性化と p38 MAP
キナーゼ
鈴木賢一,北川誠一
大阪市立大学大学院医学研究科細胞情報学
Selective activation of p38 mitogen-activated protein kinase cascade in human neutrophils stimulated by IL-1β
Interleukin-1 (IL-1) plays a central role in the immune and inflammatory responses, and activates various types
of cells, including human neutrophils. IL-1β exerts its effects through IL-1 receptor type I, and activates NF-κB
and mitogen-activated protein kinase (MAPK) cascades. In human neutrophils, it was found that the MKK3/6-p38
MAPK cascade was selectively activated by IL-1β , and p38 MAPK activation mediated IL-1β -induced superoxide (O2–) release and up-regulation of CD11b ( β2 integrin) and CD15 (a ligand for P-selectin). Our recent
studies also show that stimulation of human neutrophils with various cytokines, including granulocyte colonystimulating factor, granulocyte-macrophage colony-stimulating factor, and tumor necrosis factor-α , results in
cytokine-specific activation of distinct MAPK subtype cascades, and that extracellular signal-regulated kinase as
well as p38 MAPK mediates cytokine-induced O2– release and adherence. In this review, we discuss the signaling pathways activated by IL-1β and the role of MAPK subtype cascades and JAK-STAT pathway in activation of
human neutrophils by inflammatory cytokines.
Rec.6/13/2003, pp204-210
Kenichi Suzuki, Seiichi Kitagawa
Department of Physiology,
Osaka City University Medical School
Key w
ords
wo
neutrophil, interleukin-1β, p38, mitogen-activated protein kinase, superoxide
はじめに
であり,細胞外領域には3個の免疫グロブリン様ドメイン
IL-1βは主として単球/マクロファージから産生され,
が存在する 1).IL-1RⅠおよび IL-1RAcP の細胞内領域には
炎症反応および初期免疫応答において中心的な役割を果
Toll/IL-1 receptor(TIR)ドメインが存在し,このドメイン
たしている.IL-1βは極めて多くの細胞に作用して,多彩
は細胞内へのシグナル伝達に必須の領域である.IL-1RⅡ
な作用を発揮する.IL-1 receptor(IL-1R)は Toll-like re-
には TIR ドメインが欠損しており,IL-1RⅡに IL-1 が結合
ceptor(TLR)とともにファミリーを形成しており,この
しても細胞内にシグナルが伝達されない(図 1).このた
ファミリー分子は哺乳類ばかりでなく昆虫や植物にも存
め,IL-1RⅡは decoy(おとり)receptor と呼ばれる 3).IL-
在する.これらの分子は,いずれも感染に対する初期免
1RⅡは IL-1 ばかりでなく IL-1RAcP とも会合して,IL-1RⅠ
疫応答に深く関与している
1, 2)
.本稿では,IL-1R の特徴,
IL-1Rを介するシグナル伝達およびIL-1βによる好中球機
能制御を中心に概説する.
を介するシグナル伝達を負に制御している.また,可溶性
の IL-1RⅠおよび IL-1RⅡは IL-1 と結合することによって,
IL-1 の作用を負に制御している.同様に,IL-1 receptor
antagonist(IL-1Ra)は IL-1RⅠへの結合を IL-1 と競合する
IL-1Rファミリー
ことにより,IL-1の作用を負に制御している.このように,
IL-1R ファミリー分子に属するⅠ型 IL-1R(IL-1RⅠ)
,Ⅱ型
IL-1の作用は,その生理学的重要性から複数の機構により
IL-1R(IL-1RⅡ)および補助レセプターの IL-1R accessory
負に制御されている.多くの細胞は IL-1RⅠを主として発
protein(IL-1RAcP)は,いずれも細胞膜貫通タンパク質
現しているが,好中球にはIL-1RⅠとIL-1RⅡがともに発現
Inflammation and Regeneration Vol.23 No.4 JULY 2003
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図 1 IL-1R を介するシグナル伝達
IL-1のシグナルはIL-1RIとIL-1RAcPヘテロ2量体を介して伝達される.
IL-1RIIにはTIRドメインが存在しないので,
シグナルが伝達されない.
しており,IL-1RⅡの発現量が多い 3).
activated kinase)が会合する.TRAF6 には E3 ユビキチン
リガーゼ活性があり,自身のポリユビキチン化を促進す
IL-1Rを介するシグナル伝達
る.ポリユビキチン化された TRAF6 はTAK1 を活性化し,
1)
IL-1R を介するシグナル伝達経路を図 1 に示した .IL-
TAK1 は IKKβ(IκB-kinaseβ)および MKK6(mitogen-
1RⅠには IL-1α,IL-1βおよび IL-1Ra が結合する.IL-1 が
activated protein kinase kinase 6)を活性化する.その結果,
結合した IL-1RⅠはIL-1RAcP と会合してヘテロ2 量体を形
それぞれの経路を介して N F -κB および p 3 8 M A P K
成する.シグナル伝達にはIL-1RⅠとIL-1RAcP分子の存在
(mitogen-activated protein kinase)が活性化される(図 1)
.
が必要であり,また,これらの分子の細胞質ドメインに存
一方,MAPK には ERK(extracellular signal-regulated
在する TIR ドメインが必須である 1, 4).IL-1RⅠと IL-1RAcP
kinase),p38 MAPK,JNK(c-Jun N-terminal kinase)など
のヘテロ 2 量体が形成されると,これら 2 つの分子の TIR
のサブタイプが存在する.これらの MAPK サブタイプカ
ドメインが互いに近接することによってその立体構造が変
スケードの活性化は,リガンドおよび細胞により異なり,
化し,これらの TIR ドメインに MyD88 が会合する.さら
それぞれの細胞において特異的な機能に関与している 5).
に,MyD88 に IRAK-1(IL-1R-associated kinase 1)が互い
IL-1βも細胞種特異的にこれらのサブタイプを活性化す
の death domain を介して会合する.無刺激の細胞では
る.例えば,ヒト血管内皮細胞やヒト線維芽細胞では
IRAK-1 と Tollip が複合体を形成しており,Tollip が IRAK-1
ERK,p38 MAPK およびJNK が活性化され,ヒト表皮癌細
の活性化を抑制している.Tollip / IRAK-1 複合体が,活
胞では p38 MAPK および JNK が活性化される.また,ウ
性化されたIL-1Rに会合するとTollipが解離し,IRAK-1は
サギ肝細胞では JNK のみが活性化される 6, 7).MAPK サブ
2量体を形成して自己リン酸化または互いに相手の分子を
タイプ活性化の細胞種による相違の機序については十分に
リン酸化して活性化される.活性化された I R A K - 1 は
は明らかになっていない.図 1 から明らかなように,IL-
ProST 領域(death domain と kinase domain の間にあり,プ
1R を介するシグナル伝達において中心的役割を果たして
ロリン,セリンおよびスレオニン残基を多く含む領域)に
いる分子はIRAK-1である.IRAK-1はTRAF6のオリゴマー
存在する多数のセリンまたはスレオニン残基を自己リン酸
形成における足場を提供するとともに T R A F 6 による
化する.このようにして自己リン酸化されたIRAK-1はIL-
TAK-1 の活性化を促進する.リン酸化された IRAK-1 が蛋
1R から解離し,細胞質内に遊離してくる.IRAK-1 に
白分解を受けることにより,
活性化されたこれらのシグナ
TRAF6(TNF receptor-associated factor 6)およびTAB2(TAK1
ル伝達系は不活化される.
のアダプター分子)が会合し,TAB2 に TAK1(TGFβ -
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Article IL-1βによるヒト好中球の活性化と p38 MAP キナーゼ
炎症・再生 Vol.23 No.1 2003
図 3 サイトカイン刺激により誘導されるヒト好中球のスーパーオキ
シド産生は p38 MAPK 阻害剤により抑制される
好中球をp38 MAPK阻害剤
(SB203580)
で前処理
(37℃,
20分間)
すると,
IL-1β
(300 U/ml)
,
GM-CSF
(5 ng/ml)
またはTNF(100 U/ml)
刺激により誘導される
図 2 IL-1βは FMLP 刺激により誘導され
るヒト好中球のスーパーオキシド産
生を増強する
スーパーオキシド産生が抑制された.
好中球をI L - 1βで前処理すると,F M L P(N formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine)
刺激によ
り誘導されるスーパーオキシド産生の増強が認
められた.
(上)
IL-1β
(300 U/ml)
存在下に各時間
孵置後,
FMLP
(10-7 M)
で刺激した.
(下)
各濃度
のIL-1β存在下に10分間孵置後,
FMLP
(10-7 M)
で刺激した.
図 4 IL-1β刺激を受けたヒト好中球における
MKK3/6-p38 MAPK 系の活性化
(A)
好中球をIL-1β
(25または300 U/ml)
,
G-CSF
(50 ng/
ml)
,
GM-CSF
(5 ng/ml)
またはTNF
(100 U/ml)
で10分
間刺激した.
(B)
(上)好中球を各濃度のIL-1βまたは
TNF(100 U/ml)
で10分間刺激した.
(下)
好中球をIL1β
(300 U/ml)
で各時間刺激した.
(C)
好中球をIL-1β
(300 U/ml)
,
GM-CSF
(5 ng/ml)
またはTNF
(100 U/ml)
で10分間刺激した後,
ATF-2を基質としてp38 MAPK
のキナーゼアッセイを行った.
(D)
好中球をIL-1β
(300
U/ml)
またはTNF
(100 U/ml)
で10分間刺激した.
(E)
デ
ンシトメトリーの結果
(Bのデータ)
を示した.
Inflammation and Regeneration Vol.23 No.4 JULY 2003
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図 5 IL-1βまたは TNF 刺激により誘導される CD11b および
CD15 の膜上への発現増強は p38 MAPK 阻害剤により抑制
される
ヒト好中球をp38 MAPK阻害剤
(SB203580)
で前処理
(37℃,
20分間)
する
と,
IL-1β
(300 U/ml)
またはTNF
(100 U/ml)
刺激により誘導されるCD11b
およびCD15の膜上への発現増強が抑制された.
MHC class Iの発現はサイ
トカインの影響を受けなかった.
CD11bおよびCD15の発現はサイトカイ
ン刺激30分後に測定した.
IL-1βによる好中球機能制御
されている 17).したがって,好中球では p38 MAPKの上流
IL-1βは好中球に作用して,スーパーオキシド産生,遊
のキナーゼはMKK3と考えられる.一方,ERKおよびJNK
走および脱顆粒を促進し(プライミング作用),またスー
の活性化は認められなかった.したがって,好中球におい
パーオキシド産生を直接刺激する(トリガリング作用)
ては IL-1β刺激により,IL-1RⅠを介して MKK3/6-p38
(図 2, 3)6, 8-12).さらに,好中球の伸展を刺激し 11),その
13)
MAPK 系が特異的に活性化されると考えられる.
生存も延長する .好中球機能に対するIL-1βのこれらの
IL-1βは好中球のスーパーオキシド産生を直接刺激す
作用はIL-1RⅠを介して行われる.最近,IL-1β刺激を受け
る.この作用は p38 MAPK 阻害剤(SB203580)で阻害さ
た好中球では p38 MAPK が特異的に活性化され,p38
れた.また,IL-1βは好中球に作用して,接着に関与する
MAPKの活性化がIL-1β刺激により誘導されるスーパーオ
分子である CD11b および CD15 の発現を特異的に増強し,
キシド産生と,CD11b(β2インテグリン)およびCD15(P
これらの作用はいずれもp38 MAPK阻害剤によって阻害さ
セレクチンに対するリガンド)の膜上への発現増強に関与
れた(図 5).これらの事実は,p38 MAPK の活性化が IL-
6)
することをわれわれは明らかにした .
1β刺激による好中球のスーパーオキシド産生と特定の膜
IL-1β刺激によるp38 MAPKの活性化は刺激後1分です
抗原の発現増強に関与していることを示している.p38
でに認められ,10 分で最大となった(図 4).p38 MAPKの
MAPK は,スーパーオキシド産生酵素(NADPH oxidase)
有意なリン酸化は 25 U/ml で認められ,至適濃度は 300 U/
の構成要素である p47-phox のリン酸化を介してスーパー
ml であった.ヒト血管内皮細胞の活性化には低濃度の IL-
オキシド産生を制御している可能性がある 18).また,血管
1β(10-25 U/ml)刺激で十分である 14, 15).したがって,好
内皮細胞やマクロファージにおいて,p38 MAPKがアクチ
中球の活性化には比較的高濃度のIL-1βが必要である.血
ンの再構築に関与していると報告されており19, 20),われわ
管内皮細胞には IL-1RⅠのみが発現しており,好中球には
れも好中球において,p38 MAPKがアクチンの再構築に関
主としてIL-1RⅡが発現していることと関連があると考え
与していることを認めている.
プライミング作用における
られる 3, 16).p38 MAPK のリン酸化と併行して,その上流
p38 MAPK の関与は明らかではない 6).
のキナーゼであるMKK3/6のリン酸化も認められた.好中
球には MKK3 が発現し,MKK6 は発現していないと報告
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炎症・再生 Vol.23 No.1 2003
ロニー刺激因子),GM-CSF(granulocyte-macrophage
colony-stimulating factor;顆粒球・マクロファージコロニー
刺激因子)および TNF(tumor necrosis factor-α;腫瘍壊死
因子)が含まれる 21, 22).これらのサイトカインによる好中
球機能の活性化は,
微生物感染に対する生体防御機構を増
強するとともに特定の病態においては組織傷害を増強す
る.IL-1βを含め,これらのサイトカインは,好中球に作
用して特定の MAPK サブタイプカスケードをサイトカイ
ン特異的に活性化することをわれわれは明らかにした6, 23).
すなわち,G-CSF は MEK-ERK 系を特異的に活性化し,
GM-CSF は MEK-ERK 系を強く,MKK3/6-p38 MAPK 系を
弱く活性化する.一方,TNFは MKK3/6-p38 MAPK 系を強
図 6 ヒト好中球におけるサイトカイン特異的な
MAPK サブタイプカスケードの活性化
G-CSFはMEK-ERK系を特異的に活性化し,
GM-CSFはMEKERK系を強く,
MKK3/6-p38 MAPK系を弱く活性化する.
一方,
TNFはMKK3/6-p38 MAPK系を強く,
MEK-ERK系を弱く活性
化する.
また,
IL-1βはMKK3/6-p38 MAPK系を特異的に活性化
する.
これらの経路はともに好中球機能の活性化において中
く,MEK-ERK系を弱く活性化する.すでに述べたように,
IL-1βは MKK3/6-p38 MAPK 系を特異的に活性化する(図
6).MEK-ERK系を活性化する強さはGM-CSF>G-CSF>
TNF であり,MKK3/6-p38 MAPK 系を活性化する強さは
TNF > GM-CSF > IL-1βである 6, 23).
GM-CSF または TNF 刺激により誘導される好中球の
スーパーオキシド産生と接着の亢進は , M E K 阻害剤
(PD98059)および p38 MAPK 阻害剤で抑制され,これら
心的な役割を果たしている.
の阻害剤を併用するとほぼ完全に抑制される 23-25).した
好中球に発現しているIL-1RIIの生理学的
意義
がって,
これらのサイトカインにより誘導されるスーパー
IL-1βは炎症部位でほぼ普遍的に産生される.炎症部位
活性化がともに関与していると考えられる.
で産生された低濃度の IL-1βは IL-1RⅠのみを発現してい
G-CSF は ERK を,IL-1βは p38 MAPK をそれぞれ特異
る血管内皮細胞に作用して,その膜表面に I C A M - 1
的に活性化する.そこで,G-CSF と IL-1βを用いてその併
(intercellular adhesion molecule 1)
をはじめとする接着分子
用効果を検討すると,G-CSF 刺激による ERK の活性化は
14, 15)
オキシド産生と接着の亢進には ERK および p38 MAPK の
.これらの接着分子を介して好中球
IL-1βの影響を受けず,また IL-1β刺激による p38 MAPK
は炎症部位に動員される.好中球には IL-1RⅡが主として
の活性化もG-CSFの影響を受けなかった.また,スーパー
発現しており,炎症部位で産生されたIL-1βは動員された
オキシド産生に対するプライミング作用およびトリガリン
好中球膜上の IL-1RⅡに主として結合すると考えられる.
グ作用も相加的であった.これらの事実は,MEK-ERK 系
このことは,好中球はごくわずかの活性化を受けるのみ
とMKK3/6-p38 MAPK系がそれぞれ独立して好中球機能を
で,炎症部位のIL-1β濃度を低下させることができること
制御していることを示唆している 6).また,IL-1βばかり
を意味している.好中球は IL-1RⅡを介して炎症部位にお
でなく,TNF や GM-CSF 刺激により誘導される CD11b の
けるIL-1β濃度を低下させることにより,炎症を鎮静化さ
発現増強にも p38 MAPK が関与していることが明らかに
せる方向で作用しており,IL-1βが多量に産生されると,
なった(図 5).
の発現を誘導する
6)
好中球も活性化されると考えられる .いずれにしても,
サイトカインは好中球機能を制御するばかりでなく,
好中球にはシグナルを伝達する IL-1RⅠとシグナルを伝達
その生存も制御している.すなわち,G-CSFとGM-CSFは
できない IL-1RⅡが発現しており,IL-1RⅡの発現が優位で
好中球の生存を延長し(抗アポトーシス作用),TNF は好
ある事実は興味深い.
中球のアポトーシスを促進する24, 26).好中球の生存には構
成的なタンパク質の合成が必要であり,
自然に起こる好中
サイトカインによる好中球機能制御
球のアポトーシスはシクロヘキシミドで促進される.好中
IL-1βばかりでなく,様々な炎症性サイトカインによっ
球に対する G-CSF および GM-CSF の抗アポトーシス作用
て好中球機能は制御されている.これらのサイトカインに
は,転写レベルで制御されており,特定の抗アポトーシス
は G-CSF(granulocyte colony-stimulating factor;顆粒球コ
分子の合成を介していると考えられる.
その候補分子とし
Inflammation and Regeneration Vol.23 No.4 JULY 2003
て,GM-CSF においては Mcl-1 の可能性が示され,Mcl-1
は STAT3(signal transducer and activator of transcription 3)
と phosphatidylinositol 3-kinase を介して誘導されると報告
27)
されている .最近,われわれは好中球に対するG-CSFの
抗アポトーシス作用に cIAP2(cellular inhibitor of apoptosis
2)が関与していることを明らかにした 28).G-CSF は好中
209
Blood, 87: 2095-2147, 1996.
3) Colotta F, Re F, Muzio M, Bertini R, Polentarutti N, Sironi
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4) Sims JE, Gayle MA, Slack JL, Alderson MR, Bird TA, Giri
球に作用してJAK2(Janus kinase 2)-STAT3系を活性化し,
JG, Colotta F, Re F, Mantovani A, Shanebeck K, Grabstein
この経路を介してcIAP2を特異的に誘導した.細胞によっ
KH, Dower SK: Interleukin 1 signaling occurs exclusively
ては,ERK が抗アポトーシス作用に関与していると報告
via the typeⅠ receptor. Proc Natl Acad Sci USA, 90: 6155-
されているが,好中球に対する G-CSF および GM-CSF の
6159, 1993.
抗アポトーシス作用には ERK は関与していなかった.ま
た,われわれの検討では,IL-1βは好中球に対して抗アポ
トーシス作用を示さなかった.
5) Chang L, Karin M: Mammalian MAP kinase signaling cascades. Nature, 410: 37-40, 2001.
6) Suzuki K, Hino M, Kutsuna H, Hato F, Sakamoto C,
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好中球の活性化
ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞を比較的低濃度の IL-
of p38 mitogen-activated protein kinase cascade in human
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1βで刺激すると,その細胞膜上に ICAM-1 などの接着分
7) Ridley SH, Sarsfield SJ, Lee JC, Bigg HF, Cawston TE,
子を発現するとともに多量のGM-CSFを産生する 14, 15).好
Taylor DJ, DeWitt DL, Saklatvala J: Actions of IL-1 are
中球はこれらの血管内皮細胞に強く接着し,
血管内皮細胞
selectively controlled by p38 mitogen-activated protein ki-
から産生された GM-CSF の作用を受けて多量のスーパー
nase. Regulation of prostaglandin H synthase-2,
オキシドを産生した 15).したがって,IL-1βによる好中球
metalloproteinases, and IL-6 at different levels. J Immunol,
の活性化は,IL-1βによる直接活性化よりも,血管内皮細
158: 3165-3173, 1997.
胞を介した活性化がはるかに強く,後者が病態生理学的に
より重要と考えられる.
8) Yagisawa M, Yuo A, Kitagawa S, Yazaki Y, Togawa A,
Takaku F: Stimulation and priming of human neutrophils
by IL-1α and IL-1β: complete inhibition by IL-1 receptor
おわりに
antagonist and no interaction with other cytokines. Exp
最近の研究から,
サイトカインによる好中球機能の活性
Hematol, 23: 603-608, 1995.
化においては,MAPK サブタイプカスケードが中心的な
9) Brandolini L, Bertini R, Bizzarri C, Sergi R, Caselli G, Zhou
役割を果たしていることが明らかになった.また,MAPK
D, Locati M, Sozzani S: IL-1β primes IL-8-activated hu-
およびJAK-STAT系は未熟な造血前駆細胞ばかりでなく,
man neutrophils for elastase release, phospholipase D ac-
終末分化を遂げた好中球においてもサイトカイン刺激によ
tivity, and calcium flux. J Leukoc Biol, 59: 427-434, 1996.
り活性化され,
それぞれ特異的な機能に関与していること
10) Ferrante A, Nandoskar M, Walz A, Goh DHB, Kowanko
が明らかになった.これらの事実は,同一のシグナル伝達
IC: Effects of tumor necrosis factor alpha and interleukin-1
系が細胞の分化段階特異的に特定の機能を制御しているこ
alpha and beta on human neutrophil migration, respiratory
とを示している.サイトカイン特異的な MAPK サブタイ
burst and degranulation. Int Arch Allergy Appl Immun, 86:
プカスケード活性化機構,
これらの下流で機能している分
子,
さらにこれらの分子による好中球機能制御機構の解明
82-91, 1988.
11) Sullivan GW, Carper HT, Sullivan JA, Murata T, Mandell
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文 献
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210
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