基準点との比較による SRTM の精度評価

基準点との比較による SRTM の精度評価
慶應義塾大学
1.
はじめに
松浦慎平・厳網林
80% に相当する。
標高データは GIS、リモートセンシングを用いて解析
SRTM はスペースシャトルのベイロードに設置された受
をするにあたり、欠くことのできない基礎的なデータで
信アンテナに加え約 60m のマストの先にも設置された受
ある。しかし、 高解像度且つ質の高い標高データが整
信アンテナも用いて観測されている。これらの 2 つの受
備されていない地域も多く存在する。
信アンテナから取得されたデータにインターフェロメト
SRTM(Shuttle Raider Topography Mission) は シ ャ
リ技術を適応することによりデジタル標高モデルを得て
トルに搭載された合成開口レーダーにより観測された
いる。
DEM である。
4.
SRTM は極地を除く全世界を観測対象としていることか
ら、現在空間データに乏しい地域での基礎データとして
の使用が期待できる。しかしながら SRTM は公開されて
から日が浅いため、利用事例が少なく、使用に当たって
の留意点などが明らかにされていない。そこで基礎的な
データの整備が進んでいる日本で基準点の標高、数値地
図 50m メッシュの標高データを用い精度評価を行った。
2.
対象地域・データ
研究の対象とする地域は関東・甲信越全域とその地域
精度評価手法
3 地域において以下の作業を行った。
SRTM の解像度
は 90m × 90m、50m メッシュの標高データは 50m × 50m
である。よって 2 つの標高データを直接比較、評価する
ためには 50m メッシュの標高データの解像度を SRTM に
合わせる必要がある。しかし解像度を低くすればデータ
元々持っていた情報が失われてしまう。そこでポイント
データである数値地図の基準点データを媒介させること
によって、SRTM と 50m メッシュの標高データを比較、検
証した。
比較
に含まれる長野県南部付近、関東平野である。対象地域
比較
比較
50m メッシュ標
基準点
SRTM
図2
高
手法の概念図
対 象 の 3 地 域 に お い て、
“ 基 準 点 -SRTM”
、
“基準点
-50m 標高”を計算した。そして得られた 2 つの値を用い
て平均の計算、グラフ化、マッピングを行い SRTM と 50m
メッシュの精度を比較した。
図1
対象地域(関東甲信越全域、長野県南部、関東平野)
を図 1 に示した。関東平野、長野県南部はそれぞれ平野、
山地の代表地域として採用した。
5.
5-1.
結果
平野
“基準点 -SRTM”
、
“基準点 -50m 標高”
、
“SRTM-50m 標高”
データは対象地域の SRTM、数値地図 50m メッシュの
の平均値を表 1、グラフを図 3、マップを図 4 に示した。
標高データをラスター形式に変換したもの、数値地図
ただしグラフの横軸は基準点の標高値、縦軸は上記の計
25000(空間データ基盤)のポイントデータを使用した。
算結果の値とする。
3.
SRTM について
SRTM はスペースシャトルに搭載された合成開口レー
ダー(SAR)を使用し、北緯 60 から南緯 54 度までのす
べての陸地のデータを取得した。これは地球陸域の約
表1
平均値
基準点 -SRTM
基準点 -50m 標高
1.56
3.81
基 準 点 -SRTM
基準点 -50m 標高
図3
平野部のグラフ ( 散布図)横軸は基準点標高
図4
5-2.
平野のマッピング
山地
“基準点 -SRTM”
、
“基準点 -50m 標高”
、
“SRTM-50m 標高”
基 準 点 -SRTM
の平均値を表 2、グラフを図 5、マップを図 6 に示した。
ただしグラフの横軸は基準点の標高値、縦軸は上記の計
算結果の値とする。
表2
基準点 -50m 標高
平均値
基準点 -SRTM
基準点 -50m 標高
108.40
107.781
図5
山地のグラフ ( 散布図)横軸は基準点標高
図6
5-3.
平野のマッピング
関東甲信越全域
“基準点 -SRTM”
、
“基準点 -50m 標高”
、
“SRTM-50m 標高”
の平均値を表 3、グラフを図 7、マップを図 8 ~ 10 に示
した。
ただしグラフの横軸は基準点の標高値、縦軸は上記の計
算結果の値とする。
表3
基準点 -SRTM
108.40
平均値
基準点 -50m 標高 SRTM-50m 標高
107.781
-0.63
図8
全域のマッピング
基準点 -SRTM
基 準 点 -SRTM
基準点 -50m 標高
図7
全域のグラフ ( 散布図)横軸は基準点標高
図9
全域のマッピング
基準点 -50m 標高
6.
考察
図 3 の平野でのグラフの“基準点 -SRTM”と“基準点
-50m 標高”を比較すると、形状、値の幅ともにほぼ差が
ないことがわかる。これは図 5、図 7 の山地、全域でも
言えることである。またこれらのグラフより DEM は実際
の標高が高くなるにつれて、データの標高は実際の標高
より低くなる傾向があることがわかる。このことは表 1
と表 2 にある平均値を見れば明らかである。平均的に標
高の高い山地の方が平均値が高くなっている。しかしこ
れは SRTM の固有の傾向ではなく 50m メッシュの標高デー
タにも当てはまる。
図 8 のマッピング結果を見ると山
地で基準点の値との差が大きくなっていることがわか
る。
図 7 の“基準点 -SRTM”のグラフに注目する。このグ
ラフには同じ地域の“基準点 -50m 標高”にはない 1000
以上の値を持つところがある。それらは直線上に並ん
でいる。これらの値はデータの欠落によるものである。
SRTM は主に山地でデータの欠落が起こる。この傾向はわ
ずかだが図 5 の山地のグラフでも見られる。
7.
まとめ
本研究では、SRTM の精度を検証した。50m メッシュの
標高データと比較することにより SRTM は基礎データと
して活用でき、その情報の精度は数値地図 50m 標高デー
タに近いものである。山地部でデータの欠落があること
を念頭に置き利用すれば、さまざまな地域での利用が可
能である。
参考文献
JAXA,SRTM と は ,URL:http://iss.sfo.jaxa.jp/shuttle/
flight/sts99/mis_srtm.html