工業会活動 日加宇宙産業交流会の報告 カナダ宇宙庁長官及びカナダの主要な宇宙企業3社が来日し、去る3月26日、日本の宇 宙産業界との交流会を在日カナダ大使館にて開催した。日本からは、SJAC宇宙委員会の 西村委員長(NEC執行役員常務)をはじめ、20機関から34名が出席し、カナダからは宇 宙庁の他、ABB社、MDA社、Neptec社から計6名、またカナダ大使館4名が出席して、 総勢44名の交流会となった。 日本側から日本の宇宙産業の概要をSJACの秦常務理事が説明、カナダ側からはカナダ の宇宙開発の概要をSteve Maclean宇宙庁長官が説明した他、同行3社がプレゼンテー ションを行った。ここではカナダの宇宙開発、産業の特徴、今後の計画等について概要 を纏める。なお、カナダの宇宙産業、来日3社の諸元については4項にまとめた。 1.カナダの宇宙政策と宇宙産業 られる。衛星通信も広い国土を限られた資源 カナダの宇宙産業の特徴は、輸出比率が高 でカバーするには宇宙からの通信が適してい いことである(総売り上げの49%が輸出(2010 た。1976年には、世界最初のKuバンドによる 年))。ニッチ戦略と称して、国としてのニー 直接放送実験を行うなど、この分野で世界を ズを基本に選択と集中を徹底し、特定分野に リードして来た。 特化して開発を進めて来た。その結果、その 研究・開発に当たっては、産官学の連携を 分野の製品は世界トップクラスの技術、性能 重視している。限られた分野に高いレベルの を持っており、輸出に貢献する結果となって 科学者、技術者を集中投資するのも戦略の一 いる。 つとして挙げている。 カナダの重点分野は、①地球観測、②宇宙 科学と探査、③衛星通信、④宇宙認識と学習 であり、産業戦略として、①宇宙ロボテック 2.これからのカナダの宇宙開発 (1)地球観測−レーダーリモートセンシング ス、②レーダーリモートセンシング、③高度 分野 衛星通信、④宇宙科学の特定分野に力を入れ 次期レーダーリモートセンシングとして、 て来た。 3つの小型衛星のコンステレーション(RCM: Radarsat Constellation Mission)を計画してお 地球観測は、広い国土、世界で最も長い海 り、時間分解能を上げ、海洋監視、防災応用、 岸線、冬季の航路の確保の重要性等から、国 エコシステム監視等の分野に焦点を当ててい として必要不可欠なものとして当初から重点 る。このRCMの打上げは、当初予定より若干 分野として開発が進められて来た。その中で 遅れ、2016∼17年頃になる見通しとのことで も悪天候、夜間でも観測できるレーダーリ ある。長官としては、更に機数を増やし、防 モートセンシングに力を入れて来たのは必然 災分野でも十分に使えるようにしたいと述べ だった。宇宙ロボテックス(アーム)は、国 ていた。現状、防災分野は、モニタリング(監 際宇宙ステーション(ISS)の分担上、浮上 視・観測)が主体であるが、将来としては、 して来たものと思われるが、国内に要素技術 災害予報、更には災害軽減・回避に活用した が蓄積されていたことが選択した理由と考え いと意気込みを語った。 20 平成24年5月 第701号 宇宙ステーション補給機(HTV)がカナダアームによってISSにドッキングするところ (写真、JAXA/NASA提供) また、レーダーリモートセンシングの応用 79.4%)、今後も広い国土の通信インフラとし と し て、A I S(A u t o m a t i c I d e n t i f i c a t i o n て必要不可欠であり、その傾向は続くものと System:船舶自動識別システム)を支援する 思われる。 システムが考えられている。レーダーリモー トセンシングは、天候、昼夜に限らず、小さ (4)宇宙科学分野 い船でもその有無がわかる。現在、洋上を航 宇宙科学分野は、2010年の売上実績で1.8% 行中の船長は、常に自分の位置が監視されて しかないが、今後の重点分野に挙げている。 いると認識して来ており、違法水域への立ち この分野は独自の観測衛星も保有するが、国 入りの抑止力になっているとのことである。 際協調の中でその目的を達成するとしてお り、今後の惑星探査などの国際的宇宙探査に (2)宇宙ロボテックス分野 注目していくと考えられる。 シャトルが終息し、ISSの運用も2020年ま でとなっており、この分野の売り上げも減少 3.日本との関係 傾向にある。現在、ロボテックスの技術の継 カナダは、輸出の維持・拡大のために以前 承をどうするかが課題であるが、一つの候補 から国際協調をその政策として来た。具体的 としては軌道上ロボット、また宇宙探査用ロ なカナダの国際戦略は、ビッグプロジェクト ボットにその活路を見出そうとしている。具 における相互補完、また得意分野の積極的輸 体的には、ローバ(惑星面走行車)などが考 出である。 えられる。 今回の交流会で明示はしなかったが、特に 日本とは防災分野、宇宙探査分野等で協調し (3)高度衛星通信分野 衛星通信分野は、カナダの宇宙産業分野で 最も大きな売り上げを実現しており(2010年、 たい考えと思われる。日加宇宙産業の交流を 深め、技術的相互補完の具体化を通じて相互 の貿易拡大に結び付ければと考える。 21 工業会活動 4.カナダ及び来日各社の諸元 Neptec社(Neptec Design Group Ltd.)の諸元 カ ナ ダ の 宇 宙 産 業、ABB 社(ABB Ltd.)、 を以下に示す。 MDA社(MacDonald, Dettwiler and Associates ) 、 (1)カナダの宇宙産業 項目 売上高 国内、輸出 輸出先 内容(2010年) 備考 ・3,439C$m(約2,800億円) ・カナダの売上高には、 但し、アプリケーション&サービスを除くと約870億 アプリ&サービスが含 円。 まれている。 ・国内:1,735C$m(50.5%)、 ・輸出:1,703C$m(49.5%) ・米国:49.9%、欧州:30.8%、アジア:9.0% 他 分野別売上 ・アプリケーション&サービス:68.8%、宇宙機器: (%) 18.1%、地上機器:11.9% 他 利用分野別 ・衛星通信:79.4%、ナビゲーション:7.6%、地球観測: 売上(%) 7.4%、ロボット:3.1%、宇宙科学:1.8% 他 ・8,256名 人員と内訳 内 訳:エ ン ジ ニ ア & 科 学 者:37.6 %、行 政 機 関: (%) 23.4%、テクニシャン:15%、他:9.8%、マネジメ ント:9%、マーケッティング&セールス:5.2% (2)ABB社(ABB Ltd.)の概要 項目 企業概観 22 内容 ・産業プロセス、防衛、宇宙市場向けの高性能光学センサーを製造・販売。 ・大気・気象分野の宇宙用光学センサーのカナダ最大の供給業者。 ・宇宙関連収益の70パーセント以上が輸出。 製品、技術 ・大気科学、環境モニタリング、気象予報、天文学などの宇宙応用の光学的 リモートセンシング装置。 ・光学分光計、ハイパースペクトル画像装置、フライト較正装置、光学地上 支援設備、ソフトウェアシミュレータおよびデータ分析など。 特色 ・大気モニタリング用の光学装置に特化した技術を持ち、宇宙と一般産業双 方の分析技術において強い相乗効果を誇る。 ・フィージビリティスタディからハードウェア開発まで、顧客のミッション を支援する。 海外戦略 ・カナダ宇宙機関の宇宙プログラムに主要な貢献をする他、国際的にも積極 的に活動しており、長年にわたり、複数の宇宙機関や請負業者の多数のミッ ションを支援して来た。今後もこれを継続する。 平成24年5月 第701号 (3)MDA社(MacDonald, Dettwiler and Associates )の概要 項目 内容 企業概観 ・宇宙貿易企業であり、2,200名以上の従業員を擁し、カナダ全土のみならず、 アメリカ合衆国、イギリス、アフガニスタン、インドに拠点をもつ。 ・地球観測、ロボテックスなど幅広い宇宙用機器を開発・販売。 製品、技術 ・地球観測衛星ミッション(特にスペースレーダー)、地球観測地上ステーショ ン、宇宙ロボティクス、地理空間情報・付加価値、通信衛星アンテナなど。 特色 ・上記分野における世界先端の専門知識と伝統的技術を有する。 ・MDAインフォメーションシステムグループの収益の3分の1は輸出による。 アメリカ、西欧、東欧、ロシア、南米、オーストラリア、東南アジア、日 本に貴重な市場をもつ。 海外戦略 ・世界の市場への貢献を継続すると共に、相乗効果を実現することにより未 開の国際市場に進出するために、ノウハウと自社の特色を活用できるパー トナーを求めている。 (4)Neptec社(Neptec Design Group Ltd.)の概要 項目 内容 企業概観 ・宇宙、防衛、産業向けの、高性能センサーおよびロボットの設計を行い、 宇宙探査、宇宙ロボティクス、防衛、産業応用分野での、ターンキー方式 ソリューションを提供している。NASA/CSAの主要請負業者でもある。 製品、技術 ・スペースビジョンシステム(SVS)、レーザーカメラシステム(LCS)、時間 遅延アレイレーダー(TiDAR)、長距離光学センサー(LROS)、宇宙用-IRカ メラなど。 特色 ・インテリジェント3Dマシン視覚システムの設計、開発、実装、操作を専門 とし、高品質が要求されるミッションクリティカル環境における事業に多 くの実績を持つ。 海外戦略 ・世界の航空宇宙における防衛企業・団体とのパートナーシップ、またエン ドユーザーとの協力体制の構築を目標としている。共同事業として、共同 エンジニアリング・研究開発・製品開発が含まれる。 5.あとがき テムへの日本製品採用の可能性を探る上で大 今回の日加宇宙産業交流会によって、改め 変貴重な機会であった。特に防災分野では、 てカナダの宇宙政策、産業戦略、それに企業 何らかの協力関係が築けるよう、交流を深め 情報が得られ、参加企業にとって有益だった ていければと考える。 と考える。日本における新たなシステム構築 の情報として、また優れた技術の導入の可能 本交流会開催に当たり尽力頂いたカナダ大 使館関係者に感謝致します。 性、日本製品との比較、更にはカナダのシス 〔(一社) 日本航空宇宙工業会 技術部部長 堀井 茂勝〕 23
© Copyright 2024 Paperzz