海外巡検2016ベトナム 2016/3/16∼2016/3/23 東京大学理学部地球惑星環境学科 海外巡検(ベトナム) 巨大な石灰岩の露頭 3/17 ランソン市内 二日目はハノイのホテルから出発し,ランソン市に向かいまし 二日目午前は前期デボン紀に堆積した露頭を観察しました.この た.ランソン市はベトナムの中でも最北部に位置し,中国との国境 露頭にはBac Bun層とMia Le層が東に向かって約30度の傾斜で露出 のすぐ南です.ハノイ市内はクラクションの音がひっきりなしに聞 しています.魚類,腕足類,サンゴ等の化石が見つかるというこの こえにぎやかでしたが,都市部を出ると畑が広がり牛がいたり鶏が 露頭を700mほど,西から東に向かって道路沿いに歩きました.ベト いたりしてのどかな景色が広がっていました.ランソン市に近づく ナム国立自然博物館(最終日に訪れます)の研究員の方も同行し, につれ,バスの中からはカルスト地形特有の,巨岩がにょきにょき いろいろな説明もしてくださいました. と林立した風景が見えるようになり,まるで水墨画のようでした. Bac Bun層では貝形虫や魚類の構造の一部と思われる化石が見つか りました.が,大きさ1㎜程度ととても小さく,目の慣れていない私 2 は先生方にこれだよ,と指し示していただかないとわかりませんで した.自力で見つけられるようになりたいものです. Mia Le層では貝類や腕足類,巣穴化石や三葉虫の頭部やら尾部や らの化石が見つかりました.Fenestella(コケムシ)という生物は社会 性を持っていたと言われ,大きさ1㎜程度の小さな個虫が多数集まっ て群体を作って生息する生物です.Fenestellaの群体が5㎝ほどにわ たってきれいに広がっている化石を見た時は感激しました.三葉虫 は完全固体のものは見つかりませんでしたが,一つの岩片に三葉虫 の頭部や尾部がいくつも含まれているものを見つけた人もいて,大 変楽しかったです(私は見つけていませんが). 文責:鈴木七海 3 ナドン炭田での集合写真 3/18 ナドン炭鉱 ベトナムにやってきてから三日目にはNa Duong炭鉱に向かいまし 長い待ち時間を経てどうにか炭鉱内に入ることができました.Na た.当然いきなり炭鉱内に入れるのではなく,まず炭鉱を経営して Duong炭鉱にはNa Duong Formationと呼ばれる新生代第三紀に堆積 いる会社に許可をもらいに行きました.が,ここで予想外の問題が した湖の地層が広がっています.堆積年代の推定は花粉化石と脊椎 発生.会社の都合で許可が取れず待ちに待ってなんと3時間以上. 動物化石の研究者の見解に相違があり,詳しくはわかっていないそ 言葉のわからない海外の道端でひたすら3時間の待ち時間は先生方 うです.北部ベトナムには北西から南東へ伸びるRed River Fault も参ったようで風景をスケッチする人から筋トレする人まで出てき Zoneと呼ばれる断層帯が存在しますが,これらの断層運動で生じた ました.こうして,この待ち時間は様々な予定を狂わせることとな 断層湖に堆積した地層がNa Duong Formationです.9つの厚い石炭 りましたが,無事Na Duong炭鉱に入ることができました. 層が存在し,多くの巨大な珪化木が産出します.下位から4番目の石 炭層からは多くの脊椎動物化石が産出しています.今回の巡検でも 4 カメ類の化石やクロコダイル類と思われる化石が多数産出しまし た.各石炭層の間は泥灰岩(マール)や砂岩層が見られ,かつての 湖の環境変化をうかがい知ることができます.泥灰岩層を砂岩層が 削りこんでいる構造や生痕化石などを観察することもできました. 今回は発見することができませんでしたがマールの地層中からは多 くの淡水性の二枚貝や巻貝が産出しています. 多くの化石が産出するNa Duong Formationですが,今回の巡検はこ れらの地層や化石のみを観察することが目的ではなく,炭鉱そのも のを見学に行きました.露天掘りを行っているNa Duong炭鉱では深 さが130mもあり,大きすぎで距離感がわからなくなるほどの広大な 炭鉱が広がっていました.また,炭鉱で採掘された石炭は硫黄成分 が多すぎて火力発電にのみ利用されているということで,この多量 に含まれる硫黄成分は地層中に黄鉄鉱として見られるほか,炭鉱中 を流れる川が黄色に染まっていることからもわかりました.他にも 炭鉱内の道路に溜まった泥が乾燥して乾裂を生じており,この泥に はまってしまう経験をし,現代の地形の観察やその特性を体感する ことができました. 文責:上田裕尋 5 バクツイ層見学 Na Dong Mine を見学した後一部の人 は,Buc Thuy層を見に行きました.ここ では三畳紀前期に堆積した地層が露出して いて,当時のアンモナイトの化石が見られ ます.この地層は浅海性の石灰岩からな り,二次堆積した石灰岩礫やマッドドレレ イプという潮間帯の堆積物も見学しまし た. 工事のためアンモナイトの出る層準や時 代境界が見えている露頭が隠れてしまって いたのが残念でしたが転石のアンモナイト や珍しい堆積物を多く見つけられたのでと ても勉強になりました.また見学した時間 が遅かったためすぐ日が暮れてしまい,最 後は暗い中懐中電灯で照らしつつ地層を見 たり,化石採集を行っていました. 文責:松本廣直 6 Hon Gai層から産した植物化石 3/19 モンドン炭田 3月19日はまず三畳紀の植物化石を観察・採集しました.場所は つかり大興奮でした.泥岩や砂岩が柔らかいため割りやすかったの Mong Dunong Coal Mineで,ベトナム北部の海に近いところです. もありがたかったです.しかし逆に言うと化石が壊れやすいという ここは以前炭坑として掘られていましたが現在は掘られていませ ことなので慎重に梱包しました. ん.Hon Gai層と呼ばれている層で,泥岩が多くところどころ砂岩も みられます.ハンマーやたがねを使い層に沿って石を割ってみると 植物化石が現れました.シダ植物が多く,日本でも岡山県などで見 られる植物層群なのだそうです.日本では虫の化石も見つかってい るそうですがここでは見つかっていません.私たちも発見すること はできませんでした.しかし植物化石はきれいなものがたくさん見 7 昼食を食べ,BAO TANG QUANG NINHという博物館に行きまし た.これは先ほどの場所から10kmほど南に下ったところの海沿いに あります.大きな博物館で,地学的なものだけでなく生物や歴史の 展示もされていました.歴史では炭坑の様子がリアルに展示されて いたり,戦争やホーチミン(ベトナムの英雄でその名は地名にも使わ れている)の展示がされていたりしました.ベトナムで見つかった古 銭の展示などもありました.この博物館の見学を通してベトナムを 多面的に見ることができ,また古くから日本とベトナムが交流して いたことを改めて実感し嬉しくなりました. 文責:山口瑛子 8 ハロン湾のカルスト地形 3/20 ハロン湾 午前はハロン湾を訪れ,貸しきった船で湾周辺をクルージングし 雑していた.洞内は広く,カラフルにライトアップされているため ながら観察した.薄く霞の掛かった石灰岩の島々は非常に幻想的 明るく,鍾乳石を細かく観察することができた. で,その形状も一つ一つ異なっており,中にはその形状からチキン などの独特の名で呼ばれている島もあり,見ているだけで面白かっ その後ハロンに戻り昼食をとり,午後はCat Ba島という島にフ ェリーで1時間ほどかけて移動し,露頭の観察を行った. た. 文責:渡辺泰士 程なくして船はある島に到着し,Heaven’s Palace Caveと呼ば れる洞窟を訪問した.内部は鍾乳洞となっており観光客で非常に混 9 3/20 カトバ島 露頭の観察を終えると再びバスに乗り込み今晩の宿へ向かった. 小一時間後に宿についたのだが,露頭の観察を熱心にしすぎたせい 3月20日午後,我々はベトナム本土からCat Ba Islandへフェリーで かほとんど全員靴にかなりの量の泥がついてしまっており,ホテル 移動をした.フェリーには屋根がついているスペースが少なく,小 の従業員の方には段ボールをそこらに敷き詰められてしまった.そ 雨が降る中の移動であったので,ベトナムは暖かいというイメージ の上を歩いたはずなのだが,それでも床を泥で汚してしまい申し訳 に反して,薄い長そでを3枚ほど重ね着しても少し肌寒いくらいだっ なさを感じたのだった. た. 文責:佐久間杏樹 Cat Ba Islandについてバスで走ること約10分,我々は目的の露頭 に到達した.この露頭は石炭紀ーペルム紀のPho Han FormationとBac Son Formationの境界が観察できる.境界部分は赤色をし た泥岩層となっており,写真のようにはっきりと境界を見ることが できる.また,この場所では地層の観察のほかに腕足類の化石も見 られ,サンプルの採取も行った. 10 モンキーアイランドで猿に遭遇する 3/21 カトバ島・モンキーアイランド Cat Ba島南部のCat Coビーチには,デボン紀―石炭紀境界の地層 途中ベトナムの方が,岩の上の何やら黒ずんだ木みたいなものを が露出しています.この地層は,北東方向が上位になります.基本 指しながら「これは何だと思う?」と 的には灰色の石灰岩層が主で,その中にタービダイトやスランプ構 いんですか?」と答えたところ,その辺の枝でつつきながら「チュ 造,褶曲構造,セカンダリーチャートなどが保存されているほか, ーイングガムだ」と教えてくれました.とてもいかがなものかと思 貝やサンゴの化石などが含まれているのを見ながら,沿岸を歩いて いました(ベトナムの方が,ではないです). いきます. いてきたので,「木じゃな 上位の地層から観察を続け,昼前にデボン紀―石炭紀境界の露出 する露頭にたどり着きました.先行する研究者によって,地層に番 号が振られており,観察のしやすい露頭となっています.この境界 11 は,大量絶滅が起きたことでも知られています.大量絶滅が起きた がありすぎて,私たちは見る間に離れ離れになってしまいました. とされる時期の堆積物は数層にわたって黒く,とてもヤバそうな香 ベトナムの海で,とても心細い思いをしました. りがします.実際含まれる有機炭素は非常に多く,無酸素状態にあ 文責:石垣理生 ったのではないかと推測されています. この黒い層からは化石が発見されず,厳密にどの層間にデボン紀 と石炭紀の境界を引くべきか証拠が得られていないそうです.「デ ボン紀か石炭紀か,いずれかの生物の化石が見つかれば,明瞭な境 界線が引けるようになり,世紀の発見と賞されるであろう!」とけ しかけられた私たちは,血眼になって化石を探しましたが,年代指 標となる微化石は,あったとしても肉眼では見えないレベルなの で,結局何も見つけられませんでした(当然). 午後はモーターボートで海を渡り,Monkey islandへ向かいまし た.その名の通り猿が沢山生息しており,岩の上から人間どもを睥 睨してくれます.まるで「猿の惑星」です.日本の猿より尻尾が長い です. やはりここにもペルム紀前期に堆積した石灰岩層がみられ,貝や サンゴ,ウミユリの化石が豊富に含まれています.風にさらされた 石灰岩はひどく尖り,岩肌を上るのに苦労しました. ひとしきり化石の観察を終えた後,再びボートでCat Ba本島に戻 ります.このとき三 に分乗したのですが,ボートのスペックに差 12 ベトナム国立博物館前の恐竜モニュメント 3/22 ベトナム国立自然博物館 巡検も大詰めとなる本日は,滞在していたCát Bà島からハノイへ と同様,展示物が一般の人にも親しみやすい配置を考慮している点 の移動から始まります.道中で小さなトラブルもあったものの,午 が印象的でした.展示の中で特に私が興味深く感じたのは立体地図 後には無事に戻ることができました. に統計情報を投影する展示で,降水量や平均気温の月別変化が標高 ハノイでは,現地をガイドしてくれた先生や学生の方が普段研究 を行っているベトナム国立自然博物館を訪問しました.この博物館 はベトナム科学技術院内に付属し,今回見学した露頭でも観察でき た植物化石や腕足類の化石をはじめ,国内で採取された貴重な資料 が数多く展示されていました.3日前に訪問したQuang Ninh博物館 の高低や季節風の風向に左右される様子をよく表していました.余 談ですが,博物館は現在移転が進められており,その準備には日本 も協力しているそうです.下の写真のように,私たちも野外調査や 最後の懇親会を通じて多分に交流を深めることができ,貴重な経験 となりました. 13 末筆となりましたが,露頭での説明に加え私たちを歓迎してくだ さったHuu先生とベトナム国立自然博物館の皆さん,調査だけでな く渡航もサポートしてくださった熊本大学の小松先生,指導および 引率してくださった對比地先生,高橋先生にはこの場を借りて深く 御礼申し上げます. 文責:羽田康孝 同行してくださった小松先生,ベトナム科学技術院の皆さんと 14
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