モンゴルのゲル生活の考察 ―家財道具の比較を通して― キーワード:家財道具、モンゴル、遊牧生活 製品デザイン分野:王開 ■背景 世界の国々では様々な家財道具により、多様な暮らしが営まれて 30 か国の平均生活の家財保有状況の比較を通してゲル生活の特殊 性と普遍性について考察する。 いる。古くて、遊牧民族ならではのゲル生活はその中の一種である。 この特殊なゲル生活の特性を家財保有の比較で明らかにすることは 移動生活や新しい生活のあり方を示唆する意義があると思われる。 ■結果 ゲル生活の一般家財道具の収集を図2に示す。 ■目的 ゲル生活と定住生活、または世界の平均的な生活の保有する家財 道具の比較から、ゲル生活の特性、または、その特性と保有される家 財道具の関係を明らかにし、生活スタイルの普遍性と特殊性について 考察を行うことは本研究の目的である。 ■方法 図2 ゲル生活の一般家財道具 研究の構成を図1に示す。 ゲル生活と定住生活の家財保有のカテゴリー散布図の比較を図3 に示す。 図3 ゲル生活と定住生活の家財保有のカテゴリー散布図の比較 ゲル生活と定住生活の家財散布図の比較を図4に示す 図 1 本研究の構成 本研究はじめに文献調査から、ゲル生活の歴史と現状、ゲルの構 造、移動方式、分布地域などゲル生活の全体像を把握した。その上、 中国内モンゴル省のゲル生活の現地取材調査から、ゲル生活に利用 されている代表的家財道具を抽出しました。抽出した家財をカテゴリ ーに整理し、数量化 3 類を行い、ゲル生活の家財保有の特性を明ら かにした。次に、定住生活する中国の一般家庭の家財保有状況の数 量化 3 類分析の比較から、移動生活の特性を明らかにした。さらに世 界の家財との保有状況の位置づけを明らかにするため国連データの 平均的家庭生活を取材した「世界家族」の家財データを同様に数量 化 3 類分析から比較分析し、大きく五つの家財保有グループを明らか にした。以上ゲル生活と定住生活の共通性と違いを明らかにし、世界 図4 ゲル生活と定住生活の家財散布図の比較 ゲル生活と中国農村生活が代表する定住生活がそれぞれ保有す この散布図で、家財保有の視点から見た世界の生活は大きく「自給 る家財をカテゴリーに整理し、数量化 3 類を行い、上記の図からゲル 自足農業型」、「亜熱帯農業型」、「発展途上型」、「先進都市型」と「移 生活の「機能の多様性」、「軽量・ソフトな自然材料」、「物を少なく持つ 動牧業型」、この五つのグループに分けられるのが分かった。また、ゲ 意識」など保有特性を明らかにした。 ル生活は特殊の家財道具による独特な生活スタイルであることを明ら かにした。 また、世界30か国各国の平均的な家庭が保有する家財のをデータ を集計した。その結果は以下の図5と図6に示す。 ■考察 まず、ゲル生活と中国農村生活の比較で、移動生活と定住生活の 共通性と違いを明らかにした。ゲル生活は「移動」に適応するため、 「機能の多様性」、「軽量・ソフトな材料の利用」、「数の制限」などの家 財保有特性を持っている。一方、定住生活は移動する必要がなく、生 活の質を高めるため、「機能の専属性」、「食、住を中心する」と言った 特性が持っている。 さらに、世界 30 か国の中流家庭の家財保有状況を統計した上、モ ンゴルのゲル生活とほかの生活を数量化 3 類で比較した。モンゴルゲ ル生活のどこが特殊なのか?世界全体中の位置づけはどうなるのか を考察しました。二軸の解釈により、各生活スタイルの質的な違いは 生活の豊かさ(この研究の中では家財数から反映される)と保有される 家財の特殊性(この研究では家財機能は農業偏りのか牧業偏りのか) で決められると考える。また、国連のデータと合せて、世界各国生活 の家財保有の特殊性と普遍性を考察した。平均所得が増えると共に、 家財数が増え、そして電気家財の割合も増えるのが分かった。また、 図5 家財数の国別ランキング 近い地理環境の地域では、似ている生活が行われているが、都市化 が進んでいると共に、各生活スタイルが都市生活に転換して行く傾向 が見える。 ■まとめ 本研究は生活スタイルの違いが家財道具の保有状況から反映でき ることを実証した。モンゴルのゲル生活の事例とした本研究を通して、 ゲル生活の特性、また世界様々な生活の中の位置づけを分かった。 また、この伝統がある生活スタイルを理解することで、我々の生活を見 直す必要があると考える。特に世界一生活財を保有する日本の都市 生活にとっても示唆を与える意義ある研究と思う。 図6 保有される家財のランキング 最後に、このデータを基づき、家財のカテゴリー化をした上、数量化 3 類で分析し、ゲル生活は世界多様な生活の中の位置づけを考察する。 その結果は以下の散布図7になった。 図8 日本の平均的家庭が保有する家財 今後の課題として、まず、本研究は文献写真やインタビューなどの 資料に基づいて、ゲル生活の家財道具保有の特殊性を考察したが、 今後実際のゲル生活を体験することによって生データを得ることは望 ましいと考えている。本研究のデータは国連の物で、信頼性があるが、 自身のデータが不足と言うことがすごく実感した。 本研究は生活財の視角から、ゲル生活を考察したが、地域生態、 歴史文化などのほかの視角からの考察は触れなかった。これは、今 後の研究で続く必要があると考えた。また、この研究の結果をどう生か 図7 世界家財道具の国別散布図 す、ゲル生活の特性を利用した具体的な新しい生活の改良や提案も 必要であると考えている。
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