第30章 髪長姫の物語

第30章
髪長姫の物語
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とおやま み
つ
お
私
「遠山美都男氏は宮子が藤原不比等の娘だと言っている」
安倍
「その通りだ」
私
「つまり藤原不比等の妻が賀茂比売であり、二人の間に生まれた娘が宮子だ
か
も
ひ
め
と言っている」
安倍
「その通りだ」
私
「そして宮子は文武天皇の妻となり、その二人の間に生まれた子供が聖武だ
と、遠山美都男氏は言っている」
安倍
「その通りだ」
藤原不比等
賀茂比売
宮子
文武天皇
聖武
私
「しかしこの遠山美都男氏の考えは間違いだ」
安倍
「ほう」
私
「宮子は藤原不比等の娘ではない」
安倍
「ほう」
私
「いいか、このことを知るためにある姫の物語を読む必要がある」
安倍
「ある姫の物語とは何だ」
私
「髪長姫の物語のことだ」
安倍
「うむ」
私
「いいか、聖武天皇を導いているのは天照の神の超ド級の正体だ」
安倍
「うむ」
私
「いいか、その天照の神の超ド級の正体を説き明かす鍵は、聖武天皇の母親
の宮子の中に流れている血にある」
安倍
「ええー!」
私
「いいか、安倍、その宮子の中に流れている血を探るためには、この髪長姫
の物語を知る必要があるのだ」
安倍
「うむ」
私
「 こ の 髪 長 姫 の 物 語 は 道 成 寺 の ブ ロ グ『 か み な が 姫 の 物 語 』が 一 番 い い か ら 、
ど う じょ う じ
これを早速に読め」
安倍
「分かった」
私
「 あ あ 、そ れ か ら 御 坊 市 ホ ー ム ペ ー ジ の『 宮 子 姫 物 語 』も 続 い て 読 む が い い 」
安倍
「分かった」
ご ぼう
し
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私
「ああ、それからブログ『のりちゃんず』の『髪長姫』も引き続いて読むが
いい」
安倍
「よし、分かった」
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かみなが姫の物語
安珍清姫物語に隠された感がありますが、道成寺にはその創建にまつわる「かみ
な が 姫 (藤 原 宮 子 )」 の 伝 説 が 伝 わ っ て い ま す 。 宝 仏 殿 で は 、 毎 日 そ の 物 語 の 説 明 を
聞く事が出来ます。
物語の概要
大 宝 元 年 ( 7 0 1 )、 文 武 天 皇 は そ の 夫 人 の 藤 原 宮 子 の 願 い を 受 け 、 道 成 寺 を お 建 て
になりました。
宮子は、道成寺の言い伝えでは「髪長姫」とよばれる村長の娘であったとされま
す。
この言い伝えには賛否両論があり、色々な研究もなされましたが、
宮子の人生には今も多くの謎が残されています。
ここでは道成寺に残る『宮子姫伝記』という絵巻に従って紹介しましょう。
絵とき
今 か ら 1300 年 前 、
九海士(現在の和歌山県御坊市湯川町下富安)の村長に娘が生まれましたが、髪
の毛が全く生えませんでした。時を同じくして、九海士の入り海に光るものが現れ
不漁が続きました。髪の無い娘の母が海底に探りに行くと、小さい観音様が光り輝
いていました。
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命がけで海底から引き揚げ、
毎日拝んでいると、娘にも髪が生え始め、
村人から「かみなが姫」と呼ばれる美少女に成長しました。その姿が都人の眼に
とまり…
か み な が 姫 は 藤 原 不 比 等 の 養 女 と し て 奈 良 に 召 し 出 さ れ 、宮 子 姫 と い う 名 を 貰 い 、
宮中に仕えることと なりました。
宮 子 姫 は 、 そ の 美 貌 と 才 能 を 見 込 ま れ 、 持 統 天 皇 11 年 ( 697) に 文 武 天 皇 の 夫 人
に選ばれました。
宮子姫は、黒髪を授けてくれた観音様と両親を粗末な所に残してきた事を悩んで
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いました。
文 武 天 皇 は 宮 子 姫 が ご 恩 返 し を す る た め の 寺 を 建 て る こ と を 命 じ 、大 宝 元 年( 7 0 1 )
道成寺が建てられました。
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宮子姫物語
第 42 代 文 武 天 皇 の お 妃 と な り 、 第 45 代 文 武 天 皇 の ご 生 母 と な ら れ た 宮 子 様 ( 藤
原宮子)は、7 世紀後半、九海人の里(現在の御坊市)でお生まれになったと伝え
ら れ 、『 宮 子 姫 物 語 』 が 語 り 継 が れ て お り ま す 。
『宮子姫物語』
九海士(くあま)の里(現在の御坊市)に住む海女の夫婦は、子宝に恵まれない
ことから氏神の八幡宮にお祈りしたところ、女の子を授かりました。そこで名前を
「宮子」と名づけました。ところが大きくなっても宮子には髪の毛が生えてきませ
ん。両親は悲嘆にくれていました。
ある日、母親が海に潜っていると、海底に光輝くものがありました。それは黄金
色の小さな小さな観音様でした。
持ち帰った観音様をお祀りして、毎日お祈りを続けていると、にわかに宮子の髪
が生えはじめました。
髪はどんどん伸び、里の人々は宮子のことを「髪長姫」と噂するようになりまし
た。
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ある日、宮子が黒くてつやつやした髪をすいていると、ツバメが飛んできてその
髪を一本くわえ、飛び去りました。
奈良の都で勢力を誇っていた藤原不比等の屋敷の軒にツバメが巣を造りました。
巣から垂れ下がる長い黒髪を見つけた不比等は髪の主を探しだし、養女に迎え入れ
ました。当時、長い黒髪は美人のあかしでした。
不比等の養女となった宮子は、後に文武天皇の后となり、奈良の東大寺を建立し
た聖武天皇の母となりました。
宮子は黒い長い髪を授けてくれた観音様をお祀りしたいと文武天皇にお願いしま
した。
天 皇 は 紀 道 成 に 命 じ て 立 派 な お 寺 を つ く ら せ ま し た 。そ れ が あ の 道 成 寺 だ と い う
のです。
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髪長姫
採取地域:和歌山県日高市
ひとこと:道成寺創建に伝わる伝説です
原
典:
登場人物:髪長姫
物
渚
早鷹
文武天皇
藤原不比等
語:昔、むかし、といっても、藤原不比等公の時代なわけですから、
奈良時代ということになりますが。
和歌山日高には、村人に尊敬される村長夫婦がおりました。
奥様の名前は、渚。
旦那様の名前は、早鷹。
ごく普通の2人はごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。
ただひとつ違ってたのは・・・。
それは、これからお話します。
二人には子供がありませんでした。
そ こ で 、 毎 日 、 八 幡 宮 に 詣 で て は 、「 子 供 を 授 け て く だ さ い 」 と
お願いしていました。
武 勲 の 神 様 で あ る と こ ろ の 八 幡 様 と し て は 、「 子 授 け は わ し の 得
意分野とちゃうけんのぉ」と言いたいところだったでしょうが、
そこは神様の人脈もとい、神脈を生かしてくださったのでしょう。
間もなく二人にはかわいい女の子が生まれました。
とてもかわいらしい女の子でした。
夫婦は相談しました。
「なんという名前にする?おまえ」
「八幡宮の神様に授けていただいたから・・・」
「お、そうか。じゃ、八にしよう」
「だめよ。うっかり者に育ったらどうするの?」
「 難 し い な ぁ ・ ・ ・ 。 じ ゃ 、 は ち ま ん 、 の 、『 ま ん 』 で ど う だ ? 」
「 う ~ ~ ん 、 関 西 じ ゃ ぁ 、『 ま ん 』 は ま ず い ん じ ゃ な い か し ら ? ? 」
「 じ ゃ 、 宮 と か い て 、『 ぐ う 』 っ て の は ど う だ ? ! 」
「なんでやねんっ!!」
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と い う こ と で 、 女 の 子 の 名 前 は 「 宮 」 と 書 い て 、「 み や 」 に な り
ました。
宮は、本当にかわいらしく育って行きました。そう、顔は。
ただ、髪の毛が一本も生えてこなかったのでした。
髪は女の命。
母の渚は、生来真面目な質だったのでしょう。娘に髪が生えない
のは、自分の罪を娘が被っているんじゃないか、なんて思い悩み
ます。
いるんですよね。こういう、世界が自分で周ってると思ってる、
一見控えめな傲慢な人。
さて、そんなある日、海が不思議な光でまばゆく光り始めたので
す。同時に、それまで豊かだった漁場が、なぜか不猟の連続。
村人達は、困りました。
そこで、でてきたのが、きました、われらが女戦士渚さんです。
娘の毛が生えないのが私の罪のせいならば、私が人身御供になっ
て海に沈めば、宮に毛が生えるかもしれない。同時にあの光も消
えるかもしれない・・・。
傲慢も筋金入りならば、高邁になり、尊敬するにやぶさかじゃな
くなる、というよい例です。
仏様のような威厳をまとった渚は海に飛び込みました。
すると・・・。光がなんだか強くなったのです。
なんだろう?
実は海女でもあった渚は、正体を確かめたくなってきました。
「黄金のサザエだったりして・・・ぷぷぷ・・・しまった。海の中
で笑ったから、息苦しくなってきたわ。死ぬ前に見届けないと」
必死で光源に近づく渚。
そこに見たものは・・・。
きらきらと輝く黄金の仏観音像だったのでした。
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そうなったらこのままにしておけません。ぜひとも陸にあげて、
ちゃんとお祀りしないと。
渚は、観音像を胸に必死で浮かび上がりました。
そして、小さな庵を結び、そこに観音像を安置したのでした。
その夜、渚は夢を見ました。
「なぎさ~~、な~ぎ~さ~~~」
「はれ、あの声は」
「今日、お前に海の底から脱出させてもらった観音じゃぁ」
「おやまぁ」
「そこで、お礼に何か願い事はないか?」
「それなら。それなら、娘の宮に髪の毛をください」
「何本?」
「そやなくて!
頭に髪の毛を生やしてやってほしいんです」
「ほな始めからそう言わんかいな。よ~うわかった。
そしたらな、この事、叶えたるわ。
夢ゆめ疑うことなかれ~~~」
渚が不思議な夢から起きると、宮の頭にはもう毛が生え始めてい
ました。
もとから顔立ちが優れて美しかったので、髪の毛が生え揃うと、
輝くほどになり、人々は宮を「髪長姫」と呼ぶようになったので
す。
髪 長 姫 は 、 授 か っ た 美 し い 黒 髪 を 、「 観 音 様 か ら の 授 か り 物 」 と 、
とてもとても大事にしました。
だから、髪の毛を切ったことがありませんでした。
そして、抜けた長い毛は木の枝にかけておいたのです。
しかし、そんなことを言うならば、姫自身は八幡様の授かり物な
わけですから。
「落ちた垢は、丸めて溜めて」
おかんとあかんわなぁ・・・ううう。
さて、ある日のこと、一匹の雀が、この髪の毛を巣材にしてはど
うだろう、と思いつきました。
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そこで、木の枝にあった髪の毛を一本くちばしに咥えると、棲家
を構えるのに、よさそうなところを探しに出かけたのです。
ところが、なんとしたことでしょう。
その長い髪の毛は目立ちすぎたのでしょうか。
策士・藤原不比等の目に止まってしまったのです。
思わず雀から髪の毛を取り上げる不比等公。
ひどいっ!!
「美しい。美しすぎる。こんな髪の毛を持った女性はさぞかし美し
いだろう。美しいに違いない。美しいに決まってる。よし、決ま
った!!」
と勝手に決めて、姫を探し出しました。
「髪長姫」が、広く有名だったことが幸いしたのか、それとも、不
比等公の絶大な力ならばどんなことでも可能なのか。
テレビのないこの時代、一人の女性を手がかり髪の毛一本で探す
なんつぅのは可能なんでしょうか?
いや、可能だからこそ、姫は見つかったのですが・・・。
それにしても、えらい難事でしょう。
なによりも、髪の毛一本に、こんな困難をさせる魅力がある、と
いうのが、ど~~~も、納得いかないんですよね。
例 え ば 、 胸 毛 一 本 見 て 、「 ま ぁ 、 な ん て 長 い 胸 毛 。 き っ と ぼ ぉ ぼ
ぉもじゃもじゃの素敵な胸毛なんだわ。こんな素敵な胸毛の男性
は男っぽくて素敵に違いないわ!」と・・・。
私なら絶対、思いませんね。はい。
閑話休題。
この美しい姫を見て、不比等公は自分の養女にすることにしまし
た。
普通、美しい女性を見つけたら、妻にしようとすると思うのです
が・・・。
さすが不比等公、と言うべきでしょう。
彼にはもっと遠大な考えがあったのでした。
そう、勿論、彼女を皇后にすることです。
そんなわけで、ただでさえ美しい髪長姫は、不比等公の英才教育
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を受け、文武天皇に輿入れし、聖武天皇を生むことになります。
そして、天皇は、髪長姫に髪を授けてくださった観音像を安置す
べく、姫の故郷に「道成寺」を建立したのでした。
めでたしめでたし。
すごい立身出世。
まさに女版・豊臣秀吉の物語でした。
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