2020年東京オリンピック・パラリンピック活用地域活性

「2020 年東京オリンピック・パラリンピック
活用地域活性化戦略プラン検討会」
中間とりまとめ報告書
~地域活性化のためのおもてなし戦略プランの提示~
平成 26 年 7 月
経済産業省関東経済産業局
序文
2020 年に開催される東京オリンピック・パラリンピックには、大きなビジネスチャ
ンスが内在しており、地域活性化の起爆剤となることが期待されます。
50 年に一度のこの東京オリンピック・パラリンピック開催をビックビジネスチャン
スとして地域の皆様に活かして頂くため、関東経済産業局では、平成 25 年 12
月に「2020 年東京オリンピック・パラリンピック活用地域活性化戦略プラン検討会」
を設置し、オリンピック・パラリンピックを契機とした地域活性化プランの検討を開
始しました。
本検討会では、ものづくり、コンテンツ、医療、伝統文化・日本食、街づくりをテ
ーマとして、各分野から、ビジネスの最先端でご活躍をされている発想豊かなメン
バーにお集まりいただきました。地域活性化に役立つ様々なアイデアを頂き、企
業や自治体、そして何よりも各地域の皆さまが自らのチャンスなのだと思っていた
だけるような素晴らしいアイデアをまとめることができました。
東京オリンピック・パラリンピック開催のメリットは競技会場や選手村が設営され
る地域に限定されると思っている方もいるかもしれません。東京23区においても
意識に差があり、関東一都十県においては更にその差は大きいように思います。
しかしながら、この機会は本当に大きなチャンスであることを再度認識して頂き、こ
の「地域活性化のためのおもてなし戦略プラン」を一つの参考として頂きながら、
各地域において是非ともこの好機に地域活性化を加速して頂きたいと思っていま
す。皆様の今後の地域活性化に向けた取組が実を結びますことを祈念していま
す。
平成 26 年7月
関東経済産業局長 安藤 久佳
1
Ⅰ.地域活性化戦略プラン策定の背景など・・・・・・・・・・3
Ⅰ-1.地域活性化戦略プラン検討会の立ち上げ
Ⅰ-2.検討の内容
Ⅰ-3.テーマに関連した地域活性化戦略プラン
Ⅰ-4.地域活性化戦略プランのタイムフレーム
Ⅰ-5.地域活性化戦略プラン検討会のメンバー
Ⅰ-6.地域活性化戦略プラン検討会の開催状況
Ⅰ-7.地域活性化戦略プランの統一呼称
~地域活性化のためのおもてなし戦略プラン~
<参考>1964 年東京オリンピックが我が国にもたらしたもの
Ⅱ.2020 年に発信する日本の魅力とその発信を通じて地域活性化を
実現するための視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
Ⅱ-1.アニメ・マンガ等ポップカルチャー
Ⅱ-2.まちづくり、国土強靭化
Ⅱ-3.ものづくり、テクノロジー
Ⅱ-4.伝統文化、日本食
Ⅱ-5.超高齢先進国
Ⅲ.地域活性化のためのおもてなし戦略プランを実行するための視点
・・・・・・・・・・・・87
Ⅲ-1.既に地域にあるモノを再発見する
Ⅲ-2.今、地域にはないモノ・ヒト・コトを加える
Ⅲ-3.地域を超えて「骨太」にする
Ⅲ-4.地域活性化の方向性の明確化
Ⅲ-5.取り組みの時間軸と「日本」の発信の重要性について
Ⅳ.地域活性化のためのおもてなし戦略プラン・・・・・・103
Ⅳ-1.アニメ・ポップカルチャー分野
Ⅳ-2.まちづくり・国土強靭化分野
Ⅳ-3.ものづくり・テクノロジー分野
Ⅳ-4.伝統文化・日本食分野
Ⅳ-5.健康・医療・福祉分野
Ⅴ.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
2
Ⅰ.地域活性化戦略プランの策定の背景
Ⅰ-1.地域活性化戦略プラン検討会の立ち上げ
昨年 9 月 8 日に 2020 年のオリンピック・パラリンピック開催地が東京に決定し
たことを受けて、東京を中心として地域経済活性化についての期待が高まってい
る。この期待を現実のものとし、さらにはその波及を東京地域にとどまらず、関東
広域、さらには日本全体に広げていくことが重要である。オリンピック・パラリンピッ
ク開催という機会は、4 年に 1 度のスポーツの祭典であり、全世界がその場所に
注目をする重要な機会である。
1964 年に開催された東京オリンピックがスポーツの祭典以上の意味を有して
いたのと同様に、2020 年のこの機会を単なるスポーツの祭典に留めることなく、
90 年代以降の「失われた 20 年」「デフレ経済」「国内空洞化」などの停滞感から
脱却し、新たな成長過程に入っていく日本を「象徴化」して世界に発信するため
の機会とすることが望ましい。そして、その発信が各地で的確に行われ、世界の
人々がその発信に着目し、発信先である各地域に興味を持ち、ある人はその地
を訪問し、ある人はその地で産出された産物を購入するといった地域経済への波
及が期待される。
今後、そのような地域経済の活性化を実現するためには、これから開催までの
期間に、世界へ向けて「日本」及び「地域」を発信し、地域経済への関心を呼び
起こすための事前準備が各方面で多数行われることが必要になってくる。このた
め、関東経済産業局では、「東京オリンピック・パラリンピック活用地域活性化戦
略プラン検討会」を昨年 12 月に立ち上げることとした。
この地域活性化戦略プラン検討会は、東京都などから構成される東京オリンピ
ック・パラリンピック競技大会組織委員会と同様な検討を行うものではない。つまり、
競技関連施設の建設や選手村の誘致など、直接的にオリンピック・パラリンピック
開催に関わることを検討するのではなく、オリンピック・パラリンピックの開催によっ
て、世界の視線や関心が東京及び日本に集まる機会をうまく活用し、地域活性
化につなげていこうというプランである。直接的にスポーツに関連するプランという
よりも、地域活性化のために必要な取組を 2020 年という千載一遇の目標を設定
して、飛躍的に加速しようという「欲張りな」プランである。
3
Ⅰ-2.検討の内容
地域活性化戦略プラン検討会の立ち上げに当たっては、2020 年東京オリンピ
ック・パラリンピック開催時に世界に向けて発信することが望ましい「日本の魅力」
を改めて整理するところからはじめた。
2020 年に発信することを念頭に、①日本の代名詞になっているアニメ・漫画
等ポップカルチャー、②強靭さと魅力を兼ね備えた新たなまちづくり、③匠の国日
本が誇るものづくり技術と最新テクノロジー、④和食、伝統工芸品等の日本の伝
統文化と現代の日本食、⑤超高齢社会に向けての「解決策」の提示、の 5 つを
設定した。テーマを 5 つとしたのは、五輪を意識して発信することが有効と考えた
からである。
それぞれのテーマの重要性については、後に詳述する。
図Ⅰ-2-1:我が国の5つの魅力(五輪)
アニメ・
ポップカル
チャー
ものづくり
・
テクノロジー
国土強靱化
・
まちづくり
超高齢
先進国
伝統文化
・
日本食
4
Ⅰ-3.テーマに関連した地域活性化戦略プラン
テーマを設定しただけでは地域活性化につながるわけではないので、具体的な
プランが必要である。この検討会で提示するのは、あくまでモデルプランである。こ
こに提示されたものが直接地域で実現できるとは限らないし、実行するのが適当
でないものも多いだろう。
このモデルプランを見て、地域に眠っている資源の活用のヒントや新たなイベント
創出のヒントが生まれることを期待するものである。
この中の一部には、関東経済産業局で実行に移していきたいものも含まれてい
るが、関東経済産業局では実現できないもの、さらには経済産業省本省の業務
の範囲にとどまらないものも含まれている。先に述べたように、このプランは、2020
年の機会を活用して地域活性化に取り組みたいと考える自治体・産業支援機
関・民間事業者などすべての関係者の参考となることを期待するものであるため、
経済産業省の所掌にとどまらない幅広い内容となっていることをご理解頂きた
い。
<オリンピックが都市に与える経済効果>
○ 森記念財団が 2008 年~2013 年まで調査した「世界の都市総合力ランキング」によ
ると、調査開始時はニューヨークだったが、2012 年を機に、ロンドンが 1 位にな
った。これは紛れもなくオリンピック効果といえる。こういったデータを見ても、
オリンピックがもたらす効果は絶大なものであるといえる。
○ 東京の一極集中を加速させるだけだと批判するのではなく、東京が日本の集積地に
なっているということを自覚するべき。これ以上ない好機を活かすも殺すも私たち
次第。このオリンピックが東京、関東圏、さらに日本の将来の今後を左右するとい
っても過言ではない。
≪森ビル株式会社
5
取締役常務執行役員
河野
雄一郎≫
Ⅰ-4.地域活性化戦略プランのタイムフレーム
地域活性化戦略プランは、2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催に合
わせて実施するイベントだけを想定しているのではない。2020 年に集大成のイベ
ントを行うとしても、そのイベントを成功に導くための事前準備が必要であるし、その
ための事前イベントの開催も必要かもしれない。事前イベントは 2015 年度にも開
催することが必要かもしれない。この戦略プランは、来年度以降 2020 年までに行
うべき取組を視野に入れている。
この戦略プランは、2020 年のオリンピック開催時期に合わせたイベントと、その
イベントにつなげる形での中間時期(2~3 年後を想定)におけるイベントの開催を
盛り込んでいる。
図Ⅰ-4-1:地域活性化戦略プランのタイムフレーム
2013 年
2015~16 年
2017~19 年
東京オリン ピック
二〇二〇年
イベントの準備・
対外的なPR活動
後続イベン ト開催
先行イベン ト開催
検討開始
6
2020 年
Ⅰ-5.地域活性化戦略プラン検討会のメンバー
先に述べた「日本の魅力」に関連するテーマを議論するため、以下のメンバー
に参加をお願いした。
図Ⅰ-5-1:検討会メンバーリスト
岡田 基幸
浅間リサーチエクステンションセンター 専務理事
小野打 恵
株式会社ヒューマンメディア 代表取締役社長
河野 雄一郎
森ビル株式会社 取締役常務執行役員
鈴木 淳
台東デザイナーズビレッジ村長
浜野 慶一
株式会社浜野製作所 代表取締役
藤本 壮介
藤本壮介建築設計事務所 主宰/建築家
北條 規
株式会社ものづくり研究所 代表取締役
武藤 真祐
祐ホームクリニック 理事長/医療法人社団 鉄祐会
行正 り香
株式会社 REKIDS 代表取締役/料理研究家
安藤 久佳
関東経済産業局長(座長)
野口 聡
関東経済産業局 地域経済部長(副座長)
7
Ⅰ-6.地域活性化戦略プラン検討会の開催状況
以下のように、平成 25 年 12 月に第 1 回地域活性化戦略プラン検討会を開
催し、検討会の検討の方向性、2020 年に世界へ向けて発信する 5 つの「日本の
魅力」など事務局からの説明の後、各メンバーからのアイデアを発表頂き、意見
交換を行った。その中で、5 つのテーマを互いに関連させ、コラボレーションさせる
ことが重要であるとの指摘を受けて、全 3 回のコラボレーションシンポジウムを開催
した。
平成 26 年 6 月 25 日に、第 2 回目の地域活性化戦略プラン検討会において、
報告書(案)を議論した。
図Ⅰ-6-1:地域活性化戦略プラン検討会実施スケジュール
・平成 25 年 10 月
「地域活性化戦略プラン」検討開始
<検討会発足>
・平成 25 年 12 月 20 日
第1回地域活性化戦略プラン検討会
<関連シンポジウムの開催>
・平成 26 年 4 月 21 日
「超高齢社会における地域のケアサービスと食を通じた
地域活性化」シンポジウム開催
・平成 26 年 5 月 15 日
「地域活性化に資する我が国の魅力的な街づくりとその発信の
ためのコンテンツ活用」シンポジウム開催
・平成 26 年 6 月 3 日
「我が国のものづくり現場や伝統文化を核とした活気ある地域
コミュニティの創造と発信」シンポジウム開催
<中間とりまとめ>
・平成 26 年 6 月 25 日
第 2 回地域活性化戦略プラン検討会
8
Ⅰ-7.地域活性化戦略プランの統一呼称
地域活性化戦略プランを各地で実施する場合、その取組に対して統一呼称を
付けられないかという要望があった。各地の取組が同一の目的に沿って実行され
ていると周囲に認識される方が実施もしやすいし、メディアで取り上げられる確率
も上がるという理由である。
五輪のマークなどを直接使うことは「商標権の侵害」となることから、東京招致
の際にキーワードとなった「おもてなし」を念頭に、5 つのテーマのキャッチフレーズ
の頭文字をとって「地域活性化のためのおもてなし戦略プラン」を今後の統一呼
称とする。
図Ⅰ-7-1:統一呼称としての「地域活性化のためのおもてなし戦略プラン」
「おもてなし地域活性化戦略プラン」
5つのテーマ(五輪)で、『お・も・て・な・し』
(アニメ・ポップカルチャー分野)
お もいっきり、若い日本を楽しんでもらう!
(まちづくり・国土強靱化分野)
も っと日本の街を強く、魅力的に!
て
な
し
(ものづくり・テクノロジー分野)
クノロジー in Japan としての「匠」、「革新」を世界に発信!
(伝統文化・日本食分野)
がい歴史を持つ日本の伝統文化や日本食を世界に発信!
(健康・医療・福祉分野)
っかりと高齢者を支えるシステムを世界に発信!
9
<参考>
1964 年東京オリンピック大会が我が国にもたらしたもの
先に述べたように、50 年前に開催された東京オリンピックは、戦後復興を終え、
高度経済成長を実現していく我が国を象徴する画期的な機会であった。2020
年における我が国の姿や魅力の発信を考える上で有効な素材になると考えられ
ることから、1964 年東京オリンピック開催当時の我が国の状況について以下に触
れてみたい。
1. 経済成長
1964 年オリンピック開催が迫る中、名神高速道路の全線開通、東京モノレー
ルの開業、東海道新幹線の開業など大規模な交通インフラが次々と完成した。
国立競技場や武道館などの建設を含めて東京オリンピック開催に向けた公共投
資が行われ、62 年 11 月から 64 年 10 月までの経済成長はオリンピック景気と
呼ばれた。翌 65 年には一時的に不況があったものの、65 年 10 月からは、いざ
なぎ景気により向こう 57 ヶ月に渡って景気が拡大した。68 年には経済成長率
12.4%(GNPはアメリカに次ぐ世界第二位となる)を記録する。1964 年東京オリ
ンピックは、我が国の高度経済成長の象徴となるイベントであったといえる。
<東京オリンピック投じられた経費>
○
当時の総額で 9608 億円。内訳は、東海道新幹線の建設費
備費
1895 億円、高速を含む道路整備費
1752 億円。
図1:1960 年代の経済動向
10
3800 億円、地下鉄整
2.生活水準の向上
1964 年に我が国は OECD への加盟を果たし先進国に仲間入りしたことからも
分かるように、当時の日本国民の生活水準も大きく変化していた。1960 年代当
初までは戦争直後と比べればずいぶんマシになったという程度だったが、1970 年
頃には大幅に向上していた。
図2:生活水準の向上
家庭電気製品の世帯普及
上下水道の普及
出典:『TOKYO オリンピック物語』
野地
秩嘉
3.日本人デザイナーの世界的認知
日本人デザイナーが戦後初めて世界的に認められたのも東京オリンピックが契
機であった。それまで三流だと揶揄されていた日本人デザイナーの斬新なポスタ
ーに世界が注目した。
<陸上ポスターと大会シンボルマーク>
○ 亀倉雄策が制作した東京大会のポスターは街角のいたるところに貼られ、あのポ
スターほど、人々の印象に残っている作品は他にない。
○ 亀倉雄策はオリンピック大会のシンボルマークをはじめて作成。東京大会以降、
大会のシンボルマークは五輪マークと同じくらいの重みを持つに至った。
11
図3:1964 年東京オリンピックの時のポスター
作:亀倉
出典:公益財団法人
雄策
日本オリンピック委員会
「あの仕事で僕は世界中から賞をもらいました。フランスのデザイン評論家がスター
トダッシュのポスターを見て、日本にも優秀なデザイナーがいるんだなって言った。
それまでフランス人のグラフィックデザイナーは日本のデザインなんて見向きもしな
かった。カッサンドルの作品に比べれば三流だとバカにしていた。それがあれ以来、
がらっと変わった。」(亀倉
雄策
談)
出典:『TOKYO オリンピック物語』
<(参考)
亀倉
雄策(1915-1997)のプロフィール
野地
秩嘉
>
○ グラフィックデザイナー。東京オリンピックの公式ポスターの他、70年の大阪
万博、72年の札幌オリンピックでも公式ポスターを手がけ、
「国家プロジェクト
のデザインをするのは俺しかいない」と自負していた。他にも、NTTやグッド
デザイン賞のロゴマークも手がけ、ひとことで言えば、日本のデザイン界を背負
って立つ男だった。
出典:『TOKYO オリンピック物語』
野地
秩嘉
4.ピクトグラムの開発
現在は当たり前となっている「ピクトグラム」(絵文字;何らかの情報や注意など
を表す視覚記号(サイン))がはじめて標準化されたのも、東京オリンピック大会で
あった。当時の日本は、外国語表記の案内標識もなく、外国語によるコミュニケ
ーション力も十分ではない中で、オリンピック期間中外国人への案内をするための
絵文字標識として日本のデザイナーが開発した。このピクトグラムの効果もあって、
外国人が多数訪れた東京オリンピック大会会場は大混乱に陥ることはなかった。
12
図4:ピクトグラムの例
出典:公益財団法人
日本オリンピック委員会
「東京オリンピックで後世に残ったデザインがふたつある。僕がやったポスターと、
それからピクトグラムだ。だって、それまでは日本国中、どこへ行っても便所、手洗
い、厠と書いてあったんだよ。それがあのマークに変わったんだから、それは大した
仕事だ」(亀倉
雄策
談)
出典:『TOKYO オリンピック物語』
野地
秩嘉
5.チームワークの導入
東京オリンピックまでは個人を捨てて集団で何かやることが得意ではなかった
日本人が、国を挙げた大きな仕事をこなすためチームワークで取り組んだ。オリン
ピックのデザインやオンライン情報システムの開発、選手村での大量の料理など、
皆で力を合わせて「共同」で一つのことを成し遂げるため、作業をマニュアル化し
システムを確立させた。共同して物事に取り組む「日本システム」は、以降の品質
の高い工業製品の製造・輸出の拡大につながり、日本経済の発展に寄与したと
言われている。東京オリンピックは、その契機にもなっている。
13
<大会関係者達が作り上げたシステム>
○ グラフィックデザイナー達はオリンピックという大きな仕事を遂行するため、み
んなで力を合わせてデザインすることを経験し、デザインのシステムを作り上げ、
マニュアル化した。その経験は後に企業CIやイベント、テーマパークのデザイ
ンシステムに応用されている。
○ 料理人達は、選手村での共同作業を通じて大量の人間に食事を提供するシステム
を確立した。 全国のホテルやレストランでの宴会、結婚式が増えたのは東京オリ
ンピック後のことで、その際には選手村で学んだことが基礎となっている。
○ システムエンジニア達は、主にプレス向けに競技記録のオンラインリアルタイム
システムの構築を任された。そこで意識されたのは、
「特殊なプログラムを開発す
るのではなく、みんながわかるものを作ること」である。大会開催が迫る中、寄
せ集めの若い技術者達のみでシステムを構築しなければならなかった状況におい
て、誰にでもわかる仕様を意識してプログラムを作成していたことは、大きな助
けになった。その後、その汎用性のおかげで、オンラインシステムないしコンピ
ュータの役割が注目され、コンピュータの売り込みに結びついたともいえる。
「東京大会には優秀な人間が集まった。選手のことだけじゃない。デザイン、建築、
映画・・・・・・、日本中から才能が集まってチームワークで仕事をした。それまで
の日本人はチームワークが苦手でね。自分を殺して集団で何かをやるなんてことは得
意じゃなかった。それが変わった。共同作業ができるようになった。それに、遅刻も
しなくなった。東京オリンピック以前の日本人は江戸時代の八っつぁん熊さんみたい
なもので、時間にはルーズだし、会議には遅れてくるのが当たり前だった。日本人は
時間を守るとか団体行動に向いているというのは嘘だ。どちらも東京オリンピック以
降に確立したものだ。みんな、そのことを忘れている。」(亀倉
雄策
出典:『TOKYO オリンピック物語』
14
談)
野地
秩嘉
Ⅱ.2020 年に発信する日本の魅力とその発信を通じて地域活性化を
実現するための視点
Ⅱ-1.アニメ・マンガ等ポップカルチャー
Ⅱ-1-1
我が国の魅力としての「アニメ・マンガ等ポップカルチャー」
アニメ、ゲームやマンガなど、我が国のコンテンツ市場は約 12 兆円(2011 年)
に達し、関連市場全体を含めれば 50 兆円を超える一大市場である。近年では
海外へのコンテンツ権利販売が好調であり、その牽引役は販売額の3/4(約
300 億円)を占めるアニメとマンガである。
特に、2000 年頃からポケモンをはじめとした日本のアニメは海外で急速に知名
度を上げており、現在では、広く世界中の子供たちの間で親しまれていることから、
2020 年の機会に発信すべき重要なテーマである。
図Ⅱ-1-1:日本コンテンツの海外ライセンス売上(2012 年)
(資料)「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース 2013」((株)ヒューマンメディア)より作成
15
図Ⅱ-1-2:国内コンテンツ市場の流通メディア別割合(2007~2012 年)
(資料)(株)ヒューマンメディア作成
<アニメ・マンガの海外への経済効果・発信効果>
○
これまでの国内の関連市場は主に商品化市場だが、これからは、アニメのミュー
ジカルなど様々な形で利用が拡大。1兆3,720億円を超えるアニメ関連市場を、ど
のように地域活性化に生かしていくかがポイントとなってくる。
○
海外では、オンラインでの海賊版などが問題となっているが、逆に言えば、それ
だけ世界が日本のアニメ・マンガを認知しているということ。現在、例えば、世
界同時にオンライン配信をするという手法がある。その瞬間に世界単位でそのア
ニメを共有でき、非常にグローバルなビジネスといえる。
○
日本のコンテンツで海外展開しているものの経済効果は400億円。その中で、ア
ニメは200億円。マンガは100億円。要は、海外展開しているものの4分の3はアニ
メ・マンガといえる。海外の人に歌舞伎を説明できない日本人は恥ずかしいと言
われるが、海外の人に日本のアニメを説明できないことは同様に恥ずかしいこと
と思ってほしい。
≪株式会社ヒューマンメディア
16
代表取締役社長
小野打
恵≫
Ⅱ-1-2 「アニメ・マンガ等ポップカルチャー」の発信を通じて地
域活性化を実現するための視点
以上のように、アニメ・マンガは、国内外の若者に対して大いなる誘客効果があ
り地域活性化に有効であると考えられるが、アニメ・マンガに親しみがない世代に
とってはその活用の仕方が分かりにくいこと、逆に、ブームになっている「ゆるきゃら」
については飽和状態にあるため他と差別化して効果を出すためにはかなりの工夫
が必要となる。
このため、地域活性化の実現のためには、アニメの地域活性化効果の実態を
よく理解するとともに、成功事例の研究などノウハウの蓄積が必要となる。以下に、
アニメの地域活性化効果及び成功事例について記述するとともに、ゆるキャラに
関する成功事例として「くまモン」の事例を記述する。
1-2-1
地域活性化におけるアニメの優位性・重要性
アニメは、NHK 大河ドラマ・朝ドラマ・映画のように全国規模でないものの、費用
対効果の面では地域活性化の効果が大きい。
ファンが認識するアニメの「聖地巡礼」スポットは全都道府県に 3,000 箇所以
上存在し、その観光効果は 500 億円以上とも試算されている。
<アニメ・漫画の地域活性化効果>
○
まず言いたいのは、日本全国全ての自治体に、アニメ・マンガを活用した地域活
性化をやって欲しいということ。皆さんは、なかなか、アニメ・マンガが地域活
性化に有効だとは考えない。コンテンツを活用して地域活性化というと、まずみ
なさん考えるのが、テレビや映画ではないかと思う。
○
フィルムコミッション活動、映画やTVロケを誘致してご当地作品を作っていくと
いう活動がある。最近のTV番組の大きな成功事例として、
「龍馬伝」があげられる
だろう。その経済効果は、高知県内で409億円。NHKの大河については、放送され
る度に、地元の金融機関がその波及効果を試算し、それなりの効果は出ている。
ただし、おそらく観光客の多くは日本人。
○
映画で言えば、埼玉県が舞台となった、「のぼうの城」。埼玉県への経済波及効果
は38億円。成功例といってよいだろう。そして、最近の最も顕著な例でいえば、
岩手県の「あまちゃん」。経済効果は33億円。「あまちゃん」の成功例は記憶に新
17
しいが、あくまで瞬間的な経済波及効果といえる。残念ながら、来年には効果が
なくなっているのではないか。もちろん、朝の連ドラでやれば経済波及効果はあ
るが、全国47都道府県1,741自治体全てをやるには10年間でも、賄いきれない。つ
まり、中央のキー局に頼るやり方には限界があるということ。
○
アニメ・マンガの効果に注目してもらいたい。例えば、岐阜県を舞台にしたアニ
メ「氷菓」を知っている人は少ないと思う。なぜなら、これは地方独立局などで
のみ放送されたものだから。しかし、岐阜県への経済効果は21億円。地元の局な
どからの放送にかかわらず、その経済効果はかなり大きい。これがアニメ・マン
ガの効果である。
≪株式会社ヒューマンメディア
代表取締役社長
小野打
恵≫
図Ⅱ-1-3:ローカル局中心の放送ながら高い経済効果を生み出したアニメ
「氷菓」
 ぎふチャンほか、元・独立 U 局系等 10 局で放送
 岐阜県経済への 年間効果 21 億円
 高山市内への聖地巡礼の観光客 15 万人
(資料)小野打恵氏講演資「2020 年、オリンピック・パラリンピック開催時最も効果的な地域活性化施策とは?」
(2014.5.15)より作成
○
マンガの例として、鳥取県の水木しげるロードを紹介したい。ゲゲゲの鬼太郎の
経済波及効果は大きく、1993年に2万人だった観光客数が2010年には過去最大370
万人を突破し、観光消費だけでも推計200億円以上。その経済効果は毎年継続的に
続いている。テレビの連ドラだけでは、この効果を全国にもたらすのに10年間で
もまわりきらない。
18
○
今、アニメの聖地巡礼というのが流行っている。ある方が数えた報告によれば、
その数は全国に3,000以上。過去からのテレビアニメ作品は約5,000作品。新作ア
ニメは年間約150作。資源は無限。また、ファンが作ったものに、全国どんなアニ
メあるかマップがある。アニメ等の「聖地巡礼」観光効果は、2年前に100億円以
上といわれ、現在は500億円以上といわれる。
○
アニメの制作原価は約500億円だが、それが映像のみのアニメ市場により2,690億
円になり、単行本、おもちゃやフィギアなど全て含めれば、アニメ関連市場は1
兆3,720億円となる。費用対効果が高い。
≪株式会社ヒューマンメディア
代表取締役社長
小野打
図Ⅱ-1-4:アニメの舞台・聖地
(資料)WEB サイト「あにたび」より引用
19
恵≫
1-2-2
アニメを活用した地域活性化の具体事例
アニメによる地域活性化は、自治体など地域活性化担当者が知らない間にア
ニメがヒットして、そこを聖地としてファンが訪れるという「意図しない地域活性化」
がほとんどである。しかしながら、「らき☆すた」と鷲宮市のように神輿の制作など
地元商工会が積極的に関与して成功した事例、「あの花」と地元鉄道会社のよう
に、初期段階からタイアップして観光振興で効果を上げている事例が存在する。
さらに、異なるアニメを交流させてシナジー効果をねらう広域連携も企画され、効
果が出始めている事例もある。
<アニメを活用した地域活性化の具体例>
○
アニメでの町おこし効果の具体例を挙げると、埼玉県久喜市鷲宮「らき☆すた」。
2007年頃から聖地巡礼効果が出始めた。地元商工会が「らき☆すた」を積極的に
利用し、「らき☆すた神輿」まで作った効果もあり、鷲宮神社の初詣客は10万人
前後から、2009年以降40万人に急増。
図Ⅱ-1-5:埼玉県久喜市鷲宮「らき☆すた」
久喜市商工会鷲宮支所HPより
20
○
埼玉県秩父市の「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」は、2011年テレ
ビ放送時から地元西武鉄道・秩父鉄道が観光タイアップに全面協力。地域でアニ
メを受け入れていく体制があった。
≪株式会社ヒューマンメディア
代表取締役社長
小野打
恵≫
図Ⅱ-1-6:アニメ「あの花」と連携した地元商店街、
沿線鉄道会社等の取組
(資料左)小野打恵氏講演資「2020 年、オリンピック・パラリンピック開催時最も効果的な地域活性化施策とは?」
(2014.5.15)より抜粋
(資料右)秩父鉄道 WEB サイトより
このように、アニメの潜在可能性に対する理解を深めて、地域アニメの掘りお
越しや、初期段階からの協力体制の構築など積極的な取組が重要である。
21
<アニメの広域連携について>
○
地域おこしを目指した、広域連携型の地方でのイベントが増えている。埼玉県の
「アニ玉祭」、「京まふ」(京都国際マンガ・アニメフェア)、「がたフェス」(にい
がたアニメ・マンガフェスティバル)、
「きたまえ」
(札幌☆マンガ・アニメフェス
ティバル)などがある。
≪株式会社ヒューマンメディア
代表取締役社長
小野打
恵≫
図Ⅱ-1-7:アニ玉祭(アニメ・マンガまつり in 埼玉)
 「らき☆すた」久喜市鷲宮、「あの花・」秩父、「神様はじめました」川
越、「ヤマノススメ」飯能など作品・地域が集積する埼玉で県が事業化
 県単位の広域で複数作品・地域を結び、アニメの地域振興を県として
ブランド化。広域連携の継続化がポイント
 2013 年 10 月 2 日間開催、6 万人集客、1.5 億円の経済効果。2014
年も開催
(資料)小野打恵氏講演資「2020 年、オリンピック・パラリンピック開催時最も効果的な地域活性化施策とは?」
(2014.5.15)より関東経済産業局作成
<マンガ王国友好通商条約>
○
高知県は、故やなせたかしさんを筆頭にマンガ大国。アンパンマンミュージアム、
横山隆一記念館などあり、まんが王国土佐推進協議会を設立した。そのテーマは、
「感動・自由・反骨」。また、水木しげるで有名な鳥取県も、マンガ王国を自称し
た。世の中にマンガ王国が二つできてしまう形となってしまったが、両県はマン
ガ王国友好通商条約を締結して、広域連携を図っている。既存のアニメ、漫画を
活用することが大事。
≪株式会社ヒューマンメディア
代表取締役社長
小野打
恵≫
図Ⅱ-1-8:鳥取県境港市「水木しげるロード」
(資料左)小野打恵氏講演資「2020 年、オリンピック・パラリンピック開催時最も効果的な地域活性化施策とは?」
(2014.5.15)
より抜粋
22
図Ⅱ-1-9:鳥取県・高知県「まんが王国友好通商条約」
高知県庁HPより
<虎ノ門ヒルズの公式キャラクター「トラのもん」>
○
森ビルが開発し、2014年6月11日にオープンした虎ノ門ヒルズの公式キャラクタ
ーは、
「ドラえもん」の著作権を管理する藤子プロが監修・許諾を行った「トラの
もん」。
図Ⅱ-1-10:虎ノ門ヒルズ「トラのもん」
(資料)森ビル(株)ニュースリリース資料より抜粋
23
1-2-3
地域活性化における「ゆるキャラ」の重要性
「くまもん」、「ふなっしー」等の成功事例を受けて、各地で「ゆるキャラ」ブームと
なっている。子供だけでなく大人にも愛されるゆるきゃらの存在は、地域の象徴・
アイコンとして有効と考えられる。しかしながら、各地でたくさんのゆるキャラが生ま
れており、総てのゆるキャラが同様の効果を出しているとはいえず、効果を上げる
ためのプロモーション手法等を検討するため、成功事例に学ぶことが必要である。
<熊本県「くまモン」の経済効果>
○ 2014 年 1 月時点で、ライセンス数 15,400 件、関連商品の売上は約 449 億円。
<「くまモン」誕生の経緯>
○ 小山さんへの依頼は、新幹線開通に向けてロゴマークとキャッチフレーズを考え
てくれという依頼だったが、熊本PRのために必要なことを考えていくうちに、
キャラクターも作ろうという話になった。そして、新幹線開通1年前、2010年3月
にキャッチフレーズ「くまもとサプライズ」とともに「くまモン」が誕生した。
○ 2010年8月に大阪に行ったとき、くまもと、くまもとと強烈にアピールするので
はなく、ただ黒い物体(くまモン)を脇に立たせておいた。予算もさほど無かっ
たので、SNSやネットなどを活用して、地道にPRしていた。とにかく、徹底
して大阪でPRした。2011年1月にはくまもとサプライズ特命大使に就任して、一
層PRを強化した。2011年3月12日に無事、新幹線の開通を迎えたわけだが、東
日本大震災がその前日に発生していた影響で多くのイベントが中止された。それ
に伴い、くまモンの活動も一旦休止し、これでくまモンも終わりかなと思った。
○ しかし、あきらめてはいけないと思い、秋頃からチラシや名刺などを作成し、い
ろいろな所で配った。2011年9月末には、くまモンを熊本県
営業部長に抜擢し、
熊本の売り込みが本格化。もっとも、初めは関西中心に広報活動をしていた。
≪前
24
熊本県東京事務所
所長
佐伯
和典≫
図Ⅱ-1-11:地域キャラ全国化の成功例「くまモン」
(資料)佐伯和典氏講演資料「「くまモン」に学ぶ」(2014.5.15)より抜粋
<「くまモン」大ブレイク>
○
ブレイクした一番の要因は、第2回
ゆるキャラグランプリ(2011年11月)でグ
ランプリを獲得したこと。それからくまモン関係の売り上げがどんどん伸びた。
くまモンを活用した熊本県PRはおおきな経済効果があったと思う。2012年2月
には、ウォールストリートジャーナルに掲載された。自分たちの意図しないとこ
ろで、海外にも進出し始めた。2013年には、フランス
ジャパンエキスポに登場
した。そうやってくまモンはいろいろなメディアに取り上げられることとなり、
天皇陛下ともご対面させていただいた。
≪前
熊本県東京事務所
所長
佐伯
和典≫
<「くまモン」成功の秘訣>
○
くまモンが成功したのは、
「無償で自発的な参加」を基本としたからだと思う。く
まモンは利用するにあたって、ロイヤルティーはとらない。所有者は誰もいない
ということ。みなさん各自で管理していただいて、国籍や年齢にとらわれず、自
由に使っていただきたいと考えている。事業者の方は無償で共有されて利益を得
る。県民は癒しをもらう。そうやってウィンウィンの関係ができあがっていると
思う。
25
○
また、知事がくまモンを作ったといっても過言ではないと思う。本来行政に、く
まモンのようなコンテンツを使って民間を応援しようなんて発想はない。まして、
県外企業にまでその支援を広げるなんて発想はない。そのような状況の中で、知
事はくまモンを使ったPR活動を全力で推し進めた。我々は、マクロな視点で活
動をしていた。マクロな意味で熊本を感じて頂ければと思っていた。
○
ミクロな視点、つまりどこの地域ではよく売れていて、どこの地域では周知が進
んでいないなどはとりあえず置いておいて、まずは詳しいことはいいから「熊本
県」という名前だけ、
「くまモン」っていう何かわけのわからないキャラクターが
いるということを知ってもらうことに努めた。
○
具体的な活動としては、例えば、熊本が作った九州全体のパンフレットというも
のがある。こんなことは今までにはない。九州全部のことを平等に載せて、かつ
それを熊本県が単独で作るのは、まさにマクロの視点である。
≪前
熊本県東京事務所
所長
佐伯
図Ⅱ-1-12:地域キャラ全国化の成功例「くまモン」
(資料)佐伯和典氏講演資料「「くまモン」に学ぶ」(2014.5.15)より抜粋
26
和典≫
Ⅱ-1-3 「アニメ・マンガ等ポップカルチャーの発信」を通じた地
域活性化のための課題
1-3-1
集客型イベント会場の不足可能性
2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、首都圏の集客型イベ
ント会場が 2016 年あたりから改修に入る会場が多く(音楽業界ではこれを「2016
年問題」と呼んでいる)、ここで取り上げたようなアニメを活用した地域活性化プロ
ジェクトを実施していく上で、会場が確保できないという大きな問題に直面する可
能性がある。
逆に言えば、都心部以外の周辺地域施設の活用に加え、各種イベントを公道
上で実施する際の使用許可や公的施設の使用許可のワンストップ化、手続の大
幅な簡素化等によりクリアしていける可能性が大きい。
図Ⅱ-1-13:改修等により利用出来なくなる施設
施設名称
収容能力、面積等
改修等の時期
1
日本武道館
1.2 万人
2016 から改修
2
代々木体育館
1.3 万人
2016 から改修
3
渋谷公会堂
0.2 万人
2015 以降予定あり
4
SHIBUYA-AX
0.17 万人
2014 閉鎖
5
横浜アリーナ
1.7 万人
2016 改修(1~7 月)
6
さいたまスーパーアリーナ
3.6 万人
2016 改修(2~5 月)
7
東京都産業貿易センター
展示場面積 5,725 ㎡
2016 閉鎖
8
東京ビッグサイト
総展示面積 80,000 ㎡
2019 閉鎖可能性
(資料)(株)ヒューマンメディア調べ
27
Ⅱ-2.まちづくり、国土強靭化
Ⅱ-2-1
日本の魅力としての「まちづくり・国土強靭化」
京都・奈良に代表される我が国の歴史を反映する街並みを含めて、世界的な
観光都市の例をみると、仏・パリといえばエッフェル塔。英・ロンドンといえばビッグ
ベン。米・ニューヨークといえば自由の女神。豪・シドニーといえばオペラハウス。
最近の例でいえば、シンガポールのマリーナベイサンズ(昔はマーライオン)。UAE
のブルジェ・ハリファのように、それぞれの都市には、その地を象徴する建築物が
存在する。世界の人々をその地に引き寄せるような魅力的なまちづくりをすること
は、街の文化的、芸術的な価値や街の中長期的な発展ビジョンの存在を示すも
のであり、2020年に発信すべき重要なテーマと考えられる。
図Ⅱ-2-1:世界の印象的な建築物
シンガーポール
UAE
「マリーナベイサウンズ」
「ブルジェ・ハリファ」
シンガポールは、「世界のセレブを集める」
という長期構想の下、都市開発を実施。
UAEは、将来的に石油が枯渇した後の「観
光産業」振興を目指して、都市開発を実施。
出典:菊川工業様 シンポジウム講演資料より抜粋
また、我が国は 2011 年 3 月 11 日に東日本大震災という未曽有の危機に直
面し、自然災害の怖さとそれに対する備えの重要性に改めて気づかされた。世界
的に大きな関心を呼んだこの災害の教訓を踏まえて、いかに強靭な国土・街づく
りをしていくかは、我が国として 2020 年の機会に発信すべき重要なテーマであ
る。
28
Ⅱ-2-2 「まちづくり・国土強靭化」の発信を通じて地域活性化を
実現するための視点
バブル崩壊後、いわゆる「失われた 20 年」と呼ばれるようになってから、東京の
街づくり(建築物)は、コストパフォーマンスや機能的価値に重点が置かれ、文化
性・芸術性の観点では、魅力に欠けた都市となっているとの見方がある。文化的
芸術的な価値を有する象徴的な建築物や街空間は、訪れる人に感動を与える
ものであることから、特色ある地域としてブランド化し観光客を呼び込むための一
つの重要な要素である。また、国土強靭化の対策が十分にとれた地域は、安全
安心を住民に与えるモデル地域になることから、他地域の人々を呼び寄せる要
因になり得る視点である。
以下では、まちづくり・国土強靭化をテーマとして地域活性化を目指すための
具体的な視点について記述する。
2-2-1
人々の記憶に残る「象徴」的建造物の重要性
先に述べたように、今回の東京オリンピック・パラリンピック開催の機会に我が国
の魅力を発信するためには、「象徴・シンボル」を創出することが有効と考えられる。
万国博覧会における「太陽の塔」が後世まで語り継がれるようなモニュメントであ
ったことを踏まえれば、今回の東京オリンピック・パラリンピックに関連して、2020
年以降の我が国の進む方向を強く印象づけるモニュメントを建設し、発信すること
は有意義と考えられる。
図Ⅱ-2-2:「太陽の塔」と新「国立競技場」のイメージ
出典:独立行政法人日本万博
出典:独立行政法人日本スポーツ振興センターHP
博覧会記念機構 HP
29
<大阪国際博覧会「太陽の塔」>
○ 1964 年東京オリンピックの国立屋内総合競技場を設計し国際オリンピック委員
会から特別功労者として表彰された丹下健三は、大阪万博の総合プロデューサも
務め、中心施設である「お祭り広場」の設計を担当。モニュメントの設計を担当
した岡本太郎が提示した「広場の天井をぶち抜く」太陽の塔を受け入れて実現に
いたったエピソードは有名。
地域においては、モニュメントという形ではなく、個々の建築物の建設に当たり
機能性のみを追求するだけでなく、発信したいメッセージを外観にデザインする等
の取組が行われている。これは、訪問する人々の注意をひきつける観点から有効
と考えられる。
図Ⅱ-2-3:地域の印象的な建築物の例
桐生市民文化ホール
ねぶたの家
設計:坂倉建築研究所
設計:共同企業体
ワ・ラッセ
繭玉をイメージしたデザインの屋根
出典:菊川工業様 シンポジウム講演資料より抜粋
東北の居酒屋ののれんをく
ぐるイメージ
30
2-2-2
既存の街空間のデザイン・装飾の重要性
前述の象徴的なモニュメントは地域のシンボルとなり、メッセージ性が高いもの
の、建築に際して多大なコストがかかる可能性がある。コストの維持可能性を勘案
すると、既存の街空間に新しいデザインを加えて、印象的な空間を作り出すことが
費用対効果の観点からも有用である。その際に、追加する新しいデザインや装飾
は、単に人目を引く奇抜なものでなく、地域の文化や生活とうまく融合し、新たな
調和が生まれるようなものであることが重要である。新たな景観がその地に定着し、
その地域の人々や他地域からの訪問客に対して安らぎを与えられるような街空
間を創出することが重要である。
新たな装飾の一例として、表参道やマッカーサー道路に我が国の「和」のイメ
ージを発信する竹林の道を整備することや、東京近辺の複数の街を共通のテー
マでデザインし、ネットワーク化することで、東京の街全体として一つのメッセージを
発信することが考えられる。
図Ⅱ-2-4:竹林を活用した印象的な風景のイメージ
出典:藤本壮介氏 検討会講演資料より抜粋
31
<オーストリアのバス停のデザインの例>
○ オーストリアでは、街のいくつかのバス停を複数の若手建築家に個々人デザイン
させたという例がある。それぞれのバス停は、デザイナーの個性を反映した異な
る印象を与えるが、全体としてメッセージ性のある印象に残る風景となっている。
≪藤本壮介建築設計事務所
主宰
藤本
壮介≫
図Ⅱ-2-5:オーストリアのバス停のデザイン例
出典:藤本壮介氏 検討会講演資料より抜粋
32
2-2-3
街づくりを支える技術の発信の重要性
観光客などの目に直接触れる外観のデザインに加えて、目には触れないけれ
どもその街や建造物を支えている最先端技術を紹介することは、海外の識者に
対する広報としては有効である。我が国の建築物に隠された環境技術等を分か
りやすく効果的に発信することは、観光客に感動を与えるだけでなく、当該技術の
提供者にとってもモチベーション向上につながるものである。
<事例
六本木ヒルズの環境技術>
○ 地球温暖化への対策が迫られている昨今、都市部において、ヒートアイランド現
象の緩和は重要な課題。
○ 六本木再開発エリアは、周辺の高級住宅街である麻布地域より、地表面温度が低
くなっている。これは、屋上緑化や、建物を垂直方向にのばすことによって生ま
れた空間を庭園、広場、散策路などとして活用していることなど、積極的に緑化
活動に取り組んでいるから(六本木ヒルズの敷地の約 25%が緑で覆われている)。
○ また、六本木ヒルズでは、都市ガスを利用し、ガスタービンによる発電を行うこ
とで、発電時に発生する排熱を利用し、地区内の冷暖房供給を行っている。これ
により約 20%の一次エネルギーの削減を実現し、CO2 の排出量約 27%削減、NOX
の排出量約 45%削減を実現している。
≪森ビル株式会社
取締役常務執行役員
河野
雄一郎≫
図Ⅱ-2-6:六本木エリアにおけるヒートアイランド現象の緩和
50
26
再開発によって緑化された空間は、周辺の住宅街よりも、
地表面温度が低くなっている。
(2007 年 8 月撮影
スカイマップ)
出典:森ビル様 シンポジウム講演資料より抜粋
33
2-2-4
街の強靭さの発信の重要性
3 年前の東日本大震災を契機に、各地域において、より一層、防災への取組
を強化している。震災を想定した「国土強靭化」は、国家の最重要課題のひとつ
である。
昨年 12 月に国土強靭化法が成立し、本年 6 月に国土強靭化計画が閣議決
定されたことを受けて、今後は、自治体ごとに国土強靭化地域計画の策定に取り
組むことになる。つまり、内陸の街や海岸沿いに立地する街など、災害のあり方は
地域によって変わることから、地域の特性を踏まえ、ソフト・ハードを組み合わせた
きめ細かい地域計画が策定され、さらに当該計画に沿って地域において強靭な
街づくりが進められる。その際に、例えば、六本木ヒルズのように街レベルで「逃げ
込める街」を構築するなど、特色のある世界に誇れる強靭な街作りをすることは、
2020 年に「国土強靭化」を我が国の魅力として世界に発信するために重要な要
素と考えられる。
災害時の避難先を考える際に、専用の避難場所や施設を作るよりも、普段は
日常的な利用をしている場所が緊急時の避難場所に転用できるようなまちづくり
が有効である。例えば、民間施設を含め日本の高度な耐震技術を導入し、「逃げ
出す」のではなく「逃げ込む」ことを前提とした建築を促進させる。また、公園等の
公共空間でも日常利用されている施設が有事に災害対応施設に転用できるよう
にする。このような街づくりをするためには、官民が協調し、学校や公園などの公
共空間の活用が重要であり、その活用を規定している自治体条例等の柔軟な運
用が望まれる。
図Ⅱ-2-7:六本木ヒルズ森タワーの制振装置
出典:森ビル様 シンポジウム講演資料より抜粋
34
<事例
六本木ヒルズの耐震技術>
○ 六本木ヒルズ森タワーには最新の制振装置を導入している。制振装置は揺れの大
きさを低減し、揺れを早く収束する効果がある。2003年竣工の六本木ヒルズ森タ
ワーは、その制震装置が取り入れられている。
○ 制振装置の効果だが、2011 年の大震災の時には、六本木ヒルズの最上階では片側
35cm揺れた。往復で、70cm揺れたことになる。ほぼ同じ高さの東京都庁は、
90 年竣工なので制振装置なし。最上部で片側 65cm揺れ、往復では 130cm揺れ
たことになる。それは間違いなく人は立っていられない。超高層が一概に危険な
のではなく、日本の持っている技術をもってすれば、巨大地震にも対応可能であ
る。都庁はその後制振装置を導入した。
○ 六本木は24時間自家発電の街。東京電力の電気ではなく、東京ガスの都市ガスを
燃料としている。このため当時の計画停電の影響を全く受けず、売電を貸したぐ
らいである。エネルギー、電気については、非常に強靭さを発揮できた。万一ガ
スが切れた場合でも、東京電力と24時間連携をとっているので常時通電している。
さらに、その電気が切れた場合でも、六本木ヒルズでは灯油を貯蔵しているので、
少なくとも3日は電気が切れない。このような環境もあり、ヒルズはIT系、金
融系の企業が多く集まっている。金融系の企業は、1秒電気が切れると億単位の損
失が出ると言われている。
○ ヒルズでは避難訓練を実施したことがない。なぜなら、建物の中にいた方が安全
だから。逃げ出す街から、逃げ込む街へ。我々は「逃げ込む街」作りを目指して
いきたい。
≪森ビル株式会社
35
取締役常務執行役員
河野
雄一郎≫
Ⅱ-3.ものづくり、テクノロジー
Ⅱ-3-1
我が国の魅力としての「ものづくり」
我が国の中小企業が長年培ってきたものづくりの基盤となる技術力は、一部の
ニッチな分野では世界のトップシェアを維持する中小企業もあれば、また世界の
大企業の生産に不可欠な部素材を唯一提供することができる高い技術力を維
持する中小企業も存在する。溶接・板金加工技術を例にあげると、大量生産品
や規格品はロボット溶接によって多くが生産されているが、半導体や自動車関連、
医療関連製品向けの複雑な形状の部品は、熟練工による手作業による加工を
欠かすことはできない。
このような中小企業の技術や、我が国の工業製品が世界から獲得している「信
頼感」は、「メイド・イン・ジャパン」ブランドとして確立されている。この「メイド・イン・ジ
ャパン」ブランドは、ものづくり国家としての日本の誇りであると同時に海外から見た
魅力であることから、2020 年の機会に発信すべき重要なテーマと考えられる。
Ⅱ-3-2
の視点
「ものづくり」の発信を通じて地域活性化を実現するため
2008 年のリーマンショック後の一層の円高で、製造業のグローバル化の動きは
加速され、国内のものづくり大企業の系列・傘下にあった中小企業、零細企業の
生産活動が大きな打撃を受け、東京都大田区に見られるようにものづくりの現場
を支える中小企業の事業所数が著しく減少する事態となっている。
このような中で、一部の地域では新たな展開を目指す動きがある。一つ目は、
ものづくり現場を開放し消費者に知ってもらいものづくりに対する理解を高める動き、
二つ目は、ものづくりに付加価値を与えるクリエイターを育成する動き、三つ目は、
そのクリエイターとものづくりの現場をつなげる動きである。以下に具体的に述べ
る。
36
図Ⅱ-3-1:全国の製造業(従業員数 10 名以上)の事業所数等の推移
(資料)経済産業省平成 24 年経済センサス「製造業編
概要」(2014.2.26)より抜粋
<墨田区の浜野製作所の取組>
○ 墨田区は東西が5㎞、南北が6㎞。台東区と同様に1時間半くらいで区内を歩ける
狭い地区。町工場といえば大田区が有名だが、墨田区も 23 区内で工業数は2番目
に多く、面積当たりの工場数は最大。工場の密集度が最も高い区である。最盛期は
9,700~9,800 の工場数だったが、現在は 1/3 以下の 3,100 件に減ってしまった。
更に特徴的なのは区には工業専用地域として都市計画上の用途指定を受けた地域
がなく、ほとんどの町工場が準工業地域に住宅と混在して立地していること。
○ 従って町工場の規模は非常に小さく、3,100 件のうち 8 割が従業員数5人以下。父
親が社長、息子が専務か工場長、母親が経理担当、1人か2人の職人が従業員とい
うのが典型的なイメージ。
○ 浜野製作所の主要業務は、精密板金加工で半導体製造装置や医療機器向け等の部品
を製造。最終製品は少ない。14 年前は家族経営で3~5アイテムを大量生産する
4次から5次下請企業だった。発注先の製品がモデルチェンジされるとアイテム全
ての発注がなくなってしまうこともあった。
○ 国内産業空洞化やサプライチェーンの変化、さらには輸送コスト低減のため、国内
下請製造業の市場がどんどん縮小していった。これを受け、これまでの大量生産部
品の受注から、カメラや医療機器向けの微細加工による多品種少量部品の生産、設
計から試作開発の受注へと業務転換していった。
○ しかし最近は、試作開発すらも海外の生産現場で対応するようになった。そこで目
をつけたのが外部との連携事業。
≪株式会社浜野製作所
37
代表取締役
浜野
慶一≫
<三条市の取組>
○ 三条市には金属加工業を中心とした産業集積が存在。その 93%が伝統的な鍛冶技
術をベースに鍛造機やプレス機を駆使しながら機械部品を製造。残り7%が伝統的
な鍛冶技法で伝統産業品として刃物等を製造。市にとっては両方とも大事な産業。
特に産業のベースとなっている伝統的な鍛冶技術の火を絶やさないことが長年の
課題であった。
○ 地元民ではなく外から三条市を見ていると、ものづくりこそ三条地区のアイデンテ
ィティなのにもかかわらず、街にものづくりの匂いが感じられなかった。ちょうど
藻谷浩介氏が、「地方の里山には資本主義的な価格という価値に換算できない資源
が眠っている」と「里山資本主義」を提唱されており、三条地区も価格という価値
で戦ってはいけない、と考えた。三条地区で生み出せる価値は、無機質な大量生産
品ではなく、地域における有機的なつながりやものづくりの匂いを感じることので
きるもの。この価値を生み出すための取組を目指すようになった。
≪新潟県三条市
3-2-1
市長
國定
勇人≫
ものづくり現場のオープン化
近年アジア諸国に製造拠点が移転する中、職人の賃金が高い日本では高度
な製造技術を求められなくなり、発注者から安く買いたたかれ、モチベーションを
維持できない下請けメーカーが増加している。
このような中、地域のものづくりの現場を開放して、消費者に日本のものづくりの
実態及び魅力を感じてもらい、当該製品に対する理解を深め、購買意欲を高め
るとともに、消費者からの反応を作り手側である職人のモチベーション向上につな
げる取組が行われている。
<「燕三条
工場の祭典」>
○ 「燕三条
工場の祭典」は、職人の魅力や価値、匂いを感じてもらうための工場見
学を中心としたイベント。それ以前のイベントは、テントを張って商品を説明・販
売するというもので、対象は県内客や一般の方であった。三木市や関市の金物祭り
のにぎわいとは歴然とした差があり負けていたことから、価格という価値観を越え
た燕三条地区のディープなファンを創るべく、地域的な制約を乗り越えた首都圏の
方や海外の方をターゲットとした。さらに、県外の新幹線を使ってくる方にとって
なじみのあるのは三条ではなく、燕三条駅であると考え、イベント名も「燕三条
場の祭典」とした。
38
工
○ 日本全国や世界から集客するため、燕三条地域全体の工場を開放、予約無しで自由
に工場を訪問できるようにした。イベント全体の予算額は 950 万でそれほどお金は
かけていないが、工場の魅力の見せ方についてはトップクリエイターの株式会社メ
ソッドの山田遊氏に徹底的にコンサルティングしていただいた。費用をかけずに済
む発信効果が高い手段を考えた結果、イベントの共通イメージカラーをピンクとし、
参加する全ての工場・工房の扉にピンクのテープを貼り、視覚的に開放している工
場を見えやすくした。また、SNS を活用し、興味・関心の高そうな方に効果的に PR
を行った。
○ イベントの結果・効果として来場者数は 10,708 人にのぼり、うち4割が県外・海
外から。こちらから取材依頼を行っていないにもかかわらず JAPAN TIMES が記事に
採用されたり、オランダ大使館の来場、外国人のための包丁づくり体験講座には定
員を超える応募があったなど海外の関心も高かった。翌年4月にはミラノで開催さ
れる世界最大規模のデザインの祭典「ミラノサローネ」にも招待受けた。全体的な
経済的な効果は約3億円。
≪新潟県三条市
市長
國定
勇人≫
図Ⅱ-3-2:工場見学や体験型ワークショップ、イベントロゴの共通化
(資料)国定勇人氏講演資料「ものづくり・伝統文化を活用した三条地区の活性化について」(2014.6.3)より抜粋
<地域発信イベント「モノマチ」>
○ カチクラ地域のものづくりの魅力発信や、商品の作り手を知ってもらい、下請けか
ら製造小売への転換を目指すイベントの企画を平成 23 年1月に開始。その後の震
災のイベント自粛ムードも乗り越え、平成 23 年5月にものづくり系企業 16 社、ク
リエイター87 人が参加した第1回「モノマチ」を開催。予算は無かったが、普段
見せることのない地域の工場や職人の作業場を一般市民に開放し、ものづくりの現
場をアピールした。普段は老人しか通らないと言われる地元の佐竹商店街に 30 年
ぶりの賑わいが復活した。
○ イベント内容は、工房での体験型ワークショップや普段は小売りをしない工房での
製品販売など。自分達のものづくりの仕事で多くの人が楽しんだり、商品を購入し
39
てくれたりすることで、自分達の仕事が評価され、事業者や職人の自信にもつなが
った。
○ 昨年5月には第4回「モノマチ」を開催。ものづくり系企業 257 社、クリエイター
97 人が参加しており、毎年規模は拡大し続けている。ものづくりの現場を発信す
ることで来場者がその価値を再認識し、職人の意識も変えることができた。また、
地域内に業種を越えたネットワークが生まれ、企業の連携によるビジネスチャンス
も拡大している。
≪台東デザイナーズビレッジ
図Ⅱ-3-3:体験型ワークショップ
村長
鈴木
淳≫
図Ⅱ-3-4:職人の作業場を公開
(資料)ともに鈴木淳氏講演資料「2020 年に向けたものづくり現場の魅力を活用した地域ブランド戦略について」
(2014.6.3)より抜粋
3-2-2
クリエイターを核とした地域活性化の可能性
消費市場が成熟し、商品の差別化や高付加価値化が求められる中で、新た
なデザインや商品コンセプトを創造するクリエイターの重要性がますます高まって
いる。クリエイターの存在は、我が国のものづくりのかたちを変えつつあるとともに、
ものづくり地域の活性化にとっても重要な存在となる可能性を秘めている。
<クリエイターが活性化の中心となった SOHO 地域など>
○ 米国ニューヨークの SOHO 地域は、もともと繊維工場とその従業員が住む街だったが、
工場の市外移転などで 1950 年代には倉庫や低賃金の零細工場などが立地するだけ
の荒廃した地区となった。その後 1960 年代から 1970 年代にかけて、低い賃料で作
品の制作に適した広いスペースを有する建物を、お金のない芸術家やデザイナーた
40
ちが工房やアトリエとして使うようになっていった。1980 年代には、芸術家の絵画
を扱うギャラリーや彼らの絵画を購入する富裕層が集まるレストランやライブハウ
スもでき、芸術家の街として復活を遂げている。
○ パリ、ミラノ、フィレンツェもファッション等クリエイターの作品を発信すること
で街がブランド化されており、そのブランド力に惹きつけられて、買い物目的の観
光客が多数現地を訪れている。
≪台東デザイナーズビレッジ
図Ⅱ-3-5:ニューヨーク
村長
鈴木
淳≫
SOHO 地域
(資料)鈴木淳氏講演資料「2020 年に向けたものづくり現場の魅力を活用した地域ブランド戦略について
(2014.6.3)より抜粋
3-2-3
ものづくりの鍵を握る若手クリエイターの育成・登用
我が国においてもクリエイターの集積による街のブランド化を目指している地域
として台東区がある。これまでのカチクラ地域(注)は下請企業の街として何を作
っているのか発信できていなかったが、台東デザイナーズビレッジの誕生以降、そ
こを卒業したクリエイターが当地に集積するようになり、クリエイティブな街に変貌し
つつある。また、浜野製作所のように、若手ベンチャー経営者と連携してもの作り
プロジェクトを進めている。このように、今後のもの作りを牽引することが期待される
若手クリエイターを育成・登用していくことが重要である。さらに、中長期的には、
子供に対して「ものづくり」のおもしろさを伝える取組が重要である。
41
(注):徒蔵(カチクラ)地域とは、台東区南部の御徒町から蔵前、浅草橋にかけての2
km 四方のエリア。)は財布・バッグなどの革製品、ジュエリー等の卸売業やそれらを製造
する下請けメーカーや職人が集積している地域。台東区の面積は 23 区最小で、人口は 1960
年代をピークに減少傾向にあった。ものづくりの下請けがアジアで海外生産されるように
なり、都市の中の過疎地域化していた。子供も減少したため、小・中学校も 22 校が廃止さ
れ、現存しているのは 26 校。
<台東デザイナーズビレッジ>
○ 高付加価値なものづくりを目指し、デザイナーを誘致したいと産業界から要望があ
り、廃校となった小学校の跡地に「台東デザイナーズビレッジ」という日本初のも
のづくり系クリエイターの創業支援施設を 2004 年に台東区が設立。
○ 同施設の特長は、ファッション関係の創業 5 年以内のクリエイターに入居対象を限
定し、最大 3 年間の入居期間中に企業経営者としてビジネスを成長させ、卒業させ
ること。日本中から入居希望があり、現在倍率は 10 倍くらい。3 年の入居期間中
にアルバイトや貯金を崩しながらビジネス経験を積み、中には年商を 20 倍ぐらい
に成長させて卒業する者もいる。現在の入居者の 8 割が女性で、平均年齢は 32 歳
から 33 歳くらい。服飾デザイナーや革製のアクセサリー製作など分野も様々。55
組が卒業し、うち 28 組が台東区内に残っている。
○ これまでのカチクラ地域は下請企業の街として何を作っているのか公にすること
はなかったが、若手クリエイターの集積が進み、彼らが情報発信していくことでク
リエイティブな街のイメージを高めつつある。
○ 台東デザイナーズビレッジの入居者に対しては、知名度や価格競争ではかなわない
有名ブランドにはない、自身の個性を活かした製品作りやファンを増やしていくこ
とが重要とアドバイスしている。また、工場見学や催事販売などを通じ、現場を知
ってもらうことも重視している。
≪台東デザイナーズビレッジ
図Ⅱ-3-6:
村長
鈴木
淳≫
図Ⅱ-3-7:ものづくり現場の見学会
台東デザイナーズビレッジ内部
(資料)ともに鈴木淳氏講演資料「2020 年に向けたものづくり現場の魅力を活用した地域ブランド戦略について」
(2014.6.3)より抜粋
42
<ものづくりベンチャー支援、デジタル工作機器を備える試作工房“Garage Sumida”>
○ 当社の一画に 3D プリンターなどのデジタル工作機器を備えた実験施設“Garage
Sumida”を開設。墨田区や全国の町工場と連携しながら、企業や個人の製品・試作
開発、量産化の支援を行う。現在 30 件の取引があり、若手ベンチャー企業を含む
様々な関係者を町工場や全国のものづくり企業へつなげるゲートウェイとしての
機能を果たしている。東京オリンピック・パラリンピック向けの製品開発や商品づ
くりも行っていきたい。
≪株式会社浜野製作所
代表取締役
浜野
慶一≫
図Ⅱ-3-8:Garage Sumida の外観
(資料)浜野慶一氏講演「2020 年に向けた新たなものづくり地域活性化戦略」(2014.6.3)より抜粋
<アウトオブキッザニア in すみだ>
○ 2012 年より、墨田区内の中小企業が連携して子供向け職人体験教室を開催。観光
ツアーとして JTB で販売。工作機械と最先端の技術を使って子供達が東京スカイ
ツリーの模型を製作する。当然、自分で完成させなければ完成品は手に入らない。
○ 子供達にとってはものづくりの楽しさや難しさを知る機会、企画運営する若手職人
にとっては、子供達のために作業上の安全確保を徹底することの重要性を再認識で
きる研修の機会となっている。
○ 本体験教室の対象は小学4年生から中学2年生。ものづくりを体験させたい彼らの
親の勧めがきっかけで参加することが多い。ものづくりに関心のある親は自身がメ
ーカーで開発を担当していたり、研究機関に勤めていたりすることが多く、子供に
同行してきた親との出会いにより、彼らの勤務する大手企業関係者と直接取引させ
ていただいていることも大きな副産物。
≪株式会社浜野製作所
43
代表取締役
浜野
慶一≫
図Ⅱ-3-9:「アウトオブキッザニア in すみだ」
(資料)ともに浜野慶一氏講演資料「2020 年に向けた新たなものづくり地域活性化戦略」(2014.6.3)より抜粋
3-2-4
性
職人とクリエイターをつなぐ「コーディネーター」の重要
クリエイターはいわば設計図を描く人であり、工場の職人は設計図に基づいた
製品を商品化する人。価値のある商品を生み出すためには、両者が相互にクオ
リティーを高め合える関係を構築することが重要である。両者の仕事の環境は大
きく異なるため、時として互いのコミュニケーションがうまくいかない場合や、そもそ
も両者が出会える機会も限定的である。このため、両者をつなぐコーディネーター
が必要であり、彼らを通じて両者の交流を図ることが非常に重要である。
<クリエイターの現場訪問>
○ 例えばクリエイターが甲府の宝石工場を見学することで、実際に人の手で宝石が製
造される過程や、職人による研磨の技術の苦労や限界を知ることで、自分達の描く
設計図と製品化される商品との違いを理解することができる。織物工場の見学も同
様。実際に繊維が機械と職人の手でいかに苦労して製造されているのか実感するこ
とができる。クリエイターがものづくり現場への理解と尊敬を持つことが、新しい
商品やビジネスを生むきっかけとなる。
≪台東デザイナーズビレッジ
44
村長
鈴木
淳≫
図Ⅱ-3-10:甲府の宝石工場見学
図Ⅱ-3-11:富士吉田の工場見学
(資料)ともに鈴木淳氏講演資料「2020 年に向けたものづくり現場の魅力を活用した地域ブランド戦略について」
(2014.6.3)より抜粋
<事例1
新伝統工芸プロデュース
TOKYO CRAFTS & DESIGN>
○ 2012 年、東京都の指定する 41 の伝統工芸分野の職人と、工芸の魅力を知り自らの
アイデアやデザインを生かしたいと考えるデザイナーを公募してチームを編成。職
人とデザイナーとの「協働」による新商品開発を実施した東京都美術館の取組。
○ 職人とデザイナーの視点は言語の違い程異なる。デザイナーに工房見学させ、彼ら
の間に入って通訳できるコーディネーターの役割が重要。デザイナーに職人の持つ
技法、製作工程における制約と可能性を通訳したことで、デザイナーの作品ではな
い売れる商品開発を行うことができた。
≪株式会社ものづくり研究所
代表取締役
北條
図Ⅱ-3-12:TOKYO CRAFTS & DESIGN
(資料)北條規氏講演資料「2020 年の日本が世界に発信するものづくり伝統文化の魅力について」
(2014.6.3)より抜粋
45
規≫
<事例2
TOKYO DESIGN &CRAFT MARKET 2013>
○ 展示会出展の問題点として、①ターゲットを固めて出展していない等、商談の成果
が少ない、②展示会の来訪者の傾向や特徴等の事前リサーチ不足等により、ターゲ
ットとなる事業者との出会いが少ない、③出展しても商品の魅力や開発ストーリー、
地域の魅力等がうまく伝えられない、ことがあげられる。
○ 関東経済産業局主催の本展示会では、上記の問題を解決すべく①技術・素材を持つ
ものづくり企業、②新たなデザインコンセプトを提案できるデザイナー、③市場ニ
ーズを知る流通関係者
をプロデューサーがコーディネートし、商品化に着地でき
るよう三者をつなぐマッチングイベントとした。作り手・デザイナー・販路を有機
的にコーディネートしたことで従来にはない成果を上げた。
○ 出展企業に対しては事前に展示方法等についてアドバイスを行い、マッチしそうな
事業者とデザイナーを事前調整して商談に結びつけるなどして、高い商談達成率を
実現。成功事例はいくつかあるが、越前塗りの職人と荒川区のエボナイト製作所が
連携して当時の技術を再現し「昭和の文豪が愛した万年筆」の復刻品開発に成功。
小学館サライの通販に掲載されるという成果も出している。
≪株式会社ものづくり研究所
代表取締役
北條
図Ⅱ-3-13:TOKYO DESIGN &CRAFT MARKET 2013
(資料)北條規氏講演資料「2020 年の日本が世界に発信するものづくり伝統文化の魅力について」
(2014.6.3)より抜粋
46
規≫
3-2-5
ブランディングにおけるストーリーの重要性
地域のものづくり産品や伝統工芸品への購買意欲を高めるためには、モノそれ
自身の魅力に加えて、地域の歴史・文化やそれを作る職人やデザインするクリエ
イターの思いや個性、技術の背景など、販売するモノに係る「ストーリー」を提示し
てブランド化していくこと、一般の消費者が「ストーリー」に関心を持ってもらうため
の興味を引きやすいイメージを発信する戦略が有効であり重要である。
<三条地域の取組>
○ 事例1 「三条地域は伊勢神宮の式年遷宮に際し、平成元年から和釘や金具を提供
している」旨の「ストーリー」を提示。
≪新潟県三条市
市長
國定
勇人≫
図Ⅱ-3-14:伊勢神宮に提供している和釘
(資料)三条市ホームページより抜粋
○ 事例2
「燕三条
工場の祭典」でのピンクというイメージカラーとロゴデザイン。
これまでは鍛冶技術を伝えるイメージカラーとして、暗い工房で燃える炎のイメー
ジから黒と赤を使ってきたが、より柔らかい色合いの黒よりもシルバー、赤よりも
ピンクの組み合わせとしたところ、祭典のターゲット層の拡大に寄与。
≪新潟県三条市
市長
図Ⅱ-3-15:「工場の祭典」のイベントロゴ
(資料)国定勇人氏講演資料「ものづくり・伝統文化を活用した三条地区の活性化について」
(2014.6.3)より抜粋
47
國定
勇人≫
Ⅱ-3-3 2020 年における「我が国の新たなものづくりの姿の発信」
のための課題
3-3-1
下請け生産にとどまらないもの作り企業としての自己発信
先に記述したように、ものづくりの現場をオープンにすることによって、消費者の
関心や理解を得ることを通じて、現在のものづくりが活性化する効果が見込まれ
る。それでは、ものづくりの現場自身は現状維持でよいのだろうか。変わらなくても
よい現場もあるが、国内のものづくりの環境が構造変化をしている中で、親会社か
らの下請け生産にとどまらない新たな販路開拓などの取組が求められる。その取
組の一つとして、自らの技術力をアピールするための最終製品作りが有効と考え
られる。
<電気自動車「HOKUSAI」開発プロジェクト>
○ 2009 年、東京スカイツリーの開業にあわせ、墨田区ゆかりの葛飾北斎にちなんだ
電気自動車を早稲田大学・区内中小企業とで共同開発した。2012 年には公道を走
れる1人乗り用「HOKUSAI-Ⅲ」が完成し、スカイツリーを周遊させ区内中小企
業の技術力の高さを発信した。2020 年の東京オリンピック・パラリンピックに向
けて、今後は観光客に墨田の町を歩いてもらう交通手段として開発を進めている。
≪株式会社浜野製作所
代表取締役
浜野
慶一≫
図Ⅱ-3-16:「HOKUSAI Ⅲ」
(資料)浜野慶一氏講演資料「2020 年に向けた新たなものづくり地域活性化戦略」(2014.6.3)より抜粋
48
<深海探査艇「江戸っ子1号」プロジェクト>
○ 2009 年、下町の中小企業・海洋研究開発機構(JAMSTEC)
・芝浦工業大学・東京
海洋大学・東京東信用金庫等と水深 8000m の深海にも耐え得る無人探査艇の開発
に着手。2013 年 11 月に深海約 8000m で世界初の 3D 撮影に成功した。
○ こうしたプロジェクトは本格的な事業化に向け、ビジネスとして成功しつつあると
ともに想定していなかった副産物も得ている。例えば HOKUSAI を大手タイヤメ
ーカー社長や開発担当部長が視察に来てくれたことがあった。開発経緯や当社の取
組を知っていただき、かつては4次から5次下請企業だった当社だが、今や直接大
手企業と取引するようになった。江戸っ子1号も同様。開発をしていく中で知り合
った大学や研究機関から別の仕事の依頼を受けられるようになった。
≪株式会社浜野製作所
代表取締役
浜野
慶一≫
図Ⅱ-3-17:「江戸っ子1号」
(資料)浜野慶一氏講演資料「2020 年に向けた新たなものづくり地域活性化戦略」(2014.6.3)より抜粋
3-3-2
広域連携による発展の可能性について
台東区の「モノマチ」、墨田区の「スミファ」、大田区「おおたオープンファクトリ
ー」、三条市の「工場の祭典」などは、ものづくりの現場を一般に開放する「オープ
ンファクトリー」の取組の先進事例である。今後は、他地域で同種の取組が拡大し
ていくことが期待されるが、互いの取組についての情報発信等を広域化し、同種
の取組に関心を持つディープなファンの共有化など、相乗効果を高めるための体
制や枠組みを構築することが有効と考えられる。「オープンファクトリー」の広域連
携化により、ファンとなった世界の人が 2020 年東京オリンピック・パラリンピックの
開催の際、地域で製造したモノを、地域に買いに来てもらう機会とすることが重要
である。
49
<地域活性化モデル>
○ ものづくり中小企業が集積する地域において展開が進んでいる「オープンファクト
リー」の取組(台東区「モノマチ」、墨田区「スミファ」、燕三条「工場の祭典」、
大田区「おおたオープンファクトリー」)を行政区域を越えて、産地間の「地域資
源、技術、人」を連携させて統一的なブランディングを図ることにより実施。
○ 共通プロモーション等による各地域への交流人口の増加促進を図るとともに、クリ
エイターや地域を越えたものづくり企業同士の連携促進による新商品開発や、オー
プンファクトリーの地域を巡る観光サービス等の開発を推進。
図Ⅱ-3-18:地域活性化モデルの概略図
(資料)関東経済産業局作成資料より抜粋
50
Ⅱ-4.伝統文化、日本食
Ⅱ-4-1
日本の魅力としての「日本食」
南北に長く、四季が明確な日本には多様で豊かな自然があり、日本の食文化
もまた、この豊かな自然に寄り添うように育まれてきた。この「自然を尊ぶ」という
日本人の気質に基づいた「食」に関する「習わし」が日本の伝統文化と言える。伝
統文化を体現しているという点で、「和食」がユネスコの無形文化財に指定される
予定である。
<日本食の特長>
○
多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、各
地で地域に根差した多様な食材が用いられている。また、素材の味わいを活かす調
理技術・調理道具が発達している。
○
栄養バランスに優れた健康的な食生活
一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われる。
また、
「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現してお
り、日本人の長寿、肥満防止に役立っている。
○
自然の美しさや季節の移ろいの表現
食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴のひとつ。季節
の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、
季節感を楽しむことができる。
○
正月などの年中行事との密接な関わり
日本の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれてきた。自然の恵みである「食」
を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきた。
51
伝統文化を体現する「和食」に限らず、日本国内で食べられている「日本食」
は世界でも注目されている。「外国人が好きな外国料理」の 1 位が日本食である
との調査データや、海外の日本食レストランの数も 2006 年の約 24,000 店から
2013 年には約 55,000 店と 2 倍以上に拡大している。特に寿司や刺身、ラーメ
ン、天ぷらなどが海外からの人気も高く、ヘルシーさや味付けや盛りつけの繊細さ
に関心を持っている人も多い。
図Ⅱ-4-1:海外における日本食レストラン
(資料)農林水産省公表資料「日本食・食文化の海外普及について」(平成 25 年 6 月)より抜粋
このように多様で豊かな自然からうまれた「和食」と和食が代表する日本の伝
統文化は、世界からも評価される日本の精神性を体現するものであるとともに、B
級グルメを含む海外に人気のある「日本食」はまさに観光の目玉であることから、
2020 年の機会に発信すべき重要なテーマと考えられる。
図Ⅱ-4-2:日本食に対する海外の評価
(資料)ジェトロ公表資料「日本食品に対する海外消費者アンケート調査」(平成 24 年 3 月)より抜粋
52
Ⅱ-4-2
日本の魅力としての「伝統文化」
日本人は、古来より、世界のあらゆる文化を取り込み独自の文化として昇華さ
せ、世界に認知される日本の伝統文化を完成させてきた。日本の気候風土や、
とりわけ日本人の持つ独特の「和をもって貴しとなす」に代表される精神性によっ
て、千年以上かけて生み出されてきた日本独自の衣・食・住こそが日本の伝統
文化であり、茶道や華道など「道」の文化や生活を物質面から支える伝統工芸な
ど多岐にわたる。
世界でも日本の伝統文化は高く評価されており、例えば、日本文化とエンター
テイメントを紹介するヨーロッパ最大のイベント「ジャパンエキスポ」の来場者は毎
年拡大し続けており、2013 年には 20 万人を超える来場者を動員した。
図Ⅱ-4-3:パリジャパンエキスポの来場者の推移と 2013 年の会場の様子
(資料)ジャパンエキスポ HP より関東経済産業局作成
このような世界からも高い評価を受けている日本の伝統文化は、前述の「日本
食」と同様な観点で、2020 年の機会に発信すべき重要なテーマと考えられる。
53
Ⅱ-4-3
「日本食」を通じて地域活性化を実現するための視点
これまでのクールジャパン戦略の推進などによって、日本食や食文化への海外
の理解や関心はかなり高まっているのは先に述べたとおりである。最近では、ユネ
スコ無形文化遺産への登録申請による「和食」の発信など、全般的な日本食や
食文化の発信については今後も活発に行われるであろう。さらに、国内でも、全
国レベルでの「B 級グランプリ」の開催など、地域の「日本食」に対する関心も十分
に高いと言える。
このことから、ここでの視点は、①個々の地域のお勧め「食」をどのようにプロデ
ュースして海外に発信するかという視点と、②国内外の観光客等に一般的に人
気の高い「日本食」の魅力や影響力をうまく活用して、食と他のモノを組み合わせ
て発信することによって、その「他のモノ」にも関心を持ってもらうという視点が重要
である。
4-3-1
外国人の視点に立った日本食の発信の重要性
海外に発信するためには、海外の外国人の方が理解できるメッセージを届ける
ことが必要である。このため、できる限り外国人の視点に立って、外国人が親しみ
やすさを感じたり、美意識を感じるようなキーワードが重要である。また、言葉のニ
ュアンスなど外国人が理解する内容については日本人には十分に判断がつかな
い場合もあるため、日本文化に理解がある知日派を活用することが重要である。
また、海外の人が日本の情報を得る手段は、我々が思う以上に限られている。
このため、海外向けの情報発信のための拠点を整備して、その拠点を中心として
情報発信をすることは有効である。
<日本食の発信について>
○ 日本食を発信していく時に、やはり、日本食は、「Cool」でかつ「Pop」、つまり
大衆的だということを伝える必要がある。プロジェクトタイトルでは、
「和」であ
ったり、
「わびさび」というように、外国人に親しみやすさが感じられたり、外国
人が美意識を感じるものにした方がよい。
○ 枝の部分で言葉を集約したらということで、
「Wasabi」という言葉を考えてみた。
結局、外国人が、
「FUJIYAMA」
「GEISHA」
「NINJA」
「NINTENDO」の次に知
っている単語は「Wasabi」。
「Wasabi」は食と結びついている。例えば、
「beautiful
54
Japanese food」というととても真面目な感じになるが「Wasabi」は、外国では
ギャグのネタになっているくらい面白い。
○ 情報のコンテンツを拡充させながら最終的なプラットフォーム「Wasabi Kitchen」
を構築したほうが良い。Phase 1 外国人に人気の日本食レシピを youtube を活用
して動画等で発信し、和食に興味をもってもらう。Phase 2
海外のイベントに参
加し話題を拡散。動画等のコンテンツをプラットフォームとしてのアプリケーシ
ョンを作成。日本に関心のある人にダウンロードしてもらう。Phase 3
日本食製
品や各地域ブランドへのファンを育成。企業とのコラボレーションを通じて、企
業や地域に利益を還元。Phase 4
来日旅行者の興味に応じた日本食イベントを東
京、地方で開催。体験談の口コミを増加させる。将来的には、寿司、懐石、ラー
メンがみんなで観られるコンテンツをつくったり、wasabi イベントのようなイベ
ントをやったり、英語のメニューのある管内のレストランを紹介したりする。ま
た割引券を使って参加型のコンテンツも良いと思う。
○ 食に関していうと、行動範囲が地方なのか都市圏なのか、コストが潤沢なのか堅
実なのかによって、高級料理を食べたい人、B 級グルメを食べたい人で分かれる。
「秋田の英語のメニューがあるお店」というように検索できるようにし、そのお
店に行き着いてもらう。
≪株式会社 REKIDS
代表取締役
行正
り香≫
<知日派外国人ネットワーク構築事業>
○ 日本をよく知る外国人をネットワーク化し、地域資源に対する評価・助言の実施
及びグローバルマーケットに向けた情報発信を行い、良質な地域資源の海外展開
と訪日インバウンドを促進する事業。
図Ⅱ-4-4:知日派外国人ネットワーク
(資料)関東経済産業局作成資料より抜粋
55
<埼玉県神川町の知日派外国人>
○
「日本のうえん」にいる日本の方と結婚した「八須ナンシー」さんが有名。有機
農法にこだわった養鶏場での卵の生産や、日本の農家の食事を紹介した「ジャパ
ニーズファームフード」という本を出版し、海外の日本食通の間でかなり人気に
なっている。
≪埼玉県神川町
町長
清水
雅之≫
図Ⅱ-4-5:「八須ナンシー」さんと「ジャッパニーズファームフード」
(資料)清水雅之氏講演資料「神川町における高齢社会に向けた地域活性化の取組について」
<日本食の発信の課題について>
○
NHK で「Dining with the Chef
Rika’s Tokyo Cuisine」という番組をやった。
その中で特に多かった意見が、
「 どこから日本食の情報を得たら良いのかわからな
い」という意見だった。情報発信の総合拠点がないから、どこで情報を得て良い
のかわからないということ。
○ 日本の食文化のことであるが、実は製造技術など全てのものに関係していること
であるが、一次元ではなくて多次元な部分がある。日本食だけではなく、美しい
という観点では、器も形も違うし、季節でも使うものは違うことは中華・イタリ
アンも同様。つまり、良く言えば多次元だが、悪く言うと複雑すぎてわからない
ということ。
≪株式会社 REKIDS
56
代表取締役
行正
り香≫
図Ⅱ-4-6:NHK ワールド“Rika’s Tokyo Cuisine”
(資料)行正り香氏講演資料「日本食プロモーションから始める地域活性化プラン」(2013.12.20)より抜粋
<有機野菜を使った食材の提供>
○ 神川町では有機栽培を推進。有機農業推進協議会を設立し、有機野菜を使った食材を
積極的に提供。昨年、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことで有名になっ
た。
○ 地元のヤマキ醸造という会社では、無農薬の認定を受けて、しょうゆ・みそ、豆腐な
どを地元の有機野菜を使って生産。
○ ふぁーむニコでは、自社栽培の唐辛子を原料として自社工場で農産加工センターを運
営しながら「食べられるとうがらし」などの製造、販売を行っている。
○ 有機栽培は生産物の値段も高いが、安心して食べられる利点がある。
≪埼玉県神川町
4-3-2
町長
清水
雅之≫
健康維持のための料理教育の重要性
日本食に強い関心をもった外国人は、その日本食を自分で作りたいという要求
をもっている例は多い。さらには、日本人の「健康寿命の根幹」が日本食であると
も言われる中で、関心の高まる「料理」に着目をして地域活性化を考えることも重
要である。
<ABC クッキングスタジオの取組>
○
企業理念としては、
「世界中に笑顔あふれる食卓を」という思いがある。大切な人
たちに愛情のこもった料理を出したいということである。生徒は全国に 28 万人、
国内 124 教室があり、上海、台湾、香港など海外にも進出している。
○
また、ABC が大切にしていることとして、初心者の皆様にいくつになっても手作
りをしてもらいたいという思いがある。必ず自宅でも再現できるように、レシピ
をイラスト化している。
57
○
昨年 6 月から「おいしく・かしこく」をモットーに「ヘルスフードカウンセリン
グルーム」という取組を開始し、個人の体質や食に関するあらゆる相談に基づき、
管理栄養士がアドバイスをするとともに、レシピを処方するという取組。希望が
あれば授業で学ぶこともできる。
≪株式会社 ABC Holding
取締役
志村
なるみ≫
<食に関する基礎教育の重要性>
○
日本の都道府県の長寿率について、昔は沖縄県が 1 位だったが、最近では、長野
県が 1 位になった。長野県は従来、ワースト何 10 位をさまよっていたが、近年に
なって大きく長寿率の順位をあげた。長野県が行った具体的な取り組みとしては、
食事の塩分を抑えること(例えば、一日味噌汁一杯運動)、日々の食事に野菜を取
り入れることなどに取り組んだ。
≪株式会社 REKIDS
代表取締役
行正
図Ⅱ-4-7:ABC Cooking Studio
(資料)志村なるみ氏講演資料「ABC Cooking Studio ブランディングの軌跡」(2014.4.21)より抜粋
図Ⅱ-4-8:長野県の健康長寿に向けた取組
(資料)長野県「長野県の健康長寿について」より抜粋
58
り香≫
4-3-3
日本食を活用したプロジェクト立案の重要性
先にも述べたように、日本食の海外での関心を活用して、他のモノを併せて発
信することが有効である。例えば、日本食と地域の伝統工芸品等と結びつけるこ
とによって、伝統工芸品だけではなく、地域に対する関心を高める効果がある。こ
のように、食と地域産品を組み合わせたプロジェクトの創出が重要である。
<Global Neighbor Kitchen In 新潟>
○
2013 年 2 月、日本をよく知る外国人ネットワーク『JAPAN LOCAL INNOVATOR
COMMITTEE』が新潟を訪問、新潟の地域資源に触れ、地域プロデューサーやキーパ
ーソンとディスカッションを実施して、地域資源の掘りおこしや評価・助言を行
った。また、新潟の選りすぐりの食材を一流のシェフが料理することにより新た
な価値の創出を図る『Global Neighbor Kitchen In 新潟』も開催された。
図Ⅱ-4-9:Global Neighbor Kitchen In 新潟
(資料)関東経済産業局作成資料より抜粋
59
<Global Neighbor Kitchen In 関東>
○
新潟も含む広域関東圏にて発掘した選りすぐりの食材を、一流シェフ(価値創造
人材)が料理し、産業・地域を越えたコンセプト・ストーリーによって新たな価
値の創出を図る『Global Neighbor Kitchen In 関東』を開催。外国人料理プロデ
ューサーと日本人シェフのコラボによる外国人視点の日本「食」を提案したり、
伝統的工芸品の経営者・職人による技術のプレゼンテーションにより理解深化を
推進した。
図Ⅱ-4-10:Global Neighbor Kitchen In 関東
(資料)関東経済産業局作成資料より抜粋
Ⅱ-4-4
視点
「伝統文化」の発信を通じて地域活性化を実現するための
ライフスタイルが欧米化し、我が国の伝統文化に対する関心が低減するととも
に、伝統工芸品等を制作する職人の高齢化や継承者不足が深刻となっている。
伝統文化は、日本を語る上で不可欠な存在である。この伝統文化を維持し、
後世に伝えるために、私たち日本人 1 人 1 人が改めて伝統文化の重要性を認識
することが重要である。さらに、地域にとっても、伝統文化は地域のこれまでの歴
史であり、地域のアイデンティティでもある。これを残していくことは、地域の個性を
発信することであり、地域の活性化のための大目標でもある。
その伝統文化を支える職人については、一部には、若くして職人の道に入り、
自身が伝統を受け継いで次世代にそれを伝えるという強い使命感・責任感をもっ
て日々修行に取り組む職人もいることから、この動きを途切れさせることなく、増や
していく取組が重要である。
60
図Ⅱ-4-11:若手職人の例
(資料)矢島里佳氏の講演資料「地域の伝統的工芸品などを活用した地域活性化について」(2014.6.3)より抜粋
図Ⅱ-4-12:職人の減少傾向
(資料)(財)伝統的工芸品産業振興協会作成資料より抜粋
4-4-1
伝統工芸品を現代風にアレンジをする動き
伝統工芸品について日常的に触れることが少なくなった現代において、伝統工
芸品に触れる機会を増やすことが必要である。
既存の伝統工芸品は、そのままでは現代のライフスタイルに適さない場合があ
ることから、これに新機能やデザインを付加することで、若い世代等に訴求してい
る動きがある。このような先進事例を参考にすることが重要である。
61
<株式会社和える(0 から 6 歳児向け商品ブランド aeru)>
○
開発した商品例は、徳島の本藍染による赤ちゃんの産着・靴下・タオルセット。
徳島の本藍染には抗菌作用・紫外線遮蔽・防虫など知られていない機能がある。
この機能や価値を大人に“知ってもらい”、日本を選んで生まれてくれた赤ちゃん
を本藍染で迎えようというのが伝えたいブランドストーリー。もう一つの例はこ
ぼしにくい子供向けの器。商品デザインはあえて子供らしくせず、素材や商品の
本質を伝えるためシンプルなものにしている。
○
購入されたお客様からダイレクトに喜びのメッセージをいただいており、全国の
職人にとってはモチベーションの向上、購入者にとっては地域にある宝物の再発
見。その相乗効果によって地域活性化につながるのではないか。
○
aeru を評価していただき、伊勢丹と三越の 1 階ショーウィンドーに aeru ブラン
ドを置いてくれることになった。バイヤーの方々が一生懸命発信してくれたおか
げ。
「子供たちに日本の伝統をつなげるため」に大人がそれぞれの仕事を通じて動
き、ビジネスとして利益を得ながら地域・地場産業の活性化に貢献することは可
能だと痛感している。
≪株式会社和える
代表取締役
矢島
里佳≫
図Ⅱ-4-13:0 から 6 歳児向け商品ブランド aeru
(資料)矢島里佳氏講演資料「地域の伝統的工芸品などを活用した地域活性化について」(2014.6.3)より抜粋
62
4-4-2 伝統工芸品等の職人や工房とデザイナー・クリエイター等
をつなげる動き
伝統工芸品の活性化にとって、現代のライフスタイルで生活する者にとって使
いやすいようにアレンジすることが重要であることは既に述べた。しかし、伝統工芸
を担う職人に対し、自分の作った工芸品をどのように販売し、また現代的なアレン
ジをしたらよいかという点まで求めることは困難である。このため、当該職人と、ア
レンジを行うデザイナー等を適切につなげることが重要である。
<「百年物語」プロジェクト>
○
にいがた産業創造機構などの支援を受けたメーカーが主体となった取組で、
「 ブラ
ンド構築には最低 10 年かかる」というコンセプトに基づき、100 年後も大切に
使ってもらえる商品開発に向けた取組を 10 年以上継続して行っている。
○
特長として、①毎年統一したテーマで商品を開発。それらを使う生活イメージに
踏み込んで提案、②開発に参加する企業は公募ではなく、同機構が市場調査に基
づく開発テーマを提示し、高い品質の製品を作れる企業を厳しく選定。開発費用
に対する行政からの補助等はなく、企業がリスクを負って製品開発に取り組む、
③ブランド構築には最低 10 年の戦略が必要であるとして、同じ専門家・コーデ
ィネーターが継続してサポートしていく体制を整えている、ことがあげられる。
ドイツのフランクフルトメッセなど継続的に展示会出展している。
≪株式会社ものづくり研究所
代表取締役
北條
図Ⅱ-4-14:にいがた産業創造機構「百年物語」プロジェクト
(資料)北條規氏講演資料「2020 年の日本が世界に発信するものづくり伝統文化の魅力について」
(2014.6.3)より抜粋
63
規≫
<新伝統工芸プロデュース
TOKYO CRAFTS & DESIGN>
○ 2012 年、東京都の指定する 41 の伝統工芸分野の職人と、工芸の魅力を知り自らの
アイデアやデザインを生かしたいと考えるデザイナーを公募してチームを編成。職
人とデザイナーとの「協働」による新商品開発を実施した東京都美術館の取組。
○ 職人とデザイナーの視点は言語の違い程異なる。デザイナーに工房見学させ、彼ら
の間に立って通訳できるコーディネーターの役割が重要。デザイナーに職人の持つ
技法、制作工程における制約と可能性を通訳したことで、デザイナーの作品ではな
い売れる商品開発を行うことができた。
≪株式会社ものづくり研究所
代表取締役
北條
規≫
図Ⅱ-4-15:TOKYO CRAFTS & DESIGN
(資料)北條規氏講演資料「2020 年の日本が世界に発信するものづくり伝統文化の魅力について」
(2014.6.3)より抜粋
4-4-3
BtoB マーケットへの着目の重要性
先に記述したように、伝統工芸品を活性化していくためには、既存の伝統工芸
品に現代のライフスタイルに適した新機能やデザインを付加することが重要である
とともに、マーケット・インの発想で、消費者に魅力ある商品を開発し、海外を含め
た販路を開拓していくことが重要である。
特に、海外市場というと、対消費者に注目が集まるが、実は、海外ブランドメー
カが日本の伝統工芸品に大いなる関心を有している場合がある。今後は、世界
市場で商品を流通させている海外ブランド等内外のメーカーとのコラボレーション
に着目することが重要である。
64
<B to B 市場への着目>
○
海外の B to C 市場のみならず、B to B 市場にも目を向けるべき。世界市場で商
品を流通させている海外ブランド等内外のメーカーとのコラボレーションも考慮
すべき。エルメスが金沢の伝統的工芸の職人に注目、視察に訪れていると聞く。
海外ブランドも日本の高い品質や精神性を有する商品や技術を発掘しようとして
いるが、まだまだ出会いが少ない。技術・素材・職人情報を世界に発信するシス
テムも必要。
≪株式会社ものづくり研究所
代表取締役
Ⅱ-4-5
「日本食及び伝統文化の発信」のための課題
4-5-1
東日本大震災からの復興を発信することの重要性
北條
規≫
世界の人々は、日本人以上に、未曾有の大震災からの復興に対する日本の
取組に注目している。このような世界の注目に対して、その活動を積極的に発信
することが重要である。
例えば、群馬県桐生市の朝倉染布による水が運べる風呂敷は、復興支援に
大きな役割を果たしており、震災復興に大きな役割を果たした日本の伝統技術
や食文化、他者との調和や他者への感謝を重んじる精神性の本質を発信してい
くことが重要なのではないか。
図Ⅱ-4-16:群馬県桐生市
朝倉染布
水が運べる風呂敷
(資料)北條規氏講演資料「2020 年の日本が世界に発信するものづくり伝統文化の魅力について」
(2014.6.3)より抜粋
65
Ⅱ-5.超高齢先進国
Ⅱ-5-1
我が国の魅力としての「超高齢先進国」
我が国が OECD 諸国中最も高齢化が進展しているのは周知の事実である。今
後、社会保障費の膨張等に起因する財政赤字のさらなる増大が予想される中で、
現行の医療福祉システムの持続可能性が危ぶまれており、同時に、高齢者に対
する医療福祉サービスのあり方が問われている。このような課題をどのように乗り
越えるのかを世界は注目しているという意味で、我が国は課題先進国となってい
る。
ちなみに、いわゆる団塊シニアの世代は約 660 万人いるとされ、2012 年度から
順次前期高齢者(概ね 65 歳から 75 歳)の仲間入りをしており、「2012 年問題と
呼ばれた。この団塊シニアの世代が全て後期高齢者となる 2025 年は「2025 年
問題」と言われている。
このような課題に対応するため、日本の持つ社会的イノベーションと科学的イノ
ベーションの双方を活用することにより、高齢者が健康を維持して元気に生活が
できるような予防医療・健康サービスの提供や、体力の衰え等が発生したときに
は適切な介護及び生活支援サービスの提供、さらには、穏やかな最期を迎える
ための適切な終末医療を提供するシステム等を構築していくことが重要である。
このための取組を進めつつ、システム構築のための中期的な計画を策定すること
は、世界のモデルとなる魅力的な超高齢社会システムを構築できる能力と意思
が我が国に存在することを示すものであり、2020 年に発信すべき重要なテーマと
考えられる。
図Ⅱ-5-1:将来に向けて、75 歳以上の高齢者人口の割合が増加する
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」(「超高齢社会
における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
66
Ⅱ-5-2
めの視点
「超高齢先進国」の発信を通じて地域活性化を実現するた
超高齢社会への対応は、国の社会保障制度による医療・介護サービスに加え
て、保険対象外の周辺サービスやサービスに必要なモノの製造など産業的にみ
て波及効果が大きい。高齢者の生活に関わるものであるため、高齢者向け住宅
や排泄器具まで波及する。したがって、そもそも地域の高齢者を適切にケアして
明るい地域コミュニティを構築するかは地域活性化にとって重要な取組であると
ともに、高齢者向けのサービス・モノを提供する産業の側面も地域活性化の視点
として重要である。さらには、両者が融合したモデルのような地域が実現すれば、
視察者が多く到来するなど当該地域に関する他国の関心が高まる効果も地域
活性化の観点では重要である。
以下では、「超高齢社会の課題を乗り越えていく取組」をテーマとして地域活
性化を目指すための具体的な視点について記述する。
5-2-1
在宅医療の重要性
日本人は医療機関で亡くなる割合が高いが、今後の高齢者増加傾向を踏ま
えて、在宅医療への移行が政策的に進められている。在宅医療は相対的にコス
トが安いこともその要因の一つ。
図Ⅱ-5-2:死亡者数の推移
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」(「超高齢社会
における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
67
<在宅医療推進の背景>
○ 看取りの場所について、戦後間もなくは自宅で亡くなる人が一番多かったが、1976 年
を境に、医療機関で亡くなる人が増加してきた。
○ 在宅医療推進の背景には、終末期の高齢者を支えるインフラの不足がある。病院で亡
くなっている人は、現状約 90 万人いるが、これから病院のベット数が増えることは
ない。そうなると年間 170 万人が亡くなる時代に、残りの 80 万人はどうするのか。
病院以外の自宅や施設できちんとした医療を受けるための環境整備として、在宅医療
を普及・推進している。
≪医療法人鉄祐会
祐ホームクリニック
理事長
武藤
真祐≫
図Ⅱ-5-3:場所別の死亡割合
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」(「超高齢社会
における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
<社会保障費の推移>
○ 日本は健康保険制度があることで健康寿命も長くなっているが、こうした体制が、
永遠に続く訳ではないと考えている。なぜなら、社会保障費が上がっていき、2012
年には医療費が約 35 兆円、介護費が約 9 兆円となっている。2025 年にはそれぞ
れ 54 兆円と、20 兆円になり、この 10 年間だけでも総額が約 1.7 倍増となる。こ
の社会保障費の今後の膨張をいかに抑制するかということが大きな課題である。
≪医療法人鉄祐会
祐ホームクリニック
68
理事長
武藤
真祐≫
図Ⅱ-5-4:社会保障費の推移
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」(「超高齢社会
における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
<在宅医療のコスト比較>
○
医療費・介護費のコストを見ると、療養を病院で過ごす費用と、自宅で在宅医療
を受けながら過ごすのとでは、医療費・介護費は約 3 倍も違う。在宅医療の場合、
積極的な治療は本人やご家族の希望が希望しないという面もあるので、治療費用
が病院ほどかからない場合が多い。このような医療費・介護費の抑制の観点から
も、国は在宅医療を推進している。
○ 「人生最期をどこで過ごしたいか」という問いに対して、日本人の 6 割くらいは
「自宅」と答える。しかし、自宅で過ごしたいと思っていても、
「家族に負担がか
かるのではないか」「24 時間対応はできない医療面の不安」などから、病院を選
ぶという人もいる。
≪医療法人鉄祐会
祐ホームクリニック
69
理事長
武藤
真祐≫
図Ⅱ-5-5:入院に比べて在宅医療は医療費・介護費を低減
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」(「超高齢社会
における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
5-2-2
「高齢者」の類型に応じたニーズの存在
現在の我が国の高齢者は、昔の高齢者とは異なり、大きく 3 つの類型に分かれ
る。生活習慣病などを罹患しつつも概ね健常な“アクティブシニア”(概ね 65 歳か
ら 75 歳)、介護が必要となる“虚弱化高齢者”(概ね 75 歳~85 歳)、寝たきりに
近い“在宅医療被提供者”(概ね 85 歳以上)。各類型の高齢者によって、必要と
される社会的アクションが異なる。すなわち、アクティブシニアが介護を必要とせ
ず元気でいられるようにするか、虚弱化高齢者の要介護レベルを低く保つかなど、
その目標に応じて必要とされるサービスが異なる。在宅医療提供者としては、最
期を安らかに過ごしてもらうこと、言い換えると QOD(Quality of death)を高めること
を目指している。
我が国のおもてなしの精神を踏まえれば、今後、高齢者の類型に合わせてき
め細やかなニーズが抽出されて、それに合わせた様々な技術的・社会的イノベー
ションが生まれ、関連の産業が発展することが予想される。
70
<高齢者の類型>
○
2030 年には、高齢化の進行に伴い、要介護者の割合は人口の 20%に達する。日本
の男性の 7 割くらいは、最終的には介護が必要になるが、男性の 1 割は最後まで
誰の力も借りないという人もいる。逆に女性は、最終的には 100%近くいつか介
護が必要になる。
○ 元気な高齢者もだんだんと介護が必要になり、最後は寝たきりで病院に通うこと
が出来なくなって在宅医療を受けることになる。
≪医療法人鉄祐会
祐ホームクリニック
理事長
武藤
真祐≫
図Ⅱ-5-6:死亡者数の推移
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」(「超高齢社会
における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
<在宅医療の重要性>
○ アクティブシニアの方には介護が必要とならないようになるべく元気でいてもら
う事が必要である。また、介護が必要になりそうな虚弱化した人たちもなるべく
今の病状や要介護レベルを維持、回復をしてもらうのが望ましい。さらに、我々
が看ている在宅医療の方は QOD(Quality of death)が重要で、最後は安らかに過
ごしてもらいたい。
○ このように、高齢者のフェーズによって、社会の目的が変わってくる。目的が変
わってくれば、イノベーションのあり方も変わってくる。自分で健康管理したい
という人が多い昨今、自己健康管理ツールの需要が見込まれる。また、虚弱化し
た高齢者の身体機能を助ける介護ロボットの需要が高まることも期待されている。
≪医療法人鉄祐会
祐ホームクリニック
71
理事長
武藤
真祐≫
図Ⅱ-5-7:高齢者の類型と必要とされるアクション
(資料)出典:武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」
(「超高齢社会における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
5-2-3
医療介護連携など地域包括ケアの重要性
高齢者の増加に伴い、在宅医療を中心とする地域包括ケアを充実させること
が地域の喫緊の課題となっている。この地域包括ケアを円滑に実施するために、
医療・介護事業者を含む多職種連携が重要であり、これを支援するICTシステム
の活用も同様に重要となっている。これに伴い、衰えた身体機能を補助する介護
ロボットなどの需要拡大が見込まれている。
図Ⅱ-5-8:地域包括ケアシステムのイメージ
出典:厚生労働省HPより
72
<在宅医療推進のためのシステム構築>
○ 在宅医療においては、様々な専門職との連携が鍵となる。医師、看護師、薬剤師、
ケアマネジャー、訪問ヘルパー等の間で情報連携しながら、チームとなって包括
的なサービスを提供していく。
○ 現在、祐ホームクリニックでは 700 人程度の患者さんを見ている。ICT を使って、
医師や看護師が、スマートフォンやタブレットなどを駆使し患者さんの情報を連
携するシステムを 3 年くらい掛けて構築してきた。
○ 今後さらに重要となる医療と介護の連携については、現状、医療系と介護系は共
通の言語でやりとりすることは難しく、お互いの目的も違うため、本当に必要な
情報を共有するのは難しい。このため、情報共有のためのガイドラインが必要と
なる。
○ 我々は、訪問記録の共有、メッセージの共有、スケジュールの共有が出来るシス
テムを構築した。また、情報入力の代行センターを配置するなどクラウドのシス
テムを利用して、情報共有を実践中である。このシステムの患者へのメリットは、
遠く離れている家族が、患者が今どんな状況なのか知ることができる点である。
医療・介護関係者などに家族からメッセージを送ったり、我々が訪問した結果を
家族と共有することもできる。
≪医療法人鉄祐会
祐ホームクリニック
理事長
武藤
真祐≫
図Ⅱ-5-9:STEP2:ICT を活用した医療・介護事業者・家族との
チームケアシステム
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」
(「超高齢社会における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
73
5-2-4
高齢者に対する生活支援サービスの重要性
高齢者単独および高齢者夫婦のみの世帯は年々増加。このような高齢者の
みの世帯は徐々に生活手段が乏しくなり、これを支える生活支援サービスの需要
は高まっている。高齢者の健全な生活の確保自体が地域活性化のベースである
とともに、ICT システムを含む生活支援サービス需要拡大を地域でどのように取り
込むかが地域活性化にとって重要である。
図Ⅱ-5-10:平均世帯人員数、高齢者単独+夫婦のみ世帯割合
(資料)出典:武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」
(「超高齢社会における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月)
図Ⅱ-5-11:石巻医療圏
健康・生活復興協議会
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」
(「超高齢社会における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
74
<祐ホームクリニックの提供する生活支援サービス>
○
石巻で分かったことは、医療も介護も大事だが、その先の生活へのサポートがな
いと成り立たないということ。在宅被災世帯が支援を必要としていたため、石巻
医療圏 健康・生活復興協議会を立ち上げ、お家を一軒一軒訪問して、そこで得ら
れた情報をクラウドに入力し、住宅支援チームや心のケアチームなどと情報共有
をした。その結果、高齢者はその地に住み続けたいと思っていることが分かって
きた。しかし、それは相当難しい状況ということもわかった。なぜなら、その地
域で生活に必要なものを手に入れるのが難しい状況であったためである。例えば、
震災によりバスが来なくなったり、近隣に買い物が出来るお店がないという状態
であった。これは、高齢化が進行して、過疎化し、生活インフラが破綻する高齢
社会の特徴と重なる。
○
我々は、コミュニケーターと呼ばれる居宅への訪問支援員を配置して、宅配業者
などが高齢者の見守り、簡単なアセスメントをするシステムを考えた。さらに、
その方達が持っている生活情報を生活支援クラウドに入力してもらって、我々の
持っている医療情報と共に分析することで、この人にとってはこうした食事や運
動が良いなどのアドバイスができるようなサービスを目指している。このシステ
ムには、介護旅行や家の修理など民間が行っているサービスも含まれている。こ
のような包括的な情報を収集するプラットフォームをつくることで、どの企業も
その高齢者と接点が出来るようになる。企業の支援を受けながら、昨年の 10 月か
らシステムが稼働してみた。今後はさらに、医療情報と介護情報との活用を通し
て、最適なサービスを作っていきたいと考えている。
○
高齢者に対するサービスの中で、食事は大きな位置を占める。高齢者における最
後の楽しみは、食事という方も多い。被介護者の中には食事制限がある方も多く、
美味しく食事ができなくなれば、唯一の楽しみがなくなってしまう。そうした中
で、クラウド情報を駆使し、各被介護者の方の食事制限について把握し、医師や
管理栄養士が考えた、その人が食べることができる最善のメニューを提供したり、
関連する商品やサービスを提案するモデルの検討を始めている。
○
医師などが持っている抽象的な情報を、高齢者が手にする具体的なサービスや商
品に置き換えることができれば、大きなビジネスチャンスになると考えている。
≪医療法人鉄祐会
祐ホームクリニック
75
理事長
武藤
真祐≫
図Ⅱ-5-12:STEP3
高齢者への在宅医療・介護・生活の包括支援体制を構築
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」
(「超高齢社会における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
5-2-5
高齢者向け食品を通じた地域活性化の重要性
いくつかの地域には、食品加工が集積する工業団地や本物志向で全国的にも
知名度の高い加工食品の「食」と、オーガニック農園を始めとした農産物の生産
地としての「農」の強みを有している地域がある。また、地域の農業活性化を目指
して、産学官連携での高齢者食の開発をしているベンチャー企業がいる。このベ
ンチャー企業は、高齢者向けの食品加工技術を商品化している。
今後、地域の高齢者の増加に伴い、高齢者向け食品の需要が高まることは言
うまでもない。各地で行われている個々の取組や事業者のポテンシャルをうまく組
み合わせることによって、地域食材・農産物を地域で加工し、地域で提供するよ
うな地産地消型地域活性化モデルを実現していくことは重要である。
76
<神川町における有機野菜を使った食材の提供>
○
神川町では有機栽培を推進。有機農業推進協議会を設立し、有機野菜を使った食
材を積極的に提供。昨年、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことで有
名になった。
○
地元のヤマキ醸造という会社では、無農薬の認定を受けて、しょうゆ・みそ、豆
腐などを地元の有機野菜を使って生産。
○
ふぁーむニコでは、自社栽培の唐辛子を原料として自社工場で農産加工センター
を運営しながら「食べられるとうがらし」などの製造、販売を行っている。
○
有機栽培は生産物の値段も高いが、安心して食べられる利点がある。
○
「日本のうえん」経営者の妻である米国出身の「八須ナンシー」さんが有名。彼
女は、有機農法にこだわった養鶏場での卵の生産や、日本の農家の食事を英語で
紹介した「ジャパニーズファームフード」という本を出版したことでも知られて
いる。
≪埼玉県神川町
町長
清水
雅之≫
<本庄市の TML 社の活動>
○
T.M.L は早稲田大学のプロジェクト研究所において 11 年前から研究を開始した
ベンチャー企業。技術自体は当社と早稲田大学、埼玉県産業技術センターの共同
特許である。設立当初、事業を通じてどうすれば地域活性化を実現できるのかと
いう悩みがあった。農畜産業の活性化が地域活性化につながるのではないかと研
究を開始した。
○
農畜産業の栽培飼育技術は優れたものがあるが、なかなか輸出が進んでいないの
が現実。その理由は、付加価値化が進んでいないこと。付加価値化のために取り
組んだのが、食品加工技術。食品加工は海外からの技術が多いが、野菜、肉類な
どあらゆるものを日本独自の加工技術で差別化し、農業の生産法人を中心とした
6 次産業化の支援を通じて、全国に米、野菜の先端加工基地をつくりたかった。
このような先端加工工場などを建設すれば地域の雇用対策にもなり、また、地産
地消にも結び付く。加工技術を使えば調理も簡単にできるようになる。
≪株式会社 T.M.L
77
代表取締役社長
山川
裕夫≫
図Ⅱ-5-13:地域における高齢者向け食品を通じた
地域活性化のイメージ例
<一人暮らし高齢者向けの食品加工技術>
○
一人暮らしの方が困っているのは、お米の調理。米を炊くのは時間も手間も結構
かかるので高齢者の 70%が朝はパン食である。このため、一人前のお米を 12 分
で調理できる商品を開発した。細胞を壊していないので、風味を落とさず、手軽
なのにおいしく食べることができる。また、玄米は炊くのが大変であるが、水を
入れて 40 分で調理ができるようした。米は一定の温度で調理をしていくことで
全体のカロリーを変えないで甘みだけを増すことができる。肉についても高齢者
の方々が簡単に食べられる技術開発をしている。
○
栄養素を落とさないで調理することに気をつかいながら、全自動のマシーンを目
指している。これは、なるべく高齢者の方に簡単に食べて欲しいとの思いから。
≪株式会社 T.M.L
代表取締役社長
山川
裕夫≫
<ソフトスチーム技術の重要性>
○
コア技術は、ソフトスチーム技術。各農畜水産業に適用可能な高品質の高付加価
値を与えるもの。食品の高度差別化、地域振興、6 次産業化による特産品の開発
や TPP 対策にもつながる。また、少量多品種から連続生産にも対応している。
○
この技術を使った工場が全国 10 カ所で 15 台が既に稼働しており、各地域で野菜
の加工や菓子や米を加工している。
○
食品加工技術の具体的な仕組みとしては、正確に温度管理された湿度 100%の状
況で、素材ごとに最適な条件をプログラム管理するというもの。下処理が必要な
料理において、用途に応じて最適な下処理が科学的に工業生産する仕組みを開発
した。
78
○
2 つの条件があり、①通常は 100 度以上の加熱をすると栄養の成分がとんでしま
う。そこで、100 度以下の 1 度単位で管理できる仕組みを開発し、それで特許を
取得した。②熱をかけると栄養素は逃げてしまうので、組織細胞を壊さないで最
適な加熱ができる仕組みが必要だった。これを使えば栄養素とうまみ成分が中に
残る。
○
加工した商品はソフトスチーム野菜としてデパートやスーパーなどで広く販売さ
れている。
≪株式会社 T.M.L
代表取締役社長
山川
裕夫≫
Ⅱ-5-3
「超高齢先進国」発信を通じた地域活性化のための課題
5-3-1
地域ごとに異なる高齢化の進展状況に応じたニーズの存在
我が国の高齢化の進展状況は、地域ごとに大きく異なっている。
東京・神奈川などいわゆる都市部においては、今後30年間急速に高齢者が
増加し、さらに、高齢者単身世帯又は老老介護世帯や認知症高齢者の増加に
よって、医療・介護サービス需要の大幅な増加が見込まれている。しかしながら、
都市部においては特別養護老人ホームの建設等がコストや用地確保等の観点
で難しく、都市部だけでは十分な医療・介護サービスを高齢者に提供できない可
能性に直面している。一部の自治体では、郊外の自治体と協定を締結して、当
該自治体の高齢者用の特別養護老人ホームを郊外に建設する計画を進めてい
る。
図Ⅱ-5-14:都市部で増加する高齢者
(資料)武藤真祐「2020 年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた超高齢社会日本の挑戦」
(「超高齢社会における地域のケアサービスと食を通じた地域活性化」シンポジウム(2014 年 4 月))
79
図Ⅱ-5-15:杉並区・静岡県南伊豆町の自治体間連携による
特別養護老人ホームの整備計画
○
現行制度では住所地特例が後期高齢者医療に引継が
れず受入れ側 に医療費負担が発生するため、
厚生労働省に改正を要望中。
(資料)平成 25 年 10 月 7 日(月)日経新聞
5-3-2
朝刊
地域における高齢者向けケアタウン
このような状況の中で、郊外の一部地域においては、今後 30 年間での人口が
減少傾向と、それに伴う自治体消滅の危機が叫ばれており、対応が求められて
いるところ。
一部の自治体では、相対的に地価等が安価であること等から「サービス付き高
齢者向け住宅」の建設が進んでいる。高齢者と併せて医療・介護関係事業者を
地域に受け入れることによって、地域活性化(消費増加)、地域コミュニティの維
持等を目指すことも重要な視点である。
図Ⅱ-5-16:日本創成会議のレポート(自治体消滅危機の事例)
(資料)平成 26 年 5 月 5 日付
80
日本経済新聞 朝刊
高齢者を受け入れて街づくりをする場合(この街の呼称を「高齢者向けケアタウ
ン」とする)の自治体のメリットとしては上記の通りであるが、現状ではいくつかの課
題がある。具体的には、高齢者を受け入れる場合の財政負担増と、地域住民と
のコミュニケーション確保である。高齢者の立場からすると、住み慣れた土地での
生活の継続とそこで受けられるケアサービスを含めた生活の快適度合いとそれに
対する様々なコストのバランスの問題となる。
中間的な解決策として、週末のみ地域で過ごすスタイルや、比較的若年の段
階での移住などが挙げられている。
図Ⅱ-5-17:地域における高齢者向けケアタウン(仮称)のイメージ
現状この問題には明確な方向性が示されておらず、今後の大きな課題となっ
ている。超高齢社会をどのようなシステムで乗り切っていくのかは、地域だけでは
なく国全体として考えるべき重要なテーマである。2020 年の東京オリンピック・パ
ラリンピック開催までに、議論が進むことが望まれている。
<住所地特例について>
○
現状の介護保険制度では、被保険者が住所地以外の市区町村に所在する介護保険
施設等に入所等をした場合、住所を移す前の市区町村が引き続き保険者となる特
例措置が設けられている。しかしながら、医療保険制度上では、施設等入居後に
75 歳を迎えた場合に国民健康保険の住所地特例が後期高齢者医療に引き継がれ
ない(施設所在地の後期高齢者医療広域連合が医療保険者となる)といった問題
が指摘されており、制度間の整合性を図っていく必要がある。
≪関東地方産業競争力協議会「関東地方産業競争力強化戦略」(平成 26 年 3 月)≫
81
<高齢者転入政策の課題>
○
高齢者施策について、今後、団塊の世代が高齢者になることへの危惧もあり、高
齢者が安心して暮らせる住まいの確保や福祉サービスとの一体的な供給の必要性
が言われている。
○
神川町には特別養護老人ホームが 2 カ所あり、人口割合からすれば多いし、地元
の方は元気な方が多いのでなかなか利用しないが、日本全体では 52.2 万人の待機
者がいるので需要はあると思われる。
○
さらに問題なのが、サービス付き高齢者住宅(サ高住)が多く建設されている点。
現在サ高住関連の施設が 7 施設整備されており、協議中の 1 施設を入れると 287
戸分になる。行政の立場から、過剰施設ではないかと非常に心配しているところ。
○
町としては人口が少ないので外から人が入ってくることは人口増につながって良
いように見えるが、マイナスの面もある。それは、外からきた高齢者達を受け入
れる側が抱える問題として、重度医療費の負担、後期高齢者の医療費負担、生活
保護の介護給付負担、成年後見制度の負担など、受入れ市町村の歳出の負担が増
えてしまうことがある。さらに、システムとして完全ではない住所地特例が課題
である。
○
高齢者転入の 2 つ目の課題は、地元とのコミュニケーションの問題。昨年ある事
業者が高齢者向け施設を建てたいと協議に来た。地元との合意をもらわなければ
いけないのだが、地元の方が全員反対であった。この理由は、特に外部からの入
居者であるため、転入者と地元住民との接触がほとんど無く、コミュニケーショ
ンが成立しないため。そもそもこうした施設に入る方はそうした傾向が強いとい
う見方も影響している。
○
救急車など医療資源の問題がある。町には 2 か所の消防署の施設があるが、特養
などの施設が増えることで、救急車の出勤がそれらの施設に偏る可能性が高いこ
とに対する反発がある。そもそも田舎には医療機関が少なく、地域住民でさえ十
分な医療が受けられないのに、施設ができて、高齢者が増えることで、更に十分
な医療を受ける機会が減るのではないかという危惧がある。
○
こうしたコミュニティの問題が解消されれば良いのだが、簡単には上手くいかな
いのが現状。都会の高齢者の方が何のゆかりも無いところに入居するよりは、慣
れ親しんだところで生活するのが良いのは当然である。
≪埼玉県神川町
82
町長
清水
雅之≫
<高齢者転入政策の課題解決のアイデア>
○
都市と地方との融合による新たな社会システムを模索することの必要性は理解す
るものの、いろいろなやり方があるのではないか。自然環境に恵まれた地方は自
分らしい生活をする新天地と見えるが、移住スタイルは一つではない。完全移住
だけでなく、週末移住やシーズンステイなど、2 地域居住に注目が集まっている。
最近は週末暮らしで農業をやっていたサラリーマンが新規に就農して、田舎に住
むケースも増えている。
○
町からの提唱としては、要介護になる前からの居住、2 地域居住である。高齢者
の転入の場合は、受入市町村の財政負担軽減がなければならない。都会の方が週
末に農家を手伝うという形は、町にとってメリットがあり、推進したい。町には
優良農地が多くあるので、農業を含めた雇用創出を目指したい。
○
健康な内に地域に来れば、コミュニティの問題も解消されると思う。快適な環境、
快適な人間関係、快適な暮らしと共存できる形であれば推進してきたいと思って
いる。
≪埼玉県神川町
町長
清水
雅之≫
図Ⅱ-5-18:地域への高齢者移住のメリット・デメリットの一例
メリット
自治体
デメリット
・人口増加(高齢者に加え高齢者に
・既存住民とのトラブルの懸念
ケ ア サ ー ビ ス を提 供 す る 若 手 従 業
・負担増加(後期高齢医療費の負担増
員増など)
加など)
・地域産業振興(農業、食品加工業)
高齢者
・環境のよい地域・施設でのケアサ
・住み慣れた環境でないため、現地で
ービスの享受
のコミュニケーション等がうまくい
・農地など自然環境の中での生活
くか分からないことに対する不安。
83
(参考)
超高齢社会を支える食の重要性について
今後到来する超高齢社会においては、生活に直結する「食」の役割が重要で
ある。
近年の食生活環境の変化に伴い、大人の食に対する意識が低くなっており、健
康保持の観点から、大人の「食育」が重要である。他方で、健康ばかりを志向す
ると味気ない食事になり食欲が落ちてしまう。食が生活と一体であることを踏まえ
て「楽しい食事」の提供を心がけることが重要である。
なお、比較的安価で栄養や健康に配慮されて作られている病院食や学校給
食に対して、海外からは驚きをもってみられていることから、2020 年に発信する
我が国の魅力となり得るものである。
<大人に対する健康食に関する教育の重要性>
○
日本の都道府県の長寿率を見ると、昔は沖縄県が一位だったが、最近では、長野
県が一位となっている。長野県は、これまで長寿率ワースト何 10 位であったが、
近年になって大きく順位をあげた。長野県が行った具体的な取り組みとしては、
食事の塩分を抑えること(例えば、一日味噌汁一杯運動)、日々の食事に野菜を取
り入れることなどを強力に推奨した。
○
一方沖縄県は、コンビニエンスストアやファストフード店が増えて、資質の多い
食事をする機会が増えたことで、長寿率の順位を下げたと考えられる。このよう
に、脂質や塩分についての教育が重要となってくる。
○
ここで知っておいて欲しいことは、日本人の体は欧米化に耐えられないというこ
とである。欧米人はある程度太っていても、長生きする人が多くいるが、日本人
は、体質的にそうはいかない。日本人の体は、脂質に対して、欧米人ほどの耐性
を持っていないから。
○
日本の場合、小学生までは、給食でどのようなものを食べれば良いかの基礎教育
が徹底されているが、だんだん大人になると、通常は奥さんに任せっきりにした
り、病院に入れば、栄養士など専門家に任せっきりにしている。
○
長生きするためには、長野県の場合と同様に、食に関する基礎教育を大人になっ
ても継続することである。しかしながら、食に関する基礎教育はなかなか難しい。
自分の子供が病気になって、食に関して注意したのだが、うまく伝えられなかっ
た。
○
伝えるべきことは、例えば、1 日に摂取すべき食事の量。具体的には、ご飯であ
れば 350~400g、野菜であれば 350g、たんぱく質であれば魚、肉、大豆など
150g、牛乳 200cc、果物 1 つとすればいい。しかし、この内容をどうやって、
84
小学生などにわかりやすく教えるかがノウハウである。例えば、私は、小学生に、
げんこつ何個分で教えている。
「4・3・2・2・1」と教えていて、その意味として
は、炭水化物は一日にげんこつ 4 個分の量をとるとよい、加熱野菜はげんこつ 3
個分の量、タンパク質はげんこつ 2 個分の量、牛乳は 200cc、果物はげんこつ
1 個分の量、ということで、1 日の食事での摂取量をおおまかに表している。お
塩についても小さじ 1 杯と教えている。
○
日本人の体質的には油はあまりとれないということを述べたが、後期高齢者で塩
分調整が難しくなった方に対して、一律に和食をすすめることはできない。なぜ
なら、和食は煮汁、具などを使うことによって、塩分計算が難しいからである。
そこで、高齢者には根菜を蒸したりすることをおすすめしたい。蒸した野菜であ
れば、加熱野菜を食することができる上に、塩も少しふりかけるぐらいで十分で
あるからである。
○
これから健康長寿の方が増えていくのに大切なのは、子供の食育が流行っている
が、大人の食育が重要である。病気になる前の対処が大事であり、健康でいるた
めには、まず食生活を正す必要があるからである。
≪株式会社 REKIDS
代表取締役
行正
り香≫
<楽しい食事の重要性について>
○
食事を楽しくしようという意識を持つことが重要である。食事は社交の場である
という考え方を持たないと、なかなか楽しい食事にならない。病院の子供達は以
前は TV を観ながら食事をしていたと聞いていたが、今は集まる場所を作って食べ
ることにしている。
○
海外の食事について述べると、学校での給食など、確かに食事自体は日本に比べ
ると粗末な場合があるが、食事をする部屋は、間接照明を使ったり、音楽をかけ
たり、キャンドルなど楽しくなる工夫をしている。
○
楽しい食事の場を作り出すために、提案したいのは、ある意味、栄養士は技術師
で、料理人はクリエーターといえる二人を結び付けるコーディネーターの存在が
必要だということ。
○
デイケアの方などで、日々の献立を考える際に参考にして欲しいことは、まず主
菜から考えようということ。例えば、肉魚肉魚と交互にもってきたり、牛肉豚肉
鶏肉と同じ肉でも、種類を変えることが有効である。月曜日から日曜日までの毎
日の主食・主菜・副菜・小鉢・汁物などすべてを考えようとするのではなく、ま
ずは各日の主菜を考えることで、全体的な献立も立てやすくなる。
○
私たちは、イタリアンや中華など色んなものを食べて生きてきたので、高齢者に
なったら和食だけでは飽きてしまう。例えば週に 1 回はラーメンデーなど、飽き
85
させないというのも日々の献立を考える上で重要である。毎日、ガチガチの健康
食では、食べる方も疲れてしまい、食べる気力を失ってしまう。食べることとい
うのは生きる事につながっている。どういう楽しみがあるのか、自分がもし病気
になったときにどういう食事が出てきたら嬉しいかを俯瞰しながら考えていかな
ければならない。
≪株式会社 REKIDS
代表取締役
行正
り香≫
図Ⅱ-5-19:日本食文化の特徴
(資料)行正り香氏説明資料「日本食プロモーションから始める地域活性化プラン」(第 1 回検討会)
<日本の病院食について>
○
経験がないため後期高齢者の献立の話はできないが、自分の子供が 10 か月程長
期入院をした時に、病院でどういう食事が治療のために提供されるかを経験した。
病院食のメニューは、なぜ日本食が世界から注目をされているかにも通じるとこ
ろがある。それは、①油の少ない食事、②お米を中心とし、加熱野菜が豊富に提
供されること、③お金のあるなしにかかわらず、その人にそったメニューになっ
ていること、3 つの要素である。
○
日本の病院で出されている食事は、対価を伴う(特別食のような)ものなのかと
知り合いの外国人からよく聞かれる。外国人にとって、病院で、対価を伴わずに
あれだけの食事ができることは驚きなのである。海外では、入院しても、それ相
応の対価を払わなければ、日本の病院のような主食・主菜・副菜・小鉢・汁物・
フルーツがついたような食事がでることはない。
○
このような日本の病院食の制度はオリンピック、パラリンピックの時に最も世界
に誇れるものであり、また、これが日本人の長寿の要因なのではないか。これは、
戦後日本で給食制度ができたときから続いており、その頃から、健やかな成長の
ために必要な献立が考えられていた。海外と比較すると非常に良い食生活を送っ
ている。
≪株式会社 REKIDS
86
代表取締役
行正
り香≫
Ⅲ.地域活性化のためのおもてなし戦略プランを実行するための視点
~地域活性化に必要な「新たな価値」をつくるために~
前章では、テーマとして挙げた 5 つの我が国の魅力ごとに、2020 年にその魅力
を地域で発信しつつ地域の活性化を実現していく取り組みについてみてきたが、
シンポジウムの登壇者等から頂いた御意見の中には、個々の具体的なテーマに
とどまらない地域活性化に取り組む際に考慮すべき重要な事項が含まれている。
この章では、テーマ毎にまとめられた「地域活性化のためのおもてなし戦略プラン」
(Ⅳ章で記述)を実行する上で共通に留意することが望ましい事項をまとめてみた
い。
そもそもの出発点として、地域を現在よりもさらに活性化するためには、現在そ
こにはない「新たな価値」を作らなければならない。そのためには、①既に地域に
あるモノを再発見して活用すること、②現在はないモノをどこからか用意して付加
すること、場合によっては、③単独の地域だけで取り組むのではなく広域で連携す
ること、が必要となる。さらには、地域活性化には長い時間がかかることから、基
本となる活性化のための方針(コンセプト)をしっかりと立てることが必要ではないだ
ろうか。以下では、この流れに沿って、地域活性化に取り組む際に考慮すべき重
要な事項について記述する。
Ⅲ-1.既に地域にあるモノを再発見すること
地域には、地域の人には日常的でめずらしくないが、他の地域の人にとっては
非日常的なめずらしい、魅力的なものが存在する。地域活性化の第一歩は、地
域にあるモノを再評価して、その価値を再発見するところから始まるのではない
か。
<くまもとサプライズ運動>
○
「くまモン」の経緯は、2010年にさかのぼる。2011年春の九州新幹線全線開通に
よって、九州、さらにいえば熊本と大阪が新幹線でつながることになる。全線開
通前には、大阪から熊本に来るには、博多まで新幹線で来て、そこから在来線を
使わねばならず、観光客はなかなか来なかった。今回の新幹線開通の経済効果は
大きいと考え、大阪からの観光客の獲得を目的として、放送作家の小山薫堂さん
に熊本県PR活動についてお願いしたところ、小山さんは、
「くまもとサプライズ
運動」を提唱された。
87
○
地域づくりを手っ取り早くやるには、東京ディズニーランドのような箱ものを考
えると思う。しかし、2010年当時、我々が考えていた「くまもとサプライズ運動」
は、私たちは身の回りのものを再発見しようというスタンスだった。熊本県には
路面電車がある。街の人からすれば、いつもの風景でなんてことないものだが、
観光客からすると、お城の下に路面電車が走る街があるというのは、なんともい
えない良さがあると言っていた。また、頻繁に海沿いの街にモヤがかかるが、地
元の人にとっては視界が悪くなり、うっとうしいものでしか無かったが、域外か
ら来た観光客は、口々にとても美しい景色だなと言っていた。自分たちにとって
は日常でも、外からの人にとっては非日常であるということを発見する必要があ
ると感じた。そういったものをアピールしていけばいいと思うし、観光客の方達
には非日常を感じてもらえればと思う。
○
これが、くまもとサプライズ運動である。他の分かりやすい例で言うと、B級グ
ルメなどはそういったものの典型例だと思う。
≪前
熊本県東京事務所
所長
佐伯
和典≫
図Ⅲ-1-1:公共スペース利用例
出典:熊本市作成
出典:佐伯氏 シンポジウム講演資料より抜粋
「熊本市における路面電車・LRTに関
する取り組み」
88
Ⅲ-1-1
「個性」を打ち出す
埋もれていた価値を再評価し、その価値を体現している対象物を新たにプロデ
ュースして発信していくためには、他の地域に存在するモノとは異なり、その地域
を代表する「個性」を打ち出す必要がある。さらには、地域のほとんどの人にこれ
まで見過ごされていた「価値」を取り上げて発信するためには、それを取り上げる
人の強力なリーダーシップが必要となる。逆に言えば、強力なリーダーの下では地
域活性化が成功する可能性が高いのではないか。
図Ⅲ-1-2:シンガポールの都市計画
出典:菊川工業様 シンポジウム講演資料より抜粋
「イスカンダル計画」
シンガポールと対岸のマレーシアの都市ジョホールバルと共同で巨大都市圏を構
築しようとする計画。総投資予定額は 10 兆円、計画人口 300 万人という近年稀に見
る巨大プロジェクトであり、現段階で 3 兆円が投資されている。2025 年までに、「金
融」、「医療・教育」、「湾港」、「テクノロジー・物流」、「空港」の 5 つのテー
マを元に最終的な完成を目指す。
<地域らしさの重要性>
○ 地域の開発をする際には、何を売りにするのかいうことを建築物も含めて、とこと
ん詰めておくことが大事だと思う。差別化だろうと思うが、先ほど紹介された 4 大
都市で東京が一番下にあるのは、東京って何ですかと言われたときに東京らしさが
89
はっきりしないところ。同じように地域でも地域らしさがあるはずで、それを明確
にしなければいけないと思う。そのための意思決定は、合議制ではできないと思う。
過去歴史に残った建物を作ったのは、独裁者であった。シンガポールがなぜ上手く
いっているかと言えば、シンガポールは歴代一族の国家であるから。そのため、世
界からセレブを呼ぶ、一人当たりの国民所得をトップクラスにするといった明確な
目標を設定できる。我々日本においても、強いリーダーが出てきて、東京オリンピ
ックの売りが何なのかを早く決めて、それに向かって開発やコンテンツが行けば良
いと思う。
≪菊川工業株式会社
図Ⅲ-1-3:熊本県作成
代表取締役社長
宇津野
嘉彦≫
九州観光パンフレット
出典:(公社)熊本県観光連盟
<くまモンにおける県知事のリーダーシップ>
○
知事がくまモンを作ったといっても過言ではないと思う。本来行政に、くまモン
のようなコンテンツを使って民間を応援しようなんて発想はない。まして、県外
企業にまでその支援を広げるなんて発想はない。そのような状況の中で、知事は
くまモンを使ったPR活動を全力で推し進めた。我々は、マクロな視点で活動を
していた。マクロな意味で熊本を感じて頂ければと思っていた。
○
ミクロな視点、つまりどこの地域ではよく売れていて、どこの地域では周知が進
んでいないなどはとりあえず置いておいて、まずは詳しいことはいいから「熊本
県」という名前だけ、
「くまモン」っていう何かわけのわからないキャラクターが
いるということを知ってもらうことに努めた。
○
具体的な活動としては、例えば、熊本が作った九州全体のパンフレットというも
のがある。こんなことは今までにはない。九州全部のことを平等に載せて、かつ
それを熊本県が単独で作るのは、まさにマクロの視点である。
≪前
90
熊本県東京事務所
所長
佐伯
和典≫
Ⅲ-1-2
「ストーリー」を作り、発信する
地域を訪問しその地域に興味を持ってもらうためには、外観という「視覚」に訴
えるだけでは十分ではない。その建物や文化遺産、もしくは伝統工芸品などが作
られた背景・歴史、もしくはその建物の建築などに関わった人の活動の歩みなど、
学ぶべき「物語(ストーリー)」を提供することで、「知覚」が刺激され、その地域に
対する関心が深く、かつ持続的になる可能性がある。リピータもしくはファンを増や
す観点から、「ストーリー」を用意することが重要である。特に、日本に興味をもつ
外国人はストーリーに関心を持っているという見方がある。
ただし、長いストーリーは、人によっては敷居が高い場合がある(日本人にはこ
の傾向があるという指摘がある)。このため、ストーリーにたどり着くための仕掛けが
必要となる。その仕掛けと併せて、ストーリーを発信していくことが重要である。
<絹産業遺産群の活性化におけるストーリーの必要性>
○ 私の中で、世界遺産とは目で見て感動するイメージがある。しかし、今回の絹遺
産群は、目で見て感動する類のものではない。つまり、そこにストーリーがない
とうまくいかない。ストーリーを伝える手段として、アニメだとか、マンガだと
かが重要なツールとなりうると思った。
○ これから大事なのは、物語を作っていくことだと感じた。ストーリーを中心に据
えて物事を考えていく。ストーリーがあれば、必ず頭に残るものとなりうると感
じた。とにかく、絹遺産群を活用した地域活性化のためにも、物語を考えること
から始めて、地域連携のモデルケースとなれればと思う。
≪サンデン株式会社
専務取締役
高橋
貢≫
図Ⅲ-1-4:富岡製糸場
出典:富岡製糸場HPより
91
<ストーリーまでたどり着くための工夫の重要性>
○
一般の消費者が「ストーリー」までたどり着くための工夫が必要。関心を持ってもら
えるための仕掛けが重要。三条市の場合は、ピンクのデザイン。それを前提に「スト
ーリー」についてお話しすると、伝統技術に立脚した地場産業には、現代の資本主義
から脱却した価値がある。それを「ストーリー」として提示することはその価値を見
える化する手段だと思う。
「安ければ安い方、同じ値段であればよりセンスの良いもの
を買う」という考え方に資本主義は立脚しているが、伝統工芸品はそれと同じ土俵で
は戦ってはいけない。伝統工芸品ひとつひとつの「ストーリー」を消費者が咀嚼して
いくことは無理だが、関心を持つ消費者をそっと入り口に後押しをするための「スト
ーリー」を提示することはできるのではないか。
○
例えば「伊勢神宮の式年遷宮を 2,000 年以上、三条地域の金物は支えてきた」と「ス
トーリー」を提示することで、消費者は三条地域の金物製品の長年にわたる伝統に裏
付けられた高い品質を想像することができる。歴史に関心のない人に対しては「街か
ら立ち上るものづくりの匂い」という「ストーリー」を発信することで、ものづくり
に関心のある人に来てもらえるのではないか。
≪新潟県三条市
図Ⅲ-1-5:新潟県
「燕三条
市長
國定
勇人≫
工場の祭典」
出典:國定氏 シンポジウム講演資料より抜粋
<ストーリーを理解してもらう作品の重要性>
○ 大量生産品とは違い、伝統工芸品は職人が 100 個試作してやっとその中の1つが商
品化できるもので、高価格となる。ものを作っている現場を見たり、職人と接する
ことで感覚として理解できるもの。現代の生活の中で必要とされる商品を消費者が
取捨選択できるよう工芸品の技術や機能、背景を「ストーリー」として消費者に語
るだけでは不十分で、理解・実感してもらう作業が必要ではないか。
≪株式会社和える
92
代表取締役
矢島
里佳≫
Ⅲ-1-3
若い世代の積極的な登用と子供世代への働きかけ
これからの街づくり、ものづくり、伝統工芸などを担っていくのは、若い世代であ
る。若い世代が生き生きと活躍できるように、そしてさらにその子供がその後に続く
ような仕組みを作ることが非常に重要である。
1964 年東京オリンピックの牽引役は、当時の 40 代後半から 50 代と比較的
若い世代が担当し、各方面でその後の日本の牽引役となった。安定成長期以降
の日本では、年功序列・儒教精神などのキーワードが示すように、経験の長い者
が社会のリーダー役であるという見方があるが、来る 2020 年においては、そのよう
な日本のイメージを一新すべく、大胆に若い世代を登用することが重要ではない
か。
さらに、2020 年が今から 6 年後であることを思い起こせば、現在の「子供世代」
に対しても「日本の魅力」に対する関心を高めるよう働きかけることが重要である。
6 年後に、その子供達が自ら参加して、東京オリンピック・パラリンピックを盛り上げ
るような環境整備が必要である。
○
発信方法の具体例は、メダルの紐や装飾、聖火台への伝統技術の活用。メダルの紐
は真田紐、装飾には蒔絵、聖火台を全国の伝統産業・職人の技術を活かして製作す
るなど。その際、次世代の 20 代から 30 代の若手職人・デザイナー・プロデュー
サーの活躍の場を創出すべき。彼らを大人がサポートしている姿を発信し、日本で
は次世代を担う若者が輝き、活躍していると世界に PR していくべき。
≪株式会社和える
代表取締役
矢島
里佳≫
○ 地域、製作者が一体となってアニメ・マンガを活用。まちづくりの主体は団塊の世
代ではなく、30代、40代、さらにいえばもっと若い人達。その人達の感性で取り
組んでいくことが重要。
≪株式会社ヒューマンメディア
代表取締役社長
小野打
恵≫
図Ⅲ-1-6:若手デザイナーの活躍
出典:
「モノマチ」HPより
93
<ものづくりベンチャー支援、デジタル工作機器を備える試作工房“Garage Sumida”>
○
浜野製作所の自宅マンションの一部をものづくりベンチャー起業家向けにインキュベ
ーションオフィスとして提供し、早稲田の学生ベンチャーでロボット開発に取り組む
株式会社オリィ研究所の創業支援を開始している。同社は 2012 年 10 月に 4 人の若者
で設立された。創立者の吉藤オリィ氏は、小学 5 年生から中学 2 年生まで不登校で長
期の入院経験を持ち、
「孤独を癒すこと」をテーマとした遠隔型ロボット“Orihime”を
開発。“Orihime”にはカメラ・スピーカー・マイクが内蔵され、使用者がベッドの上
に居ても外部とコミュニケーションができるロボット。同氏のような優秀な若手人材
を呼び込み、墨田区をものづくりのスタートアップの聖地にしていく計画を推進して
いるところ。ものづくりベンチャー企業に共通する課題として、企画や制御、設計は
得意だが、量産向けのコストダウンを見据えた設計のノウハウがない。当社からアイ
デア出しをするなどタイアップしたものづくりの支援も行っている。
≪株式会社浜野製作所
代表取締役
浜野
慶一≫
図Ⅲ-1-7:「Orihime」
オリィ研究所の吉藤健太氏は、幼少期に長期の入院生活や引きこもりを経験し、人
と人とのコミュニケーションの可能性を実感した。その体験を出発点に、人工知能を
利用したものではなく、あくまで人対人のコミュニケーションの可能性に注目し、あ
えて人工知能を搭載しないコミュニケーションツールとしてのロボット「OriHime」
を開発した。
出典:オリィ研究所 HP より
94
Ⅲ-2.今、地域にはないモノ・ヒト・コトを加える
既に地域に存在する資源だけで地域が活性化するとは限らない。不足してい
るモノ・ヒト・コトを調達するなどの対策が必要となる。その際に、現在持っている資
源は何か、何が不足しているのか、という真摯な検討が必要である。
Ⅲ-2-1
特徴的な空間の創出
観光客に感動を与える建物や風景は、地域活性化の大きな原動力となる可
能性がある。これについては、「Ⅱ-2.まちづくり、国土強靭化」を参考にされた
い。
図Ⅲ-2-1:パリ
「ルーブル美術館」
出典:菊川工業様 シンポジウム講演資料より抜粋
Ⅲ-2-2
「日本食」のサービスの創出
観光客にとって、食事は最大の魅力である。景観などに飽きてしまった観光客
も食事によって惹きつけられる可能性がある。地域に魅力的な食サービスを創出
することは重要である。これについては、「Ⅱ章 4.伝統文化、日本食」を参考に
されたい。
図Ⅲ-2-2:日本食
出典:農林水産省 HP より
出典:全国すし商生活衛生同業組合連合会
95
Ⅲ-2-3
新たなPR手法の導入
地域が活性化していないのは、有効な PR が行われていないことが一つの要因
である可能性がある。この報告書で示した「アニメ」「ゆるキャラ」の活用などを検
討することが有効である。これについては、「Ⅱ章 1.アニメ・マンガ等ポップカル
チャー」を参考にされたい。
図Ⅲ-2-3:ゆるキャラ・アニメ活用例
出典:小野打氏 シンポジウム講演資料より抜粋
Ⅲ-2-4
外国人を地域に招くという視点を持つ
東京オリンピック・パラリンピックの機会に地域を活性化することを考える場合、
「外国人」の目線を持つことが重要である。例えば、地域を訪れる際にスムーズに
道の案内ができるのか、など。十分な標識や案内者の確保が難しい場合には、
街を案内する多言語対応のアプリの準備などが必要となる。
また、中長期的に地域を活性化するためには、当該地域に愛着を持ってくれる
「ファン」を増やすことが必要である。外国人が短期滞在で地域を訪れた際には、
おもてなしの心で最大限のサービスをすることが重要である。地域の職人などは
日本人相手でも会話がはずまない場合があるが、外国人に対する円滑な説明な
ど「提供するサービス」に対する準備をしっかりとして、本番の1年程度前には準
備が完了していることを目標にすることが重要である。
96
加えて、日本に来ることができない外国人に対して現地で日本の魅力に触れ
てもらう機会として、例えば、現地の日本大使館などで類似のイベントなどを開催
することも重要である。
さらに、海外のファンを中長期的に作るためには、例えば、海外から若い世代
を留学生として招き、当該地域の文化や生活習慣、特産品などを実際に体験し
てもらい、その体験を母国に帰って伝播してもらうなどの中長期戦略が重要であ
る。
Ⅲ-2-5
クリエイター等のクリエイティブ人材の招聘
Ⅱ-3-2-4やⅡ-4-4-2に述べたように、もの作りや伝統工芸品の付加
価値を高めて地域を活性化することを考える場合、「クリエイター」等のクリエイテ
ィブな人材は不可欠であるが、そのような人材は必ずしも地域に存在するとは限
らない。地域にとって好ましい存在であるかどうかの見極めは個々には必要である
が、地域外からそのような人材を招聘することに抵抗感を持つことなく、積極的な
活用を検討することが重要である。
Ⅲ-2-6
新たなプロジェクトへの積極的な挑戦
地域を活性化するためには、モノとヒトだけでは十分ではない。「コト」が必要であ
る。地域活性化にとって有効な「コト」は何かは地域ごとに判断するしか手立てが
ないが、何か「コト」を始めないことには何も始まらないことも事実である。地域で追
求すべき中長期的なコンセプトの設定をしつつも、遅れることなく、大胆に「コト」に
取り組んで行く勇気を持つことが重要である。この報告書に示したおもてなし戦略
プランを参考にして、地域のプロジェクトに挑戦して頂くことを期待する。
97
Ⅲ-3.地域を超えて「骨太」にする
Ⅲ-3-1
広域連携の重要性
地域を活性化する場合、「個性」が重要であると先に述べた。他の地域にある
モノは、その地域の顔にはなりにくいからである。このような場合は、地域間の競争
がおこり、差別化に力が入ることになる。しかしながら、2020 年の東京オリンピッ
ク・パラリンピック開催を睨むと、取り込むべき顧客は海外からの訪問客である。彼
らにとっては、九州は一つであり熊本と福岡の違いは有意ではない。今後、海外
に向けて我が国の魅力、地域の魅力を発信する際には、くまモンを活用した九州
観光の PR の事例を挙げるまでもなく、単独の地域だけで取り組むのではなく広域
で連携することが重要である。
さらには、絹産業遺産の例を挙げれば、当該遺産を訪問する人にとっては、県
境などは有意ではなく、県境を越えた広域での魅力ある観光パッケージの提供が
有効であり、このような観点からも、広域での連携の有効性を今後各地で検討す
ることが重要ではないか。
<くまモンを介した広域連携の事例>
○
熊本県が作った九州全体のパンフレットというものがある。こんなことは今までには
ない。九州全部のことを平等に載せて、かつそれを熊本県が単独で作ったもの。
≪前
熊本県東京事務所
所長
佐伯
和典≫
図Ⅲ-3-1:知名度の高い「くまモン」を介した広域連携
(資料)佐伯和典氏講演資料「「くまモン」に学ぶ」(2014.5.15)より関東経済産業局作成
98
<「絹産業遺産群」を活用した地域活性化>
○ 世界遺産登録目前として話題になった富岡製糸場だが、その周辺には、いくつかの
地域に分散して絹産業遺産が存在する。群馬県の富岡市、藤岡市、下仁田町に加え、
隣県である埼玉県の深谷市などである。
○ 市町村、県をまたいでの広域連携を目指し、民間企業である「株式会社サンデン」
が発起人となり、既存の行政枠の壁を超えて、関係団体を集め、観光振興のための
連絡協議会を発足。
○ 観光地としての富岡製糸場だけではなく、遺産群内に立地する工場を開放して工場
見学・産業体験活動・ミュージアムの設置を実施するなど、単なる観光地ではなく、
目的志向型・体験型の観光地を目指している。
○ 「絹産業遺産群」に係る広域連携活動の根本にある思想は、一種のストーリーを形
作るということである。絹産業遺産を各地域で完結させず、広域のつながりを意識
し、絹遺産の歴史を伝えていく場所、絹遺産を実際に体験できる場所など複合的な
取り組みをもって、地域活性化を推進しようとしている。
≪サンデン株式会社
専務取締役
高橋
貢≫
図Ⅲ-3-2:サンデン(株)が主体となって取組む「絹産業遺産群」
出典:サンデン様 シンポジウム講演資料より抜粋
99
Ⅲ-3-2
情報発信拠点の構築の重要性
地域がバラバラに情報を発信してもその効果は大きくない。外国人は、日本の
情報を一元的に獲得できるサイトなどを欲している。例えば、日本のものづくりや工
業製品に関心を持っている外国人がものづくり現場を見学したい場合にアクセス
するサイトなどを国などの広域的な機関が構築することは有効である。
Ⅲ-4.地域活性化の方向性の明確化
地域を活性化するためには、長い時間がかかる。地域を活性化して、どのよう
な街をつくりたいのか。地域活性化の方向性は、街づくりの方向性と同様に、明確
なコンセプトが必要不可欠である。コンセプトがゆらぐと、過去から積み上げたもの
が無駄になる可能性があるからである。コンセプトを決めないまま、「できるところか
らやる」というのは危険である。我が国でよくみられる「できることをする」傾向を排
して、「何がしたいのか」を最初に明確にすることが地域活性化のリーダーにとって
非常に重要である。
<本物の重要性>
○ まちづくりというのは施設単体では物語は作れない、できるだけ広域的なエリア
でその物語を作っていくことが必要。
○ 六本木ヒルズは、11 ヘクタールあり複合用途があるのでそこでは一定の物語は作
れるが、その時に何を売りにしていくかが重要。ブランディングを考えるときの
キーワード、キーポイント、キーメッセージをきちんと作ることが重要だと思う。
例えば中国人観光客が日本に来て買い物をするときに、made in china の服では
買わない。なぜもっと made in japan をブランド化しないのか。
○ 先程来の話で言うと、まずは「本物であること」
「一番であること」を売りにする
ことが重要。東京らしさ、地方らしさ色々あると思うが、
「本物」
「一番」
「らしさ」
というのは強いキーワードになると思う。これをどうやって発信していくのか。
アニメを使ったり、ゆるキャラを使ったり、絹産業を使ったりする。そこからエ
リアに展開する物語が生まれてきて、必然的にそこにつくられる街の姿、目指す
べき姿というものが浮かび上がってくるのではないか。事業者の目線、住民の目
線、行政の目線など提供する側ばかりでなく、そこに来てくれる人、買ってくれ
る人がどう受け止めてくれるのかの視点が重要。
100
○ 両者に相互の関係がなく、独りよがりになってしまうと、提供者側がいくらこ
れは素晴らしいと言っても、素晴らしいのは分かるが僕には必要がないと言わ
れてしまう。
次につながらないと思う。日頃から消費者が求めている、旅行
や住まいなどのキーアイテムにつながる「物語」が必要であると思う。
≪森ビル株式会社
取締役常務執行役員
河野
雄一郎≫
Ⅲ-5.取組の時間軸と「日本」の発信の重要性について
この検討会議は、2020 年の東京オリンピック・パラリンピックを好機として地域
を活性化するための検討を行ってきた。しかしながら、先にも述べたように、地域
活性化は長い時間がかかるものであり、決して 2020 年がゴールになるわけでは
ない。2020 年を飛躍のための発射台としつつも、その先の着地や着地後の歩み
を視野に入れて、今後の取り組みを計画し、進めていくことが重要である。
地域の関係者にとっては、地域の将来をどうすべきかについて明確なコンセプト
が必要不可欠であることは既に述べたが、各地域の総体である「日本」としての方
向性も併せて重要であることは言うまでもない。今後、地域ごとの個々の努力を
支援するとともに、国としてのビジョン・国家として目指す方向性、発信すべき「日
本の良さ」について、明確にしていく取り組みが期待されるところであり、政府機関
の一主体である関東経済産業局としてもその取り組みへ貢献していきたい。
101
<2020 年東京オリンピックにおける「KYOSO」のストーリー>
○
2020 年までの 6 年をかけ、オリンピックでの「競争・競走」を通じた世界との「共
創・協創・共想」を目指し、各国が相互理解を深め、共に繋がり、共に競い、共に創
り、共に平和を目指すプロモーションテーマ「KYOSO」に基づき日本が世界に発信する
文化交流の戦略ストーリーを立案すべきである。
○
2020 年東京オリンピック・パラリンピックは日本の伝統文化・産業を発信していく絶
好の機会。先人達が育んできた他国にはない文化がかろうじて残っている。次世代に
受け継げるぎりぎりのタイミング。日本の産業・技術であり文化として発信すべくオ
リンピックに臨むべき。21 世紀の日本はゆるやかな経済成長と心の豊かさを追求する
文化大国であると世界に発信すべき。
≪株式会社ものづくり研究所
代表取締役
北條
規≫
図Ⅲ-3-3:プロモーションテーマ「KYOSO」
(資料)北條規氏講演資料「2020 年の日本が世界に発信するものづくり伝統文化の魅力について」(2014.6.3)より
抜粋
102
Ⅳ.地域活性化のためのおもてなし戦略プラン
Ⅱ章で示した視点を踏まえて、5つのテーマ毎に、「地域活性化のためのおもて
なし戦略プラン」(通称 おもてなし戦略プラン)を以下にまとめる。このおもてなし
戦略プランは、地域の企業や自治体の皆様が 2020 年東京オリンピック・パラリン
ピック開催というビッグチャンスを活用し、新規ビジネス創出や地域活性化に取り
組む際の参考やきっかけにしてもらうことを期待するものである。
図Ⅳ-1-1:「地域活性化のためのおもてなし戦略プラン」(再掲)
5つのテーマ(五輪)で、『お・も・て・な・し』
(アニメ・ポップカルチャー分野)
お もいっきり、若い日本を楽しんでもらう!
(まちづくり・国土強靱化分野)
も っと日本の街を強く、魅力的に!
て
な
し
(ものづくり・テクノロジー分野)
クノロジー in Japan としての「匠」、「革新」を世界に発信!
(伝統文化・日本食分野)
がい歴史を持つ日本の伝統文化や日本食を世界に発信!
(健康・医療・福祉分野)
っかりと高齢者を支えるシステムを世界に発信!
103
地域活性化のためのおもてなし戦略プラン」の項目
Ⅳ-1.アニメ・ポップカルチャー分野
・ プラン 1
・ プラン 2
地域を代表するアニメキャラクター・スポーツの祭典
アニメキャラクターが案内するテーマパーク列島「地元体験ツアー」
・ プラン 3
「Kawaii」ファッションの祭典
・ プラン 4
街中における臨場感体験型イベントの開催
Ⅳ-2.まちづくり・国土強靱化分野
・ プラン 5
「災害に強い都市」シンポジウム
・ プラン 6
「印象的な街」コンテストの開催
・ プラン 7
全国商店街特産品リレープロジェクト
Ⅳ-3.ものづくり・テクノロジー分野
・ プラン 8
ものづくり現場ツアー
・ プラン 9
スポーツ産業貢献中小企業 100 選
・ プラン 10
「ロボットスポーツコンテスト」の開催
・ プラン 11
Made in Japan
コーナーの設置
Ⅳ-4.伝統文化・日本食分野
・ プラン 12
「ザ・日本の祭り!」見本市
・ プラン 13
英雄たちへの伝統工芸品の贈呈イベント
・ プラン 14
ニッポンの埋蔵品コレクション展
・ プラン 15
「英雄たちの日本食」コンテストの開催
・ プラン 16
「パティシエコンテスト」の開催
・ プラン 17
「英雄たちの被災地訪問」記録映画の上映
Ⅳ-5.健康・医療・福祉分野
・ プラン 18
障害を持つスポーツ選手向けサポート器具コンテスト
・ プラン 19
元気な超高齢先進地域シンポジウム
・ プラン 20
スポーツビジネスアワードの表彰式典
※
具体的なプランの企画、実施に際しては、オリンピック・パラリンピックの知的財産権等の侵害とならぬよう、
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、日本オリンピック委員会、日本パラリンピック委員会
等に事前に確認していただきますようお願いいたします。
104
Ⅳ-1.アニメ・ポップカルチャー分野
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
105
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106
Ⅳ―2.まちづくり・国土強靭化分野
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107
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108
Ⅳ-3.ものづくり・テクノロジー分野
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109
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110
Ⅳ-4.伝統文化・日本食分野
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111
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112
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113
Ⅳ-5.健康・医療・福祉分野
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
114
115
Ⅴ.おわりに
昨年 12 月に第 1 回検討会を立ち上げ、本年 4 月から 6 月にかけて 5 つのテ
ーマをコラボレーションするシンポジウムとして、「超高齢社会における地域のケア
サービスと食を通じた地域活性化シンポジウム」、「地域活性化に資する我が国
の魅力的な街づくりとその発信のためのコンテンツ活用シンポジウム」、「我が国の
ものづくり現場や伝統文化を核とした活気ある地域コミュニティの創造と発信シン
ポジウム」を開催した結果を踏まえて、ここに「地域活性化のためのおもてなし戦
略プラン~2020 年東京オリンピック・パラリンピック活用地域活性化戦略プラン
~」をとりまとめた。
一地方行政機関である関東経済産業局が検討する内容としてはいささか大き
すぎるテーマではあったが、このおもてなし戦略プランを一つの参考やきっかけに
して頂いて、地域の企業や自治体などの皆さまが 2020 年東京オリンピック・パラ
リンピック開催というビックチャンスを活用し、新規ビジネス創出や地域活性化を
実現して頂きたい、そのためにも所要の検討をいち早くスタートして頂きたいという
思いをご理解いただけると幸いである。
2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催まであと 6 年余。この検討会は
ここで活動を終わるわけではない。東京オリンピック・パラリンピックの機会を活用
する関東各地の取組に関する情報や、地域活性化のためのアイデアの交流の場
として、オープンサイト「オリパラアイデアの広場(仮称)」を関東経済産業局で立ち
上げることを検討するとともに、適切なタイミングで、検討会やシンポジウムの開催
をしていく予定である。
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