平成 18 年度第 2 回海外実証試験調査 第 16 回世界水素エネルギー会議 . 訪問先一覧 日付 訪問調査対象 6 月 13 日(火) ∼ 6 月 16 日(金) 訪問地 第 16 回世界水素 エネルギー会議 リヨン,フランス 調査担当者 氏 名 平野出穂 会社・団体名 日本自動車研究所 所属/役職 EV・FC センター主管 −i− 訪問者 平野 . −ii− 第 16 回世界水素エネルギー会議 訪問先 参加日時 Lyon,France 2006 年 6 月 13 日(火)∼16 日(金) 1. 概要 2002 年のモントリオール市,2004 年の横浜市に続いて,2006 年 6 月 13 日から 4 日 間にわたってフランスのリヨン市で第 16 回世界水素エネルギー会議が開催された。会議 は,国際水素エネルギー協会(IAHE),欧州水素エネルギー協会(EHA)から支援を 受けたフランス水素協会(AFH2)の主催によって行われた。 参加人数は約 1,000 人で,そのうち日本からは約 100 人が参加した。口頭発表は 311 件でポスター発表が 298 件であった。また開催期間中には,各種受賞式が行われた。 Welcome Cocktail(1 日目)においては,JHFC プロジェクトが IPHE Award を受賞し, Gala Dinner(2 日目)においては,古谷庄一氏(元 HESS 会長)と岩谷産業が IAHE Award を受賞した。 開かれたセッションは表 1-1,表 1-2 のとおりである。以降 Plenary Session および Parallel Session の概要について整理する。 表 1-1 セッション概要(Plenary Session) A Plenary M Session 6 月 13 日 6 月 14 日 6 月 15 日 6 月 16 日 Welcome and introduction Environment and sustainable development Can H2 help mitigate greenhouse gases concentration? Hydrogen supply chain H2 in vehicle Hydrogen economy Hydrogen on the road financing and public acceptance Fuel cell systems A future for hydrogen H2 program & project -1- 表 1-2 セッション概要(Parallel Session) 6 月 13 日 6 月 14 日 S01 Safety S01 Safety S04 Production: S04 Production: Thermochemical Cycles Thermochemical Cycles S07 Production: S06 Production: Fermentation Hydrocarbon S13 Storage: Liquid S07 Production: Hydrogen Fermentation S14 Storage: Hydrides S13 Storage: Liquid S16 Fuel Cell: Hydrogen Transportation S14 Storage: Hydrides S17 Fuel Cell: Stationary S16 Fuel Cell: S18 PEM Fuel Cell Engine Transportation S22 Internal Combustion S18 PEM Fuel Cell S25 Programs and Regional S20 Fuel Cell: Portables Initiatives S22 Internal Combustion Engines P Parallel S26 Deployment S28 Education, Training M Session S01 Safety S02 Safety,RCS S04 Production: S04 Production: Thermochemical Cycles Thermochemical Cycles S07 Production: S05 Production: Water Fermentation Electrolysis S11 Delivery S06 Production: S15 Advanced Materials Hydrocarbon Storage S11 Delivery S18 PEM Fuel Cell S15 Advanced Materials S19 Fuel Cell: Corrosion, Storage Ageing S20 Fuel Cell: Portables S23Experimentations S22 Internal Combustion S24 Benchmark Engines S25 Programs and Regional S23Experimentations Initiatives S24 Benchmark S26 Deployment S28 Education, Training -2- 6 月 15 日 S04 Production: Thermochemical Cycles S05 Production: Water Electrolysis S06 Production: Hydrocarbon S08 Production: Biomass S12 Storage: Gaseous Hydrogen S14 Storage: Hydrides S23 Experimentations S24 Benchmark S25 Programs and Regional Initiatives S26 Deployment S03 Safety,Refueling S08 Production: Biomass S09 Production: Algae S10 Production: Photochmicals S11 Delivery S15 Advanced Materials Storage S16 Fuel Cell: Transportation S21 Fuel Cell: Modeling S25 Programs and Regional Initiatives S27 Renewables 2. Plenary Session 2−1 6 月 13 日(1 日目) 2−1−1 Opening of the Conference (1) Introduction(Fransois Loos 氏,フランス工業省大臣;Potocnik 氏,EU Comissioner) Fransois Loos 氏の講演では,フランスにおいて 2005 年 7 月にエネルギー法が策定さ れ,エネルギーセキュリティの向上(化石燃料依存率 50%以下),省エネルギーの推進, GHG 排出量を 2005 年比で 1/4 に削減するという目標を策定したことが報告された。ま た,工業省が今後 3 年間で予算を確保して,このためのプログラムを開始する予定であ り,Air Liquide 社を中心に産業界も水素エネルギー関連の開発に注力していることが報 告された。 Potocnik 氏からは,第 7 次 Framework Program(FP7)において,水素,燃料電池, CCS(Carbon Capture and Sequestration),Clean Coal Technology,Smart Grid 等 に対する取り組みを織り込んでいることが発表された。また,欧州において European H2 Technology Forum が設立されたという。さらに水素エネルギーの普及には PPI (Public Private Initiative)が重要であると述べられた。 (2) Evolution of world energy demand in the 21st century(Dr. Faith Birol 氏,IEA) 最新の World Energy Outlook に基づいた今後のエネルギー需要の動向についての講 演が行われた。 将来見通しにおける基本(リファレンス)シナリオでは,今後の一次エネルギー構成 について,原子力は現状維持であり,再生可能エネルギーは増加,石炭は特に中国,イ ンドで需要増,天然ガスと原油は途上国で需要が増大するとの見通しであり,このまま では持続可能な社会を構築するのは困難との見解が示された。エネルギーセキュリティ 面では,とくにエネルギーと貧困問題の解決,さらには運輸部門におけるエネルギー対 策が重要であるという。自動車が経済発展とともに増加するのに対して,石油生産にお いては,サウジアラビア等での原油供給は減少し,逆に供給増が期待されるのはイラク だが,イラクは地政学的な問題が大きい。なお,中東,欧州においては,石油の埋蔵量 もさることながら,採掘設備の老朽化も供給に影響を及ぼすことが指摘された。エネル ギーと貧困問題の面では,2030 年になってもアフリカのサハラ地域やインドでは非電化 地帯が依然として残り,14 億人がそこに居住することになると考えられるという。天然 ガスについては,ロシアとイランが供給源であるが,欧州の天然ガス需給については今 後輸入依存度が高まると予想されている。また,石炭火力は 2030 年までに 40GW の更 新が予定されているという。GHG 排出削減対策面では,特に中国とインドの CO2 排出 量をいかに抑制するかが課題であるが,一方で,人口一人当たりの CO2 排出量は中国に 比べて OECD 諸国の方が上となっていることが指摘された(図 2-1)。途上国において -3- は,自動車のみならず,電力需要増にも懸念すべきことであるという。 国際的に想定される対策が実施されたシナリオ(World Alternative Policy Scenario) では,リファレンスシナリオと比較して CO2 排出量を 16%減少させることができるが, 90 年度比では 50%増加すると見積られており,早急に各国政府の追加的対応が必要で あるとしている。 図 2-1 CO2排出量の増加量の比較(中国‐OECD諸国) (3) Hydrogen vehicles in China(万鋼教授,同済大学学長) 中国における燃料電池自動車等の実証試験の進捗状況や開発状況について,同済大学 学長万鋼教授から説明が行われた。中国は環境対応技術に対する関心が高く,現在は EV, HEV を中心に実証試験が盛んに進められているところである。例えば,武漢市では 95 台の EV と 25(?)台の HEV が走行中で,上海市では 10 台の FCV の実証走行が開始 されたところである。また,2008 年の北京オリンピックに向けて FC バス等の準備が進 められ,現在,3 台の FC バスが走行中であるとのことである。 中国における燃料電池自動車の普及目標については,2008 年までに 100 台とし,さ らに上海市では,2010 年にタクシー,バス合わせて 1,000 台の導入,および 10∼15 ヵ 所の水素ステーションの建設が計画されているという。 燃料電池自動車の開発状況としては,同済大学が乗用車,北京大学がバスの開発を進 めており,特に同済大学については,上海 VolksWagen 社と共同で超越 3 号(ベース車 両 VW サンタナ 3000)をすでに開発している。その他,奇瑞(Cherry),SAIC(Shanghai Automotive Industry Co.)も燃料電池自動車を開発中であるという。 -4- 2−1−2 Environment and sustainable development (1) Hydrogen, an energy vector(Amory Lovins,Rocky Mountain Institute) 現在,燃料電池車の開発が進められているが,当面の自動車における省エネルギーは, 複合材料等を用いた車両軽量化を優先すべきとしている。これは,現行技術で可能なエ ネルギー消費低減策を優先すべきということを意味している。そのための新しい車のコ ンセプトとして,2000 年に HyperCar を提案している。 Rocky Mountain Institute が提案する HyperCar のコンセプトは,14 のモジュール で構成され,複合材料の採用により軽量化が図られた車両である。複合材料については, BMW が注目している他,トヨタ,ホンダは飛行機の開発において試用しており,また, Rocky Mountain Institute からスピンアウトした企業も複合材料を開発中であるという。 水素エネルギーに関しては,既に 20 hydrogen myth を発表しており,このなかで 分散化した水素製造が有望であると述べている。また,燃料電池スタックの低コスト化 や軽量の水素貯蔵タンク開発よりも車両の軽量化が重要であるとも述べている。 水素経済社会への移行については,まずは燃料電池を CGS(Co-Generation System) 用,または UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)用として建物に導 入することが良いとしている。これは米国では建物での電力消費が全体の 2/3 を占める ためである。エネルギー源としては,天然ガス改質やオフピーク電力を利用した水電解 が望ましいとされた。並行して,自動車には HyperCar を導入していくという。燃料電 池車については,まずはフリート利用に導入し,その後,燃料電池を有する建物に勤務 するユーザ向けに導入するのがよいとしている。ここで車両の燃料となる水素は,建物 の燃料電池用の水素製造装置を活用し,さらに,自動車の駐車時には系統連系し,ピー ク対応として自動車で発電する電力を販売することも考えられるという。 水素については,仮に天然ガス改質による水素需要が増大しても,天然ガスの需要の 総量は増えないとの試算結果もある。これは GM と Sandy Thomas 氏の分析であり,発 電所での天然ガス利用の効率化によって相殺されるということである。また,水素への 投資はガソリンスタンド整備の投資よりも少なくて済み,さらに FC が高効率であるこ とから,水素はドライバーの走行距離あたりのコストを低減させる効果があるとしてい る。 以上から,将来に向けた5つのステップを以下のように提案している(図 2-2)。 ①車両の準備:まず,石油系燃料やバイオ燃料を用いたハイブリッド車を導入,次に 軽量化ボディの導入,そして燃料電池車を導入させる。 ②定置用 FC 開発と自動車用 FC 開発を統合化(相乗効果の期待) ③天然ガスの効率的な利用の促進(省エネ推進のインセンティブを設ける) ④分散電源の普及 ⑤再生可能エネルギーを用いた水素への展開。ただし,完全を求めるあまりに優れた -5- ことを抑止するようなことがあってはならない。(例えば,化石燃料からの水素製 造も必要) 図 2-2 水素社会に向けた 5 つのステップ (2) Round table:Can Hydrogen Mitigate greenhouse gases concentration? 水素利用が GHG 削減に有効か否かについての討議が行われた。その中で,精度の高 い気候変動予測モデルを構築することが難しいといった意見や,再生可能エネルギーの 貯蔵や配分はどうするのかといった課題の中で,水素パイプラインが有望であるなどの 意見が出された。 -6- 2−2 6 月 14 日(2 日目) 2−2−1 Hydrogen Programs and projects 世界の水素普及を目指した取り組みついて,各国,地域からの発表があった。 (1) USA(Sunita Satyapal 氏,DOE) 米国 DOE の Steven Chalk 氏の代理として Sunita Satyapal 氏の発表が行われた。 ブ ッ シ ュ 政 権 が 示 し た 先 進 エ ネ ル ギ ー イ ニ シ ア テ ィ ブ ( AEI : Advanced Energy Initiative)や各分野の研究成果が紹介された。 2003 年のブッシュ大統領の一般教書演説で「水素燃料イニシアティブ」(Hydrogen Fuel Initiative)が示された。この計画は,燃料電池開発プロジェクトに対して 5 年間 で 12 億ドルの研究開発費を投入するというものである。この計画に沿って,2005 年の エネルギー政策法(EPAct of 2005)が施行され,水素経済によりエネルギーセキュリティ と環境セキュリティの両立を目指すことが表明された。TitleVII(米国公民権法)の水 素エネルギーの章では,FVC を 2015 年に商業化,2020 年からの販売を目標としたこと などが紹介された。 2006 年にブッシュ大統領は新たに「先進エネルギーイニシアティブ(AEI)」を表明 し,エタノール利用,プラグインハイブリッド車開発,水素燃料電池開発などのクリー ンエネルギー技術予算を 22%増額した。燃料電池・水素関連では,2007 会計年度予算 として前年度から 5300 万ドルの増額となった。 開発の目標値については,水素貯蔵技術では,2010 年で 2.0kWh/kg (6wt%),1.5kWh/L, 4 ドル/kWh,2015 年で 3.0kWh/kg(9wt%),2.7kWh/L,2 ドル/kWh と示された。ま た,自動車用燃料電池の目標値は 2015 年で 30 ドル/kW,貴金属使用量 0.2g/kW,寿命 5,000h で,水素製造コストは 2∼3 ドル/gge である。 また,各分野の最新の成果として,FCV の実証試験(58 台分)のデータが紹介され た。オンサイト水素製造コストの分析や FC のコスト分析等を行うと共に,水素配給コ スト(H2A モデル)の更新を行ったことが紹介された。水素貯蔵技術開発については, LiMg,ケミカルハイドライド,アンモニアボロン,LiBH4 などの新たな取り組みが開 始され,また水素安全対策,水素の品質に関する検討,水素に関する啓発も行っている との説明があった。 (2) Europe(Jeremy Bentham 氏,European Hydrogen and Fuel Cell Platform (HFP)) European Hydrogen and Fuel Cell Platform (HFP)の諮問機関の委員長である Jeremy Bentham 氏による講演が行われ,EU としての水素に関するシナリオの概要に ついて説明があった。 政策面における EU の課題は,エネルギーセキュリティ,温室効果ガス排出抑制,大 気汚染,産業競争力確保であり,水素・燃料電池は EU のこれらの課題解決に役立つも -7- のと判断しているとのことである。EU では,2002 年に High Level Group を設置し, High Level Group の勧告により European Hydrogen and Fuel Cell Technology Platform(HFP)を設置し,HFP の下で水素・燃料電池の研究開発等を推進している。 EU は 6th Framework Program(FP6)の中で,水素・燃料電池関連に 2.75 億ユーロ /4 年の研究投資を行い,FP7(2007-2013)では 2.9 億ユーロの投資を予定しているこ とが述べられた。現在 FP7 の準備が進められており,HFP では,FP7 の中で公的研究 機関と民間組織の研究資産を結集して効率的に研究を行うための JTI(Joint Technology Initiative)というスキームを導入する予定であるという。 また,現在,約 50 台の FCV が EU 圏内で実証走行を行っていること,アムステルダ ムでの実証実験については,2 年の予定が 1 年延長されることになったことが報告され た。 なお,水素開発のシナリオについては,表 2-1 のように述べている。 表 2-1 EU における水素開発に関するシナリオ 時期 2006 年/2007 年 2010 年 2010 年∼2015 年 ∼2020 年 シナリオ 二次電池への代替による FC 導入 コジェネ用途への FC 初期導入 大型のコジェネ市場へ導入 燃料電池車の導入(大量導入に向けた初期導入) (3) アジア(太田健一郎教授,横浜国立大学) 日本,中国,韓国における水素・燃料電池開発状況について,横浜国立大学の太田健 一郎教授から紹介があった。 日本については,JHFCプロジェクトおよび家庭用燃料電池の大規模実証事業が紹介 された。家庭用PEFCの性能については,太田教授の自宅でも家庭用燃料電池を設置し 実証試験が行われているということを織り交ぜながら,CO2削減率を 10%レベルから 20%削減レベルへ向上させたという性能向上の報告があった。 中国では,FCV の開発に対して,第 10 次 5 カ年計画で 3.8 億元(約 53 億円)の投資 が計画され,2008 年の北京オリンピックまでに 1,000 台以上のクリーンエネルギー自動 車やバスの実証試験を行い,そのうち 100 台は FCV とする計画であることが紹介され た。さらに,2010 年の上海万博では 1,000 台の FC バス,FC タクシーを実証事業とし て導入する予定で,水素ステーションも 15 から 20 カ所必要となるということが紹介さ れた。また,2020 年には 10 の主要都市で 2 万台の FC バスの走行も想定されていると いう。 韓国では,2003 年に第 2 次基本計画(2003-2012)が策定され,これは,水素・燃料 電池,風力発電,太陽光発電を集中的に開発し,2012 年までに全エネルギーの 5.6%を 新エネルギー,再生可能エネルギーで供給することを目標としている。なお,FC は全 -8- 体の 1.5%と設定されている。また,2011 年までに燃料電池と太陽光を世界第 3 位に向 上させるとともに,世界市場の 10∼20%を輸出することを目標としていることが紹介さ れた。 なお,韓国では,表 2-2 に示すような水素・燃料電池導入の研究開発のロードマップ が設定されていることも紹介された。 表 2-2 韓国における燃料電池自動車導入のシナリオ 時期 第 1 段階 (2012 年まで) 第 2 段階 (2020 年まで) 第 3 段階 (2030 年まで) 第 4 段階 (2040 年まで) シナリオ 50 箇所の水素ステーションを建設し,500 台の FC 車を普及させる 3,200 台の FC 乗用車と 200 台の FC バスを普及させる エネルギー需要の 8%を水素に転換させる エネルギー需要の 15%を水素に転換させる(車の 1/2 が水素駆動) (4) カナダ(Nick Beck 氏,Natural Resources of Canada) カナダ天然資源省(Natural Resources of Canada)の Nick Beck 氏によって,カナ ダにおける水素・燃料電池への取り組みの概要および現状についての紹介があった。 カナダでは,1980 年代初期から水素・燃料電池に対して累計で$3 億の投資を行って きており,現状では年間$5,000 万/年程度投資を行っている。 カナダでは,Canadian Transportation Fuel Cell Alliance(カナダ輸送用燃料電池連 合:カナダ天然資源省の実施機関)が,カナダ国内における水素インフラ構築を推進し ており,水素・燃料電池の市場導入に向けて,Hydrogen Early Adopters Program を設 定している。現在では,4つのデモが実施あるいは計画されており,このうち,バンクー バでの FCV 実証実験は,開始から 1 年経過したところで,バラード社の従業員や市の 職員等 5∼6 名が FCV を利用しているという。なお,このことが一般の認知度向上等に も寄与しており,順調に進捗しているとのことである。また,水素ステーションについ ては,Hydrogen Highway に備えて 8 から 10 箇所を建設予定であり,北バンクーバの ステーションでは副生水素を利用するとのことである。 2−2−2 水素と燃料電池の見直し(Giorgio Simbolitti 氏,IEA) 水素シナリオの紹介および Markal モデルを利用した分析結果の紹介があった。FCV システムコストの目標は$100/kW(うち FC コストは$50/kW)となることや水素大量 普及の本命はパイプラインの可能性があること,悲観的なシナリオでは,バイオフュー エル,合成燃料(GTL 等)が主流になる可能性があることなど,Giorgio Simbolitti 氏 の水素・燃料電池の普及に対する見解がいくつか述べられた。 -9- 2−2−3 規格・標準(Randy Dey 氏,ISO TC197, Canada) カナダの ISO TC 197(ISO 技術委員会水素技術部門)の Randy Dey 氏が規格・標準 化について講演し,各国が水素に関する独自の規格を作る動きがあり,このことが規格・ 標準の世界統一化に向けた障害になると言及し,Round table の必要性を説いた。 2−3 6 月 15 日(3 日目) 2−3−1 Hydrogen in vehicles (1) Hydrogen in vehicles(Carl-Peter Forster 氏,CEO General Motors Europe) GM では,今後,人口が増加し,車の需要も増大すると考えており,現在はそのター ニングポイントであると認識しているとの発表があった。そのため石油消費の抑制が最 重要であり,これからの取り組みとしては,近視的には内燃機関の燃費改善,将来的に は燃料電池車等の代替手段探索が重要となってくるとしている。また,現在の水素の用 途は自動車向けが主な市場であるが,用途の拡大についても検討しなければならないと 考えており,水素自動車(FCV 含む)の数と水素供給拠点を同時に増やすためのシナリ オ作りが必要となってくると述べた。 現在 GM では,燃料電池に関しては 600 人が R&D に携わり,ハイリスクな研究を実 施している。燃料電池の普及の鍵は耐久性向上,コスト低減であり,そのためには国際 協力が必要であるという。また,実証試験も重要と考えているが規模が大きければよい わけではなく,適当な規模での実施が重要であると認識しており,とりわけ水素に関し て言えば,自動車メーカが車両を開発しているように,エネルギー供給事業者ももっと 研究するべきであると説いた。 以下主な質疑応答の内容である。 Q:水素内燃機関車についてどう思うか。 A:技術的な難易度は易しいが,効率の悪さが課題である。過渡期の技術としては 意義がある。 Q:GM はどのくらい FCV に投資してきたか。 A:数億ドル(数百億円)。 (2) The bumpy road to hydrogen(Daniel Sperling 教授,US Davis 大学) 水素の普及に向けた現状の課題について,Daniel Sperling 教授(US Davis 大学)が 講演した。Daniel Sperling 教授は,水素はバイオ燃料や電力と競合するとの認識を示し, バイオ燃料については,セルロースから製造するエタノールの動向に注目が必要である と述べた。今後の見通しとしては,BAU ケース(現状維持),電力ケース(電気利用増 大),バイオ燃料ケース,水素ケースの4通りのシナリオが考えられるが,どのような シナリオにおいても,車の保有台数は当面増え続け,GHG 排出抑制がますます重要な 課題となってくるという。なお,タールサンドなどの新しい化石燃料にも注目されるだ - 10 - ろうとしている。 米国政府においては,燃料電池に対する揺り戻しの動きが生じていることもあり,水 素からバイオ燃料にシフトする傾向が出つつあるが,バイオ燃料は,例えばサトウキビ は,ブラジル等一部の地域では主流になるかもしれないが,世界的な主役の座を勝ち取 ることは難しいという。また,トウモロコシからのエタノール製造は大気汚染面で有益 ではなく,GHG 削減の効果がないという見方もある。また,セルロース原料のバイオ 燃料についても開発途上であり,まだまだ課題が大きい。 今後,電力と水素のどちらが主役になるかは不透明であり,一つの可能性としては, 小型車両などは BEV,中型車両以上は FCV などといった棲み分けが考えられるという。 ただし,中国やインドでは異なるシナリオとなる可能性もある(中国では既に 1,000 万 台以上の電気自転車が普及しているため)。注目されているプラグイン HEV について は,バッテリーのコストとバッテリーの寿命に課題が残されている。現在,FCV につい ては自動車会社,プラグイン HEV は電力会社が普及に積極的であるが,バイオ燃料は 普及を推進する主体が不在といった状況にあると考えられる。 (3) Round table: Hydrogen on the road(Moderator:Pierre Beuzit 氏,Renault) 自動車メーカによる水素に関するパネルディスカッションが,Pierre Beuzit 氏(ル ノー)の司会のもと,BMW,DC,ホンダ,ミシュラン,日産,プジーの参加によって 行われた(図 2-3)。表 2-3 に各参加者のショートプレゼンテーションの概要を,表 2-4 に EV と FCV の比較に対する各社のコメント等を整理する。 図 2-3 自動車メーカによる水素に関するパネルディスカッションの様子 - 11 - 表 2-3 パネルディスカッションにおける各社のプレゼン内容 参加者(所属) Renault: Pierre Beuzit 〔Moderator〕 (Renault, France) BMW: Carl-August Graf von Kospoth (BMW, Germany) プレゼンテーション内容 ・水素や FCV を取り巻く概況の説明。 ・ルノーは日産との連携により FCV の開発を進めている。 ・再生可能資源からの水素のみが持続可能なエネルギーと認識。 ・水素は従来の燃料と同様の方法で扱われるべき。 ・水素をエネルギー源とする車は様々なタイプがあって良い。 ・将来的には水素に関する優遇税制の検討も必要。 ・BMW としては,液体水素と水素内燃機関の組み合わせで開発 を行う。 DC:Klaus Bonhoff ・ロードマップとしては,「フィールドテストによる実用性確認」 (DaimlerChlysler AG, →「低温起動性改善やシステム簡素化,耐久信頼性向上を行う Germany) 過渡期」→「コスト競争力のある車両による商業化」を構想。 ・将来のためには車両・インフラそれぞれの分野で焦点を絞った R&D による技術革新,大規模実証試験等が重要。 Honda:Thomas Brachmann ・FCX Concept をベースとした FCV の開発を行うと共に,個人 (Honda R&D Europe, 用の水素インフラ(第3世代 HES) の開発も推進。 Germany) Michelin: Patrick Oliva ・チャレンジ・ビバンダムは各種技術のモニタリングの上では有 (Michelin, France) 意義。 ・向こう 30 年間は内燃機関が当面の主流だが,燃料の多様化は 進むかもしれない。将来的には HEV,BEV が登場後,FCV の 時代が来ると考えられる。その頃には"Drive-by-wire"の実用化 もあるかもしれない。 Nissan :Hideyuki Tamura ・FC 本体の内製化や 70MPa 水素タンクの検討等,内燃機関車 (Nissan, Japan) 並の性能(出力,航続距離)を目指して開発を継続中。 ・コスト低減には触媒,膜,セパレータ,システム簡素化等,多 岐にわたる検討が必要。 PSA:Buono Costes (PSA ・車のエネルギー源は当面は石油,次にガス燃料,その次に BEV Peugeot-Citroen, France) か FCV にシフトしていく。 ・FCV に関してはコスト,耐久性,水素貯蔵が課題。 - 12 - 表 2-4 各社のコメント テーマ EV と FCV の比較 各社のコメント ・2 次電池の技術開発が進めば BEV の可能性もありうる。(ホンダ) ・EV は研究開発を行ったが充電時間の長さが課題。プラグイン HEV は ニッチ市場向け。(DC) ・自動車の電動化は進む。FC は駆動用ではなく,車両の補助電力需要向 けになると予測。(BMW) ・原子力発電が普及すれば,BEV と FCV が将来普及しやすくなる。原子 力発電が普及しなければ,バイオ燃料が有望。ただし,バイオ燃料の供 給量は課題。(ミシェラン) ・EV は小型車,大型車は FCV の棲み分けが考えられる。(日産) ・新型の自動車にすべて代替するには 30 年は必要。(キャブレターから EFI,マニュアルからオートマへの移行経験から)今から着手しないと 手遅れになる。基礎研究が必要。(日産) その他 ・ルノーグループは,ルノーが車上改質,日産が水素搭載型 FCV の分担 で開発中。(ルノー) ・ホンダは 2005 年に世界で初めて一般ユーザ向けに FC 車を販売した。 (ホンダ) ・PSA では CEA と共同で FC を開発中。FC は高価なため,電気自動車 のレンジエクステンダーとして利用するのが最適。20kW の FC と 12kWh の二次電池をハイブリッド化した車両を開発し発表している。 (PSA) ・BMW では過去 25 年間にわたって水素自動車を開発してきた,水素は 再生可能エネルギーから製造することを考えている。(BMW) ・燃料電池車の課題は,コストと水素貯蔵技術である。(日産) ・すでに世界で燃料電池車のデモ走行をしており,燃料電池車は,累積で 乗用車が 70 万 km,バスが 12 万 km,バンが 6 万 km 走行している。 新たに発表した F600 Hygrenns では,スタックの小型化に成功してい る。官民の取り組みが燃料電池車の普及には必要である(DC) - 13 - 2−4 6 月 16 日(4 日目) 2−4−1 Hydrogen Economy(Chairman:Claude Mandil 氏,IEA) IEA の Claude Mandil 氏の司会によって,水素社会に関する講演が行われた。各発 表の概要を以下に整理する。 (1) 司会者挨拶(Claude Mandil 氏,IEA) 我々には十分な時間があり,水素社会への移行はじっくり取組んで費用対効果的に効 率的に良いものを選択していくべきである旨の挨拶があった。 (2) Creating a global hydrogen business(Duncan Macleod 氏,Shell Hydrogen Netherland) Duncan Macleod氏は,水素の利用形態については様々なオプションを開発するべき であると考えており,水素の輸送形態については大量輸送の時代が来るのは 2020 年以 降になるとしている。また,CO2の補足貯蔵(CCS)についても検討を行うべきであり, 水素インフラの世界展開にあたっては関連教育等も重要であるという考えが示された。 (3) An Energy Company’s Perspective(Mike Jones 氏,BP) BP の Mike Jones 氏からは,BP が関係している北京やロンドン,北米等におけるプ ロジェクトが紹介された。また,水素供給事業者という立場から 1 つの水素インフラへ の需要の集中や,大量生産が重要であること,インフラ利用に際して教育やコミュニケー ションが重要であるという考えが示された。 2−4−2 Financing and Public Acceptance このセッションでは,予定されていたカリフォルニア環境保護庁書記官 Alan Lloyd 氏の Public acceptance に関する講演が講演キャンセルされたため,結果的に次の Robert Shaw 氏の講演のみとなった。 (1) Financing the industrial development of hydrogen: a venture capitalist’s perspective (Robert Shaw 氏,Arete) 米国 Arete 社の Robert Shaw 氏は,現状の水素利用形態は,発電機用の冷却,還元剤 としての利用等にとどまっているが,将来大きな市場が見込まれるのが,輸送分野での 水素利用と太陽光発電による水素製造であるという。ただし,水素への投資には金と時 間がかかるとのことである。 質疑応答の内容は以下のとおりである。 Q:Venture Capital の立ち上げは北米に比べて欧州では難しいか? A:難しい。ちなみに Venture Capital の成功確率は 1/10∼1/50 程度である Q:投資の立場から重要と思われることは何か? - 14 - A:認知(Awareness)を挙げることである。例えば,米国で水素自動車(含む FCV) による NASCAR レースを開催するなどといった取り組みが必要であると思わ れる。 Q:投資先は大会社か,それとも小会社か? A:小会社が主であるが,大会社を介しての小会社への投資もある。 (2) Public acceptance(Alan Lloyd 氏,カリフォルニア環境保護庁書記官) 講演キャンセル。 2−4−3 Round table : A future for hydrogen (Moderetor:Tapan K. Bose 氏,Hydrogen Engine Center, Canada) 水素社会の将来についてのパネルディスカッションが Francois Guinot 氏(Academie des Technologies, France)を Chairman とし,Tapan K. Bose 氏(Hydrogen Engine Center, Canada)が Moderator として開催された。 参加者は,Bernard Frois 氏(Nouvelles Technologies de I’Energie),Jeffery Serfass 氏(NHA),Kenzo Fukuda 氏(Institute of Applied Energy)であった。なお,各参 加者のコメントを表 2-5 に整理する。 表 2-5 水素の将来についての参加者のコメント 参加者(所属) Bernard Frois(Nouvelles Technologies de l'Energie, France) Jeffery Serfass(NHA, USA) Kenzo Fukuda(Institute of Applied Energy, Japan) コメント 各種の技術開発・実証試験の立ち上げと,ミシュランビバン ダム等による技術のモニタリングを行うことが重要 近未来的にはバイオフューエルやプラグインハイブリッド, その後に水素自動車が来ると予想。水素製造については原子 力利用の熱分解も含め,複数の手法を検討。各分野の協力が 重要。 日本では各種実証試験や規制見直しを実施。バック・ トゥー・ベーシックで基礎研究も充実させている さらに質疑応答においては, Fukuda 氏に対する『日本が掲げている目標値(2020 年 500 万台)はコスト等どう達成していくのか』という BMW の質問に対して,『2020 年時点では,現行車と同等のコストを達成したい。方法については各社で検討中である』 という回答が示された。 - 15 - 3. Parallel Session 以下にとくに燃料電池車に関連性の深いセッションの発表概要について整理する注)。 3−1 6 月 13 日(1 日目) 3−1−1 (S11) Delivery 1 日目の Delivery のセッションでは,水素充填ステーションに関する冷却充填や水素 インフラの開発状況,水素充填時間と温度上昇に関する分析や水素インフラの分析と欧 州 hydrogen highway の発表があった。 東邦ガスからは,水素充填時間と温度上昇に関する分析についての発表が予定されて おり,予稿集によれば,熱力学のシミュレーションモデルを開発し,充填時間と温度上 昇の関係を調べた結果が報告されている。また,水素冷却技術の進化の必要性を唱え, そのための水素ステーションの概念的な構想も作成しているということである。 3−1−2 (S13) Storage:Liquid Hydrogen 1 日目の(S13)Storage:Liquid Hydrogen では,高分子複合材料のトライボロジー (摩擦)的な挙動が水素環境に及ぼす影響に関する研究やダイレクト型水素充填ステー ション用 700 気圧高圧液体水素解放ポンプの開発・試験に関する報告,ボイルオフの高 度マネジメントによる液体水素貯蔵システムの開発,水素の液化のための磁気冷却装置 の改良等に関する発表があった。 三菱重工業によるボイルオフの高度マネジメントによる液体水素貯蔵システムの開発 についての報告では,「スラッシュ(シャーベット状の)水素」の利用可能性の検討に ついての報告があり,スラッシュ水素は,高圧液体水素と比較して冷却能力が高かった り,蒸発による損失を抑えることができたりといった特長を有するものであることが示 された。2005 年に開始されたスラッシュ水素に関するプロジェクトは 2007 年まで続き, その間,スラッシュ水素の製造装置,輸送ライン,貯蔵タンクの試験的装置を開発し, 実証試験を実施するとのことである。 3−1−3 (S14) Storage:Hydrides 1 日目の(S14)Storage:Hydridesでは,NaAlH4の水素放出および吸収過程に対す るTiO2,VCl3,HfCl4の効果についての知見,NaAlH4にチタンベースの添加物を加えた 場合の水素貯蔵装置のパフォーマンスに対する影響,再充填可能なLi-Mg-N-H系水素貯 蔵のプロセスに関する調査,低温下におけるボロハイドライド(NaBH4)からの水素貯 蔵および製造に関する報告があった。 注) 開講時間が重複するなどで,直接聴講できなかったセッションについては,予稿集を用いている。 - 16 - 3−1−4 (S15) Advanced Materials Storage 1 日目の(S15)Advanced Materials Storage では,DOE の Sunita Satypal 氏によ る基調講演で,米国における水素貯蔵プロジェクトの進捗状況が報告された。また,そ の他には,アルミニウム補強による水分解反応による水素生成の改良に関する研究や, 透過性ナノ構造メタロカルボキシレートによるガス貯蔵についての報告があった。 DOE の Sunita Satypal 氏による米国における水素貯蔵プロジェクトの進捗状況の発 表では,水素貯蔵に掲げる目標値ならびに現在の研究の進捗状況が報告された。米国に おける車載の水素貯蔵に対する目標は,FreedomCAR&Fuel Partnership,米国 DOE のパートナーシップ,米国自動車研究所(USCAR),主要なエネルギー会社を通じて確 立されたものであり,目標値は貯蔵容量・コスト(表 3-1)の他に,Discharge Kinetics >0.02g/s/kW や,2010 年に水素 5kg の充填時間を 3 分以内にするといったものがある。 また,米国 DOE が設立した National Hydrogen Storage Project においては,貯蔵タン ク,ケミカルハイドライド,水素吸蔵合金,吸蔵材料/カーボンの主要4分野について 研究開発に取り組んでおり,現在は,基本的な貯蔵能力が確認された状態で(図 3-1), 今後は応答性や操作性の検討に取り組むという。 表 3-1 DOE が掲げる貯蔵容量・コストの目標値 System Gravimetric Capacity= Specific Energy (net) System Volumetric Capacity= Energy Density (net) Storage system cost 2010 2.0kWh/kg (7.2MJ/kg) (6wt%) 1.5kWh/L (5.4MJ/L) (0.045kg/L) $4/kWh (∼$133/kg H2) - 17 - 2015 3.0kWh/kg (10.8MJ/kg) (9wt%) 2.7kWh/L (9.7MJ/L) (0.081kg/L) $2/kWh ($67/kg H2) 図 3-1 水素貯蔵能力に関する研究結果 また,水素含有量が高く効果的な水素貯蔵媒体として注目されているリチウムボロハ イドライドについての研究成果についても米国 Savannah River National Laboratory より報告があった。リチウムボロハイドライドに関しては,ボロハイドライドの温度を 低下させた状態で再充填させることを目的に研究が行われており,これまでには,何種 類かの酸化物を用いることでボロハイドライドの温度を低下させられることが明らかに なっている。しかし,車上における水素 FC への供給という意味ではまだ不十分である とし,充填時の温度をさらに低下させることを試みている。結果としてリチウムボロハ イドライドの B-H 結合を弱めることで温度を下げられるとの考えから実験を実施した という。 3−1−5 (S16) Fuel cell: transportation 1 日目の(S16)Fuel cell:Transportation では,FCV のためのオンボード改質器に 関する報告のほか,自動車の規格に関する取り組み状況や移動体用 FC の開発状況,エ ネルギー貯蔵として水素を利用したハイブリッド電気自動車に関する報告があった。 3−1−6 (S18) PEM Fuel cell 1 日目の(S18)PEM Fuel cellでは, PEMFCスタック・システム・アプリケーショ ンに関する現在の状況と挑戦,水素とPEMFC技術の商業化への挑戦,PEMの開発状況, ハイパフォーマンス低コストPEM用電解質溶液の開発に関する研究,PEMFCの冷却化 - 18 - に関する研究成果,PEMFCアプリケーションにおけるO2削減のための安価な金属触媒, 電流分布計測法によるPEMFCのパフォーマンスに関する研究, PEMFCにおける酸素 削減のための非金属触媒,水素貯蔵改良のための精製プロセスについての発表があった。 ハイパフォーマンス低コスト PEM 用電解質溶液の開発に関する研究では,PEMFC の電解質膜の酸化を防止するためにスルホン酸塩化ポリエーテルケトン(SPEEK)を膜 に適用した研究についての発表が行われた。アイオノマー(合成樹脂の一種)より酸化 に対する耐性が高かったが,ポリスチレンの膜と比較すると酸化への耐性で劣ることが 明らかになったとの報告がなされている。 3−1−7 (S26)Deployment (1) 概要 1 日目の(S26)Deployment では,フランス Axane 社の Philippe PAULMIER 氏よ り欧州 HYCHAIN プロジェクトの報告が行われた。また,ノルウェーの Norsk Hydro ASA からはノルウェーの水素プロジェクトである HyNor について,同じくノルウェー の Hydro Oil & Energy からはノルウェーにおける水素プロジェクト Utsira の概要につ いて発表があった。さらにフランス CEA からは国内の水素エネルギーロードマップに 関して,ドイツの Research Centre Juelich からはドイツにおける水素 FC の開発状況 について報告があった。 その他,排出ガスのグリーン化のためのシナリオ構築,FC の加熱装置に関するドイ ツでの活動,ドイツにおける代替燃料戦略の中での水素の役割,NASA における水素研 究に関する報告,マルメにおける水素と水素/CNG ステーションおよびハイタンバスプ ロジェクトについての報告が行われた。 以下に,主なものの概要を整理する。 (2) The HYCHAIN MINI-TRANS Project Deployment of fuel cell and hydrogen infrastructure for early markets(Philippe Paulmier,Axane,France) 欧州における HYCHAIN MINI-TRANS プロジェクトの概要が紹介された。これは, ドイツ,フランス,イタリア,スペインの 4 カ国で実施するプロジェクトで,期間は 5 年であり,2006 年 1 月 15 日にスタートした。プロジェクトでは,燃料電池を駆動源と した車椅子,スクーター,商用 3 輪車,商用 4 輪車,ミニバス,定置 FC の実証を行う (図 3-2)。 プロジェクトの具体的な目的は以下の 4 点である。 ① 10kW 以下の様々な燃料電池小型移動体について,第三者の管理によるフリート試 験を行うことにより,一般市民への認知向上を図る ② 欧州の FC メーカ4社から供給される共通の FC パワーモジュールを使用すること - 19 - により,初期工業化に必要な最低限の量産個数を確保し,コスト低減につなげる ③ 物流,メンテナンス,トレーニングも含めた小規模水素インフラを構築する ④ 基準・標準化,環境への影響評価等の活動も併せて実施する プロジェクトのコーディネータはフランスの Air Liquide 社で,各地域では 20∼40 台規模の移動体の試験が実施される。水素貯蔵は 70MPa で 2L と 30MPa で 20L の 2 種類の高圧タンクを使用する。このうち 70MPa の小型タンクについては,将来的には 自動販売機による水素販売も検討するとのことである。 スケジュールは,2006 から 2008 年に移動体の製造開発,2008 から 2010 年が実証試 験の予定である。 図 3-2 HYCHAIN MINI-TRANS プロジェクトの概要 (3) HyNor - The hydrogen road of Norway (Ulf Hafseld, Norsk Hydro ASA, Norway) HyNor はノルウェーにおける水素プロジェクトである。2009 年までに Stavanger Oslo 間の5箇所に水素ステーションを設置し,各水素ステーションにおいては,天然ガ ス,バイオマス,副生水素,水電解等異なる方法で水素が製造される。プロジェクトに はノルウェー運輸省(Department of Transportation)が投資する。 使用予定の車両は,トヨタプリウスをベースにクワンタム社(米国)が改造した水素 内燃機関自動車で,最大出力は 54kW,航続距離は 120∼130km であるとのことである。 通常の水素搭載量は 1.6kg であるが,増補タンクを搭載すると 2.4kg まで搭載が可能と なり,この場合は航続距離が 200km まで伸びるという。この車両を数台程度,大学等 で使用することを計画している。また,今後立ち上げ予定の Scandinavian Hydrogen Highway Partnership についても説明が行われた。 - 20 - (4) Utsira - demonstrating the renewable hydrogen society (Torgeir Nakken, Hydro Oil & Energy, Norway) ノルウェー西部の離島 Ustira に建設した風力電力と水素を組み合わせた安定電源シ ステムの紹介が行われた。本システムは,風力発電電力が需要を上回る場合は水電解で 水素を製造・貯蔵し,発電電力が需要を下回る場合はその水素を用いて燃料電池で発電 し電力供給を行う仕組みである。 (5) The role of hydrogen within an integrated alternative fuel strategy for Germany (Thomas Kattenstein,Research Centre Juelich,Germany) 輸送における水素利用の可能性と限界を調査した German Federal Environmental Agency(UBA)による最近の研究の成果として,燃料の生産から消費までのエネルギー コスト分析を他の代替燃料オプションとの比較を中心に行った結果が示された。 水素に関する生産から消費までのコストについては,特に FCV の場合,車両製造に関 するコストがかかるため,燃料電池システムの R&D に関わるコストを現在の目標値 (100 ユーロ/kW)の半分に下げなければ,2050 年における基準を達成できないとし ている。既存車両の製造ノウハウが活用できる水素内燃機関電気自動車(H2-ICE)につ いては,コストに関する目標値を達成できる見込みが高いとしている。 GHG削減コスト(ユーロ/CO2単価トン)については,燃料電池システムのR&D費を 現在の目標値(100 ユーロ/kW)でも 2050 年の基準を達成できるとしているが,これ はバイオガスやSNG(Substitute Natural Gas),BTLと競合するレベルであるという。 (6) Towards a French Hydrogen Energy Roadmap: the HyFrance Project(Sophie Averila, CEA,Feance) フランスの水素エネルギーロードマップについての紹介があった。これは欧州で取り 組んでいる HyWay プログラムの一環であり,風力発電,バイオマス,地熱発電のリソー スを水素製造に適用するといったものであるという。 また,FCV の市場導入率について,2 ケースの予測結果が示された(表 3-2)。 表 3-2 FCV の市場導入率予測結果 2020 年 2030 年 2050 年 楽観的ケース 2.0% 20.0% 85.0% 悲観的ケース 0.2% 2.0% 20.0% - 21 - (7) Development of Hydrogen and Fuel Cells within German, European and International Networks(Thomas Kattenstein, Research Centre Juelich, Germany) ドイツにおける水素・燃料電池の取り組みとして,CEP,ZIP,North Rhine Westphalia (NRW)の HyChain などといった研究プログラムが紹介された。 このうち CEP は,2004∼2009 年のプログラムで,ベルリンで 4 社(GM, DC, Ford, BMW)が 20 台の車両を走らせる。予算は 3,300 万ユーロ(プログラム全体?)とのこ とである。 ドイツでは,今後 10 年間水素・燃料電池の分野に対して 5 億ユーロの予算が投入さ れる予定であるという。最近の実績として,FIFA ワールドカップの 3 会場で(定置電 源として?)FC を使用したという報告もあった。また,政治/産業/学術の3分野の パートナーによって構成される戦略会議 Strategy Council Hydrogen & FC since 2005 についても説明があった。この会議の主な目的はロードマップの策定であるという。 (図 3-3)欧州全体でも同様の会議 ERA-Nets H2/FC HY-CO が開催され,これは 18 カ国 21 のパートナーから構成されるとのことである。 図 3-3 Strategy Council Hydrogen & FC since 2005 の概要 - 22 - 3−2 6 月 14 日(2 日目) 3−2−1 (S11)Delivery 2 日目の(S11)Delivery では,北欧における水素パイプラインの最適化に関する研 究や大規模水素充填ステーションに関する調査の結果,水素と天然ガスの混合物の輸送 パイプとしてのポリエチレンパイプ使用についての検討などの発表があった。 北欧における水素パイプラインの研究(Air Liquide 社)では,北欧での H2 ガス/ CO ガスのパイプラインネットワーク(フランス,ベルギー,オランダ)におけるガス 供給コスト最適化のための方法についての報告があった。需要に関する情報を基に水素 輸送ネットワークにおける全てのプラントとコンプレッサに対し,1 日当りの生産計画 を提供するものである。この方法は 15 分単位で変動する生産コストを最小にするもので, 原材料の量に依存した価格構造の最適化を含んでおり,コスト削減に大いに資すること が期待できるという。H2/CO 比が水素エネルギー需要によって変化する場合には,この 方法でプラントでの生産調整ならびに水素コストの最小化を図れるということである。 3−2−2 (S13)Storage:Liquid Hydrogen 2 日目の(S13)Storage:Liquid Hydrogen では,水素ロータリーエンジン車の開発, 移動体アプリケーション用フラット型液体水素貯蔵装置の開発および試験,移動体用液 体水素技術に関する報告,液体水素貯蔵による水素自動車の安全性に関する報告などの 発表があった。 BMW による液体水素貯蔵による水素自動車の安全性に関する報告では,同社の水素 内燃機関自動車および液体水素貯蔵の FCV に関する安全性についての発表が行われ,水 素自動車で安全を達成するには,車両における水素関連コンポーネントの適切なレイア ウトが基本事項であることが報告された。乗客の安全性と水素漏れの防止を目的とした 衝突プログラムにおいては,液体水素の専用パッケージを車両にインストールをするこ とで安全性を保証できることが紹介され,安全性に関する最近の実験や試験結果につい ても説明があった。さらに,安全性に関する協力的な研究事業による成果も紹介された。 3−2−3 (S14)Storage:Hydrides 2 日目の(S14)Storage:Hydrides では,量子化学によるハイドライドとその関連化 合物の水素貯蔵に関する知見,水素貯蔵装置の材料としての金属窒化物のナノ構造に関 する研究,タンク開発のためのナノ構造化された MgH2 粉に関する研究,水素製造のた めのアンモニア・ボラン合成化合物の加水分解に関する発表があった。 フランスのLaboratoire de Cristallographieによるタンク開発のためのナノ構造化さ れたMgH2 粉に関する研究に関する報告では,貯蔵材としての遷移金属MとMgH2の混 合粉末に関する実験結果が報告された。この実験においては,遷移金属MとMgH2との 混合粉末をよりMHxハイドライドリッチにするために,惑星型のミリングマシンを使っ - 23 - た精緻なボールミリングが行われ,その結果,非常に反応の強い粉末を作成することが でき,さらに,水素脱着の速度については,ミリング時間と深い関係があることを見出 すことができたという。混合物ミリングの最適化技術は,MCPテクノロジー社に譲渡さ れ,そこでは 1kgの試験粉末を用いて小規模のMgH2タンクが開発された。そして,様々 な条件下で水素の吸着と脱着のサイクルが試験され,その結果については,有限要素解 析によるシミュレーションを用いた熱と質量の転移図が示された。なお,今後はタンク の挙動をより深く理解していくために,実験値との比較が必要であるということである。 3−2−4 (S15)Advanced Materials Storage 2 日目の(S15)Advanced Materials Storageでは,透過性ナノ材料の水素貯蔵容量 の比較,NaAlH4による化学処理を施したカーボンナノチューブの水素貯蔵特性,車上 水素貯蔵装置のための優れたカーボン吸着剤の開発についての基礎的知見,水素貯蔵用 の金属合成ボロハイドライド,先進的な水素貯蔵材のための合成ハイドライドに関する 報告が発表された。 東北大学による先進的な水素貯蔵材のための合成ハイドライドに関する発表では, M-N-H構造とM-B-H構造(MはLiもしくはMg)の水素放出温度を減少させるための効 果的な方法についての報告が行われた。方法とは,1)M要素の代替,2)適切な調合,の 2 種類である。まず,Mg代替の有り無しによるLiNH2(LiNH2:リチウムアミド)とLiBH4 (LiBH4:リチウムボロハイドライド)の水素放出反応を比較することにより,Mg(マ グネシウム)の集結の増加によって,水素放出温度が下げられることが示されている。 同様に,Mg(NH2)xとLiHの混合は,M(NH2)xとMHyの混合物のうち最も低い水素放出 温度であり,最も良い合成物のひとつとして選択されたとしている。なお,混合物にお けるLiH比率を増やすことは,アンモニア放出を妨げる重要な技術のひとつとされてお り,さらに,LiBH4に 2 モルのLiNH2を混ぜることによって,水素放出温度を 150Kに まで下げることができたという。このことは,合成ハイドライド(Complex hydride) に対して,混合による新しい方法を導入することにより,水素放出反応の安定性をコン トロールできることを示唆する結果といえるとの報告がされている。 3−2−5 (S16)Fuel cell: transportation 2 日目の(S16)Fuel cell:transportation では,中間温度の FC システム用の高効率 マイクロチャネルリアクターに関する研究や自動車専用の FC スタックプロトタイプの 実現化に関する報告,インドにおける FCV に関する技術的・経済的観点による評価,貿 易船への FC 導入のための均衡経済モデリング,自動車向け FC スタック開発に向けた 材料・設計・製作に関するルノーと 3M の共同アプローチ等についての発表が行われた。 - 24 - 3−2−6 (S18)PEM Fuel cell 2 日目の(S18)PEM Fuel cell では,水素製造への要求事項(米国,Hydrogen Power 社),PEMFC における水収支がマイクロポーラスレイヤーに与える影響(カナダの Royal Military College),PEMFC のエアコンプレッサーによる電力損失(ドイツ,マグデブ ルグ・オットーフォンゲーリック大学),大気冷却による FC システムの熱管理(フラ ンス Air Liquide),バイポーラプレートの陰極のパラメータ設計についての感度分析(ス ペインのアンダルシア交通一般理事会)についての発表があった。 PEMFC のエアコンプレッサーによる電力損失に関する発表では,エアコンプレッ サーがエネルギー効率に与える影響の試験を行い,その結果を基に最適化戦略の開 発を試みたという報告である。試験では実際の PEMFC システムを使用して行われ ている。 3−2−7 (S28)Education,Training (S28)Edcation,Training では,欧州,米国,日本,および豪州における E&T (Education & Training)についての活動報告や計画についての講演が行われた。以下 に各地域からの報告の概要を整理する。 (1) EU E&T Work (Juerchen Garche, WBZU, Germany) EU においては,教育の対象となる技術範囲は,水素製造,貯蔵,燃料電池の利用と している。水素・燃料電池に関するいくつかの技術項目を設定し,それらに対して学齢 毎の達成目標を設定し,「くもの巣」グラフの形で視覚化するとのことである。欧州に おける E&T は Initiative Group on Education and Training(IGET)が企画立案して いる。教育は,基礎と実習の組み合わせが重要であり,実際,WBzU というドイツのト レーニングセンターにおいても,技術者向けの講義と,実験等の実習からなるコースが 用意されているという。 (2) DOE E&T Work(George Sverdrup, NREL, USA- DOE Ms. Cooper の代理) 米国においては「水素・燃料電池関係のE&Tは時期尚早」との見方もあり,E&Tに対 して安定した予算が付かない状況であるという(04 年では$2.4M,05 年では$0,06 年 では$495kであり 07 年には$1.9M申請)。なお,06 年の予算はEmergency Response Trainingに使用されるとのことである。DOEによる主な活動についての報告も行われ, Hydrogen 101 という水素・燃料電池の基礎知識に関するWorkshopを実施し,好 評であったという。また,一般市民,学生,地方自治体役人,潜在的エンドユーザーを 対象に水素技術と水素社会に関する認知度調査を行い,その結果,一般市民やエンドユー ザーが水素や燃料電池を知らない割合が4割台と高く,水素安全等に関しても間違った 認識をしている人が多いことが明らかになったという報告もあった。その他,水素の教 - 25 - 育資料として,Student GuideとTeacher Guideの冊子を作成したことや,米国内の各大 学で水素・燃料電池に関する特別講座を開設したといった説明もあった。注) (3) IPHE E&T Work と E&T Work in Japan(Izuho Hirano, JARI, Japan) 当日本自動車研究所から,IPHE における教育活動と,JHFC プロジェクトや各自治 体の E&T 活動について報告が行われ,E&T の今後の展望について説明があった。IPHE における教育活動については,2007 年 6 月に IPHE の仮想学校(Virtual School)およ び専門授業(Master Class)の設立,2008 年には水素教育留学制度の設立といった計画 があることが紹介された。日本の E&T 活動については,JHFC の子供向けパンフレッ トや各種イベントの紹介,豊田市や福岡市のセミナーの紹介等が行われた。 (4) The Australian Hydrogen and Fuel Cells Education Program(Luigi Bonadio,Australia) オーストラリアにおける水素・燃料電池の教育プログラムについての説明が行われた。 これは,水素に関係する科学,技術,環境/持続可能性といった分野について,小・中・ 高等学校の教育の質と信頼性の向上を目的として行われているものである。このプログ ラムは 44 名のスタッフ,28 名の講師陣で運営されており,RMIT 大学,クイーンズラ ンド大学など 9 つの学校が参加しているとのことである。教育プログラムは,現場の教 師を対象としたもので,流れ的には,面談→教育コース受講→学校における実践→面談, というサイクルで行われている。また,プログラムの評価並びに教育コース内容の改善 も行っている。なお,対象となるのは4年生から 10 年生までの教師であるという。 注) これらの各種情報は,以下のDOEのEEREホームページにInformation Resourcesとしてまとめられ ており,誰でもアクセス可能である。 http://www1.eere.energy.gov/hydrogenandfuelcells/resources.html - 26 - 3−3 6 月 15 日(3 日目) 3−3−1 (S11)Delivery 3 日目の(S11)Delivery では,米国の水素輸送プログラムに関する報告,FCV への 高速充填時の水素貯蔵装置の温度挙動に関する報告,自動車用 70Mpa 水素貯蔵装置の 冷却充填プロセスの評価などの発表があった。 DOE による米国の水素輸送プログラムに関する報告では,開発されたコスト分析ツー ル/モデルによる試算結果ならびに水素配送コストの削減に向けたアプローチ方法につ いて報告された。水素の輸送には,現在 4∼9 ドル/kg のコストがかかり,この費用は, トレーラーでの圧縮水素,および液体輸送のトラック輸送に基づいたもので,輸送距離 に依存するという。パイプラインによる輸送コストと比較すると安価にはなるが,価格 は輸送先や輸送量に大きく依存する。なお,この費用には,圧縮,貯蔵,調剤等にかか るコストは含まれおらず,現在これらの問題点を解決させるため,全体の配送コストを 含んだコスト分析ツール/モデルの開発に取り組んでいるということである。なお,長 期的な目標は,水素の配送コストは 1 ドル/kg まで削減させることであるという。 3−3−2 (S12)Storage:Gaseous Hydrogen (S12)Storage:Gaseous Hydrogen では,水素高圧貯蔵タンクについての概要と水 素エネルギーに関する最新のトレンドに関する報告や,遠隔地向けの太陽光水素システ ムのための低コスト貯蔵装置の開発,高圧水素貯蔵装置からの水素放出シミュレーショ ンに関する研究,70Mpa 圧縮水素用のステーションに関する報告,水素環境で使用され る材料の評価のための包括的研究施設などの発表があった。 70Mpa 圧縮水素用のステーションに関する報告(カナダ Powertech 研究所)では, Powertech 研究所にある 70MPa に圧縮した水素燃料の充填施設の設計,建設のデモン ストレーションが紹介された。燃料電池自動車に 70MPa の水素を充填するには,水素 燃料を補給する施設では 87.5Mpa の圧力が必要であり,さらに 87.5MPa に圧縮した水 素に耐えうる部品を入手することが必要となる。より高圧の負荷がかかるシリンダー, 弁,フィッティング,流量計,ディスペンサー,充填ノズルについては,高圧に耐える べく数多くのサプライヤーが開発に携わり,そしてこれらのコンポーネントについて, 安全かつ正確に作動することを保証するために Powertech 研究所にてステーションの正 常および異常状況の想定した試験を行っているということである。 - 27 - 3−3−3 (S14)Storage:Hydrides 3 日目の(S14)Storage:Hydridesでは,水素吸蔵合金を用いた水素貯蔵における分 離と表面コンタミの影響,固体水素貯蔵・精製システムにおける吸着強化プログラム, ボールミリングによるSr2AlH7水素吸蔵段階の合成に関する調査,擬似AB2化合物につい ての使用環境に関する障害と水素吸蔵特性についての発表があった。 3−3−4 (S15)Advanced Materials Storage 3 日目の(S15)Advanced Materials Storageでは,ボロハイドライドを使った水素 貯蔵装置に関する報告や LiBH4およびMgH2による水素貯蔵特性の改善に関する報告, 有機液体水素貯蔵物資を用いた水素貯蔵・配送装置に関する報告などが発表された。 3−3−5 (S16) Fuel cell:transportation 3 日目の(S16)Fuel cell:transportation では, FC バス技術の商用化に向けた種々 のオプションと技術に関する発表,FCV 用の車上ガソリン改質,FCV と従来車におけ るライフサイクルエネルギーの比較に関する研究, FC ハイブリッド自動車のエネル ギーマネジメント設計に関する報告が行われた。 FCV と従来車におけるライフサイクルエネルギーの比較に関する研究では,燃料製造 から車両走行までのライフサイクルにおけるエネルギー消費の比較検討を行っている。 その結果,従来車については,走行時に最も多くのエネルギーを消費し,水素 FCV では, 燃料電池そのものや貯蔵タンクなどの製造において従来車にはないエネルギー消費が発 生するとしている。 3−3−6 (S26)Deployment (1) 概要 3 日目の(S26)Deployment では,米国 NREL の George Sverdrup 氏によりエネル ギー効率,化石燃料の使用,温室効果ガス,コストに関する各水素製造パスの現状が発 表された。また,LBST の Reinhold Wurster 氏からは,ヨーロッパ水素ロードマップ 「HyWays」についての説明が行われた。さらに,Air Liquide 社によるフランスの水素 に関する国家プロジェクト「PAN-H」,LBST による EC が設立した FC の実証実験の 評価・マネージメント機構「HyLights」の紹介, UNIDO-ICHET による途上国へのエ ネルギー技術支援を目的とした同団体の活動についての紹介が行われた。その他では, ノルウェーの Institute for Energy Technology による水素実証実験モデリングと評価な どが発表された。 以下にその概要を整理する。 - 28 - (2) Status of hydrogen production pathways(George Sverdrup, NREL, USA) H2A プログラムを用いた水素製造に関するコスト分析,感度解析の事例紹介,GREET (アルゴンヌ研究所が開発した総合効率分析ソフト)による様々な水素製造パスの評価 事例(WtW 効率,Gas Emission 評価等)の紹介が行われた。なお,GREET には LCA 評価機能は含まれていないとのことであった。コストと総合効率の整合は今後の課題で あると述べられた。 (3) European hydrogen energy roadmap(HyWays)(Reinhold Wurster, LBST, Germany) HyWays の役割は,欧州に水素エネルギーを導入するためのロードマップ作成である。 現在は,水素が与える環境的,工業的な影響の見積も行っているとのことである。 Hydrogen Chain Vision の検討が6カ国(フランス,ドイツ,ギリシャ,イタリア, オランダ,ノルウェー)で行われた。その結果,水素エネルギーの導入シナリオは,各 国で異なることが明らかになった。(表 3-3) 表 3-3 Hydrogen Chain Vision の検討結果(4 カ国のみ) 国 ドイツ フランス イタリア オランダ 水素エネルギーの導入シナリオ ・自動車用の需要を主 ・副生水素が主で天然ガス改質や水電解も ・陸上輸送が主 ・原子力の電力を用いた水電解が主 ・天然ガス改質が主 ・トラック輸送とパイプライン使用のミックス ・天然ガスパイプライン網の積極利用 ・天然ガス改質など (4) The French PAN-H program on H2 Energy(Jerome Perrin, Air Liquide, France) 水素と燃料電池に関する国家プロジェクトである Pan-H の紹介が行われた。フランス の電力は 85%が原子力であるが,原子力に加え風力,地熱,バイオマスといった再生可 能エネルギーの使用により,水素製造を検討中とのことである。水素のエンドユーザー は自動車メーカ(ルノー,PSA),バス,軍関係であるという。フランスの弱みとして, PEFC の膜メーカーが国内に存在しないということが挙げられた。 - 29 - (5) HyLights-Preparation of the large-scale demonstration projects on hydrogen transport in Europe (Ulrich Buenger, LBST, Germany) EC によって設立された実証試験の評価・マネージメント機構である「HyLights」に ついて説明があった。欧州で過去あるいは現在進行中の各プロジェクトを評価し,その 結果を次世代実証試験の策定に反映させることが目的で,主なタスクは以下の通りであ る。 ① 実証実験の評価方法(Assessment Framework)の策定 ② 各プロジェクトの分析,ならびに分析結果のデータベース化 ③ GAP 分析による次のプロジェクトの必要事項明確化 ④ 新プロジェクト計画に必要な予算,法規整備等の検討 実際は評価するプロジェクトを絞り込んだ上で評価を行っており,JHFC 等,欧州以 外の事例も参考にしているとのことである。 (6) Activities of UNIDO-ICHET(Frano Barbir, UNIDO-ICHET) 途上国へのエネルギー技術支援を目的とした国連の団体 UNIDO-ICHET の活動につ いての紹介があった。同団体は,トルコのイスタンブールに拠点を置いている。過去に 実施した水素エネルギー関係の支援事業としては,イスタンブールにおける小型水素バ スの実証試験,パタゴニアの風力電力を用いた水素製造プロジェクト,インドのデリー における,水素エンジン三輪車のプロジェクト等がある(図 3-4)。今後は Worldwide Islands Hydrogen Initiative を通じ,島々における水素エネルギー支援も行っていくと のことである。 図 3-4 UNIDO-ICHET の活動 - 30 -
© Copyright 2024 Paperzz