育成型ソーシャルゲームにおける依存要因 - Info Shako

平成 26 年度
筑波大学理工学群社会工学類
卒業研究論文
育成型ソーシャルゲームにおける
依存要因
社会経済システム主専攻
201111225
大橋 諒介
指導教員
石井
1
健一
目次
第一章
序論
・・・・・1
1-1.ソーシャルゲーム市場の背景と問題
1-2.先行研究レビュー
1-3.本研究の目的
1-4.質的調査 概要・結果
1-4.仮説の設定
第2章
研究方法
・・・・・6
2-1.質問紙の概要
2-2.調査方法
第3章
結果と考察
・・・・・7
3-1 .結果の概況
3-2 .仮説の検証
3-2-1.仮説 1 の検証
3-2-2. 仮説 2 の検証
第4章
結論・今後の課題
・・・・・15
4-1.結論
4-2.本研究の問題点と課題
参考文献
謝辞
付録:質問紙
2
第1章
1-1
序論
ソーシャルゲーム市場の背景と課題
徳岡(2011)によれば、ソーシャルゲームとは、「SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を
利用し、SNS の参加者がプレイする、ブラウザでプレイ可能なオンラインゲーム」と定義されている。
また、現在主に市場に提供されているものとして、
「パズル&ドラゴンズ」などを主としたスマートフォ
ンでのアプリケーション上でのゲームも、他ユーザーとの交流を必要としており、ブラウザ上からアプ
リケーション上へと進化したソーシャルゲームとして、広義の意味で定義することができる。本研究で
は、現在、市場で過半数を占めるアプリケーション上でのソーシャルゲームを、
「ソーシャルゲーム」と
して定義し、述べていく。
一度は停滞気味と思われたソーシャルゲームのユーザー数は留まるところ知らず、年々増加し続けて
いる。図 1 を見ると、ソーシャルゲーム市場は 2012 年から 2014 年までの 2 年間で、約 2 倍の市場規
模の拡大を予測されており、その成長率と、経済的需要はまだまだ計り知れない。
ソーシャルゲームは基本的に無料でプレイができ、いつでも短時間で遊ぶことができることが大きな
魅力の 1 つだ。しかし、そのいつでも手軽に遊ぶことができるということが、ソーシャルゲームへの依
存性へと繋がりっていく。また、基本無料で、楽しむことができるが、ユーザーがより付加的なサービ
スを得るために課金をし、これがソーシャルゲームの基本的なビジネスモデルとなっ ている 。
Anderson(2009)では、このような無料で提供したものにさらに付加価値をつけたサービスを提供して有
料へと移行させる仕組みを「フリーミアム(freemium)」とよぶ。このフリーミアムモデルによって、
未成年でも簡単にソーシャルゲームをプレイし、いつの間にか、未成年の子供が親の知らない間に、課
金をし、思いもよらないような大きな額の支払いになっているような問題を引き起こしている。また、
3
ソーシャルゲームのユーザー数で上位に多く並んでいる「パズル&ドラゴンズ」「モンスターストライ
ク」などをはじめとした、パズル×育成ゲームのような、○○×育成ゲームが人気を博している。
1-2
先行研究レビュー
新井(2012)はソーシャルゲームの課金に着眼し、生活と課金の傾向をインターネット上の調査サイ
トを利用して調査した。
その研究から、ソーシャルゲームにおける他人とのコミュニケーションにおいて課金の程度が違い、ゲ
ームを達成の場と考え、そのためのコミュニケーションをする人たちは、コミュニケーションを楽しむ
人たちよりも課金が高いことを示した。また、現在の生活への意識を「無気力」「前向き」「現状満足」
の3タイプに分け、生活への意識によって、ソーシャルゲームに対するとらえ方が大きく違うことを示
した。
1-3 .本研究の目的
ソーシャルゲームのユーザー数の上位に挙がるのは、
「パズル&ドラゴンズ」
〔ユーザー数3500万
人(2014.8.15)〕
「モンスターストライク」
〔800 万人(2014.6.6)〕などといった、パズル×育成、アク
ション×育成といった、○○×育成型のソーシャルゲームが大半を占めている。スマートフォンの利用
が増加し、ガラパゴス携帯に比べてプレイできるソーシャルゲームのゲームのジャンルは多岐にわたる
ようになった。にもかかわらず、なぜ育成型ゲームが現在の市場で上位にくるのか。本研究はその理由
をユーザーの心理特性、主に、利用と満足から現れる依存度を明らかにすることによって、探っていく
ことが最大の目的である。その結果から、育成型ソーシャルゲームのゲーム性のさらなる向上、開発の
一助になることを目的とした。
4
1-4
仮説の設定
仮説を設定していく上で、育成型ソーシャルゲームが実際にどのようにプレイされ、どのような要因
によって依存に至っていくかを調査するために、実際にプレイしている人に対して、インタビュー調査
を行った。
調査方法は、育成型ソーシャルゲームの代表格であるといえる「パズル&ドラゴンズ」をプレイする筑
波大学生 4 人に対して、ゲームをする頻度、時間などといった基本的な情報から、ゲームをするきっか
け、理由、プレイ段階によってのゲームの楽しみといった心理的要因を主として、主題を与え、育成型
ソーシャルゲームに対してどのような認識を持っているか、どんなことを実際に求めているのかを深く
追及する必要があったため、自由回答式でインタビューを行った。また、課金の有無は、課金者 3 人、
無課金者 1 人である。インタビューを行った結果、4 人とも、プレイ時間や、課金額には大きな差があ
り、暇つぶしにしか行わない人や友人との付き合いでしかプレイしない人、ソーシャルゲーム中心の生
活を送っている人など様々であったが、4 人が育成型ソーシャルゲームにのめりこむ過程として、
①適度に簡単なダンジョンの達成感
②育成の限界
② 定期的に開催されるレアガチャでの偶発的な幸福感
③ 日々更新される難しいダンジョンの突破
⑤強いモンスターを持つことの優越感
といった流れが共通して見えてきた。
これから
仮説 1:ゲーム内での友人との関わりを大事にするほど、依存性が高い。
インタビューで感じたのは、友人との話題でソーシャルゲームが多く話されていることだ。育成型ゲ
ームとは、本来一人で楽しむものだが、ソーシャルゲームの特性として、友人とつながっているため、
競争心が多く生まれている。新井(2013)では、ゲーム内を達成の場と考える人のほうが、コミュニケ
ーションを楽しむ人たちよりも課金が高いという結果になっているが、今回の研究では、大学生であり、
さらに育成型ソーシャルゲームに絞って調査するため、プレイ時間がゲームで優位に立つことに、より
反映されやすい育成型ソーシャルゲームでは友人との関わり、特にゲーム内での交流は依存性に大きく
関係していくのではないかと考え、仮説を設定した。
仮説 2:育成型ソーシャルゲームへの依存が高いほど、リスクを選好する人が多い。
レアガチャの存在というのは、インタビューからも、また社会問題の「コンプガチャ」からも育成型
ソーシャルゲームにおいて大きな存在であるとうかがえる。どのソーシャル育成型ゲームでも、レアガ
チャが存在し、強いモンスターを手に入れるためには、レアガチャを回さなければいけない。そのレア
ガチャを回すためには、日々のログインでの報酬、ダンジョンのクリア、課金などがあるが、本来、ダ
5
ンジョンをクリアするためにゲームをしているはずが、インタビューから、「ダンジョンをクリアした
時に喜びを感じる」、というより、
「レアガチャで良いモンスターを手に入れた時に喜びを感じる」とい
う意見が 4 人ともに見受けられた。
これらから、レアガチャがゲームにはまる要因として最も重要視されているのではないかと仮定し、
ガチャというランダム要素が大きくリスクとリターンに魅力を感じる人が育成型ソーシャルゲームに
依存していくのではないかと考え、仮説を設定した。
第2章
研究方法
検証方法として、アンケートによる量的調査を利用した。
2-1 質問紙の概要
質問紙の内容は、プレイしている育成型ソーシャルゲームや頻度や時間、課金の有無といった基本的な
情報から、育成型ソーシャルゲームをプレイする上での、重要であると考える要因を聞くものと、育成
型ソーシャルゲームの依存度を図るもの、被験者のリスク選好度を図るものを調査した。依存度とリス
ク選好度においては、山口(2013)の「モバイルコンテンツへの支払い行動決定要因と依存性」から依
存性に関する質問 9 項目を引用した。
また、リスク選考度は、吉野・木下(1996)の「リスク受容尺度(SRA)構成の試み」から
「怖いことは何でも嫌いである」
「危ない所へは絶対近づかない」といった「安全第一」因子、
「困難な
問題ほどやりがいがある」
「うまくいかなくても最後まであきらめずに冒険したい」という「チャレンジ
ング」因子「何ごとにも用心深く対処する」「失敗しないように何ごとも慎重に物事を進める」という
「慎重」因子、
「世の中のあらゆる出来事には危険がつきまとうのは仕方がない」
「危険と上手につきあ
うのが人生である」という「運命」因子「自分の力量を考えずに冒険してしまう」
「向こう見ずだと人に
言われることがある」という「無謀」因子の各因子負荷量の高い質問 2 つを引用し、回答者に当てはま
ると思うか、当てはまらないと思うかを 5 段階で回答させた。また、ここで尋ねた、依存度に関わる質
問 9 項目の中から、信頼性分析を行い、α係数が最も高くなる 7 項目(α係数=0.820)の得点を加算
したものを「依存度」、リスク選好度に関する「リスク受容尺度」の質問 10 項目から、各因子の 2 つの
質問の得点を各因子の得点とし、
「安全第一」
「チャレンジング」
「慎重」
「運命」
「無謀」の各因子の尺度
「慎重」においては逆転尺度を利用
と定義する。また、この全因子の得点を加算したものを(「安全第一」
する)
、「SRA 総合得点」(α係数=0.857)と定義する。
調査で用いた質問紙は、付録に提載した。
2-2 調査方法
筑波大学における社会工学類端末室において男性に対してのみアンケート用紙を配布し、その場で記
入していただいた。アンケートは 101 人とり、回収率は100%で、うち育成型ソーシャルゲームをし
ている人は81人であった。
6
第3章
結果と考察
3-1結果の概況
表 3-1-1 は、主にプレイしている育成型ソーシャルゲームの種類と、ゲーム別の課金者数を現した結
果である。やはりパズル&ドラゴンズは圧倒的にプレイされており、人気の落ちないゲームであること
がうかがえる。また、育成型ソーシャルゲームをしている人で全体の 26.3%が有課金者であり、角田
(2013)の筑波大学生に行ったアンケート結果より増加傾向にある。これはソーシャルゲーム市場も過
渡期となっている現在、課金をし、育成型ソーシャルゲームをさらに楽しみたいという積極的にプレイ
する人が増えてきている
のではないか。また、今回育成型ソーシャルゲームに絞って調査を行ったため、育成型ソーシャルゲー
ムが他のソーシャルゲームに比べ、キャラクターや、ゲームに対して労力をかける必要があり、ユーザ
ーに依存させやすく、また課金をさせやすい構造になっているともいえるだろう。
表 3-1-2 は角田(2013)が定義した週間累計ゲーム数を用いた。
1 週間にプレイする頻度の設問において、「1)毎日」を 7「2)週に 4~6 日」を 5、「3)週に 1~3 日」を
2「4)月に 1~3回を」1、「5)ほぼ利用しない」を 0.5 とし、
1日あたりのゲーム時間の設問において、「1)10分未満」を 5、「2)10 分以上 30 未満」を 20、「3)
30分以上1時間未満」を 45、「4)1時間以上3時間未満」
を 120、「5)3時間以上」を 240 とし、各指数を掛け合わせた数値を「週間累計ゲーム時間」と定義し
たものの分布である。
7
今回の調査では、週に3時間以上ゲームをする人が、全体の
65.8%も占めており、男性に限って調査した結果か、ソーシャル
ゲームをよくするサンプルが集まったといえる。また、毎日ゲー
ムをすると答えた人は 72.2%におよび、毎日余暇があれば、ソー
シャルゲームを開いてしまうような状況になっている。ソーシャ
ルゲームはその特徴である毎日違った、新しいゲーム状況を生み
出しており、育成型ソーシャルゲームは特に、育成という繰り返
し作業をその新規性で飽きさせないような仕組みづくりをして
いるため、このような結果になったと考えられる。
次に、表 3 は、ソーシャルゲームについて話す友人数について
表3-1-2 ソーシャルゲームの月
間累計ゲーム時間の分布
月間累計
ゲーム時 人数(人) 割合(%)
間(分)
1680
8
10.1
840
24
30.4
315
18
22.8
240
2
2.5
225
1
1.3
140
7
8.9
100
3
3.8
90
2
2.5
40
2
2.5
20
2
2.5
10
2
2.5
5
2
2.5
2.5
7
8.9
尋ねたところ、約 85%もの人が話す友人がいた。やはり学生に
とって、ソーシャルゲームは、コミュニケーションの一部にな
っているようだ。
さらにソーシャルゲームについて話す友人数とプレイ時間と
の間に関係性がないかを探るために、中央値が「2,3 人」であ
るため、ソーシャルゲームについて話す友人数が「4 人以下」
「4 人以上」で分類し、
「週間累計ゲーム数」を使用して、t検
表3-1-3 ソーシャルゲームにつ
いて話す友人数
友人数
人数(人) 割合(%)
0人
12
15.2
1人
6
7.6
2,3人
29
36.7
4,5人
6
7.6
6人以上
26
32.9
計
101
定を用いて分析した。
表3-1-4 友人数と週間累計ゲーム数の関係性
週間累計ゲーム数
友人数
t値
の平均値
4人以上(N=32)
807.2
4.407
4人以下(N=47)
352.5
有意確率
0.000
表 3-1-4 のように、ソーシャルゲームについて話す友人数が 4 人以上いる人のほうが、はるかにプレイ
時間が長いことが結果として得られた。前述した通り、コミュニケーションとして友人と話すために、
よりゲームをプレイしていると考えられ、ソーシャルゲームにおける友人の重要性をさらに感じられる
結果となった。
8
課金者の概要
課金者 21 人のうち、過去一年での総課金額が 1000 円未満の人が 1 人、1000 以上 5000 円未満の人が
2 人、5000 円以上 1 万円未満の人が 6 人、1 万円以上 3 万円未満 5 人、3 万円以上の人が 7 人という結
果になった。調査対象を学生に絞っているのにも関わらず、学生でありながら一万円以上の課金をして
いる人が 12 人もおり、一度、課金をしてしまうと、課金が止まらなくなるような傾向がみられる。
表3-1-5 ソーシャルゲームへの課金理由(N=21)
課金理由
人数
強くなりたいから
レアなアイテム・モンスターがほしいから
イベントをクリアしたいから
友達に自慢したいから
課金しなければ、強くなれないと思ったから
課金してずっと遊びたいから
他のプレイヤー、友達に負けたくないから
15
20
12
7
9
8
8
回答割合(%)
71.4
95.2
57.1
33.3
42.9
38.1
38.1
表 3-1-5 は、課金者 21 人のみに課金をした理由を複数回答で述べさせたものである。
「レアなアイテム・モンスターがほしいから」という質問には、95.2%が選択しており、やはり「レ
アガチャ」を回すことが課金に導かれる大きな要因になっており、繰り返しレアガチャを回してしまう
ことで過度の課金へとつながるようだ。
また、質的調査のインタビューから予想した、ソーシャルゲームを利用する人の「レアガチャ」という
ランダム性の高いものを好む性質がことから、リスク選好度について尋ねた。リスク選好度を測る指標
として、「コイン投げ」と「くじ」について尋ねた。
「コイン投げ」とは、「コインを投げて表が出ると 1000 円もらえる、裏なら何ももらえない」というゲー
ムについて、いくらまでなら参加して、支払うことができるかの金額をたずねたものである。また、金額と
確率を上げ「十分の一の確率で当たり、当たった場合には 100 万円もらえるくじ」も同様にたずねた。後述
ではこのくじとコイン投げに支払える金額を変数とし、「コイン投げ」「くじ」と呼称する。
結果は表 3-1-6 の通りであり、コイン投げに関しては、有課金者、無課金者で大きな差がみられ、課
金者であるほうが、リスクを選好しやすいという結果になった。有課金者であるほうが、
「レアガチャ」
を好む人が多いため、ギャンブル性の高いものを好むような結果になったといえる。
9
表3-1-6 コイン投げの平均値とくじの分布
有課金者(N=21) 無課金者(N=80) 全体
コイン投げ
1409.5
258.2
568.2
くじの分布
金額
有課金者(N=21) 無課金者(N=78)
1万円以下
9
44
1~10万円
4
21
10万円
4
7
10~15万円
2
6
15万円以上
2
0
ソーシャルゲームをする要因の分類
ソーシャルゲームをして楽しいと思うことを 11 項目聞き、主因子分析を行い、バリマックス回転を
行ったところ5の因子にわけられた。第一因子は、
「ゲーム内で友人の助けになる」や「ゲーム内で友人
より優位に立つ」などといった。
「友人」因子、第二因子は「キャラクター・アイテムの編成を考える」
「強いキャラクター・アイテムを集めて自信を強くなる」といった、
「キャラ」因子、第三因子は、
「ダ
ンジョン・ステージをクリアした」
「暇つぶしとしてよい」などといった「達成」因子、第四因子は、
「ゲ
ーム内で高いランクになる」「気に入ったキャラクターを手に入れて育てる」などといった「承認」因
子、第五因子は「ストーリーがよかった」という「ストーリー」因子と名付けた。各因子負荷量、固有
値は表 3-1-7 の通りである。
表3-1-7 ソーシャルゲームをする要因の主因子分析結果(因子負荷量)
固有値
分散の説明率
キャラクター・アイテムの編成を考える
強いキャラクター・アイテムを集めて自身が強くなる
ストーリーがよかった
ゲーム内で高いランクになる
気に入ったキャラクターを手に入れて育てる
レアガチャをまわす
ゲームについて友人と話す
ゲーム内で友人の助けになる
ゲーム内で友人より優位に立つ
ダンジョン・ステージをクリアした
暇つぶしとして良い
友人
キャラ
因子
達成
承認
ストーリー
2.155
19.595
.114
.128
.100
1.956
17.786
.813
.770
.103
1.915
17.405
.141
.278
.218
1.512
13.745
.029
.227
.161
1.328
12.068
.360
-.111
.851
.343
.096
.535
.631
.037
.493
.258
.475
.162
.252
.457
-.040
.816
.703
.120
.192
-.031
-.340
-.324
.792
.783
.182
.238
-.082
.118
.120
.265
.804
.123
.224
.391
.338
.089
.171
.177
.281
.860
.057
.207
10
.213
3-2
仮説の検証
3-2-1
仮説 1 の検証
仮説 1:ゲーム内での友人との関わりを大事にするほど、依存性が高い。
「いつもソーシャルゲームのことを考えている」
「ソーシャルゲームをやっていることを隠そうとする」と
いった、育成型ソーシャルゲームに対しての依存度を5段階評価で 9 項目から尋ね、信頼性分析を行っ
た結果、7項目を利用し(α係数:0.820)、7項目の合計得点である「依存度」と、各個人の「友人」
因子の因子得点と相関分析をおこなった。結果、相関係数:0.365***となり、低い正の相関がみられた。
また、従属変数を「依存度」、ソーシャルゲームをする要因の5因子の各因子得点を独立変数とし、強制
投入法における重回帰分析をおこなった。
表3-2-1 ソーシャルゲームをする要因に対する依存度の回帰分析
ソーシャル
ゲームをする
要因
定数
友人
キャラ
達成
承認
ストーリー
R2=.297
非標準化係数 標準化係数
14.289
2.416
.853
-1.108
t値
有意確率
.365
.128
-.166
21.681
3.668
1.283
-1.666
.000
.000
.204
.100
2.183
.326
3.279
.002
-.825
-.124
-1.244
.217
p<.01
表 3-2-1 のように、
「友人」、
「承認」因子において有意確率 0.1%水準で依存度を説明することができ
た。なかでも、
「友人」が依存度に対して最も強い影響を与えているという結果になった。
「ゲーム内で
高いランクになる」などといった「承認」も、他人からの承認欲が強い人ほど高いため、家庭内ゲーム
機とは違い、いつでもスマートフォンで友人、他人の状態をみることができる育成型ソーシャルゲーム
は、友人や他人に対しての関わりを重要視する人が依存度の高い傾向にあるのではないかと考えられる。
11
3-2-2
仮説 2 の検証
仮説 2:育成型ソーシャルゲームへの依存が高いほど、リスクを選好する人が多い。
仮説 2 において、リスク選好度を測るために、
「コイン投げ」、
「くじ」「SAR 尺度」の 3 つを用いた。
「コイン投げ」は、
「コインを投げて表が出ると 1000 円もらえる、裏なら何ももらえない」というゲームに
ついて、いくらまでなら参加して、支払うことができるかの金額をたずねたものである。また、金額と確率
を上げ「十分の一の確率で当たり、当たった場合には 100 万円もらえるくじ」も同様にたずねた。後述では
このくじとコイン投げに支払える金額を変数とする。
「SRA 尺度」は、吉野・木下(1996)が定義した「安全第一」
「チャレンジング」
「慎重」
「運命」
「無謀」の
5 つのリスク受容尺度から、本人のリスクに対しての処理を価値観として捉える尺度であり、本研究では、リ
スク選好度として用いる。各尺度は、各因子ごとの質問の合計得点である。
また、各尺度の合計得点が「SRA 総合得点」である。
依存度に対してコイン投げ、くじの影響を分析するために、相関分析を行った。
コイン投げ、くじとともに、有意な正の相関がみられた。
表3-2-2 依存度とリスク選好度関連性
相関係数
有意確率
コイン投げ
0.462
0.000
くじ
0.568
0.000
また、依存度を低群(平均値-SD/2 以下)、中群(平均値-SD/2~平均値+SD/2)、高群(平均値+SD/2 以上)
の 3 群に分け、依存度を独立変数(低群、中群、高群)、SAR 総合得点を従属変数とした 1 要因の分散分析を
行った。表 3-2-3 がその結果であり、有意差がみられた(F[2,73]=9.25,p<.01)ため、Tukey 法による多重比
較を行ったところ、高群>低群、中群という結果が得られた。
さらに、依存度を独立変数、各「SRA 尺度」の 5 つの得点を従属変数とした 1 要因の分散分析を行ったと
ころ、
「慎重」
(F[2,73]=4.54 p<.05),「無謀」
(F[2,73]=3.94 p<.05)において有意差がみられた。Tukey 法
による多重比較を行ったところ、「慎重」では、高群>低群、中群、「無謀」では、高群>低群という結果が
得られた。
以上の結果から、育成型ソーシャルゲームの依存度の高さと、リスク選好度の高さとの間には、関連があ
り、極度に依存が強い人は、慎重性に欠け、無謀でありがちであるということが示された。実際に、このよ
うな極度な依存者が、金銭の後先を考えず、課金をしてしまい、序論で述べたような、「コンプガチャ問題」
を引き起こす要因となっているのではないかと考えられる。
12
最後に依存度を決定する上で、仮説 1、仮説 2 で取り上げた重要な指標である、
「週間類型ゲーム時間」
「友
人の因子得点」、
「SAR 総合得点」を独立変数、
「依存度」を従属変数としてステップワイズ法による、重回帰
分析を行った。
結果、有意な結果となり、モデルのあてはまりはさほどよくないが依存度を説明することができた。
その結果、依存度決定の回帰分析モデルは、
表3-2-4 依存度決定モデルの回帰分析
依存度の要因
非標準化係数
定数
0.33
週間累計ゲーム時間
0.00
SAR総合得点
0.45
友人
1.58
R2=.329
p<.01
標準化係数
0.30
0.33
0.24
t値
0.09
2.97
3.43
2.35
「依存度」=0.33+0.30*「週間累計ゲーム数」+0.33*「SAR 総合得点」
+0.24*「友人」
と表された。
13
有意確率
0.93
0.00
0.00
0.02
第4章
4-1
結論と今後の課題
結論
本研究は育成型ソーシャルゲームにおけるユーザーの心理特性、主に、利用と満足から現れる依存度
を明らかにすることによって、探っていった。結論として、仮説 1、仮説 2、共に成り立つことが明ら
かになった。ゲームについて話す友人の人数がゲームのプレイ時間に関係しており、友人が多いほどプ
レイ時間が長いことがわかった。また、ゲーム内での友人や他人との関わりを大事に思う人のほうが、
ソーシャルゲームへの依存度が高いことがわかった。これは、大学生ならではの結果であるかもしれな
いが、友人、他人への承認欲が育成型ソーシャルゲームによって満たされることで、より依存度が高く
なるという結果が考えられる。
また、依存度が高い人ほど、リスク選好型であり、さらに、慎重に欠け、無謀でありがちであるとい
うことがわかった。やはり、極度の依存者をつくってしまうと、
「コンプガチャ問題」のような、射幸心
を煽るビジネスモデルになっていることは否めないと感じた。育成型ソーシャルゲームは、リスク選好
型を集めやすい傾向にあることを踏まえて、日常生活に影響を及ぼさない、健全なゲーム環境をつくる
配慮をするべきである。
4-2
本研究の問題点と課題
本研究は育成型ソーシャルゲームにのみ、研究を行っており、他のソーシャルゲームジャンルとの比較は
行わなかった。育成型ソーシャルゲームの特徴である「レアガチャ」に焦点をおいて研究を進めてみたが、
他のジャンルのソーシャルゲームにも、同様の射幸心を煽るようなモデルがある可能性があり、他のジャン
ルとの比較は重要であると感じた。
また、サンプルの質という面では、育成型ソーシャルゲームをしている人をより効率的に抽出するために、
男性にしか調査を行っていないため、リスク選好型の人が多くなっている可能性も存在する。さらに、大学
生のみの調査であり、高額課金者のサンプルはほぼとれず、課金という面での依存性の調査は不充分であっ
たといえる。性別や年齢を加味した、同様の調査をすることでよりよい分析ができると感じた。
14
参考文献
Anderson, Chris(2009) Free: The Future of a Radical Price, Hyperion.(小林弘人訳(2009)「フ
リー〈無料〉からお金を生み出す新戦略」、NHK 出版。)
角田明彦(2013)学生の携帯端末向けゲーム利用について
吉野絹子・木下富雄(1996)日本リスク研究学会第 9 回発表論文集
p121-124
「リスク受容尺度(SRA)構成の試み」
新井陽子(2012)上智大学
上智経済論集
第 58 巻
第 1・2 号
p277-287
「ソーシャルゲームにおけるユーザーの心理特性と課金行動の関連性について」
徳岡正肇(2011)「ソーシャルゲーム業界最新事情」ソフトバンククリエイティブ
山口真一(2013)モバイルコンテンツへの支払い行動決定要因と依存性
株式会社 Cyberz ホームページ
2014.3.25 プレスリリース
http://cyber-z.co.jp/news/pressreleases/2014/0325_1497.html
パズドラ運営サイト|パズル&ドラゴンズホームページ
http://mobile.gungho.jp/details/unei.html
モンスターストライク(モンスト)公式サイト
http://www.monster-strike.com/
15
謝辞
卒業論文を執筆するにあたり、ご指導を引き受けてくださり、ゼミ、調査分析、論文作成など
の面において、丁寧にご指導して下さり、様々なアドバイスを下さった石井健一先生に心より感
謝申し上げます。またアンケートに協力していただいた皆様にもこの場をお借りして、深く御礼
申し上げます
16
付録 質問紙
スマートフォンでの育成型ソーシャルゲーム利用に関するアンケート調査
筑波大学理工学群社会工学類4年
201111225 大橋諒介
大学の卒業論文のために携帯電話・スマートフォン用のソーシャルゲームに関するアンケートを実施
しています。回答は任意ですが、ご協力してもらえると大変ありがたいです。
回答は、あてはまる番号に○をつけてください。
F1 あなたの性別
1 .男性
2.女性
・ パズル&ドラゴンズのようなパズル×育成ゲームのように○○×育成ゲームのソーシャルゲームが
下記のように多く存在し、人気を集めています。
・
・ Q1 主にプレイしている○○×育成型ソーシャルゲームを教えてください。(○は 1 つ)
1.パズル&ドラゴンズ
2.モンスターストライク
3.ドラゴンコレクション
6.その他
5.魔法使いと黒猫のウィズ
4.ラブライブスクールアイド
ルフェスティバル
(
6.進撃のバハムート
Q2 そのソーシャルゲームであなたは一度でもゲームをしたことがありますか。
1.はい
2.いいえ
→Q12 へ
Q3 一年以内にそのソーシャルゲームをしましたか。
1.はい
2.いいえ
Q4 どのくらいの頻度で、そのソーシャルゲームをしますか。
1) 毎日
Q5
2) 週に 1~3 日
3) 週に 4~6 日
4)月に 1~3 日
5)ほぼ利
1 日あたりにどの程度、そのソーシャルゲームをしますか。
1〉
10
分未満
2) 10 分以上
30 分未満
3)30 分以上
4)1 時間以上
60 分未満
3 時間未満
17
5)3 時間以上
)
Q6 プレイしているそのソーシャルゲームについて話す友人はどの程度いますか。
1)0人
2)1人
3)2、3人
4)4、5人
5)6人以上
Q7
過
去 1 年で
課金をしたことがありますか。
1.はい
Q8
2.いいえ
Q10 へ
→
過去一年以内での総使用額はどのくらいですか。
1)1000 円未
2)1000 円以上
3)5000 円 1
4)1 万円3万
満
5000 円未満
万円未満
円未満
5)3 万円以上
Q9 課金した理由を当てはまるもの全てに○をつけてください。
1.強くなりたいか
2.レアなアイテ
3.イベントをクリア
4.友達に自慢したい
ら
ム・モンスターが
したいから
から
欲しいから
5.課金しなけれ
6.課金してずっと
7.他のプレイヤ
8.その他
ば、強くなれない
遊びたいから
ー、友達に負け
(
と思ったから
)
たくないから
Q10 そのソーシャルゲームをしていて、以下の点について楽しいと思うことについて答え
てくだい。
楽しいと
あまりそう
思わない 思わない
キャラクター・アイテムの編成を考える
どちらで
少しそう
楽しいと
もない
思う
思う
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
ストーリーがよかった
1
2
3
4
5
ゲーム内で高いランクになる
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
レアガチャをまわす
1
2
3
4
5
ゲームについて友人と話す
1
2
3
4
5
ゲーム内で友人の助けになる
1
2
3
4
5
ゲーム内で友人より優位に立つ
1
2
3
4
5
ダンジョン・ステージをクリアした
1
2
3
4
5
強いキャラクター・アイテムを集めて自
身が強くなる
気に入ったキャラクターを手に入れて
育てる
18
暇つぶしとして良い
1
2
3
4
5
Q11 そのソーシャルゲームをする上で、以下の項目に関して教えてください。
そう思う
いつもソーシャルゲームのことを考え
ている
ソーシャルゲームをやめたくても、やめら
れない
ソーシャルゲームをやらないでいると
イライラする
ソーシャルゲームに使う金額や時間
が 増える一方である
ソーシャルゲーム以外の娯楽や楽し
みに関心が無くなった
ソーシャルゲームのために、人間関
係や学業などに悪影響が出ている
いやなことがあるとソーシャルゲーム
をする
ソーシャルゲームをやっていることを
隠そうとする
ソーシャルゲームで借金をつくったこ
とがある
ややそう
思う
どちらと
もいえな
い
あまりそう
思わな
思わない
い
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
以下の質問にお答えください。
Q12「コインを投げて表が出ると 1000 円もらえる、裏なら何ももらえない」というゲーム
19
について、いくらまでなら参加して、支払うことができますか。やろうと思わない場合は
「0」と記入してください。
円
Q13 「十分の一の確率で当たり、当たった場合には100万円もらえるくじ」というゲー
ムがあった場合、このくじをいくらまでなら参加してお金を出して買いますか。当てはま
るものに○をつけてください。
1)1 万 円 以
2)1 万 〜 10
下
万円
3)10 万円
4)10 万円〜
5)15 万円以
15 万円
上
Q14 以下の項目に関して教えてください。
思わない
あまり思
少しそう
とてもそ
わない
思う
う思う
こわいことは何でも嫌いである
1
2
3
4
危ない所へは絶対近づかない
1
2
3
4
難しいことにチャレンジするのが好きである
1
2
3
4
うまくいかなくても最後まであきらめずに冒険したい
1
2
3
4
難しい問題は全体を見通してからであないと始めない
1
2
3
4
失敗しないように何ごとも慎重に物事を進める
1
2
3
4
1
2
3
4
る
1
2
3
4
冒険できそうなことがあると、気づいたときには始めている
1
2
3
4
向こう見ずだと人に言われることがある
1
2
3
4
世の中のあらゆる出来事には危険がつきまとうのは仕方がな
い
危険と安全が混じり合っていることで世の中は成り立ってい
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