アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 福田哲也ゼミナール 人間環境学部3期生 猪股 裕子 小林 香織 1 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 目次 1.はじめに ...................................................................................................................... 3 2.企業および業界の概要................................................................................................. 4 2-1.業界概要 ......................................................................................................... 5 2-1-1 アパレルの定義 ..................................................................................... 5 2-1-2 性質の変化............................................................................................. 5 2-1-3 ファッション ......................................................................................... 6 2-1-4 外的影響 ................................................................................................ 6 2-1-5 アパレル業界の業種と業態による分類.................................................. 7 2-1-6 アパレル小売業 ..................................................................................... 8 2-1-7 アパレルメーカーと小売業.................................................................. 10 2-1-8 問題 ..................................................................................................... 10 2-1-9 SPA ........................................................................................................11 2-1-10 SCM....................................................................................................... 12 2-1-12 アパレル小売業の歴史 ........................................................................ 12 2-1-13 生産者と消費者の変化 ..................................................................... 15 2-1-14 現状(市場環境)................................................................................ 16 2-1-15 アパレル業界の現在の動向(2000 年から) ....................................... 16 2-1-16 今後の展望 .......................................................................................... 18 2-2.企業概要 ............................................................................................................. 19 (1)ファーストリテイリング .............................................................................. 20 ①子会社 ......................................................................................................... 21 ②CSR............................................................................................................. 24 (2)しまむら ....................................................................................................... 26 2-3.企業の歩み ......................................................................................................... 28 (1)ファーストリテイリング .................................................................................. 28 (2)しまむら ........................................................................................................... 31 3.経営戦略分析 ............................................................................................................. 33 3-1.財務分析...................................................................................................... 33 (1)成長性分析 .................................................................................................... 33 (2)収益性分析 .................................................................................................... 44 (3)安全成分析 .................................................................................................... 84 (4)キャッシュフロー分析 .................................................................................. 98 3-2.企業分析.................................................................................................... 101 (1)経営理念 ..................................................................................................... 101 2 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ①ファーストリテイリング.................................................................... 101 ②しまむら............................................................................................. 102 (2)経営戦略 ..................................................................................................... 102 ①ファーストリテイリング.................................................................... 102 ②しまむら............................................................................................. 108 (3)リーダーシップ............................................................................................114 ①ファーストリテイリング.....................................................................114 ②しまむら..............................................................................................116 4.戦略課題 ...................................................................................................................118 4-1.ファーストリテイリング.....................................................................118 4-2.しまむら............................................................................................. 120 5.終わりに .................................................................................................................. 122 参考資料 ......................................................................................................................... 123 参考文献 ......................................................................................................................... 131 3 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 1.はじめに (小林香織) 私たちが生活していく中で、欠かすことができない重要なものが 3 つあげられる。それ は衣、食、住である。どれか1つでも欠けてしまえば、生活するのは困難だろう。その中 でも衣服は、私たちの年代では最も重要なものではないだろうか。なぜならアパレルは、 生活をする上での自己表現の 1 つといえるからだ。日常の中でアパレルは、おしゃれをす る楽しみや個性を出すための道具など、人々の考え方を強く反映しているものなのである。 先ほども述べたように、衣服というものは私たちにとってとても身近な存在である。生 活をしていくうえで、なくてはならないものだろう。そこで私たちは、衣服を主に取り扱 っているアパレル業界に目を付けたのだ。 しかし、アパレル業界を選んだ最初のきっかけは、ユニクロが好きだから、ということ が動機だった。ユニクロは誰でも気軽に行くことができ、低価格でデザイン性の高いもの を買うことができる。このように、ユニクロの経営戦略に興味を持ったことからアパレル 業界を調べていくうちに、アパレル業界は興味深い業界であるということに気が付いた。 まず、アパレル業界は流行を受けやすく、さらに発信することもできる業界である。例 えば、流行に敏感なアパレル業界は、他業界の影響を受けやすい特徴がある。他業界で流 行したものがアパレル業界で馴染みやすいように変化をし、オリジナルの流行を生み出し ているのだ。例えば、音楽業界でヒップホップの音楽が流行ったとする。するとアパレル 業界では、ヒップホップに合った服装である、B 系のファッションが流行になる。というよ うに、他業界の流行に伴って、アパレル業界の流行も変化を遂げているのである。 そして、流行を発信することができるというのは、アパレル業界が流行のカラーを作り 出しているからである。アパレル協会の人達が流行するカラーを決めることにより、街中 ではそのカラーが流行る。そうすることにより、無駄なコストを抑えることができるから だ。流行というものは、業界側が意図して仕掛けているものだったのだ。 このように、アパレル業界は流行を発信したり、受信したりすることができるとても敏 感な業界である。また、流行は変化する期間が短いため、それに伴いアパレル業界の変化 も早くなる。そのため、消費者の動向や他業界の動向を掴むことが、アパレル業界にとっ て最も重要な技術となるだろう。つまり、アパレル業界と他業界は、互いに影響を受けあ う密接な関係にあるのだ。 アパレル業界にもたくさんの企業が存在するが、なかでも衣料品小売業で急成長を遂げ た、2006 年現在 1、2 位であるファーストリテイリングとしまむらを分析していく。 まずは業界の特徴や動向、現状などを知ってから、2 社の概要を見ていく。そして、それ ぞれの経営体制を知るために、財務分析を行う。次の企業分析では、財務分析の結果を明 らかにすると同時に、強みも見ていく。そして最後に、2 社の課題を抽出する。 4 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 2.企業および業界の概要 2-1.企業概要 (猪股裕子) アパレル業界とは衣服、靴、カバン、下着、アクセサリーなど、衣服を中心に私たちの 生活を取り巻く商品を扱う業界である。では、アパレルという定義を次項で見ていく。 2-1-1.アパレルの定義 アパレル(apparel)とは、日本語訳に直すと「服装、衣服、装いのこと」であり、基本的 に和服・和装以外の洋服、既製服のことを表す(ファッション辞典より)。 アパレルとされる商品は、範囲が広く、ここからここまでがアパレル商品であるという 定義が定まっていない。そのため、人によってアパレル商品に対する解釈の違いが生まれ る。しかし、アパレル商品は、大きく狭義と広義に分けることができる。まず狭義とは、 主要に扱われる商品のことを指す。具体的には紳士アパレル、婦人アパレル、子供アパレ ルのことを指し、この 3 つのアパレルをまとめて、主要 3 部門という。広義は主要 3 部門 以外のものを指し、主にスポーツウェア、寝装品類、雑貨、和服などアパレルに関連する 服飾全般がアパレルに含まれる。この広義の部分を、アパレル商品と捉えるかが人によっ て違ってくる。 また、最近ではアパレルを「アパレルメーカー」の略語として使われることが一般化し てきている。 2-1-2.性質の変化 このようにアパレル商品は、取り扱っている範囲が広く、境がない。それは時代の変化 とともに、アパレルの性質や商品範囲も変化してきたからである。では、その変化につい て具体的に見ていく。 まず衣服は、2 つの性質をもつ。1 つ目は、自己を表現するために着るもの、つまりファ ッションとしての性質である。2 つ目は、身を守るためのもの、つまり実用品としての性質 を持ち合わせている。現在の服は、ファッションの性質が強い。しかし、昔は実用品とし ての性質の方が強かった。 では、衣服が実用性よりも、ファッション性を高めてきた、時代の変化を見ていく。性 質の変化を表す代表的なものにジーンズがある。ジーンズは、1870 年代にアメリカで作業 服として多くの労働者が使用していた。つまりこの頃のジーンズは、使用者にとって作業 服という実用品であった。そして、アメリカ経済は、第二次世界大戦が終わり経済大国と なる。この時、同時にハリウッド映画が黄金期を迎える。ジーンズは、1953 年の「乱暴者」 というハリウッド映画で、初めて登場した。その映画の主人公が、ジーンズをかっこよく 着こなしていたことから、ジーンズが若者に受け入れられるようになった。ここで、ジー ンズは作業服というイメージから、ファッションイメージを高めていく。そして、ジーン 5 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ズ生産業者は、カジュアル市場へ参入し、徐々に若者だけでなく一般のひとたちにファッ ションアイテムの一つとして広まっていった。そして、現代では紳士、婦人の性別を超え たカジュアルなアウターウェアとして欠かせない商品となっている。このように、アパレ ル商品は、時代が変化し、人々の生活が豊かになるにつれて、実用性からファッション性 の高い商品へと性質を変化させたのである。 またアパレル商品は、ファッションの性質を強めれば強めるほど業態区分も変化する。 例えば、アクセサリーは服ではないが、現在ファッションとして欠かせないものとなって いる。そのため、服のファッション性が高まるにつれて、アクセサリーなどもアパレル商 品に含まれるようになった。このような変化が、アパレル商品の範囲を広げ、常に業界を 変化させている。 また、現在はファッション性が高いため、ファッション業界とも言われる。 2-1-3.ファッション アパレル業界とファッション業界は密接な関係にある。そこでファッションについてみ ていく。 ファッションは日本語に直すと「流行のスタイル、はやり、衣服や小物」に訳される。 しかし、これは狭義として捉えたものである。最近では、ファッションに対する意味も広 がっている。そのため、ファッションは、広義で捉えると、食べることや住むこと、遊ぶ ことなど生活の全てに広まり「生き方のスタイル」や「生活のスタイル」全般までのこと を表す。つまりファッションとは人間の生き方を表し、すべてがファッションに含まれる。 このようにファッション業界は、衣食住まで多岐にわたるが、その中心に位置するのが アパレルである。そのためアパレルは、ファッション性が強いほど、自己を表現するもの の一部となっている。 また、流行という言葉について見ていく。流行という言葉は、英語に直すと、ファッシ ョンとトレンドの 2 つに訳すことができる。ファッションが意味する流行とは、流行のス タイルから、衣服、小物など全体的な意味を持つ。対して、トレンドとは、ある一定期間 の傾向など短期的な意味を持つ。 このように、アパレル業界は、ファッション業界と密接な関係にあり、トレンドなどの 影響を受けやすい。では、次項でアパレル業界が受ける影響について見ていく。 2-1-4.外的影響 アパレル業界は、先ほども述べたように流行など外から影響を受けやすい業界である。 外的影響とは、主に流行つまりトレンドや、天候、経済の変化の 3 つである。では、1 つず つ見ていく。 1 つ目は流行である。アパレル業界はファッション性が高いため、流行の影響を極めて強 く受けやすい。そのためアパレル業界はトレンドを取り入れた商品作りが重要となる。こ 6 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ れにより、トレンドを取り入れた商品のサイクルは短くなってしまう。 2 つ目は、天候である。アパレル業界は季節によって、夏物や冬物など商品が定期的に変 わるため、天候不順により、その年の売上が左右されることがある。例えば、暖冬のため、 コートやセーターの売上が伸びないことがある。逆に天候が順調に推移すれば、売上が伸 びることもある。このように、天候によって売れ行きが左右されやすい。 3 つ目は、経済変動である。経済変動により、消費者の平均所得が下がれば、衣料品の消 費意欲もさがる。これはアパレル業界だけではないが、特に影響を受けるがということ特 徴である。なぜ衣料品が特に影響を受けるのかというと、多くの消費者は、最低限度の衣 服をタンスにもっているからである。一方食品の消費量は簡単に削減できないため、消費 者は衣食住のなかで衣料品から節約を始める傾向が強い。また、消費意欲が下がると同時 に、流行が起こりにくい傾向にある。この要因は、アパレル業界が良質の商品が生み出さ れなかったと考えるよりも、ヒットを求めて火をつける消費心理の高揚がなかったから流 行が生まれなかったのである。つまり、景気が上向いていない中で、ファッションのため の余裕消費はありえないということだ。(日経ビジネス)このように、経済変動がアパレル 業界の売上を左右することもある。 このように、アパレル業界は外的影響を受けやすい。そのため、常に先を予測すること が必要となってくる。では、アパレル業界は、どのような企業が存在するのか、業種と業 態により見ていく。 2-1-5.アパレル業界の業種と業態による分類 アパレル業界は、「業種」と「業態」により分類することができる。業種とは、商品別に 業界を分類することで、メンズ、ウィメンズ、キッズなどに業界を分類することができる。 業態とは、生産から私たち消費者のもとへ辿り着くまでの、生産・流通構造から業界を分 類することで、繊維素材メーカー、アパレルメーカー、小売専門店などに分類することが できる。 まず、商品別分類とは、大まかに 9 つに分類することができる。1 つ目は、主に婦人服や ブラウスなどを扱うレディスウェア業界である。2 つ目は、紳士服、ドレスシャツ、メンズ カジュアルなどを扱うメンズウェア業界である。3 つ目は、ニット、アウターウェア業界で ある。4 つ目は、ベビー、子供服業界である。5 つ目は、インナーウェア業界である。6 つ 目は、ルームウェア業界である。7 つ目は、スポーツウェア業界である。8 つ目は、ジーン ズ業界である。9 つ目は、制服、ワーキングウェア、学生服などを扱うユニフォーム業界で ある。このように、大まかに 9 つに分類することができる。 では次に生産・流通構造を詳しく見ながら、業界を分類していく。アパレル業界は、生 産・流通構造を川の流れに例えた「川上・川中・川下」という 3 つの段階に分けることが できる。 まず、一番初めに当たる川上業界から説明していく。川上とは「原料の生産」のことを 7 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 指し、主に糸の生産から、生地の製作、染色加工までのことを示す。糸は、植物の繊維か ら糸を生産する紡績メーカーや、石油など合成高分子を処理・加工して、糸を生産する合 繊メーカーなどで作られる。このように糸の生産を行っている企業をまとめて、繊維素材 業界という。繊維素材業界で作られた糸は、糸専門の商社によって生地メーカーや、その まま染色業者に運ばれる。生地メーカーには、織物を行う機屋や、編み物を行うニッター などがあり、そこで糸から生地となる。この生地を生産している企業をテキストスタイル 業界という。テキストスタイル業界で、織られ、編まれて作られた生地は、生地専門の商 社によって染色業者か川中に位置する縫製メーカー、ニットウェア・メーカーに運ばれる。 こうして、川上で作られた生地は川中へ運ばれる。 川中業界では「商品の生産」のことを指し、主に生地を組み合わせ、企画した服を生産 する。縫製メーカーやニットウェア・メーカーは、一部の生地を受託加工業者に委託する などして組み合わせ、服を生産する。生産された服は、アパレルメーカーへと運ばれる。 アパレルメーカーは、主に服を企画している企業のことを指す。そしてアパレルメーカー が、販売できる形となった商品である服を川下である問屋や小売業へと出荷する。 最後に、私たち消費者に直接服を販売する川下業界へと辿り着く。川下は「小売への流 通」のことを指し、主に問屋と小売業のことを示している。問屋は、アパレルメーカーか ら商品を仕入れ、その商品を小売業へ販売するなど、主に商品流通の効率を図る。小売業 は、問屋や、直接アパレルメーカーから商品を仕入れ、百貨店や、スーパー、専門店など の販売店で私たち消費者に服を販売している。 このように、多くの企業の手を介して衣服は作られ、私たち消費者の手に届いている。 そのため企業の多くは中小企業であり、大手企業は少ないことが特徴として挙げられる。 (参考文献 アパレル業界ハンドブック) 2-1-6.アパレル小売業 本論文では、小売業に属するファーストリテイリングとしまむらを中心にみていくため、 小売業界を更に詳しくみていく。 私たちは、小売業から服を手にするが、小売業だけでもたくさんの業種に分類すること ができる。 まずアパレルの小売業界は、有店舗小売業と、無店舗小売業に分類される。有店舗小売 業は、百貨店、月賦百貨店、量販店、専門店、ディスカウントストア、コンビニエンスス トア、一般小売店、ショッピングセンター、サービス・その他に分類することができる。 無店舗小売業は、通信販売、宅配サービス、訪問販売、その他に分類することができる。 続いて、アパレル小売業界のなかで中心をなす百貨店、量販店、専門店、ショッピング センター、通信販売をみていく。 百貨店とは、衣食住などの生活にかかわる多種多様な商品(百貨)、を、対面販売方式で 提供する大規模小売店舗のことを指す。主に、中心商品は、売上の約 40%を占める衣料品 8 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ である。企業には、高島屋、そごう、伊勢丹などがある。 量販店とは、食料品、衣料品、雑貨などの日用品を総合的に品揃え、百貨店とは対象的 にセルフサービス方式を中心にした販売形態で、比較的低価格の単品を大量に販売する大 規模小売業のことを指す。大量販売店を縮めて量販店という。また総合スーパー(GMS)とも 呼ばれる。総合スーパーとは、衣料を中心に扱うスーパーストアが、成長・拡大して、食 料品や日用品の取扱量を増やしたことから、総合スーパーと呼ばれるようになった。食料 品を中心に販売する量販店を食品スーパー(スーパーマーケット)とし、区別されている。 企業には、イトーヨーカ堂、イオン、ダイエーなどがある。 専門店とは、百貨店、量販店とは対照的に、業種や取扱品目、客層を絞る、あるいは特 定分野や生活の一つの側面に限定するなど、専門性の強い特徴を持った小売店のことを指 す。専門店の専門性は多様であり、近年消費者の生活の高度化・多様化によって、新しい タイプの専門店が登場している。また、店舗の展開スケールや店舗面積などにより、ブテ ィック、チェーン専門店、大型専門店の 3 つに区別することができる。ブティックとは、 小さな店で、専門性が高く個性を鮮明にしている店舗のことをいう。チェーン専門店とは、 11 店舗以上の店舗展開をしている専門店のことをいう。大型専門店とは、500 平方メート ル以上の店のことをいう。しかし、最近では専門店の同質化が問題となしてきている。企 業には、カジュアル専門店のファーストリテイリング、レディースやインナー専門店のし まむら、紳士服専門店の青山商事などがある。 ショッピングセンターとは、略して SC(エスシー)ともいい、開発業者(ディベロッパー) によって計画的に建築された商業の集合体のことをいい、センター全体で販売促進を行う。 ショッピングセンターでは、1 業種 2 店舗以上が出店することにより比較購買ができるよう にした。対象は中産階級の家族連れの買い物をねらっている。また出店した店舗のことを テナントという。テナントは、一般的に専門店で構成される。数は 2003 年の時点で、東京 に一番多く存在する。 無店舗小売業である通信販売とは、郵便、電話、カタログ、新聞、雑誌、テレビ、ネッ トなどのメディア媒体を用いて商品の宣伝・売り込みを行い、一般消費者から直接注文や 資料請求などを受ける営業活動である。また、通信販売は、消費者の反応を直接測定でき るところからダイレクトマーケティングとも呼ばれている。通信販売専門社だけでなく、 百貨店や量販店なども積極的に進出しており、最近ではネット通販が売上を伸ばしている。 企業では、千趣会やセシール、ニッセンなどがある。(参考文献 ク) このように、様々な小売企業から私たちは服を手にしている。 9 アパレル業界ハンドブッ アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 2-1-7.アパレルメーカーと小売業 アパレル業界は、メーカーと小売業の間に独特の習慣がある。それは仕入れ方法である。 アパレル業界での仕入れの方法は大きく 3 つに分かれる。一般に「買い取り」、 「委託」、 「消 化」と呼ばれる。では、順番に仕入れ方法について見ていく。 まず、買い取り仕入とは、小売店が仕入先から商品を完全に買い取る方法である。その ため、納品された商品は、完全に小売店の所有物となる。 次に、委託仕入とは、百貨店とアパレルメーカーが独自に形成した方法で、返品可能な 買い取り方法である。そのため、納品された商品は、売れ残った商品については返品する ことができる。しかし、小売価格の決定権は、仕入先がもっている。 最後に、消化仕入とは、小売店が店頭で商品が売れた分だけを仕入に計上する方式であ る。そのため、納品された商品の所有権は、仕入れ先がもっている。主にアパレルメーカ ーの直営店が採用している。 この 3 つの仕入れ方法は、最終処分のリスクという面から 2 つに区分できる。商品が売 れ残った場合、買い取り仕入れは、小売側がリスクを負う。しかし、委託仕入と消化仕入 の場合は、仕入先がリスクを負うかたちとなる。また、このリスクが負う側によって、ど ちらが主導権を持つかがきまる。つまり、リスクを負う側に決定権があるということであ る。そのため、委託や消化仕入の場合、小売側に価格決定権はない。一方で、決定権がな いかわりに、商品の宣伝などは仕入先が行うなどの面もある。(よくわかるアパレル業界) アパレル業界では、返品可能な仕入方法が慣行されている。しかし、最近では、専門店 の買い取り仕入が増加してきた。 2-1-8.問題 ここまでアパレル業界の概要から小売業まで述べてきた。そのなかでもアパレル業界の 特徴とする部分から、問題が生じている。 アパレル業界の分類で述べたように、この業界は生産、流通過程で多くの企業が存在し ている。企業の多くは中小企業であり、素材メーカーとしての東レ、東洋紡などのような 大手企業は少ないことが特徴として挙げられる。そのため、衣服を生産するために数多く の企業と取引を踏まなければならない。これにより売上原価が上がり、段階を踏んでいる 間に消費者のニーズが変化していても、対応することができず、売れ残り(在庫)が発生 するなどの問題が起こる。 また、アパレルメーカーと小売業で述べた返品可能という仕入れ方法にも問題がある。 一見、小売側のリスクが減りメリットがあるように思えるが、この返品制度がもたらす問 題は多い。問題は、大きく 2 つある。 1 つ目は、アパレルメーカー側の対応が悪くなるという問題である。この習慣により、ア パレルメーカー側は、返品を恐れて小売側の発注通りに生産しなくなる。また、アパレル メーカーは、あらかじめ返品を見越して価格を決定するようになる。その結果、売り場に 10 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 売れ筋商品が不足し、販売機会のロスが多発するという問題だ。また、アパレルメーカー が数字をあげるために「返品してもいい」という条件で商品を納品し、シーズン前から先 物商品を無理に小売側に押し付け、販売するケースが常態化している。これにより小売側 の代金決済の遅延という問題も起こる。 2 つ目は、小売側の仕入、販売能力の低下という問題である。このように返品が前提にな ると、小売側は、「売れ残ったら返品すればいい」というような発想を生む。これにより、 小売側は仕入能力や販売能力が低下してしまう問題が起こる。 (参考文献 一目でわかるフ ァッション業界) アパレル業界の特徴から、このような問題が発生してきた。そこで、これらの問題を解 決した方法 SPA が生まれる。次項で、SPA について見ていく。 2-1-9.SPA これらの問題を解消した方法が、アメリカの GAP が生み出した SPA である。SPA とは、日 本語に直すと、「製造小売業」となる。また、厳密に訳すと、「製造直売小売業」、「製造機 能を持つ専門店の一業態」となる。では、SPA とはどのような小売業のことをいうのか具体 的に見ていく。 SPA とは、本来服の販売のみを行う小売業が、自分の売りたい商品を企画製造し、販売ま で一貫して行う企業のことを示す。ここで、重要となるのが、先ほどの「製造機能を持つ 専門店の一業態」という訳である。この製造機能を持つとは、小売業自身が製造を行うわ けではないということを意味している。つまり、SPA 企業は、商品の企画を自ら行うが、製 造部分は工場など外部に委託し、そこで生産された商品を店舗で販売する企業のことを示 している。 しかし、SPA とは小売業が主体のものだけでなく、服を企画するアパレルメーカーを主体 とするものも存在する。これを「小売製造業」という。先ほどは、小売業がアパレルメー カーの役割である服の企画を自ら行うことが SPA であった。一方、逆にアパレルメーカー が小売業の役割である服の販売を自ら行うということも SPA に含まれる。 この SPA を行うことにより、大きく 4 つのメリットがる。1 つ目は、小売業が商品企画を 自ら行うことにより、小売業が売りたい商品を生産できることである。2 つ目は、生産工程 や、企業間の取引を減らすことにより効率を良くし、コスト削減を行えることである。3 つ 目は、企業間の取引を減らすことにより、コスト削減だけでなく、消費者にニーズの変化 に対応することができることである。これにより小売業は、消費者の意識変化を店頭で捕 らえて、より素早く企画・生産する業務サイクルを確立することができる。4 つ目は、アパ レルメーカーとの取引はなくなるため、返品制度に頼らなくてすむことである。 しかし、メリットばかりではなく、デメリットもある。デメリットとは、返品制度がな くなる分、リスクは小売業がすべてを負うことになる。また、自ら商品企画を行うため、 企画力も求められ、商品が売れなくなった時などリスクは大きい。SPA とは、メリットも大 11 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ きいが、その分リスクも大きい、ハイリスク、ハイリターンビジネスであり、実力がない 企業が行うと失敗してしまう可能性が高い。そこで、アパレル業界では、効率化という面 で SCM が推進されている。次項では、SCM について見ていく。 2-1-10.SCM アパレル業界全体でサプライチェーンマネジメント(SCM)が推進されている。SCM とは、 サプライチェーンをマネジメント、つまり管理することである。アパレル業界でいうサプ ライチェーンとは、メーカーが商品企画を立て、企画を委託された受託加工者が素材や材 料を調達して商品を生産し、卸の流通を経由して店頭で商品を消費者に販売するまでの一 貫したモノの流れのことを示す。このモノの流れを、正確に把握し、管理する手法が SCM である。SCM の目的は、経営効率を最適化し、チェーン全体の効率化を勧めることである。 SPA とは違い、企業間で情報の共有化を行い、連動することによって、無駄を省き、効率化 を高め、少しでも素早く変化に対応しようという経営手法である。返品制度が慣行されて いる百貨店なども SCM に取り組み始めている。 (参考文献 一目でわかるファッション業界) このように、アパレル業界の構造は時代の変化によって変化している。そこで、業界の 歴史を振り返ってみる。 2-1-11.アパレル小売業の歴史 (小 林香織) ファッションの変化や流通形態など、様々な視点から歴史を振り返ることができるアパ レル業界だが、本論文ではファーストリテイリングとしまむらの位置する、消費者に一番 近いアパレル小売業(流通形態)を軸に、アパレル業界の歴史を年代別に見ていく。 ・第2次世界大戦まで(~1940年代) この時代にはまだアパレル小売業は存在せず、繊維小売業と呼ばれていた。第2次世界大 戦まで繊維小売業を形成していたのは、都市百貨店と中小規模の一般小売店、及び地方百 貨店と総合衣料店だけだった。 ではまず、着物を着ていた日本人が、どのようにして洋装へと変化していったのかを見 ていく。日本に洋装が広まった直接的な要因は、1858年の日米修好通商条約だという説が ある。この条約により各地の港が開かれ、役人や通訳などの外国人と交渉をする立場の人 間を中心として、服装の西洋化が広まったと言われている。 1920年代頃は、洋服は男性と子供には広まり始めていたが、女性はまだ呉服中心で、普 及しだした洋服も限られたものだけだった。1923年の関東大震災では、身体の動作を妨げ る構造である和服を着用していた女性の被害が多かったことから、女性の服装にも西洋化 が進むことになる。 1930年代後半から1940年代前半にかけては、戦時体制により繊維、衣服の統制が極端に進 み、さらに百貨店自体の売り上げが低迷した時期でもあった。1940年代後半になり戦争が 12 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 終わると、小売店は配給に頼らないルートによる、闇市での販売に着手した。配給に頼ら ないルートとは、軍隊の所有物を不正な方法で入手することである。繊維、衣服の統制が 廃止された1950年代には、百貨店と一般小売店は回復をみせ、闇市の時代は終わる。 ・百貨店の時代(1950 年代) まずめざましい発展を示したのは百貨店だった。戦前からの伝統と信用に加えて、洋装 に似合う内装やディスプレイが消費者を魅きつけ、百貨店を活発化させたからだ。そうし た中で、フランスの有名デザイナーと提携したのも百貨店(1954年)であり、ファッショ ンを先導するのは百貨店というイメージを消費者に定着させていった。 また1953年には、量販店である食料品を中心に扱うスーパーマーケットの第1号店「紀ノ 国屋」、1955年には衣料品を中心に扱うスーパーストアの第1号店がオープンする。 これに対して、一般小売店にとっての50年代は、まだまだ土台作りの段階であった。 ・量販店の時代(1960 年代前半) 50年代後半から60年代前半にかけては、スーパーの開店ラッシュが続く。さらに、60年 代も大型百貨店の勢いは続いていたため、その波に乗る形で大型店舗化した量販店の時代 が到来する。60年代に入ると全国的に専門店が台頭するが、それを支えたのは専門店卸商 の出現だといえる。このように、小売業の土台は徐々にできあがり、繊維小売業からアパ レル小売業へと移行していった。 ・専門店の台頭と分化の時代(1960 年代後半) 商品やサービスの上で量販店との差別化をはかることを目指した一般小売店は、専門店 という新しい業態を開発していく。専門店とは、ある特定のジャンルの商品を中心に販売 する店のことを指す。50年代末期から60年代中期にかけては専門店の台頭期であり、全国 の主要商店街に広がっていった。 それが60年代後期になると、各商店街では専門店間での競争を生んだ。そのため、差別 化を図るためにコンセプト別、ターゲット別に多様なタイプの専門店に分かれ、同時に専 門店のチェーン化も始まった。 ・専門店とファッションビルの時代(1970 年代) 円高が引き金となり、アパレル小売業は日本国内だけで生産、販売する内需依存型に大 きく移行していった。こうした環境の激変を最も効果的に吸収したのが専門店である。70 年代には、小規模な小売店を表すブティックという新業態を生み出し、全国に展開された。 一方では、チェーン専門店が全国的な広がりをみせた。 また、専門店の拡大と同時に、地下街やショッピングセンター、駅ビル、ファッション ビルなどが全国的に続々とオープンした。これにより出店余地が増加したため、専門店の 13 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ チェーン化やブティック展開を容易にするきっかけになった。特にファッションビルが果 たした役割は絶大だった。 また、ファッションビルはチェーン専門店だけでなく、有名ブティックやアパレル企業 の直営店も続々と出店し、重要な位置を占めるようになった。 ・新・百貨店の時代(1980 年代~) 70年代の専門店の開花によって、他の小売店は衝撃を受けていた。百貨店はリニューア ルをし、量販店は専門店分野進出を始めた。百貨店のリニューアルは内外装だけではなく、 専門店のノウハウを真似て大規模に再構成された。それにより80年代では再び百貨店の時 代が到来することになった。 一方、衣料品だけを扱っていたスーパーストアは、百貨店やファッションビルなどを見 習って、80年代には百貨店事業、大型専門店事業などにも乗り出した。それによってスー パーストアは、衣料品だけでなく日用品や食品などを扱う、百貨店のような業態に向かっ て大きく変わり始めていた。なお、80年代に入ると大手スーパーストアは「GMS(ゼネラル マーチャンダイズストア)」と呼ばれるようになる。 ・郊外型専門店と無店舗小売店の時代(1980 年代後半~) 1980年代からバブル景気により、消費者の所得が高まったため、マイカーを購入する人 が増加した。その影響により、自家用車を交通手段として買い物へ来る人が増えたため、 国道・県道沿いに店舗を建てる郊外型専門店が続々と設置されるようになった。郊外型専 門店とは、車道に沿って店舗を建設し、駐車場を設置することによって、自家用車を交通 手段とする顧客も掴むことができる形態となっている。さらに、土地代が安い郊外に店舗 を建設することによって、床面積を広く作ることができる。そのため、商品を大量に置く ことが可能になるのだ。アパレル業界で初めて郊外型専門店を展開したのは、紳士服を取 り扱っている青山商事である。また、郊外型専門店のチェーン化も始まった。 アパレル分野の無店舗小売業では、1985年頃からカタログ販売をしている企業の業績ア ップが目立つようになった。その背景には、女性の社会進出にともなう買い物時間の短縮 化などがある。 ・新業態模索の時代(1990年代~) バブル景気が訪れた 90 年代から、衣料品の生産拠点が中国へ移行していった。そのため、 人件費などを抑えることができ、原価が安く仕入れられるようになった。 また、アパレル小売業は新業態の模索を始めた。80 年代にアパレル小売業の安定した土 台ができあがったためである。 これまで、各小売業の歴史を振り返ってきた。百貨店は、小売業の中で一番古くからあ る業態であり、時代をひっぱっていく存在であった。量販店は、百貨店の特徴を利用し、 14 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 大型化店舗を展開していた。専門店は、量販店との差別化を図るとともに、チェーン化を 行い、全国的な広がりをみせた。ファッションビルは、チェーン専門店やアパレル企業の 出店を手伝い、アパレル小売業では欠かすことができない業態となった。郊外型専門店は、 自動車を利用する消費者をターゲットに、郊外型のチェーン化を行った。無店舗小売業は、 買い物の利便性を図り、業績を伸ばしている。 このように、アパレル小売業の土台が完成した現在、どのような新業態を生み出すこと ができるかによって、今後のアパレル業界を左右するだろう。 2-1-12.生産者と消費者の変化 (猪股裕子) アパレル小売業の歴史をみてきたところで、次に消費者のニーズは時代の変化とともに、 どのように変化をしてきたのかをみていく。時代の変化により、大きく生産体制と消費体 制がかわるきっかけとなったバブル景気から現代までの移り変わりを見ていく。 1980年代後半から1990年代初頭にかけて、日本にバブル景気という好景気が訪れた。こ れにより消費者の所得が増え、消費意欲は大きく高まった。これに対し企業は、その消費 意欲に肖り、消費者に物を買わせるように誘導し、大量生産を行った。つまり、この頃は、 主導権が生産者側にあり、モノは作れば売れる時代だったことを示している。企業が大量 生産を行った結果、消費市場はどんどん拡大し、急速に成熟していった。 しかし、90年代になり、バブル崩壊が起こった。これにより、景気が低迷し、消費者の 所得が減少してしまった。必然的に消費者の消費意欲は激減し、消費者はモノをかわなく なっていった。また消費者は、冷静になって持っているものを見渡したとき、供給者によ って誘われるままに買ってきたモノばかりだったことに気がついたのだ。これにより、消 費者は、大量生産を拒否しはじめる。その結果、モノは売れなくなり、大量生産していて も商品の多くが在庫となってしまった。つまり、供給過剰となってしまったのだ。また、 この頃から大量生産の拒否と同時に、消費者は、自分らしさを大切にしだし、消費に対し て厳しくモノを選ぶ目を持つようになる。その目とは、必欲品と必需品は分けて、状況に 合った消費をすることである。必欲品とは、高くても欲しいものなら買う「本物志向」の ことを指す。一方、必需品とは、必要なものは、安くていいものを買う「低価格志向」の ことを指す。消費者は、2つの志向を持ちながら、所得に見合う身の丈消費をするようにな った。このように消費者が主体となってものを選ぶようになった。そのため、供給側は、 消費者の立場にたった構造に変えなければモノは売れなくなってしまったのである。ここ から、消費者の立場にたったマーケットに移り変わっていく。 バブル崩壊後は、景気が低迷していたため、消費者は低価格志向が強かった。より良い ものを安く求めていたため、消費者のニーズを汲み取ることができた企業は、成長するこ とができた。一方で、消費者のニーズを汲み取ることができなかった企業は、衰退してい く。 15 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 2-1-13.現状(市場環境) (小林香織) モノが売れなくなっている状況がアパレルの市場規模の推移にも表れている。アパレル 業界の市場規模推移を見ていくため、ここでは主要 3 部門のみに注目して市場規模を見て いく。 【図 2-1】 (総務省による家計調査、国民経済計算年報 http://www.jat-ra.com/edb/edb400/411.xls) 【図 2-1】は、2001 年から 2005 年までの衣料消費市場規模の推移をまとめた図である。 図を見ると、年々右肩下がりとなっている。2001 年と 2005 年の合計値を比べてみると、2001 年は 47.254%なのに対し、2005 年は 38.063%と、約 20%も市場が縮小していることが分か る。このように、アパレル市場はだんだん縮小しつつある。 要因は、少子高齢化、人口の減少などに加え、アパレル市場が飽和状態によるものであ る。少子高齢化とは、衣料品は若者に多くの需要があり、高齢者にはあまり需要がない。 つまり少子高齢化によって、需要の多かった若者が減少し、需要の少ない高齢者が増加し たため、アパレル業界の需要が低下し売上が下降してしまった。そのため、市場規模は年々 減少していく傾向にある。 2-1-14.アパレル業界の現在の動向(2000 年から) (猪股裕子) 近年、バブル崩壊の景気低迷から、抜け出し、景気が向上してきている。2002 年ごろか ら 2006 年にかけて、戦後のいざなぎ景気にならぶ景気拡大をみせていた。この景気向上が、 消費者の本物志向を高めている。また、消費者が自分らしさを大切にするようになるのと 16 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 同時に、自分を表現することができるアイテムであるファッションにこだわりを持つ人が 増えた。そのため、消費者の嗜好が多様化してきている。 具体的に、近年の消費者は、自分の好みに合う服ならば多少値段があがっても好みの服 を購入したい、という消費者が増えている。つまり品質、デザインなど付加価値を重視す るようになってきているのだ。近年では、低価格でも消費者にとって価値がないものは売 れず、高価格でも消費者にとって価値があるものならば売れる時代となっている。このよ うに消費者のニーズは複雑化し、変化しているのである。 また、アパレル企業も変化してきている。アパレル業界の現状で述べたように、市場規 模が縮小してきている。そのため、企業間では顧客を掴むための競争が激しくなってきて いる。競争が激しくなっていることを具体的に見るため、アパレルメーカーの売上高順位 の移り変わりを見てみる。なお、アパレル業界ハンドブックに記載されていた 1994 年度と 2002 年度の売上高の比較を見ていく。 では、1994 年度の売上高上位 10 社を見ていく。1 位はレナウン、2 位はオンワード樫山、 3 位はイトキン、4 位は三陽商会、5 位はグンゼ、6 位はワールド、7 位はワコール、8 位は ナイガイ、9 位はファイブフォックス、10 位はジャヴァグループであった。 続いて、2002 年度の売上高上位 10 社を見ていく。1 位はワールド、2 位はファイブフォ ックス、3 位はオンワード樫山、4 位は三陽商会、5 位はイトキン、6 位はワコール、7 位は サンエー・インターナショナル、8 位はジャヴァグループ、9 位はレナウン、10 位はクロス プラスであった。では、1994 年度と 2002 年度を比較してみる。 1994 年度に、売上高 1 位であったレナウンは、2002 年度には 9 位まで順位を落としてい る。一方で、1994 年度に 6 位であったワールドは、2002 年度に 1 位と順位を伸ばした。こ のように、8 年間で企業順位の上下変動が激しかった。 では、ワールドが順位を伸ばした要因をみていく。この要因は、SPA である。ワールドは SPA を行うことによって順位を伸ばした。また他に順位が上がった、もしくは新しく参入し 上位に位置している企業の成功要因も、SPA である。このように、変化に対応した企業が売 上を伸ばしている。 また、近年アパレル業界では、SPA だけでなく、 「海外進出」や「M&A」など様々な戦略を 行っている。 では、海外進出から見ていく。近年日本の大手アパレルメーカー各社は中国への進出を 加速しているとある。なぜなら中国は中間所得層拡大と消費意欲が高まっているからであ る。そこで、日本アパレルメーカーは、日本でヒットしているブランドを相次いで投入し 始めた。また中国では、日本のブランドを受け入れられる高級商業施設も増えている。こ のように日本の衣料品市場の不振が続くなかで、中国に活路を求める動きが広がっている。 一方、中国進出先行組では事業戦略の見直しを迫られている企業もあり、中国に進出すれ ば、必ずしも収益が出るわけではない。しかし、マーケット拡大のために、アパレル業界 は、海外に向けて積極的に進出していうる。(日経産業新聞(2007/9/20) 17 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 海外進出だけではなく、国内外の M&A も積極的に行われている。M&A とは、企業の買収・ 合併このことを意味する。M&A を行う目的は、ブランド力の向上、規模の拡大、他事業を取 り込むことによって事業の多角化を目指すことである。つまり成長するためには同業他社 の商圏などを取り込む必要性が強まっているということである。 2-1-15.今後の展望 先ほど述べたように、アパレル業界は市場の縮小に伴い、生き残りが厳しい業界へと変 化してきている。そのため、アパレル企業は、生き残りをかけてさまざまな対策をとって いく必要がある。そこで、最近のアパレル企業の動向を見ると、海外進出と、M&A に力を入 れ始めている。今後アパレル企業は、新たなマーケットの開拓をするために、中国だけで なく、各国に進出し始めるだろう。また M&A では、アパレル企業は、同業他社の事業を取 り込むことによって、事業を多角化し、規模が拡大していくと思われる。これにより、ア パレル業界には、中小企業が合併され、大手企業が増えていくだろうと思われる。また、 国内では、消費者の変化にさらに早く対応することが求められる。現在、消費者は服に、 自分らしさを表現するアイテムであることを求めている。そのため、消費者の嗜好は多角 化し、かつ服には価格よりも付加価値が求められるようになっている。そこで、アパレル 企業は、多くの消費者のニーズを満たすため、服の付加価値を高め、自分らしさを表現で きる服を提案していかなければならない。このように、いかに消費者の立場に立った商品 開発が行えたアパレル企業が、生き残っていくだろう。 では、次に衣料品小売業界で1位であるファーストリテイリングと、2 位であるしまむら (2007 年度現在)の企業概要についてみていく。 18 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 2-2.企業概要 2 社の事業概要を比較する。 社 名 設立 事業内容 本社 代 表 者 株式会社ファーストリテイリング 株式会社しまむら 1963 年 5 月 1 日 1953 年 株式又は持分の所有による グループ全体の事業活動の支配・管理等 総合衣料品の販売 東京都千代田区九段北 埼玉県さいたま市 1-13-12 北の丸クスエア 北区宮原町 柳井 野中 正 (やない ただし) 2-19-4 正人 (のなか まさと) 8 月 31 日 2 月 20 日 資本金 102 億 7395 万円(2007 年 10 月 11 月) 17086 億円(2007 年 2 月 20 日) 売上高 4488 億円(2006 年 8 月 31 日) 3912 億円(2007 年 2 月 20 日) 12621 名 9750 名 (正社員 3990 名、2006 年 8 月 31 日) (正社員 1545 名、2007 年 2 月 20 日) 決 算 期 従業員 国内ユニクロ事業・・・㈱ユニクロ 海外ユニクロ事業・・・5 社 子 会 社 株式会社アベイル (英・韓・中・香・米) 新事業・・・㈱ジーユー 思夢樂股分有限公司 M&A 事業・・・7 社 (2 社持分法適用関連会社) 売上構成比 国内ユニクロ事業・・・87.7% しまむら・・・89.5% 海外ユニクロ事業・・・1.9% アベイル・・・9.61% 新事業・・・4.8% 思夢樂…0.8% M&A 事業・・・5.6% (2006 年 8 月 31 日) (2007 年 2 月 20 日) まず初めに、2社がどのようにして衣料品小売業界1位、2位となったのか。2社が衣料品 小売業界で成功を収めた要因を見ていく。 2社が台頭してきたきっかけは、バブル崩壊にある。業界概要の消費者の動向でも述べた ように、バブル崩壊以降、モノがさっぱり売れなくなってしまった。そこで企業は、原価 の安い商品を高く売るという、経費を抑える努力をせずに、高い商品を無理に売って自社 にのみ都合の良い利益追求に走るか、あるいは顧客志向を鮮明にした経営をするのか、選 択を迫られていた。どちらの戦略を選んだかにより、アパレル企業としての明暗を分ける 19 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ことになった。 ここで後者の戦略をとったのが、ファーストリテイリングとしまむらである。バブル崩 壊により消費者は低価格志向へと移行していた。そのため、商品の単価を安くすることに よって、消費者は衣料品で節約したお金を他の消費に回すことで、より豊かな生活を楽し んでもらおう、と考えたのである。 さらに2社は、独自の生産、調達方法で、どこよりも低価格で良質な大衆向けのカジュア ルウエア、デイリーウェアを、他に先駆けて大量供給することにより、バブル景気により 高く設定されていた日本の衣料品価格を、世界水準の安さに近づけた貢献者とも言えるの だ。ファーストリテイリングとしまむらの成功要因は、低価格戦略だけでなく、「顧客志 向」にもあるのだ。その結果として2社は、「デフレを味方につけた数少ない勝ち組アパレ ル小売業」になることができたのである。 では、ファーストリテイリングの概要についてみていく。 (1)ファーストリテイリング ファーストリテイリングは、2005 年 11 月に持株会社に移行した。持株会社とは、グルー プ企業の株を所有することにより、企業全体の事業活動を支配することができる会社であ る。支配するとは、企業全体の経営管理を行うということである。そのため、持株会社の 主な事業内容は、企業全体の戦略を考え、経営管理、リスクマネジメントなどを行ってい る。そのため、ファーストリテイリングの事業内容は、株式又は持分の所有によるグルー プ全体の事業活動の支配・管理等とある。 20 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 2-2】 (ファーストリテイリングHP概況 http://www.fastretailing.com/jp/about/company/) 【図 2-2】は、ファーストリテイリングの主要グループ企業マップである。ファーストリ テイリングを親会社とし、ユニクロ事業を行う企業、ユニクロ以外の衣料品関連事業を行 う企業に大きく分けられる。ユニクロ事業では、国内ユニクロ事業を行う株式会社ユニク ロを筆頭に、海外でユニクロ事業を行う各国の企業、デザインを行うユニクロデザインス タジオ会社が連なっている。衣料品関連事業では、M&A で買収・合併された靴専門店の株式 会社ワンゾーンや、2006 年度に新事業として立ち上げた株式会社ジーユーなどが連なって いる。このように、今まで中心事業として行ってきたユニクロ事業は、株式会社ユニクロ として子会社となった。また、ユニクロ事業以外の事業分野を行う企業も増加している。 では各々の子会社について概要をみていく。 ①子会社 まずは、中心事業である株式会社ユニクロについてみていく。ユニクロは、商品企画か ら販売まで一貫して自社で行う SPA により、低価格かつ高品質なベイシックカジュアル商 品を提供している。商品は、いつでも、どこでも、だれでも着ることができる、ファッシ 21 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ョン性のある高品質なベイシックカジュアルをコンセプトとしている。そのため、商品構 成は、メンズ、ウィメンズ、キッズ・ベビー、インナー、グッズ・その他の分野に分かれ、 幅広く商品を揃えている。 【図 2-3】 商品構成部門別売上高構成比 (ユニクロのみ/06年8月) グッズ ・ その他 8% イン ナー 17% メン ズ . 3 8 % キ ッズ ・ ベビ ー 6% メンズ ウィメンズ キッズ・ベビー インナー グッズ・その他 ウィメン ズ 31% 【図 2-3】は、ユニクロの 2006 年度の商品別に見た売上高構成比である。売上高構成比 では、メンズが最も売上が多く、次にウィメンズ、インナー、グッツ・その他、キッズ・ ベビーという順番になっている。このように、ウィメンズやメンズ商品のみに偏ることが あまり無く、男性、女性、子供が顧客となっている。そのため、家族連れで買い物にくる 客が多い。 また、ユニクロの海外事業では、2007 年度 8 月 31 日現在で、5 カ国に事業展開している。 イギリスに設立されたユニクロ・ユーケー・リミテッドは 11 店舗、中国に設立された迅銷 (中国)商貿有限公司は 9 店舗、アメリカに設立されたユニクロ・ユーエスエー・インク は 1 店舗、韓国に設立されたエフアールエルコリア株式会社は 14 店舗、香港に設立された ユニクロ・ホンコン・リミテッドは、4 店舗出店している。各国で合計 39 店舗出店してい る。 では、衣料品関連事業を見ていく。企業は、連結対象子会社である、株式会社ワンゾー ン、エフアール・フランス社、株式会社ジーユー、株式会社キャビン、アスペジ・ジャパ ン株式会社の 5 社と、持分法適用関連会社である、株式会社リンク・セオリー・ホールデ ィングスと株式会社ビューカンパニーの 2 社を見ていく。 連結対象子会社とは、連結決算の対象となる子会社のことをいう。持分法適用関連会社 22 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ とは、出資比率 20%以上 50%未満の非連結子会社・関連会社のことをいい、投資した分が 決算の対象となる。 株式会社ワンゾーンは、靴の販売を主とした小売業で、 「フットパーク」という靴専門店 の運営を行っている。当社は、2005 年 3 月に完全子会社化された。 エフアール・フランス社は、フランスを中心に事業を行っている。当社は、フランスを 中心に「コントワー・デ・コトニエ」というブランドを展開するネルソンフィナンス、ク リエーションネルソン、日本で同ブランドを展開するコントワー・デ・コトニエ ジャパン と、フランスで「プリンセス タム・タム」というブランドを展開するプティヴィクルの 4 社を傘下に持つ。「コントワード・デ・コトニエ」とは、母と娘が着られる服をコンセプト としたブランドで、「プリンセスタム・タム」とは、女性下着を中心に扱うというブランド である。 株式会社ジーユーは、カジュアル衣料品及び装飾品の企画、製造及び販売を行い、 「ジー ユー」という低価格をメインとしたカジュアル服を取り扱う店の運営を行っている。当社 は、2006 年度に新事業として立ち上げられた。 株式会社キャビンは、婦人服専門店を事業内容とし、「サジ」「イーエーピー」「アンラシ ーネ」などファッション性の高いブランドを展開している。「サジ」とは、大人のためのデ イリーエレガントをコンセプトとして、トレンドを取り入れた商品を扱う。 「アンラシーネ」 は、子育てのママのデイリーカジュアルウエアをコンセプトに、雑貨やキッズウエアなど を扱う。 アスペジ・ジャパン株式会社は、婦人服の輸入・製造・販売などを行い、本場ミラノで 確立されたブランドを展開している。当社は、2005 年 9 月に子会社化された。 株式会社リンク・セオリー・ホールディングスは、ライセンスブランドの企画・生産・ 販売・直営店の運営 、自主ブランドの企画・生産・販売・直営店の運営 、海外ブランド 商品の輸入販売 などの事業を行う会社の管理を行っている。当社は日米で Theory ブラン ドを展開している。このブランドは、着心地が良く、モダンでセクシーなデイリー洋服を コンセプトとしている。ファーストリテイリングは、2004 年 1 月に資本参加した。 株式会社ビューカンパニーは、婦人服の企画・販売を行い、婦人靴の VIEW(ビュー) [vju:] (ビジュー)、ファミリーをターゲットにしたすべてのニーズに対応できる靴の総合店 SHOES WORLD(シューズワールド)などを展開している。ファーストリテイリングは、当社 と 2006 年 10 月に業務・資本提携を結んだ。 このように、中心事業である国内ユニクロ事業、海外進出を目的とした海外ユニクロ事 業だけでなく、衣料品関連事業を拡大している。 ファーストリテイリングは事業拡大だけでなく、CSR にも力を入れている。そこで、次に CSR について見ていく。 23 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ②CSR CSR とは、Corporate Social Responsibility の略語で、日本語では「企業の社会的責任」 と訳される。社会的責任とは、企業が事業活動において利益を優先するだけでなく、顧客、 株主、従業員、取引先、地域社会など様々な利害関係者との関係を重視しながら果たす責 任である。具体的には、安全で高品質な製品・サービスの提供、環境への配慮、社会的公 正・倫理にかなった活動などを行っているかなどが挙げられる。このような社会的責任を 果たすことにより、業務プロセス改善によるコスト低減、技術・サービス革新、企業イメ ージの向上など様々なメリットがあるといわれ、CSR に積極的に取り組む動きが広がってい る。(weblio 辞書 http://www.weblio.jp/より) ファーストリテイリングでは、「世界を良い方向に変えていく」ことを基本方針として、 積極的に CSR に取り組んでいる。具体的には、2001 年に「社会・環境活動室」を設置し、 2004 年に「CRS 部」へと発展させた。これにより、社会貢献や環境活動だけでなく、コン プライアンスといって、法令遵守、道徳や倫理に基づいた行動を浸透させることなどの取 り組みもこない、より広い視点で課題に取り組んでいる。 課題では、利害関係者を、お客、取引先、株主・投資家、従業員、社会、環境の 6 つに 絞り、それに対する社会的責任をそれぞれあげている。では 1 つずつ見ていく。 お客に対する社会的責任は、高品質・高付加価値の商品・サービスを提供することを課 題としている。具体的には、web サイトに「お客様窓口」のコーナーを設置や、商品回収な どを行っている。お客様窓口では、電子メール・電話などで顧客の意見や要望を聞き、商 品や売場作りに反映させるなど迅速に対応している。 取引先に対する社会的責任は、取引工場におけるコンプライアンス推進、健全な関係構 築することを課題としている。具体的には、 「生産パートナー向けのコードオブコンダクト」、 「優越的地位の濫用行為防止ガイドライン」を制定している。「生産パートナー向けのコー ドオブコンダクト」とは、取引工場の行動基準を規定したものである。行動基準とは、児 童労働の禁止、強制労働の禁止、抑圧およびハラスメントの禁止、差別の禁止、健康と安 全性の確保などコンプライアンスに沿った行動基準である。また、この基準が満たされて いるか、第 3 者機関が定期的に審査している。「優越的地位の濫用行為防止ガイドライン」 とは、取引上の地位が優越していることを利用して、相手方を抑圧し、対等な関係ではあ りえない一方的に不利益な取引条件を強要することを防止するため、禁止行為および必要 な社内手続きを規定している。これにより、ふさわしくない行為を防止する。 株主・投資家に対する社会的責任は、CSR に関する情報開示を課題としている。 従業員に対する社会的責任は、コンプライアンス推進、ダイバーシティ(多様性)の推 進、キャリアの開発を課題としている。具体的には、障害者の雇用、女性キャリアの推進、 社員フランチャイズ制度、地位限定正社員制度など、雇用を限定、差別することなく、従 業員が働きやすい環境づくりや、キャリアアップの支援を行っている。 社会に対する社会的責任は、ボランティア活動、緊急災害支援を課題としている。具体 24 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 的には、スペシャルオリンピックスの支援、緊急災害支援、ボランティアクラブの設置な どを行っている。 環境に対する社会的背金は、商品のリサイクル、環境分野での支援活動を課題としてい る。具体的には、お客が着なくなった商品を回収し、リサイクルする。リサイクルとは、3 通りある。1 つ目は、NPO 法人日本救援衣料センターなどを通じ、発展途上国へ回収した衣 類を送りリユースすることである。2 つめは、使用できない衣類を工場で処理し、軍手など の原料にしてリサイクルすることである。3 つ目は、原料にもならない衣類を発電燃料とし てリサイクルすることである。また、環境分野では、瀬戸内オリーブ基金を行っている。 このように、事業活動で自己利益のみを追求していくのではなく、社会に対しての責任 を果たしていくことを事業活動の一環としている。 では、次にファーストリテイリングの店舗推移を見ていく。 【図2-4】 (ファーストリテイリング 2006年度 アニュアルレポート) 【図2-4】は、ファーストリテイリングの売上高と店舗数の推移をまとめた図である。 この図を見ると、ファーストリテイリングは、23年間で、店舗数を1632店舗まで増やして いることがわかった。特に、2005年度から、店舗数が増加している。これは、M&Aにより、 25 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ その企業の店舗数が増加したからである。このようにして、ファーストリテイリングは店 舗数を増やしている。 続いてしまむらの企業概要についてみていく。 (2)しまむら まずは中心事業であるしまむらについてみていく。商品構成は多品種多アイテム、少量 品揃えを基本とし、主に 25~45 歳の主婦をメインターゲットとしている。そのため、低価 格で気軽に買えるデイリー衣料品を広範囲に揃えていることが、しまむらの商品構成の特 徴とされる。 【図 2-5】 商品構成部門別売上高構成比 (しまむらのみ/06年2月期) 寝装具 12 % インテリア 靴 4% 4% ベビー・子供服 8% 紳士衣料 9% 洋品小物 9% 婦人衣料 3 0% インテリア 靴 紳士衣料 洋品小物 肌着 婦人衣料 ベビー・子供服 寝装具 肌着 24 % 【図 2-5】はしまむらの商品構成部門別売上高構成比を表したものである。一番多く売り 上げている商品は、しまむらのメインターゲットでもある婦人衣料品であることがわかる。 また、主婦は自分の衣料品以外にも、旦那や子供のものといった家族の衣料品も一緒に買 う場合が多いため、紳士衣料品やベビー・子供服の割合も高くなっている。 また関連会社や子会社では、インテリアや靴などの幅広い分野に渡り、商品を取り揃えて いる。子会社アベイルは、15~35 歳をメインターゲットとし、しまむらよりも若者を対象 にした商品を扱っている。また、デイリーウェアをメンズとレディースの両分野で構成し ているのも特徴にあげられる。 次に、子会社について見ていく。しまむらには国内に 1 社、海外に 1 社の計 2 社の子会社 がある。まずは国内の子会社である、若者向け衣料品専門店“アベイル”について詳しく みていく。アベイルは、15 歳~35 歳のヤング層をターゲットに、アメリカンカジュアルと ヨーロピアンエレガンス、それにシューズの3分野を主力商品として構成し、消費者が今 26 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 最も要求しているファッションの個性化とトータルコーディネイトに応える事が基本政策 である。1997 年に1号店を立上げ、現在は全国 300 店舗以上の展開を予定している(しま むらグループ アベイル業態 http://www.shimamura.gr.jp/company/business/04/)。 続いて、海外の子会社である流行服飾館“思夢樂”について詳しく見ていく。しまむら は大きく分けて 3 つの条件を基本とし、台湾へ思夢樂の展開を始めた。1 つ目は季節のある 国であること。2 つ目は最初進出国としては体型が日本人と似ている国であること。3 つ目 は外資 100%が可能である事であることである。そしてしまむらは、1997 年に台湾に思夢 樂股分有限公司を設立した。そして翌年の 1998 年に、海外初出店となる流行服飾館思夢樂 を出店した。今後は 30 店舗以上の展開を目指している 続いて、しまむらの店舗推移を年代別に見ていく。 【図 2-6】 しまむら 店舗推移 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 店舗数 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 842 945 1050 1151 1250 【図 2-6】はしまむらの 2002 年から 2006 年までの店舗推移をまとめた図である。 図を見ると、右肩上がりに推移し、毎年約 100 店舗ずつ出店していることが分かった。 また、2004 年には 1000 店舗出店を達成している。 ファーストリテイリングは、国内ユニクロ事業だけでなく、海外進出や、M&A など事業展 開を積極的に行っていた。一方、しまむらは、しまむら事業を中心となっていた。 では、2 社の沿革についてみていく。まずファーストリテイリングから見ていく。 27 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 2-3.企業の歩み (1)ファーストリテイリング 1984 年 1 号店「ユニクロ」をオープン 1991 年 「メンズファッション小郡商事」から「株式会社ファーストリテイリング」へ 1998 年 「本部主導」から「店舗主導」へ、フリースブーム 2002 年 2004 年 ブーム終了ともない減収へ、食品事業を立ち上げるが、すぐに撤退 「ユニクロは低価格をやめます」宣言、カシミヤ商品、M&A 2005 年 再事業構造改革、持株会社体制へ 2006 年 ニューヨークへ出店、新事業「g.u」立ち上げ ・ユニクロ誕生(1949 年~) 1949 年 3 月 に社長である柳井正氏の父親が山口県宇部市で「メンズショップ小郡商事」 を創業した。柳井氏は早稲田大学を卒業後、ジャスコに入社するも、翌年に退職し、小郡 商事に入社した。以後、小郡商事は柳井氏を中心とした体制となる。1984 年、柳井氏は社 長に就任し、広島市内に「ユニーク・クロージング・ウェアハウス」(無駄を省いた倉庫 型店舗)の略称である「ユニクロ」1号店を出店する。1 号店はカジュアル商品が激安で買 えるユニークな店として人気を博し、翌 1985 年から全国チェーン展開を始めた。1986 年、 柳井氏は安い仕入れ先を求めて香港へ出張した。その時にジョルダーノ社が行っていた SPA に着目することとなる。 ・体制確立、ファーストリテイリングへ(1988 年~) 1988 年は、全店に POS(販売時点情報管理)を導入し、在庫管理システムを構築した。 翌年は、素材段階から商品の強化をするため、大阪府吹田市に商品開発部を開設した。同 時に宇部市に配送センターを設置し、SPA チェーン化に向けて設備を整えていく。1991 年 9 月、小郡商事の社名を、Fast(速い)と Retailing(小売業)の2つの意味を込めた株式会 社ファーストリテイリングに変更した。1992 年には九州を含む西日本全般に広がり、50 店 舗を越えた。1994 年は関東に進出し、広島証券取引所に上場を果たすこととなる。 ・体制改革とユニクロブーム(1997 年~) 1997 年 11 月には全国 300 店舗を超える規模となる。同年、ファミリーカジュアルの「フ ァミクロ」、スポーツカジュアルの「スポクロ」という新事業を設立した。しかし、思う ように売上が伸びず、翌 1998 年全店舗閉鎖となる。また、この頃ユニクロの収益が下がり 始めていた。これは、急激な新規出店を行ったことにより、希少価値などが薄れたからで ある。そこで柳井氏は「ABC(オールベターテェンジ)改革」という業務改革方針を打ち出 した。ABC 改革とは、アルファベットの最初からすべてを変えていくという気持ちをこめて 名づけられ、人事制度の変更を伴う意識・行動面の改革、および製品開発・サプライチェ 28 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ーンの再構築を目指す業務システムの改革を目的に行われた。具体的には顧客の観点から あらゆる業務を見直し、改善を行った。そこで、本部主導から一番顧客の視点に立つこと ができる店舗主導へと体制を変えた。また、店舗ごとに情報を瞬時に集計して最適な生産 計画につなげることによって、コスト削減などを行った。これにより、1999 年は一転して 好決算となり回復を遂げる要因になった。また、その他の要因として、1998 年 10 月から の「フリースキャンペーン」が話題を呼び、11 月に首都圏初の都心型店舗としてユニクロ 原宿店をオープンしたことが、一般マスコミなどに取り上げられ、全国にユニクロの名前 が知られるようになったからだ。以降「ユニクロブーム」が全国で沸騰し、売上高は、1999 年 8 月期の 1,110 億円から、2000 年 8 月期には 2,289 億円へと倍増し、2001 年 8 月期 も前年度倍増の 4,185 億円と急成長を遂げた。ブームの火付け役となったフリースは、1998 年からの 3 年間で合計約 3650 万枚も売り上げた。また、2000 年にはインターネット通信販 売を開始し、翌 2001 年には海外ユニクロ事業として英国ロンドンに初出店を果たす。 ・ブームの終わりと反動(2002 年~) ブームにのり更に急成長を遂げたユニクロだが、2002 年に「ユニクロブーム」の反動が 起こる。反動とは、消費者がユニクロ商品を避けるようになってしまった現象があげられ る。なぜ消費者が、ユニクロ商品を避けるようになったかというと、ブームにより商品が 売れすぎてしまった為、街中で同じ服を見かけるという現象が起こったからだ。消費者は 同じ服を着ていることを好まなかったため、自然とユニクロ商品を避けるようになった。 そこで、ファーストリテイリングは、ユニクロデザイン研究室を設立し、デザインに力を 入れ始めた。また 9 月に中国に進出した。2002 年 11 月には体制を持ち上げるため玉塚元一 氏が社長に就任し、柳井氏は会長に就任する。またファーストリテイリングは「エファー ルフーズ」を立ち上げ、 「SKIP」というブランドで食品販売事業を開始する。しかし、食品 事業は伸びず 2004 年には撤退することとなった。海外事業では英国におけるユニクロが 21 店舗から 16 店舗までに撤退した。そのため、2003 年度は、前年に続けて減収・減益となっ た。 ・カシミヤキャンペーン、ブランド力強化(2004 年) 2004 年は、顧客にユニクロの認識を改めてもらうため「ユニクロは低価格をやめます。」 という方針を掲げる。ユニクロは低価格=安物という感覚を打破し、世界に通用する商品 を作るため、2003 年の秋から品質に拘ったカシミヤなど高級素材を扱った商品を展開した。 その結果 2004 年度の決算は、カシミヤキャンペーンが成功し、ふたたび増収・増益へと復 活している。10 月には大阪府に「ユニクロプラス」という通常より3倍の広さをもつ大型 店舗を出店する。また、2004 年度は M&A(企業合併)と R&D(研究開発)にも力を入れ始 める。2 月には株式会社ナショナルスタンダードを子会社化し、12 月には米国ニューヨー ク州にデザイン子会社を設立する。 29 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ・再事業構造改革、持株会社体制へ(2005 年) 2005 年玉再び柳井氏が社長に就任した。なぜなら塚氏の安定的志向な考えと柳井氏の挑 戦する考え方と合わなかったからである。そして柳井氏は、新たに事業構造改革に乗り出 すため 11 月に持株会社体制に移行した。構造改革の目的は、主に「①グループ化とグロー バル化、②再ベンチャー化、③コーポレートガバナンスの強化」である。最大の目的は、 経営の管理と事業を明確に分離し、グループの統一を強化することである。これにより、 経営の透明性を確保しながら、革新性のあるスピード経営の実現を計った。また社員全員 が、仕事との向きあい方を根本から変えるなどして、再ベンチャー化を計る。そして世界 規模の小売業をめざすため、ユニクロ事業の強化と共にグループ事業に力を入れる。グル ープ化では、M&A (買収・合併)を積極的に行っている。2005 年 3 月に国内で約 300 店 舗の靴店を展開する株式会社ワンゾーンを始め 3 社を子会社化した。9 月には韓国、米国、 香港へ海外進出を進めた。また同月ウィメンズインナー専門店「BODY by UNIQLO」を出 店した。10 月には銀座に大型店を出店し、立地業態開発など、新たな事業展開を進めてい る。 ・ニューヨークへ出店、ジーユー新規事業設立(2006 年) 2006年、国内ユニクロ事業ではR&D体制により開発した「スキニージーンズ」が売上を 伸ばした。更にデザインに力をいれるため「デザイナーズ・インビテーション・プロジェ クト」を秋ごろに開始した。また大型店出店の試みとともに、駅なかや地下街に「エキナ カ・エキチカ」という小型店の出店も行っている。海外事業では各国あわせて30店舗に達 し、11月にはニューヨークのソーホー地区に大型店を出店した。ニューヨークでは、「From Tokyo to New York」をコンセプトに、最新の日本文化についての情報も発信している。12 月には上海・浦プー東トン地区のショッピングモールに旗艦店を出店し、拡大を進めてい る。10月には、ジーユーという新規事業を始める。ジーユーは、ユニクロとは対照的に「絶 対的な低価格」を追求した事業だ。 2007年現在では4月28日、ユニクロ原宿店を改装して、「UT STORE HARAJUKU.」というT シャツ専門店をオープンし、ブランド力強化に力を入れている。 では、簡単にもう一度ファーストリテイリングの歴史を振り返ってみる。柳井氏は、父 親が創業した小郡商事に入社した。そのなかで、柳井氏が試行錯誤をかさね生み出した事 業が「ユニクロ」である。ユニクロは、SPAで独自の商品を作ることにより低価格を実現し、 人気を博す。1998年には、フリースでブームを生み、急成長を遂げることになる。しかし、 2002年ごろからブームはすぎ、反動が起こった。そのため2003年度まで減収傾向にあった が、なんとか3000億の売上高を維持した。2004年度からは低価格路線を変更して高級化し、 ブランド力強化に力を入れた。これにより、2004年度は増収となり、回復を見せた。更に 30 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 飛躍するため2005年には持株会社に移行し、構造改革に乗り出した。ファーストリテイリ ングは、日本のマーケット市場からグローバル市場に目を向け、世界一のカジュアル企業 になることを目指して、更なる成長を遂げようと試みている。 (2)しまむら 1953 年 「島村呉服店」が誕生 1972 年 「株式会社しまむら」へ社名変更 1975 年 コンピュータを導入し、独自のシステム開発をする 1997年 「株式会社アベイル」と、台湾に「思夢樂股分有限公司」を設立 2006 年 しまむらが 1000 店舗を突破 靴専門店「ディバロ」の初単独店をオープン ・しまむら誕生(1953 年~) ファッションセンターしまむらは 1953 年、埼玉県で営業していた島村呉服店を株式会社 として設立したところから始まる。1957 年にセルフサービスを導入し、総合スーパースト アへと変化を遂げる。1961 年には店舗数が数店にも関わらず、この時すでにチェーン化を 前提に、セントラルバイイング制(本部集中仕入れ)を開始する。そして 1972 年に「株式 会社しまむら」へと社名変更をする。 ・システムの確立(1975 年~) 1975 年には早くもコンピュータを導入し、在庫の管理や価格変更をコンピュータ上で管 理することにより、商品の店舗間バランスの調整などを行う独自のシステムを開発してい く。さらに、物流の合理化を目指しトラックのチャーター契約による専門便を運行してい る。1978 年には、全社でオンラインネットワークを構築。コンピュータを使った戦略を重 視していた。そして埼玉、群馬以外の東京、千葉、栃木へと展開範囲を広げていく。 店舗数が 30 店近くなった 1981 年には、全店舗をオンラインで結び、商品管理のデータ ベース化と単品管理を始めた。さらに 50 店になった 1984 年には埼玉に自社物流センター を建設している。1987 年に全商品のバーコード化と伝票レスもこの年から稼動することに なる。1989 年、ここで東京証券取引所第二部上場する。また 3 年後の 1991 年には東京証券 取引所第一部に上場する。そして 1994 年、ついに営業収益 1,000 億円を突破する。 ・新業態の設立(1997 年~) 1997 年には新業態として若者をターゲットとした株式会社アベイルの設立しオープンす る。また、海外展開を目指し台湾に思夢樂股分有限公司を設立。翌年の 1998 年には台湾で 「流行服飾館思夢樂」を開店。1999 年で営業収益 2,000 億円突破する。5 年間で倍の収益 31 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ に達成する。新業態として服飾雑貨の専門店「シャンブル」、ベビー・トドラー用品の専門 店「バースデイ」の出店も開始した。2000 年、全国体制での物流網を整備する。そして 2002 年に沖縄県へ進出。全国 47 都道府県への展開が達成した。翌年の 2003 年では「島村呉服 店」から数えて 50 周年のこの年、しまむらや他のグループ店合わせて 1000 店舗突破した。 2006 年には、靴専門店「ディバロ」の初単独店がオープン。しまむら 1,000 店舗を突破。 現在も着実に成長を続けている。 32 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 3.経営分析 3-1.財務分析 (猪股裕子) それでは、2社の強みを明らかにするため、財務分析を行う。 まず財務分析とは、企業の財務諸表に示されている数値を分析して、企業の経営状態を 把握し、問題点を摘出することである。 2社の強みを明らかにするためには、強みや今後の問題点、改善策を整理するためにも、 まず2社の現状を正しく把握する必要がある。そのために財務分析で比較し経営状態を見て いく。 (1) 成長性分析 成長性分析では、売上高、総資本、営業利益、経常利益の 4 つの視点から成長性をみて いく。 まず、それぞれの意味について見ていく。売上高とは、その年の総合的な売上である。 総資本とは、総合的な手元資金を示している。営業利益は、売上高から売上原価と費用を 引いて求められる利益である。つまり、営業活動で得ることのできた利益である。経常利 益は、本業による営業利益だけでなく、財務活動で資金を運用するなど副業で生み出した 利益を含めてみた総合的な利益である。 成長性では、どこに注目すればよいのかを見ていく。売上高では、売上が伸びているか を見ていく。総資本では、経営活動を行うための資金があるかを見ていく。営業利益と経 常利益では、それぞれ本業と副業により利益をあげているのかを見ていく。 では、この 4 つの視点からファーストリテイリングとしまむらの成長性をみていく。ま ずファーストリテイリングを分析していく。 33 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ <ファーストリテイリング> 【図 3-1】 総資産・ 売上高 (百万円) 5 00,000 4 50,000 4 00,000 3 50,000 3 00,000 2 50,000 2 00,000 1 50,000 1 00,000 50,000 0 営業・ 経常利益 (株)ファーストリテイリングの成長傾向 (百万円) 8 0,0 00 7 0,0 00 6 0,0 00 5 0,0 00 4 0,0 00 3 0,0 00 2 0,0 00 1 0,0 00 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 344,170 売上高 210,921 総資本 営業利益 50,418 経常利益 51,110 309,789 219,855 41,308 41,569 339,999 240,897 63,954 64,183 383,973 272,846 56,692 58,607 0 448,819 379,655 70,355 73,138 【図 3-1】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの売上高、総資本、 営業利益、経常利益の推移をまとめた図である。 図を見ると、売上高は 2002 年度から 2003 年度にかけて減少したものの、2003 年度から 右肩上がりの成長を続けている。総資産は、右肩が上がりの成長を続けている。営業利益、 経常利益は、2002 年度から 2003 年度にかけて減少し、2004 年度に上向きに持ち直すも、 2005 年度には再び減少し、2006 年度には、再び上向きに持ち直し増加している。このよう に、営業利益、経常利益の伸び方は、不安定であることが特徴として挙げられる。 次に、前年度比伸び率をみていく。 34 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-2】 ファー ス トリテ イリング の 前 年 度 比 伸 び 率 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% -20.00% -40.00% -60.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 売上高 -17.77% -9.99% 9.75% 12.93% 16.89% 総資本 -16.77% 4.24% 9.57% 13.26% 39.15% 営業利益 -50.61% -18.07% 54.82% -11.36% 24.10% 経常利益 -50.48% -18.67% 54.40% -8.69% 24.79% 【図 3-2】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの、売上高、総資 本、営業利益、経常利益の前年度比伸び率の推移をまとめた図である。 この図を見ると、売上高、総資本は 2002 年度のマイナスから持ち直し、2006 年度まで上 昇傾向にある。特に 2005 年度から 2006 年度の総資本は、39%と大幅に伸びている。しか し、営業利益と経常利益は、2002 年度のマイナスから持ち直すも、2004 年度までで、2005 年度には再び伸び率がマイナスまで減少した。2006 年度には、伸び率を改善させた。 では、年度別に推移の要因を分析していく。2002 年度から 2003 年度にかけては、売上高、 営業利益、経常利益が減少した。これは、ユニクロブームが終わったことが要因である。 企業分析の沿革でも説明したが、ユニクロブームとは、1998 年度からのフリース商品のキ ャンペーンが人気に火がついたことがきっかけで起こった。これにより、2001 年度には売 上高 4185 億円という爆発的な売上を上げると同時に、ユニクロブランドが広まったという ブームである。しかし、ブームは 2001 年度をピークに終わりをみせ、2002 年度から 2003 年度はブームの反動で売上高が減少した。減少した理由は、フリースが消費者に飽きられ ブームが終わったことと、フリースに次ぐ新鮮味のある商品を投入するこができなかった からである。また、海外事業では赤字続きだった英国の店舗を 21 店舗から 16 店舗を閉鎖 したことにより、約 30 億円の特別損失を計上したことも利益減少の要因となった。 2003 年度から 2004 年度にかけては、売上高、総資産、営業利益、経常利益と全体的に増 35 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 加し、回復をみせる。前年度比伸び率をみても、マイナスからプラスに転じるなど大幅に 伸びた。なかでも利益の増加が目立つ。これは、カシミヤキャンペーンの効果、ウィメン ズ商品の強化、商品種類の拡充、コスト削減に成功したからである。カシミヤキャンペー ンは、2003 年の秋に始まった。ユニクロは、通常 1~3 万円する高級カシミヤを 4,990 円~ 8,990 円の低価格で販売し、色やバリエーションを増やすことで購買意欲を高め成功を収め た。ウィメンズ商品は 2002 年にデザイン研究室を設置し、主にデザインに力を入れた。美 脚パンツなどファション性を全面に押し出したことにより、女性の集客力を高めることと なった。ウィメンズ商品の強化だけでなく、ベビーや子供向け衣料や、水着、雑貨なども 投入して、商品の種類を増やしたことも客層拡大につながった。コスト削減では、在庫管 理の体制を整えたことと、アパートやアルバイトなどの人件費削減を行った。在庫管理の 体制とは、全社在庫と店舗在庫を一元管理できる体制を整えることで、余分な在庫が積み あがるリスクを防ぎ、シーズンごとにデザインを差し替えやすくした。このように商品の 付加価値を高め、コスト削減にも力を入れるなどして、利益を高めることに成功した。 2004 年度から 2005 年度にかけては、売上高、総資産は増加したものの、営業利益と経常 利益は減少した、つまり増収減益となった。これは、売上高増加率よりも経費の増加率の 方が上回ってしまったことをあらわしている。経費増加の要因は、在庫処分による値下げ と、一部の商品原価の増加、販管費の増加、海外事業の赤字、M&A を行った子会社の在庫処 分、買収に伴う連結調整勘定償却費が要因である。在庫処分の値下げでは、国内ユニクロ 事業の冬物と春物の値下げが続いてしまったことにより粗利益率を下げてしまった。販管 費の増加では、グループ化推進を目的とした本部の人材強化により人件費がかさんでしま った。海外事業では、英国で、閉店と新店を繰り返し 4.8 億円の赤字となった。子会社の 靴専門店であるワンゾーンは、在庫の最適化である在庫販売により 6.2 億円の赤字となっ た。連結調整勘定償却費とは、M&A を行ったネルソンファイナンス社の買収に伴う費用によ り 42 億円発生した。このように、経費がかさんだことにより利益を下げることとなった。 2005 年度から 2006 年度にかけては、売上高、総資産、営業利益、経常利益と全体的に増 加し、利益は再び回復を見せた。これは、国内ユニクロ事業が持ち直したことを示してい る。利益増加の要因は、商品開発に力を入れ、客単価を上げることに成功したからである。 また、商品発注精度を高めたことにより、在庫を巡るコストが改善したからである。商品 開発では、機能性を高めたインナー商品、古着加工をしたジーンズ、クールビズ用の紳士 服シャツなど高付加価値を高めた商品の販売を行い、天候に左右されにくい体制を作ろう とした。総資産の増加は M&A による新規連結子会社の増加、および出店による投資の増加 と、フランス事業の株式取得のため長期借入金の増加と増益に伴う未払法人税の増加など によるものである。 これまでファーストリテイリングの成長性を【図 3-1】と【図 3-2】で示してきた。売上 高は、商品の品質を高め、客単価が増加したことにより右肩あがりを保っている。総資本 は、M&A を行うことにより資本を増やし、右肩上がりとなっている。一方、営業利益と経常 36 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 利益は、年度によって、コスト削減が行うことができたり、できなかったり変動が激しい。 また的確な予測が出来ていないことによる値引きで利益を落としたりするなど、経営のコ ントロールが未だ不安定であることがわかった。しかし、前年度比伸び率をみると、上昇 傾向にあるため、成長性はあることがわかった。 <しまむら> (小林香織) 続いて、しまむらの成長性を分析していく。 【図 3-3】 総資産・売上高 (百万円) しま むら の 成 長 傾 向 営業・経常利益 (百万円) 400,000 35,000 350,000 30,000 300,000 25,000 250,000 20,000 200,000 15,000 150,000 10,000 100,000 5,000 50,000 0 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 253,907 売上高 136,421 総資本 営業利益 15,212 経常利益 14,976 276,212 145,693 18,119 17,588 299,688 156,760 20,584 20,440 325,354 171,661 23,685 24,019 0 361,989 191,858 29,918 30,849 【図 3-3】はしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売上高、総資本、営業利益、経常 利益の推移をまとめたものである。 (以下、4 つ全ての項目をまとめたものを成長傾向と称 す) 図を見ると、売上高、総資本、営業利益、経常利益の 4 つの項目全てが、過去 5 年間で 緩やかな右肩上がりの成長をみせている。では、なぜこのように全体的に成長しているの だろうか。それは、しまむらが 1975 年にコンピュータを導入し、独自のシステムを開発し たところから始まった。この独自のシステムとはどのようなシステムか、それは経営戦略 で詳しく述べていく。 このように、安定した収益をあげる土台を作り上げたことによって、しまむらは現在も 右肩上がりの成長をすることができるのでる。 しまむらの成長要因を見たところで、次は前年度伸び率を見ていく。 37 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-4】 しまむらの前年度比伸び率 45.00% 40.00% 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 売上高 総資本 営業利益 経常利益 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 12.17% 9.69% 32.51% 42.72% 8.78% 6.80% 19.11% 17.44% 8.50% 7.60% 13.60% 16.22% 8.56% 9.51% 15.07% 17.51% 11.26% 11.77% 26.32% 28.44% 【図 3-4】はしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売上高、総資本、営業利益、経常 利益の前年度伸び率を表したものである。 図で見ると、先ほど述べたように成長傾向のグラフでは年々上昇しているが、前年度伸 び率を見ると全ての項目が上がり始めているのは 2004 年度からとなっている。売上高と総 資本は 2003 年度に下降したものの、2004 年度から少しずつ伸びを見せている。営業利益と 経常利益も同様に、2003 年度に大きく下降しているが、2004 年度と 2005 年度は安定した 推移を見せており、2006 年度では上昇している。それでは、各年度別に数値の増減要因を みていく。 初めに、2002 年度の前年度伸び率の増減要因を見ていく。2002 年度の前年度伸び率は過 去 5 年間で一番高い数値となっている。この要因として、店舗数が 700 店舗を超え、北海 道から鹿児島までの全国展開となった。また、店舗運営や仕入れ方法の見直しをした効果 で集客力が増し、単体の既存店売上が伸びたほか、粗利益率も改善した。これは、外観を 重視した陳列や品揃え、在庫の量に差をつけた商品管理へと変更した。この商品管理の変 更とは、適正に在庫を管理するための効率化の追求が進み、少なめの商品発注と売れ筋追 加によって商品管理を行うことが基本だったが、2002 年度からこの方針を大きく変えて、 季節の最盛期での商品の追加を行わず、在庫の不足は次の季節商品を前倒しで投入するこ とになった。これにより売り場の変化が顕著になり、消費者の支持を高めて、売上の向上 と共に、売れ残りによる値下げを減少させることができた(2002/03/15, 日本経済新聞、 平成 14 年 2 月期 決算短信)。 続いて、2003 年度を見ていく。成長傾向では全ての項目が上昇しているが、前年度伸び 38 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 率では全ての項目が下降している。これは成長のスピードが弱まったことを示している。 前年度伸び率が下降した要因としては、2002 年度に前年度伸び率が急激に上昇したが、2003 年度ではそれに見合った伸びを見せることができなかったため、下降した数値となってい る。2003 年度の成長要因は、衣料品の品揃えを低価格商品だけでなく、高価格商品の取り 扱いを増やしたことで客数が増え、約 1.2%の増収となった。物流効率も従来日本でしてい た衣料品の二次加工を、生産地の中国で全てまかなう体制に転換し、仕入れ価格が低下し た。また、子会社のアベイルは約 1 千万円の営業黒字となった(2003/03/20, 日本経済新 聞)。 続いて、2004 年度を見ていく。2004 年度も成長傾向では全項目が上昇しており、前年度 伸び率では総資本以外の 3 項目が下降した推移となっている。2004 年度も成長傾向が上昇 した要因は、新規出店、商品構成、商品管理の 3 つがあげられる。まず 1 つ目の新規出店 は、ファッションセンターしまむらが 51 店舗、子会社などが 54 店舗と積極的に大量出店 を行い、売上高が増加した。2 つ目の商品構成は、流行商品の品揃え強化による収益力の向 上である。具体的には、婦人服分野でデザインや色柄などに工夫を凝らしたトレンド(流 行)商品を拡充し、それを目立たせるレイアウトと陳列による改装を行い、ファッション に対する顧客の期待度を高めた。3 つ目の商品管理では、各季節に合致した商品をタイミン グ良く販売する品揃え戦略を採用し、来客数の増加を図った。利幅の大きい流行商品の伸 びで、成長傾向は上昇をみせた(2004/04/08, 日本経済新聞、平成 16 年 2 月期 決算短信)。 続いて、2005 年度を見ていく。2005 年度も前年度と同様に、成長傾向は全ての項目が上 昇している。さらに前年度伸び率を見ると、今まで下降していた項目が上向きを示し、わ ずかではあるが全項目が上昇した推移となった。これらの要因として、2005 年度には宣伝 に力を入れる戦略をとったことがあげられる。今まで行っていなかったテレビ宣伝を初め た他、チラシ広告、ウィンドウディスプレイ、それに連動した売り場の演出も行った。さ らに、トレンド商品を充実させるための情報収集にも力を入れた。また、積極的に出店す るだけではなく、売り場改装や大幅な商品の入れ替えによって、前期まで黒字だった子会 社アベイルの減益や台湾子会社の赤字を改善させた(平成 17 年 2 月期 決算短信)。 最後に、2006 年度をみていく。2006 年度は成長傾向、前年度伸び率ともに、全項目が上 昇していることが分かる。特に、売上高と総資本に比べ、営業利益と経常利益は大きく上 昇した推移をみせている。また、しまむらは過去 5 年間一度も減収することなく、連続増 収益となっている。2006 年度の増収要因は、4~5 月の天候不順の影響でTシャツなど初夏・ 夏物衣料の売れ行きは悪かったが、 「マリンテイスト」など流行を取り入れた婦人服の品揃 えの拡充で補った。さらに、店頭ディスプレイを使って、服飾雑貨を加えた着こなしのコ ーディネートを提案することによって、既存店の売上が向上した。また、子会社の業績改 善もあげられる。若者向け衣料品専門店のアベイルは、国内メーカーのジーンズや靴とい った、在庫としての滞留時間が長い商品を削減した。また、バイヤーの海外派遣も回数を 増やし、より若者向けの流行に沿った商品調達を進めている。台湾にある思夢楽有限公司 39 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ も、商品構成の見直しを推進した。今までは現地調達が中心だったが、比較的単価が高い 日本企画の商品を拡充させた。また、新規出店を強化するのではなく、各店舗の管理を見 直して、販管費を抑制することにも力を入れた。これでアベイルとともにグループ全体の 業績改善に貢献し、2006 年度の伸び率を上昇させることができたのでる。 (2006/06/24, 日 本経済新聞、平成 18 年 2 月期 決算短信) これまで、しまむらの成長性を【図 3-3】と【図 3-4】の指標で見てきた。成長傾向にお いては、全ての項目が上昇しており、安定した右肩上がりの成長をしている。前年度伸び 率では、売上高と総資本、営業利益と経常利益が同様の推移をみせていた。成長傾向に対 し、前年度伸び率は不安定な推移ではあるが、積極的な出店戦略に加え、コーディネート 提案やトレンド商品の拡充などにより、5 年連続増収益を達成しているので、成長性は問題 ないと言える。 (猪股裕子) では、ここで売上高、総資本、経常利益を項目別にし、2 社を比較してみる。また、2 社 を比較するにあたって、本来ならば、業界平均と同時に見比べて、業界の位置を見ていき たい。しかし、ファーストリテイリングとしまむらは、日経統計指標で、別々の分野に区 分されており、業界平均を導き出すことができなかった。 日経経営指標によると、ユニクロはアパレル産業に分類され、しまむらはスーパーに分 類される。なぜ同じアパレル小売業なのに、別々に分類されるかというと、ユニクロは SPA で商品を自社開発しているためアパレル産業の傾向が強く、しまむらは問屋の機能を自社 で行っているため、衣料品スーパーとしての見方が強いからである。これにより、区分さ れている業界平均は違うため、業界平均を導き出すことができなかった。そこで、本論分 では、業界平均は割愛し、2 社の比較のみを行っていく。 また、営業利益は、経常利益と大差がないため割愛する。まず、総資本から企業規模を 見ていく。 40 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-5】 総資本 400,000 350,000 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 ファストリ しまむら 2002年度 210,921 136,421 2003年度 219,855 145,693 2004年度 240,897 156,760 2005年度 272,846 171,661 2006年度 379,655 191,858 【図 3-5】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの総資 本の推移をまとめた図である。なお、ファーストリテイリングは社名が長いため、ファス トリという略称を使用する。今後 2 社を比較する時もこの略称を使用していく。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングのほうが、総資本が多く、企業規模が大きい ことがわかった。特に 2006 年度では、しまむらの約 2 倍と差が開いている。これは、先ほ どファーストリテイリングの成長性で述べたように、M&A による資産の増加によるものであ る。 続いて、総資本を使ってどれほど売上高をあげているのかを見ていく。 41 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-6】 売上高 500,000 450,000 400,000 350,000 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 344,170 309,789 339,999 383,973 448,819 しまむら 253,907 276,212 299,688 325,354 361,989 【図 3-6】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売上高 の推移をまとめた図である。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングのほうが、しまむらよりも高い売上を上げて いることがわかった。2 社の差は、総資本よりも少ないものの、年々開きつつある。では、 2 社の前年度比伸び率を見てみる。 【図 3-7】 前 年 度 比 伸 び率 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% -5.00% -10.00% -15.00% -20.00% ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 -17.77% 12.17% -9.99% 8.78% 9.75% 8.50% 12.93% 8.56% 16.89% 11.26% 42 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-7】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの前年度 比伸び率である。 2 社を比較すると、2004 年度からは、ファーストリテイリングの前年度比伸び率が上回 っていることがわかった。ゆるやかな成長を続けるしまむらに対して、ファーストリテイ リングは、マイナス成長からもちなおし、2004 年度から急な成長を見せていることがわか った。 続いて、売上高からどれほどの利益をあげているのか、経常利益率を見ていく。 【図 3-8】 経常利益 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 ファストリ しまむら 2002年度 51,110 14,976 2003年度 41,569 17,588 2004年度 64,183 20,440 2005年度 58,607 24,019 2006年度 73,138 30,849 【図 3-8】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの経常 利益率の推移をまとめた図である。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングのほうが、利益が高いことがわかった。しか し、ファーストリテイリングは、不安定な収益をしている。一方しまむらは、減収するこ となく、きれいな右肩あがりの収益の仕方をしていることがわかった。 今までの 2 社の比較をまとめてみる。総資本を見ると、ファーストリテイリングのほう が、総資本が多く企業規模が大きいことがわかった。特に 2006 年度では、約 2 倍の差があ る。しかし、売上高を見ると、2 社の差は開いているものの、総資本よりも差が少ないこと がわかる。また、経常利益では、ファーストリテイリングのほうが、収益性は高いが不安 的な収益の仕方をしており、しまむらは安定した収益の仕方をみせ、着々と利益をあげて いることがわかった。 このように、ファーストリテイリングのほうが、全体的な数値は高いが、不安的な伸び 43 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 方を見せている。一方しまむらのほうが、全体的な数値は低いが、安定的な伸び方を見せ ていることがわかった。 2 社の成長性をみてきたところで、次にどのような収益の仕方をしているのか詳しく分析 していく。 (2)収益性分析 (猪股裕子) 収益性分析では、成長性分析をふまえたうえで、企業がどのような収益体制をとって、 利益を生み出して成長しているかを分析していく。 はじめに、総資本経常利益率(ROA)という指標を用いて、企業の総合的な収益力を分析 する。この総資本経常利益率は、売上高経常利益率と総資本回転率に分解できる。売上高 経常利益率では、利幅を高めて収益を得ているのか、総資本回転率では資本を効率よく活 用して収益を得ているのかを示す。次に総資本経常利益率を分解することによって、利幅 と効率どちらの経営戦略をとっているのか、また変動要因を分析していく。 では、各々の指標について詳しくみていく。総資本常利益率とは、総合的な利益を示す 経常利益を総資本で割ることにより求められる指標である。つまりこの指標は、企業がす べての資本を活用して、どれだけ効率よく経常利益を生み出しているのかを知ることがで きる。そのため数値が高いほど、少ない資本で多くの経常利益を生み出していることを意 味する。また総資本経常利益率は、収益源である売上高を用いて、売上高経常利益率と、 総資本回転率に分解し、変動要因を分析することができる。 売上高経常利益率とは、経常利益を売上高で割ることにより求められる指標である。つ まりこの指標は、経営活動全体から生み出した経常利益が、企業の本源的な収益である売 上高にどれだけ含まれているかを知ることができる。そのためこの指標が高いほど、企業 の事業及び財務活動から生み出した利益、つまり価値が高いと判断できる。また業種によ り異なるが、一般的には 10%以上あれば優良企業といわれる。 総資本回転率とは、売上高を総資本で割り求められる指標である。つまりこの指標は、 企業のすべての資本を活用して、どれだけうまく売上高を生み出しているのか、一方で無 駄な資本がないかを知ることができる。そのため回転数が多いほど、少ない資本を有効活 用して、売上を生み出していることを意味する。 次に、この売上高経常利益率と総資本回転率を比べて、売上高経常利益率のほうが高け れば高付加価値、総資本回転率のほうが高ければ、高効率型との戦略をとっているのかを みていく。 では、先ほどの総資本経常利益率、売上高経常利益率、総資本回転率をまとめて分析し ていく。まずは、ファーストリテイリングから分析していく。 44 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-9】 (株)ファーストリテリング (回) (%) 1.80 30.00% 1.60 25.00% 1.40 1.20 20.00% 1.00 15.00% 0.80 0.60 10.00% 0.40 5.00% 0.20 0.00% 総資本経常利益率(%) 売上高経常利益率(%) 総資本回転率(回) 2002年度 24.23% 14.85% 1.63 2003年度 18.91% 13.42% 1.41 2004年度 26.64% 18.88% 1.41 2005年度 21.48% 15.26% 1.41 2006年度 19.26% 16.30% 1.18 0.00 【図 3-9】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの総資本経常利益 率、売上高経常利益率、総資本回転率の推移をまとめた図である。 はじめに、総資本経常利益率から見ていく。図を見ると、総資本経常利益率は 2002 年度 から 2003 年度まで下降し、2004 年度には上昇したが、再び 2004 年度から 2006 年度まで下 降した。では、成長性分析を振り返りながら変動要因を分析する。2003 年度の下降要因は、 経常利益の減少によるものである。経常利益の減少は、ユニクロブームの反動による顧客 離れと、海外事業の赤字経営により、16 店舗の閉鎖を行ったことが利益を下げた要因であ る。2004 年度の上昇要因は、経常利益の増加によるものである。経常利益の増加は、商品 の付加価値の向上と、同時にコスト削減に力を入れたことが利益を上げた要因である。2005 年度の下降要因は、在庫の値下げが続いてしまったことや、販管費の増加などにより利益 を下げたからである。2006 年度の下降要因は、商品開発に力を入れたことにより客単価を 上げ、さらに在庫を巡るコストが改善したため経常利益は前年度比 24.79%増加したにも拘 らず、M&A により総資本が前年度比 39.15%増加と、経常利益の伸び率を上回ってしまった ため、総資本の効率が落ちてしまった。この余分な資産の増加が利益率をさげた要因であ る。このように、総合的な収益力を示す総資本経常利益率は年度により差がはげしく不安 的な動きをみせるとともに、減少傾向にあることがわかった。 次に、売上高経常利益率を見ていく。図を見ると、売上高経常利益率は、2002 年度から 2005 年度までは、総資本経常利益率と同様な推移を示している。したがって、この期間の 変動要因は、総資本経常利益率と同じである。しかし、2006 年度は総資本経常利益率が下 降したのに対し、売上高経常利益率は上昇している。これは、売上高に対して、経常利益 45 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ は増加しているからであり、付加価値を高めていることを示している。このように、利幅 の高さを示す売上高経常利益率は、総資本経常利益率とほぼ同様に不安定な動きをみせて いるが、2006 年度には上昇していることがわかった。また、10%を超えているため、良好 であるといえる。 最後に、総資本回転率を見ていく。図を見ると、総資本回転率は、2002 年度から 2006 年 度まで回転が少なくなっている。これは、年々、売上高の増加率よりも総資本の増加率の ほうが上回っていることを示している。2002 年度から 2006 年度の売上高と総資本の前年度 伸び率をみてみると、2004 年度以外は総資本の前年度伸び率のほうが上回っている。特に 2005 年度から 2006 年度にかけては、総資本の伸び率が激しい。これは、先ほども述べたよ うに M&A による資本の増加が要因である。このように、回転率が多いほど、少ない資本で 効率よく売上を生み出していることを示す総資本回転率は、徐々に落ちている、つまり徐々 に余分な資本が増加し効率を下げていることがわかった。 ファーストリテイリングの総資本経常利益率は、2002 年度から 2005 年度まで、売上高経 常利益率の推移と類似していた。しかし 2005 年度から 2006 年度までは、総資本回転率と 推移が類似していた。つまり、総資本経常利益率の変動要因は売上高経常利益率と総資本 回転率の両方に影響された収益力を示していた。 続いて、しまむらを見ていく。 【図 3-10】 しまむら (回) ( %) 18.00% 2.00 16.00% 1.80 14.00% 1.60 1.40 12.00% 1.20 10.00% 1.00 8.00% 0.80 6.00% 0.60 4.00% 0.40 2.00% 0.20 0.00% 総資産経常利益率(%) 売上高経常利益率(%) 総資産回転率(回) 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 10.98% 5.90% 1.86 12.07% 6.57% 1.90 13.04% 6.82% 1.91 13.99% 7.38% 1.90 0.00 16.08% 8.52% 1.89 【図 3-10】は、しまむらの 2002 年度から 2006 年度までの総資本経常利益率、売上高経 常利益率、総資本回転率の推移をまとめた図である。 はじめに、総資本経常利益率から見ていく。総資本経常利益率は、年々上昇傾向ある。 46 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 特に 2005 年度から 2006 年度にかけて増加しているが、これは大量出店の効果が出たうえ、 流行商品の品ぞろえ強化やテレビコマーシャルを始めた効果で、既存店売上高や粗利益率 が向上したからである(2005/04/07, 日本経済新聞)。 次に、売上高経常利益率を見ていく。売上高経常利益率も、総資本経常利益率と同じよ うな推移を見せており、緩やかに上昇している。2006 年度の伸びが一番大きいのは、総資 本経常利益率と同様の要因である。 最後に、総資本回転率を見ていく。総資本回転率は、2002 年度から 2006 年度まで、一定 の推移を保っている。このように一定の推移を見せている要因として、総資本と売上高の 増加があげられる。成長性の分析で見てきたように、しまむらは右肩上がりの成長をして いる。これは、総資本、売上高ともに比例して上昇しているため、総資本回転率は横ばい となっているのだ。 しまむらの総資本経常利益率を見ると、売上高経常利益率に影響された収益力を示して いた。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは、売上高経常利益率と総資本回転率、しま むらは、売上高経常利益率に影響された収益力を示していた。 では、総資本経常利益率、売上高経常利益率、総資本回転率を項目別にし、ファースト リテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。 【図 3-11】 30.00% 総資本経常利益率(ROA) 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 24.23% 18.91% 26.64% 21.48% 19.26% しまむら 10.98% 12.07% 13.04% 13.99% 16.08% 【図 3-11】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの総 資本経常利益率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、総資本経常利益率は相 47 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 互的な収益力を示し、数値が高いほど良好といえる。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングの方が、年度により数値の上がり下がりが激 しく安定していないが、しまむらよりも上部に位置しており収益力が良いと判断できる。 しかし、2004 年度から減少傾向にある。一方しまむらは安定しながら徐々に数値を伸ばし ており、年々収益力が上昇している。このように 2 社との差は縮まっていることがわかっ た。 次に、この総資本経常利益率の向上や悪化の要因をつかむために、総資本経常利益率を、 利幅を示す売上高経常利益率と効率を示す総資本回転率に分解し、要因を見ていく。まず、 売上高経常利益率から見ていく。 【図 3-12】 売上高経常利益率 20.00% 18.00% 16.00% 14.00% 12.00% 10.00% 8.00% 6.00% 4.00% 2.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 14.85% 13.42% 18.88% 15.26% 16.30% しまむら 5.90% 6.57% 6.82% 7.38% 8.52% 【図 3-12】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売 上高経常利益率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、売上高経常利益率は利 幅つまり、企業が生み出した利益の価値を示し、数値が高いほど良好といえ、10%以上あ れば、優良企業であるといえる。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングの方が、しまむらよりも上部に位置しており、 利幅が高い経営戦略をとっていると判断できる。ファーストリテイリングは、総資産経常 利益率と同様に数値の上がり下がりが激しく、安定性がないが、2006 年度には上昇傾向に ある。また 10%以上を越えているため良好といえる。一方しまむらは 10%を越えていない ものの、安定しながら徐々に数値を伸ばしており、このまま順調に伸びていけば、良好だ といえるだろう。 続いて、効率を示す総資本回転率を見ていく。 48 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-13】 (回) 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 1.63 1.86 2003年度 1.41 1.90 2004年度 1.41 1.91 2005年度 1.41 1.90 2006年度 1.18 1.89 【図 3-13】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの総 資本回転率の推移をまとめた図である。先ほどのべたように、総資本回転率は、資本運用 の効率を示し、回転数が多いほど効率が良いとされる。 2 社を比較してみると、しまむらのほうが、2002 年度から 2006 年度にかけて、平均 1.89 回を保っており、年々数値が減少しているファーストリテイリングよりも、効率の良い経 営戦略をとっていると判断できる。このように、2006 年度になるにつれて、2 社との差が 開いているとこがわかった。 ここまで、総資本経常利益率から売上高経常利益率と総資本回転率を分析し、2 社を比較 した。総資本経常利益率で総合的な収益力をみると、ファーストリテイリングの方がしま むらよりも良いことがわかった。総資本経常利益率を分解し、利幅を示す売上高経常利益 率では、ファーストリテイリングが上回り、効率を示す総資本転率はしまむらが上回った。 つまり、ファーストリテイリングは高付加価値型、しまむらは高効率型と、対照的な経営 戦略をとっていることがわかった。 ここで、売上高経常利益率と総資本回転率の推移をあわせて、企業の経営戦略を視覚的 に分析することができる SPM(戦略ポジショニングマップ)を見ていく。 49 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-14】 アパレル業界SPM ユニクロ 20.00% しまむら 無印良品 18.00% サンキ ワールド 16.00% 売 上 14.00% 高 経 12.00% 常 利 10.00% 益 率 8.00% オンワード サンエー ( 6.00% ) % 4.00% 2.00% 0.00% 0.00 0.50 1.00 1.50 総資産回転率( 回) 2.00 2.50 【図 3-14】は、アパレル業界の SPM である。この SPM はファーストリテイリングとしま むらの他に、業界の動向を比較するために、株式会社良品計画(以下、イメージが掴みや すいように、無印良品とする)、株式会社サンエー・インターナショナル(サンエー)、株 式会社ワールド(ワールド)、株式会社オンワード樫山(オンワード) 、株式会社三喜(サ ンキ)の 5 社をあげたものである。 この SPM は、縦軸に売上高経常利益率をおき、横軸に総資本回転率をおいた図である。 図を見ると、点は、二つの指標が合わさったところ、つまり総資本経常利益率を示してい る。矢印は、推移、つまり時間の経過を表す。そのため、点と矢印が上へ向かうほど、高 付加価値型を表し、右へ向かうほど高効率型ということを表している。本来、どちらかに 偏らない経営戦略が理想とされるため、高付加価値型と高効率型の両方が同時に上昇し、 右上に位置すればするほど、望ましい。 図を見ると、ファーストリテイリングは、上部に位置している。また矢印が左へ向かっ ている。このことから、効率を落としてでも、高付加価値型の戦略をとっていることがわ かった。 しまむらは、右下に位置している。また、右上へ矢印がむかっている。このことから、 高効率型をとりながらも、付加価値をあげていることがわかった。 ワールドとオンワード樫山は中央にあり、他は全体的に右下に位置している。このこと から、アパレル業界は、高付加価値型よりも、高効率型の戦略をとっていることがわかっ た。 50 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 全体的にみると、アパレル業界のなかでは、ファーストリテイリングが最も付加価値が 高く、しまむらは、効率型ではあるが、平均的な動向をしめしている。 このように、どのような経営戦略をとっているか視覚的に分析したところで、高付加価 値型と高効率型の動向の要因を掴むため、更に細かく分析をしていく。まず、付加価値を 示す売上高経常利益率を分解し、次に効率を示す総資本回転率を分解していく。 売上高経常利益率は営業活動により生み出した利益、つまり本業のみを示す売上高営業 利益率と、本業以外に財務活動から生み出した利益、つまり副業のみを示す売上高営業外 損益率に分解できる。では、売上高営業利益率を分析していく。売上高営業利益率とは、 本業により生み出した営業利益を売上高で割ることにより求められる指標である。つまり この指標は、企業の営業成績の良否、営業収益力など企業の本来の営業活動の収益性が高 いかを知ることができる。数値が高いほど、営業活動を行う上でかかる経費を示す販売費 及び一般管理費が少なく、営業力と営業収益性がよいと判断できる。 では、ファーストリテイリングとしまむらの売上高営業利益率を分析していく。 【図 3-15】 売上高営業利益率 20.00% 18.00% 16.00% 14.00% 12.00% 10.00% 8.00% 6.00% 4.00% 2.00% 0.00% ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 14.65% 5.99% 13.33% 6.56% 18.81% 6.87% 14.76% 7.28% 15.68% 8.26% 【図 3-15】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売 上高営業利益率の推移をまとめた図である。 【図 3-15】の売上高営業利益率の図と、【図 3-12】の売上高経常利益率の図と比較する と、2 社ともあまり差がない。そこで、売上高経常利益率と売上高営業利益率の数値の差を 表にまとめた。 51 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-16】 ファーストリテイリング 経常利益率 営業利益率 差 しまむら 経常利益率 営業利益率 差 2002 年度 14.85% 14.65% 0.20% 5.90% 5.99% -0.09% 2003 年度 13.42% 13.33% 0.08% 6.57% 6.56% 0.01% 2004 年度 18.88% 18.81% 0.07% 6.82% 6.87% -0.05% 2005 年度 15.26% 14.76% 0.50% 7.38% 7.28% 0.10% 2006 年度 16.30% 15.68% 0.62% 8.52% 8.26% 0.26% 【図 3-16】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売 上高経常利益率と売上高営業利益率と、その差を表したものである。 この差は、売上高経常利益率から売上高営業利益率を引いて求めた差である。つまり、 この差は本業を含まない財務活動のみから生み出した利益である売上高営業外損益を示し ている。この差がプラスに多いほど、財務活動で巧く利益を生み出していることを示す。 逆にマイナスになると、財務活動で損失を生み出していることを示す。 表を見ると、ファーストリテイリングの差の部分は 2002 年度から 2004 年度まで減少し ているが、マイナスではない。また 2005 年度から上昇している。しまむらの差の部分は、 2002 年度と 2004 年度でマイナスを示している。しかし、2005 年度には再びプラスに改善 し、2006 年度にも上昇している。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングのほうが、財務運用が巧いことがわかった。 このように、売上高営業外損益の部分を示す売上高営業外損益率は、経常利益率と営業 利益率との差があまりないため、割愛することとする。売上高営業利益率は、売上高経常 利益率とあまり差がなかった。そこで、売上高営業利益率を分解して、変動要因を分析し ていく。 次に、売上高営業利益率を売上高総利益率と、販売費・一般管理費率に分解する。これ を分解することによって、売上高から売上原価を引いた一番初めに出る総利益で営業利益 を上げているのか、同時に販売費・一般管理費を抑えて営業利益を生み出しているのかを 分析していく。では、各々の指標について詳しく見ていく。 売上高総利益率とは、売上高から売上原価を引いた一番初めに出る売上総利益を売上高 で割ることにより求められる指標である。つまりこの指標は、営業利益から販売費・一般 管理費を除いた、企業が本業として販売している商品や、サービスなどの価値が高いか、 低いか、商品に絞った実力を知ることができる指標である。そのため、数値が高いほど、 売上原価を抑えながら、よい商品を販売し、そして質の高いサービスを提供していること を意味する。 次に、総利益が高くても、販売費・一般管理費が多く掛かってしまうと、営業利益を下 げてしまう。そこで、経費も抑えられているのか、販売費・一般管理費を分析する。 52 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 販売費・一般管理費率は、販売費・一般管理費を売上高で割ることにより求められる指 標である。販売費・一般管理費とは、営業活動を行う上でかかった経費のことである。具 体的には、人件費、広告宣伝費、販売手数料などである。つまりこの指標は、販売費・一 般管理費を抑え、売上をいかに効率よく生み出すことができているかをみるための指標で ある。そのため、比率が低いほど、販売費・一般管理費が抑えられていることを意味する。 では、先ほどの売上高営業利益率、売上高総利益率、販売費・一般管理費率をまとめて、 変動要因を分析していく。まずは、ファーストリテイリングから分析していく。 【図 3-17】 ファーストリテイリング 55.00% 50.00% 45.00% 40.00% 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 売上高営業利益率 売上高総利益率 販売費・一般管理費率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 14.65% 43.70% 29.05% 13.33% 44.24% 30.91% 18.81% 48.00% 29.19% 14.76% 44.35% 29.58% 15.68% 47.33% 31.65% 【図 3-17】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの売上高営業 利益率、売上高総利益率、販売費・一般管理費率の推移をまとめた図である。 図を見ると、売上高総利益率は、売上高営業利益率同様、2002 年度から 2004 年度まで上 昇したが、2005 年度には下降し、2006 年度には再び上昇した。では、変動要因をみていく。 2004 年度に特に上昇した要因は、カシミヤキャンペーン、デザインに力を入れたことなど により商品力が上がったことと、商品の値下げの改善によるものである。2005 年度に下降 した要因は、長期にわたり在庫処分を実施したほか、一部商品原価の増加によるものであ る。2006 年度に再び上昇した要因は、商品開発に力を入れ、客単価を上げたことと、天候 に左右されにくい体制を強めたことにより売上を伸ばした。そして、欧州において事業を 行っている NEWLOSN FINANCES S.A.S、PETIT VEHICULE S.A や国内で靴の小売チェーン を展開する株式会社湾ゾーン等連結子会社の売上によるものである。 最後に、販売費・一般管理費率を見ていく。図を見ると、販売費・一般管理費率は、全 53 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 体的にゆるやかではあるが変動している。変動を見ると、2003 年度に上昇し、2004 年度に は下降した。2005 年度から再び上昇、2006 年度には更に上昇した。では、変動要因をみて いく。2003 年度に上昇した要因は、費用の減少よりも、売上高のほうが減少したため効率 が上がったからである。2004 年度に下降した要因は、在庫管理体制を整え、人件費、広告 宣伝費の削減など経費コントロールに力を入れたことにより比率が改善されたからである。 2005 年度に上昇した要因は、本部の人材強化による人件費の増加などによるものである。 2006 年度に上昇した要因は、中長期的なグループ経営基盤の強化に向けた本部人員の拡充 や、事業拡大のための積極的な投資などを実施したこと、販管費の高い子会社が連結され たことなどによるものである。 ファーストリテイリングの売上高営業利益率は、2002 年度から 2006 年度まで売上高総利 益率の推移と類似していた。つまり、売上高営業利益率は、販売費・一般管理費率よりも 売上高総利益率に影響された収益を示していた。 続いて、しまむらを見ていく。 【図 3-18】 (株)しまむら 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 売上高営業利益率 売上高総利益率 販売費・一般管理費率 2002年度 5.99% 27.92% 22.16% 2003年度 6.56% 28.58% 22.32% 2004年度 6.87% 29.02% 22.45% 2005年度 7.28% 29.48% 22.48% 2006年度 8.26% 30.69% 22.69% 【図 3-18】は、しまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売上高営業利益率、売上高総 利益率、販売費・一般管理費率の推移をまとめた図である。 図を見ると、売上高営業利益同様、売上高総利益率は、ゆるやかな右肩あがりである。 特に 2006 年度に上昇した。では、変動要因をみていく。2006 年度には、値入率の改善と、 ロス率の低減により上昇したものである。 最後に、販売費・一般管理費率を見ていく。図を見ると、販売費・一般管理費率は、毎 年約 22%の一定の比率を保っている。比率が一定である要因は、しまむらがローコスト経 54 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 営に力を入れており、総利益率に対して一定の販売費・一般管理費になるようにコントロ ールして経営を行っているからである。ローコスト経営は経営分析で詳しく述べることと する。 しまむらの売上高営業利益率は、2002 年度から 2006 年度まで売上高総利益率の推移と類 似していた。つまり、売上高営業利益率は、販売費・一般管理費率よりも売上高総利益率 に影響された収益を示していた。しかし、ほぼ同様に推移しているのは、販売費・一般管 理費率が一定であるからである。 では、売上高総利益率、販売費・一般管理比率を項目別にし、ファーストリテイリング としまむらの 2 社を比較していく。まず、売上高総利益率を見ていく。 【図 3-19】 売上高総利益率 60.00% 50.00% 40.00% 30.00% 20.00% 10.00% 0.00% ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 43.70% 27.92% 44.24% 28.58% 48.00% 29.02% 44.35% 29.48% 47.33% 30.69% 【図 3-19】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売 上高総利益率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、売上高総利益率は、商品 の価値を示し、数値が高いほど、商品価値が高く、良好である。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 45%台で、しまむらは平均約 28% 台であり、ファーストリテイリングのほうがしまむらよりも上回っている。これはファー ストリテイリングが独自で商品を生産、販売することにより売上原価を抑え、の高い商品 を提供しているからである。一方しまむらは、売上原価に利益を上乗せして客単価をあげ ることよりも、粗利益を抑えて低価格を実現している。その分客数を伸ばすことに力をい れている経営戦略をとっているため、数値の上昇が少ない。 続いて、販売費・一般管理費率を見ていく。 55 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-20】 販売費・一般管理費率 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 29.05% 30.91% 29.19% 29.58% 31.65% しまむら 22.16% 22.32% 22.45% 22.48% 22.69% 【図 3-20】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの販 売費・一般管理費率の推移をまとめたものである。先ほど述べたように、販売費・一般管 理費率は、費用がどれぐらいかかっているかを示している。そのため、比率が低いほど、 販売費・一般管理費が抑えられていることを意味するため、低いほうがよい。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 30%台、しまむらは平均約 22%台 であり、しまむらのほうが、数値が低く安定した比率を保っているため、うまく費用を抑 えながら経営を行っているということがわかった。 ここまで、売上高営業利益率から売上高総利益率と販売費・一般管理費率を分析し、2 社 を比較した。売上高総利益率で商品の価値の高さをみると、ファーストリテイリングのほ うが、しまむらよりも価値の高い商品を販売していることがわかった。一方、販売費・一 般管理費率で費用が抑えられているか見てみると、しまむらのほうが費用を抑えているこ とがわかった。つまり、ファーストリテイリングは、売上原価を抑え商品の価値の高くす ることに力をおき、しまむらは、売上原価を抑えるよりも、販売費・一般管理費を抑えて 利益を生み出すことに力を入れていることがわかった。 では、売上高総利益率と販売費・一般管理費率を更に分解し、詳細に分析していく。ま ず、売上高総利益率を売上高売上原価率に分解し、売上高原価がどれほど抑えられている のか、また 2 社との差がどれくらいあるのかを分析していく。次に販売費・一般管理費率 を、人件費、広告費など項目別に分解し、どこに費用がかかっているのかを分析していく。 売上高売上原価率とは、原材料費、燃料費など商品を製造するために直接かかった費用 を示す売上原価を売上高で割ることにより求められる指標である。つまりこの指標は、売 上に対し売上原価がどれくらいかかっているのかを知ることができる指標である。そのた 56 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ め、数値が低いほど、売上原価が抑えられていることを意味する。 では、売上高総利益率との関係を見ながら、ファーストリテイリングの売上高売上原価 率を分析していく。 【図 3-21】 6 0 .0 0 % ファーストリテイリング 5 0 .0 0 % 4 0 .0 0 % 3 0 .0 0 % 2 0 .0 0 % 1 0 .0 0 % 0 .0 0 % 売上高売上原価率 売上高総利益率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 56.30% 43.70% 55.76% 44.24% 52.00% 48.00% 55.65% 44.35% 52.67% 47.33% 【図 3-21】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの売上高総利益 率、売上高売上原価率の推移をまとめた図である。 図を見てみると、売上高売上原価率は、売上高総利益率と反対の推移をみせている。こ れは、売上高総利益率が総利益を、売上高売上原価率が売上原価の構成比率をあらわして いるため、売上高総利益率と売上高売上原価率の比率を足すと、100%、つまり売上高にな るからである。 売上高総利益率と売上高売上原価率の比率を見ると、売上高総利益率は平均で約 45%で ある。売上高売上原価率は平均で約 54%である。つまり、売上原価は 54%で総利益は 45% と、売上原価を約半分に抑え、残りの約半分の利益を出すという経営戦略をとっているこ とがわかった。 続いて、しまむらをみていく。 57 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-22】 しまむら 80.00% 70.00% 60.00% 50.00% 40.00% 30.00% 20.00% 10.00% 0.00% 売上高売上原価率 売上高総利益率 2002年度 72.08% 27.92% 2003年度 71.42% 28.58% 2004年度 70.98% 29.02% 2005年度 70.52% 29.48% 2006年度 69.31% 30.69% 【図 3-22】は、しまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売上高総利益率、売上高売上 原価率の推移をまとめた図である。 図を見ると、売上高売上原価率と売上高総利益率の比率を見ると、売上高総利益率は平 均で約 29%である。売上高売上原価率は平均で約 70%である。つまり、売上原価は 70%で 総利益は 29%と、売上原価を 70%台に抑え、29%の利益を出す経営戦略をとっていること がわかった。 では、ファーストリテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。 58 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-23】 売上高売上原価率 8 0 .0 0 % 7 0 .0 0 % 6 0 .0 0 % 5 0 .0 0 % 4 0 .0 0 % 3 0 .0 0 % 2 0 .0 0 % 1 0 .0 0 % 0 .0 0 % ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 56.30% 72.08% 55.76% 71.42% 52.00% 70.98% 55.65% 70.52% 52.67% 69.31% 【図 3-23】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売 上高売上原価率の推移をまとめたものである。先ほど述べたように、売上高売上原価率は、 どのくらい売上原価がかかっているかを示している。そのため比率が低いほど、売上原価 が抑えられていることを意味するため、低いほうがよい。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングが約 50%、しまむらが約 70%であり、ファ ーストリテイリングのほうが、数値が低いため、うまく原価を抑え、利益を生み出してい ることがわかった。このように、ファーストリテイリングは売上原価が安く抑えられてい るため、高付加価値型であるといえる。 次に、販売費・一般管理費率を分解し、どこに費用がかかっているかを分析していく。 まず、ファーストリテイリングの販売費・一般管理費率を分解する。ファーストリテイ リングの販売費・一般管理費率の主な内訳は、広告宣伝費、人件費、地代家賃、減価償却 費である。この 4 つの費用である、売上高広告費率、売上高人件費率、売上高地代賃貸費 率、売上高減価償却費率を分析していく。 59 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-24】 10.00% ファーストリテイリング 9.00% 8.00% 7.00% 6.00% 5.00% 4.00% 3.00% 2.00% 1.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 5.41% 7.63% 4.82% 0.52% 6.22% 8.43% 5.99% 0.73% 5.38% 8.01% 5.46% 0.54% 5.27% 8.21% 5.77% 0.63% 4.95% 8.60% 6.35% 1.21% 売上高広告費率 売上高人件費率 売上高地代家賃費率 売上高減価償却費率 【図 3-24】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの売上高広告費 比率、売上高人件費比率、売上高地代賃貸費比率、売上高減価償却費比率の推移をまとめ た図である。 図をみると、一番費用がかかっているものが、人件費である。次に広告費、土地代に同 じくらい費用をかけていることがわかった。減価償却費は、固定資産が少ないため、一番 費用が少ない。では、項目別に見ていく。広告費は、2004 年度から宣伝費用をコントロー ルしているため、改善へ向かっている。しかし広告費以外は、2004 年度から上昇傾向にあ る。人件費は、先ほど販売費・一般管理費率で述べたように、持ち株会社体制の移行に備 え、本部の人材強化、本部人員の拡充によるものである。地代賃貸は、新規店舗の拡大と ともに、都心、大型ショッピングセンターへの出店、大型店への移行を進めているからで ある。減価償却費は、M&A による固定資産の増加によるものである。 このようにファーストリテイリングは、人件費に一番費用をかけつつ、全体的に費用が あがっていることがわかった。 続いて、しまむらの販売費・一般管理費率を分解する。しまむらの販売費・一般管理費 率の主な内訳は、広告費、人件費、賃貸料である。この 3 つの費用である、売上高広告費 率、売上高人件費率、売上高賃貸料費率を分析していく。 60 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-25】 しまむら 0.1 0.09 0.08 0.07 0.06 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0 売上高広告費率 売上高人件費率 売上高賃借料費率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 8.07% 4.36% 8.77% 4.86% 2.47% 8.82% 4.90% 2.54% 9.50% 4.89% 2.58% 9.14% 4.76% 【図 3-25】は、しまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売上高広告費率、売上高人件 費率、売上高賃借料率を表している。しかし、2002 年度から 2003 年度までの売上高広告費 率は、記載されていなかったため無記入である。 図を見ると、一番費用がかかっているものが、ファーストリテイリング同様人件費であ る。次に、賃借料、最後に広告費がくる。そのため、広告費を一番に抑えつつ、その分人 件費に費用をかけていることがわかった。 では、ファーストリテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。2 社を比較するなかで、 2 社とも一番費用のかかっている人件費と 1 番差がある広告費に注目した。まず、売上高人 件費率からみていく。 61 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-26】 売上高人件費率 10.00% 9.00% 8.00% 7.00% 6.00% 5.00% 4.00% 3.00% 2.00% 1.00% 0.00% ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 7.63% 8.07% 8.43% 8.77% 8.01% 8.82% 8.21% 9.50% 8.60% 9.14% 【図 3-26】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売 上高人件費率を表したものである。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングとしまむらに大きな差はないが、しまむらの ほうが人件費をかけていることがわかった。これは、しまむらの経営方針が、コスト削減 のため人件費をさげるよりも、人件費をあげてでも、優秀な人材を確保することにより、 経営効率をよくし、結果コスト削減につなげるという方針をとっているからである。詳し くは、しまむらの企業分析の経営戦略で述べていく。 次に、売上高広告費率を見ていく。 62 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-27】 売上高広告費率 7.00% 6.00% 5.00% 4.00% 3.00% 2.00% 1.00% 0.00% ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 5.41% 6.22% 5.38% 2.47% 5.27% 2.54% 4.95% 2.58% 【図 3-27】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売 上高広告費率の推移をまとめた図である。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 5%台、しまむらは平均約 2%台で あり、ファーストリテイリングの方が、広告費に費用をかけていることがわかった。これ は、ファーストリテイリングが、CM など宣伝に力を入れることにより、全国的に認知度や ブランド力を高めることを目的としているからである。 一方、しまむらは広告費が低く、ファーストリテイリングと差が開いていることが分か った。これは、しまむらが宣伝に力を入れ全国的に認知度を高めるよりも、チラシや口コ ミというローカルな宣伝方法を使うことによって、費用を抑えていることを目的としてい るからである。詳しくは、企業分析で述べていく。 ここまでのことを整理する。まず売上経常利益率を売上高営業利益率と総資本回転率に分 解して、ファーストリテイリングとしまむらの経営戦略をみてきた。ファーストリテイリ ングは売上高営業利益率が高く、高付加価値であることがわかった。一方しまむらは総資 本回転率が高く、高効率型であることがわかった。次に、売上高営業利益率と、総資本回 転率をそれぞれ分解し、変動要因をみてきた。先に売上高営業利益率を売上高総利益率と 販売費・一般管理費率に分解し、ファーストリテイリングが高付加価値型である要因をみ てきた。その要因は売上原価を抑えた経営方法を行っているからである。一方しまむらは、 売上原価は高いものの販売費・一般管理費率を一定に抑える経営方法をとっていた。 今まではどのような方法で利益を生み出しているのかをみてきた。次は、総資産回転率 を細かく分解して、どのような資産を効率的に使っているのかを分析していく。 ここでは、どの資産を有効的に使っているかをみていくので、総資本回転率と同じ意味 をもつ、総資産回転率を分解し変動要因を分析していく。 63 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 総資産回転率を分解すると、流動資産回転率と固定資産回転率に分解することができる。 はじめに流動資産回転率を分析し、次に固定資産回転率を分析していく。 では、各々の指標について詳しくみていく。流動資産回転率とは、売上高を流動資産で 割ることにより求められる指標である。つまりこの指標は、流動資産が売上高に結びつい ているか、流動資産の利用度を知ることができる。そのため回転数が多いほど、少ない流 動資産で効率よく利益を生み出していることを意味する。 固定資産回転率とは、売上高を固定資産で割ることにより求められる指標である。つま りこの指標は、固定資産が売上高に結びついているか、無駄な固定資産が含まれていない かを知ることができる。そのため回転数が多いほど、少ない固定資産で効率よく利益を生 み出していることを意味する。 次に、この流動資産回転率と固定資産回転率を比べて、流動資産と固定資産のどちらを 有効に活用した戦略をとっているのかをみていく。 では、総資産回転率との関係をみながら、流動資産回転率、固定資産回転率をまとめて 分析していく。まずはファーストリテイリングから分析していく。 【図 3-28】 ファーストリテイリング (回) 9 .0 0 8 .0 0 7 .0 0 6 .0 0 5 .0 0 4 .0 0 3 .0 0 2 .0 0 1 .0 0 0 .0 0 総資産回転率 流動資産回転率 固定資産回転率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 1.63 2.07 7.76 1.41 1.82 6.28 1.41 1.89 5.60 1.41 2.13 4.14 1.18 1.79 3.47 【図 3-28】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの総資産回転率、 流動資産回転率、固定資産回転率の推移をまとめた図である。 図を見ると、流動資産回転率は、ゆるやかな変動をみせておりあまり差がない。しかし、 特に 2005 年度に上昇し、2006 年度に下降した。2005 年度の上昇要因は、事業投資に伴う、 現金支出や買掛金の減少により、流動資産が減少し、効率があがったからである。2006 年 度の下降要因は、現金預金の増加により、流動資産が増加し、効率がさがったからである。 64 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 固定資産回転率は、2002 年度から 2006 年度まで急激な右肩下がりとなっている。これは、 2003 年度に株式が増加し、2004 年度には新規出店 90 店舗にともなう資産の増加、2005 年 度からは M&A による資産の増加したことにより、年々固定資産が増加し、効率が落ちたか らである。 総資産回転率をみると、流動資産回転率の推移に類似しており、固定資産回転率に比べ て差があまりない。これは、流動資産を多く所有していることを意味する。一方、総資産 回転率は、固定資産回転率の影響をあまり受けていない。しかし徐々に総資産回転率の効 率を落としていることがわかった。これは、余計な固定資産が増加していることを意味す る。 【図 3-29】 しまむら (回) 8.00 7.00 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 総資産回転率 流動資産回転率 固定資産回転率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 1.86 7.44 2.48 1.90 7.44 2.54 1.91 7.52 2.56 1.90 7.18 2.57 1.89 6.58 2.65 【図 3-29】は、しまむらの 2002 年度から 2006 年度までの総資産回転率、流動資産回転 率、固定資産回転率の推移をまとめた図である。 図を見ると、流動資産回転率は、2002 年度から 2004 年度まで変動が少ないが、2005 年 度から 2006 年度にかけて減少傾向にある。2005 年度からの下降要因は、現金及び預金が増 加したことにより、効率が落ちたからである。 固定資産回転率は、2002 年度から 2006 年度まで極わずかではあるが上昇し、効率をあげ ている。 総資産回転率を見ると、固定資産回転率の推移に類似しており、流動資産回転率に比べ て差があまりない。これは、固定資産を多く所有していることを意味する。一方、総資産 回転率は、あまり流動資産回転率の影響を受けていない。しかし極わずか総資産回転率の 効率を落としていることがわかった。 65 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ では、ファーストリテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。まず、流動資産回転 率から見ていく。 【図 3-30】 流動資産回転率 8.00 7.00 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 2.07 1.82 1.89 2.13 1.79 しまむら 7.44 7.44 7.52 7.18 6.58 【図 3-30】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの流 動資産回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、流動資産回転率は、流動 資産の効率を示し、回転数が多いほど、効率よく流動資産を活用しているといえる。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 2 回転、しまむらは平均約 7 回転で あり、しまむらのほうが流動資産を効率よく活用していることがわかった。また、回転数 を見ると 2 社の差が開いている。つまり、ファーストリテイリグのほうが、流動資産が多 いため効率が低い、しまむらのほうが、流動資産が少ないため効率が高いということであ る。ファーストリテイリングの流動資産が多いことにより効率が低い理由として、M&A を行 うため現金を多く保有しているからである。 続いて、固定資産回転率をみていく。 66 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-31】 固定資産回転率 9.00 8.00 7.00 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 7.76 6.28 5.60 4.14 3.47 しまむら 2.48 2.54 2.56 2.57 2.65 【図 3-31】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの固 定資産回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、固定資産回転率は、固定 資産の効率を示し、回転数が多いほど、効率よく固定資産を活用しているといえる。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは年々回転数を下げているが、しまむらより も上部に位置しており、固定資産を効率よく活用していることがわかった。また、2006 年 度になるにつれて、2 社の差が縮まっている。つまり、ファーストリテイリグのほうが、固 定資産が少ないため効率が高く、しまむらのほうが、固定資産が多いため効率が低い。し かし、ファーストリテイリングの固定資産が増加したため効率が落ち、しまむらとの差が 縮んだということである。ファーストリテイリングの固定資産が増加した理由は、先ほど のべたように、M&A などによるものである。しまむらの固定資産が多い理由は、物流センタ ーなどすべて自社で保有するという経営方法を行っているからである。これは、企業分析 で詳しく述べていく。 このように、ファーストリテイリングは固定資産回転率が、しまむらは流動資産回転率 が高いことがわかった。 では、流動資産と固定資産のなかで、どの資産が増加しているのかを分解し、変動要因 を分析していく。はじめに流動資産回転率を分解していく。 流動資産回転率は、現金及び預金回転率、売上債権回転率、棚卸資産回転率などに分解 することができる。ここでは、現金預金回転率、売上債権回転率、棚卸資産回転率の 3 つ の指標をみていく。 現金預金回転率とは、売上高を現金及び預金で割ることにより求められる指標である。 つまりこの指標は、現金預金が売上高に結びついているか、現金預金の利用度を知ること 67 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ができる。そのため、回転数が多いほど、少ない現金預金で効率よく利益を生み出してい ることを意味する。 売上債権回転率とは、売上高を売上債権で割ることにより求められる指標である。売上 債権とは、受取手形と売掛金であり、納品は済んでいるが、取引先から受け取っていない 代金のことである。つまりこの指標は、売上債権が効率よく回収されているかを知ること ができる。そのため、回転数が多いほど、短い期間で売上債権の回収が効率よく行えてい ることを意味する。一方、回転数が少ないほど、うまく回収ができておらず、貸し倒れな どのリスクが高まることを意味する。 棚卸資産回転率とは、売上高を棚卸資産で割ることにより求められる指標である。棚卸 とは、未だ販売されていない商品、未使用の原材料など、いわば在庫のことを示す。つま りこの指標は、棚卸資産が効率よく販売されているかを知ることができる。そのため、回 転数が多いほど、在庫の保管期間が短く、販売効率がよいことを意味する。しかし、回転 数が多すぎてもよくない。これは、在庫が極めて少ないということを示し、販売機会を逃 す恐れもある。一方、回転数が少ないほど、在庫の保管期間が長く、不良在庫が生じてし まう意味する。 では、流動資産回転率との関係をみながら、現金預金回転率、売上債権資産回転率、棚 卸資産回転率をまとめて分析していく。まずはファーストリテイリングから分析していく。 【図 3-32】 ファーストリテイリング 120.00 16.00 14.00 100.00 12.00 80.00 10.00 8.00 60.00 6.00 40.00 4.00 20.00 2.00 0.00 流動資産回転率 現金預金回転率 棚卸資産回転率 売上債権回転率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2.07 5.08 11.10 109.50 1.82 4.05 14.85 72.43 1.89 4.05 11.80 105.49 2.13 5.14 11.43 85.86 1.79 3.68 10.47 53.45 0.00 【図 3-32】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの流動資産回転 68 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 率、現金預金回転率、棚卸資産回転率、売上債権回転率の推移をまとめた図である。 図を見ると、現金預金回転率は、2003 年度に下降し、2005 年度に上昇し、2006 年度に再 び上昇した。2003 年度の下降要因は、現金及び預金の増加により効率が落ちたからである。 2005 年度の上昇要因は、事業投資の現金支出により、効率が上がったからである。2006 年 度の下降要因は、現金及び預金の増加 472 億円により効率が落ちたからである。 棚卸資産回転率は、2003 年度に上昇したが、2004 年度から 2006 年度まで下降している。 2003 年度の上昇要因は、昨年の在庫を一掃したことにより、棚卸資産が減少し、効率が上 昇したからである。2004 年度からの下降要因は、2004 年度から在庫管理体制を整え、適度 な在庫の量に留めたからだと思われる。また 2006 年度の下降要因は、M&A による資産の増 加により効率が落ちたからである。 売上債権回転率は、2003 年度に下降し、2004 年度に上昇したものの、2005 年度から 2006 年度まで再び減少した。回転数を見ると、約 100 回から約 50 回の回転をしている。つまり、 売上債権は少なく、回収が効率よく行えていることを意味する。しかし、徐々に売上債権 が増え、効率が落ちている。これは、M&A によるものであると思われる。 流動資産回転率をみると、3 つの指標のなかで現金預金回転率との差が一番少なく、推移 も比較的類似している。つまり、流動資産のなかでも、現金預金が多く、流動資産回転率 は、現金預金回転率に影響されていることがわかった。 続いて、しまむらを見ていく。 【図 3-33】 しまむら 25.00 7000.00 6000.00 20.00 5000.00 15.00 4000.00 3000.00 10.00 2000.00 5.00 1000.00 0.00 流動資産回転率 現金預金回転率 棚卸資産回転率 売上債権回転率 2002年度 7.44 20.64 12.37 6681.76 2003年度 7.44 20.36 12.41 2790.02 2004年度 7.52 21.88 12.23 1513.58 2005年度 7.18 16.83 13.57 1102.89 2006年度 6.58 13.11 14.53 868.08 0.00 【図 3-33】は、しまむらの 2002 年度から 2006 年度までの流動資産回転率、現金預金 69 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 回転率、棚卸資産回転率、売上債権回転率の推移をまとめた図である。 図を見ると、現金預金回転率は、2005 年度から下降している。2005 年度からの下降要因 は、現金預金が増加しているからである。 棚卸資産回転率は、現金預金回転率とは対照的に 2005 年度から上昇している。2005 年度 からの上昇要因は、棚卸資産が減少したからである。 現金預金回転率と棚卸資産回転率を見ると、2006 年度に逆転している。これは、2005 年 度まで現金預金よりも棚卸資産のほうが多く、2006 年度からは棚卸資産よりも現金預金の ほうが多くなったことを示している。本来流動資産は、現金化するのに多少の時間がかか る棚卸資産よりも、現金預金の保有量が多いほうがよい。つまり、現金預金回転率は下が ったが、棚卸資産回転率の効率があがったので、流動資産は改善傾向にあることがわかっ た。 売上債権回転率は、年々減少している。回転数を見ると、約 6000 回から約 800 回の回転 をしている。つまり、売上債権は増加しているが、その増加は極めて少なく、回収が効率 よく行えていることを意味する。売上債権が少ない理由は、企業取引で販売することが少 ないからだと思われる。 流動資産回転率をみると、現金預金回転率と同様に 2005 年度から下降している。つまり、 流動資産回転率は 2005 年度から現金預金回転率に影響されていることがわかった。 では、ファーストリテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。まず現金預金回転率 からみていく。 【図 3-34】 現金及び預金回転率 25.00 20.00 15.00 10.00 5.00 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 5.08 20.64 4.05 20.36 4.05 21.88 5.14 16.91 3.68 13.11 【図 3-34】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの現 金預金回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、現金預金回転率は、現金 預金の利用度を示し、回転数が多いほど、効率がよいことを意味する。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 4 回転、しまむらは平均約 18 回転 70 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ しており、しまむらのほうが、回転数が多く、現金預金の効率がよいことがわかった。つ まり、先ほどの流動資産回転率で 2 社を比較した時と同様、ファーストリテイリングのほ うが、現金預金が多いため効率が低く、しまむらのほうが、現金預金が少ないため効率が 高いということである。また、ファーストリテイリングの現金預金が多い理由として、流 動資産回転率の比較で述べたように、M&A を行うため、資金を確保しているからである。 次に、棚卸資産回転率をみていく。 【図 3-35】 棚卸資産回転率 16.00 14.00 12.00 10.00 8.00 6.00 4.00 2.00 0.00 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 11.10 14.85 11.80 11.43 10.47 しまむら 12.37 12.41 12.23 13.57 14.53 【図 3-35】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの棚 卸資産回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、棚卸資産回転率は、棚卸 資産が効率よく販売されているかを示し、回転数が多いほど、在庫の保管期間が短く、販 売効率がよいことを意味する。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 11 回転、しまむらは平均約 13 回転 しており、しまむらのほうが、回転数が多く、棚卸資産の効率がよいことがわかった。ま たファーストリテイリングは 2005 年度から下降する一方、しまむらは 2005 年度から上昇 するなど、差が開いてきている。 次に、売上債権回転率をみていく。 71 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-36】 売上債権回転率 8000.00 7000.00 6000.00 5000.00 4000.00 3000.00 2000.00 1000.00 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 109.50 6681.76 72.43 2790.02 105.49 1513.58 85.86 1102.89 53.46 868.08 【図 3-36】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売 上高債権回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、売上債権回転率は、売 上債権の回収効率を示し、回転数が多いほど、回収が効率よく行われていることを示す。 2 社を比較すると、ファーストリテイリグは、年々下降しているが、平均約 85 回転、し まむらも、年々下降しているが、平均約 2500 回転しており、しまむらのほうが、回転率が 多く、効率がよいことがわかった。 このように、しまむらの流動資産回転率が良い要因は、現金預金と売上債権の少なさに よるものである。 ここまで、流動資産回転率を分解して、ファーストリテイリングとしまむらの変動要因 を分析してきた。次に、固定資産回転率を分解し、変動要因を分析していく。 固定資産回転率は、有形固定資産回転率、無形固定資産回転率、投資その他の資産回転 率に分解することができる。 では、各々の指標について詳しく見ていく。有形固定資産回転率とは、売上高を有形固 定資産で割ることにより求められる指標である。有形固定資産とは、建物や土地や設備な ど形のあり、目に見える資産である。つまりこの指標は、建物や土地などの有形固定資産 が、売上高に結びついているかを知ることができる。そのため、回転数が多いほど、少な い有形固定資産で効率よく利益を生み出していることを意味する。 無形固定資産回転率とは、売上高を無形固定資産で割ることにより求められる指標であ る。無形固定資産とは、特許権など形がなく、目に見えない資産である。つまりこの指標 は、営業権などの無形固定資産が、売上高に結びついているかを知ることができる。その 72 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ため、回転数が多いほど、少ない無形固定資産で効率よく利益を生み出していることを意 味する。 投資その他の資産回転率は、売上高を投資その他の資産で割ることにより求められる指 標である。投資その他の資産とは、長期的な投資をしている投資有価証券や長期貸付金な ど、有形固定資産、無形固定資産以外で長期に所有する目的のある資産である。つまりこ の指標は、投資有価証券などの投資その他の資産が、売上高に結びついているかを知るこ とができる。そのため、回転数が多いほど、少ない投資その他の資産で効率よく利益を生 み出していることを意味する。 では、固定資産回転率との関係をみながら、有形固定資産回転率、無形固定資産回転率、 投資その他の資産回転率をまとめて分析していく。まずはファーストリテイリングから分 析していく。 【図 3-37】 25.00 ファーストリテイリング 500.00 450.00 400.00 20.00 350.00 300.00 15.00 250.00 200.00 10.00 150.00 5.00 100.00 50.00 0.00 固定資産回転率 有形固定資産回転率 投資その他の資産回転率 無形固定資産回転率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 7.76 21.63 12.46 439.55 6.28 21.05 9.91 92.45 5.60 21.49 8.48 70.07 4.14 20.56 6.74 22.39 0.00 3.47 15.01 7.71 10.89 【図 3-37】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの有形固定資産 回転率、無形固定資産回転率、投資その他の資産回転率の推移をまとめた図である。 図を見ると、有形固定資産回転率は、2002 年度から 2005 年度までは平均約 21 回転して いたが、2006 年度は 15 回転と下降した。2006 年度の下降要因は、固定資産回転率の要因 と同様、M&A による新規連結子会社 11 社の資産増加によるものである。 無形固定資産回転率は、2003 年度に急激に下降し、2004 年度から 2006 年度までも右肩 下がりとなっている。2003 年度の下降要因は、英国に UNIQLO(U.K)LTD を設立し、営業権の 譲渡による資産の増加によるものだと思われる。2005 年度の下降要因は、営業権の増加に 73 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ より効率が落ちたからである。2006 年度の下降要因は、のれん代の増加により効率が落ち たからである。 投資その他の資産回転率は、2002 年度から 2005 年度まで下降したが、2006 年度には上 昇した。2006 年度の上昇要因は、投資有価証券の減少により効率があがったからである。 固定資産回転率をみると、3 つの指標のなかで投資その他の資産回転率との差が一番少な く、推移も比較的類似している。つまり、固定資産のなかでも、投資その他の資産が多く、 固定資産回転率は、投資その他の資産回転率に影響されていることがわかった。しかし、 2006 年度は、投資その他の資産回転率が上昇しているのに対して、固定資産回転率は下降 している。つまり、2006 年度は投資その他の資産回転率の上昇よりも、有形固定資産回転 率の下降の影響を強く受けているからである。このように、投資その他の資産回転率だけ でなく、有形固定資産回転率の影響を受けていることがわかった。 続いて、しまむらを見ていく。 【図 3-38】 しまむら 7.00 400.00 350.00 6.00 300.00 5.00 250.00 4.00 200.00 3.00 150.00 2.00 100.00 1.00 0.00 固定資産回転率 有形固定資産回転率 投資その他の資産回転率 無形固定資産回転率 50.00 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2.48 4.15 6.30 288.86 2.54 4.23 6.52 300.23 2.56 4.30 6.48 325.75 2.57 4.36 6.40 349.84 0.00 2.65 4.48 6.58 378.25 【図 3-38】は、しまむらの 2002 年度から 2006 年度までの固定資産回転率、有形固定資 産回転率、無形固定資産回転率、投資その他の資産回転率の推移をまとめた図である。 図を見ると、有形固定資産回転率は、平均約 3 回転しており、変動はあまりなく一定で ある。これは、有形固定資産の増加率と、売上高の伸び率がほぼ同じだからである。つま り、新規店舗出店による、有形固定資産の増加と、売上の増加が一定ということを示して いる。しまむらは新規出店により、一定の売上を上げるシステムを構築しているため、こ のような回転数が可能となっている。詳しくは、しまむらの企業分析の経営戦略で述べて いく。 無形固定資産回転率は、2002 年度から 2006 年度まで右肩あがりに上昇している。 これは、 74 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 売上高は伸びていることに対して、無形固定資産がほぼ増加しておらず、一定の資産量で あるため、効率があがっている。また。2006 年度には、約 370 回転しており、無形固定資 産が少ないため、効率が高いことがわかった。 投資その他の資産回転率は、有形固定資産回転率と同様、変動はあまりなく一定で、平 均約 6 回転している。これは、投資有価証券などの増加率と、売上高の伸び率がほぼ同じ だからである。 固定資産回転率をみると、3 つの指標のなかで有形固定資産回転率との差が一番少なく、 推移も類似している。つまり、固定資産のなかでも、有形固定資産が多く、固定資産回転 率は、有形固定資産回転率に影響されていることがわかった。 では、ファーストリテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。まず有形固定資産回 転率からみていく。 【図 3-39】 有形固定資産回転率 25.00 20.00 15.00 10.00 5.00 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 21.63 4.15 21.05 4.23 21.49 4.30 20.56 4.36 15.01 4.48 【図 3-39】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの有形 固定資産回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、有形固定資産回転率は、 有形固定資産の利用度を示し、回転数が多いほど、効率がよいことを意味する。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 19 回転、しまむらは平均約 4 回転 しており、ファーストリテイリングのほうが、回転数が多く、有形固定資産の効率が良い ことがわかった。つまり、先ほどの固定資産回転率で 2 社を比較した時と同様、しまむら のほうが、固定資産、特に建物や土地などの有形固定資産が多いため効率が低く、ファー ストリテイリングのほうが、有形固定資産が少ないため効率が高いということである。 次に、無形固定資産回転率をみていく。 75 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-40】 無形固定資産回転率 500.00 450.00 400.00 350.00 300.00 250.00 200.00 150.00 100.00 50.00 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 439.55 288.86 92.45 300.23 70.07 325.75 22.39 349.84 10.89 378.25 【図 3-40】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの無 形固定資産回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、無形固定資産回転率 は、無形固定資産の利用度を示し、回転数が多いほど、効率がよいことを意味する。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 130 回転、しまむらは 320 回転して おり、しまむらのほうが、回転数が多く、無形固定資産の効率が良いことがわかった。つ まり、先ほどの有形固定資産回転率とは対照的に、ファーストリテイリングのほうが、無 形固定資産が多いため効率が低く、しまむらは、無形固定資産が少ないため効率が高いと いうことである。ファーストリテイリングの無形固定資産が多い理由は、M&A によるのれん 代などが発生するからである。 続いて、投資その他の資産回転率を見ていく。 76 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-41】 投資その他の資産回転率 1 4 .0 0 1 2 .0 0 1 0 .0 0 8 .0 0 6 .0 0 4 .0 0 2 .0 0 0 .0 0 ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 12.46 6.30 9.91 6.52 8.48 6.48 6.74 6.40 7.71 6.58 【図 3-41】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの投 資その他の資産回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、投資その他の資 産回転率は、投資その他の資産の利用度を示し、回転数が多いほど、効率がよいことを意 味する。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 9 回転、しまむらは平均約 6 回転し ており、ファーストリテイリングのほうが、回転数が多く、投資その他の資産の効率が良 いことがわかった。つまり、先ほどの有形固定資産回転率と同様、しまむらのほうが、投 資その他の資産が多いため効率が低く、ファーストリテイリングのほうが、投資その他の 資産が少ないため効率が高いということである。しかし、ファーストリテイリングは 2002 年度から 2005 年度まで下降して、しまむらとほぼ同じ回転率となっている。 このように 2 社を比較すると、ファーストリテイリングがしまむらよりも固定資産回転 率が高かった。その理由は、3 つの指標のなかでも有形固定資産回転率が高かったからであ る。しかし、無形固定資産回転率はしまむらを下回り、投資その他の資産回転率は回転数 を落とし、しまむらに近づいている。そのため、ファーストリテイリングの固定資産回転 率は、年々下降傾向にあることがわかった。一方しまむらは、固定資産回転率を分解して も、無形固定資産回転率以外は、ほぼ一定の回転率を見せていた。 次に、先ほどの指標のなかでも 2 社との差が大きかった有形固定資産回転率を分解し、 変動要因を分析していく。 有形固定資産回転率は、建物及び構築物回転率、土地回転率、器具備品及び運搬具回転 77 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 率などに分解することができる。ここでは、建物及び構築物回転率、土地回転率、器具備 品及び運搬具回転率をみていく。 建物及び構築物回転率とは、売上高を建物及び構築物で割ることにより求められる指標 である。つまりこの指標は、店舗、工場など建物及び構築物が、売上高に結びついている かを知ることができる。そのため、回転数が多いほど、少ない建物及び建築物で効率よく 利益を生み出していることを意味する。 土地回転率とは、売上高を土地で割ることにより求められる指標である。つまりこの指 標は、持っている土地が、売上高に結びついているかを知ることができる。そのため、回 転数が多いほど、少ない土地、例えば売り場面積で効率よく利益を生み出しているという ことである。 器具備品及び運搬具回転率は、売上高を器具備品及び運搬具で割ることにより求められ る指標である。つまりこの指標は、荷物を運ぶためのトラック、商品を陳列するための棚 など器具備品及び運搬具が、売上高に結びついているかを知ることができる。そのため、 回転数が多いほど、少ない器具備品及び運搬具で効率よく利益を生み出していることを意 味する。 では、有形固定資産回転率との関係をみながら、建物及び構築物回転率、土地回転率回 転率、器具備品及び運搬具回転率をまとめて分析していく。まずはファーストリテイリン グから分析していく。 【図 3-42】 ファーストリテイリング 180.00 2500.00 160.00 2000.00 140.00 120.00 1500.00 100.00 80.00 1000.00 60.00 40.00 500.00 20.00 0.00 有形固定資産回転率 建物及び構築物回転率 土地回転率 器具備品及び運搬具回転率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 21.63 25.91 167.81 1344.41 21.05 25.26 151.04 2079.12 21.49 26.45 135.95 1888.88 20.56 25.97 148.02 412.87 15.01 19.32 104.40 280.16 0.00 【図 3-42】は、ファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの有形固定資産 回転率、建物及び構築物回転率、土地回転率回転率、器具備品及び運搬具回転率の推移を 78 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ まとめた図である。 図を見ると、建物及び構築物回転率は、有形固定資産回転率の推移と同様、2002 年度か ら 2005 年度までは平均約 25 回転で推移しており、2006 年度に下降した。2006 年度の下降 要因は、有形固定資産回転率と同様、M&A によるものである。 土地回転率は、2002 年度から 2004 年度まで下降し、2005 年度に上昇するも、2006 年度 に再び下降した。2003 年度の下降要因は、売上高の減少と同時に、店舗数があまり増えな かったことにより効率が落ちたからである。2004 年度の下降要因は、土地の増加よりも、 売上高の増加率が少なかったため効率が落ちたからである。2005 年度の上昇要因は、土地 の増加が少なかったため、効率が上がったからである。2006 年度の下降要因は、M&A によ る土地の増加によるものである。 器具備品及び運搬具回転率は、2003 年度に上昇するも、2004 年度から 2006 年度まで下 降している。特に 2005 年度は急激に下降した。2005 年度の下降要因は、M&A によるもので あると思われる。 有形固定資産回転率を見ると、3 つの指標のなかで建物及び構築物回転率との差が一番少 なく、推移も類似している。つまり、有形固定資産のなかでも、建物及び構築物が多く、 有形固定資産回転率は、建物及び構築物回転率に影響されていることがわかった。しかし、 2006 年度はどの指標も下降しており、その下降要因は、M&A による資産の増加によるもの である。 続いて、しまむらを見ていく。 【図 3-43】 しまむら 16.00 200.00 180.00 14.00 160.00 12.00 140.00 10.00 120.00 8.00 100.00 6.00 80.00 60.00 4.00 40.00 2.00 0.00 有形固定資産回転率 建物及び構築物回転率 土地回転率 器具備品及び運搬具回転率 20.00 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 4.15 6.64 13.11 91.27 4.23 6.58 13.96 110.22 4.30 6.59 14.23 115.49 4.36 6.76 13.78 145.25 4.48 7.09 13.46 177.88 0.00 【図 3-43】は、しまむらの 2002 年度から 2006 年度までの有形固定資産回転率、建物及 び構築物回転率、土地回転率回転率、器具備品及び運搬具回転率の推移をまとめた図であ 79 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ る。 図を見ると、建物及び構築物回転率は、2002 年度から 2005 年度まで、変動はあまりなく 一定であるが、2006 年度に少し上昇した。2006 年度の上昇要因は、売上高の増加率のほう が、建物及び構築物の増加率よりも大きかったからである。 土地回転率は、2002 年度から 2004 年度までゆるやかに上昇し、2004 年度から 2006 年度 までゆるやかに下降した。 器具備品及び運搬具回転率は、2002 年度から 2006 年度まで上昇している。特に 2005 年 度から上昇した。2005 年度の上昇要因は、器具備品及び運搬具は増加しておらず、減価償 却費によって資産が減少したからである。 有形固定資産回転率を見ると、3 つの指標のなかで建物及び構築物回転率との差が一番少 なく、推移も類似している。つまり、有形固定資産のなかでも、建物及び構築物が多く、 有形固定資産回転率は、建物及び構築物回転率に影響されていることがわかった。 では、ファーストリテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。まず建物及び構築物回 転率からみていく。 【図 3-44】 建物及び構築物回転率 30.00 25.00 20.00 15.00 10.00 5.00 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 25.91 6.64 25.26 6.58 26.45 6.59 25.97 6.76 19.32 7.09 【図 3-44】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの建 物及び構築物回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、建物及び構築物回 転率は、建物及び構築物の利用度を示し、回転数が多いほど、効率がよいことを意味する。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは平均約 24 回転、しまむらは平均約 6 回転 しており、ファーストリテイリングのほうが、回転数が多く、建物及び構築物の効率が良 いことがわかった。つまり、しまむらのほうが、建物及び構築物が多いため効率が低く、 80 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ファーストリテイリングのほうが、建物及び構築物が少ないため効率が高いということで ある。しかし、2006 年度は M&A による資産の増加で効率を下げている。 続いて、土地回転率をみていく。 【図 3-45】 土地回転率 180.00 160.00 140.00 120.00 100.00 80.00 60.00 40.00 20.00 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 167.81 13.11 151.04 13.96 135.95 14.23 148.02 13.78 104.40 13.46 【図 3-45】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの土 地回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、土地回転率は、土地の利用度 を示し、回転数が多いほど、効率がよいことを意味する。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは下降傾向にあるが、平均約 140 回転、しま むらは平均約 13 回転しており、ファーストリテイリングのほうが、回転数が多く、土地の 効率が良いことがわかった。つまり、しまむらのほうが、土地が多いため効率が低く、フ ァーストリテイリングのほうが、土地が少ないため効率が高いということである。 続いて、器具備品及び運搬具回転率をみていく。 81 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-46】 器具備品及び運搬具回転率 2500.00 2000.00 1500.00 1000.00 500.00 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 1344.41 91.27 2079.12 110.22 1888.88 115.49 412.87 145.25 280.16 177.88 【図 3-46】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの器 具備品及び運搬具回転率の推移をまとめた図である。先ほど述べたように、器具備品及び 運搬具回転率は、器具備品及び運搬具の利用度を示し、回転数が多いほど、効率がよいこ とを意味する。 2 社を比較すると、ファーストリテイリングは下降傾向にあり、1000 桁から 100 桁の回 転数に下がるも、平均約 1200 回転しており、しまむらは平均約 120 回転しており、ファー ストリテイリングのほうが、回転数が多く、器具備品及び運搬具の効率が良いことがわか った。つまり、しまむらのほうが、器具備品及び運搬具が多いため効率が低く、ファース トリテイリングのほうが、器具備品及び運搬具が少ないため効率が高いということである。 しまむらの器具備品及び運搬具が多い理由は、自社で物流センターを保有しているからで ある。一方ファーストリテイリングの器具備品及び運搬具が少ない理由は、しまむらとは 対照的に物流センターなどを保有せず、他社に委託しているからである。詳しくは、企業 分析で述べていく。 このように 2 社を比較すると、ファーストリテイリングがしまむらよりも有形固定資産 回転率が高かった理由は、3 つの指標とも回転率が高かったからである。しかし、ファース トリテイリングは 2006 年度から下降傾向にある。 ここまで、固定資産回転率を分解して、変動要因を見てきた。分析をまとめると、固定 資産回転率は、ファーストリテイリングのほうが、効率がよかった。しかし、年々下降傾 向にあり、しまむらに近づいていた。固定資産回転率を分解すると、有形固定資産回転率 82 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ はファーストリテイリングのほうが、効率がよかったものの、無形固定資産回転率はしま むらのほうが、効率がよかった。また、投資その他の回転率はファーストリテイリングの ほうがよかった。しかし回転数が年々下降し、しまむらに近づいている。そこで、一番差 があった有形固定資産回転率を分解し、変動要因を分析した。分解すると、建物及び構築 物回転率、土地回転率、器具備品及び運搬具回転率の 3 つの指標とも、ファーストリテイ リングのほうが、効率がよいことがわかった。 では、ここで収益性の分析をふり返る。初めは総資本経常利益率を用いて、2 社の総合的 な収益力を分析した。その結果、ファーストリテイリングのほうが高いことがわかった。 次に、変動要因を分析するため、総資本経常利益率を売上高経常利益率と総資本回転率に 分解し、どのような収益体制をとっているか分析した。売上高経常利益率では、ファース トリテイリングが、総資本回転率では、しまむらのほうが高いことがわかった。つまり、 ファーストリテイリングは、利幅の高い高付加価値型、しまむらは、資産を効率的に使え ている高効率型ということがわかった。 ファーストリテイリングが、高付加価値型である要因を分析するため、売上高経常利益 率を、売上高営業利益率と売上高営業外損益率に分解した。ここでは、売上高営業利益率 のみ分析した。売上高営業利益率は、売上高経常利益率と大差がなかった。そこで、売上 高営業利益率を、売上高総利益と販売費・一般管理費率に分解し、変動要因を分析した。 すると売上高総利益率は、ファーストリテイリングのほうが高く、販売費・一般管理費率 は、しまむらのほうが低かった。売上高総利益率が高い理由を分析するため、売上高売上 原価率に分解した。ファーストリテイリングは、約 54%、しまむらは 70%と、ファースト リテイリングのほうが、売上原価を半分以下に抑えていることがわかった。つまり、ファ ーストリテイリングは、原価を安く抑えて販売しているため、利益が高く高付加価値とい うことがわかった。一方しまむらは、売上原価がファーストリテイリングよりも高い代わ りに、販売費・一般管理費率を下げ、かつ一定の数値を保ち、費用を上げない体制をとっ ていた。 次に、しまむらが、高効率型である要因を分析するため、総資本回転率益率を、流動資 産回転率と固定資産回転率に分解した。流動資産回転率ではしまむらが、固定資産回転率 ではファーストリテイリングが高かった。まず、流動資産回転率を、現金預金回転率、売 上債権回転率、棚卸資産回転率に分解し、変動要因を分析した。すると、流動資産回転率 が高いしまむらは、3 つの指標のなかでも現金預金回転率と売上債権回転率が高いことがわ かった。つまり、少ない現金預金で効率よく利益を生み出し、売上債権を効率よく回収し ていることがわかった。次に、固定資産回転率を、有形固定資産回転率、無形固定資産回 転率、投資その他の資産回転率に分解し、変動要因を分析した。すると、固定資産回転率 が高いファーストリテイリングは、3 つの指標のなかでも、有形固定資産回転率が高いこと がわかった。つまり、少ない有形固定資産回転率で効率よく利益を生み出していることが わかった。しかし、ファーストリテイリングの固定資産回転率は減少傾向にある。それは 83 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ M&A による資産の増加により、回転率が落ちていた。そのため、無形固定資産回転率と投資 その他の資産回転率が下降していたからである。 ここで、2 社との差が大きかった有形固定資産回転率を建物及び構築物回転率、土地回転 率、器具備品及び運搬具回転率に分解し、変動要因を分析した。すると、有形固定資産回 転率が高かったファーストリテイリングは、3 つの指標のなかでも建物及び構築物回転率と 土地回転率が高いことがわかった。つまり、少ない建物及び構築物と土地で効率よく利益 を生み出していることがわかった。このように、しまむらは、固定資産よりも、流動資産 を効率よく活用しているため、高効率型であることがわかった。 ここまで、2 社の収益力をみてきた。ファーストリテイリングは高付加価値型、しまむら は高効率型とそれぞれ収益の仕方が異なることがわかった。 しかし、収益力がいくらあっても、手持ちの資金が借金ばかりでは、すぐに倒産する恐 れがある。それでは、収益力が高くても意味がない。そこで、すぐに倒産する恐れはない か、安全性を分析していく。 (3)安全性分析 (小林香織) 収益性から、次に企業が運営していくうえで、安全かどうかを分析していく。安全性が 低い場合、企業は例え黒字を維持していたとしても、手元に資金がなくなってしまえば倒 産する可能性がある。つまり安全性分析とは、支払能力の有無や資本構成の安定度をみる もので、企業を知るうえで欠かすことのできない指標分析なのである。 安全性分析は、大きく 2 つに分けることができる。まず、負債をすぐにでも返せるかど うかを見るために、短期的な支払い能力を分析していく。次に、自己資本で企業は成り立 っているか、自己資本で店舗や工場をまかなっているかを見るために、長期的な運営能力 があるか、をこのように順を追って分析していく。 まずは、負債をすぐにでも返すことができるかどうか、すなわち“短期的な支払能力が あるか”を見るために、流動比率、当座比率、現金比率の 3 つの指標を用いる。 初めに、流動比率を見ていく。流動比率とは、流動資産と流動負債との比率のことであ る。流動資産とは、1年以内に現金化できる資産のことで、大きく分けると現金預金、受 取手形、売掛金、棚卸資産の 4 つから構成されている。流動負債とは、短期間のうちに支 払い義務が訪れる負債のことである。つまり、この比率では返済義務の期限が早く来てし まう負債を、同じ期間内で現金化できる資産で返せるかどうかを見る比率である。そのた め、流動資産と流動負債が等しい場合、流動比率は 100%となる。流動比率は理想では 200% 以上が好ましいが、上場企業の平均水準は 130~140%である。 次に、さらに細かく安全性を分析するため、当座比率を用いて分析していく。当座比率 とは、当座資産との流動負債の比率である。そのため、流動比率よりも厳密に短期的な支 払能力をみることができる。当座資産とは、現金預金、受取手形、売掛金の 3 つから構成 されており、棚卸資産は含まれない。なぜ当座比率に棚卸資産は含まれないのかというと、 84 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 棚卸資産とは在庫商品のこと指すので、他の 3 つに比べ現金化しにくい。よって、当座比 率は流動比率よりも厳密に短期的な支払能力を見る指標のため、現金化しにくい棚卸資産 を抜いて算出する。当座比率は、100%以上あれば支払能力は問題ないとされる。 最後に、現金比率を用いてさらに厳密に短期的な支払能力があるか分析していく。現金 比率とは、現金預金と流動負債との比率である。現金比率は、当座比率のように受取手形 や売掛金は含まれず、現金預金だけで算出する。また、現金預金には有価証券は含まれな い。なぜなら、有価証券には時価が存在し、価格が変動する可能性があるため、現金化に 一定のリスクをもたらすことがある。よって、現金比率は最も厳密に短期的な支払能力を 見る指標のため、リスクのある有価証券は含まれない。そこで、直ちに現金化することが できる現金預金と、流動負債の比率を用いて優良企業か判断していく。現金比率は 20%以 上が優良とされている。 それでは、流動比率、当座比率、現金比率をまとめて分析していく。まずは、ファース トリテイリングから見ていく。 【図 3-47】 ファーストリテイリング 300.00% 250.00% 200.00% 150.00% 100.00% 50.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 流動比率 201.72% 217.16% 230.19% 242.61% 222.53% 当座比率 133.73% 163.00% 178.48% 169.14% 138.19% 現金比率 82.06% 97.35% 107.15% 100.74% 111.02% 【図 3-47】はファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの流動比率、当座 比率、現金比率の推移をまとめた図である。 図を見ると、流動比率は 2005 年度まで緩やかに上昇しているが、2006 年度に下降してい る。ファーストリテイリングは過去 5 年間、理想の数値である 200%以上の推移を保ってい るため、優良企業といえる。2006 年度に下降した要因は、M&A によって起こった流動負債 の増加によるものである。 当座比率は、2004 年度をピークに下降傾向であることがわかった。これは、2004 年度か ら 2006 年度にかけて、有価証券の評価額が減少したため、比率が下降した。 85 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 現金比率は、2002 年度から 2004 年度までわずかだが上昇していたが、2005 年度に下降 した。しかし、再び 2006 年度には上昇し、全体的に緩やかな右肩上がりの推移を示してい る。2006 年度に現金比率が上昇した要因は、現金および預金が 472 億円増加したからであ る。なぜ、流動比率は減少傾向にあるものの、現金比率が上昇しているかというと、ファ ーストリテイリングは今後、積極的に M&A を行う予定であるため、それに備えて現金を蓄 えているからである。 ファーストリテイリングは全ての項目が 2004 年度まで上昇していたが、2006 年度は流動 比率と当座比率が下降し、現金比率のみ上昇している。しかし、どの項目も数値は高いた め、現状を維持すれば短期的な支払い能力は問題ない。 続いて、しまむらを見ていく。 【図 3-48】 しまむら 140.00% 120.00% 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 流動比率 当座比率 現金比率 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 108.82% 39.37% 37.88% 104.98% 38.65% 38.35% 117.38% 41.15% 40.36% 116.80% 50.61% 49.85% 120.64% 61.47% 60.51% 【図 3-48】はしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの流動比率、当座比率、現金比率 の推移をまとめた図である。 図を見ると、流動比率は 2002 年度から 2003 年度にかけて 4%減少しているが、2004 年 度に上昇してからは安定した推移を見せている。2003 年度に流動比率が減少した理由は、 流動負債が 7.7%増加したことがあげられる。 一方、当座比率と現金比率はほぼ同じように推移している。2 つの比率に差があまり見ら れないのは、信用販売(受取手形や売掛金)が少ないからである。なぜ信用販売が少ない かというと、しまむらは問屋内包型のシステムをとっているからである。問屋の機能を自 社で行っているので、企業間での商品の取引は少なくなる。また、しまむらは企業に商品 を販売することがないため、商品の販売は顧客だけになり、受取手形や売掛金などが発生 する状況が少なくなるのである。 86 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ しまむらは、数値は平均水準だが、2006 年度になるにつれて全ての項目が上昇している ので、短期的な支払い能力は改善傾向にあることが分かった。 では、流動比率、当座比率、現金比率を項目別にし、ファーストリテイリングとしまむ らの 2 社を比較していく。 まず始めに、流動比率を比較していく。 【図 3-49】 流動比率 300.00% 250.00% 200.00% 150.00% 100.00% 50.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 201.72% 217.16% 230.19% 242.61% 222.53% しまむら 108.82% 104.98% 117.38% 116.80% 120.64% 【図 3-49】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの流動 比率の推移をまとめた図である。 2 社を比較してみると、ファーストリテイリングの方がしまむらよりも数値が上部に位置 しているため、短期的な支払能力が高いことが分かった。ファーストリテイリングは 2006 年度に下降しているが、過去 5 年間では毎年 200%を超える水準のため、短期的な支払能力 は高いと言える。一方、しまむらは緩やかに上昇してはいるものの平均水準よりも低く、 流動比率から見ると短期的な支払能力が低いことを表している。ファーストリテイリング は、上昇していた数値が 2006 年度に下降しているのに対し、しまむらは安定した数値を保 っている。 次に、より短期的な支払能力があるか細かく見ていくために、当座比率を比較していく。 87 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-50】 当座比率 200.00% 150.00% 100.00% 50.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 133.73% 163.00% 178.48% 169.14% 138.19% しまむら 39.37% 38.65% 41.15% 50.61% 61.47% 【図 3-50】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの当座 比率の推移をまとめた図である。 2 社を比較して見ると、ファーストリテイリングはしまむらに比べ、上部に位置している ため、短期的な支払能力があるといえる。数値から見て分かるように、ファーストリテイ リングは平均 150%の水準を保っているのに対し、しまむらはその 3 分の 1 の数値である平 均 50%となっている。 ファーストリテイリングは、数値は高いものの、2004 年度から年々下降傾向にある。一 方、しまむらは 2004 年度から数値をあげて改善へと向かっており、ファーストリテイリン グとは逆の推移を見せている。よって、2006 年度になるにつれて、2 社の差は縮まってき ていることがわかった。 最後に、さらに厳密な支払能力を見るため、現金比率を比較していく。 88 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-51】 現金比率 120.00% 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 82.06% 97.35% 107.15% 100.74% 111.02% しまむら 37.88% 38.35% 40.36% 49.85% 60.51% 【図 3-51】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの現金 比率の推移をまとめた図である。 2 社を比較してみると、流動比率、当座比率と同様に、ファーストリテイリングはしまむ らよりも上部に位置しているため、短期的な支払い能力は問題ないといえる。 特に、ファーストリテイリングは 2005 年度に減少しているものの、2006 年度には持ち直 しているため、短期的な支払能力は問題ないといえる。しかし、逆に 100%以上あると言う ことは、必要以上の手元資金を持っているということになる。すなわち、手元資金を有効 に活用できていない可能性がある。その場合、現在は安全であっても将来成長できるかと いう不安が残ってしまうのである。一方、しまむらは当座比率と同様に年々上昇している ので、改善傾向にある。2 社とも数値は右肩上がりに伸びているため、良好といえる。 ここまで、流動比率、当座比率、現金比率を用いて短期的な支払能力を分析し、2 社を比 較した。全ての指標において、ファーストリテイリングはしまむらよりも上部に位置して いたため、短期的な支払い能力が高いことが分かった。しまむらは、ファーストリテイリ ングに比べ数値は低いものの、短期的な支払い能力は改善傾向にあった。 続いて、自己資本で企業は成り立っているか、すなわち“長期的な運営能力があるか” を見るために、自己資本比率、負債比率の 2 つの指標を用いる。 初めに、自己資本比率を見ていく。自己資本比率とは、総資本に占める自己資本の割合 のことである。自己資本比率は、どれだけ経営を自己資本でまかなっているかを表してい る。自己資本とは、株式や投資家から調達した資金で、返済義務を負わない資本のことで ある。この数値が低いということは、負債で企業が成り立っていることを示す。自己資本 比率は、50%を超えると安全とされている。 89 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 次に、負債比率を見ていく。負債比率とは、自己資本と他人資本との比率である。負債 比率は、返済義務のない自己資本に対し、返済義務のある他人資本(負債)がどれだけの 割合を占めているのかを表している指標である。こ の 比 率 は 100%以 下 で あ る こ と が 望 ま し い た め 、 数値が低いほど財務の安定性が高いと言える。 それでは、自己資本比率、負債比率をまとめて分析していく。まずは、ファーストリテ イリングから見ていく。 【図 3-52】 ファーストリテイリング 80.00% 70.00% 60.00% 50.00% 40.00% 30.00% 20.00% 10.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 自己資本比率 58.61% 63.91% 67.01% 66.83% 63.34% 負債比率 70.61% 56.48% 49.22% 46.81% 57.87% 【図 3-52】はファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの自己資本比率、 負債比率の推移をまとめた図である。 図を見ると、 自己資本比率は 2004 年度から下降しているが、 安定した推移を保っている。 一方負債比率は、自己資本比率とは逆の推移を表しており、2005 年度まで下降していた数 値が 2006 年度に大幅に上昇している。この負債比率の上昇は、負債が増加したことを表し ている。 負債が増加してしまった要因としては、株式取得のための長期借入金の増加と、増益等 に伴う未払法人税等の増加によるものである。現金比率も 2006 年度に上昇していたが、要 因は前述した株式取得のための長期借入金の増加があげられる。 ファーストリテイリングは、自己資本比率は安定した推移を見せているが、2006 年度で は下降傾向にある。また、負債比率は 2005 年度まで減少させていたが、2006 年度に大幅に 上昇しているため、改善していかなければならない。 続いて、しまむらを見ていく。 90 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-53】 しまむら 90.00% 80.00% 70.00% 60.00% 50.00% 40.00% 30.00% 20.00% 10.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 自己資本比率 54.06% 56.07% 62.59% 63.80% 65.44% 負債比率 84.93% 77.91% 59.29% 56.25% 52.32% 【図 3-53】はしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの自己資本比率、負債比率の推移 をまとめた図である。 まず、自己資本比率から見ていく。自己資本比率は 2002 年度から 2006 年度にかけて、 緩やかではあるが上昇傾向にある。一方、負債比率は自己資本比率とは全く逆に、毎年下 降傾向となっている。そして、見て分かるように自己資本比率と負債比率は、2004 年度に 交差し逆転している。2004 年度以降は、2 つの項目の差が開くように推移している。 では、なぜ 2 つの項目は真反対の推移を見せているのか、分析をしていく。自己資本比 率は年々上昇しており、特に 2003 年度から 2004 年度にかけては 6.52%と大幅に増加して いる。一方、負債比率も同時期に 18.62%と大幅に減少していることが分かる。これは、負 債の減少にともない、自己資本比率が上昇したものといえる。 しまむらは、自己資本比率は上昇傾向、負債比率は下降傾向している。また、2004 年度 から自己資本比率と負債比率が交差し、改善へと向かっているため、良好といえる。 では、自己資本比率、負債比率を項目別にし、ファーストリテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。 まず始めに、自己資本比率を比較していく。 91 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-54】 自己資本比率 80.00% 75.00% 70.00% 65.00% 60.00% 55.00% 50.00% 45.00% 40.00% ファストリ しまむら 2002年度 58.61% 54.06% 2003年度 63.91% 56.07% 2004年度 67.01% 62.59% 2005年度 66.83% 63.80% 2006年度 63.34% 65.44% 【図 3-54】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの自己 資本比率の推移をまとめた図である。 2 社を比較してみると、2004 年度までは毎年改善傾向にあり、しまむらよりも上部に位 置していたファーストリテイリングだが、2006 年度にしまむらと逆転してしまっている。 そのため、現在ではしまむらの方が安全であるといえる。ファーストリテイリングは 2006 年度に数値が減少しているが、平均水準よりも 10%も高い推移を表している。しまむらは 2004 年に急激に上昇して以降、緩やかではあるが数値は伸びているので、自己資本を毎年 増やしていることが分かる。結果、2 社の自己資本比率の差は縮まってきているので、ファ ーストリテイリングは今後、持ち直す必要がある。 続いて、負債をどれだけ抱えているかをみるため、負債比率を比較する。 92 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-55】 負債比率 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 70.61% 56.48% 49.22% 46.81% 57.87% しまむら 84.93% 77.91% 59.29% 56.25% 52.32% 【図 3-55】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度の負債比率 までの推移をまとめた図である。 2 社を比較してみると、数値は 100%以下を推移しており、高い安全性である。自己資本 比率と同様に、2006 年度にファーストリテイリングとしまむらが逆転した指標となってい る。すなわち、2006 年度はファーストリテイリングよりもしまむらが下部に位置し、良好 な推移を見せている。 ファーストリテイリングは 2005 年度まで下降し改善していたが、2006 年度になり約 11% も上昇している。一方、しまむらは年々下降傾向にあり、2002 年度から 2006 年度までに 32.61%も減少させているため、問題はない。しまむらは現状を維持し、ファーストリテイ リングは 2006 年度に大幅な上昇を見せているため、危険であるといえる。 続いて、自己資本で店舗や工場をまかなっているか、すなわち、“長期的な運営能力があ るか”を見るために、固定比率、固定長期適合率の 2 つの指標を用いる。 初めに、固定比率を見ていく。固定比率とは、固定資産と自己資本との比率のことであ る。固定比率は、建物や工場など、長期的に使用される固定資産に投資された資金が、ど れだけ自己資本によってまかなわれているかを表す指標である。数値が高い場合、固定資 産を短期的に返済しなければならない負債などでまかなっていることを表すため、企業の 財務は極めて不安定になる。逆に数値が低い場合、返済期限のない自己資本でまかなわれ ていることを表すため、安定した経営を行うことができる。また、数値が 100%以内に収ま っていれば、良好と言える。 次に、固定長期適合率を見ていく。固定長期適合率とは、固定資産を自己資本と固定負 債を足して割った比率のことである。固定長期適合率は、固定資産が自己資本と長期的に 93 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 返済義務のない固定負債で、どのくらいまかなわれているかを表した指標である。固定負 債は、返済までに時間の猶予があるため、自己資本と一緒に用いることができる。固定比 率が良好でなかった場合などは、この指標で判断すると良い。固定長期適合率は、数値が 100%以下であれば安全である。 それでは、固定比率、固定長期的適合率をまとめて分析していく。まずは、ファースト リテイリングから見ていく。 【図 3-56】 ファーストリテイリング 60.00% 50.00% 40.00% 30.00% 20.00% 10.00% 0.00% 固定比率 固定長期適合率 2002年度 35.85% 34.54% 2003年度 35.10% 34.90% 2004年度 37.63% 37.35% 2005年度 50.89% 47.96% 2006年度 53.78% 48.41% 【図 3-56】はファーストリテイリングの 2002 年度から 2006 年度までの固定比率と固定 長期適合率の推移をまとめた図である。 図を見ると、固定比率、固定長期適合率ともにほぼ同様の推移を表している。どちらも 2005 年度に 10%以上も上昇していることが分かる。2006 年度は少しだが差が開いており、 固定比率が伸びている。これは、2005 年度から固定資産である店舗の大型化を行っている ため、固定資産の増加を表している。 また、2006 年度には、のれん代が増加しただけではなく、固定負債である長期借入金が、 4945 千万円から、19854 千円に増えたため、急激な上昇をみせた。長期借入金が増加した 理由は、先ほど負債比率でも述べたように、フランス事業の株式取得のためである。 ファーストリテイリングは全ての項目が同じように推移していた。2004 年度まで安定し た推移を保っていたが、2005 年度から以降はどちらの項目も上昇傾向にあるため、長期的 な運営能力が低くなってきていることが分かった。 続いて、しまむらを見ていく。 94 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-57】 しまむら 160.00% 140.00% 120.00% 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 固定比率 固定長期適合率 2002年度 138.73% 97.40% 2003年度 132.90% 98.74% 2004年度 119.17% 95.56% 2005年度 115.38% 95.47% 2006年度 108.96% 93.95% 【図 3-57】はしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの固定比率と固定長期適合率の推 移をまとめた図である。 図を見ると、固定比率は年々緩やかに下降している。一方、固定長期適合率は横ばいの 安定した水準を保っている。まず、固定比率が下降傾向にある理由は、固定資産の増加よ りも、自己資本の方が増加しているからである。先ほど分析した自己資本比率が、2004 年 度に一番大きく上昇していたように、固定比率も 2003 年度から 2004 年度にかけて 13.73% と一番減少している。これは、自己資本の増加に伴い、固定比率が下降したことを表して いる。 一方、しまむらの固定比率は数値を落とし、改善傾向にある。また、固定長期適合率も 安定した推移を見せているので、長期的な運営能力は問題ないだろう。 では、固定比率、固定長期適合率を項目別にし、ファーストリテイリングとしまむらの 2 社を比較していく。 まず始めに、固定比率を比較していく。 95 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-58】 固定比率 160.00% 140.00% 120.00% 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 35.85% 35.10% 37.63% 50.89% 53.78% しまむら 138.73% 132.90% 119.17% 115.38% 108.96% 【図 3-58】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの固定 比率の推移をまとめた図である。 2 社を比較してみると、ファーストリテイリングが下部に位置しているため、しまむらよ りも良好であることが分かる。さらに、ファーストリテイリングは 50%台と低い水準を保っ ており、とても安定しているといえる。しかし、2004 年度から 2006 年度にかけて数値が上 昇傾向にあるため、改善していく必要がある。一方、しまむらは数値が 100%を超えた推移 のため、良好とは言えないが、年々緩やかに下降しているので、改善に向かっている。 2002 年度では、ファーストリテイリングとしまむらの差は 102.87%も開いていたが、2006 年度では 55.18%と、差が半分近くまで近づいてきているのが分かる。 続いて、広義から見る固定長期適合率を比較する。 96 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-59】 固定長期適合率 120.00% 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 34.54% 34.90% 37.35% 47.96% 48.41% しまむら 97.40% 98.74% 95.56% 95.47% 93.95% 【図 3-59】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの固定 長期適合率の推移をまとめた図である。 2 社を比較してみると、50%以下の水準を保っているファーストリテイリングは、とても 安定している。しまむらも 100%以内を横ばいで推移し、安定を保っている。 しかし、2 社共に欠点が見える。まずファーストリテイリングだが、固定比率とほぼ同じ ように、2004 年度から 2006 年度にかけて上昇しているため、安全性が低くなってきている。 また、しまむらは固定比率では 100%を超えていた。つまり、固定負債で固定資産をまかな っていることになるので、今後は改善が必要だろう。 固定比率と固定長期適合率の 2 つの指標を用いて長期的な運営はできるかを見てきたが、 ファーストリテイリングはどちらの指標も上昇しているため、良好とはいえない。それに 対してしまむらは、固定比率は下降傾向にあるため、良好といえる。固定長期適合率は 100% には達していないものの、ファーストリテイリングに比べ数値が高いので、改善しなけれ ばならない。 以上の安全性分析で“短期的支払い能力はあるか”、“長期的な運営はできるか”、の 2 つ を見てきた。それでは、安全性分析の結果をまとめていく。 まず、ファーストリテイリングは全体的にどの指標も安全性は高かった。特に短期的な 支払い能力では、流動比率と現金比率がとても高い水準を保っていたため、問題ないとい える。高い水準を保っていた要因として、2005 年に持ち株会社体制へ移行したことにより、 M&A を行うため現金を多く所有していることがあげられる。ただし、長期的な運営能力では、 2006 年度になるにつれて数値が上昇しているので、危険性が高くなっていることが分かっ た。 97 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 一方しまむらは、ファーストリテイリングに比べると低い水準だが、全体的に安全性は 改善へと向かっていることが分かった。しかし、流動比率と当座比率の数値が低いため、 さらに短期的な支払能力を改善していかなければならない。一方、自己資本で企業は成り 立っているかを分析する指標では、自己資本比率を増やし、負債比率を減少させており、 年々改善傾向にあるため、資本構成は安定してきている。 このように、2 社の強みと弱みは、全く違う結果になった。ファーストリテイリングは短 期的な支払能力に特化しており、長期的な運営能力が低くなってきていた。一方しまむら は、自己資本で企業をまかなうことに問題はなかったが、短期的な支払い能力が足りない ことが分かった。 今後ファーストリテイリングは、現状を維持することができれば、安全性は全く問題な いだろう。しまむらは、全ての指標において改善傾向が見られるため、安全性は理想水準 へと近づいている。 98 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ (4)キャッシュフロー分析 財務分析を踏まえ、最後にキャッシュフロー分析を行う。 キャッシュフローとは現金収支とも言い、企業の一定時間の“現金の流れ”のことを意 味する。主に、企業活動によって得た現金が、どれだけ増減したかを知ることができる指 標である。キャッシュフローが多ければ、借入金に頼ることなく設備投資や企業買収を行 うことができ、経営の自由度が高くなる。 中でも営業キャッシュフローと言うのは、商品の販売やサービスの提供といった営業活 動から稼ぎ出した収入を、原材料費などの支出を引いて、現金収支を明らかにしたもので ある。そのため、営業キャッシュフローはプラスであることが基本となる。逆に、その数 値がマイナスになると、事業継続のための借金の増加や、十分な設備投資ができないなど の影響が出るからだ。 【図 3-60】 営業利益 (百万円) 営 業 利 益 ・営 業 キャ ッ シュ フ ロ ー 営業キャッシュフロ ー (百万円) 80,000 70,000 70,000 60,000 60,000 50,000 50,000 40,000 40,000 30,000 30,000 20,000 20,000 10,000 10,000 0 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ営業利益 50,418 41,308 63,954 56,692 70,355 しまむら営業利益 15,212 18,119 20,584 23,685 29,918 ファストリキャッシュフロー 19,361 35,768 44,120 15,398 57,477 しまむらキャッシュフロー 16,665 13,749 17,555 21,127 23,985 0 【図 3-60】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの営業 利益と営業キャッシュフローをまとめた図である。/それでは、2 社の推移を項目別に見て いく。 図を見ると、ファーストリテイリングは全体的に上下の激しい、不安定な推移を見せて いることが分かった。営業利益は、2003 年度に下降し、2004 年度に持ち直したものの、再 び 2005 年度、2006 年度には上昇している。営業キャッシュフローは、2004 年度まで上昇 傾向を示していたが、2005 年度に急降下している。しかし、2006 年度には急上昇し、結果、 上昇傾向となっている。 それでは、ファーストリテイリングの営業キャッシュフローの変動要因を見ていく。ま 99 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ず、2005 年度にファーストリテイリングの営業キャッシュフローが下降した要因は、支払 手形と買掛金の減少や、法人税等の支払、税金等調整前当期純利益が計上されたことによ るものである(ファーストリテイリング 2005 年度 アニュアルレポート)。税金等調整前 当期純利益とは、税金などを支払う前に、いくら利益が出ているのかを表している。また、 2006 年度にキャッシュフローが急上昇したのは、税金等調整前当期純利益、法人税等の支 払によるものである(ファーストリテイリング 2006 年度 アニュアルレポート)。 次に、しまむらはファーストリテイリングに比べ数値が低いものの、安定した推移を見 せていることが分かった。また、営業利益と営業キャッシュフローがほぼ同様の推移とな っている。2 つの指標が異なっているのは、2003 年度だけである。営業利益は、右肩上が りの安定した推移を見せている。営業キャッシュフローは、2003 年度に下降しているが、 その後 2006 年度まで上昇傾向の推移を示している。 それでは、しまむらの営業キャッシュフローの変動要因を見ていく。2003 年度の営業キ ャッシュフローの減少は、利息及び配当金の受取額の減少などによるものである(しまむ ら 平成 15 年 2 月期 決算短信 連結)。 2 社を比較してみると、営業利益、営業キャッシュフローともにファーストリテイリング がしまむらを大きく上回っていることが分かる。しかし、ファーストリテイリングはどち らの指標も不安定な推移を見せ、増減が激しく全く安定していない。また、年度により営 業利益と営業キャッシュフローに差が見られる。営業キャッシュフローは、2002 年度から 2004 年度にかけて上昇し、2005 年度に急激な減少を見せ、また 2006 年度に急上昇してい る。一方、しまむらはどちらの指標も安定した推移を見せ、緩やかではあるが右肩上がり に上昇している。また、営業利益と営業キャッシュフローにほとんど差が見られない。 キャッシュフロー分析によると、2 社とも営業キャッシュフローはプラスの推移を表して いるため、安全な運営であることが判断された。ファーストリテイリングは、持ち株会社 へ移行し、M&A を行うために現金を多く所有しているため、しまむらよりも高い数値となっ た。一方、しまむらは営業利益と営業キャッシュフローの差が見られないことから、営業 活動で得た利益のほとんどが現金であることが分かった。 100 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 3-2.企業分析 (1)経営理念 (猪股裕子) ここでは、2 社がどのような考えのもとで経営を行い、将来の展望を掲げているのかをみ ていく。 そこで、経営を行っていくうえで基本方針となる経営理念をみていく。経営理念とは、 企業がどのような企業でありたいか、経営を行う上で一番大事にしている「思い」や「志」 など経営姿勢を表したもので、経営目的、経営方法などを明確にしたものである。また、 経営理念をおくことにより、組織の一体感を高めるなどの効果がある。 では、ファーストリテイリングの経営理念から見ていく。 ①ファーストリテイリング ファーストリテイリングは、 「服をかえ、常識をかえ、世界をかえる」を理念としている。 「服をかえ」とは、誰でも着ることが出来る服にかえるなど服のあり方をかえることで ある。「常識をかえ」とは、アパレル業界の既存の産業構造や、服は若者のもだけという 人々の服に対する価値観などの常識をかえることである。「世界をかえる」とは、日本の 枠を越え、世界に良い服を提供することで、世界中の人々の生活を豊かにするということ である。この理念を実現するため、常に構造改革を行い、挑戦することを精神にしている。 この理念のもと、ファーストリテイリングは、世界一の衣料品小売業になることを目指し ている。 そのため、実際に、M&A や海外事業を積極的に行っている。また、世界の人々の生活を豊 かにする理念を実行するため、CRS(社会的責任)にも力をいれている。企業概要でも述べ たが、具体的には、顧客に対する高品質・高付加価値の商品・サービスの提供に始まり、 環境に対する商品リサイクルや、ボランティア活動など様々なことを行っている。 ②しまむら (小林香織) しまむらは、 「商業を通じ消費生活を生活文化の向上に貢献することを基本とする。常に 最先端の商業、流通技術の運用によって高い生産性と適正な企業業績を維持する。世界的 視野と人間尊重の経営を基本とし、普遍的な信用、信頼性をもつ誠実な企業運営を続ける。」 を経営理念としている。 (http://www.shimamura.gr.jp/company/idea/) 「最先端の商業」とは、常に新しい技術を吸収し、生産性を高くすることである。まだ 世の中にパソコンが広まっていなかった 1975 年に、在庫や売れ行きの傾向などを分析する ためコンピュータ技術を導入し、パソコンで商品の管理をすることで人件費や時間の無駄 を省いている。 次に、「流通技術の運用」とは、自社の流通センターをもち、在庫管理を徹底的に管理す ることで、適した場所に適した分の商品を配送することである。 101 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ しまむらはこの技術と運用でコストを抑え、商品を安く提供することで、今までにない 新しい小売業として、消費者生活と生活文化の向上に貢献したいと考えている。 (2)経営戦略 (猪股裕子) 2 社が経営理念を実行するために、実際にどのような戦略をとっているのかを見ていく。ま ずファーストリテイリングから見ていく。 ①ファーストリテイリング ファーストリテイリングは、経営理念にもあるように世界一のアパレル小売企業になる ことを目指している。そのため、2010 年度に「グループ売上高 1 兆円、経常利益 1,500 億 円」を達成し、世界一のアパレル小売企業グループになるという目標を掲げている。 目標を実現させるため、2005年11月に「純粋持株会社」という組織形態に移行した。目 的は、経営判断のスピードを速め、事業会社の運営を機動的に行い、グループ化やグロー バル化を進めやすくすること、そして、グループ企業のコーポレートガバナンスを強化す ることである。 持株会社とは、企業概要で述べたように、グループ企業の株を所有することにより、企 業全体の事業活動を支配することができる会社である。支配するとは、企業全体の経営管 理を行うということである。そのため、持株会社の主な事業内容は、企業全体の戦略を考 え、経営管理、リスクマネジメントなどを行っている。 この持株会社の体制には、主に2つのメリットがある。1つ目は、事業子会社の独立性の 高さである。例えば、1つの企業で、多くの事業を行っていたとする。各々の事業は、経営 が悪化した場合、お互いの足を引っ張ることとなる。そこで、各々の事業を、1つの事業を 行う子会社として独立させる。これにより、独立性を高めることができる。そのため、子 会社は、自らの事業活動のみに専念することができるというメリットがある。2つ目は、1 つ1つの事業が独立しているため、企業間同士でお互いの影響を受けることが少なく、M&A や新規事業を立てやすいというメリットがある。 持株会社には、2種類あり、純粋持株会社と事業持株会社がある。純粋持株会社とは、自 ら事業活動は行わず、経営管理のみを行う会社のことをいう。事業持株会社とは、自ら事 業活動を行いつつ、経営管理も同時に行う会社のことをいう。 ファーストリテイリングは、純粋持株会社に移行したことにより、今まで自ら事業を行 っていたいユニクロ事業を子会社化した。そのため、ファーストリテイリングの事業内容 はM&Aの計画や個別事業の支援のほか、グループ会社の経営に携わる人材の獲得を行うこと に専念している。特に2004年度からM&Aをはじめ、積極的に行っている。 M&Aを積極的に行う主な目的は、3つある。1つ目は、ユニクロの強みであるSPAのノウハ ウを活かし、他事業の業績を伸ばすことである。2つ目は、中心事業である国内ユニクロ事 業からグループ事業へ経営の軸足を変え、偏りを減らしリスク分散を図ることである。3つ 102 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 目は、海外企業のM&Aを行うことによって、海外戦略に力を入れ、世界市場でユニクロなど の事業基盤を構築することである。このようにM&Aを行うことにより、規模の拡大を図る。 しかし、規模が拡大するとともに企業全体を統括することが難しくなる。そのため、コ ーポレートガバナンスに力を入れている。コーポレートガバナンスとは、日本語に訳すと 企業統治という意味である。企業統治とは、経営者の独走、暴走や組織ぐるみの違法行為 をチェックし、阻止すると共に、企業理念を実現するため、全役員、従業員の業務活動が 方向付けることを意味する。実際にファーストリテイリングは、コンプライアンス体制や、 CSR 委員、コートオブコンダクト委員会など各委員を設けている。コンプライアンス体制と は、法令遵守や、道徳、倫理に基づいた行動をとるという体制作りをしている。CSR 委員と は、社会貢献など社会に対して議論する委員である。コードオブコンダクト委員会とは、 企業にとって特に重要な行動基準、基本原則を明確にしてそれを全体的に伝達・周知する 委員である。このようにグループの統一を図る。 では、ファーストリテイリングの経営戦略がわかったところで、財務分析とのつながり をみてみる。収益性分析を振り返ると、収益性の現金預金回転率では、回転数が少ないこ とがわかった。つまり、現金預金が多いということである。その理由は、先ほど積極的に M&A を行っているとあったように、資金確保のため現金預金が多いことがわかった。 【国内ユニクロ事業】 親会社であるファーストリテイリングの経営戦略をみたところで、次に子会社のなかで 中心事業である国内ユニクロ事業の経営戦略をみていく。まずは、ユニクロの経営理念か ら、基本体制、戦略を見ていく。 ユニクロの経営理念は、 「いつでも、どこでも、だれでも着られる、ファッション性のあ る高品質なベイシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供する。そのためにローコ スト経営に徹して、最短、最安で生産と販売を直結させる。自社に要望される顧客サービ スを考え抜き、最高の顧客サービスを実現させる。」としている。では、この理念を基に、 基本体制である、商品構成、SPA、商品管理、店舗主導、店舗について見ていく。 商品構成は、経営理念で誰でも着られるカジュアル服とあるように、メンズ、ウィメン ズ、キッズ、ベビー、インナー、グッツ・その他の分野に分かれ、幅広い商品を揃えてい る。そのため、客層は主にファミリーが中心となっている。 商品は、「高品質なベイシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供する」ため、 SPA という流通形態をとっている。SPA とは、業界概要で述べたが、小売業が自ら販売する 商品を企画し、企画した商品を外部に委託製造し、そこで作られた服を販売するビジネス モデルのことである。つまり、ユニクロは販売を行うだけでなく、企画から一貫して商品 販売を行っている。なぜ、SPA を行うかというと、SPA を行うことによりユニクロが求める 低価格で高品質なベイシックカジュアル商品を製造することができるからである。これだ けでなく、中間企業を省くことにより、製造スピードを速め、コストを削減することがで 103 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ きるからである。 低価格で、高品質を可能としている要因は、工場での製造体制にある。低価格の面では、 海外の工場に製造委託することにより、人件費など売上原価を抑えることがでる。それだ けでなく、商品の種類を絞り込み大量に生産する体制をとることによって、原価を抑えて いる。また品質面では、匠プロジェクトを行うことにより、粗末になりがちな品質の向上 を手がけた。匠プロジェクトとは、匠チームという名の品質管理を行うチームである。こ のチームをおくことにより、製造の品質チェックや、技術指導などを行い、品質を向上さ せることに成功した。 また、高品質を実現しているのは製造体制によるものだけではない。ユニクロは本部で 素材企画・調達部をおくことで素材にも力を入れている。日本では知られていない素材、 高価なため普及していない素材を驚くほど安い価格で売るというのがファストリの必勝パ ターンだ (日経流通新聞MJ, 2005/07/18) とあるように、高級素材を低価格で販売して いる。これにより、ブームを起こし、ユニクロは急成長を遂げた。それがフリースである。 フリースは、高級だったため登山用など日本ではごく一部でしか使われていなかった。そ れを、原料の調達から糸の生産まで行うことによって低価格を実現することができた。 このように、ユニクロは、市場低価格で品質の良い商品を販売することを可能としてい る。ここで、収益性分析の売上高総利益率を振り返ってみる。ファーストリテイリングの 売上高総利益率はしまむらより高いことがわかった。売上高総利益率が高い理由は、SPA に よるものである。ユニクロは、SPA を行うことによって、服を低価格に販売できるだけでな く、その低価格よりも約半分の原価で服を製造することができる。そのため、利幅が高い 収益体制となっていた。しかし、SPA はメリットばかりではない。メリットが大きい分、リ スクも大きいのである。そのリスクとは、売れ残りによる在庫である。SPA は、自ら商品を 企画製造、販売するため、その商品が売れなかった場合は、返品することができない。そ こで、商品管理が重要となってくる。 では、商品管理ではどのような体制をとっているのか見ていく。ユニクロは、POS システ ムを導入している。POS システムとは、販売時点管理と訳され、店舗で商品を販売するごと に商品の販売情報を記録し、集計結果を在庫管理やマーケティング材料として用いるシス テムのことである。(IT 用語辞典 e-words http://e-words.jp/)このシステムを基本に、 商品を管理している。これだけでなく、SCM にも力を入れている。SCM とは、企業間で情報 を共有することにより、効率を上げ、コスト削減に繋げるものである。ユニクロが SCM を 行う目的は、効率の向上よりも生産現場と販売現場を直結することにある。ユニクロ独自 の SCM システムを確立させることにより、生産計画と販売計画の誤差を少なくし、どの店 舗に行っても必ず顧客が求める商品を、適した量でおけるようにしている。そのためには、 売場である店舗の情報収集力が重要になってくる。そこで、ユニクロは店舗主導という体 制を取っている。そこで、店舗主導について見ていく。 店舗主導とは、本部ではなく、店舗に主導権のある体制のことである。企業の多くは、 104 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 本部が主導となって考え、店舗は本部に従い実行するだけのところが多い。しかし、ユニ クロは、本部だけでなく、店舗も主体となることにより生産体制を高めている。なぜなら 店舗主導の体制を取ることにより、本部よりも顧客の動向をいち早く察知し、顧客からニ ーズを吸い上げ、それにあわせてすばやく商品を補給することができるからである。つま り、SPA を行うユニクロにとって、店舗主導のほうが、商品管理や、需要と供給の予測が行 いやすいということである。このようにして、作業効率を高めている。 ユニクロは、効率だけでなく、コストを抑える工夫もしている。そこで、コスト面につ いてみていく。まずは、店舗から、販売方法、配送の順にみていく。 ユニクロの標準型の店舗は、郊外型店舗である。また、その多くを賃借している。これ により、土地代を抑えている。さらに、天井を高くし、店内の通路をまっすぐに幅広くと ることにより、商品を買いやすい環境を作っている。 販売方法では、セルフサービスという方式をとり、人件費削減も行っている。しかし、 費用の面だけではない。多くの衣料品小売店では、販売員がお客に話しかけ、服選びのサ ポートなどの接客を行っているが、ユニクロではそういった接客を一切なくし、質問や依 頼があった時に、きちんと対応することによって、気軽に服を選び、買うことができるよ うにしている。このようにして、経費を削減している。 ここまでが、ユニクロの基本体制である。しかし、この基本体制ではカバーしきれない 問題がでてきた。問題とは、消費者の志向の変化や、標準型店舗の限界などである。ユニ クロは、これの問題を打開するため、新たな対策をとり、体制を変化させている。そこで、 先ほどの 2 つの問題点と、その問題に対する対策を一つずつ見ていく。 1 つ目の問題は、消費者の志向の変化である。ユニクロは、1998 年のフリースブームを きっかけにブランドが広まった。しかし、2002 年にフリースのブームは終わる。同時に、 顧客にユニクロは「安物のわりにはよい」という悪いイメージが定着してしまった。これ は、ユニクロが伝えたかった“高品質で低価格な商品”というコンセプトが顧客に伝わら ず、低価格というイメージのみが定着してしまったからである。また、業界概要でも述べ たように、消費者は、低価格の面よりもデザインなどの付加価値を求める傾向が強くなっ てきていた。この消費者の動向に対して、ユニクロは、機能は高かったものの、ベーシッ ク商品ばかりでデザインやトレンドなどの面が弱く顧客のニーズの変化に対応しきれてい なかった。 そこで、ユニクロは、付加価値を高めた商品作りに力を入れた。まず、高級で高価格な イメージのあるカシミヤ商品を市場価格よりも低価格で販売し、品質よさを全面に押し出 した。また、2002 年にユニクロデザイン研究所を設立し、ベーシック商品のバリエーショ ンの増加や、デザインの強化に取り組んだ。さらに、2004 年に「ユニクロは低価格をやめ ます」という宣言を行った。この宣言は、ユニクロの商品は安物という悪いイメージから 完全に脱却し、世界品質の商品というイメージを定着させることを目的に行った。2005 年 には、東京、ニューヨーク、パリ、ミラノのグローバル R&D(研究開発)体制を始動し、世 105 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 界と連携することで、更にデザインなどの付加価値向上に力を入れている。2006 年には、 デザイン T シャツで、103 社と企業コラボし、新たな展開を見せている。このようにして、 ユニクロは悪いイメージの脱却の行い、顧客のニーズに対応している。 2 つ目の問題は、標準型店舗の限界である。ユニクロは売場面積 200~250 坪、郊外型店 舗を標準型店舗として、2006 年 8 月には、店舗数が 730 店を越える程、急速に店舗数を増 やしてきた。しかし、標準店の商品構成のままでは、限られた商品アイテム数しかおけず、 限られた顧客のニーズにこたえることしか出来ないという問題が出てきた。 そこで、標準型店舗だけでなく、大型化、小型化、専門化するなど立地や業態を多様化 させることによって顧客のニーズに応えることの出来る店舗フォーマットの開発に取り組 んでいる。では、立地、大型店、小型店、専門店の順に見ていく。 立地では、郊外型店舗だけでなく、都心路面型、郊外ショッピングセンター型、商業施 設開発型と、テナントを増やしている。そのため、2006 年度では、郊外型が 6 割となって いる。 次に大型店について見ていく。大型店は、標準型店舗より約 2 倍の 500 坪の面積をもつ。 これにより、商品構成を拡大し、今まで開発してこなかった商品を加えることができ、更 に幅広い顧客のニーズに対応することができる。また、VMD や空間演出の強化が行える。 VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)とは、視覚的にみて買いやすい売場づくりのこと を指す。具体的には、マネキンによるコーディネイト提案などである。2007 年度には大型 店舗を 20 店舗、以降は年間 40 店舗というペースで増やしていく予定である。一方小型店 は、コンビニタイプの店舗である。「エキナカ・エキチカ」という駅の構内などに出店し、 利便性を高めた。更に、小型店と専門性を高めた店舗が、専門店である。専門店は、婦人 インナーやキッズなど商品部門別に出店している。規模は 70 坪から 80 坪程度と小さい。 2005 年に婦人インナー専門店「ボディ・バイ・ユニクロ」とキッズ・ベビー専門店の「ユ ニクロキッズ」を出店している。 このように、国内ユニクロ事業では新たな経営戦略を行っている。次に、海外事業では どのような経営戦略を行っているのかを見ていく。 【海外ユニクロ事業】 海外ユニクロ事業は、2001年の英国から始まり、2007年8月の時点で、英国、アメリカ、 香港、韓国、中国の5カ国に合計で39店舗出店している。しかし、海外事業の現状は、赤字 事業が多く模索中の段階である。では、2001年から海外事業の歴史から経営戦略を振り返 ってみる。 ファーストリテイリングは、2001年9月に英国のロンドンに、初めてユニクロを出店した。 目標は、 「3年間で50店舗の出店する」こととし、積極的に海外戦略を進めていく。しかし、 海外では、ユニクロの知名度がなかったこと、現地に合った販売体制が作れなかったこと により、受け入れてもらえず、国内のように売上をあげることができなかった。赤字事業 106 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ が続いたため、2003年度に一旦店舗数を6店舗まで減らし、経営体制の立て直しを図る。ま た英国以外では、2002年に、中国の上海、2004年に、韓国、2005年に、香港とアメリカと 徐々にではあるが積極的に各国に出店を続けた。すると、香港は海外事業初の黒字となる。 香港が成功した要因は、大々的にユニクロブランドをPRしたことと、大型店舗にして、品 揃えを豊富に揃えたことにより、知名度が高まったからである。この成功により、海外事 業は、ユニクロブランドを認知してもらうことが進出先のマーケットで最も重要であり、 かつブランド認知の基本は店舗であるとわかった。そこで、2006年にアメリカのニューヨ ークに「グローバル旗艦店」を出店し、ブランド力を高めている。 では、ユニクロ事業以外にどのような戦略をおこなっているのか、次に新事業を見てい く。 【新事業 g.u】 まず新事業であるジーユーブランドについてみていく。ジーユーには「もっと自由に着 よう」というメッセージが込められている。コンセプトは「高いファッション性の商品を 圧倒的なバリエーションで、驚きの低価格、安心できる品質で提供するファミリー向けの カジュアルウエア」である。 ジーユーは、2006 年に絶対低価格を売りに設立された。ジーユーが設立された背景は、 ユニクロが品質に力を入れ始めたことによる商品単価の増加である。ユニクロが高品質や ファッション性などの付加価値を高めていく一方で、ジーユーではユニクロよりも短期的 なトレンドを取り入れ「絶対的な低価格」を追求してく。つまり、ファーストリテイリン グは、高品質で市場価格より低価格な商品をユニクロで販売し、ユニクロよりも更に低価 格で、トレンドを取り入れた気軽に着ることができる商品をジーユーで販売するようにし た。また、ジーユーには、ユニクロよりも安い商品を販売することによって、低価格市場 を更に開拓するという目的がある。 次に、新事業だけでなく、M&A ではどのような経営戦略を行っているのかを見ていく。 【M&A(ユニクロ事業以外)】 M&Aの始まりは、2004年1月にtheory(セオリー)というブランドをもつ、株式会社リン ク・インターナショナルへ出資したことが、始まりとなる。2007年8月31日の時点で合計7 社のM&Aを行った。 企業概要でも述べたように、靴専門店フットパークの経営を行う株式会社ワンゾーンや、 ランジェリー、ウィメンズショップの経営を行う株式会社キャビンはユニクロで培ったSPA のノウハウを生かし、低価格衣料市場の開発を目指す。一方、下着、水着の専門店プリン セスタム・タム、婦人服のコントワー・デ・コトニエのブランドを持つエフアール・フラ ンス社は、グローバルに展開できるブランドの成長を加速できる体制作りを強めている。 このように、ファーストリテイリングはユニクロやジーユーにはない分野を強化するた 107 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ め、様々な種類の企業の M&A を行っている。 ②しまむら それでは、低経費率を成功させる戦略を見る前に、しまむらはどのような商品構成なの かを詳しく見ていく。企業概要でも述べたように、基本的に主婦をメインターゲットとし ている。商品は多品種、多アイテムであることで顧客のニーズを満たし、また少量品揃え を行うことにより、服の新鮮味を保っている。これは同時に、近所の主婦と同じ服を着て いる、ということがなくなる。つまり、他人と同じものを着たくない、自分だけのおしゃ れをしたい、という顧客のニーズを捉えているのだ。それにより、いつも違った服が置い てあるため、しまむらに足を運ぶ来客数を一定に保つことができるのである。このように、 低価格かつ、頻繁に商品を買ってもらうことができるように、新鮮度のある商品構成とな っている。 このように、多品種、多アイテムの幅広い商品構成を実現しているのが、問屋内包型と いう流通形態である。問屋内包型とは、小売業だけでなく問屋の機能を自社で持つことに より、問屋を介す必要がなくなる。そのため、コストを削減することができ、約 500 社も の多くの仕入先から、商品を独自の方法で仕入れることが可能になるのだ。 その独自の方法とは、返品はしないという方法である。業界概要でも触れたように、通 常アパレル業界では、返品を見越して、その分価格を高めに設定することで補っている。 しまむらは返品をしないという条件をもとに、アパレルメーカーと取引を行うので、商品 選別と価格に対しては、厳しい条件を出すことができる。つまり、商品選別ではしまむら が求めているものを要求され、価格に対しては、返品は行わないという条件のもとで仕入 れを行うので、その分価格を上乗せする必要もなく、原価を抑えることができるのだ。 このようにしまむらは、問屋内包型というシステムを確立し、商品の原価を抑えること によって、商品を低価格で販売することができるようになった。しかし、問屋内包で原価 を低く抑えても、低価格で商品を販売しているので、結果的には利益が少なくなってしま うのだ。 そこで、しまむらは低い利幅を補うために、無駄な出費を抑える経費削減の戦略を取っ ている。 108 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-61】 販売費・一般管理費率 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 ファストリ 29.05% 30.91% 29.19% 29.58% 31.65% しまむら 22.16% 22.32% 22.45% 22.48% 22.69% 【図 3-61】は、ファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの販 売費・一般管理費率の推移をまとめたものである。 収益性の販売費・一般管理費率で述べたように、しまむらの過去 5 年間の販管費率を見 てみると、約 20%と業界で一番低く、推移は一定に保たれていることが分かった。このよ うに販管費率が一定に保たれているのは、ローコスト経営を行っているからである。 では、そのローコスト経営とはどのような経営戦略なのかを見ていく。一般的に、小売 業の現場では「地代・家賃」、「人件費」、「販促費」の 3 大経費というものがある。しまむ らは、この 3 大経費を上手く活用した、低コストの運営を行っているのだ。まずは土地代 から見ていく。 これは幹線道路などではなく、一本中に入った B 級の土地に設立する手法をとっている。 さらに、インソーシングにより建設コストも常に価格を低く抑える努力をしている。次に、 販促費について見ていく。 しまむらはチラシや立て看板などで、目玉商品を含めた特価品を有効に利用して、客を 誘い込む方法をとっている。土地代でも述べたが、しまむらは町の中心地には店舗を建設 しないので、場所が分かりづらい場合がある。そのため、チラシや立て看板を使うことに よって、新店舗の場所を消費者に認知させるのである。場所の認知をさせた後は、口コミ で広がっていくのを待つ。小商圏のため、口コミだけでも知名度は簡単に上昇していくの である。次に、人件費を見ていく。 109 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 【図 3-62】 売上高人件費率 10.00% 9.00% 8.00% 7.00% 6.00% 5.00% 4.00% 3.00% 2.00% 1.00% 0.00% ファストリ しまむら 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 7.63% 8.07% 8.43% 8.77% 8.01% 8.82% 8.21% 9.50% 8.60% 9.14% 【図 3-62】はファーストリテイリングとしまむらの 2002 年度から 2006 年度までの売上 高人件費率の推移をまとめたものである。 収益性の売上高人件費率で述べたように、しまむらはファーストリテイリングを上回っ た推移となっている。しまむらは女性パート比率が約 84%(2006 年度 2 月期)と高く、そ の中の約 6 割が店長に昇格しているのにもかかわらず、どうしてファーストリテイリング よりも数値が高いのか。それは、ローコスト経営を行っているからといって、正社員を雇 うよりもパートを雇った方が人件費削減になる、という単純な理由でない。しまむらがパ ート比率かつ、人件費を高めている理由は、優秀な人材を確保するためである。2002 年 2 月期のしまむら 963 店舗中、6 割近い 562 店でパート出身の店長が働いている。パートを 登用する体制は 1968 年から開始されており、現在に至っている。また、パートである主婦 は、しまむらのメインターゲットでもあるため、顧客とのスムーズなコミュニケーション や、店や商品に対する要望などを汲み取るとこができるのだ。 では、しまむらはパート社員の能力を最大限に引き出すために、どういった方策をとっ ているのだろうか。それはマニュアルに隠されている。前途したように、しまむらはパー ト比率が高い。このパート・アルバイトの即戦力化を可能にするのが、独自に整備された 「マニュアル」である。全作業員の業務心得とその作業手順が詳細に記されており、小売 経験が全くない人でも、短期間で一人前の仕事ができるようになっている。このマニュア ルはいつでも追加や削除が可能なバインダー形式になっているため、パートの提案でどん どん改善することができる。提案は現場の生の声を反映したものが多く、本部では気づか ない、盲点になっている意見が多く寄せられている。改善提案の約 6 割は「提案賞」とし て、その発案者に 1 件につき 500 円以上の報奨金が支給される。これにより、仕事への参 110 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 加意識や満足感を引き出し、パートのモラル向上に貢献する。しまむらは、人材に対する お金は惜しまずに、パートの能力を最大限に活かすことで売り場での効率を向上させ、他 の無駄な経費を削減しているのである。 商品の構成とローコスト経営について説明をしたところで、次は出店方法を見ていく。 経費削減の他にも、しまむらは独自の出店戦略を続けているのだ。それは、今までしまむ らは郊外型出店を続けてきた。理由は、1 店舗平均 1000 平方メートル(約 300 坪)と、売 り場面積を大きくしやすく、都心よりも土地代が安く済むためである。しまむらの強みで ある「低価格で商品を売る」ためには、都心では土地代や店舗運営費などの面からみても、 採算が合わなくなってしまうからだ。また、地域に密着することによって、メインターゲ ットである主婦を誘い込むこともできる。 さらに、しまむらには特別な出店戦略がある。それはドミナント出店である。ドミナン ト出店とは、ある一定の地域を短期間に市場制圧するために、集中的に多数の店舗を同時 にオープンさせる方法のことである。ドミナント出店はコンビニなどでも行われている手 法だが、しまむらは他と違う特徴がある。しまむらのドミナント出店戦略は「点」ではな く「面(エリア)」で攻めていくというものだ。競合する立地で、従来から地元に根付く総 合衣料店が、しまむらより業績が良いケースはたくさんあるが、これは個店対個店の競合 と捉える。しまむらは結果的に競合店を蹴落とすことと、そのエリアにライバル店を入れ ないことが目的のため、エリアとして他店より売上げが良ければ成功とし、個店だけの業 績を取り上げて評価はしない。この戦略によりその地域のシェアを押さえることができ、 後から競合店が出店する余地はなく、寡占的な商売が可能になる。 このように、 ドミナント出店により 1000 店舗出店という目標を達成した。 他企業の場合、 店舗の規模が大きくなるにつれて、全ての店舗を統括することは難しくなる。しかし、店 舗統括にも、しまむら独自のシステムがある。それは、しまむらが 1975 年に独自に築いた、 本部主導型オペレーション体制というものである。一般的な小売業は、エリアごとに店舗 を管理するブロックリーダーや SV などといった専門職が存在する。しかし、しまむらの開 発した本部主導型オペレーション体制は、24 の商品部門別に分かれた「コントローラー」 と呼ばれる本部要員が、全店舗を営業管理している。日本のチェーン小売業では、非常に 珍しい独自の手法だ。 しまむらでは正社員がコントローラーとなって、店舗の統括をしている。コントローラ ーの主な仕事は、大きく分けて2つある。まず1つ目は、店舗管理である。毎朝各店舗送ら れてくる、具体的な作業指示書を作成することだ。具体的な作業指示書とは、その日に従 業員がやるべき仕事(商品の品出し、陳列、売価変更など)と、本部のコンピューターが はじき出した作業時間が書かれている。この作業指示書に沿って、各店舗の店長はそれに 従い、パート社員に作業を割り当てる。そのため、店舗要員はコントローラーの指示のも と、マニュアルに従い、合理的で無駄なく効率的に店内作業に専念することができるのだ。 続いて2つ目は、商品管理である。しまむらは完全買い取りを行っているため、コントロ 111 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ ーラーは高度な在庫管理能力が必要になる。コントローラーは、アイテム別、サイズ・色 別に単品管理された各店別のデータを把握し、一定期間店頭において売れない商品を、売 れる確立の高い店に移動する指示を出す。このように、コントローラーの徹底した商品管 理のもと、商品の店舗間移動などを行うことによって、しまむらは売り場の鮮度向上を実 現しているのである。 次に、商品の店舗間移動はどのように行っているのか、詳しく見ていく。 【図3-63】 固定資産回転率 9.00 8.00 7.00 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 ファストリ しまむら 2002年度 7.76 2.48 2003年度 6.28 2.54 2004年度 5.60 2.56 2005年度 4.14 2.57 2006年度 3.47 2.65 【図3-63】は、ファーストリテイリングとしまむらの2002年度から2006年度までの固定 資産回転率の推移をまとめたものである。 収益性の固定資産回転率で述べたように、しまむらはファーストリテイリングに比べ、 固定資産が多いことが分かった。これは、自社で物流センターを持っているからである。 先ほどしまむらは、コントローラーが商品の店舗間移動の指示を行っていると記述した。 適時、適所に商品を運ぶため、1 枚単位で店舗間を移動する場合もある。そのため、高頻度 で他社に配送を頼んでいては、コストが跳ね上がってしまう。そこで、しまむらは完全自 前の物流システムを構築し、本格的な施設と整備を進めてきた。現在、しまむらには全国 7 ヶ所の大型物流センターがあり、北海道から沖縄まで、日本の全都道府県をカバーする高 密度な物流網が張り巡らされている。 各センターは互いに大型トレーラーによるシャトル便で、そして各センターと店舗は、4 トントラックの運行で結ばれている。これにより、全国を移動する荷物 1 個当たりの輸送 コストはたったの 59.2 円(2006 年 2 月期)と、宅配便の 4 分の 1 という水準にまで下がっ ている。 112 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ これまで、しまむらの経営体制を見てきた。問屋内包型と物流センターにより、効率の 良い商品管理をし、郊外型のドミナント出店で店舗を拡大してきた。そしてそれを管理、 統括しているのがコントローラーである。このように、しまむらは商品、店舗の管理を全 てコントローラーが属している本部で行っているため、本部管理主義であることが分かっ た。成長性で触れた“安定した土台”とは、本部管理によって低コストかつ、計画的な運 営を行っているしまむら独自のシステムのことである。そのため、急激な成長は見られな いものの、着実に右肩上がりの成長を続けることができるのだ。 しまむらの基本的な経営戦略を見てきたところで、次は現在、力を入れている商品と出 店戦略ついて見ていく。 今までデイリー衣料品を低価格で販売していたしまむらだが、最近ではトレンドを取り 入れた商品も扱い始めている。なぜなら業界概要で述べたように、消費者は付加価値のあ る商品を求めているからだ。ターゲットが主婦ということもあり、流行やトレンドは二の 次で、定番品を主体に低価格の実用ファッションを取り入れてきたしまむらだが、2000 年 頃に入ってからはそうした商品の売れ行きが目に見えて減ってきたという。元しまむら社 長の藤原氏は「5 年ほど前から、売れるものが明らかに様変わりした。特に定番、激安とい った商品の動きがピタッと止まり、逆に実験的に取り入れたトレンド商品がよく動き出し た」と述べている。このように現在の消費者が求めているのは、“この商品はいかに自分に とって付加価値があるものなのか”ということである。そのため、低価格品という武器だ けでなく、海外の先端ファッションをいち早く店頭に反映させる仕組みを構築したのだ。 しまむらが構築した仕組みとは、 「コーディネート提案」である。店舗正面外壁をガラス 張りにして、流行の衣服を取り入れたマネキンを展示し、コーディネートを提案する。そ してそれを可能にするのが、2001 年頃から組織ぐるみで行っている、欧州各都市での「ト レンド研修」である。年に 4~6 回、定例で社員をバイヤーとして欧州へ派遣する。派遣先 では、商品やディスプレイの視察、着こなしやコーディネートなどに関する会議を行う。 こうした海外視察の成果は、すぐさま商品に反映されるのだ。 そして現在の出店戦略では、2002 年に 47 都道府県を制覇し、2003 年にはしまむらグル ープが 1000 店舗出店を達成した。しまむら単体では現在、1019 店舗(2007 年 2 月期)を 展開している。現在、社長を務めている野中氏は「少なくとも 5 年後の 2011 年までに 2000 店舗出店したい」と言っている。今まで人口 10 万人に 1 店舗を出店密度の目安にしてきた が、それでは国内店舗数は 1200~1300 店で限界を迎えてしまう。そこで、新たな目安とし て 6 万人に 1 店舗という高密度出店を目標に掲げた。 しまむらは 5000 世帯という小規模なマーケットを設定し、これまで郊外型出店を続けて きた。この小規模の中で、衣料品店を黒字のまま維持している例は、しまむら以外にない。 さらに、マーケットでは約 20%という高いシェアを維持しているのだ。藤原氏は「中でも シェアが 20%以上あるマーケットエリアには、積極的にもう 1 店舗出店していく。」とし、 今後は自社競合をいとわない、更なる高密度出店に向かっていく構えだ。それにより、現 113 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 在は全国で平均 4.43%の売上シェア(2006 年 2 月期)を、少なくとも 8%まで高める方針 である。 また、しまむらは 2007 年、関東地方を地盤とする中堅衣料品チェーンの田原屋に資本参 加した。これは、しまむら初の試みである。田原屋は「パシオス」の店名で関東を中心に 116 店を持っており、しまむらと同様、低価格衣料を扱っている。しまむらは田原屋の発行 済み株式の 12.7%を取得し、店舗運営などのノウハウを供与する。これまで郊外型出店を 行っていたしまむらは、出店済み地域での規模拡大は、自社単独では限界がきてしまう。 M&A などに消極的だったしまむらだが、これからは資本提携や M&A を視野に入れた経営を行 い、成長を加速させるだろう(2007/10/06, 日本経済新聞) 。 これまで、しまむらの経営戦略を見てきた。しまむらの強みは、早くから独自のシステ ムを構築し、最低限まで削減された経費にあった。それも全て、顧客志向の運営の成果で ある。低価格で商品提供を可能にするローコスト経営体制や、本部管理による適時、適所、 適品で高い鮮度を保つことができる商品管理、高効率で行われる店舗運営などにより、顧 客満足度を高めてきた。これからは都心出店や M&A に向けて、より良いシステムの開発に 努めていくだろう。 (3)リーダーシップ ①ファーストリテイリング (猪股裕子) ファーストリテイリングの中心事業である「ユニクロ」を創立し、2006年8月期の売上高 4,488億円まで成長させた社長である柳井正氏の思想や生い立ちを見ていく。 はじめに、柳井氏がユニクロを出店するまでの経緯を見ていく。次に、その間に考えら れた柳井氏の思想について見ていく。 柳井氏は、大学卒業後ジャスコに入社した。しかし、1 年を経てジャスコを退社し、父親 が経営していた紳士服の「メンズショップ小郡商事」を引き継いだ。このことが、ユニク ロ創設のきっかけとなる。柳井氏は、ジャスコでの経験をいかし、店全体の効率の悪さを 徹底的に改善させた。しかし、そのやり方が多くの社員と合わず、次々と社員が退職した。 そのため、人手不足となった柳井氏は、残った社員と 2 人で、仕入れから掃除までを業務 全般をこなさせなければならなかった。ここで、「自分で考え、自分で行動する」というこ とが商売の基本だと体得した。 柳井氏は、最新のファッションを知るため、年に 1 度海外に行き、視察と買い付けを行 っていた。そこで、柳井氏はカジュアル服に目をつける。紳士服は高価格なため利幅は多 い。しかし、紳士服は接客をしないと売れず、回転が極端に悪い。それよりも、接客をし なくても売れ、客層を限定しないカジュアルウエアの方が将来性はあるのではないかと柳 井氏は考えた。この頃から、カジュアル商品を売る店舗も同時に出店することとなる。し かし、たいして儲かるわけでなく、売れない店は閉店するなど、試行錯誤を行てっていく。 試行錯誤を行っている時期に柳井氏はアメリカの大学生協にたちより、ユニクロの原型 114 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ となるヒントを得る。大学生協では、学生の欲しいものがすぐにでも手に入れられるよう な品揃え、それでいて接客がいらないセルフサービス、買う側の視点に立った売場作りが なされていた。ここから柳井氏は、 「すーっと入れて、ほしいものが見つからないときは気 軽に出て行ける」こんな形でカジュアルウエアの販売をやったら面白いのではないかと考 えた。ここで、現在ユニクロが行っている、「ヘルプ・ユアセルフ」方式が生まれた。この 方式は、お客様に求められない限り、接客はしない。その分、お客様の欲しいものを欠品 しないように品揃えする。このようにすることによって、顧客が気軽に買いやすい環境を 作ることに徹底することを基本とした。 1980 年代には入ると、アメリカではギャップなど、服のチェーン店を展開して売上 1 兆 円を越えるような会社が現れる。同時に、巨大スーパーなどのセルフサービスを行う店が 伸びた。1983 年頃は、高価な洋服が売れ始めた時期ではあったが、十代の子供達には高く て手が出せない。そこで、柳井氏は、十代の子供達向けに流行に合ったカジュアルウエア を低価格で、提供できないだろうかと考え、次第に店舗と商品のイメージを固める。そし て生まれたのが、ユニクロである。ユニクロの名前は、「いつでも服を選べる巨大な倉庫」 という意味を込めて、店名「ユニーク・クロージング・ウエハウス」と決めた。そこから 頭文字をとったものがユニクロである。柳井氏は、1984 年にユニクロ 1 号店を出店し、成 功を収めた。この 1 号店から、ユニクロの原点が出来る。それは、3 つある。1 つ目は「カ ジュアルは年齢も性別も関係なく、需要がある」ことである。2 つ目は「トレンドものより も、ベーシックなものに大きな需要があること」、3 つ目は、 「テナント店よりも、郊外型店 舗のほうが買おうという目的をもった顧客がくること」である。この 3 つのポイントによ り、ユニクロの原型が作られた。 しかし、低価格商品を販売していても、品質の面が劣ってしまうという難点があった。 そこで、海外の工場に委託製造し、徐々にプライベートブランドを増やしていく。そして、 全品プライベートブランドにした。これが SPA の始まりである。 続いて、ファーストリテイリングを運営するにあたって、柳井氏の思いを見ていく。 柳井氏は、1991 年に社名をファーストリテイリングに変更した。このファーストリテイ リングにも柳井氏の思いがこめられている。 ファーストリテイリングは、ファーストとリテイリングに意味を分解することができる。 日本語訳になおすと、ファーストとは、速さ、リテイリングは、小売業という意味になる。 速いという意味には、経営を行う上で、間違ったり失敗したりしてもいいから、早く判断 して早く実践するべきであり、速さがない限り、商売をやって成功することはできないと いう思いがこめられている。 柳井氏は、成功よりも失敗のほうが勉強になると失敗することを肯定的に捉えている。 具体的には、「失敗するのであれば、できるだけ早く失敗するほうがよい。早く気付いて、 失敗したということのひとつひとつを自分自身で実感することが一番大事。その次に、失 敗しないようにするにはどうやっていくかを考える。そこで、工夫というものが生まれる。 115 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 致命的な失敗はダメだが、良い失敗なら沢山したほうがいい。」と考えている。 また、柳井氏は、計画したらすぐ実行することが大事だと考える。具体的には、 「商売や 経営で本当に成功しようと思えば、失敗しても実行する。また、めげずに実行する。挑戦 し続けること、これ以外にない。計画は机上の空論であり、実行してみないとわからない ことが多い。計画して失敗するのが一番いい。実行するから次が見えてくる。次は、こう いうふうにしようと再挑戦することが成功につながる。」と考えている。 そのため、「失敗を早く認識し、ならばどうすればいいかを早く考え実行する企業しか、 これからは生き残れないだろう」と考える。 また、海外展開に対しても、生き残りについて強い認識がある。柳井氏は、日本人ある いは日本企業はあらゆる面で国際化しないと生き残っていけないのではないかと考えてい る。具体的には、 「企業は国際的な競争をしたうえでないと生き残れないはず。そのために、 何回失敗しても、その都度失敗を修正しながら、めげずにやっていくという覚悟と姿勢が 必要だ。海外市場でも同じやり方で成功させないと、本当に成功したことにはならない。」 と考えている。 この考えをもとに、柳井社長は、現在世界一の小売業になることを目指している。 ②しまむら (小林香織) ここでは、しまむらのリーダーである会長の藤原秀次郎氏と、その補佐をしてきた専務 取締役の後藤長八氏、そして、現在社長を務める野中正人氏の3人について着目していく。 まずは藤原氏が会長の座まで上りつめた経緯を見ていく。藤原氏は、1963年に慶応大学 を卒業後、実家の金物店であるフジワラストアーを経て、1970年に島村呉服店(しまむら 旧社名)に入社した。この島村呉服店は、呉服を中心に一部既製服や仕立てを扱っていた が、その後(1966年頃)時流変化に対応し、呉服と仕立てをやめて、品揃えを日常衣料品 に絞り込んでいる。 藤原氏が入社した2年後の1972年に、島村呉服店から現在の「しまむら」に社名を変更し た。その頃、企業拡大を夢見ていた島村オーナーは、飛び抜けて優秀な藤原氏の才能に惚 れこみ、早くから企業の中核的ポジションに置き、重要業務をどんどん任せていった。藤 原氏はとんとん拍子に出世していった。1975年取締役(34歳)、1981年専務取締役(40歳)、 1990年代代表取締役社長(49歳)という具合だ。 次に、藤原氏の経営理念を見ていく。大きく2つあり、1つめは「すべて自分達でやるか ら面白い」という持論だ。しまむらは過去10年で約600店舗もの大量新規出店を行っている。 それに対し、この期間で閉鎖した店はわずか7店舗に留まる。これは極めて異例なケースだ。 ではなぜ、しまむらの既存店がほとんど退店せずに済むのか。それは藤原氏のこだわりに ある。通常、チェーン小売業の店舗開発は、不動産業者などのプロに委託するのが一般的 だ。しかししまむらは、自らセスナ機を飛ばして立地場所を調査や物件情報の収集など、 一切他人の手を借りずに全て自社で行っている。「小売は立地が命。店が売れるか売れない 116 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ か、その6割が立地で決まる。」というのが藤原氏の持論だ。したがって、「なぜそんな大事 なことを人任せにするのか。そんなことするから、店の当たり外れが出るのだ」と述べて いる。 もう1つは「自由と公平」である。しまむらでは、企業として大事にする優先順位を通常 の企業とは逆である、1番が従業員、2番が顧客、3番が株主としている。 「企業にとって一 番大事な組織の構成員=従業員にとって、会社は常に働きやすい場所でなければならない。 だから社風として、自由と公平が最低限保障されている必要がある。 」と考えている。社員 を差別することなく、仕事が楽しいと思えるような環境作りを心掛けている。 続いて、藤原氏を支え続けてきた後藤長八氏について述べていく。後藤氏は藤原氏より5 歳年下で、しまむら入社は藤原氏の2年後になる。後藤氏はとても気さくな性格で、どちら かと言えばシャイな藤原氏とは対照的である。 「たしかに自分と藤原とでは、考え方から生 き様までまるで違う。だからこそ、逆にお互いを尊重し合え、アウンの呼吸でやって来れ た面もある。 」と述べている。2005年まで藤原氏と後藤氏は、しまむらが大成長したこの15 年間、ずっと社長―専務の立場で切り盛りをしてきたのだ。業界では「名コンビ」と評判 が高い2人だが、2005年、藤原氏は社長の座を野中正人氏に譲り、専務の後藤も兼任してい た商品本部長を昆野一夫に託した。すなわち、しまむらは「藤原―後藤」体制から「野中 ―昆野」体制へと移行しているのである。しまむらは社長だけの力ではなく、専務と一緒 に二人三脚で会社を支え続けているのである。 藤原氏が辞任した後、先ほど述べたように、しまむらの次期社長には野中正人氏が選ば れた。後任の野中氏は中央大学を卒業後、1984年3月しまむらに入社し、2003年5月に取締 役となり、2005年5月に取締役の中で最年少だった当時44歳の野中正人氏がしまむらの代表 取締役社長に任命された。当時、野中氏はインタビューで「社長に就任したからといって、 特に新しい方針は出していません。私自身がしなければならないことは、“この会社を変え ないこと”だと思っているからです。」と述べている(日経BPnet 2005年7月26日 http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/person/president/050726_shimamura1/index1.ht ml)。 しまむらは現在、売上や利益などの業績と、システムや経営といった内面も整った良い 環境にあるため、社長が変わっても企業は変わらないようにしなければならないのだ。そ れは、ただまったく同じではなく、 「変えてはいけない体質」と「改善していく体質」が必 要となってくる。野中氏は、社長としての最大のミッションは、前社長の藤原氏が築きあ げた理想的な状況を維持することだと考えている。また、野中氏のリーダーシップとして は、会社全体が向かおうとしている方向をきちんと示し、常に半歩先を考え、実行に移す 努力をしていくと語っている。 このように、しまむらは藤原氏が確率したシステムやローコスト経営、社員が働きやす い環境を野中氏が引き継ぐことによって、今後も成長し続けていくことができるのではな いか。 117 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 4.戦略課題 4-1.ファーストリテイリング (猪股裕子) 経営戦略でも述べたように、ファーストリテイリングは、世界一の衣料品小売業になる ことを目指して、「2010 年に売上高 1 兆円」という目標を立てた。そのため、2005 年 11 月 に持株会社に移行、構造改革を行い、M&A や海外事業、新事業に力を入れるなど、挑戦し続 けることを精神に、様々な戦略を行っている。しかし、目標を達成するためには、乗り越 えなければならない課題は多い。では、財務分析の面、経営戦略の面、2007 年度の決算の 順に、それぞれ課題を見ていく。 まず財務分析から見ていく。成長性を見ると、売上高は右肩あがりで増収している。収 益力を見ても、ファーストリテイリングはしまむらよりも高い収益力があった。しかし、 成長性分析や、収益性分析でも分析したように、年度により増益したり、減益したり、不 安定な収益の仕方をしている。これは、しっかりとした収益体制が確立できていないこと を意味している。更に、2006 年度の収益力は M&A による資産の増加により、落ちている。 また、安全性を見ると、現金が多く比較的安全であることがわかった。しかし、2005 年度 から M&A を行うために借金が増加しており、徐々に安全性は落ちている。そのため、安定 した収益力をつけ、借金に頼らない体質に改善していく必要がある。 続いて、経営戦略を見ていく。経営戦略では、特に海外ユニクロ事業と、M&A の戦略での 課題が目立つ。 海外ユニクロ事業では、2006 年度の時点で 5 カ国に出店している。しかし、2006 年度決算 では、未だに香港以外は赤字経営というのが現状だ。ファーストリテイリングは、2006 年 度、ニューヨークにユニクロ旗艦店を出店するも、その戦略は始まったばかりである。海 外事業は、国内ユニクロ事業とは違い、ギャップなど世界で大手を誇る企業が競争相手と なる。特にニューヨークでは、競合相手は多い。現地の顧客の声には、「悪くないね。でも 同じような商品はギャップでも売っているよ」 (子供連れの男性)、「胸が大きい私とはサイ ズが合わないみたい」(中年女性)とある(2005/09/30, 日本経済新聞) 。このように、世 界を相手では、差別化し、商品のアピールをしにくい。また海外で経営基盤を整えるため には、現地の人にあった商品作りが必要である。海外事業では、これらの問題を解決して いくことが、課題となる。 M&A では、2006 年度の時点で、7 社の M&A を行っている。しかし、2006 年度の売上構成 は、国内ユニクロ事業が 9 割を占めており、M&A の成果があまり見られない。反対に、M&A を行ったことにより経営の足を引っ張っている企業がある。靴専門店を運営する株式会社 ワンゾーンである。ワンゾーンは、元々赤字経営であった。それでもファーストリテイリ ングは、ユニクロの SPA のノウハウを活用すれば、赤字経営を持ち直し、事業が拡大する ことを狙い M&A を行った。しかし、M&A を行ってからも、赤字を改善させることができず、 経営に悪影響を与えている。財務分析の面から見ても、M&A を行ったことにより、借金の増 118 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 加や、資産の効率の低下が起こり、財務体制を悪化させている傾向が強い。また、7 社 M&A を行い規模は拡大しているが、相乗効果があまり見られない。このように、M&A を行ったメ リットが少なく、逆に経営を悪化させている一面がある。これらの問題を解決していくこ とが、M&A を進めていく上で重要な課題となる。 続いて、2007 年度の決算を見てみる。2007 年度の売上高は 17%増の 5252 億円と増加し た。しかし、営業利益は 8%減の 649 億円、経常利益も 12%減の 646 億円と利益は大幅な 減少を見せた。これは、国内ユニクロ事業の、減益によるものである。では、売上高は増 加したのに対し、利益が減益した要因を見ていく。売上高はスキニーなどにより客単価が 増加したため増収となった。しかし、営業利益では、天候不順による粗利益の低下に加え、 人件費の増加、広告費、販売管理費の増加など、費用が増加してしまったことが減益の要 因である。また、経常利益では、関連子会社である株式会社リンク・セオリー・ホールデ ィングスの減損損失の計上により、減収となった。先ほど財務分析と経営分析の面で課題 をみてきた。やはり、課題と 2007 年度の決算を照し合せてみると、収益面では不安定な収 益が続いており、収益体制が未だに確立されていないことがわかった。更に増収している にも関わらず、減益となっている。経営戦略の面でも、損失が出てしまい、M&A が足を引っ 張る形となっている。このように、課題が拡大していることがわかった。 では、なぜ課題が改善されていないのだろうか。それは、2010 年度に売上高 1 兆円とい う目標にあると思われる。課題改善よりも、目標を達成することが最重要目的となってし まい、経営悪化を及ぼしてしまっているのではないだろうか。ファーストリテイリングの 社長である柳井氏は常に挑戦し続けなければ、成長することは出来ないと考えている。確 かに、挑戦し続けなければ成長することは出来ないが、現状の課題を解決しないまま挑戦 を行っても目標通り成長するとは思えない。また、目標を達成しようと躍起になっている 要因として、柳井氏の後を継ぐ人材がいないということが背景にあるのではないだろうか。 ファーストリテイリングは、柳井氏によりここまで成長することができた。しかし、後継 者が見つかっていない今、どこまで柳井氏一人の力でファーストリテイリングを成長させ ることができるかが問題となってくる。そこで、今は、一度目標を見直し、課題改善に積 極的に取り組むべきではないだろうか。 現在、ファーストリテイリングは、国内で大手企業となっている。しかし、課題は多く、 リスクが高いことがわかった。柳井氏は、失敗は成功の元と考える。しかし、企業規模が 拡大するほど、大きな失敗をすると、後でその失敗を補うのは大変だろう。 119 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 4-2.しまむら (小林香織) しまむらは、ローコスト経営による高密度な郊外型出店を行い、2006 年度に 1000 店舗展 開を達成した。また、今後は経営戦略でも述べたように、 「2011 年までに 2000 店舗展開」 という目標を掲げている。そして、今後も安定した成長を続けていくことができるかを見 るために、都心出店、海外展開、M&A といった課題を見ていく。 始めに、都心出店について見ていく。郊外をほぼ制圧したしまむらは、店舗数を増やし ていくために、都心出店やテナント出店をする必要がある。地方では 10%以上の売上シェ アを獲得している所もあるが、都心では東京都 0.74%、神奈川県 1.60%、大阪府 0.67%、 京都府 1.42%という状況だ。 しかし、都心出店を行うには、大きく分けて 3 つの問題点がある。まず 1 つ目の問題点 は、経費の増加である。都心は郊外に比べて土地代が高く、固定家賃は郊外の 2 倍ともい われる。またテナント出店においては、営業時間や在庫管理、売上金管理の問題など、様々 な制約があるため、経営の妨げになるだろう。さらに、建物全体の清掃や警備、電気代な どの共益費や駐車場負担金など、高い家賃に加え大きな経費が増加するのだ。しまむらは 1000 店舗を達成し、郊外型出店が飽和状態になりつつある今、どのようにして経費増加を 乗り越えるかが課題にあげられる。 2 つ目の問題点は、知名度の向上である。これまで郊外型出店を行ってきたしまむらは、 都心では知名度が低い。また、宣伝は CM などマスメディアを使ったものではなく、チラシ や看板といった限られた地域の中だけに発信するものだったので、“しまむら”という専門 店が存在すること自体を知っている人が少ないことが課題にあげられる。 3 つ目の問題点は、ブランド力の向上である。しまむらの一番の強みである低価格商品は、 逆手に取れば欠点となってしまう。なぜなら消費者は、しまむらは低価格商品だけを扱っ ている、という考えが念頭にあるため、「しまむら=安物」というイメージが定着してしま っているのだ。都心では低価格だけでは、強みが足りないという課題があげられる。 そこで、今後の都心出店を成功させるためにも、さらに売上を伸ばして、必然的に高く なってしまう経費を補っていく必要がある。野中氏は、現在のしまむら価格は変えないと 明言しているが、価格を変えずにどのように既存店の売上を伸ばすか、という課題に直面 している。そこで、低価格商品はそのままに、これからは値段を高めに設定できるトレン ド商品の充実がカギを握る。そこで、従来の低価格商品はそのままに、しまむらの低価格 商品に比べると価格は高くなってしまうが、市場平均の価格に比べると、安く買うことが できるトレンド商品の拡充がカギを握る。 また、今まで郊外型店舗の利点を最大限に活かしたローコスト経営を行ってきたが、こ れからは本格的な都心出店に伴い、従来の収益構造を変化させた、都心出店に見合ったロ ーコスト経営を確立しなければならないだろう(2007/01/11, 日経金融新聞)。 さらに、知名度とブランド力の向上では、しまむらという存在を認知してもらうために も、宣伝活動を強化が課題となってくる。そこで、今まで行っていたチラシや看板を使用 120 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ した宣伝だけでなく、一度に多くの人に知ってもらえるように、マスメディアを使用した 宣伝を行ったほうが良いのではないだろうか。宣伝の強化とともに、安物イメージを払拭 するためにも、企業分析の経営戦略で触れたように、2000 年頃から始めたコーディネート 提案を強化し、ブランド力を向上させることが今後の課題となる。 続いて、海外展開について見ていく。先ほど前述したように、しまむらは日本国内で全 国展開を遂げ、今度は都心出店に向けた戦略を練っている。今後はさらなる高密度出店を 行っていくが、出店するにも限界がある。全国に出店余地が無くなってしまった場合、次 の方向性として考えられるのは海外展開である。しかし、しまむらは海外展開は積極的で はない。台湾に子会社である流行服飾館“思夢樂”を展開しているが、赤字が続いている のが現状だ。 業界概要でも述べたように、現在アパレル業界では海外進出が加速化してきている。特 に中国の高度経済成長の波に乗るため、中国進出を果たす大手アパレルメーカーが増加し ている。海外展開に消極的なしまむらだが、さらなる成長を展望するためにも、海外を視 野に入れた戦略を行うべきではないだろうか。 最後に、M&A について見ていく。業界概要でも述べたが、アパレル業界では今、M&A が積 極的に行われている。M&A を行うメリットとして、ブランド力の向上、規模の拡大、事業の 多角化などがあげられる。しかし、しまむらは M&A に対してもあまり積極的ではない。 しまむらには台湾の思夢樂だけでなく、国内の子会社である衣料品専門店アベイルがあ る。しかし、思夢樂と同様に好ましい業績ではない。平成 19 年 2 月期の決算短信(連結)に よると、売上高合計 391,220 百万円中、しまむらは 350,324 百万円と、売上高のほとんど をしまむらが占めている。このままでは、もしもしまむらが経営危機に陥った場合、運営 を続けていくのは厳しくなるため、しまむら以外の事業の強化が必要となってくる。 そこで、これからは M&A をしていくべきではないだろうか。経営戦略で触れたが、2007 年に初めてしまむらは田原屋に資本提携をした。自社の力だけで成長を続けてきたしまむ らだが、今後は M&A を行い、子会社の強化を行っていく考えである。さらに M&A を行うこ とによって、他企業のブランド名も取り込むことができるので、知名度やブランド力の向 上にも繋がるのだ。これからはしまむらに頼った戦略ではなく、子会社の強化や新たな事 業展開をしていかなければならないだろう。 アパレル業界の縮小に伴い、企業同士の競争が激化する中、しまむらは郊外出店を続け、 大々的な宣伝もしてこなかったが、2002 年度から 2006 年度まで増収、増益と着実な成長を 遂げている。しかし、ついに郊外出店も飽和状態になり、出店余地に限界が見えてきた。 今後は、都心出店に伴った経営方法の構築と、海外への進出、子会社の強化が大きな課題 となる。 121 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 5.終わりに (猪股裕子) アパレル業界には、衣服という私たちの生活に身近なものを扱う業界である。しかし、 ここからここまでがアパレル業界と、はっきりとした境目がないほど幅の広い業界で、か つ複雑で把握しづらい業界であった。大手アパレルメーカーが一貫して服を手がけている のではなく、衣服の生産、流通過程でも多くの中小企業が存在し、そこで段階別に服が生 産され、多くの小売業の手によって、私たちの手元に衣服が届いていることがわかった。 また、アパレル業界は消費者の動向や流行をより早く商品に反映させなければならない業 界であり、常に変化に対応していかなければならない。そのため、消費者に近い小売業が 最近力をつけてきた。それが、ファーストリテイリングや、しまむらである。ファースト リテイリングは、生産から販売まで一貫して自社で行う SPA のノウハウを生かし、低価格 で品質のよいカジュアルベーシックの衣服を大量生産することに成功し、急成長を遂げた。 一方しまむらは、問屋機能を自社に取りこむことによって、低価格を実現した。問屋の機 能とは、しまむらは独自で物流センターをもち、自ら仕入れを行う。仕入れを行う際、し まむらは、買い取り仕入れを行うことによって、原価を抑えている。これにより衣服を低 価格で提供し、地道な成長を遂げることで、大企業へと成長した。このように、ファース トリテイリングとしまむらはアパレル業界の流通構造を変え、同じ小売業でありながら、 対照的な経営戦略をとり成長していることがわかった。 2007 年度、2 社は衣料品専門店で 1 位と 2 位の売上を誇る。しかし、この 1 位、2 位の座 はいつまでつづくのだろうか。低価格が 2 社の売りであったが、低価格というだけで衣服 が売れる時代は終わった。現在ファーストリテイリングは低価格を売りにすることをやめ、 しまむらは、低価格だけでなくトレンドを積極的に取り入れるなどしている。今後 2 社が 培ったノウハウでどこまで成長し続けることができるだろうか。ファーストリテイリング は将来を見据え、2010 年世界で世界一の衣服の小売業を目指しているが、思うように成長 しておらずいきづまってきている。一方しまむらは、今まで手薄であった都心に出店を進 めていくが、その規模もいずれ限界がみえる。今後は、どのような展開をみせていくのか、 2 社に注目していきたい。 122 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 参考資料 <ファーストリテイリング> 貸借対照表 2002~2006 年度 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 (資産の部) Ⅰ 流動資産 1 現金及び預金 67771 76447 83862 74759 121950 3143 4277 3223 4472 8396 3 有価証券 39490 47285 52599 46302 25237 4 たな卸資産 30995 20867 28803 33594 42862 293 4365 3755 2894 928 19228 13862 - 11791 27694 7為替予約繰延ヘッジ損失 - - 3158 - 8未収法人税等 - - - - 12793 5678 3435 4756 6246 10591 △4 △3 △3 △9 △128 166596 170537 180154 180051 250326 18916 19011 20910 25977 41555 5361 6747 8055 14787 18326 (2)器具備品及び運搬具 390 300 363 2771 3301 減価償却累計額 133 151 182 930 1698 2051 2051 2501 2594 4299 317 255 282 364 761 15910 14720 15819 18676 29892 (1) 営業権 - - - 1087 - (2) のれん - - - - 32996 (3)その他 - - - 6365 8225 783 3351 4852 17153 41221 (1)投資有価証券 63 584 6093 7431 1146 (2)関係会社株式 167 876 2273 7431 6626 2 受取手形及び売掛金 5 繰延税金資産 6為替予約 9その他 貸倒引当金 流動資産合計 Ⅱ 固定資産 1 有形固定資産 (1)建物及び構築物 減価償却累計額 (3)土地 (4) 建設仮勘定 有形固定資産合計 2 無形固定資産 無形固定資産合計 3 投資その他の資産 123 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ (3)関係会社出資金 1165 - - - - (4)繰延税金資産 139 128 537 454 552 (5)敷金・保証金 11156 12113 12467 22587 29638 (6)建設協力金 14309 16402 18600 19775 20288 652 1160 134 572 973 △24 △19 △35 △1276 1012 投資その他の資産合計 27630 31245 40071 56965 58213 固定資産合計 44324 49317 60743 92795 129328 210921 219855 240897 272846 379655 48146 43236 44706 33718 42794 2未払法人等 - 7750 14840 12213 30340 3繰延税金負債 - - - - 8047 4 引当金 - - - - 266 5為替予約 - - 3158 - - 19228 13862 - 11791 - 1809 - - - - 8その他 13402 13682 15557 16491 31044 流動負債合計 82586 78530 78263 74213 112492 4000 - 52 4945 19584 - - - 200 437 703 820 1147 5991 6660 4703 820 1200 11137 26683 87290 79350 79463 85350 139175 - - - 5146 3273 3273 10273 10273 11578 - - - Ⅲ連結剰余金 124686 - - - Ⅳ資本余剰金 - 11578 4578 4579 Ⅴ利益余剰金 - 141406 163982 184293 180 180 △1352 △676 (7)その他 (8)貸倒引当金 資産合計 (負債の部) Ⅰ 流動負債 1支払手形及び買掛金 6 為替予約繰延ヘッジ利益 7短期借入金 Ⅱ 固定負債 1長期借入金 2退職給付引当金 3その他 固定負債合計 負債合計 (少数株主持分) 少数株主持分 (資産の部) Ⅰ資本金 Ⅱ資本金準備金 Ⅵその他有価証券評価差額金 124 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ Ⅶ為替換算調整勘定 △66 Ⅷ自己株式 93 △13 △80 16021 △16027 △16034 △16040 資本合計 123631 140504 161434 182349 負債、少数持株主持分及び資本合計 210921 219855 240897 272846 1資本金 - - - - 10273 2資本余剰金 - - - - 4999 3利益余剰金 - - - - 211135 4自己株式 - - - - △15539 株主資本合計 - - - - Ⅱ評価・換算差額等 - - - - 1その他有価証券評価差額金 - - - - 464 2繰延ヘッジ損益 - - - - 16384 3為替換算調整勘定評価・換算差額等合計 - - - - 509 Ⅲ少数株主持分 - - - - 17358 純資産合計 - - - - 12252 負債及び純資産合計 - - - - 240479 - - - - 379655 Ⅰ売上高 344170 309789 339999 383973 448819 Ⅱ売上原価 193765 172724 176804 213682 236401 売上総利益 150405 137065 163194 170290 212418 Ⅲ販売費及び一般管理費 99987 95757 99240 113598 142062 営業利益 50418 41308 63954 56692 70355 676 374 506 790 1045 - - 148 1086 274 353 142 - 374 1805 - - - - 578 395 304 258 477 556 1支払利息 406 332 169 344 853 2為替差額 - (純資産の部) 損益計算書 210868 2002 年度~2006 年度 Ⅳ営業外収益 1受取利息及び配当金 2持分法による投資利益 3為替差益 4有価証券売却益 5その他 Ⅴ営業外費用 233 3その他 327 - 281 470 623 経常利益 51110 41569 64183 58607 73138 125 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ Ⅵ特別利益 1持分変動差益 - - - 2612 - 2子会社債務免除益 - - - 3212 837 3貸倒引当金戻入益 - - - - 203 109 - - - - - - - 215 259 - - - 1599 - 709 626 414 244 861 3店舗閉店損失 64 178 280 351 193 4関係会社事業整理損 - 4664 1041 - - 5連結調整勘定償却額 - - 137 4236 - 6減損損失 - - - - 228 7リ-ス中途約損 - 1288 1001 - 202 8持分法による投資損失 - - 4732 - - 9その他 - 60 127 199 199 税金等調整前当期純利益 50445 34751 56448 58016 72752 法人税、住民税及び事業税 19878 17872 23837 23411 32613 2717 4055 1246 647 △1680 - - 1 73 1381 27850 20933 31365 33884 40437 104216 11578 11578 4578 - - - 0 - - 7000 11578 4578 4579 - 124686 141406 163982 27850 20933 31365 33884 - - 136 - 6731 4068 8645 13223 4退職給与引当金戻入益 5その他 Ⅶ特別損失 1商品評価損 2固定資産除却損 法人税等調整額 少数株主利益 当期純利益 (資本剰金の部) Ⅰ資本剰余金期首残高 Ⅱ資本剰余金増加高 1自己株式処分差益 Ⅲ資本金剰余金減少高 1資本金繰入額 Ⅳ資本剰余金期末残高 (利益剰余金の部) Ⅰ利益剰余金期首残高 Ⅱ利益剰余金増加高 1当期純利益 2連結子会社増加に伴う利益剰余金増加高 Ⅲ利益剰余金減少高 1配当金 126 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 2役員賞与 Ⅳ利益剰余金期末残高 649 145 280 350 124686 141406 163982 184293 <しまむら> 貸借対照表 2002 年度から 2006 年度 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 (資産の部) Ⅰ 流動資産 1.現金及び預金 12,302 13,568 13,700 19,327 27,611 2.受取手形及び売掛金 38 99 198 295 417 3.有価証券 - 5 - - 23 4.たな卸資産 20,520 22,259 24,606 23,976 24,919 5.繰延税金資産 697 674 880 1,114 1,357 6.その他 551 530 557 570 724 7.貸倒引当金 流動資産合計 Ⅱ - - 341,409 37,139 39,842 45,284 55,053 固定資産 1.有形固定資産 (1)建物及び構築物 59,152 65,545 72,018 77,160 83,141 減価償却累計額 20,901 23,557 26,542 29,044 32,102 (2)機械装置及び運搬具 4,791 4,786 5,382 5,387 5,390 減価償却累計額 2,826 3,168 3,541 3,858 4,123 2,144 2,581 2,602 2,618 2,741 1,325 1,692 1,847 1,904 1,972 (3)器具及び備品 減価償却累計額 (4)土地 (5)建設仮勘定 有形固定資産合計 2.無形固定資産 19,366 19,793 21,063 23,610 26,886 738 957 628 585 902 61,140 65,245 69,764 74,554 80,863 879 920 920 930 957 2,338 2,435 4,107 5,784 8,512 3 2 2 1 1 859 339 289 366 295 3.投資その他の資産 (1)投資有価証券 (2)長期貸付金 (3)繰延税金資産 (4)差入保証金 (5)その他 (6)貸倒引当金 35,665 37,370 39,227 41,453 42,387 1,722 2,498 2,833 3,613 3,959 △296, △259 △227 △328 △173 127 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 投資その他の資産合計 固定資産合計 Ⅲ 40,292 42,388 46,233 50,892 54,983 102,312 108,554 116,918 126,377 136,804 為替換算調整勘定 資産合計 - 136,421 145,693 156,760 171,661 191,858 (負債の部) Ⅰ 流動負債 1.支払手形及び買掛金 13,276 15,239 17,289 19,351 20,325 2.一年内償還予定社債 5,000 10,000 3.短期借入金 2,327 4.未払法人税 5.賞与引当金 6.その他 流動負債合計 Ⅱ 5,000 5,000 5,000 114 - 1,100 4,000 4,755 3,815 5,367 6,074 8,307 833 945 1,015 1,156 1,272 5,150 5,263 5,280 6,089 6,728 31,343 35,377 33,942 38,771 45,634 固定負債 1.社債 2.長期借入金 25,000 15,000 10,000 5,000 5,214 12,100 12,100 15,000 16,000 3.繰延税金負債 614 1,652 787 882 989 5.定時社員退職功労引当金 214 250 317 6.役員退任慰労引当金 668 695 747 463 398 346 4.退職給付引当金 7.その他 - 538 542 648 511 固定負債合計 31,296 28,259 24,233 22,841 20,053 負債合計 62,639 58,176 61,612 65,687 (少数株主持分) 少数株主持分 30 372 470 522 613 (資本の部) Ⅰ 資本金 13,559 13,559 17,086 17,086 17,086 Ⅱ 資本準備金 13,283 13,283 16,808 16,808 16,808 Ⅲ 連結剰余金 47,494 54,651 63,288 73,781 88,430 Ⅳ その他有価証券評価差額金 △445 236 882 1,886 3,531 Ⅴ 為替換算調整勘定 △105 33 140 73 △154 Ⅵ 自己株式 △34 △81 △92 △109 △144 資本合計 73,751 81,683 98,114 109,527 125,557 負債、少数株主持分及び資本合計 136,421 145,693 156,760 171,661 191,858 128 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 損益計算書 2002 年度~2006 年度 Ⅰ 売上高 263,907 276,212 299,688 325,354 361,989 Ⅱ 売上原価 183,020 197,271 212,708 229,445 250,881 売上総利益 Ⅲ 70,896 78,941 86,979 95,908 111,107 営業収入 597 営業総利益 Ⅳ Ⅵ 販売費及び一般管理費 931 18,119 20,584 23,685 29,918 営業外収益 15,212 1.受取利息 199 250 298 369 439 2.建設資材売却益 90 113 119 118 90 3.有価証券売却益 - 4.投資有価証券売却益 44 5.配送センター収入 - 6 168 6.為替差益 175 7.雑収入 131 192 226 205 251 506 772 613 469 349 232 408 237 101 54 76 70 営業外費用 為替差損 2.有価証券評価損 - 3.貸倒引当金繰入額 - 4.新株発行費 39 5.雑損失 104 経常利益 73 42 14,976 17,588 20,440 24,019 30,849 特別利益 1.持分変動利益 190 2.貸倒引当金戻入益 Ⅶ 974 56,272 61,657 67,279 73,154 82,135 1.支払利息 Ⅶ 884 71,484 79,777 87,863 96,840 112,054 営業利益 Ⅴ 836 141 特別損失 1.固定資産除売卸損 252 349 2.差入保証金解約損 - 1,053 3.投資有価証券評価損 96 4.退職給付金会計基準変更時差異 267 365 385 500 5.災害による損失 126 6.役員退任慰労金 31 7.過年度容器包装リサイクル費用 - 129 120 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 8.過年度定時社員退職功労引当金繰入額 180 9.過年度役員退任慰労引当金繰入額 612 10.その他 10 税金等調整前当期純利益 71 92 14,115 16,304 法人税、住民税及び事業税 7,141 7,379 524 39 23,494 30,446 9,035 10,678 13,182 過年度法人税等 373 法人税等調整額 少数株主損失(少数株主利益は△) 当期純利益 △872 23 △601 △360 △209 △2, 7 △97 △52 △93 7,844 8,909 10,755 12,751 17,379 連結剰余金計算書 (資本金剰余金の部) Ⅰ.資本金剰余金期首残高 13,283 16,808 16,808 Ⅱ.資本剰余金増加高 1.増資による新株発行 3,525 Ⅱ.資本金剰余金期末残高 16,808 16,808 16,808 (利益剰余金の部) Ⅰ 連結剰余金期首残高 Ⅱ 連結剰余金増加高 40,963 47,494 54,651 63,288 73,781 1.過年度税効果調整額 Ⅲ - 連結剰余金減少高 1.配当金 1,273 1,697 2,064 2,211 2,668 2.役員賞与 40 54 54 47 63 Ⅳ 当期純利益 7,844 Ⅴ 連結剰余金期末残高 8,909 10,755 12,751 17,379 47,494 54,651 63,288 73,781 88,430 130 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 参考文献 著書 (松尾武幸 『最新版 図解 アパレル業界ハンドブック』 東洋経済新報社) (三田村蕗子『一目でわかるファッション業界』日本実業出版社 ) (繊研新聞社編集局『よくわかるアパレル業界』日本実業出版社 ) (月泉博 『ユニクロ VS しまむら』日本経済新聞社) (柳井正 『一勝九敗』新潮社) (梛野順『無印良品を復活させた しまむら商法』ぱる出版) 雑誌 「日経ビジネス」2007 年 10 月 22 日号 P6~P7) 新聞 2002/02/11「日本経済新聞」 2002/03/15「日本経済新聞」 2003/03/20「日本経済新聞」 2003/04/10「日本経済新聞」 2003/03/20「日本経済新聞」 2004/04/08「日本経済新聞」 2004/04/08「日本経済新聞」 2005/03/19「日本経済新聞」 2005/04/07「日本経済新聞」 2005/07/02「日本経済新聞」 2005/09/22「日本経済新聞」 2005/09/30「日本経済新聞」 2006/03/30「日本経済新聞」 2006/04/06「日本経済新聞」 2006/06/24「日本経済新聞」 2006/08/11「日本経済新聞」 2006/09/21「日本経済新聞」 2007/04/20「日本経済新聞」 2007/07/08「日本経済新聞」 2007/10/03「日本経済新聞」 2007/10/06「日本経済新聞」 2000/12/19「日経流通新聞」 131 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ 2002/04/09「日経流通新聞MJ」 2005/07/18「日経流通新聞MJ」 2006/10/30「日経流通新聞MJ」 2007/10/08「日経流通新聞MJ」 1992/12/21「日経産業新聞」 2007/9/20「日経産業新聞」 2007/01/11「日経金融新聞」 2007/04/09「日経金融新聞」 2005/07/14「日経金融新聞」 2006/06/24「日本経済新聞」 ファーストリテイリング 有価証券報告書 2002 年度~2006 年度 (ファーストリテイリング「2002 年 8 月有価証券報告書」 ) (ファーストリテイリング「2003 年 8 月有価証券報告書」 ) (ファーストリテイリング「2004 年 8 月有価証券報告書」 ) (ファーストリテイリング「2005 年 8 月有価証券報告書」 ) (ファーストリテイリング「2006 年 8 月有価証券報告書」 ) ファーストリテイリング アニュアルレポート 2004 年度~2006 年度 (ファーストリテイリング「2004 年アニュアルレポート」 ) (ファーストリテイリング「2005 年アニュアルレポート」 ) (ファーストリテイリング「2006 年アニュアルレポート」 ) (ファーストリテイリングHP,http://www.fastretailing.com/jp/) しまむら 有価証券報告書 2002 年度~2006 年度 (しまむら「2002 年 2 月有価証券報告書」) (しまむら「2003 年 2 月有価証券報告書」) (しまむら「2004 年 2 月有価証券報告書」) (しまむら「2005 年 2 月有価証券報告書」) (しまむら「2006 年 2 月有価証券報告書」) (しまむら HP,http://www.shimamura.gr.jp/) 132 アパレル業界 ~ファーストリテイリング・しまむら~ (IT用語辞典e-words http://e-words.jp/) (日経BPnet 2005年7月26日 http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/person/president/050726_shimamura1/index1.ht ml) (日経BPnet 2005年7月27日 http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/person/president/050727_shimamura2/index.htm l) 133
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