バナジウム 23V 英語 vanadium ドイツ語 Vanadium, Vanadin フランス語 vanadium スウェーデン語 vanadin ギリシア語 βανάδιο (vanaðio) ロシア語 ванадий (vanadij) (太字は命名者の出身地) 発見の順番 54 番目 アルファベット1文字の元素記号 現在、名前が付いている(IUPAC の系統名は除く)元素 114 種類の中で、元素記号がアルファ ベット 1 文字のものは 14 種類しかありません。金属元素に限ると、19K カリウム、92U ウラン、 23V バナジウム、74W タングステン、39Y イットリウムの5種類で、このうち、最後に名前が付け られた(1830 年)ものがバナジウムです(非金属元素も含めると、9F フッ素が最後)。元素記号 の文字自体に着目すると、K を除いた U, V, W, Y の文字がいずれも、歴史的にギリシア文字のユ プシロン(大文字:Υ、小文字:υ)から派生しているのも、ちょっとした因縁を感じさせます。 1925 年(大正 14 年)に発行された理科年表の第1冊には、ドイツ語に由来する「ヴァナヂン」 の名で掲載されていました。 発見の歴史 バナジウムの発見は紆余曲折を経ています。1801 年、スペイン生まれのメキシコの化学者アン ドレス・マヌエル・デル・リオ(1764–1849)が新元素(後のバナジウム)を発見しました。この 化合物が様々な色を示すことから、ギリシア語で「全て」πάν (pan)の「色」χρῶμα (khrōma)を意味 するパンクロミウム panchromium と名付けました(ギリシア語の「色」については、24Cr クロム の項を参照のこと)。更に、ギリシア語で「赤い」ἐρυθρός (erythros)に因んでエリスロニウム erythronium と再命名しました。ところが、フランス人化学者がこの新元素を 24Cr クロムであると 誤って鑑定し、デル・リオは発表を撤回してしまいました。 1830 年、スウェーデンの化学者ニルス・ガブリエル・セフストレーム(1787–1845)が再発見 し、バナジウムと名付けました。因みに彼は、元素記号に V の文字が使われていないことから、 V で始まる元素名を考えたのだそうです。再発見後、デル・リオの発見した元素も実はバナジウ ムであったことが確認されたため、両者が発見者とされています。更に 1831 年、イギリスの地質 学者ジョージ・ウィリアム・ファンショー(Featherstonhaugh と書いて「ファンショー」と読みま す)が、デル・リオに因んだリオニウム rionium という元素名を提案しますが、採用されることは ありませんでした。 余談ですが、2004 年9月 28 日、理化学研究所が合成に初めて成功した新元素(仮名は 113Uut ウンウントリウム)も、命名するに当たって、元素記号に J の文字が使われていないことを踏ま え、Jp ジャポニウムが候補に挙がっています。 名称の由来 バナジウムの名は、北欧神話の女神ヴァナディース Vanadís に由来しています。別名のフレイヤ Freja, Freyja の方が、よく知られているかもしれません。フレイヤは、 「この世の全ての男が愛人」 とも言われる、愛と豊穣の女神です。 北欧神話の神々には、アース神族とヴァン神族の二つの種族がいます。最高神オーディンを長 とするアース神族はアースガルドに住んでいます。このアースガルド、最近の大ヒット映画「ア ナと雪の女王」との類似性が指摘されている、 「聖闘士星矢」のテレビアニメ版オリジナルストー リー「北欧アスガルド編」の名称にも用いられています。 一方、フレイヤはヴァン神族に属しますが、アース神族とヴァン神族との戦いの後、人質交換 で兄のフレイ等と共にアースガルドに移り住んでいます。フレイヤは、ヴァン神族 Vanr の女神 dís ということで、 「ヴァナディース」と呼ばれるのです。 フレイヤは、リヒャルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」四部作の序夜「ラインの 黄金」に、ドイツ語名のフライア Freia として登場します。神々の林檎を栽培しており、ヴァルハ ラ宮殿を建築した報酬の代わりに人質として連れ去られる役どころです。 曜日の語源 フレイヤはゲルマン語派の金曜日の名称(英語:Friday、ドイツ語:Freitag、スウェーデン語: Fredag)の語源とも言われています(北欧神話の主神オーディンの妻フリッグ Frigg に由来すると いう説もあります) 。ゲルマン語派における曜日のうち、火・水・木曜日の名称も北欧神話の神々 の名に由来しています。 ・日曜日(英語:Sunday、ドイツ語:Sonntag、スウェーデン語:Söndag) <太陽(英語:the Sun、ドイツ語:die Sonne、スウェーデン語:Solen) ・月曜日(英語:Monday、ドイツ語:Montag、スウェーデン語:Måndag) <月(英語:the Moon、ドイツ語:der Mond、スウェーデン語:Månen) ・火曜日(英語:Tuesday、ドイツ語:Dienstag、スウェーデン語:Tisdag) <軍神テュール Týr(古ノルド語) ・水曜日(英語:Wednesday、ドイツ語:Mittwoch、スウェーデン語:Onsdag) <主神オーディン Óðinn(古ノルド語) 、ヴォーダン、ヴォータン Wodan, Wotan(ドイツ語) *ドイツ語の Mittwoch は「週の中」の意味 *英語の綴りに黙字の“d”が入っているのは、オーディンの名残 ・木曜日(英語:Thursday、ドイツ語:Donnerstag、スウェーデン語:Torsdag) <雷神トール Þórr(古ノルド語) 、ドンナーDonner(ドイツ語) *トールは 90Th トリウムの名称の語源 ・土曜日(英語:Saturday、ドイツ語:Samstag, Sonnabend、スウェーデン語:Lördag) <英語の Saturday は土星 Saturn <ローマ神話の農耕神サートゥルヌス Saturnus に由来 <ドイツ語の Samstag は「安息日」 、Sonnabend は「日曜日の前の夜」に由来 <スウェーデン語の Lördag は「水浴の日」に由来 曜日の概念は、古代バビロニアの占星術に遡ると言われています。当時知られていた五つの惑 星(水星・金星・火星・木星・土星)と、太陽並びに月は、特別な星だと認識されていました。 彼らの占星術によると、これらの星が、土星・太陽・月・火星・水星・木星・金星の順に、一日 を守護すると考えました。そのため、それぞれの日をその日の星の名で呼びました(当時は、星 と神はほぼ同じものだったため、神々の名前が付けられているとも言えます)。 ロマンス語派では、火・水・木・金曜日はそれぞれ、火星・水星・木星・金星(即ち、それら の星を司る、軍神マールス・商人や旅人の神メリプリウス・主神ユーピテル・愛と美の女神ウェ ヌス)に由来しています。軍神ということで北欧神話のテュールは、ギリシア神話のマールスと 同一視されました。同様に、知恵と計略に長けることからオーディンはメルクリウスと、雷神ト ールは天空神(特に雷を司る)でもあるユーピテルと、愛と美の女神フレイヤ(フリッカ)はウ ェヌスと同一視されました。こうして、ゲルマン語派の火・水・木・金曜日の名称は、北欧神話 の神々の名に置き換えられました。土曜日の名称が各言語でばらばらなのは、サートゥルヌスに 対応する農耕神が北欧神話にはいなかったためのようです。 上述のメルクリウス Mercurius は、80Hg 水銀(英語で mercury)の語源となっています。ロマン ス語派の曜日の由来は、水銀の項で説明します。
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