イントレピッド博物館 第二次世界大戦の展示に 生命を与える映像と音響 TIM WETMORE, PRO AV MAGAZINE, MAY 2005 イントレピッド博物館は没入型の映像 と音声のシステムで来場者にカミカゼの 攻撃をいきいきと再現して見せている。 課題 : 第二次世界大戦当時の航空母艦 にある固いスチール製のハンガーデッキ に自動 AV プレゼンテーションスペースを 作り、来館者に歴史的な出来事を体感し てもらう 解決法 : 音響的な処理を行って制御テク ノロジーを使い、モニターとプログラムレ ベル調整を自動化し、没入型マルチスク リーンを使って展示する 米航空母艦を使ったイントレピッド博物館は年中無休で 『カミカゼ~暗黒の日々、光の日々~』を高度な AV システムで上演している 航空母艦のデッキで高品質の AV プレゼンテーションを体験できるとは想像しにくいが、イントレピッド博物館が来館者に見 せたかったのはまさしくそのものだった。この目標に向かって博物館のオペレーターはニューヨークの AV システム施工業者ビ デオソニックを徴募し、再生される映像や照明と同期した正確なサラウンドシステムを、第二次世界大戦当時の空母イントレピッ ドの船底に設置させることにした。 施工チームはサンフランシスコのコンサルティング会社、アウロバック・ポロック・フライドランダー・パフォーミング・アーツ / メディア・ファシリティ・プランニング・アンド・デザインと一緒に作業にかかった。マンハッタンの西側に浮かぶこの博物館で 上演される「カミカゼ~暗黒の日々、光の日々~」を制作したのは、マサチューセッツ州ウォータータウンのコンテンツプロダ クション、チェッド・アンギア・プロダクションだ。コネチカット州ノーウォークのジャフィ・ホールデン・アコースティックもまた 徴募され、音響処理に関する不可欠で重要な専門家としてこのプロジェクトに参加した。 米国空母イントレピッドは 1944 年 11 月 25 日のうちに 2 度もカミカゼに攻撃された唯一の海軍船だ。この博物館は定休日 がなく 1 日 10 時間開館しており、年間 75 万人が訪れる。マルチプロジェクションスクリーンとサラウンドシステムが創造的に 使われていて、プログラムはその日命を落とした機関兵と生き延びた砲兵隊員の友人を紹介した強烈で心を揺さぶるストーリー だ。 メインハンガーデッキにある 4 つのメインギャラリーの 1 つ、イントレピッド・ホールに入った来館者は、2 度目の攻撃で機関 兵が命を落とした場所にあてられたスポットの中に立つことになる。来館者を主人公にするためのコンセプトだが、システムや 設計チームに伝えられたユニークな要望の 1 つだ。イントレピッド・ホールは 1868 平方メートルの固いスチール製の床と 6.6m の高さを持つスペースだ。音響家にとって夢の空間とは言い難い。その真上にあるエグゼクティブのオフィスと本部に伝わるノ イズは最小限にしたい。もちろん船底は原型を維持しなければならないし、プロジェクターやスクリーン、サラウンドスピーカー は天井を改造することなくハンガーデッキの上に吊らなければならない。ビデオソニックのオーナー、グレン・ポリーは言う。 「最も優先されたのはシステムを自動化することでした。1 時間ごとに 30 分間上映されていますが、オートメーションからサウン ドプロセシングまですべて完璧に機能しなければならないのです」 音響システムの中心に据えられた BIAMP の AudiaFLEX は 13.1ch サラウンドをコントロールしている。スクリーン用に 5 チャ ンネル、サラウンド 8 チャンネルにサブウーファーという構成だ。AudiaFLEX は Mackie のデジタルマルチトラックレコーダー SDR24 を制御し、ビデオソニックの VIDS サーバが 8ch のハイビット MPEG フォーマットの映像を提供している間、別々のチャ ンネル同士をクロスフェードしている。ビデオの 1ch に SMPTE タイムコードが入っていて照明や 24ch の音声再生機をフレー イントレピッド博物館 ム単位で正確に同期するようマスタークロックを提供している。5 つのスクリーンの後ろには Bag End のスピーカー T1200 が 13 本設置されたが、駆動しているのは BIAMP のマルチパワーアンプ MCA8150 だ。サブウーファーは Bag End の 18 インチ Quartz-I でこちらは Crown の MA3600 が駆動している。 「私たちが AudiaFLEX を選んだのは、プログラムが複雑で音響的に問題のあるスペースに必要な実力と柔軟性を備え、再 設定とシステムチューニングに対応してくれるシステムだったからです。今思えば Audia なくしてこのシステムは実現できませ んでした」ポリーはこう語った。 ポリーいわく、このスペースの通常では考えられない物理的な特徴とマルチチャンネルオーディオの複雑さが組み合わ された上に、ショー自体が空母の上、つまり調整されたスタジオではない場所でミックスされるという事情が重なっていた。 AudiaFLEX、ビデオソニックの映像サーバは他の機材とともに Middle Atlantic のラック MRK-3726 に収納され、ハンガーデッ キの後ろにあるコントロールルームに船全体の IT 機器と同居し ている。 音響的な課題 ショーはハンガーデッキの後ろで行われるが、ここでまたビ デオソニックはこの現場独特の音響的な問題に直面した。最大 の課題は船の巨大な空調設備が生み出すレベルの高い環境ノ イズを減らすことだ。ポリーが言うには、設計チームは Kinetics Noise Control の特注音響パネルを使って室内の残響や反射を 減らした。天井にはビデオソニックが厚さ 5cm ほどの音響パネ ル Kinetics Hardside を取り付けた。こちらはアイボリーの内装 に合わせた布で包まれていて来館者が気づきにくいよう配慮さ れている。この天井パネルは真上にあるエグゼクティブオフィ スに音を伝えないようにしているのだ。 最も創意工夫に富んだソリューションは環境ノイズを発生源で コントロールしたことだろう。空調を担当したキャリアー社と共同 で作業にあたったポリーは、彼のチームが東芝製の業務用速度 可変ドライバーで空調機のモーターから出るノイズを効果的に 減らすことを発見した。ショーが始まるときビデオサーバから自 動コマンドを受けて機能するのだ。東芝のモデル H7 は周波数 を調整できるドライバーでモーターの速度を落とすため、ショー の間ノイズがおよそ 10dB 低下させることに成功したのだ。そ のコストといえばドライブを 4 つ空調ユニットに取り付けた 5 千 ドルだけだ。 ハンガーデッキの角度が付いた垂直面にも別の特注パネル が取り付けられた。10cm 厚の穴あきメッキ済みのスチールパ ネル、Kinetics の KNP シリーズが使われている。これで展示 エリアのアンビエントノイズフロアを大幅に減らすことができ、こ のプログラムを上演するホールと他の展示ホールを必要なだけ アイソレートすることができた。 このショー独特のもう 1 つの特徴は AudiaFLEX が持つア ンビエントノイズレベル感知機能を使っていることだ。AudioTechnica のマイクが 2 本天井に取り付けられ、来館者の数に よって変動するアンビエントノイズレベルを聞いている。この信 現場のでミキシング 米国戦艦イントレピッドは、ニューヨークの設備業者 ビデオソニックがマルチチャンネルプログラムを機材室 から 120m 離れた展示スペースに作り出すという兵站 学的な挑戦を果たした場所だ。 「カミカゼ」のために 適切かつ正確に音声プログラムをミックスするため、ビ デオソニックはハンガーデッキスペースでミックスダウ ンを行った。 彼らはマサチューセッツ州ウォータータウンのチェッ ド・ ア ン ギ ア・ プ ロ ダ ク シ ョ ン か ら digiDesign の ProTools をレンタルし、Mackie のデジタルマルチ トラックレコーダー SDR24 と 24 入力構成の BIAMP AudiaFLEX を ミ ッ ク ス ポ ジ シ ョ ン に 持 ち 込 ん だ。 Mackie はソースモードに設定され ADAT フォーマット で ProTools に接続された。 AV ポイントを CAT5 ケーブル 1 本でパッチできるよ う CobraNetTM を搭載した AudiaFLEX が置かれ、下の 階の機材室とクロスパッチされた。ミックスダウンが完 了するとビデオソニックは AudiaFLEX を固定設備用の 場所に戻し、Mackie のハードディスクレコーダーも機 材室の同じラックに収めた。 ビデオソニックの CTO、デニス・フラッドはこう語る。 「私たちは 60m のスネークケーブルを借りて通路か ら会談を引き回し適材室にあるアンプラックと接続する ことができたかもしれませんが、私は歓迎できません でした。初期システムの技術では 2 つの CobraNet TM で必要なだけの入力と出力を接続しました。SDR24 と 入力である AudiaFLEX をミックスポジションに置いて CAT5 ケーブル 1 本で接続したとき、もともと考えてい なかった CobraNetTM の使い方を発見しました。ほとん ど偶然と言っていい出来事でしたね」 イントレピッド博物館 号は AudiaFLEX に入力され、測定された音圧スレッショルドによってシステムが自ら 3 つある音量プリセットのどれかを選択す る。プリセットの最大レベルと最小レベルは 6dB の範囲だ。 没入型映像 映像は弓なりにおよそ 90 度にわたって配置された 5 台の Draper Targa のスクリーンに映し出される。中心の映像は 2.7m × 4m のスクリーンが受け持ち、その両脇には垂直方向に位置を合わせた 1.8m × 1.2m のスクリーンがある。さらにその両脇 には 2.1m × 3m のスクリーンが設置されている。調整室では Marshall Electronics の 2.5 インチアクティブマトリクス液晶ラック モニター V-R25P のを 10 枚使ってこのスクリーンをモニターしている。 SANYO のビデオプロジェクター XP46 が 5 台天井から吊り下げられ、ビデオサーバから供給される別々の信号を再生して いる。プロジェクターはスピーカーと共にショーの 1 つの音声と映像チャンネルを受け持っている。当日の出来事を紹介する俳 優のナレーション、白黒のプログラム、保管されていたニュース、あるいは 360 度の炎や煙、大勢の負傷者たち。燃料タンク に引火して発生した爆発音が完全なサラウンドサウンドで再生され、飛行 機運搬デッキが揺れる。投射された映像はすべてのスクリーンを使って全 体を映し出すことも、それぞれのスクリーンに映し出すこともできる。 音響映像機材に与えられた予算はもともと 30 万ドルだったが、ポリー のチームはコストを抑えながらも将来の拡張を視野に入れた方法を採用し た。 「博物館の IT 担当者たちと AV 調整室の空間を共用したのです。彼らはそ れまでサーバルームには理想的ではない場所にありましたから。しかし本 当に意図したことは、将来を保証するという目標のためでした。音声ライ ンとネットワークが同じ部屋にあれば将来来館者にインターネットで映像や 音声を提供できるようになるし、遠隔学習プログラムに使えるようになれ ば学校の先生たちは博物館に見学に来たあと生徒たちとログを見ることも できます」 AV システムのコストは機材費、 プログラミング費、 設備工事費、 コントロー ルルームの設置調整費をすべて含んで合計で 20 万ドルを下回った。カミ カゼは強力で最高潮の戦闘シーンを紹介しているが、そこでは乗組員が 互いに生き残るために身を寄せ合ったり、船を太平洋最大の戦闘の中で 艦隊にとどめようとする姿が描かれている。最後は、エンタテインメントや 動きのあるマルチメディアディスプレイにはかなり不向きな現場に、成功と いえるシステムを導入した現場になったのだ。 調整室に収められた BIAMP の AudiaFLEX と パソコンなどさまざまな機材
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