ロータスがあるじゃないか。

。
か
い
な
ゃ
じ
る
あ
ロータスが
スポーツカーといえば、どんなクルマが思い浮かびますか?
フェラーリやポルシェ、ランボルギーニ……。
なるほど。でも、そんなスーパーカーたちに勝るとも劣らない
ライトウェイトスポーツがあるのを忘れていませんか?
Text:吉田 匠 Photo:五條伴好
LOTUS ELISE S
062
LOTUS EUROPA S LX
063
LOTUS ELISE S
若
064
かりしコリン・チャップマンがロンドンの
コックスタイルのシャシーに FRP ボディ、その
たエンジンを積むモデルが加わった。今回、箱
北の外れに興したバックヤード工房の
2 座コクピットの後方にローバー K シリーズ 4
根に連れ出したのは最もスタンダードなエリー
ロータスが、企業としてのスタートを切ったのは
気筒を横置きした新世代の小型ミドエンジンス
ゼ S で、トヨタ DOHC4 気筒 VVT =可変バ
1952 年のことだった。時期的にちょっと出遅
ポーツカーは、初期モデルでは車重 700kg を
ルブタイミング 4 気筒は排気量 1794cc から
れてはいるが、1947 年にマラネロでその名を
切るという軽さで、60 年代初頭にエランが出
136ps / 6200rpm と 17.6mkg / 4200rpm
掲げたフェラーリや、1948 年に疎開先のグミュ
現したときのようにエンスージアストの心を捉え
を発生、5 段 MT を介して後輪を駆動する。
ントで初めてのスポーツカーを生み出したポル
た。しかもこのエリーゼ、ドライビングしても猛
車重は今や 860kg に増えているが、それで
シェと並んで、ロータスが戦後生まれのスポー
烈に愉しいクルマに仕上がっていたから、真の
も今日の 1.8R ロードカーとしては、ケイターハ
ツカーの雄のひとつなのはいうまでもない。
ライトウェイトスポーツの出現を待ち望んでいた
ム・スーパーセヴンを除いて、世界でも最も軽
その頃、それこそ無数に存在したイギリスの
スポーツカー好きをすぐさま虜にした。
いクルマのひとつなのは間違いない。したがっ
バックヤードビルダーのなかでロータスが一頭
そのエリーゼは 2000 年になると、シリーズ
て、エンジンは比較的マイルドでも、0-100km/
地を抜く発展を遂げ、イギリス国内だけでなく世
2 と呼ばれる新型にモデルチェンジする。この
界的に名を轟かすスポーツカーブランドに発展
シリーズ 2、基本構造やシャシーのディメンショ
していったのは、
チャップマンが陣頭指揮を執っ
ンはシリーズ1、つまり初期型と変わらなかった
て生み出した製品が、伝統的な英国風味に頼
が、ボディはスタイリングが一新されると同時に、
ることのない、新進気鋭の精神に満ちた前衛
サイズも若干大型化された。やがてパワーユ
的なクルマたちだったのが大きいと思う。
ニットも、供給が断たれることになるローバー K
やがて F1 の常勝メンバーにまで登り詰めた
シリーズから、トヨタ製の 1.8R DOHC16 バル
ロータスだが、御大チャップマンが事故死する
ブ 4 気筒に替わり、トランスミッションもトヨタ
などの不幸もあって、ある時期から商品力とブ
製に変更される。
ランドのパワーが低下していった。それが俄か
今日のエリーゼには、エリーゼ S、エリーゼ R
に新しい魅力を身につけて復活したのは 1995
の基本 2 モデルがあり、いずれもトヨタの NA
年、初代エリーゼが世に出たときのことだ。
エンジンを搭載しているが、最近そこにエキシー
アルミ押し出し材を駆使したバスタブ型モノ
ジなどと同様、スーパーチャージャーで過給し
065
タイトでスパルタン。虚飾など一切排したコクピットがその気にさせるロータス・エリーゼ S。軽量アルミ製シフトノブやバケット形状の ProBax クロスシートなど、スポーツアイテムで固めた
一方で、
エアコンや CD プレーヤー、
パワーウィンドーといった快適装備も忘れてはいないのが現代のロータスである。メーターパネルは 260km/h まで刻まれており、
座った瞬間、
ドライバー
を奮い立たせてくれる。ハードトップやトラクションコントロールなどはオプションで用意する。
h 加速 6.2 秒、最高速 205km/h という、充分
走り出す。1.8R トヨタ VVT ユニットは特に
軽快感は、他のクルマでは味わえぬものだ。ブ
に活発なパフォーマンスが実現されている。
パワフルでも官能的でもないが、低回転から
レーキの感触が少々頼りないのがロータスらし
FRP 製の軽いドアを開き、フレームの重要な
も素直に反応して直線的に吹け上がり、車重
いが、まぁそれも許容範囲だろう。
強度部材になっている幅広いサイドシルを跨い
900kg に満たないボディを充分な勢いで加速
というわけで、エリーゼに乗るといつもそうだ
でコクピットに収まると、そこには今日のロータ
させる。ただしこのエンジン、7000rpm に近づ
が、ポルシェともフェラーリとも違う魅力を持っ
ス独特の世界が広がっている。つまり、薄くて
くと途端にトルクカーブが下降し、それ以上回
たこの軽量スポーツカーが、僕は今回もまた欲
スパルタンなバケットシートに身体をあずけて、
りたがらなくなる。もしも気持ちよくトップエンド
しくなってしまったのだった。
ほぼ水平近くに脚を投げ出し、そこから腕を伸
まで回して走るのがお望みなら、8000rpm ま
ばしたところに小径のステアリングホイールが
で軽く回る 192ps の VVTL-i エンジンを積ん
ある、というコクピット。しかも目の前には、60
だ、エリーゼ R を手に入れるべきだろう。
年代のプロトタイプスポーツカーを思わせる、
その一方、ロータスの得意分野である乗り心
大きくラウンドしたウィンドシールドが広がってい
地とハンドリングに関しては、ほとんど不満がな
る。こんな場所でステアリングを握って、
「いっ
い。シリーズ1の初期型などと比べればサスペ
ちょういったるか!」という気分にならない男が
ンションは硬くなっているが、それでも現代のス
いるのだろうか……。
ポーツカーとしては乗り心地はソフトな部類だ
僕自身は簡単に「いっちょういったるか!」気
し、やや大きめのロールを示しながらヒラリヒラ
分になる人間だから、エンジンを叩き起こして
リと荷重移動してコーナーの連続を縫っていく
Specification
066
エンジン_直列 4 気筒 DOHC 1794cc 79.0 × 91.5mm 136ps / 6200rpm 17.6mkg / 4200rpm トランスミッション_ 5 段 MT ボディ_ 3800 ×
1720 × 1130mm W / B 2300mm 860kg タイア_(F)175/55R16(R)225/45R17 新車価格_ 467 万 2000 円
067
LOTUS EUROPA S LX
ヨ
068
ーロッパ S は 2006 年秋にラインナップ
はアルミのメインフレーム部分はエリーゼと変わら
に加わったロータスのニューモデルで、エ
ず、エンジンやリアサスペンションを支える軽量
リーゼのちょっと上をいくクルマを意図している。
スチール製サブフレームの部分で、30mm のホ
実際、ヨーロッパ S のボディ全長はちょうど
イールベース延長がなされている。
3.9m と、エリーゼ S より 115mm 長い。その
その主な理由は、パワーユニットにある。ヨー
延長分は主としてリアのオーバーハングに消費さ
ロッパ S のエンジンは、エリーゼと同じトヨタ
れ、エンジンコンパートメント後方に、さほど広く
製ではなく、GM ヨーロッパのオペル/ヴォク
はないが有効なラゲッジルームを確保するのに使
ソール用 2R DOHC16 バルブ 4 気 筒をター
われている。そのことからも分かるようにヨーロッ
ボで過給したユニットを搭載している。 排気量
パは、エリーゼがピュアスポーツであるのに対し
1998cc、200ps / 5400rpm、27.7mkg
て、GT 的なキャラクターを持つクルマとしてデ
/ 5000rpm というのがその基本的なパフォー
ザインされているのだ。
マンス系スペックで、トランスミッションは GM 系
ただしこのクルマのヨーロッパなるネーミング、
と思われる 6 段 MT が組み合わせられている。
60 年代のロータスを知る世代にはかなり違和感
そういったヘヴィなスペックにもかかわらず、
こともあって、コクピット全体が明るめだが明確
があるはずだ。60 年代の初代ロータス・ヨーロッ
車重はぎりぎり1tを切って、995kg という数値
な主張を持った色のブラウン系レザーに覆われ
パは断じてグラントゥーリズモではなく、まさしく
が公表されているのがロータスらしい。だから動
ている。さらに、クルミ材とユリノキ材を組み合
コーナーをミズスマシのように駆け抜けるための、
力性 能も 0-100km/h 加 速 5.8 秒、 最 高 速
わせた駒を思わせる形状のウッドシフトノブや、コ
小さなミドエンジンスーパースポーツといえるクル
242km/h と、エリーゼ S を大きく上回る。
ンソール周辺の小物収納用レザーバッグなど、
マだったからだ。
ヨーロッパ S がどういうキャラクターを与えられ
ラクシュリーなグラントゥーリズモ装備が随所に施
それはさておいて、今日のヨーロッパ S だが、
たクルマなのかは、コクピットに収まってみれば
されている。
全 長だけでなくホイールベースもエリーゼより
分かる。 豪華装備がほとんど見られないエリー
その豪華なコクピットに身体を沈めて走り出し
30mm 長くなって、2330mm という数字がス
ゼ S と違って、ヨーロッパ S のコクピットはフロ
てみると、エリーゼ S とベーシックには似ている
ペックに刻まれている。となると、エリーゼよりコ
アにちゃんとカーペットが張られているし、試乗し
ものの、明確に違う部分もあるのを感じる。エ
クピット部分が 30mm 長いのかと思いきや、実
たヨーロッパ S が LX という豪華グレードだった
リーゼとの違いが最も明確なのはエンジンであ
069
る。オペル系の 2R ターボは、とにかく軽く一
乗り心地とハンドリングだった。 乗り心地は車重
直線に回転を上げるトヨタユニットと違って、踏
の重い分だけヨーロッパの方が重量感がある印
み込んでから反応するまでに一瞬のタメというべ
象で、エリーゼも快適ではあるが、ヨーロッパ S
き間があり、それがあることによっていい意味で
の方がやや大人っぽい。その一方、ハンドリン
重量感のあるレスポンスを示す。ターボであるこ
グはエリーゼと比べると少々ダイレクト感が希薄
とがその大きな理由だと思うが、GM ユニット自
になっていて、ステアリングと路面とのあいだに
体の回転キャラクターにも若干そういった要素が
薄いオブラードが掛かっているかのような印象を
あるのかもしれない。
うける。と同時に、ターボのトルクの成せる業で、
したがってその加速感は、小まめなギアシフト
コーナーからの脱出に際してはフロントタイアが
を要求するタイプではなく、むしろ同一のギアで
苛められるようで、素のエリーゼではまず経験し
息の長い加速を愉しむのに向いている。 前に
ないプッシングアンダーステアを意識させられるこ
た。だからこいつで遠くまで走りに出掛けるのは
乗ったことのあるヨーロッパ S と比べると、今回
とがあった。
悪くない経験だろうが、それでもロータスがポル
の LX グレードの方が排気音が一段と勇ましく感
さらに、車重が重くなって動力性能も上がった
シェになるのはそう簡単ではないと思う。 一方、
じられたが、LX はメカニズム的には標準型と変
ことから、エリーゼ S 以上にブレーキングパワー
コーナーを繊細に味わうというロータス本来の愉
わりないというから、排気音が違うように思えた
の強化を望みたくなるのも事実だ。
しみの深さでいえば、ヨーロッパ S はエリーゼ S
理由は特定できなかった。
ヨーロッパ S はエリーゼ S と違って、たしかに
に適わない。それが、僕がエリーゼ S を採りた
もうひとつエリーゼ S と明らかに違ったのは、
GT 的な持ち味を感じさせるクルマに変身してい
いと思う最大の理由である。
本文中でも触れているが、エリーゼ S とは一転し、ラクシュリーなムードが溢れるヨーロッパ S LX のコクピット。天井からダッシュボード、シート、ステアリングコラムカバーに至るまでブラ
ウン系の高級レザーによって仕上げられている。ラゲッジルームはバッテリーカバー部分まで毛足の長いカーペットに覆われており、レザーの小物入れも専用のアイテムだ。GM 製エンジ
ンを積む LX は 6500rpm よりレッドゾーンが刻まれている。豪華な装備と引き換えに若干、重量が増加した。
Specification
070
エンジン_直列 4 気筒 DOHC インタークーラー付ターボ 1998cc 86.0 × 86.0mm 8.6:1 200ps / 5400rpm 27.7mkg / 5000rpm トランスミッショ
ン_ 6 段 MT ボディ_ 3920 × 1745 × 1130mm W / B 2330mm タイア_(F)175/55R17(R)225/45R17 新車価格_ 698 万 2500 円
071
ELISE & EXIGE 東京ロータスセンターのストック車両
問い合わせ先:東京ロータスセンター Tel.03-5754-0800
オプションカラーのナイトフォール
ブルーメタリックのボディをまとう04
年 式 のエリーゼ 1 1 1 R 。ナビ&
ETC/HKS製マフラー+エアクリ
ーナーが装着されている。走行2.4
万kmで468万円だ。ミドに搭載さ
れるトヨタ製の1.8R直4ユニットは
192ps/7800rpm、18.5mkg/
6 8 0 0 r p m 。車 重 8 8 0 k g 。全 長
3800×全幅1720×全高1130mm。
LOTUS Used Car
ロータス正規ディーラーの中古車事情
中古車選びで失敗しない最も確実な方法、それは正規ディーラーで探すことだ。
ロータスのようなリアルスポーツカーの場合、特にディーラーの看板が威力を増す。
∼購入プラン∼
∼購入プラン∼
'04 LOTUS ELISE 111R
'05 LOTUS EXIGE S SS
(走行2.4万km)
(走行1.8万km)
車両価格(消費税込み)
付属品価格
登録諸費用
ローン回数
実質年率
頭金
初回支払額
月々支払額
ボーナス月加算額
468万円
4万7250円
17万7310円
車両価格(消費税込み)
付属品価格
登録諸費用
60回
3.3%
100万4560円
5万5690円
5万3900円
10万円
ローン回数
実質年率
頭金
初回支払額
月々支払額
ボーナス月加算額
実質年率/自動車税は購入時期により異
なる場合があります。
ただし、認定中古車システムを持たない同社の情報量はそれほど多くない。
05年式のエキシージS SS。走行
1.8万kmで価格は628万円だ。S
SS(スーパースポーツ)
は、スーパ
ーチャージャー付きパワーユニット
とLSD+トラクションコントロール
が装着され、インテリアにもセット
オプションが付くトップグレード。こ
の車両はエクステリアもレーザー
ブルーというオプションカラーだ。
まさに豪華仕様の希少な1台。
628万円
4万7250円
22万960円
60回
3.3%
104万8210円
8万8350円
8万2800円
10万円
実質年率/自動車税は購入時期により異
なる場合があります。
で、担当者はインポーター直営の東京ロータスセンターを訪ね、ズバッ!と突っ込みを入れてみた。
072
ロータスにはメーカーやインポーターが基準
です」
と話してくれた。特にこのお店はインポー
ぶことはめったにないのである。
「オーナーがなか
半付近が目安。スーパーチャージャー搭
ディーラーで充分選べる状況にあるのだ。車両
を定めた認定中古車システムは用意されていな
ターの直営だから、販売する車両の程度や納
なか手放さないし、程度のいい個体が減ってい
載のSやセットオプションが付くSS(スー
の信頼性、納車整備、購入後のメインテナンス
い。ただし、下取り車両のなかから程度のいい
車整備には徹底的にこだわっているのだろう。
て1年に1台出てくるかどうかの状況」
という。ど
パースポーツ)
になるとさらに50∼150万
などを考えると、やはり正規ディーラーの保有す
円くらいは高くなる。
る車両が賢い選択となるだろう。
ものだけを厳選して中
さて、まずはロータス
うやら、より軽量なローバーエンジンのエリーゼ
古車の販売を行なって
の中核モデルを担うエ
はすでにコレクターズアイテムの領域に入ってい
大穴は意外にも登場して間もないヨ
いるディーラーもあるの
リーゼだ。正規ディー
るらしい。とはいうものの、
トヨタ製エンジン搭載
ーロッパだ。各ディーラーがデモカーと
だ。取材に協力してく
ラーの場合、トヨタ製
モデルも人気は非常に高く、瞬く間に売れてい
して使っていた車両がぼちぼち販売さ
れた東京ロータスセン
エンジンを搭載した04
く状況が続いている。エリーゼは、見つけたら即
れる時期なので、狙っている方は根気
ターには常時4台くらい
年以降の192馬力版・
決する覚悟が必要なのである。
強く探してみるといいだろう。走行数千
のストックがあるという。
111R/Rが圧倒的に
気になる相場は人気を反映して高値安定が
エキシージは、エリーゼよりさらにタマ数が少
同店のセールス担当者は「ロータスはサーキット
多い。追加設定された136馬力版のSはまだ少
続いているもようだ。400万円前後∼500万円
なくなる。同店にも常時1台か、タイミングによっ
を走っていた個体も少なくないですから、前オ
ないようだ。クルマ好きの方は、えっ、あれは?
あたりが目安になる。ベーシックモデルのSで
てはない場合もあるそうだ。ただし、エリーゼよ
今回の取材で、どのモデルもタマ数こそ少な
ーナーの乗り方や整備履歴を把握できるものし
と思われるだろう。そう、ローバーユニットを搭載
も、いまのところ400万円を切る車両はほとん
りは中古車の回転が遅いため、意外と見つけや
いものの、予約さえ入れておけば手に入れられ
か販売しません。いわゆる自社管理物件が中心
する96年∼03年モデルの111などが店頭に並
どないと思っていいだろう。
すいという側面もある。相場は450∼500万円前
ることがわかった。ロータスの中古車は、正規
Text:野田義彦/Photo:丸山博人
キロの車両が新車より概ね100万円くらいは安
く買えるはずだ。
東京ロータスセンターは大田区石川町の中原街道沿いにあ
るインポーターの直営店。新車/中古車の販売はもちろん、
エリーゼとヨーロッパのレンタカー事業も行なっている。
073