アメリカにおける障害者対策 (PDF:244KB/2pages)

特 集
バリアフリー 1 鉄道バリアフリーは今
アメリカにおける障害者対策
―ADA法に関して―
植田
浩三
(株)ケーエスデザイン
挙げられ、次に部品特性として靴ズリ、ステップ、ラン
プならびに握り棒他、備品の機能のみならず色、形状、
●ADA法(以下ADAと記す)の意義
表面仕上げについて述べられている。最後に運用特性と
近年、日本でも障害者の社会参画支援のためバリアフ
リー法の整備がなされ、ようやく皆が目を向け始めるよ
して標記や表示他インフォーメーションシステム等に対
する要求があり、それらが主たるものとなる。
うになってきた。ところがアメリカでは十数年前にもっ
当社がアメリカにおいて実績があるLRVに適用される
と充実した法律が誕生している。1990年7月26日に成
規定について、特に重要な項目を中心に紹介すると以下
立したAmericans with Disabilities Act、略称ADAすな
のようになる。
わち「障害をもつアメリカ人法」がそれである。
出入口は車いすでの乗降のために扉が開いた状態で完
日本の相当法律と異なり、ADAは社会・企業・政府が
全な開口幅が、最小32インチ(812.
8mm)以上必要である。
肌の色による人種差別をしてはならないとする「公民権
さらに乗降のプラットホームと車両とのギャップは新線
法(Civil Rights Act 1964年成立)
」が前例となってい
9mm)
、
における新造車両で段差にして±5/8インチ(15.
る。すなわちADAの基本的内容は、障害を理由に差別を
隙間3インチ(76.
2mm)を下回る必要がある。しかもそ
してはならないということで、堅苦しい言い方をすれば
の要求は空車時・定員乗車時ともに満足せねばならない。
「アメリカにおける経済・社会の主流に障害者を参加さ
新線/新造車の場合、これらの一番厳しい規定が適用さ
せるために、国の権限を付与することで差別を排除すべ
れ、数値的にやや緩和されるものの同項目の規定が既存
き実行可能な基準を作り出し、そして連邦政府がその基
線の場合や改造車両の場合等個別に定められている。
準を実施する中心的役割を果たすことを保障する」とい
う内容である。
出入口の靴ズリは全幅に渡り周囲と明暗のはっきりし
たコントラストを付けなければならない。これまでの当
ADAが規定する項目では、大きく分けて地上側と車両
社製では暗い色の敷物に対して銀色(アルミ地色)の靴ズ
側とに分類でき、地上側では駅舎内での移動のためのエ
リを採用しているが、一般に鉄道事業者は黄色の靴ズリ
レベーターや誘導案内他、建築物・設備に関わるもので
やステップノーズを好んでいるようである。
(図1)
あり、一方、車両側についてはバス・鉄道が主体である。
また、この出入口では、扉の開閉時の安全を確保する
鉄道に関しては通勤車両・高速車両・客車・AGT
(新交
意味から光と音、すなわち警告ランプとチャイムを同時
通)
・LRV
(軽量電車)等に細分化されて規定されている
に作動させることで開閉を乗客に知らせなければならな
上、それらすべてについて、さらに新車製造時の場合と
い。
現有車改造の場合とに対象を分けて詳細に定められてい
室内においても仕切開口幅は最小32インチ(812.
8mm)
る。ただし、サンフランシスコのケーブルカーのような
必要であるばかりか、車いすの可動する範囲は48インチ
文化財産はADAの改造を受けなくてよいとするような特
×30インチ(1219.
2mm×762mm)の障害のない空間
殊例、除外例もある。
がなければならない。そして障害者専用席および車いす
設置位置を、標記による明示とともに設ける必要がある。
ただしこれらは利用されていない時は一般乗客の使用が
●車両への適用
可能である。
(図2)
ADAにより規定される内容としては、まず空間的特性
として入口・通路の開口寸法や腰掛・仕切の位置関係が
近畿車輌技報 第11号 2004.11
出入台回りや補助が必要な場所には握り棒が必要で、
8〜
そのサイズは直径が1−1/4〜1−1/2インチ(31.
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38.
1mm)と定められている。
LRVにおける低床車両では、先に述べた関係寸法が、
直接路面のプラットホームと車両出入口に適用されてい
るが、高床車両(出入口にステップがある)では、別途詳
細に規定されたランプやスロープを含めた取扱いとな
る。当社の実績ではニュージャージー・サンタクララが
前者であり、ダラスが後者で、
「トラップドア」と呼ばれ
るランプを運転手背面の全出入口に搭載し、地上側のス
ロープとアクセスできるようになっている。
●実際の適用
ADA仕様書には先に述べた以外にいろいろな項目で細
図1 靴ズリ部
かく規定されているが、実際の適用に際しては100%順
守とは限らず客先仕様書との兼ね合いにより適用を見送
ることや、また場合によってさらに厳しく要求されるこ
ともある。
ADAは、アメリカにおける法律であるが、イギリス・
スウェーデンを模範にしたと言われており、オーストラ
リアやその他諸外国にてもそれぞれの国に適した法律が
成立・運用されており、各国はさらに改善を続けている
のが現状である。
最近では、ADAに対応するのに加えてより広い視点か
らすべての乗客にとって、安全で使いやすい車両とする
ことを目指すことから、車両のデザイン・設計にユニバ
ーサルデザインの理念を盛り込むようにも要求されるよ
うになってきた。
ADAはあくまでも障害者を差別しないということが、
コンセプトになっているのに対し、制定後15年が経過し
た現在では、それ以上の対応が要求されるようになって
きていると言えよう。
図2 はね上げシート
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