【アブストラクトの例】 ( 記載内容 ①動機や目的 → ②研究方法 → ③結果 → ④結論 → ⑤今後の展望 ) ※応募にあたっては、最新の書式に従って記述してください。 ◇化学 天然に存在する薄膜を発電装置の材料として活用する研究 【背景と目的】 タマネギの皮や卵殻の内皮等の身の回りに存在する薄膜は,その本体の生命活動を保持するために存在 し,機能を示している.私達はその素材に興味を持ち,薄膜の機能を別の用途として活用すると面白い現 象が起こると考えた.本研究では,燃料電池の電解質膜として天然薄膜を用いることで,燃料の添加により 発電する新素材の創製を目指した. 【研究方法】 (1)天然薄膜の発電デバイス化:身の回りの食品等から取り出した薄膜に両面白金コートしたものを作製した. これに燃料を添加した後,発電特性について評価を行った. (2)薄膜の性能改善:各薄膜に対して染色などの手法を用いて化学試薬を導入して(1)と同じ評価試験を行 い,比較検討を行った. 【結果】 (1)両面に白金をコートした各種天然薄膜に対してメタノール水溶液を添加すると発電が確認された. (2)薄膜への化学物質の添加により発電性能は明確に改善された.特に卵殻の内皮は金属塩化物の吸着 によって発電性能が最大で約50倍改善して,LEDの点灯などに使用できた. 【結論】 天然の薄膜への白金コート処理で,燃料電池の電解質膜に利用できる材料の開発に成功した.さらには, 比較的簡便な改良手段によって市販の電解質膜素材と遜色ないレベルに薄膜の性能を改善できた. 【今後の展望】 現在扱っている薄膜の改質に関する条件検討は途中段階であることから,今後も更なる改良が可能と考え ている. ◇微生物学 わ和輪 ~培地における麹菌のコロニー形成~ ①麹菌を寒天培地上で培養すると同心円状のコロニーパターンを形成することがある。この現象のメカニズ ム解明と成長コントロールを目指した。昨年は培養環境の条件(温度・光)の周期的な変化により輪が形成さ れることを発見した。今年は1.コロニーが円形に広がる仕組み 2.培養環境とコロニー形成の速さの関係性 3. 輪の数を決める要因 4.輪の形成に関与する遺伝子 の4点を明らかにすることを目標とした。 ②1. 1~3個の分生子を植菌したときの成長の様子を位相差顕微鏡で観察 2. コロニー成長の様子をインターバル撮影、半径の広がりをグラフ化 3. 温度・光条件ともに一定の環境下で培養後、温度・光サイクルをつけて培養 4. 3つの遺伝子破壊株を作成、輪を形成するか確認 ③1. 菌糸衝突部分で成長が加速した。 2. 輪を形成するたびに成長の速さが小さくなった。 3. 温度サイクルと輪の数は一致したが、光サイクルよりも輪の数は少なくなった。 4. ΔlreA株は光サイクル下で輪を形成しなかった。その他は輪を形成した。 ④1. 菌糸衝突の境界で菌糸形成が促進されることでコロニーは円形に近づく。 2. 環境変化が起こるとコロニーの成長スピードが変化する。 3. 酵素活性の低い温度では基底菌糸の形成が抑制されコロニーの広がりは遅くなる。 4. lreA遺伝子は光条件の変化による輪の形成に関与している。 ⑤遺伝学的な解析を更に進め、環境応答遺伝子を明らかにしたい。 ◇物理学・天文学 静岡県磐田市堂山古墳の鞆形埴輪は古代の天球儀か? ①動機・目的 静岡県磐田市堂山古墳で発見された5世紀の鞆形埴輪は,考古学を研究している林浩司氏によると簡易 天体観測装置である可能性を指摘している.そこで,鞆形埴輪が本当に簡易天体観測装置であるのか,も しそうであるとすれば,どんな証拠があるのか,について天文学の観点から検証を行った. ②研究方法 磐田市埋蔵文化財センターに保管展示されている鞆形埴輪の実物や発掘報告書の実測図を参考に,埴 輪の表面に描かれている模様や線が5世紀の天体の位置や方向と一致するかどうかを天球儀や星図,天 体シミュレーションソフト,模型実験と照合させて検証した. ③結果 鞆形埴輪は鞆の本来の形状や大きさとは著しく異なり,下部には台座がつけられている.また,埴輪の下 部に描かれている四角の模様が片面で12個あることから,二十四節気を示している.鞆形埴輪に描かれて いる二重線の延長線方向が磐田市の北極星の高度や夏至の日,冬至の日の太陽の南中高度と一致する. 鞆形埴輪に描かれている5つの丸い点とオリオン座の5つの恒星が作る角度や辺の比がほぼ一致する. ④結論 静岡県磐田市堂山古墳で発掘された鞆形埴輪は,古墳の埋葬者を弔う副葬品であると同時に,太陽や 星の位置を測定できる古代の天球儀として使われていた. ⑤今後の展望 他の古墳の鞆形埴輪についても同様な手法で検証する.さらに,この研究で確立した新しい手法を用い て考古学と天文学を結びつけ,古天文学に貢献したい. ◇機械工学 ロータリーエンコーダを用いたステッピングモーターの省電力制御 ステッピングモーターは,プリンタやエアコンに使用され,オフィスや家庭において不可欠な存在である。 ステッピングモーターは,位置決めが容易なステップ動作を得意とするが,大きい消費電力が欠点とされ, その解決が課題になっている。昨年の研究で,ロータリーエンコーダを用いた位相比較制御が,回転状況 に応じ電力を遮断する性質に気づいた。今回,この仕組みをステッピングモーターに応用し,省電力化を実 現する新しい制御方法を考案した。本方式により,簡単な手法でステッピングモーターの課題を解決したい。 実際に装置を製作し,従来方式と併せて測定を行った。その結果,従来方式は負荷の大小や回転停止 に関係なく消費電力は常にほぼ最大値であった。しかし本方式は,回転時において負荷の大小に応じ励 磁時間を制御し43%,停止時において外力の有無により励磁の入り切りを制御し最大78%の消費電力の 削減を実現した。 本方式は負荷に見合った電力を供給する理想的なシステムであることがわかった。既に省電力を謳う製品 もあるが,主にマイクロプロセッサを使用する製品で複雑かつ高価である。本方式は従来の標準的な方式 にロータリーエンコーダを追加するだけで構成でき,簡単かつ安価に省電力化を実現できる画期的な方法 である。今後,ステッピングモーターは3Dプリンタの普及によりさらなる市場拡大が期待されている。本方式 の普及により,地球温暖化防止に大きく貢献したい。 ◇環境工学 水噴流による浮遊物回収装置「Dream Strider」の製作 ①動機や目的 私たちの先輩が,「水面下から空中に向かって水噴流を発射すると,水噴流が水面の水を巻き込み,水面 の水を輸送する」現象を発見し,この現象を応用すると水面に漂う浮遊物を回収できることを示唆していた。 現在,海の環境問題に関わって,「プラスチックスープ」と呼ばれるマイクロプラスチックの拡散が問題となっ ている。実際に,瀬戸内海の海岸に行くと,プラスチック片等多くのゴミが散乱していた。そこで私たちは,水 噴流を使った単純な仕組みで水面の浮遊物を回収する装置を製作し,実用化を目的とする。 ②研究方法 水噴流を水面下から発射後,水噴流を空中に設置した受水板に当てることで浮遊物を回収する装置を製 作する。装置製作にあたり基礎実験を行った後,実地テストを実施する。 ③結果 基礎実験の結果,水面の輸送される水量は,水噴流の直径,流速,発射口の水深に比例し,最適な直径 は5 mmであることが分かった。広島城のお堀や瀬戸内海海岸で4回実地テストを実施することができ,回収 量の最大値は1分間当たり3.2gであった。 ④結論 製作した装置で,小さな発泡スチロール片やマイクロプラスチック等のゴミ回収に成功し,実用化へのめど が立った。 ⑤今後の展望 水噴流の発射角度を小さくすると回収量が増加することが分かった。今後,装置の改良を行い,全世界で 「Dream Strider」を稼働させ,1日も早く美しい海を取り戻せる日が来るよう研究を発展させたい。 ◇環境工学 硝酸イオン電池による発電を用いた水質浄化 ① 背景と目的 河川や湖沼へ断続的に流入する低濃度の硝酸イオン(NO₃⁻)を持続的に除去できる方法の開発。 ② 研究方法 水中でNO₃⁻を還元する触媒とアンモニウムイオン(NH₄⁺)を酸化する触媒を担持した電極を作製することに よって、NO₃⁻を燃料にした発電によってNO₃⁻の除去できる画期的な「硝酸イオン電池」を開発する。 ③ 結果 グラファイト状の窒化炭素(g-C₃N₄)を担持した炭素繊維を80℃のNaOH溶液で洗浄して作製した電極を正 極、硝酸鉄溶液のpHを5にして活性炭に鉄イオンを吸着させた後、600℃で加熱して酸化鉄の微粒子を担 持した電極を負極とし、NO₃⁻を含み、NH₄⁺を含まない試供水に入れると、NO₃⁻を燃料として発電すると共に NO₃⁻を除去できることを発見した。 ④ 結論 NO₃⁻は正極のg-C₃N₄によって、一部はN₂に還元されて水中から除去され、一部はNH₄⁺に還元されて水中に 残る。水中に残存したNH₄⁺は負極の触媒によってN2に変換されて水中から除去される。 ⑤ 今後の展望 「硝酸イオン電池」が成立する原理の詳細と条件を明確にする。
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