10Be 濃度の測定を行い,イベント層の 堆積速度を求める.

【派遣支援期間中の研究計画】図表を含めてもよいので、わかりやすく記述してください。2ページ以内で記述して下さい。
(1)研究目的・内容
①研究目的、研究方法、研究内容についてわかりやすく記述して下さい。
②どのような研究で、何を、どこまで明らかにしようとするのか記述して下さい。
1-1. 研究目的
ハドソン湾セクターでの氷床崩壊による DO サイクルへの影響については多くの研究がなされてきた
が,北極セクターの氷床崩壊による影響は理解されておらず,氷期の急激な気候変動と氷山崩壊の関係
は不明確である.北極海での気候変動と全球の気候変動の関連を明らかにするためには,北極海周辺域
での氷床崩壊について理解する必要がある.これまで申請者の研究により,D 層のうち1層は HE に対
比されることが分かったが,他の D 層が HE 層に対比されるのかどうかは現段階の年代モデルの精度が
低く明らかではない.また同様に K 層の堆積時期がヤンガードリアス期の開始時期に一致するかどうか
は現状では明らかではない.もし両時期が一致したならば,北極経由の淡水供給が北大西洋深層水に与
えた影響を議論でき,意義が大きい.D2b 層以外の D 層も HE 層に対比され,かつその堆積直後の亜間
氷期の期間が他の亜間氷期よりも長いとしたら,ローレンタイド氷床の北極・ハドソン両湾セクターが
同時に崩壊したとき,亜間氷期の期間が長くなるという仮説の証拠になりうる.また,K 層の堆積時期
がヤンガードリアス期の開始時期に一致したならば,北極経由の淡水供給が北大西洋子午面循環に与え
た可能性を検討できる.
これを明らかにするためには,北極海のコアの放射性炭素年代を測定し,年代モデルの精度を上げる
こと,氷山の融解に伴う塩分低下があったことを確認することが必要である.また,D 層および K 層の
堆積速度が速いことを示して,イベント層であることを確認し,IRD 供給源をもっと狭い範囲に特定し
ていく必要がある.
そこで本研究では,2005 年に行われた HOTRAX’05 航海(Darby et al., 2009)で採取された北極海の
堆積物コアの年代測定と分析を行い,氷山流出イベント及び氷河湖崩壊イベントを検出し,最終氷期に
おける北極海周辺での氷床崩壊のタイミング及び規模を復元する.氷床崩壊イベントを復元することに
より,氷期の北極海側での氷床崩壊による淡水流入や氷床の標高変化が DO サイクルや全球の気候変動
に与える影響を明らかとする.
1-2. 研究方法
試料には,アメリカの砕氷船 Healy とスウェーデンの砕氷船 Oden により 2009 年に行われた
HOTRAX’05 航海によって北極海から採取された採取された堆積物コアや北極海周辺域から採取された
表層堆積物及び土壌堆積物を用いる.
堆積物の供給源の特定のために IRD 含有量及び鉱物組成などを分析する.有孔虫が含まれる堆積物コ
アを選び出し,浮遊性有孔虫による放射性炭素年代測定を行い,堆積物コアの年代モデルを作成し,周
辺の堆積物コアにその年代モデルを適用させる.また,浮遊性有孔虫の安定酸素同位体比を測定し,堆
積物コアの採取地点に淡水流入の影響があったのか調べる.10Be 濃度の測定を行い,イベント層の
堆積速度を求める.
1-3. 研究内容 何をどこまで明らかにするか
北極海のコアの放射性炭素年代を測定し,年代モデルの精度を上げ,D2b 層以外の D 層も HE 層に対
比可能かどうか,また K 層の堆積時期がヤンガードリアス期の開始時期に一致するかどうかを検討する.
D 層とその堆積直後の亜間氷期の期間を他の亜間氷期と比較し,ローレンタイド氷床の北極・ハドソン
両湾セクターが同時に崩壊したとき,亜間氷期の期間が長くなるという仮説の妥当性を検討する.さら
に,有孔虫の δ18O から塩分低下があったかどうかを検討する.D 層および K 層の堆積速度が速いこと
を示し,イベント層であることを確認する.北極海周辺域の表層堆積物及び土壌堆積物の組成から,北
極海海底堆積物の供給源となる地域に特有の堆積物組成を明らかとする.その結果を,堆積物コアの氷
床崩壊イベントによる堆積物の組成と比較することにより,IRD の供給源をもっと狭い範囲に特定する.
これらにもとづき北極経由の淡水供給が北大西洋子午面循環に与えた可能性を評価する.
(2)研究の特色・独創的な点
① これまでの先行研究等があれば、それらと比較して、本研究の特色、着眼点、独創的な点を記述して下さい。
② 国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ、意義を記述して下さい。
1. 先行研究との比較
氷期の北半球氷床の崩壊に関して,ハドソン湾からの氷山流出(HE)については研究が進んでいる
が,北極海側への氷山流出についての研究は非常に少ない.本研究では,北極海に淡水を大量にもたら
す氷山流出と氷河湖崩壊の起きた地域と時期を復元することにより,HEにだけ着目した場合には理解
できなかった氷山流出とDO温暖化の関係を検討する.
2. 国内外における位置づけ・意義
北極海の堆積物は有孔虫が少なく,年代モデルの作成が困難であると言われてきた.そのため,年代
モデルが確立している他地域の気候変動との対比が難しく,氷期の激しい気候変動において,氷床の崩
壊や太平洋子午面循環がどのような役割を果たしたのかが明らかとなっていない.しかし,私の先行研
究により水深1000 m以深のコアには有孔虫の保存の良いものがあることが明らかになった.そのような
地点でコアを採取することにより研究を進めることができる.