店舗の POS レジから本社の顧客情報が漏えい

◇MYNOSMYNOS-201
2014 年 4 月号月号-
店舗の POS レジから本社の顧客情報が漏えい
~ 米国ターゲット社の被害に見る POS レジの危険性 ~
2013 年の暮れ、米国大手量販店が店舗の POS 端末からハッカーが侵入、本社サーバーから
クレジットカード情報などの顧客情報約 4000 万件が漏えいするという、ほぼ史上最悪レベルの
事件が発生しました。
デパートやスーパー、量販店などで当たり前に使われている POS レジですが、店舗の POS レ
ジのセキュリティを強化しないと、日本でも同様の手口による危険があります。
■店舗の POS 端末がマルウェアに感染して本社サーバーへ
被害に遭ったのは、米国ディスカウントストア大手・ターゲット社です。クリスマ
ス商戦でにぎわう 2013 年 11 月 27 日から 12 月 15 日までに、ショッピング客が
米国内の店舗で利用した、クレジットカードやデビットカード情報 4000 万件、
および 7000 万人分の顧客の氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個
人情報も流出しました。
国内店舗の POS 端末が、マルウェア(ウイルスを含む悪意のプログラム)に感
染し、本社サーバーまで侵入されたというものです。
なぜ店舗の POS 端末から、マルウェアが侵入したのか、これまで捜査当局に
より判明した原因は、店舗の POS レジスターに、マルウェアがインストールされ
ていたということです。米国国土安全保障省系の情報セキュリティ対策組織
(US-CERT)によると、POS システムへマルウェアを仕掛ける手口は、米国内で
はすでに横行しており、注意が呼びかけられています。
■日本国内のデパート等も要注意
ハッカーの単独犯行によって、店舗の POS レジに細工がされたのか、それと
も店舗の従業員も共犯となって、レジにインストールできるようにしたのかは、
捜査中です。しかし日本国内でもデパート、スーパー、量販店など、多くの店
舗を展開して、クレジットカードによる代金決済を取り扱っている企業にとって
は、同様の手口で POS レジからマルウェアに侵入される危険に、備えるべきで
しょう。要点を次にまとめます。
■POS レジはパソコンと同じくコンピューターのひとつ
POS レジというものは、Windows OS 上でアプリケーションを動作させるなど、
パソコンとほぼ同じ機能を備えています。処理ソフトウェアのバージョンアップ
に対応できるように、パソコンと同じく USB メモリーを接続して、更新プログラム
をインストールすることができます。逆にいうと、USB メモリーなどの外部デバイ
スで、マルウェアが侵入する可能性もあるのです。今後は Windows ベースでな
く、よりセキュアな OS を使用する POS 機器も必要と思われます。
POS レジには、インターネットや専用回線を使って、本社のシステム部門から、
更新プログラムを送り込むことができるものがあります。このように POS システム
というものは、ネットワーク上に多くのパソコンが連結されているのと、同じであ
ることを、経営陣は認識しておく必要があります。
■インターネット接続やメールの送受信もできる POS レジ
POS システムは、コンピューターや端末に接続されていて、インターネットや
メールにアクセスできる機能を備えているものもあります。各店舗の POS レジが、
マルウェアの仕込まれた電子メールを取り込んだり、不正な Web サイトにアク
セスしたりして、マルウェアが入り込んでしまう可能性があります。
したがって、ネットワークシステムに接続するパソコンと同じく、最新のウイル
スチェックを定期的に行ったり、マルウェアによって POS アプリケーションが所
定外の動作をしていないかを、監視したりする対策が必要です。
そのためにも、店舗へ導入する POS レジやカード決済端末は、国際セキュリ
ティ基準の PA-DSS に準拠済みの製品であることが求められます。
■カード情報は POS レジに保存されていないはずだが
POS システム内に入り込んだマルウェアの中には、クレジットカードの磁気ス
トライプに記録された情報を抽出して、外部へ送信してしまう機能を持つもの
があります。
多くの POS レジは、クレジットカードの磁気情報を本体に保存しない仕組み
になっているにもかかわらず、買い物客のカードが読み取り装置に通され、メ
モリー上にある瞬間に、その情報をハッカー組織へ送信してしまう能力を備え
ているマルウェアが、開発されています。
そのためにも、POS レジやカード決済端末の、カード情報読み取り装置は、
国際セキュリティ基準の PIN PTS に準拠済みの機器であることが求められま
す。
■本社からのリモートによるバージョンアップは要注意
POS システムに対して、デフォルト(初期設定)のログイン情報を使って、リモ
ートでマルウェアを送り込む手口があります。したがってデフォルトのパスワー
ドを複雑なパスワードに変更することや、許可された従業員同士でも共通のパ
スワードを使用しないこと、POS ソフトウェアを確実にアップデートしたり、最新
のパッチを当てたりすること、ファイアウォールやウイルス対策ソフトを使用する
こと、POS システムや端末へのアクセスを確実に制限することなどが必要で
す。
また、無線 LAN から入り込む手口も考えられるので、会社が承認していない
無線アクセスポイントが存在していないかの検査も、定期的に必要です。リモ
ートアクセスは管理者にとって便利なのですが、リスクがあるので、無効にして
しまうことも検討が必要でしょう。
■データを暗号化してもメモリー情報から盗まれる
本社サーバーのデータベースで保管する顧客情報やクレジットカード情報
には、暗号化を施すのが常識です。万一データが漏えいしても、暗号化され
ていればハッカーは読み出すことができないからです。
ところがターゲット社のケースでは、実害が発生しています。前述のようにそ
のマルウェアは、POS 上のメモリーに一時的に残る、暗号化される前の情報を
取り込んでいたようです。
したがって、カード情報は読み取りリーダーを通した時点で暗号化してカギ
をかけ、決済センターに送る仕組みになっている必要があります。POS をその
ようなデバイスに変更することができれば、セキュリティはかなり向上すると考え
られます。
また、データベースを暗号化していれば良いわけではなく、アクセスコントロ
ールも含めた対策が必要です。それは POS 機器やツールだけの問題ではな
く、カードデータの扱いそのものを含めた、組織的なポリシー整備、カードを取
り扱う従業者への人的対策など、総合的にセキュリティを整えることが大切で
す。
■カード決済は POS レジと別の端末が安全との考えも
POS レジスターで売り上げ品目から現金収受、そしてクレジットカード決済ま
で、すべてを1台でワンストップ処理のできる仕組みは、確かに便利なのです
が、その代わりにパソコンの能力を備えていることが要求され、リモートや USB
で設定する機能が加わり、マルウェアが侵入する余地ができてしまう可能性が
あります。
そのリスク分散として、現金管理と売上品目の管理は POS レジに担当させる
一方、クレジットカード決済は単独の端末装置に任せるほうが、安全を図りや
すいという考え方もあります。
いずれにしてもクレジットカード・セキュリティ基準の PCI DSS に沿って、店舗
および本社システムをチェックし、総合的なセキュリティ体制を確立することが
肝要でしょう。
解説:ソリューション営業本部 森 大吾
資料:日本カード情報セキュリティ協議会(JCDSC)