通訳の脳は、どうなっている?

通訳の脳は、どうなっている?
−英語初心者が、英語を話す反応を早くするためのヒント−
メルマガ:英語脳を作る毎日 30 秒の基礎トレーニング!
発行人:ゴマル
ミホ
はじめに
商談通訳の仕事に行った先で、たびたび聞かれたことがあります。
「脳みそ、どうなってるんですか?」
また、英語とスペイン語を話せるというと
「頭の中、どうなってるんですか?」と言われます。
考えてみれば「通訳テクニック」などについて書かれた書籍は、通訳を志す
人が読むもので、普段から語学に携わっていない一般の方々から見れば、不思
議なことなのでしょう。そこで、通訳の末席をけがす私が「通訳の脳みそ」に
ついて語るのはおこがましいと思いつつも、皆さんの素朴な疑問にお答えし、
そこから語学学習へのヒントを見つけていただければと、この無料レポートを
作成することにしました。
ここでは、通訳の現場や専門的なテクニックについてではなく、自分の脳み
その動きを客観的に見つめ、わかりやすくご説明したいと思います。
1.
英語で考えるとは?
2.
通訳の脳の中で行われている言語処理
3.
脳は、しっかりと安定した出力口を探す
4.
2つの外国語を同時に学習して気づいたこと
5.
幼稚園から5年間、絵カードや絵辞典で英語を教えた生徒達
6.
スムーズに英語を話せるようになるために、背伸びはしなくてもいい
7.
英単語・英文→イメージ、イメージ→英単語・英文をスムーズに行う
ための訓練が大切
8.
英単語、英語の表現、こうやって覚えてみませんか?
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1.英語で考えるとは?
「英語しゃべってる時って、英語で考えているんですか?」
これも、よく聞かれる質問です。
では、皆さんに質問です。
「日本語を話している時は、日本語で考えていますか?」
考え事をしながら、独り言をつぶやくってことありますね。その時は、当然、
日本語でつぶやいていると思います。ちょっと複雑なこと、難しいことを考え
ている時、悩んでいる時、独り言を言わなくとも、確かに頭の中で自分に日本
語で問いかけていることはあります。
でも、日常のもっと単純な会話の場合、いちいち頭の中で、日本語で考えて
いるでしょうか。例えば、夜空を見上げて星を見つけて、一緒にいる人に思わ
ず話しかけたとします。
「わぁ。あの星、見て!」
こういう場合、頭の中で「あ、星が見える。この人に『見てごらん』って言っ
てみよう。
」なんて考えてから言いますか?そんなこと、考える前に、とっさに
口が動いて話しかけているはずです。この時の反応はこんな感じじゃないでし
ょうか。
「あの星を見て!」
日本語を話す時
星を見つけて「きれい」と思った瞬間に、日本語が出るわけです。自分の頭
の中にあることを表現するチャンネルが日本語だけの場合、当然、日本語で発
話されるわけです。
また、こう話しかけられた側の反応はこんな感じです。
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「あの星を見て!」
星を見るという
行動を起こす。
日本語を聞く時
頭の中で、
「
『星を見ろ』って言ったな。じゃあ、空を見てみよう。
」なんて考
えないで、とっさに夜空を見上げているはずです。これは、日本語の音を聞き
取り、その意味を素早くイメージ化できる、字面だけをなぞったような理解の
仕方ではなく、真に理解できているからです。
字面だけをなぞったような理解の仕方というのは、例えば、株式のことを全
然わかっていない人が、株式のニュースを聞いたときです。
「○○株は、寄り付きの安値
???
から回復し...」
よく知らないテーマの
話を聞くとき
日本語で話しているのは確かだし、株の話をしているのは分かる。でも、な
んとなく分かったような気になっているけどが、結局のところ、何も分かって
いない。そんな状態です。
では、英語初心者が、英語で話しかけられた場合、どういう反応の仕方にな
るでしょうか。
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“Look at that star!”
「あの星を見て!」
星を見るという
英語初心者が
行動を起こす。
英語を聞く時
聞いた英語の文を頭の中でいったん日本語にし、日本語の文をしっかり理解
できてから、行動を起こします。
また、英語で話しかける時は、次のようになるでしょう。
“Look at that star!”
「あの星を見て!」
英語初心者が
英語を聞く時
「あ、綺麗な星が見える。
『見て』は Look で、あの星は that star だな。
」とい
う感じで、日本語で考えてから発話しています。こういう風に、いちいち日本
語を経由していると話しかけられたことを理解する場合にも、自分から発話す
る場合にも、反応が遅くなってしまいます。
一方、英語上級者の場合は、こうです。
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“Look at that star!”
星を見るという
英語上級者が
行動を起こす。
英語を聞く時
日本語で話す時に、
「
『星を見ろ』って言ったな。じゃあ、上を見てみよう。
」
なんて考えないで、とっさに夜空を見上げているのと同じで、英文から直接イ
メージ化し、理解して反応します。
また、英文を発話する場合は、こうなります。
“Look at that star!”
英語上級者が
英語を聞く時
いったん日本語にすることなく、いきなり英文が出てきています。確かに、
日本語で考えて話していません。でも、英語で考えているかと言えば、そんな
こともありません。日本語で話す時に、前もって頭の中で「あ、星が見える。
この人に『見てごらん』って言ってみよう。
」なんて考えてから発話していない
のと同じで、英語で考えているわけではないのです。ただ、英語で出力されて
いるのです。
つまり、英語で話す時には、「頭の中に浮かんでいるアイディア、イメージ、
気持ちなどを英語のチャンネルを使って出力し、会話の相手の発する言葉を、
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英語のチャンネルで入力している。
」という感じです。
もっとも、頭を英語モードにして考えている時、頭の中で英文を作っている
ことはあります。独り言というのは、発話されている状態のことですが、声に
は出ていないけども、頭の中、あるいは心の中で考えをめぐらし、つぶやいて
いるような時、
「英語で考えている」状態にはなります。でも、これも要するに
声に出さない形で頭の中でアウトプットをしている状態ではないでしょうか。
自分の考えを確認するため、論理的に考えをまとめるために行われることです
が、これも、抽象的なアイディアを具体的にアウトプットするために言語が使
われているという状況であると思います。
2.通訳の脳の中で行われている言語処理
では、日本語から英語に訳す場合は、どういう反応になるでしょうか。
「あの星を見て!」
“Look at that star!”
日本語から英語に
通訳する時
日本語を聞いた時の反応は、日本語を話している場合と同じです。日本語の
文章がインプットされたら、それがイメージ化され、深いレベルで理解されま
す。そして、訳文をアウトプットする時は、英語を話している時と同じです。
頭の中にある考え、といっても、この場合は自分自身の考えではなく、入力さ
れた日本語の文からイメージされたもの、理解したものを、英文で出力してい
るわけです。
また、英語から日本語に通訳する場合は、こうなります。
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“Look at that star!”
「あの星を見て!」
英語から日本語に
通訳する時
英文を聞いた時は、英語で話している時と同様、英文から直接イメージ化さ
れます。そして、理解した情報が日本語でアウトプットされます。つまり、入
力時には英語のチャンネルが使われ、出力時には日本語のチャンネルが使われ
るという感じです。
電子辞書や翻訳ソフトを使用するときは、どうでしょうか。star とインプッ
トして、「訳」のキーを押すと「星」と出力してくれます。でも、電子辞書は、
星がどんなものか理解なんかしていません。
「イメージ化する=意味をしっかり
理解する」というプロセスがないわけです。
“Look at that star!”
「あの星を見て!」
電子辞書・翻訳ソフトの場合
通訳する時は
こうではいけません
外から見れば、先ほどのプロセスとは何ら変わりがないように見えます。で
も、人間である通訳の頭の中では、内容の理解、イメージ化というプロセスが
あります。言葉を入れ替えているだけではないのです。
通訳の仕事の前には、実際に使われるであろう単語を予想して単語リストを
作成し、覚えるという作業が行われます。でも、文章の内容をよく理解しない
まま、この単語リストまたは辞書にあるような日本語→英語、英語→日本語の
置き換えを行っていくという訳し方をするとどうなるでしょうか。
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例えば、先ほどの株のニュースを聞いた場合を取り上げます。
「○○株は、寄り付きの安値
“xxx shares recovered from
から回復し...」
opening lows .....”
単語リスト通りに訳せる場合
英文の中に知っている単語、準備して覚えておいた単語だけが出てきている間
はいいです。しかし、馴染みのない単語が現れた場合、きちんと対応する訳語
を準備できていない単語が現れた場合、その単語の訳語を探す作業に力がとら
れ、スムーズに訳し続けることができなくなってしまいます。
寄り付き?
「○○株は、寄り付きの安値から
安値?
回復し...」
............
未知の単語にこだわってしま
うと訳出がストップする
一方、意味を理解することに重点をおいて英文を聞いていた場合、未知の単
語が出てきて、それにぴったりと対応する専門用語を知らなかったとしても、
全体の意味から単語の意味を推定でき、少なくとも類義語を使って全体の意味
の流れを伝えることができるのです。
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3.脳は、しっかりと安定した出力口を探す
上のタイトルだけでは、何を言おうとしているか分かりにくいですよね?で
も、例を挙げてご説明しますのでお付き合いください。これは、自分の娘の言
語発達の過程で見られた現象です。
夫がスペイン語のネイティブである我が家では、娘を日本語とスペイン語の
二ヶ国語で育てています。娘が1、2歳の頃、おもしろい現象が見られました。
夫の実家に滞在中、隣人がニワトリを飼っていました。そこのお子さんがフ
ェリア(縁日のようなもの)で貰ってきたヒヨコが育ってニワトリになってい
たわけです。娘はニワトリに興味を示し、毎日のように眺めていました。その
横で義母がこう話しかけるのを聞きながら。
“Mira, hay están gallos.” ほらご覧、ガジョ(ニワトリ)がいるよ。
その後、日本に帰ってからも随分長い間、
「おばあちゃんの家にいたとき、gallo(ガジョ)を見たの...」
という感じで、ニワトリだけは gallo とスペイン語で言っていました。日本で日
常的にニワトリを目にすることはなかったし、絵本やテレビで「ニワトリ」と
いう言葉がインプットされていても、やはり約 1 ヶ月実物を見ながら、毎日繰
り返されたインプットの強さには敵わなかったのです。ニワトリのイメージ→
gallo というチャンネルの方が、ニワトリのイメージ→ニワトリというチャンネ
ルよりもしっかりとできあがっていたため、日本語を話していても、そこだけ
スペイン語が出てきてしまっていたようです。
にわとり
Gallo
スペイン語での意味づけの方が
“Gollo”
しっかり行われていたため
Gallo の方が出力され安かった
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4.2つの外国語を同時に学習して気づいたこと
学生時代は、スペイン語が専攻語学、英語は第二外国語でした。スペイン語
は一から始めたわけですから、当然、始めは英語の方が得意でした。でも、途
中から英語をお休みしてスペイン語に力を入れた時期もありました。その間、
2つの言語は平行してというよりは、追いつ追われつという感じで上達してい
きました。
英語の方が得意な時期、または英語に時間をより多くかけていた時期には、
当然、英語の方が強くなります。スペイン語を話していても、脳に隙を与えれ
ば、脳の中の英語辞書の検索を始めるのです。逆に、英語をお休みしてスペイ
ン語に力を入れていると、英語を話している時についついスペイン語がまざっ
てしまいます。また、先ほどの娘の例と同じように、ある単語がスペイン語の
本でたまたま出てきたために、スペイン語では知っていても英語では何という
か、知らない場合がありますし、その逆のパターンもあります。その時も、脳
は知っている方の単語を引っ張り出そうとしてきます。
でも、スペイン語会話に力を入れて、英語はサボっていた時期、たまたま英
語を話す機会があった際に私は驚きました。明らかに以前よりもスムーズに話
せるのです。難しい単語は忘れているのにも関わらず、頭の中で「○○って英
語で何っていうのかな」とつぶやくことなく、いきなり脳にある英語辞書の中
から、簡単な使える表現を検索し始めるという感覚でした。日本語を介せず、
直接インプットする、直接アウトプットするコツが掴めた瞬間だったと思いま
す。
英語では6年間、英語→日本語、日本語→英語という勉強をしていたのに比
べ、スペイン語はかなり早い時期から、日本語訳ではなくイラストを見てスペ
イン語の表現を言ってみるという練習をしていました。スペインで外国人向け
に作られているイラストが豊富なテキストを使用していたからです。これを繰
り返すうちに、日本語を介せずに外国語を発話するコツが掴めたのだと思いま
す。
5.幼稚園から5年間、絵カードや絵辞典で英語を教えた生徒達
幼稚園の年中組から5年間、英語を教えている子供達がいます。レッスンで
は、極力日本語訳を与えず、絵カードやジェスチャで意味を与えることに重点
を置いてきました。その結果、英語での話しかけをそのまま理解しています。
「子
供は耳がいいから」と言っても、ただ聞かせていればいいというのではありま
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せん。大事なのは、その英語の意味を表す絵などを見せ、しっかり意味づけを
させていくことです。そうでなければ、
「意味は分からないけど、口真似はでき
る」という状態になります。
たまに、私が英語で話しかけると「∼ってことやんな。
」と日本語で確認しま
す。でも、私からは日本語訳を与えていないわけですから、彼女達の頭の中で
は、
「英語→イメージ化・理解→日本語で確認」という作業が行われているので
す。
6.スムーズに英語を話せるようになるために、背伸びはしなくてもいい
英語でスムーズな会話を楽しみたい方、難しい単語や構文を覚えようと背伸
びをする必要はありません。まず、もう知っている簡単な単語、中学校で習っ
たような単語をしっかりインプットすることが先決です。知っている単語の数
が多くても、それが「えっと。その意味は○○だから...」とワンクッションおい
てやっと出てくるレベルの定着の仕方であれば、実際の会話では使えません。
貴方の口から英語が出てくるのを辛抱強く待っていてくれるのは、よっぽど
親切な人か英語クラスの講師だけなのです。もたもたしていると「この人は英
語が分からない人」と判断され、相手にされなくなることもあります。
だから、まずは、簡単な単語、表現がすっと出てくるようにする訓練を始め
てみませんか?いったんこの感覚を掴むことができれば、会話が楽になるはず
です。
7.英単語・英文→イメージ、イメージ→英単語・英文をスムーズに行うため
の訓練が大切
英単語を覚えるときに、
「英単語、日本語訳」と唱えて覚えるという方法があ
ります。例えば、
「abstract
抽象的
abstract
抽象的」という風に何度も繰
り返してつぶやいて覚えるわけです。私も受験勉強時代には、この覚え方をし
ていました。確かに、試験勉強にはこの覚え方は有効です。試験が日本語訳を
問うような形式のものである以上、すばやく対応する日本語訳を選べることが
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大事であり、この方法で覚えておけば、すっと口をついて(試験中に声をだし
てはダメですが)訳語がでてくるようになります。
また、通訳の際にも、固有名詞や定訳のある専門用語については、この方法
でしっかり訳語を叩き込んでおくことが重要になります。
でも、全ての単語を「英語→日本語」ができるレベルで止めていては、英語
を聞いたときの反応が遅くなってしまいます。この方法でも、英語のレベル全
般が上がるにつれて、すっと意味が頭に入ってくるようにはなりますが、初心
者レベルから「絵や写真→英語」
「英語→絵や写真」というインプットをしてい
けば、
「英語のまま理解する」
「英語でアウトプットする」コツがつかめるよう
になります。
8.英単語、英語の表現、こうやって覚えてみませんか?
(1)絵じてんを使う
本屋さんの児童英語のコーナーに売られている絵じてん。子供用にしておく
のはもったいない。日常会話に必要な単語が沢山のっています。絵じてんの良
いところは、日本語訳を介さないインプットができること。できれば CD 付き
のものがベターです。絵を目で追いながら、CD を聞き、真似をして言ってみる。
この「真似をする」は重要なポイントです。とりあえず、間違っていてもいい
から、自分なりに聞こえた通りに真似をする。これを繰り返すことで、口が滑
らかに動くようになり、真似をしようとしっかり聞くことで聞き取りの力もア
ップします。
(2)周りに見えるものを片っ端から英語で言ってみる
絵じてんで、ある程度の量のインプットができた方、知っている単語は結構
あるけれども話す時にすっと出てこないという方にお薦めの方法です。
自分の周りのものを順番に英語で言っていきます。主婦の方なら台所に立っ
ている時、会社員の方なら駅で電車を待っている時、誰かと待ち合わせをして
いる時でも構いません。途中ですっと英語がでてこない言葉があれば、それが
貴方の語彙に欠けている部分です。あとで辞書や参考書でチェックして、補っ
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ておきましょう。
(3)写真を使った英語メルマガで、練習してみませんか。
私は、
「英語脳を作る毎日 30 秒の基礎トレーニング!」という英語メルマガ
を配信しています。自分の学習体験と子供達に絵カードを使って英語を教えて
きた経験から、大人も、なるべく日本語訳を使わず、画像と一緒に英語をイン
プットする練習をすればいいのではないかと考えたからです。
毎日、短い英文を読んで、そのシーンを想像し、写真を見て確認する。英文
の意味が取れなかった時は、英文を読んで写真を見ることでインプットする。
毎日 30 秒の英語脳を作る訓練、試してみて下さい。
英語脳を作る毎日30秒の基礎トレーニング!
http://www.mag2.com/m/0000179992.html
ゴマル ミホ
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