東京支部ミニミニワークショップ参加レポート N.G.C. 勉強会 山下顕治(N.G.C. メンバー) 今回は、以前からこのページで紹介すると書いておりました勉強会の様子をご報告いたします。 きっかけ・・・ 知の方も多いと思います。私は、この機会に初めて知るこ そもそもことの発端は、6 月の定例会で、このページの 今まで知らなかったことがとてももったいなく、また汗 内容をどうするかなどを話し合っていたときの一言から始 顔の至りとはまさにこのこと。照明界のガリレオ先生、も まりました。N.G.C. コアメンバーのお一人、 (株)東日本 しくはドクター中松、それともバイキンマン?(失礼 !!)と 舞台の奥村知行さんが「それなら面白い人がいますよ、何 にかく、ご自身が作ったものを実際に見せていただき、そ でも自分で作ってしまうような人で……」と話してきまし の製作過程の苦労などをご披露いただきました。それにし た。もちろん、そんな人がいたら放っておく手はありませ ても今回のワークショップは中身が濃い、濃すぎました。 ん(というか、なぜ今まで放っておいたのでしょう?) やっぱり照明ってものは一生勉強ですよ(って、何事もそ それならこの場に呼んで、みんなでお勉強しましょう! うなんですけど) 。 ということで、トントン拍子に話が進んだ次第です。 凡人にも満たない私が、その真意やすごさをどれだけ紹 今回の主人公は茨城県にある(株)ジャストの吉崎 徹 介できるかわかりませんが、皆さんに興味を持ってもらえ 氏。実は既に CMS Editor をこの誌面で紹介させていただ ればと思います。 とができました。 きました。それに実用されている方も結構いるので、ご存 奥村氏(左)と吉崎氏(右) Journal of Lighting Designers & Engineers Association of Japan 35 舞台照明器具工作のすすめ 昨今の電子部品事情と舞台照明への応用 実際に作るかどうかはさておき、吉崎さんはこんな考え 自作のメモリー卓と自作の DMX512 インターフェース 方で機材を作っているということから始まりました。以下 を使い、こちらも自作でカラーミックス内蔵の灯体をコン は、レジュメとして配布された内容です。 トロール、というものを解説していただきました。 吉崎さんは「ただそれだけのこと」とご謙遜されていま した。もちろん私たちはユーザー側ですので、今更びっく ❶ 機材作りも照明作りの一環 りするものでもないのですが、それをメーカー側、開発側 ・ 現場のオペレートも機材作りも照明を作るために必要 の視線でその領域を垣間みると疑問だらけですよね。で 不可欠な行為。 も、受講者である私達に敷居の高さを感じさせないよう、 ・ 最終目的は明かりを作ることだが、作業の形やプロセス 特に難しい技術ではないことを強調されていました。その にとらわれてはいけない。すべては同一線上に存在する。 領域に踏み込むにあたり、吉崎さんなりの解釈はこんな感 ❷ 照明器具に使われている工業的技術を理解する 吉崎氏の自作の卓 PIC 部分 じです。 ・ 照明器具を構成する工業技術自体は、それほど高度なも 自作のメモリー卓 のではない。時代遅れの錆びれた技術ではないが、今時 のハイテクに属する技術などはほとんど使われていない。 ❶ DMX512 ❶ RISC 構 造 で、 比 較 的 処 理 が 速 い 組 み 込 み 汎 用 マ ・ すべての工業製品は簡単な機能を組み合わせて複雑な ・ 電子機器の専門家に言わせれば 「 化石級 」 の技術。 まずは、MC06 と名付けられた 6ch のシーン記憶卓で 機能を構成している。 ・ 基本回路は数百円で作れる。 す。 フェーダーはフリーフェーダーになります。シーン ❷ 様々な I/O が内蔵されており、少ない部品で機能を ・ デザインと設計は相互関係にある。デザインが不明確 ・ 成熟しきった技術を元にしているので、信頼性が は右側のシーンボタンで呼び出せてタイム設定も、もちろ 構成できる。機種によって組み合わせは様々だが、A/ なら設計も不明確になる。 高い。 ん可能とのこと(0.0-63.5sec)。さらに、オートクロスも D コンバータや非同期シリアル通信、同期シリアル通 ・ 見事な割り切りで構成されている。 できるそうですが、シーンの修正はできません。その代わ 信、I2C 通信、USB 通信、パラレル通信など、要求頻 り、上書きが可能だそうです。 度の高い I/O 機能が内蔵されている。内蔵 I/O が充実 ❸ 作りたい(欲しい)機材のイメージが明確なら誰でも作 れる! ❷ Ethernet イコン。 ・ 必要な「程度(スペック) 」をきちんと整理する。 ・ 枝分かれ構造のネットワークにおいて大量のデータを その卓から出た DMX512 から灯体をコントロールする しているので、PIC の機能を理解して適度に割り切っ ・ 技術があるから作るのではなく、作りたいものを作る 送ることが目的。リアルタイム性は優先されていない のに必要な情報を抜き出すためのインターフェース。それ て使えば部品点数を減らすことにもつながる。 ために技術を学ぶ。 ・ 安全意識をきちんと持つ。 技術。 ❸ LED をアメリカの Microchip Technology 社が発売している、 「PIC」と呼ばれるマイコン使って作製したそうです。一度 ❸ 消費電力が少なく、小型機器への埋め込みがしやすい。 使用する内蔵 I/O にも影響されるが、乾電池での長時 ・ 部品や製造側の都合を理解すれば、思いもよらず簡単 ・ 今後有望な光源。 でも、電子回路を組んだことのある人には、そう難しくな に、しかも安く作れる。 ・ 低電圧大電流。半導体特性の障害。 いということですが、それでも誰にでも組めるというもの ❹ コマンドの種類が 35 個と少なく覚えやすい。 ・ 効率は良いが少食。 ではないですし、そもそも電子回路を組んだことがある照 ❺ 安価で入手がしやすい。電子部品専門店で広く売られ ・ 演色性はタングステンやクセノンに敵わない。 明さんはあまりいませんよね。そういえば私自身、電子工 ている。これほど入手がしやすいマイコンは他にな 学科の出身でしたが、既にこのレベルでチンプンカンプン いかもしれない。価格は種類によって違いがあるが、 ❹ 機材よりも照明デザイン、そして何よりもコスト意識 ・ 照明機材は照明デザインを実現するための手段の一 部であり、目的そのものではない。すべてはプランあ ❹ 強電制御 間駆動も可能である。 りき。 ・ 昨今の半導体技術の進歩。 でした。とは言え、せっかくの機会ですので昔を思い出し 秋葉原の電子部品専門店では 150 ~ 900 円程度で入手 ・ 武士は高楊枝でも良いが、照明屋は腹が減るしお酒も ・ 原始的な事情(大電流)による難しさ。 ながら、なんとかついていきました。 可能。 飲みたい。 ❺ サーボ制御 そもそも DMX については、かの有名なタマ・テック・ ❻ 開発で必要になるソフトウェアはほとんど無料で手に ・ 既製品で優秀(性能、コストパフォーマンス)な器具 ・おもちゃでも使えるなら良い。発想を広げる為のアイ ラボのホームページで勉強したそうです。これは皆さんの 入る。ただし、メーカー純正の IDE 上で使える C 言語 が存在するなら、手作りする必要はない。 テム。 中にも相当多くいると思います。その DMX を自分で自在 のコンパイラは有償。残念なのは、開発で使用するソ に使うために選んだ手段が PIC ということ。その触りの部 フトウェアのほとんどが Windows 版なこと。ただ、 分を少しご紹介いたします。 それほどの処理能力も必要としないので、MacOS 上 といったものです。実に的を得ているなと思いました。特 まずは自分の考えなり視点で、このように解釈をしてみ DMX512 の処理にはアナログ回路で処理するのは大変 の Windows エミュレータでも十分動く。 に「技術があるから作るのではなく、作りたいものを作る るということがスタート地点かなと思います。そこから実 ですし、また無駄ということでした。そこで、専用のプロ ために技術を学ぶ」というのは正に至言。自分が知らな 際にものを作るとなると、私にはかなり歯ごたえがあるも グラムを施したマイコンを使うのが適切ということにな 秋葉原の専門店ではプログラム書込み装置のキットを い、分からない、できないから、欲しいものややりたいこ のでした。でも、できるだけハードルを下げたお気遣いに り、吉崎さんが選んだのが PIC でした。 販売している。Microchip Technology社の純正品より とをあきらめるのではなく、欲しいものややりたいことの 少しでもお答えできるよう、がんばって噛み砕いてみま PIC とは「Peripheral Interface Controller」の略で、直 やや不便だが、3,000円程度なので気楽に始められる。 為に必要な技術を身につけるという考え方はとても大事で す。 訳すれば「周辺機器のインターフェース・コントローラー」 ❼ 開発で必要になるハードウェアが安価に手に入る。 ❽ この手のマイコンとしては情報やインターネットコ すし、常に忘れずに頭においておきたいことでもあり実行 という意味です。ある部位の機能をコントロールするため ミュニティが多い。ワンチップマイコンという分野に しなければいけませんよね。そんな吉崎さんが作ったもの に特化したマイコンということになります。 おいては異例と言ってよい。 はというと……。 選んだ PIC の特長は次の通りだそうです。 36 Journal of Lighting Designers & Engineers Association of Japan Journal of Lighting Designers & Engineers Association of Japan 37 どう動かすかということで目を付けたのがラジコンサー ば無意味。 ボだそうです。ラジコンサーボはポテンションメータ(可 ❸ 目的(照明効果)の明確化 変抵抗器)で回転位置を取得して動きます。普通はこれで ・ 必要にして十分な器具をきちんとイメージする。 180度程度の回転角を持っています。 これを外して固定抵 ・ 無駄と贅沢の放置は確信を遠ざける、先入観という贅肉 抗に換えると、スピードと回転方向をコントロールできる をそぎ落とす。 モーターになります。つまり逆転の発想でカラーを動かす ❹ 常識は大事だが、将来のすべてではない 機能に流用したということです。さらに昨今流行!?の二 ・ すべての技術革新を最初に思いついた人は変人扱い。 足歩行ロボット工作などに使われているラジコンサーボを ・ 可能性を探ることは面白いパズル。 扱うための便利グッズを使えば、機械部品も既製品の種類 株式会社 ジャスト 吉崎 徹氏 ソースフォーを使ったカラーミックス試作品 PIC で DMX512 を扱いやすい理由 そして動かすのは…… がたくさんあり、全ての回路を作らなくても DMX 受信装 置以外は汎用品の応用で組めるということでした。 実は吉崎さんが一番尊敬する発明家は、アラレちゃんを また、それらのパーツを組むための金属の形版やねじ、 作った“のりまきせんべい博士”だそうです(笑) 。でもこ 塗装に至るまで、実に様々な工夫をされています。やはり んなことができるようになるには、意外とそんなノリで始 照明器具は熱との戦いであることを改めて感じました。 めるのが大事なのかもと思いました。 とにかく話は草津の温泉のように湧いて出てきます。も 当日用意してくださった資料はかなり事細かに解説され うこうなると私の目には、自作のギターであの音を出し ているものですが、とてもこのページでは紹介しきれませ ていた Queen のブライアン メイや幼少の時期に C-3PO を んし、まずはこの勉強会に参加した人たちの特典とさせて 作ってしまったアナキン スカイウォーカーに見えてきま もらいます。もちろん、吉崎さんにコンタクトを取ればい した……と訳の分からない例えですが、とにかくスゴいの ろいろと教えていただけるはずです。個人的にはこの誌面 一言で予定時間を1時間以上過ぎても、全然時間が足りま で連載をお願いしたいほどです。ご自身のホームページ、 PIC には気の効いた内臓 I/O が数多く内蔵されていて、 大注目のカラーミックス内蔵の灯体(の製作途中のも せんでした。吉崎さんのメッセージと言うか考え方のまと 電装工芸(http://www.densokogei.jp)とそのブログでは その中でも、 「USART」というシリアル非同期通信機能が の)です。 めとしてはこんな感じです。 かなり細かく、また面白く内容が展開されています。実は DMX512 との接続を可能にしています。PIC のクロック お持ちいただいたのは写真の通り、ソースフォーのラン 私がこのページを書くにあたり、改めてホームページで復 を 16MHz もしくは 20MHz にすると、250kbps における プハウスを活用し、それにカラーミックス機構をつけたも 習させていただきました。まだまだ勉強不足ですが、今後 受信エラー率は 0% になりベストマッチングとなります。 のです。勉強会ではそれぞれのパーツを作ったり、選択し USART はシリアル非同期通信専用のモジュールです。 た経緯をいろいろ教えてくれました。ご自身のブログでも ・ 現場は製造の素人、メーカーは現場の素人。 いことだと思っております。内容は理解できなくても、そ 受信動作はモジュールに任せきりで大丈夫です。ソフト その辺のことを包み隠さずご紹介されています。私が理解 ・ 話が通じなければ何も作れない。工業製品を作る為に の探究心や情熱、そしてそのために必要な時間やお金は自 ウェア自体は、受信動作を細かく見る必要がありません。 できた範囲で書いてみます。 は技術よりも雄弁。 分で作ること……本当に、活力の源です。まだご覧になっ DMX512 の受信処理はそれほど負担にはなりません。 お話いただいた時点では「カラーミックス内蔵の FQ」を ❷ 耐久性こそ最高の性能 たことがない方は、是非みることをお勧めして報告を終わ すなわち、DMX512 の受信処理以外にも機能を持たせ イメージされているとのことで、 「8 間間口の地明かりを 4 ることが出来ます。数チャンネルの調光制御や数個のモー 台で取れて「色が変わる!」という明確な使用目的をお持 ター制御であれば、PIC 一個で受信から機器制御まで処理 ちでした。それでいてカラーミックス内蔵にしても、明る 出来るので、DMX512 を受信して動作する機器が少ない さを損なわないものを作れないか、ということでした。そ 部品で作れます。 こで目をつけたというのが、ソースフォーのランプハウス ということで、私自身しっかり理解している訳ではない にラジコンサーボでダイクロイックミラーを動かすという ので、資料やホームページでの内容を流用させていただく こと。試作まで作った PAR36 を光源とする平行ブライド 形をとりました。 型があったそうです。動作は良いのですが、ちりが積もっ その気になれば勉強はいくらでもできますよ、という てかなり高価になるそうです。そこで、ソースフォーの メッセージでした。もちろん、その気になるか、その気に ランプハウスを用いたものを 3 枚ダウザー式にしたそうで なることが自分の中で必要かはそれぞれの価値観ですが、 す。そうすることで部品点数が半分以下になり、ダイクロ 自分が欲しい、身につけたいと思うものに対しての姿勢や フィルターは形状の都合で単価が安くなり枚数も減らせた 行動力は見習うべきところですね。 ということです。 複雑で高速な制御をしたいのであれば、ほかに良いもの 実際に、ソースフォーの先玉とカッターモジュールを外 はあるということです。PICは安くて便利に使えますが、何 して調べるところから始めたそうです。お椀型の反射鏡 でもこなせる高性能機ではないとのこと。部品は適材適所で の端面から約 80mm 位の位置に一番光が集まり、およそ 選びたいということで、これは照明の仕事にも通じることで 50mm の直径です。その点にフィルターをかざすと極上の す。卓でも灯体でも高い≠良いではなく、いかに「当てはめ カラーフェードをしたそうです。 るか」ですね。あぁ、これは人材においても同じか! なかなか、そこまでしませんよね? 今度は、その色を 38 Journal of Lighting Designers & Engineers Association of Japan ❶ メーカーとの協力体制 ・ カタログスペックが高くても、常に安定動作しなけれ もこのページで勉強させてもらえるのが、とてもありがた ります。吉崎さん、勉強会のシーズン2、期待しています! 吉崎氏の作品に群がるN.G.C.メンバー Journal of Lighting Designers & Engineers Association of Japan 39
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