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第5章 ロシアにおける臨床試験

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第 5 章 ロシアにおける臨床試験
世界の医薬品市場は,今後 13 年間で約 1.3 兆億ドルに上ると言われるが,これら壮大な市場
の 19% は新興国 7 カ国,すなわちロシア,インド,中国,ブラジル,インドネシア,トルコ,
1)
メキシコなどの国が賄うと言われている 。特に BRICs と呼ばれる 4 カ国(ブラジル,ロシア,
インド,中国)の経済的発展はめざましく,医薬品産業,臨床試験市場においてもここ 10 年ほ
どの間に急速に成長した。この 4 カ国は地理的には離れた所に位置し,また歴史,文化,言語
などは全く異なるが,医薬品産業を押し上げる要素においては共通項がある。それは,1)潜
在的な市場があること,2)欧米との疾患の類似性,3)規制当局の薬事規制の緩和と 4)GCP 規
範の改正に見られる積極的な支援などである。ロシアの医療システムは,ソビエト連邦崩壊後
は大きく変貌し,医療費は無料であったのが,崩壊後は有料になり,薬剤費の個人負担も大き
く国民の不満が大きい。この章では,欧米,日本などの製薬メーカーがロシアで頻繁に行って
いる臨床試験はどのような種類のものであるのか,どのような方法で試験を開始できるのか,
リクルートの実態はどのようであるのかなどを考えてみる。
1. ロシア連邦とは
ロシアは「ロシア連邦」
,「ロシア連邦共和国」とも呼ばれ,ヨーロッパとアジアにまたがる
連邦制の共和国である。首都はモスクワにある。地理的には,北ヨーロッパ,東ヨーロッパ,
北朝鮮,中国,日本,米国,カナダなど多くの国と国境を接し,北は北極海,東は太平洋に
囲まれており,国土面積は世界最大である。その大きさは 1707.5 万平方,日本の国土の 45 倍,
中国・米国・カナダの 2 倍以上もある。世界国土の 6 分の 1 を占め,南米大陸全体の大きさに
匹敵する。国土の北辺は北極圏に入り人口も希薄だが,南辺に近づくと地理的に多様となり人
口も多くなる。次頁に主要都市が記されたロシア地図を示す。
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第5章
近年の政治の重要な転機はいうまでもなく,1991 年のソ連邦の崩壊である。このソ連クー
デターでは当時のゴルバチョフ・ソ連大統領が拘束されたが,エリツィンが鎮圧に活躍し,彼
がロシア連邦の最初の大統領となった。彼は 1999 年まで政権を握り,新生ロシアに市場経済
を根付かせることを目指して,価格自由化や民営化などの改革路線に着手したが,1990 年以降,
ロシア経済は 10% 以上のマイナス成長が続き,経済を安定させることはできなかった。2000
年にエリツィンから大統領職を受け継いだプーチン大統領は,国内の安定と政府権力の強化を
目指し,石油・ガス会社の国有化を始めてエネルギー資源を確保した。ロシアは国制は連邦制
であるが,国家元首である大統領が行政の中心として強い指導力を発揮するシステムをとって
いる。すなわち,大統領は,首相を含む政府の要職の指名権・任命権と,議会の同意を得ない
で大統領令を発布する権限を持ち,軍隊と国家安全保障会議の長を兼ねる。
ロシア経済は「産油国経済」とよく言われるが,2007 年の輸出総額のうち,原油,石油製品,
天然ガス,石炭の4 品目で輸出の60%を占めている。プーチンのエネルギー政策と,エネルギー
価格が高騰したことにより,1999 年から 10 年近くにわたり,ロシアは年率約 7% の高成長を維
持することが出来た。プーチンは,対外債務に苦しんでいたロシアを一転して巨額の外貨準備
国とさせたのである。2008 年に側近のドミートリー・メドヴェージェフが大統領に就任したが,
プーチンも首相として就任し,プーチン政権時の政策は今後も続けられると思われる。
しかし,世界金融危機下では,ロシア経済は大幅な下降が表に出始め,石油依存経済,投
機的な外資流入,インフレ加速というロシア経済の弱点を一気に露呈した。ロシアは,BRICs
の中でも世界金融危機の影響をもろに受けて,経済に大きな打撃を受けた国だと言われてい
る。最近のロシア経済産業省のデータによれば,2009 年 1 月の GDP 成長率が年率換算で 8.8%
の減少を記録し,主要国では日本に次ぐ成績の悪さを示した。同省の予測によれば,2009 年は,
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GDP の低下は 2.2%に達する見込みである。 現在は最悪期は脱しており,今後は,石油価格の
2)
高価維持と内需拡大で経済状況は好転すると見られている 。 2. ロシアの人口動態と都市化現象
ロシアの人口は,1950 年代から 80 年代までは増加を続けていたが,1992 年をピークとして,
その後は減少傾向で推移しており,2008 年は約 1 億 4 千万人である。今後は人口減少のスピー
ドがさらに加速するとみられ,2050 年には 1 億 2 千万人と 1990 年時点の 4 分の 3 程度まで人口
規模が縮小する見込みである。その減少は日本よりも早いスピードで進むため,2050 年の人
口が日本と同程度の水準になり,ロシア人口の高齢化は日本より深刻である。次にロシアの人
3)
口の推移を日本と比較した図を示す 。
このように,ロシアの高齢化は一般産業的には深刻であるが,医薬品産業においては医薬品
の消費量が増加するであろうから,この現象は朗報である。事実,医薬品市場が過去数年急速
な拡大を続けている。
人口高齢化と共に顕著な傾向は,人口の都市化である。実にロシア人口の 7 割である約 1 億
人が,モスクワやサンクトペテルブルグなどの大都市部に集中している。よって必然的に臨床
試験を行う大病院やクリニックはこれらの 2 大都市に集中しがちであり,被験者はこれら大都
市で主に集められている。
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