TiO2 型光触媒を用いた水の浄化

TiO2 型光触媒を用いた水の浄化
木曜班 ~秋輪講~
1.目的
光触媒を利用した水槽レベルの浄水装置の設計及び製作と、その評価を行うことを目的とした。
2.動機
新しい班になる際に研究テーマのイメージとして漠然と環境問題に関わることをやりたいと思ってい
たが、その候補のひとつとして光触媒があった。様々な応用範囲の中には水の分解や有機物の酸
化分解などがあり、石油に変わる将来のエネルギー源(水素)の生成、有害物質の無害化等が期待
されている光触媒という分野はとても面白く感じた。その中でも水の浄化をテーマにしたのは、化研
の実験設備を考えた際にサンプルの採取が比較的簡単だと判断したからである。
3.原理i
3-1)反応物質の吸着と活性化
触媒は「それ自身は変化することなく化学反応を促進する物質」と定義される。触媒反応には
触媒と反応物の相が同じ均一触媒反応と、相が異なる丌均一触媒反応がある。木曜班で用い
る TiO2 型光触媒は固体であり反応物は液中の有機物を想定しているため丌均一触媒反応で
ある。また、ほとんどの丌均一触媒反応のメカニズムは反応物が触媒にすべて吸着し、吸着種
の間で反応が起こるとするラングミュア-ヒンシェルウッド(L-H)メカニズムであり、TiO2 型光触
媒反応もこのメカニズムにあたる。
吸着
吸着
反応
触媒
図1 ラングミュア-ヒンシェルウッド(L-H)メカニズム
1
触媒反応において反応物の吸着は重要な役割を果たす。反応物は触媒表面に吸着された
後に活性化されるのであるが、固体触媒反応と光触媒反応では吸着された反応物の活性化の
仕組みに大きな違いがある。酸素による酸化反応を例に取ると、通常の触媒は熱的に酸素を活
性化して活性酸素にするのに対し、光触媒は吸収した光によって励起した電子と、その抜け跡
である正孔が酸素を活性化して活性酸素とする。したがって、触媒では反応温度は一般に高温
なのに対し、光触媒では室温でも反応が起こる。室温でも反応が起こる点では光触媒は優れて
いるが、電子励起に必要な光の量が限られていることと、酸素が活性酸素になるのが遅いため
大量の物質を一度に処理するのには適していない。
3-2)励起電子と正孔の生成
励起電子と正孔の生成について述べるにあたりまず電子エネルギーバンドについて説明する。
原子中の電子はそれぞれ電子軌道に入っており、電子のエネルギーは入っている電子軌道によ
って異なる。また、そのエネルギー値は飛び飛びでこれを電子軌道のエネルギー準位という。原
子が固体結晶を形成するほどたくさん集まると、同じエネルギー準位の中の電子がお互いに作
用しあう結果、そのエネルギー準位が幅を持つようになる。このようにしてできたエネルギー幅の
ある電子状態をバンドという。各バンドのエネルギー準位もやはり飛び飛びである。TiO2 光触媒
は高温の水素中で過熱することで還元されて酸素欠陥が生じ、半導体の性質を帯びることがで
きるが、通常は絶縁体である。絶縁体固体の電子状態を下図に表す。
空帯
電
子
の
エ
ネ
ル
ギ
ー
禁制帯
価電子帯
バ
ン
ド
ギ
ャ
ッ
プ
図 2 固体の電子状態
図2で、電子が完全に詰まっているバンドを充満帯(価電子帯)、電子がまったく入っていないバ
ンドを空帯と言う。またバンドとバンドの間の電子が入ることができないエネルギー帯を禁制帯と
いい、その幅をバンドギャップという。
2
価電子帯に存在する電子は外部からバンドギャップ以上のエネルギーを不えられることで空帯
へと励起することができる。そして光触媒の場合には励起に使われるエネルギーに光が使われ
る。量子論によれば光子一個のエネルギーE は次のように不えられる。
E=hν=hc/λ
ここで E の単位は eV、h はプランク定数 eVs、λは波長 m、C は光速 m/s2 である。つまり、光の
エネルギーは光子の波長λないしは振動数νによって決まる。絶縁体にそのバンドギャップ以
上のエネルギーを持つ光をあてることで、価電子帯の電子は空帯に励起され、価電子帯には電
子の抜け跡である正孔(h+)ができる。
e-
伝導帯
e-
光
E=エネルギー・
バンドギャップ
hv>E
価電子帯
e-=電子
hv=E
E
h+
hv<E
h+=正孔
hv=光子のエネルギー
e-
h+
図3 光エネルギーによる電子の励起
酸化チタンが波長 410 nm 以下の紫外光をあてた時しか光触媒にならないのは、そのバンドギ
ャップの幅である 3.0 eV 以上のエネルギーの光子でないと、電子が空帯まで励起できないから
である。空帯に入った電子は自由に動くことができるので、半導体のように電気を通すことがで
きる。このように光によって伝導性を生じる物質を光伝導物質という。半導体や光伝導物質は、
光によってできた電子と正孔が、それぞれ還元反応と酸化反応を起こすので光触媒となりうる。
3-3)活性酸素
光触媒による光酸化作用の酸化力は励起した電子と正孔によって酸素分子が酸化、あるいは
還元されることで生成される活性酸素によって得られる。活性酸素には原子状酸素(O)と一重項
酸素があり、さらに生化学の分野では
スーパーオキシドアニオン(・O2-)、ヒドロキシラジカル(・OH)、ペルヒドロキシラジカル(・O2H)も活
性酸素として扱われている。一重項酸素は酸素分子の電子励起状態で、普通(基底状態)の酸
3
素分子よりも尐し反応性が高いものである。酸素がどのような状態で酸化チタンに吸着し活性酸
素になるかは、電子スピン共鳴分光法(ESR)のスペクトルによって観測でき、次のような反応を
していると考えられる。
図4 酸化チタン表面での活性酸素種のでき方
1・酸素はまず O2-として吸着する。
2・O2-は光によって酸化チタンにできた正孔と反応して原子状酸素 O に解離する。
3・原子状酸素 O は電子と反応して O-となる。
4・原子状酸素はまた、O2-とも反応して O3-となる。
1~4までの反応を化学反応式で書くと、次のようになる。
1・O2+ e-→O2-(a)
2・O2-(a)+ h+→2O(a)
3・O(a)+ e-→O-(a)
4・O(a)+ O2-(a)→O3-(a)
(a)は酸化チタンに吸着し
ている物質を表す。
上記の反応式での重要な点は、電子と正孔が相前後して酸素分子に作用して原子状酸素に解
離することだ。資料によると電子と正孔の関わり方は推定らしいが、原子状酸素ができることは
他の方法でも実証されており、間違いない。また、活性酸素の反応性の強さは O> O-> O3->> O2左記のようになっている。この内で、典型的な酸化されにくい物質である CO や CH4 を酸化できる
のは室温では原子状酸素である O と O-のみである。
4
3-4)有機物の酸化分解
炭素数の尐ない有機物は、酸化チタン光触媒によって二酸化炭素と水にまで完全酸化される
が、炭素数の多い有機化合物を光酸化すると、中間性生物ができることがある。パラフィン類の
光酸化では、オレフィン、アルデヒド、ケトンなどができる。
ケトン
飽和炭化水素
アルデヒド
(アルコール)
不飽和炭化水素
(CO)
H2O
(カルボン酸)
注:( )は触媒から脱離しないことが多い。下線は酸化されにくい化合物。
図5 飽和炭化水素の酸化過程と中間生成物
これらはあくまで中間生成物であり、酸化反応をさらに続ければ、最終的には二酸化炭素と水
になる。有機物の触媒酸化とくに部分酸化の仕組みは、中間生成物の反応性と吸着の強さがさ
まざまで複雑である。中間生成物とは触媒から脱離してくる生成物で、一般的にいえば、反応性
が比較的低く、吸着力の弱いものである。有機物の光酸化反応に関わる活性酸素は、燃焼反
応と同様にさまざまである。原子状酸素による有機物からの水素引き抜きから始まり、それによ
ってヒドロキシラジカルができる。ヒドロキシラジカルも有機物から水素を引き抜く。有機物の光
酸化によってできた反応中間体(触媒に吸着したままのもの)の中には、アルコールやカルボン
酸など還元性の強いものがある。これらの還元性の強い有機物は、分子状酸素を還元してスー
パーオキシドラジカルをつくる。普通の有機物の中で酸化されにくい物質はケトンであるが、いず
れの有機物の酸化においても最終段階では一酸化炭素の酸化が重要になる。したがって光触
媒の要件は、ケトンと一酸化炭素を酸化できる活性酸素をつくれることにある。3-3)の最後にも
述べたが室温でこれらを完全酸化できるのは原子状酸素しかない。
比較として述べるが光触媒の+3.0eV という酸化電位は、一般に水処理などに用いられる塩素
(1.36eV)や、オゾン(2.07eV)などの有する酸化電位と比較するとかなり強力なものであることが
分かる。
今回使用したメチレンブルーの酸化分解も原理的には上記の反応を利用している。メチレンブ
ルーの各原子の予想される最終物質は以下の通りである。
C→CO2、H→H2O、S→SO2、N→NO2、Cl→HCl
これらの最終物質は 3-3)で示した種々の活性酸素と触媒表面の正孔によって酸化された結果
生じると考えられる。
5
CO2
4.器具試薬類
~器具~
TiO2 コーティングガラスビーズ BL2.5B
φ2.5 膜硬度 鉛筆硬度で 6H 基材 ホウケイ酸ガラス
結晶形態:アナターゼ型
株式会社 光触媒研究所
UV ランプ 100 V 6 W 365 nm 株式会社 フナコシ
ポンプ 流量 1~2.4 L/min
ポリスチレン容器 250 cm2
アクリル容器 15×15×5 cm3
100 ml ビーカー
ステンレス金網
ミラープレート 鏡面アルミ 株式会社 マルシン
塩ビ板 0.8 mm 株式会社 マルシン
~試薬~
二酸化チタン TiO2=79.87
酸化チタンにはアナターゼ、ルチル、ブルカイトの三種の結晶形態がある。このうち、ルチル型が最
も安定な結晶形態で、アナターゼ、ブルカイトは加熱によりルチル型へと転移する。この反応は丌
可逆的であり、ルチル型からアナターゼ、ブルカイト型へと転移することはない。アナターゼは
915 ℃以上でルチルへと転移し、ブルカイトは 650 ℃以上でルチルに転移する。ルチルの融点は
1825 ℃である。
メチレンブルー三水和物 C16H18ClN3S・3H2O=373.90 株式会社 昭和化学
青銅色の光沢を持った暗緑色。無臭の結晶。吸収極大 668 nm 609 nm(水中)。
水およびエタノールに易溶(青色)。メチレンブルーは青色の有機色素であり、紫外線によって殆ど
分解されず、光触媒の酸化分解作用により丌可逆的に分解されて無色になることから、光触媒の
分解性能評価に広く用いられている。
6
5.実験手順
~概説~
5-1)液面の高さの比較
装置を製作するに先立って、液面の高さや撹拌の有無の違いでメチレンブルーの分解がどれほど
異なってくるのかを確かめた。BL2.5B の量は 100 g で一定とした。
5-2)装置の作成
ホームセンターで手に入るような材料を元に浄水装置の試作品を作成した。
5-3)性能評価
5-2)で作成した浄水装置を用いてメチレンブルーの分解試験を行った。
~実験操作~
5-1)液面の高さの比較
(1)500 ml+スターラ-無し
①ポリスチレン製の容器(底面積 250 cm2)に BL2.5B 100 g を敷き詰めた。
②約 1.0×10-4 mol/l に調製したメチレンブルー水溶液を 500 mlこの容器に加えた。
③この容器にポリスチレン製の蓋をし、UV ランプによる照射を開始した。
④0、3、6、24 時間後のサンプルを採取した。
(2)250 ml+スターラー有り
①(1)で 24 時間 UV ランプを照射した後の溶液を 250 ml だけ残して除いた。
②容器に撹拌子を入れ、撹拌しながら 24 時間 UV ランプで照射した。
③24 時間後サンプルを採集した。
(3)250ml+スターラー無し
①ポリスチレン製の容器(底面積 250 cm2)に BL2.5B 100 g を敷き詰めた。
②約 1.0×10-4 mol/l に調製したメチレンブルー水溶液を 250 mlこの容器に加えた。
③この容器にポリスチレン製の蓋をし、UV ランプによる照射を開始した。
④0、2、4、6、24 時間後のサンプルを採取した。
(4)吸光度測定
①(1)~(3)で採取したサンプルを 5 倍希釈した。
②学生実験室の分光光度計を 664 nm に波長をあわせて吸光度を測定した。
7
5-2)装置の作成
図 5 装置の概形
①15×15×5 cm3 のアクリル容器に入れた溶液の液面が 1 cm となるように 4×5 cm2 だけ外壁を
切り取った。
②中に入れたビーズが出ないようにステンレスの金網を切り取った部分に取り付けた。
③内面に鏡面がアルミで出来ているミラープレートを貼りつけた。
④ポンプを収納するための 100 ml ビーカーを、切り取った面と対角になるように貼り付けた。
⑤ビーカーの中にポンプを設置した。
⑥内部に BL2.5B を 100 g 敷き詰めた。
⑦溶液の蒸発を軽減するため、上部に 15×15 cm2 の透明な塩ビ板をビーカーの部分が接触しな
いように 6.5×6.5 cm2 だけ切り取って設置した。
5-3)性能評価
(1)浄水装置性能評価
①2.0×10-5 mol/l メチレンブルー溶液を 1 L 調製した。
②ブランクとしてサンプルを採取した。
③UV ランプを照射して 0、2、4、6、24、30、48、72 時間後にそれぞれのサンプルを採取した。
(2)紫外線によるメチレンブルーの分解評価
①BL2.5B を装置から取り除き 2.0×10-5 mol/l メチレンブルー溶液を循環させながら紫外線の照
射だけでブランクと 2、4、6、24 時間後のサンプルを採取した。
(3)吸光度測定
①分光光度計を 664 nm に設定し、採取したサンプルの吸光度を測定した。
8
(4)UV ランプ照射範囲の測定
①(2)で使用した吸着済みガラスビーズを装置に敷き詰め、溶液を除いた状態で24時間照射を行
った。
②ビーズが無色になった範囲から照射範囲を目視にて行った。
6.結果
6-1)液面の高さの比較
液量 500 mlにおける液面の高さは 2.2 cm だった。また、液量 250 mlにおける液面の高さは 1.2
cm だった。
ここで、光触媒ビーズ 10 粒の平均質量が 0.130 g だったことから、基準とした 100 g では約
100/0.1304≒769 個のビーズが存在していることが計算できる。
BL2.5B の直径φがφ=2.5(mm)であることを考えて、100 g におけるビーズの総表面積 S と総体積
V は S=2×0.125×π×769≒6.0×102 cm2、V=π×0.125×0.125×769≒38 cm3 となる。(1)~(3)
で採取したサンプルの吸光度結果を表 1 に示す。
表 1 各条件下におけるサンプルの吸光度
液面の高さ(cm)
(1)
(2)
(3)
2.2
1.2
1.2
照射時間(時間)
吸光度(ABS)
濃度(×10-5mol/l)
0
1.387
11.85
3
1.316
11.25
6
1.265
10.81
24
1.023
8.74
0
1.023
8.74
24
0.404
3.45
0
1.456
12.44
2
1.132
9.68
4
1.084
9.26
6
0.982
8.39
24
0.67
5.73
9
(2)の24時間後のサンプルはかなり丌透明な溶液となっていたので、一度濾過したものを使用し
た。
分解率を{[照射前の濃度]-[24 時間照射後の濃度]}/[照射前の濃度]×100 として(1)~(3)の結果
を求めると、
(1)(11.85-8.74)/11.85×100=26.2 %
(2)(8.740-3.45)/8.74×100=60.5 %
(3)(12.44-5.73)/12.44×100=53.9 %
となった。
次に図 6 に検量線を示す。ここでの検量線は 5-1)での濃度が曖昧だったことと、希釈作業による誤
差が考えられることから、5-3)での 2.0×10-5 mol/l ブランクの初期吸光スペクトルと(0,0)の値から
作成した。
ただし、セル長は 1.0 cm であり、ランベルト-ベールの法則、
Abs=εcl
Abs:吸光度 εモル吸光度係数 l:セル長(cm)
Abs
を原理として作成した。
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-0.2
0
0.5
1
1.5
2
×10-5 mol/l
図 6 メチレンブルー溶液の検量線
※座標は 5-3)のもの
ここでモル吸光度係数εはε=5.85×105 であった。
10
×10-5 mol/l
この検量線を利用してこの実験の時間と濃度の関係を図 7 に示す。
14.00
12.00
10.00
8.00
実験(1)
6.00
実験(2)
実験(3)
4.00
2.00
0.00
0
5
10
15
20
25
30 時間
図 7 実験 5-1)の時間と濃度の関係
6-2)装置の作成
作成した装置は瞬間接着剤でミラープレート、ステンレス金網、ビーカーを容器に接着した。アクリ
ル容器の四隅が湾曲していたため、ミラープレートと容器の間に隙間ができてしまった箇所があっ
た。循環させるために切り取った側面はヤスリで滑らかな切断面となるように工夫した。
6-3)性能評価
(1)で採取したサンプルの吸光度結果を表2に示す。
表2 各反応時間後のメチレンブルーの吸光度
照射時間(時間)
吸光度(ABS)
濃度(×10-5mol/l)
0
1.170
2.0
2
0.921
1.57
4
0.774
1.32
6
0.653
1.12
10
0.539
0.92
24
0.298
0.51
30
0.25
0.43
48
0.06
0.10
72
0.037
0.06
11
分解率は(2.0-0.51)/2.0×100=74.5 %だった。また、最終的に 72 時間の反応で、
(2.0-0.06)/2.0×100=97 %の分解に成功している。
液面の高さが 1.0 cm になるようにアクリル容器の側面は切り取ったが、金網との間に表面張力が
生じ、実際の液面の高さは約 1.3 cm だった。これはポンプの汲み上げ速度によっても高さは変化し
た。また、72 時間後に装置内に残った液量は 648ml であった。溶液の温度は UV ランプ照射中で
約 20 ℃だった。
UV ランプの照射範囲を目視によって確認したところ、15×6=90 cm2 の範囲で反応が確認された。
これは装置全体の面積がビーカーの面積を除いて 15×15-6.5×6.5=182.75 cm2 であるから全ビ
ーズの 90/182.75×100=49.2 %となる。
ゆえにこの装置のビーズで実際に有効に作用していたのは 769×0.492≒379 個のビーズであり、
総面積 2.98×102 cm2 の部分であった。
次に(2)で採取したサンプルの吸光度変化を表3に示す。
表 3 紫外線照射によるメチレンブルーの吸光度変化
照射時間(時間)
吸光度(ABS)
濃度(×10-5mol/l)
2
1.092
1.87
4
0.932
1.59
6
1.165
1.99
24
1.073
1.83
×10-5 mol/l
図 6 の検量線を基に図 8 に実験 5-3)の時間と濃度の関係を示す。
2.5
2
1.5
浄水装置
ブランク
1
0.5
0
0
20
40
60
図 8 実験 5-3)の時間と濃度の関係
12
80 時間
7.考察
7-1)液面の高さの比較
まず、実験結果の予測として液面の高さが低ければ低いほど分解性能も高いのではないかと考え
られた。これは光触媒の原理から、触媒表面に到達する紫外光の光子数に比例し、分解に必要と
される活性酸素を生み出すための励起電子と正孔が生じるからである。実際の結果を見ても液面
の高さを減らした(3)の方が減らす前の(1)よりも 25 %以上分解効率が高くなっている。また、(2)にお
いてスターラーによって撹拌を行った場合の分解効率は撹拌を行わなかった(3)よりも 7 %近く高い
成果が見られたが、この要因は溶液中に酸素が安定的に供給されたためであろう。ただ(2)で 24 時
間後に採取したサンプルに見られた白濁がビーズ表面の酸化チタンが削れて溶液中に拡散したも
のの可能性が高く、触媒が溶液中に分散して効率よく光と接触することで効率が上がったことも考
えられる。確かにスターラーによる撹拌によって効率は上がる。しかし濾過なく浄水処理できていた
利点が失われる方が総合的に考えて丌利である。この実験によって得られた装置製作の方針は以
下の 2 点である。
①液面の高さはなるべく低くする
②撹拌を利用するなら穏やかな条件で
なお、液面の高さについて考察すると、ビーズの総体積が計算値で約 38 cm3 であるからビーズによ
る液面上昇は底面積 250 cm2 では高さ 38/250=0.152 cm と計算できる。予想されていた
2.2-1.2=0.2 cm と比べると 0.048 cm の誤差がある。測定した液面の高さは 1/10 cm の精度での目
視のためこの程度の誤差は出るだろうとは感じていたが、ビーズ 10 粒での換算値ではサンプルとし
て足りなかったかもしれない。
7-2)装置の作成
実験 5-1)での結果とその考察を考慮しながら装置の作成を行った。装置の内壁にミラープレートを
取り付けたのは、照射した紫外光を鏡面で反射させることで効率よく分解反応を進めるためである。
また、元々この装置の製作目標が熱帯魚などの生物を入れた水槽の水質安定浄化であったため、
水槽内に生物にとって有害な紫外光が照射されないための役目も果たしている。液面の高さの比
較実験では装置の蓋にポリスチレン製の蓋を使用していたが、二重結合および芳香環を含む有機
化合物は紫外光に対する吸収が存在するため、ポリ塩化ビニル板を使用した。今回使用した UV
ランプの波長は 365 nm とスチレンの吸収波長である 244、及び 282 nmiiからは外れているが、光
源をより強力なキセノンランプ等にした場合を考えて念のため変更した。また、ポンプの収納部は
溶液の排出口から対角となる位置に設置した。これにより反応部のビーズ上部に溶液の流れが生
じ、ビーズに負担がかからない穏やかな撹拌を行えるようになった。液面の揺らぎは酸素を溶液中
に供給する効果が期待できる。
13
7-3)性能評価iii
まず、液面の高さは装置側面を切り取ることで調整したが、切断面での張力は予想外だった。液面
の高さはビーズの上端に合わせるつもりで設計したのだが、予定よりも 0.3 cm 液面が上昇してしまう
結果になってしまった。さらに、切断面の張力により一旦流出口で溶液の勢いが抑えられるため、
流れ出る流水は装置の底面裏を経由してから水槽へと戻るようになってしまった。これにより装置
底面裏に付着した溶液が蒸発しやすくなってしまい、液量の減尐が進んでしまったと考えられる。こ
の問題については流出口の切断面を張力を抑える物質でコーティングするといった改良点が必要
であった。
次にビーズの敷き詰め方であるが、紫外線の照射範囲がほぼ UV ランプの直下であったので、そ
れに合わせてうまく仕切りを設けることで、反応を効率よく進めることが出来そうであった。さらに仕
切りを設けることによってビーズの使用量も 50 %以下に抑えることが可能である。続いてメチレンブ
ルーの分解について考察する。実験によって得られたサンプルをデータ化するのに使用した波長
664 nm と初期濃度は光触媒フォーラムの提案する「光触媒製品における湿式分解性能試験方法」
を参考にして使用した。
図 8 におけるメチレンブルー分解の時間と濃度の関係では、反応の初期の方が早い分解速度とな
っている。これは酸化分解過の初期段階において、メチレンブルーの触媒ビーズへの吸着過程が
存在するため、濃度の濃い初期のほうが効率よくビーズに吸着するためだと考えられる。吸着され
たメチレンブルーは触媒表面の活性酸素によって分解されるため、平衡は常に吸着の方向に傾い
ている。分解性能については 72 時間の紫外線照射で分解率は 97 %とほとんどのメチレンブルー
を分解することに成功している。さらに照射し続ければ溶液の濃度は十分希薄な溶液になるものと
思われる。ブランクについては 2 時間後のサンプルの値が異常な値になってしまった。異常と言え
るのは、使用した UV ランプの波長 365 nm 付近に対するメチレンブルーの吸収がほとんど存在し
ないため、メチレンブルーの分解量は無視できるほどのはずだからである。
図 9 メチレンブルーの吸収スペクトル
14
根拠として東京理科大学Ⅰ部化学研究部の 2005 年度月曜班(研究内容:吸着物質の光分解)の
測定したメチレンブルーの吸収スペクトル図 9 を示す。
また、「光触媒製品における湿式分解性能試験方法」に記載されていた、液厚 20 mm におけるメチ
レンブルー濃度と 365 nm の紫外線減衰率の関係を図 10 に示す。
図 10 液厚 20mm の場合のメチレンブルー水溶液濃度と紫外線(365nm)減衰率の関係
8.反省
今年度の実験は 9 月からの開始であった。遅い開始にもかかわらず、最初の1ヶ月は慣れることに
大変で有効な実験を行えたとは言えなかった。実験を通して疑問点や行ないたい実験が見つかり
始めたが、その時にはもう秋輪講の時期になってしまっていた。二年という丌十分な知識の中で未
知の実験テーマをやろうと考えた場合、試行錯誤が最も有効な手段なのではないかと感じた。計
画していた実験は化研では、往々にして実験設備や知識丌足などからうまくいかないものである。
来年度の実験班には研究テーマが決まったらどんどん実験を行ってもらい、その中で生じた疑問や
興味を大切にして実験方針を決めていってもらいたい。
さて、今年度行った「TiO2 型光触媒を用いた水の浄化」実験であるが、正直やり残したことがあまり
にも多かった。元々この実験は金魚などの生物が生息している水槽の水質安定を自作した装置で
行うことが目標にあったので、数週間規模での水槽の観察を行うのが最終的な計画であった。しか
しその前段階、さらに既製の光触媒ビーズによる装置の製作に留まってしまったことは非常に残念
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であった。時間があったならば、とりあえず今回の浄水装置の改善点を修正し、その後ゾルゲル法
を用いて条件の異なる何種類かの触媒ビーズを作りたかった。そして出来上がったサンプルにつ
いて、既製品との性能比較を行ないつつ、浄水装置の構造上の効率化を模索していく、といったこ
とを今後の方針に考えていた。出来なかったことは残念であるが、個人的に今年一年間で学んだ
ことも多く、有意義な班活動だったと思う。
9.まとめ
班員紹介
チーフ
2K
鈴木 翔
サブチーフ
2OK 木村 忠弘
班員
2OK 西村 亜由美
2OK 松浦 良樹
2C
工藤 俊平
2C
露木 新也
2C
小森 裕文
1K
十川 誠
1OK 井手 将太
1OK 油井原 格
1OK 中村 優伺
1OK 山王 真徳
1S
森 大祐
参考文献
i光触媒
著者:窪川 裕/本多 健一/斉藤 泰和 朝倉書店
2001 年
光触媒とはなにか
著者:佐藤しんり 講談社 BLUEBACKS
2004 年
有機化合物のスペクトルによる同定法 第 5 版
著者:SILVERSTEIN BASSLER MORRILL
訳 :荒木 峻 益子洋一郎 山本 修
東京化学同人
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光触媒製品における湿式分解性能試験方法
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http://www.unitnc.com/data/data/UNI_DATA_182/%EA%B4%91%EC%B4%89%EB%A7%A4%EC
%A0%9C%ED%92%88%20%ED%8F%AC%EB%9F%BC%20(%ED%8F%89%EA%B0%80%EB%B0%A9%EB%
B2%95%201).pdf
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