Ⅵ 子どものための面会交流と 「面会に関する子ども支援プログラム」 1 はじめに 別居親と子どもの面会交流は、監護の一部である。そこで、はじめに監護に ついて、整理しておきたい。 監護は、子どもを保護・世話し、養い・しつける作用である。監護は、子ど もが出生してから、次第に力をつけ、自身で親以外との関係を形成して、やが て親から独立していくまでの成長を助ける一連のプロセスでもある。このよう なプロセスにおいて、親の子どもに対する関わりは、子どもへの責任に由来し、 いかなる親の権利(支配権)も正当化しない。 子どもは、生存と発達のために根源的なニーズを有し、ふさわしい監護を受 けて発達する包括的な権利を有している。監護は、子どものこのようなニーズ に応えようとする包括的な営みである1。すなわち、子どもは、一瞬一瞬、監護 する親(ほとんどの場合、子どもの同居親が子どもを監護する親である。以下、 監護親という)にはたらきかけ、保護と世話を求め、情緒的精神的に多様な反 応も得る。監護親は、子どものはたらきかけを敏感に汲み取り、配慮し、柔軟 に反応したり見守ることで、その子どもにふさわしい発達を可能にする。監護 は、子どもにとっては、頼りにする他者に働きかけ、必要を満たし、自他への 信頼感を獲得し、さらなる挑戦をして成長する過程であり、監護親には、子ど もの世話をすることで、子どものニーズを理解し、コツをつかみ、その経験か ら学び、親としての成長や変化を起こすプロセスである。このように、監護は 子どもと監護親との相互作用であり、多岐にわたる・あらゆる時期のケアが緊 密に絡み合いながら織り上げられていくものである2。 1 『新版注釈民法 (25) 』p9 では、 「親権が父権としての支配権的性質を保有していた間は、 支配権力の無限定性を制約するために、親権の内容または効力は法定された個別的なもの に限定しようとする努力が試みられた」が、 「親権はもっぱら未成年子の利益・福祉を目的 とする監護権であり、かつ、これは社会的職務であるということが強調されるようになっ た現在では、このような限定ということを考慮することは、あるいは無用のことかもしれ ない」 (於保不二雄)と指摘されている。 2 子どもの養育が子どもと親との相互的な作用であり、 養育者が子どものニーズに敏感に対 応できることが適切な養育の要であることにつき、H.R.シャファー著『子どもの養育に心 理学がいえること』 (新曜社、2001 年)p261〜;マイケル・ラター著『続 母親剥奪理論の 功罪』(誠心書房、1984 年)p17〜参照。 1 このように、監護は、監護親と子どもの間で連続し展開する相互作用である から、監護親と子どもの良好な関係、及び監護親の健康と安定は、子どもの福 祉に適った監護を行う上で、基本的で極めて重要な要素である。例えば、子ど もが監護親に寄せる信頼や良好な関係が損なわれたら、監護親は子どもを適切 にしつけることができなくなる。あるいは、子どもの心の「安全基地」である監 護親が情緒面での安定を損ねたら、子どもは情緒的精神的な保護を失ってしま う。 そして、監護は、一瞬一瞬に無数のありようがあり、それが互いに緊密に影 響し合いながら積み重なっていくものであるから、個々の監護の具体的な内容 は、監護親の幅広い裁量に委ねられる。 虐待という子どもにとって放置できない場合を除いて、監護への司法的な介 入が行われないのは、司法的介入がよりよい監護を遂げさせる上で、その性質 上、不適切で、無力だからである。すなわち、第1に、司法的介入は、過去の 監護の経過をふまえて当該時点での個別の監護活動に関する評価と判断はなし 得ても、将来に向けた監護作用をなし得るものではない。第2に、司法が監護 親に命令しても、同人の人格や感情を変更することはできないし、それ故、同 人によって行われる将来の監護のあり方を変更することもできない。第3に、 監護は、子どもとの相互作用であるのに子どもに対する働きかけはなしようが ないから、当該事案の監護の将来を変えることはできないのである。 司法的介入には、監護親と子どもが紡いできた監護という織物を、よいよう に編み変える力はない。それができるとすれば、奮闘する親の力不足を補って 子育てを助け、あるいは子どもの必要を社会が補う、社会的な子育て支援を強 化する以外にはない。 2 監護の一部としての面会交流 未成年の子の別居親との面会交流は、監護の一部である。子どもの監護にあ たる親は、監護全体のなかで、その意義を評価し、適切に決め、場合によって 必要な配慮と作為を行なわなければならない。その場合の基準は、 「子どもの福 祉」である。親の「子どもに対する支配権」でも、親の感情でもない。 子どもにとって、別居親と面会交流することが、健やかな成長と発達に資す るのか否か、どのように面会することが子どもの福祉にかなう結果になると見 込まれるのか否か、監護親は、子どもの気持ちや成長の程度も考慮しながら、 検討し、その子どもの監護全体のなかで、適切に位置づけなければならない。 面会交流が、監護の一部である以上、面会交流を含めた子どもの生活全体が、 2 その子どもの健やかな発達に最適に営めるよう、面会交流について、子どもの 気持ちや日々の生活と調和するよう配慮するのが監護親の役割だからである。 他方、別居親も、子どもと離れて生活はするものの、子どもの生存と発達を 親として支える責任は免れない。その第1が、子どもの生活を賄う監護費用の 支払である。そして子どもの福祉に適うなら、子どもとの面会交流に協力する 役割を担うものである。 以下、次項で、検討する。 3 面会交流の可否の判断 1) 絶対条件 別居親との面会交流は、子どもにとってよい場合も悪い場合もある。以下の 事由は、面会交流を行ううえで、最低限確保されるべきである。 A.子どもの物理的・心理的安全が守れること まず、子どもの福祉に適う監護は、子どもの生存と保護のニーズに応えなけ ればならない。子どもが必要とする保護は、物理的安全だけではない。心理的 にも安全が守られることが必要である。従って、面会交流が、子どもに物理的・ 心理的に危険なものであってはならない。 例えば、具体的には、面会の際に、身体的に危害を加えられたり、暴力的な 言動に曝されたり、連れ去られたり、ストーキングが始まったり、脅迫を受け るというように、物理的に安全が脅かされるようなことが起こってはならない。 また、例えば、子どもや子どもが馴染んでいる現在の生活について非難された り、子どもが現在の生活をしているために別居親が苦痛を味わっているなど、 子どもに負えない責任を背負わせるような言動がなされたり、過去の辛い経験 を想起させられたりするなどの、心理的な安全が脅かされることがあってはな らない。 B.監護親の心身の健康と情緒的安定が損なわれないこと 次に、面会交流により、監護親の心身の健康や情緒の安定が害されることは、 子どもの監護環境を深刻に悪化させることである。けだし、子どもの監護は、 監護親が健康で、柔軟で敏感な配慮と世話を重ねることで保障されるものだか らである。 3 例えば、別居前、父母間に、身体的暴力に限らず、精神的・経済的・性的・ 社会的その他さまざまな形態の DV があって、監護親にその被害による傷やト ラウマ・後遺症が残っていて、別居親とのコンタクト等によりその傷等の回復 が進まず、あるいは悪化するようなことがあれば、それが子どもの監護の質を 低下させることは容易に理解されることである。 C.子どもの確固とした拒否がないこと さらに、子どもは面会する当事者であるから、面会が子どもの確かな気持ち に反しないことは、重要である。 別居親との面会について、意向を聞かれた子どもが、 「会いたくない」と応え ることは、一般的な予想とは裏腹に、しばしば起こることである。子どもは、 おとなが考える以上に、親の不和や別居・離婚、それぞれの親の言動等につい てよく理解し、その子どもなりの複雑な感情を抱えていることが多く、それら に基づいて、面会に関する自分の気持ちを表明することができる。 「子どもの面 会拒否は『同居する監護親への遠慮』である」などと単純化してはならない3。 中には、別居前からのその親との間で経験したこと(親の言動や子どもに対 する態度)に根ざして、強い拒否を述べる場合もある。特に、子どもが成長す る家庭での父母の不和は、子どもにとって大変辛い経験であるが、暴力は直接 子どもに向けられたものでなくても、他の紛争より各段に大きな苦痛を子ども に強いるものである4(柔らかく傷つきやすい子どもは、生存するために、それ だけ切実に安全な保護を必要とする存在である)から、過去の家族関係を振り 返ることで、その子どもなりの拒否の原因がわかることもある。 いずれにせよ、子どもの拒否がその子なりに確かな拒否であるならば、その 感情は子ども自身のものであり子どもの人格の発露であるから、面会交流を強 いることはできない。成長途上にあっても、子どもは独立した1個の人格の主 3 この点、前記11歳の子どもの意見を参照されたい(→Ⅳ2 1)(2)③)。じつに周囲のお となの意図と言動をよく見、理解し、自身の意思を明確に表明している。 4 H.R.シャファーは、前出p159~で、 「家庭内に漂う情動的な環境は、子どもの心理発達 の過程に強く影響する」として、カミングズらの「家族の怒りと愛情の表現への幼児の反 応」 (1981) ・ジェンキンズらの「夫婦の不和と子どもの行動問題-不仲な結婚生活のどう いう側面が子どもに悪影響を及ぼすか」 (1991)等を紹介して、家庭内の父母の不和が子ど もが幼くても強いストレスになり、頻度が高く激しいほど苦痛を増すこと、子どもがその 争いに慣れることはなくむしろ敏感になり心理的困難を増すことを引用している。また、 ジャッフェらの「家庭内暴力の犠牲者と目撃者になった子どもの行動的、社会的不適応の類 似性」(1986)やマクロスキーらの「組織的家庭内暴力の子どもたちの心の健康への影響」 (1995)等を紹介して、家庭内の不和の中でも、暴力が起こり、それにさらされることが、 誰の誰に向けた暴力であるかを問わず、心理発達が妨害されるという研究成果を引いてい る。 4 体であり、それを尊重せずに、子どもの発達を保障する監護は成り立たないか らである。 D. 子どもに向けた別居親の操作によって監護親と子どもの関係が損われない こと 監護は、監護親と子どもの間の相互作用であるから、監護親と子どもの良好 な関係は、監護の質を確保する本質的な要素である。子どもにとって、監護親 が信頼し尊敬の気持ちを寄せられる人であることが、子どもへの良好なケアと しつけや保護を可能にする。このような監護親との関係を蝕む操作が面会交流 で行われたら、子どもの福祉が害されること甚だしい。 例えば、面会時、子どもに監護親を共に嘲らせたり、日頃の監護方針を無効 にするような放縦を子どもに許して監護親への不満を煽ったり、子どもに秘密 の連絡先を教え監護親に内緒で連絡して来るよう勧めるなどの行為は、子ども にとっての監護親の権威を傷つけ、子どもとの関係を損ねるものである。 DV加害者の多くは、こうした家族関係の操作にも長けている5。DV被害を 受けた監護親が子どもの面会を警戒するのは、別居親による子どもへの操作を 懸念するからでもある。そして、身体的暴力がなくても、この操作の危険と弊 害は起こりうる。監護における子どもの福祉を守るためには、別居親がおこな った過去の操作についての丁寧な調査と具体的な子どもの保護策が欠かせない。 E.関係者の安全が脅かされないこと 面会交流は、また、子どもの監護親・同居の家族、別居親とその家族など、 関係者の物理的・心理的安全を害するようなものであってはならない。面会交 流は、子どもの監護における子どもの福祉を増進するために行うものであり、 父母間の牽制や報復のために濫用され、関係者の安全を脅かすようなことは、 子どもの福祉を害することでもある。 2) 実施のための条件 次に、面会交流が、子どもの監護の一環としてなされることに照らせば、面 会交流は、次のことを確保し、懸念を除去して行われるべきである。特に、子 どもと面会する別居親は、面会交流をリードする親として、子どもの気持ちに 配慮しなければならない。 5 DV加害者による家族関係操作について、ランディ・バンクロフト他『DVにさらされる 子どもたち』 (金剛出版、2004 年)p58~82、p95~参照。 5 A. 別居親が無断で面会場所に現われなかったり、勝手に面会をやめないこと 面会交流の約束は、別居親の子どもとの約束である。約束の日に、無断で現 れないとか、勝手に面会をやめてしまうようなことは、子どもに、ひどい失望 を味わわせる。未成熟な子どもは、身勝手な親を怒るより、 「自分は捨てられる ような子どもなんだ」と感じてしまうかも知れない。子どものための面会交流 を約束しておいて、子どもをそんな気持ちにさせることがあってはならない。 B. できない約束をして子どもの期待をあおらないこと 「お父さんと一緒に暮らそう」など、別居親だけで決められもせず実現しな いことを子どもに話し、子どもが現に訪ねて行くと「一緒に暮らせない」とい う別居親がいる。進学援助など子どもの切実な願いを、実現の段取りもなく面 会時に申出、子どもを失望させることもある。子どもはおとなの、特に親の言 葉には信用をおいていいと思って聞くのであるから、無責任な言葉で期待をあ おり、裏切る結果になるのは残酷な仕打ちである。 C. 監護親の監護方針を尊重し、日常監護との調和をはかること 面会交流の機会に、別居親が、監護親のしつけの方針に反して子どもに放縦 を許したり、むやみにプレゼント攻勢をかけて子どもの歓心を引いたり、日常 生活とかけ離れた歓待をして帰宅が辛くなる等の子どもの心情に配慮しないこ とは、子どもを混乱させ、心の負担を増す。別居親が子どもからの尊敬を得る ことも難しくする。 D. 子どもの発達を理解し、子どもの関心とニーズを尊重すること 子どもが親に求める監護の内容は、子どもの状態や成長段階によって変化す る。それは、別居親との間でも同様である。例えば、子どもに障がいがあり療 育に通う必要があれば、生活の中で「用事」でないことのために子が親と過ご す時間は短くなる。子どもが成長して、自らの関心と活動・対人関係を広げれ ば、親と過ごす時間は年齢とともに減るものである。従って、これらの場合に は、子が別居親との面会交流に割ける時間も、短縮するであろう。他方で、別 居親は、面会を通じて、子どもの関心や感情・考えを理解するよう努め、子ど もの年齢に応じた質の面会交流をはかる努力が求められる。 E. 子どもに対して、別居親についてニュートラルな態度でいること 子どもの監護親は、子どもにとって最も頼りにする人である。監護親を頼り に思うからこそ、子どもは監護親の感情に敏感である。監護親が別居親や面会 6 交流に否定的な気持ちを持っていると、子どもはそれを感じ取り、幼いほど、 面会交流に対して「疾しい」気持ちを抱え、辛くなりがちである。 監護親自身が別居親に対して否定的な感情を持つことは、別居・離婚に至っ た関係からも、やむを得ないことである。ただし、子どもが別居親と面会交流 することは、それが前記「3」「1)」の絶対条件を満たし、「2)」の実施条件 が確保されるなら、監護親が日夜の監護を通じて、目標にしている子どもの福 祉に貢献しうる。したがって、子どもに向けては、監護親は、別居親に関して ニュートラルな態度でいるよう配慮する必要がある。 F.開始時期〜関係者の生活と心の落ち着き 子どもの心には、親の別居・離婚がそれ単体ではなく、それに先立つ両親や 家族の不和を間近にみてきた負担、親の別居・離婚後に起こる生活の大きな変 化とそれに戸惑いながら慣れて行かなければならないストレスが相まって、大 きな負担になる。同様の負担は、程度は違え、双方の親や他の家族にも起こっ ている。このような子どもと関係者にとっては、それぞれが新しい生活を軌道 に乗せ、とりあえず落ち着いて生活が送れるようになることが先決であり、同 時に円滑な面会交流を開始する基礎である。 G.面会の時間・場所〜子どもにとっての安全 面会交流の目的は子どもの福祉にあるのであるから、面会及び面会待ち合わ せの時間や場所は、子どもの福祉を害さないよう配慮するべきである。 H. 子どもを連絡手段等に使わないこと など 面会交流は子の福祉のために行われるべきであるから、別居親との交流以外 の目的で利用されるべきでない。監護親・別居親のいずれからであれ、面会す る子に他方親への伝言や要求を託すようなことは、子どもを道具にするもので あり、そのような親の言動に子どもが愛情を感じることは困難である。 4 面会交流についての協議 1) 面会交流協議への子どもの関与 現行法では、子どもの別居親との面会は、父母の協議により(民法 766 条)、 協議ができない場合に、家事審判(乙類)で定めることとされている。そして、 審判で定めるに際して、子どもが 15 歳以上の場合には、その陳述を必ず聴くこ 7 ととされている(家事審判規則 54 条)ものの、実際には就学前後から子どもの 意向調査がなされることが多い。 しかし、「子ども」の年齢幅は 0 歳から 20 歳未満と、非常に大きい。子ども は出生して以降、年々目覚ましい成長を遂げ、親から独立して行く途上にあっ て、その能力や精神的・情緒的成熟度は大きく変化していく。したがって、こ の間、監護の内容は大きく変化するし、別居親との面会もまた変化するのが当 然であって、20 年を通じて一律の面会方法を決めて、行うことなど、子どもの 福祉の観点からは、あり得ないことである。 また、その定め方についても、子どもの成長につれて、順次子どもが決めら れる範囲を増やし、別居親との面会を子ども自身に委ねていくようにするべき ではないだろうか。別居親との関係もまた、子どもにとっては、次第に増える 主要な人間関係の一つであって、その距離や濃さは、次第に子ども自身の選択 によっても、測り、探って決めて行くべきものだからである。実際、本調査の 体験者(もと子ども)ヘのヒヤリングで、面会がうまくいった事案では、子ど もが、監護親抜きで、別居親とコンタクトをとり、会い、次の会い方を決めて、 面会してきた事案が多かった。そこでは、子どもか別居親がほかの事情で忙し くなれば、頻度が減り、メールでの交流にウエイトが移るなど、互いの事情に 配慮し合って交流が継続していた。人間関係の基本は、会いたいと思う者の間 で、互いの気持ちや都合を確かめながら、次に会う日時を決めるのが、普通で ある。親子どもでも、そこは同じはずである。 2) 面会交流協議の提案 そこで、面会についての協議は、前記「3」「1)」の懸念がないことを前提 に、「2)」の事由が確保されるよう配慮しつつ、子どもの成長に即して、段階 的に異なる形で行われるべきではないか、と考える。別居親と面会する当事者 は子どもであって、監護親ではないし、子どもが成長するほど、面会に関して 子どもに委ねる部分が増え、監護親の関与と責任は減っていくものだからであ る。 なお、以下には、一応の年齢を示したが、境界となる年齢は、未だ吟味を要 するうえ、本来柔軟に扱われるべきものである。人間の発達には個人差があり、 障がいなどハンデキャップを負っている場合もある。同じ人が1人としてない ように、子どもの成長発達も子どもの数だけ多様性があるものであるから、監 護に関しては心して柔軟さを持って議論する必要がある。 A. 子どもが 15 歳以上なら、面会については、子どもが別居親と協議して決め 8 る。 民法上、15 歳以上の子どもは、法定代理人の代諾によらず、自ら縁組の承諾 をすることができ、自ら離縁の協議や裁判をすることができる(民法 797 条・ 811 条)。遺言能力も認められている(同 961 条)。これらは、15 歳に達した子 どもは、未成年と言えども、ある程度の判断能力は備わり、自身に身近に関わ る事柄についてその判断に委ねうるとの認識に立つものである。 縁組は法的に父母を創り出す身分契約であり、これについて 15 歳の子どもが 自身で承諾をなしうるのでれば、別居親との面会交流について、判断すること にいかなる障害があるであろうか。15 歳は、義務教育が終了し、社会人になり うる年齢であり、かつて数え年での 15 歳は成人を意味する「元服」の年であっ た。子どもの成長を親からの独立にむけたプロセスとして支持するなら、「3」 「1)」であげた懸念がない限り、子どもに協議を委ねるべきではないだろうか。 B.子どもが 10 歳以上 15 歳未満なら、面会の大枠については監護親が別居親と 協議し、具体的な事項は子どもが別居親と話し合って決める。 例えば、 「面会は 1 ヶ月に1回、別居親が所定時刻に子どもの家の最寄り駅ま できて、子どもがそこに自分で出向いて別居親と会い、所定時刻(ただし、日 没1時間以上前)に最寄り駅で別れる」という程度に監護親が大枠を決め、具 体的な日時は、子どもが別居親とメールや電話で決める、子どもは監護親には 決まった面会日時と予定を告げて、当日、最寄り駅に出向く、という具合であ る。 就学後、子どもは親の付き添いなしで登校することが始まり、小学3〜4年 生になれば、自分で移動する範囲も広くなる。面会のための安全な待ち合わせ 場所と時間を監護親が決めておくことで、別居親との交流を子どもの意思で重 ねて行くことが期待できるのではないだろうか。 C.子どもが 10 歳未満なら、面会については、監護親が子どもに代わって別居親 と協議する。 面接日時の設定や変更なども、この時期の子どもにはできないことが多いの で、監護親が代行したり、子どもをバックアップする必要もある。 子どもは、就学後は、親の付き添いなしで小学校へ登校できるようになり、 次第に行動範囲を拡大させていくが、毎日決まって通う小学校とは異なり、別 居親との面会場所へ出向くことができるとは限らない。未就学時ならなおさら である。そこで、この場合には、子どもを別居親が自宅に送迎するか、監護親 側が面会(待ち合わせ)場所まで送迎するという作為が必要になることが多い。 9 3)面会に対する監護親の責任・別居親の責任 このような子どもと別居親の面会に関する定めを見ると、面会交流に関して 双方の親が負う責任(役割)は、いずれも子どもに対して負う責任(役割)で あることがわかる。監護親と別居親の間で、具体的な権利義務が創設されるわ けではなく、双方の親が、子どものためにそれぞれ誠実に責任を果たし、以っ て、子どもによりよい監護を行う役割を担うものと理解するべきではないだろ うか。 監護親の面会に関する責任は、主に、 (ア) Cでは、子どものために面会日等の調整を行うこと、監護親が送迎する ことになった場合はその任を果たすこと、別居親が子どもの自宅に送迎 する場合は子どもを引き留めないこと、 (イ) A~Cにまたがって、子どもの面会に否定的な言動を示して、子どもが 面会に行くことを妨害しないこと である。 他方、別居親の面会に関する責任は、主に、 (ウ)面会の当事者として、子ども(側)との面会に関する約束(Cで子ども の送迎を引き受けた場合の送迎約束を含む)を守ること、 (エ)面会中子どもの保護者として事故防止を含め子どもの安全と健康を守る こと、 (オ)面会後子どもがスムーズに日常監護に戻れるような終わり方に配慮する こと、 (カ)面会を、監護親の身辺調査など不適切な目的に濫用しないこと である。 このうち、特に(イ)や(カ)は、他方親への悪感情や不信に子どもを巻き 込むもので、子どもの福祉を損なう恐れが大きいので、厳に戒める必要がある。 4)面会協議の有効期限 子どもの成長につれて、監護の内容は変化する。監護の一部である面会の内 容も変化しなければ、子どもの成長に追いつかない。すなわち、ある時期に、 よく吟味して面会方法について定めても、子どもが成長する以上その定めは早 晩、必ず、妥当しないものになる。したがって、面会方法を定める場合には、 その有効期限は最大限、前記「2)」にあげた「C」「B」の各段階終了時まで とするべきである。 このように定めれば、子どもにとってよい面会ができた事案では、別居親と 10 子どもの良好な関係の上に、次の段階の面接協議に子どもは積極的な意向で臨 むであろう。面会交流の定めに有効期限を導入することは、現在の面会交流の 質を高める努力を別居親に促す効果も期待できる。子どもが、自身の経験を振 り返って、次の面会についての考えを持ち、親との関係を調整していく機会に もなる。 5 裁判所による決定 前記「4 面会交流に関する協議」がまとまらない場合はいかにするべきであ ろうか。 現行法は、離婚時、父母で面会交流を含め、子どもの監護を協議することと し(民法 766 条)、その協議ができない場合に、家事審判法の乙類審判手続きが あり、この審判に前置して調停手続きが設けられている。 しかし、前記1で述べたように、子どもの複雑で敏感な気持ちを個別事情に 応じて柔軟に考慮し、状況に応じた対応が求められる監護・面会交流において 具体的定めをするには、司法的決定はおそらくもっとも適さない。したがって、 子どものために有益な面会交流を進めるためには、まずは、前記「4」の当事 者間の協議を支援する方策に重点を置くべきである。 そして、前記「4」のAの協議については、調停はしても審判は行わないこ ととするべきである。Aは、面会の当事者である子どもと別居親の話合いであ り、その両者が面会交流することに合意できないのに、裁判所が「会え」と命じ るようなことは、当事者の人格への侵入になりかねないからである。 前記「4」のうち、B及びCについては、協議に代わる調停のほか、審判に より、子どもが別居親と面会するか否か、その際の面会の枠組み、関係者がそ れぞれどのような役割を果たすかを適宜定めることとなる。その際、裁判所は、 「6」に述べる「面会交流に関する子ども支援」で記録された事案の経過が分 かる具体的資料や、子どもの精神保健等の観点からの専門意見などの外部資料 も丁寧に評価しながら、後見的に、監護における子どもの福利を最大化する決 定をなすよう努めるべきである。 なお、この裁判所の決定についても、将来の子どもの発達を考慮し妥当性を 持ちうる期間として、決定の妥当する有効期限をつけるべきなのは、前記「4」 で協議について述べたところと同じである。 また、このような面会審判が定めるのは、子どもが別居親との面会を拒否し ないことが前提であるから、裁判所が監護親に面会時の子どもの送迎役割を割 り当てたとしても、子どもが別居親との面会を拒否した場合に、監護親が子ど 11 もを説き伏せて面会場所に連れていくまでの責任を負うわけではない。子ども には子どもの気持ちがあり、それを監護親も別居親も裁判所も、尊重するとい う原則を抜きに、子どもの福祉はあり得ないからである。 6 「面会に関する子ども支援プログラム」の提案 家庭で紛争が続いた末に親が別居し、生活が変わり、別居親と面会交流する ことに直面する子どもの心境は、非常に複雑で、整理がつかない不安や当惑を 抱えがちである。子どもはしばしばこういう状況を、監護親の支え以外に、体 験を共有するきょうだいとの連帯によって乗り越えたり、力をつけて周囲に話 せるようになることで重荷をおろしたりできることが、子どもからのヒヤリン グ調査で浮かび上がった。監護親にとっても、別居親にとっても、面会交流に ついては情報もなく相談先もなく、子どもの気持ちを大事にするほど迷いが深 まる状況にある。 そこで、面会関係者に対し、子どもの福利を擁護する立場で支援する方策と して、以下のような支援が望まれる。ただし、これらの支援を実現するうえで もっとも重要なのは人材の育成である。これまで、別居親との面会という場面 で、子どもの福祉を最優先に子どもを支援する活動は殆ど例がない。したがっ て、このような支援を担う人材の養成については、別途慎重に検討する必要が ある。 (1) 子どもの面会に関する相談 子どもの面会に関して、子ども、監護親、別居親のいずれからも相談を受け 付ける。 ここでは、子どもを面会の当事者として支援する立場で、相談を聴き、子ど もの福祉を最優先に、相談者と一緒に考え、助言したり、適切な専門機関・専 門医等にリファーしたり、(2)の ADR の手続きにつなげるなどの支援を行な う。 従来、未成年の子どもが、親から独立して面会交流について相談できるとこ ろはなかった。子どもの声を丁寧に聴く相談場所をつくることで、面会に関し て子どもが抱える様々な問題を知り、子どもの福祉を増進させる新たな課題に 取り組むことができる。 12 (2)面会協議支援(ADR) 子どものための面会を決めるために、当事者の協議を支援する。 その際、子どもの利益-安全、意思・気持ち、監護環境を重視する。 現在、家裁で面会交流について調停が行われているが、そのような作用を ADR として行うものである。子ども面会支援プログラムでこれに取り組む意義は、 子どもの視点に立ち、前記面会交流の「絶対条件」と「実施のための条件」に 基づき、子どもの福祉を最優先にした協議ができるよう支援することにある。 (3)面会実施支援 面会実施に関わる支援メニューは以下の通りである。 A.日時・待ち合わせ場所の調整、キャンセルの連絡 子どもが 10 歳未満で、面会交流日時の調整やキャンセルの連絡などを、監 護親と別居親でする必要がある場合(前記「4」「2)」「C」の場合)に、子 どもの親の依頼を受けて、これを代行するものである。 電話・メールなどの親どうしの直接のコンタクトをなくすことで監護親の不 安定化についての懸念が解消できる場合などを想定したものである。 B.子どもの送迎 子どもが 10 歳未満等で、面会交流の待ち合わせ場所までの送迎を、子ども の親の依頼に基づいて代行するものである。 面会交流のための子どもの送迎を代行することで、双方の親が子どもの受け 渡しのため直接接触した際に、厳しい緊張や感情が噴出して、子どもを不安に することが防止できる場合などを想定したものである。 送迎時に子どもの気持ちや最近の出来事、面会交流の感想などを聴くことで、 子どもの緊張を開放したり、変化を観察し、子どもに有益な面会を支援できる。 C.面会立会い 面会場所を提供し、モニタリングして、記録し、有害・不適切な面会交流に ならないように制御するプログラムである。 これは、所定の面会場所での立会により、子どもの連れ去りや暴力的言動、 別居親の嗜癖などによる子どもの安全や操作への懸念が払拭できる場合を想 定したものである。 13 懸念を払拭するためには、面会場所に関する整備と、交流されるメッセージ を理解し子を守れる訓練を受けた人材の立ち会いといった環境整備のほか、面 会に関して、例えば下記の事項を含むルールをもうけることも必要である。 —面会交流中の安全確保のための基本的ルールの例示— ■子どもの身体的安全を保障するために ・面会する親(別居親)は、子どもより先に来所して、後から帰ること。 ・面会する親(別居親)は、同伴者を連れてきたり、車を待たしていた りしないこと ・危険な所持品を携帯していないこと ■面会者が、アルコールや薬物の影響下にないこと ■面会者が、子どもに悪影響を及ぼさないために、 ・面会者の適切な服装をすること ・子どもに対して操作的に働くプレゼントなどを持ち込まないこと ・暴言、暴力、同居親への誹謗中傷、などを行わないこと ■子どもの心理的な安全を保障するために ・子どもが困惑するような質問や言動をとらないこと ・子どもと「二人だけの秘密」を作らないこと ・ 子どもを利用して、相手方の情報を得ようとしないこと D.相談 面会実施中に(1)の相談を利用するものである。子どもの面会を実施して 起こる事柄につき、子ども、監護親、別居親からの相談をうけ、子どもの福祉 原則に立って、助言するプログラムである。 (4) 業務記録 上記(1)~(3)の支援プログラムでは、いずれも支援業務の記録を、医 療カルテのように子どもごとに作成・管理し、上記すべての支援メニューを通 して、連結して利用できるようにする。 すなわち、 「面会に関する子ども支援プログラム」を提供した際に得られた情 報は、原則として「子どもの情報」として扱い、子どもの福祉に貢献できるよう 使用する。例えば、子どもの面会交流に関する再協議や子どもの監護の裁判の ために、子ども、双方の親、裁判所から開示を求められた場合は、開示する。 ただし、安全のために提供者が秘匿を求めた情報は開示しない。あるいは、 「面 会に関する子ども支援プログラム」が行う当該支援に必要・有益な範囲で、他 14 の支援メニューの記録が利用できるようにする。 業務記録の保存は、子どもの成人後3年が経過するまでとし、子どもが成人 後廃棄までに引渡を求めた場合は、子どもに交付する。 (5) 利用者 支援プログラムのうち(1) (2)と(3)Dの支援は、子ども、監護親、別 居親を利用者とし、(3)A~Cの支援は監護親と別居親を利用者とする。 支援への利用者の協力が必要なものは、利用契約を締結し、協力を確保する。 (1)と(3)Dの支援について、子どもの利用は無料とする。 (6)今後に向けて 「面会に関する子ども支援プログラム」は、現行法のもとでも、新たな施設 をつくらずとも、なしうることである。むしろ、子どもの監護に連なる面会に 関する支援では、子どもの意向をアセスできる人材の育成と確保こそが決定的 に重要で、かつもっとも遅れている。本調査では、多くの体験者が、 「面会に子 どもの声を聞いて欲しい」と求めた。彼らは、子どもを親の付属物ではなく、 独立した人格の主体と認めて尊重することを、あとの子どもたちを代弁して、 異口同音にしかし強く求めた。それを歪曲せず、応えていく責任が、おとなに はある。 15
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