第2回 SSRI(日本安全保障戦略研究所)セミナーに参加して H28.6.15 (南シナ海問題講演に対する孫子的観察による所見) 文責 (SSRI 客員研究員)前原清隆 基調講演1:「グレーゾーンの戦い」で南シナ海を侵略する中国への対応・・・・樋口譲次 SSRI 上席研究員 基調講演2:「南シナ海問題と国際法」・・・・・・高井晋 SSRI所長 日時・場所:平成28年6月10日 Ⅰ.基調講演1 グランドヒル市ヶ谷 【グレーゾーンの戦い】 で南シナ海を侵略する中国への対応 はじめに ※中国は従来の三戦(心理戦・メディア戦・法律戦)に加えて(地図戦+歴史戦)+サラミ・スライス戦術+ キャベツ戦術を駆使している。 1.国際情勢(東・南シナ海問題の国際的背景) (1)脱近代先進国(日・米・欧)の油断と中露の「力による現状変更」への軍事的挑発 (2)日米欧と対立し、中露が協調・連携する構造・・・・・冷戦再燃(第2次冷戦?) まとまりのある第3次世界大戦への引き金にも。先ずはウクライナ紛争の解決を。 2.南シナ海(東シナ海考慮)紛争問題(課題)・・・・グレーゾーンの戦い (1)米国の軍事的プレゼンス(域内における大国の重し)の低下 (2)中国と ASEAN(南シナ海沿岸国)との間の「力の不均衡~力の空白」 (3)域内各国の領土領域・主権に関する主張の交錯と問題の未解決 特に、「中国の9(10)段線」主張の異常な突出・・・・・国連海洋保条約との不整合 (4)「地域協力機構」としての ASEAN の弱体 (5)「グレーゾーンの戦い」阻止のための有効な政策や戦略戦法等の未開発 (6)その他 3.「グレーゾーンの戦い」を駆使した中国の南シナ海進出への対応策 ― 「too late」 事態への対応策に「決定打」なし ― 上記の問題点に対して総合的な対応策を打ち出し、中国の行動を阻止するとともに、その成果を 無効化することが当面の課題 1 4.国際情勢への対応 (1)現実主義の立場からの国際政治への取り組み・・・・飽くまでもリアリズムで取り組む (2)中露関係の分断による中国の孤立化・・・・ロシアとの融和 5.南シナ海(東シナ海も考慮)紛争への対応 (1)米国のプレゼンスの強化 ア.「アジア太平洋へのリバランス」戦略の確実な履行 ・・・・・ コミットメントの信頼性回復・向上 イ.米軍の前方展開戦力の強化 ウ.ローテーション配備を含む新たな戦力展開拠点の構築 エ.米国と関係国との戦略的融合、特に「第一列島戦」各国の領域防衛との整合 (2)中国周辺諸国による「力の不均衡~力の空白」の早急な是正努力 ア.集団的自衛権含む日米豪等のネットワーク化による一体運用 イ.ASEAN による海空戦力構築を中心とした更なる防衛努力 ウ.日米豪等による ASEAN に対する積極的な能力構築支援・・艦艇更新・教育訓練・ISR ネットワーク化 (3)南シナ海における領土主権に係わる諸問題の法的解決の促進 ア.力による現状変更を容認せず、法的拘束力ある「南シナ海に関する行動規範(COC)」の速やかな成立 イ.中国の主張する「9(10)段線」に対しては、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき結束して原則堅持 (4)ASEAN の結束と地域協力体制の強化 親中国家(ラオス・カンボジア?)の切り崩しと領土領域・主権に係わる諸問題での共同歩調 (5)「グレーゾーンの戦い」阻止のための実効性ある対処法の構築と部隊・装備等の配備運用 ア.「情報」:①中国の力による現状変更の実態につき国連等の場に於ける積極広報の実施 ②日米・ASEAN 等にとって望ましい国際世論の形成 イ.「外交」:①国際法・」国際裁判所の最大活用による執拗な異議申し立ての実施 ②ASEAN の共同行動に対し日米や友好国による積極的支持の表明 ③海洋安全保障(対中海洋政策)における日・米・台・ASEAN(特にフィリピン・ベトナム)・豪・印の 連携強化一体化 ウ.「軍事」:①岩礁埋め立て・軍事拠点化により実効支配の既成事実化を容認しない強い意思の表示 ⇒ 航空機・艦艇等の近傍派遣の繰り返し ⇒ 中国が軍事行動をとれば国際法違反で対抗措置が可能(国家責任条文第9条) ②警戒監視体制のネットワーク構築・特に国際共同パトロール部隊の編成と継続的活動 (参照:ソマリア沖・アデン湾の海賊行為抑止のための「多国籍連合任務部隊(CTF151)」 ③ASEAN 諸国の弱点や不備に着目した軍事力の展開 2 ⇒対戦戦の強化・小型高速 MSL 艇・地対艦 MSL 等の配備/展開 ④同盟国・パートナー国との軍事演習・訓練及び共同行動の実施 エ.「国内」:各国の対応すべき事項 ①軍・警察(海洋警察)・その他の国家機関・自治体・国民等の一体化した 【隙間の無い防衛体制】の構築 ②グレーゾーン対処のための「領海警備法」(一例)の制定などによるシームレスな法整備 オ.「経済」:①防衛強化に資する空港・港湾等の戦略的なインフラ整備支援 ②貿易投資の多角化の推進(中国から ASEAN・インド等への多角化) ③経済制裁(状況悪化の場合)など 6.我が国の安全保障政策への反映 (1)各種問題へ柔軟な対応 沖ノ島問題・中国公船問題・東シナ海ガス田開発問題・弱点や力の空白を衝く中国の戦法問題等 (2)ソフト面・ハード面における整備 ①領域警備法等の整備 ②防衛予算の増加(GNP2%程度・・NATO は義務化) ③核抑止力の強化 Ⅱ.基調講演2 【南シナ海問題と国際法】 -中国の南シナ海進出と国際法上の問題点- はじめに ※「南シナ海(九段線の内側)は2000年前に中国人が発見し、管轄して来た」-王冠中 副参謀長- (2016.6.1) 1970年調査によれば石油230億t・天然ガス16兆㎥の資源。中国は 2016.1.1に漁業管轄 権を設定した。 ※2016.6.9 接続水域への中国海軍艦船侵入は、既存国際法に対する挑戦であり、「今後国際法とし て考えても良いのではないか」とも思わせる“サラミスライス戦術”の一環である。 1.南シナ海の歴史 (1)南シナ海の特性 ア.群島(南沙・西沙・東沙・中沙)で構成 イ.東西の海上輸送ルートの要衝 ウ.漁協資源の他に石油・天然ガス・希少金属等の豊富な地下資源が存在 (2)南シナ海の歴史的背景 ア.1939年:日本の南沙群島・西沙群島の領有宣言(仏との外交交渉の後)・西沙群島と新南群島(南沙 群島)を「台湾県高雄市行政区画に編入」しリン鉱石等の開発 3 イ.1946年:日本敗戦と共に中華民国(ROC)が太平島を軍事占領し領有権主張 ウ.1947年:中華民国が「11点線で囲む南シナ海全域の地図を発表」し領有権主張 エ.1952年:中華民国との対日平和条約発効;①台湾・澎湖諸島に関する全ての権利を放棄 ②南沙(新南)・西沙群島の全ての権利放棄 (3)南シナ海における中国(中華人民共和国)の国家的実行 ア.1950年代:西沙群島の一部を支配 イ.1974年:ベトナム領有の西沙群島全部を軍事力で攻略し永興島に海軍基地建設 ウ.1979年:中越戦争後に11段線の内トンキン湾内の点を修正し9段線に変更 エ.1988年:南沙群島海戦でベトナムから5つ岩礁とサンゴ礁を確保 オ.1992年:領海法(領海及び接続水域法)制定・尖閣諸島・南沙・西沙を中国領土と明記 カ.1995年:フィリッピンのミスチーフ礁(南沙)を占領し漁民保護理由に恒久施設建設 キ.1997年:国防法を制定し海洋権益確保を海軍の主要任務に確定 ク.1998年:排他的経済水域及び大陸棚法制定・9段線水域に適用 ケ.2001年:哨戒行動中の米海軍電子偵察機EP-3が中国海軍機F-8と接触 コ.2009年:米音響測定艦インペッカブルの航行妨害・九段線水域に漁業禁止法を適用 サ.2010年:海島保護法を制定し島嶼の管理を強化/台湾と同じ核心的利益と表明 シ.2010年:国防動員法制定・在中国外国企業及び在外中国人に対し協力義務 ス.2011年:フィリッピンの探査船に退去命令/ベトナム資源探査船の曳航ケーブル切断 セ.2012年:南沙群島9の島嶼に本土と直結する計来電話通信ネットワーク整備・フィリッピンのスカボロ -礁(中沙)で中国艦船とフィリッピン海軍艦船が対峙・三沙市を設置し(太平島も行政区画に 編入)三沙警備区の設置決定 ソ.2014年:新たに10段線を発表(台湾の東に1断付記) タ.2015年:仲裁裁判所はフィリッピンの訴えに管轄権を決定・中韓間でEEZ境界画定交渉再開 ⇒法律戦への基盤を着々と築いてきている。 2.九段線水域の管轄権主張 (1)2001年の米海軍機EP-3Eや2009年のインベッカルに対する妨害 (2)生物資源に対する主張 ア.2016.3.4:西沙群島付近で中国上海警備当局船がベトナム漁船を襲撃し食糧などを略奪 イ.2016.3.20:インドネシア領ナトウナ諸島沖のEEZで違法操業中の中国漁船を検挙・曳航中に 中国公船が奪取 4 ウ.2016.3.27:マレ-シア・ボルネオ領沖EEZへ87隻の中国漁船が海警1隻とともに侵入 ア.2016.5:西沙群島付近でベトナム漁船が中国船に体当たりされ顚覆、他漁船の救助された (3)非生物資源に対する管轄権の主張・ 2014.5.4:南シナ海で中国とベトナムが衝突・ベトナムのEEZ内で書いて資源掘削を表明 3.九段線水域の法的地位 (1)9段線水域と中国の国内法 ア.領海及び接続水域法:南西東中沙全域;12海里内での外国船無害航行権・外国軍艦の事前許可制 イ.排他的経済水域及び大陸棚法:200海里までのEEZ・自然延長論の大陸棚・UNCLOS原則の体現 ウ.9段線水域の法的地位 ⇒11段線 ⇒9段線 ⇒10段線 ⇒251段線(太平洋全域) ⇒排他的経済水域? 歴史的水域? 単なる公海? ※南シナ海のトライアングル構築後は【通行税徴収】? (2)国連海洋法(UNCLOS)における排他的経済水域(EEZ)の制度 ※領海基線から200海里までの ①水域 ②海底 ③地下 *主権的権利:①天然資源(生非生物)等の探査・開発・保存・管理 ②経済目的の探査・開発その他の活動 *排他的管轄権:構築物の設置・海洋科学調査・海洋環境保全 *境界画定: ①相対する国の距離が200海里未満の場合は国際法に基づく合意(74条) ②合意不可能な場合は暫定的取り決め(74条) *他国のEEZにおける船舶の航行や上空飛行の自由 *沿岸国は人工島・施設及び構築物に対する排他的管轄権 *自国のEEZ内の生物資源の保存管理のための法令を制定権と遵守確保のための乗船・検査・拿捕 等の必要な措置 (3)交錯する南シナ海の排他的経済水域の主張 台湾・中国・ベトナム・フィリッピン・インドネシア・マレーシア・ブルネイで主張。 (4)歴史的水域の概念・・・海洋法条約は湾の規定を歴史的湾について適用しない。 ア.歴史的水域や歴史的湾の概念 *それ自体ではない水位や湾の条件を満たしていないにも拘わらず、沿岸国の長期にわたる主権の行 使によって内水とみなされるもの *国際慣習法上確立しているが要検討の詳細については明確でない イ.ICJ 漁業事件(1951年) 5 *歴史的水域は、内水として扱われるが、歴史的権原が無ければ内水の法的性格はなかった水域 ウ.米国は一貫して他国の歴史的湾を否定 *カナダのハドソン湾・パナマのパナマ湾・ソ連の Peter 大帝湾・リビアのシドラ湾・インドの Mannar 湾・ ベトナムのトンキン湾・オーストラリアの Anxious 湾・Encounter 湾 エ.瀬戸内海の法的地位 *テキサダ号対銀光丸事件(1966.11);和歌山地裁・大阪高裁判決:歴史的水域として内水たる地位 オ.中国の代表的主張 *9段線内の水域は「歴史的水域」で公開が存在する余地はない。 *南中国海は昔から中国の領海で、鄭和が7回に亘る西洋大航海で南中国海を開発し行政管轄確立 *戦後、中華民国政府の海軍は同水域や島嶼で研究活動を開始 *1947年に11段線を領域主権と権益に境界線として世界に発表、国際社会からの反対なし (5)歴史的水域の成立要件 ※「歴史的湾を含む歴史的水域の法制度」(1962.3)・・国連事務局が学説内容をまとめた文書 *権限行使の要件:実効的な主権行使(外国船舶の航行排除や漁業禁止) *継続の要件:相当の期間に亘る主権行使が慣行にまで発達していること *黙認の要件:権限行使に対する他国の黙認の存在或いは抗議の欠如が必要 (6)内水と領海の制度 *内水の制度:領海基線(干潮時)の内側水域・海洋資源の独占と船舶通航の統制 *領海の制度:①領海基線から12海里水域・海洋資源の独占 ②外国船舶の無害通航権を認める義務 ③全ての船舶の無害通航権 (7)251段線の主張:2016年公表(中国文部省)・太平洋のほぼ全域 4.南沙群島に於ける人工島建設 (1)西沙群島・南沙群島・中沙群島への進出 *「西沙群島の戦」でベトナムから全糖を奪取(1974年) ⇒漁船の進出⇒保護名目で政府公船⇒中国海軍進出 ⇒ウッディ―(永興)島に2000m 滑走路建設(1988年) *「南沙群島海戦」(1988年)でベトナムからファイアリー・クロス礁・クアテロン礁・ヒューズ礁・ガベン礁 ・スービ礁・ジョンソン南礁・ケナン礁などを奪取 ⇒ミスチーフ礁は1995年フィリッピンから奪取 *中沙群島のスカボロー礁を2014年フィリッピンから奪取 6 (2)急ピッチの人工島建設 5.南沙群島に於ける人工島建設の一例・・・・元の姿は岩礁(Reef)であった (1)ファイアリー・クロス(永暑)礁の滑走路建設(3000m)(1988年ベトナムから奪取) ベトナム(550m)・フィリッピン(1000m)・台湾(1195m)・マレーシア(1368m) (2)ジョンソン南(赤瓜)礁の人工島計画(1988年ベトナムから奪取) *隣接岩礁(ベトナム連領中)と海提による連接・・・・・単なる岩礁を逐次埋め立て人工島と為す *滑走路・軍港・民港・観光港・内港・道路・軍事区・居民区・観光区・海鳥区・果樹移植区等を建設予定 (3)ガベン礁のビル建設(1988年ベトナムから奪取) *2015.5には数階建てのビルが完成している (4)ヒューズ礁の CWIS? クロアテン礁の人工島 (何れも1988年ベトナムから奪取) (5)スビ礁の人工島(1988年ベトナムから奪取)・・・幅60mの滑走路有り 6.南沙群島と中沙群島における人工島建設 ミスチーフ礁(1995年フィリッピンから奪取)・スカボロ-礁(2012年フィリッピンから奪取) 人工島は着実に軍事基地化が進んでいる模様 7.島の制度と人工島建設 (1)国際海洋法の規定に於ける島の制度・・・島と岩の定義 *島は事前に形成された陸地で、水に囲まれた高潮時に水面にあるもの *人間の居住又は独自の経済的生活を維持すること無い岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない ⇒岩は領海の起点となることが出来る ⇒低潮高地は高潮時には水没しているが低潮時に一部(干出岩)が海面にあるもの ※一日でも住んだ岩は最早岩ではなく島であると言う判例有り⇒中国の常套手段 (2)国際海洋法に於ける人工島建設の規定 *排他的経済水域・大陸棚・公海における人工島建設は可能 *平和的に限定され、周囲500m以内の安全水域できる *人工島(構築物)建設には適当な通報と恒常的な措置を行う義務がある *人工島(構築物)は島ではなく領海・排他的経済水域・大陸棚と無関係 ※干出岩の人工島は領海・排他的経済水域・大陸棚と無関係 ※海洋環境の保護・保全の義務 ※国際海洋法の解釈の相違は平和的手段による解決義務 7 (3)米海軍艦艇による航行の自由作戦(FONOPs) ア.実績 *スビ礁(干出岩)周辺海域におけるラッセンの FONOPs(2016.1) *西沙群島のトリトン島周辺海域におけるカティス・ウイルパーによる FONOPs(2016.1) *ファイアリー・クロス礁周辺海域に於けるウイリアム・ローレンスによる FONOPs(2016.5) イ.軍艦の無害通航権の問題 *沿岸国の平和・秩序・安全を害さない通航の権利 *軍艦の通航:事前通告制(日米)と事前許可制(中国) (4)中国の対応 *海上民兵(東・南シナ海で操業する漁船や商戦に乗り組み、中国軍の事実上の管理下で海洋権益を 守る任務)の攻撃 *米太平洋艦隊スイフト司令官は、南シナ海における中国「海上民兵」に懸念を表明し、中国海軍の 幹部と本件について話し合った おわりに ※フィリッピンの常設仲裁裁判所への提訴(2013.1.22)に対し、裁判所は以下の管轄権を認めた ①スカボロー礁は EEZ や大陸棚を主張できない ②ミスチーフ礁・セカンドトーマス礁・スビ礁は干出岩であり占拠その他の手段によって占有できない ③ガベン礁・マッケナン礁・ヒュー礁は干出岩であるが、これ等の環礁の低潮線はナムイット島(ベトナム占 拠)とシンコエ島(ベトナム占拠)の領海の幅を測定する場合の基線として用いる事が出来る ④ジョンソン南礁・クアテロン礁・フェアリークロス礁は EEZ 又は大陸棚を主張できない ⑤中国はスカボロ-礁における伝統的な漁業活動を妨害してフィリッピン漁民の生計活動を不法に阻止した ⑥中国はスカボロ-礁・セコンドトーマス礁において海洋環境の保護や保全に関する国連海洋法条約に 規定する義務に違反した ⑦中国はスカボロ-礁周辺海域を航行するフィリッピン船舶に対し衝突する様な危険な方法で法令執行船 を運用し、国連海洋補助言う悪に規定する義務に違反した ※南シナ海防空識別区の設定構想と飛行の自由の問題 ①フィリッピンの主張(アキノ大統領) *中国の「領有」の主張は国連海洋法条約に違反している。 *「九段線」こそ、紛争の原因だ。 8 *中国の「人工島」は、低潮高地であり、同条約上、周辺の「領海」は主張できない。 *外交的努力は尽くした。 ②中国の主張(習近平国家主席) *中国は2000年以上の活動の歴史を持ち、主権に疑いはない。 *仲裁裁判所には管轄権はない。中国は裁判に参加しない。 *「低潮高地」であるかは論評しない。低潮高地が領土とみなされるかどうかは主権問題であり、国際 法の解釈には適さない。 *二国間で解決すべきだ。 Ⅲ.孫子的観察による所見 1.はじめに 当日のセミナーでは、南シナ海問題について、死活的且つ急務でもある安全保障問題の核心的問題に ついて、①軍事・政治的観点及び ②国際法的観点からの説明がなされた。内容は極めて具体的であり且 つ整理された項目建てと成っている為に、理解し易く又問題点の核心について一層の理解が深まった。 確かに、問題点の把握はかなり深められたものの、相手が中国というルールや国際的常識が通用しにく い相手であるだけに、これ以上彼らの術中にはまる訳にはいかないし、我が国をはじめ関係各国或いは関 係国同志が共同歩調を取ることが極めて重要だということは論を待たないだろう。 孫子には正詭・正奇・虚実・陰陽等を駆使した貴重な教えが有る。平たく言えば「表と裏」という表現も可 能だろう。多用されている『鄧小平の24文字戦略』の中で用いられている『“韜光養晦“』や1980年代に鄧小 平が多用した『”難得糊塗“』等も裏孫子的な意味合いが強い。概して日本人は「正の孫子を好み、詭(裏)の孫 子を嫌う。嫌うというより詭に弱い」ともいえる。逆にユダヤ人・アングロサクソン・中国人等は「詭に強く、詭を 好みこれを多用する」と言っても過言ではないだろう。 従来から、南シナ海は中国・台湾・ベトナム・フィリッピン・マレーシア・インドネシア・ブルネイ間で領有権 の主張がぶつかり合っていることは承知していたが、今回のセミナーを通じて、南シナ海における中国の主 張や対応(行動)について、戦後の歴史だけでも 『力の空白こそ平和を乱す元凶』 という現実をあらためて 知らされた。それにしても251段線なる新たな中国の主張が出てきたことには驚きである。今後は、親中家 ともいわれるオーストラリアの首相やフィリッピンの新大統領の対応や経済駅に中国依存のラオスの動向に ついても慎重に見極めながら、日・米・印・$6($1 諸国等との共同歩調を整えていくこと重要だろう。加えて 「二国間解決という」中国の術中に陥ることなく、【表と裏の二元的思考】で注意深くフォローしていくことが肝 要であろう。 2.孫子で考える南シナ海 9 (1)孫子の表裏 孫子の特性は、平素から五要素「五事」で国力を整備し、七つの要素「七計」で彼我の国力を比較(廟 算)して和・戦を決する。この場合、謀攻等も加味して“戦わずして勝つ(敗けず)”ことを最優先する。已む無 く戦わざる場合には「五事」(表)で蓄えた力と「詭道」(裏)を以て短期の決戦を期す。つまり、孫子は「表裏」 で目的を達することを求めている。これに対し、我が国古来の兵法書ともいわれる【闘戦経】は表に徹して おり孫子の様な裏部分を厳しく批判している。 ア.孫子の表 【孫子】の表は『五事・七計』であり『廟算』である。裏は『詭道』であり『欺情報』等である。【五事】とは 『道』・『天』・『地』・『將』・『法』を謂う。一般的に国創りの柱となる要素とでも考えればよい。『道』とは為政者 (の資質)であり、現在の中国では一党独裁政治における習近平/中国共産党とでもいえるだろう。1億弱の共産 党員対民衆(12.5億)という実態、更に突き詰めれば共産党幹部対民衆であり、人口爆発と高齢化・福祉問題・ 格差問題顕在化・少数民族問題・テロ対策・軍事力への依存度・“中国的な普遍的価値観”などの観察は欠かせ ない。『天』は主として時制に関するものであるが、時制的特性としては、経済的成長減退の時期への遭遇、外 需・外資依存の限界、都市と農村の乖離、政治家と一般庶民の格差乖離、共産党の健全性への疑問なども注目 しなければならない。『地』とは一般的に地勢一般であるが、地政学的な中国の価値観や中国独特の思想、自然 破壊や環境汚染等の実態を把握しておかなければならない。『将』は将軍のことであるが人財とでも解釈できる 。軍に限ってみれば、中国共産党の軍であり、未だ近代化の途上にあり「質より量」の域にある。軍内の対立(改 革派の不満)・クーデターの危機説、軍内に一人っ子問題の影響なども把握する必要がある。 『法』は一般的な法制と考えればよいだろう。国内・国際的法制の整備遅れと独善性こそ現在の中国の特性で あり、国内法制の整備によって国際的ルールの表裏を駆使して独自の価値観を他国に押し付けるやりかたこそ 【中国の特性を持ったルールに基づく問題解決】だとでも言いかねない。一方、我が国では所謂普通の国家並み の安全保障・防衛に関する五事は必ずしも整ってはいないことが “南シナ海問題に対応する” 際の大きな課題 と成っている。 【七計】は『どちらが勝れるか?』 という彼我の相対的評価を行う 7 大要素である。『主』つまり為政者は人心 を得ているか? 国際的な信頼性は? 軍との関係は? 『将』はどちらが有能か? 『天地』はどちらが有利 か? 『法令』はどちらが円滑に機能しているか? 国際的信頼性は? 『兵衆』はどちらが強いか? (編成・装 備・制度・国際性等) 『士卒』 どちらの訓練が行き届いているか? 『賞罰』 どちらが公明正大か? イ.孫子の裏 代表的な裏孫子は『詭道』として広く知られているが、第1篇で 「兵とは詭道なり」(始計篇)と断言してい る。兵とは戦いとか戦争を指すが、兵法の常道である 『五事七計』や『廟算』を守ったうえで、実戦や国際政治 を含む冷戦にあっては、臨機応変の道が詭道である。 故に *能なるも不能に示し *用なるも不用を示し *近くともこれを遠きに示し遠くともこれを近きに示し *利にしてこれを誘い、 *乱にしてこれを取り *実にし みだ てこれに備え、 *強にしてこれ避け *怒にしてこれを撓し、 *卑にしてこれを驕らせ *佚にしてこれを労し、 10 *親にしてこれを離す。 *其の無備を攻め、其の不意に出ず。という14詭道が記されている。 兵法研究者の中には、孫子と闘戦経を以て表裏一体としているが、孫子は既に表裏一体なのである。 1980年代に鄧小平は「24文字戦略」を打ち出したが、これは“裏孫子”ともいえる。一般に中国人や欧米人 は裏孫子に長け、日本人は裏孫子を苦手としている。 (2)中国詭道の今昔 ア.国共内戦時期の毛沢東の基本戦略 満州事変以降の日中戦争を終わらせるための「塘沽停戦協定」により、日中(蒋介石)間の停戦が整って は望ましくないと考えるスターリンとルーズベルトは毛沢東を利用して西安事件(1933年)を仕組んだ。これ により蒋介石は張学良に逮捕されたが、国共合作を約束され、蒋介石は日本軍と戦う事を条件として釈放さ れたが、それ以降、日中間の如何なる和平交渉も進展せずまま、日米開戦まで引き込まれ敗戦まで日中間 の和平は為らなかった。昭和20年8月の我が国の敗戦までの毛沢東の基本戦略は、①三段階戦略、つまり 持久・対峙・反攻の戦略段階を踏む途中で抗日戦争間は持久・対峙で終わった。次に、②国共合作戦略の 中身は“7分の発展(中共の戦力養成)・2分の対決(対蒋介石)・1分の抗日”であり、国共合作は隠れ蓑で ある。勿論、スターリンとルーズベル(トルーマン)トからの支援が有ったからこそ、その後の蒋介石との内戦 に勝利し、中華人民共和国成立後の国創りに成功したのである。 イ.中華人民共和国成立後の戦略 (ア)対米戦略:中ソ対立時期には対ソ対抗に利用し、中ソ雪解け期には経済市場として利用、経済発展 期には大国関係を主張し、経済低迷期に入りロシアへの接近を計るのであろうか。 (イ)対日戦略:竹のカーテン期には日台関係を批判し、日中友好期に入ると経済発展に利用、経済発展 後は日米離反を計る。経済低迷期に入り国際的緊張関係を創りつつ国内の緊張緩和と体制維持に躍起に なっている。 (ウ)尖閣諸島:毛沢東時代は沈黙(持久)を保ち、鄧小平時代は主権の帰属を棚上げ論(対峙)を以て我 が国の実効支配を認めつつ、不法侵入中国人の即逮捕中国送還という是々非々で臨んだ。然し、我が民主 党野田政権時に「尖閣諸島の国有化」後、尖閣問題は更に先鋭化した。更に習近平は尖閣諸島に関し、台 湾と同じような核心的利益論(反攻)を展開するようになった。若し我が国が実効支配の力を緩めたならば、 その次は占領するのだろうか。否、その次は沖縄だろう。東シナ海・南シナ海の大半を領海と主張し、力によ る現状変更を強行するのは正に戦略的辺境論に基づく中華思想の現われである。何しろ、251点線を持ち 出した中国である。 (エ)南シナ海問題では、中華民国時代の9(11)点線を引き継ぎ、在越仏軍撤退後には西沙の1/2を 在越米軍撤退後には西沙全域を夫々ベトナムから奪った。更に、在越ソ連軍縮小・撤退後には南沙北部に 進出、在比米軍撤退に伴い南沙南部に進出した。その後、オバマ政権の無策に伴い南沙諸島埋めたて軍 事化が着々と進んだ。 11 かつて鄧小平は1970年代後半に【冷靜觀察、站穩脚根、沈著應付、韜光養晦、善於守拙、(絶不當 頭)有所作為】 の24文字の国家戦略を打ち出した。「冷静に観察せよ、我が方の立場を固めよ、冷静に事 態に対処せよ、我が方の能力を隠し好機を待て、控えめな姿勢をとることに長(た)けよ、(決して指導的地位 を求めるなかれ)、「必要な事をやり抜け」という内容である。だが今や習近平は【有所作為】を地で行ってお り、やりたい放題である。つまり、経済力も軍事力着実に強化した末のことである。 ”韜光養晦“ は元来、 兵や戦略用語で「力を隠せ」が本来の意味であり、その間に力を養う事である。鄧小平が多用した”難得糊 塗“は「馬鹿になれ」という意味であり、何れも詭道の一環でもある。力の空白や力の均衡が崩れた時に中国 は行動を起こし“既成事実化”を続けて今日に至っている。“ 韜光養晦 “も ” 難得糊塗 “ も正に詭道であ る。だが我が国では、一部の政治家でさえ平和全保障法制を憲法違反だとして位置付けているのだから国 の危機管理など念頭にないのだ。つまり、国家観なしに政治に参加している政治家達である。【冷静な観察 と足場を固める】こともせず、『持てる力迄簡単に放棄する現在の日本』は、いつの日か、【必要なことを遣り 抜かれてしまう】だろう。国を思う国民と国家観に優れた政治家が火急に必要だ。 (オ)現在進行中のその他の詭道の数々 「中国は覇権や拡張を求めない」と主張するが、岩礁に軍事基地を建設する。最近の国防白書では 「軍事抗争への準備」という帝国主義への引き込みを主張する。「宇宙の武装化と軍備競争に反対」と主張 する一方では、衛星破壊実験で宇宙ゴミをまき散らす。「核軍拡競争には加わらない」と主張しながら、核兵 器保有国で唯一核軍拡を行っている。世界第2位の経済大国と言う一方では、「中国は世界最大の発展途 上国であり ODA が必要」という詭弁を弄する中国大使(駐日)まで出てきた。 更には、2030年までに2005年比で 60~65%の CO2 削減のまやかしである。中国の言う削減は、排出 される CO2 の総量そのものではなく、GDP 当たりの排出量の引き下げであり、分母の GDP 値が経済成長により 大きくなれば分子の CO2 排出量の増加が供される。現に中国は2014年秋から、「2030年頃をピークに CO2 排 出量を削減させる」と宣言した。これは言い換えれば、「2015年の現在から15年間は CO 2 の排出量増加を続 ける」と言っているのである。 又、南シナ海に隠れた東シナ海油田開発に関して注目しなければならない。即ち油田開発の関わるプラト ホームの数にある。1999年(H10.11)迄は4か所であったが、2013年(H24.6)迄に6か所へに増え、2015年 (H27.6)迄に12か所に増え更に4か所建設中である。このプラットホームが経済的のみならず、情報収集やヘリ コプターなどの利発着と言った軍事的な使用にも供する事を考えれば、南シナ海の蓑に隠れた経済的・的軍事的 な拡大を着実に行ってきたことを裏付ける。 「歴史戦」も詭道である。 避諱大国である中国や韓国は、「国家や親族の為には嘘もつくことは当たり前」 という価値観がある。嘘で固められた歴史観で国連や諸外国に向けた「反日歴史戦争」こそ、詭道の一種である。 これに敗れるわけにはいかない。 去る4月30日の日中外相会談で「王毅外相」は4つの対日要求を申し出た。①誠実に歴史を反省し「一 つの中国」政策を守ること。②「中国脅威論」や「中国経済衰退論」を撒き散らさないこと。③経済面で中国を 12 対等に扱い互恵を基礎に各領域の協力を推進すること。④国際的・地域的協力で中国への対抗心を捨てる こと。『己をしっかり知った上での詭弁』である。“吾が不調や不利な立場の責任はすべからく相手に有り”と いうことである。 6月14日に中国雲南省で行われたASEAN外相特別会合においてASEAN側は、“南シナ海「深刻な 懸念」”を表明した。去る4月中国の王毅外相はブルネイ・カンボジア・ラオスを訪問して、3か国間で「南シナ カイ問題は当事国同士の直接対話で解決すべきだとの認識で一致した」と発表したばかりであった。共同記 者会見もキャンセルされ、王毅外相一人での会見となった模様である。この背景には、中立的立場にあった と思われるシンガポールやインドネシアからは国際法遵守を促された模様であり、親中国派と言われるカン ボジアからの抵抗もあった可能性も報じられ、一層のASEAN結束が問わるであろう。 (3)備えこそ最大の危機管理 ア.備えあれば患いなし 『用兵の法は、其の来たらずを恃む事無く、吾の待つ有るを恃む。其の攻めざるを恃む無く、吾が(敵の) 攻むべからざる所有るを恃む。』(孫子第8九変篇) 世界の歴史は戦いの歴史ともいえる現状において、孫子の教えの基本は“平素からの備え”を強調して おり、これこそ危機管理の原点であり且つ最終目標であろう。だが我が国の危機に関する規定が存在しない ために種々の問題が生じているのも否めない。隣の中国では総体的国家安全観という概念を打ち出した。 評論家の石平氏が論評しているが、習近平の言う国家安全とは、外部からの軍事的脅威に対する国家 の安全に留まらず、【政治安全・国土安全・軍事安全・経済安全・文化安全・社会安全・科学安全・生態安全・ 資源安全】の11項目を羅列し、それらの安全をすべて守っていくことが総体的国家安全観であり、危機管理 を目標としている。 イ.表で備え裏を知る 『正を以て合い 奇を以て勝つ』(孫子第5勢篇) 正々堂々とした対応を行い、その結果生じた新たな状 況(情勢)に適切に対応することを奇という。その奇こそ次に生じた新たな状況に対応するための正である。 若し国の防衛・安全保障に必要な正(五事七計)で備えなければ、新たに生じる状況は如何なる奇であろう か?南シナ海で起きた事実をこの60年・70年の間だけでも遡れば容易に理解できる。無策からは正常な奇 は生じない。在るべき正を整え正常な奇を生み出す人物こそ優れた人材と言え、国の宝だと孫子は言う。広 まさし く深く知るということは正しく『正』であり、奇を生み出す前提でもある。 広く且つ深く考えない人達が政治の場で吼え、教育の場で叫ぶ人達は恰も多数者気取りし、これをマス メディアは当然の如くプレイアップし、サイレントマジョリティーを封じ込める。この様な世相の中には、正常な 正奇は生まれない。“正無き所に奇は生まれず、正奇の循環は生じない”のである。 ウ.歴史戦も裏孫子である 「彼を知りて己を知れば、勝 乃ち殆うからず。地を知りて天の時を知れば、勝 乃ち全うすべし」(第十 13 地形篇)。余りにも知られたフレーズである。正を好む者、詭を好む者、相手は様々である中で彼を知ること が大事であるが、これ以上に我を知ることも然りである。 中国を知ることは勿論、米国を知ることこそこれからの日本の進路に大きく影響する。史実を深く知る ことはこれからの歴史戦に立ち向かうには不可欠な条件である。 情報公開やその他の文献等で新たな事実が掘り起こされてきている。*毛沢東の最大の味方は日本 軍であった。*日清戦争以来中国大陸における残虐な行為は中国人の常套手段であり、これを日本軍に摩 り替えた。歴史の捏造や虚実は当たり前に行われている。*沖縄は施政権こそ戻ったが未だアメリカの占領 下にある。バターン死の行軍における捕虜達は距離の半分は貨車移動もあり海水浴もできた。米英軍は 日本軍の攻撃の拠る退却に当たっては「通報を恐れ」現地住民を大虐殺した。これは中国に限ったものでは ない。*中国経済は「趙家の人々」とも言われる習近平・鄧小平・江沢民などと言った300家族5000人とい う特権階級で動かしているという報道もある。 「見ているが見ていない。知らないのに知っているつもりでいる」。加えて「見ているが見ようとしない、知 っているが知らないふりをする」。そしてこれが『自分良し』が先行し、『世間良し・国良し』などが退化した社 会になってしまっている。これも戦後の WGIP(占領軍による宣伝・検閲・極東軍事裁判等による自虐史観の 刷り込み)の成功が寄与したと言える。つまり、日本国憲法・政界・マスコミ・学会・法曹界・教育界・官庁・自 治体・企業等の中で育まれた自虐史観が根付いた結果である。外交と防衛の自主自立を取り戻すためにも 日米関係の歴史を深く知る必要がありそうだが、この研究は別途の課題である。 エ.超限戦の戦いへ備えよ 中国は2000年に現代戦における戦いに関し『超限戦』を発表した。これによれば、軍事・超軍事・非軍 事の24に及分分野での戦いを総合した戦争を想定している。これは米軍における「全次元作戦」に通じるも のである。即ち、*軍事面では核戦争・通常戦・生物化学戦・宇宙戦・電子戦・ゲリラ戦・テロ戦を挙げている 。発表の翌年には9.11が生起し、正にテロ戦争の始まりと成った。*超軍事分野では外交戦・インターネッ ト戦・情報戦・心理戦・技術戦・密輸戦・麻薬戦・模擬選(威嚇戦)を、心理戦は正に中国軍の掲げている三戦 の一部である。*非軍事分野では、金融戦・貿易戦・資源戦・経済制裁戦・法規戦・制裁戦・メディア(輿論) 戦・イデオロギー線を掲げているが、正に法戦・輿論戦は心理戦と共に三戦の一角である。 樋口講師は三戦に加え、地図戦・歴史戦を加味した説明が有った。正に非軍事分野における手段の 一つであろう。 おわりに (1)外には裸・内には青天井の安全を求める愚 マジョリティーであるがマイノリティ振る人達には、最高の社会保障であるはずの国防や安全保障には 頓着が薄く、所謂個々人に関わる社会保障分野には厳しい要求をする。福島にしろ、沖縄の基地問題にしろ 14 、青天井の安全を求めるグループや個人が居る事も確かである。それがイデオロギーや政治的理由であっ たり、正しい判断材料を欠く等」 が混在するのかも知れないが、何れにしろ【愚か】だと言える。社会組織の 末端でもある自治会などに於ける防災活動などに表れているのである。 (2)『正を以て合い 奇を以て勝つ』 国際的付き合いには『詭道』は付き物である。これに耐えこれを駆使出来なければ国家や国民の安寧 は保たれない。「現実を見ていても見えない場合、見えなくても見えたつもりでいる場合」いずれも『正奇の循 環』には立ち向かえないであろう。『戦わずして人の兵を屈するは善の善なり』 孫子が最も本質的に追い求 めた最高善である。我が国が【健全性】を維持できなければ孫子の最高善を追求することも叶わないだろう 。深く知ることの重要性は改めて身に染みた講演内容であった。 (3)強大勝つ不安定国家を隣国に持つ我が国の在り方を問う。 ア.驕兵は滅ぶ 去る6月1日カナダで加中外相会談が行われ共同記者会見が行われた。カナダメディアの女性記者が カナダのディオン外相に対して中国人の人権問題への対応を質問したところ、中国の王毅外相は、横から 口を挟んだ。「あなたの質問は中国に対する偏見に満ちており、傲慢だ。全く受け入れられない。中国人の 人権状況を最もよく理解しているのは中国人だ。あなたは中国に来たことが有るのか」など2分間にわたり説 教したという「オタワ・シチズン」(電子版)社説記事を国内S紙が報じた。何れが傲慢なのだろうか? 兵には義兵・応兵・忿兵・驕兵・貧兵あり。前二者は正義の戦い、後三者は不正義の戦いだと(魏相丙吉 おお ほこ 傳・通玄真経文で)中国古典は伝えている。その中で*『其の国家の大なるを恃み、其の人民の衆きを矜り、 きょう 敵国に威を見さんと欲する者 、之を『驕 』と言う。驕兵は滅ぶ。』とある。正に現在の中国そっくりである。因 みに、*『小故を争いて恨み、憤怒して忍ばざる者、之を忿兵と謂う』 即ち 『敗北に結びつく。』とあるが、 これまた近隣国にすっかり当てはまる。我が国の精神文化の基盤は、『治らす=知らす』と『言向(コトム)け和 平(ヤワ)す』(古事記)が統治と外交の基本に在る。これは唯待つのではなく、正々堂々と五事七計を整えた末 のことであることは論を待たない。 イ.備えあれば憂いなし・憂いなければ備えなし 「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」 「正奇・詭 道・虚実」に長けた人創りこそ「戦わず勝つために」否「少なくとも負けない」ためにも、我慢・忍耐・冷静・教 育・専守防衛戦略放棄・集団的自衛権行使容認・防衛費増・凛然さ・獅子身中の虫対処等を経て【備える】こ とだ。 『其の来ざることを恃むこと無く、以て吾の待つあることを恃む』 “備えあれば憂いなし” “憂いなければ 備えなし” 緊張高き国際情勢、国内外に深く根差す潜在的脅威、そして大自然の脅威を憂いながら、最高の社 会保障を勝ち取るまで“蚤の微力”を尽くす所存です。おわり。 15
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