平成 25 年度 第 1 回ビジネスデスクレポート

平成 25 年度
タイ
第 1 回ビジネスデスクレポート
~タイの環境問題と日系企業のビジネスポテンシャルについて ①~
2013 年 4 月 30 日
1.はじめに
20 世紀前半まで、東南アジア諸国はイギリス(タイの西側のミャンマーとマレー半島)、
フランス(タイの東側のカンボジア、ラオス、ベトナム)
、オランダ(インドネシア)の植
民地支配を受けていました。かかる状況下、イギリスとフランスの両国の緩衝地帯(バッ
ファーゾーン)として、唯一植民地化を免れたタイでは、安定した政治を背景に 60 年代よ
り外資企業の進出による工業化が進み、高成長を続けてきました。特に、80 年代後半から
90 年代前半までは年率 10%前後の高い経済成長率を記録し「東南アジアの優等生」とも言
われました。現在も ASEAN 地域における自動車や家電の生産拠点としての存在感は健在
で、日本企業も 3,000 社以上が進出しています。今後も、ASEAN 経済統合が進むにつれ、
ASEAN、特にメコン地域のリーダーとして成長を続けていくと予想されています。しかし、
数十年間に及ぶ工業化による経済発展は、タイに経済成長だけではなく、環境問題という
「負の遺産」ももたらしています。今回のビジネスデスクレポートでは、2 回に亘ってタイ
における環境問題の現状とタイ国民の意識と政府の関連政策を理解したうえで、日本企業
のビジネスポテンシャルについて考えてみたいと思います。
2.タイの環境問題の現状と政府対策
タイの環境問題は、主に水質汚染、大気汚染、固形廃棄物の処理問題であると言われて
おり、政府もこの 3 つの問題解決に注力しています。
(1)水質汚染
多くの環境専門家は、現在のタイにおける最も深刻な環境課題として水質汚染問題をあ
げています。タイの水質は、地表水、地下水、海水共に 1980 年代から持続的に悪化してき
ました。主な問題としては、溶存酸素(DO)の減少に
よる生物化学的酸素要求量(BOD)の増加、総大腸菌
群(TCB)及び糞便性大腸菌群(FCB)による水質汚
染などがあげられており、原因として下水道設備や生活
排水処理施設などのインフラ整備の遅れが指摘されて
います。世界銀行は 2011 年の報告書で、「タイ国内の
排水は 13%しか処理されていない」と指摘しています。
同国は伝統的な農業国であるため、昔から農業用水の汚
<バンコク市内の川>
染につながる水質汚染には敏感であり、環境行政も水質問題の解決策を最優先しています。
1992 年に制定された国家環境保全推進法(Enhancement and Conservation of National
Environmental Quality Act. A.D.1992)には、首相が議長を務める国家環境会議(NEB)
が、環境の質に関する基準として、①河川、湖沼、貯水池などの水質基準、②河口を含む
海水の水質基準、③地下水の水質基準、④大気中の空気の質の基準、⑤騒音及び振動レベ
ルの基準、⑥その他環境の質の基準の 6 つの基準を策定できると規定していますが、その
内 3 つが水質に関する基準です。特に、工場からの排水規制は厳しく、場合によっては日
本より厳しい規制基準が設けられ、日本企業の中にはその規制に対応するため多額の投資
を余儀なくされる事例もあるようです。
(2)大気汚染
1990 年代までのバンコクは、モータリゼーションと工業化が急速に進み、
「大気汚染世界
ワースト 10」に入る都市の一つでしたが、政府の数十年に亘る持続的な努力により、大気
の質は徐々に改善され、殆どの汚染物質の大気中の濃度はタイ政府が定めている大気環境
基準を満たしています。しかし、バンコク首都圏地域とチェンマイなどの大都市、及び東
部の工業地域では、PM10 以下の粉じん、オゾン(O3)、一酸化炭素(CO)の濃度が依然
として大気環境基準値を超えている状況で、タイ政
府は自動車の排気ガスの基準を強化するなど、大気
汚染問題の解決に注力しています。現状の大気の質
は、北京、ジャカルタ、ニューデリー、マニラに比
べ良好な水準だと評価されているものの、国民から
受けている環境に関するクレームの 85%が「大気の
質と騒音(ノイズ)」に対するクレーム(Pollution
Control Department、2011 年)のため、依然とし
て大気の質の向上には悩まされているようです。
<バンコク市内の渋滞>
(3)固形廃棄物の処理問題
天然資源・環境省(Ministry of Natural Resources and Environment)が 2011 年に発
表したレポートによりますと、タイ国内で発生する固形廃棄物の量は年々増加しています。
その理由としては、政府による観光産業の拡大推進、人口の増加、経済発展などが考えら
れます。2011 年に都市部で発生した固形廃棄物 1,600 万トンの内、再活用されたのは約 400
万トンで、約 25%に留まっております。この低い再活用率は、予算不足による処理施設の
未整備と回収・処理能力の不足が原因です。特に、再活用されず捨てられる固形廃棄物の
約半分は、予算と技術さえあれば、商業的に再活用可能な、ガラス、プラスティック、紙、
金属であり、年間約 150 億バーツ(1 バーツ=約 3.5 円)以上の資産が無駄に捨てられてい
るとの指摘もあります。また、再活用されず処理される固形廃棄物は、94 か所の衛生埋立
場(Landfill System)と 3 ヶ所の焼却場(Incinerator System)で処理されていますが、住民の
反対により最終処理場の追加確保も困難である上、処理コストの問題から野焼きや不法投
棄など不適切な処理も蔓延しているとの報告もあり、それによる大気汚染や悪臭の問題も
発生しています。
今回のレポートでは、タイの環境問題の現況を中心に話してみました。次回は、タイ国
民の環境に関する意識とタイ政府の環境対策、最後に日系企業のビジネスポテンシャルに
ついて話したいと思います。
(ビジネスデスク
住友商事株式会社)