「住まいというサービスと消費者」 連続講座 資料1

「市民科学」第 3 号(2007 年 3 月)
「 住 まいというサービスと消 費 者 」
連続講座
資料1
-日本人が永遠にウサギ小屋から脱出できない理由-
理 由 1 本 来 住 ま いは商 品 で はない。
住 まいに関 する科 学 技 術
建 築 工 学 : 構 造 力 学 ( 耐 震 他 )、 材 料 工 学 、 設 備
工 学 、 環 境 工 学 ( 熱 ・ 省 エ ネ ・ 音 響 )、 e t c
住宅性能表示制度:
建築基準法で定められない
建築法規
建築の品質を規定
・ 建築基準法
(法的最低基準)
・ 都市計画法
住宅品質確保の促進
等級1(建築基準法レベル最
に関する法律(任意で
低レベル)
あり強制力はない)
等級2.3・・
・ etc
高品質なものは法律ではつ
くらず、任意であるとした。
建築確認申請
等級を選択するのは建築主、
法的基準を満たしているか判断。
設計者であり、彼らの設計責
良い住まいかどうか判断したり、保
任を明確化すると同時に、建
証するものではない。
築基準法自体に内在する責
さらに構造の耐震基準も大地震で倒
任を回避した。
壊しないという訳ではない。
施 主 と 利 用 者 の分 離
これでは、良い住まいは作れないと
マンションを作る建築主は、デベロッ
いう反省?から2000年に住宅品
パーでありマンション購入者、入居者
質確保の促進に関する法律、住宅性
ではない。
能表示制度が生まれた。
デベロッパーは売り易いマンションを
設計し売ったら終わりである。一方、
消 費 者 の無 知 と無 関 心
マンションの購入者はマンションの専
住宅は人生最大の買い物といいなが
門知識はもたない素人である。
ら専門知識をもたず見てくれと価格
デベロッパーは結局見てくれが良くて
だけしか興味をもたない。
安い、つまり耐久性など考慮しないお
単なる商品としか考えていないから
客に合わせて設計をしてしまう。
耐久性などにも興味をもたない。
グレシャ ム の法 則 : 「 悪 貨 が 良 貨 を 駆 逐 す る 」 人 々 が 金 貨 を 見 か け で 判 断 す る こ と に
より、コストの安い、つまり金の含有の少ない品質の低い貨幣だけが流通する)
新 グ レシャ ム の法 則 : 「 悪 家 が 良 家 を 駆 逐 す る 」 人 々 が 住 宅 を 見 か け だ け で 判 断 す る
ことにより、品質の低い、つまり耐久性の短いマンションだけが流通する)
* 耐 久 性 の 長 い マ ン シ ョ ン の 設 計 手 法 を S I ( ス ケ ル ト ン ・イ ン フ ィ ル ) マ ン シ ョ ン と い う 。
疑問
「 な ぜ 日 本 人 は 住 ま い を 得 る た めに 人 生 をか ける よう な 大 金 の 借 金 を 抱 える 博 打 を
しなく て はな らな いのか 」「 そも そも 住 ま いと は 大 金 をか け る シ ョッピング の対 象 な のだ
ろうか」
それはいまだ 良 い住 まいを得 る仕 組 みが無 いからではないのか 。
「市民科学」第 3 号(2007 年 3 月)
「 住 まいというサービスと消 費 者 」
連続講座
資料2
-日本人が永遠にウサギ小屋から脱出できない理由-
理 由 2 良 い住 まいとは 住 環 境 も含 むことを忘 れている 。
住まいは建築単体で成り立っているわけで
住宅を商品ではなく社会資産と考える
はない。環境や緑を確保するために建蔽率
とはどういうことか。
が重要である。具体的には戸建住宅であれ
そもそも都市計画とは土地利用計画の
ば建蔽率30%で100坪くらいの敷地が
ことで利用権は所有権に優先する。
良い住まいの条件であろう。
住宅も個人所有権ではなく、社会資産
マンションであっても建蔽率は重要。
の利用権、サービスとして捉えるべき。
従来の都市計画、用途地域制度の建蔽率の
数値は高すぎ、さらに最低敷地面積の規定
国は居住する国民がいなくては存在し
がないから良い住環境ができない。またマ
ない。居住というのは国民の一つの権
ンションは建蔽率を低くすることができる
利でもある。住宅の利用権とは国民主
住形式として再評価すべき。
権のことに他ならない。
そして国と国民は良い住宅をつくる義
公に具体的な住宅地計画をする人が存在し
務がある。
ない。その理由は、住宅は単なる個人の所
有物、資産であると考えていて誰も住宅を
住 宅 ・住 宅 地 を社 会 資 産 とみなす
社会資産と考えていないから。
都 市 計 画 の再 構 築 が 必 要
理 由 3 住 宅 政 策 、金 融 政 策 が 間 違 っていた。
戦 後 ア メ リ カ も 日 本 も 住 宅 建 設 を 景 気 対 策 と し て 捉 え た 。し か し ア メ リ カ は 住 宅 を 社
会 資 産 と と ら え 、ニ ュ ー デ ィ ー ル つ ま り 社 会 政 策 の 一 環 と し て 行 い 、金 融 融 資 は ノ ン
リコースローンとして半公共の金融機関が保証し、返済できなけ れば解除ができた。
金融機関はリスクを負うため厳密な建物チェックをすることとなった。
日本は住宅建設を自己責任による個人資産の形成と考え住宅融資はサラ金と同様の
金 融 機 関 は い っ さ い リ ス ク を 負 わ な い リ コ ー ス ロ ー ン と い う 仕 組 み を 採 用 し た 。ま た
産業振興策として日本独自の土地担保融資をするため地価のインフレを意図的に起
こ し 、不 動 産 融 資 と し て 建 物 の 品 質 と は 関 係 な く い く ら で も 融 資 し た た め バ ブ ル が 生
まれる端緒となった。
土 地 と 通 貨 の 金 融 価 値 が 連 動 す る 土 地 本 位 制 で あ る と 、景 気 が 良 く な れ ば 地 価 が 上 が
り、景気が悪くなると地価が下がるが収入も下がる。
バブルが非難された理由は地価高騰により庶民は家が持てなくなるというものだっ
た。しかしバブルが破綻した後、分譲住宅の敷地面積は広くならなかった。
土 地 本 位 制 を 変 え て 、建 物 に お 金 を か け 品 質 を あ げ な い 限 り 日 本 人 は 永 遠 に ウ サ ギ 小
屋の住宅ローンに悩まされる。
「市民科学」第 3 号(2007 年 3 月)
「住まいというサービスと消費者」
連続講座 資料3
「持続可能な住まいを実現するために生活者の意識をどう高め、制度面から生活面にいたる改善策
をどう打ち出すか」
ソフトの課題
日本の分譲マンションつまり区分所有法では、管理維持が権利の錯綜化により時間とともに困難となる。しかし世界のマンショ
ンの仕組みには様々のものがあり工夫がなされている。
①アメリカのコンドミニアム:入居者による管理組合が共用部を一括所有
②欧米のコーポラティブ(住宅協同組合):住宅協同組合が建物を所有。組合員の出資により賃貸マンション管理組織を運営。
③ リースホールドマンション:マルセイユの事例:超長期の定期借地システム。マルセイユ市が土地を所有。マンション経営者
が99年間土地を借り、賃貸住宅を建てて賃貸する。99年後にすべてマルセイユ市のものとなる。それは自治体によるコス
トをかけない都市計画であった。
④ バイレント方式:オランダで生まれたマンションの仕組み。スケルトンは賃貸、インフィルは購入する。
上記①②④を実現するためには、現行の法規では法律改正必要。
すでにある日本の一つの解は30年間の定期借地マンションが地主による賃貸マンションとなる「つくば方式」。
(融資体制もある
が30年では短すぎる?④に移行する暫定策か)
次に④については所有としなければ現行で可能と考えられる。戸建の定期借地は保証金1000万円などとして家賃は不要である。
マンションの場合も同様、保証金を1000万円としてインフィルの家賃は不要とする。そのことによりスケルトンの家賃のみと
なり家賃は半額となる。
ただし現在、融資体制がない。住宅金融公庫の賃貸マンション融資の基準では、建設前に入居者から先に敷金などお金をもらうこ
とができない。
マンションは誰がどのように建てたら良い
のか。
利用権マンション:(暫定的に)土地と建物は地主所有
とし、長期賃貸の権利(例えば100年)を証券と
して権利化。戸別のインフィルの設計造作などは個
人の自由として原状復旧義務は負わないこととす
る。
理想的にはマンションの土地・スケル
トンは道路と同じ公的存在。ただし管
PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)による
理は共(組合)で行う。さらに住戸(イ
資金調達:自治体が企画(住宅地の社会資産化プロジ
ンフィル)は私(個人)の所有とする。
ェクト)をつくり、ノンリコースローンで事業者に
(ただし現行法規では不可能)
融資する。
方法 1 とりあえずの現実策として、どうしても買わなくてはならない時(?)には長命マンション、具体的にはSIマンショ
ンを選ぶ。SIマンションが希望する地域に無ければ、買わずに賃貸マンションに住む。
方法2 自ら利用権マンションを建てる。具体的にはコーポラティブマンションと同様の考え方とする。つまり、利用権マンシ
ョンに住みたい人が集まり事業企画を立てる。そして地元の不動産屋に相談し、土地を有効利用したい地主を探す。
地主はインフィル分プラスアルファの資金が手に入ることにより建築資金の借り入れが容易となる。長期で借りてく
れれば事業リスクも減るメリットがある。
入居者は、恐らく1000万円程度の当初資金で100㎡程度のマンションに100年間住む事ができる。家賃は相
場の約半分である。借金は無か、極めて少なくてすむから人生をかける博打をしなくて済む。インフィルは自由設計
とし自分でリフォームも自由というメリットがある。
まず、利用権のマンションを作ろう。実現しない限り前には進まない。
「市民科学」第 3 号(2007 年 3 月)
連続講座・シンポジウム「科学技術は誰のために?」
事前インタビュー(その 1)
「住まいというサービスと消費者」
平松朝彦さん
(サステイナブルマンション研究会・代表)
上田:実は、私たちのこのシンポジウムで、生活のいろんな分野のものを取り上げるとい
うことで今回企画したんですけども、住の問題というのが、非常に比重が大きくいろんな
問題に関連している面があります。それから、メールでも尐し書かせていただきましたけ
れども、消費者にとって本来もっときちんとしておくべきことがあるのに、それがぜんぜ
んいきわたっていないということを著しく感じる分野だと思っているんです。そういう意
識もありまして、私たち環境という面から、たとえば自然環境共生型の住宅をやっていら
っしゃる方とか、それからいわゆる自然住宅と言いますか、材木、木を使った利用を中心
に、こういろんなネットワークで活動している方のお話を聞いたことがあるのですけども、
もっと根本的なそもそも一般庶民にとって家を作ったり買ったりするっていうことそのも
のが、今どんな風に日本ではなっているかということが、もっと見てみなきゃいけないな
っていう気持ちになっているんですね。そこで、今年になってこの本読ませていただいて、
ああやっぱりそうだったかみたいな感じですごく驚きまして、しかもちょうど耐震偽造の
問題が起こって、なんでこんなことが起こるのかっていう意識がやっぱりすごくあったも
のですから、ぜひお呼びしたいっていうことで、お声をかけさせていただきました。最初
に平松さんのこの本お書きになるまでの簡単な経緯といいますか、それから問題意識みた
いなことからお話いただけるといいかなと思うんですけれども、いかがでしょうか。
平松:そんなに大それたことを考えて始めたわけじゃなくて、昔から住宅が好きで、学校
は建築で都市計画を専攻していたのですけれども、卒業後に住宅メーカーに行きました。
住宅メーカーに興味を持ったのは、住宅をいかに大量生産しながら安く作れるか、それに
大量生産って車じゃないですが
消費者のニーズを入れながら、いかに大量生産して安く
できるかということに、プレハブメーカーがチャレンジしているという構図に興味をもっ
て、10 年間勤めまして、それはそれなりに非常に勉強になったと思っています。その後、
マンションに興味が移りまして、マンションのデベロッパー、非常に小さいところだった
んですけども、今みたいなちょっとマンションブームが起きるちょっと前だったんですが
当時マンションデベロッパーというと大企業しかなかったんですけど、そのときにある
小さい会社がチャレンジするというので、入ってみまして、10 年間マンションデベロップ
メントの設計とか企画に携わってきたわけです。そのときは普通の勤め人として、淡々と
設計とかそういうことをしていたんですけれども、あるとき仕事でオランダの住宅を見学
することになりまして世界的に有名なハブラーケンという MIT の先生が、オランダでいろ
んなマンションの仕組みを開発したということで、見に行ったんですね。そのときに先生
がおっしゃるには、人間っていうのは変わるものです。家族構成とかたくさんあって、家
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「市民科学」第 3 号(2007 年 3 月)
族もいろいろある。そして住んでいるうちに状況も変わるから、可変性ということをもっ
と重視しなきゃいけないんだということをおっしゃいまして、まさにそのとおりだと思い
ました。それに対して、今のマンションというのは、ちょっと違うんじゃないか。ようす
るに、見た目のことで差別化をしていて、商品化により私がいた 10 年間のうちに品質って
いうのはすごく上がったんですけども、結局その業界が求めているテーマっていうのが、
ようするに売れるための差別化でしかないんですね。しかし本当に重要なものっていうの
は、人間、そこに住む人間なんだということに気がついたというか、教えられたといいま
すか。しかしその可変性ということについても、実は日本でもずっと昔から研究はされて
いるんですけども、なかなかうまくいかない。それはいったいなぜなんだろうかというこ
とで、それについて取り組みたいという意識が芽生えていったんです。そんなことで当て
もなかったのですけどもマンションデベロッパーを辞めて、その後サステナブルマンショ
ン研究会っていうのを作りました。最初にしたのはインターネットのホームページで、住
宅やマンションというのをどういう風に選ぶかというウェブサイトをつくりました。当時
耐久性とかの問題、維持管理の問題、省エネルギーの問題いうことが、ほとんど認知され
てなくて、ようするにマンションで広告すべきことというのはプラン、面積とか、仕様と
かそういうことばっかりで本当はどのくらいもつように設計されているのかっていうこと
は、ぜんぜん知らされてなかったんです。それで佐藤美紀雄という住宅評論家の先生に賛
同していただいて、毎月 10 ずつ物件のパンフレットを送っていただいて 5 年間でだいたい
600 棟ぐらいのパンフレットや全部の図面を見ましてさらに分析して分からないのはデベ
ロッパーに尋ねました。それらを ホームページで公開したのです。その後、佐藤先生がお
亡くなりになられ、その企画もなくなってしまったのです。当時スケルトン・インフィル
に取り組まれているデベロッパーもおりました。ちょっと分かりにくいんですけども、ス
ケルトン・インフィルの定義自体が非常に難しくて、共有部分と専有部分という見方もで
きるし、躯体がコンクリートであって、内部をそんなに寿命のないインフィルというので
すが、インフィルをどういう風に改築できるかということが非常に重要で、それが建物に
長く住めることなんだということなんです。そういうマンションをスケルトン・インフィ
ルマンションと言っているんですけども、そのこともなかなか非常に説明し難いのです。
最初に「マンションが破綻する理由」という本を日刊建設通信新聞社から出したのですけ
どその中で各デベロッパーの、スケルトン・インフィルの方式の分析とかやったのですが、
結局、みなさんスケルトン・インフィルマンションは一つくらいやるんですけど、みなさ
んその後やめてしまう。その理由は一体なにかというと、理論的には優れているのだけど
も結局それでコストが高くなってしまうということです。一つは配管を外配管にするため
に、どうしても排水勾配をとらなきゃいけなくなり床下が高くなってしまうので、一階あ
たりの階高が高くなってしまい、10 階建てられるところが9階にしかならないとかです。
そのため、マンションデベロッパーとしては売る面積つまり商品が小さくなってしまい利
益が減ってしまうということになります。
さらにそのスケルトン・インフィル長寿命と
言っても消費者に意味がよく分からないっていう部分があるということですね。パンフレ
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「市民科学」第 3 号(2007 年 3 月)
ットで詳しく説明しても、たくさんある商品の宣伝文句の一つにすぎない。たくさん宣伝
文句が並んでいるわけで、お客さんにそれを伝える努力もデベロッパーは実はしていない
んです。そのため、お客さんに意味がぜんぜん伝わっていない部分が非常に多いというこ
との苛立ちみたいなものも感じながら、技術者の端くれとしてじゃあコストダウンをどう
やっていくかということに取り組んでいる状況です。そんな中でサステナブルマンション
研究会を作って、一時は国会議員の方に理解していただいて、国会の衆議院とか参議院の
議員会館で 10 数回勉強会を開きまして、いろんな先生方とお話させていただき、ある住宅
の専門部会の中で、スケルトン・インフィルということは重要だという話もさせていただ
きました。そういうスケルトン・インフィルが重要だってことは官僚の方はもう十分ご存
知なんですけども。ただ官僚の中にもいろいろな方がおられるようで、理解を示される方
と、今までの政策がどうだったのかという問題で、逆に自分に刃が向いてしまう部分があ
りまして、微妙だったのだと思います。第 155 回衆議院の国土交通省の委員会の中で井上
和雄国会議員が、当時の扇国土交通大臣にスケルトン・インフィルにしないと、建物が 30
年しかもたないと指摘しマンション建て替えの問題があるけど、そもそもこういう問題に
ついて放置しておくのかという質問を投げかけまして、そのとき扇大臣は今までのマンシ
ョン排水管の仕組みは間違っていた、とおっしゃったんです。これからはスケルトン・イ
ンフィルにしなきゃいけないとおっしゃられたんですけども、その話も国会で言われたに
もかかわらず、デベロッパーの方もぜんぜん知らないし、国民も知らない。そんな状況で、
今度『亡国マンション』を出したということなんですね。そこで思ったのは、おそらく住
宅に関して国もいろいろ考えていて中に技術者もおられるし、技術者はこうやりたいと思
っておられる方もいる一方、コストがあがるのはよくないと考えていたり多様な意見があ
るのだろう。さらに今、住宅ローンで破綻してしまう人がたくさんおられます。島本慈子
さんというルポライターの方が『住宅喪失』という本をちくま新書から出されてその中に
も書いてあるのですけども、2002 年から 2003 年の間の 11 ヶ月のデータで、金融公庫の返
済ができなくなって、競売にかけられた物件が 2 万 2 千件あるんですね。つまり一月に二
千人が払えなくなっています。払えないっていうことはお金がなくなってしまうことです
から、破産するということとほとんど同じなんですよね。これも慶応大学の島田晴雄先生
という内閣の特命顧問の方が住宅市場改革という本で指摘されているんですけど、今まで
の持ち家政策は間違っていてこれからは賃貸住宅に展開しなければいけない、あるいはス
ケルトン・インフィルにしなければいけないということを書かれています。この方は経済
学者ですが、専門的な知識を持たれて言われているわけです。そういった中で 1 年間にだ
いたい 2 万 4 千人の方が破産されると。10 年間だと 24 万人の方が破産されていることに
なるにもかかわらず、ぜんぜんマスコミに報道されていないわけですね。そういったこと
をまず知るべきで、なぜそうなってしまうのかということについて、いろんな問題があり
ます。国会でも議論になったのですが、島本さんが『住宅喪失』でもノンリコースローン
が望ましいのではないかと各党にアンケートされたのです。民主党以外、ノンリコースロ
ーンは経費が増えるからよくないみたいなことを言っているんですね。基本的にローンの
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仕組みが、分かっていないんじゃないだろうかと思うわけです。ようするにローンの担保
としてたとえば一千万とか五千万とか取っているわけでそれを評価してお金を貸している。
ですから評価したのは金融機関の責任のはずなんです。それが売れなくなったら金融機関
が負担するというのが本来の担保の仕組みですから外国では海外ではそういった担保の仕
組み、ノンリコースローンが当たり前なんですね。ところが各党が何を言っているかとい
うと、住宅を評価する専門家がいないとかその分経費が上がるとかそれで金利が上がるか
もしれないとか非常に後ろ向きなことを言っておりまして、まあそういったことも非常に
腹が立つわけですけれども。
上田:なるほど。今お話を聞いているだけでも、かなりいろんな問題が錯綜して入ってい
る感じがするんですけども、一つはなぜ持ち家なりその分譲のマンションがこんなに寿命
が短いのかっていうのがありますよね。それに対してまるであたかもずっと一生そこに住
み続けるかのように、私たちは思ってそこに高いお金をかけて買うと、ローンを組むとい
う形になっていますよね。でもそのたかだか 20 年 30 年先を見て本当はしなきゃいけない
ことなのに、なぜみんなそうならないのかみたいな話は基本的にまずあると思うんですけ
ども。
平松:まず日本にコンクリートの集合住宅が現れて 50 年くらいですけども、こんなに寿命
が短いって誰もわかってなかったんですね。一つはコンクリートって言っても様々なコン
クリートがありまして、圧縮強度や水セメント比とかで一応昔の日本建築学会の目安では、
たとえば普通のコンクリートの強度のコンクリートだったら 65 年持ちますということで、
財務省の減価償却では 65 年になっていたんです。ところがいつの間にかその学会の基準が
変わりまして、その程度の基準では 30 年ですとか、下がってしまったのです。だから昔の
ずっと 65 年もつとみんな、私も 2000 年まではそう思っていました。普通のマンションっ
て 65 年コンクリートはもつんだと思っていたのですね。もう一つは配管の問題です。配管
は金属ですから錆びていつか駄目になると。100 年も 200 年も持つものじゃないから、取
り替えるように設計すべきだという話はかつてもあったわけです。最初の公団の標準プラ
ンでは共用排水管はそういうことをきちんと考えて、後で簡単に交換できるように最初は
外にあったんです。家の中に作ると、家の人が引越す大工事になってしまうのです。とこ
ろがいつの間にか共用排水管が家の中になるようになってしまって、その辺のいきさつは
ちょっと分からないんですけども、おそらく外に出ると格好悪いとか、いろんな意見があ
ったと思うんですけれども。結果的に中になってしまい、さらに日本のマンションは狭い
ですから、配管は極めて奥の方とか、目立たないところに入ってしまうんですね。あと日
本ではヨーロッパとは違う部分は、水道水にカルシウム分が尐ない軟水って言われている
わけですけど、ヨーロッパの場合はカルシウム分が多くてそのため防錆効果を発揮して、
多尐長く配管が錆びないという現象があります。さらに日本では水が悪いために塩素を多
く入れたりする。だから国や場所によって相当違うのかもしれませんけども、日本ではそ
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れで錆が促進されるという悪い状況も重なっているんです。ただもちろんヨーロッパでも
配管が劣化したり漏水するという問題は出ていまして、その場合もやはり配管の交換は大
変なようです。ただ大きい部屋に配管が露出していると、交換は割りと簡単なんですね。
日本のマンションは要するに 60 平米くらいのところの一番奥まったところトイレの後ろと
か、お風呂の後ろとかになっちゃうと、それを交換するためにお風呂をどけたりトイレを
どけたりしなきゃいけなくなる。そういうことで工事が非常に大変になってしまうんです。
プランによってもそうとう状況は違うのですが。配管交換の技術開発というのはされてな
いことはなくて、また、たとえば配管の中の防錆をさらにやり直すという工法もあるんで
すけども、基本的には外に出すべきだろうということです。外配管、スケルトン・インフ
ィルをすすめるにあたった研究者はそのように主張をしてはいるんですけど、そうなると
非常に設計が難しくなる部分があります。あと階高が高くなるという部分が残っていまし
て、そういった問題について価格が高くなるのをどうするんだっていうことになってしま
うんですね。そうすると結局市場原理の中でこっちのマンションは安くて、こっちのスケ
ルトン・インフィルのマンションは高いよとなると素人のお客さんはどっち選ぶかとマン
ションデベロッパーが考えてしまうんです。しかしお客さんにとってそれは本当に配管の
せいなのかどうかって実はよくわからないんです。同じマンションって二つとないですか
ら較べられません。ただ、マンションデベロッパーはマンションの原価が分かっているん
で、売れないのは高いスケルトン・インフィルにしたせいだとなってしまう。営業サイド
からは、これやったって消費者にアピールしないと売れないといわれ他のマンションだっ
て、内配管でやっているんだから内配管でいいじゃないかというストーリーになってしま
うんです。
上田:非常に単純に考えたら、たとえば 20 年持つマンションに 1000 万出すんだったら、
40 年持つマンションに 2000 万出してもいいんじゃないかっていう考えは、私は真っ当だ
と思うんですけれども、そういう発想はまったくないですよね。マンションの耐久ってい
うことに関しては、みなさんどういう風に判断できるものを提供しているんでしょうか、
売る側としては。
平松:売る側としては今まではコンクリートの強度の数値から耐久年数を出していたんで
すね。これは日本建築学会の数字がありますから、分かりやすいんですね。スケルトン・
インフィルマンションについて、それだから 100 年持つとはちょっと言いにくい部分があ
って、なんとなくアピールがしにくいんです。スケルトン・インフィルは交換できるって
いうことなんですけど、それがまたお客さんにとってなかなかアピールしていかない、と
いうジレンマを抱えていることは事実なんですね。外配管にしたらどういうことかという
と修理がしやすいっていうことに過ぎないわけです。現実的に国会の議論でもあったので
すけれども、その専有部分の中を 3 本の配管が貫通していると。これをどうやって交換し
たらいいのかっていう議論がありまして、そのときの法務省の民事局長が、お金がないか
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ら反対する人もいるかもしれないけれども、それは共同の利益が優先するんだからと言っ
て、反対していても無理やり入っていって壁を壊して配管交換しなさい。交換した後は元
に戻します。だけどそれはみなさんのお金で払ってください」と答弁したんですね。それ
はまったくそのとおりで、ある意味それしか言いようがないんですけども、本来の区分所
有法っていうのはそうではなくて、区分して生活できるために、問題があってはいけない
ために区分所有法があるわけで、その専有部分の中に共用配管を設けていいのかという根
本的な問題について答えなかったんです。それに答えると日本のマンションは 全部違反に
なってしまうのです。ただ、区分所有法の趣旨としては、そうじゃないんです。しかしみ
なさんトラブル起こしたくないということで、そういう風に逃げちゃっているんです。一
つの大きな勘違なんですが、マンションっていうのは辞書をひくと大きな住宅とか邸宅と
かいう意味なのです。集合住宅という意味ではなくて、海外ではもちろん通用しない用語
なんです。なんでマンションって言ったのか非常に微妙ですけども、そこまで理解してい
たのかどうかわかりませんが、集合住宅じゃないのです。共有部分っていうのは外に出し
ておかないと、専有部分として一つの個として確立しないんです。だから個として確立し
なければ、それがいくら集まっても、個として確立したものが集まってはじめて集合住宅
と言えるんです。だからスケルトン・インフィルをアピールする点としては、そういう基
本的な部分をアピールしなくてはいけないのです。単にリフォームが尐しやりやすくなり
ますよということじゃくて、本当はそうじゃないと集合住宅とは言えないんだというとこ
ろを誰も理解していない。そんなこと言ったらデベロッパーも大変なことになります。だ
から本来はそのマンションに代わる別の言葉、マルチハウジングとかマルチハウスとか集
合住宅らしい名前にして、今までのマンションとは別だよという風なことですすめるべき
じゃないかなと思っているんです。
上田:共同で住むことっていうメリットっていうのは、マンションを買う人にとってそん
なに認識されていませんよね。ようするに自分の家を買うのと同じ、つまり戸建の家を買
うのと変わらない感覚でマンションの一室を買うということにすぎなくって、その後に必
要な共同の管理とか、今おっしゃったようなそもそも共同住宅が持っていなきゃおけない
仕組みですよね、そこに対する配慮と言うか視線っていうのはぜんぜんやっぱり私たち持
てていないように思うんですね。ですからその辺はこの後の問題にもなりますけども、ど
ういう風に消費者なり選択する人がですね、知識を提供されてそれを判断材料にしていく
っていうとこら辺がすごい課題として残っているような気がするんですけども。
平松:まずそのお話の前提となることで、やや別の視点からお話させていただくと、都市
のマンションっていうのはそもそも商品とか個別の私有物なのかっていう議論があるんで
す。そもそも都市というのは社会のインフラっていう風に考えてもいいんじゃないか。よ
うするに個が集積してしまうと単なる個ではなくて、社会的な下水道から上水道から共用
のものを使って、多くの人が生活するということですから、個人のその私有的財産だけと
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いう視点ではおかしい。結局今のそうした考え方が住宅の商品化、消費化につながってい
て個人の自由だ、みたいな発想につながってしまう。なぜ都市計画があるのか、そういう
個人の権利を阻害するようなものがあるのかっていうと、都市に住むために住宅に社会性
がなきゃいけないということなのです。田舎の山奥だったら都市計画なんか必要がないん
ですけども。ですから都市に集中して住めば住むほど公共の福祉のためにもっと共同の利
益を重視しなきゃいけないと思うんですね。ですから個人レベルのマンションの選び方と
いう以前に、これは国が整備するべきことじゃないかという気がするんです。また大前提
の話に戻っちゃうんですけども、国とはなんであるのかというと、国民がいるからですよ
ね。国民が住んでいるから国があるわけで、国民が住んでいなければ国ってないわけです
よね。国民が住むということは住宅が必要ですから、国というのは憲法でいろんなこと書
いてありますけど、住宅を整備する義務があるんじゃないか。今の住宅政策の問題点につ
いて言えば、そういった義務を果たさずに、住宅メーカーとか建築業者に全部丸投げして
国民は何をしているかというと、リコースローンで、サラ金と同じ借金をして、全部自己
責任で住まいを買って金融機関に返済しているだけに過ぎない。国民の住まいがそういう
存在になっていること自体をまず理解しないといけないと思うんです。
上田:その問題と言うのは具体的にいうと、たとえば土地制度っていいますかその法律の
問題が大きいですよね。ようするに庶民にとってみれば、土地はお金を出して買える物だ
っていう意味がありますから、地主さんがいればその土地は地主さんのものだしみたいな
所有の概念っていうことで、そこからがんじがらめになっているといいますかね、そのあ
たりを今おっしゃった都市はそもそも社会的なものだっていうことに転換していくために
は、そうしてもその制度的なもの、法律的なものを変えていかなきゃいけないということ
があるように思うんですけども。
平松:じゃあどのように変えるかということって言えば、先ほどのノンリコースローンと
いう話もある意味そういった部分を含んでいるのです。どういうことかと言うと、個人が
お金を借りるのですけども、結局その担保価値をはっきりさせて破綻したときはその個人
は責任を負わないわけですね。担保価値で設定したものしか負わなくて、そのリスクは国
が負っているわけですよ。国が負っているということは、つまりその事業、住宅を建てる
っていう事業に対して国がある意味でコミットしているのです。ということは国の事業で
もあると、いう見方もできないわけじゃないですよね、単純に言えば。だから都市再生に
おいてもそこにいろんな、たとえば地主が都市計画に基づいていろんなことをやって、そ
れを単に民間金融機関が融資するだけじゃなくて、国の姿勢と合致したものであれば民間
事業主がローンしたとしても、そのリスクをやっぱり国が負担してあげるべきじゃないか
と。そうしないと、何もできないんじゃないかなという気はしますね。国もどっかでリス
クを負担して、民間も負担するような仕組みをとっていかないとですね。今まではみんな
民間の個人が住む人がリスクを持っていて、全部それが 30 年間の間に土地の価格が高騰し
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たり逆に下落したりそんな社会的なリスクが全部個人にしわ寄せされている。だけど本当
にこれでいいのか。ちょっと待ってくれと思うわけです。マンションを買う人も、特にあ
る程度スケルトン・インフィルとか長寿命のマンションであればやや違ってきますけども、
普通のマンション買うということではリスクがありすぎるのになんでみんな簡単に買って
しまうのか。それは賃貸マンションと比較して支払いを金額すると、こっちの方が安いか
らという風になっているからですけど、10 年先の金利はどうなるか誰もわからないわけで
すよ。「亡国マンション」の中には書いたんですけど、今の融資の仕組みというのは元利均
等ローンです。元利均等ローンっていうから元利と金利が一定なのかっていうとそうじゃ
なくて、最初は金利が非常に多いわけですよね。で、当初金利ばっかり払っていますから
途中でマンションを売ろうとしたら元金はほとんど減っていないことに気がつくわけです
よ。一方マンションの寿命がきたとします。評価は土地だけですと。さらにそれから解体
費を減らしなさいと法務省が言っているわけですね。とすると30年程度の寿命では明ら
かにその返済途中で売れなくなってしまうのですね。で途中では売れないから最後まで持
っていたとして 30 年たったらまた管理費が非常に上がって負担していけるのかと。だから
お金持ちはもうマンションを捨てて出て行って、残された人は管理費も払わないような人
しか残っていないっていうような状況がこれからどんどん増えてくるのではないか。あと 5
年すると築 30 年を超えるマンションが 100 万戸になると言われていますから、これからマ
ンション問題ということが、非常に取り上げられてくるんじゃないかと思います。
上田:今のはマンション自体にですね、たとえば大きな地震が起こるとか、それからそれ
こそ本当に耐震偽装のようにですね、そもそも守られていなきゃいけないことが嘘だった
っていうような状況でもそういうことが基本的にあるという話ですよね。いったんそうい
う、たとえば神戸の震災もそうですけども起こってしまって、倒壊するはずないものが倒
壊した状況とか、それから自分の家がそういう耐震が非常に弱かったっていうことが後か
ら分かって、もう住めなくなるっていうときに、その負担を誰が背負うかっていうことを
一挙にこうかかってくるわけですよね。そういう話とやっぱりこう共通しているといいま
すか、同じ構造なのかなっていう気がしていまして、その今言った地震の問題と、それか
ら耐震偽装の問題のことで、今のその基本的な構造から見えてくる話をちょっとしていた
だければなと思いますけども。
平松:耐震性の話も実はやや複雑で説明が難しいのですけども、そもそも耐震理論ができ
たのは戦前の関東大震災の後なんです。そのときに佐野先生が剛構造という固い建物で地
震に対応しようという理論を作ったのですけども、その後戦争になりまして良質の建築資
材が手に入らなくなってしまった。そして戦後に建築基準法が出来たのですけども、その
建築基準法は戦時中につくられた強度の低い緊急的な戦時立法の理論でできあがってしま
ったということなんです。その後、1981 年に新耐震基準というのができたのですけども、
基本的な地震力の考え方は同じなんです。そこで変わったのは柔構造的な発想です。柔ら
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かいけども地震にもつよう、揺れても倒れないという仕組みの計算を入れたわけです。現
実的にその後阪神淡路大震災が起きて、10 万戸の建物が倒れました。新耐震のマンション
は安心だったみたいな話もないこともないんですけども倒れたことは事実なんです。その
後1997年、建設省は「建築物の構造規定」という本を出して、なぜ倒れたかについて
説明するんですけども、実は設計以上の力が加わっているっていうことを言っているわけ
です。また、その文章を読んでみると、倒れた建物は一つもなかったような書き方してい
るんです。計算以上の力が加わったけれども、倒れなかったのは安全率が高かったからだ
と書いてあるわけです。なんか一戸も倒れていないようなことが書かれていて、びっくり
したんです。もちろん倒れなかった建物もあるんですが、阪神淡路大震災で震度7ができ
て、800 ガルという計算を超える重力加速度が建物にかかったにもかかわらず、構造的にそ
れを上回ることをしようということじゃなくて、いやあれは問題なかったんだよっていう
ことで終わっちゃっているんです。マンションについては一般的には大丈夫だったってい
う話がありますが、実はその基準というのが非常にあいまいなんですね。大震災とは何か
というと定義が非常にあいまいで、昔は関東大震災のレベルを大地震って言っていたんで
す。その後の阪神淡路大震災っていうのはそのレベルを超えていたのです。超えていたの
だけども、大地震の定義っていうのはあいまいなままで、さらに建物が壊れないとは言っ
ていないんです。壊れるんだけども人は死なないような壊れ方をするのだということです。
だからみなさん勘違いしているのは、建築基準法を守っているから壊れないということじ
ゃないのです。建物がつぶれても死なないだろうと言っているだけなのです。ですから、
壊れない建物を作るっていうのはそれよりもランクが上な建物を作ることなのですね。
2000 年に住宅性能表示という制度ができて、そこで建物の構造の等級も1、2、3となり
ます。等級1が建築基準法通りで、1.25 倍したり 1.5 倍したりしたものが等級2とか等級
3とか言っているんです。なんでそんなのができたかというと、国としてはやっぱり等級
1じゃ危ないと思っているんです。ですから、等級2とか等級3とかを選ぶのは建築主と
設計者の責任ですよと。建築基準法を守っただけの建物は死なないかもしれないけど、ど
うなっても知りませんよと言っているわけです。そうした話もみなさんお分かりになって
いないだろうし、さらに今度東京、首都圏に大地震がくると言われてその中でも関東大地
震よりレベルの高い揺れがおそらくくるだろうという地域も分かっているのです。自治体
でそういう地域が分かっているのであれば、そういった区域は等級3にしろとか2にしろ
とか、それは国とか自治体が指定すべきでしょうけども、それをしていないようですね。
ただ最近は聞くところによると、東京都で一律に等級2以上にしろという話はあるらしい
のです。ただ一律っていうのもまたおかしな話で、それは細かく地域別に変えてもいいの
じゃないかと。場合によっては等級3にしなければいけない部分もあるかもしれない。も
う一つ姉歯問題について言えば、あれから一年以上経ち状況が分かってきたのですけれど
も、一つはようするに建築基準法自体が非常に複雑になってきて、デベロッパーのマンシ
ョン構造設計という時間のない中で仕事をこなすのが大変だったということと、こうすれ
ばある意味間違ってわざと計算しても、建築主事というか検査機関が発見してくれるんじ
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ゃないか、見逃せば建築、設計機関のせいになるだろうということもあったと思うんです
ね。ところが審査機関で発見できなかった。つまりどういうことかというと建築基準法と
いうのは確認審査、つまり確認申請してそれを審査するということで成り立っていたわけ
です。その大元っていうのは建築主事制度なんですが、建築主事という公的なものが民間
を審査する仕組みです。ところが構造計算が複雑になって、建築主事も対応できなくなっ
てきたのですね。そういう(略)建築主事制度自体が崩壊しているっていうことを白日にさら
してしまったのです。ところがそのことについて、マスコミではぜんぜんそういった見方
はしていない。単にだれだれが悪いっていう話で終わっていて、その主事制度っていう、
建築基準法の主事制度自体が単なる飾り物にしか過ぎなかったし責任も取らず結果的に住
民にその負担を押し付けている。解体費くらいは払うのかもしれませんけども。
上田:じゃあ誰が一体その建てた住宅の安全性耐震性を含めですね、保障してくれるのか
ということは当然疑問になりますよね。そのあたりはこうなんていうんでしょう、見えて
いるんでしょうかね、いくらかでも。
平松:いろんな意見があって、私もある建築関係者のグループの会員になっているんです
けども、その方々は構造設計者が多く、技術レベルが高くて、建築主事より自分たちにま
かせろ、みたいな話があるんですけども、世の中の構造設計者全員がそういう人たちとは
限らないわけです。そういった担保の仕組みというのは、国が保障すべきだろう。確認申
請をおろした以上国が責任持って保障すべきだし、それは保険なんかですることじゃなく
て、自分たちのミスで、間違っておろしちゃったのですから、それは自分たちのミスとし
て国家賠償責任があるわけですね。ところがそれをしないというのはその建築基準法自体
が形骸化してしまったということを認めることになるからそれをしたくないという風に思
わざるを得ない。もう一つは金融機関の責任もあります。ようするにアメリカではノンリ
コースローンだということで金融機関がその担保をよく調査するわけですよね。ですから
間違いないということを何回もインスペクターという検査員が調査してそれでお墨付きを
出しているわけで保障してノンリコースローンになったんですね。ところが今の銀行の融
資がどうなっているのか分からないですけども、そういった現場のチェック体制があいま
いなままで、手抜きも考えられたり設計自体もなんか怪しげだという中でノンリコースロ
ーンなんかできやしないという面がある。本当はノンリコースローンという形で担保をつ
けるべきだし今回の(略)姉歯の事件の問題だって金融機関のどこが融資しているのか分か
らないですけど、そこがある程度責任を持つべきです。
上田:今お話を聞いていたら、いったん住宅にそういうですね、大きなことが起こってし
まって住めなくなるような状況が生じたときに、結局負担は全部住んでいる人に回される
のかと端的に思ってしまうわけども、よほどその仕組みをもう一度平松さんがおっしゃる
ような観点から見直して多尐時間かかったとしても作っていかないと、非常に救われない
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って言いますかなんかみんな不安を持ちますよね。それで先ほど聞いたこれからそのマン
ションが、どんどんどんどん老朽化してきている問題が山積みになっていると。でこれか
ら家を買おうとする人はそういう今のような事件の結果を見て非常にこう不安を覚えると
いうことで、住むという基本的なことがとってもなんかこう日本人にとって不安を抱えて
しまっているようになっているという感じで、一体どういうところから手をつけていった
らいいだろうかと。
平松:まず(略)危機意識を持つことが最初ですよね。まずみなさん私の話の説得力も不足し
ているのでしょうけれど、危機意識をもたれないわけですよね。私もいろいろなところで
お話をしているのですけども、その後お会いしたら明るくマンション買いましたっていう
人もいるし、それは受け取り方によって危機をどの程度感じているのかって分からないで
す。まず危機を感じて問題点を理解して一方、専門家としてはそれに対してどういう風に
対応していくのか。まず私たちも専門家として見えないのは、人々がどの程度意識してい
るのかです。我々もそういったことのアピールをまだ十分していませんけども、そういう
場がまだないということです。
上田:私、科学技術のいろいろな分野で、どれぐらい理科教育が役に立っているかみたい
な観点からものを結構見たりするんですけども、こと住宅はまったく教育の中に入ってい
ないという感じがしまして、しかも大人になってからたとえば自分がこれから住むことに
なる家の構造なりの基本的な意味とかですね、それからどれくらい長持ちするのかってい
うことをたとえば海外と比較してみてどうこうとか、そういうことを端的に学べる場が本
当にないなという風に思えるんですね。なのでそこを何とか専門家とですね、消費者、市
民がこう結びついてちょっとでも切り開いていく場をね、やっぱりすごく求められている
だろうなって…
平松:非常に重要なお話だと思いますね。本屋に行くとマンションの選び方だとかたくさ
ん出ているのですけども、どっちかと言うと選び方に終始していて、我々の技術屋の発想
と違うんですね。営業マンが不動産の選び方について書いてみたと。あるいは、技術屋の
人も営業上がりの人も今までたくさんのマンション売ったり設計していたりしたことがあ
るので、なかなか断定的なことは言いにくいっていう部分もあります。
上田:その辺今サステナブルマンション研究会など、専門家が何人かそろってたとえば相
談に応じるような体制を作っていくとか、そういう動きみたいなものを作っていけそうな
んでしょうかね。
平松:どうなんでしょうね(笑)私も「亡国マンション」を書いたのですけども、他の人
とまったく違うことを書いているものですからよく分からないのですけども、ただそうい
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う場が持てればいいなと思っています)。
上田:あの、一つの観点は、私はちょっと外国に旅行したときにですね、住んでいる家の
ことをその住んでいる方とお話したこともあるんですけども、やはりその 100 年 200 年持
つっていうことにすごく価値を置いていらっしゃると言いますかね、ああこれまったく日
本と違うなと。実は日本も本当にその戦前って言いますかね、振り返ってみれば家を長持
ちさせるっていうことはそんなに(平松:ノウハウはありましたよね)ありますよね。
平松:伝統的な日本家屋はひさしを長くしてね、雨がかりのところをなるべく隠して瓦葺
で雨を避け木造の部分っていうのは非常に奥にしていたとか、雨に濡れてもすぐに乾燥さ
せるような仕組みっていうのはありますね。
上田:そういうことを考えますと、なんか一気に戦後急激に変わってしまって、私たちの
意識も断絶があるって言ったらちょっと言いすぎかもしれませんけど、非常にその辺がな
んか気になるんですね。で、誰がそれを誘導して誰がそういう仕組みを作ってしまったん
だろうかと。
平松:一つはこの本に書いたように明治時代のことにさかのぼってしまうのですけども、
明治維新の時に海外の列強に対抗するために国の体制をしっかりしなきゃいけないってい
うことで、中央集権的な明治維新を実行したわけです。そのときに貨幣というものはそれ
ぞれ地方で発行されていたのを大隈重信が統一化したのです。そのときに同時に大隈重信
は地租改正をして農地の地価はいくらだよと決め、それによって年貢を金納するためにパ
ーセンテージで逆算して地価を決めたわけです。だからそのときに土地とお金の相関関係
っていうのが生まれたんですね。土地本位制みたいな芽生えがそこに生まれて、土地が高
いのは収益が上がる土地だからでたくさん税金を納めなさいよということで、地価の高い
ところは税金も高いということになってしまって、それがずっと国としては地価が高いこ
とは税収が上がることだっていうような一つのビジネスモデルが確立してしまったと私は
思っているのです。その後戦後になって、住宅を持ち家政策として推進する時も、それと
同じことが行われたんじゃないか。農地はそれで収益があがりますがそのパーセンテージ
はみなさん一揆を起こして反対したのです。パーセンテージが高すぎると言ってですね。
ところが住宅地は収益が上がらないにもかかわらず、地価が高くなると借金してもインフ
レが起きるとそれで返済できるという企業にとっても個人にとってもそれはすばらしいマ
ジックだったんですね。
上田:投機の対象ということなんですね。
平松:ええ。マジックが生まれてそこで国民はそこに乗っかったわけです。ところが何年
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かすると政府の住宅の持ち家政策とか、都市の全国的な開発が起きた。一つは 1973 年に、
日本改造論という田中首相の本が出たんですけども、当時地価が急に全国的に上がったん
です。それはなぜかと言うと、日本の大企業が土地を買い占めたからです。しかし景気が
悪くなり地価が下落してしまいそれを返済ができなくなって 1978 年くらいの時に国の財政
が危機に陥ってしまいどうしたかと言うと、今度は(略)企業を助けるためにもう一度地価を
上げようと。いったん上がって下がったものですから、それを助けるためにまた地価を上
げようとしたわけです。そのためには今度は全国じゃなくて首都圏でやろうと首都圏の都
市再生を位置づけたんです。それで 100 兆円もの資金、を土地とか不動産を買うための、
融資として準備してしまい銀行はそれをつかわなきゃいけなくなって資金を融資しますよ
といって、東京の不動産屋をぐるぐる回ったわけです。貸し手が現れれば、不動産屋は何
でも不動産を買います。いつもは貸してくださいという立場なんですから。ですから何か
いい物件ないかということで、あっという間に 400%も地価が上がってしまったんです。そ
れは日銀が用意した資金の伸びと全く同じなんです。だから日銀が融資した分だけ地価も
上がったんです。都心の地価が上がったことは、売った人はその周辺に別の土地を買わな
きゃいけない。税率が非常に高くなったっていうこともあって、それが全国に波及してい
ったんです。それが基本的にバブルなんです。ところがまた 1990 年に破綻してしまった。
不動産取引規制があって下落してしまって、それが今度は前のように簡単じゃなくて、10
年間くらいかかって、今 16 年目くらいですけども。また尐し土地が上がったっていうこと
で、これ同じこと繰り返しているんです。ようするに地価のインフレはわざとお金をだぶ
つかせて地価を上げるという政策が繰り返されているんですけども、それがみなさんわか
ってないんですね。ですから上がる局面の人はいいですけども、下落する局面があるとい
うことを知らないで土地買っていったいどうなるんだということです。そういう情報とい
うは巷に流れていませんから、上がるというとみなさん買わなきゃと思うわけです。バブ
ルっていうのは 20 年たつと忘れるっていう警句があるそうですけども、ちょうど 20 年く
らいたつと忘れて、また景気対策で上がって。逆にそうしないと、景気対策して地価を上
げないと日本がつぶれるみたいな構造がありますから、痛しかゆしの部分がありますけど
も。そういったいたちごっこを切らないと、どうしょうもないんです。一つは先ほどの話
と関連するのですけども、住宅というのは国の整備する社会インフラだと考えると、それ
は政府の義務だということであれば、政府が主体となってやるべきだ。お金は融資して、
土地を買うっていうことは別にしておいてですね、建築に対してノンリコースローンで融
資すべきだ。民間は建設会社なり不動産会社なり住宅会社なり、どのようにコミットして
いくべきか。プライベートファイナンシャルイニシアティヴ PFI の仕組みでそれはできる
のじゃないかと思うのです。リスクは公共が負って計画自体は公共が作り民間は参加する。
下手すると官製談合の仕組みになりかねない微妙なところがあるのですけども、今の官製
談合は罰則規定が弱すぎるとか、企画者の責任がまったくないとかいろんな側面があり、
そういった面を法的に整備しながら PFI でやって、そういう住宅整備とか住宅地の再開発
っていうのをやるべきじゃないかと思うんですね。
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上田:そういった基本的な仕組みを国の側が作っていく方向で動いて、私たち消費者にと
ってはさっきおっしゃった都市の再生という観点から、たとえば街作りというところに住
宅を位置づけていかなきゃならないっていうことですよね。
平松:だからこれから、消費者がどういうマンションを買ったらいいのっていう発想を捨
て、これは国が整備するものだ(略)と。私たちのさらに次の発想っていうのがあるのですけ
ども、ここに「日本 21 世紀ビジョン」っていう内閣府の本がありまして、なんて書いてあ
るかと言うと、2030 年に住宅は 100 平米の賃貸マンションをめざすということが書いてあ
るんです。それで具体的なプランまで書いてあるんですね。それで分譲と賃貸の境目はな
くなりますとも書いてあるのです。これはどういうことかと言うと、一種の利用権的な発
想です。今の分譲マンションっていうのは、すぐになくならないにしても、これから第三
のマンションっていうのがたぶん生まれてくるだろう。今何が足りないかと言うと、長期
の賃貸のシステムが足りないんです。今の賃貸というのは 2 年更新ですから、中をリフォ
ームしたりできないし、リフォームしたら引っ越す時は元に戻さなきゃいけない問題があ
るから、短期で住むっていうことを前提にしているっていっても過言じゃないんです。分
譲にいろいろな問題点があるから賃貸にしようって言ったときに、長期の賃貸の仕組みと
いうのがないんです。定期借家権という制度が生まれましたけども、それは必ずしも長期
住める居住の仕組みの端緒を作っただけで、現実的にはそれほど機能していませんけども
それを発展させて、100 年利用権システムを作るべきだ。どういうことかと言うと、100 年
間建物をもたせるっていうことを最初から設計しておいて、100 年たった時に解約といいま
すか、それ以上もてば別ですけども、基本的には権利がなくなる形で 100 年間住むための
資金を入居者に提供してもらう。それは中のインフィルの資金を保証金の形で提供しても
らうということで、地主とか事業者はスケルトンだけを建てる。地主は半分の出資ですむ
わけですから、スケルトンとインフィルの工事費の比率が半分ずつだとするとインフィル
の費用は入居者からもらいまた退去する時に返すということにすると、家賃は半額になり
利用権の仕組みで済んでしまうんですね。
上田:そういう試みをやってみようという志といいますか、持っていらっしゃる方は結構
いますか。
平松:それは本に書いただけなのでこれからだと思いますけども。本当は地主としては一
番気になるのは 100 年間使えないんじゃないかみたいなこととか、途中で売れるのかとか
ですね、いろんな話があると思うんですけども、それはもう一方的に先ほど言ったように、
都市はこういうものだということで決めてしまえば、非常に乱暴な話で異論はあるかと思
うんですけどもそのように決めてしまって、都市再開発の局面でそれを利用して国がその
資金を融資しますよと。それでこういう設計にしてくださいとすれば、事業主はリスクを
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とらなくて済むんです。もちろんどんなところでもいいっていうわけじゃなくて、場所的
にいいところでないとそれは成り立たない仕組みですけども。ただ今、都心で木造住宅が
密集した地域がありますよね。今度地震で多くの方が亡くなるだろうと想定されている地
域はそういった仕組みで、地主たちが集まってファンドみたいの作るか組合化して、さら
に建設組合を作ってそこに住みたい人を募集する。それをノンリコースローンでやって国
なり金融機関が保障するというのが一番いいのではないかと本に書きました。
上田:今おっしゃった大きな地震が来たら被害を受けるかもしれない地域の人たちってい
うのは、今のお話を聞いたらかなり共感するんじゃないかなと私思いますけれども。一方
でたとえば地震対策っていう面では、当然家は大きな要素のはずなんですけども、テレビ
に出てきて解説する人たちは地震学者だったり、それだけしかしないってみたいなことが
ありますよね。再三都市の防災機能っていうことで、長期計画的に対応しなきゃいけない
っていうことを前々から指摘されているにもかかわらず、たとえば個人宅を見ても地震対
策をしている家は本当に尐ないっていうことがありますよね。でもやっぱり心の底では不
安を持っていて、ですからそれを家をきちんとすることでしのげるんだっていうことで、
今おっしゃったようなプランで地域に働きかけていくっていうことをすれば動きそうな感
じがしますけども。
平松:そうなればいいですね。
上田:そうですね。今度連続講座の方でまずお話いただいて、その後シンポジウムの方で
全然違う分野の方と一緒に、今言った法律面も含めて生活者が主体となっていい暮らしと
かいい環境を作っていけるのかっていう話に持って行きたいと思っているわけですけども、
今日は非常に有意義なお話をありがとうございました。私まったく建築関係は素人なんで
すけども、もしそういう研究会に同席させていただくことができるならば、尐し具体的に
つっこんだお話も聞いてみたい気もしますし、声をかけていただけたらと思います。■
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