ドイツとフランスにおける容器包装リサイクルの基本方針とその特徴

ドイツとフランスにおける容器包装リサイクルの基本方針とその特徴 ― Duales System Deutschland と Eco-Emballages の調査結果を中心に ―
劉 庭秀
ドイツとフランスにおける容器包装リサイクルの基本方針とその特徴
― Duales System Deutschland と Eco-Emballages の調査結果を中心に ―
劉
庭
秀
1. はじめに
我々が毎日使っている様々な容器は古い歴史を持っている。特にガラス瓶の場合、酒類飲料用の
容器としてはもっと古い容器で、容器素材としても安全性、品質保持性、再利用などがすぐれた容
器である。しかし、持ち運びが大変で、割れてしまうということで、日本ではビール、お酒、ジュース
などの一部の品目にしか使われていない。一方、急速にシェアを伸ばしているペットボトルは歴史
が比較的新しく、1974年世界で初めて米国の飲料メーカーが容器として採用した(1)。しかし、こ
れらのプラスチック製容器包装はリサイクルの手間や費用がかかるにもかかわらず、便利さを求め
る消費者のニーズが高く、もはや環境意識に訴えても止まらない状況となった。最近はガラス瓶、
缶が中心である清涼飲料や酒類のみならず、ミネラルウォーターやお菓子など、ペットボトルおよ
びプラスチック製容器の需要が高く、世界各国の経済発展に伴って容器包装廃棄物の消費、排出量
が膨大に増加している状況である。
容器包装リサイクルについては、1990年代前半からドイツ、フランスが先駆けて関連制度を整備
しており、両国の影響力が非常に大きい。実際、日本と韓国は両国の制度を参考に独自のリサイク
ル制度を構築している。特に日本の容器包装リサイクル制度はフランス方式に似ているが、フラン
ス方式に比べて自治体や消費者の負担が重く、生産者の責任が軽いなど施行10年目にしてその改定
を求める声が多い。
EU の場合はドイツを中心に EU 全体における容器包装リサイクルシステム構築に向けた議論が
行われているが、日本は国内のリサイクル制度の見直しに追われており、アジアのリサイクルネッ
トワークの構築にはしばらく時間がかかりそうである。最近は容器包装廃棄物の開発途上国(中国、
インドなど)への輸出も大きな問題となっており、実際ドイツ、フランス、日本、韓国、台湾など
の容器包装廃棄物がこれらの国に輸出されている(2)。廃棄物の越境、国際化が進められているわけ
である。このようにドイツ、フランスにおける廃棄物リサイクル制度の最近の動向と課題を調べる
ことが重要である。しかし、今までの研究視点はドイツが環境先進国であるという先入観が強く(3)、
両国の特徴を明確に捉えた調査研究は少なかった。
本研究では、上記のような視点と現地調査結果にもとづいてドイツ、フランスにおける容器包装
リサイクルの基本方針と特徴を把握した上、今後の方向性と課題を分析した。また、日本の容器包
装リサイクルへの示唆点、改善すべき点について議論した。
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東北大学大学院 国際文化研究科論集 第十三号
2.ドイツのリサイクル方針と DSD 社の役割
2.1.容器包装リサイクルの考え方と最近の課題
ドイツはヨーロッパの容器包装廃棄物のリサイクルに様々な影響を与えてきた国である。実は
1970年代半ば頃まではドイツも埋立中心のいわゆる「使い捨て」の社会だった。当時は捨てられる
ものに対して資源としての価値を与えず、リサイクルの重要性についてもあまり深く考えなかった
わけである。
しかし、ドイツ国民は1974年以降、廃棄物を資源としてリサイクルする必要性を認識し、ものが
無駄に捨てられていることに疑問を抱き始めたのである。そして1975年から廃棄物リサイクル技
術・制度化に関する研究開発をはじめ、その後15年間続けてきた(4)。この期間に各自治体における
廃棄物リサイクル体制が作られたが、各自治体は技術的・環境的に有効性が確認できたシステムの
みを構築したわけである。さらに、ドイツではこれらの経験と実績にもとづき、1991年にヨーロッパ
では初めてリサイクル政令(「包装廃棄物政令(Ordinance on the Avoidance of Packaging Waste)」)
を作った。当時、既にごみを分別し、リサイクルをするという行動が先行していたため、法律では
なく、政令を制定したわけであるが、この政令の主な目的はどうしても増えてしまう廃棄物を抑制
するために、特に排出量の多く、リサイクルしやすい包装廃棄物を家庭ごみから分別し、事業者に
リサイクルの責任を負わせることである。この政令の基本方針が「生産者責任」であり、包装材以
外にも家電、自動車リサイクルなどにも生産者責任が求められるようになった(5)。
実は既に 1981 年デンマーク政府が「紙製およびガラス製のビン容器の再利用に関する規定」の
一部として「ビールおよびソフトドリンク用の容器に関する政令」を制定した経緯がある。しかし、
当時ヨーロッパ裁判所は自由競争の阻害、環境保護に名を借りた事実上の輸入制限であることを理
由に無効の判決を言い渡した(6)。
一方、1989年にドイツ国民はプラスチックを燃やしたらダイオキシン類が出るのではないかとい
う疑問を抱き始めた。当時の環境大臣である‘トッパー’氏はダイオキシン類発生原因であるプラ
スチック製容器包装のリサイクルを推進し、EU 諸国も同じような制度を作るように働きかけた。
特に製品の生産から廃棄までの生産者責任を具体化したが(7)、デンマークの前例のようにイギリ
ス、アイランド、ギリシアなどの国はドイツの厳しい制度に猛烈に反発した。結局、プラスチック
のリサイクルが埋立及び焼却量を減少させ、リサイクル技術の開発とその技術の有効性が証明され
たことにより、反対していた国々に受け入れられるようになったのである。
実はドイツのリサイクル制度は拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility)とは違い、PL
(Product Liability:製造物責任)法(8)に非常に近い考え方にもとづいている。この制度では製造プロ
セス上の環境負荷、環境影響とともに労働環境をもチェックする。当初、産業界ではリサイクルコ
ストが高すぎると主張していた。政府は産業界に各生産工程における厳しい規制や義務づけをする
のではなく、各企業が納得できるような根拠やデータ(コストと環境負荷)を提示することによっ
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て、廃棄物を減量し、リサイクルへ誘導したわけである。産業界に対する義務づけではなく、あく
までも要請である。結局、産業界は自らの製造プロセス、経済活動の見直しを行い、環境負荷の少
ない製品設計への工夫、リサイクルしやすい素材選択、流通システムの再構築により、リサイクル
率を約35%まで向上させた(9)。これはドイツ産業界が政府の要請を受け入れている証拠である。
このようにドイツの場合、この30年間産業界と政府の考え方がかなり接近し、相互理解の関係に
なっている。産業界から部分的な抵抗があるにしても、政府の基本的なリサイクル方針(哲学)に
反対しているわけではない。
廃棄物のリサイクルを成功させるためには、リサイクルに関わる各主体の役割および責任を明確
にしなければならない。例えば、工場内の廃棄物減量は生産者の責任であり、生産工程での廃棄物
削減、副産物のリサイクルに努めるべきである。また、政治レベルでは市民に‘なるべくごみを出
さないように’、‘ごみが出るようなものを買わないように'といった要望を出すことができる。政
策的には‘何が効率的か'、‘公平であるか’が重要であり、生産者は‘廃棄物がでるようなものを
作らない'、小売業者は‘廃棄物がでるようなものを売らない’、そして消費者は‘買わない'という
姿勢が重要であろう。例えば、政府が市民に対しては必要なものだけを、そして耐久性があり、修
理しやすいもの、有害でないものを買うように呼びかけることができる。しかし、現実的にはこの
ような要請は守られていない。ヨーロッパで廃棄される靴の約15% が一度も履いていないもので
あり、消費者は合理的に行動しないことがわかる(10)。靴の例で考えれば、政府が市民にリサイク
ルの重要性を訴えることは限界があり、市民を説得することは難しいため、産業界の役割が重要で
ある。生産者は自らつくった製品の中身を最もよく理解しており、ドイツ政府は関連制度を作り、
生産者にリサイクルの必要性を認識させた上、協力を要請する方法を選んでいる。
現在ドイツにおける容器包装リサイクルの課題はリユース(リターナブル容器)にある。ドイツ
(11)
」の中には廃棄物の発生を抑制し、リターナ
の「循環経済・廃棄物法(Waste Management Act)
ブル容器を保護するためにするために市場におけるリターナブル容器の割合が72%(12)を 2 年間下
回れば、ワンウェイ容器にデポジット制(Deposit)を導入するようになっている。結果的にはリターナ
ブル容器が拡大され、ヨーロッパ諸国にもこのような動きが広がるようになった。しかし、この数
年間、特に2003年以降、ミネラルウォーター、清涼飲料、ビールなどのリターナブル容器のシェア
が減少している状況である(13)。デポジット制を導入することによってワンウェイ容器の使用を抑
制しようとする狙いだが、最近は若者や低所得者を中心に海外からの安い飲料が売られるようにな
ったという(14)。実際、2001年度から DSD 社のライセンス使用料が減少しており、2002年にはライ
センス使用料(License fees)を再び下げているが、DSD 社は1995年から2001年の間に収集・運搬、
リサイクルの効率を上げ、約20%のコスト節約を行っている(15)。
しかし、デポジット制は各企業が払い戻しできる店を限定することや自社の容器が特定できるよ
うにするなど、いくつかの落とし穴がある。これに対してヨーロッパ委員会はデポジット制度の統
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東北大学大学院 国際文化研究科論集 第十三号
一を要請しており、ドイツ政府もデポジット制度および引き取り制度を統一することが決まった。
これらの問題を解決するために、
「包装廃棄物政令」の改正を行い、ミネラルウォーター、ビール、
清涼飲料などはすべて 1 本、25セント(約34円)のデポジット制になる可能性が高い(16)。しかし、
どこで買っても、どこでも払い戻しができるが、ワイン、ミルク、ウォーカーなどは対象外になる
など、飲料の中身や容器によって異なる。容器包装廃棄物の有効利用には様々な方法があり、ドイ
ツ政府としては環境負荷が少なく、経済性に優れた方法を選択するという方針は変わらない。
2.2.DSD 社の役割と最近の動向
2.2.1 DSD 社と PRO EUROPE
1991年ドイツの「包装廃棄物政令」以降、フランス(1992年)
、オーストリア、ベルギー(1994年)
など EU 各国でリサイクル関連法ができ
た。これらの法制度は各国の国内法であっ
たが、1994年にヨーロッパ全体の「EU 容
器 包 装 リ サ イ ク ル 指 令 ( The European
Parliament and Council Directive 94/62/EC)」
ができた(17)。これが生産者責任制度の基本
的な考え方を作り出し、容器の回収率、リ
ユースおよびリサイクル率などの割り当て
を決めることになった。この基準を国内法
に準拠して適用するわけであるが、その方
写真 1 PRO EUROPE の旗と Green Dot(18)
法については各国の状況や判断に委ねることになる。例えば、租税誘導タイプ、DSD 社のような
システム構築、業界ごとの共済組合結成などが考えられる。各国のシステムは異なるが、生産者責
任制度という基本原則は同じである。そして、ヨーロッパ全体の持続可能な成長と環境保全の一環
として容器包装リサイクルの重要性を訴え、DSD 社のライセンス供与組織である「PRO EUROPE
(1995,写真 1 )」がスタートしたのである。オーストリア、スペイン、フランス、ベルギー、ノル
ウェー、アイルランド、ポルトガル等々22ヶ国が参加するこの組織は、各国の容器にグリーンドッ
(19)
をつけ、それぞれのシステムを利用し、リサイクルを進め
ト(Green Dot:写真 1 にあるマーク)
ることである。この動きに大きな影響を与え、先導的な役割を果たしたのが DSD 社であり、各国
の制度を認めた上、リサイクルの推進といった目標に向かうために‘多様性における統一性
(Uniformity in Diversity)’という考え方を重視している(20)。
2.2.2 容器包装リサイクルの新しいルール
DSD 社の課題の一つは前述したように如何にワンウェイ容器を減らすかである。デポジット制
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を導入してもこれらの容器が減らない場合、ドイツにおける容器包装リサイクルシステムが崩れる
ことになる。最近、日本でも急激に増加しているペットボトルがドイツでも増えているが、ドイツ
の場合、65%がリターナブル容器として回収、再利用される(21)。しかし、相当量が中国へ輸出され
(22)
。
ることも事実であり、これらのペットボトルが質の高いリサイクルに回されているとは言い難い
特にドイツは独特なビール文化と地ビールの発達により、昔からリターナブルビンを重視し、前述
したようにドイツではリターナブルビンのシェアを72%以上に維持してきた。他の EU 諸国は特定
の企業を優遇することになる(独占禁止)という観点から必ずしもリターナブルビンの利用を歓迎
していない。それにしても EU 諸国ではワイン、ビール、ミネラルウォーターなどに大量のガラス
ビンが使われていることが事実である。
図 1 はDSD社による容器包装リサイクルの概略図である。この図からも基本的にリユースを重視
したシステムであることが明確であり、自治体とは関係なく、生産者への費用負担を徹底している。
図1
DSD 社のリサイクル仕組み(概念図)
表 1 は容器毎の DSD 社の手数料である。容器の材質毎に手数料を差等賦課させており、なるべ
くワンウェイ容器が増加しないような仕組みである。この手数料は販売価格に対して賦課している
ため、例えば、一本あたりの手数料はプラスチック容器が一番安くなっているが、販売価格 1 =
Cあ
たりに換算すれば、ガラスは日本円で0.8円、紙パック2.48円、ヨーグルト1.1円、ペットボトル 7
円となり、飲料毎に大きな差が見られる。であるからジュース、ミネラルウォーターなどをペット
ボトルに入れて販売することは、事業者の収益増加に繋がらない。
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東北大学大学院 国際文化研究科論集 第十三号
表1
容器毎の DSD 社の手数料
飲料名
容器材質
販売価格
(ユーロ)
DSD 手数料
割 合
DSD 手数料
(ユーロ)
日本円換算
ワイン
ガラス
6
0.58%
0.0348
4.8
ジュース(1 ㍑)
紙パック
0.8
2.8%
0.0224
3.1
0.5
3.2%
0.016
2.2
1
5%
0.05
7.0
ヨーグルト(250g) プラスチック
レモンエード(1.5㍑)
PET
出典> DSD 社の内部資料(ヒアリング調査)
注> 1 =
Cを140円に換算している。
2.2.3 独占から競争体制へ
今まで DSD 社は環境保全を目的とする非営利および公的機関として存続してきた。しかし、ド
イツ政府は DSD 社のリサイクル活動が営利目的であると認め、同社と同じシステムを提供する会
社の新規参入ができるようになった。
リサイクルに関しても競争という考え方は非常に重要である。DSD 社を利潤追求の企業として
見なし、法律的に独禁法を適用することは、ある意味では環境保全活動に対する優遇ができないと
いう意味でもある。環境保全のための組織であることを認めれば、独占という表現は相応しくない。
しかし、ドイツカルテル庁の判断は DSD 社の活動が独占であり、リサイクル活動が営利目的で
あることを認めた。そして、この決定を受けて特定の自助組織(共済組合)を作ったり、業界と
連携してリサイクルを行う企業が出てきた。現在は主に産業用の梱包材をリサイクル企業が数社あ
る(23)。また、限られた地域で容器包装リサイクルの活動を行っている「ランドベル」という企業も
ある(24)。
このように DSD 社は公的組織としてではなく、株式会社として新しい出発をすることになり、
リサイクル事業自体が新たな局面を迎えている。さらにリサイクル効率と収益を上げなければなら
ない状況に追い込まれることになった。如何に環境負荷の低減とコスト削減を両立していくかが大
きな課題であり、今後の動向が注目される。
3.フランスのリサイクル行政と EE(Eco-Emballages)社の役割
3.1. リサイクル行政とパートナーシップの構築
フランスは1992年 4 月「包装廃棄物デクレ」を制定し、家庭から排出されるすべての包装材をリ
サイクルすることを決めた(25)。このような動きはドイツの影響が強かったといえる。フランスは
ドイツが生産者にリサイクルの責任を強く求めることに対して、分別収集を自治体が実施すること
とし、回収された包装廃棄物のリサイクル責任と費用負担を事業者に求めている。基本的に家庭系
ごみに関しては自治体の公共サービスとして処理しているが、包装材の分別収集費用の一部は EE
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社が支援する。日本の容器包装リサイクルシステムはフランス方式に近いわけであるが、生産者が
自治体の収集費用を支援するかどうかが違う。
フランスの廃棄物リサイクルの基本方針も「拡大生産者責任」である。大手企業(例えば、コカ
コーラ、P&G、Nestle など)は資金的な余裕があったし、1992年の「包装廃棄物デクレ」ができる
前から環境影響が少ない工程を取り入れており、大きな抵抗は見られなかった。最初は EE 社のリ
サイクル活動に抵抗する中小企業が多かったのも事実であるが、今は契約者が10,000社にのぼる。
一方、自治体の場合は、財政的な支援が受けられることは都合の良いことであったが、民間企業で
ある EE 社に支援してもらうことが‘自治体の廃棄物行政(政策)’への介入に繋がるのではない
かという危機感があったという(26)。しかし、容器包装リサイクル業務をすべて別の企業に委託する
ことは、自治体のそれぞれの現状や事情を無視する可能性があること、パートナーシップを築いて
いくことがリサイクル効率の向上とコスト削減に繋がることを理解してもらうことができたとい
う。また、消費者(住民)の意識を考えれば、ドイツの DSD 方針は経済的な負担、インセンティ
ブを用いてリサイクル活動への参加を誘導するが、フランスの EE 方式の場合は、住民の経済的な
負担が増加するというような意識は低い。実際、EE 社からの支援があることさえも知らない住民
が多く、日本のような細かい分別を求めることもないため、資源として有効利用することが重要で
あるということを啓蒙している。フランには現在約36,000自治体があるが、その内30,034自治体が
約1,500の共同体を構成して EE 方式のリサイクルに参加している(27)。
このようにフランスにおけるリサイクル行政は、拡大生産者責任の原則を消費者や自治体の負担
を軽減させる方法で推進していることがわかる。次節で詳しく説明するが、ドイツと日本方式の折
衷案に近いと思われる。自治体の廃棄物行政の基本方針を尊重し、無理のない計画を進めるという
面は評価できる。10年以上の実績を持ち、各主体間の信頼関係、パートナーシップの構築できたと
思われる。しかし、リサイクルシステムの構築方法、支援の方法が不明瞭のままであり、各主体間
のコミュニケーションも不十分さも伺える。
3.2.フランスの容器包装リサイクル仕組みと新しい課題
EE システムの特徴はリサイクルマークが付いているすべての容器包装を引き取るのではなく、
材料リサイクルが容易で、逆有償が起こらない容器のみ(無償もある)を対象としていることであ
る。各自治体はこれらの容器包装廃棄物を独自のルートで販売することもできるが、このような例
はほとんどなく、EE 社との引き取りを行っているという(28)。
フランス政府はリサイクル目標の達成を条件に EE 社に大きな裁量を与えており、EE 社は新しい
EU 指令で2008年まで求めている総リサイクル率(55%)を2003年時点で達成(62%)している(29)。
図 2 のように EE 社は契約した各自治体の分別収集、焼却、熱回収、埋立、住民啓蒙活動に対して
助成金を支援する。また、EE 社は契約時に決めた引き取り最低価格(容器毎、素材毎)を保証す
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東北大学大学院 国際文化研究科論集 第十三号
図2
EE 社のリサイクル仕組み(概念図)
る。容器包装廃棄物の分別収集を行う自治体に対して EE 社からの財政支援は、各自治体のリサイ
(30)
。
クル実績によって差等支給される
補助金算定方式は下記の図 3 のように低、中間、上限の 3 段階に分かれる。また、契約した量を
10%以上超えた分については低支援額の金額が支払われる。結局、自治体への支援は平均で50% に
なるという(31)。ライセンス使用料は自治体への補助金および EE 社の運営資金となるため、その支
= /t、売却収入が50C
= /t、容器包装廃棄
出金額を予測して定める。例えば、自治体の平均費用が200C
物排出量が400万 t の場合、必要な使用料は下記の式になる(32)。
(200 =
C− 50 =
C)* 400万 t * 0.5(平均助成率)= 3 億C
=
事業者が負担するライセンス使用料には重量による単価(euro cents/kg)と容器 1 個あたりの 2
つの料率がある(表 2 参照)。それぞれの素材による重量単価と容器 1 個あたりの単価を出した金
(33)
。
額がライセンス使用料となる
図3
66
EE 社の補助金算定方式
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表 2 ようにプラスチック、その他などリサイクルしにくいモノ、環境負荷が多いものの単価が高
いことがわかる。例えば、1.5リットルのペットボトル(38g)の場合、2005年度のライセンス使用
料は0.79euro cents(約11円)になる(0.038(kg)*17.78+0.11)。DSD 社同容器( 7 円、表 1 )の手
数料より約1.6倍高い。
表 2 ライセンス使用料の重量による単価(euro cents/kg)
2002年
2004、2005年
スチール
02.06
02.22
アルミ
04.12
04.53
紙
11.10
12.21
プラスチック
16.17
17.78
ガラス
00.33
00.36
その他
11.10
12.21
1 個あたり
00.10
00.11
出典 > A Practical Guide to the 2002-2004 Fees,月刊廃棄物などを参照
このようにフランスの容器包装リサイクルシステムは、費用負担の公平性を重視し、自治体の負
担を半分程度に抑えていることが特徴である。自治体に対しては 3 段階のインセンティブを適用す
ることによってリサイクルを増進させようとしている。また、容器包装廃棄物の中でも市場性のあ
るもの、または無償で取引できるものに焦点を当てており、その他のものについては、各自治体が
現状を考慮し自由に焼却(エネルギー回収あり)、埋立処理を行う。自治体は自らの判断と責任で
収集方法を決めることができ、収集したものは EE 社との契約で安定した取引ができる。このよう
に EE 社と自治体、生産者との間では、緊密な協力関係(パートナーシップ)を築くことができた
と言える。しかし、市民と EE 社、生産者と市民、自治体と市民のパートナーシップはまだ弱い部
分があると思われる。まず、リサイクル方法、費用の算定という部分で情報の共有、わかりやすい
説明が必要である。
これだけ複雑な関係をすべて理解することは非常に困難であり、実際、消費者(住民)がこれら
の取引や廃棄物処理の内訳、プロセスを把握することは極めて難しいことであろう。次に中小企業
との関係であるが、現在ライセンス使用料(リサイクル総費用)の94%は上位10%の大手事業者が
(34)
。費用の公平な負担を考慮すれば、フリーライダーをなくすべきである。
負担している状況である
DSD 社と同様に EE 社も独占を防ぐという意味で、他の企業の参入が可能となり、同じマークが
使用できるようになった。例えば、ワインメーカーが中心となり、設立したアデルフ(Adelf)社
(35)
。これらの競争体制はリサイクルシステムの効率向上、
は約 5% のシェアを占めている状況である
費用節減に繋がると思うが、しばらくは10年以上リサイクルシステムを構築してきた EE 社と相互
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東北大学大学院 国際文化研究科論集 第十三号
補完の関係を維持していく可能性が高い。
4. おわりに
ドイツとフランスは90年代の前半から容器包装リサイクル制度を施行しており、長年の実績と経
験が蓄積されている。日本も既に10年が経過しており、容器によってはかなり成熟しているといえる。
両国は環境影響評価、費用対効果分析、リサイクル技術評価などの客観的な根拠にもとづいて消
費者、企業、自治体にリサイクルの重要性を説明してきた。これらの地道な研究分析・開発・情報
交換にもとづいた制度づくりを試み、リサイクルが社会に受け入れられるようになったのである。
拡大生産者責任というのは、リサイクルに関するすべての責任を生産者に押しつけるのではなく、
生産者を中心とするパートナーシップを構築していくことであろう。両国のリサイクルシステムか
らもこのような協力と理解の重要性が伺える。
ドイツの場合、自治体への負担がほとんどなく、消費者の費用負担もない。この場合、生産者と
DSD 社の信頼関係が重要であり、ドイツでは両者の利害がうまく噛み合っていると思われる。特
にリターナブルビンを中心とするリサイクルルーフが構築されており、単純で、かつ明瞭なシステ
ム運営が可能である。これはリターナブル容器の生産・消費の多いドイツならではの特徴である。
しかし、最近、ドイツもリターナブル容器が減少しており、今後、これを如何に食い止めていくか
が大きな課題である。また、DSD 社のような企業が次々と出てくれば、各自治体において様々な
容器包装リサイクルシステムが出現すると思われる。容器包装のほとんどを大手企業が生産してい
るフランスとは異なり、地元の中小企業が多いドイツでは、ガラス瓶のような容器は地域循環シス
テムへの移行も有効であろう。
一方、フランスは自治体へ約50%の支援を行っており、生産者の費用負担を求めている。容器包
装廃棄物の分別収集を自治体が行うことによって、EE 社は自治体との契約を結ぶことになる。し
かし、実際廃棄物の分別回収は公共サービスであるため、税金で賄われていることが多い。一見、
フランスの消費者、自治体、生産者、EE 社のパートナーシップは、合理的で、コミュニケーション
が行われているように見えるが、EE 社と自治体、EE 社と生産者の関係だけが緊密であるようにも
伺える。やはりこれらの関係は補助金の支援、ライセンス使用料の決定といった金銭的な契約であ
るため、偏ったパートナーシップになってしまう。とりわけ、36,000の自治体の1,500の共同組合に
集約させ、上位10% の大手企業が契約の 9 割以上を占めている現状では、中小企業、小さい市町
村、住民の要望と意見が政府や EE 社に行き届くかは疑問である。
世間ではよくドイツは環境先進国であり、環境意識が高く、無駄のないリサイクルが行われてい
るというが、すべての国に必ずしもドイツ方式が良いとは言い切れない。それぞれの国は経済状況
や文化、価値観の違いだけではなく、国のリサイクル哲学(基本方針・姿勢)
、消費者の環境意識、
企業の環境経営への取り組み、廃棄物行政の推進力、NGO 活動などに大差がある。リターナブル
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ドイツとフランスにおける容器包装リサイクルの基本方針とその特徴 ― Duales System Deutschland と Eco-Emballages の調査結果を中心に ―
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容器の消費が少なく、企業の環境経営および政府の政策方針が明確ではない日本でドイツのシステ
ムをそのまま適用することは難しい。確かにドイツとフランスのリサイクル制度からは学ぶべき点
が多いが、ドイツ方式やフランス方式という表現はあまり大きな意味が無く、各国の現状と特徴を
見極めた上、各国に適するリサイクルシステムを構築することがより重要であろう。
日本の容器包装リサイクル制度は、フランスのシステムから自治体への支援を抜いたようなもの
である。生産者の責任を求めているものの、拘束力が弱く、自治体への負担が重すぎる。日本の消
費者は常に衛生的、便利で、かつ軽量の容器を求めており、企業が今の製造プロセスを変えて行く
ことは考えられないため、今後リターナブル容器が増えることを期待することも困難である。しか
し、様々なリサイクル技術を持ち、住民が細かいごみ分別(洗浄、ラベル剥がし、潰しなど)を行
っていることは評価できる。今すぐ環境意識を変えることは難しいが、ドイツとフランスのように
はっきりした政策方針(考え方)を提示し、リサイクルにかかる費用、環境影響を明確に示した上
で、それぞれの責任や役割、負担の程度を決めていくべきである。
もはや容器包装リサイクルの問題は一国の問題ではなく、国際的な問題である。ドイツ、フラン
スの容器包装廃棄物がアジアの中国、インドに輸出される時代である。廃棄物が資源として認識さ
れるのは非常に重要であるが、容器から容器へ戻るのではなく、より低いレベルのリサイクルに回
されていくことが開発途上国の経済発展と地球環境問題の解決にどのくらい役に立つだろうか。こ
のように廃棄物リサイクルは経済的な要因に大きく左右される。国内はもちろん、国際的なパート
ナーシップを構築する際にも経済的なメリットがない限り、緊密な協力関係を築くことは難しい。
しかし、EU の PRO EUROPE のようにそれぞれの制度を認めながら環境負荷の低減といった共通
認識にもとづいて国際的なリサイクルネットワークを作っていくことは有効であろう。今日本では
容器包装リサイクル制度の改定に向けて様々な議論が行われている。今後、明確な政策方針、生産
者責任および自治体負担の見直しが行われ、日本がアジア地域のリサイクルネットワーク構築にイ
ニシアチブを取っていくことを期待する。
※この研究は平成16年度環境省廃棄物処理等科学研究費補助金「容器包装の分別収集・処理に係
わる拡大生産者責任の制度化に関する研究」の助成を受けて行われました。
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東北大学大学院 国際文化研究科論集 第十三号
(1) ペ ッ ト ボ ト ル リ サ イ ク ル 推 進 協 議 会 『 ペ ッ ト ボ ト ル リ サ イ ク ル 年 次 報 告 書 ( 2 0 0 4 年 版 )』 ,
http://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/2004/index.html
(2) Shinichi OKADA,Tadahiro Ohkoshi and Mayumi Nakamura, Asian Recycling Network,ASIA・PACIFIC
Perspectives,Vol.3 No.5,pp.16-17.
(3) 山谷修作『廃棄物とリサイクルの公共政策』,中央経済社,2000,pp.185-186.、片谷教孝,鈴木嘉彦『循環
型社会入門』,オーム社,2001,pp.85-88 他多数
(4) ドイツ連邦環境庁(Federal Environmental Agency of Germany )の Eckhard Willing 博士(2004年11月
インタビュー)
(5) 中曽利雄「岐路に立つドイツ包装廃棄物政策(前編)
」『月刊廃棄物』
,日報, Vol.31 No.380, 2005, pp.6-7.
(6) 岡村 堯『ヨーロッパ環境法』
,三省堂, 2004, pp.488-490.
(7) 前掲書,中曽利雄, 2005, p.7.
(8) 製品の欠陥によって使用者その他の者の生命、身体、あるいは財産に被害が生じた場合に、製品の製
造者などが負う損害賠償責任のこと。小島紀徳『ごみの百科事典』,丸善株式会社, 2003,p.512.
(9) ドイツ連邦環境庁の Eckhard Willing 博士のインタビュー内容より(2004年11月 1 日)
(10) 前掲のインタビュー内容より
(11) マテリアルの循環と天然資源の節約を目的に、事業者に製品責任を強く迫る内容で1992年から策定、
1996年から発効。安井 至編『リサイクル百科事典』,丸善株式会社,2002,pp.526-527.
(12) 72%というのは1990年代の平均値であり、厳密な分析による数値ではないという。DSD 社へのヒアリン
グ調査(2004年11月 2 日)
(13) Duales System Deutschland, Annual Report 2003, 2004, pp.16-17.
(14) 中曽利雄「岐路に立つドイツ包装廃棄物政策(後編)」
『月刊廃棄物』,日報, Vol.31 No.383, 2005, p15.
(15) Duales System Deutschland, The Closed-Cycle Economy in Figures, www.green-dot.com, 2004
(16) 前掲書,中曽利雄, 2005, p18.
(17) Duales System Deutschland,www.green-dot.com
(18) 2004 年 11 月 2 日、DSD 社(ケルン市)にて筆者が撮影
(19) ドイツ語でグリューネプンクト(Der Grune Punkt)。DSD 社との契約で、製品の中身メーカーが利用
する包装材に貼付され、廃棄後の完全な回収、分別、リサイクルを確約する保証マークである。安井
至編『リサイクル百科事典』, 丸善株式会社, 2002, pp.426-427.
(20) Duales System Deutschland, Europe goes Green Dot 2004-2005, 2004,pp.47-48.
(21) Duales System Deutschland 社の Angela Emos 氏(International Affairs Project Manager)
(2004年11月イン
タビュー)
(22) 前掲のインタビュー内容より
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ドイツとフランスにおける容器包装リサイクルの基本方針とその特徴 ― Duales System Deutschland と Eco-Emballages の調査結果を中心に ―
劉 庭秀
(23) 例えば「ベルランドビジョン」という会社は特定の企業から頼まれた(産業廃棄物)容器包装を処理
する。また「インターゼロ」という会社もあり(ケルン市)、この会社は輸送用(大型の産業用)の
コンポをリサイクルしている。前掲のインタビュー内容より
(24)「ランドベル」はインフラが弱いため、DSD 社のコンテナーを使っており、結局 DSD が費用の一部
を負担する形となってしまう。DSD 社の提供資料による。
(25) 安田八十五,劉 庭秀,福田哲也,飯高義名「欧州における容器包装リサイクルシステムへの拡大生産者責
任制度の評価と日本への適用可能性」『関東学院大学経済学部特別研究報告シリーズ』,No.2005-0308,2005,pp.4-7.
(26) フランスのベルサイユ市役所へのヒアリング調査より(2004年10月27日)
(27) フランス Eco-Emllages 社への現地調査(2004年10月29日)、General Manager Bernard Herodin 氏の説明
(28) 大平 惇「順調なフランスの容器包装リサイクル」
『月刊廃棄物』Vol.31,No.383,2005,pp.21-23.
(29) Eco-Emllages, Annual Report 2003, 2004,pp.6-7.
(30) Eco-Emllages 社への現地調査(2004年10月29日)。今回の調査では「パフォーマンス」という表現を
使っていたが、良質の容器包装廃棄物を如何に効率よく収集しているかで判断するわけである。
(31) Eco-Emllages 社への現地調査(2004年10月29日)より。自治体への支援は三つのレベルがあるが、全
国平均で50% になるような仕組みである。
(32) 大平 惇,2005,p.26.
(33) Fee by weight material + Fee per pack = Total fee per pack,
Eco-Emllages, A Practtical Guide to the 2002-2004 Fees, 2004,p.3.
(34) 大平 惇,2005,p.22.
(35) 前掲書,p.22.
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