データマートを利用した診察記事のワークフロー管理システムの構築

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データマートを利用した診察記事のワークフロー管理システムの構築
村田 泰三 武田 理宏 上田 郁奈代 藤井 歩美 堀島 裕之 三原 直樹 松村 泰志
大阪大学医学部附属病院医療情報部
Establishment of Work Flow Management System for Medical
Reports Using Data Mart
Murata Taizo
Takeda Toshihiro Ueda Kanayo Fujii Ayumi Horishima Hiroyuki
Mihara Naoki Matsumura Yashushi
Department of Medical Informatics, Osaka University Hospital
In case of a patient scheduled for operation under anesthesia, anesthesiologists provide explanation to the patient about
anesthesia at the time of their examination in outpatient service prior to operation and they checks for complication after
operation. For such anesthesia management, anesthesia management charges are set forth. It is applicable to the case that a
pre- and postoperative medical examination shall be provided to patients underwent general anesthesia, epidural anesthesia,
or spinal anesthesia.
However, this management is not easy since the number of patients requiring follow-up is large per anesthesiologist. In
addition, it takes time for medical business department to check whether each examination was conducted or not. Thus, we
established workflow management system for anesthesia management.
We created templates for "preoperative medical examination," "preoperative rounds," and "postoperative rounds" used for
medical record written by doctors. Registration of medical record into the system using the templates clarified the
completion status of each event. In our hospital, operation applications are registered in order to keep operating room at the
time of hospitalization, and the information such as "operation method," "anesthesia type," "plan/urgency," and "attending
anesthesiologist" is registered. These registered data are accumulated in the Data Warehouse (DWH).
The operation information and the data entered by template in DWH were retrieved to create data mart for anesthesia
management. Data mart can be accessed by Web viewer. Its access is limited to medical business department staffs and
attending anesthesiologists.
This system enable anesthesiologists to prevent missing examination or recording. It also enable medical business
department to easily find patients subjective for anesthesia management charges.
Keywords: DWH, Data Mart, Workflow Management System
1. はじめに
麻酔を伴う手術を実施する場合、麻酔医は、事前に
麻酔科の外来診察で麻酔に関する説明をし、術後に
は合併症の有無をチェックする。このような麻酔管理
に対して、麻酔管理料が定められており、その算定要
件は、全身麻酔、硬膜外麻酔、脊椎麻酔を実施した患
者に対して、術前、術後の診察をすることとされてい
る。
大阪大学医学部附属病院(以下、当院)では、月に5
00件以上の麻酔を伴う手術が実施されており、麻酔
医1人に対して、フォローすべき患者は多く、その管理
は容易ではない。また、医事課では、麻酔管理料の算
定のために、麻酔の種類や術前、術後の診察が実施
状況をカルテから確認する必要がある。麻酔の種類に
ついては、手術の実施情報から確認できるが、どの日
に記載したかわからない診察記録の記載の有無を確
認するのは、時間を要する。
当院では、手術オーダの実施情報や医師の診察記
録は電子カルテで登録しており、このデータはデータ
ウェアハウス(以下、DWH)に蓄積されている。この蓄
積されたデータを統合し、進捗管理を確認できれば、
麻酔管理台帳として役立つのではないかと考えた。
当 院 で は 、DWHに 蓄 積 さ れ た デ ー タ か ら 必 要 な 項
目だけを取り出し、新たなデータ表を作成することがで
きるデータマートシステムを導入している。そこで、今
430 第34回医療情報学連合大会 34th JCMI(Nov.,2014)
回、データマートシステムの仕組みを利用して、手術情
報と医師の診察記録の情報を集約した麻酔管理の
ワークフロー管理システムを構築した。
2. 目的
担当麻酔医が麻酔を実施した患者を把握し、回診
の進捗管理を支援すること。また、医事課職員が麻酔
管理料を適切に算定するための支援をすることであ
る。
3. 手術患者のワークフロー
当院の手術を実施する患者の電子カルテのデータ
登録のフローについて説明する。予定手術の場合、外
来主治医が手術決定時に手術予定のオーダを登録す
る。この際に、「手術予定日・術式・麻酔科依頼」などの
項目を入力する。麻酔を伴う手術の場合、外来主治医
が麻酔科へ院内紹介を行い、「麻酔科術前外来」を予
約 す る 。 「 麻 酔 科 術 前 外 来 」 受 診 時に 、 麻 酔 医 が 麻 酔
の説明をし、患者の同意を得る。
入院日が決定後、主治医が手術予定の情報を引き
継いだ形で手術依頼を登録する。この際に、「入室時
間・退室時間・術前病名・術式・体位・部位・術前問題
点・受持医・術者・希望手術室・入力責任者・問い合わ
せ連絡先・帰室」などを登録する。
手術依頼を受けて、麻酔医が手術オーダの麻酔承
諾を行う。この時、担当麻酔医を決定する。担当麻酔医
は、術前に回診を行い、麻酔同意書の確認及び麻酔
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上の問題点を再度確認する。
術後の実施入力は、医師が「術者・術後病名・実施
術式・請求術式」を入力し、看護師が「手術開始時間・
終了時間・体位」などを入力する。最後に麻酔医が、
「登録責任者」を入力し、実施入力が完了する。
麻酔医は、手術翌日などの術後に回診を行い、患者
に術後の合併症をチェックする。
4. 診察記録のテンプレート
医師の診察記録の進捗管理には、電子カルテの登
録データにイベントを示す情報が必要である。そこで、
「術前診察」、「術前回診」、「術後回診」の診察記録を
記載するためのテンプレートを作成した。テンプレート
を用いて診察記事を登録することで、各イベントの完
了を明確化した。「術前診察」では、同意書の取得の有
無、麻酔上の問題点を記載し、「術前回診」では、同意
書の取得確認、決定された麻酔方法を追記できるよう
した。「術後回診」では、術後の合併症を選択形式で登
録できるようにした。
図1 医師の診察記録のテンプレート
5. データマートの仕組み
当 院 で は 、 デ ー タ マ ー ト を 作 成 す る た め に 、 SQL
Server 2008 Standard Edition が 導 入 さ れ て お り 、 そ
の 中 の パ ッ ケ ー ジ 機 能 で あ る SSIS ( SQL Server
Integration Services)を用いてデータの取り込み処理
を 作 成 し て い る 。 SSIS は 、 OLE-DB ( Object linking
and Embedding Database ) と い う イ ン タ フ ェ ー ス に よ
り、様々なデータベースと接続することができる。OLEDBに よ りOracleのDWHに 接 続 し 、SQLで デ ー タ 構 造
を変換し、抽出するプログラムを作成する。SSISで作成
し た プ ロ グ ラ ム はSSISパ ッ ケ ー ジ と い う 種 類 の フ ァ イ
ル で 保 存 さ れ る 。 こ の 保 存 し たSSISの フ ァ イ ル を 実 行
するバッチファイルを作成し、そのバッチファイルを
Windows の タ ス ク ス ケ ジ ュ ー ラ で 実 行 す る こ と で 、
デ ー タ を定 期 的 ( 日次 、 月 次 、 毎 時 な ど ) に 取 り 込 む こ
とができる。
SQL Server に 取 り 込 ん だ デ ー タ は 、 SSRS ( SQL
Server Reporting Services) と い う 機 能 を 用 い てWeb
ビューアを作成する。作成したWebビューアは、ユーザ
ID毎 に 閲 覧 権 限 を 与 え 、 特定 の ユ ー ザ の み が 参 照 す
ることができる。
6. ワークフロー管理データマートの作成方法
電子カルテで登録された手術情報や診察記録のテ
ン プ レ ー ト 情 報 は 、 リ ア ル タ イ ム にDWHに 蓄 積 さ れ て
い る 。 DWH か ら SSIS を 用 い て 必 要 な デ ー タ を SQL
Serverのデータベースへ転送した。
ワークフロー管理システムの一覧表として、手術日、手
術回数、患者番号、患者氏名、かな氏名、判定、予定緊
急、診療科、術前外来日、術前外来担当医、術前回診
日、術後回診予定医、術後回診医、麻酔、算定管理
料、術式の項目を作成した(表1)。
この一覧表は、1手術が1レコードとなっており、麻酔
管理料の算定の対象となる全身麻酔、硬膜外麻酔、脊
椎麻酔の実施者(予定者を含む)を表示している。複
数の麻酔担当医や術式があった場合には、先頭に登
録されたデータのみを表示させた。
また、手術情報と術前外来、術前回診、術後回診の
テンプレートデータは、それぞれ患者番号が連結キー
となるが、手術は複数回実施されることがある。そのた
め、テンプレートのデータがどの手術に対応した記録な
のかを特定する必要があった。麻酔管理料を算定する
手術リストは、入院患者に限定されるため、手術日に
対応する入院情報を取得した。そして、「術前外来」は
手術日から前3ヶ月以内の術前外来テンプレートの登
録データがあった場合、データを結合した。該当する
データが複数あった場合、手術日に最も近いデータを
術前外来日とした。「術前回診」については、取得した
入院情報の入院日から手術日までに術前回診テンプ
レートの登録データがあった場合にデータを結合し、
「術後回診」は、手術日翌日から退院日までに術後回
診テンプレートの登録があった場合にデータを結合し
た。
麻酔管理料の算定の判定は、「術前外来」または、
「術前回診」を実施しており、かつ「術後回診」が実施
さ れ て い る 患 者 を算 定 可 能 対 象 者 と し て 「 ○ 」 で 表 示
した。この判定の項目を作成することによって、麻酔医
は、記載漏れを把握することができ、医事課の職員は、
麻酔管理料の算定を満たしていることを簡単に把握す
ることができる。
医療情報学 34(Suppl.),2014 431
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表1 ワークフロー管理システムの一覧表
7. 算定状況
シ ス テ ム 導 入 前 の3ヶ 月 (2013年4月 ~6 月 ) と シ ス
テム導入後の3ヶ月(2014年4月~6月)の麻酔管理料
の算定件数と麻酔管理料を算定可能な麻酔を実施し
た手術の件数を表2に示す。システム導入前の3ヶ月の
算定数の合計は、655件(麻酔を伴う手術実施件数の
48% ) で あ っ た 。 同様 に 、 シ ス テ ム導 入 後 の3ヶ 月 の 算
定 数 の 合 計 は 、1115件 ( 麻 酔 を 伴 う 手 術 実 施 件 数 の
76%)であった。
表2 麻酔管理料の算定状況
8. 考察
電子カルテの導入により、電子カルテに管理される
データは日々増加している。電子カルテでは、文書シス
テムのようなひとつのドキュメントの記載状況の進捗管
理を行う機能は存在するが、入院や手術などのイベン
ト に 対 し て 、 目的 に応 じた 行為 が実 施さ れたか を 管 理
するワークフロー管理機能については実現できていな
いことが多い。
このようなワークフロー管理は、院内の運用ルール
や診療報酬改定などの影響によりその時々の変化が
生じるものである。そのため、この変化に対応しやすい
仕組みであることが理想的である。今回のケースでは、
432 第34回医療情報学連合大会 34th JCMI(Nov.,2014)
麻酔を伴う手術患者の麻酔医の診察記録の進捗を管
理するシステムを構築した。DWHに蓄積されている手
術情報、診察記録の情報を統合することで、ワークフ
ロー管理を行うことができる。データマートシステムは、
DWHに 蓄 積 さ れ て い る デ ー タ の 必 要 情 報 だ け を 取 り
出し、ユーザが求める形に変換するための仕組みであ
り、ワークフロー管理のための要件が変化した場合で
あっても、柔軟に対応することができる。
本システムを導入した結果、導入前と比して、約
25%算定率が上昇した。麻酔を伴う手術を実施した患
者 で 、 算 定 用 件 を満 た し て い な い 患 者 を確 認 し た と こ
ろ、緊急手術を実施した患者が多く、一部、先進医療
で全額自費診療である患者などでも、麻酔医の診察
記録が抜けていることがわかった。また、算定用件を満
たしているのにも関らず、算定漏れとなっている患者も
一部で確認された。
本システムの制限事項として、手術情報と麻酔医の
診察記録とのリレーションを手術日に対して特定の範
囲の日数を定めることで関連付けている。そのため、想
定した範囲外の麻酔医の記録を関連付けなければな
らない場合、データが欠損する可能性がある。あらかじ
め、電子カルテシステム上で、どの手術に関連付いた
記録なのかを登録することができれば、より精度の高
いワークフロー管理システムの構築が可能である。
電子カルテに登録されている既存のデータを統合し
て、台帳を作成する要望は多く存在する。このような電
子カルテで不足した機能を補い、データを一次利用ま
たは二次利用することができれば、電子カルテを導入
したメリットをより発揮でき、ユーザからより高い評価を
受けることができる。
今後も本システムの仕組みを応用し、あらゆるケー
スの二次利用に役立てていきたい。
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