麻酔・集中治療とテクノロジー 2007 –17– 麻酔科学用語の標準化と国際化について 菅井直介∗ ,岩瀬良範† ,平井正明‡ ,太田吉夫§ 情報の共有と管理そしてこの情報を有効に利 技術面を担当する Dr. Martin Hurrell も加わり, 用するためにはまず用語を共通化して,さらに 米国,カナダ,オーストラリア,オランダによ その用語間の相互関係を明らかにして,情報の り International Organization for Terminology 利用者が同じ土俵で話をしているという状態を in Anesthesia (IOTA) に発展している.2006 年 作っておく必要がある.麻酔科学の領域でも,た のシカゴにおける ASA の年次総会でも DDTF だ学問的な情報の交換のみならず,これらの情 と IOTA の合同会議が 10 月 15 日日曜日の午後, 報を利用して麻酔科学における患者管理面での ミシガン通りのヒルトンホテルで行われた.座 安全性を向上させるためにも必須なことである. 長は DDTF のまとめ役の Dr. Terri Monk. とくに言葉の異なる文化圏で得られたデータを 他に米国,英国,カナダ,オランダ,日本から 他の文化圏のデータと比較検討して世界的な麻 集った.この用語には SNOMED-CT という米 酔の安全性を確立しようとする場合には異なっ 国と英国で開発されライセンスのある用語とそ た言語圏でも使えるような世界共通な,麻酔科 の活用法(ontology)を使用しており,英米以 学用語の利用基準ができている必要がある.こ 外ではライセンスをどうするかという問題を解 のような観点から,現在,英語圏,なかでも英 決していない.SNOMED(Systemized Nomen- 米を中心として行われている麻酔科学関係の用 clature of Medicine)は元来米国で開発されたも 語の標準化と国際化については当学会において のであるが,英国の National Health Service で 菅井と岩瀬が発表し,日本麻酔科学会総会のシ 用いられている Clinical Terms(CT)という用 ンポジウムでは太田が総括を行い,また vendor 語集を組み合わせて SNOMED-CT というシス 側として平井が HL7 などの用語の国際会議に出 テムを作っている.米国では National Library 席し日本への情報を得てきた. of Medicine がこのライセンスを買い上げて米国 内での使用を許可し,英国でも NHS で使用され この動きは最初 ASA の Anesthesia Patient ている.IOTA は現在,開発した麻酔科学用語 Safety Foundation (APSF) が麻酔偶発症を解 3000 語のうち 90%を SNOMED-CT に登録して 析するために用語とその運用法の統一を図る必 おり将来的にはこのシステムが国際基準となっ 要から始まり,APSF は Data Dictionary Task ていく可能性が高い.またこの用語システムは Force (DDTF) を作りその委員長である Dr.Terri 自動麻酔記録システム Anesthesia Information Monk を中心として活動してきた.そしてこの面 Management System(AIMS)の運用にも使わ で長い歴史のある英国の Dr. Andrew Norton と ∗ 茅ケ崎徳洲会総合病院麻酔科 † 埼玉医科大学麻酔学教室 ‡ 日本光電株式会社 § 岡山大学病院医療情報部 麻酔科学用語の標準化と国際化について –18– れて行く方向に向っている.現在,AIMS を使 用している病院は米国内でも 6%に過ぎないが, APSF は患者の安全を図るために,AIMS の使 用を推奨している.JSA の偶発症調査は國際的 にも高く評価されているので将来この用語シス テムとどう付き合って行くかと言う問題が出て くる.したがって JSA および JSTA としても麻 酔科学用語の標準化に関する国際的な動きをつ かんでいる必要があろう. 最近の電子カルテの普及により,麻酔記録も 自動記録となり,電子カルテへの一元化も広く 行われるであろう.したがって当学会でもこの ような世界の動きをつかみ,日本麻酔科学会が どのような取り組みをするかを検討し続けるこ とが必要であろう. ABSTRACT Standardization and Internationalization of Terms in Anesthesiology Naosuke Sugai1 , Yoshinori Iwase2 , Masaaki Hirai3 , Yoshio Ohta4 In order to establish a system for the maintenance of safety in anesthesia across hospitals and national boundaries, it is essential to have a standard system of anesthesia terms. American Society of Anesthesiologists had established Data Dictionary Task Force (DDTF) for this purpose and these activities developed into the formation of International Organization for Terminology in Anesthesia (IOTA). A joint meeting of DDTF and IOTA was held at the time of ASA annual meeting in Chicago in October 2006 with Dr. Terri Monk as the chairperson. SNOMED (systematized nomenclature for medicine) and its development, SNOMEDCT incorporating Clinical Terms of British National Health System, are used in USA and Britain. For other countries to adopt these systems of terminology, problems of licensure have to be solved. Japanese Society of Anesthesiologists with detailed system of anesthesia incident reporting system, has to start thinking about the internationalization of their precious data on patient safety. 1 Department of Anesthesiology, Chigasaki Tokushukai Medical Center 2 Department of Anesthesiology, Saitama Medical University 3 Nihon Kohden Co. 4 Department of Information Management in Medicine, Okayama University
© Copyright 2024 Paperzz